Back Numbers : 映画ログ No.83




【愛の流刑地】四つ星

前もどこかで書いたと思うけど、渡辺淳一、嫌いなんですよねー。女性と都合よく仲良くなってしまう主人公のモテモテ男性に作者が自分を投影しているのだろうなぁと思うとうんざりしてしまうし、女性の性的感性は男性に開発されるものという考え方自体も相当古くさいのでは。TVドラマの演出家として大変高名な鶴橋康夫監督の劇場用映画デビュー作でなければ、まず見に行っていなかったと思うのですが。
最初の展開からして、相手の首を絞めときながら殺すつもりはなかったなんて……作家だったら【愛のコリーダ】くらい見とこうよ主人公、って思いましたけど。豊川悦司さんと寺島しのぶさんの演じた2人の関係の深まりが段階を追って丁寧に描かれていて、演じるのは大変だったということは容易に想像がつくのでそれは本当にすごいと思うけど、特に女性の方の役柄のアナクロさはどうにかなんないもんかなーと、やっぱり終始思ってしまわざるを得なかったのですが。私にとっては、長谷川京子さんの演じたキャリア志向の女性検事との対比がなければ本当に退屈極まりない映画になっていたはずで、その辺りがこの映画の評価をそれほど下げなかった理由なのですが(彼女の不倫相手が佐々木蔵之介さんという配役も絶妙だと思う……ああいう上司って本当にいそうだ)、ネットで見ると彼女の評判があまりよろしくないみたいなのは何故 !? 検事らしからぬ露出の激しい衣装というのは、少なくとも監督とスタイリストさんの責任だし、周りの評判など意に介さない自信たっぷりなキャラクターがよく表れていて、私はよかったと思うんだけど。

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【悪夢探偵】四つ星

塚本(晋也)監督が仰りたげなように、悪夢というものには、人間の底知れない醜い悪意が詰まっているものなのかもしれない……。そんな悪夢に入っていくのはこれ以上はゴメンだ、と駄々をこねる悪夢探偵の松田龍平さんの、青白く厭世的な佇まいが抜群に嵌っている ! ストーリーは、警察がそんなことで動くかなぁ、というあたりも含めかなり荒唐無稽だけど、これはこれで一つの世界観が出来上がっていていいんじゃないだろうか。もしシリーズ化するのなら、そっくりさんとか親戚とかいう安易かつ卑怯な手を使っても構わないから、安藤政信さんも是非レギュラーに入れて下さいっ !! それにしても塚本監督って、どこまで行っても基本は【鉄男】なんだなぁ……。

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【アルゼンチンババア】三星半

ストーリーが表さんとしているところはよく理解できるんだけど……大変申し訳ないけれど、こればっかりは、表題の“アルゼンチンババア”さんを演じた鈴木京香さんがミスキャストだったんじゃないかと思われた。恐らくこの役柄には、大地のような懐の深さと、戦争などの極限状態を潜り抜けてきた陰影の深さと、できればちょっとエキゾチックな容姿が必要。私のイメージでは、例えば以前の鰐淵晴子さんのような……。堀北真希さん、役所広司さん、森下愛子さん、そして新人さんと思われる小林裕吉君といった他のキャストはとてもよかったんだけど、こういったストーリーの場合、メインのキャラクターが作品の肝腎な部分を表現し切れていなかったら、お話にならないんじゃないのかな。

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【アンフェア the movie】三星半

今までのTVシリーズやスペシャルを見て、今回の黒幕は引き算すると彼しかいなさそうだとは思っていたけれど、そこに至るまでのプロットがいろいろと練られているのにはそれなりに感心した。でも、私は謎解きにはもともとあまりが興味ないし、何よりも、瑛太君のいない『アンフェア』なんて個人的にはほとんど意味がないしつまらないものなんだなぁと、はっきり分かってしまっただけだったような……。しかしこのエンディング、もしかしてまだ続きを作るつもりだったりしないかい ? そうするともう、後に残っている犯人役候補は薫ちゃんくらいしかいないじゃないの !!

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【映画館の恋】三つ星

自分とは感性が違うみたいなので見に行ってはいつも後悔するホン・サンス監督の映画、今度こそ最後にしておくべきだよね……私はどうも、監督の描く女性像と、その貧相なセックスの描写が好きじゃないみたいです。すみません……。

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【エクステ】四星半

園子温監督初のホラー映画という触れ込み。しかし、ホラーというよりは限りなく髪フェチ映画なんじゃないんだろうか……あの変態演技全開の大杉漣様のキレ方は確かにホラーかもしれないけれど。日本で一番髪が美しい女優さんかもしれない栗山千明さんがヒロインを演じるのもぴったりなんだけど、このヒロインが、傷つけられた存在から、もっとか弱い者を守る存在に転化していく様に、意外なことに感動させられてしまった。園監督は最近、1周回って丸くなったのか、観る人のことをいい意味で意識するようになって、ある種の(特殊な)エンターテイメント性を身に着けたんじゃないんだろうか、最近の作品はどれも見逃せない感じ。

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【エレクション】四つ星

香港マフィアの会長選挙の話なのだが(香港マフィアって選挙で会長を選ぶものなんですか ?? )、日本はこれだけヤクザ映画のさかんな国なので、本作みたいにドンパチ自体よりも人間関係そのものの切った張ったをフィーチャーしている作品も、なんか見たことがありそうな気がする。だから、本作がものすごく斬新だとは感じなかったのだけれど、それでも、主人公の会長候補が少しずつ地場を固め、ライバルを虎視眈々と追い落としていく様は見応えがあった。でもって最後は、やっぱりやーさんはやーさんだということで……恐っ ! 。

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【オール・ザ・キングスメン】三星半

スティーヴン・ザイリアン監督は、必ずしもリメイクということではなく、以前に映画化されたバージョンは観ずに原作から独自に起こす形で今回の映画化を手掛けたということなのだが……。ショーン・ペンが善意の人から悪徳知事に堕ちていくというメリハリがどうもはっきりしなかったし、全体的な話の力点もどこにあるのかよく分からなかったような。私はザイリアン監督の前2作(【ボビー・フィシャーを探して】【シビル・アクシヨン】)は凄く好きだったんだけど、今回は今ひとつだったかな。

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【地球交響曲<ガイアシンフォニー>第六番】四つ星

生物だろうと無生物だろうと、物質にはすべからくエネルギーの波動のようなものがあり、だから生物も無生物も実はあまり変わりのない存在で、もっと大きな括りで見れば“生きている”と見做せるのではないか、などと昔思ったことがある。今回の第六番では、そんなふうな考え方が“音”というコンセプトに集約されているのではないかな、と手前勝手に解釈した。クジラはただ単に鳴いているのではなく、ちゃんと旋律のあるソナタ形式の歌を歌っており、1回歌い終わると最初から全く同じ旋律で歌い始めるのだ、という話は凄いと思った。他にもいろいろ興味深い話やいろいろな音がいっぱい聞けます。著明なシタール奏者のラヴィ・シャンカール(ジョージ・ハリソンの師匠だった)へのインタビューなんかも貴重なのではないかな。

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【カインの末裔】二つ星

渡辺一志監督は、監督としては好きなんだけど、ご自身が俳優として出演して別の人が監督する映画は、どうしてこうアングラ色が強くなってしまうんだろう ? というか、こんなアングラ映画みたいな作品を今のこの時代に敢えて作ろうという人がいることがびっくりなんだけど……。

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【黄色い涙】四つ星

映画を観た後、嵐ファンと思しきどこかの女の子が友達に「結局、夢は叶わないってことでしょ ? 」とか言ってましたね……。犬童一心監督などの、この映画を創った側は、友人と夢を語り合える時間を持てることの大切さを伝えたかった、ようなことを言っているらしいのだけれど、このお話の舞台になっている60年代よりも遥かにシビアな成果主義が当たり前になっていると思われる今の世の中で、目標を叶えるための努力すら中途半端な彼等にシンパシーを感じられるのかどうかは、正直言ってどうなんだろうと思う。それでも、今乗りに乗っている嵐の皆さんの魅力的な熱演は見ておかなくちゃいけないでしょう……というか、単なるファンでごめんなさいの部分もありますけれど。実際、下は『志村どうぶつ園』を見ている子供達から、上はクリント・イーストウッドファンのシブ好みのご年配の方まで、こんなに広い層にメンバーの顔が知られているグループはなかなかないのではないでしょうか。あの手この手で男の子達を売り出すジャニーズの中でも、嵐を巡る戦略はとびきり面白いと思うけど、それは彼等自身にそれを受け止めるだけのキャパがあるからなんだよね、きっと。

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【キトキト ! 】四つ星

室井滋さんのエッセイと何か関係しているのだとばかり思っていたら、全くのオリジナル脚本だったようですみません。キトキトは富山弁で“活きがいい”という意味で、豪快なお母さんを持つ富山出身の男の子が、都会でホストになったりするなどの紆余曲折を経て成長する、という話。中盤がちょっと冗長だと感じられたので、もう少し全体的な流れのようなものがしっかりするとベターかなと思うけれど、これだけ若い身空で(吉田康弘監督は1979年生まれで本作が長編デビュー作)これだけしっかりしたエピソードのお話を創ることができるのであれば、今後がとても楽しみ。期待したいと思う。

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【キャプテントキオ】四つ星

ウエンツ瑛士君や中尾明慶さんのファンの皆さんがこの映画をどのようにご覧になったのかは分からないが、私個人にとっては、渡辺一志監督の待望の新作以外の何者でもない訳ですよ。今回も完全にオリジナル脚本のようだが、地震で壊滅後に日本政府から見放されたという新東京都(細かく突っ込めばいろいろ無理がある設定だが、その辺はまぁご愛嬌)に集う若いもん達に映画内映画を作らせることによって、監督は、映画づくりに対する自身のアツイ思いを吐露しているのだと思う(というか御本人も映画監督役で出演しているし)。新東京都の知事を怪演する泉谷しげるさんを始め、渋川清彦さんやいしだ壱成さんといった興味深いキャストもみどころだが(いしださんは最近いい感じになってきてますよね)、B級テイストの中にもどうしようもなく垣間見える監督独自の映画的瞬間が、私はやっぱり好きだ。やさぐれ者達が集う街で、ウエンツ君が無理なくピュアな純情青年の役柄であり続ける脚本の作り方にも、別の意味で感銘を受けたんだけれども(笑)。

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【クィーン】四つ星

インタビューを読んでいると、スティーブン・フリアーズ監督は英国王室擁護派で、結局これは、エリザベス女王賛美の英国王室万歳映画なのか ? とも思いましたが(私はダイアナ謀殺説をまだ捨てきっていないクチなので……)、確かに女王は、現在の英国王室の威厳を一人で支えている存在なのかもしれない、とも改めて思った。ヘレン・ミレンは、のっけのシーンから“女王様~”とひれ伏したくなるような迫力で、この役でのアカデミー賞主演女優賞は納得。コトの真偽はともかくも、最初から最後まで目を離せなくなる引力はある映画だと思う。

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【黒い眼のオペラ】四つ星

台湾のツァイ・ミンリャン監督が、初めて出身地のマレーシアで撮ったという映画。(ツァイ・ミンリャン監督がマレーシア出身とは知らなかった。)監督の映画がそれほど好きでもない私にも、この映画が、表現として極限まで研ぎ澄まされているのはよく分かる。が、この映画、科白も極限まで削ぎ落とされていて、あまりにも静謐なんですよね……す、すみません。この週、私はかなり疲労していて、正直、睡魔に全く勝てなかったです……。

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【クロッシング・ザ・ブリッジ ~ サウンド・オブ・イスタンブール】四つ星

日本では、J-POPとロックとジャズとクラシックとサントラ以外はほとんど、ワールド・ミュージックというマイナーなジャンルに何でもかんでも押し込まれてしまうきらいがあるような(ちょっと大雑把)。このワールド・ミュージックという概念はすごくいい加減だけど、ある程度定まってしまっているスタイルの中で動いている他のジャンルに比べると、世界中のありとあらゆる種類の音楽からの影響を互いに受け合いながら大きなスケールで変化しつつある、現在進行形のエネルギーが詰まっている音楽なんじゃないかと思う。西と東の狭間にあって近代化の総決算を成し遂げようとしている現在のトルコの音楽シーンは、まさにこのワールド・ミュージックの流れの縮図と言っていいような、様々なジャンルとパワーに満ち溢れているみたいに見えた。トルコ方面はちょっと不勉強だったけど、今度から少し研究してみようかな。
この映画は実はドイツ映画で、トルコ移民の子供である【愛より強く】のファティ・アキン監督が、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのメンバーであるアレキサンダー・ハッケを中心に据えて作ったドキュメンタリーという形式。ドイツって東ヨーロッパに近いからか、結構バルカン半島などの方面からの音楽の影響も受けているみたいですよね。というかノイバウテンって80年代のグループだと思ってたけどまだ活動してたのか……びっくりしたぁ。

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【恋しくて】三つ星

【ナビィの恋】でおなじみの中江裕司監督の最新作。BEGINの高校生時代にインスパイアされた話だと聞いたけど……何だかすごく中途半端でしまりのない印象しか残っていない。私的にはイマイチだったなぁ、これは。

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【幸福な食卓】三星半

父親が「お父さんをやめる」とか言っているのにこの兄妹は随分と鷹揚な反応だなぁ、と思っていたら、父親が以前に自殺未遂をしていたことが明らかになる。母親も家を出ているが、たまに料理を作りに来たりして、家族間に思ったほどの深刻な亀裂がある訳でもなく、日常は淡々と進んでいくが……。いわゆる崩壊しかかっている家族を一挙に破壊してしまうのではなくその関係性をシフトさせていく、ゆるやかな脱構築とでもいえそうな切り口がかなり斬新かもしれず、なかなかやるじゃん ! と思った。でも途中からは、あまり必然性があるとも思えない死にオチが出てしまったのにがっかりし、最終的に帰結する地点もかなりありきたりなように思え、非常に残念でならなかった。ラストシーンもなぁ……ミスチルは別に嫌いじゃないけど、そこまで延々と浸っていられるほど好きな訳でもないんですけども。それでも、勝地涼さんがとても似合っている役で素敵だったのと、ヒロインの北乃きいさんのちょっと寂しげな独特の風貌が印象的だったのは、誉めておきたい。

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【今宵、フィッツジェラルド劇場で】四つ星

時流に合わないからと閉鎖になる劇場で、最後のステージをいつも通りにこなすカントリー歌手達。この映画の全てが好きな訳じゃないし、個人的には中盤辺りでは少し冗長だと感じもしたのだけれど、無くなっていってしまうものをいとおしみつつも、そんな時の流れをも良しとするロバート・アルトマン監督の視座を思うと、泣けて仕方なかった。アルトマン監督は次回作も準備中だったという話だけれど、自分の先行きも少しは予感していたのじゃないかと思えて仕方ない。

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【こわれゆく世界の中で】四つ星

アンソニー・ミンゲラ監督がオリジナル脚本の映画を創るのは久しぶりなんだそうな、というか私は初めて観たかも。必死に手探りをするのに、何をやってもドツボに嵌まって傷つけあってしまいお互いの心に触れ合うことが出来ない中年男女の姿は、涙なくしては観られない……。くたびれた風情をわざと作っているんだと思われるのロビン・ライト・ペンやジュリエット・ビノシュ、そして彼女達の間で日々苦悩するジュード・ロウの、中年エキスたっぷりの風情がすごくいい。特に本作でのジュード・ロウの男っぷりったら ! 彼にはこういう映画にこそバンバン出て欲しいものですなー。かなり御都合主義的なラストにはちょっと拍子抜けしたけれど、まぁこりゃ一応ハリウッド映画の範疇なんだから、ご愛嬌か。

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【さくらん】三星半

蜷川幸雄さんの娘さんで写真家の蜷川実花さんの初監督作品。女性の視点で遊廓を描いた映画ってもしかして史上初なんじゃないだろうか。良し悪しの道義ではなく、そこで生きていくより他に道がなかったセックスワーカーの日常をフラットに描いている感性はいいんじゃないかと思う。当時働いている人達の感覚も案外そんな感じだったのかもしれないし。(最も、今まで遊廓を描いてきたおっさん達は、過度な幽愁や悲劇的色合いにそそられていたのかもしれませんけどね……げげ。)当時も案外ハデだったらしいというリサーチを踏まえた意匠の遊びもいいと思うし、過不足なく上手く脚色されていると思われるストーリー(例によって原作は読んでません……すみません)もよかった。少なくとも、申し訳ないけれどお父さんの映画よりは面白いと感じられたし、いろいろな面で興味深く見ることができたと思う。けれども、出てくる遊女達にことごとく艶(つや)がなく、場合によってはガサツとさえ感じられたところに、私はどうしても終始違和感を禁じえなかったのだ。もしかして、現代にこういう話を作ろうとしても、そもそも無理があるんじゃないのかな。特に、主人公の土屋アンナさんは、内面的な性質や演技力ということではなく、声や風貌といった点で、この話のこの役柄には合っていなかったのではなかろうか。最も、これは自分の手前勝手な時代劇的感性との齟齬としか言いようがないものなのかもしれなくて、そういうところが気にならない若い人とかならとことんツボに嵌れるのかもしれないし、私にはあまりオリジナリティが感じられなかった椎名林檎さんの音楽も、もしかしていいと思えるのかもしれないけれど。

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【叫<さけび>】三星半

葉月里緒奈さん演じる赤い服の幽霊は、登場シーンでは絶対ムンクの『叫び』をやってたし ! その後の移動シーンの動きも『北風小僧の寒太郎』(courtesy to NHK『みんなのうた』)みたいだったり、ラストシーンの前のクライマックスでもあんなだったりで、そんなに笑わせたいのか ! って感じ。実際彼女は、幽霊というよりはまだ生身の人間にしか見えなくて、他の幽霊映画なら充分及第点のレベルだとしても、過去にあの【回路】を創っちゃった黒澤清監督の幽霊としてはちょっと役不足かも。もっとこの世のものならぬ存在になりきってしまえるまでの超絶的な演技力が、この映画の成功には必要だったんじゃないんでしょうか。彼女の正体はなかなか分からなくて、ストーリーとしてはそれなりに凝ってて面白かったんだけど、もう1つの幽霊ネタの方は始まって10分で予想した通りだったしなー……。

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【サンシャイン2057】四つ星

【スター・ウォーズ】のような作品は例外として、宇宙船内の閉鎖空間を舞台に少人数の人間関係が繰り広げられるスペースものの映画って、案外、こじんまりとした印象になることが多いのでは。本作もそのご多分に漏れないところはあるだろうし、地球を救うミッションや、人数が一人一人減っていく展開や、正体不明の侵入者など、よく考えるとよくある話ではあるのだが、それでも見ている間は案外引き込まれてしまっていた。真田弘之さんがカッコいい役柄だったのと(でも真っ先に死亡してしまうのだが……)、主演のキリアン・マーフィ君に免じて、ちょっとおまけしておこう。それにしても、ダニー・ボイル監督の最新作だとは気づかなかったけどね~。

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【サン・ジャックへの道】四星半

サン・ジャックとはスペイン語でサン・ティアゴで、キリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラのことを指すらしい。片やアル中の妻を抱えるエリートの兄、片やリベラルだが態度が硬直しつつある学校教師の妹、片やほとんど生活能力を失いつつある弟の、人生観に交錯するところがあるとは思えない仲激悪の3兄弟が、遺産相続のため、嫌々一緒に巡礼路を歩くという話。今も昔も、サンティアゴへの長い巡礼路をただひたすら歩くことには、自分の中の余分なものを削ぎ落とす修行の意味があるのだろうか、この3兄弟も、一緒に旅をする何人かの人々も、自分の人生に必要なものをゆっくりと見出していく様の描写がとても好きだ。意味ありげなシュールな夢のシーンも好きだけど。こんなふうに細かいエピソードを丹念な積み重ねていく表現は、鋭い人間観察力と丁寧な構築力がないと出来ないことだけれど、この表現が人間なるものに対する愛あるユーモアに包まれているところに、どうしようもない愛おしさを感じる。今まで見たコリーヌ・セロー監督作品には、個人的には1本もハズレがないのだけれど、今回の映画もまた素晴らしかったですね~。

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【幸せのちから】四星半

あらすじだけ聞けばよくあるアメリカン・サクセス・ストーリーなのだが、主人公がどん底状態に陥ってしまう様や、ホームレスになりながら寸暇も惜しむ努力をしてそこから這い上がる足掛かりを得る様の、醜いことも曝け出してしまう描写がかなりリアルで真に迫っているので、非常に説得力がある作品になっているのではないかと思う。幼い息子を連れて駅の公衆トイレに泊ろうとするシーンなんて、親としてどれだけ惨めだろうかと思うと、涙なくしては見られない……。この役を敢えて引き受けるウィル・スミスって本当に賢い人なんじゃないかとつくづく思った。縁故採用ではなくオーディションをして選んだという彼の息子さん(ホントかどうかはともかく)も可愛かったし、役柄にもぴったり嵌まっていてとてもよかった。ということで、減点するところがどこにもないので、この星の数にせざるを得ないんですけれども。

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【子宮の記憶 ここにあなたがいる】三星半

家族との関係が冷え切っている男の子が、赤ちゃんの頃に自分を誘拐した女性の瞼の記憶を辿って訪ねて行き、その女性と、親子の情に近いものともそれ以上のものともつかない微妙な関係を作る、という変わった設定。けれど、演じている柄本佑さんと松雪泰子さんのおかげで、ある種の説得力が醸し出された作品になっていた。特に松雪さんの、生きることに疲れているけれど不思議な透明感を持つ生身の女性、という存在感が絶品。本来、こういった蓮っ葉な感じがある役は寺島しのぶさん辺りにでも話が行きそうなものだけど、出来上がった映画では、最初から松雪さん以外には考えられなかったようなワンアンドオンリーな存在感が、作品そのものの色を完全に決定づけていた。実は私は、松雪さんが昔デビューした当時は正直あまり好きではなかったのだけれど、本っ当にいい女優さんになられたんだなぁ、としみじみしてしまった。しかし最後の10分は不要なんじゃないのかな~。少なくともあの作り方は失敗だったと私は思うぞ。

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【神童】三星半

主人公の成海璃子さんが13歳という設定にしては随分大人っぽく映り、ことによると松山ケンイチさんの彼女役の貫地谷しほりさんより年上に見えたところに、終始違和感があった。う~ん、それだともしかして、ストーリーの質が少し変わってしまったりしないのかな…… ? 成海さんは、オーディションなどで選ばれたのではなく、最初から主役を彼女にすることが決まっていた印象を受けるのだがどうだろう。全体的には、萩生田宏治監督らしい丁寧な語り口は好きだったけれど、人間描写に重きを置くというよりは、音楽が持つ深遠で底知れない力(人の運命を狂わせて時には死にすら至らしめてしまうほど強大だけど、基本的には人を救うものであるに違いない)自体がテーマとしてもっともっとはっきり立ち現れてくるような流れにした方が、見応えがあったのではないだろうか。『のだめカンタービレ』が受けているのは、一見軽やかな展開ながらもその辺りの描写が案外しっかりしているからだと、私は思うのだけれども。

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【ストリングス~愛と絆の旅路~】四つ星

デンマーク産のアート系のパペット映画なんていう、普通だったら単館上映でしかやらないであろうマイナー風味なものを、どうしてクサナギ君やらカトリ君やらというゴーカな声優キャストや庵野秀明監督なんぞを迎えて日本語版を製作することになったのか、その成り行きはよく分からないのだが……。この人形劇では、人形が自分達を“生まれながらに紐がついている存在”と認識しているというのがスゴい発想で、しかもそれは、正体不明の超越的な力のようなもの(運命とか神サマとか ? )に操られているのではなく、お互いに繋っていてお互いを操っているのだ、としているところもスゴい。最初は世間知らずな青二才ぶりが鼻につく王子様のキャラクターが、本当のことをいろいろ知り、和解への道を悟るところもいい。結構これは、あれこれ考えさせられる奥深い映画なのではないかと思った。いかにも手作りのテイストを残した人形の造形も好き。やっぱりというかこの人形達は、人形劇も人形アニメも盛んなヨーロッパ一の本場のチェコで創ってもらったらしいです。

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【スパイダーマン3】三星半

映画の終盤、グリーン・ゴブリンJr.(ニュー・ゴブリンだっけ ??)ことジェームズ・フランコ君の執事が切り出したセリフに腰砕けになった……オイッ !! 今頃それを言うのかよ !! このシーンを見た時に、それまで目をつぶって見てきたピーター・パーカー君のあんまりにも頭の悪い無神経ぶりとか、敵役キャラのあんまりにもその場しのぎでキャラが立たない設定とか、アップで大写しになるピーター君の二重アゴとか、その他もろもろ気にかかっていた点が全部欠点に見えてきた。盛りだくさん過ぎる内容を無理矢理詰め込み過ぎで、実のところ、何一つちゃんと描けていないんじゃないの ? 特にジェームズ・フランコ君の存在は、シリーズの最初から“どうやって膨らませてくれるんだろう ? ”と楽しみに見ていたのに、迷走した挙句がコレとは……ご都合主義にも程がある。こうなってしまうと、最初の奴が一番良かった、というか、シリーズ化なんかしなきゃよかったのにと思えてきた。
前作までの流れがあるからおまけでこのお星様にしているけど、本当はもっと点を下げたいくらいかも。まぁこれで、トビー・マグワイア君もやっとお役御免で、今後はもっと違うタイプの映画にバンバン出てもらえるのかもしれないな、と思うと、それだけが救いなんだけど。

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【世界はときどき美しい】四つ星

映像詩、と銘打っているこの作品。本作が劇場デビュー作になる御法川修監督は、松田美由紀さん、柄本明さん、松田龍平さん、市川実日子さんといった、短い時間で架空の人生を現出させる力のある俳優さんたちの語りを8ミリで撮って、デジタル変換するという凝ったことをしている。確かにこの画の美しさは、作品のイメージにマッチしているかな。内容的にも手法的にも、これ以上やると押し付けがましくなると思うけど、この作品としてはギリギリの線で成立しているんじゃないかと思うので、ちょっとおまけしてこの評価。

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【絶対の愛】三星半

愛されたいが自分に自信がない、のは百歩譲って分からんでもないということにしといても、恋人に愛されなくなるのを恐れるあまり整形してしまう、というあまりにもヒステリックな自己否定ぶりはちょっと行き過ぎていて気持ち悪い……あれ、おかしいな ? 私も大概自己否定的な人間だったのでそういうのにはもっと寛容かと思ってたんだけど……と考えて、この映画に対する圧倒的な違和感の源に思い至った。この映画で異性へのアピールの対象になっているのって、徹頭徹尾、顔だけなんだよね。性格や感性がどうかという内面的なものはおろか、フィジカルな話なんかにも一切言及なし。うーん、人間の存在ってそこまで顔だけなの ? 顔だけ変えたって、話し方とか雰囲気とか体の特徴とか臭いとかでちょっとあれ ? とか思ったりしないもんかなー、と考えててまたふと思い至った。そういえば韓国って整形がものすごく盛んな国なんだっけ。この映画はもしかして、韓国社会のそういった面を風刺している内容なのかな ? それにしてもキム・ギドク監督の作品って、やっぱりどうも私とは感覚が合わないというか。

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【素粒子】四つ星

ドイツ発の激辛ミドルクライシス・ムービー。母親があんまりにも奔放なキャラクターだったばっかりに、片や兄さんは何をやっても悪い方向に運んでしまう不幸な人間に、片や腹違いの弟は、社会的には成功したけれど初恋の女の子とうまくいかないまま女性の一人も知らずじまいという人間に。このお兄さんという人が、何か可哀想になってしまうくらいセンシティブで、(うるさいからって赤ちゃんに睡眠薬を飲ませたのはいくらなんでも酷いと思うけど、それ以外は、)教え子にセクハラをしたことも、恋人をみすみす死なせてしまったことも、その情けなさを私は責めることができない。子供は親を選べなくて、その与えられた運命の範囲内でなんとかやっていくしかないんだけど、それでいくら頑張ってみたところで、幸せなるものに辿り着くことが出来るとは限らない。一方、このエンディングは、見方によっては非常に残酷なものでもあるけれど、何が幸せかなんて本人以外誰にも分からないとも言っているようでもある。人生って一体何。少なくとも私は、この情けなさすぎる兄の、自分の人生をどうすることも出来ない姿のために泣いてしまった。だからこれは、人生を振り返ってあーだこーだと思うような人が観て一緒に頭を抱えてしまうためにある映画で、そうでない人は全く見る必要が無いものかもしれないですけどね。

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【それでもボクはやってない】四星半

日本の裁判制度の不備を突くだけなら何も痴漢を題材にしなくても……と観る前は思っていた。実際、女性に実際に乱暴したり痴漢したりしてるのにしていないと言い張ったりする馬鹿男が世の中に一人でも存在する限り、“女性一般”の側からの“男性一般”に対する不信感はどうしても拭い去れないと思うので、周防正行監督がその辺りには今一つ鈍感なのではないかと思われたところ(全く言及していない訳ではないけれど)がやはり気になった。ただ、痴漢のような犯罪は厳罰を受けて当然、という意識が存在しているからこそ冤罪の温床にもなりやすく、だからこそ監督はこの題材で行こうとしたのだということも、映画を観ればよく分かったけれど。裁判なんてお堅い内容を取り上げ、それを全く小細工を弄さずに真正面から描きながら、観客を最後まで引っ張って飽きさせずに見せ切るのは、膨大な取材の成果を見事に整理してみせている人物配置やプロットが完璧なのに加え、その語り口のリズム感でサスペンスを醸す技術が卓越しているからだと思う。11年のブランクに関わらずその手腕が全く健在だったことは、いくら賞賛してもし足りない。

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【大帝の剣】四つ星

いやーもう、いい感じのチープさやバカバカしさが好きだな~。アクション感性の低い私は終盤にはちょっとダレたけど、その他の部分の展開はいい感じ。大柄な体型が生かされた阿部寛さんも、長谷川京子さんもいいけれど、役者としてのクドカンさんの味が役柄に活かされているのがとてもよかった。堤幸彦監督も随分と楽しんで撮られたんじゃないのかな。そして極めつけは何と言ってもエンケンさんの「アララララ ! 」一人で場をさらってしまうこの人、やっぱり凄い。

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【ダフト・パンク エレクトロマ】二つ星

ふた昔前、私が20代の頃のアート・フィルムみたい……。何か一瞬懐かしいような気もしたけど、ずっとこの緩慢なテンポというのはやっぱりちょっと耐え難いかなぁ。せめて全編、自分達のダフト・パンクの曲にするとかすればよかったのに。

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【魂萌え ! 】四星半

旦那が死んだ後に長年の愛人が発覚するなんて、日常生活レベルではかなり最悪な部類の出来事に違いない。そんな逡巡から這い上がりどんどん自分を解放していくヒロインに風吹ジュンさんがばっちり嵌まっていたし、それぞれのエピソードの切り取り方も組み上げ方もやはり抜群に上手く、流れがスムーズで、とても説得力があってよかった。由紀さおりさん・藤田弓子さん・今陽子さんのヒロインの親友トリオなんかも味があって好きでしたね~。ただこの設定は若い人には全くピンと来るはずもなく、どう考えても完全に50代からせいぜい60代あたりがメインターゲットになりそうな映画なので、興行成績的にはどうなるんでしょう…… ? その年代の主婦層って敢えて映画館に映画を見に行ったりとか見たりするのかな、しかも、TVドラマでももう放送されてしまっているでしょう ? (それはそうと、NHK版も見ておけばよかったな~。)
亡国の何とかの時は本当にファンをやめたろかと思ったので、今回の映画はちょっと胸を撫で下ろした。でもまだ安心はしていない。またああいう映画を作ることがあったら、その時は私は本当にファンをやめるつもりですので、どうぞよろしく、阪本順治監督。

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【長州ファイブ】四つ星

幕末のお話にはそれほど詳しくないため、まだ海外渡航が禁じられていた時期に伊藤博文や井上馨を含む5人がイギリスに留学していたということを知らなかった。フィクションの部分もあると思うが、知られている史実にはかなり忠実に創られているみたいで、とても勉強になった。特に、学問の半ばで早々に帰国し後には主に政治の世界で活躍した伊藤博文や井上馨らのような人物に対し、その後もかの地で勉強を続け、日本に鉄道や造船などの技術を導入する礎を作った山尾庸三や井上勝のような人物もいて、彼等こそが日本のその後の繁栄を下支えしたのだ、という視点がとてもいいと思った。五十嵐匠監督は、じっくり粘って対象に肉迫するのが時にローテンポだと感じられることが無い訳ではないため、本作のように、幕末の長州藩の武士達という躍動感溢れる題材を描くくらいでちょうどいいのかもしれない。まぁ話の後半は、グラスゴーで造船を学んだ山尾庸三のみにスポットを当てた描き方になっていて、監督のスタティックな作風がより感じられる雰囲気になっていたけれど。デビューが時代劇だった松田龍平さんは、武士姿も決まっているけれど、当時のちょっとクラシカルな洋装の立ち姿もまたカッコイイですな。

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【チョムスキーとメディア マニュファクチャリング・コンセント】四つ星

世界的な言語学者で著明な政治活動家でもあるノーム・チョムスキー氏が、主にアメリカのメディアの状況を題材にしてメディア・リテラシー(情報の成り立ちを読み解く能力)について語る、湾岸戦争当時の1992年にカナダで製作された映画。原題の『Manufacturing Consent』は、映画内では「合意の捏造」と翻訳されている。167分とかなり長いけど(途中休憩あります)、含蓄のある見解がいっぱい出てくるので、メディア・リテラシーについて学んでみたいというような人にとっては手頃な内容になっているのではないだろうか。ただ、さすがにもうかなり前の映画なので、そういったことについて予め関心のある人にとっては既に語られていることの繰り返しになる部分も少なくないかもしれない。
それよりも、映画を観ながら以下の2点についてうーんと思ってしまった。この映画を見に来るような人はそもそもメディア・リテラシーについて関心が高い人が多いのであって、そうでない人達に対してこの映画で語られているようなメッセージを一体どうやって届ればいいのだろうか。また、チョムスキー氏は「生活に追われている普通の人達には闘うエネルギーが残されていない」というようなことはおっしゃっているのだが、ではそういった人々(私も含め)は、その先一体具体的にどのように努力をしていけばいいのだろうか。それは個人個人でそれぞれ考えることですよ、とはまったくもって仰る通りなのだが、映画の製作から15年を経ている今、もう一歩踏み込んだ意見を聞いてみたいような気がする。

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【ツォツィ】三星半

南アフリカを舞台にした映画を観るのも随分久しぶりのような気がするが、実際に南ア出身の監督さんの映画となると初めてかも。個人的には、のっけから暴力をdisgrace(だったと思う)と非難する友人が出てきたりするのはどうも腑に落ちないし、命の価値が分かっていない子供がちょっと赤ん坊と出会ったくらいで改心するものだろうか ? とか思ったりする。でも、更なる暴力に帰結せず、赦しと和解が垣間見えるラストシーンは心に残った。

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【ディパーテッド】一星半

トニー・レオンの悲哀はレオナルド・ディカプリオにはカケラだってないし、アンディ・ラウのカッコよさはマット・デイモンと較べるべくもない。エリック・ツァンの底知れない不気味さの前には、ジャック・ニコルソンのあまりにも表面的な悪人ごっこは鼻につくだけだし、アンソニー・ウォンは……っと、一人じゃ太刀打ちできる俳優さんがいないから二人にしてみましたってか ! オリジナル版で“無間”と表されていた主人公二人の地獄のような泥沼を、自由の国アメリカにどう移し変えるのかと思っていたら……まさかここまでストーリー・ラインのみの薄っぺらい剽窃に終始しているとは思わなかった。リメイク版はオリジナル版を離れて自由に発想してもいいものだとは思うけど、これだけオリジナル版のシビレるような味ばかりが思い出されてしまうというのは、オリジナル版の作品の魂にリメイク版が全く及ばなかったということ以外の何だというのだろう。私はこの映画を全く評価できないし、ちょっとでも評価しているような世の総ての評論家が全く信じられないのですが。

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【東京タワー オカンとボクと、時々、オトン】五つ星

テレビドラマ編は結局あまり気乗りしなくて見ず終いだったんだけど、映画の予告編でオダギリジョーさんを見た時に「あ ! リリーさんだ ! 」と思うくらい風貌や雰囲気が似ているのを感じ(本人は特に似せたつもりはないと言っているようだが)、それもあって、映画編はちゃんと観なくてはと思った。
親との関係というものはそれぞれの親子で皆違っていて、世界中を探しても実は同じものは二つと無いのではないか。ここに描かれているのも、リリー・フランキーさん個人とそのお母様(と時々お父様)との関係という世界に一つしかない関係で、親との関係がこじれたクチの私はこの話の中に自分の物語を見て取ったりはしないし、実のところ、このお母さんくらい息子思いの母親も、リリーさんみたいに親孝行な息子も、現実に探すとなるとなかなか行き当たらないのではないかと思ったりする。でも、たまたま母親と息子という立場に生まれてきたけれど、この二人のようにお互いのことを気遣って思いやっている関係は、滅多なことでは得ることができない大切なもののように思える。私にとっては、この物語の普遍性はそういう部分にこそある。
純粋にストーリーとして見た場合は、この物語の中のエピソードの数々はむしろ、探せばいくらでも転がっているかもしれないようなありふれたものなのかもしれない。でも本編の脚本の松尾スズキ氏や監督の松岡錠司氏は、余計なてらいを一切排し、そのありふれた物語をありふれたものとして純粋にそのまんまの形で描き切っている。普通は、よく見知ったステレオタイプのストーリーの枠に押し込むとか、受けのいい過剰な装飾をつけるとかしたくなるもので、シンプルな形に還元していくのって一番難しいことなんじゃないだろうか。私はそういうところが美しいと思った。

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【ドリームガールズ】三星半

中盤になるまで本作がミュージカルであるということに気づかず、凄く盛り上がるはずの大事なシーンで呆気に取られてしまった私は相当オマヌケではありますが。助演女優賞をゲットしまくりのジェニファー・ハドソンさんといい元デスティニーズ・チャイルドのビヨンセさんといい、歌やパフォーマンスは本っ当に素晴らしかったので一見ごまかされそうになってしまうんだけど、お話やキャラクター設定は紋切り型というか、よくあるアイディアを行き当たりばったりで取ってつけたみたいに感じられる箇所が結構多く、全体的に練り込みが足りないんじゃないかと思われたのだが。また、そんなことをしていたらよろしくない結果がやって来るに決まっている、と思われるシーンがいくつもあって、君達の辞書には因果応報という言葉は無いのか(無いんだろうな)と何度も何度も思ったのも、見ていてどぉ~もパッとした気分になれなかった大きな原因だったような気がするんだけど。

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【どろろ】四つ星

アクション・シーンは凄いけど、ワイヤー・アクションはやっぱりどうも苦手。お話を無国籍風にアレンジしてあるのはいいけれど(手塚治虫先生の原作では日本の戦国時代です)、あの音楽の使い方はちょっと行き過ぎで戴けない。原作の内容をよくここまで再構築して盛り込んだと思うけど、盛りだくさんすぎて少々ごちゃごちゃしてしまった嫌いもある。原作よりも血縁関係に重きを置いてしまったのも、私としては今一つなところ。塩田明彦監督作品だと思うと、私はもう少し上の線を期待してしまう。けれど、原作では四頭身のどろろちゃんを生身で演じてちゃんと成立させてた柴崎コウさんの力量と、妻夫木聡さんのあまりにも圧倒的なカッコよさのため、やっぱりこれは観ておいて損のない映画なのではないかと思った。

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【ナイト ミュージアム】三つ星

毒もひねりもなく、アイディアを適当に持ち寄って詰め込んだだけの普通の娯楽ものって感が否めなかったなぁ。大好きなベン・スティラー様主演で、ヒットしてるそうでよかったけど、私は終始ドタバタで疲れただけだった……。

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【ナヴァラサ】四つ星

西原理恵子さんのエッセイ漫画にも登場したことがあるインドのサード・ジェンダー、ヒジュラをテーマにしたお話の映画。私には傍目で見ている程度の知識しかないのだが、日本もインドも、サード・ジェンダーの方々につきまとう悩みの本質はあまり変わりがないのかなぁ、などど漠然と思った。それよりも、ミュージカル大作映画が大勢を占めるインド映画界にも、このようなインディーズ映画を作っているプロダクションがあるのか、ということにちょっとびっくりしてしまいましたが。(でもよく考えれば、インドにはサタジット・レイやらアラヴィンダンやらといった大家の伝統もあるんだから、全然不思議じゃないのか……。)

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【NARA:奈良美智との旅の記録】四つ星

一見、人間としてのバランスがすごくよく取れている普通の人なのに、アーティストとしてはやはり一般的なものの見方を逸脱しているところがあって、自分のそんな部分とのせめぎ合いを客観的に見ているところがある。奈良美智さんがこんなふうな人だとは知らなかった。『A to Z』の展覧会を見に行けなかったので、その様子の断片だけでも垣間見ることができてよかったけど、それ以上に、奈良美智さん御本人の人としての面白さが印象的だったなぁ。

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【バッテリー】三星半

本作もたまたま、かなり以前から原作を読んでいたのだが。大々的にオーディションをしたという主人公の原田巧君を始め、子供達のキャストはかなりイメージ通りだし、6巻もあるストーリーを2時間程度にまとめようというのだから(今回の映画は4巻の途中くらいまでだと思うけど)、瑞垣君の屈折ぶりや吉貞君のお調子者ぶりなどの大好きな部分が削られたり他のキャラにアレンジされたりしているのも、まぁ仕方ないだろうなとは思う。でも、お父さんが「巧は病気の弟のためにここまで頑張っていると思わないか ? 」みたいな感じの科白を言っているのを見てガックリした。違ーう !! 『バッテリー』は断じてそういう話ではなーい !! 巧君が頑張ってるのは、それが彼の天才としての生理だからだ。そしてこのお話の中心にあるのはあくまでも子供達の心の葛藤なのだ。いくら岸谷五朗さんだの天海祐希さんだのの有名な俳優さんを使ってるからって、原作のテーマを歪めて子供達の描写を削ってまで、彼等の出番や見せ所を増やそうだなんてどうかしてる。そういうことに関係なく、この映画だけを単独で見ればそれなりの出来なのかもしれなくても、私にとっては、これは『バッテリー』ではない別のお話でしかなくなってしまった。

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【パフューム ある人殺しの物語】三星半

これは原作がとっても好きなんだけど(しかしどうして『香水』という美しい題名をわざわざこんな味気のない邦題にするのだ ? )、それだけに、自分が原作で好きだった部分を映画にも求めてしまう訳で……。これぞヨーロピアン ! な汚しを入れたほの暗い画面は好きだし、主演のベン・ウィショーはなかなかイメージに嵌っていたし、俺の名演を見てくれ ! のアラン・リックマンやダスティン・ホフマンもまぁいいんだけど、お話のキモである匂いの世界を表現するのはどうしても難しかったのでは。それ以上に、やっぱり主人公の存在の解釈だなぁ。私はあの主人公は、この世のものならず何にも交わることのできない、不条理なまでの超越的な力を表していると思うので、彼になけなしの人間味なんて必要ないんだよねー。原作をそれなりに上手く実写化していると思うし、トム・ティクヴァ監督(原作者のパトリック・ジュースキントと同じドイツ人です)ってやっぱり器用な人だなとは思ったんだけど、原作好きなだけにちょっと辛目の点数になるのは許して下さい。

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【バベル】四星半

この同じ地球上で(若干のタイムラグはあるが)ほぼ同時に進行する、互いに関連する4つのエピソード。彼等は、バックグラウンドも経済的状況も何もかも違って、それぞれ全く違った質の悩みを抱えているのに、それでも今のこの時代を同時に生きているのだ。オムニバスではなく一人の監督さんの手によってこういう視点から描かれた映画って今まで無かったんじゃないか。それだけでもこの映画は画期的だし、評価されるのに値するのではないかと私は思う。互い違いに現れるそれぞれのエピソードの語り口も澱みなく、悪い方へ悪い方へと転がっていくそれぞれの状況を的確に活写している。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、まだ若い身空でこんなことをやってのけてしまっているのは、凄いことなんじゃないんだろうか。
ただ、結局どのエピソードでも、本当に最悪の事態は免れているように思えてしまったのが食い足りないところ。私はそれぞれのエピソードを見ながら、それぞれもっと深刻で最悪な状況を容易に想像してしまった。普通の映画として観るならば、何かしらの救いがあるエンディングはそれはそれでいいのかもしれないが、これは敢えて【バベル】なんていう壮大な題名を掲げてしまっている映画なのだ。神の思惑に反してしまったため人類に課せられてしまったディスコミュニケーションって、本来、もっともっと深刻でもっと救い難いものなんじゃないんじゃないだろうか。そこに至るまでの語り口が緻密で完璧なだけに、その辺りはもっと突っ込んで欲しかったかなぁと、少し残念な気がした。
今、世間で大騒ぎされている菊地凛子さんの演技はもちろんよかったんだけど(何せあの実力派女優として誉れの高いケイト・ブランシェット様が「本物の聾唖の人だと思っていた」と言ってたらしい)、でも、あんなにもまっすぐな瞳をして賢そうで根性がありそうな表情をしている女の子だったら、今は辛いかもしれないけれどそのうち絶対立ち直れるよ、大丈夫大丈夫、とか思ってしまった。それより私は、同じアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされていたメキシコ人家政婦役のアドリアナ・バラッザさんの役柄のほうに、ず~っとシンパシーを覚えた。苦労に苦労を重ねて育てた息子(多分)の結婚式、一世一代の晴れ姿だもの、どんなことをしたって行きたいと思って当然じゃない。彼女は「悪いことは何もしていない、愚かなことをしただけ」と言っていたけれど、本当にこの日たまたま運がかなり悪かっただけ。それなのに、慣れない土地で16年間も頑張って頑張ってやっと築き上げたもの(多分)をすべて奪われてしまうなんて……私とて上京してン十年、やっとの思いで何とかかんとか築き上げてきた今の生活を全部根底から崩されてしまうなんてことがあったら……想像しただけで泣いてしまう。彼女がアカデミー賞にノミネートされたのは、きっと、選考委員に私と同じように心を傷めた中年のオバサンがいたからに違いない( ? )。それなのに、日本では彼女はポスターにすら載っていないって一体どういうことなのさ。やっぱりここはオバサンが差別されている世の中なのね。……いや、そういうことが言いたかったんじゃなく。この映画は、観る人によって感情移入をする対象がかなり違うんじゃないかなぁと、そういうことも思ったりしたという訳です。

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【パラダイス・ナウ】三星半

自爆テロに向かうパレスチナの青年は、戦前の日本の特攻隊員と似ている、とパレスチナ人監督のハニ・アブ・アサド氏も自らコメントしていらっしゃった。ううむ、この映画のそれ自体の出来は悪くないのだとしても、あまり驚かされなかったのは、だからなのかもしれない。

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【パリ・ジュテーム】三つ星

パリは大昔に一度行ったことがあるきりだが、この映画の中のパリは私のイメージするパリとあんまり重ならない。もしかしてパリという都市をメインキャストとして取り込み切れていない話も少なくなかったのでは ? そこもあまり入り込めなかった理由かもしれないんだけど、1本の映画中に18編というのも、あまりよくなかったのかも。名だたる監督さん達や有名な俳優さんが満載なのに、めまぐるしすぎてついていけず、ちっとも印象に残ってないんだもの。オムニバス映画って1本中にせいぜい10編くらいが限度なんじゃないんだろうか、と切に思ってしまいましたけれども。

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【春のめざめ】三星半

ガラスに油絵を描いて動かすというアレクサンドル・ペトロフ監督独特の手法による画は、相変わらず美しい。でも、世間知らずのお坊ちゃまの初恋や性のめざめって……いかにツルゲーネフなんぞの伝統を汲んだ文学の香り高いテーマなのだとしても、今現在の私にとってあまりピンとこないものなんですけど……。

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【秒速5センチメートル】四つ星

新海誠監督の新作では、秋葉原系と思われるようなおにーさん達が相変わらず多かったけど、女の子の数も何か増えているような気がしたな。うむ確かに、これならガールフレンドにも自信持って勧められるかも。本作は、同じ登場人物を中心に描いた3話形式のオムニバスで、お話としてはそんなに驚くようなものではないはずなのだが、それをここまで繊細に描き切る感性と、その世界観を支える壊れそうなまでの絵の美しさが凄い。特に第1話では、電車を乗り継いで初恋の女の子に会いに行く中学生の男の子の、不安な心の振れ幅にシンクロしてしまって泣きそうになってしまった。でもだからこそ、それこそよくある展開になってしまった第3話は陳腐だと感じられ、敢えて描く必要があるのかな、とも思ってしまいましたけれども……。

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【ピンチクリフ・グランプリ】五つ星

パンフレットに話によると、1975年に作られたこの映画は未だにノルウェーの歴代観客動員数第1位で、一家に一本必ずビデオがあるくらいの勢いの国民的作品なんだそうだ。さもありなん、というかそんな事前情報があろうとなかろうと、この作品は今までに観てきた人形アニメの中で一番好きな作品だと、私はここに断言したい。キャラの可愛さ、人形アニメとしての作り込み方や芸の細やかさ、カーレース・シーンのスピード感などもいちいちどストライクですっかりツボに嵌まってしまったのだが、どこかクールだけれどニヒルではない優しさに満ち溢れた作風もまた大好きだった。第二の心の故郷・ノルウェーにこんな素敵な作品があるなんて全く知らなかった ! というか、世界のアニメーション作品に関する本なども少しは読んできたつもりだったのだが、今までこの映画に全く行き当たらなかったのはどうしてなんでしょう……自分の不勉強が悔やまれる。

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【不都合な真実】四星半

地球温暖化について多少は知識があるつもりでいたが、これだけ多くの証拠を系統立てて見せられて初めて、今まで分かっているつもりで何にも分かっていなかったことを痛感し、特に、ここ10年で温暖化が加速度的に進んでいることの様々な実例を突きつけられて暗然とした。環境問題だけは、しばしば経済原則に支配される個々の自主性に任せていたって絶対無理で、政府レベルで総量規制しないとどうしようもないと常々思っていたけれど、この映画のように個人個人の認識を少しでも啓発していけば、全体のコンセンサスにも影響を与え、状況を少しずつでも変えていくことができるのかもしれない。実際、最近のアメリカ議会などの動きを見ていると、アル・ゴアさんの運動がアメリカの世論にも着実に影響を与えつつあるのかもしれないと思われる節があって、そうするともしかして、下手に大統領なんかになるよりも、よっぽど大きな仕事を成し遂げることになるやもしれないかも。本作は、アル・ゴアさん自身のプロモーション・ビデオと化している部分や、講演会のガチンコ撮りが映画的ダイナミズムには欠ける部分を差し引くとしても、とりあえず見ておくべき映画であり、批判や不満がある人も見てからそうするべきだと思った。

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【ブラックブック】四つ星

ポール・バーホーベン監督って、作品を全部観ている訳じゃないんだけど結構好きなんですよね。グロテスクなものをグロテスクなままに晒け出す露悪趣味も、どうやらそれを自覚しているらしいところも(監督はラズベリー賞を自ら受け取りに行ったという伝説の持ち主である)……。そんなバーホーベン監督が、最近は活動の基盤を戻しているという故国オランダで撮った本作。レジスタンスに身を投じた若くて美しいユダヤ人女性の物語、なんだけど、今まで観た第二次世界大戦やホロコーストもののどのタイプにも当てはまらないような結構込み入ったストーリーに、結局、立場ではなくて個人に還元されるのだという独自の視点が反映されているようで興味深い。ハリウッド仕込み ? と思われる派手さは散見されるけど、そこもまたらしくていいのかもしれないな。

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【ブラッド・ダイアモンド】四つ星

ディカプリオ君には【ディパーテッド】でがっかりしたし、【ラスト・サムライ】のエドワード・ズウィック監督だというので、正直全然期待していなかったのだが、これが思ったよりずっとハードなドラマだったのでびっくりした。アフリカ大陸のダイヤモンドの密売やら私設軍隊による暴力やら少年兵の問題やらを下敷きにしたこの映画が、現実の状況をそのまま反映しているとは思わないが、何らかの姿は映し出しているのではないか。ロマンス的な展開を無理矢理くっつけてあるのはまぁご愛嬌だけど、ハリウッド映画の水準で考えるに、こんなお堅いテーマの企画がよく通ったなぁと思うし、そういえばディカプリオ君は最初の頃は演技力で注目されていたんだよなぁと、久々に思い出したりしたのですが。

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【フランドル】二星半

人間性が失われた状態の象徴ということなのだろうけど、年端も行かない現地の女の子をよってたかって襲っている時点で、彼等を理解したいと思う気持ちは皆無に。そんなの、局部を切り取られて銃殺されて逆さ吊りにされて当然でしょ。生還した主人公が迎える感動するべきなのだろうクライマックスのシーンでも、何がジュテームだよとか思ってしまった。人間性を取り戻す、とかいう作品の精神性を全く理解していないみたいですいません。でも、戦場で人間性が失われるとかいった過程の描写自体も、過去の【フルメタル・ジャケット】なんかの過去の作品を思い起こすと、あっさりし過ぎでぬるいかも、とも思われたりして。

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【フリージア】四つ星

“敵討ち”が合法化されてる近未来、ということだが、代理の執行人だの警護人だの、その他の準備や後始末をする人々などなど、余計に金や手間暇がかかって経済的効率が悪くてしょうがないのではないんでしょうか…… ? 原作からはかなりアレンジされているようだけど、設定がかなりすっ飛んでいることには変わりはないし、お話自体も分かったような分からないような微妙な気はする。それでも、過去の事件で感情や感覚を失ってしまった玉山鉄二さんやつぐみさん、その事件に関与していた西島秀俊さんなどの的確な演技に、ついつい引き込まれて見入ってしまった。熊切和嘉監督の暴力描写には相当な冴えがありますよね……やっぱりというか何というか。

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【墨攻】三星半

中国の春秋戦国時代の墨家という思想をベースにした日本の小説&漫画を原作とする、中日韓合作映画。映画のテーマからしてそうなって当然なんだが、頭から終わりまで“戦うこと”について描いているため、映画の出来自体がどうこうということではなく、あくまでも個人的なレベルで、内容に対する興味を維持するのが難しかったような気がする……。しかし、色々な策を練り上げて勝ってきたアンディ・ラウ演じる主人公(坊主頭は個人的には好みじゃなかったかも)が最後にしてしまう“読み違え”が切なくて、結局やっぱり、戦うというのは虚しいことなのだという結論かな、と思ったのだがどうなんでしょう。

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【ホリデイ】三星半

うーん、そんなに普通はそんなに何もかも都合よくことが運ばないわよね……という辺りは置いといて。ロンドンとロサンゼルスのお互いの家を交換した後、環境の変化を楽しみそれまでの自分を見詰めなおしているように見えるケイト・ウィンスレットに較べ、周囲の環境には馴染めずただ色ボケに終始するキャメロン・ディアスの方はちょっとカタルシス感が欠けたかな。でも、ジュード・ロウは相変わらずいい男だし、ジャック・ブラックも中身がカッコイイ男を演じていて素敵だったし、トータルでは楽しめたからまぁいっかー。

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【松ヶ根乱射事件】四つ星

これでもか、というくらい閉塞的な小さな田舎町の時間は、歪みを内包したまま穏やかに過ぎていくけれど、日常の中に織り込まれてしまって大して問題視されていない歪みは、最早歪みではないのかもしれない……そんな中、新井浩文さん(【ゲルマニウムの夜】は結局見ずじまいですみません)が熱演するマジメな警察官が静かに狂っていく様が圧巻で、これは表現としては凄いものを描いているなーとは思うんだけど、政治的に容認する訳にはいかない春子さんの存在も含め、まー見ていて愉快なものではないかもしれないな……。

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【マリアの受難】四つ星

ドイツ出身のトム・ティクヴア監督の、1993年の長編デビュー作だというが、このヒロインのマリアさんが生きる環境の息が詰まるような閉塞的な感じに、何か非常に懐かしいヨーロッパのアート系映画のテイストが甦った。というか、10年やそこら以前のドイツでは、こんな非商業主義も甚だしいような映画を創ることがまだ可能だったのか ? ということ自体がかなり驚きでもあるんですけど。

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【マリー・アントワネット】二つ星

アントニア・フレイザーさんという方による伝記が原作だということだが、【ロスト・イン・トランスレーション】を見る限りソフィア・コッポラ監督には絶対日本人の友達がいるし、ということはかなりの確率で『ベルサイユのばら』を読んだことがあるんじゃないかと思った。万が一本当にそうならお話にもならないけれど、もしそうじゃないとしても、『ベルばら』を読んだことのある人にとっては、“未熟なティーン・エイジャーとしてのマリー・アントワネット”というコンセプトに、新鮮味はまるで無いんじゃないんだろうか。少なくとも本作は、衣装やら何やらには全く興味のない私にとっては退屈極まりない代物だった。しかしこうしてみると、池田理代子さんという方はつくづく偉大ですね~。彼女さんが『ベルばら』を描いていたのは20代の頃のことだそうですよ。凄すぎる。

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【蟲師】四つ星

ストーリーは正直ちょっとわかりにくいところもあり、同じ素材ならもう少し描きようがあるのではないかと思った。でも、CGを用いた“蟲”の描写が秀逸。日本のアミニズムを“蟲”というコンセプトで実体化した原作の発想も卓越しているのだと思うが、それを視覚的にここまで成立させたのは凄いの一言。奥深い自然のロケハンにこだわったのもいいし、オダキリジョーさんや大森南朋さん、蒼井優さんといったキャストも好き。原作やアニメのファンの人にどう映るのかは分からないが、私は結構好きだったんだけど。

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【幽閉者<テロリスト>】三星半

足立正生監督が日本に帰ってきた時も大概驚いたけれども、新作をお撮りになったと聞いてまた驚いた。1972年のテルアビブ空港乱射事件の犯人の一人だった岡本公三容疑者を彷彿とさせる獄中の男が拷問を受けるが、その状況下で、自分自身の存在に対して問い掛けを続ける、という内容。正直、日本赤軍が主に活動していた頃よりも世代が後になる私は、足立監督の映画を昔観た時も共感できた訳ではなかったし、今回の映画で哲学的に展開するヘヴィな内省にも必ずしもついていけた訳ではない。でも、幽閉という状態自体が現代社会のアレゴリーであり、監督は、過去を振り返っているのではなく、映画のシチュエーションに仮託して激しく現在的な何かを普遍的に描こうとしているのであり、テロという方法論が妥当かどうかは別問題としても、監督は現実的に自分を取り巻く世界と非常に真摯に向き合おうとしているのだな、というのは分かるような気がした。映画としての好き嫌いはともかく、約30年の時を経てこの映画が創られたということ自体が一つの事件であるため、獄中の男を演じた田口トモロヲさんのもの凄い演技ともども、やはり観ておかねばならないのではあるまいか。

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【ユメ十夜】三つ星

大変不勉強ながら映画を見た後で知ったのだが、夏目漱石には『夢十夜』という十編からなる短編集があって、この映画は一応本当にその各編をアレンジしたものだったのね……とってもそうは思えないというか、あの美文をどうしてこんなにしちゃうかな、という感じだったのだが。スチャラカなアレンジにするのは別にいいんですよ、実際、今回一番好きだったのは松尾スズキ監督作の第六夜(運慶がブレイクダンスを踊る)だったし。でも、思い切り遊んでいる作風のものから思い切り正攻法で撮っているものまであまりにも振れ幅が大きすぎて、それが十編も続くと、チカチカ明滅するランプを見続けているみたいに疲れてしまうのだ。各自の作風を尊重するといえば聞こえはいいけれど、実際、クリエーションのコントロールを図るだけのビジョンが無いだけなんじゃないの ? この手のオムニバスはもういい加減、作り方を真剣に考え直した方がいいんじゃないかと私は思うのだが。それでも、好きな監督さんの作品などが混ざっていたりすると(今回では西川美和監督など)、気になってついうっかり見に行ってしまったりするんだよなぁ……思う壺じゃん。

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【善き人のためのソナタ】三星半

感想を書く前に、劇場で「話がよく分かんなかったー」という若い女の子達の会話を聞いてもう愕然としてしまったのですが……うーん、今の10代や20代の子達って、もしかして、以前ドイツが東西に分かれていたことや、東ヨーロッパの共産主義国家圏で共産党の独裁政治が行われていたこととかを知らなかったりするんだろうか……。でもこの映画も、もうかれこれ20年ほど前の話ということになるんだもんねー。ベルリンの壁崩壊なんてつい最近のことのような気がするのに、私も年を取る訳だ……。
ということでお話は、大雑把に言うと、1984年の東ベルリンで、劇作家とその恋人の女優を政府の命令により監視・盗聴していた中年男性が改心する、という筋書き。しかし、劇作家達のやりとりを聞いたり党のキタナイ現実をちょっとばかし目の当たりにしたくらいのことで改心してしまうこの主人公の男性、年の割にはあんまりにもナイーブ過ぎやしませんか ? 一人の成人した人間の主義主張を根本から揺るがしてしまうとなると、そこにはもっと内面の凄まじい相克があってしかるべきなんじゃないの ? 女優さんなども、もっと中身のもろさが垣間見られるような感じの描写が必要だったのではないかと思われ、一見重厚そうなクラシカルなヨーロッパ映画の雰囲気の割には、キャラクターの描き方の詰めが今一歩甘いというか、人間なるものの本質やその深淵に肉薄するようなドラマにはなりきれていなかったように、私は思ったのだけれども。旧共産主義体制のマチガイを指摘するという内容は、アメリカ辺りでは受けそうだけれどもね。

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【ラブソングができるまで】三星半

ラブコメの女王(ドリュー・バリモア)とラブコメの帝王(ヒュー・グラント)の組み合わせって、今までありそうでなかったのね。無駄にイライラさせられる遠回しな展開なんぞもあったりするけれど、トータルでは楽しかったからまぁいっか。

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【龍が如く 劇場版】四つ星

最初漠然と見ていたので、ヤクザものを見る時の基本である人間関係の把握にいまいち失敗してしまった……。というかやっぱりこれは、事前にゲームをやっておくことを前提にしている作りなのかもしれないけれど、北村一輝さん、岸谷五朗さんを始めとして私的にはかなりのオールスターキャスト映画だったのと、現実にはありえないようなゲームの世界のテンションをそのまんま3Dに移植したようなテンションの高さが、個人的にはどうしても好きとしか言いようがない。さすがは三池崇史監督 ! 「キム・ギドク ! 」「受取人不明 ! 」という合言葉の小ネタなんかにも笑ってしまったじゃないの。そんな調子なのに、最後辺りでは無理矢理(ある意味での)純愛映画になだれ込むつもりか~ !? という展開になってしまい、またまたのけぞってしまったのですが。

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【檸檬のころ】四つ星

女子高生を描く話となると、普通は、手垢のついたようなよくあるパターンの表現に陥ってしまうものなんだけど、この話は、ストーリーとしてはむしろ平凡すぎるくらい平凡なのに、人物の心情に寄り添いながらも余計な装飾を省いた直截な描き方が、非常に新鮮なもののように映る。本作が長編デビュー作という岩田ユキ監督の演出力、これから非常に楽しみだ。谷村美月さん、榮倉奈々さん、柄本佑さんといった面々の高校生姿も、今のうちに見ておくべきだろうし。

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【恋愛催眠のすすめ】五つ星

途中までただ単にぼーっと観てたんだけど、あることにハタと思い当たって愕然とした。この映画には、主人公の夢のシーンであるに違いない馬鹿げてメルヘンチックなシーン(ポスターにあるハリボテの馬とかステファンTVのシーンとか)がたくさんあるのだが、例えば好きな女の子に冷たくされたり同僚に厳しいことを言われたりといったような現実(またはその反映)と思しき部分もたくさんあり、それらが何の注釈もなく、ごく当たり前のようにランダムに並べられているのだ。こ、これは、主人公の頭の中で現実と夢の区別が全くついていないってことなの ? それからは、明らかに夢に違いないシーンと、もしかしたら現実なのかもしれないシーンを意識しながら観てみたんだけど……夢と現実が単にごちゃごちゃなだけでなく、それをこのような形で呈示して見せているというのは、作り手は、そんな状態を更に客観視しているということになるはず。ミシェル・ゴンドリー監督の頭の中は一体どうなっているのだ相当イカれているのは確かだと思うけど。
(ここから先、ネタバレ御免。)
“現実” ? と思しき部分を継ぎ合わせてみるに、シャルロット・ゲンズブールの演じる彼女はガエル・ガルシア・ベルナルの演じる彼を嫌っている訳ではなくて、彼がしたある行動のために過剰に予防線を張っていたらしいと見えてくるのだが、彼の自信のなさからくる“妄想”の部分がまたそれを邪魔して、その結果“現実”が更にこじれてきたりする……クレイジー。さらにその“現実”が現実であるという確証もなく、もしかしたらこの話自体全部が彼の想像に過ぎないのだ、なんて解釈も成り立ったりしないかな。でも、もしかして、私達が今“現実”と思っているものも現実である確証もどこにもないんじゃないか。デカルト様もそんなことを言っていなかったっけ ? (多分。)素敵なラストシーンは、美しいハッピーエンドのようにも、もの哀しい妄想のようにも見える。もしかしてこの映画は、ものスゴいことをシレッとやっちゃっているんじゃないだろうか。
【バベル】にも出演しているガエル君の演技にも注目。本作ではこんなふうに夢の中に生きてる男性をお茶目に演じていて、この人の演技力の振幅って凄いよなぁとまたまた見せつけられた気がした。彼はもしかして、世界中の同年代の俳優さん達の中でも1、2を争う実力の持ち主かもしれない。

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【ロストロポーヴィチ 人生の祭典】四つ星

つい先日の4月27日にお亡くなりになったというムスティスラフ・ロストロポーヴィチ氏は、国際的に著明なチェリストで指揮者であり、ショスタコーヴィチやプロコフィエフの弟子筋であり、旧ソ連の激動の歴史の生き証人だった。裕福な生まれのロストロポーヴィチ氏とは正反対の出自を持つ妻のガリーナ・ヴィシネフスカヤ女史も、著明な声楽家であり、彼女もまた激動の旧ソ連史の生き証人だった。この二人が織り成してきた人生の綾や芸術なるものを、アレクサンドル・ソクーロフ監督が、独特のじっくりとした語り口で映し出す。(原題は『ロストロポーヴィチとヴィシネフスカヤ 人生の哀歌』が正しい。)いつもは静か過ぎると感じる監督の作風をおそらく初めて心地いいと感じたのは、インタビューや解説の話し言葉以上に、音楽自体がとても雄弁に何かを物語っているからなのかもしれない。とにかく、観ればいろいろなものを感じ取って戴ける映画なのではないかと思う。

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