Back Numbers : 映画ログ No.75



3ヶ月ぶりの御無沙汰でした !! おかげ様で引っ越しも無事終わり、いつもの生活に段々と戻ってきたところです。引っ越し中は映画はかなり減らしていたのですが、それでもそれなりの数がたまってしまいました。例によってもう上映が終わってしまった作品もたくさんあるのですが、どうぞ御容赦下さいますよう……。


【IZO】三つ星

怨念と化した岡田以蔵さん(幕末の土佐勤王党の志士で「人斬り以蔵」と恐れられた)が、時空を超えて人を切って切って切りまくる話、みたいなのだが……銃撃戦やカーチェイスばかりが延々と続く映画と同様、テンポが単調で、私は見ていて飽きてしまったのね。主人公のモーティベーションである怨念の中身自体がそれほど説明されておらず、感情移入できる形では描かれていないから尚更のこと。主演の中山一也さんの熱気や、超豪華な出演者の顔ぶれが、何だか勿体ないような。

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【WALKABOUT 美しき冒険旅行】四星半

オーストラリアの砂漠で迷子になった姉弟と、彼等と出会うアボリジニの少年のwalkabout(放浪のこと、大人になるための通過儀礼の意味もあるらしい)の話。時にはグロテスクさをも孕む恐いくらいに神々しく美しい映像と、神話的ですらあるスケール感が圧倒的で、こんな映画を最初に創ってしまったニコラス・ローグ監督は、後の映画はさぞやお茶の子さいさいだったのではないかとすら思えてしまう、それにしても、男の子の命がけのプロポーズ(だと思ったんだけど)をアッサリ袖にしてしまう女って残酷。文明と非文明、男の子と女の子とかが、交じり合えたり交じり合えなかったりするのは、未知の存在との邂逅と恐れがテーマだったりするのかもしれないが。

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【カーサ・エスペランサ 赤ちゃんたちの家】四つ星

名だたるハリウッド女優の方々がよく第三世界の子供達を養子にしているのが、感覚的によく分からなかった。それがこの映画を観てよく分かるようになった……訳では全然ないのだけれど、アメリカでは超セレブの大金持ちの人々だけでなく、少しお金に余裕のある中流以上の人々ならこういうことをかなり一般的に行っていることらしいと分かって、かなり衝撃的だった。
この映画には、はるばる南米までやって来て溜まり場のホテルに長期滞在し、養子縁組許可のお声が掛かるのを待っている様々な立場のアメリカ人女性達が描かれている。子供さえいれば人生が変わると信じて待つ彼女達が、ある時は夢を、ある時は絶望を語る様の真剣さは痛々しいくらい。アメリカ人の家族というものに対する思い入れは、信仰に近いくらい強烈なものなのかも知れない。(日本でも一部には似たような状況があるかもしれないけれど、さすがにまだ他国からの養子という発想までには至っていないだろう。)でもやっぱりそれって人身売買じゃないの ? とか、アメリカに連れていった方が幸せだと言い切るところに何らかの傲慢さはないのか、とか、どうしたっていろいろと考えてしまわざるを得ない。赤ちゃんを欲しがる彼女達だけでなく、赤ちゃんを渡す側の視点も少なからず描かれているのが、また問題を深くする。
リリ・テイラー、ダリル・ハンナ、マギー・ギレンホール、スーザン・リンチ、メアリー・スティーンバーゲン、リタ・モレノなど、実力派の女優さんばかりががっぷり四つに組んで演じているのは見応えがあったが、クセのあるおばさんの役をやって思い切り場をさらっていたのは、ここでもやっぱりマーシャ・ゲイ・ハーデンだった !
しかしなぁ……これはこのまんまでは日本の人にはかなり馴染みにくい題材な訳で、そこを何とか工夫して説明し、興味を起こさせるのが配給・宣伝会社の仕事でしょう ? 何なんでしょうねぇこの、いかにも適当に映画を買って来てそのまま流しただけですって感じの、やる気の感じられないパブリシティは。(ええと配給会社は……ギャガですか。)折角、私の大好きなジョン・セイルズ監督の近作が劇場公開されると思って喜んでたのに、こんなんじゃ「分からなーい」の一言であっさり片付けられてしまって、監督の作品がまた劇場公開ラインから遠ざかってしまうじゃないかぁ !!

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【華氏911】四つ星

マイケル・ムーア監督の主張は割とシンプルで、要するに「ブッシュを再選させるな」ということを言いたいだけなんじゃないかと思う。アメリカのちょっとだけリベラル寄りのごくフツーのオジサンである彼が、ごく真っ当な“正義感”(これがかなり曲者の概念なのだが)に突き動かされて撮ったのがこの映画であって、彼には、例えばどのような方法を採れば世界平和が現実のものになるのか、といったような深遠な思想や哲学がある訳ではないと思う。そこのところさえ外さないで観れば、この映画にはかなり興味深い部分も多いのではあるまいか。
アメリカの大統領選なんて日本人にはどうでもいいことなんじゃないの ? とコメントしていた“識者”もいたが、そんなことはないだろう。今度のアメリカ大統領選の行く末が今後の世界情勢に多大な影響を与えるかもしれないということは、誰もが肌で感じていることのはず。だからこそ、この映画はたくさんの人の注目を集めているに違いない。
監督は自らの主張のために、手を変え品を変え、時には過度な強調とか拡大解釈とかもばんばん行っているところは見て取れるけど、そこのところは別にいいんじゃないかと思う。もともとドキュメンタリーというものは、どんなに気をつけて撮ったところで、作者個人の視点が絶対に反映されてくるものだから。ただ、この映画に描かれていることを錦の御旗のように掲げようとするような思考停止的な態度が見る側にあるとすれば、そこで問題が起こってくるのかも知れない。要は、受け取った“情報”の内容の是非についてもう一度自分の頭で考え直すという姿勢は、この映画に限らず、常に必要な訳で。それが、この映画でも本来主張している如く、アホな政治家達にみすみす騙されないための第一歩にもなってくるのだ。

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【機関車先生】三星半

坂口憲二さんって、恵まれた体格といい整った容姿といい、つくづく俳優になるために生まれてきたような方で、何事にもマジメに取り組みそうな雰囲気が役柄に合っていて悪くないと思った。子供達は(最近の子役らしくなく)あまりお上手という訳ではないかも、と最初の頃は感じたりもしたが、後半になるにつれ、この素朴な雰囲気がかえって味があるかなぁと思うようになった。主人公よし、周りを固める配役もよしで、文部省推薦映画的なこのテのお話に相応しく、ツボを外さず手堅く作ってあるのはいいと思う。でもまぁそれ以上にもなりようがないというか、廣木隆一監督じゃなければ、敢えて見に行くことはなかったんじゃないかなぁと……。
しかし廣木監督も、来た仕事は何でも受ける人だなぁ。【ヴァイブレータ】やら【不貞の季節】やら【理髪店主のかなしみ】やらを創った監督にこの作品をオファーしたプロデューサーの思惑もよく分かんないけれど。

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【69 sixty nine】四星半

60年代当時に撮られたドキュメンタリー・フィルムなんかを思い返して較べてみれば、本作は明らかに、かの時代を30年以上経った現在のテンポとノリで捉え直した現在のドラマなんだなぁと思う。当時の忠実な再現を目指すくらいなら当時撮られたフィルムなんかをそのまま見ときゃいいのであって、こうして現在形のフィルターを掛けた形に“翻案”してあるからこそ現在の観客の感情にもっとストレートに訴えかけてくるものがあるのであり、だからこそ今の時代にこの話を敢えて創る意味も出てくるのだと思う。思い切って、60年代当時のことなど何も知らない若手にこの映画を委ねようと考えた伊地智啓プロデューサーはエラい。そして、その若手の中でも、若手離れした演出力を持つ李相日監督を敢えて指名し、脚本にはクドカンさんを持ってきたというのは、もっと慧眼だ。喜怒哀楽と笑いとちょっぴりのマジメさと切なさが全部あって、それでいてクールにサラリと受け流す、100%の出来の青春映画である。
それにしても、御歳29歳だという安藤政信さんが高校生役っていうのは……ま、かの時代の優等生的な高校生の役だったから、ギリギリでOKだったかな。彼がティーンエージャーを演じるのは、さすがに今回が最後になるのだろう。あと、クドカンさんは、完全オリジナルよりはある程度叩き台になるアイディアがあったほうがより精彩を放つような気もしたのだが、いかがなものだろう。

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【シュレック2】四つ星

一般的には第一作目の方が評判が高いようなのだが……個人的には、“アンチお伽噺”というお題目があまりにも前面に出すぎていてあざとさが感じられた前作よりは、そういったシバリから開放されてもっと自由に発想している本作の方が、素直で好感が持てると感じた。ラストも、ちゃんとシュレック的に収まるべきところに収まったので満足。でも、変わりたいと切望する某御仁はそのままにしておいてあげてもよかったのでは !?

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【スチームボーイ】四つ星

のお友達曰く【…ラピュタ】のリアル版……って、それは言っちゃいかんだろ。大友克洋御大の満を持しての新作は、やはり圧倒的な画力が印象的で、特にいろいろな乗り物や機械仕掛けのダイナミックさには目を見張った。マシンものにワクワクする男の子ならすごく楽しめるかも知れないな。反面、その機械に象徴されているような文明と人間の屈折した関係の描写は割とありきたりなもののようにも思えたし、感情の描写がクールというか理詰めで、登場人物にあまり感情移入も出来ず気持ちがわーっと動かされることが少なかった辺りを、少し物足りないと感じたのかもしれない。それにしても、鈴木杏さんは声の演技もうまかったですね~。言われなければ、主人公の男の子の声が彼女だなんて分からなかったよ。

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【スパイダーマン2】四つ星

スパイダーマン稼業との生身の自分との間で苦悩するピーター・パーカー君の姿が描き込まれていたのは良かったと思うし、まぁ概ねは面白かったんですが……まず気になったのが、前作にも増して、キルスティン・ダンストの演じるヒロインがなんでっていうくらい可愛くないこと。(女優の容姿にはそれほどこだわっていないはずの私ですら、いくら何でもこれはマズいだろうと思うレベル。)また、敵キャラの造形も、いくらもともとマンガと言ったって、あんまりにもマンガ的に過ぎる気が。(“一流の科学者”ともあろう人間が、あんなごくフツーのマンションみたいなところで核融合の実験なんて危険なことをするの ? とか、命の綱の安全装置をあんないかにも壊して下さいと言わんばかりの箇所に剥き出しで置いとくなんてあり得るの ? とか。大体、あの動きにくそーな機械のデザイン自体どうも……。)その他にも、どうにも細部のあちこちが気になってしまい、一作目ほどには夢中になれなかったというのが正直なところだった。まぁ、いよいよジェームズ・フランコ君との全面対決になるという第3作目に期待致しましょう。

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【堕天使のパスポート】四つ星

実は今年のアカデミー賞で脚本賞にノミネートされていた隠れた秀作。主人公はアフリカ出身、その友人は中華圏に東欧圏の出身と、ロンドンの裏の顔とも言うべき人々が中心になって進むこのお話は、現実の様々な事象からインスパイアされて創られている部分があると思うのだけれど、臓器売買がこんなにカジュアルに行われているのかもしれないというのがかなりショックだった……。こんな話をちゃんとエンターテイメントに組み上げているスティーヴン・フリアーズ監督のさすがの手腕には脱帽。あの【アメリ】のオドレイ・トトゥがトルコ難民の娘という荒業というか無茶な設定も、まぁ許しちゃる。それにしても今時“堕天使”はねーだろ。この、作品に対する愛情が感じられないったらない安っぽいタイトルで、動員が何割かは落ちていると見た。(ちなみに、こちらの配給は東芝エンタテインメント。)

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【誰も知らない】五つ星

是枝さんの創る映画なら傑作で当たり前じゃん !! ……で終わってしまっては何の解説にもならないので、えーと……これまで、テーマが小難しいところがとっつきにくいと言われることもままあった是枝裕和監督ですが、今回は、懸命に生きる子供達の美しさが屹立するような作りになっているので、一般的にも受け入れられやすいのではないでしょうか。あんなタコな親(YOUさんの演技がgood)でも慕い続けていたりするような、子供達の繊細な感情の振れ幅を、しっかりした計算のもとに緻密に描写してある辺りがさすがだなぁと思いました。一部では、カンヌの主演男優賞をもらった柳楽優弥さんを始めとするキャスティングのことばかりを褒めているのですが、考えてみて下さいよ。いくらキャスティングが当たっていて、その役者さん達にどれだけ才能があったとしても、彼等を野放しに演技させておいてそれをただ漫然と撮っているだけでは、絶対に面白い映画になんてなりっこないんですから。
柳楽さんの演じた男の子は勿論よかったけれど、個人的にはそれ以上に、北浦愛さんの演じた長女の女の子の役柄の方が、すごく気に掛かりましたね。お母さんに塗ってもらったマニキュアがはげかかってもずっと大事にしているところとか、公園生活になっても皆の着るもののお洗濯をずっと続けているところとか(きっとそれが「任された仕事」だからなんだよね)、あー分かるような気がするって。どうして監督は、こんな芸の細かい脚本を書けるのでしょうか……ひたすら感心。
サントラがゴンチチさんというのも、意外な気がしたけれど、凄く嵌まっていましたね。

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【地球で最後のふたり】三星半

この世の物事の流れから切り離されて、地球上に自分達以外の他の人がいないように感じられる気分は、凄く分かる気がする。ペンエーグ・ラッタナルアーン監督が描く世界は、タイの人だからどうといったエキゾシズムやローカリズムとかとは関係なく、もっと普遍的な感覚を体現させているのが興味深いと思う。でも本作だけに関して言えば、このじっくりと舐めるようなテンポが、当日の体調にちと合わないところがあったかも……。

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【父と暮せば】四星半

原作は井上ひさしさんの舞台なのだとか。浅野忠信さんは彩り程度にちょっと出てくるだけだから、本編の大部分のシーンは宮沢りえさんと原田芳雄さんのほぼ二人きり、場面もほとんど彼ら父娘の自宅に限定されているんだけど、彼らによって形づくられる濃密なヒロシマの物語のスケール感は一体どうだろう。宮沢りえさんも健闘してると思うけど、板についた広島弁による原田芳雄さんの軽妙かつ重厚な演技は、国宝級に素晴らしい ! 生き続けることこそが、逝った者に対する生き残った者の義務なのだ、というメッセージも胸を打つ。黒木和雄監督は、やっぱり風格が違うなぁ。是非とも一度は目にして、胸のどこかにしまっておいて戴きたい傑作。

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【茶の味】三星半

今度は和テイストのご近所感覚が新しいな、と石井克人監督が考えたかどうかは分からないけど。この石井監督流のホームドラマ、例によってディテールには工夫を凝らしてあるので、それらの一つ一つを吟味していくような見方が出来る人ならすごく面白いかもしれないけれど(最近の若い人にはそういうディテール命の人も少なくないらしいから、そういう向きにはうってつけなのかもしれないが)、全体の核となって牽引していくような強いストーリーラインは無いものだから、私のような人間が見ている分には、ちょっとばかりダレてしまった。スティール・ドラムをフィーチャーしたリトル・テンポ(実はがかなり好き)のサントラは、独特の雰囲気でなかなかいい感じ。

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【ハリー・ポッターとアズカバンの囚人】三星半

あるハリー・ポッター好きの知人は、『…アズカバンの囚人』はストーリーとしてはこれまでの中で一番面白かった、と言っていた。私もその人に借りてたまたま原作を読んでいたのだが、それで今回の映画版を見た感想というと……う~ん。のっけから、「ストーリー上は大して必要ないのでは ? 」といったシーンばかりが長伸ばしにされ、「ここのところがキモなのでは ? 」と思ったところはどうも説明不足。本を読んでいる時には思いっきり盛り上がった終盤の部分も、アレアレ ? って大した手応えもないままにあっけなく終了。思うにこの展開、SFXの見せ場を増やすことばかりにかなりの労力が費やされていて、肝心のお話自体の面白さを生かそうという発想はあまりなされていないみたい。誰の差し金か知らんが、な~んて勿体ない。今回は【天国の口、終わりの楽園。】のアルフォンソ・キュアロンが監督だというから、ちょっとは期待していたんだけどなー……。

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【風音<ふうおん>】四つ星

そういえば、舞台は沖縄だったっけ。サスペンス・ストーリーとして見てしまうとちと物足りなさが残るのかもしれないけれど、人間が何をやってても自然の豊かさはでーんと動じないというか、ちっぽけな人間の営みを包み込むようにただそこに存在してまったりとした空気感を醸し出しているのが、なんか私は好きでしたけどね。

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【ブラザーフッド】四つ星

優秀な弟(ウォンビン)だけはとにかく兵隊を辞めてカタギに戻り大学に行って欲しいという、苦労人の兄貴(チャン・ドンゴン)の思いが泣かせる訳だ。弟君の気持ちの動きなど、冷静に考えてみると不可解な部分もあり、題材はハードでも基本的にはお涙頂戴路線だったりするところもあるんだろうけれど、怒涛のような勢いに【プライベート・ライアン】ばりの迫真の戦闘シーンなども相俟って、ああ戦争って理不尽、とついつい乗せられて見入ってしまった。

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【プリンス&プリンセス】四つ星

【キリクと魔女】のミッシェル・オスロ監督の影絵アニメで、6話のオムニバス形式。“王子様とお姫様”って、30女にどないせぇっちゅうんじゃと観る前は思っていたのだが、これが案外、フランス人らしく ? 洒落の効いた内容だったのが笑えた。御伽噺の解体ってこうするものだと、【シュレック】のスタッフの皆さんにも観て戴きたいものだ。表題の「プリンス&プリンセス」も良かったけれど、私は「魔女」が好きでしたね。オチは予想通りだったけど、監督もよっぽど魔女がお好きみたい。

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【炎のジプシーブラス 地図にない村から】三星半

【アンダーグラウンド】のサントラを聞いて以来バルカン・ブラスにやられてしまったという、よくあるパターンのクチ。本作の『IAG BARI』という原題を見て気がついた、ありゃ、あたしこのCD(輸入版)持っとるがな。映画では、このファンファーレ・チォカリーアというバンドについてのあれこれが、盛り沢山で語られる。ルーマニアの山間の小さな村でどんなふうに暮らしているとか(ロマ(ジプシー)の人達が定住する時には普通の町や村の外れの居住区に住むのが一般的で、ロマの人達だけで村を作るというのは珍しいんだそうだ)、どういういきさつでCDデビューをすることになったとか、世界中を演奏旅行する様子とか……。個人的には、こんなごった煮的な内容にするよりは、もっともっと彼等の音楽性の秘密自体に肉薄して欲しかったような気もしたのだが(ドイツ人のプロデューサーの話とかはもっと短くてもいいし)、全く違う価値観で生きている彼等の生活の時間の密度を垣間見てみただけでも、この映画を観た価値はあったかしら。

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【マインド・ゲーム】四星半

『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』などに参加なさっていたという湯浅政明監督の劇場長編デビュー作。大まかな筋立てとしては、主人公の西くん(原作者のロビン西さんのこと ? 今田耕司さんの声がいい ! )が潜る精神の開放の過程の話で、自由に飛躍するイメージ、溢れんばかりのエネルギーとブッちぎりの疾走感で、生きていること、存在していること自体をウルトラ・ポジティブに全肯定する。かなりの部分で原作を踏襲しつつ、ところどころ、アニメ的表現でそれを凌駕してやろうという作りのようだけれど、そもそも、よくこの原作をアニメにしようと思ったよなぁ。従来の劇場用アニメの作法をバケツの底からひっくり返すような実験精神に満ち満ちているのが、凄い !! の一言。今年はビッグ・ネームのアニメーションが大挙して公開されている特異な年だけど、今年のアニメーション界を語るのにこの映画のことに言及しなかった評論家やライターは、はっきり言ってモグリだと思っていいから !!

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【MASK DE 41】四つ星

仕事も家庭もうまくいかない41歳の中年男が、成り行きで新プロレス団体の旗揚げ人に加わるのだか、問題ばかりが山のように起こって、やっぱりパッとしなかったりする。正直言って、カッコいいものじゃないけれど、そこをあがいてあがいてしがみつく姿に、何故だか胸が熱くなってしまうのだ。人生ってみっともないもの、ということがやっと最近分かってきたような気がするから。この役のために筋肉だけで13kg増量したという田口トモロヲさんの魂の熱演を見るべし !!

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【モナリザ・スマイル】三星半

どうしてアメリカ人って、時折思い出したように50年代ものを作りたがるのだろう。(でもって、どうしてそこまでジャクソン・ポロックが好きなのだろう。)お話はまぁ大体予想した感じで流れていくし、これで女性の生き方がどうだとか言われても片腹痛いんだけど、手抜かり無く作られている娯楽作品という意味では悪くないんじゃないのかな。売り出し中の若手女優(マギー・ギレンホール、ジュリア・スタイルズ、そしてこの映画では小マシなキルスティン・ダンストなど)の競演も、それぞれの力がちゃんと堪能できるような作りになっていてよろしい。それにしても、彼女達のスーパーバイザー的な役柄で出ているジュリア・ロバーツは、アナタはもう若くないのよときっちり線引きされているようなものだと思うんだけど、それって御本人的にはOKなのだろうか ?

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【ユダ】四つ星

久々に、本来の瀬々節が炸裂した作品を観たような気がする !! “16歳”“つながる”などの概念の説明が台詞上の字面に頼り過ぎで、ユダ(本多一麻さんの存在感は不思議な感じ)や周りの人間達の心情も多少推し量り難いところもあり、その辺り、ちと理屈っぽいとも感じたのだけれど、総てを凌駕してしまう岡元夕紀子さんの熱演に免じて、おまけしておこう。
《エロス番長》シリーズの他の作品にもちょっと興味はあるのだが、観に行く時間がどうも取れなさそう。ごめんなさい~。

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【LOVERS】四つ星

下馬評があまりパッとしなかったものだから、ごく普通のアクション・ラブロマンスものと思ってあんまり期待せずに見に行ったら、ちゃんと普通に面白かった。筋立てといい、俳優さんの華といい、アクションといい、あまりに美しすぎる画面といい、一定の水準は楽々クリアーしているというか。
ただ本作は、もう少しスケールの大きなものになるはずだったと、一部の人々が嘆くのも無理はあるまい。先日癌で他界した香港の大スターのアニタ・ムイが演じるはずだった盗賊の女統領の役に、チャン・イーモウ監督は代役を立てず、結果、ストーリーは主人公三人の三角関係の話だけに集約してしまったからだ。チャン・ツィイーは、可愛いし、アクション・シーンなどを見るとやっぱりよく訓練されていると改めて思ったのだけれど(彼女は国立の舞踊学校で長年みっちり訓練を積んで来た人らしい)、マギー・チャンやらコン・リーみたいな大女優と言えるだけのオーラはやっぱりまだ感じられなくて、その分、ドラマもこじんまりとしてしまった感じは否めない。お相手も、アンディ・ラウはともかく金城武となると、大河ラブロマンスにはもう一つ役不足かな。でもまぁ、主役の一人を欠きながら、よくここまで頑張ったとも言えるのかもしれない。

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【藍宇 情熱の嵐】三つ星

本質的に血の繋がりのある家族というものが持てないから、一人の決まった人と継続的に関係を結んでいくのは難しいんじゃないかという不安が常につきまとう、てなことを、【ハッシュ ! 】の主人公の一人だったゲイの男性が言っていたような気がする。(そんなの、本当はヘテロだって一緒なんだけどさ。)だからこそ行きずりの関係に走りがちなのだ、とも言っていたような。そういう前振りがなかったら、素敵な男の子と折角うまくいっている関係をぶち壊そう、ぶち壊そうとする主人公の男性の心情は、さっぱり分からなかったかもしれない。でもやっぱり、よくは分かんなかったけど……心から愛せる人との出会い以上に素晴らしいことなんて、人生にそうそうないでしょうに、この愚か者―っ !! って、そういう愚かな己れを回顧している話ってことなのかな。自らゲイだと公言している香港のスタンリー・クワン監督の作品だが、今回は雰囲気がちとクラシカル(悪く言えば古めかしい)かも ? とも感じた。

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