Back Numbers : 映画ログ No.84



【アイ・アム・レジェンド】四つ星

ウイルスで人類が死滅した後の荒れ放題のニューヨークの描き方なんかは好き。その中で極限的な精神状態に陥る様を、ほとんど自分独りの演技力で見せ切るウィル・スミスはやっぱり凄い。最後まで息をつかせない展開でなかなかよくまとまってると思う……けど、でも“たった1人の生き残り”みたいな宣伝文句はちょっとウソなんでないかい ?

タイトル・インデックスへ

【愛の予感】四つ星

こんな過激な映画、久々に観た。内容が過激というのではなく、表現方法が。(普通の映画しか見たことのない人の多くは途中で着いていけなくなるんじゃないだろうか。)科白は要所にほんの少しあるだけで、あとは効果音だけでBGMすら無く、ほとんどのシーンは、温もりも喜びも感じられないような寒々しい日常のルーティンがただひたすら繰り返されるのみ。変化は本当にわずかずつ表れるだけ。でもだからこそ、『愛することだけが、生きること』と言い切ってしまうラストの歌に心底ヤラレタと思ってしまった。本質的に虚しいものである人生を救うものは愛しかない ! こんな映画を成立させてしまった監督・主演の小林政広さんも、相手役の渡辺真起子さんも、本当に凄い度胸だと思った。

タイトル・インデックスへ

【アヴリルの恋】三星半

青池保子さんの漫画に、生まれた時から修道院で育てられた純真無垢な女性という設定と少しだけ似たものがあったので興味を持った。このアヴリルさんを周りの男どもが傷つけたりしないのか ? とハラハラしながら見ていたが杞憂に終わり、人間、本当にピュアなものを目の前にするとそうそうヒドい振舞いは出来にくくなるものなのかしらと思ったりした。題名は【~恋】だけど、恋より愛な映画だったかもしれない。

タイトル・インデックスへ

【赤い文化住宅の初子】四つ星

母親は死に、父親は蒸発し、兄はなけなしの生活費を憂さ晴らしに使い込む、というこれでもか、これでもかという試練の波状攻撃に若干参ったけど、この境遇を淡々と受け流す初子さんの在り様は妙にリアル。これからいろいろあるだろうことを多分知っているんだろうに、自分を純粋に思ってくれる人の気持ちを大切にしようとするラストが切なかった。

タイトル・インデックスへ

【アズールとアスマール】四つ星

すべてのシーンを切り取って色見本にしたいくらいの色彩の見事さ。そして、ミッシェル・オスロ監督のアニメーションって、お話も案外現代的なんだよね。現代版の御伽噺として万人にお薦めしたい。

タイトル・インデックスへ

【アヒルと鴨のコインロッカー】四つ星

最後まで観てみると、結構過激な題材の割に若干おとなしめな印象もしたけれど、よくまとまっているんじゃないかと思う。主人公の濱田岳さんのフツーっぽさが、大変得難い資質のように思え、今後も注目して行きたいと思った。瑛太さんの演技も、やっぱりよく考えていらっしゃって、さすがに間違いない。

タイトル・インデックスへ

【アフター・ウェディング】四つ星

デンマークのスサンネ・ビア監督は、【しあわせな孤独】でドグマ作品を創った経験もある方。一見地味な作風ながら、その心理描写のきめ細やかさが非常にツボにはまる。公開された一連の作品で、私はすっかり監督のファンになってしまいました !

タイトル・インデックスへ

【アフロサムライ】三つ星

GONZO製作のアニメーションで、サミュエル・L・ジャクソンが声をしてるらしいというのも聞きつけ見に行ったんだけど……こういうのは、いかにもアニメファン御用達の世界観にどこまで入っていけるか、なんでしょうなー。正直私はかなり苦しかったです……。

タイトル・インデックスへ

【アポカリプト】三つ星

冒頭のシーンで大写しになっていた、柔らかそうな傷一つないオシリは文明人のそれで、朝から晩までふんどし一丁で野山を駆け巡っていた人達のものではない。本来なら、生活習慣や思考様式、感情表現のパターンなどには、文化や時代によって様々な違いがある筈なのだが、この映画に出てくるマヤ人達のそれはまるっきり欧米人そのまんまなので、シーンを重ねれば重ねるほどにどんどんシラケていってしまう。メル・ギブソン監督はただ単に、生贄のシーンなどの大規模な残虐描写が撮りたかっただけなのか、それとも、キリスト教以前の文化はすべからく野蛮だったと主張でもしたかったのか ? 常々、映画を現地の言葉で作って欲しいと言っているのは、現地の文化や伝統に敬意を払って欲しいからなのだが、この映画の場合、監督が出演者全員にわざわざマヤ語をしゃべらせて何をしたかったのかは、私にはついにさっぱり分からなかった。ただ、この映画を純粋にアクション映画として見た場合、評価しないのもフェアじゃないかなと思ったので、そこの部分でのみお星様を差し上げることにする。

タイトル・インデックスへ

【ある愛の風景】四つ星

上記の【アフター・ウェディング】参照。スサンネ・ビア監督、大好きです !

タイトル・インデックスへ

【あるスキャンダルの覚え書き】四星半

華やかで自堕落で考えなしに心のままに動く若い女と、高慢で煙たがられていて自分の内面を誰にも晒さない初老の女。ケイト・ブランシェットとジュディ・デンチの超実力派の2人ががっぷり4つに組んで曝け出す、支配と被支配をめぐる人間の暗黒部は、その辺のホラーなんかよりも絶対に恐い ! 間違いなく心寒くなるけれど、覚悟して観るだけの価値は充分ある。個人的には、(レズビアンの要素は除くとしても、)寂しい老後って考え物だなぁと、我が身をいろいろと振り返ってしまった。

タイトル・インデックスへ

【いのちの食べかた】三星半

生命が何の感慨もなく大量消費されていく食料生産の現場を、ナレーションすら付けずにただ淡々と追ったドキュメンタリー。個人的に言えば、断片的に見聞きしていたシーンがほとんどで特に驚くような内容ではなかったけれど、食物連鎖からは遠く外れた人類という存在の歪(いびつ)さを今一度見詰め直してみるにはいい教材なんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【インビジブル・ウェーブ】二星半

タイの俊英ペンエーグ・ラッタナルアーン監督&浅野忠信主演の第2作目、なんだけど……うーん、組長の女と不倫して殺されるやーさんの話なんて全っ然興味が湧かないよー(泣)。静か~なタッチがまた拍車を掛けてしまっていけません。大変申し訳ないけれど、素材の選び方とか話の作り方とか、もうちょっとこう、何とかならないものでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【インランド・エンパイア】三星半

全編デヴィッド・リンチ監督節が炸裂する作風はまぁ相変わらずというか……好きな人はたまらなく好きなんだろうけれど、私とはやはり相性が合いません。ただ、結構な予算を掛けてこんな映画の創り方をして許されるのは、世界中でデヴィッド・リンチ監督が最後なんじゃないかしら ? とふと思ったりしました。

タイトル・インデックスへ

【Watch With Me ~卒業写真~】四つ星

「Watch With Me」は、聖書の言葉に基づくホスピスの基本理念なのだそう。末期を迎える夫とその妻をじっくりと描き出す演出には大変好感が持てるし、津田寛治さんや羽田美智子さんのしっとりとした演技もいい。それぞれ代表作の1本に数えてもらいたいくらいの見応えがあった。

タイトル・インデックスへ

【ウミヒコヤマヒコマイヒコ】二星半

【たそがれ清兵衛】【メゾン・ド・ヒミコ】にご出演なさって個性を発揮している田中泯さんは、大野一雄さんや土方巽さんなどのお名前で連想する“舞踏”が本業なのだそう。そんな田中さんが何故かインドネシアの田畑で踊りまくる本編なのだけど、どうもこの撮影方法が、踊りというもののダイナミズムをあまり伝えていないように思われて好きになれない。ただ、田中さんがいついかなる場所でいきなり踊り始めても周りの人達がほとんど意に介していない風景が何か凄いかも。

タイトル・インデックスへ

【映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事】四つ星

水俣病のドキュメンタリーを長年取り続けていた土本典昭監督の作品を、大変お恥ずかしながら私は一本も観たことがありません……でも、そんな私ですら、監督が築き上げてきた仕事の本質の一端を垣間見せてもらうことが出来る映画になっているのではないでしょうか。水俣再訪のシーンでは、長年水俣を見つめ続けていた監督だからこそ捉えることのできる“現在の水俣の姿”というものがあるのだなぁと思いました。

タイトル・インデックスへ

【ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序】四つ星

前作の単純な焼き直しではなく再構築。そんなリスクを冒す必要なんてまるで無いのに敢えて挑戦する、その製作者チームの心意気がまず偉いと思った。前作と入口は一緒でも少しずつズラしていく、その匙加減がきっとファン心理を煽って飽きさせないのだろうし、今後どういう変奏を遂げていくのかも全く予断を許さない(もう監督の頭の中には設計図が出来上がっているのだろうけれど)。やはり旧作を見てることが前提になるんだろうが、旧作ファンなら誰しも観ずにはいられない、という点では完全に成功しているだろうし、何もかもを計算し尽くしている(ように見える)のが凄いと思う。序破急と来てラストに更に1本創るとのことで、これからあとまだ3作あるんだそうだが、これからの推移を気長に見て行きたいと思う。

タイトル・インデックスへ

【EX MACHINA -エクスマキナ-】四つ星

以前公開された【アップルシード】と同じ原作の話なのだそうで、そういえば一部、見たことあるような設定もあるような。絵も綺麗で話の展開も飽きなかったし、特に減点するところのないよくまとまった作品なんじゃないかなぁと思った。個人的には、細野晴臣さんが音楽監修をしているというのが感慨深い。デジタル画像との相性で世界中に細野さんの右に出る人はいないんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【エディット・ピアフ~愛の讃歌~】四星半

この映画を観ながら、何でか知らないけれど、昔観たジャニス・ジョプリンのドキュメンタリーを思い出していた。度し難いほどのワガママさ、お世辞にも誉められたものではない薬漬けの私生活、計り知れない孤独感、そして生まれつきの圧倒的な歌の才能と、歌うことによって必死で愛なるものにしがみつこうとしたところ……何か似ているところがあるように思うのだがどうだろう。みっともなくたって何だってただ生きていくことが大切で、そして生きていくことって愛することなのだ。映画はピアフが『Non, je ne regrette rien』(「水に流して」という麗しい邦題があるけれど、字幕の「私は後悔しない」の方がより正確だろう)を歌うところでシメられているけれど、私も後悔しないように生きていかねば ! と年甲斐もなく強く思ったのだった。
ところでこの映画、フランス人的には『Non, je ne regrette rien』が大トリでも、日本では『愛の讃歌』が一番ポピュラーだからこの副題がつき、アメリカでは『La Vie En Rose(バラ色の人生)』が一番ポピュラーなのでその題名になったんだそう。何か国民性が出ているようで面白いですね~。

タイトル・インデックスへ

【エンジェル】四つ星

こんなモノ知らずで自意識過剰の女が主人公…… ? と途中まではものすごく辛かったのだが、後半までガマンして観ているとこの設定が生きてきた。この話は、自分で作った麗しい物語に逃げ込まざるを得なかった女の悲劇だった。フランソワ・オゾン監督ってやっぱりイジワル。でも凄い着眼点。

タイトル・インデックスへ

【オーシャンズ13】四つ星

最近では珍しくさんと一緒に観に行って、シリーズ最高傑作という呼び声は間違ってないかも、という意見で一致した。メキシコのストライキのエピソードなんかも笑えたけど、最後のアナクロな力業に、は思わず「ルパ~ン !! 」と叫んだそうな。嬉々として悪役を演じているアル・パチーノ、今回は半分味方だけどやっぱり…というアンディ・ガルシアの立ち位置が最高です !!

タイトル・インデックスへ

【ALWAYS 続・三丁目の夕日】四星半

老若男女誰にでも鉄板でお勧めできるぶっちぎりの出来の良さ。これはしょうがないですな。

タイトル・インデックスへ

【陸<おか>に上がった軍艦】三星半

新藤兼人監督の戦争体験の談話に、ところどころ再現ドラマを入れた作りで、戦争の馬鹿馬鹿しさを語る。昔、祖父がちょこっとだけしてくれた戦争時代の話では、祖父も内地で延々と後方勤務などをやってるうちに戦争が終わったのだそうで、こんな感じだったのかもしれないなと思ったりした。

タイトル・インデックスへ

【オリヲン座からの招待状】三星半

宮沢りえさんと加瀬亮さんの丁寧な演技が醸し出す存在感は素晴らしかったと思う。けれど、この映画館は客が一人もいないような超斜陽状態から今日まで一体どうやって営業してきたのかとか、2人の関係に否定的だった周りの人達はその後どうしたのかとか、途中の説明をぶっ飛ばし過ぎだし(大体、加瀬亮さんがどう年を取っても原田芳雄さんにはならんだろ……)、昔この映画館に通ったという田口トモロヲさんと樋口可南子さんのエピソードもどうも中途半端。(原作では彼等が主役だったと聞いたけど)。どうも詰めの甘い出来だなぁという印象が否めなかった。

タイトル・インデックスへ

【怪談】三星半

尾上菊之助さんがハンサムだと強調されても困ってしまうところはまぁ置いといて、映画自体はそこそこの出来だったのではないかと思う。だのに、古典落語の世界観と浜崎あゆみさんの主題歌のトーンが全然合っておらず、最後に来てお互いの魅力を見事にぶち壊しあってしまっていた……。浜崎さんのせいじゃない。この曲を主題歌にした真犯人は一体誰 !? 主題歌って大事よねって改めて思ったのだった。

タイトル・インデックスへ

【風の外側】四つ星

ヒロイン(奥田瑛二監督の娘さんのサクラさん主演)の性格の設定や言動のブレにはところどころ“ ? ”と思ったりもしたのだが、下関の街の佇まいと相俟って醸し出される独特の空気感と、奥田監督作品ならではの表現の強度はやはり捨てがたいと思った。星をちょっとだけおまけして。

タイトル・インデックスへ

【河童のクゥと夏休み】四星半

マスコミの狂騒と、それに振り回される人々。それに更に振り回される主人公一家の逡巡と平凡だけれど尊い善意。現在の日本に河童がいたら本当にこんなふうになるんじゃないかというのをかなり正確に描いているのが秀逸で、人間ってそんなに賢くもないけれどそんなに絶望的な存在でもないという視点が、今までありそうで無かった非凡なところなんじゃないだろうか。傑作といっていい出来のアニメーションだと思うけど、ただ気になったのは、万が一クゥが本当に存在していたら、人間の友達でいてくれるなどと本当に言ってくれるのかどうかということだ。それは人間側の手前勝手な希望的観測に過ぎなかったりしないんだろうか……。

タイトル・インデックスへ

【監督、ばんざい ! 】三つ星

何なら全編『コールタールの力道山』で押し切ってもOKだったんじゃないかと思うのだが、そんなありきたりな方法論は良しとせず、特に後半は、人から評価される可能性のある要素なんて何一つ持ち込みたくないくらいの勢いで、通常の映画表現を徹底的に壊して壊して壊しまくる。これに比べれば【TAKESHIS'】なんてまだロジカルな映画だったんじゃないだろうか。このような強迫観念にも近いくらいの徹底的な自己解体欲求はどこから来るのだろう ? 北野(武)監督は、表現の極北のそのまた向こう側にあるものを手探りで掴み取ろうとしているかのようだ。この後の監督は人生何度目かの傑作をものにする可能性があるんじゃないのか ? ただし、そんなこんなで思い切り実験作となってしまった本編そのものは、このぶっ壊れ方そのものを楽しめる自信があるという奇特な方以外には全くもってお勧め出来ないけれど。

タイトル・インデックスへ

【キサラギ】五つ星

逆転、逆転、また逆転 ! 緻密かつ計算し尽くされた古沢良太さんの脚本(【ALWAYS 三丁目の夕日】も手掛けていらっしゃる方なんだそう。今後が本当に楽しみだ !! )に小栗旬さん、香川照之さん、ユースケ・サンタマリアさん、塚地武雅さん、小出恵介さんの鉄壁のアンサンブル、そしてこれらをテンポよく処理した佐藤祐市監督の手腕と、すべてがいい方に転がって、ほぼ室内のワン・シチュエーションの男性5人のみの会話劇(回想シーンのインサートはあるけれど)を飽きさせずに見せ切るのだからもの凄い。ミステリーらしき要素もあるものの、基本的には全編大爆笑のコメディで後味が爽快なのもポイント高し。映画ってまだこういうことも出来るんだ~、とまた新たに目を開かされた作品だった。

タイトル・インデックスへ

【グッド・シェパード】四つ星

アメリカ人以外の人々は基本的にCIAはどこか胡散臭い組織だと思ってるんじゃね ? だからCIAのやり口みたいなものをだらだらと描いている前半は興味が持続せずにかったるかった。主人公が個人と組織との間で引き裂かれていく展開が見応えを増してくる後半になってやっと盛り上がってきたけれど……。映画監督としてのロバート・デ・ニーロさんやマット・デイモンさんの表現への真摯さは充分に伝わってきたけれど、3時間近い上映時間はちょっと長すぎるんじゃないでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【グミ・チョコレート・パイン】四星半

以前に原作のグミ編のみ読んでいたので、映画を見終わってからチョコレート編・パイン編も読んでみたけれど……う~ん、私、映画の方が好きかも ! 原作者の大槻ケンヂさんがかつてどのような体験をしたのかは存じ上げないのだが、女のコだってそこまで薄情な生き物ではないと私は思うんだけど……って閑話休題。映画の方はほとんどグミ編を中心に、魅力的なエピソードをピックアップしていろいろとアレンジを加えている様子で、原作とはかなり変更されている部分もあったりするのだが、青春の逡巡(というか堂々巡り)というテーマはしっかりと継承して輪郭をよりシャープに浮かび上がらせ、実写の世界観の中に見事に昇華させていると思う。青春映画の傑作リストの中に是非新たに書き加えたい一作。そして、映画監督としてのケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の目下の代表作となったことも間違いない。

タイトル・インデックスへ

【デス・プルーフ in グラインドハウス】四つ星
【プラネット・テラー in グラインドハウス】四つ星

ラス・メイヤー風味の【デス・プルーフ…】の方は、超エロカッコイイ女の子達がだらだらだべってカースタントしておっさんをぶっ飛ばすという、いわばそれだけの映画とも言える。タラちゃんが純粋に好きなエッセンスだけを抽出し、ぎゅーっと凝縮しているという意味では誠にタラちゃんらしいというか、タラちゃんの真骨頂が味わえる映画とも言えるのだが、女の子にもカースタントにもそこまでの思い入れが無い私には、まあそれなりかなという気もする。その点では【プラネット・テラー…】の方が、ストーリーが明確な分、見やすいかもしれない。でろでろのB級ホラー色をたっぷりと詰め込んだテイストが味わい深いけど、何と言っても、ローズ・マッゴーワンさん演じるヒロインの片脚マシンガンのいかがわしさに完全にKOされてしまった。自分の趣味の世界をきっちり織り込んだ娯楽大作を創ってきたロドリゲス監督の本領発揮 !
日本では2本別々での公開がほとんどだったようだけど、私は2本をまとめたUSA版というので見たんですね。2本まとめて観る方がグラインドハウス感が倍増するし、間のニセモノ予告編も楽しくて、よりこってりした味わいになること請け合いですよ~。

タイトル・インデックスへ

【クローズZERO】四つ星

小栗旬さんや山田孝之さんを始めとする出演陣は期待以上のカッコよさだったし、ケンカ、ケンカの野郎どものハジケっぷりは概ね面白かったんだけど、クライマックスの大乱闘シーンで女の子の薄っぺら~い歌がカットバックで流れたところでへなへなと腰が砕け、立ち直れなくなってしまった……。どこからどういう要請があったのかは知らないがっ、三池崇史監督が女性描写にイマイチ愛情がないのは重々承知しているがっ、それまでの盛り上がりも作品の質もすべてぶち壊しにしてしまうようなあの曲はあんまりにも酷すぎる。なんかそういうところももうちょっとよく考えて作って戴けないものでしょうか(泣)。

タイトル・インデックスへ

【クワイエットルームにようこそ】四星半

オーバードーズやら拒食やら、今の時代にますます増えているのであろう数々の心の問題を結構真正面からきちんと描写しているのに、完全にエンターテインメントとして成立させているから恐れ入る。松尾スズキ氏の才能がいかに底知れないものなのかということがよ~く分かった。内田有紀さんも、ここまで演じられる人なのだと初めて知った。今後は実力派として認識したいと思う。

タイトル・インデックスへ

【ここに幸あり】三つ星

イオセリアーニ監督の映画は概ね好きだったんだけどなー。この映画に関しては、生活の心配のない金持ちが暇を楽しむ話の何が面白いんじゃ ! と全然興味を持てなかった。ビンボー暇なし !! ってことですいません。

タイトル・インデックスへ

【この道は母へとつづく】三星半

孤児院の6歳の男の子が実の母親を探す……という実話をベースにした話なんだそう。目新しさはあまり感じないけれど、ロシア映画っぽい正統派の厚みがあり、丁寧に作られていて好感が持てる一本。

タイトル・インデックスへ

【コマンダンテ】四星半

かのオリバー・ストーン監督が、キューバのフィデル・カストロ国家評議会議長(当時)にインタビュー。政治的な主張の是非はともかくも、少なくともフィルムには、カストロ議長がいかに人間的魅力に満ち溢れた人かということが一発で映り込んでしまうから恐い。キューバという小国が今まで共産主義国家で在り続けられたのは、この人がトップだったからこそではあるまいか。そして、この映画の映像の中だけに限って言えば、彼等は貧しいかもしれないけれどちっとも不幸そうには見えないんだよな。共産主義は本当に敗北したって言えるのだろうか…… ? こりゃアメリカで上映禁止になる訳だ。こりゃもしかして、今までのオリバー・ストーン監督作の中で一番面白かったかもしれない。

タイトル・インデックスへ

【再会の街で】四星半

実は9.11絡みの話だったとは知らなくて意外だったのだが、そんなことは知らなくても、大人同士が身を寄せ合って自らを再生させる寓話だという部分だけで充分心動かされる。アダム・サンドラーとドン・チードルが、お互いの名優ぶりをこれでもかというくらい見せつけあうような演技合戦をしているのだが、嫌味にはなっていない辺りがやっぱり名優なんだろうなぁ。

タイトル・インデックスへ

【サイドカーに犬】四つ星

竹内結子さんの演じる女性は、宣伝で言っているほど自由な女性にはあまり見えなかったけれど。子供目線の話でありながら、大人の事情もほぼ包み隠さず描写されているのがいい味だと思った。

タイトル・インデックスへ

【サイボーグでも大丈夫】四つ星

自分を“サイボーグ”と思っているけれど“大丈夫”ってことで、問題を“直す”のではなく、それでもなんとかやっていける方法を探すというのが素敵。パク・チャヌク監督にしては可愛すぎ ? でも舞台が精神病院というだけで充分毒気はあるのかな ? 雰囲気がちょっと千秋さんみたいなマユナシのイム・スジョンさん(この風貌には最後まで慣れなかったけど)も、ある種浮世離れした清廉な感じが素晴らしいピさんも、現実ではないことを現実と捉えている人たちなんて相当な難役をさっくり演じているのは、凄いんじゃないんでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【西遊記】三つ星

“決め”のシーンのイメージが最初からあって、あとは適当に繋げている感じ。その“決め”の部分では子供達にどっかんどっかんウケてたけど、映画作品としてはちょっと辛いのではないかな。大規模ロケを謳ってる割に、画面がこじんまりと感じられてしまうのも気になった。言っては何だが、テレビサイズでしか発想できないのであればわざわざ映画にする必要なんてないと思うんですけど……。

タイトル・インデックスへ

【サウスバウンド】三つ星

たまたま先に原作を読んで気に入ってしまっていたのがよろしくなかったんだろうけど、どうも何もかもイメージが違いすぎる。大体が豊川悦司さんと天海祐希さんというのが私の中ではミスキャストだし(お父さんはもっとゴリゴリした感じのある人で、お母さんはもっと一見儚げな中に芯の強さが見えるような……)、ファミリー向けにしたいという意図があったのかどうか知らないけれど、この話から政治運動絡みのエピソードを根こそぎ引っこ抜いてしまって一体何が残るというの ? 変人のお父さんがただ南の島に行きましたというだけでは単なる休暇と変わりなく、中央集権からのエスケープだからこそ現代の御伽噺たりえるんでしょー ? 南の島のロケハンだけは素晴らしいと思ったけれど、南の島をユートピアとして描く以上のことがこの話には必要だったはずだと私は強く思う。あぁ、森田芳光監督の映画ってやっぱり当り外れが……。

タイトル・インデックスへ

【サッド ヴァケイション】四つ星

自分を養ってくれる人を捕まえて会社を乗っ取って、で自分の息子に継げ継げ~とか。こんな粘着質の母親は、傍で見てる分にはある意味興味深いかもしれないけれど、青山(真治)監督みたいな神聖視は私にはとてもじゃないけど出来ないなぁ。擬似家族の形成とか過去の因縁が生む軋轢というのは、話としての面白さはあるけれど、私にはこの映画がそれ以上のものとしては映らない。しかし、こんな状況を総て肯定して、なおかつ会社を潰さずにやって行けてる社長の方がよっぽど大人物なんじゃないんでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【The 焼肉ムービー プルコギ】四星半

松田龍平君ってこんな演技も出来たのか !! とその成長ぶりがとっても嬉しくなった。彼と山田優さんのカップルがとてもかわいいし、ARATAさん、田口トモロヲさん、桃井かおりさんを始めとする豪華キャストのハジケっぷりがいちいち素敵で、私は観ていて幸せで笑い死にしそうになった。なのにこの映画の評価が一般的にそんなに高くないのは一体どうしてなの…… ? ところで、コプチャンってそんなに美味しいのかな ? エゴマのキムチともども、1回食べてみたいなぁ。

タイトル・インデックスへ

【さらば、ベルリン】二星半

パズルの最後のピースが……という台詞があったけれど、パズルが複雑すぎて、漠然と見ていた私はちょっとついていけなかった。大体、なぜ今、戦後のベルリンの話なの !? アメリカ人のソダーバーグ監督には敗戦国(しかもナチの支配後で混乱しているドイツ)という設定が新鮮だったのかしら……でも、そんな部分を描きたいのであれば中途半端でお気楽すぎる感じが否めないし、豪華な登場人物の演技力で何とか持たせてはいるけれど、気持ち的にあんまり迫ってこない。それともフィルム・ノワール調の話を何か作ってみたかっただけかなぁ。どうも贅沢なお遊びですこと。

タイトル・インデックスへ

【シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録】四つ星

唐十郎って個性が突出した人なんだなぁということと、劇団員を続けていくってほんっっっっとうに大変なことなんだなぁと感じた。信じるということはすべからく宗教みたいなものなのかもしれないよね。

タイトル・インデックスへ

【Genius Party <ジーニアス・パーティ>】四星半

ハイ・クオリティ揃いのアニメーションのオムニバス。ホントに天才のパーティだった !! Studio4℃スッゲェ。

タイトル・インデックスへ

【自虐の詩】四つ星

これは随分前に、派遣の友達が是非読んでくれって貸してくれたんだよね。原作の4コマ漫画の持ち味そのままに、「幸も不幸ももういい。人生には明らかに意味がある。」の名台詞のラストに向かって収斂していく流れが澱みなくて見事。中谷美紀さんの薄幸そうななりも、阿部寛さんのパンチパーマも、なんとなく似合っているから不思議。堤幸彦監督のいいところが間違いなく発揮された良作。

タイトル・インデックスへ

【シッコ】四星半

いろんな評を読む限り、他国の保険制度のことなんて興味がないとか悠長なことを言ってるのは年寄りばかりで、若い人ほど“明日は我が身”と真剣に捉えていたように思う。入院費が払えない患者が点滴を付けたまま病院から捨てられるシーン(文字通り、慈善施設の前に放置して行くのだ ! )に一番ウッとなったけど、この映画によれば、医療費が全額無料の国なんてまだまだ当たり前にたくさんあるみたいで、既に3割自己負担ということになってしまっている日本なんて、絶対将来この映画みたいになりそうだと、心底暗い気持ちになった。国が金を何に使うかを決めるのは、結局最終的には理念の問題なので、理念のないこの国は将来確実に滅びるんじゃないかと、やっぱり思ってしまうよな。映画としては、マイケル・ムーア式の奇をてらった突撃取材や演出も控えめ(皆無ではないが)で、同監督の映画にしては割と見やすいんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【ジャーマン+雨】三星半

何だコレはーっ !! 訳分からんーっ !! でも最後には主人公に向かって「ガンバレっ !! 」って心の中で叫んでる自分がいたりして……。このメチャクチャな映画が女性監督(横浜聡子監督)の手によるものだなんて、日本の映画界の将来は非常~っに明るい気がしてきた。

タイトル・インデックスへ

【しゃべれども しゃべれども】四つ星

着物姿の国分太一さんが決まってる ! ストーリー的にはもうちょいメリハリがあってもいいかなぁとも思うのだが(特に国分君と香里奈さんの関係の間合いの詰め方とか)、あのしっとりと落ち着いた空間の上質な空気感を生み出しているだけでも、この映画は充分素敵だと思う。

タイトル・インデックスへ

【14歳】四つ星

現実を手前勝手にいい方に歪めて解釈するという特性が人間にある以上、在るものを在るがままに切り取ってみせるというやり方は、表現として成立するのだろう。だからって、自分の視点を勝手に相手に押しつけるとか、自分が救われたいだけなのに「あの子達のために」とかお為ごかしを言うとか、自分の言いたいことを相手に理解してもらうために大した努力も払わないで「分かってもらえない」とヒスを起こすとかいった、自分の都合だけを振りかざす人達ばかりを延々と見せつけられていると、君たちいい加減に成長してくれよーと消耗させられてしまう。みんな未熟な“14歳”なんだからっていうならまだしも、この映画では半分くらいが“元14歳”(一般的に言うと大人ともいう)なんだよね……。この映画を創った監督ユニットの“群青いろ”の観察力の鋭さはちょっと分かったけれど、エチュードとしてこういう映画を創るのはあと何作かにしておいてもらって、その次は違う展開を見せてもらえないものでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【主人公は僕だった】四つ星

自分の人生のナレーションをする作家と、自分の作品の登場人物と、どちらがどちらの空想なのか…… ? 近年のハリウッドではまれに見るインテリジェントな脚本を、これまた気鋭のマーク・フォースター監督(【チョコレート】【ネバーランド】など)が映画化。主人公のウィル・フェレルを始めとして、彼が恋するマギー・ギレンホール、文学教授のダスティン・ホフマン、スランプの作家のエマ・トンプソン、その有能なアシスタントのクィーン・ラティファといったキャストがいちいちドンピシャで見事。でも、そこまでが最高に面白かっただけに、ラストにはもう一ひねり欲しかったかな。

タイトル・インデックスへ

【シュレック3】四つ星

シリーズものは概ね好きじゃないものが多いが、本作は今のところまだ面白い。基本設定が出来上がった上で毎回違うことをして遊ぶ、という安定した域に入っていていいんじゃないかと思う。でもそろそろマンネリになりつつあるかもしれないので、今後どう出るかは難しいところかも ? 余談だが、元モンティ・パイソンのジョン・クリーズ氏の出演は今回で終わりなの ? ちょっと残念。

タイトル・インデックスへ

【スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ】四星半

バカバカしくも壮大な、三池崇史監督の新たなマスターピース !! これ、“スキヤキ・ウエスタン”が惹句で“ジャンゴ”が題名だったのね……。

タイトル・インデックスへ

【スマイル ~聖夜の奇跡~】三星半

小学生のアイスホッケー・チームという素材はいい目の付け所だと思うし、お話の流れもいい感じ。監督としての陣内孝則さんのセンスは悪くないんじゃないかと思うのだが、細かい部分でちょっとごちゃごちゃしてしまったような印象が。もっともっと枝葉を整理して練り上げていく粘り腰が今後は必要になってくるんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【ゾディアック】四つ星

ゾディアックというシリアル・キラーは実在したらしい。でも日本の人の大多数にはあまり馴染みがないので、アメリカの人が観た時ほどのインパクトがあったかどうかは疑問だ。謎解きの興味よりも、謎に取り憑かれて身を滅ぼす人達の執念が一番のみどころで、実話の映画化の宿命でラストはどうしてもキレイに収まらないのが苦しいところだけど、監督ならではの味が感じられる良作にはなっていたんじゃないだろうか。けど、デヴィット・フィンチャー監督の最高傑作という宣伝文句はちょっと言い過ぎかな。

タイトル・インデックスへ

【その名にちなんで】四つ星

2世代に渡る在アメリカのインド移民の家族の物語をじっくりと綴る。なんていうか、しみじみといい話だなぁと思った。ミーラー・ナイール監督はアメリカで着実に仕事を積み重ねているんだなあと思うと嬉しくなった。

タイトル・インデックスへ

【それでも生きる子供たちへ】四つ星

ルワンダのメディ・カレフ監督は少年兵の話、セルビア・モンテネグロのエミール・クストリッツァ監督は父親に窃盗をさせられるジプシーの少年の話、アメリカのスパイク・リー監督はHIVに胎内感染した女の子の話、ブラジルのカティア・ルンド監督(【シティ・オブ・ゴッド】の共同監督)と本作自体の製作も担当しているイタリアのステファノ・ヴィネルッソ監督はストリート・チルドレンの話(前者はダンボール集めや缶拾いで日銭を稼ぐ兄妹で、後者は窃盗団の男の子)、イギリスのリドリー・スコットとジョーダン・スコット父娘は自分の仕事の意味が見出せなくなっているフォトジャーナリストの話、そして中国のジョン・ウー監督は最上層と最下層に生きる2人の女の子の話。子供の不幸と幸福についてというテーマがしっかりあって、昨今のオムニバスには珍しくどれも力作揃いなので一見の価値あり。

タイトル・インデックスへ

【大日本人】四つ星

これが映画なのかと問われれば、これも映画なのだと答えよう。上映可能な形式になっていて、作った人がそれを映画だと呼べば何だって映画である資格がある。自分の偏狭な定義で“映画なるもの”の可能性を狭めてしまうのも、何か違うような気がする。
本作は、『ごっつええ感じ』のコントをお金と手間暇を掛けてきっちり創り込んだような印象で、非常に観客を選ぶというか、基本的には松本人志さんのお笑いのコアなファンの人向きではないかと思う。挑発的な下品さと気持ち悪さ、悲哀、でもそんな自分をも容赦しない自己批判的または自虐的な情けなさ、しかし最後はナンセンスの彼方に飛んでいってしまう……(このズッコケ方、デヴィッド・リンチ監督の【ワイルド・アット・ハート】のラスト10分を思い出してしまった)……なんて内容の説明なんかしてもきっと無意味だ。個人的には、面白いか面白くないかと問われれば面白いかもと思うけど、好きか嫌いかと問われれば、凄く好きというのとは違うような気がする。ただ、この人の発想はぶっ飛んでいる。天才だと呼ばれる理由はよく分かる。この人のやりたいことは、実はお笑いでも映画でも括り切れない、何かもっと得体の知れないものなのかもしれない。
しかし、これをカンヌに持って行こうって考えた人はいい度胸だなー。アメリカのスタンドアップ・コメディの映像なんかを見てもしばしばちっとも面白くないように、おそらく笑いは最も国境を越えにくいものなんじゃないかと思うのだが。

タイトル・インデックスへ

【タロットカード殺人事件】四つ星

【マッチ・ポイント】でスカーレット・ヨハンソンの毒気にすっかりあてられたウディ・アレンが、とにかく彼女を主演にして自分も共演して撮りたかったのかなぁと……さすがにもう恋人役にはしない分別はあったみたいだけど(笑)。一流の俳優さんはみんなコメディも上手いものらしいけど、スカーレット・ヨハンソンも御多分に洩れずコメディエンヌぶりを発揮。【マッチ・ポイント】ほどの歴史的な名作ではないかもしれなくても、軽~いタッチの面白さでいいんじゃないかな。

タイトル・インデックスへ

【長江哀歌】三つ星

開発というのはしばしば、歴史と伝統と自然の破壊だったりもする。そんな事態が進行する現代中国のある一地方を背景にして物語を描く。この風景を目の当たりにすること自体が大切で貴重なことかもしれない……う~ん、でもやっぱりジャ・ジャンクー監督の作るドラマとは相性が悪いのかも。ごめんなさい……。

タイトル・インデックスへ

【憑神】三星半

貧乏神・疫病神・死神の三人(いや、三柱か)の神様が主人公に好意を寄せてしまう描写があっさりしすぎで、あまり起伏もなくするするっと終わってしまい、破綻しているところもないけれどもあまり意外性もない。妻夫木聡さんを始めとするキャスティングは素晴らしく、演技的には堪能できるシーンがたくさんあるのに、なんか勿体ないような。

タイトル・インデックスへ

【椿三十郎】三星半

オリジナルがオリジナルなのでよっぽど間違えなければどう転んでも面白くなってしかるべきだと思うし、実際、非常に健闘していたとも思うんだけど……“頑張っていた”なる評は映画の評価としてはいかがなものなのだろう。やっぱり三船敏郎のスケール感は不世出のものだったと痛感するばかりで、そもそもどうしてそんな世紀の傑作に無謀な戦いを挑む必要があったのかは、結局、私には分からずじまいだった。

タイトル・インデックスへ

【低開発の記憶-メモリアス-】三星半

【苺とチョコレート】のトマス・グティエレス・アレア監督作。キューバ革命という歴史を揺るがす出来事が起こっている前で、あくまでも主人公の男性の内省的なモノローグが繰り返される……ってこれ、まんまATGの作風じゃん ! 映像も白黒だし、1968年作って製作年代まで一緒だし !

タイトル・インデックスへ

【This Is Bossa Nova】四つ星

ボサノバの誕生って(【アントニオ・ダス・モルテス】のグラウベル・ローシャ監督なんかが活躍した)シネマ・ノーヴォと同時期の、同じ文化運動の流れにあったものだったのね。(その後の軍事クーデターで下火になったのも同様。)他にも、ボサノバはサンバを原型とするものだとか、ブルジョア文化を背景とするものだとか,いろいろと目を開かせられる発見があったし、また、日本にボサノバのメロディがいかに深く浸透しているのかを改めて感じたりした。アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトを始めとする、ボサノバの一連の流れを追えるような網羅的な内容は資料的な価値も高いだろう。ボサノバはブラジルの理想形なのだというコメントが印象的だった。

タイトル・インデックスへ

【転々】四つ星

もう見に行かないとか言っていた三木聡監督作品だけど、監督のモラトリアムな作風をこんな方向で生かす手もあったか ! と膝を打った。東京の街をとぼとぼ歩く二人、オダギリジョーさんと三浦友和さんというキャスティングのケミストリィを実現させただけでも、この映画は偉かったと思う。

タイトル・インデックスへ

【天然コケッコー】四つ星

田舎のゆったりした時間の中で、主人公のそよちゃんと大沢くんの関係が少しずつ進展していくのが、しみじみと可愛くて眩しい。くらもちふさこさんの作品の映画化なんて不可能を可能にした山下敦弘監督の、才能の底知れなさを改めて感じた。

タイトル・インデックスへ

【逃亡くそたわけ 21才の夏】四つ星

精神病院から脱走した2人のロードムービー。精神的な病を真正面からちゃんと扱っている映画って案外少ないと思うのでそれだけでも好感が持てるんだけど、精神病院で友達になった男女が自分の在り方を模索する様を、重すぎず軽すぎず、あくまでも爽やかに描いているのがいい。友達なんだけどちょっと微妙な2人の関係の描き方も好き。吉沢悠さんは、1回芸能活動を休止していて、最近“ひさし”に改名して活動再開したんだそうですが(知らなかった ! )、何だか昔よりも素敵になっていて、吹っ切れたいい演技をなさっているんじゃないでしょうか。相手役の美波さんや本橋圭太監督も、今後注目してみたい。

タイトル・インデックスへ

【遠くの空に消えた】二星半

“昭和の場末のサーカス調”の味つけ ? 鈴木清順の出来の悪いエピゴーネン ? あるいは【だいじょうぶマイ・フレンド】とか【ぼくらの七日間戦争】とか(若い人は知らんだろー)がうっすら頭をよぎりましたが……。レトロ調 ? を意識しているのかもしれないか、こりゃレトロというより、ただただセンスが古くさいとしか思えない。大人の皆さんも子役の皆さんも、それぞれの演技がいくら素晴しくてもどうしようもない。で、冒頭のシーンからしてどうやらこれを自画自賛しているきらいがあるのが……こりゃアカン。行定勲監督の悪いところばかりが思い切り出ているみたいだ。神木隆之介くんが、このまま大きくなれば味のある俳優さんになってくれそうな予感が感じられたことだけが救いだけど。

タイトル・インデックスへ

【トランシルヴァニア】四つ星

ジプシーの情熱を謳い上げる、良くも悪くもいつものトニー・ガトリフ調の作風。今までアーシア・アルジェントさんがどうも好きじゃなかったのだが、本作でのこの熱演は評価せざるを得ない。彼女と行動を共にすることになる男性の、ラスト辺りの逡巡が微笑ましかった。

タイトル・インデックスへ

【トランスフォーマー】四つ星

100%超娯楽大作 ! 夏休みらしくっていっそ潔いんじゃないすかね。ILMの日本人スタッフ(山口圭二さん)が自ら立候補して頑張って作ったというロボットのトランスフォーメーションのシーンがカッコよかったのでちょっとオマケ !

タイトル・インデックスへ

【22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語】四つ星

若い女の子に懸想する中年男の話(ニコリともしない筧利夫さんが演じる)、ではあるのだけれど、これは恋愛って言うより、フラフラ生きてきた中年男があーでもない、こーでもないと延々と逡巡する様の方がメインなのかな。その描き方の感性もちょっと変わっているというか、大林宣彦監督独特のものとしか言いようがないというか、レトロといえば聞こえがいいけど一昔前の感覚な部分もあったり、舞台となっている臼杵市や津久見市の風景への過剰な思い入れを感じたり……(尾道と絶縁状態になって以来、日本の原風景をどこかに追い求めているのでは ? )。とにかく全体的に妙な感じを覚える映画ではあるのだが、一周回って、何かそれも面白いかもしれないなぁと思えるのである。

タイトル・インデックスへ

【パッチギ ! LOVE&PEACE】四つ星

続編と銘打たれてはいるけれど、日本人の高校生の男の子を主人公にした爽やかな青春ものだった前作とは全然別物と考えた方がいいんでしょう。前作よりも在日コリアンの存在をより深く描こうとしているし、戦争に対する意見も全くその通りだと思う、けれど、その描きたいことのあまり、例えばヒロインの行動など、バランスが取れなくなってしまっている部分も多々あるんじゃないのかな。映画としての力はあるとは思うのだが、本作ではそれを今一つ大きな流れにし切れなかったのではないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団】三星半

あまり気乗りはしなかったのだが、ここまで来たら最後まで見とこうかって感じ。終盤に向けて少し盛り上がってきた気はするけれど。【ヴェラ・ドレイク】で人のよさのカタマリみたいだった主人公を演じていたイメルダ・スタウントンの超イケズな女教師は一見の価値あり。でも、私の好きな××さんは今回で最後なんですね……。

タイトル・インデックスへ

【ハリウッドランド】四つ星

ベン・アフレックの出る映画はしばらく避けていたのだが、エイドリアン・ブロディが演じるハードボイルド調のうらぶれた私立探偵が、私のツボにはかなり嵌まった。スッキリしない終わり方だと感じる人はあるだろうが、ここにハリウッドの闇の深さが投影されているのがいいんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び】三星半

ベル・エポック期に華やかなりし存在だったディアギレフのロシア・バレエ団ことバレエ・リュス。でも本作で主に描かれているのは、ディアギレフ亡き後のバレエ団のその後と、第二次世界大戦の余波で亡命したアメリカでバレエ界に及ぼした影響についてだった(ちょっとサギ ? )。ロシア・バレエ団が、すごく苦労を経ながらこんなにも長きに渡って存続していただなんて知らなかった。撮影時にはまだご存命の方がかなりいて、何かしらものすごい歴史を目の当たりにしているような感慨に捉われた。

タイトル・インデックスへ

【パンズ・ラビリンス】四つ星

内戦統治下のスペインという現実世界と、ギレルモ・デル・トロ監督お得意のエグい造形のダーク・ファンタジーの世界の兼ね合いがあまりにもお見事。これが本当にギレルモ・デル・トロ監督作品 !?

タイトル・インデックスへ

【犯人に告ぐ】三星半

しっかりと創られていた映画だったようには思うけど、マスコミを通じて犯人を挑発するなんて刺激的な題材の割には、何だか地味だったような印象が。堅実なのはいいと思うんだけど、もう少し華があってもよかったのかな。

タイトル・インデックスへ

【ピアノの森】四つ星

同名のマンガを原作にしたアニメーション作品。才能と努力というものについて真正面からきちんと描いた作品で好感が持てた。

タイトル・インデックスへ

【ヒートアイランド】三星半

主演の城田優さんはお母様がスペイン人なんだそうで、容姿はとてもカッコイイ、でも演技はこれからってところかな ? 少なくとも渋谷のチーマー(古い ? )という雰囲気じゃなかったかもしれない。人気小説の映画化だから根っこのストーリーは面白く、三つ巴、四つ巴の人数の多さが分かりやすく手際よくまとめられているのはいいんだけど、こういう都会のアンダーワールドものを、チャラくて軽いノリの面白さのみで処理してしまうのは、なんか物足りない。やっぱりこういうのは、三池崇史監督辺りにドス黒い風味をどっぷり加味して創って戴きたいんですけれども。

タイトル・インデックスへ

【HERO】四つ星

脚本の福田靖さんは『救命病棟24時』『海猿』『ガリレオ』などの多くの人気作品を手掛けていらっしゃる方で、伏線のしっかり張られた見応えのあるストーリーを書く方だなぁという印象がある。本作も、考えられるすべての需要に応え、TVシリーズを見てなくても大体大丈夫な感じで(私もドラマは全然見ていなかったけどほとんど問題なかった)きっちりとよく出来上がっているのでさすが。キムタクの稀有の“主役力”はこれでもかと見せつけられるし、共演陣とのアンサンブルもバッチリで、娯楽ものとしてやるべきことをすべてやっている模範解答みたいな映画なんじゃないかと思った。

タイトル・インデックスへ

【眉山<びざん>】四星半

原作はさだまさしさんだそうだが、“♪ささやかな僕の母の人生~”という歌詞の『無縁坂』という曲を思い出した。ストーリーだけ聞いたらなんてことのない話のような気もするのだが、お互いのことを思いやって出過ぎない関係、というものが、しっかりとスクリーンの中に創り出されて現出していたのに痛く感じ入ってしまい(宮本信子さんの弟分役の山田辰夫さんの存在感が特に素晴らしかった ! )、気がつけば、中盤辺りで既に涙腺が完全に決壊しまっていた……(直前に【14歳】を観たのもいけなかったのかもしれないが……)。主演の松嶋菜々子さんは勿論非常に素晴らしかったんだけれど、でもやはり、宮本信子さん抜きでは、この映画は絶対に成立しなかったのは間違いない。宮本さんは、人生の終焉を迎えようとしている一人の女性として、ただそこに自然に存在して呼吸していた。観てる側に“上手い ! ”と思わせるストレスすら感じさせることがないというのは、一体どれだけ超人的な業なのだろう。そして、抑制の効いた手堅い演出でこれをまとめ上げ、この映画独特の世界を確実に創出していた犬童一心監督のポテンシャルにも、ますます感心してしまった。

タイトル・インデックスへ

【人が人を愛することのどうしようもなさ】四星半

石井隆(監督)完全復活 !! 過激な表現も多々あるので石井作品のビギナーには正直ハードルが高いかもしれないが、その強度は他の誰の作品にも代えられないものだ。石井作品的展開からするとオチはかなり早い段階で予測はしていたのだが、話が進むほどにこのタイトルの意味を突きつけられ、特に、津田寛治さんが演じる男の(かなり歪んだ)純愛物語としての哀しさはたまらない。喜多嶋舞さんがこんな演技が出来てしまう女優さんだったというのも新鮮な驚きだったが、石井作品ならということで出演を快諾したに違いない(と勝手に思っている)竹中直人さんらの共演陣の真摯さにもまた泣けてきた。

タイトル・インデックスへ

【100万ドルのホームランボール 捕った ! 盗られた ! 訴えた ! 】四つ星

2001年のシーズン最終戦、大リーグ新記録となるバリー・ボンズの73号ホームランのボールを求めて球場に詰め掛けた人々。で、そのホームランボールを捕った人のことを、“自分が最初にボールを捕ったのに無理矢理奪い盗られた ! ”と訴えた人が出てきたんですね~。この話の行き先、途中までは予想できたけど、その先に更にオチがあった……やっぱ現実って、ぬる~いドラマなんかじゃ全然太刀打ちできないよ。
大体が、純粋に野球を楽しみに来たんだよ、と言いながらどの人の手にもしっかりとグローブが……更には、場外ボールを拾おうと球場外の海にもボートがぎっしり……あぁ、『蜘蛛の糸』の地獄ってかくあらんやって感じ。(まぁ“4万6千分の1(球場の収容人数)という確率は宝くじの何千万分の1の当選確率よりもずっと高い”というのは一理あるかもしれないけど……。)日本はこんな国にだけはなって欲しくないと心底思いましたが、どんなもんなんでしょうなぁ……。

タイトル・インデックスへ

【不完全なふたり】三星半

諏訪敦彦監督って、もともとどうも“おフランス的”な作風だったんだけど、ついに本当にフランスの映画監督になっちゃったのね……。お互いにうだうだと責任をなすりつけあう離婚寸前の夫婦の繊細な心理描写なんて、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキさんはきっともの凄く得意な分野だろうし(実際、今回は彼女を観に行ったようなもので……)、旦那さん役のブリュノ・トデスキーニさん共々、演技はカンペキだったんだけど、しかしそれが面白いかどうかは別問題だよなぁ……。

タイトル・インデックスへ

【腑抜けども、悲しみの愛を見せろ】四星半

何と言っても印象に残るのは、佐藤江梨子さんの思い切りのいい最悪女(サイアクオンナ)ぶり。でも彼女にいたぶられる妹(佐津川愛美さんて【蝉しぐれ】で木村佳乃さんの子供時代をやってた人か ! )も決して負けていないのが凄まじい。イタくてイタくて見てられませんが、鑑賞後は気分がむしろスッキリしてしまうのが不思議。(吉田大八)監督の初長編作品ということもあり、勢いにかられてちとおまけしておこう。個人的には、今回は完全に女優陣の受けに回っていた永瀬正敏さんの上手さも印象的だった。

タイトル・インデックスへ

【ブラック・スネーク・モーン】四つ星

初老の男が、セックスジャンキーの若い女の子を、更生させてやりたいという理由から鎖でつないで監禁する……なんとも奇矯な設定なのに、これが“救済”をテーマにしたもの凄くマジメな物語だったりする。サミュエル・L・ジャクソンやクリスティーナ・リッチの良さが充分に活かされた映画も久々に観たような気が。

タイトル・インデックスへ

【フリーダム・ライターズ】四つ星

アメリカの荒廃する高校で、先生が子供たちに日記を書かせて更生させた、という実話に基づいているんだそうです……ええ話や。主人公の教師を演じたヒラリー・スワンクさんはエグゼクティブプロデューサーとしても名前を連ねているんだそう。この人の作品を見る目は大したものだ。

タイトル・インデックスへ

【ブレイブ・ワン】四つ星

自分が受けた暴力のため自らも暴力に走ってしまうことになるヒロインの描写が素晴らしい。ラストのオチはちょっと ? だったけど、だてにジョディ・フォスター×ニール・ジョーダン監督の組み合わせではないなと唸らされた。それなのに、この映画の宣伝展開は酷すぎる……“彼女の選択が許せますか ? ”って、この映画で一番見るべきところはそこじゃないだろう。担当者が作品に対して何の愛情も持っていないのだとしか思えない。

タイトル・インデックスへ

【プレステージ】四つ星

予測のついたネタもあったが、全く意外な方向からの飛び道具もあり(テスラ博士(デヴィッド・ボウイ)の発明品なんて予測がつく訳がありません ! )、最後まで観てみると、あれもこれもよく計算されて貼られていた伏線だったのかと膝を打つ。うぅむやっぱりクリストファー・ノーラン監督。彼はハリウッドで絶滅寸前のクリエイティビティなんていうものの最後の砦になるのかもしれない。しかし、男同士の怨念や足の引っ張り合いには底知れない悪意があるよなー。女同士のちゃちな争いなんかより絶対恐いって。

タイトル・インデックスへ

【ベクシル 2077日本鎖国】三つ星

【ピンポン】の曽利文彦監督によるアニメーション。絵はすごく綺麗なんだけど、基本設定に無理がありすぎると感じたところがちょっと多かったような……。

タイトル・インデックスへ

【ペルセポリス】四つ星

フランス在住のあるイラン人女性の自叙伝的アニメ映画。結構ポップな作りだからさらさらと見れるけど、幼少時のイラン革命やその後のイスラム政権下の弾圧などの苛烈な経験、また革命を避けるために留学させられたヨーロッパで体験した強い疎外感、また離婚の経験など、彼女だけが辿ってきた遠い旅路は、簡単に一般化などできないものだ。ある一人の女性についてのケーススタディとして見ると興味深いんじゃないだろうか。

タイトル・インデックスへ

【鳳凰 わが愛】三星半

日中合作だけど、主演の中井貴一さんはプロデューサーにも名前を連ねているそうで、気合入ってるな~。しかし映画の中身は、思ったよりも冗長な感じでちょっとダレてしまったかも。

タイトル・インデックスへ

【包帯クラブ】三星半

柳楽優弥くんの新たな魅力を引き出しているという点では大成功で、やっぱり堤幸彦監督は、俳優さんの新たな魅力を引き出すのに長けている方だなぁと思った。けれど、音楽も含め、思ったよりウェットな仕上がりだったのは、個人的にはちょっと残念。こういう方が好きな人もいるんだろうけどね。

タイトル・インデックスへ

【ボーン・アルティメイタム】四つ星

ボーン・シリーズの功績は、マット・デイモンをかっこいい俳優さんとして世間に認知させたことだと思う。ジェイソン・ボーンよ、永遠に !

タイトル・インデックスへ

【僕のピアノコンチェルト】四つ星

【最後通告】のフレディ・ムーラー監督の新作なのでわーいわーいと観に行った。実生活でもモノホンのピアノの天才児であるテオ・ゲオルギュー君の演じる天才児の苦悩はかなりシビア。でも最後はお互いを理解し合い、思い合う道に至る、やわらかな愛があって好き。

タイトル・インデックスへ

【ボラット】二つ星

副題の『栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』は、日本で勝手につけたんじゃなくこのまんまの原題なんだそう。(ちょっと長すぎるので割愛。)自分達がタブーと思っていることを敢えて笑いのめすためにもっとヒドい形にしたタブーを提示するというのは、アメリカのコメディではよくある手法なのだろうか。あんまりにもエグすぎて、少なくとも私はちょっとついていけない。しかし、カザフスタンがアメリカ人にとってほとんど架空の存在にも等しい見知らぬ国だからって、勝手にフィクションを作り倒しても何の罪の意識もないのかな ? 私がカザフスタン人だったら絶対怒ると思うんだけど……。(大体、中央アジアじゃなくてバルカン半島のファンファーレ・チォカリーアやマハラ・ライ・バンダやらをBGMに使うなよ ! )笑いって一体何だろう ? アメリカと日本の笑いの違いって何だろう ? と、コメディなのにもの凄く真剣に考えながら見てしまった。

タイトル・インデックスへ

【ボルベール<帰郷>】四つ星

よくよく考えるとみんな相当酷い目に遭っているのに、何だかあっさりと話が進行していく。アルモドバル作品にしてはあっさりしすぎなくらいの印象だけど、でも、一生懸命生きてる女はみんな忙しいので、きっと悲劇に拘泥していられないのだろう。何でもかんでも勝手に三部作とか呼ぶなよ ! と思うけど、本作のペネロペ(・クルス)さんの脂の乗り切った美しさは観ておかなくてはなるまい。

タイトル・インデックスへ

【迷子の警察音楽隊】三星半

場所を聞き間違えて行き先を間違えるって、何とものんびりした話……というか、のんびりしすぎかな~ともちょっと感じてしまったが。最初は頭が固いだけでいけ好かない奴に見えた隊長が、後半、だんだん人間味のある側面が見えてくるのが味わい深かった。

タイトル・インデックスへ

【舞妓Haaaan !!】四つ星

宮藤官九郎脚本×水田伸生監督といえば『ぼくの魔法使い』の黄金コンビ ! このめちゃくちゃな設定でめちゃくちゃな展開のお話も、流れに身を任せてただハイテンションで突っ切ればよろし。……ただ、当日体力がなかったもので、観終わってどっと疲れが出たのはご愛嬌だが。後半ちょっと失速した感じもするけれど、阿部サダヲさんの凄さを終始いやというほど実感できるので、お星様はちょっとオマケしておこう。

タイトル・インデックスへ

【マイティ・ハート 愛と絆】四つ星

実話をベースにした話だそうだが、アンジェリーナ・ジョリー演じる、夫をテロリストに誘拐された妊娠中のジャーナリストの女性の強さが印象的。(でもどうも、ララ・クロフトみたいなアニメっぽいキャラの方が好きな男性には評判よろしくないみたいですが。)ただ、マイケル・ウインターボトム監督の作品は、すべからく非常に上手いんだけどそつがなさ過ぎるんですよね~。

タイトル・インデックスへ

【街のあかり】四つ星

良くも悪くも相変わらずなカウリスマキ節。「主人公にとって幸いだったのは、この映画の監督が心優しい老人であったということです」とは監督の弁(公式HPより……ってまだ50歳デショ !! )だけど、絶望や虚無で終わらせない最近の路線もいいですよね。

タイトル・インデックスへ

【マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶】四つ星

シリアスからコメディまで、貧乏人から王様まで、どんな役でも変幻自在に演じたマルチェロ・マストロヤンニは、まんま、俳優ならこうありたいねという理想形。ヴィスコンティやらフェリーニやらを始めとするイタリア映画界の大物も大挙出演で、映画ファンなら観てしかるべきのお得感満載の濃い~内容。映画ファンじゃなくても是非観て戴きたい。

タイトル・インデックスへ

【ミス・ポター】四つ星

ピーターラビットの作者のビアトリクス・ポターは、後半生では結構保守的な牧場主夫人になったという評伝も読んだことがあるんだけど、まあいいか。レニー・ゼルウィガーさん演じるミス・ポターと、ユアン・マクレガーさん演じる編集者との恋物語は史実に基づいているはずで、ヴィクトリア朝時代のイギリスのまだまだ保守的だった文化背景と、そんな中で独り立ちを模索する女性達という視点をうまく織り込み、よくまとめられていると思う。ラストに流れる『When You Taught Me How To Dance』のケイティ・メルアさんの歌声が切ない。

タイトル・インデックスへ

【ミッドナイトイーグル】三星半

スケールのでかい話を作ろうという気概は立派だが、話が進めば進むほど「ソンナバカナ」感が強くなっていく……あんまりにも運頼みが前提の展開ってどんなもんなんだろう。

タイトル・インデックスへ

【ミリキタニの猫】三星半

人に歴史あり、それが街角のホームレスでも……。でも予告編を何度も見てしまっていたからかなぁ、大まかな話は事前に分かっていたので、何だかインパクトが弱かったような。この監督さんてあんまりにもいい人過ぎるよなぁ、とか、ここまで単語を並べただけのような英語でも通じるもんなんだなぁ、とか、そんな方にばかり目が行ってしまっていたのだけれども。でも、人はいい方向に変わっていけるんだというメッセージを発する方向で終わっているのはいいんじゃないかと思った。

タイトル・インデックスへ

【めがね】四星半

【かもめ食堂】の荻上直子監督作。だらだらと時間を贅沢に無駄使いすることに“たそがれる”という言葉を当てはめられることに最初はちょっと押し付けがましさを感じたけど、映画をずっと観ていたら段々とどうでもよくなってきた……確かにこのまったり感は、“たそがれる”としか言いようのないものなのかもしれない。疲れた心を癒すのは、ゆったりした時間とおいしいご飯。この映画はそれでいいんだと思う。小林聡美さん、もたいまさこさん、加瀬亮さん、市川実日子さんと、好きな人ばかりがキャスティングされているのだけれど、こういう役柄では始めて拝見した光石研さんがめっちゃ素敵だった。

タイトル・インデックスへ

【魍魎の匣】四つ星

京極夏彦氏の原作をちゃんと読んでいるさんの言葉を参照すると、作家の関口さんに関しては前作【姑獲鳥の夏】の永瀬正敏さんの方がイメージに近いのかもしれない。亡くなられた実相寺昭雄監督から原田眞人監督にタッチして、怪奇幻想小説的なほの暗くミステリアスな雰囲気は減少したような気がするが、キャストの変更も影響してか、パキパキと論理的でアップテンポな雰囲気になった分、膨大な情報量が分かりやすく交通整理されて呈示されている。本作に関してはそういう創り方も合っていたんじゃないかと思う。

タイトル・インデックスへ

【殯(もがり)の森】四つ星

おそらく日本映画界で一番のビッグマウス、河瀬直美監督。本作の精神世界は、良くも悪くも世界中でただ一人、河瀬監督にしか撮れないものだろう。その点は評価したいと思うのだが、ただ、このどんどん内側に向かっていく世界が個人的に好きか嫌いかと言われると話は別だ。あまりこれ以上突き進まれると追いかけるのがしんどくなってしまうかも、と思ったりした。

タイトル・インデックスへ

【やじきた道中 てれすこ】四つ星

中村勘三郎さんは、息子の七之助さんが【真夜中の弥次さん喜多さん】に出る前から弥次喜多ものの映画を作りたかったらしい。で、落語のエッセンスを加味して作られた本作は、よくまとまってはいるのだが、ちょっとテンポがかったるいところがあったかもしれないかな ?

タイトル・インデックスへ

【やわらかい手】四つ星

孫の手術代のために風俗店で(手のみ使って)働くことになったおばあちゃんを演じるマリアンヌ・フェイスフルの、年輪を経て逆に純化された美しさと可愛らしさったらない。ミキ・マイノロヴィッチの潰れた中年の色気も好きだな~。

タイトル・インデックスへ

【夕凪の街 桜の国】三星半

皆実さんが原爆症で亡くなるシーンは、原作ではブラックアウトだったからこそ悲愴さを感じたのだが、それをあんなふうなきれいなシーンにしてしまうのでは、本来意図されていたところがまるっきり薄められてしまうのでは ? また現代で七波さん達が『ダイヤモンド』を歌うシーンもなんか違う……彼女達の気持ちは、ありきたりな応援ソングで手が届くところにはないような気がする。全般的にはそこそこうまく映画化されていると思うのだが、私は原作とのちょっとした匙加減での描写の違いが引っかかり、原作に対する根本的な受け取り方がかなり違うのではないかと思わされてしまった。

タイトル・インデックスへ

【酔いどれ詩人になる前に】三星半

【卵の番人】や【キッチン・ストーリー】のノルウェー出身のベント・ハーメル監督が描くチャールズ・ブコウスキーの自伝。だからなのか、アメリカの話なのに、何だか不思議な静謐感が漂う。飲んだくれのこの人は書くという才能がなかったら一体どうなっていたんだろう。でも、私も含め世の中の大多数の人にはこんなふうな才能はないんだよなぁ……。主人公を演じるマット・ディロンが秀逸。

タイトル・インデックスへ

【4分間のピアニスト】四つ星

刑務所でピアノを教える老女と受刑者の若い女性の物語。ストーリーにちょっと無理くさいところが多々あるような気がするんだが、ヒロインの熱演に免じてちとオマケ。

タイトル・インデックスへ

【ラザロ】四星半

『蒼ざめたる馬』『複製の廃墟』『朝日のあたる家』の3本立ての、これは一種のピカレスクになるのかな。「金持ちはより金持ちになって、貧乏人はより貧乏になる」という理屈はその通りだと思うけど、だからって、金持ちのボンボンをたぶらかして殺すのが“世直し”になるというヒロインの言い分はあんまりよく分からない。大体こんな穴だらけの計画でよく捕まらないよなーとか、ストーリー的には結構無理がありすぎだと思うんだけど……でも最後に観た『朝日のあたる家』編で、ヒロインの実家がある地方都市の、既に死に絶えてしまった商店街がず~っとスクロールされていく映像を観て、井土紀州監督が何を撮りたかったのか、その根っこがちょっとだけ分かったような気がした。理念を持てず、富の偏在が放置される日本っていう国自体、そのうちきっと、あの商店街みたいに滅んでしまうのだろう。現状をどうやって捉えるのか。現状を穿つために映画に何かが出来るのだろうか。映画を観ながらそんなことを考えたのは一体何年ぶりのことだっただろう。

タイトル・インデックスへ

【LOVEDEATH】三星半

北村龍平監督の描く女の子ってどぉ~も好きになれないんだよねー。本作でも、あんな乳臭いのがファム・ファタールだとか言われても、気持ち的に全然乗れなくてしらけてしまう。でも他の部分では、暴走する暴力をコメディ・タッチを取り混ぜてスタイリッシュに描いているのはいい感じで、北村監督の作品でやっと面白そうなものを見れた気がする。特に、お下品極まりないキャラを演じる船越英一郎さんの、テレビでは決して披露できない嬉々としたはじけっぷりが素晴らしい ! ただ、折角濃いキャラ達をいっぱい登場させているのだから、終盤あたりでもっと活躍してもらうような展開にしてもよかったのでは ?

タイトル・インデックスへ

【リトル・チルドレン】四つ星

ろくな大人達が出てこないけど、きっと、誰しもろくな大人ではないということなんだろうね。【イン・ザ・ベッドルーム】のトッド・フィールド監督は、映画監督のキャリア自体はまだそんなにないはずなんだけど、もうまるで巨匠みたいな風格がある。

タイトル・インデックスへ

【琉球カウボーイ、よろしくゴザイマス。】四つ星

出演者・スタッフとも総て沖縄の人で作られているというオムニバス作品。我が家の以前からのフェイバリット・ムービーの1つ【パイナップル・ツアーズ】の當間早志監督も参加していて、ゆったりしたテンポ感と独特な陽気さ、ちょっとスピリチュアルな雰囲気は通底するところもあるかも。愛らしい雰囲気で、観ていて愉快な気分になれるところが好き。

タイトル・インデックスへ

【ルネッサンス】三星半

実写取り込み映像を加工して作るアニメってまんま押井守監督の【アヴァロン】みたいじゃん(……と思ったら、のっけから出てくる企業の名前がそのまんま「アヴァロン」てもしかしてオマージュを捧げてないですか ? )。しかし【アヴァロン】の時もそうだったんだけど、いかにスタイリッシュにカッコよく作ってある映像でも、5分もするとインパクトがなくなってきて、ちょっと強めにエフェクトを掛けた単なる白黒実写映画に見えてきちゃうんだよね~。ストーリーも全くもってよくあるハリウッド映画みたいで飽きてきてしまうし、なんかもう一歩突出した驚きが欲しいところだ。

タイトル・インデックスへ

【レミーのおいしいレストラン】四つ星

【Mr.インクレディブル】のブラッド・バード監督のピクサー社作品。原題は“ラタトゥイユ”(Ratatouille)で、これはそのまんま、日本でもポピュラーなあの南仏風夏野菜トマト煮込みのこと。物語の山場で重要な料理として出てくるのだが、これが小洒落ていてちっとも美味しそうじゃないのがちょっと残念だったかな。でもちょっと冗長なところはあっても楽しいストーリーだし、何せレミー君の仕草がちゃんとネズミらしく描かれているところが好きだった。

タイトル・インデックスへ

【ROBO☆ROCK <ロボ☆ロック>】四つ星

【ブリスター!】の須賀大観監督作品。ランドツェッペリン(なぞのロボットの名前)はイカしてるし、ハチャメチャで概ねすんごく好き、なんですが、あるキャラの考えなしの行動のせいで別の重要キャラが××、というのがちょっと後味悪かったかも……。

タイトル・インデックスへ

【ワルボロ】四つ星

今みたいに駅前が整備される前の立川って、こんなふうにちょっとうらぶれた感じだったのかな。ケンカに明け暮れる男の子達の毎日はしょうもないと言えばしょうもないんだけど(そういった視点も、お母さん役の戸田恵子さんやお父さん役の塩見三省さんの短い出番でちゃんと織り込んであるのがいい)、それでも自分達なりの精一杯のやり方で何かを追い求めずにはいられない男の子達の姿はキラキラと眩しかった。短ランにリーゼントなんて二昔前の不良の定番ファッションでも素晴らしくカッコいい松田翔太君が物語をグッと締める。ゲッツ板谷さんの原作を映画としてきちんと仕上げている隅田靖監督の手腕は、なかなか確かなんじゃないんでしょうか。

タイトル・インデックスへ

【ONCE ダブリンの街角で】三つ星

一般的にはかなり評価の高いこの作品。文字通り、ダブリンで出会った男女が一緒に歌をつくるって話なんだけど……肝心の曲がまるっきり好みじゃないというところが思ったよりも大きかったのかもしれない。それだけ音楽が大きな比重を占めていて大事なテーマだってことになるんだと思うのだけれど。

タイトル・インデックスへ

ご意見・ご感想はこちらまで


もとのページへもどる   もくじのページへもどる