Back Numbers : 映画ログ No.78




長らくご無沙汰して申し訳ありませんでした ! とりあえず、今年の6月末までの公開分の映画の感想をお届けします。期間が長期に渡ってしまったので、今回だけ特別に、公開時期順に映画を並べてみることに致します。(後日、バックナンバーにアップする時に調整する予定です。)もうほとんど公開が終了している映画ばかりかもしれませんが……返す返すも申し訳ありません。7月以降の映画につきましては、また後日掲載する予定ですので、適当な時期を見計らってまた覗いてみて戴けると嬉しいです。
長期休載をすると後で取り戻すのが大変だということが、つくづく身に染みました。今後はもう少しマメに更新をするように心掛けていきたいと思いますので、お時間がある時にお付き合い戴ければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。(


【阿修羅城の瞳】四つ星

劇団☆新感線の舞台劇を映画用に移植した作品。一般的な舞台作品の映画化版と較べれば、奥行きのない平坦な印象になっていないように思えて、私は好感を持ったのだけれど、舞台版を見たことがある人の印象は違っているみたい。確かに後半、宮沢りえさんの正体が明かされてからは、ちょっと失速してしまった感もあるかな。きっと舞台版では、生の熱気と盛り上がりで押し切る部分なんでしょうね。市川染五郎さんは、正直言って今まであんまり好きではなかったんだけど、やはり俳優としての一流のオーラがある人だったのだなと納得。特にこの役では、鍛え抜かれた所作や型の美しさと、色気やナイーブさやダイナミックさが合致して、魅力的なキャラクターが見事に造形されている。当たり役というのも頷ける。

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【あずみ2 Death or Love】三つ星

前作からの流れもあるから難しいところなんだろうけど……今更ストーリーを語るには中途半端で、さりとて、アクションのキレでは、そこだけは評価してもよい前作の北村龍平監督の方が優れていたかもしれない。金子修介監督のいいところがあんまり出ていなかったみたいで残念。でもって私は、エンケンさんの顔の大きさってば小栗旬君の倍じゃん ! とかそんなところにばかり目が行っていた……。

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【アビエイター】四つ星

今の時代にはもう誕生しないかもしれないようなタイプの大富豪ハワード・ヒューズ(ディカプリオ君の大熱演)の良い面も悪い面も捉えつつ、意欲的に描いている作品なのは間違いない。でも、アメリカ近代史のある側面を活写する絵巻物として遠巻きに眺める分にはよくても、登場人物の心情に寄り添いながら見るのは難しいような気がしなくもない。見ていても感情が動かされにくいというのは、映画としてはやはり不利なような気がするのだけれども、スコセッシ監督の近年の映画って、こんなふうなタッチのものが多いよねぇ。一体どうしてなんだろう…… ?

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【アラキメンタリ】三星半

生きることに付きまとう永遠の欠損感を、本能的にやはり写真で埋めようとする辺りが、天才の天才たる所以なのだろうか。でもそれは、写真展などを観に行けば分かるレベルの話、ならば、写真展に行った方がいいと思うよ。悪い作りじゃないんだけど、今までに言われているようなことの集大成といった感じで、独自の視点には欠けているようなきらいがある。でも、荒木経惟さんのエネルギッシュな創作の現場をずっと残るような形で画像に収めた、というところにはそれなりに価値があるのかもしれない。

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【イン・ザ・プール】三星半

コレっていう大きいストーリーの流れがあるんじゃなくて、それぞれの断片のスケッチを集めたという作り。松尾スズキさんはさすがという感じだが、オダギリジョーさん、市川実和子さん、田辺誠一さんがコメディでも一流というのは嬉しい驚き。それぞれ怪演と言ってよい俳優さんたちの素晴らしい演技と存在感も手伝って、それぞれの場面ではクスッと笑えないこともないんだけど、何だか煮え切らない感じが残るのがどうも物足りない。もしかして本作は、映画というパッケージである必要は全くないのかもしれないんじゃないのかな。こういうのが今時の作風と言えばそうなのかもしれないが。

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【インファナル・アフェアIII 終極無間】四つ星

【インファナル・アフェア】シリーズで一番好きなキャラがアンソニー・ウォン、次がトニー・レオン。I の後日談である本作では(ちなみに、II は I の前日談です)、思い出の中の彼等しか出てこないので、私的には何かイマイチこう、盛り上がれなかったような。(すまない、アンディ・ラウさん←今回の主役。)勿論、一定以上の水準はクリアしている映画だとは思うのだけれども。

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【ウィスキー】三星半

多分、本邦初公開のウルグアイ映画(資金的にはウルグアイ・アルゼンチン・ドイツ・スペインの合作とのこと)。(アキ・)カウリスマキ監督のタッチに似ているとよく言われているみたいで、なるほどという感じもするが、もっと生真面目というか、あの独特の殺伐としたユーモアがない感じ。だから私はちょっと物足りないような気もしたけれど、こういうのはこういうのでいいと言う人もきっといると思う。

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【失われた龍の系譜 トレース・オブ・ア・ドラゴン】四星半

ジャッキー・チェンは、かなり最近まで自分は一人っ子だと思っていたそうなのだが、実は御両親とも再婚で、前の配偶者との間にそれぞれ2人ずつ子供がいたのだという。ジャッキーの両親は何故、大陸に子供達を残し香港に移住しなければならなかったのか。そこには、抗いがたい時代背景がどっかりと横たわっていたのである。ジャッキー・チェンの御一家の話、なんだけど、そこには激動の中国近代史が否応もなく透けて見える。多かれ少なかれ、似たような運命を辿った人々もきっと少なくなかった。これは、きっちり脚本に起こせば大河ドラマになりそうなくらいの分量の、小説顔負けのドラマチックなノン・フィクションである。ジャッキー・チェンのファンの方にも、そうでない方にも、これはオススメ致します !
どうでもいいけど、プライベートのジャッキー・チェンって凄いカッコいいぞー。歌も超ウマい。そこいらのジャッキー主演映画なんかよりジャッキーが数段カッコよく映されているのって、きっと、女性であるメイベル・チャン監督が、男性監督には分からない視点でジャッキーの魅力的な側面を捉えていたからなんじゃないかなぁ。ジャッキーのパパさんもまた筋金入りの伊達男だったりする。血筋は争えない、のかな ?

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【宇宙戦争】四つ星

昔、同じスピルバーグ監督の【激突】という映画がありましたよね。筋といえばトラックが追いかけて来るってただそれだけなんだけど、あの緊張感をずーっと引っ張るだけで映画1本分を見せきってしまうという……。この映画も、筋といえば宇宙人が襲って来るってただそれだけなんだけど、このパニック感を見せきるだけで映画が1本成立する、ただそれだけのシンプルなことなんじゃないのかなぁ。何も難しく考える必要ないじゃないですか。
とにかく宇宙人はつおいので、地球人は本当にもうひとたまりもなく、ただ逃げ惑うしかない訳です。でも、主人公のトム・クルーズはやはり大人ですから、多少は冷静に逃げ道なども考えなければならない。でもそれだと見ている側は覚めてしまうので、徹頭徹尾パニックを背負って立ってる存在も必要です。で、ダコタ・ファニングの登場という訳。親子愛がどうのこうのとか言うのは、実は、ついでに後付けしてみたフレーバーみたいなものなんじゃないのでしょうか。で、あっさりしすぎと評判の悪いラストですが、あれも、とりあえず終わらせなければならないから取ってつけてみたようなもんなんじゃないんですか。あの結末は偶然の所産でしかなく、本当は地球人には何一つなすすべが無かった訳でしょう ? ただ滅び去るのを待つしかなかったというのが、本来提示したかったエンディングの骨子なんじゃないのかなと、私は思いますが。
どなただったか忘れたけれど、空から容赦なく理不尽に降ってくる暴力は、スピルバーグ監督なりの9.11の投影なのだ、というようなことをおっしゃっていた方がいました。ううむ、それは達観かもしれない。それなら、あの意味不明だったティム・ロビンスの存在も、多少は理解することが出来ようというものです。

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【《美しい夜、残酷な朝》】四つ星

香港・日・韓のキモチワルイ話対決 !! パク・チャヌク監督、イ・ビョンホン主演の第3話目は、気持ち悪いというより奇矯な感じのするごくヘンな話という印象。(ビョン様ファンにはこの映画、えらく評判が悪かったみたい……そりゃそうだ。)見世物小屋&双子&双子フェチがテーマだった第2話目の三池崇史監督作品は、怪奇幻想系の文学的な趣きが感じられないこともなく、三池作品にしてはえらくまともな印象で、この3作の中では一番好きだったかもしれない。私はこれで、すっかり長谷川京子さんのファンになってしまった。でも、圧倒的なキモチワルさを擁していて、その意味ではこの3作中文句なく勝っていたのは、フルーツ・チャン監督の第1話目でしょう。私も今まで、エグい映画もそれなりに見てきたつもりだったけど、それらの中でも掛け値なしに1、2を争うことが出来るエグさかもしれない……。(どういうふうにエグいかは、興味のある人だけビデオでも借りて見て下さい。)しかしフルーツ・チャン監督は、一応こういったストーリー性のあるお話も作ることが出来るんですね。

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【海を飛ぶ夢】四つ星

私は自殺も究極の選択枝としてありだと思っている人間なので、そういうこともあるかなぁと思って観ていたのだが、そうでない人には、主人公が安楽死を望むというお話はヘヴィに過ぎる場合があるみたい。その辺りをご注意の上、鑑賞するかどうかを決めて下さい。まだ30代なのに老けメイクで50代の四肢不随の男性を演じたハビエル・バルデムさん(首から上だけで総ての感情を演じなくちゃならない訳です)は、つくづく素ん晴らしい俳優さんだと思う。それにしても、風変わりな設定のサスペンスばかりでなく、こんなドラマもきっちり創り上げることができるアレハンドロ・アメナーバル監督って、一体どこまで才能が有り余っているのだろう……。
ところで、この邦題は本当にいいですね。個人的に、今年のベスト邦題大賞の候補作にノミネートしておきたい。

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【埋もれ木】三星半

小栗康平監督がファンタジーを描くとこうなるのね……。私の中ではどちらかというと人間のネガティブな側面を描くことが多い印象がある監督なのだが、本作では人間の存在に対する前向きな指向性が感じられて嫌いではなかった。埋もれ木の森や紙灯籠のシーンなど、心に残るシーンも少なくない。ただ。例えば若者の描き方など、ちょっと一昔前の古めかしさを感じてしまう面も無いではなくて、これは一体いつの時代の映画で、どんな人に向けて創ろうとしたのか、私には少し分からなかった。

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【永遠のハバナ】四つ星

ハバナという都市で地道に生きる15人の市井の人々を、ただただ黙って映し出しているだけ。ナレーションもほとんどなく、音楽なども要所でしか使われていない。こんな静かな映画が、喧伝されているイメージとはがらりと違うキューバの別の側面を伝えてくれる。私は【ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ】よりも、こちらの映画の方が数段好き。シルビオ・ロドリーゲスさんの『マリポーサス(蝶)』という歌の、「かつて私の人生に蝶が溢れた」というフレーズが、あまりにも切なく響く。

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【エターナル・サンシャイン】四星半

辛い思い出の記憶を消してくれる会社、という発想がまず凄いと思うけど、それ以上に秀逸なのが、いざとなってやっぱりちょっと待った ! と気持ちが変わった主人公が、どんどん破壊されていく自分の思い出の中を、記憶の中の彼女(もしかしたら“現実の”彼女より優しくていい女なのかも ? )と一緒に逃げ回る、というアイディア。メインの舞台が夢の中なので、かっ飛んだイメージの連続なのがまずは目を引くけれど、実は恋愛のときめきや切なさをお話の一番中心に据えてごく真っ当に描いていたりするので、これがあの独特の奇妙な味わいで知られるチャーリー・カウフマンの脚本か !? と一瞬目を疑ってしまうほど。主人公のジム・キャリー、ヒロインのケイト・ウィンスレットなどの俳優陣も磐石。(キルスティン・ダンストやらトム・ウィルキンソンやら、脇にしてはえらくゴーカな配役だなと思っていたら、ちゃんと意味があったのね。イライジャ・ウッド君もヘンな役で出ています。)現実にはそういうふうにはならないんじゃ……と思えたラストも、まぁよしとしよう。見事なマスター・ピースを撮り上げたミシェル・ゴンドリー監督に拍手 !!

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【EGG】二星半

原田大三郎さんとのトーク・ショーに来ていた堤幸彦監督によると(私は通常、どうでもいいようなゲストが延々と駄話を繰り広げる類いのトーク・ショーは大嫌いなのだが、今回はえらく面白かった !! )、この映画は、他の映画がポシャって急遽立てられた企画で、作ったはいいがその後お蔵入りになってしまっていたものなのだそうな。言われてみれば、なんかそんなテキトーな感じがありありと……。でも、急に言われて2週間くらいでいきなりこれが作れてしまうっていうのは凄いかも。堤さんのいろんな引き出しの多さの方に、むしろ感心したりして。

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【エレニの旅】五つ星

ロシア革命のため命からがら故国に戻ってきたギリシャ人移民の一族の娘を主人公にした、壮大な叙事詩。人類に科せられたありとあらゆる痛みを謡っているかのよう。もうこういう映画を創って下さる方は、きっと地上に何人も残っていないに違いない。アンゲロプロス様、ありがとう。命ある限りついていきます。

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【大いなる休暇】三つ星

医者に常駐してもらわなければ工場を誘致できないという目的はいくら純粋で切実であったとしても、短期の予定でやって来たお医者さんをだまくらかして丸め込むために、あの手この手を弄し、ウソの上にウソを塗り固め、挙句の果てには電話の盗聴まで平気で行うとは……何てヒドい話なんだ。ありえない。私がその医者なら、その事実が判った時点で物も言わずに即効帰るけどな。
これは一応、僻地の離島の人々のほのぼのとした人情を扱ったコメディということになるらしい。お話自体は、いささかステレオタイプでもウェルメイド、後は好みの問題になるのでしょうね。私は全く駄目だったのですが。

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【オーシャンズ12】三星半

前作のカッコいい雰囲気はそのままで、新キャストも加わって新たな展開を見せているのはいいんだけど、どうもストーリーに無理矢理感があるような。前回大々的に盗んだ金を返せと脅迫されるなんて、そんな夢もヘチマもない。他の泥棒さん(ヴァンサン・カッセルはやっぱりカッコいい ! )にそれを立て替えてもらうとか、その決済を小切手で行うとかいうのも、何だかロマンが感じられないし。(泥棒さんというのはすべからく、現金か現物のやりとりのみにしてもらいたいものです。)結局どうしても、続編を作らんがために作られた続編という感じは否めないんじゃなかろうか。

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【オペレッタ狸御殿】四つ星

セットも書き割りみたいだし、リアルなお芝居というよりはまるで紙芝居でも見ているようなヘンな感じ……鈴木清順監督一流の美学の中に、背景なり俳優さんなりを嵌め込んでいくと、一つの帰結としてこういう感じになるのでしょう。でも、清順監督にしてはまだしも一般寄りというか、筋立てもシンプルで分かりやすく、何とミュージカル仕立て( !! )にまでなっているので、慣れてくると段々と面白く感じられるかも。何せ主人公はチャン・ツィイー&オダギリジョーという美男美女のコンビだし(でも今時、王子様って……う~む)、薬師丸ひろ子さんのあのハイトーンの歌声も久々に堪能できるし、平幹二郎さん、由紀さおりさんの怪演も何か凄いことになってるし、これは楽しまない手はないってものです。

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【おわらない物語 アビバの場合】三星半

年齢も人種も性別(!)も異なる8人の俳優がヒロインを務めるというのは【またの日の知華】の少女版みたい ? 親に中絶を強制された12歳の女の子(いかに相手が子供とはいえそれもちょっとどうかと思う)が、赤ちゃんを産むことを諦め切れなくて家出して、なんていうお話なんだけど……。アメリカ社会の性と中絶と倫理を巡る歪みをいろんな面から描き出す、その手法は抜群に上手くて、トッド・ソロンズ監督の才能は重々感じることは出来るんだけど、でも、カワイイから子供が欲しいの一点張りのヒロインのナイーヴさはあまりに非現実的で、それもちょっとどうなのかな。キタナイ大人の意見で申し訳ないけれど、育てる能力のない人に安易に子供が欲しいとか言われても腹が立つばかり。それを“純粋な愛”とか言われても困ってしまうんだけど……。

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【カナリア】四星半

1つだけ引っ掛かるところがある。子供達は、環境がどうあれ何とかしていく強さを確かに持っているものかもしれないけれど、大人がぐちゃぐちゃにした世界を子供達がサバイバっていくというようなストーリーを子供達に演じさせるというのは(【誰も知らない】なんかもそうなんだけど)、この環境をどうすることもできない大人の責任の放棄になってしまったり、子供達に対する過剰な期待や幻想の押し付けになってしまったりしないんだろうか。
それでも、この子供達を、実際に10代である石田法嗣さん、谷村美月さん(二人とも1990年生まれだそうだ。Oh, my goodness !! )が自らの感性と肉体で血肉化して演じ切っているというところを、信じたいのだと思う。でも、信じたい、というのも、所詮こちらの勝手な思い込みに過ぎないような気が……あぁ、ごめんね、情けない大人で。(かつて、彼等と同じくらいの年の頃、私は大人なるものになることを放棄したのだけれど、いつの間にかもうとっくの昔に子供とは呼べない年齢になっていた。閑話休題。)今の私に出来ることは、神様を必要とせず、世の中の表面的な仕組みに身も心も滅ぼすほどに追従し過ぎなくてもいい生き方も出来るんだということを、実践してみせることくらいだ。
この題名は、この映画のモチーフとなった某宗教団体の本部施設の一斉捜索の際に、毒ガス探知のために鳥籠に入れて連れて行かれたカナリアから来ていて、つまりは、子供達が、何かあったら真っ先に影響を被ってしまう最も弱い存在であることを示唆しているのだそうだ。こんな自分が子供達に対してどういうスタンスを取ればいいのかということにしろ、この宗教団体の問題に表れているような諸々の現象に対して自分がどのように考えを表明すればいいのかということにしろ、私の中ではいろんなことが上手く消化できていないので、この映画の感想が上手く書けない。

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【カンフーハッスル】三つ星

その道では大変有名なカンフーの達人の方々にも何人か出演してもらっているみたいだし、チャウ・シンチー様は、この映画ではまず何よりもカンフーを見せたかったんでしょうねぇ。だから、コアなカンフー・ファンの皆様の琴線には触れるものがあるのかもしれないが、それほどでもない私のような人々にはどうなのでしょう。登場人物は現れてはバタバタと死んでいくので話はあんまり膨らまないし、主人公の行動も煮え切らないし、ヒロインの扱いも中途半端だし。カンフー自体に愛を傾けすぎてしまって、設定やストーリーなどはちょっと後回しになってしまった感じ。お話としては【少林サッカー】の方がよくまとまっているかな。期待し過ぎて行くとちと肩透かしを食ってしまうかも。

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【帰郷】三星半

久々に故郷に帰り、昔好きだった女性に再会したと思ったら彼女は行方不明に。残された娘はもしかして俺の子…… ? 【楽園】以来、久々の萩生田宏治監督作品。正直、故郷にも昔のことにもノスタルジアもなんも感じない私向きの話ではないのだけれど、総てを包み込むような監督の目線の中で、西島秀俊さん、片岡礼子さん、守山玲愛ちゃんらが演じる登場人物が生き生きと息づいているのが、好感が持てた。

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【北の零年】二つ星

北海道開拓ものと言えば手塚治虫先生の『シュマリ』をインプリンティングされてしまっている私には、『シュマリ』以下の作品は論外だっていうのもあるんですけども。でもこれはそれ以前に、映画表現としての食い足りなさが、あまりにもお話にならないレベル。まずは、入植の苦労の描写が手ぬる過ぎ。実際はこんなもんじゃなく、もっともっと悲惨で残酷なまでの苦労の連続だったはず。ましてや、今まで武士だった人々が農民になろうというのが基本的に無茶なのだからして……。そんなこんなで死にかけた(吉永)小百合様に差し伸べられた神の助けの手というのがまた、あんまりにも御都合主義過ぎてギャグみたいで。で、エッシー(豊川悦司)がどうもアイヌの人には見えないなぁと思っていたらそんなオチ……ていうか普通気づくだろ。アイヌ人と日本人では、持っている文化も雰囲気も顔つきもまるで違うはずだもの。で、そこまでさんざんイケズだった(渡辺)謙さんが最後はあまりにもあっさり引き下がってしまうのも、来るぞ、来るぞ、と思っていたお馬さん達が本当に戻ってきてしまうのも、ズッこけてしまうような三段オチで、評価は雪崩を打ってだだ滑り。大体、謙さんの行動もどうなのよ。かの時代にはこんなことはありがちだったのかも知れないが、転職するのと夫として妻を裏切るのとはまた別の次元の話で、これで女性観客を納得させることが出来るのかな ? 結局、吉永小百合映画としてこれを見るんじゃない人は、一体どうすればいいのかね。行定勲監督にはこういう映画は無理なのかも、と図らずも証明してしまったみたい。

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【樹の海/JYUKAI】三星半

自殺の名所と言われる富士の青木ヶ原樹海の周辺でうろうろしている人々を描いているというから、昔のATG映画みたいにおどろおどろしいのかと何となく思っていたのだが、中身を観てみるとごく現代的で明快なタッチだったので、ちょっと意外だった。
瀧本智行監督や共同脚本の青島武氏には、自殺をしてはいけないと訴えたかったという意図が根本的にあり、その後、実際に樹海を歩いてみた経験から、生命力に溢れるこの森は実は人間に生きろと言っているのではないか ? という着想を得てこのシナリオを書いたのだそうだ。萩原聖人さん、井川遥さん、池内博之さん、津田寛治さん、塩見三省さんなどの俳優さんによって息を吹き込まれた登場人物は、そんなシナリオの意図を充分に汲み取って丁寧になぞっていたように思われ、好感が持てた。
ただ、“主人公は樹海そのもので、自殺の動機や社会が抱える要因は描かない”(プロダクション・ノートより転載しました)というスタンスは、果たして成功したのだろうか ? 森に癒された人達をいくら描いてみても、その人達を癒す力がある森自体を描けたことにはならないんじゃないのかな。また、自殺を発想してしまうほどの背景、ひいてはその心の痛みを描くことを避けてしまうということは、結局、今生きていることを是とする人間の側からの一方的な“きれいごと”の視点に帰着する結果になってしまいやしなかっただろうか ? 例えばそれで、今、現実に自殺を考えているような人の胸に何かを訴え掛けることができるのだろうか……難しいのではないかと私は思う。
……勝手なことを書いたけど、難しいことを承知でこのような題材を取り上げようとした作者の方々の真摯さは本物だと思う。次の作品をお待ちしております。

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【クライシス・オブ・アメリカ】四星半

これは1962年の【影なき狙撃者】という映画のリメイクなのだそう。私はオリジナルは見ていないのだが、聞くところによると、舞台が朝鮮戦争で、敵が当時の共産圏諸国ということなので、洗脳をテーマにしているのは同じと言っても、全く違った作品になっているんじゃないですかね。何せ、本作の舞台はアメリカ国内で、主人公を洗脳するのはそういうことを研究している国内の大企業、裏で糸を引いているのは、湾岸戦争中のスキャンダルを隠蔽したい軍部や、息子をどうしても大統領にしたい女性上院議員ときたもんだ。
つまり、今の時代の主人公は、どこか外の世界に設定されたほとんど見たこともないような仮想敵国と戦うのではなく、自らが生きている社会のシステムそのものの中に内在する内なる敵と戦わなければならないのだ。こちらの方がよほど逃げ場がなくて救いがないんじゃないだろうか。一応、架空の話のはずなのだが、多少形は違っても実際これに近いくらいのことをやっている人達がどこかにいるんじゃないだろうか ? と思わせるところがそら恐ろしい。それを同じアメリカ人が告発しているという図式がまた凄いんだけど、でも、保守派の人々は、こんな話、絶対認めやしないんだろうなぁ。
デンゼル・ワシントンやメリル・ストリープらの鬼気迫る演技は文句無し。今回初めてお目にかかったリーヴ・シュライバーさんの存在感も、このお話にぴったり。息をもつかせぬ展開でサスペンスとしても一級品。やっぱりジョナサン・デミ監督って素晴らしい !! しかしこれを郊外のシネコンで単館上映だなんて一体どうなってるの、勿体なさ過ぎる !!!!

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【クローサー】四星半

分別もあるが性欲丸出しの部分もあり、誠実な部分もあればキタナイ手も使う、クライヴ・オーウェンの演じた等身大の大人の男のリアルさ。片や、ジュード・ロウの演じた、身勝手でエゴ丸出しで墓穴掘りまくりの三文小説家の男の情けなさ。(この役は、彼の演技力と容姿がなければ成立しなかったに違いない。)片やフラフラしっぱなして煮え切らない一人の女と、一途に愛する一人の女。(役柄的にナタリー・ポートマンの方が有利だったとは思うが、それを凌駕するくらいの存在感をジュリア・ロバーツが出せなかったのはちょっと残念。)4人の男女の織り成す、ギトギト・ドロドロの嵐に、それをやっちゃあオシマイよ、のつるべ打ち。きゃ~たまらん !! これは堪えられません ! ……とまぁ、そういうのにとんとご縁が無くて他人事として鑑賞している私にはひたすら面白かったんですが、見る人が見ればものすご~く痛くて正視に耐えられないということですので、ご鑑賞の際にはくれぐれもご注意下さいませ。

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【恋は五・七・五 ! 】三星半

俳句甲子園 ! そんなものがあったのか。そんな素材を見つけてきたのには一本取られたし、細かなアイディアもいろいろと面白かったのだが、ごちゃごちゃと詰め込み過ぎてしまった結果、キャラクターやストーリーのタッチに統一感がなく、バランスが取れていない出来になってしまった感じ。【バーバー吉野】の荻上直子監督は、こういう企画をとオファーされて、とりあえず二作目を作りたいがために、急ごしらえで作ってみたりなんかしなかっただろうか。ネタが面白いだけに、もっともっと丁寧に練り上げて欲しかった気がする。でもとりあえず、関めぐみさんや細山田隆人さんを中心としたフレッシュな登場人物の面々は、一見の価値はあるかもしれない。

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【交渉人 真下正義】四つ星

スピンオフ企画の話を最初に聞いた時には安易だなぁと思ったのだが、既にある人気に溺れてしまわずにいろいろと新しいことにチャレンジしようという意欲を持って作っているのは、【踊る大走査線】シリーズのスタッフの偉いところだと思う。日本初のネゴシエーターとなった真下君がネゴシエーターとして上手かったのか下手だったのか最後までよく分からなかったし、地下鉄パニックを銘打つのなら最後まで地下鉄でまとめて欲しかったような気もするし、内輪受けギャグの演出がところどころ野暮ったいのは相変わらずな気がする。でも、パニック映画として観客を引っ張っていく一定の力はあると思われるので、やはり一定の評価には値するのではないかと思う。一瞬煮え切らないクライマックスのような気もしたのだけれど、今時ならこういう犯人像の方が正確なのかもしれず、こういうところも野心的な試みに思えたのだけれど、どんなものだろうか。

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【コーヒー&シガレッツ】四つ星

長年撮り溜めたという、コーヒーとタバコのある1幕劇のアンソロジー。良くも悪くも、百年一日のジャームッシュ節。ま、ジャームッシュがお好きな人なら、楽しめるんじゃないんでしょうか。カンヌのコンペで何か賞をもらったという次回作の【ブロークン・フラワーズ】に期待しよう。

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【コーラス】四つ星

これもベタといえばベタな話で、展開はほぼ完全に予想通りだったりするのだけれど、屋台骨がしっかりした作りだし、何せ子供達がいいので、楽しめる作品だと思います。あまり幸福とは言えない生い立ちの少年達が、皆、意外な程にナイーブでスレていないのが印象的(結局放校になってしまう問題児でさえ)。昔の子供ってそんなんだったんかなぁ……。ラストのシーンで明らかになるちょっとした仕掛けが素敵だった。

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【コンスタンティン】三つ星

これは最近よくあるアメコミの映画化らしいのだが、独自の宗教感をベースにしたモチーフなど、原作を読んだことの無い人には分かりづらい複雑な設定が多くて、私のような門外漢の人間にはついていくのが難しいような気がしたのだが……。アメコミの世界もいろいろあるんだなーということはもうかなり勉強させてもらったし、どハデなCG映像というのももう大概ワンパタ化してきた印象があるので、よっぽどのアイディアがあるんじゃない限り、そろそろ打ち止めにした方がよろしいんじゃないんでしょうか。

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【最後の恋のはじめ方】四つ星

アクション映画では分かりにくいかもしれないけれど、ウィル・スミスという人は、本当は演技が抜群に上手い人なのである。そんな彼の資質は、実はこういったライト・コメディでこそ発揮できるのではないだろうか。その中でも、いっそ潔く本作のようなロマンチック・コメディを選んだというのは、やっぱりセンスがいいんじゃないのかな。彼の演じる主人公は、デート・コンサルタント業なんて一見軽そうな職業を営んでいるけれど、その動機は意外にマジメで誠実、なかなか好感を持たれるキャラクターに造形しているのがまずは技アリ。他人とある程度の距離を置きガードを固くせざるを得ない現代人は、恋愛もきっかけのつかみ方こそが難しい、という主張も、なかなか真理を突いているんじゃないか。味のある脇キャラの設定もあってお話も飽きさせない。これはなかなか楽しめる一本になっているのではないだろうか。

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【サイドウェイ】四星半

日本でも“勝ち組”“負け組”という言葉がすっかり定着してしまったが、元祖・“勝ち組”しか存在が認められないアメリカのような社会において、“負け組”を堂々とフィーチャーした本作のような作品が、曲がりなりにもアカデミー賞の主要部門にノミネートされるくらいの市民権を得るというのは、一体どういう時代の趨勢なのだろう……というか、本当はみんな分かっているのよね。勝ち続けてばかりいられるような人ってほんの一握りで、そんな人達の話なんて聞いたところで、自分の人生には何の参考にもならないっていうことに……。
小説家志望だがいま一つパッとせず、妻には離婚され、自分は駄目なヤツだと決め付けている内向的なワインおたくの中年男性(ポール・ジアマッティ)が、結婚直前の親友(トーマス・ヘイデン・チャーチ)と旅に出る。最後に羽目を外して女の子とよろしく楽しもう ! と考えているおバカな親友は、昔はそこそこ売れていた俳優だったが、今は妻の実家の事業を手伝うことを考えていたりする。タイプは違えどダメダメ中年男である二人組。この二人のトホホーな道行きを、同情しすぎることもなく、さりとて突き放し過ぎることもなく、ユーモアたっぷりに描いている。二人がそれぞれに抱える、自分は何一つ成し遂げていない、という焦燥感が……あーなんかもの凄くリアルかもしれない。人間、年を取りたくなくてあがいてしまうのは、人生に何かやり残したことがあるような気がどこかでしているから、ということが最近になってきてよ~く分かってきたのですよ。(この感覚は、多分、若い人には分からないんじゃないかと思う。)アレクサンダー・ペイン監督は、年の頃は私とあまり変わらないと思うのだが、原作つきとはいえどうしてこんな人生を達観しきったようなお話を描けてしまうのでしょう。不思議だわ。

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【ザ・インタープリター】四つ星

ある通訳者が殺人計画を聞いてしまったが、彼女の身辺を警護する刑事はその言動がどうも怪しいと睨む。結局彼女は、ウソはついていなかったけど、本当のことをいくつか隠していましたという訳。ポリティカル・サスペンスと銘打っていても、架空の国の話になるので政治的にそれほど深い言及があったりする訳ではないんだけど、バランスよく、見やすく、そこそこよく出来ているのではないかと思う。ただ、タイトルにも銘打っている国連嘱託の同時通訳者という設定がそれほど生かされていないのがような気がするのは少し残念だったかな。あと、ショーン・ペンの演技がなんだかパターン化されてきているような気がしてしまったのは私だけ ?

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【サマリア】二星半

とにかく、ヒロインの取る行動が全く理解不能。死んだ親友が売春をしていたからって、何で自分も売春をせにゃならんの。父親も、娘の後つけて相手の男殴ってるヒマがあったら、さっさと娘を取り押さえてやめさせろよ !! キム・ギドク監督って、確かに個性や表現力はあるとは思うんだけど、やっぱり私はダメだ。体質に合わない。彼は多分、女性なるものに対して過剰な意味づけや特別視をし過ぎているんじゃないのかな。申し訳ないけど、そういうのは古くさいと思うし、30年前ならいざ知らず、今の時代にそんなATGな映画をまんまストレートに作られても困ってしまうんだけれども。

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【さよなら、さよならハリウッド】四つ星

かつては名匠と呼ばれていた落ち目の映画監督が、自分を捨てた元妻がプロデュースする映画を監督することになってしまい、更に、諸々のプレッシャーからか急に目が見えなくなってしまい……。これでどうやってハッピーエンドになる訳 ? というところを強引な展開で無理矢理押し切るのがいかにもハリウッド的だろう、というのがウッディ・アレン一流の皮肉なのかしら ? 御本人が演じる超神経質な映画監督役の過剰なまでの喋りが鬱陶しく感じられるところもあるし、そんなアホな ! と叫びたくなるような馬鹿馬鹿しい展開のオンパレードなんだけど、そのくだらなさに脱力しつつも笑ってしまうんだよねー。

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【Jam Films S】三星半

【Jam Films】シリーズで、今度はこれから売り出す新人監督さんをフィーチャー。監督さん達が無名な分、俳優さんを豪華にしようというのは、宣伝戦略としては賢いかも。私は、高津隆一監督の『HEAVEN SENT』が凄く好きで、これが1本あるだけでもこのオムニバスを観た価値はあったと思った。乙葉ちゃんの悪魔もイケてるし、遠憲さんも超かっけー !! 一歩滑ったら悲惨になりそうな設定をよく撮り切ったと思う。他には『すべり台』や『スーツ -suit-』などもなかなか好きだった。気軽な気持ちで見てみると割と楽しめるんじゃないかな。

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【Shall we Dance?<シャル・ウィ・ダンス ? >】三星半

当初の脚本では、リチャード・ギアとジェニファー・ロペスのベッドシーンもあったとか聞いとりますが、私が想像するに、当初はハリウッド版独特の色をもっとはっきりとつけようとする向きもあったのが、製作サイドからいろいろな横槍があって、結局、オリジナル版にごく近い形に軌道修正されたんじゃないんでしょうか。(はっきりと変わったのは主人公の奥さんが自分も仕事を持っている設定になったことくらい。)だから、どうしてこれを敢えて作る必要があったのかな ? と思うくらいにオリジナル版と似通った出来でありながら、ところどころ、オリジナルと変えようとした部分が中途半端に残っているのが見て取れて、どうにも奇妙な感じがする。
それでも何とか見てられるというのは、つくづく、オリジナルの出来がよかったってことなんじゃないのかなーと、そんなことばかり思いながら見てました。ま、リチャード・ギアのファンの方にはよろしいのではないかと思いますが、私のように、役所広司の方が好きだというような人なら、敢えて見に行く必要性はほとんどないんじゃないんでしょうか。

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【スカーレットレター】四つ星

ラスト15分のハン・ソッキュの狂気を見るだけでも、この映画を見る価値がある。人間の醜くて嫌~な部分を真正面からしっかりと描いていて、それでも何か不思議な透明感がある印象を残すのは、お亡くなりになったイ・ウンジュさんの存在感によるところが大きいのかもしれない。韓国映画界のみならず、世界の映画界にとって、本当に惜しい方を失ってしまったような気がする……合掌。

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【スパイ・バウンド】三星半

時に重大な結果を招くとしても、スパイのやってることの1つ1つって、実際は案外地味だったりする。(でもその実行には相当な習熟を必要とするんだけど……。)そこがこの映画が大人しく映る理由のような気がするが、でもそこがリアルでいいんじゃない。少なくとも私にとっては、007などよりよっぽどこちらの方が面白いんだけど。モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルのカップルはやっぱり好きだなぁ。そういえば、別れるとか言ってた話はどうなったのよ ? (その後、子供も生まれてるし。ああマスコミって無責任。)

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【ソン・フレール 兄との約束】四星半

時に、好きとか嫌いとかそういうものを越えて関わらざるを得ない、肉親という絆。憎しみというのは愛の対義語ではなく、類義語だったりする。なんだか、プライベートなことばかり思い出してしまった。この映画ばかりは、肉親が入院して亡くなる、という経験をしたことがある人でなければ分かりにくいところがあるかもしれない。

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【大統領の理髪師】四つ星

「1960年代から70年代末までの20年間にわたる朴正煕軍事独裁政権時代を庶民の視点から描いた映画」、なのだそうです。成程。近くて遠い国・韓国の、日本人には馴染みの薄い民主化以前の時代の空気感と、平々凡々な一人の男(またしてもソン・ガンホさんの名演)の家族史とが実に見事に絡み合っている。イム・チャンサン監督は、本作が初めての長編作品なのだそうだ。信じられない完成度。

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【TAXI NY】二つ星

リュック・ベッソン・プロデュースのジャンクな映画群の中では、【TAXI】のシリーズは、いっそ行き着くところまで行ってしまっている爽快感が好きだった。これをハリウッドでリメイクするにあたり、主人公を女性に、しかもあの(クィーン・)ラティファ姐さんにしてみるというのは結構いいアイディアじゃないかと思ったんだが……。オリジナルは、もの凄いスピードで暴走するタクシーそのものを一番の主役に据えていたからよかったんだよね。これを、中途半端にストーリー寄りにシフトさせてしまったものだから(大体、大したお話でもないのに)、面白さがすっかり半減してしまっている。取ってつけたようなカーチェイスも、まるでそこだけ別の映画みたいに浮いてしまっていて、全然ドキドキしない。オリジナルのなけなしの良さを殺してしまってどうする。悪しきリメイクの見本みたいな作品。

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【タッチ・オブ・スパイス】四つ星

1950年代にトルコのイスタンブールに住んでいて、その後、情勢の悪化によりギリシャに戻ることを余儀なくされたギリシャ人一家の男の子と、その周辺の人々の物語。まるで魔法に満ちているような、甘やかで魅力的な子供の頃の記憶とは裏腹に、その後の一家が辿った道は相当に険しかった。そのドラマの流れがとてもしっかり語られていて、見応えは充分。全編、トルコ語とギリシャ語の違いがさっぱり分からなかったのだが(そこのところ結構重要だと思うんですが、字幕で工夫してもらうとかできなかったのかな ? )、大人になった主人公が、再会した初恋の幼馴染と英語で会話しているのだけは分かった……最早、お互いの言葉が喋れなくなっていたのね(悲)。
歴史背景も含め、日本の人には感覚的に分かりづらい部分もいろいろあるかもしれないと思ったのだが、私が一番ありゃと思ったのが、料理が天才的に上手かった主人公の男の子が料理を禁止されてしまう辺りだ。今の日本で、7歳の息子が母親より料理が上手いとなると、とりあえずは小学生料理選手権にでも出場させ、ゆくゆくは料理人にでもなってもらうべくめいっぱい応援することだろう……。これは、いわゆる愛国心を証明するために、息子には男の子らしい遊びや行動を強制しなければならなかった、という背景から起こったことらしい。マッチョイズムと愛国心が分かちがたく結びついているんですね。なんかそういうのはイヤだなぁ。

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【ダニー・ザ・ドッグ】三つ星

出演するだけでどんな映画でもワンランクグレードアップさせてしまうモーガン・フリーマンさんって本当に凄いと思う。そんなモーガン・フリーマンの家族と、孤独な一匹狼のジェット・リーとの交流を中心に描く本作は、確かにここ何作かのジェット・リー映画よりは少しはいいかもしれないけど……やっぱりストーリー性とアクション性とのバランスが今イチだった気が。アクション映画って難しいですね。

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【チャレンジ・キッズ】四つ星

日本に漢字検定があるように、アメリカにもSpelling Beeという単語のスペルを暗記するコンテストがあるらしい。ただしこちらは子供限定の、全国規模で開催されるトーナメントで、決勝戦の様子はTV中継されるほどポピュラーなものなのだそうな。(そういえば昔、スヌーピーのアニメで、チャーリー・ブラウンがこんなふうな大会に出てるのを見たことがあるような気がする。)本編は、ある年のSpelling Beeの様子を密着取材したもの。親子ともども眼の色を変えて一丸となってコンテストに取り組む姿には鬼気迫るものすらあり、最初は正直、確かに凄いことだけどスペルが出来たからってそれが何になるのよ、という気持ちが起こってこない訳ではなかった。ただ、大部分の親は、これを子供の人生の最初の試練の一つとして捉えているようで、この苦労を乗り越えられればこの先何があっても乗り越えていけるだろうと考えて応援しているようだったので、ほっとした。このSpelling Beeで優勝することは非常に名誉なこととされており、社会でのステイタス向上と直結しているためか、上位入賞者のエスニック・バックグラウンドは非常にバラエティに富んでいて、これにも感銘を受けた。何かまたアメリカの違った側面が見えてくると思うので、機会があったらご覧になって戴けるといいんじゃないかと思う。ただ、この気が抜けたような邦題だけは何とかならなかったのか……せっかく【Spellbound】(スペルの虜:スペルには魔法の呪文という意味もある)って素敵な原題があるというのに。

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【DEMONLOVER】四つ星

面白かった……ような気もするんだけど、よく分かんなかった……ような気もする……。産業スパイを巡る話、らしいんだけど、めっきり犯罪な行為とか、ポルノとか拷問とかアングラサイトとか絡んできたり……。何たって、オリヴィエ・アサイヤス監督の筋金入りのフランス映画だもんなー。明確なストーリー展開より、ひんやり冷たくてクールだけど、どこか後ろ暗くて湿り気のある空気感を楽しむべきなんだろうな。でもこれ、大森南朋さんが出てなくて日本が映っていなかったら、果たして公開されたのかしら……。
シャルル・ベルリングが太ったおじさんになっていたのがかなりショックだった……(最初、分かんなかったです……)。

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【鉄人28号】四つ星

今の時代にこれを作らせようとした製作サイドの意図は正直言ってよくわからないのだが、作るということを前提にして考えるならば、この映画はほぼベストに近い出来栄えなのではないだろうか。今時にはちょっとレトロな鉄人の存在を、戦時中に密かに開発されていたロボットとしたのはうまい ! と思ったし、科学的整合性はともかくとして、ああいうどでかいロボットでテロを仕掛けられたら確かにどうしようもなく、こちらも大きなロボットで対抗するしかないというのはありかなと思ったのだが。で、同じ大きなロボットの話なら、例えばパトレイバーみたいなのと似たようなもんを作ったってしょうがないじゃない ? 世間一般のロボットものの常識とはちょっと違うところを行っているのがいいんですよ。例えば、鉄人の動きがスロー過ぎる、とか批判する人もいるけど、私はむしろ、あのいかにも鉄々した重量感が、かえって味わい深いと思ったのだけれども。
ストーリーは、お母さんが働いて支えているごく普通の母子家庭の描写から入って行ったので(この薬師丸ひろ子さんがまた良かったのね)、その後続々と明らかになるちょっと奇矯な設定なども、割とすんなりと受け止められたのだが。主役の池松壮亮君や、蒼井優さんも頑張っていた一方、伊武雅刀さんや柄本明さん、香川照之さんなどのおじ様方も、それこそマンガチックなキャラをいい味出して演じていたし。昔の空想科学漫画のテイストと、今の時代の在り様と、ちょっと懐かしいような優しい手触りとのマッチングが絶妙で、さすがは富樫森監督、と私は絶賛したい気持ちでいっぱいだったのですが……まぁいいや。誰が支持しなくても、私は支持するもんね。

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【電車男】四つ星

【リング】や【黄泉がえり】の時のような、ちょっと異様なまでの混み方と、観客の反応の良さからすると、この映画もかなりヒットするんじゃないかとは思ったが。これだけウケているというのは、もともとこのお話自体に吸引力があるからなのだろうが、タイミングを逃さないスピードであっという間に映画やらドラマやらを作り上げて提示して(お金を儲けて)みせる手腕はもの凄いものだなぁと、半分あきれつつも感心してしまった。中身もまぁ面白かったですよ。オタクの人を主人公として真正面から描いてみせるというのは結構画期的だったかもしれず、山田孝之さんの見事なハマリ方には拍手を送っておきたい。ただし、中谷美紀さんの演じるヒロインのエルメスさんは、菩薩の如くおおらかで優しい包容力があるというよりは、最初から主人公を手のひらの上でいいように転がしているように見えなくもないような気もするんですけれど……。

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【天上草原】四つ星

モンゴルの広い広い空と大地の下では、人間のどんな愚かな営みですら神々しく見えてしまうのかもしれない。正にタイトルそのまんまの直球ストレート勝負な映画、他にはもう何にも要りません !!

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【ドッジボール】四つ星

今回、“残念ながら”ベン・スティラー様は主役じゃない、てな紹介記事をいくつか読んだんですけれど……一見主役のヴィンス・ヴォーンさん(どうもこの人は凡庸という印象が抜けてくれない)は、正義が必ず勝つハリウッドの黄金パターンを踏襲するためのお飾りに過ぎないんじゃないんですかね。実はコレは、ベン様のトゥー・マッチな悪役キャラこそを堪能するための映画でしょう !! 彼のあんまりにも気持ち悪いアホキャラ加減を、ワタクシはゲラゲラ笑いながら見てしまいましたが、これこそ本当に好き好きだと思うので、【ズーランダー】に大爆笑したという方々以外は、話半分にご参考にしてみて下さい。

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【トニー滝谷】三星半

「♪さいざ~んす、さいざ~んす……」のトニー谷、ではなく、トニー滝谷さんなのね……失礼シマシタ。本来、こういうぼそぼそ独白する系の映画はあまり好きじゃないんだけど、人づき合いは多少悪くても、一人きりでもちゃんと御飯を作って食べ、整理整頓し、規則正しく生活してきちんと生きてきた主人公の、人間としての佇まいは美しいと思った。そんな彼が、唯一愛した人を失ってしまい、今まで以上に孤独になって、それでもまた他者と関わり合おうとし始める姿、その端正な描写は興味深いと思う。多分、こんな映画は市川準監督じゃなきゃ撮れないし、こんな役柄はイッセー尾形さんじゃなきゃ演じられない。
それでも何だかやっぱりイマイチの印象を持ってしまったのは、おそらく、ありがちな感じの音楽がどうも気に入らなかったから。一体誰がやっているのよ ? と思ったら、何と坂本龍一だった。う~ん、こりゃよっぽどのやっつけ仕事なのか、それとも……(自主規制)。音楽を鳴らし過ぎていて、バックの音との重なり方が耳障りだと感じられるような箇所があったのも戴けない。

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【9 Songs】三星半

ほとんど全編、別れが近づいてきているある若者カップルのセックスの様子を延々映し出しているのみ。ここに、現代の殺伐とした人間関係を見出して涙にくれるべきなんだろうけれど……個人的に、そういう関係を今は敢えて見たくはないというか。他者なる存在との絶対的な断絶というものを乗り越えてもっと暖かい関係性を構築できる可能性を信じたい今日この頃なもので……。

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【ネオ・ファンタジア】三星半

イタリアのブルーノ・ボツェットという監督さんが、ディズニーの【ファンタジア】を意識して手掛けたのが本作だったのだそうな。おかしいけれど何だかシュールな実写の部分と、限りないイマジネーションに溢れたアニメーションの部分の波状攻撃。何だかよく分かんないけれども、楽しい気分がする。

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【ネバーランド】四つ星

夢とは、現実を乗り越えるために人間がどうしても見なければならないもの。このテーゼをまんま形にしたような映画。ピーター・パンの作者ジョン・バリーと、彼と関わり合いになる未亡人とその子供たちを描いた脚本がとにかくよく出来ている。数あるジョニー・デップ出演作でも、ドラマとしての完成度ではベストに近い1本なのではあるまいか。それにしても、ケイト・ウィンスレットって、出演作をよく吟味しているなー。この人は、もの凄く賢い人なのかもしれない。

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【ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ】三星半

分かってしまえばごく古典的なネタなのだが、こういう展開を予想していなかったので、しまったー ! ヤラレター ! 感を強く感じてしまった。でも、展開が読める人にはさほど斬新とは感じられないかもしれませんね。まぁ、ダコタ・ファニングが下手だったら成立しない映画かもしれませんので、その辺りで見て戴くのもいいかと思います。

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【肌の隙間】四星半

瀬々敬久監督の作品は大抵好きだけど、これは、一番最初に【雷魚】とか【汚れた女】とかを観た時以来の衝撃かもしれない !! 人間の性、ひいては人間の性質そのものに対する、まるで昆虫みたいに無機質で正確無比な観察眼にはつくづく恐れ入る。(毎度思うが、ピンク映画の枠組で創られた映画といっても、これでエッチな気分になれる人はほとんどいらっしゃらないのではないだろうか……。)瀬々監督はかなりの数の一般映画も手掛けていらっしゃるし、その気になれば、もう少し大きな予算が動かせるはずのそういう路線の中だけでやっていく道も不可能ではないと思われるのだが、監督は、ピンク映画でしか表現できない何かを手放すつもりなどないのだろう。今の日本で、どうしようもなく作家である数少ない映画監督の一人なのだと思う。【花と蛇2】でも気を吐いていた不二子さんの、華奢だけど不思議な力強さがある独特の存在感にも注目。

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【パッチギ ! 】四星半

朝鮮半島の祖国統一を願う気持ちを歌った名曲『イムジン河』に出会って感動し、ついでに在日コリアンの女の子に恋をした日本人の男の子を主人公にした物語。当時の世相をバックに(『イムジン河』が発禁になったのは1968年だそうな)、この男の子がこの曲に寄せる思いや、在日コリアンと日本人の間の溝や絆、エネルギーを持て余す少年達のケンカや友情、恋などを生き生きと活写し、勢いとリリシズムに溢れたドラマとして結実させているのが見事。厳しい現実を乗り越えていけるのは愛だけだって、陳腐なようでも、やっぱり真理なのかもしれない。井筒(和幸)監督の作品は、嵌まる時は本当に嵌まる。最高傑作、という謳い文句は、決して伊達ではないかも。

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【バッド・エデュケーション】四つ星

金銭欲とか名誉欲とか、愛欲とか、自分の映画に対する欲とかいった、欲得づくの人間ばかりがサスペンスフルに繰り広げる欲望の絵巻。なので、ここ何作かのアルモドバル監督作品に較べて、あまり愛や慈しみの感情が感じられなかったのが、感情的に盛り上がれず、今ひとつ物足りないような気がしてしまった原因かしら。でももしかして、ホモセクシュアルの人にはグッとくる映像満載なのでしょうか……。今回、後ろ半身ヌードに女装まで披露してみせたガエル・ガルシア・ベルナル君の俳優根性には脱帽。主人公の映画監督役のフェレ・マルチネスさんも芸歴長い人らしいけど、【テシス】や【アナとオットー】に出ていた人なんですってぇ ? ……全然分からんかった。
スペインのカトリック教会といえば、その昔、カトリック教会系の学校に行っていたルイス・ブニュエル様がその実体に嫌気がさしてすっかり信仰心を失ってしまった話というのを読んだことがあるのだが……。おととしの【マグダレンの祈り】もアイルランドのカトリック教会内のスキャンダルを描いた映画だったが、現在でも、アメリカなどのカトリック教会での子供への性的虐待のニュースをたまに耳にすることがある。なんかそういうのって、昔から変わらずにあるってことなのかなぁ……。

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【バットマン・ビギンズ】四つ星

ティム・バートン監督による【バットマン】はシリーズの色を決定づけてしまうほどユニークなものだったが、これはその流れを踏襲しつつ、あくまでも正統派でシブ好みにまとめた前日談。クリスチャン・ベール、リーアム・ニーソン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、トム・ウィルキンソンと、まるで狙いすましたように私好みの人ばかりが集められた俳優陣、みんな超かっけー !! (ご存知の通り、渡辺謙さんも出ています。)お話も澱みなく進み、ハラハラドキドキを堪能しつつ、アクションもしっかり楽しめる ! ティム・バートン監督作以外では、おそらくシリーズ中、随一の出来。さすがはクリストファー・ノーラン監督、やることにソツがない。

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【花と蛇2 パリ/静子】四つ星

杉本彩さんがデビューした当時も似たような年回りのアイドルさんはたっくさんいた訳で、私は正直、特に突出した売りがある訳ではない彼女がこの年まで生き残れるとは思っていなかった。彼女は演技がもの凄く上手いという訳でもないし、昔の私ならこれを評価するということはなかったかもしれないが、30代後半にしてこのプロポーションを維持していることも含めたこの開き直り方は、それだけで充分な芸と言えるのかもしれないと思うようになった。話の理不尽さは中学生の妄想レベルだし(……でも中学生ではここまで込み入った想像は出来ないか)矛盾だらけのように思われるのだが、そんな細かいことは吹き飛ばしてしまうような迫力にとにかく圧倒される。エンケンさんや不二子さん、宍戸錠御大などの存在感もいい。石井隆監督のご健在ぶりが確認できたようで、それだけで何よりだ。

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【PTU】三星半

ジョニー・トゥ監督の作品には、従来の香港映画の印象とは一味違ったフィルム・ノワールのシブさが溢れている。でも本作は、主人公とも言うべき拳銃を失くした刑事の役柄(内緒で探そうとして周りに迷惑をかけまくるなんてどうかしている、その間に犯罪に使われてしまったらどーすんのよ ! )と、それを演じている俳優さん(どうも彼だけには、旧来の香港の俳優さんにありがちだった型に嵌まったクサさを感じる)が、どうも私の好みには合わなくて、今一つの印象になってしまった。

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【陽のあたる場所から】三星半

エロディ・ブシェーズがやっといい映画に出てくれたのがとにかく嬉しいかも。(いつの間にダフト・パンクの人と結婚していたの ! びっくり !! )共依存、なんて難しい言葉の解釈は私にはよく分からなかったけど、二人して一緒にいられた時間の記憶があればこそ、二人共、これから先も何とかしていける可能性があるんだろうと思った。患者さん役の女性、ディッダ・ヨンスドッティルさんはアイスランドの詩人の方なんだそうで、その独特の存在感もまた印象に残った。

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【火火】四つ星

信楽焼の古代穴窯や自然釉を独力で復活させ、後には日本の骨髄バンク設立に尽力した陶芸家・神山清子さんの実話をベースにした物語。陶芸家としての苦難に満ちた試行錯誤の部分は割とあっさり終わってしまい、白血病になってしまった息子さんのために奔走する母親としての姿ばかりがクローズアップされていたのがちょっとだけ不満だったけど、それでも、鋼の意志を持ち、息子が「死にたい…」と言えば「死ねば ! 」と返すような強烈な性格のおばさんが、表面ではどんな言動をしていても、想像もつかないほど深く深く息子のことを思っているのが痛いほど伝わってきた。ただのお涙頂戴ものとは一線を画した凄い迫力。田中裕子さんの迫真の演技もさることながら(火の前に四六時中座っている陶芸家にしてはお肌がきれいすぎるような気もしたけれど……)、本作で初めてお目に掛かった息子役の窪塚俊介さんもなかなかよかったですね。
あと余談ですが、白血病患者の闘病生活を順を追ってかなり詳細に描写しているのはいいんじゃないかと思った。今までの映画やドラマでは、白血病を“不治の病”として何かロマンチックっぽく、キレイキレイにしか描写していないのが、常々不満だったのよ。闘病生活というものはすべからく、吐くわ血は出るわ下痢するわ×××……で、そりゃあもう大変なものでございますわよ。

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【ピンクリボン】三星半

ロマンポルノってピンク映画の範疇に入れないものなの ? そんなことすら知らなかったワタシには、ピンク映画に関しての貴重な証言をたくさん集めた本作はお勉強になることも多かった。けれど、すべてを網羅して検証したというよりは、聞ける人に話を聞いてまとめてみましたという印象が多少残ってしまったかも ?

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【female<フィーメイル>】三つ星

そもそも“女性なるもの”なんてテーマの設定の仕方に古くささを感じるので、監督の面子を見ていなかったら絶対見に来てなかったんだけど、のっけのセクスゥィー・ダンスの映像と篠原哲雄監督の1本(姫野カオルコさん原作の『桃』)を見た時点で本気で帰ろうかと思いましたね。いや、それぞれの作品が悪いというのではない。それぞれ、違う場面で見る機会があれば面白いものだったんじゃないかなぁと思う。ただ、こういう並べ方をされてしまうとね。なんか、女性性の定義の仕方がもの凄く限定されたものに見えてしまうので、凄く嫌だなぁと思った訳です。
ところが、2本目の『太陽のみえる場所まで』(室井佑月さん原作・廣木隆一監督)は、タクシー運転手と客と強盗(みんな女性)のシチュエーション・コメディ。ありゃ、何だか全然毛色が違う。この短編自体はすこぶる面白いものだったのだけれど……今までの流れとは水と油という感じ。これは一体何なんだ ?
他の1本1本も、それ自体は質が高くて見応えがあるものばかりではあった。3/4以上がセックスのシーンじゃないかというようなエッチな内容の中に一瞬切なさがかいま見える唯川恵さん原作・松尾スズキ監督の『夜の舌先』、短編ならではのテーマの捉え方が見事だと思った乃南アサさん原作・西川美和監督の『女神のかかと』(こういう話ってこれ以上膨らませようがないから、長編では無理だと思うのね)、中高年のギトギトのエロスの描写が目を惹いた小池真理子さん原作・塚本晋也監督の『玉虫』(監督は今後、こういうものを描きたい心づもりがあるのではないかしら ? )などなど。でも、全部を終わったところで思い返してみると、これは全体として一体どういう映画だったのかということが、ますますよく分からなくなってしまった。女性のセックスやエロスがテーマなのかと思いきや、必ずしもそうとも言い切れない。その辺りのテーマの設定の仕方が実に曖昧でいい加減で、そこをうまくまとめきるだけのセンスも無かったため、まとめてパッケージングするとすっかり台無しになってしまっている……。これでは作家に失礼でしょう。実に勿体ない。
これは実は以前から【Jam Films】の企画に見え隠れしていた欠点なんじゃないだろうかと思う。プロデュース・サイドは今一度、安易な寄せ集めではオムニバスは作れないっていうことを、肝に銘じるべきなんじゃないのだろうか。

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【復讐者に憐れみを】四つ星

あっと言うほどに過激で残酷。【オールド・ボーイ】を先に観ていなければ、もしかしたら刺激が強すぎたかもしれない……。男の子の耳が聞こえない、という設定が効果的に使われており、特に、彼の後ろで女の子が流されていくシーンなどは、本気で鳥肌が立った。復讐心のあまり鬼畜と化していくソン・ガンホがまた救われない。こんなヒドい話なのに、時々妙なユーモアが共存していたりするのがまたヘンな感じ。パク・チャヌク監督はもしかして、今のアジア圏でも1、2を争えるほどのもの凄い才能の持ち主なのかもしれない、と改めて感じた。

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【Bridget<ブリジット>】四つ星

アルコールに溺れる人には共感できない体質なため、ブリジットさんの生き方にはさほど共感できないような気がするのだが、それでも、ヒロインを演じるアンナ・トムソンさんのコケティッシュな存在感はどうにも魅力的に映る。アンナさんの体調の関係で、アモス・コレック監督とのコンビも本作で最後になりそうとのことなのだが、それは勿体ないような。
ちなみにこれは、【ブリジット・ジョーンズの日記】とは縁もゆかりも無い作品ですので御注意を !

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【ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12ヶ月】三つ星

私はブリジットのキャラがあまり好きではないようで、前作も世間一般並みの好感を抱くことは出来なかったから、それほど期待はせずに見に行ったのね。そしたらかえって楽しめたのかも知れない。彼女のいいところも描かれているんだなぁ、などと余裕こいて見ていられたから。彼女がどうしてそこまでホレられるのか、ということにやはりあまり説明はないような気がするし、浮気騒動のオチもなんやねん、という感じだし、話を無理矢理繋ぐために余計な枝葉をいっぱいつけてみました、というゴテゴテ感は否めないけれど、ま、そこらあたりは娯楽作として割り切ればいいんじゃないでしょうか。これだけ徹頭徹尾コメディエンヌをやってのけられるレニー・ゼルヴィガーはやっぱり凄いと思ったし。

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【故郷<ふるさと>の香り】四つ星

後から考えれば考えるほど、この主人公の男って……腹が立って仕方がない ! 木綿のハンカチーフよろしく(古いな)都会に行って彼女のことを顧みなくなったのはいいとしても、その後の彼女の人生や彼女の選んだ結婚相手(今回、中国人俳優にしか見えない香川照之さんの名演)をあーだこーだと批評してみたり、かと思えば、自分の持ち込んだ都会の文物を「田舎にはこんなにいいもんはないだろう」と言わんばかりに押し付けてみたり……無神経極まりないったらありゃしない ! ……なんてことを、観ている最中はあまり感じず、流れのままにするするっと乗っけられていたということに、後になってから気がついた。
かつて都会に憧れた彼女は、もしかしたら都会の発展に取り残されていく農村の象徴であるのかもしれず、無意識であるとはいえ傍若無人なまでに田舎を見下している主人公は、経済発展に取り残されていく田舎を省みない(あるいは自分に都合のいいところしか目に映らない)都会そのものの象徴なのかもしれない。でも、そんな主人公を特に悪い人として描いていないのには、監督の何らかの意図があるのかもしれない。
私が一番心を動かされたのは、自分はここで生きるべきだ、この人と一緒になるべきだということに彼女が思い至ったのであろうシーン。また、彼女を美しく見せるシーンと、くたびれたふうに見せるシーンとの描き分けが素晴らしい。すすきの穂、蚕のための編み藁、水がめに漬けた野菜の赤や緑、夕食を作る暖炉から立ち上る柔らかな湯気の質感、ガラス瓶の水に漬けられた色鮮やかなキャンディーの包み紙。繊細な映像がすこぶる美しく、何度もどきっとさせられた。いろいろ書いたけれど、基本的には本作は、丁寧に創られたとても素晴らしい映画だと思う。……でもこの邦題だけは何とかして欲しかったな。

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【プロジェクトY ゆふいん after X】三星半

東京で暮らしていると、今、地方自治が大変なことになっているということがどうも見えにくい。本作は、温泉保養地として有名な湯布院で行われた町議会議員選挙において立候補した30代の若い候補者3人を中心に描いたドキュメンタリーなのだが、地域活性化のモデルとしては相当な成功例であろうと思われる湯布院ですら、合併問題なども含めたこれからの地方自治運営や、生活の基盤作りなどの様々な問題に対して、住民の皆さんが相当切羽詰った危機感を抱えている、ということが伝わってきた。映画業界では知る人ぞ知る湯布院映画祭に携わってきたという監督の楢本皓さんは、本作の製作当時22歳(!)だったのだそうだが、そのためか、どうしても若い人ならではの視点が中心になってしまっているのは否めず、もっといろんな年代層の様々な視点が多面的に語られていると更によかったかなぁという気がしないでもない。が、そうした発展途上の面も内包しながら、とにかくこういった映画が成立したという事実自体が、とても貴重なことのように思える。「地方自治は民主主義の学校」というけれど、日本の民主主義は、近年にようやくなって少しずつ端緒に着き始めたばかりだから、日本全国でこんな映画ができるくらいの勢いがあるといいのだろうけど。

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【ボーン・スプレマシー】四つ星

主人公と彼女との掛け合いで話が進んで行った前作と違い、彼女が冒頭であっちゅう間に死んでしまう本作では、特に前半、ターミネーターみたいに非人間的なまでに強い主人公が、言葉少なに正確無比にストーリーを進めて行くのがちと辛かったりして……。後半になって主人公の感情らしきものが見えてきて、やっと面白くなってきたんだけど、私のような感情移入タイプの観客は、ちょっとストーリーの予習とかしてから見た方がいいかもしれません。
本作の見どころの一つとして、デキる女を演らせたら右に出る人はいないかもしれないジョーン・アレンを挙げておきたいと思う。日本ではあまり話題にならなかったけど、機会があったら【ザ・コンテンダー】という映画を是非観てみて欲しい !! (敵役のゲイリー・オールドマンがまた憎々しくていいんだ、コレが。)

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【香港国際警察】三星半

スタントを使えとか何とか、シバリのうるさいハリウッドから、香港映画界に復帰したジャッキー・チェン。私はジャッキー・チェン映画の熱心なファンという訳ではないのだが、ファンの人なら大満足の、いかにも彼らしい内容の映画なのではあるまいか ? ただ、冒頭のジャッキーの酔っ払い演技はなんかこう、クサかったかなぁ……あと、いついかなる状況下であろうとも(いくらお話の都合上と言ったって)、部下の命を賭けるようなマネをするのはイカンだろ。

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【MAKOTO】四つ星

特に何にもしないで、ただ訴えたいことがあってじーっと立っているだけの幽霊がリアルに怖い……。多分、郷田マモラさんの原作とは、空気感もストーリーもかなり違っているんじゃないかなと思われるのだが(原作は読んでいないけれど、『きらきらひかる』のコミックス版とドラマ版を較べて想像してみるに)、思ったよりシビアな展開の中でも、成熟した視点で人と人とのつながりや愛について描こうという確固たる姿勢がある辺りが、さすがは君塚良一氏。(今回は監督も務めていらっしゃいます。)最近映画にも積極的なジャニーズの御大・東山紀之さんの存在感も良かったが、今回、哀川翔さんがほんっとにいいなぁとつくづく思った。日本映画界広しとえども、この軽みを体現しつつこのカリスマ性を発揮できる人はこの人しかいない !

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【マシニスト】三星半

本当に誰かに追われているのか、それとも不眠症による妄想なのか ? そこのところが曖昧な不安感を、うまくサスペンスのストーリーに生かしてあると思う。オチを聞くとな~んだぁ、という感じもしたりする(疑問点もいろいろ湧いて来る)のだが、30kgも減量したというクリスチャン・ベールの肉体の持つ説得力が総てを説き伏せる。(医者が許可したより更に10kgも落としたんだそうで……。)正に彼の役者魂に支えられた映画。そこのところに星一票投じておきたい !

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【またの日の知華】三星半

1人の人間の内面に齟齬や矛盾や変化が生じるなんてありがちなことなんだし、1人の名女優に演じさせれば事足りるじゃない。それを敢えて4人の女優に演じさせようという意図は結局よく分からなかったし、正直言って終始違和感を感じざるを得なかった。監督の女性観も二昔前のものといった感じで、個人的には全く賛同できるものじゃなかったし。映画として成功してるか失敗してるかと問われれば、失敗していると私は思う。
ではこれがつまんなかったのかと問われれば、実はなかなか面白かったんだな。破綻や失敗している部分自体をも含めて、どうしようもなく映画的で、映画以外の何者でもありえない何かが立ち上がってくる瞬間がいくつもあるのが、とにかく圧巻だったのだ。思うに、原一男監督の映画は、すべからく原監督ご自身の何がしかのドキュメントになっているのではあるまいか。こんなふうに、これぞ映画という体臭を感じさせてくれる映画って最近はめっきり見かけなくなったよなぁと、しみじみしてしまった。

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【真夜中の弥次さん喜多さん】五つ星

お伊勢参りに行くぜ ! と思い立ちハーレーに飛び乗った恋人同士の弥次さんと喜多さん(もちろん男同士)が、伊勢の直前で時空警察に止められ、時代考証が間違ってるからもう一度やり直せと江戸に連れ戻される……この出鱈目なオープニングでもうすっかり心を持って行かれてしまった !! その後も、既存のドラマツルギーの方程式なんかすっかり無視した、滅茶苦茶な展開のオンパレード。宮藤官九郎さん、この人の頭の中は本当にどうなってるんだ…… ? しかし、ブっ飛んだおちゃらけのお笑いの連続に見えて、それ自体が、「リアル(劇中では“リヤル”ですか)とはなんぞや」という、今の時代における大命題を描くための仕掛けだったと気づかされ、呆然としてしまった……。ここに描かれているお笑いのネタの数々が、例えば来年以降も鮮度を持っているかどうかというのは、正直言ってよく分からない。でも、ここまで時代と心中しきった表現というのも、あっていいんじゃないかと思った。ここまで常識を度外視したような映画は、もう10年は出てこないかもしれない。映画でも軽々と我が道を行ってしまえることを証明してしまったくど監さん(←本人が言ってたのよっ ! )、この人は本当に天才だ !

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【ミリオンダラー・ベイビー】五つ星

本編は、女性が主人公のボクシング映画ということになっているけれど、ストーリーの一番の骨格は、クリント・イーストウッド演じる孤独な老トレーナーとヒラリー・スワンク演じる一人ぼっちの女性との、親子愛とか恋愛感情とかよりも遥かに強い強烈な絆だったんじゃないのかな。だから、いわゆるボクシングの世界そのものを描いた一般的なボクシング映画と較べると、かなり淡々として静かな印象があるのではないだろうか。大体、ボクシング時代のお話は全体の半分か2/3くらいまでだし。
だから実は、お料理でもロック・バンドでも、ネタは一応何でも成立したんじゃないかとも思うけど、ただ、やはりボクシングだからこそ、分かち難い絆のメタファーである血という概念に結びつきやすかったというのはあるのかもしれない。イーストウッド様だから、ボクシングの描写そのものにはゆめゆめ手抜きがある訳はなく、例えばヒラリー・スワンク演じるヒロインがボクサーとしてどんどん様(さま)になってくる様子など、素人目に見ても分かるのが凄いんですが。
この結末にはやはり賛否両論あるようだが、少なくとも、彼女が通りすがりのどうでもいい人物だったら、彼は決してこのような行為に及ぶことはなかったはずで、彼が彼女の痛みを我が物としても受け止めたからこそこのような結果が引き起こされてしまった、ということだけは確かだと思う。このラストのためにモーガン・フリーマンを配置してあったというのがまた凄い仕掛けだ。このクッションがなければ、何かもっともっと救い難い印象を残してしまっていたかもしれない。マーティン・スコセッシを差し置いてのアカデミー賞も、当然といえば当然なのかも。どこからどこまで、完璧なんだもの。

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【村の写真集】四つ星

もうすぐダムに水没する村の写真館の親父が、疎遠になっている息子と共に、村人一人一人を写した写真集を作るという、これもまたベタと言えばベタなお話。でも、こういう映画は思いっきりベタでいいんだろう。実際、場内の皆さんは、丁寧に撮り上げられたドラマにいたく胸を打たれていた様子だったもの。ギャグであれシリアスであれ、照れずに思い切りきっちりと定番を創り切ることができるのが、三原光尋監督の持ち味と言えるのかも知れない。そういうのはちょっと……とおっしゃる皆さんも、何せ藤竜也さんが最高にイイので、それを見てみるだけでも損はしませんって。

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【メリンダとメリンダ】三星半

表メリンダ(喜劇)と裏メリンダ(悲劇)の、似たよな設定でも全然違う2つのラブ・ストーリー。一応楽しんで見たけれど、これは、映画の中のヒマな劇作家達が手慰みに考えた小話なのかと思うと、なーんか切実感は薄いよな。あれ、2つの話のヒロインを演じていたのは同一人物(ラダ・ミッチェル)だったんですか !? 全然気がつかなかった。

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【やさしくキスをして】四つ星

イギリス在住のパキスタン移民の青年と、教師をしている白人女性のラブ・ストーリー。白人女性との恋愛など決して認めようとはしない青年の家族や、女性を学校から追放しようとする教会などの周囲のプレッシャー、また、女性本人も青年の家族の状況を全く理解できないししようともしないなど、2つの文化間の相互不理解の問題などがずっしりと横たわっている。でも、主眼はあくまでも二人の関係そのものに置かれているためか、いつものケン・ローチ監督作品の硬質な印象と較べると、幾分かは優しい印象を受ける。しかし今回、なんだか宣伝がえらく地味だったような気が……もう少しでうっかり見逃してしまうところだったじゃないの !

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【夢の中へ】四つ星

夢の中に夢が重なって、もはや、どれが夢やら現実やら分からない !? よーく考えたら明るいエピソードなんて皆無なんだげど、何やら意味不明なポジティブなエネルギーに溢れていて、今まで見た園子温監督作品では一番面白く感じた。主演の田中哲司さんも味があってよかったけれど、村上淳さん、オダギリジョーさん、市川実和子さんを始めとする周りの面々も秀逸。なんか皆、楽しそうだよなぁ。

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【四日間の奇蹟】四つ星

死に掛けたヒロインの意識がある少女に乗り移る。この手のプロットならいくらでもベタベタに甘く出来ると思うのだけれど、予想に反し、抑制を効かせた雰囲気の中で、慎み深く生きてきた大人達の良識が感じられるような作りになっていたので、正直驚いた。吉岡秀隆さん、西田敏行さん、松坂慶子さん(出番は少ないけど印象的だった)といった俳優さん達の演技をじっくり引き出す佐々部清監督の演出が効を奏している。大変失礼ながら、私は本作で初めて石田ゆり子さんの演技をいいと思った。リアルな感情の流れの積み重ねがあればこそ、現実にはありえないファンタジーが荒唐無稽で嘘臭いものに見えなくなっているのだと思う。古めかしさと感じられるところもあるかもしれないけれど、良く言えばクラシック。なおかつ、現代的なシニカルな視点にも耐えうるだけの説得力を持つ作品になっているのではないだろうか。

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【ライフ・アクアティック】四つ星

同じウェス・アンダーソン監督が創作したテネンバウムおじさんに勝るとも劣らないワガママ身勝手の権化・ズィスーおじさん。あくまでも自分が欲するところだけにこだわり、周りの事情は一切他人事と決め込んでいる彼は迷惑極まりない存在なんだけど、独自のロマンを求めてあくまでも我が道を行く姿は飄々としていて、どこか憎みきれない存在でもあるみたい。ビル・マーレイが演じるこの主人公の変人ぶりがとにかく絶品な上、周りの俳優さんも相変わらず贅沢で豪華で、このアンサンブルはこの上なく楽しい。ただ、強烈なキャラクターのおじさんを中心とした変人達の群像という手法はちょっと見慣れてきてしまったような気もするし、ストーリー自体はスペクタクルに乏しくて少しだらだらした印象が残るかもしれない。監督の次回作ではその辺り、もう少し新機軸を打ち出してもらえると嬉しいかな。

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【ラマン】二星半

一口に女子高生ったっていろいろなコがいて、物事に対しても自分自身に対してもセックスに対してもいろんな考え方があるはずなのだが、この子がどんなキャラクターなのかの描き方は、結局行き当たりばったりで中途半端。大体、田口トモロヲだの大杉漣だのといったハードな顔ぶれを使って(村上淳もついにハージー・カイテルズに仲間入りか !? )、女子高生と3人のおじさんの愛人という設定にしている割には、描写がヌル過ぎだよな。詰まるところ、何を描きたいのか焦点が絞りきれなかった感じ。廣木隆一監督にしては駄作になってしまった気がする。残念。

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【リチャード・ニクソン暗殺を企てた男】四つ星

何をやっても何一つうまくいかない男が、思い余ってタイトルみたいな行動に……。まぁこれ、堪え性がないとかちょっと虚言癖があるとか、自分を自分の実力以上に見積もっているとか、本人にもかなり問題があるのは明白なのだけれど、そういうところは得てして本人には見えないか、見えていてもどうしようもないというのが持って生まれた業というものであって、その状態から抜け出す手段を見つけ出すことは、通常、不可能に近いくらいに難しい。そんな人生の呪いを嫌というほど見せつけられて落ち込んでしまう。ずっと前から勝者の社会であるアメリカだからこそ、また、こんなシビアな映画も出来てくるのだろう。ショーン・ペンって、ある程度安定している人間より、何か欠けているものを抱えながら必死であがいている人間を演じるほうが似合っているような気がする。

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【猟人日記】四つ星

作家崩れの青年が、人妻やら未亡人やらいろんな女を相手にただひたすら爛(ただ)れた関係を繰り返す……ってな印象の映画。いいねぇ、こういう爛れた映画も久々に観るとなかなか新鮮だ。何せ原作がアレクサンダー・トロッキの文学作品だからして、爛れ方にも何かこう格調が感じられる、のかも知れない !? 主人公のユアン・マクレガーが、今回、その爛れた青年役にぴったり嵌まっていて、かなりいい感じです。

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【緑玉紳士<りょくたましんし>】四つ星

日本産のパペット・アニメも頑張っていますのよ、てな感じでこの一本。ところどころテンポが気になるところもあるけれど、キャラ設定といい美術といい音楽といい、オサレーな感じでまとめてあるのが素敵なんじゃないんでしょうか。

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【隣人13号】三星半

テンション、気合い、よし。小栗旬さん(表人格)、中村獅童さん(裏人格)、新井浩文さん(いじめっ子転じて被害者)を始めとする役者さん達の熱演にも心魅かれる。でももともと、人間のネガティブな感情ばかりを増幅させたような作風なので、見てるとどうしたって疲れるわな……。そもそも、母親が、自分の小さい子供を、知り合ったばっかりの男の子(しかも挙動不審)に預けるなんてそれはちょっとありえない話で、そこら辺りからどうしても作り手側の作為を感じてしまい、覚めた目線で観賞せざるを得なかったのだが。

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【Ray<レイ>】四星半

観ている間はすっかり、ジェイミー・フォックスという人がこの役を演じているのだということを忘れていた。つまり、それだけ彼はレイ・チャールズになりきっていたということ。あれもこれも、どれもレイ・チャールズの曲なの ? (全くもって勉強不足)という楽曲の豊かさにまず感心し、決してレイ・チャールズのいい面ばかりでなく、人間としてちょっとどうかと思えるようなところも余さず描いているのに感心する。
いい面は、母の教え通り、ハンディキャップを言い訳にせず常に自らの足で立とうとしてきた強さや、ミュージシャンも黒人もまだまだ圧倒的に立場が弱かったであろう時代に、パイオニアとして色々な面で道を切り開いて様々な権利を勝ち取る努力をしてきたことなど。悪い面は、ビジネスにシビアで、恩がある人も長年仲間だった人も切ってしまえる非情とも見える一面を持っていたり(そうせざるをえない部分もあったのだろうが)、女にだらしなくいろんな人を不幸にしてきたり、家庭を手放しもしなかったがほとんど顧みなかったり、ヘロインを必要悪としてなかなか手を切ろうとしなかったりするところなど……。でも結局、そのような全てを凌駕する圧倒的な音楽の才能とその執念に、ただただ圧倒されてしまう。製作側の、レイ・チャールズという人の総てに対するリスペクトがものすごく伝わってくる。伝記ものとしても音楽映画としても一級品の出来栄えだと思う。

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【レイクサイド・マーダーケース】四星半

役所広司、薬師丸ひろ子、杉田かおる、鶴見辰吾、柄本明、豊川悦司、……この人達の緩急自在の演技のアンサンブルが、とにかくもの凄いことになっている !! サスペンスとしても予断を許さない展開だし、人間の醜悪な部分を総て引き受けてでも子供を守ろうとする親達の、執念とさえ呼べるほどの凄まじい愛情は、言葉を失ってしまうほどの凄い迫力。当たり外れが結構大きい青山真治監督だが、本作は会心の出来栄えだったのではあるまいか。

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【ローレライ】

これは一応、太平洋戦争末期を舞台にしたフィクションなんだそうだが……まず、私が今まで見聞きしたことのあるかの時代のイメージとはあまりにも掛け離れていて違和感を禁じ得なかったところに、そもそもつまずいた。どうしてなのかなぁと考えてみると……これは太平洋戦争時代を描こうとした映画ではなく、かの時代の状況などを単なる素材として、あくまでも現代の人の感覚を以てアレンジして作った映画だからなのだ、ということに思い至った。そう思ってみれば、軍隊に慰安婦を置くことにあまり疑問を持っていなかったようなかの時代の男性達が、狭く閉じ込められた空間に迷い込んだ1人の女性にあまりにも紳士的であるところも、祖国を守るためとか力説していても、そのフレーズが、かの時代には当然のように連呼されていたはずの“天皇陛下”なるものとほとんど結びついていないところも、頷ける。では、かの時代を描きたいのでないのなら、何でこんなものをわざわざ作ったのだろうか…… ?
仮に、戦争を素材にしたTVゲームのストーリーでも考えるような感覚でこの映画を捉え直してみると、納得がいってしまうことがあまりにも多かったので、愕然としてしまった。上に挙げたような話もそうだけど、いろいろとリアルじゃない設定を話のノリで無理矢理に押し切っているところが多々あるのも、美少女が戦いに参加するというのも、ゲームにはありがちなことだし、そういえばそもそも、あのローレライとかいう兵器の設定、ガンダムに出てくるエルメス(ララァさんが乗っていたやつ)に何か似ているような……。う~んやめてくれよー。あなた方は、かの時代に実際に起こった戦争の悲惨なリアリティとかそういうものは全部どこかに置いといて、まるでゲームか何かを楽しむかのように、とにかく戦争ごっこがしたいだけなんじゃないんですか…… ?
あんまりにも安易に、守る、守るという言葉を連発しているのにも、辟易してしまった。何から何を守るつもり ? どうやって守るつもり ? 大体、守る、守るとお題目みたいに唱えていれば、それで本当に守ることが出来ると思っているの ? そんなもの、より大人数で、より狡猾な手を使って、より強力な武器を以て来られたら終いじゃないか。頑張れば守り切れると思うのは幻想でしかない。世の中に数多あるヒーローものや何やかやの悪しき刷り込みの結果でしかない。暴力というのはもっと圧倒的で絶望的なものだよ、守り切れないこともあるんだっちゅうの。(こんなことなら【ハウル…】を支持するんじゃなかったな。ハウルもソフィを“守ろう”とするんだもんな。)だから私達は、究極的には、誰かから与えられた理不尽な破壊から立ち上がろうとする意志を持つこと以外に、抵抗するすべはないんだよ。
力のある役者さんはたくさん出てるし、緊迫するストーリー展開だし、広島・長崎以外にも原爆を落とすという計画は実際あった話らしいし、いらないことを考えたりしなければ楽しめたりする作品なのかもしれない。でも今、世界中で起こっている諸々のことと、私達は決して無縁ではないのだから、こういうレベルで戦争の話を作ったりしている場合じゃないんじゃないだろうか。大変申し訳ないけれど、私は、この映画を評価しないことに致します。私は、平成【ガメラ】シリーズの特撮監督である樋口真嗣監督をクリエーターとして非常に尊敬しているので、だからこそ、こんなギャーギャーとうるさいアホタレなオバサンをも納得させられるような作品を創って欲しいと切に願います。

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