Back Numbers : 映画ログ No.87



2010年に見た全映画です。

【アイガー北壁】三星半

ドイツは登山やトレッキングが身近なお国柄であるらしく、例えば、かのレニ・リーフェンシュタールが最初は一連の青春山岳映画のヒロインを演じてスターになったというように、戦前から連綿とした山岳映画の歴史があるらしい。本編はヒトラー統治下のドイツで起こった山岳事故の実話を元にしているということだが、ストーリー自体よりも、山のそんなに近くまで山岳列車が来ているのかとかいった、ドイツの人々と山との物理的な距離間が図らずも映されていることの方が興味深かった。

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【アウトレイジ】四つ星

以前せっせとVシネマでヤクザ映画を見てた時期があったのだが、なんかこういうの久しぶりだなーと思いつつ鑑賞した。まばゆいばかりのオールスターキャストの下、三池映画ならここでドンパチやって盛り上がる、というところでストーリーはあっけなくシュルシュルと収束し、肩透かしを食らった感は残ったが、これが北野監督らしいリアリズムやシニズムといえばそんな気もする。しかしこんな由緒正しいヤクザ映画が何故カンヌのコンペに選ばれたのかは謎だなぁ。

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【悪人】四星半

妻夫木聡さんも深津絵里さんも新境地を開いた演技で素晴らしい。(海外で深津さんだけが賞をもらったのは、外国の人は妻夫木さんを知らなくて、もともとこういうタイプの役者さんだと思ったのではないだろうか。)ただ、李相日監督が描くこの二人の閉塞感は、内側から感情的に揺さぶられるというよりは、外部から冷徹に観察している感覚があった。これはこれでいいのだけれど、ふと、井土紀州監督や瀬々敬久監督が本作を手がけたとしたら、もっとヒリヒリとした感覚が剥き出しになるような土臭い臭いのする作品になったように思われて、そういうバージョンも見てみたいような気がした。(主演は新井浩文さんでよろしくね。)

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【アブラクサスの祭】四つ星

周りを真摯に受け止めすぎる鬱病のお坊さんが、ノイズと共に生きるということを理解するまでの逡巡。周りの人が大概優しくて理解ありすぎなんじゃないの ? とも思うけれど、この煮えきらなさは却ってリアルなのかもしれない。このお坊さんを演じたスネオヘアーさんと、その奥さんを演じたともさかりえさんの存在感はハマっていた。

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【アリス・イン・ワンダーランド】三星半

映像的にはやはり凄いものがあるけれど、映像が凄いだけの作品って、やはりものの5分くらいで飽きてきてしまうんだよねー。ティム・バートン監督も、ルサンチマンがそこかしこに噴出していた初期の作品のようなエッジが後退し、近作ではすっかりアクが抜けてちゃっているみたい。作品としてはウェル・メイドなのかもしれないが、私的にはあまり食指が動かないかも。

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【イエローキッド】三星半

新鋭・真利子哲也監督の長編デビュー作。話が軌道に乗るまでがちょっとしんどかったかもしれないが、漫画家とボクサー志望の青年の全く違う世界が交錯していく様はラストに向かうほどに盛り上がって行き、どっしりとした見応えの印象が残った。

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【息もできない】三星半

例えばキム・ギドク監督の【悪い男】の主人公などはもっと深刻にひねくれててもっとどうしようもなく孤独だったような気がするので、この主人公などは、ちょっと不器用だけど根は割と純粋で、孤独とか言ったって結構周りの人から愛されていて(彼女とか友人とか)、まだマシなんじゃないだろうかと思った。まぁ、監督・主演のヤン・イクチュンは今後も注目されると思うので覚えといた方がいいかもしれない。

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【板尾創路の脱獄王】三つ星

最後まで見るとなんだそりゃってオチでガックリきたが、まぁ板尾さんらしいというか、この人は色んな才能があっても根本的にはやっぱりコメディアンなんだなぁとつくづく思った。しかし、私は吉本が映画を作るのも別にいいかなぁと思っていたのだが、結局、ネット展開やソフト販売などのためのお笑いの“コンテンツ”しか求めていないのであれば、それは私の中の映画の概念とはちょっと違っているかもしれないなぁと思った。

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【インシテミル 7日間のデス・ゲーム】三星半

ホリプロが自分達のタレントのプロモーションのために創ったかのようなホリプロ・オールスターズ映画。タレントを映画に出すことで価値を高めて売る、みたいな流れを保持するために、芸能プロダクション側でついに自給自足を始めたか。ジャニーズや吉本などはとっくに似たようなことをやってるかもしれないし、面白いものを創ってくれるなら動機は何だって構わないのだが、出来上がった作品が【バトル・ロワイヤル】と【es】を足して3か4で割ったよーな代物じゃぁねぇ。どうせ大枚はたくなら、もっと死ぬ気で新機軸をひねり出す努力や覚悟をしなければ、結果お金をドブに捨ててしまうことになるだけじゃあ勿体ないじゃないの。

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【インセプション】四星半

大体、最近のハリウッドのメインストリームにオリジナル脚本の良作ってあんまりないじゃん。しかもこんなに複雑な発想のSFをちゃんと形にして大ヒットさせるなんて、クリストファー・ノーラン監督のスキルの高さは人間離れしている。ディカプーくんにしろ渡辺謙さんにしろ、この作品に関わることが出来た幸運を喜ぶべきだ。

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【インビクタス 負けざる者たち】四つ星

アパルトヘイト撤廃後の南アフリカ共和国がラグビーのワールドカップで奇跡的に優勝したという実話を描いたクリント・イーストウッド監督作。国の再興のため、黒人も白人もなく万人に能力を発揮してもらおうと尽力したネルソン・マンデラは傑物だったのだなぁと改めて思った。しかし、イーストウッド監督の最近の作品づくりのペースは尋常じゃなさすぎてコワイ。

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【宇宙ショーへようこそ】四つ星

田舎の小学生5人組が何の間違いか宇宙旅行に……。日本の夏の情景から一変する宇宙の様々な場所の意匠が華やかで、予想外の方向に転がっていくストーリーが楽しい。見たことあるよなモチーフや説明不足のディテールもあるけれど、面白かったからまぁいいや。

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【ウディ・アレンの夢と犯罪】四つ星

ラクして濡れ手に粟の人生を手に入れようとしたって、人間、やっぱり身の丈にあったお金しか身につかないのよう。ということを冷徹に描ききっていて、ウディ・アレンの人間観察力が容赦ないことをまたしても思い知らされる。しかしこの映画のユアン・マクレガーは、人間の弱さやずるさや追い詰められる悲哀を余すところなく演じきっていて素晴らしい。彼のベストアクトのうちの1本に入るのではないだろうか。

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【海猿 THE LAST MESSAGE】三星半

今までの長年のファンの人を相手にした総集編的な内容。正直、ストーリー的には2の方がよく出来ている気がするが、これだけお客さんからの信頼度が高いというのは素晴らしいことだよね。

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【海の金魚】三星半

ヨットレースを巡る高校生達の物語。脚本も演出ももっと型を脱した方がいい部分もあると思うし、役者とかもすごく荒削りで技術的にはまだまだなのかもしれない。それでも、このような真っ向からの青春ものは今日び珍しく、見ていて清々しくて気持ちよかった。

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【エアベンダー】二星半

う~んこれは、とにかく何でもいいから3D映画といった流れで適当に間に合わせで作られた感が満載なんですけど……。私は一般的な趨勢よりはかなりM・ナイト・シャマラン監督を評価してるつもりなのだ。こんなもん作って期待を裏切らないでくれよぅ。

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【『映画一揆』シリーズ】(【犀の角】【土竜の祭】【泥の惑星】)四星半

ある街に移住してきた宗教団体の少女とその街の男子高校生との交流を描く【犀の角】。出来心の使い込みからある出来事に巻き込まれるヘルパーの少女とその仲間達を描く【土竜の祭】。天体観測をする同級生に一目惚れした農業高校の男子高校生を描く【泥の惑星】。井土紀州監督が青春ものを創ったというのもびっくりだが、これがまた、ハードな世情を潜ませつつも揃いも揃って爽やかで、甘酸っぱさすら感じられる作風だったのには超びっくり。有名な俳優さんが醸し出すオーラや華やかさなどはほぼ皆無で、正直、全員の演技が100点という訳ではないけれど、それでも映画は感動を与えることができる。自分は久しくこういう映画を見たかったのだ、ということに気づかされた。

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【SP 野望篇】三星半

前半はともかく、後半の展開があまりにもだらだらしていて、これでは、やっぱり金儲けのために無理矢理前後編にしたんだな ? と思われたって仕方ない。折角のキャストの頑張りが勿体なさすぎる。こりゃ【革命篇】に期待するしかないか。

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【エリックを探して】四つ星

マンチェスター・ユナイテッドの名選手だったというエリック・カントナさん。人生行き詰まってるオヤジがポスターに話しかけると、何と本人が現れてオヤジにアドバイスし始めた……。軽やかで後味も爽快 !! ケン・ローチ監督の映画を万人にオススメすることができるとは前代未聞だわ。

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【オーケストラ ! 】三星半

よんどころない事情で干されてしまった指揮者が、同じく干されてしまった元のオーケストラ仲間らと伴に30年ぶりの演奏会を……。着想は面白いかもしれないが、ここまでぶっつけ本番ってクラシックの世界ではありえないから、非現実的すぎるでしょ。しかもみんな我が道を大切にし過ぎで協調性なさ過ぎなところにイライラするのは私の日本人的なメンタリティが原因なのか ? 世間での評価はなかなか高かったけれど、私はどうも今ひとつ、彼等に感情移入できなかったのだけれど。

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【大奥】三星半

よしながふみさん原作の男女が逆転した虚構の大奥の世界の1エピソードを、『木更津キャッツアイ』などの演出を手がけた金子文紀監督を据えて映画化。原作の筋をちゃんと追っていて、全く破綻もしてないんだけど、なーんかペラい印象に。思うに、表面上の現象を追いかける手法が、現代劇では通用しても、時代劇ではしっくりこないのでは。本作のような素材には、もっと人物の厚みや人物同士の邂逅のケミストリーを細やかに描写できる人が必要だったのではあるまいか。で、結局、古参役の阿部サダヲさんの上手さが場を全部さらってしまっていった気がする。

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【オカンの嫁入り】四つ星

呉美保監督の前作の【酒井家のしあわせ】も割とひっそりと公開された割にはなかなかの良作だったが、本作もストーリーの構成がしっかりしていて全く無駄がなく、加えて出演者が全員いちいち上手くて完璧 ! 呉監督は大した逸材なのではないだろうか。
個人的には、本作と【BECK】を観てすっかり桐谷健太さんのファンになってしまった。特に本作での大竹しのぶさんの相手役(宮崎あおいさんの相手役ではない)は最高 !! で、改めてWikipediaなどを見てみると、実は今まで拝見していた作品の多いこと ! (大変失礼なことに、今までではっきりご本人として認識していたのは『Rookies』くらいしかなかった。)これだけ振り幅の大きい役柄がこなせるし、バラエティ番組などで拝見するご本人も明るくて豪快な楽しいキャラなので、これからますます一層のご活躍が期待できるのではないでしょうか。

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【おとうと】四つ星

鶴瓶さんと吉永小百合さんが姉弟 !? 最初に聞いた時はそりゃ無理だろうと思ったのだが、本編を見てみるとちゃんと成立しているところがさすが山田洋次監督御大である。末っ子ってああいう甘え口調で話すところがあるよねー、と頷きながら、どんなにダメダメな弟でもきょうだいの絆ってやっぱり切ることはできないという展開に、不覚にも泣けてきてしまった。

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【踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ ! 】三星半

普通の企業の引っ越しでももうちょっとセキュリティしっかりしてるわよう。そこらへんからもう間に合わせで作りました感が満載でね。私は、何やってもついていきますというほどの【踊る…】のファンでも何でもないんだよー。敢えて新作を作るのであれば、もっと一本一本本気で勝負を掛けなければ駄目なんじゃないのかね。

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【ガールフレンド・エクスペリエンス】四つ星

ニューヨークの高級コールガールの日常ってあまりお目にかかれるもんじゃないので、それを描いてみせているのだけでも何か面白かったなぁ。ソダーバーグ監督は面白いことを発想するよねぇ。それが全部当たるとは限らなくても、とにかくやってみるというのが監督の一番貴重な資質なのかもしれない。

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【地球交響曲<ガイアシンフォニー> 第七番】四つ星

やはり見るたびにいろいろ考えさせられる【地球交響曲】シリーズ。今回のテーマは「叡智」かな。元来、自分にとっては映画を見るという行為自体が叡智の一つの形を求める行為であったはずだ、などとふと考えてしまった。

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【かいじゅうたちのいるところ】四つ星

かいじゅうと人間は相容れないし、自分には自分の戻るべきところがある。少年はそれを悟って自分の世界に自ら戻っていく。かいじゅうたちをCGでなく着ぐるみで作ったスパイク・ジョーンズ監督の映画的嗅覚は全く正しく、彼のセンスのよさがあちこちに感じられる良作だった。

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【海炭市叙景】四つ星

函館市ゆかりの作家・佐藤泰志さんの、函館市をモデルにした海炭市という地方都市をスケッチ的に描いた原作を映画化。少し寂れた地方都市に生きる人々の日常を丁寧に描いていて秀逸。熊切和嘉監督はこんなしみじみした作風のものも撮れるのね。つくづく地力のある人だ。

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【カケラ】四つ星

いわゆるガールズラブを描いた映画でも、この映画のヒロイン二人(中村映里子さんと満島ひかりさん)のそれぞれの孤独とお互いを傷つけ合いながらも求め合う距離感というのは、空想上の女性しか描けない男性監督(例えば、監督のおとーさんの奥田瑛二さんとか)には決して撮れない種類のものなのではなかろうか。デビュー作にして自分にしか撮れない世界をここまで確信犯的に分かっているのは凄い。安藤モモ子監督は今後も期待できそうな気がする。

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【彼女が消えた浜辺】三星半

浜辺にバカンスにやってきたメンバーのうち一人の女性が失踪して……という筋立てのイラン映画。ヒロインがやったことがどれだけイランの一般的道徳に反するのか、とかいったニュアンスがよく分からず、彼等のメンタリティは想像するしかない部分もあるのだが、イランでも友人の家族と連れ立って海辺に遊びに行ったりとかするんだなー、とかいった描写が妙に新鮮だったりした。

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【カラフル】四つ星

自殺を図った中学生の体に入った主人公が、母親にあたる人の不倫が許せないとか幼稚くさいことを延々言ってるので、途中までついていくのが少ししんどかった。が、全部見ると成程って腑に落ちた。主人公が少しずつ成長していく様を細やかに描く原恵一監督の描写力はやっぱり絶品。ただ、残念ながら、早乙女くんみたいな人は素晴らしい友人は現実にはほとんどいないんだよねぇ……。

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【借りぐらしのアリエッティ】四星半

小人たちを描いたファンタジーってそれだけで何かわくわくするけれど、例えば『だれも知らない小さな国』(昔、愛読してました)が小人たちと人間の共存を描く話だったのに対し、本作の小人たちは人間と交わるべきではない異世界の生き物として描かれている。厳しいような気もするが、だからこそ、その垣根を跳び越えたアリエッティの最後の行為(友情の証として自らの意志で自分の持ち物を与えた)が泣けてきてしまうのだろう。異世界の生き物との交歓という意味で、私は何となく【河童のクゥと夏休み】と共通しているモチーフを感じたのだが、違っていたらゴメンなさい。
強力な個性やリーダーシップで引っ張っていくのは高畑・宮崎世代までで、個々の仕事を最大限に認めて統合していくことに手腕を発揮するのが新世代のやり方なのかもしれない。ジブリも米林宏昌監督という新たな才能を世に示すことが出来て安堵していることだろう。監督の次回作にも期待したいと思う。

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【渇き】三星半

かつて見たことない奇妙な味わいヴァンパイア・ソープオペラ !? パク・チャヌク監督独特の“ねじれ”がエッジとして効いているけれど、ストーリーの焦点があちこちに飛んでしまい、ヴァンパイアになってしまった神父と人妻の愛欲が後半ちょっと茶番化してしまったきらいがあるのはちと残念だった。とはいえ、この映画のためにシェイプアップしたというソン・ガンホ様の神父姿は結構萌えるので、それだけでも見る価値はある。

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【川の底からこんにちは】四星半

♪来~るなら来てみろ大不況~その時ゃ政府を倒すまで~ ! (劇中歌より)
PFF(ぴあフィルムフェスティバル)のスカラシップ作品の監督には、園子温監督、橋口亮輔監督、矢口史靖監督、古厩智之監督、熊切和嘉監督、李相日監督、荻上直子監督、内田けんじ監督など、今の日本映画界を牽引しているような人材がずらずらと名を連ねているのだが、第19回スカラシップ作品である本作を監督した石井裕也監督も、今後の日本映画界を牽引する存在に確実になるだろう。まだ20代とはとても思えない人間観察力にものけぞるが、ネガティブを絶対肯定した上でのたたみかけるようなアジテーションと、それをコメディとしてエンターテイメントに昇華させているセンスと覚悟に恐れ入る。いつの世にも天才って生まれてくるものなのね。これまた今後の日本映画界を牽引する存在になるであろうヒロインの満島ひかりさんとあっさり結婚しちゃったのも、何か納得してしまった。

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【義兄弟 Secret Reunion】三星半

まーた北のスパイの話かよーと思いつつ、シリアスな中にもきっちり笑いを取りに行く(?)ソン・ガンホさんはやっぱり見物。エンターテイメントとしてきっちりまとまっているのはよろしいんじゃないでしょうか。

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【キス&キル】三星半

アクションとロマンスを適度に織り交ぜた作風で、デートムービーとしては手頃そうだが、話はまだ半ばといった感じでちと物足りない。結局、人がいっぱい死んだ印象だけが残ったかもしれない。

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【君と歩こう】三星半

田舎の女教師と男子生徒がどうしてかけおちしようと思ったのか理解不能だし、彼等が何をどうしたいのかがいまいち分からず、その道筋も何もかも妥当とは思えない。というか、あまりに非現実的すぎるレベルのおバカさは、見ていてどうしてもイガイガする。石井裕也監督の人間観察の鋭さは垣間見えるけど、本作ではそれを消化しきれず、習作といった趣きになってしまったような気がする。

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【君に届け】四つ星

少女漫画原作というと大抵の場合は一定のトーンを予め予測してしまうのだけれども、本作は、あんまりにも初々しくて爽やかで、うっかり心が洗われてしまった。多部未華子さんの可愛いらしさといじらしさ、三浦春馬さんの理想的な王子様ぶり、女の子同士の友情の描き方、どこを取っても完璧 ! 熊澤尚人監督って案外こういう方向性が合っていたのねぇ。

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【君を想って海をゆく】三星半

フランスの北端・カレの街で、恋人に会うためイギリスに泳いで渡ろうとするクルド人少年と関わり合った男性。世界中で年々厳しさを増しているであろう移民政策のヨーロッパでの現状の一端を垣間見た気がしたが、しかしエンディングがその方向性だったとは……。

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【キャタピラー】四星半

題名は“芋虫人間”の意で、戦功を上げたが四肢が失われ顔も大火傷の状態で帰ってきた軍人の妻の物語。ほぼ生ける屍と化した夫がセックスだけは求めてくるとか、そんな状況を耐えるためのなけなしのプライドを喚起するために夫を荷車に乗せて村中に晒して回るとか、エグい場面がいろいろ描かれる。女はどんどん開き直りどんどん昇華されていくけれど、男は戦地で犯した罪に自らどんどん蝕まれて自滅する。人間の業やらエゴやら本能やらを焙り出しながら反戦というテーマを語る、若松孝二監督の新たなマスターピース。で、好むと好まざるとに関わらず、やっぱり寺島しのぶはハンパなかった。

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【クリスマス・ストーリー】四つ星

アルノー・デプレシャン監督作品って随分久しぶりのような。アル中の弟(マチュー・アルマリックが絶品 ! )と家族であることを拒否する姉、彼らを何とかできないかと右往左往する末弟、そして、瓦解しかけていてもやはりなにかしらの絆が存在する家族を見守る大黒柱のような母親(カトリーヌ・ドヌーブが絶品 ! )。一人一人の存在と家族全体としての姿がアンサンブルのように浮かび上がってくるところに独特の味があったと思う。

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【クレイジー・ハート】三星半

かつてスターだったのにアルコールのせいで落ちぶれたカントリー歌手が、やっと再生しかけた人生をアルコールでまた棒に振るという話。アル中の人の話って昔から嫌いで、主演がジェフ・ブリッジズじゃなければ多分見てもいなかっただろうが、最後少し持ち直すとはいえ、アルコールに飲まれた人生をどこかで肯定し続けている人の話には不愉快さしか残らない。

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【クロッシング】三星半

家族のために北朝鮮からの越境を試みた男性と、北朝鮮側に残された息子の姿を描く。すごく取材等がなされているのであろう描写にはとても迫力がある。けれど、音楽があまりにそぐわないので何なのだろうと考えてみたら、結局、これは過剰なメロドラマの究極の素材としてこうしたショッキングな題材に行き着いたのだということに思い至り、何かかなり萎えてしまった……。

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【ゲゲゲの女房】四つ星

クドカン演じる見るからに貧相な水木しげる先生(失礼 ! )の住むあまりにもスカスカな家に、吹石一恵さん演じる薄幸そうなヒロイン(またまた失礼 ! )があからさまに溜息をつく様子を見ると、NHKの朝ドラ版で描かれていたのはテレビサイズに小綺麗に加工された貧乏だったのかなと思う。テレビ版のテーマが周りの人々との繋がりや感謝なら、こちらのテーマは二人だけの世界が構築されていく過程である。どちらがどうということではなく、それぞれ趣きが違っていてよかったのだけれど、テレビ版がこれだけヒットして一般性を獲得してしまったから、映画版にはあまりにもハンデかも……キャストの皆さんや鈴木卓爾監督を始めとするスタッフの皆さんは気の毒という他ない。あと、ヘンな妖怪達がさりげなくそばにいるのが可愛かったんだけど、最初は少し分かりにくかったかもしれない。

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【ケンタとジュンとカヨちゃんの国】四つ星

麿赤兒さんの長男にして大森南朋さんの実兄である大森立嗣監督の監督第2作。主人公のケンタとジュンとカヨちゃんを演じた松田翔太さん、高良健吾さん、安藤サクラさんが本当に素晴らしいが、ジュンの服役中の兄を演じた宮崎将さん(宮崎あおいさんのお兄さんだ ! )の絶望というものを絵に描いたような鬼気迫る演技が、ワンシーンだけど本当にもの凄い。しかし、行き場のない青春を描いた傑作が多い今日この頃の世相って本当に明るくないよなー。

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【玄牝 -げんぴん-】三星半

出産をテーマにした河瀨直美監督のドキュメンタリー。この映画に登場する吉村正医師は、出産で死亡する場合があるのもまた自然の摂理だと説き、一人も殺させまいとする現代の医学界では異端とされているらしいが、この医師の元に、出産への深い思い入れを持つ幾多の女性達がなるべく自然な形での出産を求めて集まってくる。管理されすぎたお産って生物としてどうなのだろうという思いもよく分かるが、どの命も救われるべきだというテーゼが現代の医学界に存在しているのもそれはそれで避けられないことだろうから、そのバランスが難しいところなのだろう。しかし、妊娠・出産コースから完全に外れた自分は、そもそもこうしたことに何か言える立場じゃないんだよなぁ。

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【ゴールデンスランバー】四つ星

国家権力に目をつけられたらフツーは逃げ道はないってことだな……本編の主人公はギリギリの頑張りと周囲の人のご好意とラッキーでなんとか逃げ切ったけど。中村義洋監督と伊坂幸太郎さんの相性のよさが再確認できたが、堺雅人さんを始めとする竹内結子さん、吉岡秀隆さん、香川照之さん、濱田岳さんetc.の豪華な出演陣の中、なかなかの印象を残した劇団ひとりさんはオイシかったのではないかと思った。

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【告白】四星半

個々の責任が曖昧な集団の中でエスカレートするいじめの病理、過保護すぎる母親の病理、置き去りにされる孤独の病理、肥大化しすぎた自意識の病理、そしてそれらすべての病理を逆手にとって緻密な計算の通りに一歩一歩着実に遂げられる復讐の病理。復讐のためとはいえここまでやるのか、それだけ絶望が深いのか。今まで見たことのないステージにまで踏み込んで描かれる悪意のアンサンブルには、救いはほぼ存在しない。これをエンターテイメントだと言い切って成立させるのは相当な力業だ。中島哲也監督は表現者としての極北を行っている。この役を演じきった松たか子さんもまた、極北を見透す力を持つ女優さんなのだとはっきり悟った。
これは確かに見てて愉快になるようなタイプの映画ではない。ただ、毒を以て毒を制するというか、皆が一様にいい人として振る舞わなければならないという無言のプレッシャーが存在する(かもしれない)日本のような社会で、無言の裏側に本当はこんなに悪意のやり取りが存在している、ということを過剰に分かりやすい形にして見せているところに、カタルシスを感じる人は感じるのではないか。監督は、普段見えにくくなっていることをある種のフィルターに通して意識させた上で「私達のいることろは本当はこんなに酷い社会だけどそれでも生きていかなくちゃならない」&「酷い罪でも死ねば許されると思ったら大間違いだ」というシニカルで逆説的なメッセージを送っているのではないかと思う。

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【孤高のメス】四つ星

やっぱり成島出監督作は安定しているというか、話自体は面白くまとまっているし、主人公の医師を誠実に演じた堤真一さんによる手術シーンのリアルさなども含めて、ありとあらゆる誠意を以て創られている作品だと思った。ただ、地域医療の崩壊などの日本の医療現場の数々の問題の多くは構造的なものに起因するものであって、個々の医師や医療スタッフの熱意や技術だけではどうにもならない部分があるのではないかと思われ、そこの部分が少し引っかかってしまった。

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【コロンブス 永遠の海】三星半

マノエル・デ・オリヴェイラ監督の少し前の旧作。ポルトガル人にとっては今でも大航海時代の栄光が大切な歴史的記憶なのだと聞くが、そうした記憶を辿っているみたいだ。しかし、この人は何故コロンブスがポルトガル人という発想を抱くようになったのか、その辺はよく分からないのだが。

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【今度は愛妻家】四つ星

仕掛け自体はよくある話。だが、豊川悦司さん、薬師丸ひろ子さんを始めとする役者さん達がみんな素晴らしく、ストーリーに命が吹き込まれているのがよかった。個人的には石橋蓮司さんの演じるお父さんというかお母さんが好き。行定勲監督は、ちゃんとハマればこういう瞬発力のある映画を創れるのになー。

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【最後の忠臣蔵】四つ星

大石内蔵助の隠し子を守る使命を秘かに授かった侍。なすべきことを淡々となしたこの侍(役所広司さんがカッコよく好演)と、彼が育てたそのお姫様との心の機微の描写には、時代劇としての重厚な見応えがある。ただこの結末って、武士の本分としては正しいんだろうけど、現代人の目から見ると全然納得できないわ。

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【桜田門外ノ変】三星半

本作は水戸藩開藩四百年記念として茨城県の市民団体が企画を立ち上げた作品なのだそうだ。一部には事実の羅列的なきらいがあるかもしれないが、真摯な演技と丁寧に紡がれたエピソードで、桜田門外の変から歴史の流れが変わって明治維新に至ったという視点がはっきり打ち出されているのは興味深かった。

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【座頭市 THE LAST】四つ星

人があまりにも死にすぎで空しすぎる……それがテーマなのかもしれないけれど。阪本監督ディレクションの香取慎吾さんの座頭市は悪くなかったけれど、勝新太郎さんという金字塔を追い抜くまでにはやはり至らなかったと思うので、これをラストと銘打つ意味はあるのかなぁとは思ってしまった。

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【ザ・ロード】四つ星

文明が滅亡した世界はこんな感じになるという陰々滅々としたシミュレーション。この世界を、ヴィゴ・モーテンセン演じる父親が息子を連れて旅をする。こういう極限状況でこそ人間性とは何かが問われるのであろう。しかしやっぱり文明には頑張ってもらいたいな……この世界で生きるのはキツいぞー。

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【さんかく】三星半

吉田恵輔監督の新作。「分かんな~い」と言えば何でも許されると思っているあの妹がカワイイと思える人なら無茶苦茶面白いかもしれないが、私はお話とは言えあのテの存在はどうしても見るに耐えないし、関わり合いたくもない。そんな妹にちょっと興味を持たれたからって勘違いして暴走するこの男もあんまりにもアホすぎで、演じたのが高岡蒼甫さんでなければ本当に見ていられなかったかもしれない。そんな男でも好きでしょうがなくてこれまた暴走する田畑智子さんだけはまだなんとなく理解できたけど。人間は愚かしくても愛おしいものだと言いたいのかも知れないが、心の狭い私はこの方向性は許容範囲外だ。オチだけは小マシだったので少しは救われたけど。

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【シーサイドモーテル】一星半

話自体も大して面白くもないのだが、演出や構成にも工夫が感じられず、テンポも悪い。豪華キャストが勿体ない。どうしてこれ見に行っちゃったかなぁ……大失敗でやんす。

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【シャーロック・ホームズ】四つ星

祝・ガイ・リッチー監督復活 !! 彼にロバート・ダウニー・Jr.×ジュード・ロウって私的には結構夢の組み合わせ。これならシリーズ化も許可します。

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【シャッター アイランド】三星半

実は上映開始から3分くらいでネタが分かってしまい、まさかそんなに単純な話じゃないよなぁ、と思っていたら、そんな単純な話だったのよねぇ……。こういうネタにも慣れていない若い人とかであればそれなりに驚きもあるかもしれないが、そのネタとディカプーくんの熱演以外は基本的に暗くて陰鬱なだけで、特に見るべきものもなかったように思う。残念ながら、私は、スコセッシ監督の映画で感情が心底から揺さぶられたという経験を久しくしていないかもしれない。

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【シャネル&ストラヴィンスキー】四つ星

ここ最近ココ・シャネルを題材にした映画が何作かあったが、イメージの中のココ・シャネルは本作が一番近いかもしれない。実話にどの程度基づいているのかは知らないが、芸術家同士の間に流れる吸引力とエゴのぶつかりあいの激しい描写が素晴らしかった。しかし【ドーベルマン】のヤン・クーネン監督ってこんなに心理描写とかできる人だったとは知らんかった。

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【シュアリー・サムデイ】四つ星

小栗旬さんの初監督作品だが、青春映画らしく盛りだくさんで楽しくていいじゃんか。アンチが目くじら立てるほど酷くはないわよぅ。有名・無名を取り混ぜたキャストへの目配りが特に面白いと感じたが、小栗さんの盟友の小出恵介さんが上手いのは当然としても、今回は、ムードメーカー役の勝地涼さんの達者さに特に目がいった。

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【十三人の刺客】四つ星

役所広司さん、伊勢谷友介さん、古田新太さん、沢村一樹さん、伊原剛志さん、山田孝之さん、高岡蒼甫さん、波岡一喜さん、松方弘樹さんetc.etc.……なーんて豪華な出演陣 !! 一人一人の見せ場がどうしても少なくなってしまったきらいはあるが、最初から最後まで手に汗握る緊張感と迫力で、さすがは三池崇史監督だと思った。しかしこれだけのキャストを差し置いて場をさらってしまったのが稲垣吾郎さん !! 感情が干からびてしまっている血も涙もない暴君のお殿様に、恵まれすぎててスポイルされた現代の若者の悲哀を重ねた役の解釈が素晴らしすぎ、ゴローちゃんがメインのピカレスクを見てる錯覚に陥った。さすがはSMAP ! その底力はハンパない。

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【終着駅 トルストイ最後の旅】三星半

トルストイの最晩年を描いた映画。悪妻として有名なトルストイの奥さんは実際どんなだったのか、などの興味はあるが、例によってロシア人のトルストイが英語で会話しているのに萎えてしまい、そんな史実があったのね、という以上の感慨はあまり抱けなかった。

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【食堂かたつむり】三星半

あの歌やお手製アニメを可愛いと思うかウザイと思うかで評価が分かれるんじゃないだろうか。例によって原作は読んでいないので何なのだが、私は、伝えるべきことの焦点がずれているのではないかという印象を受けた。

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【白いリボン】四つ星

ミヒャエル・ハケネ監督のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作。ある田舎の村での陰湿な暴力の連鎖。何も進展せず、何も解決せず、何とも言えない後味の悪さがただ残る。この不気味さがキモなんだろうけど、ここにナチズムの萌芽が描かれていると言われても、正直よく分からないや……。

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【シングルマン】三星半

ファッションデザイナーとして有名なトム・フォードの監督デビュー作。とても端正で無駄のない語り口で、ただ有名人が興味本位でカッコよさげに映画を取ってみるということではなく、本当に映画が好きで映画的記憶の蓄積が豊富な人が必然的に撮った映画なのだなぁ、ということがよく分かる。ただ、個人的には、これから死んでしまう人の話という部分で気持ちが削がれたのに加え、かっこいい男性を追っかける視点がゲイ独特の特徴的な目線だなぁとかそんなところに気を取られ、愛の喪失と再発見とかいった映画のテーマ的なものに全然目が行かなかったような気がする。

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【信さん・炭鉱町のセレナーデ】四つ星

ある家族とその周りの人々を通した炭坑町の歴史みたいな。甘くなり過ぎないギリギリのノスタルジー。小雪さんの凛とした存在感が物語を引き締める。やっぱり平山秀幸監督作に外れはないや。

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【人生万歳 ! 】四つ星

こんな偏屈な主人公でも、紆余曲折を経ても何となく幸せになれるというウディ・アレン節。しかし、この凡庸を絵に描いたような邦題は一体何 ? 『Whatever Works』(うまくいけばそれでよし、みたいな ? )って原題はそりゃ訳しにくかっただろうけど。

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【スイートリトルライズ】三星半

「こんなの全然スィートじゃない !! 」という台詞があってずっこけてしまわざるを得なかった……。えーっとぉ、これが“スィーツ(笑)”というやつか。違うか。そもそも、満たされない人妻の逡巡とか基本的に全く興味が湧かないんだよなー。いくら矢崎仁司監督作でもこれはちょっと厳しいわ。ごめんなさい。

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【スープ・オペラ】四つ星

“大人のお伽噺”的なストーリーって中途半端に終わってしまうことが少なくないが、本作では奇跡的に成立しているように思う。原作は阿川佐和子さんということだが、大人が選択する自由としての孤独という帰結がいいし、それを丁寧に紡いでいる瀧本智行監督の演出も過不足なく、無駄も力みもなくていい。坂井真紀さん、藤竜也さん、西島隆弘さんといったキャストもぴったりで、坂井さんの出演作では今までで一番好きかもしれない。

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【SPACE BATTLESHIP ヤマト】四星半

キムタクの演技が月9と一緒、だからキムタクは大根だ、みたいなことを言ってる人が結構いたので驚いた。あぁこの人達は【武士の一分】とか見てないのか。ちゃんと見てたら、木村拓哉は作品によって違う演技を要求されればそれを完璧にやってのける人だって分かるはずだもんな。本作の演技が月9的であるとするのなら、それは、昔ながらの古代進像に現代的な“軽さ”を加味したいという演出的な意図により、敢えてそうしたのではないかと考えられるのだが。
はっきり言って「ヤマトのリメイクなんて……」と思っていたけれど、そこはさすがに山崎貴監督で、手抜きの無いVFXはアニメ以上の大迫力だし、設定やストーリーの細かい部分は今の感覚で見て違和感の無いように修正してあるし、お決まりのストーリーには少しひねりを加えてあるしで、全て想像以上の出来映え。監督にしろキムタクにしろ、国民的映画たり得るスケール感の映画を敢えて創ろうという課題を自らに課して、それをやってのけるところが凄いと思った。

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【すべて彼女のために】四つ星

奥さん(ダイアン・クルーガー)はキャリアウーマンの超美人だが、学校で教師をしているだんなさん(ヴァンサン・ランドン)は平凡で地味な男。でもこのだんなさんが、冤罪で実刑を受けてしまい裁判での逆転も不可能という状況に陥ってしまった妻のために、何もかもを犠牲にし、ありとあらゆる手を尽くして妻を脱獄させようとする。女が危機に陥った時に男はどこまでやってくれるのか。金でも名誉でも容姿でもなく、女性は実はこういうのに一番グッとくるのではあるまいか。さすがはフランス映画、よく分かっていらっしゃる。

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【ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲】四つ星

思えば、同じ三池崇史監督作の【殺し屋1】で主役がいつの間にか大森南朋さんから浅野忠信さんになってしまったという前科があったけれど、本作でも、主役が哀川翔兄ィからゼブラクィーンを演じた仲里依紗さんに完全に取って代わられてしまったと言わざるを得ないだろう。この思い切りのよすぎる悪のヒロインは、日本映画史に語り継がれるレベルかもしれず、この映画も仲里依紗さんをスターにした映画として記憶されることになるような気がする。まぁ結局、面白ければ何だっていいんだけどね。

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【セラフィーヌの庭】四つ星

家政婦をやりながら自分一人で細々と描いていた絵を画商に見出されたというセラフィーヌ・ルイという画家を初めて知った。何が幸せか誰にも分かりはしないのなら、心のままに生きるより他に道は無いのではないかと思った。

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【ソフィアの夜明け】四つ星

ストーリー自体は、右傾化したり芸術したり迷ったりして逡巡する世界中によくある若者の話的な。でも、そんなにお金持ちでもなさそうだけど最低限に貧しいという感じでもない、ブルガリアの古都ソフィアの市井の人々の暮らし向きそのものが新鮮に映った。こんなふうな、街の雰囲気をそのまま活写するような映画をもっと見たいような気がする。ところで、この映画の主役の男性は、映画を撮った直後に亡くなったそうだ。合掌。

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【ソラニン】四つ星

モラトリアムって人生の毒を消化する方法を学ぶ期間のことなのかもしれない。じっくり描きすぎて、ヒロイン(宮崎あおい)の彼(高良健吾)が死ぬまでと、その後、彼女が彼のギターを手にとって歌う過程が解離しているきらいはあるが、この丁寧さは嫌いじゃないと思った。

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【第9地区】五つ星

こりゃ凄い !! 人間には感情移入しにくい姿形のエイリアンを使って差別や恐れの感情を描く手法自体はこれまでにもあったかもしれないが、そのエイリアン側からの視点も話の中心の一つになっているところが非常にユニーク。ほどなく、そのエイリアン達がカッコよく可愛く、人間達がグロテスクに見えて来たりするのでびっくりしてしまう。これは、私のン十年の映画鑑賞歴の中でも5本の指に入るほどの独創的な映画だったのではないだろうか。

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【たまの映画】四つ星

あの『さよなら人類』のたまの皆さんは、それぞれが個人のミュージシャンとして、細々とではあっても地に足を着けて活動を続けていらっしゃる、ということがこの映画を見て分かった。そんな彼等を追いかけて映画を撮ろうとする奇特な人が居るという事実自体も麗しい。こんな人々が生息し続けられるかどうかが、きっと日本の豊かさの指標の一つであるに違いない。

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【小さな命が呼ぶとき】三星半

自分の子供が難病に冒されたため新薬を開発しようとした素人のビジネスマンの実話を元にした話で、自分が製薬会社絡みの仕事してるもんでつい見に行ってしまった。今日びの新薬の開発には莫大なお金がかかるため、一般的に、既存の大手の製薬会社以外の組織が行うのは非常に難しく、ましてや作っても元を取りにくい難病の治療薬の開発など無謀とも言えるのだが、そんな困難に挑戦しようと奔走するブレンダン・フレイザーと、実際の開発に携わる偏屈な科学者役のハリソン・フォードがどうするのかには非常に興味が湧く。ただ、実話ベースの物語の宿命なのか、お話は中途半端に収束する感じで今ひとつ。それよりも、忙しいといいながらみんな結構休みを取っていたりするところが、さすがアメリカだなと妙に気になってしまった。

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【ちょんまげぷりん】四つ星

江戸時代からタイムスリップしてきたお侍さんがこんなにすんなり現代に馴染むとかありえないと思うけど、そこはマンガ的にバッサリ端折って、主人公の取った行動や、彼を受け入れたシングル・マザー親子との心の交流などを描くことに絞ったところが勝因だと思う。やっぱり中村義洋監督は上手いんだなぁ。錦戸亮くんが素敵で(あの落武者スタイルの髪型のシーンを差し引いても)ますます好きになってしまった。ともさかりえさんも役柄にぴったりで、こんなにしっかり自立したシングル・マザーの描写を映画で見たのは案外初めてかもしれないなぁとも思ったりもした。

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【月に囚われた男】三星半

デヴィッド・ボウイさんの息子さんが監督したというSF。まぁそんなふうな話かなぁと予想して、まぁそんなふうな話だったかなぁ。

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【冷たい雨に撃て、約束の銃弾を】四つ星

ジョニー・トー監督作品に、フランスのスーパースター、ジョニー・アリディ氏が登場 ! 復讐を依頼された元殺し屋が記憶を失っていく、という筋立てがはっきりしていて、ジョニー・トー監督作品が苦手な私でも割と見やすかったです。

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【てぃだかんかん】四つ星

世界で初めて養殖サンゴの移植に成功した男性の実話を元にした話。信念を貫くってそれはそれは大変なことだろうに、失敗を重ねながらも困難を少しずつ克服していく主人公の姿が素晴らしく(岡村さんすっごいハマり役です)、またこの主人公にぴったり寄り添って応援し続ける奥さんの姿も素晴らしかった(松雪さんすっごい可愛いです)。李闘士男監督は、こんなふうに失敗しながらも少しずつ前に進もうとする人達を描かせたら、今、日本で一、二を争う上手さかもしれないな。

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【デザート・フラワー】四つ星

結婚させられそうになって砂漠の家から逃げ、ソマリアからロンドンに渡り、その後、偶然見出されてスーパーモデルになる。このワリス・ディリーという人の半生は単純に言ってもドラマチック。このストーリーは、彼女が幼い頃に体験した女性器切除の問題を訴えるために受けたインタビューが基になっているとのことだが、色々な意味で一見する価値があると思う。

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【鉄男 The Bullet Man】三星半

これは……何 ? 幻の企画『鉄男 USA』のなれの果て ? それとも原点回帰を意図しているの ? 【鉄男】は荒削りで破壊的で発展途上なあの瞬間がフィルム上に定着しているからこそ永遠の金字塔たり得るのであって、何だか技術的に上手くなって小綺麗になった【鉄男】に意味なんてあるのだうか。どうしてこういう形で【鉄男】をまた作ろうと思ったのか、正直私にはよく分からなかった。ただ、本作をきっかけにオリジナルの【鉄男】を見てみようとする奇特な若者が一人でも二人でもいることを祈るばかりだ。

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【ドアーズ まぼろしの世界】四つ星

トム・ディチロ監督と言えば、昔、ジム・ジャームッシュの撮影監督をやってらした方。お懐かしい。しかし、大変お恥ずかしながらドアーズってイギリスのバンドだと思ってた……。きっとドアーズの音楽に感じられる死や孤独の匂いが、自分の中ではアメリカっぽいものではなかったからだろう。当時の映像だけで構成されているというこの映画は、バンドの歴史や本質を余すところなく描きだす。今まで観たドアーズの映画では最良のものだったかもしれない。

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【トイ・ストーリー3】四つ星

いつかやってくる持ち主との別れという、おもちゃ達にとっては最大の運命の曲がり角をテーマにしていて、【トイ・ストーリー】は相変わらず考え抜かれたストーリーで創られているのだなということが伝わってくる。出来映えについてはまぁ間違いないんだけど、3D上映しかしてないってのはどうなのよ。

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【トイレット】四つ星

ちょっと世間からズレ気味かもしれない個性的な3人きょうだいが、言葉の通じない日本人の“ばーちゃん”(異国の地でも全く変わらないもたいまさこさん)の出現によって、お互いの距離を少しずつ縮めていく。日本映画というよりはアメリカのインディーズ映画の佳作みたいだが(実際にはカナダで創っているらしい)、これも荻上直子監督作品の一つの進化形なのだろう。ユーモラスで暖かな視点がいかにも監督らしい。

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【東京島】三星半

人の迷惑顧みず好き放題振る舞ってりゃ、そりゃ最後には敬意も払われなくなるわ。それでも自分の欲求に忠実に、何が何でもとにかく生き残ろうと本能のままに行動するヒロインは、生きものとしては間違ってないのかもしれない。ただし、それは木村多江さんがヒロインをどこか涼しげに超然と演じたからこそ少しでもそう思えたのであって、そうでなければ気持ち悪くて見ていられなかったかもしれない。

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【Dr.パルナサスの鏡】三つ星

亡くなったヒース・レジャーの後を受けてジョニー・デップ、コリン・ファレル、ジュード・ロウが同役をそれぞれに演じた、という話題性はあるけれど、テリー・ギリアム監督のイメージ押しの印象だけしか残らなかったような……。

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【トルソ】四つ星

是枝裕和監督の【誰も知らない】のカメラマン・山崎裕さんの初監督作品。まるで何かの儀式であるかように粛々と生活し、生身の人間との接触を嫌ってトルソ(体の一部をかたどった模型のことで、本作では男性の下半身だけの風船式の人形である)だけを愛する姉と、正反対の性格の社交的で奔放な妹の、ひと夏の物語。渡辺真起子さんと安藤サクラさんの演技はやはりハイレベルで、派手さはないかもしれないけれど、二人の心の揺らぎを細やかに描いた手堅い良作になっている。

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【トロッコ】四つ星

芥川龍之介の原作が、台湾の亜熱帯の深い緑に包まれて、何だか趣きの違うしっとり、しみじみした作品に変質していた。進境著しい尾野真千子さんの端正な演技は本作でも見逃せない。

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【ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い】三星半

ドン・ジョヴァンニの脚本を書いたダ・ポンテという放蕩三昧の劇作家が陥る逡巡……をじっくりと描かれたところで、自分との接点があまりないので、傍からふぅんと眺めるだけで正直よく分かんなかったかもしれない。ただ、ヴィットリオ・ストラーロの美麗な画面でカルロス・サウラ監督の作品を観られるのってあと何本くらいなのかな……と思うとなんかしみじみしてしまった。

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【NINE】四つ星

マリオン・コティヤール ! ペネロペ・クルス ! ニコール・キッドマン ! ソフィア・ローレン ! ジュディ・デンチ ! なんていう豪華絢爛な出演陣がロブ・マーシャル節に乗って舞い踊るのは観ていて飽きないが、男は結局マザコンだっちゅう話なのはなんだかなー。でもこんなダメダメ男でも才能はある奴にはあるのだと、ダニエル・デイ=ルイスが演じると納得させられてしまうのよねー。

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【9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~】三星半

人形の造形には味があるが、CGってやっぱり平坦な印象になってしまうんだよね~。ストーリーは人類滅亡後に残された人形達の戦いを描いたものなのだが、人間がいなくなってしまった世界で何が繰り広げられていてもどうでもいいというか、あまり興味が湧かないような。

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【人間失格】四つ星

原作の自意識過剰な主人公を傍から見てみると、こんなふうな、女をどうしようもなく魅きつけるお坊ちゃま育ちの受け身の存在という解釈も成り立つのかもしれないと、目からウロコが落ちた。生田斗真さんがこの主人公にピッタリで、荒戸源次郎監督が絶賛するのも納得。陰湿で悲惨なテイストがいい意味で薄められた一種のファンタジーのようで、よもや『人間失格』がこんなに退廃的なロマンのある作品になろうとは思いもよらなかった。

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【ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う】三星半

裏街道を歩いている主人公は、今までおぞまいしものも悲惨なものも色々つぶさに見てきただろうに、ただヒロインが“可哀相”だからといってそこまで簡単にコロっと参ってしまうものかなぁ ? ヒロインはヒロインで、家族との関係がどうというより、ただいきあたりばったり的にイカれてしまっているような ? 今回に関しては、ヒロインの演技力の力量不足もあるかもしれないが、石井隆監督の演出もハマり切らなかったように思う。

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【ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ】三星半

ジョン・レノンの家庭環境ってこんなんだったんだ、という好奇心はあったが、自分にとっての興味はそこ止まりだったかもしれない。しかし、ジョンはともかく、ポールはどうもヴィジュアル的に現物とかなりイメージが違うような気が……。

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【ノルウェイの森】四星半

トラン・アン・ユン監督。松山ケンイチ。菊池凛子。この監督とキャスト以外ではおそらく不可能だった奇跡の純文学映画。これは作品としてどこを切っても完璧という他ない。昔『ライ麦畑でつかまえて』を全く読めず、青年の逡巡と成長が個人的に最も苦手なテーマの一つである自分が、村上春樹作品になんとなく手がでない理由がよーく分かった。こりゃドラマとして観るのでなければ読むのは一生不可能だったわい。実写で見せてくれて本当にどうもありがとう !!

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【パートナーズ】三星半

浅利陽介くんが主演と聞いて見に行った。盲導犬の訓練シーンなどがかなり丁寧に描かれているのは好感が持てて、印象は地味目でも悪くはなかったのだが、現実的に考えてそれはないんじゃない ? とか説明的すぎるのでは ? とか思われるシーンがちらほらするのは少し疑問だった。本作は荒井晴彦御大の意を汲んでかなり脚本に忠実に撮り上げたと聞いたのだが、やはり脚本至上主義でなく、実際に演じてみた雰囲気で臨機応変に変えた方がいい場合もあるんじゃないだろうか。

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【ハート・ロッカー】三つ星

舞台や仕掛けはイラク戦争の爆弾処理兵の話に代わっても、アメリカ人が描く戦争映画は日本の人には10中8、9つまらない、というマイ・セオリー通り、やはりご多分に漏れなかった。
アメリカ人が描く戦争映画が何故つまらないのかと言うと、敵とされる相手側の視点や、そもそも何故そんな状況が作り出されているのかという根本的な説明はまず描かれない中で、ナルシズムと紙一重のヒロイズムとその破綻の中で自己完結している場合がほとんどで、他の国の人から見ればなんのこっちゃという話になりやすいからだ。とここまで書いて、ここに自己憐憫を加えれば日本の戦争映画もほぼ似たようなもんだよなー、と思い至った。なーんだ、戦争映画=ナルシズム=つまらないの図式は万国共通だったのね。そういえば私、日本の戦争映画も最近見に行かないようにしてるわよねー。

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【ハーブ&ドロシー】四星半

アメリカ有数の美術コレクターとなったごく普通のご夫婦のドキュメンタリー。何せごく普通のアパートに住む郵便局員と図書館司書というごく普通の収入の方々なので、当時比較的安価だったコンテンポラリー・アートのみを、コネ(作者と直接知り合って仲良しになる)とローンを駆使して長年掛けてこつこつ収集してたら、いつの間にか収集品の価値が上がってたという。(こういう話題は合わなかったらしくて)彼らの職場の人々は全然知らなかったというし、彼らは集めたことに自体に意義があるいう価値観らしくて、折角の収集品の大部分を美術館にあっさり寄付してしまうという気前の良さ。人間、世間的な価値観が自分を幸せにしてくれるとは限らなくて、結局、信念持って好きに生きられればそれで幸せなんだよなー。自分にとって何か人生の指針になるようなことがいっぱい詰まっている映画だった。

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【パーマネント野ばら】四つ星

原作者の西原理恵子さんの故郷と重ね合わされていると思われる高知の寂れた港町で、男運のない女性達(というかそもそもろくな男がいない)がそれでもたくましく生きている姿を、菅野美穂さん演じるヒロインを狂言回しにして描写するような話なのかと思っていたら、実はそんな女性達全員にヒロインが暖かく見守られているという話だった。世間のおじさん達の想像とは違い、本当は女性達は連携し合い、助け合って生きている。このヒロイン、そんなに不幸じゃないと私は思う。これは西原理恵子さん原作の作品の中でも随一の出来。吉田大八監督はやっぱり腕があるなぁ。

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【ばかもの】四つ星

ある風変わりな年上の女性にハマてしまったが、振られてしまって引きずりまくり、ついにはアル中街道まっしぐら……。傍目には愚かかもしれない恋愛だけど、これくらい破壊力のある恋愛ができる人生って逆に豊かなんじゃないだろうか。アル中の描き方に手抜きが無く、なかなか真に迫っているのに好感が持てる。最近の金子修介監督の作品では最も好きかもしれない。この内田有紀さんと成宮寛貴さんというキャスティングが最高 ! 特に成宮くん。彼の演技は見る度に魅きつけられる、彼は若手でも一、二を争う演技派だと確信している。

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【パリ20区、僕たちのクラス】三星半

フランスのある国語教師と生徒達を描いたドキュメンタリータッチのドラマ。本作はカンヌのパルムドール受賞作ということなのだが、そもそも、フランスにおける一般的な先生と生徒の距離感や学校における禁止事項がよく分かっていないので、この映画の中の状況がフランスの学校的にはどうなのかがよく分からず、畢竟、感動するべきポイントもよく分からなかったみたいな気がする。ただ、子供は万国共通で授業をまじめに聞く気がなく、いかにして脱線してやろうと考えているのかということだけはよく分かった。どこの国も先生は大変だぁ。

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【春との旅】四つ星

職場が無くなり生活が成り立たなくなったので、同居していた祖父(仲代達矢さんの名演 ! )の引き取り先を探す旅に出た。しかし、生きたいように生きてきた因果なのか、祖父には行き場所がない……まるで自分の未来の姿を見ているようで思い切り暗くなってしまった。小林政広監督、やっぱり描くもんがエグいわ。

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【パレード】三星半

藤原竜也さん、香里奈さん、貫地谷しほりさん、林遣都さん、小出恵介さんという出演陣にダマされてつい見に行ってしまったが、えっこれって謎解きサスペンスだったの !? と最後にずっこけた。同じ筋立てでももっと違う処理の仕方があったのでは ? 行定勲監督の作品ってやっぱり当たり外れがあるような。

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【ヒーローショー】四星半

【ガキ帝国】やら【岸和田少年愚連隊】など、昔から井筒和幸監督と吉本は相性がよかったりするが、ここで只今絶賛売り出し中のジャルジャルの後藤さんと福徳さんを選び井筒さんに監督してもらおうと考えた人は偉いと思う。あの二人の飄々とした芸風からは、正直このようなバイオレントな作風は想像つかなかったのだが、二人の演技の甲斐もあって、今の日本という国の若者のどこにも出口のない閉塞的な状況や、その中で鬱屈してエスカレートする暴力を真正面から捉えた傑作が誕生してしまったと思う。しかし、後藤さんの普段と全然違うあまりにハードなカッコよさは呆気にとられた。後藤さんをこの役にキャスティングした人の眼力は半端ない。

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【ヒックとドラゴン】四星半

理屈抜きで楽しい由緒正しいエンターテイメント ! 人間とは相容れないとされてきたドラゴンと仲良くなって困難に立ち向かうなど、ワクワクする要素が教科書みたいに美しくみっちりと詰め合わされているのが素晴らしい。ドラゴン君の飛行感と爬虫類感と可愛い表情がたまらんです。これなら続編が出来たらきっと見に行っちゃうな。

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【必死剣鳥刺し】四つ星

常に一定以上のクオリティがあるから製作が減らない藤沢周平ものだが、それを平山秀幸監督に任せればまぁ間違いない出来になる訳で。吉川晃司さんの侍姿や池脇千鶴さんのけなげさなどまぁ見所はいろいろあるけれど、とにかく豊川悦司さんが超絶カッコいいことに尽きますわ。

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【瞳の奥の秘密】四つ星

25年前のことが蒸し返されて、実は何もかもが全然終わっていなかったと判明する話、ということでいいかな ? サスペンス仕立ての本編への興味とは別個に、25年前の話がつい昨日のことのような気がする感覚が分かる年になっちまったなぁ……と思ってしまった。

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【ビルマVJ 消された革命】三星半

本作は、ビルマの軍事政権下での反政府デモの様子をビデオジャーナリスト達が撮影した素材を、デンマークの映画人が再構成したデンマーク映画らしい。ビルマ国内で何が起きているのか、ジャーナリスト達はどれだけ苛烈な報道統制の網をくぐり抜けて決死の覚悟で世界に情報を送ろうとしたのか。そうしたことの証言として本作には一見の価値があると思う。ただ、この映像のとりまとめをしているらしい在外ビルマ人のカットバックはそんなに頻繁に必要かな ? この構成のせいで、ドキュメンタリー映画としての緊張感がかなり削がれてしまったような気がするのだが。

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【フィリップ、きみを愛してる ! 】三星半

なんだか中途半端な印象が残ってしまった。いくら実話をベースにしているとはいえ、もっと思い切りよくロマンティックに寄せるかコメディにシフトさせるかした方がよかったのではないだろうか(これ以上悲劇に寄せるのには限界があるだろうが)。ただ、主人公のジム・キャリーに愛されるフィリップ役のユアン・マクレガーがかつてないほど美しく、彼を見るだけでもこの映画を見る価値はあるかもしれない。

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【武士道シックスティーン】三つ星

私はどうも成海璃子さんの演技が好きじゃないみたい。彼女が演じるとどんな役でも平坦になってしまい、映画も平坦な印象になってしまう気がするんだよねぇ……。この映画でも、ヒロインのツンデレ的なアンビバレントさが表現しきれず、北乃きいちゃんの圧倒的な可愛さにもかかわらず、何だか中途半端ではじけきれない印象のままに終わってしまったような。古厩智之監督をもってしてもこの出来というのはかなり重症だと思うのだが。

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【武士の家計簿】四つ星

学術書から映画化されるのは大変珍しいのだそうで、本作は、脚色はあれどほぼ実話である。なんかこの猪山家の歴史はもの凄いドラマチックだぞ。珍しく原作を読んだので、もっとこういうところを膨らませて欲しいとかいろいろあったけど(やっぱり森田芳光監督とは相性よくないのかもしれない)、手堅くまとめられているので一般的には十分面白いのではなかろうか。

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【冬の小鳥】四つ星

韓国人の女性監督の作品で、小さい頃親に孤児院に捨てられて、フランス人の里親にもらわれていったという監督本人の実体験を元にしているのだそうだ。子供の目線の表現がビビッドで瑞々しく、里親に気に入られようと積極的にふるまう子供とか、出入りのおにいさんに恋心を抱く女の子とか、淡々となすべきことをなしている大人の人々などの人物の配置と描写がうまいと思った。しかし、監督は私とほぼ同年代らしいのだが、当時の韓国と日本は随分国状が違っていたのだなぁ、と改めて思った。

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【ブライト・スター】四つ星

ジェーン・カンピオン監督の作品も久しぶりだ。中身はすこぶるクラシカルなラブ・ストーリーで、悲恋だったとしても主人公達の情熱は眩しかった。けれど、入り端でヒロインが編集さんにどうしてあそこまで敵愾心を持っているのかが分からないなど、ちょっとしたニュアンスが分からなかった部分があって、何か少し損したような気分がした。

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【プレシャス】四つ星

義理の父親に強姦され、それを実の母親が見て見ぬ振り、おまけにその父親の子を妊娠して出産してしまう。それでもこの主人公は、“Precious”という自分の名前の通り、自分を大切にして生きることを学び始める。現実に連綿と存在しているのであろうあまりにも酷い虐待の連鎖。それでもこの前向きなヒロインの姿に少し救われた。

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【フローズン・リバー】四星半

典型的なプア・ホワイトの母親が、密入国者の手引きをしているあるインディアン女性を手伝うことになる。(題名の“凍った河”とはインディアン居住区の真ん中を流れる国境の河で、インディアンであれば行き来が自由なのを利用してアジアからの不法移民者などを運んでいたというお話である。)全く接点のない者同士であったはずの彼女らは、お金が必要というただ一点で結びつき、お互いに母親であるというただ一点で分かり合う。地味な印象かもしれないけれど、ストーリー展開も描写も申し分ない傑作です。

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【ヘヴンズ ストーリー】五つ星

キャッチコピーは『2010年の「罪と罰」』。子供を殺された男性と、その男性に復讐を促す少女、子供を殺した少年と、その少年の保護者となる女性、そして彼らに関わる様々な人々が紡ぐ壮大な叙事詩。瀬々敬久監督のフィルモグラフィでもおそらく一番の渾身の大作であり、真摯な祈りの形でもある。正直、一本の幹から何本も派生する枝葉の一部が伸びすぎて全体のバランスを壊している部分も無きにしも非ずかもしれないと思ったが、その破形を補っても余りある絶対的な強さを持つ映画だと思う。

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【BECK】四つ星

“最高の歌声”を持つという主人公が最後まで口パクだったのはアレ ? と肩透かしを食らったが(原作もそうなら仕方ないのかもしれないが)、佐藤健さん、水嶋ヒロさん、桐谷健太さん、向井理さん、中村蒼さんという錚々たるメンバーのポテンシャルがクライマックスに向けてどんどん盛り上がっていく様子の描写には、一介の原作つき映画のレベルを突き抜けたエネルギーがみなぎっている。堤幸彦監督はこういう仕事には本当に手抜かりがない。毒にも薬にもならないようなタレントちゃん映画をせっせと量産していらっしゃるある種の映画関係者の人々も、きっと本当はみんな、うっかりこういう映画が作りたいのよね。

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【ペルシャ猫を誰も知らない】四つ星

【酔っぱらった馬の時間】のバフマン・ゴバディ監督の新作で、禁止されている西洋音楽のバンドをアンダーグラウンドで続けるイラン国内の若者達を描いた作品。テヘラン市内で当局に無許可で行ったゲリラ撮影のシーンがたくさん含まれているのだが、こんな生々しいテヘランの映像は初めて見たような気がする。現在海外に居住するゴバディ監督は、帰国したら刑務所行きか海外渡航禁止になってしまうため、もうイランには戻れないらしい。イランがそこまでひどい状況になっているとは。映像の中の若者達の姿を見てたら何か涙出てきた。

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【ベンダ・ビリリ ! もう一つのキンシャサの奇跡】四つ星

内戦や貧困で荒れ果てたコンゴの首都・キンシャサのストリート・ミュージシャンのグループ、スタッフ・ベンダ・ビリリのドキュメンタリー。彼等の音楽性の高さにもびっくりしたが、もうほぼ絶滅したのかと思っていたポリオによる麻痺障害の蔓延(結構な確率で車椅子の人がいる)にはちょっと絶句した。こんな打ち捨てられた都市で高い精神性を保っている彼等の姿には涙が出そうになったけれど、こんな世界の不均衡は一体どうすれば解消できるのか、と思うとあまり明るい気持ちになれなかった……。

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【抱擁のかけら】四つ星

金持ちの愛人にはなるもんじゃねーなって話 ? アルモドバル監督らしい安定した面白さとちょっとした変態性のスパイスが光る。

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【ボーイズ・オン・ザ・ラン】三つ星

テーマを一言で言うなら、男は自己満足の生き物だってことね。峯田和伸さんの熱演は買うけれど、私はこれはちょっと体質的に受け入れられないでやんす。

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【ボックス ! 】四つ星

李闘士男監督が大阪出身で格闘技好きだってことがよく分かる丁寧さが好き。市原隼人さん演じる主人公のカメダコーキくんに見えてしょうがない造形もさることながら、生硬な高良健吾さんの秘めた色気がボクシングという素材を通して真正面から捉えられているのが見逃せない。お二人にはこれからもますます活躍して戴きたいものだ。

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【BOX 袴田事件 命とは】四つ星

冤罪事件と言われている袴田事件を、この事件の元裁判官(萩原聖人さんの好演)の視点から描く作品。この元裁判官は、死刑判決を下しながら後に被告(新井浩文さんの名演 !! )を支援する側に回った。日本には自分が知らない冤罪事件が一体いくつあるのかと思うと、自分の不勉強を恥じ入った。こんな映画をさっくり撮り上げる創れてしまう高橋伴明監督ってやっぱり凄い監督だと改めて思った。

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【堀川中立売】三星半

【おそいひと】の柴田剛監督の作品を初めて見に行った。かの作品よりはきっと随分エンターテイメントに寄った作風を意識していたんじゃないかと思われ、京都の魔界と俗世を駆け抜ける独特の世界観や疾走感は支持したい。ただ、説明不足で分かりにくいところも多く、せっかくなのでもうちょっと観客へのサービス精神があってもいいんじゃないかと思った。しかしあのヒモの式神さんの風貌は、ハイキングウォーキングのQ太郎さんが思い出されて仕方なかったんだけど !

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【ボローニャの夕暮れ】四つ星

生ぬるいホームドラマみたいな邦題と予告編からすると、ムッソリーニの時代を背景にしたサスペンス絡みの感動系ホームドラマみたいにして宣伝しようとしていたみたい。しかし実際観てみると、これは全然ホームドラマなんぞではなく、精神を病んだ娘が殺人事件を起こしても、妻が逃げちゃっても、自分が信じた愛を繋ぎ止めようと延々と向き合い続けたおじさんの物語だった。故に『ジョヴァンナのパパ』という原題が正解。この映画で感動的なのは、そのおじさんが信じた何かを取り戻す姿なんだもの。

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【マイレージ、マイライフ】四つ星

プロの首切り請負人としてほとんどの日を出張先で過ごし、他人と深く関わることを嫌っている主人公が、ふと人生の方向性に迷う。誰だって自分の方向性を見失う時があると思うけど、そんな人生の曲がり角をさらりと描いている割と大人な内容が、ジョージ・クルーニーにぴったりだ。こういうタイプの映画はありそうで割と珍しいんじゃないだろうか。

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【マザーウォーター】二星半

【めがね】のスタッフの人達が作った映画って触れ込みで、出演陣も同じ顔ぶれが多いのだけれど、本作には通低音としての人生の苦悩や葛藤が全く匂ってこないのが似て非なるところ。映画としての覚悟も緊張感も何も感じられず、それっぽい雰囲気を気取っているようにしか見えない。【めがね】が単なるロハス映画じゃないのは、波風を経てきたのであろうその人達の人生がゆったりした空気感の中にも凛然と感じ取れるからだ、って作ってるスタッフの人達も分かっていなかったのかと思うと、ちょっと残念だ。

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【真幸くあらば】三星半

自分の恋人を殺した死刑囚と心を通わせるとか……そりゃないわと思うのだが、そこに至るプロセスがじっくり描かれているので、クライマックスのマスターベーションのシーンも含め案外奇をてらった感じもしない。尾野真千子さんはいい女優さんになったなぁとしみじみ思った。この人にはもっといろいろと演じてもらわないと勿体ないです。

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【マチェーテ】四つ星

メキシコの麻薬戦争を題材にして娯楽大作を創るなんて、今のハリウッドではロバート・ロドリゲス監督しかやらないだろう。しかもあのごっついマッチョなおっさんをカッコよく見せる力業が凄いわ。この味付けの濃ゆさに、監督の真骨頂が凝縮されていると思う。

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【ミックマック】四つ星

お伽噺みたいな反戦映画 !? 相変わらずのジャン=ピエール・ジュネ印の意匠は楽しいかったけれども、監督自身がその意匠の型に囚われて自由に呼吸できなくなっているきらいがあるような気もしたのだが……。

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【ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女】四星半

完膚なきまでの超傑作 !! あまりにも面白かったから図書館で原作を借りて全部読んだけど、キャスティングや原作からの改変部を含め、やっぱり良く出来ていると改めて思った。しかし、本作は暗く湿り気を帯びた長い冬を持つ北欧だからこそ、この映画史上でも最もハードなヒロインの一人かもしれないリスベットのキャラクターや底冷えのする寒々しい空気感に説得力が加味されるのであって、風土の違うハリウッドでリメイクしたところで本作以上の説得力を持つとは思えないのだが。

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【ミレニアム2 火と戯れる女】四つ星
【ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士】四つ星

一編の映画としては前作の【ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女】の方がまとまっていると思うし、新たな登場人物も無造作にわらわら出てくるのでぱっと見ではちょっと混乱してしまう。でも原作を読んでみるとほぼ忠実に創られているのよね。3は法廷闘争がメインに来るので、2の方が話がダイナミックだけど、リスベットが失われたものを取り戻すために戦い続ける過程は、最後までドキドキハラハラであっちゅう間。しかし、ろくな宣伝もなく2本まとめて投げ売りみたいなこの公開の仕方はないよなぁ。さすがはギャガ、作品に対する愛が薄い。かつて海外の作品を不用意に値段を吊り上げて買い漁り、日本の配給会社が海外作品を買うのを難しくする原因の一つを作った会社なだけのことはあります。

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【モダン・ライフ】三星半

フランスの僻地で農業を営む人々にインタビューしたドキュメンタリー。監督のレイモン・ドゥパルドンさんはマグナムにも所属している著明なジャーナリストだそうだ。生きていくために本当に必要なことは何なのか ? 示唆に富む内容だとは思うが、正直、このテンポがあまり合わなくて少々かったるかった……。

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【モリエール 恋こそ喜劇】四つ星

笑いって時代や文化がちょっと違うともう全然分からなかったりするから、人間の心の機微に最も深く結びついた最も複雑な心理機制なのだろうと思う。昔、モリエールの戯曲を読んでみて正直あんまり分からなかったのだが、モリエールを描いた本作を観て、また研究してみようかなーなどと少し思った。

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【モンガに散る】三星半

本作は台湾では歴史的なヒット作だったらしいのだが……う~ん。もしかすると私は、やーさんとかチンピラ青年の青春とかいった路線に飽きているのかもしれないなぁ……。

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【ヤギと男と男と壁と】三つ星

千原ジュニアさんがつけたというこの邦題は間違っていない。アメリカ軍では大まじめに超能力の開発をしていたことがあったのだそうで、本作がそうした実話を元にした話らしいということ自体、壮大なブラックジョークみたいだ。なんかそれが変な方向にねじ曲がった妙なコメディになってるのだが、笑いの感覚が違うのか、正直、どう接していいのやらよく分からなかったなぁ……。

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【闇の列車、光の旅】四つ星

生活の都合のため南米からアメリカまで旅する少女を巡る物語。暴力だけを解決策とするギャングスターってどこの国でもアホなんだなぁと思いつつ、その拡大再生産が連綿と止むことがない状況に慄然とした。この少女の行く末が少しでも明るいことを願うばかりだ。

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【誘拐ラプソディー】三星半

最初の展開は少しもたついててもう少しアップテンポでもよかったかもしれないが、高橋克典さん演じる主人公が誘拐した男の子と仲良くなり始める辺りからは俄然面白くなる。古典的といえば古典的かもしれないけど、こういうのもたまにはいいかもしれない。

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【行きずりの街】四つ星

全部終わってみれば大団円でめでたしめでたしってことでよかったんじゃない ? でも阪本順治監督にしてはちょっとぬるま湯的。例えば、サスペンスとしてはそんなに大したことはないし、これしきでヨリが戻るって簡単すぎるし、なんかもっとヒリヒリするようなアダルトなテイストがあってもよかったのでは。ただ本作はもしかして、最初から小西真奈美色っぺぇ~ってオジサン達に都合のいいファンタジーだけを目指していたのかもしれないね。

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【ユキとニナ】三星半

二人の少女が主役なので、諏訪敦彦監督作品にしては、複雑怪奇な心の迷宮などに入り込むこともなく存外見やすかったかもしれないが、結局みんな思春期前の穢れない女の子が好きなのよねー、という以上の印象も残りにくかったかもしれない。【愛さずにいられない】のイッポリト・ジラルド(お懐かしや ! )が本作の共同制作者になっていて出演もしていたのだが、すっかりオッサンになってしまっててちょっとショック……。

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【酔いがさめたら、うちに帰ろう。】四つ星

西原理恵子さんの夫の鴨志田穣さんの原作を映画化。浅野忠信さんと永作博美さんが夫婦をさらりと演じ、アルコール依存症の怖さと、依存症患者を抱える家族が絆を取り戻すまでが丁寧に描かれているところに好感が持てる。忌野清志郎さんの歌うテーマソング『誇り高く生きよう』があまりにも素晴らしくて泣けてきた。

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【ようこそ、アムステルダム国立美術館へ】四つ星

ヨーロッパの美術館の中でも屈指の規模を誇るアムステルダム国立美術館だが(私も昔行ったことあります)、2004年からの大規模な改築計画が二転三転、一難去ってまた一難で計画は一向に進まない。冗談みたいだがどうやら本当の話で、今でも一部を除いて長期閉館中なのだそうだ。(美術館のホームページによると、メインの建物は2013年に再オープンの予定のようだ。)そもそも、当時のやり手の館長が市民の意向を無視して計画を強行しようとしたのがいけなかったらしいのだが、いろいろな人が好きなことを言い始めて収集がつかなくなる。それが滅法面白いのが困ったものだが、民主主義って舵取りが難しいのね……などと図らずも思ってしまった。そのうち美術館が無事全面再開できるように陰ながらお祈りしています。

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【4匹の蝿】三星半

ダリオ・アルジェント監督の旧作。ホラーと言うよりサスペンスだけど、描写のここかしこがいかにも70年代っぽくて素敵。

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【雷桜】一星半

お粗末に過ぎる穴だらけのストーリーや描写は、あまりにもご都合主義が過ぎて見ていられない。これが本当に広木隆一監督作品なの…… !? 時代劇にすれば何でも許されると思ったら大間違いだ。見に行くんじゃなかったと心底後悔した。岡田将生君のプロダクションの人も、そろそろ出演作を吟味した方がいいんじゃないかしら……。

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【ラスト・ソルジャー】三星半

ジャッキー・チェンがよく演じるようなヒーローではなく、ごく普通の一介の兵士が立ち会う歴史の節目の物語。ジャッキーが敢えてそんな地味な役柄だったのがあかんかったのかなー ? 私は割と好きだったんだけど。

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【ラブリーボーン】三つ星

酷い殺され方をした女の子がこの世に思い残したこととは……って、オチもないし、正直、本作はピーター・ジャクソン監督にしては駄作なのではあるまいか。日本には丹波哲郎大先生の【大霊界】っつー先例があるから、死後の世界の美麗な描写とかも別に衝撃的でもないしねぇ……。

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【乱暴と待機】三星半

【腑抜けども、悲しみの愛を見せろ】の本谷有希子さんの戯曲を【パビリオン山椒魚】の冨永昌敬監督が映画化。覗く男と覗かれる女の歪んだ関係性の描写が、もたついてなかなかエンジン掛からない。小池栄子さんとか浅野忠信さんとか、美波さんとか山田孝之さんとか、個々の俳優さんの演技は面白いのに、どうもケミストリーを醸し出すまでには至らなかったみたいで残念。

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【Ricky/リッキー】四つ星

フランソワ・オゾン監督の最新作。赤ちゃんに羽が生えるシーンのキモチワルさったら !! 彼は忽然とやって来て、忽然と去って行き、謎は謎として残したまま、一家にさりげなく絆のようなものを残してゆく。リアル天使ってこういう存在だったのね。

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【ルイーサ】四つ星

毎日仕事場と自宅を往復するだけの生活で友達は猫だけというこのおばさんが、どうも他人とは思えない。でも、いきなり仕事をクビになり猫も死んでしまった時、以外な行動力を発揮してアルゼンチンの街角を奔走し始めたおばさんのバイタリティには敵わないような気がする。老い先短い人生でも、その先をどう踏み出そうとするのかは自分の心がけ次第。わしもこれから何か頑張らねばならんかのう。

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【ルドandクルシ】三星半

奇跡的に栄光を手にしたお調子者の兄弟が、折角の成功を愚かな言動で棒に振る話って、昔だったら耐えられなかっただろうけど、今ならまーそういうこともあるかもしれないと思うので、我ながら随分鷹揚になったもんだ。本作は、アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロといったメキシコ映画界を代表する監督達が立ち上げた制作会社の第1作目で、主演もガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナという豪華版。こう考えるとメキシコ映画界もなかなか層が厚いなぁ。

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【RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語】三星半

前半の主人公(中井貴一さん)の社畜ぶりがあまりにも戴けなかったので、後半の豹変ぶりがちょっと唐突な気もしたのだがまぁいいや。個人的には、主人公の奥さんが旦那さんの夢のために自分の夢をあきらめるという展開にならなかったのがよかった。家族は一緒に暮らさなきゃ、という考え方もあると思うが、こういう家族の形もいいんじゃないかなと私は思う。

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【レオニー】四つ星

【折り梅】の松井久子監督が描く、アーティストのイサム・ノグチの母親レオニーの一代記。イサム・ノグチがこういう出自の人だとは知らなかったが、それよりも、いい加減な男に騙されて私生児を生むことになっても自分を貫き通し、戦前のあの時代に海を渡って日本にまでやってきた彼女の勇気は凄いと思った。

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【REDLINE】五つ星

最初のシークエンスのあまりのカッコよさにのけぞり、本編に入っても涙が出るほどのカッコいいシーンの連続にまたのけぞった。何なのだ、この日本人離れした映像のセンス !! どこを切っても出力120%の気合充分の映像 !! アニメ界の超新星・小池健監督の桁外れの才能に刮目せねばならない !!
しかし、あのキムタクや浅野忠信が声優としてキャスティングされているというのに、本作のこのパブリシテの少なさは一体どうしたことなの……。この映画もあやうく見逃すところだった。映画関係のマスコミとか、もう本当にあてに出来ない時代になったとしみじみ思い知った。

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【恋愛戯曲】三つ星

鴻上尚史さんの戯曲を鴻上さんご本人が映画化。この話、遙か昔に舞台版を見に行ったことがある。鴻上さんは、書けない作家とか、嘘から始まる恋といったモチーフがお好きなような気がするが、一般ピープルは書けない作家に対してそんなに思い入れは無い訳で、それを普遍的な物語に消化できていないと辛い。舞台では少々強引な設定でも独特の臨場感で観客を引き込むことができるかもしれないが、映画にしてしまうと平坦な印象になってしまい、深キョンと椎名桔平さんという芸達者なキャストをもってしても救えなかったように思う。

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【脇役物語】三星半

本作の緒方篤監督は、あの国連難民高等弁務官でいらした緒方貞子さんの息子さんなんだそうで……。クスっていう笑いを喚起するようなユーモアっていうんですか ? 上品でよろしいんですけど、これは一体どこの世界の話だっていう感じで、少なくとも日本の芸能界の話ではないような。これが高等遊民というものなのかな ? 違うか。

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【わたしの可愛い人 - シェリ】四つ星

フランスの女流作家コレットの原作をスティーブン・フリアーズ監督が映画化。元高級娼婦と年下の青年との関係を描いた話なのだが、この話、昔読んだことがあるような気がする。ミシェル・ファイファーがこの役柄にぴったりで、大人の女を余裕で演じるのがさすが。百年の恋が色褪せる瞬間の描写があまりにも見事で、やっぱりフリアーズ監督の作品には外れがないなぁと思った。

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