Back Numbers : 映画ログ No.81



延々と更新できなくて本当にごめんなさい ! (5月の連休に何とかしようと思っていたのですが、やむにやまれぬ用事が入ってしまいまして……。)約8ヶ月分ともなると内容も膨大になり過ぎてしまいましたが、ページを割るのも手間なので、このまま載っけてしまいます。ご了承下さい。


【アイス・エイジ2】三星半

マンモス・サーベルタイガー・ナマケモノの仲良しトリオが第一作目ですっかり出来上がってしまっているので、もはや種族間の緊張みたいなものもほとんど存在しないし、あとは単に動物を主人公にした面白い話というだけになってしまっているきらいはあるかもしれないな。それでも別に、見ていてマイナスに感じられるところは見当たらない。ウェル・メイドのよく出来たCGアニメだと思うけど。

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【あおげば尊し】四星半

自分自身が生きていることの実感すら希薄になりがちな都会で、子供に死や生命ついて教えるったって確かに難しいことかもしれない。この問題と、死が近い父親の介護問題に悩む小学校の先生役にテリー伊藤さんを抜擢したのがものすごい眼力。また薬師丸ひろ子さんが、夫の父親を介護する妻のリアルな人間像を伝えていて抜群にいい。最後のシーンなんて、かなりベタな感じなのに、うっかり泣いてしまった……。市川準監督には、名作もそうでないものも多くの映画があるけれど、これは掛け値なしの名作の1本になるに違いない。

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【明日の記憶】四星半

中年以降の人にとっては、凡百のホラー映画なんかよりよっぽど恐いんじゃないかと思う。特に中盤までは、謙さんが仕事の上で何かやらかしてしまうんじゃないではないかと気が気ではなくて……。この映画には、若年性アルツハイマーに罹ってしまった働き盛りの中年男性とその妻が陥る苦悩が順を追って非常に丁寧に描かれていて、主演のお2人(渡辺謙さんと樋口可南子さん)の迫真の演技と相俟って本当に色々としみじみ考えさせられる内容になっている。あの堤幸彦監督がこんな正統派の映画を !? と驚くには当たらない。もともと非常にたくさんの引き出しがあり、またそれを作品によって自在に使い分ける柔軟さも持っていらっしゃる方だから。実際のアルツハイマー患者の家族の方の、それでもまだ綺麗すぎるところがあるという感想も聞いたりしたのだが、このようなことについて考えてみる入り口としては充分な誠実さを持った映画なのではないだろうか。

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【アメリカ、家族のいる風景】四つ星

80年代当時、【パリ、テキサス】ってどこがいいかさっぱり分かんなかったのよ。同じ時期に見たサム・シェパード肝入りの【フール・フォア・ラブ】(監督がアルトマンだったのね、知らんかった)なんてすっげぇキライだったしさー。で、のっけからいきなりカウボーイでしょ ? どうなることかと思ったけど、杞憂でよかった。一応、時間の針を元に戻せない家族、みたいなのがテーマだけど、昔と違って、絶望どーん、てな感じではなく、人間をファニーなものとしてどこかやさしく見つめている感じがする。ラストも随分救いがある。ヴェンダースも60歳だもんね、そろそろ好々爺になりつつあるのかなー。昔の諦念どろどろな【パリ、テキサス】より、私はこっちの方がよっぽど好きだ。

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【蟻の兵隊】四つ星

第2次大戦の終結後、中国の山西省で戦っていたある舞台の司令官が兵隊達に、皇軍を復活させるから残って戦えと命令したんだそうな。で、彼等は実際は、中国の反共産軍のために戦わされたんだけど、命令に従った彼等は、ポツダム宣言後も武装解除していなかったことになるのがマズいとかで、志願による勝手な残留とみなされて、帰国後は恩給も払われなかったんだと。(兵隊達を反共産軍に売り払った当の司令官は、自分だけさっさと帰国して、その後は結構エラくなったんだそうな。)度重なる裁判でも彼等の訴えは完全に無視。……こんな馬鹿な話が実在するとは。
関係者ももう高齢で、次々に亡くなられている様子。池谷薫監督がこの映画を創らなければ、この話は、時間の経過と共に歴史の闇に葬り去られていたはず。裁判が今後どうなるかは分からないけれど、少なくとも、当の兵隊達の無念を、ある程度の形として残るものにしてみせた。ドキュメンタリーの力ってやっぱり凄いなぁ、と単純に思う。
総てが必要なシーンである端正なつくりに映画としても好感を覚えたけれど、この映画は、原告団の一人でメインの被写体である奥村和一さんの個人の魅力がプラスに働いている面も大きいと思う。被害者としての自分のことを嘆くだけでなく、自分が当時いかに“人殺し”になっていったかを冷静に見つめようとする姿は、終始圧巻だった。

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【アンジェラ】二星半

リュック・ベッソンがリー・ラスムッセンを見て彼女を主演にした映画を作りたくなったと、ただそれだけのことなんじゃないのかな。良く言えばピュアでシンプルなラブストーリーということになるのかもしれないが、悪く言えば中学生の思いつきレベルの単純で幼稚なお話なのでは……。昔のリュック・ベッソンの映画の方が行間のニュアンスに溢れていたというのは一体どうした訳なんだろう。後ねー、実写映画で天使の羽を作って成功した事例を私はまだ見たことがないんだけど、映画関係者のどなたか、頑張ってみて下さいませんか ?

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【アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶】四つ星

最近アーティストのドキュメンタリーものって結構多くてフォローしきれず実はあんまり見に行っていないのだが、写真史に燦然と名を残す掛け値なしの巨匠ブレッソンともなるとちょっと話は別でしょう。インタビューをほとんど受けなかったというブレッソンが、死の前年に、何か思うところあってカメラの前に姿を表したという奇跡的なドキュメンタリー。世紀の巨匠が動いて喋っているだけでも凄いのに、自作の秘密を語ったりしているのだから、とりあえず見といて損は無いって。

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【イベリア 魂のフラメンコ】四つ星

イサーク・アルベニス作曲の組曲『イベリア』からのインスパイア。カルロス・サウラ監督が創っているから ? フラメンコと邦題にはついてるけど、公式ページなどを見る限り、現代スペインの舞踏および音楽部門の粋を集めている、といった趣き。とにかく、芸術作品です。

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【インサイド・マン】四星半

もしかしたら映画史上で最も完全犯罪に近いかもしれない銀行強盗事件に、刑事や弁護士、銀行オーナー、そして犯人達の思惑が乱れ飛ぶ。鮮やか過ぎる犯行の手口にも、それに関わる人間達が見せるそれぞれの佇まい(演じるのはデンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン、ジョディ・フォスター、クリストファー・プラマーといった一流どころ ! )にも、う~んと唸ってしまった。アメリカの映画界広しと言えどもその中でも有数の才能の持ち主だと昔から信じているスパイク・リー監督なら、ハマった時にはこれくらいの映画を創るなんて造作も無いとは思うけど、それにしても、黒人対白人の人種間の対立というお馴染みのテーマに留まらないより広い視点が伺えるのは、監督自身の成熟の結果でもあるのだろうし、また時代の新たな要請でもあるのだと思う。スパイク・リーの進化形を是非ともその目にしてみて戴きたい。

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【インプリント ぼっけぇ、きょうてぇ】四つ星

実は私は岡山県出身なのですが、「ぼっけー」とか「きょうてー」とかいった方言はあくまでも話し言葉ベースの言葉なので、文字にすると凄~く違和感があるんですよね、なんてどうでもいい話ですが。で、この映画はアメリカのケーブルテレビで放送禁止になったとのことですが、それは堕胎されてへその緒がついたままの血まみれの赤ん坊を川に流すシーンとかが刺激が強すぎると判断されたんじゃないのかな。アメリカって中絶の是非自体を未だに論争しているような国な訳だし……。かようにこの映画は、恐いというよりもキモチワルイ映画なんじゃないですかね。私は三池崇史監督の映画も大概たくさん見ているので、インパクトの強いシーンも大抵は以前に似たようなものを見たことがあって、全然大丈夫だったけど、でも監督の映画が初経験という人には、今までの三池美学(?)の集大成みたいな濃い内容をいっぺんに味わう羽目になってしまって、立ち直れなくなってしまう危険性が大かもしれないですね。

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【ウォーク・ザ・ライン 君につづく道】四つ星

ジョニー・キャッシュさんって無知ゆえ存じ上げなかったのだが、ジャンル分けすればカントリーの大御所ということになるようだけど、私の持っているカントリーのイメージと違って随分骨っぽいんですけど……カントリー&ウエスタンが、トラディショナルな正統派とロカビリーへと分れていったんだそうで、ジョニー・キャッシュさんはロカビリーの草分け的存在の一人として、多くのロック・ミュージシャンからも多大なリスペクトを受けていたのだそうだ……成程。
事実を元にした映画は、話の起承転結が必ずしもはっきりせず、えてして冗長になりがちな傾向があるのだが(まぁ現実ってそういうものだから……)、この映画の中のジョニーさんとジューン・カーターさん(彼女も有名なカントリー歌手なのだそうだ)の煮え切らない関係も、そういうところがあるかもしれない。特にジョニーさんについては、女にフラれてそこまで薬に溺れたりするかね ? などと、見ていて歯がゆくなる部分も多々あったのだけど……彼がそれだけ繊細だったってことかな。とにかく、ウソみたいなホントの話を脚色した彼等の人生とその音楽について覗いてみるだけでも、充分価値があるかもしれない。

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【ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ ! 】四つ星

面白いですよ。勿論、一定の水準は楽々クリアしてるんです。でも今回は、ウォレスがあんまりにもおバカなのにイライラしてしまったんです。今回もまた大変な(!!)事件が起こるのですが、それもこれも、ぜ~んぶウォレスのせい。ぜ~んぶウォレスが悪い。こんな飼い主の尻拭いをさせられるグルミットが心底可哀想になってしまいました。それは毎度のことだって ? 確かにそうなんですが、長編で時間が長くなった分、ウォレスのおバカさん加減もあんまりなレベルにまで増幅されてしまったのではありますまいか。本作をそれはそれは楽しみにしていたから、期待が大きすぎたというのもあるかもしれませんけどねぇ……。

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【美しい人】三星半

ロドリゴ・ガルシア監督は、こういう女性を主人公にしたオムニバス形式のものしか作らない(というか作れない ? )のかしら…… ? 本作は、それぞれの女性の人生の断片をスケッチみたいに切り取ったものを並べたもの。女優さんにしてみればそんな一幕のお芝居で感情を表現して場を作り上げる、というのは腕の見せ所であるのに違いなく、どの方も張り切ってこれでもか ! の名演を見せて下さる。そういった意味でみどころは少なくないのだけれど、基本的にどの話も展開も解決もせず、そこにただ呈示されているだけのものだから、だから何 ? という感じがする部分があるのも否めない。それに、それぞれの主人公は必ずしも最良の選択や態度を取っている人ばかりではないから、正直、見てて疲れちゃうエピソードも少なくないんだよね……仕事帰りに見に行ってしまったのもいけなかったのかもしれないが(人間、疲れてる時って寛容になれないじゃーん)。監督にとっては、そういう女性の愚かな選択や態度もまた観賞に値するものなのかもしれないが、それは同性の眼から見るとどうでもいいことだったり、逆にあんまり見たくもないことだったりする場合もあるんじゃないのかな ?

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【美しき運命の傷痕】三星半

原題は『L'enfer』。クシシュトフ・キェシロフスキはダンテの神曲をモチーフにした『天国編』『地獄編』『煉獄編』三部作を構想していたのだそうで、本作はそのうちの『地獄編』を脚本遺稿を【ノーマンズ・ランド】のダニス・タノヴィッチ監督が監督したもの。(ちなみに、先年ドイツのトム・ティクヴァ監督が監督した【ヘヴン】が『天国編』になるんですね。)
きっと一定水準以上の出来栄えなのだと思われるし、何も間違ってはいないのだろうけれど、な~んか……違うなぁ。これは、彼女達の生き方に別に特の感慨も抱けない、というのも大きいのかもしれないが。親から与えられてしまった部分はデフォルトだけど、それ以降はそういう生き方を自分で選び取っている部分もあるのであって、自戒も込めて言うけれど、いつまでも親のせいにすんな ! っちゅう話。そんなの“運命”でもなければ“美し”くもないやい、と私は感じてしまう。こんな邦題もよろしくないが、“地獄”っていう原題も、私にはきっとピンとこない。それでもキェシロフスキ監督が御自身で演出なさっていれば、もしかして、意図された“地獄”に引きずり込まれて一緒に味わう破目になってしまっていたのかもしれないけれど、そんなことを考えてしまっている時点で、タノヴィッチ監督の演出はどこか成功していなかったってことになりますよね。

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【うつせみ】四つ星

そぉんなに旦那が嫌なら離婚して自活した方がいいんじゃないの ? 相手がいくらドメ旦那でもそんなふうに欺き続けるなんていくらなんでも人間として誠意がないのでは ? と私なんぞは思ったのだが。やっぱりキム・ギドク監督の描く女性像はどうも私の肌には合わないみたい。でも監督に言わせれば、このヒロイン像は韓国の不満をもつ主婦の典型的な姿なのだそうな。う~ん、国情が違うのだろうからそんなに単純には語れないのかな。しかしこのラストって……“空蝉の術” ? ファンタジーだと言う人もいたけれど、私にはギャグにしか見えなかったんだけど。
それでも、今回は主人公が可愛い男の子だったから、まぁ許しちゃろう。留守宅を自分の家みたいにして渡り歩く青年(使い放題・食べ放題だが家人の汚れ物の洗濯や家電の修理などもしたりする)、という発想は面白かった。この世のどこも確かな場所ではないのだと言っているみたい。実は同監督の映画の中ではかなり好きな方。

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【エリ・エリ・レマ・サバクタニ】三つ星

青山真治監督はノイズ・ミュージックが好きなんだな……ということだけはよく分かったけど。絶望に至る病がどうとかって今更言われても、正直、そんなこと言ってる場合の年じゃなし。でもって青山監督自身だってそんなに若くもないはずなんだから、どうせならその絶望とやらだって、私のような者ですらふーんなるほどと思わせるくらいに掘り下げて描いてみてくんないかな ? 毎度のことながら出来不出来の激しい青山作品、私的には、今回はハズレ。

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【男はソレを我慢できない】三星半

こんな題名つけんなよ~。カラオケで十八番の『女はそれを我慢できない』を歌うのが恥ずかしくなっちゃうじゃない。まぁそれは置いといて。製作サイドは、下北沢を舞台にした新世代の寅さん的ストーリーを意識したものだとか言っているが、そんなこと言っちゃって寅さんファンが怒らないかなー。昔の歌謡曲なんぞも多用した昭和レトロテイストちょい入りました的なポップ感覚とかがどうやらこの映画の一番の主眼で、キャラクターやキャスティングには凝っていても、お話なんかは最初から割とどうでもいいぬる~い感じで作ってるみたいだし、吹き出しやイラストのコラージュなんかを多用している画面も好き好きがあると思う。私は正直、スタイルのみが重視されたこのテのものはあまり好きではないかもしれない。それに、『今夜はブギー・バッグ』は、やっぱり原曲の完成度の高さにはかなわなかったかなぁ。でも、そうは言いながらも、テンポよく進むキャラクターの饗宴を案外最後まで退屈せずに見ていたかもしれないので、評価はちょっとおまけしときます。

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【オリバー・ツイスト】四つ星

児童虐待という観念すらおそらく希薄だった19世紀イングランドに生きる少年オリバー君の物語。巨匠ロマン・ポランスキー監督が古典をきっちり描いていると。出来には文句のつけようもなし。

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【カーズ】四つ星

車が主人公ってあんまり興味湧かないかも……と思っていたのだが、そこら辺りはジョン・ラセター監督が、自分の奥さんを含めた「世の中の大部分の車に興味がない人」が観ても分かるように気を配って創ったそうなので大丈夫。車を擬人化するという荒唐無稽な話なのに、その仕草や動きはあくまでも車でありながら、一台一台の顔(?)も性格も実に深いところまで見事に造形されていて、あんまりにも表情が豊かなのでびっくりしてしまう。こういうまるっきり架空の世界の話になると、もうアニメの独壇場だ。勝ち組になるだけが人生なの ? というテーマも、今の世の中の趨勢の一歩先を行っているのかも知れない。やっぱりピクサーにハズレは無かった……そしてピクサー神話はまだ続く。

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【隠された記憶】四つ星

私、ダニエル・オートゥイユが“悪役”だって結構最後まで気がつかなかったんですね……いや、“悪役”と言い切ってしまうのにも語弊がある微妙な役柄かもしれないけれど。それでも、劇中で彼が必要以上にムキになったりしているように見受けられるのは、おそらく彼の心の中に“やましさ”があるからで、“やましさ”がある以上、彼は有罪と言わざるを得ないんじゃないだろうか。しかし、自分が彼と同じ立場なら、やはり彼と同じような反応をしてしまった可能性も大きいかもしれず(あの反応は人種差別云々以前に、自分の世界の中に異物が侵入してくることに対する拒否反応だと思われる……あ、それを世間では差別と呼ぶのか。)、そんな人生の落とし穴が空恐ろしくなる。普段は見ないようにしている、でも起こりうるかもしれない不条理に空恐ろしくなるのは、ミヒャエル・ハネケ監督の映画では毎度のことではあるのだが。
ハネケ監督印のびっくり描写(別にそれが主眼という訳ではない、と監督に怒られそうだな)が、いつ来るのか、いつ来るのか……と思って心の準備をしながら見ていたつもりだったのだが、それでもまったく予期していなかったシーンでいきなり来てしまって、またしてもギャーっ !! とやられてしまった。それでも、ダニエル・オートゥイユとかジュリエット・ビノシュとかいった超メジャーなスターが主役だと、彼等の演技がいくら素晴らしいものでも、「これは作り物なのだ」という安心感がどこかに出来てしまって、こうした映画にとってはちょっとだけマイナスだったのではないかとも思う。難しいものですね。

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【神の左手 悪魔の右手】二星半

原作が楳図かずお氏なのだからして、さすがに基本的にホラー映画の体をなしていなければお話にならないと思うのだか、これが全然。演技もそれなりなら、撮り方も根本的に何かが違っているような。筋を追っているだけでは、人間の抱え込む根源的な闇には迫って行かないんですよね。一人気を吐く田口トモロヲさんの鬼気迫る演技が、非常にもったいない。【デスノート】は悪くなかったのだが、金子修介監督も、ハマった時とそうじゃない時の落差が、結構激しい方なのかも。

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【紙屋悦子の青春】四星半

たった5人のごく平凡なの登場人物の、概ね笑ってしまうように面白おかしい日常のやり取りの中に、戦争という絶対的な断絶が否応なく横たわっているのが見えてくる。掛け値なしの傑作、だけど、現代の原田知世さんがおばあさんには見えなかったのだけは何とかならなかったかな。でも、黒木和雄監督に何とかしてもらうことももう永遠に出来ないのですね……合掌(泣)。

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【カミュなんて知らない】三星半

今時の大学生が、アデル(トリュフォーの映画のストーカーなヒロイン)だのアッシェンバッハ(【ベニスに死す】のショタコン教授)だのといったあだ名はつけないと思うの。大体タイトルからして……今時カミュはないんじゃない ? これは随分と観念先行でお文学的な世界で、そのセンスがアナクロいと思ったのは私だけだろうか ? 今現在、映画が好きな若者がいたとしても、その関わり方の温度は、昔とはちょっと違うんじゃないのかな。ただ、大学生の日常生活の普遍的なテンポを描いている面もあり、全く面白くないという訳ではなかったんだけど。

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【かもめ食堂】四星半

冬の午後の日差しみたいにまったりとした雰囲気。そのまったりさ加減で、親しくしても深く立ち入り過ぎもしない大人の関係がゆったりと描かれているのがとてもいい。これは確かに、わざわざフィンランドまで行かなければ出せなかった雰囲気かも。こんなふうにゆる~いストーリーの映画はともすると冗長になりかねないのだが、そこは、小林聡美さん、片桐はいりさん、もたいまさこさんという超個性派女優3人の完璧なアンサンブルで、一瞬も見飽きることがない。(特に、ただそこに立っているだけでどうしようもなく可笑しいもたいまさこさんといったら……日本演劇界の至宝だ !! )荻上直子監督は、もしかしたら、ストーリーラインで勝負するより、こんなふうに雰囲気を伝えることの方に長けているのではないだろうか。

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【ギミー・ヘブン】二星半

大体、江口洋介さんに裏街道を行く人間の役なんてムリじゃないの。それに、こんな青くさい登場人物の設定年齢は本来もっと低いはずで、四十路も近い人のやる役ではないんじゃないの。お話も、孤独がどうだとかいうよくあるパターンのように思えるのが何だかな。撮り方によってはもっとヒリヒリした感じを出せたのかもしれないけれど、演出にキレが無くてぬるく、何もかもが中途半端だった。安藤政信さん、宮崎あおいさん、松田龍平さん、石田ゆり子さんなんて人達を出しておきながら、豪華キャストが泣いている。

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【君とボクの虹色の世界】四つ星

“ボク”とか“虹色”とかいったフレーズだと、何かちょっと特殊な人達の限定された物語を想像してしまう。もう少し何かこう、原題の【Me and You and Everyone We Know】のなニュアンスを生かせるような邦題はなかったのかな。そりゃぁちょっとくらいはヘンかもしれないけれど、そんな人達をも“誰でも知ってるような人達”と呼んでいるところに、この映画ならではの優しい視点があると思うんだけどな。
監督のミランダ・ジュライさんが自ら演じている、どこか自信なさげな自称アーティストの主人公という設定が、最初はちょっぴりイタいかなと思ったけれど、『自分はこんなんでアーティストと名乗っていいのだろうか ? 』という自問自答は、表現を志す人ならば誰でもくぐる関門なのではないかと思ったりする。それでも敢えて続けるところに、初めて何らかの意味が生じてくるものなのかもしれないな、と思ってみたり……。観た直後の印象はそれほど強くないけれど、後からじわじわと効いてくる映画かなと思います。

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【嫌われ松子の一生】四星半

松子さんと私はま~ったく違った人生を歩んでいるのだが、この映画では、自分の中の何かが違っていればもしかしたらこうなっていたかもしれない ? と思えるような様々な人生のバリエーションが、極彩色の歌や踊りと共に、まるでカタログみたいに繰り広げられる。【下妻物語】の桃子ちゃんは何のかんの言っても若い女の子で、松子さんの方が自分の実年齢には近く、また丁度、自分の人生の越し方、行く末についてあーでもない、こーでもないと考えを巡らせがちな今日この頃、まるでマンガみたいに悲劇的な松子さんの人生を眺めながら、自分の人生のあれこれについて本当にしみじみと考えてしまった。う~む、まさかこの映画を観てそんなふうな反応になるとは思いもよらなかったぞ。ただし、ソープ嬢経験あり、殺人経験あり、ヤクザの情婦経験ありの松子さんの人生には、それ自体で拒否反応が出てしまう人もいるんじゃないのかな。だから、ちょっと変わってはいても穢れを知らない乙女達が頑張る話だった【下妻…】よりは、観た人の反応が必ずしも芳しくないのかもしれない。とりあえず、中島哲也監督の演出と、中谷美紀を始めとする出演者全員の演技については、最大級の賛辞を送っておきたいですが。

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【キングス&クイーン】四つ星

愛した男は4人、そのうちの2人が今ここへ歩いてやってくる……っていいのかそーゆー人生で !! まぁ、それをよしとしたことで一生消せない呪いをかけられる話と見れなくもないのか。この終盤になってから出てくる呪い(って呼んでるのは私だけかもしれないが、観れば分かると思う)は結構強烈。親っちゅうものは、そーいうことだけはしたらいけないものなんじゃ……ないのかなぁ。でも、そういうことも含めて、人間、とにかく生きていくしかないということを言いたいのかもしれません。
でもこれ、最初は、アルノー・デプレシャン監督の作品に以前にもあったようなようなダメダメ男の話なのかなぁと思っていたんですが。でも、こういったうだうだした男のうだうだした話を見ても前ほど退屈だと思わなくなってきたというか、何か面白くなってきましたねぇ。自分自身の人生もたいがいくだらないものだということに、前よりは自覚的になってきたからなのでしょうか。(というより、以前はそんなこと噛み締めている余裕もなかったというのが正しいか。)
ということで今回は、今まで観たデプレシャン監督の作品の中で一番面白いと感じました。たまに、年をとってきてやっと面白くなってくる(または、私の方で面白さがわかるようになってくる)監督さんというのがいらっしゃるですが、監督も私にとってそういう方かもしれないですね。勿論、監督の世界観自体も、以前より更に熟成されてきているのかもしれませんが。

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【ククーシュカ ラップランドの妖精】四つ星

第二次世界大戦後期のラップランドで、フィンランド人とロシア人の兵隊さんと、サーミ人の未亡人の逞しいヒロインが、言葉が全く通じないなりに生活し、不思議な共同体関係を作り上げる。これはこれで成立してるとは思うけど、男はヤるだけヤってさっさといなくなり、女は当たり前みたいに子供育ててますーっていう設定って、随分と都合がよかないですか ? とふと思ってしまいましたけど……。

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【グッドナイト&グッドラック】四星半

こんなにも完璧な映画だとは思わなかった。成程、新興ハリウッド・ピープルから絶大な支持を受ける訳だよ、ジョージ・クルーニー !! お話は、赤狩りの圧力に屈しなかった50年代アメリカの実在の報道番組を描いたものだけど、自分達の権利は自分達で勝ち取らなければならないとする姿勢にアメリカの最良の部分を見出し、何かが間違った方向に向かっているように感じられる今現在のアメリカも自分達の力できっと変えていけるはずだ、という熱いメッセージが聞こえてくるみたいで圧倒される。いや、そんなしち面倒くさいことなんか考えなくてもいいんです。時の潮流に立ち向かう男達(と一部女達)の姿が、とにかくかっこいいですから !! 実在した人気キャスターであるエド・マローを演じたデヴィッド・ストラザーンの高潔感溢れる存在感がすごくいい。しかし、この時代の人達ってあんなにプカプカ煙草を吸ってたんですね……ジョージ・クルーニーってもしかして愛煙家 ?

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【クラッシュ】四つ星

さてこの映画の中では一体いくつの“衝突”が描かれているのでしょう……というクイズは置いといて。【ミリオンダラー・ベイビー】の脚本家ポール・ハギスの初監督作品というから少し期待して見に行ったのだが。確かに、人生の微かな機微を掬い取る鋭い観察眼の脚本に、ドン・チードルやマット・ディロンを筆頭にやたら豪華なキャストを配し、多数の登場人物で幾つも繰り広げられる物語を平行して展開する語り口はよく出来ていて及第点だ。でも私には、幾つものお話があまり工夫もなくただ並列に並べられているだけなのが、しまりがなくて冗長だとも感じられたんだけど。同工のオムニバスも多いことだし、もう少ぅし何らかのキレがあってもよかったのではなかろうか。これがアカデミー賞とかいうのは、正直、ちょっと何だかな。

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【ゲド戦記】四つ星

例えば、「人間に死があることは大いなる救いだ」だとか「光は闇のあるところにしか存在しない」(細かいところは違っていると思いますがまぁそんなような意味の箇所)とかいったことを台詞で言ったところで分かんないと思うんですよね、特に子供相手だと。竜の世界と人間の世界の交わり、という話も最後まであんまりよく分からなかったし、名前を支配すると人格そのものを支配できる、というファンタジーの世界のお約束も、知らない人は混乱するんじゃないのかな。そういう観念的なところをもっと具体的なエピソードなり画なりに起こす工夫はもっと必要なんじゃないのだろうか。また、例えば宮崎駿監督の映画にあったような派手さやケレン味のようなもの(それは監督が長年のアニメ業界の経験で培ったものなのか、それても監督自身の資質なのかはよく分からないけれども)はこの映画にはあまりないので、その手の楽しさをどこかで期待して行っている人は、少し肩透かしを食ってしまうかもしれない。それでも、私はこの映画が嫌いじゃない。
宮崎駿監督や高畑勲監督には、多分戦争などの強烈な原体験があるので、逆にものすごく強靭な健全さがあるんじゃないかと思う。それに対して、私と同年代の宮崎吾朗監督は、行き場のない歪んだ狂気を自分のものとして理解することが出来る資質があるのではないかと思った。この人はこの人で、宮崎・高畑には決して創ることの出来なかった何かを創り出せる可能性があるんじゃないだろうか。
だからと言って、本作ですべてが成功しているとは私には思えなかったのだが、ただもしかして、これは鈴木敏夫プロデューサーの、10年後、20年後を見越した布石だったんじゃなかろうかとも思ったりした。宮崎・高畑監督がいつか新作を創れなくなった後にもジブリを続けていく意思があるのだとすれば、両監督のあまりにも偉大で強烈な個性をいつか誰かに打ち破ってもらわなくてはならない必要があるのだが、それは誰にとっても難しすぎる仕事であるに違いない。ただ、個人的にも駿監督と葛藤のある吾朗監督ならもしかして、その重荷を引き受けるのに最も適切な人物たりえるのではないのか。ただ、外部の私達観客に対して、まさか「本作はまだエチュード(練習)ですから」とは言えないもんねぇ……。

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【県庁の星】三星半

かつて量販店に勤めていた立場で思うに、一昔前ならともかく、今時、あんなに効率の悪い物流管理をやってるスーパーなんてとっくに潰れてるだろ……。それに、人員的には概ねどこもギリギリでやっているはずだから、どんっっなに使えない人材であっても、たったの一人も遊ばせておく余裕なんてないはずなんだけど。なんかお話が図式的なんだよな。ちゃんと取材とかしてるのかな、あんまりしてないんじゃいのかな。頭の中の知識だけで考えているように見受けられるけど。映画はウソはついてもいいけれど、すぐにウソって判るのはウソじぇねぇんだよっ !!
でも、織田裕二さんの出てる映画って、文句言いつつも何か気になって見に行っちゃうのね。で、大概、それなりの出来でしかないことにあ~あとため息をつく。あくまでブロックバスターを志向する彼の覚悟は潔いと思うんだ。しかしいかんせん、クオリティがいまいちついていかない。どうして日本のブロックバスターを作る人は、大衆向けにはこのへんでいいや、という線をあらかじめ引いてあって、その枠内でしか作ろうとしないんだろう。悪く言えば、一般大衆を少し馬鹿にしているように感じられるのだ。(【踊る大捜査線】は、そういう枠を突破してやれるところまでやり切った感があったところがウケたんじゃないのかな。)予算をあと少し割り増しして脚本に厚みを持たせるとかいったことが、そんなに難しいことなのかなぁ。せっかく何でもやってやろうという覚悟のあるスターがいる訳だから、もっと能力の高いブレーンを死ぬ気で集めて、もう少し粘って創ってみてはもらえないものだろうか。

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【ココシリ】四つ星

昔チベットには100万頭のカモシカがいたが、密猟で1万頭にまで減ってしまい、そこで一部の人達が私設の密猟パトロール隊を作ったのだそうだ。本作は1990年代のこの実話を元に創られた中国映画。密猟者といっても、何百キロも先にアジトがあるらしい、といった程度の情報しかなく、パトロール隊は、チベットのほとんど人もいないような雄大すぎる自然の中を、ひたすら、ひたすらトラックで追いかけていく。自然は当たり前のように過酷だし、またバックの組織も何も無い彼等の前には、ガソリンや猟銃の弾といった必須品を買うのにさえこと欠く資金不足という敵まで立ち塞がる……。もう何もかもスケールが違いすぎる。自分達自身の生活だって大概厳しそうなのに、生死を掛け、そこまでして密猟者を追う彼等の執念って一体…… !? 人間の信念って何かもの凄いものだということをカタチとして見せられた感じ。ルー・チューアン監督はまだ若く、普通に都会の方のようなんだけど、この映画のためにチベットに入って1年くらい準備し、6ヶ月掛けてこの映画を撮ったのだそうだ。中国映画って奥が深すぎ。そういえば、1997年には国営の自然保護区管理局が出来て、カモシカの数も今は5万頭にまで回復したそうですよ。ひとまずよかった。

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【転がれ ! たま子】四つ星

あまりに用心深く ? 育ってしまい自分だけの世界の中に生きている、ニートというよりほとんどヒッキーの“鉄カブトのたま子”ちゃん(山田麻衣子さんが可愛く好演)。いい年こいて何やってんの、と最初は(近親憎悪もあって)見ていたが、周りの状況は変わっていくもので、「いつまでもこのままでいたい……」という思いを許してはくれない。後半、大好きな甘食(ちょっとレトロな感じの菓子パンの一種です)のために無我夢中で今までの自分のカラを破り、奔走し始める姿に、前半との落差で余計に心洗われてしまった。血筋とかいう発想は嫌いなんだけど、こんなに若い身空でこれだけしっかりと映画的な世界を構築できる新藤風監督(新藤兼人監督のお孫さんです)は、やっぱりサラブレッドなのかな。

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【サージェント・ペッパー ぼくの友だち】三星半

人間になりたくなくてトラの着ぐるみをいつも着ている主人公の男の子。これが超可愛くてストライク ! ただ、彼が着ぐるみに執着していたり、お父さんが変な発明家(【ウォレスとグルミット】を地で行くような……)だったりと、出てくる人達がなんだか少しずつ妙なんだけど、その妙なところがもっと深くどぎつく掘り下げられていた方が、個人的には好みだったかな。ただ、犬と少年の正統派の友情物語というジュブナイルものにほんの味付け程度にそんな毒味を加えるといった方向性の方が、一般の人に広く見てもらうにはいいのかもしれないが。生活力が限りなくゼロに近いであろうお父さんを何のかんの言いつつも好きなようにさせてあげているお母さん(職業:指揮者)と、遺産を受け継いだ犬のサージェント・ペッパーを亡き者にしようと暗躍する資産家のタカビーハイミス娘がいい味出してました。

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【最終兵器彼女】一星半

設定の無理さ加減をリアリティとしてどう紡ぐのか。もしかして原作(未見)では雰囲気で押し切れていたのかもしれない部分も、実写化するとなると、もっといろいろと細やかに考えなきゃいけないんじゃないのだろうか。あまりにも安易と思える音楽の使い方もカンに障った。これじゃ役者がかわいそう。

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【サイレン FORBIDDEN SIREN】三星半

一応、TVゲームのスピンオフもの、ということになるんでしょうか(やったことないけど)。飼い犬がオスメント君というから「I see dead people」な話かな ? と思っていたら、もう一歩先のオチがあった……しまった。脚本にしてやられました。でも、生理的にコワいというより理性的に落とす話ですよね。細部を詰めると矛盾や説明不足な箇所もあるのかもしれないが、でもそこらは堤幸彦監督、バランスよく、独立した映画として充分楽しめるものになっているんじゃないかと思う。
ところで、音楽で蓜島邦明さんというお名前を久々にお見かけしておおぅと思った。私は『クーロンズ・ゲート』というゲームのBGMの大ファンだったのだが(CDも持ってます ! )、最近は、一部では話題沸騰の『ウルトラマンマックス』なども手がけていらっしゃるそうですね。ますますのご活躍をお祈り申し上げております。

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【THE 有頂天ホテル】四星半

くだらない見栄を張る男と職場放棄をする女だけはどうしてもキライだという個人的な好みは置いといて。メインキャストだけで23人というのに、話の流れはスムーズで分かりやすい。もっと疲れるかなと思ってたけどそんなことは全くなし。正に、笑いあり涙ありの悲喜交々の名人芸。今までの三谷監督の映画作品の中でも、間違いなく一番の傑作。

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【三年身籠る】四つ星

強いストーリーラインがあるというよりは、どちらかと言えば雰囲気でつなげている印象。自分の本音を言わないヒロイン(オセロの中島知子さんの好演)の行動様式というのが、私にはあんまり理解できなかったかもしれない。あと、極端から極端に走る夫も、人生における勘違いの甚だしい妹もどうなのよ。でも視点の独創性という意味では凄くて、確かにこの監督としての唯野未歩子さんの感性は、他では一切観たことがなかったものだったかもしれない。唯野監督、是非また何か創って下さいね。

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【死者の書】四つ星

世界に誇る人形アニメーション界の巨匠・川本喜八郎監督の最新作。奈良時代、奈良の當麻寺に伝わる中将姫という藤原家のお姫様の伝説を元にした折口信夫氏の小説を人形アニメで描いたもの。奈良時代の宗教観や死生観をベースにしてあるのだろうけれど、大津皇子(天武天皇の息子で謀反の罪を着せられ殺された)とヒロインのちょっと特殊なラブストーリーと取れなくもないのかもしれない。川本監督自ら語っていらっしゃるように、人形達だからこそ“語る”ことのできるこの映画独特の感覚の世界(川本監督は“執心”と“悟り”とおっしゃっている)があって、確かにこれを実写でやったところで見られたものじゃないのかもしれない。アニメってこんなことも出来ますよ、というまた新たな見本。でもって、奈良に行きたくなってしまったなー。
さて、今回、同時開催で【《Respect川本喜八郎》】という特集上映もやっていて、川本監督の『鬼』『道成寺』『不射の射』『火宅』などといった代表作を一挙に見ることが出来て嬉しかった。ところで私は、何故か昔『いばら姫またはねむり姫』の岸田今日子さんの原作を読んだことがあって、当時、子供心にエグいと思った記憶があったのだが、今回人形アニメ版を見てみたら大体まるまる覚えていた通りでのけぞった……こんなの人形アニメで作るなよー !! 少なくともこれ、子供には見せない方がいいです。

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【ジャーヘッド】三星半

あの【アメリカン・ビューティー】のサム・メンデス監督が、ジェイク・ギレンホールやらジェイミー・フォックスやらピーター・サースガードやらといった一級の俳優を使って一体何をするのかと思いきや……。原作は実際に湾岸戦争に行った元海兵の手記で、文学的に高く評価されているとかいう話だけど、私には、【地獄の黙示録】やら【プラトーン】やら【フルメタル・ジャケット】やらを最初に見た時、どこがどう面白いのかさっぱり分からなかったことが思い出されてならなかった。あんまりにも頭が筋肉で、筋肉で、筋肉な世界を、そのまんま描いているのはたいした描写力なのだとは思うけれど、あまりに“よくできている”せいなのか、何だか胃液のようなすっぱいものがこみ上げてきて、マジで気持ち悪くなってきた……。映画としての完成度は高いのかもしれなくても、今、この時代にこの映画を作りたいと思う人の意図は、私には正直言ってさっぱり分からん。かように頭が筋肉な人々の思考回路が世界を支配しようとしているのだとすれば、そういう意味での教育的価値はあるのかもしれないけれど。とにかく、見ずに済ますことができるなら敢えて見たくはなかった映画だった。

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【13歳の夏に僕は生まれた】四つ星

13歳でパパのヨットから落っこちて海に置き去りにされ、難民船に拾われるって、それはもう強烈な体験だろうなぁ……。少年の眼を通してイタリアの難民問題を語っている映画なんだけれど、少年が初めて外の世界の現実に触れて目が開かれていく過程そのものも一つのモチーフになっているので、見ていて辛気臭い感じは全く受けず、むしろ瑞々しいような印象があるんですね。しかし、イタリアってすごく様々な国から難民がやってくるんですね。(難民たちが国籍を申請するシーンは、ちゃんと字幕をつけた方がいいと思う。)イタリアの地勢学上、よく考えてみれば当然のことなんだけど、全然知らなかった。
そういえば、(同じマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の)【輝ける青春】を結局まだ観賞していない……。

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【シリアナ】四つ星

某誌ではエラく票が低かったんだけど、もしかして、評者の皆様が内容を把握し切れなかったせいなんじゃないかと訝しんでいるんだけど……。確かに、アラブの油田を巡る石油会社やらコンサルタントやら王族やらスパイやらのいろいろな立場の人間の思惑や策略が錯綜していて、かくいう私も全ての人間関係を一度に全て把握し切れた自信はありませんが(←何だよ !! )。お話自体は、アメリカ人以外の人ならあるいは一度は聞いたことがあるような、アメリカのエグい世界戦略に関する断片的なエピソードを継ぎ合わせたような感じではある。ただ、これを整理して1つの流れの中に纏め上げて、辛口の視点そのままに提示したその手腕が凄い。それをやっているのが当のアメリカ人であるということ(脚本・監督は【トラフィック】の脚本家のスティーブン・ギャガン)、更にこれがハリウッド製作で、製作総指揮もしているジョージ・クルーニーを始めとする名だたるスターが大挙して出演している辺りに、改めて、アメリカという国の懐の深さを感じる。

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【スタンドアップ】四つ星

想像を絶するような超ヘビーなセクハラの嵐に絶えかねたヒロインがついに訴訟を起こすけど……。多くの炭鉱労働者達が、それぞれ事情があってそのようなキツい仕事に就いている少数の女性炭鉱労働者達を無意識であれ排斥しようとするのは、自分が寄って立っているちっぽけな世界のちっぽけなプライドを侵食されたくないから(というふうに描かれている)で、これが見ていて心底悲しくなる。今までこういう職場に当たらなくてよかった……。でも、こういう理不尽なものと戦ってあるべきものを手に入れようとするのは、アメリカのいいところでもあるんだろうな。
シャーリーズ・セロン、ウディ・ハレルソンといった俳優陣は皆それぞれによかったけれど、フランシス・マクドーマンドが演じるヒロインの同僚と、ショーン・ビーンが演じるその旦那さんのカップルがとても印象に残った。ああいう旦那さんって理想的 ! この辺り、さすがは女性監督(【クジラの島の少女】のニキ・カーロ監督)、よく分かっていらっしゃる ! しかし、【スタンド・アップ】という邦題は分かりやすくていいんだけど(そういうシーンが出てくるのだ)、あからさま過ぎていささか気恥ずかしい気も。でも原題(North Country)をそのまま訳せば『北の国から』だしなぁ……。

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【送還日記】四つ星

このドキュメンタリーの背景は少し複雑。韓国政府はかつてかなりの数の北朝鮮のスパイの人達を捕まえていて、そんな人達は、転向して韓国側に協力的になれば比較的早くに釈放されたけど、そうはならない人達もいて、中には30年にも渡って拘留され拷問されてきた非転向長期囚も何人か存在したらしい。それはいくら敵国のスパイといえど人道に反した扱いをされてきたと言えるのだが(この個々の、いわば下っ端のスパイの人たちにどこまで罪を問えるのか、というのも難しい)、釈放後も韓国社会の中で細々と生きてきて老人達となってしまった彼等が、ついに北へ送還されることになった……という過程が本作に描かれている。
最後まで転向しなかった人達は、逆に、個人の性質としては矜持を持った純粋で誠実な人たちだったりして(拷問という過程を経て、その信条はますます純化された強固なものになっていたりする)、このドキュメンタリーの作者が、政治的な信条では交わるのは難しい彼等のそんな側面に惹かれていくところも描かれている。見たところ、みんな一見普通のおじいさんであるというギャップにも驚くが、勿論、拉致問題とかもどうしても頭をよぎったりもする。こんな複雑な様相が世界のあらゆる断片に存在するんだろう。優れたドキュメンタリーはそういうことを呈示してみせる資質を備えているもので、本作もそういう資質のある一本だと思った。

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【タイフーン】三星半

北朝鮮から亡命者の子供が、自分達を救ってくれなかった韓国に想像を超える規模のテロリズムを企てるという大仕掛け。ただ、前半はあまり話が進まないので、重厚というより鈍重な感じもしてしまったが、チャン・ドンゴン演じる主人公と生き別れのお姉さんのエピソードが語られるシーン辺りから俄然面白くなってきた。イ・ジョンジェさんの演じる軍人さんは、私が今まで物語の中で見てきた幾多の軍人さんの中で最も人間的で涼やかな印象すら感じられてよかったな。

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【太陽】四つ星

公開が危ぶまれていた本作をよくぞ引き受けたものだ。さすがは銀座シネパトス。その英断に拍手を送りたい。「パ、パトスで整理券配ってる !! 」ヒットしてるみたいで何よりだ。
さて、内容の方なのだが、本作はやはり題材に興味が湧くからか、アレクサンドル・ソクーロフ監督の他の映画よりは私は面白く観ることができた。静かで無駄なものがほとんどないミニマムな作風は相変わらずだけど、戦時下の半ば幽閉された環境にある天皇、という題材にはこの作風は合っていたみたい。加えて今回は、お芝居の裁量を相当日本の俳優さん側に委ねているように見受けられて、それがいい方に作用していたみたいに思ったのだが、どうだろう。天皇なる人をこれほど人間的に愛すべき人だと感じたことも初めてで、勿論お話をそういうふうに作ってあるからなんだけど、これは、イッセーさんのお芝居がなければ成立しなかったかもしれない。イッセー尾形さんはものすごい名優なんだなぁ、とつくづく感じた。イッセーさんにもっともっと映画に出て戴きたいものだ。というより、イッセーさんにご出演願うに足りるだけのまともな企画をもっともっと考えて欲しいのですが、日本の製作会社の人。

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【ダ・ヴィンチ・コード】四つ星

欧米の評論家が事前にダメ出ししていたと聞いていたが、一通りはちゃんと普通に面白い、そ~んなに酷い映画じゃないじゃん ? というのが率直な感想。ただ、いろんな組織関係が錯綜しているのでかなり集中して見てないと訳が分からなくなるかもしれない、というのが注意点。あと、様々な謎解きがプロットの中心になってしまっていて、その部分を処理するのにほぼ手一杯で、人間ドラマとしてはもう少し掘り下げが足りなかったのかもしれないな、とは思う。でも、イアン・マッケランやらポール・ベタニーの演技を見ているだけでかなり堪能できたのでよしとする。

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【TAKI183】二星半

塚本高史さん、好きなんですよね。顔が。しかし、彼の出ている映画を見に行っては、後悔することも少なくない……もっといい作品を選んで出演するか、彼自身、脚本や演出に少々難があってもその演技だけで映画のグレードを上げてしまうような凄い俳優さんに早く成長するかして欲しいものだ。本作はまぁ、よくある青春ものの域を出ていない感じ。大体、今時、意味の有無に悩むところとかから入るってありなの ? 部分使用されているアニメもあまり効を奏してないし、カッコつけの決めゼリフがださいぞー。あと、忍成修吾さんはまぁ嵌まっていた感じだが、窪塚俊介さんは今時の若者役があまり似合わないかも……と思ってしまった。

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【立喰師列伝】三星半

戦後史、というより戦後の左派の運動史が物語られているのだろうか。とにかく、押井守監督の作品に登場し、立喰しながら薀蓄を語る不特定の登場人物達の集大成、なんだそうだけど。押井守監督の頭の中には膨大な量の知識が渦巻いていて、それと壮絶な格闘をしながら作品に落とし込むのに毎回エラく苦労をしているんだろうな、と改めて感じた。けど、役に立つのかどうかも分からないそんな薀蓄、傾けられてどうしろというの……。

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【単騎、千里を走る】四つ星

この映画にあまり高い評価をつけていない評論家の人って、多分、あの高倉健さんが、言葉も通じない状況で右往左往するといった不全感にイライラしたのではないかと予想した。ただ、パックツアー以外で海外に行ったことのある人なら、この感じ、分かるんじゃないのかな。うまくいかないことばかり、タイミングの悪いことばかり起こるけど、でも、その場その場での人と人との心の繋がりが、まるで人生を紡いでいくことそのものみたいに見える。そんなことを非常に美しく詩的に描いている映画ではないかと私は思った。チャン・イーモウ監督のバックグラウンドにどっかりと横たわっているのであろう、中国大陸のスケールのでかさが垣間見えるのもいい。私は、今までの高倉健さんの主演映画で、これが一番好きかもしれない。

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【デスノート 前編】三星半

Wikipediaの解説を読んで、『デスノート』がどういう作品なのか、やっとちょっとだけ分かった気がした。う~ん、やっぱり私には、安っぽい自己満足のためだけに平気で人を殺す主人公君が頭がいいとはどうしても思えないのですが。大体、自分の手を全く汚さずに簡単に人を殺せるという設定がどうもやっぱりなじめない。そういう部分も織り込み済みでお話を成立させているのなら、この作品には反面教師的な批評性があるのかも知れないけれど、これを読んでいる子供達がそこまで考えて喜んでるとはやっぱり思えないような……。この話のどこがそんなに受けていたのかはもっとじっくり考えてみようと思うけど、これがジャンプみたいな超メジャー誌で連載されてて大ヒットしてて、しかも周りの大人の皆さんが嬉々としてその映画化に着手するというのは、何かやっぱり違っているような気が、私はしてしまう。ツマンナイオトナの意見ですいません。映画自体はおそらく、原作をうまく3D化していてなかなかの出来だったんじゃないかなと思うのですが、ただ、あの死神さんのCGはちょっと安っぽいんじゃないかなぁ。

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【年をとった鰐&山村浩二セレクト・アニメーション】四つ星

『頭山』の山村浩二監督の新作+海外のいろんな監督さんの過去の名作集。愛は惜しみなく奪う、ものなのかしら……うーん、深すぎて私にはよく分からない~。深いというかエグいというか、アニメってこんなことまで表現しちゃうんですね。ところで、短編アニメーションは見る機会が少ないので、こんなふうに組み合わせて興行するというのはいい考えだなぁと思いました。こういうの、もっとやって下さい。

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【トム・ヤム・クン ! 】三星半

【マッハ ! 】も見てないことだし、トニー・ジャーさんをそろそろちょっとチェックしておかなきゃいかんかなと思って見に行った。彼のムエタイのアクションは完璧で本当に美しく、ジェット・リー様と是非とも対戦させてみたい気持ちがむくむくと湧きあがってきたりした。しかしいかんせん、私はもともとアクション感性が低いのよね……しばらく見てるとやっぱり眠たくなってきてしまった。ごめんなさい。「取り戻したい愛がある、取り戻したい象がいる。」という宣伝文句は笑えました(本当にそういう話なんですね、これが)。
追記:最近、日本やら香港やらヨーロッパやらのいろんなアクション俳優さんへのインタビューを読むたびに、誰もが必ずトニー・ジャーについて言及しているのを目にするので、アクションの世界ではいかに注目されているのかがよく分かる。頑張れトニー・ジャー !!

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【トランスアメリカ】四つ星

生きてきて澱のように溜まっていった昔の人生のひずみの清算というのは、ありそうで案外見当たらない面白いテーマかも、と思った。ただ、世間での評価の高さほど私には来なかったのはどうしてなんでしょう。フェリシティ・ハフマン(かのウィリアム・H・メーシーの奥さんだそうな)が、私にはどうしても性転換前の男性に見えなかった、というのも大きかったのかもしれないが(私は実際の性別を当てるのが割と得意なので)。

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【ナイスの森 The first contact】三つ星

意味なし脱力系エピソードの連鎖が、面白くない、という訳ではない。しかし、監督の石井克人さん・三木俊一郎さん・伊志嶺一(ANIKI)さんが映画に求めているものって、私が映画に求めているものとは何か随分違っている気がする。それは彼らがもともとCM界のご出身ということだけに起因しているのではないと思う。(同じCM界のご出身でも、中島哲也監督の作品などにはすこぶる“映画”を感じるからなー。)でもそれって一体何なのだろう……う~んう~ん、考え中。

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【ナイロビの蜂】三星半

現在某グローバル製薬企業の手先となって働いている身分だから言う訳じゃないが、グローバル企業=悪者、という図式だけでは単純明快に過ぎ、それだけではどうも入り込めないんだな。グローバル企業の側に病理というものが存在するとしても、それを描くのは、二重三重の認識の壁を検証していかなければならない大変難しい作業になると思うんだけど。それに加えて、熱心な活動家である女性(レイチェル・ワイズ)が、そもそも何で保守的を絵に描いたような外交官(レイフ・ファインズ)に魅かれたのかもよう分からん。といったところではたと気づいた。もっともらしく仕掛けがしてあるけれど、これは要するに、アフリカというエキゾチックな土地柄を舞台に一風変わったメロドラマを仕掛けたかっただけなんじゃないのかな !? アフリカの現実を描くとか、そういうものにしてはな~んか歯がゆさが残ると思ったのよねー。やっとなんか腑に落ちたかもしれない。

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【ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女】四つ星

プロデューサーのダグラス・グレシャムさんは原作者のC.S.ルイスさんの義理の息子で、【ロード・オブ・ザ・リング】以前から本作の映画化を目指していたのだそうな。原作の大ファンという私の友人が何と言うか分からないけれど、見てて特に違和感のようなものは感じなかった。魔女は魔女らしく(ティルダ・スウィントン様がほんとに非情で恐い ! )、ライオンのアスランはいかにも威厳があり王様らしい(リーアム・ニーソン様が声をやってらっしゃいます)。次男坊が秘密をペラペラと喋るのを見てイガイガしたが、その辺りもおそらく原作通りなんだろう。ウェル・メイドのいいシリーズになりそうな予感がする。

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【2番目のキス】四つ星

ある野球チームの熱狂的なサポーター、というのも、熱狂的な映画ファンと同じく、ある意味、社会的に不具合を持った人と呼ばれてしかるべきである。本作は、ファレリー兄弟にしては非常におとなしめのテーマ、と言われていたのを聞いたのだが、やっぱり全然そんなことはなかった……。でも、彼等の映画って、根っこにはいつもピュアな愛と呼んでしかるべきものがあって、そこが好きなのよね~。本作は、そういったファレリー兄弟監督作の美点が、どんな人でもストレートに楽しめるように仕上がっているんじゃないだろうか。デート・ムービーにするととってもステキなんじゃないかと思います。

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【日本沈没】四つ星

何せ起こっていることのスケールが大きすぎるから、2時間の時間枠では、このような未曾有の大災害を描き切るには少しボリュームが足らず、少々こじんまりとしてしまったような気もする。加えて、ちょっと説明不足なのでは ? と思われるツッコミどころもたくさんあるかもしれない(爆弾が1つしかないなんてどうして ? とか)。クライマックス・シーンの1つで絵に描いたようにタイアップ曲が大袈裟に流れるのもいかがなものか。それでも、CGなどを駆使した映像はしっかりと創られていると思ったし、そんな中で右往左往する主人公(クサナギ君がとってもいいです ! )や周辺の人々の様子や感情の動きなどもきちんと描かれていて、とてもいいバランスで仕上がっているのではないかと思った。樋口真嗣監督に、掛け値なしで代表作と呼んでいい一本が生まれたんじゃないか。本当に嬉しいです。

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【ニュー・ワールド】四つ星

若気の至りから目が醒めて今の旦那様の素晴らしさを再確認する、ってそういう話じゃないの ? だって、どう見たってコリン・ファレルよかクリスチャン・ベールの方がカッコいいじゃなーい。え、違う ? ……そうは言っても、神話としてのポカホンタスにもともとそれほど馴染みのない日本人の私らには、リアル・ポカホンタス・ストーリーと言ってもきっとそんなに驚くような話じゃないし、アミニズムも感覚的になんとなく理解できることなら、支配されることになった民が屈辱を感じながらもどこかプラグマティックにならざるをえないというのも、それほどびっくりするようなことでもない。要するに、本当のポカホンタスってきっとこんなふうなんだったんだろうなぁと想像する、正にそのまんまが映像になっている感じがするのだが、だから何 ? と思わざるを得ない部分があったりする。今回は、テレンス・マリック監督の他の映画を観た時のような圧倒的な衝撃は、私には感じられなかったのだけれども。

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【寝ずの番】四つ星

生前の故人を偲んでのお通夜の席での春歌合戦に死体踊り……エロスとタナトスが交錯するプロットに、日本人の性や死に対するあっけらかんとした感性の側面が投影されてて面白いんじゃないかな。津川雅彦さん(本作では屋号を背負ってマキノ雅彦監督を名乗っておられます)は、もっと以前から映画監督をすることを考えていらっしゃって、実際に制作に取り掛かった映画も何本かあったのだそうだ。でも、この映画に関して言えば、もっと若い頃に似たような話を作っても、ねっとりと生臭いものになっていた可能も高かったと思われるので、今になって、いい意味で乾いた感性をもってして作ることができて正解だったのではなかろうかと思う。ただ、こういうのって粋(いき)って言うのかな…… ? 私にはよく分かりませんけども。

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【博士の愛した数式】四星半

数字や数学がこんなに詩的なものだとは思わなかった。これを老若男女様々な人に伝えることができるのだとしたら、映画ってやっぱり偉大だ。ストーリーは地味だけど、人間同士の、お互いに対する敬愛に満ち溢れているところが、つくづく素晴らしいと思う。キャスティングは寺尾聰さん、深津絵里さんや吉岡秀隆さんといったベストな布陣だが、中でも浅丘ルリ子さんの凛とした美しさには心底参ってしまった。本作で、黒澤明監督の助監督としてではなく、小泉堯史監督個人としての資質が、一般に広く認知されることになるのではないかな。よかったよかった。

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【ハチミツとクローバー】四星半

原作は絵柄がどうも苦手で読んでいないのだが、映画単体として観た場合、これはとってもよく出来た青春群像劇に仕上がっているのではないかと思った。ベタベタした余分な甘さや表現上のムダを一切カットして、とてもストイックですっきりとした味わいになっているところに、とても好感が持てて、大学時代の時間ってある意味こんなんだったかな~と、ちょっと懐かしい気分にさせてもらった。蒼井優さん、櫻井翔さん、伊勢谷友介さん、加瀬亮さん、関めぐみさん、堺雅さん人といったキャストも、考えられる限りの最高の布陣だったのではあるまいか。やっぱり、役者に間違いがない映画っていいですね。

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【初恋】四つ星

1968年の三億円事件を題材にしているから必然的な面もあるのだろうけれど、かっちりとした台詞回しや演出に、古めかしさや理屈っぽさが感じられる部分がないこともなかった。でも、肉体的な接触すらほとんど無いのに想い合うことだけで恋愛が成立することを描いてみせたことだけで、この映画は充分に奇跡的なのではないかと思う。やっと初めて手を繋ぎ合わせた場面は、図らずもかなり来てしまった。凡百の女の子女優では、やっぱりこれだけの情感は出なかったのではなかろうかと思う。宮崎あおいってやっぱり凄い。その演技力だけで作品そのものに何倍もの付加価値を生み出すことが出来る俳優さんが、今現在、日本に一体何人くらいいるだろうか。それを生かせるような演出をこのシーンまで丁寧に積み上げていった塙幸成監督の手腕も勿論評価したいけど。

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【バッシング】四つ星

危険な紛争地帯に出かけるのも(それでもしかしたら死んでしまうかもしれないのも)それこそ“自己責任”だと思うので、そういう人達は放っておいてあげたらいいんじゃないかと私は思う。それを敢えて(そうする必要はないんじゃないかと思うけど)“救出”した外務省関係の人などが“手間かけさせやがってぇ !! ”と怒るのなら100歩譲ってまだ理解をする余地があるのかもしれない、けれど、人質になった人達と基本的に何の縁もゆかりも無く、彼等から直接的に何ら迷惑を蒙っていないはずの人達が何故彼等を攻め立てるのだろう……当時も私にはさっぱり分からなかったのだが。この映画はそのイラクの日本人人質事件に着想を得た映画。実際に起こった出来事をそのまま描いたものではなく、特に舞台を田舎の狭い町に閉じ込めてイメージを一層増幅させたもの。改めて、日本ってヒマな人が多いのではあるまいか、と感じたのだけれど、総ての日本人がこんなふうだといったような書き方も、またちょっと困っちゃうんだけどなー。

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【花田少年史 幽霊と秘密のトンネル】三つ星

主演の男の子を始めとする子役の皆さんの演技はどれも絶品だったし、脇を固める大人の俳優の皆さんの演技も申し分なかった。でもでも。いくら表現上のデフォルメだからって、交通事故で意識不明だった息子の頭をぼんぼん殴る母親がどこの世界にいるものか。同様に、直前まで生死の境を彷徨っていた子供が病床を抜け出すのを許可する医者はいないし、子供を大嵐の晩に自分の船に乗せる海の男も存在しない。絶対に。そんなふうな表現の詰めの甘さというかぬるさというか緊張感の無さがあまりにも目立っていたので、楽しめるものも楽しめなくなってしまった。「こんなもんでいいんじゃないの ? 」という匂いがするような映画の作り方はやめてくれ。頼むから。

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【花よりもなほ】四星半

観終わった直後の印象は、正直、そんなに強いものではなかった。というのは、あんまりにも贅沢すぎるキャストのそれぞれをもっともっと掘り下げて観たくて、何か物足りないような気分がしてしまったからかもしれないが、それがそのまんまこの物語世界の豊穣さなのかもしれないという思いが、後からじわじわとボディ・ブローのように効いてきた。基本的に、不愉快な要素がほとんど見受けられないので何度でも気持ちよく繰り返し観ることができるような気がするし、観る度にきっと新しい発見があるような気がする。そしてきっと、貧乏だけどいつでも思い切り生きることを謳歌しているように見えるあの長屋の連中にまた会いたくなってしまうのだ。しかし、そんな彼等のドタバタ喜劇というオブラートにくるみつつ、復讐なんていうものに囚われないもっと違った生き方の可能性があるんじゃないの ? というメッセージを発信しているのは、昨今の情勢をワールドワイドに考えながら観てみると、実はもの凄く挑戦的なことを言っているのではないのだろうか。

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【母たちの村】四つ星

女性器切除って……もうどんなに痛いんだか想像も出来ない(泣)。今でもアフリカのイスラム圏の一部で行われているとは聞いていたが、御年80歳を超える巨匠ウスマン・センベーヌ監督が敢えてこの題材を取り上げようというのだから、この問題は今でも相当根強く残っているのだろうこと、それでもこの悪習を根絶しようという気運が一部では高まっているのだろうということが想像できる。伝統なるものは、すべてが正しい訳ではないことは明らかだ。
でもこんなシリアスなテーマを扱っていて、実際ひどいシーンもあったりするのに、見ていてそんなに重苦しい気分にならないのは、出てくる女の人達が活き活きとしていて魅力的だからかもしれない。それに、女性達が身に纏っている原色使いの服が、素晴らしくカラフルなことも関係してるかも !
会話のシーンなどに独特な間があったりするのは、やはり文化的な違いによるものなのかなと、昔、監督の旧作を観た時にも思ったのだが、そういうところを見ていると段々味が出てくるのがいい。でもそんな味なんかを噛み締めるヒマもなく、ぱっと見で分かりやすい方向性に統一していくことを求めるのがグローバリズムというヤツなのかもしれない。こういう独特の味は、世界から絶滅しないでいてもらいたいんだけどな……。

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【ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国】四つ星

50人の熱烈なファンの人にカメラを持たせてライブ会場を自由に撮ってもらう ! その試みは何か面白そうだと思った。ただ結局のところ、編集をする人がすごく上手にきれいにまとめているので(大変なご苦労だっただろうとは思うけど……)、言われてみれば色んな角度から撮ってるような気がするな~、くらいの、一般的なマルチカメラのライブ映像以上のものにはならなかったんじゃないか。折角なのでもっとえーっという感じのものを観てみたかった気がするのだが。で、そうなるとあとは、ひたすらライブを楽しむだけになるのですが、ビースティ・ボーイズ、かっこいいね~。全然枯れてないんですね、この人達は。

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【ピーナッツ】四つ星

そりゃ私は内P(『内村プロデュース』)の大ファンでしたが ! この映画を推薦するのはそんな理由からではない。内Pメンバーの個性をうまく取り込みつつ、てらわずに丁寧に創り上げているところも好感が持てたけど、ずばり、草野球の素晴らしさをきちんと描いているのがいいと思ったのだ。平凡な人達の平凡な営みの中にあって、野球自体が物事の何の解決にもならないし、試合中もここぞという場面ですら必ずしもいいところを見せられなかったりするけれど、一瞬、頭が真っ白になって、プレーしている人も、観客も、ただ一つの球を追いかける、その瞬間を美しいと思った。地味という声も聞くけれど、いい映画じゃん。私は好きだ。

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【ヒストリー・オブ・バイオレンス】四つ星

暴力に満ちた過去を捨てたはずだった男が、ある出来事をきっかけに否応なしに暴力の渦中に引き込まれていく様の描写が、凄まじくも的確だ。オスカーにノミネートされたのは兄役のウィリアム・ハートだったけど、眠らせていた暴力的な人格が呼び起こされてしまう主人公のヴィゴ・モーテンセンの内面的な演技も本当に素晴らしいと思う。クローネンバーグ監督の映画の中でも一番好きな映画の1本になったかもしれない。

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【BIG RIVER】三つ星

オダギリジョーさんが本当に英語を喋れるらしいということを確認できる(今後も海外からのオファーもバッチリOKですね ! )、という以外には、ありきたりのロードムービーという以上の印象を受けることができなかった……。面子にちょっと工夫をこらしている(日本人×パキスタン人×アメリカ人女性)という以上の、何かもうひとひねりが加えられないかな。というより、よっぽど凄いネタが無い限り、作り尽されてしまっているロードムービーというのは、どうやってもありきたりな印象になってしまうのではないだろうか……。

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【V フォー・ヴェンデッタ】三星半

ヴェンデッタとはイタリア語で復讐の意味なのだそうで、つまり本作は『Vさんの復讐』ということになりますね。最後までマスクを取らずにVさんを熱演したヒューゴ・ウィービングさんといい、丸坊主にされるシーンに果敢に挑戦したナタリー・ポートマンさんといい、役者はなかなかいいと思うし、筋もそこそこ面白いと思う。では何が足りないかというと……やっぱりビジュアル的なインパクトかなぁ。“独裁国家と化した近未来のイギリス”という設定がなぁんか弱くて、そこが観念的にしか語られないから、他のエピソードがいくら語られても何だかイマイチ膨らみ切らない気がする。大体、何度も出てくる薄暗い部屋の円卓に巨大スクリーンというセットが、“独裁体制”を描くにはあまりにも使い古され過ぎたイメージでお粗末。これも原作はコミックスということだが、いささかマンガチックな設定に充分なリアリティを与えるためには、強引に過ぎるぐらいの過剰な視覚的裏付けが必要なのではあるまいか。そのへんがやっぱり【マトリックス】とは違うんじゃないかなー。本作では脚本のみを担当したウォシャウスキー兄弟自身に、監督までしてもらうとなると予算が一桁違ってしまうのかもしれないが、やっぱりここはひとつ、彼等にお願いしておいた方がよかったのではないのでしょうか。

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【Black Kiss】四つ星

思ったより複雑な筋立ての猟奇サスペンス。松岡俊介さんだの安藤政信さんだの、草刈正雄さん、奥田瑛二さん、(チョイ役でオダギリジョーさんまで ! )といった案外豪華なキャストにびっくり。登場人物がみんな段々と怪しく見えてくる予断を許さない展開で、そのオチはギリギリアウトじゃなかろうかと思いつつも、最後まで楽しめた。手塚眞監督、こんなふうな商業映画寄りのものも創れるんですね。(これで商業映画寄り ? と言われるかもしれないが、監督の今までの多くの作品と較べてみるとかなり普通寄りです。)監督はあまり仕事をバンバンする必要もないのかも知れないが、こんなふうなものももっと沢山創ってくれたらいいのにな。

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【プルートで朝食を】四つ星

キリアン・マーフィ演じるトランスジェンダーの聖キトゥンは、近年観た映画の中でも一番愛らしい“女性”かもしれない。舞台はIRAの活動が活発だった頃のアイルランドとイギリス。性差別やら主義主張の違いなどから生まれる暴力や非寛容といった周囲の壁に動じることなくひたすら前を向いて歩いていくキトゥンは、その度にますます美しく、そしてしたたかになっていくみたい。希望を感じさせる晴れやかなラストシーンもとても好き。ニール・ジョーダン監督久々の、掛け値なしのクリーン・ヒット !!

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【ブレイブ・ストーリー】四つ星

原作の宮部みゆきさんはロール・プレイング・ゲームにはかなり造指が深い方とお見受けするので、本作もかなりロール・プレイング・ゲーム的なお話になるんじゃないのかな、と予想していたら、そのまんまじゃないですかー。完成度はかなり高いとは思うのだが、『ファイナル・ファンタジーXII』が世に出てしまった後では、このお話をまんまゲームで作ることが技術的に可能だということが見て取れてしまうので、だったらゲームでやった方が面白かったんじゃないのかなぁと、ずっとそればかりを思いながら見てしまった……。ただ、成長しきれていない大人達の引き起こした歪みを引き受けなければならない子供達、というベースに通底しているテーマにはうーむと唸ってしまったり、最後にワタル君が取った選択には不覚にもうるっと来てしまったりしたので、少しおまけ。
それにしても、面倒見切れないんだったら子供なんて作るなー !! と声を大にして言いたくなることがしょっちゅうなのだが、子供達が不幸になるのも幸福になるのも生まれてきてこそ初めて言えることなのかもしれないし、子供のいない自分にそういうことに口出す権利がそもそもあるのかな、というふうにも考えてみたり。この物語の主人公は科せられたものを背負って立ってみせたのだけれど(それがブレイブ=“勇気”という訳ですね)、子供達にそうやって期待しすぎてしまうのも大人の勝手だったりしないのかなぁ、などとまた例によって思ってみたりもして。

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【ブロークバック・マウンテン】四つ星

人にストーリーを説明していて、あぁそうか、これは純愛映画なんだとやっと気がついた。昨今は恋愛に障害なんてほとんどないから、今時こういうものを創るのは難しく、大変珍しかったりしないだろうか。
同性愛のカウボーイの話でもあるのだろうけれど、それだけでは括れない多層的なドラマ。妻との関係、明示されているシーンは少ないが厳しいのであろう社会の目……そして、カウボーイというもの自体が、打ち捨てられ、どこか時代に取り残されていく存在であるかのようだ。(この物語の始まりは1963年。その時代以降、アメリカ国内でも農業や畜産業に対する風向きは随分変化したのではないかと思う。)それでも誰かを心から愛した記憶だけは宝物のように心の中に残るのね。このラストに泣かされてしまった。

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【ブロークン・フラワーズ】四つ星

元プレイボーイが「あなたの息子が…」と書かれた手紙をもらって元恋人達を訪ねる旅に出る。このくたびれた元プレイボーイ役のビル・マーレイが出色。年をとることの侘びしさと、それもまぁ仕方が無いか、というような諦念はものすごく身につまされがらも、そのたたずまいが何だか絶妙におかしくて笑ってしまう。ジム・ジャームッシュ監督の映画を観てその題材に親近感を覚えたのは、私にはおそらく初めてのことだけど、しかしこの枯れた世界観は、若い人が見たところで面白いはずが無いと思う。だから若い人に感想を聞いたところで、この映画の本当の価値なんて点数には決して出てこないんだってば、『ぴあ』の平均点調査隊の人。

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【PROMISE】二つ星

チェン・カイコー監督もいい加減、出来がいい時と悪い時の差が激しい方だけど……。チャン・イーモウ監督が鳴り物入りで娯楽大作を作ってそこそこ成功したのを見て自分もやってみたくなった、という以外の製作動機があるのなら、是非聞かせてもらいたいものだ。何よりとにかくCGの出来が悪すぎる !! のっけからチャン・ドンゴンが猛スピードで走るというシーンでへなへなと腰が砕けた……アレはアカンやろ。お話も陳腐というか幼稚でどうにもならず……疲れたよう。

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【HAZE<ヘイズ>】三つ星

塚本晋也監督初のオールデジタル作品……なんだそうな。コンクリートに閉じ込められた空間、鉄パイプを歯でキィーーーって……キャ~ !! でも、話の展開が(一応あるんだけど)鈍く、切断された死体や血などには割とメンエキがあるものだから、そのうちあんまり興味がついていかなり、謳い文句にあるような「超恐怖」な状態にはならなかったんだけど……。塚本作品を観た時に必ず受ける破壊的なエネルギー、私は今回はあんまり感じなかったなー。

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【放郷物語】三星半

春の別れ。そして故郷。飯塚健監督は、どこにでもありそうだけど誰にも掬い取れない微妙な詩情を実に繊細に描き出している。まだお若いらしいのにこの手腕は見事だと思う。ただ、私はこの題材に今ひとつ興味を持ちきれないところがあるので、見ていてしんどいといえばしんどい。映画というメディアには、全く関係のない人をも引きずり込むだけの強引さや起爆力が必要な面もあるのではないか。このままだと、自分の世界を理解できる人だけに見てもらえばいいというように小さくまとまってしまうきらいはないのかな ?

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【僕のニューヨークライフ】四つ星

【アメリカン・パイ】(未見です)の主演でいらしたというジェイソン・ビッグスさんが演じていたこの主人公、本当ならウディ・アレンが自分で演じたかったんだろうな。ウディ・アレンにはない味があってまたよかったけど、このキャラクター、作家としての才気があるのかどうかよく分からず、彼女にいいように振り回されているだけのマヌケな人にしか見えなくもない……ま、ウディ・アレン的には、男性ってそんなもんだと言いたいのかもれませんが。しかし、この何の特徴も面白みもない邦題だけは何とかならないかな。

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【ぼくを葬<おく>る】四つ星

あと3ヶ月しか生きられないとなると……とりあえずは仕事を速攻辞めて、何人かの友達に会って、あとは死ぬまで毎日書きものをしてるかな。フランソワ・オゾン監督の映画にしてはびっくりするほど正攻法でストレート。いつ死んでもきっとそんなには後悔しないであろう私にはそれほど驚きのあるテーマではなかったけれど、奇をてらうことのないいい映画だったと思うよ、うん。

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【ホテル・ルワンダ】四つ星

1994年に80万人とも100万人とも言われる人々が殺されたルワンダの大量虐殺について、初めて知ってショックを受ける人も少なくないのかもしれない。作劇自体は割とオーソドックスというかよくあるパターンのようにも思えるし、ルワンダの大量虐殺の全貌が描けている訳ではないと思うけれども(創る人もそこまでは意図していないのだろうが)、一般に啓蒙を広める意味では、こういう映画はやはり貴重で、必要なものなのかもしれない。ただ、宣伝文句や紹介文に“世界の片隅で”とか使うのは止めた方がいいのでは。彼等にとってはそこが世界の中心なのだから。

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【マッチポイント】四星半

「危ない橋」というやつがとっても苦手な私にとって、この映画の、特に後半の展開ほど心臓に悪いものはなかった……心の中でず~っと「やめてくれ~」「え~っまだ続くの~?」と絶叫しながら観てましたけど。よくよく考えたら、自制心の効かない自己中アホタレ男の行く末がどうなろうと自業自得というもので知ったこっちゃないはずなのだが、観ている間中うっかりそうは思わせないのは、この男を演じたジョナサン・リース・マイヤーズの演技に有無を言わせない説得力があるおかげが大きいと思う。彼がここまで上手い俳優さんだとは私は知らなかった。いいもの見せてもらった。あと、ファム・ファタル役のスカーレット・ヨハンソンの妖艶さといったらない。あれでは女だってコロリと参ってしまうわ。彼女もこの映画でまた一皮剥けた感じがする。この映画を撮ってた時はまだ19歳だったんだって !! ウッソー !!
よくよく考えたら、浮気男が誰かを殺してしまうことまで考えるなんてプロット自体は、今までのウディ・アレン映画でもあってもおかしくない感じがするものなのだが、それが今までは七転八倒のコメディとして展開されていたものが、本作ではあくまでも、ある上昇志向の男が嵌まってしまった悲劇としてあくまでシリアスに展開する。内在化された罪を一生一人きりで背負っていくのは、想像を絶する苦しみに違いない。(映画の前半で男が『罪と罰』を読んでいたのにも意味があったのね。)私はこの映画だけを観たら、ウディ・アレン監督作品と判らなかったかもしれない。冒頭に出てくるネットぎりぎりのテニスボールのイメージが後半で上手く生きてくるなど、仕掛けがいちいちぴったり決まっているのもお見事。しかし、これだけさんざん膨大なキャリアを築いておきながら、今更また新機軸を打ち出してみせるのか……ウディ・アレンという人は本当に化け物だということがよく分かった。

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【間宮兄弟】四つ星

30代(以上の)独身きょうだいの二人暮しって、それってまるっきりウチのことですがな。私らは寝室は別にしていて、人をもてなすのは得意じゃないけれども、自分達が楽しければそれで一応は満足していて、そんなだから恋愛にはあまり御縁のないところなんかはそっくりかもしれない……。この映画の多くの論評を読んでいると、世の中の多くの中年の人ってそんなにも生活を楽しんでいないものなのかなぁ、と、ひとごとながら案じてしまったのだが。

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【マンダレイ】三つ星

【ドッグヴィル】での実験を更に押し進めている映画……というか、そういう実験は1本で充分だったよー !! と観ながら悲鳴を上げそうになってしまった。今回はアメリカの差別の構造をテーマにしたものらしいが、状況のなすがままに差別を受け入れている黒人の人達の描写があんまりにも愚か、というふうに取ろうと思えば取れなくもなく、いくらなんでもちょっとやり過ぎなのでは……と私自身は感じてしまった。(自由というものは絶対的に正しい宇宙の法則などではなく、差別というものは良くも悪くもその共同体を機能させるための装置なのだ、という説は一理あるとは思うけど。)ヒロインの行動原理も何様 !? といった感じで、どこをどう取っても愚鈍にしか見えなかったのにもゲンナリ。ラース・フォン・トリアー監督、こういうのをもう1本構想しているんですってぇ……正直言ってツライなぁ。というか監督は、どうしてそこまで自身の内の“アメリカ”なるもののイメージにこだわっているのであろうか。アメリカなるものが腐敗しようが破滅しようが、私にはどうだっていいことなんですけれど……。

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【水の花】三つ星

女の子の心の闇やら成長やらとか言ってる映画が好きだった試しがないので、暗~い部屋で女の子がうっつぷしているオープニングのシーンを見て帰ろうかと思ってしまった……いざ映画が始まってみると、自分と父親を捨てて再婚した母に生まれた妹を誘拐 ? して……というストーリーラインが一応あるから思ったほど辛くはなかったけど、結局、何が言いたい映画だったのかなぁというのは、私には最後までよく分からずじまいだった。あんな田舎町で見慣れない子供達がほっつき歩いてて誰も何も言ってこないとか、女の子に口紅引かせて一皮剥けましたみたいな(何十年も前から何百万回使いまわされた手なんだそりゃ)、表現の安易さが気になった部分が多々あって、これも何とかして欲しかったんだけど。

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【M:I:III】三星半

見たことも無いような目の醒めるようなアクションの連続に、製作も兼ねているトム・クルーズの並々ならぬ気合を感じる。ただ、スーパースターともなるとやっぱり、私生活のイメージというのはとても大事なのかもしれないのかなぁと……今回のトムさんの顔、なんか表情に乏しい作り物っぽく見えて仕方なかったんですよね……。フィリップ・シーモア・ホフマンやらローレンス・フィシュバーンやらという当代きっての名優の使い方も、私的にはなんかイマイチだったしな~(特に最後の辺り)。あくまでもトムさんを主役として引き立てなきゃいけないからしょうがないのかもしれないけど。それでも、トルーマン・カポーティを演じた人と同一人物とは思えない(まだ予告編しか見てないけど)フィリップ・シーモア・ホフマンのふてぶてしい悪役ぶりには惚れ惚れしてしまいましたが。

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【ミュンヘン】四つ星

明確に人を殺す、抹殺するという意志がここにある。スピルバーグ監督の今ままでのどの映画にも、どこかしらに残っていたヒューマニスト的な部分がカケラも無く、ただただ冷酷で非情。スピルバーグ監督作品って言われなければ分からなかったかも。テロも戦争の一種とも言えるだろうが、敵の姿が抽象的で漠然としているいわゆる一般の戦争よりも、人間の悪意がもっとはっきりと剥き出しになっていて、人類の最も醜い部分が描写されていると言ってもいいかもしれない。憎しみと復讐の連鎖は新たな憎しみしか生まない、こんな先に未来はない、と監督は明確に言っている。凄い映画だけど、軽い気持ちで見るとずしーんと落ち込んで後悔するかもしれないので、覚悟して観て下さいね。

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【メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬】四つ星

トミー・リー・ジョーンズってハーバード大学でゴア元副大統領とルームメートだったんだそうで、成程、メキシコ国境近くのカウボーイが殺された不法移民の友達の遺体を故郷に埋めに行く、なんてサム・ペキンパーばりの無骨な話を描いていても、どこか論理的ですっきりとスマートだ。(【ガルシアの首】には影響を受けているのだそうだ。本作と見較べてみると、監督の特質の違いが分かって面白いかもしれない。)いや、いい意味で言ってるのよ ? 人間の内面にある矛盾などの描きたい世界を巧みにバランスよく物語っていて、とても初監督作品とは思えないハードルの高い仕事を楽々とやってのけているのが凄いと思う。トミー・リー・ジョーンズってエラい才人だったんだなぁ。日本の缶コーヒーのCMで金を稼いで、また映画創って下さい。

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【燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY】一星半

これが30年前に作られていたというのならまだ許すよ。21世紀になって数年もたって今更こんなものを作ろうとするのは一体どういう了見なんだ ? 社員を家族のように考える、というのはおっさん達同士のみの社会の内輪の結束を強化する、っていう意味なんですか ? 女性も現地の人も昇進させないという方針で、挙句の果てにセクハラ騒動を起こしたという現地女性スタッフのあまりにお粗末な描き方に頭にきてしまった。物語の処理としても安易この上ないんじゃない ? 見に行って本当に時間を損した。

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【森のリトル・ギャング】二星半

アメリカの郊外には本当にアライグマやらスカンクやらが出没してゴミを荒らしたりするらしいので、アメリカのある層のマジョリティにはこれは結構馴染みがある設定ということになるんだろう。でも日本の人にはそういうのは分かんないから、家族愛がどうとかいう中途半端でヌルい売り方しか出来ないという訳ね。……でも、その辺の事情を差し引いて考えるとしても、映画の出来としてこれはどうなのよ。動物達はあまりに擬人化されすぎていて何だか気持ち悪いし、大体、主人公のあまりに利己的な動機にはのっけから全く乗ることができないし。いくら後半で改心するお約束だからって、その前に、観客をそこまでついて来させなきゃ意味がないんじゃないのかな ?

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【闇打つ心臓】四つ星

そういえば1982年のオリジナル版って見てなかったっけ、と映画を見て初めて気付いた。内藤剛志と室井滋が20年以上前に演じたオリジナルの物語と、20年を経た彼等の現在の物語、そして現在のまた別の若いカップルの物語と、3つの物語が入れ子になって展開し、そこにこの新版の製作過程そのものがメタシネマ的に呈示されるのが、何だか妙な興奮を喚起する。長崎俊一監督が原点回帰して、映画なるものの原初の姿と手探りで格闘しているみたいだ。ストーリー映画しか見たことがない人はもしかしたら面食らってしまうかもしれないが、ディープな映画好きの方々には是非一見してもらいたい作品。

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【やわらかい生活】三星半

精神的な病を持っている人の描写は難しいんじゃないのかな。そういう人は、ともするとそこ自体にアイデンティティを持っているように見えて、それが自意識過剰に見えてしまうことがある場合もあるから。まぁそこは近親憎悪もあるとは思うんだけど(また、そんな近親憎悪を思い起こさせるほど寺島しのぶさんが上手に演技をしているということなんだろうけど)、それにしても、性的に自堕落でいられるのは、私なんかよりはよっぽど人間というものを信頼できているんだろうな、などとも思ってしまう。こういう女性像は観念的な空想の産物に見えて仕方がない。まぁ大体が、“共感できる女性像”とか標榜されているものを見て共感できた試しがありませんけども。(とか荒木晴彦御大に言ってみたところで100万語で反論されそうだけれども。)でも後半の豊川悦司さん(中途半端に生きている優しい男の役)とのやりとりのシーンはリアルでちょっと面白くて、そこで少し盛り返したかな。

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【雪に願うこと】四つ星

都会で傷ついた人間が田舎に行って癒されるとか、そういったプロットのお話は基本的には大嫌いなんだけど、そのテのアレルギーにあまり陥らずに観ることができたのは、エピソードの一つ一つが丁寧に描出されていて、それぞれのシーンをちゃんとリアルに感じることが出来たからでしょう。伊勢谷友介君がもともと持っている滑舌の悪さが本作ではちょっと気になるレベルだったのと、小泉今日子さんが小綺麗すぎていくら水商売の人でも地元の人には見えない、といったところだけがちょっとしたマイナス点。山下敦弘監督の映画でおなじみの山本浩司さんは、神戸浩さんの後を継ぐ貴重な性格俳優になれるかもしれない ? それにしても、よ~く考えると、根岸吉太郎監督の映画をちゃんと鑑賞したのはこれが初めてだったかも。

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【ゆれる】五つ星

この兄弟の葛藤をアベルとカインになぞらえる評も見た。私は、現代版の『藪の中』みたい、とも思った。地方と都会の隔絶について述べる人もいた。香川照之・オダギリジョーの2人を始め、伊武雅刀、新井浩文、蟹江敬三、木村祐一、ピエール瀧、田口トモロヲ……いずれも仕事に手抜きのない人達だけど、それぞれのキャリアの中でもベスト・アクトの1つだったんじゃないか。この映画を観て、今年はもう観るべき映画を観たな、と一瞬思った。前作【蛇イチゴ】の際に西川美和監督は天才 ! と書いたのが間違いじゃなかったことに、何だか自分まで誇らしい気持ちになってしまった。

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【陽気なギャングが地球を回す】四つ星

その作品ならではの娯楽的要素をきちんとまとめ上げることができる前田哲監督の作風が好きで(その割には全作をフォローしてなくてごめんなさい……)、本作の噂を随分前に耳にしてからずっと楽しみにしていた。アイドルや芸人さんが出演する企画物もよいけれど、本格的な俳優さんが熱演する作品もたまには観てみたいじゃない !? で、賑やかでアップテンポで、期待に違わぬ出来。「ロマンはどこだ ! 」というキメ科白がとっても素敵。こんなC調な役でも完璧な佐藤浩市さんの圧倒的にうまさにはほとほと恐れ入ったけど、彼との掛け合いのシーンを冷静に堂々とこなしていた松田翔太さん(かの松田優作さんの次男で龍平君の弟 !!)も大した逸材だと思う。これからの出演作が楽しみだ。

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【ヨコハマメリー】四星半

横浜にはかつて、『メリーさん』という白塗りのお婆さんがいて都市伝説と化していたのだそうな。このメリーさんの軌跡を、関係者の証言などで追いかけているドキュメンタリーなのだが、そこには、かつて愛した人がいて横浜を離れられなかったらしい娼婦のメリーさんの人生のみならず、戦後の混乱期に米軍基地を抱えていた横浜の当時の様子、当時の関係者の現在の様子など、いろいろなものが浮かび上がってくる。横浜ってそんなにも知られざる様相を抱えた土地柄だったんだ、という事実にまたしても驚かされる。後年のメリーさんを経済的にも援助し続けたというシャンソン歌手の永登元次郎さんという方の存在もかなりフィーチャーされているのだが、この方もかなり大変な人生を送ってこられた方で、この方の歌う『マイ・ウェイ』は、今まで聴いたことのあるどの『マイ・ウェイ』よりも胸にヒシヒシと迫ってきて、気がつけば本気で嗚咽してしまっていた……。フォーマットや音楽の使い方などには必ずしも賛成でない部分もあるのだが、この映画の中に浮かび上がってくる人間なるものの姿の深遠は、そんな些細な違和感を補って余りある。世の中は余りにも知らないことが多すぎる。無知な私が永登さんを知る前に、永登さんはこの撮影のすぐ後に既に癌でお亡くなりになってしまったそうで、最早私には、それが安らかな眠りであることをお祈りすることしか出来ないのだ。

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【力道山】 四つ星

力道山となるとさすがに世代が少し上。映画館にも、往年のファンとも思えるおじさんの姿が目立っていた。誰よりも強くなる、ということだけを信条に、あちこちにぶつかって傷だらけになりながら不器用に生きた男の人のドラマで、あまりにも不器用ゆえ、もう少し何とかならんのかとも思うこともしばしばだったが、この年代にはこういう不器用な人って少なくなかったのかもしれない。力道山はソル・ギョング以外のキャストではムリだったと思うほどの熱演だったけど、やはり日本語の滑舌にほんの少し違和感があったため、折角ここまでやって戴けたのなら、製作側が気を遣って、更にもうほんの少し日本語を特訓する時間を都合して下さることはできなかっただろうか。

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【リバティーン】三星半

1660年代の王政復古期のロンドン、と申されましてもあまり馴染みのない時代設定だし、ジョニー・デップもジョン・マルコヴィッチもあんまりイギリス人には見えないような気が……。どうしても“生”の実感を持てない退屈しきった人間が、それでも頑張ってあがいて生きようとした話、と捉えれば現代的なテーマが含まれていなくもないのかもしれないけど。放蕩詩人役のジョニデさんも見た目があまりに汚ない役なので、ファンの方にとってもこれはどうなんでしょうねぇ。

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【LIMIT OF LOVE 海猿】四星半

映画の前作もTVシリーズも結局全然見てないんだけど、そんな私が見ても海洋サスペンスアクションとして充分楽しむことが出来るような出色の出来栄え。勿論、今までのシリーズを見ていればもっと楽しめるのだろう。このシリーズはいろいろないいことろがあって支持されているのだと思うが、人命救助にあたる潜水士の皆さんの職業倫理がきちんと描かれているのが見ていて心地よいなぁと私は思う。フジテレビの亀山千広チームは、しばしばTVの企画と絡めたエンターテイメント大作作りのノウハウをすっかり身につけたようだ。伊藤秀明さんは決して器用なタイプの役者さんではないと思うんだけど、いろんな作品への出演を重ねるにつれ、独特ないい存在感をどんどん出せるようになってきていると思う。

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【輪廻<りんね>】三つ星

清水崇監督の映画をまだ1本も見たことがなかったので、そろそろチェックしとかなきゃいかんかと思って、戦々恐々としながら見に行った。そしたらあろうことか、全っ然恐くなかったんですよね……。降りかかる運命になすがままにされて打ちのめされるだけじゃなく、ちょっとは抗ってみんかい ! まともな大人なら誰しも、理不尽な運命に対して足掻いてみた経験が1度や2度はあるだろうから(そして気がふれそうになってしまったことくらい1度や2度はあるだろうから ? )、こういうオチはちっとも恐くないんじゃなかろうか。でも、場内の高校生以下とおぼしき皆さんは優香さんの鬼気迫る熱演を大いに恐がっていた人もいたみたいだから、それで映画の目的は果たされたことになるのかな。うーむ、なんか面白くないぞ~。
大人にとって一番恐いのは、愛しているものを失うことなんじゃないんでしょうか。清水監督、今度はその線で一本作ってみられてはいかがでしょう ? しかし、清水監督の真骨頂を見るためには、やっぱり【呪怨】を見なきゃ駄目なのかな……(嫌ー !! )。

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【るにん】四つ星

見る前は気が重かったが、見始めてみると案外引き込まれていた。江戸時代の流刑囚の島の人間模様というのは、時代劇の中でも案外ありそうでなかった視点かも。松坂慶子さんをどん底の暗闇の世界の菩薩様か何かのように描きたかったのかな。ヒロインの情夫が“こういう闇が欲しかった”とか言ってるのは何のこっちゃという感じだし、ところどころ演出が行き過ぎと思えるところもなきにしもあらずだが、底辺のそのまた底辺の、打ち捨てられた人々の中だからこそ際立つ有象無象の剥き出しの人間性の描写は、監督としての奥田瑛二さんの真骨頂と言えるのではないか。

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【レジェンド・オブ・ゾロ】四つ星

バンちゃん(アントニオ・バンデラス)のハリウッドでの一番の当たり役なのですが、もっと他の役をやっているところも見たいかも……というか、やってても見に行ってない私が悪いか。ごめんなさい。や、もう単純に面白かったですよー。既にストーリーとか全然覚えてないけど、見てて嫌にならない程度に色々趣向が凝らしてあったのは確かだったと思う。このキャストでこれくらいの出来が見込めるのであれば、vol.3があってもうっかり見に行ってしまうかもしれない。

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【レント】四星半

私はミュージカルの映画化にそれほどには興味が無い方なのだが、本作は、予告編の「525600 minutes」(1年=525600分、… how do you measure a year ? と続く)の歌を見てなんとなく魅かれたんですね。舞台のオリジナルのキャストがほとんどそのまま出演しているとのことで、他のミュージカル映画に較べても歌の上手さはとにかくピカイチ。特にハーモニーがものすごくて圧倒されまくりで、これは一見しておかない手はないと思う。ストーリーの方は、はっきりした筋書きがあるというよりは、エイズなどの不安材料と未来に対する期待が入り混じる世紀末ニューヨークのの芸術家達を点描したという感じ。そこに今現在の世界とはまたちょっと違った空気感を感じないでもないけれど、それはそういうものとして観賞すればいいのかなとも思う。しかしクリス・コロンバス監督って、こういう翻案ものを創らせたら本当に手堅くて間違いが無い。こういう才能も凄いなぁと最近思う。

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【ローズ・イン・タイドランド】四つ星

テリー・ギリアム版少女の悪夢の世界。ただ、いわば少女の妄想の中身だけで話が進んでいくようなものだから、彼女のモノローグだけで繋いでいく中盤の平坦さが正直ちょっとツラかったかな。ともあれ、ここ近年のギリアム監督の作品では出色の出来であることは間違いなかろう。

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【ロシアン・ドールズ】四つ星

なんか変な題名だなぁと思ってたらこれはマトリョーシカのことなんだって。おそらく英語のタイトルをそのまま使ったんじゃないかと思うけど、どうなのかなぁ。主演のロマン・デュリス君がロシアのパツキンの姉ちゃん達(複数)に囲まれている姿を思わず想像しちゃったじゃないの。実際の筋は、最後に出てくる人形ならぬ最後に出会う恋愛を求めながらも、恋も仕事も何もかもがうまくいかず中途半端な30歳男子の逡巡を描くもの。"男子"と書いたのは、"男性"にしてはちょっと成長しきっていないよなぁ、というニュアンスを込めて。何か情けないのかもしれないけれど、今って人間がそんなに簡単には成熟できない時代で、そこのところがすごくリアルなんじゃないかと私は思う。前作の【スパニッシュ・アパートメント】とどちらかを見るのなら、私はこちらをおススメします。

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【笑う大天使<ミカエル>】二つ星

川原泉さんのコミックス、いっぱい持ってます。昔は結構じっくり読んだものだし、今でも時々読んだりしてますよ、ええ。まぁ確実に言えることは、原作のファンや、ましてや川原泉さんの熱心なファンの方は、絶対に見ない方がいいようなシロモノだったってこと。アニメ・オリエンテッドな感性のおにーさん達が、寄ってたかって、原作の面白そうなエピソードだけを適当に剥ぎ取って換骨脱胎して、自分の好きそうなもの(【キル・ビル】の中途半端なまねっことか)を適当に混ぜ入れてつぎはぎしてしまうとこうなってしまうのね……。原作の最大の魅力であるあのおおらかなユーモラスさも、実は激しく少女漫画的なセックスレスな世界観に裏打ちされたものだったので、中途半端な色気が盛り込まれてしまうと全然成立しないのだと痛感。あ~あ、全く分かってない。確かに、映画と原作が同じじゃなきゃいけないってことはないけど、おそらくこの映画単体で見たって、エピソードの詰め込み過ぎで全くの説明不足、とても出来がよさそうには思えないんだけど……。

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【WARU ワル】三星半

やっぱり三池さんの真骨頂はヤクザ映画だわ。前半は特に三池崇史監督らしくてシビレた。暴走する荻原流行さんなんてこのままどこいっちゃうんだろ?と本気でワクワクした。でも後半は大風呂敷が広がりすぎ、予算もついていかなかったのが見え見えでちょっと失速した感じで残念。原作の真樹日佐夫さんという方は、格闘技系の方で、よくも悪くもナルシスティックなところがあって、それがちょっと話の展開を阻害してしまったのではないかと思ったのだがどうだろう。でも監督、妖怪がどうしたとかいう話なんて作ってる場合じゃないですよー ! 私はこういうの見たいですー !

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【ワンピース カラクリ城のメカ巨兵】四つ星

本当の本当に今更なのですが、なぜかこの年明けから、マンガの『ONE PIECE』にはまってしまいました。アニメ版にはオリジナル・ストーリーもあるということで、3月にやってたスカパーの「ワンピースまつり」も全部見てしまいましたとも。このマンガのどこが面白いのかなんて、きっともうあらゆるところで語り尽くされているでしょうから割愛しますが、やっぱり『ジャンプ』の屋台骨を背負って立つ人ともなると才能のケタが違うんですね~。ちなみに原作者の尾田栄一郎さんは結構な映画好きなんだとか。なんか嬉しいかも。
映画版にはいろいろなタッチのものがあったのだけれど、やっぱりハチャメチャで楽しいのが『ONE PIECE』の世界の基本線なんじゃないのかな。本作では世界征服なんて物騒なこと言っているけど、基本的には子供のケンカなので、深刻になり過ぎなくていいやね。(でもこの子供っぽさ加減に、亡国の大統領の姿なんかがちらっと頭をよぎったりもします。)原作とリンクしている箇所もあってニヤっとしてしまったり、ゲストの稲垣吾郎さんや極楽とんぼのお二人の声も嵌まっていてよかった。もう文句なしに楽しくて面白かったけど、設定もストーリーも、キャラクターの活躍のさせ方も、ものすごく深いところまで考え抜いて創られているんじゃないか。今回の映画版は、TVアニメ版の総監督の宇田鋼之介さんの監督作とのことだけど、さすが『ONE PIECE』の世界を隅から隅まで深く理解していらっしゃるのだなぁ、これこそプロの仕事だなぁ、と感心することしきりだった。

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