Back Numbers : 映画ログ No.71



【荒神】二星半
【2LDK】四つ星

“DUEL(対決)”をテーマにした競作として一緒に公開されたこの作品。北村龍平監督の【荒神】の方は……う~ん、いつもとほぼ一緒のパターンのような。戦ってないシーンのダイアローグはやっぱり退屈だし、登場人物の演技が下手に見えてしまうような演出はいかがなものか。せめてコメディがシリアスかどちらかに振り切ってしまった方が印象がすっきりするのでは。堤幸彦監督の【2LDK】の方は……“オンナの戦い”をここまで徹底的にカリカチュア化した映画がかつてあっただろうか(笑)。小池栄子さんもやはり面白い素材だと再確認できたが、それにも増して、ケバいおねーさん役の野波麻帆さんの化けっぷりはかなりの見物。この人はさぞや凄い女優さんになることでしょう !! 芸能事務所社長の元愛人宅(ペルー人だっけ ? )っていう設定もワザあり。

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【アララトの聖母】四星半

アルメニアはコーカサス地方(黒海とカスピ海の間の地域)にある歴史の古い国だが、第一次世界大戦中にトルコ領だった地域で住民の大量虐殺が行われ、その際、国外に多くの人が亡命していったという。そんなアルメニア系移民の家系に生まれたカナダ人であるアトム・エゴヤン監督にとっては、これは一度は描かなければならない、避けて通れないテーマだったであろうことは容易に想像がつく。
国を根こそぎ奪われてしまった悲しみなんて、日本人に分かるはずがない。だからこそ私達はこの映画を見るしかないのだ。ただ、こういう酷い歴史がありました、と出来事をそのまま再現して描くのではなく、あくまでも現在生きている我々から見た視点に引き寄せ、起こった事象を記憶したり語り継いだりするというのはどういうことなのかというテーマを加味して描くことで、この映画はもっと広く普遍的な意味を獲得していると思われる。そこには監督の非常に洗練された明晰な知性が感じられるのだ。
虐殺の事実を未だに認めていないトルコ政府と、第二次大戦の戦後処理が充分だったとは思えない日本政府には何か似たものを感じるが、20世紀後半に第三世界のあちこちでやらかした軍事介入について国内に充分に知らしめているとは思えないアメリカ政府だって、もしかしたら似たようなものなのかもしれない。国家としての成熟度というのは、自らの後ろ暗い歴史とどう向き合えるのかというところに現われるのかもしれないね。

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【IKKA:一和】三星半

ファミレスでの家族の団欒が、あれよあれよという間にそんなアホな ! の展開になる導入部のテンポはなかなか見事。関西弁の掛け合いも、全編これボケ・ツッコミの呼吸が生き生きしていて面白い。
ちょっと惜しかったのは、家族の亀裂も和解も、作り手の都合によって適当に動かされているだけみたいに見えてしまったところ。あと、クライマックスで家族のメンバー全員が活躍するところをもうちょっとたくさん見たかったかな。(その方が映画全体の印象ももっとハジけたはず。)でも観客を楽しませようという川合晃監督の心意気が全編に見て取れたので、その点は大いに評価したいと思う。

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【ウォー・レクイエム】三つ星

戦争の悲劇といいながら戦場の苦しみ以外のものがほとんど描かれていないというところに、まずは限界を感じる。戦場での苦しみというものは、戦争の苦しみのほんの一部にしか過ぎないのではあるまいか。(酷な言い方をすれば、殺し合いに行かされているのだから傷つけられる可能性があるのは当然といえば当然のことなのかもしれないし。)また、英米の人にとっては戦争というのは日常生活とは切り離されたどこかの異空間に行っていってするものという認識があるのかなぁ、ということが強く思い起こされた。それじゃ、世界大戦で実際に戦場になった他のヨーロッパの国々や、世界の他の国々との間に、認識のズレが生じる訳だ。
本作は1989年作で、監督はもうお亡くなりになってしまったデレク・ジャーマン。もしも監督がいまだに御存命なら、同じテーマでも全く違った映画を創ったのではないかとも思ったりもする。特に戦争というものをテーマにした場合、かの時代の認識というのは今と較べればまだまだのどかで、10年余の間に世界の在り方も見え方もあまりにも変わってしまったのだということに思い至らずにはいられなかった。昔の認識の在り方の証言者として考えるなら、この映画はこの映画で貴重な存在だと言えるかもしれないが。

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【偶然にも最悪な少年】四つ星

人間関係がよー分からん、登場人物が何を考えているのかよー分からん、という評をどこかで読んだのだが、この映画はそのよー分からなさ加減にこそ生々しさがあっていいんじゃないのかな。考えることがあり過ぎるから考えることも感じることも停止させてしまっているような、その宙ぶらりんな空気感が非常によく捉えられていたんじゃないかと、私なんぞは思ったのだが。ねーちゃんが途中で生き返るのが訳分からないって……それはイメージ映像だってば。古今東西の巨匠の作品にだって、そんな不条理な展開はいくらでも出てくるような気がするんだが。
どっちつかずで中途半端な役回りだった池内博之さんが、独特の実在感をしっかり出していたのがやっぱりうまいなぁと思った。中島美嘉さんの雰囲気もよかった。市原隼人さんも頑張っていたと思うけど、もうひとふんばり踏み込んだ演技が出来たら更に凄くなれるんじゃないかと思う。矢沢心さんは、すっかりキレイなおねえさんになりましたよねぇ。私はどうも【バウンスkoGALS】の時のイメージが未だに強烈なもので。

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【クジラの島の少女】三星半

期待したほどには胸に迫ってこなかったのはどうした訳なのだろう、と考えてみたのだが……予告編などで大体の展開が分かってしまっていて思ったより冗長に感じられた、ということもあったかもしれないけれど、無理解だったり身勝手だったりする大人達の間で振り回される子供という構造がどうも今一つ好きになれなかった、という要素も小さくなかったのかもしれない。(もしかしてそれは凄く個人的な感想なのかもしれないが。)現実の人間よりも伝統の伝承の方が大事というジイさんに嫌気がさして故郷を捨てて出て行くパパちゃんの気持ちは、分からなくはないけどねぇ……。

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【くたばれ ! ハリウッド】四つ星

映画の最後でダスティン・ホフマンが本作の主人公のロバート・エヴァンスのモノマネをしているのが、実物に凄く似てるんだそうな。彼が【ワグ・ザ・ドッグ】で演じている映画プロデューサーのモデルになったのが、実はこのロバート・エヴァンスなんだとか。確かにこの人の人生は、80年代以前のハリウッドなるものの概念そのものをそのまま人型に造形したみたいで、全編これ実話だとはにわかには信じがたいほどあまりにも映画的。このような映画の製作を目論む人が出てくるのも当然な訳だ。
この“ザッツ・ハリウッド !! ”なプロデューサーが、『とにかくいい脚本!』と何度も呪文のように繰り返しているのがとても印象に残った。うーむ、映画のキモってやっぱりそこなんだわね。

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【シモーヌ】四つ星

最大の疑問は、ひょんなことからCG女優生成ソフトを手に入れた自称メカオンチの監督が、どうしてすぐ周りの信頼できるスタッフに協力を仰がなかったのかということ。映画はもともと一人で作れるものではないんだし、ソフトを動かすにしてもその事実を隠蔽するにしても、餅は餅屋に任せたほうがいいっていう考えにくらい簡単に至りそうなものだ。それに、いくら一人で頑張ったって、女優が実は実在しないという事実を世間を相手に隠しおおせるなんて無理がありすぎ。残念ながら、そこのところのウソっぽさは、映画の最後までついて回っていたように思う。
でもその部分にだけ目をつぶってしまえば、本作はいろいろと見どころの多い魅力的な作品だったと思う。映画は一体誰のものなのかというテーマがあちこちに忍ばせてあるのも興味深かったけれど、総てを完璧にコントロールしたいという監督のエゴとその思惑を凌駕して行く現実の状況との戦いというのがまた、凄まじくも大笑いだった。(この辺りにはアンドリュー・ニコル監督の実体験も反映されているのかな ? )こんな現実離れした設定に説得力を持たせ、しかもコメディにしてしまうというハードルの高い仕事を難なくやってのけているアル・パチーノという人はやっぱりスゴくて、素晴らしい。ラストの展開はありえねーっ !! って思ったが、もしかしたら大いなる皮肉と警告が込められた限りなくブラックなシーンなのかもしれない。(で、以下は【ワグ・ザ・ドッグ】辺りに続く訳だね。)

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【S.W.A.T.】三星半

サミュエル・L・ジャクソンが精鋭を集めてチームを作り、彼等に特訓を施す辺りまでは面白い。また、護送中の麻薬王がTVカメラに向かって“自分を脱獄させた奴には1億ドルやる”と叫んだがために街中が襲ってくる、というアイディアも秀逸だったと思う。でも結局それ以降は銃と銃との肉弾戦ばっかりで、そうなると、チーム各員の個性の差なんてほとんど意味をなさなくなってしまってつまんなーい。私のご贔屓のミシェル・ロドリゲスも、思ったほど活躍させてもらってなくて物足りなかったしぃ。

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【たまゆらの女<ひと>】三星半

中華圏一の大女優であろうコン・リーの女盛りの美しさを十二分にフィーチャーした恋愛ものって案外見たことがないような気がするので、星を少々おまけ。でも、“大人の恋愛”と言ってる割には濡れ場も中途半端だし、それぞれの登場人物の気持ちの変遷も曖昧でよく分からなかったような。メロドラマならもっとゲップが出るくらいどっぷりと濃ゆくみせてくれないと物足りないよ~。

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【閉ざされた森】三星半

割と面白いという評判だけを聞き、中身をよく確かめもせず行ってしまい、フタを明けたら軍隊の内幕ものでアラびっくり ! し、しまった、こりゃほとんど興味のないジャンル……。
確かにどんでん返しの連続は、脚本頑張ってるな~といった感じで(注意深く見ていないとすぐ話についていけなくなってしまうきらいはあるが……)、実際、ラストシーンにもかなり驚きはしたのだが、よくよく考えれてみれば、あの人は実はいい人そうとか、あの人は実は死んでないんじゃないかとか、見ながら途中で思っていたかもしれないような気もしたりして。

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【ドッペルゲンガー】四つ星

ドッペルゲンガー ? 見たことありますよぅ。今を去ること20年程前、旅先で早朝に散歩してたら、道の向こう側から歩いてきましたがな。それでも私は未だに死なずに今日に至る訳なのでありますが。
もう一人の自分が自分を解放するという物語は寓話的で面白いと思う。しかし、総ての軛(くびき)から解放されたと言いながら、結局金と女は必要な訳だな。調子いいよなぁ(笑)。
そのドッペルさんやユースケ・サンタマリアさんが演じた男のように、善悪ではなくて、欲望やその欲望から生じた必然性という動機のみによって動いている存在は、【アカルイミライ】のラストに出てくるミライな男の子達と通じるものがあるのかなぁと、今書きながらふと思ったりした。

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【ぼくの好きな先生】四つ星

ニコラ・フィリベール監督の視線はいつも繊細で穏やかだ。こんないかにも子供達らしい子供達も、いかにも先生らしい先生も、東京みたいなところではもう絶滅種なのかもしれないなぁ。まぁ、教育がどうだとかいう難しいお題目は置いといて、なんかいいものを見た、でいいんじゃないんでしょうか。ところで、若い皆さんは、この邦題の元ネタを御存知なのかしら ?

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【夕映えの道】三星半

人生の黄昏にある一人暮らしの偏屈なおばあさんと、我が道を生きている魅力的な中年独身女性の交流の話。お子様向けにアピールしやすい要素が全く無いことは確かで、悪く言えば非常に地味なんだけれども、ひたすら誠実に創られていて、かつ押しつけがましくないところに好感が持てた。

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【リード・マイ・リップス】四つ星

仕事も実はかなり出来る常識的な成人だが、耳がちょっと不自由でちょっと損しがちの人生を歩いていて、そのことをちょっと僻んでいるヒロイン、というのがむちゃくちゃ生々しい。この彼女と、チンピラをやらせたら三国一 !! のヴァンサン・カッセル(三国ってフランスとイギリスと……どこにしよう)が、アブない橋を渡りながら少しずつ共犯関係を作り上げていくのが、なんとも艶めかしいサスペンス。これはなかなか出色の出来 !! の一本。
でもどうしてわざわざ題名を英語にするんだろう……英語の日本語読みってどうも詩的じゃないし、色気が感じられないんだよねぇ。

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【リベンジャーズ・トラジディ】三つ星

脚本自体はシェークスピアと同時代の古典劇なんだって。それを意匠だけ現代に移植してパンク・テイストに……という思いつき以外に何があるかと言えば……う~んごめんなさい、(アレックス・)コックス監督。

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【ロッカーズ】四つ星

陣内孝則さんは、この部分を売ってしまったら後の人生は一体どうするつもりなんだろう ? なんて映画を見る前は意地悪なことを思ったりしたのだが、実際見てみると、彼にとってあまりにも大切なはずのこの時代のことをちゃんとした形にしてこの世に出してやりたい、というしっかりとした思いがあったのだなぁということが、画面から強く伝わってきた。お話自体は青春ものの定番っぽいかもしれないし、出来の荒いシーンもあったとは思うけど、根っこが陽性なところが見ていて心地がいいし、何せこのノリと勢いのよさには思わず乗せられてしまった。
若手の注目株の役者さんがたくさん出ているのが本作の見どころの一つだけど、5人のバンドメンバーのうち、中村俊介さんと玉木宏さん以外の3人が木更津キャッツ組(岡田義徳さん、佐藤隆太さん、塚本高史さん)っていうのもすごいわね~。

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【ロボコン】四つ星

♪デンデンガンガンホイデンガン~じゃなくって(私も大概古いな)、シーズンになるとよくNHKで放送しているロボット・コンテストの方。ああ、実際のロボコンの中継も、こんなふうな休日の昼下がりみたいな、まったりとした雰囲気があるかも。でも、バラバラだった弱小チームが少しずつまとまってきてやがて実力を発揮するようになっていく過程が、とっても王道の青春ものでこれが不思議に盛り上がる。趣向を凝らしたいろんなロボット達のそれぞれの戦い方のアイディアもよく練られており、本番張りの見応えがあって面白い。
長澤まさみさんの脚がスラ~っと伸びた制服姿もよし(私ゃオヤジか)、研究熱心だけど気弱なキャプテンの伊藤敦史君もよし、C調だけど工具を扱わせたらピカ一の塚本高史君もよし。小栗旬君、どこかの欄で顔が識別出来ないとか書いてごめんなさいっ !! こんな理数系タイプのクラめの男の子も出来るなんて意外で、凄くよかった。今回こそはしっかりインプットさせて戴きました。
でも、この映画の画竜点睛は、何といっても荒川良々さんでしょう !! この人のキャラクターは他の誰にも代われない得がたいもの。大人計画って凄い。

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【私は「うつ依存症」の女】四星半

このヒロインは、私が知っていた何人かの人達を思い出させるところがあり、またかつての私に似ているところもあり、私ももしかしたらこうなっていたかもしれないと思わせるところもある。私が若い頃には「うつ病」という言葉は今ほど使われてはいなかったが、私も含めてどの人も、今“診断”されれば「うつ病」という病名がつけられる側面があったのかもしれない。
こういう知り合いを持たない人には、このヒロインは単に滅茶苦茶不愉快でワガママな女にしか見えなくても仕方がないと思うけど、私から見ればこのヒロインはあまりにもリアルだし、彼女がどうしてここまで独善的で自分勝手な行動を取るのかも、悲しいくらいに分かってしまう。つまり、自分がどうしても囚われて引き摺り込まれてしまうどす黒くて強い思念や記憶から身を引き剥がすために、自分という存在は完璧で、だから愛されて然るべきはずだというファンタジーを生きざるを得ないのであって、またそうして得られた何かに強烈に依存せずにはいられないのだ。(ちなみに私の定義では、“少女”という存在は、程度の違いはあれ、多かれ少なかれそのような部分を持ち続けている生き物のことなのだと思っているが。)本作のプロデューサーも兼ねているクリスティーナ・リッチは、多分、自身もこういった部分をある程度通過してきたのだろうし、そうしたことを全部了解した上で敢えてこの役をチョイスして演じているのだろう。う~ん、やっぱり只者じゃないかも……。
【Prozac Nation】というドスの効いた原題(プロザックは近年ポピュラーなうつ病の薬で、つまり、“誰もがプロザックを飲んでいるうつ病の国”という意味)に較べると、この邦題や“しあわせの処方箋”なんていう曖昧なキャッチコピーは、ちょっと弱くはないですかねぇ。

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