Back Numbers : 映画ログ No.82



【アオグラ】三星半

青森青春グラフィティ、略して“アオグラ”なんだそう。田んぼのあぜ道をオートバイがひた走る予告編を見てちょっと引かれたんだけど、現代の物語を勝手に期待していて、昭和40年代の話ということでちょっと気が削がれてしまったかも。果たして、地方に対して感じるのであろう独特の郷愁に、時代的なノスタルジーを加味する効果はあったのかどうか……原作ものらしいからしょうがないんだろうけど。登場人物達のやりとりが生き生きしていたのはそれなりに面白かったけど、色んな要素を詰め込みすぎてしまったこともあって、焦点が中途半端にぼやけてしまったような気もする。

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【アガサ・クリスティーの奥様は名探偵】四つ星

予告編で見たら何か雰囲気が楽しそうだったから、謎解きの類いにはあまり興味はないけれど行ってみることにした。劇中では結構大変な事件が起こるけれど、まるで子供みたいな好奇心に満ち溢れている有閑マダム(【女はみんな生きている】のカトリーヌ・フロ)と、彼女を優しくサポートする旦那サマの、孫がいるくらいの年回りのカップルの姿が終始微笑ましくて、楽しんで見ることが出来た。しかし、悠々自適ってこんなふうな暮らしぶりのことを言うんでしょうね。ウラヤマスゥィ~~ッ !!

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【アキハバラ@DEEP】四つ星

ネット社会に造指の深い人だと、この図式的でマンガ的なIT会社の描き方に馴染めない人もいるかもしれないけれど、単純に、娯楽ものとしてのツボを押さえつつよくまとまっていて面白かったんじゃないかと私には思えた。普段とは随分とイメージの違う武闘派の女の子役(コンピュータおたく揃いの面子の中で一番強い)の山田優さんもよかったけれど、過去にひどいイジメに遭った経験から吃音がある(込み入った会話をする時は皆でコンピュータを広げてチャットをする ! )リーダー役の成宮寛貴さんがとてもよかった。私はこの人の素顔をいつもあまり思い出せないんだけど、何かの作品でお見かけする度にいつも、成宮寛貴さんという人の演じている誰かではなく、その役柄そのものの人物として映る印象がある。この人は息の長い役者さんになるんじゃないのかな。どうだろう。

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【明日へのチケット】四つ星

エルマンノ・オルミ×アッバス・キアロスタミ×ケン・ローチという、カンヌ映画祭受賞監督の揃い踏みは、やっぱりそれなりに見応えがあった。老境のちょっとした心のときめきを、そこはかとない哀しみを滲ませながらも格調高く描いたオルミ作品も、あの【Sweet Sixteen】のマーティン・コムストン君が大きくなって、気のいいサッカー三バカトリオの一人を演じているケン・ローチ作品も味があったけど、実は私が一番好きだったのは、一般にはあまり評判がよろしくないらしいキアロスタミ作品だったのです……。若くて綺麗な男性に理不尽な命令を下し続けるこのおばはん(軍の偉い人の未亡人で、男性にとっては兵役の一環という設定)のイケズさは、実は、それだけこの人が孤独であることの証明じゃないかと思ったんですが。何よりも、彼女には、若い男の子を意のままに動かすことができるという状況が嬉しくて仕方なかったのでは ? というのがな~んか分かるような気がするのが……我ながら嫌だなぁ(笑)。

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【アタゴオルは猫の森】三つ星

確かにCGはものすごく綺麗だったんだけど。原作でどうなっているのかは知らないのだが、本編の主人公のデブ猫・ヒデヨシ君は、ひたすら食べ物と我が身の可愛いさのことしか考えていない(少なくともそんなようなことしか言わない)ため、見ていてほとんど共感できないというか、不愉快ですらあったのだが……。最後の辺りになって、自分達はとことん生きるために生まれてきたのだ、みたいな台詞があってやっと少し分かった気がしたのだが、それじゃ遅いんじゃないでしょうか。脚本にもう少し工夫が必要なんじゃないのかな。

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【あるいは裏切りという名の犬】三星半

邦題は本年No.1かもしれないくらいすごくいいと思った。けど、主人公のダニエル・オートゥイユが犯罪者の口車に易々と乗せられてしまった時点で、その先まずい展開になってしまうのが見え見えで、なんかそりゃ駄目だろと思ってしまったのは私だけ ? フィルム・ノワールの主人公なら、相手を常に出し抜くくらい万事に抜け目がなくて丁度いいんじゃないかと思うのに、特に前半のこの主人公は、少しやることが甘いのでは。そんな旦那の言いつけを破ってわざわざ死にに行き不幸指数を高める奥さんなんぞもよく分からない。……それとも、この筋立てにあまり乗ることが出来ないのは、ただ私のハードボイルド感性が低いせいなのかな ?

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【unknown <アンノウン>】四つ星

ミュージック・ビデオやCFで名を馳せたというサイモン・ブランド監督がコロンビアのご出身だということを聞いて、なんとなく興味があって見に行った。密室の誘拐犯と被害者が、記憶を一時的に喪失するガスを吸っていて誰が見方で敵なのかすら分からない、というところから始まり、やりすぎ !? とも思えるほどの終盤の逆転に次ぐ逆転劇に、何か見たこともないようなものを作ってやろう ! という気合が感じられた。悪くないんでないかい。

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【硫黄島からの手紙】四星半

戦場という特殊な状況下で、日本の風俗そのものの描写はそれほど必要ないことを割り引くとしても、かつてこれほどまでに日本の俳優さんが大量にメインに出演し、その描き方に違和感が無かったアメリカ映画は無かったのではないだろうか。どれだけの知識と経験と度量があればこんなことが可能になるんだろう……クリント・イーストウッド監督という人は本当にスケールが違うと改めて実感した。渡辺謙さん、二宮和也さん、加瀬亮さん、伊原剛志さん(バロン西さん(日本人唯一の馬術のオリンピック金メダリスト)って硫黄島で亡くなっていたって知りませんでした)らの日本人キャストも皆惚れ惚れするほど素晴らしく、敢えて難点を言えば、監督が描きたかったはずの戦争の悲惨さなどのテーマより何より、ひたすら映画の完成度のあまりの高さに見入ってしまっていたことじゃないかしら……。

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【イカとクジラ】四つ星

このイカっていうのはダイオウイカのことで、理科のイラストによくあるでっかいダイオウイカとクジラの喰い合いのイメージを、離婚したパパとママの争いのイメージになぞらえているみたい。修復不可能な両親の間で右往左往する子供達というテーマを的確に捉えている新鋭ノア・バームバック監督の描写力は大したものだと思うけれど、この知識偏重主義者で周りを小バカにしている世間知らずの父親像と、そんな父親を知らずに真似てしまっている息子の姿って、見ていて愉快なものではなかったかもしれないなぁ……。

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【市川崑物語】四つ星

岩井俊二監督は、かつて市川崑監督の【犬神家の一族】を観てもの凄く影響を受けたそう。そんな個人的な敬愛ぶりと、市川監督のフィルモグラフィをオーセンティックに継ぎ合わせて、こんな映画を軽ーく創ってしまえる岩井監督の才能も大概凄いなぁと思う。市川監督の仕事の中でも、ほとんど専属の脚本家だった奥様の和田夏十さんとの関係性を丁寧に掘り起こしている部分が個人的には特に興味深かった。前にも書いたと思うけど、市川監督が最もクリエイビティを発揮したのは、和田夏十脚本の作品群だったのではないかと思っているので。

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【無花果の顔】二星半

なんかこう、話がのっぺりしていて、入っていくのが難しいような気がするのは、演技をしているというよりはただそこに存在しているのみという感じがする主演の山田花子さんの佇まいのためなんだろうか……。監督としての桃井かおりさんの独特の視点は感じられるんだけど、いわゆる普通のストーリー映画ではなく、純文学的なちょっと難しいエッセイといった趣きに仕上がってしまっているように思われるのだが。

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【犬神家の一族】三星半

今回、この映画に合わせて、岩井俊二監督による市川崑監督のドキュメンタリーも公開されたけれど(上記参照)、この作品は、前回製作された当時、私と同年代の映画ファンの人々にそんなにも影響を与えていたのか……映画を見るという文化自体を知らなかった私には全く分からなかったのだが。
今回の再映画化は、当時そんなファンの一人だったという一瀬隆重プロデューサーの音頭で実現したものらしいのだが、でも正直、そうすることの必然性が果たしてどこまであったのかなぁと思う。島田陽子さんやあおい輝彦さんの記憶があるから、おそらく後になってTV放映された前作を見ていると思うんだが、細かい筋立てが前より微妙に雑で説明不足な気がするし、金田一耕助はさすがにちょっと老け過ぎな気がするし、犯人はもっと因業という言葉の匂いが合う人に演って欲しかったような気がするし(古谷一行さんが金田一役だった昔のTV版の犯人は京マチ子さんだったらしいと最近知ったのだが、これが子供心に震えが来るほどカッコよかったんですよ!)、助清さんは、犯人役の女優さんの実の息子さんという話題性を取るよりも、もっと分かりやすくハンサムな人に演って欲しかった気がする。前回とほとんどそっくりに作ることを標榜したという割には、前作の出来に至らないところばかり目についてしまうような気がするのは、どうしてなんだろう ?

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【UDON】三星半

よく考えたら、本広克行監督って、今現在、実写映画の監督としては日本で一番稼いでいらっしゃる方なんですよね。本作にもそういう勢いが感じられて、娯楽ものに必要ないろんな要素を押さつつ、讃岐うどんの薀蓄なんぞも絡めながら展開させる語り口は、上手だなぁと素直に思う。おそらく宛て書きなのであろうユースケさんの存在感も嵌まっているし、共演陣もそれぞれにいいし、出来に特に悪いところはなく、間違いなく一通りは面白い。のだけれど、何か妙に解説口調なのが、私にはどうも気になる……面白さのポイントまで噛み砕いて説明しましょう、みたいな感じ ? う~ん、別に、製作側が見る側のレベルを低く見積もっている……という訳じゃぁないんですよね ?

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【映画監督って何だ ! 】四つ星

映画監督は映画の著作権者である……というのが結論なのだが、その昔、大手映画会社の陰謀や根回しによって、法律上、著作権は映画のクリエイターには一切認められなくなり、金を出しているプロデューサー側にのみ認められて、それが現在まで続いているのだとは知らなかった。(そのような状態に至ったプロセスを、総勢200人位の映画監督が演じるスキットなどで説明しています。これ、映画自体としては相当珍品ですよ ! )当時は、映画の権利を一本化して二次使用をスムーズにするという大義名分があったらしいのだが、数社やそれ以上の会社が当たり前のように絡んで権利関係が複雑化している現在の状況では、そんな言い訳も最早あてはまるまい。かつてプロデューサー側は“監督を始めとする現場の人間が何かを創造している訳ではない”と詭弁をふるっていたそうだが、……確かに、あまりクリエイションが感じられないようなシロモノが増えている現状もあるかもしれないが……著作権が確立している他の表現媒体で必要な程度の創造性が映画に限っては必要ない、なんてことはありえないのだから、このような前時代的な法律が一刻も早く改正されるようにお祈りしています。

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【エコール】四つ星

ルシール・アザリロヴィック監督って、あのギャスパー・ノエ監督のパートナーで【ミミ】を監督した人だったのね。そういうことは早く言ってよ、あやうくこの映画、見逃してしまうところだったじゃない。……というか実は、ロリータ趣味の人が泣いて喜びそうな雰囲気を彷彿とさせる予告編を見て、ちょっと遠慮しとこうかなぁとか思ってたんですよね……。性に目覚める前の少女達の過剰な“Innocence”(原題)は、逆に過剰にエロティックに映ったりして(それが監督の狙い通りなんだろうけれど)、その空気がむせ返るほどに充満しているのに、正直、ちょっと気持ち悪くなってしまった……うっく。

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【Oi<オイ> ビシクレッタ】三星半

実話をベースにしたブラジル映画。子供達を養うため都会で職を探して高給取りになりたい男が、妻と子供5人(そろそろ反抗期の息子と乳呑み児を含む)を引き連れて、金がないので自転車旅行、その距離なんと3200km !! 無謀にも程があるってば !! しかしこの男、家族を養おうとしてるだけまともなんだろうけど、途中で仕事にスカウトしてくれる人もあったりするのに、変な意地とか見栄とかで家族に迷惑かけたりもして……これだからラテン男ってのは。で、映画中ずっと給料のことばかり言い続けていた割に、その辺りが未解決のまま終わっているのが、ちょっとカタルシスに欠けてしまっていたかも。結局はこの家族の絆の深さを描いた映画だった、ということでいいんでしょうけれど。ブラジル国内での距離感が若干掴みにくかったのだが、これでブラジルを旅行したことなどがあれば、この映画のもの凄さがもっと身に迫っていたかもしれない。

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【王の男】四つ星

この王というのは、韓国の歴史上では有名だという16世紀頃の狂王・燕山君(ヨンサングン)と、彼に運命を翻弄されることになる主人公の“芸人の王”のダブル・ミーニングなんだそう。(でも“芸人の王”の方は原作の舞台劇にはないオリジナル・キャラなんだって。)この“芸人の王”と、彼の伴侶(!?)とも言うべき美しい“王の男”が、最後に見せる芸人としての意地と矜持に、何だか感動してしまった。題材の採り方も独特で面白いと思う。韓国映画もまだまだ奥が深そうだな。

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【オープン・シーズン】三星半

動物ものの3Dアニメはもう飽きた ! けど、本編の監督が女性であることと(アニメ業界ではまだ大変珍しいのではないかと思う)、女性森林警備員のキャラクター設定にちょっと興味を引かれたのよね。で、その森林警備員に溺愛されて育った熊さんとの間に親離れ・子離れというテーマが設定されているのはなかなか面白い着眼点かも、と思ったんだけど、後は普通によく出来た3Dアニメという印象だったかなぁ。

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【大奥】三つ星

「あーどうしてこれを見に来てしまったんだろ……」と見ながらずっと思ってました……今ノッている女優さんが大挙して出ているのを見逃すのは勿体ないかな ? とちょっと思ってしまったからなんですが。まぁこういうのは、ざっくりした設定を笑いながら楽しむものと最初から割り切って見ればいいものなんですよね。……しまったぁぁ。

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【カポーティ】四星半

絶賛されたフィリップ・シーモア・ホフマンさんの演技が、実際のトルーマン・カポーティにどのくらい似ているのかは、何せ本物を知らないので判らないけれど、作品のためには対象を食いものにすることにすら躊躇が無い作家のアーティスト・エゴをテーマにして真正面から描いているのが、映画としてはあまり見掛けないもので、なかなか興味深いのではないかと思った。この手の話にしては、物語として起承転結をちゃんと盛り上げてあるのも珍しく、筋書きの切り取り方や構成もかなり上手いのではないだろうか。滅多に無いくらい大変まともに創られた作品だなと感じた。

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【気球クラブ・その後】四星半

あの園子温監督が青春映画を創るって“ありえない ! ”と思ったけれど、監督のちょっと意地悪なまでに捻れた斜めからの視点が意外なほどに鋭い観察眼となって、実はすれ違ったり噛み合わなかったりする若い時代の切なさを、絶妙な角度から描写していることにびっくりした。園子温監督作品の中ではかなり誰にでも勧められる映画になっている、ということに留まらず、青春映画の傑作と言っていい出来になっているのではないだろうか。

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【木更津キャッツアイ ワールドシリーズ】四つ星

自分の中では、キャッツはやっぱりTVシリーズで終わっているのかもしれないなー、と再確認しつつも、未だにこれだけ人気が高く、新作を待ち望む声が多かったのであろう状態で作られた作品なのだと思えば、見事な引き際と言っていい出来になっていたのではないかと思う。(ていうか、これだけ最後と喧伝しているのだから、本当にもう新作は作らないで下さいね。みっともないから。)故人の復活、という下手すると鼻白んでしまうようなネタを、過去の有名な映画(【フィールド・オブ・ドリームズ】です)に引っ掛けて訳の分からない説得力を持たせてしまう方法には一本取られた ! 皆さんのその後、というネタも、(私にとっては必ずしも必要なものではなかったかもしれないとしても)まぁ楽しかったけれど、個人的に今回一番印象に残ったのは、小日向文世さんの圧倒的な上手さだった。最愛の息子の死に直面する父親の悲しみは、キャッツの面々とはきっとまた次元の違うものであって、お話により一層の深みを与えてくれていたような気がする。ということで、色々語っていると長くなるので、この辺で。キャッツアイ・フォーエヴァー !! 今まで楽しませてくれて本当にどうもありがとう !

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【キャッチボール屋】四つ星

客とただキャッチボールをするだけのキャッチボール屋というものをなりゆきで引き継いだ男と、公園に三々五々集う常連客達。1つ1つのエピソードはなくはない感じでも、それがまとまるとやっぱり現実にはありえないような、そんな一種の微妙な感じの大人のファンタジーとなっている。はっきり言って派手さは全くと言っていいほどないのだけれど、主演の大森南朋さん(意外にも単独主演は初めてなのだそうだ)を始めとした、寺島進さん、松重豊さん、光石研さんといった激シブキャストのとても丁寧な演技で、少しの間も目が離せないような磁場と見応えを醸し出している。特に、借金取り男の、タイミングと呼吸が抜群の軽妙な演技に心から惚れ惚れしてしまったのだけど、久々にお見かけした感のある水橋研二さんだった。どなたか、是非水橋さんをコメディに出演させてみては下さいませんか !?

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【グエムル -漢江の怪物-】五つ星

始まってあまり時間も経たないうちに、グエムルさんが川からずるんっ !! と岸に上がって来て、ヤジ馬で集まっていた人達をぐわーっ !! と追いかけ始めた時点で、もう心をわしづかみにされてしまった !! でもって、大事な子供を奪われた一家(この家族というのも、お父さんにお祖父ちゃんに叔父さん・叔母さんとかなり変則的)が、国とか警察とか軍隊とかに頼ることなく(それらのものにはそれぞれ問題があるので頼ることができず)、あくまでも家族レベルの問題として怪物と戦おうとするところが斬新。(怪物のデザイン自体は、確かに日本のアニメに影響を受けている可能性はあるかもしれないけれど、このくらいの意匠の引用のし合いなら、映画の世界では普通に行われていることなんじゃないのだろうか。)それでいて最後は、ハッピーエンドとは言えないが、単なる家族愛に終わらない物語の帰結になだれ込む。ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、パク・ヘイルといったポン・ジュノ組の俳優さんたちの迫真の演技も相俟って、とにかく最初から最後まで驚かされっぱなし !! SF ? 怪獣もの ? そんな枠では括り切れない、見たこともないようなものばかりがぎっしりと詰まっている映画だった。ポン・ジュノ監督の才能はケタ外れだ。すげぇ……。

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【薬指の標本】四つ星

これは小川洋子さんの原作が気になって、珍しく後で読んでみたのだが、いくつかのエピソードは加えられているけれど、基本的にはかなり忠実に原作を起こしたものと見受けられた。フランスの場末の港町の雰囲気が逆に格調高く馴染み、原作の閉鎖的なエロティシズムも、白い肌にぽってりとした唇が官能的な女優さん(オルガ・キュリレンコさん、モデル出身だそうだ)により肉体化されているのが美しかった。けれど、映画は割とそのまま淡々と終わっていった印象で、それだけでは少し分かりにくかった気もするので、原作のクライマックスの静かだけれど異様な内的な緊張感がもっと出ていると、もっと良かったんじゃないのかな。

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【暗いところで待ち合わせ】四つ星

ある事件の容疑者が盲目の一人暮らしの女性の家に上がりこんでひっそりと身を隠すのですが……知らない男性があんなに近くにいてなかなか気づかないなんてありえるかなぁ。体温や体臭の気配とかあるじゃないですか。原作のように小説として読めばもしかしてそんなにおかしくないのかもしれないけれど、そのシチュエーションを映像として見せられてしまうとちょっと違和感あるような…… ? その点はかなりマイナスと言わざるをえなかったのだけれど、それ以外のところでは、主人公の男女の孤独や寄る辺なさ、世間に対する臆病さなどが静謐な中にも丁寧に綴られていて、美しいなぁと思った。天願大介監督の、奥ゆかしいけどしっかりとした分かりやすい語り口は好きだ。田中麗奈さんの存在感も、この映画にすごく合っていると思う。

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【敬愛なるベートーヴェン】三星半

“親愛なる”という言い方は聞くけれど“敬愛なる”という言い方ってあるのかな…… ? と思ったのだが、調べてみると、なくもないみたい ? ベートーヴェンに若い女性の写譜師がいたという発想は面白いと思ったし、エド・ハリスの熱演するベートーヴェンは悪くなかったんだけど、ストーリー的には盛り上がりのポイントがちょっと分かりにくかったような気がしなくもない。まぁ、ハリウッドが捏造するヨーロッパものはもうええといった感じなので、監督がアニエスカ・ホランドじゃなかったら基本的に見に行ってなかったと思うんだけど……。

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【幻遊伝】三つ星

キョンシーなどに少しはノスタルジアを感じるかなと思ったらそんなこともなく、良くも悪くも普通の娯楽ものといった趣きだった。田中麗奈さんが折角慣れない台湾で頑張って下さっていたのだが、ストーリー自体にそれほど興味が湧かないため、途中からどうでもよくなって……しまったかなぁ。

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【こま撮りえいが こまねこ】三星半

NHKの「どーも君」のスタッフによる、人形アニメを撮る猫の人形アニメがついに長編に ! こまちゃんって男の子だとばかり思ってたんだけど、女の子だったのね……。長編とは言っても、本編も短編を何本か集めた構成になっているのだが、今まで見ていたものより更に“手作り”に対する愛が強調されている感じで、微笑ましいなぁと思った。

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【酒井家のしあわせ】四つ星

ユースケ・サンタマリアさんも友近さんもさすがに芸達者というか、この手のワケアリ・ホームドラマの役柄はお手のものといった感じ。でも実は主役はこの2人ではなく、息子役の森田直幸君だったって知りませんでしたが……。本編の呉美保(オ・ミポ)監督は、大林宣彦監督の事務所でスクリプターなどをなさっていた方とのことで、まだ29歳なんだそう。ここのところ、女性監督の劇場用長編への進出が目立ってきているけれど、同年代の男性監督よりも視点が独特で面白いんじゃないかなー。でも、女性監督作品に限らないけど、ファミリーもので“しあわせ”と題名につく作品が最近多いのがちょっと気になるけど。

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【佐賀のがばいばあちゃん】四つ星

おばあちゃんのがばい(凄い、という意味らしい)ぶりがたくさん描かれているのかと思ったらそうでもなく、事情があっておばあちゃんと暮らした一昔前(二昔前かな)の少年時代は人情味があっていい時代だったなぁ、といった映画だった。嫌味もなく、重すぎず軽すぎず、誰でも楽しんで見ることができて、確かに地方の上映会などに持っていったらおじいちゃん・おばあちゃんに喜ばれそうだ。私の趣味の直球ど真ん中ではないが、こういう映画もあってもいいのかなと素直に思う。

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【サラバンド】四つ星

【ファニーとアレクサンデル】を岩波ホールに観に行ったのはかれこれもう20年も前のことになってしまうのね……まさかまたイングマール・ベルイマン監督の新作が観られるとは思ってもみなかったが、年も取ってみるもんだな。そんな監督の新作(主演で監督の元妻のリヴ・ウルマンさんが“遺作”とも言っていた…)がビデオ作品だったというのも驚いたが、時間が経ち、フォーマットは変わっても、名実共に掛け値なしの巨匠は、お幾つになられてもやっぱり巨匠であることに変わりはないのでした。この映画を観ながら、そういえば北欧って自殺率が結構高いらしいよな、なんてことを思い出したりした(長くて暗い冬のせいとよく言われている)。底意地が悪いとすら思えるほどの巨匠の鋭すぎる人間観察眼は、それぞれの個人の奥底に横たわり決して交わりあうことのないような寂寞とした地平、あるいは孤独と呼ばれるようなものを焙り出す。この地平は、あるいは老境の諦念、あるいは避けようのない死というものと地続きなのであろうか。まぁ、格調高くとも、救いはあんまり無い感じなので、鑑賞する際にはご注意を。

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【サンクチュアリ】三星半

時間軸をばらばらにしてあるので、最後まで観てやっと意味が繋がった。というか、そうする効果があるのかどうかはよく分からないのだが……。黒沢あすかさんの演技が、割としっかり“演技してます”という感じだったので、瀬々敬久監督作品にしては、リアルな感触が削がれてしまった部分があったかもしれない。地方の主婦が子供を殺す、という内容は今となっては(実際撮影されたのは何年か前なんだそうな)とてもタイムリーではあるんだけど……。

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【幸福<しあわせ>のスイッチ】三星半

安田真奈監督は、今までずっと企業に勤めながら映画製作を続けてきて、今回、完全オリジナルの脚本で劇場用長編デビュー作を飾ったのだそうだ。偉すぎる !! とにかくその根性溢れる製作姿勢は是非とも買っておきたい。
内容は、地方の電気店(ロケ地は和歌山県田辺市)を舞台にした三人姉妹とその父親の話。今時、こんな普通の人間の普通の生活を丁寧に描いた作品にしていることには好感を覚えるし、市井のオジサン役がハマっていた沢田研二さんも素晴らしかった。けれど、いかんせん、仕事なるもののイロハも分からないくせに文句を言ってばかり、ふてくされてばかりの主人公の次女を、個人的に全然愛せなかったのはちょっと痛かったかなぁ。そんな彼女が成長していく話ではあるのだけれど、例えば、どんなに最悪で理解しがたいようなキャラクターを演じたとしても、それでもどこか魅力的に映るように演じる能力も、役者さんには必要なのではないのだろうか。

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【上海の伯爵夫人】四つ星

伯爵夫人って何じゃらほい、と思ったら、ロシア革命で亡命したお貴族様なのでありました。観終わってみるとかなりがっつりとメロドラマだったのだが、色んな外国人が流れ込んできて刹那的な繁栄を謳歌していた上海租界が割と大人っぽくいい感じで描写され、そこに、それまでの人生をほとんど放棄しちゃってる主人公の男性をうまく絡め、それなりに鑑賞に堪えうる雰囲気が作り上げられたのではないかと思う。レイフ・ファインズさんの繊細な資質って、やっぱりメロドラマで一番発揮されうるのだろうか。怪しい日本人フィクサー役の真田広之さんも悪くなかった。しかし、ジェームズ・アイボリー監督と長年組んでこられたプロデューサーのイスマイル・マーチャント氏が亡くなられたのだそうで、本作はマーチャント=アイボリー・プロダクションの最終作になるんだそう。アイボリー監督の今後はどうなるのでしょうか……ご健闘をお祈りしたいと思います。

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【西瓜】四つ星

本作は台湾本国で大ヒットしたということだが、それはひたすら、内容がエロかったせいなんじゃ、ないのかなぁ……。それはエロティシズムなんて上品なものではなく、あまりに直球勝負のエロなので、かえって潔かったかもしれない。(その中に人間の孤独とか何とかが描かれていたりする訳ね。)根っこにはこういう世界が巣くっているのかと思うと、今までよく分からないと思っていたツァイ・ミンリャン監督の映画も、随分と分かりやすいもののような気がしてきたのだが。

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【スキャナー・ダークリー】三つ星

同じリチャード・リンクレーター監督の【ウェイキング・ライフ】と同様、俳優さんが演じる実写映像をアニメーションに起こすという手法で作られた作品。技術的には凄いなぁと思うんだけど、見ているとやっぱりどうも眠くなってきてしまうのは、何でなのかなあ……実写でもなくアニメでもなく、魂が中途半端にどこにも込っていない感触がするというか。

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【ストロベリーショートケイクス】四つ星

矢崎仁司監督の映画って少女漫画みたいだ、と以前評した映画友達がいたのだが、そうなるとこの映画なんて正にそのまんまじゃないんでしょうか。魚喃キリコさんの原作の世界がある程度まではかなり忠実に再現されているように見受けらるけれど、映画として成立させやすくするためにいくつか重要な変更点も加えられてあくまで翻案と呼ぶべきものになっていて、これが良かったかどうかは一長一短があるかもしれない。例えば、「恋でもしたいっすね」の里子さんの役回りを大幅に変えて映画の核となるべき存在にしているのは面白いと思ったが、デリヘル嬢の秋代さんの処遇なんかはちょっと安易じゃないかと思うし、終盤の展開やラストなんかは、私は原作の方が好きかなぁ。原作の各編の結末には、ずっとその人の中に残り続ける永遠の刹那が宿っているように思うけど、一見優しく見える映画の結末は、かえってその場の関係に収束しているんじゃないんだろうか。それでも、これはこれでいいものになっているのではないかと思う。基本的には私も好きである。
ところで、イラストレーターの塔子を演じている岩瀬塔子さんって、聞かない名前だな~と思っていたら、魚喃キリコさん御本人なんですってね !! し、知らんかった……。

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【青春☆金属バット】四つ星

主演の竹原ピストルさんの、雨上がり決死隊の蛍原さんをもう少し泥臭くしたような風貌(普段の写真を見たら全然違うのですが)もいいけれど、坂井真紀さんや、ここでも気を吐く安藤政信さんの熱演も勿論忘れがたい。全く何の役にもたたないような素振りをただひたすら続けることしかできない主人公に、いつも泥酔している暴力女(何故か主人公の彼女になる)に、やる気全くナシの元エースピッチャーの不良警官。青春のエネルギーを何か間違った方向に持て余し気味のこの三人が、ゴリゴリとぶつかり合って奏でる不協和音に、何か知らないけど心魅かれてしまったのよね。見終わってみると、成程、熊切和嘉監督らしいテーマの映画だったのかなと感じた。

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【セレブの種】四つ星

確かに原題の【She Hates Me】は分かりにくいが、この邦題は一体何なんだよー(怒)!! 監督がスパイク・リーじゃなきゃ絶対に見に行ってなかったぞ。内容は、子供が欲しいレズビアンの種馬にされてしまう男、とだけ聞いていたからコメディなのかと思っていたら、勤めていた会社の不正を密告して社会的立場の一切を剥奪されてしまう男、という案外ハードなものだったのでまたびっくり。企業の不正の密告と種つけビジネスという内容がどうしてジョイントされているのかはよく分からないのだが、例えば【ジャングル・フィーバー】の時なんかも、監督は麻薬汚染の問題と異人種間の恋愛という全然関係ないテーマを並べて1本の映画を作ってたから、単に監督が映画の制作当時そういうことに興味があったってことなんでしょう。で、今回の映画から導き出されるテーマは……「まっとうに生きるとは ? 」ということにでもなるのかな ?? まぁ面白かったからいいんですけど。家庭における男性の役割ってものの解釈については、現実を投影しているというよりは、監督の願望の方が大いに入っているような。

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【ダーウィンの悪夢】三星半

グローバリズムのある種の方向性が、地域の文化やコミュニティばかりでなく生態系も破壊する……。そのテーマはショッキングなものなんだろうけれど、個人的には今更という気がしなくもない。よく取材しているとは思ったけれど、ドキュメンタリーの撮り方としては、もう少し工夫があってもよかったんじゃないんだろうか。

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【太陽の傷】五つ星

三池崇史監督の前作のヤクザもので「もっとこういうのが見たい」とか気軽に書いてしまいましたけど……ごめんなさい ! 猛反省します ! やっぱり暴力はいけません ! と土下座でも何でもしたくなってしまった。三池監督が本気で牙を剥いたらこんなにも心底恐ろしい、ということをしみじみ痛感させられる映画でした……。(でも、妖怪何とかを作ってる場合じゃない ! というのは、やっぱり間違ってないと思いますけど……。)
浮浪者に危害を加える不良少年達にうっかり声を掛けてしまったために、結局逆恨みされ、幼い娘を殺されてしまった男の役が哀川翔さん。マスコミも警察も力になってくれるどころかその逆で、挙句の果てに妻も自殺。犯人は少年法の壁に守られてたった1年半(くらいだったと思う)で社会復帰。男は、傍目には常軌を逸した行き過ぎとも思われる行動に出始め、味方だった人達ですら離れていく始末だが、少年の方にも不穏な動きが……。はっきり言って、最後は凄惨な殺し合い以外には帰着する地点すらない、何の救いもない世界。これが今回、犯人の少年のキャラクター以外はいちいちリアルで実際にありそうなことばかりで、単なる作り事だと笑ってられる要素が1ミリもなし。だーかーらー、凡百のホラーなんかより、こういう映画の方がよっぽど恐いんだってばー !! この映画の中に焙り出される社会の数々の歪み(ひずみ)が、一瞬、今年観た他の映画の記憶を全部吹き飛ばしてしもうた……。私的には、今まで観た三池崇史監督作品の中でも、もしかしたら哀川翔さんのキャリアの中でも、1、2を争う傑作かもしれないと太鼓判を押しておきたい。

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【父親たちの星条旗】四つ星

あの英雄物語の裏にはこんなからくりが……という辺りが、アメリカの人にとっては凄くショッキングなものに映るのかもしれないが、同じ第二次大戦中に大本営発表に騙され続けてきたような経験のある日本の人にとっては、政府なんてものがこのくらいのことはやりかねないことにも、それで般ピー一人の人生くらいあっさり狂ってしまいかねないなんてことにも、それほどの驚きはないのでは。私はむしろ、硫黄島でアメリカ人に攻撃を仕掛けてくる、あの目線の向こう側に日本人がいて、彼らは全く別の目線でこちら側を見て攻撃してきているのだ、という仕掛けの方にどきどきしてしまった。ということで、一刻も早く【硫黄島からの手紙】が観たくなってしまったかも。

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【手紙】三星半

受刑者とその家族という重いテーマの映画を、正直、誰に向けて発信しているつもりなのかなぁという懸念があったんだけど、山田孝之さん、玉山鉄二さん、沢尻エリカさんといった俳優陣の頑張り(意外な、というと大変失礼だが)で、なかなか手応えのある感じに仕上がっていたのではないかと思う。しかし、申し訳ないけれど、どうも演出が……肝心なことは説明不足で、必要のないところばかりがだらだらと長く、かゆいところに手が届かなくて、イガイガするようなフラストレーションがたまってしまった。俳優さん達がせっかくここまで粘っているのに、これは勿体なかったかも。

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【出口のない海】三つ星

私はこの主演している方が正直嫌いなんです。生臭くて、態度ばかり大きい上に、演技もあまり上手いと思えない……。まぁそれは置いておくとしても。また軍隊ものか、と思いつつ、脚本・山田洋次、監督・佐々部清となると何か違うのかな、と思って見に行ってみたんだけど……やはり、日本人が第二次大戦ものを作るとなると、よほどの例外じゃない限り、どこかしらにナルシズムのスイッチが入ってしまうものなんでしょうか。もういいです。予算をかけて嬉々として多くの軍隊ものが作られる風潮に背を向けて逃避することになるだけなのかもしれませんが、私には、見ないという方向性を選択することくらいしかできません。

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【デスノート the Last Name】三星半

う~む、前編とほぼ同じ感想……かなぁ。まぁ、主人公の行為に対して監督はそれなりにオトナとしての落とし前をつけているように感じられたのだけれど、原作のファンの皆様はどのように感じるものなのでしょうか。L(エル)役の松山ケンイチさんは、ちらっと見たことのある原作のイメージそのままで、とてもいいんじゃないかと思ったら、あまりに人気が高いので、彼を主人公にしたスピンオフ企画が決定したそうですね。さそうあきらさん原作の【神童】でも主演だという話だし、来年はますます注目されそうだなぁ。

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【鉄コン筋クリート】四星半

松本大洋さんの原作を読んでいないので、大したことは言えなくてすみませんが……映画に必要なのはやっぱり愛と執念ですよね。マイケル・アリアス監督にも、この映画のために集まったスタッフ・キャストの総ての人々にも、何一つ手抜きがなく、隅々まで磨き上げられている作品。本当に素晴らしい。

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【天使の卵】三星半

冨樫森監督に、小西真奈美さんに、市原隼人君。この面子の誰かが一人でも欠けていれば、この映画を見なかった確率は、おそらく99.9%に果てしなく近かったのではないかと思う。というか、セカチューのエピゴーネンとしか言いようのない、若い人向けの××なラブ・ストーリーも(××には好きな言葉をお入れ下さい)、お約束のように人が死んでしまう話も、もうええっちゅうんじゃ !! 今後は、余程のことがない限りは、そういった類いの映画は見に行かないことにする。この映画も、思わず顔を覆ってしまいたくなるようなこっ恥ずかしい台詞とか展開とかもままあったりしたのだけれど(ファンの皆さんごめんなさい)、その割には何とか持ち堪えて見ることが出来るような仕上がりになっていたのは、荒唐無稽な描写を極力排し、リアリティをなるべくデリケートに尊重する冨樫監督の演出のおかげだったんじゃないかと思う。特に、市原君が絵を描くシーンやお料理をするシーンなんかの丁寧さは、ある種の感情が喚起されるみたいでとても好き。やっぱり冨樫監督の演出はいいと思う、というか、やはり他の人が監督していたら見られたものじゃないものになっていた可能性が高かったんじゃないかと思うんですけど……。

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【トゥモロー・ワールド】三星半

とにかくクライヴ・オーウェンが見たかったの。あと、ヒッピーのマイケル・ケインってのはオツだなぁと思いましたが。映画として言いたいことは、子供は人類の宝だ、ってことになるのかなぁ。しかし、近未来SFって割にはどうも小ぶりでスケール感が足りない気がするんだけれど。

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【トンマッコルへようこそ】四つ星

朝鮮戦争当時に、韓国軍・朝鮮軍・アメリカ軍の兵士数人が、すんごい山奥のトンマッコル村に迷い込んだら、そこは戦争とは全く無縁な平和でのどかな世界だった……。みんながあまりにもいい人で過剰なまでに楽園であるトンマッコル村の設定はかなり現実離れしているけれど、その分、兵士達が最初に出会った時にお互いに対立する描写はかなりシビアなのが印象的。すべてが融和するこの村は、国際法上では未だ北朝鮮との戦争状態である韓国にとっての心の中の理想郷を表していたからこそ、本国では大ヒットしたのかもしれないと思う。久石譲さんの音楽がまたいいんだけど、彼の音楽って、アジア的情緒にすごく訴える部分があるんじゃないでしょうかね~。

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【長い散歩】四つ星

家族との関係という、人生において一番肝心であるだろう部分を昔しくじってしまった老人の思いが、虐待されている隣家の少女に少しばかり関ったからといって、必ずしも癒されるものではないと思う。そんなリアルさが残酷なまでに正確に捉えられいて、全体的に、必ずしも救いがあるトーンにはなっていないんじゃないんだろうか。それでも、あの女の子と老人との関わり合いは、二人それぞれにとって必要なことだったんじゃないか。少女の幼稚園のお遊戯の時のニセモノの天使の羽がどんどんボロボロになっていくのが、逆にどんどん神々しく見えてくるみたいだった。主人公の緒形拳さんは言うまでもなく、少女役の杉浦花菜ちゃん、行きずりに関わり合う少年役の松田翔太さんと、全く妥協がない演技の完成度の高さは、さすが自身も現役の俳優である奥田瑛二監督の演出という感じだった。三作目に、またがらりと雰囲気の違うこのような作品を持ってくるとは、今後の監督作がとても楽しみになってきた。

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【涙そうそう】四つ星

後になってよーくよく考えてみると、あれぇ ? と思う部分もある訳ですよ、例えば終盤の嵐~病気のシーンとか。少なくともこれ、作り方によってはとんでもないベタベタな話になっていても全然おかしくなかったはず。それが、見ている途中はあまり気づかされないような出来になっているのは、おそらく、抑制を効かせた淡々とした演出のおかげと、あとは妻夫木聡君と長澤まさみさんを始めとする俳優陣のおかげによるのではないかと思う。特に主演の2人の魅力は曰く言い難いくらいで、そこそこ実力がある旬の俳優さん同士が組んで真正面から真剣勝負するとこれだけのパワーやオーラが出るものかと、本当に恐れ入った。それにしても妻夫木君は本当にもの凄い人なんじゃないんだろうか。大ヒットした曲で一体どこまで儲けられるか、という大人の世界の巨大な因業を全部背負って立ち、それでも爽やかに笑ってみせるってところが。

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【ナチョ・リブレ 覆面の神様】三つ星

プロレスって特に嫌いではないはずなんだけど、私にはこの全面的にB級映画感を狙ったような感じに、ちょっと嵌まりきれないものを感じてしまった……。ジャック・ブラックさん出演作品で乗れなかったのは初めてだ。

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【虹の女神 Rainbow Song】四つ星

自分は映研ではなかったため、登場人物達が映画を作るプロセス自体にはノスタルジアは感じなかったが、今時8ミリフィルムで映画を撮る、芯はまっすぐだけどちょっと頑固なところがあるヒロインには、ちょっと懐かしいものを見ているような気持ちになった。上野樹里さんの出演作で感心したものが最近あまりなかったのだが、この映画の彼女はとてもいい。もしかすると彼女は、宮崎あおいさんみたいに出ているだけで自ら映画のグレードを引き上げてしまうようなタイプとは違って、作り手側のビジョンを非常にダイレクトに反映してしまう女優さんなんじゃないだろうか。作り手側の志が高ければいいものを出せるし、そうでなければつまらないものしか出せない、といったような。彼女に加え、市原隼人さん、蒼井優さんらも力があるので、また死んじゃうのかよ、という展開も何とか持ち堪えられたような気がする。すれ違ってしまうことのやるせなさを大切に描いているのは好感が持てた。

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【日本の自転車泥棒】三星半

題名に“日本の”ってつけているくらいだから、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の【自転車泥棒】とかを少しは意識しているのかな…… ? 杉本哲太さんの演じる正体不明の粗野な雰囲気の主人公には不思議な魅力があるけれど、お話自体はちょっととりとめのない感じになってしまったかもしれない。

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【紀子の食卓】四つ星

これは同じ園子温監督の【自殺サークル】の続編みたいなものなので、できれば同映画を事前に観ておくといいかもしれない。死ぬ人や殺す人の命が対価として全然釣り合っていないような気がするし、あまり論理的に突き詰めて考えていたらよく分からなくなってくるが、勢いに乗っかって雰囲気に流されるままに見るのが園監督映画の一番正しい観賞方法なのかな、と今更ながら思ったりした。ヒロインの紀子を演じている吹石一恵さんの新境地は、映画ファンなら一見しておく価値があるかも。

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【パッセンジャー】三星半

海外の有名な写真家の方が監督をしていらっしゃるということなのだが……成程、一番印象に残っているのは伊勢谷友介君のキレイなハダカだったかもしれないな。伊勢谷君のファンの人はとりあえず見て雰囲気を楽しめばいいと思うが、結局、お話も、題名の意味合いも、何が言いたいのかが漠然として、あまりよく分からなかったかもしれない。

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【パトリス・ルコントのDOGORA】三つ星

パトリス・ルコント監督が『DOGORA』という曲に感銘を受けて、地球の裏側のカンボジアまでわざわざ遠征して撮った映像……というか、監督にどれだけ思い入れがあるのかは知らないが、よくあるイメージ映像の域を出ていないんじゃないかな。

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【パビリオン山椒魚】三つ星

こういう映画はディテールのひねり方の面白さが命で、そこにハマれるかハマれないかじゃないかと思うのだけど、私はこういうの、概ねハマれないタチなんですよね……。まぁオダギリジョー・ファンの方は、本作で、彼の違った側面もチェックしておいたらいいんじゃないんでしょうか。

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【パプリカ】四つ星

原作の筒井康隆氏ご指名の今敏監督の演出は、同じイメージの繰り返しなども多く、やっぱりというか期待したよりも理路整然としているかもしれないなと思った。私としては、せっかく夢という題材なので、もっと脳みそが溶けるくらい狂ったようなイメージの波状攻撃でもよかったんじゃないかとも思ったのだが。まぁそれでも充分楽しかったからいいんですけれど。

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【百年恋歌】三星半

舒淇(スー・チー)と張震(チャン・チェン)の2人をたっぷり堪能できるだけでもおつりが来そうなくらいだ。彼らの演じる3組の恋人達は、まるで時空を越えて生まれ変わっても恋をする運命に導かれているようにも見えてなかなか素敵。ただ、60年代編と遊廓編はとてもいいのだけれど、現代編になるとどうも退屈というか……う~ん、またホウ・シャオシエン(侯孝賢)監督の、現代ものは今ひとつという悪いクセが出た感じかも。

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【武士の一分】四つ星

キネマ旬報の12月上旬号の表紙の木村拓哉さんの写真はよかったですね~。キムタクにはTVだとトレンディ・ドラマ系の似たような役柄しか回ってこない感じがあるけれど、実はもっといろんなことができるんだぞ、ということをアピールしているかのような硬質のシブい表情が印象的だった。実際彼は、本作でも、時代劇での初の主演(しかも方言つき)を難なくこなし、桁外れの才能と言うか器用さを見せつけている。気がつけば、宮崎駿監督や山田洋次監督という、本邦のクリエイターの大御所中の大御所とのコラボレーションを易々と果たしている訳で、かのジャニーズでもトップスター中のトップスターであるキムタクを巡る戦略は、次のステージに向けて虎視眈々と地歩を固めつつあるみたいだ。本作は、山田洋次監督の藤沢周平三部作では一番分かりやすく、あっさりしている印象だけれど(だからこそ、脇で独特の味を出している笹野高史さんの役回りが更に重要になっているんでしょうけれども)、間違いのない感じの良作なんじゃないのかな。個人的には【…鬼の爪】が一番好きですけれどもね。

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【フラガール】四星半

アカデミー賞の外国語映画賞の選には漏れたようだが(やっぱりあれはいい加減な賞だよな)、そんなことは構わず、外国にも積極的に売り込んでみたらいいんじゃないだろうか。何せ、ラストの圧巻のダンスシーンは間違いなく盛り上がれるし、寂れゆく炭鉱というバックグラウンドも分かってもらいやすいと思うし(炭鉱の町を舞台にした英語の映画って結構たくさんあると思う)、目標に向かって皆で努力するという筋立ても共感を呼び易ければ、様々な人々の一人一人の心情を短くても的確な演技と演出できちんと切り取っているのも魅力的。全体的に、いい意味で、圧倒的に王道を行っている間違いのない娯楽映画に仕上がっているんじゃないのかな。主演の蒼井優さんにとっても出世作になったと思うけど、李相日監督もまた一段と腕を上げた感じだった。

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【プラダを着た悪魔】四つ星

ジャーナリスト志望者なら、ファッション誌の編集部に勤めてて“ガッバーナ”のスペルを人に聞いている時点でそりゃアウトでしょう。いくら腰掛けのつもりでも、いったん仕事として引き受けたのなら、最低限果たさなければならない職務というのはあるんじゃないの。そんなあまりに甘すぎる前半のヒロインの態度が改まっていく辺りからは、テンポが小気味よくなって楽しめたけど。自分の選んだ道は自分に責任があるし、それをまっとうできるのが大人ってもの、という密やかなメッセージもいいと思った。本編の真の主人公は、仕事にほぼ人生を捧げている悪魔=編集長の方だと思われるのだが、メリル・ストリープってこういうクセのある女性の役を演ると本当に絶品だな~。

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【ブラック・ダリア】四つ星

久々に見応えのある純正ハリウッド映画を見ることができたような気がするなぁ、と思って満足して帰ってからIMDBを見てみると、この映画、あまり評判がよろしくないみたい……ありゃ、何で ? 確かに、登場人物が多すぎ、その一人一人に裏のストーリーがあったりしてプロットが大変込み入っており、言われてみると私も総ての筋立てを完全に理解した自信はないんだけれど……でも、どうやらジェームズ・エルロイの原作自体がそうみたいだし、そこを下手に省略したりせずに、出来うる限りの要素を詰め込んで生かしつつ、しっかりしたタッチでまとめてあるところこそがいいんじゃないのだろうか。

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【ベルナのしっぽ】四つ星

一歩間違えば確実にお涙頂戴になるであろう盲導犬物語を、大人の節度で抑制を効かせて撮っているのが、なかなか好感が持てる。安心して見ることができる俳優陣の中でも、主演の白石美帆さんがまた抜群によくて、この映画が好編になっているのは、懸命に生きる主人公をごく自然体で演じた彼女の魅力によるところがかなり大きいのではないかと思う。思えば【スウィングガールズ】の先生役の演技も、出番は多くないが印象に残るものだった。彼女をスクリーンでもっと観てみたい気がするな。

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【マーダーボール】四つ星

MTVって、世の中をクールなものとクールじゃないものだけに分けて判別するみたい。でもそんな狭間からこんな映画がひょっこり飛び出してくるのは面白い。本作で採り上げられているウィルチェアー(車椅子)ラグビーというのは、車椅子バスケをもっと凶暴にしたような感じ ? 何せ、猛スピードで走り回る重機械同士が思いっ切りぶつかり合うような、その衝突音だけでももの凄いですから。プレイヤーを始めとする関係者の日常生活や背景なども追っていて、日本の身障者スポーツの清廉潔白なイメージからはおよびもつかない粗野でギラギラした雰囲気に驚いてしまうが、それはそのまま、彼等の生きることへの前向きな執着なのかもしれない。ただ、試合の様子の映像はただ漫然と撮っているだけで今ひとつ迫力が無かった気がしたので、もっと工夫が欲しかったかな。それと、ウィルチェアーラグビーというスポーツ自体の解説も、折角だからもっとあってもよかったかもしれない。

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【PASSION MANIACS マニアの受難 MOONRIDERS THE MOVIE】四つ星

思えば、最初にムーンライダーズの曲を聴いたのはかれこれ20年ほど前の話。(ちなみに最初に聞いたのは『アマチュア・アカデミー』でした ! )それから付かず離れず聴き続けてきたとはいっても、アルバムが出て半年とか1年以上経って初めて気づいたなんてこともあったような、熱心なファンの皆様から見たらちゃんちゃらおかしいようなスチャラカ・ファンなんですが、でも、その20年という年月に免じて、ファンの末席の末席くらいにこっそり混ぜてもらうのをどうぞお許し下さい。(^^;) よくよく考えたら、20代以降の今の私の人生は、「薔薇がなくちゃ生きてゆけない」というフレーズに毒されたところから始まっているのかもしれない。しかし先日、私が彼等の写真を見てニタニタしていたら、が「ただのおじさんにしか見えないんだけど……」なんて言いやがりました。ちょっとぉ !! 今や「おじさん」はその通りだろうけど、「ただの」は間違ってるよ ! この人達は日本一煮ても焼いても食えないおじさん達なんですからね。
私が聴き始めた20年前でさえ結成10年くらいで、既に“東京最古のバンド”と言われていた彼等は、今年は結成30周年なんだそう。もう名実ともに“日本最古のバンド”であるだろう彼等は、音楽的には今こそ脂が乗り切っていて、今年発表されたアルバムも、先日の30周年記念コンサートも、そのカッコよさと言ったら筆舌に尽くしがたい !! しかし、普段身の回りにムーンライダーズ・ファンという人々をほとんど見かけたことがないのに、行くところに行けばそんな人達がてんこ盛りに集まっていて独特の熱気を放っているのは、何とも言えず壮観で凄いものがありますよね。
そんな彼等を題材にしたドキュメンタリーが出来るというだけでウソみたいに奇跡的で、ものすごくありがたいことのように思えるのだが……しかしどうもこの監督さんの趣味は私と真逆を行っているようで、例えば、映画の中で取り上げられているアルバムも、『Don't Trust Over Thirty』を除けば私の好みと少しも重なるところがない。だから、もう少しその作品世界に同調することが出来てエモーショナルに盛り上がることができるともっとよかったんだろうけど、まぁ、ムーンライダーズというバンドを日本のロック史に正しく位置づけてオーソドックスに解説すればおそらくこうなるんだろうし(だからこそ知らなかったこともたくさん知ることが出来たんだろうし)、大体、ファンの数だけ“自分だけのムーンライダーズ”があってそのすべてに応えることは多分不可能だったんだろうから、この作り方できっと正解だったんだろう。あ、ちなみに本作の題名は『Don't Trust Over Thirty』の収録曲から来ています。(……「売りものにも何にもならないものがスキ♪」「戦争になっても持って逃げれないものがスキ♪」)
先日のコンサートのラストの曲目は『Who's gonna die first?』だった……シャレにならん、という感想も多々あったみたいだが、逆に、酸いも甘いも噛み分け切っている彼等には、最早怖いものは何一つ無いのだという宣言のようにも思えた。とは言っても、どうぞなるべくお体には気をつけて、一日でも長く、世界に向けて先鋭的な音を発信し続けていって戴きたいです。

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【ミラクルバナナ】四つ星

もともとは、山本耕史さんが出演しているから見に行こう、と思ったこの作品。タヒチと間違えてハイチを赴任先に選んでしまったのに(ありえねぇ ! )、その割にはお気楽で脳天気で、いい意味で図太くたくましいヒロイン(小山田サユリさんの好演)のキャラクターがいいけれど、そこにイヤミな上司(津田寛治さん)を配置して、社会人としてはちと自覚に欠けると言わざるを得ない彼女の行動を牽制しているような、そのバランス感覚が抜群にいいなと思った。何故ハイチ ? と思ったけれど、熱帯の発展途上国で、今までは捨てられるだけだったバナナの茎を利用し、和紙の手法を応用して紙を作る(インフラ代がほとんどかからず、ノートを買うにも事欠く貧しい子供達に紙を提供できる)、というプロジェクト自体は実在するのだそうで、その舞台として選ばれたのだろう。ちょっと説明的な台詞が多いかなとも思ったが、このプロジェクトの有用性と実現性を分かり易く、丁寧に解きほぐしているのは好感が持てる。和紙職人役の緒形拳さん、教授役の小日向文世さんなど、安心して見ていられる渋い役者さんで脇を固めてあるのもいい。これは思わぬ拾い物の映画だった ! 錦織良成監督は【白い船】を監督なさった方だそうですね。今度見てみようかな。

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【麦の穂をゆらす風】五つ星

一番印象に残ったのは、主人公の幼馴染の男の子がスパイだったと分かって殺さなければならなくなるところ。それ以外では、昔さんざん英国軍に虐げられていたはずなのに、一旦立場が変わると彼等と全く同じようなことをやっているアイルランド共和国軍の兵士達の姿。(多分、意図的に似せてあるんだろうけど。)この映画は、アイルランドの独立運動やその後の内戦を背景にしているということなのだけれども、それよりも、人間ってどれだけ愚かな生き物なのか、ということを、普遍的な視点から奇跡的な観察眼で余すところ無く描いているところが胸に迫って、唸らずにはいられなかった。人間の愚かしさが、DNAに染み込んでいる本質的なものに由来するどうしようもないものなのだとすれば、人類はこの先、相当、よ~っぽど賢くならなければ、やっぱり未来なんて持てないのかもしれない。でも、ご自身はもうかなりのご高齢であるケン・ローチ監督が、この映画を人類に敢えて贈って下さるのは、監督の人類に対する愛なのだろうと思う。監督、どうもありがとう。私ももう少し頑張ってみることにするよ(何を ? )。ところで、文句なしに素晴らしかった本作の主演のキリアン・マーフィーさんの前作が、【マイケル・コリンズ】(アイルランド独立運動の有名な闘士)のニール・ジョーダン監督の作品(【プルートで朝食を】)だったというのは、何かの因縁なんでしょうか ?

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【地下鉄<メトロ>に乗って】二つ星

久々に心底、はらわたが煮え繰り返ったが、出演者の多くの方々の熱演に大まけにおまけしてこのお星様。地下鉄に乗って過去へというアイディアがどうも中途半端なのや、ちょっと父親の過去を覗き見たからって長年の憎しみがあっさりと氷解してしまうという表現のイージーさは、この際まぁ置いておくとしよう。
(ここから後は思い切りネタバレなので、映画を見る予定がある人はご注意を。)
一番腹が立ったのは、主人公の不倫相手の彼女が実は……と判明した後の展開。ハァ ? って摩邪さん風に。近親相姦は、確かに現代の社会では認められていないことかもしれないけれど、死罪にまで値するほどのことなのかね ? しかもこの展開って主人公の方にばかり一方的に都合がよすぎというか、不倫を楽しむだけ楽しんで具合が悪くなったら女性の方から自主的に美しくフェイドアウトしていってもらいたいっていう、男性の手前勝手な願望ばかりが丸見えなんじゃないですかね ? この女性の母親の、母親の幸せか愛する人の幸せかという問いに対する答えは、それはあくまでも自分の子供が生きてるってことが前提ないんじゃないですか ? どこの世界の母親が、見ず知らずの男の幸せと自分の娘の命を天秤にかけるってのよ。原作でどうなっているのか知らないが、お粗末にも程があるんじゃない ? あ゛ーっ !! こんな主人公をのうのうと演じている堤真一まで嫌いになってしまいそうだーっ !! 篠原哲雄監督のバカ。どうしてくれんのよ。

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【夜のピクニック】四つ星

24時間かけて80キロを歩く !? わ~~っ何て体育会系のイベントなんだ~~っ !! でもそういうのは後になれば案外いい思い出になったりするんだよね、と、もうそんな殺人的な学校行事に巻き込まれる心配のない私のような年寄りは勝手なことをほざいたりする訳ですが。でもこの映画は、正にそんなふうに、学生時代のことを懐かしく思い出させてくれるような感じがいいのだ。ヒロインの秘密という小さな謎はあるにせよ、基本的にドラマは平坦で盛り上がりに欠ける、というような意見も見掛けたのだが、そのだらだら、まったり感がいかにも学生の時間っぽく、これが忠実に再現されているところが大した手腕なのじゃないかと思ったのだけれど。少なくとも私にとっては、今までの長澤雅彦監督作の中で一番好感が持てる作品だった。

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【46億年の恋】四つ星

主演の一人の安藤政信さんについて、三池崇史監督自ら「この映画を見てあなたにときめかない人はいないだろう」とどこかのコラムに書いていらっしゃった。ううむ確かに、この、滑らかなメタルみたいな硬質の色気は尋常じゃない ! この安藤政信さんの存在感のため、星は少しおまけしておこう。ただ、そこまで雰囲気を盛り上げておいて、主人公二人(もう一人は松田龍平さん)の関係はプラトニックです~~って、えぇ~っ何ソレ !? それだけ彼等の関係が、汚泥にまみれた世俗のものさしでは計りきれないような特別なもので、表題にもあるように、それは次元すら超えるようなものだったのだということを言いたかったのかもしれないが、それを表現するには、全体的に今ひとつ、演出がはじけ切らなかったような気がする。似たような密室のシーンが多く、基本的に予算不足だったのかなぁと感じたりもしたのだが、せめて、安藤政信さんの演じるキャラクターの抱える"想像を絶するような悲惨"の闇というのを垣間見せてくれるようなエピソードの1つや2つ、実際に映像に起こす必要があったのではないだろうか。描きたいものは何となく推測できても、どうにも食い足りないような印象が残ったのが惜しいなぁ。

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【楽日】三つ星

うーむ、やっぱりツァイ・ミンリャン監督とは相性が……悪かったみたい。

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【ラフ】三星半

我が家では速水もこみち君と言えば『ぼくの魔法使い』なのだが、あの作品は彼のフィルモグラフィからは抹消されているかのようである……ま、彼をカッコイイ路線で売ることにした事務所にしてみれば、あの役は過去の汚点以外の何者でもないのかもしれない。でも、ファンの人には怒られるかもしれないけれど、この“カッコイイ路線”のもこみち君って、まるで“カッコイイ”の仮面をかぶっているみたいに表情に乏しくて、あんまり魅力が感じられないのだ。それなら『ぼくの魔法使い』の時の方がまだしも愛嬌があって、彼の素の魅力が引き出されていたような気がするんだが……。
先年映画化された【タッチ】は、原作が世代的に丁度重なっていたので内容にも少しは馴染みがあったし、何せ、是が非でも長澤まさみを可愛く撮ってやろう ! という犬童一心監督の執念(?)みたいなものも感じられた。大谷健太郎監督による本作は、主人公達やその周辺に目を配り、必要な要素を丁寧に掬い取って過不足なくまとめられているのは好感が持てたけど、残念ながら、もともと私の心の琴線に触れる要素があまり無かったのかもしれない。私はもう、よっぽどのことがない限り、このテの青春ものには用がないのかもしれないな。

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【リトル・ミス・サンシャイン】四つ星

アメリカでもちょっとloser(負け組、という訳になっていたと思う)な家族の物語が映画賞レースで注目を集めている、というのが面白いかもしれない。日本に先駆けてwinner(勝ち組、という訳になっていたと思う)の社会だったアメリカの方が、そこのところに先に疲弊してしまっているのだろうか。だって総ての人がwinnerになるなんてありえないじゃない。仕事の失敗あり自殺未遂あり息子の反抗期ありでちょっと疲れちゃっている家族の中で、文字通り無垢で無邪気でまるで向日葵みたいに明るいリトル・ミス・サンシャインこと妹のキャラクターが、この家族の求心力になっているところがいいなとおもった。でもじーさん、年端も行かない少女に一体何させとるんじゃい !! (笑)

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【レディ・イン・ザ・ウォーター】三星半

何せ、妖精を元の世界に帰すという設定が素頓狂なために、その世界に入っていくこと自体がなかなか難しかったのだが、慣れてくるに従って段々面白くなってきたように思う。きっともう1回見れば、今度はもっと楽しめるんじゃないかな。シャマラン監督って基本的に、人間というものにものすごく信頼感を置いているんじゃないだろうか。こういう世界観、私は嫌いじゃないよ、うん。

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【LOFT<ロフト>】三星半

ラストまで観て……爆笑 !! 何だよこれ、サスペンス・ホラーに擬態したコメディじゃん !! ホラーの手法としては私でも次の展開が予測できるくらいの範囲内だったのでそれほど恐いこともなく(注:とはいえ、ホラーに本当に全くメンエキのない人はご注意下さい)、いきなり唐突に盛り上がるキスシーンとか、ミイラが×××するシーンとか、その他ありえない感じの諸々のシーンで……おっかしいと思ったんだよな~。黒澤清監督自身がどういう線を目指していらっしゃったのかは分からないけれど、これで本気で愛だとか恐怖だとかを描いてるつもりじゃ……ないわよね、まさか。

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