Back Numbers : 映画ログ No.74



前回の「5か月分一括更新 !! 」の荒業からまだそんなに日が経っていないのですが、今回は頑張って早めに更新してみました。でも、しばらくはまた更新が出来なくなってしまう予定……というのは、今住んでいるアパートが取り壊しになるため、お引っ越しをしなければならないからです。長年住み慣れた武蔵野市に別れを告げるのがちょっと寂しい……でも引っ越し先は駅の反対側(三鷹市)なので、吉祥寺が生活圏内であることには変わりはないのですが(笑)。


【カレンダー・ガールズ】三星半

亡き御主人を記念するちょっとした品を寄贈するために婦人会のオバサマ方が皆でヌード・カレンダーを作ろうとするなんて……その発想がどこから出てきたのか本当に驚き。でもって、これが実話だというのが更に信じがたい。(とはいえ、この映画の中の写真が実際に近いものならば、このカレンダー、案外上品で、作品的にもかなり面白いんじゃないかなぁ。)
映画は、このオバサマ方のちょっとした冒険が大成功を収めるまでのわくわくするような過程のみならず、急激な成功に翻弄されて今までの人間関係がおかしくなってしまうようなちょっとほろ苦い現実までを余さず捉えている。これは見方によっては冗長な展開とも取れるが、彼女達の繊細な心の動きをじっくり描こうとしているスタンスは、基本的に好感が持てるかなと思った。何せ、世間には、オバサマ同士の友情を描いている映画というのは非常に少なくて、その意味でも、これはかなり貴重な映画なんじゃないだろうか。

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【キッチン・ストーリー】四つ星

ひたすら地味に生きている村のオジサンと、ひたすら真面目に仕事をしている調査員のオジサン……こんな2人のオジサンが地道な友情を育む物語なんて、普通、誰も映画にしようなんて思いませんって。静かなユーモアを湛えたこの摩訶不思議な雰囲気は、実際に観てもらわないことには伝えるのが難しいかも。

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【キューティーハニー】四つ星

原作の設定を踏襲したパラレルワールドとして、昔見たアニメなどとはまた少し雰囲気が違った世界を構築してやろうという、庵野秀明監督を始めとするスタッフの皆さんの心意気がいい。ハニー役の佐藤江梨子さんもそうだけど、市川実日子さん、村上淳さんを始め、意外にゴーカな配役陣も、全員がノリノリで演じているところがまた素敵。完成度が高いというよりは、勢いで押し切っているようなところはあると思うけど、とにかく明るくポップでカラフルで、元気がいいから観ていてとっても楽しくなる。一般誌では必ずしも評判良くないかもしれなくても、いいじゃないの。私は好きなのよっ。

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【下妻物語】四星半

以前『SMAP×SMAP』の特番でやっていた『Smap Short Films』のトリを飾っていた中島哲也監督の「ROLLING BOMBER SPECIAL」は、番組一番の大傑作であった !! じっくり長回しのイメージがある昔の中島監督の劇場用長編映画と較べると、本作のテンポのよさはこの短編の方に似ていて、監督はこういった作風を確立なさったのかなと思う。精神的に完全に独立独歩で他人のことなんか気にかけないロリータちゃんと、一見コワモテだけど人情に篤い元ネクラ少女のヤンキーちゃん、この2人の間に、ありえないような友情が芽生えていくところが、案外とても感動的。脇を固める俳優陣も、とにかく味の濃ゆい人ばかり ! で見どころ満載。とにかくあらゆる意味で傑作なので、是非とも観ておいた方がいい一本。

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【シルミド SILMIDO】四つ星

死刑囚や名うての犯罪人を集め、社会的な地位回復をエサに猛特訓を施して金日成の暗殺部隊を作っておきながら、政策の変更によって彼等が不要になるとその抹殺を図る……たった30年やそこら前に、ほんのお隣の国でそんなことが実際に行われただなんて、驚愕以外の何者でもない。こんなシビア極まりない素材をエンターテイメントとして成立させてやろうという力業には心底恐れ入った。さすが、ハリウッドの上手(うわて)を行ってやると本気で標榜している韓国映画界のことだけはある。
群像劇だから色んな人にスポットが当たるんだけど、興味の中心は“やっぱりそんな人にしか見えない”ソル・ギョング。脱北した父親を持ち「アカ」と蔑まれ続けて育った彼の心情が切なかったが、「この映画しか観たことがない人には、ずっと怒鳴りっぱなしの彼はとても名優には見えないだろう」という意見も、まぁ言えていなくはないか……。

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【深呼吸の必要】四つ星

かの篠原哲雄監督が、劇場デビュー作の【草の上の仕事】の原点に立ち返ったといわれる作品。きび刈りの季節アルバイトの男女7人が、ただひたすら、さとうきびを苅る、苅る、苅る。彼等が南の島にやってきているそれぞれの事情は味つけ的に匂わされる程度で、基本はあくまでも、彼等が汗水垂らして働く姿そのものである。実際にきび刈りを行ったという俳優さん達の、マジモードの表情が総ての説得力を持つ。月並みで申し訳ないけれど、労働って美しい、という言葉しか出てこなかったりして。

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【スキャンダル】四つ星

未だに『冬のソナタ』は見ていないが(見る予定もあまりなし……)、『危険な関係』の韓国の時代劇版の翻案だというのが面白そうだなと思って。主人公の悪玉カップルが落とそうとする未亡人の貞淑さは、ヨーロッパのオリジナル版よりも、実は儒教の世界観にこそよく嵌っているのではないだろうか。その主役3人の演技も素晴らしいし(かのペ・ヨンジュン様も思っていた以上に良かった)、李朝時代の凝った意匠も見事。同じアジア人だから、ヨーロッパを舞台にしたものよりも心情をより身近に感じるということもあるかも知れないけれど、私はこの作品を、今までに観た『危険な関係』のいくつかのバージョンの中で一番面白いと感じた。

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【天国の本屋~恋火】三つ星

何で天国で、何で本屋で、何で花火なの…… ? などという基本設定に口を差し挟んではいけないのね、きっと。キャストは皆さん(どちらかと言うと)好きな人ばかりだし、篠原哲雄監督らしい詩情には確かに溢れているけれど、伝えたいことのシンがなく、一見小奇麗だけど中身はへにゃへにゃしている紙製のハコ、といった趣き。いかにもなデートムービーであることを狙い過ぎているのがあまりにも見え透いていて、さすがにちょっとう~んと思ってしまうなぁ。
竹内結子さんって感じがよくて嫌いじゃないけど、出る作品出る作品、役柄がどれも似たり寄ったりなのが気になる。観客がワンパタに飽きてしまう前に、そろそろ次の手を考えないと……。

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【21グラム】四つ星

過去も未来もカットアップされてぐちゃぐちゃになっているので、始まってしばらくはワケ分かんなかったりする。でも、人間の記憶って本当は直線じゃなくて、実はこんな形をしているのかもしれない。車の事故を起こしたベニチオ・デル・トロ、その事故で家族を皆殺しにされたナオミ・ワッツ、その死んだ旦那の心臓を移植されたショーン・ペン……どの人の思惑も、剥き出しで、真摯で、だからこそ救いがない。でもそのどうしようもない生きることの残酷さが、ある種の犯し難い神聖さを孕んでいるようにも思えてくるのだ。
ところで、シャルロット・ゲンズブールがショーン・ペンの奥さんというかなり重要な役どころで出演しているのですが、宣伝等で名前が全く出て来ないのはどうした訳なんでしょう…… ? 画面を見てびっくりしてしまいましたがな。

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【ル・ディヴォース パリに恋して】三星半

アメリカの人も(一部は)、ヨーロッパやおフランスに問答無用の憧れがあったりすることもあるんだろうなぁと、しげしげ。本作のジェームズ・アイボリー監督なんて、その典型みたいな人か。離婚なんてテーマを扱いながら、内容はあくまでも軽めでちょっぴりシニカルなコメディ・タッチ。そこはかとなく面白くて、私は決して嫌いじゃなかったけど。

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【レディ・キラーズ】三星半

手堅くよくまとまってるとは思うんだけど……コーエン兄弟の作品に期待したいようなときめきは、何故か感じられないのよねぇ。思えばスティーブ・ブシェミもジョン・タトゥーロも出ていないこの作品。トム・ハンクスの演じる悪人は、完璧に演じられてはいるんだけど、あまりに完璧過ぎるが故に隙も可愛げもなく、キャラクターとして愛せないような。芸域を広げたいという努力は偉いと思うのだが、やはり根っこがMr.いい人のトム・ハンクスには、悪人役はジャスト・フィットの守備範囲という訳にはいかないんだったりして。

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