Back Numbers : 映画ログ No.89



2012年に見た全映画です。


【アーティスト】四つ星

監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:全編モノクロのサイレント風映画。古き良きラブ・ストーリーを成立させるにはこれくらいの変化球じゃなきゃ無理ってこと?まぁこんなのは早く思いついた者勝ちで、お話もオサレで悪くはないけれど、オールド・ファンのノスタルジーをかき立てまくったという以上にそこまで評価されるほどの内容だったかどうかは疑問。犬のアギーくん(カンヌでパルムドッグを獲得)も、可愛いけれどあざとい使い方かもしれないし。

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【I'M FLASH!】四星半

監督・脚本:豊田利晃
出演:藤原竜也、松田龍平、水原希子、仲野茂、永山絢斗、板尾創路、北村有起哉、原田麻由、大楠道代、他
製作国:日本
ひとこと感想:女性達が実権を握る家族経営の宗教団体で、吹けば飛ぶよなお飾りの教祖様をやらされて、不安定で虚ろな心を抱えながらも幽かな真実を掴み取ろうともがく主人公。人生は一瞬の明滅する光のよう、という意味なのかなと解釈した。この主人公の藤原竜也さんも難役だけど、主人公と関わる浮世離れした殺し屋の松田龍平さんもまた難役。豊田利晃監督の力量が健在なのを感じられてよかった。

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【アウトレイジ ビヨンド】四つ星

監督・脚本:北野武
出演:ビートたけし、三浦友和、加瀬亮、田中哲司、中尾彬、名高達郎、光石研、神山繁、西田敏行、塩見三省、高橋克典、中野英雄、新井浩文、桐谷健太、小日向文世、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:初回作の【アウトレイジ】のインパクトにはかなわないと思うけど、本作もまぁ悪くない。ただ、これはやっぱりあくまでもヤクザ映画だから、“女性でも楽しめる”って触れ込みでCMを打つのはやっぱり無理があると思うの。

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【青いソラ白い雲】二星半

監督・脚本:金子修介
共同脚本:金子二郎、萩原恵礼
出演:森星、大沢樹生、渡辺裕之、他
製作国:日本
ひとこと感想:可愛いだけで甘やかされ邦題でどんな教育されてきたんだというヒロインにそもそも全く共感できなかったし、震災から何もかも変わったというセリフが繰り返されるのもウザい。首都圏に暮らしてて震災や原発事故で直接ひどい被害を受けた訳じゃない人間の何が変わったって言うんだよ。震災から間もない時期に出来た映画だから仕方がないのかもしれないが、もう少し何か作りようがあったんじゃないかと思う。

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【赤い季節】二星半

監督・脚本:能野哲彦
出演:新井浩文、村上淳、新居延遼明、田口トモロヲ、永瀬正敏、泉谷しげる、風吹ジュン、他
製作国:日本
ひとこと感想:チバユウスケさんという方の音楽ありきで出来た企画らしいので、あくまでもイメージ先行で、ストーリーがどうこうと言っても仕方ないのかもしれないけど、殺し屋なんていう現実的じゃない設定から話を広げようとしても難しかったんじゃないだろうか。新井浩文さんは大好きなんだけど、これはどうもなぁ。

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【悪の教典】

監督・脚本:三池崇史
原作:貴志祐介
出演:伊藤英明、二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、浅香航大、山田孝之、平岳大、吹越満、他
製作国:日本
ひとこと感想:某アイドルさんがこの映画を嫌いだと公言して一部で問題になったらしいのだが、この件に関しては彼女に全面的に賛成するし、こんなことで彼女をやり玉に挙げるギョーカイ人の方がどうかしていると思う。ただ人を殺すのが好きなだけの○チガイ(サイコパスって言ってるね)がただ虫けらみたいに人を殺すって話の一体何が面白いの?人間は虫けら程度の存在だってこと?○チガイはどうしようもないから人を信じるなってこと?こんな自己中で薄っぺらいだけの奴、現実世界だけでお腹いっぱいだし、こんな奴の映画をわざわざ作ろうとする意味など全く分からない。その意味のなさが新しいとでも言いたいのだろうか。私は見ていてただ疲れるだけだったけど。

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【アタック・ザ・ブロック】三星半

監督・脚本:ジョー・コーニッシュ
出演:ジョディ・ウィッテカー、ジョン・ボイエガ、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:【ホット・ファズ】のエドガー・ライト総指揮。団地を襲撃するエイリアンと不良キッズ達の息詰まる対決!何で団地が襲撃されるのか、という理由がちゃんと明らかになるところが面白い。どこの世界でも団地は高所得者はあまり住まないところみたいなので、団地を舞台にするという設定は今後も掘り下げる余地があるかも。

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【あなたへ】四星半

監督:降旗康男
脚本:青島武
出演:高倉健、田中裕子、草彅剛、佐藤浩市、余貴美子、綾瀬はるか、ビートたけし、大滝秀治、長塚京三、原田美枝子、他
製作国:日本
ひとこと感想:「人間国宝・高倉健」様(by北野武)の存在感は相変わらず比類ない。いろいろな風景の中でいろいろな人に出会いながら、亡くした妻との生活の中で紡がれた今までの人生を再考する。練られたエピソードに最高レベルの共演者。擬似旅行体験ができるという楽しみもあり、特にオールド・ファンには文句の付けようがない出来なのではないだろうか。健様もちょっとお年を召されたかもしれないが、これからもお元気で新作を拝見させて戴ければと思う。

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【アニマル・キングダム】四つ星

監督・脚本:デヴィッド・ミショッド
出演:ジェームズ・フレッシュヴィル、ガイ・ピアース、他
製作国:オーストラリア
ひとこと感想:高校生の男の子が引き取られた祖母の家がギャング一家だったという話。ファミリー・ビジネスを継ぐの継がないのってただでさえ一筋縄ではいかないんだけど、これがギャングで足抜けも許されないとなると厄介なんてもんじゃない。オーストラリアは数多くの映画人を排出している土地柄で、本作のデヴィッド・ミショッド監督もこれから注目されそうだ。

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【アフロ田中】四つ星

監督:松居大悟
脚本:西田征史
原作:のりつけ雅春
出演:松田翔太、佐々木希、堤下敦(インパルス)、田中圭、他
製作国:日本
ひとこと感想:いわゆる“童貞をこじらせて”あさっての方向ばかりを選択してしまう主人公の田中くんを、松田翔太くんがノリノリで怪演。いわば男の子って馬鹿ねーを全力で体現してるので、きっと100%はついていけてないというか、そういうノリに寛容じゃなかった昔だったらもしかして全然面白く感じられなかったかもしれない。バカバカしくも麗しい友情にちょっぴりオマケ。

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【荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE】三星半

監督・脚本:飯塚健
共同脚本:原桂之介
出演:林遣都、桐谷美玲、小栗旬、山田孝之、城田優、片瀬那奈、安倍なつみ、有坂来瞳、上川隆也、他
原作:中村光
製作国:日本
ひとこと感想:深夜ドラマ版がかなり面白かったので期待したのだが、リクの成長物語はともかく、カッパの村長や自称金星人のニノの正体なんぞ別に見たくはなかったし、こんなふうに安っぽくまとめるくらいなら敢えて描くこともなかったのではなかろうか。深夜ドラマ版はあのアジールな世界観が心地よかったのであって、そこに物語的な決着をつけることにそれほど意味はなかったんじゃないかと私は思うんだけど。

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【アリラン】二星半

脚本・出演:キム・ギドク
(ドキュメンタリー)
製作国:韓国
ひとこと感想:【悲夢】を撮った後に失踪していたらしいキム・ギドク監督が、失踪中の自分の姿を撮り、自分と映画との関係を見つめ直したドキュメンタリー。監督は良くも悪くも、基本的に自意識が非常に強い方なのだろうなぁと改めて感じたが、この一種のナルシズムが、自分が監督の映画を観ていつも感じる違和感と通底しているのかもしれないと思った。

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【アルゴ】四星半

監督・出演:ベン・アフレック
脚本:クリス・テリオ
出演:アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、ブライアン・クランストン、ビクター・ガーバー、テイト・ドノバン、スクート・マクネイリー、ケリー・ビシェ、クリストファー・デナム、クレア・デュバル、ロリー・コクレイン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:もう全力で土下座して謝ります!!【アルゴ】は傑作です!!
ベン・アフレックさんといえば、無名時代にマット・デイモンさんとともに脚本を書いて出演した【グッド・ウィル・ハンティング】でいきなりアカデミー賞の脚本賞をもらい、スゴい新人達が現れたと大いに将来を嘱望されたけれど、その後、マットさんが一作ごとに評価を高めるのとは裏腹に、ベンさんは筋肉映画ばかりに出演したりジェニファー・ロペスさんとの馬鹿げた婚約騒動を引き起こしたりと、一時はかなり失笑を買う存在になり果ててしまっていたように思う。かくいう私もその混迷期の印象が強すぎて、彼の最近の監督作はかなり評価が高いと聞かされても、どうもいま一つ信じ切れずにいた(……【ザ・タウン】を見た後ですら!)。しかし今回、完全に考えを改めざるを得なかった。今まで色メガネで見ていて本っ当にどうもすみませんでした!
本作では、1979年のイラン革命時のアメリカ大使館人質事件にまつわる史実が、文字通り映画的なサスペンスたっぷりに描かれている。クリス・テリオ氏の脚本が秀逸なのは勿論だけど、その脚本を、映画的な演出を加味しながら真に迫った描写に再構築している監督の手腕は見事の一言に尽きる。
一つ気に入ったのは、冒頭で、当時のイランの人々の怒りがアメリカ人に向けられていたのは、独裁体制を敷いていたパーレビ国王をアメリカが支援していたからだということをはっきり明示している点。短いシーンではあるが、この説明があることで、「頭のおかしいイスラム人が罪のないアメリカ人に不当な暴力をふるっている」という見方を、彼らには彼らの命がけの正義があったのだという図式に転換し、随所に現れる怒りに満ちたイランの人々の姿を切実なものにしている。聞けば、筋金入りのリベラルとして名高いジョージ・クルーニー様が製作者として名を連ねているということで、一層成程と思った。
本作はアメリカ本国での評価も非常に高いようだし、ベンさんにはこれからも俳優としても監督としてもますます活躍して戴けたらなと思います。

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【生きてるものはいないのか】三星半

監督:石井岳龍(石井聰亙)
原作・脚本:前田司郎
出演:染谷将太、他
製作国:日本
ひとこと感想:石井聰亙監督はいつの間に石井岳龍に改名なさったの?待望の監督作だったけど、人がバタバタ死ぬってだけでその先が無いのでは、「だから何」?と思ってしまう。昨今の他の"黙示録映画"と較べて物足りなさを感じてしまったかもしれない。

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【イラン式料理本】四つ星

監督:モハマド・シルワーニ
出演:監督の親族の皆さんなど
(ドキュメンタリー)
製作国:イラン
ひとこと感想:年配の女性から若い女性まで、いろいろな主婦の方々が料理を作ったり作らなかったりする様子をひたすら撮影。中近東のニュース映像がテレビに映る時とかって何やら物騒な感じのものばかりなんだけど、本作に登場するイランの一般家庭の皆さんはみんなそこそこ裕福なモダンな暮らしを普通に営んでいるように見受けられ(監督の周囲がたまたまそうなのかもしれないけれど)、そんな普通の生活の姿が、なんだ、みんな私達とそんなに違わないんじゃん、ということを教えてくれる。個人的には、監督と監督の妹さんが、料理を全然しない美人でインテリの奥さんや家事に一切協力しない旦那さんとそれぞれ離婚してしまったのがおかしかった。料理がどうこうというより、家庭を作っていくという姿勢が全く無い相手とは生活していけないってのは、それこそ万国共通なんだわね。

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【ヴァンパイア】四つ星

監督・脚本:岩井俊二
出演:ケヴィン・ゼガーズ、アデレイド・クレメンス、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、蒼井優、アマンダ・プラマー、他
製作国:アメリカ/カナダ/日本
ひとこと感想:高校教師などやりつつ、ウェブで死にたい少女達を募って何とか生き延びている気弱なヴァンパイア。よく考えるとどうなのよ?というような設定なのだが、映画の中ではなんとなく成立してしまうのは何故なのだろう?そして、岩井俊二監督の感性の瑞々しさと繊細さがおっさんになっても損なわれないのはどうしてなんだろう?

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【ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋】三星半

監督・脚本:マドンナ
共同脚本:アレック・ケシシアン
出演:アンドレア・ライズブロー、ジェームズ・ダーシー、アビー・コーニッシュ、オスカー・アイザック、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:エドワード8世を退位させることになったウォリス・シンプソン夫人と、彼女に憧憬を抱くある現代女性を描く。台詞がチャチだし構成も若干難ありで、映画として一級品だとは言わないけど、いろいろと興味深い点も多くて、個人的にはいろいろ面白かった。特に、エドワード8世役のジェームズ・ダーシーさんやシンプソン夫人役のアンドレア・ライズブローさんなど役者陣が素晴らしく、マドンナはやっぱり人の才能を見る目はあるなと思ったし(オスカー・アイザックさんとか絶対マドンナの好みだろ)、マドンナ自身が、有名人の恋愛の煩わしさも知りながら、こういった恋愛に憧れてもいたのかな、などと思ったりもした。ヘンリー・マンシーニの『Lujon』を使っているのは嫌いじゃないけれど(コーエン兄弟も【ビッグ・リボウスキ】で使ってる名曲です)、2回出すのはちょっとクドいんじゃないかな。

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【宇宙兄弟】四つ星

監督:森義隆
脚本:大森美香
原作:小山宙哉
出演:小栗旬、岡田将生、堤真一、吹越満、麻生久美子、濱田岳、新井浩文、塩見三省、他
製作国:日本
ひとこと感想:宇宙飛行士になるという夢をさっさと叶えた弟と、弟に追い付こうとする兄。小栗旬さんの兄貴キャラ&岡田将生さんの弟キャラがハマり過ぎていて素敵。夢があっていいんでないかい。個人的には、宇宙飛行士のテストの数々がとても興味深かった。

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【裏切りのサーカス】三つ星

監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン
原作:ジョン・ル・カレ
出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、他
製作国:イギリス/フランス/ドイツ
ひとこと感想:一般的には評価の高い本作だけど、個人的には、スパイの内輪もめとか全く興味がないんだとよく分かった。だって誰もスパイになれとか強制した訳じゃないでしょうし、好きでその道を選んだのなら、それは悲劇とかではなく職業上の必然とかではないのかな。

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【映画『紙兎ロぺ』つか、夏休みラスイチってマジっすか!?】四つ星

監督・脚本:内山勇士、青池良輔
声の出演:ウチヤマユウジ、篠田麻里子、バカリズム、ふかわりょう、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:TOHOシネマズの幕間ムービーのまさかの映画化。この地元の先輩・後輩の掛け合いの口調が好きで、あの幕間、密かに楽しみにしてたんだよね~。本作は非常に丁寧に描き込まれている風景と抑えた色調が目にも心地よく、夏休みの空気感が案外ちゃんと郷愁を誘う。あれ?なんか素晴らしく正攻法でマトモな映画になってるんですけど?

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【映画と恋とウディ・アレン】四つ星

監督:ロバート・B・ウィード
出演:ウディ・アレン、ダイアン・キートン、ダイアン・ウィースト、ミラ・ソルビーノ、ペネロペ・クルス、スカーレット・ヨハンソン、ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン、オーウェン・ウィルソン、ジョン・キューザック、マーティン・スコセッシ、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ウディ・アレンは今でもタイプライターを使っているのね~。何せバックヤードをほとんど見せない人だから、このドキュメンタリーは超貴重。ウディ・アレンは若い無名時代から既に才能に溢れていたということがよく分かったけど、考えてみれば、他の一般的なハリウッド男優さん達とは違いすぎる風采のウディ・アレンが主演俳優を張り、しかも監督との兼任なんていう離れ業を長年続けてこれたのも、すべてあの才能が可能にしたこと。ウディ・アレンは本当にワン・アンド・オンリーな存在だと、改めて感じ入った。ところで、この場を借りて一つだけ言っておきたい。ウディ・アレン映画の邦題のタイトルが年々ダサくなるのはなんとかならないかな?

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【エイトレンジャー】四つ星

監督:堤幸彦
脚本:高橋悠也
出演:関ジャニ∞、舘ひろし、ベッキー、東山紀之、他
製作国:日本
ひとこと感想:関ジャニ∞がコンサートでファン・サービスのためにやっていたオリジナルのコントを映画化したものらしい。関ジャニは大好きだし、まぁ一通りは面白かったんだけど、堤幸彦監督がコテコテをやると、得てしてもっさりしちゃうんだよね~。

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【ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q】四つ星

総監督・脚本:庵野秀明
監督:摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、三石琴乃、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:オリジナルとはいよいよ完全に違った話になってきた新4部作の第3作目。驚愕の新事実が次々と明らかになり、謎が謎を呼ぶけれど、シリーズ未見の人には全く分からないだろうから、最早作品の評価と言っても難しいような。

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【EDEN】四つ星

監督:武正晴
脚本:羽原大介、李鳳宇
原作:船戸与一
出演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原猛、小野賢章、大橋一三、高岡早紀、藤田弓子、他
製作国:日本
ひとこと感想:原田芳雄さんが生前温めていたという企画の映画化で、元シネカノン代表の李鳳宇プロデューサーが久々に製作を担当。新宿のショーパブで働くゲイの人々の日常やちょっとした事件を描いていて、軽口を叩きながらも肩を寄せ合って一所懸命生きている彼らのことが段々愛おしく思えてくる。特に、ちゃんとオカマさんに見える山本太郎さんは役者としてやっぱり好きだなぁと思ったんだけどなぁ……。

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【黄金を抱いて翔べ】四星半

監督・脚本:井筒和幸
脚本:吉田康弘
原作:高村薫
出演:妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、チャンミン(東方神起)、溝端淳平、西田敏行、中村ゆり、青木崇高、田口トモロヲ、鶴見辰吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:今まで見たことがないようなマッチョな役柄の浅野忠信さん、ウツウツとした妻夫木聡さん、チャラチャラの桐谷健太さんに、文字通りの弟キャラの溝端淳平さん、爆弾のエキスパートのチャンミンさん、謎の男の西田敏行さんが絡み、無謀とも思える金塊強奪計画が動き始める……。井筒和幸監督の正調ピカレスクで、序盤から終盤まで手に汗握るゴリゴリの展開が堪えられない。ラストシーンの切なさは何だか70年代風で、『傷だらけの天使』のラストを少し思い出した。

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【おおかみこどもの雨と雪】四星半

監督・脚本:細田守
共同脚本:奥寺佐渡子
声の出演:宮崎あおい、大沢たかお、菅原文太、他
製作国:日本
ひとこと感想:今後ハヤオ氏がいなくなっても日本のアニメ界なんとかなるんじゃね?とやっと確信できた気がする。

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【ALWAYS 三丁目の夕日'64】四星半

監督・脚本:山崎貴
共同脚本:古沢良太
原作:西岸良平
出演:吉岡秀隆、須賀健太、小雪、堤真一、薬師丸ひろ子、堀北真希、三浦友和、もたいまさこ、森山未來、他
製作国:日本
ひとこと感想:東京オリンピックまで来ちゃったし3本だと切りもいいので本シリーズもそろそろ打ち止めか。ロクちゃんの結婚に淳之介の独立と本作でもエピソードには事欠かず、内容的には相変わらず抜群のクオリティなので特に言うこともなし。
戦後の混乱からやっと立ち直ってイケイケドンドンだったこの時代の人達には、オリンピックは戦争時代との決別を意味する豊かさや安定の象徴であり、さぞや晴れがましい出来事だったのだろう。どこかの元都知事が異様にオリンピックにこだわるのはそういうことか、と膝を打った。でも残念だけど、今もう一度オリンピックをやったところで、かの時代のような右肩上がりの成長の時代が戻ってくる訳ないじゃん。大変申し訳ないが、そういう古い繁栄の幻想にしがみついているこの某元都知事とか某経団連会長とか某新聞会社のドンとかは、はっきり言って老害以外の何者でもないよ。さっさと引退してくれ。その方が日本の未来のためだってば。

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【おかえり、はやぶさ】四つ星

監督:本木克英
脚本:金子ありさ
出演:藤原竜也、杏、三浦友和、前田旺志郎、田中直樹(ココリコ)、大杉漣、中村梅雀、他
製作国:日本
ひとこと感想:東宝・東映に続いて一番遅く出た松竹版の“はやぶさ”もの。さすがに同じネタで3本目ともなると飽きてしまい、日本には他に明るいネタはないのかと言いたくもなる。で、多少独自性を出そうとして、(“大船調”の松竹らしく)架空の親子関係の物語をメインに据えたのかもしれないが、そうなると“はやぶさ”の話は単なるネタ振りとなってしまい、そもそも何がしたかったのかよく分からなくなってしまったような。まぁ手堅くまとまっていたとは思うのだが、結局これといった印象も残りにくかったかもしれない。でも『まえだまえだ』の旺志郎くんがココリコの田中さんと親子役で出ているというのは個人的にちょっとポイント高かったので少しおまけ。

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【おとなのけんか】四つ星

監督・脚本:ロマン・ポランスキー
原作・共同脚本:ヤスミナ・レザ
出演:ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー
製作国:フランス/ドイツ/ポーランド
ひとこと感想:ジョディ・フォスターとケイト・ウィンスレットの本気の口ゲンカってだけでも見る価値あるでしょ!全編ほぼ室内の会話劇なのだが、脚本が本当に素晴らしくて、小綺麗な建前の応酬からお互いだんだん本音に傾いていく過程が圧巻だった。本音と建前があるのは日本人だけじゃなくて、万国共通なんだよね~。

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【踊る大捜査線 The FINAL 新たなる希望】三星半

監督:本広克行
脚本:君塚良一
出演:織田裕二、深津絵里、柳葉敏郎、ユースケ・サンタマリア、伊藤淳史、内田有紀、小泉孝太郎、小栗旬、香取慎吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:ファンを楽しませつつ、様々な複線を回収しつつ、これだけ巨大化してしまったシリーズを収束させるのはさぞや大変だったと思われるので、そうした意味ではきちんと落とし前がつけられた良心的な作品だと思う。ただ一点、シリーズの重要人物であるはずのすみれさんの行動が全く理解できないのが何だかな。クライマックスの展開もそうだけど、そもそも常識ある社会人であれば、仕事の引き継ぎも同僚への挨拶もなしに長年勤めた職場を突然去るなんて通常ありえないでしょう?私は基本的に同シリーズの大ファンという訳ではないので、「これはフィクションだから……」と生暖かい目で見てあげるとかあまり出来なかったのよね。

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【鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言】四星半

監督:山田佑次
出演:西岡常一、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:薬師寺の宮大工だった西岡常一氏の生前のインタビューなどをまとめた一本。伝統木造建築は、規格化・効率化された現代建築とは対極の超オーダーメイドの世界。何百年来の技術に裏打ちされた矜恃と誇りがここにある。西岡氏の技と魂がこれから後の世代にもどうぞ受け継がれていきますように。

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【オレンジと太陽】四つ星

監督:ジム・ローチ
脚本:ロナ・マンロ
原作:マーガレット・ハンフリーズ
出演:エミリー・ワトソン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:イギリス政府は、大勢の施設の子供達をオーストラリアに送り強制労働させるという所業を何と1970年代まで続けていたという。こんな信じられないような黒歴史を、かのケン・ローチ監督の息子ジム・ローチ監督が映画化。映画監督も二世時代の到来か。まぁこれだけきちんとした作品が創れる方なら二世でも何でも構わないですが。

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【海燕ホテル・ブルー】三つ星

監督・脚本:若松孝二
共同脚本:黒沢久子
原作:船戸与一
出演:片山瞳、井浦新、他
製作国:日本
ひとこと感想:男性の共同幻想としてのファム・ファタル、なのかなぁ?しかし大変申し訳ないが、この女性のファム・ファタル度は随分低くて映画全体を幻惑するほどの強度は無いので、男性達が何をそんなにトチ狂っているのか全然分からず、結果として何だか珍妙な出来の映画になってしまったような気がする。まぁ若松孝二監督の映画には結構当たり外れがあるし、本作のような作品もらしいと言えばらしいんだけど。

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【外事警察 その男に騙されるな】四つ星

監督:堀切園健太郎
脚本:古沢良太
原作:麻生幾
出演:渡部篤郎、キム・ガンウ、真木よう子、尾野真千子、田中泯、他
製作国:日本
ひとこと感想:NHKのテレビシリーズは全然見てなくてすいません。真木よう子さんや尾野真千子さんの熱演が説得力を与え、北朝鮮に渡った科学者を演じる田中泯さんのど迫力が画龍点睛となり、疑心暗鬼に満ちた緊張感の続く展開から目が離せなくなる。こうした筋書きのどの辺りまでが真に迫っているのかはよく分からないけれど、見応えは保証できる。

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【鍵泥棒のメソッド】四星半

監督・脚本:内田けんじ
出演:堺雅人、香川照之、広末涼子、荒川良々、森口瑤子、他
製作国:日本
ひとこと感想:堺雅人さん、香川照之さん、広末涼子さんの鉄壁のアンサンブルが、どんどん思わぬ方向に展開するプロットを盛り上げる。内田けんじ監督の手腕は健在!大変申し訳ありませんが、次回もすっごい期待しています。

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【駆ける少年】四つ星

監督・脚本:アミール・ナデリ
出演:マジッド・ニルマンド、他
製作国:イラン
ひとこと感想:イランのアミール・ナデリ監督が自身の少年時代をモチーフにしたという物語。ストリート・チルドレンの映画って悲惨な内容に胸が痛くなるパターンが多いんだけど、自分の足で立とうとする本作の少年にはそれ以上の輝きがある。なんかいい映画を観たなぁ。よかったよかった。

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【かぞくのくに】四つ星

監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
出演:井浦新、安藤サクラ、ヤン・イクチュン、津嘉山正種、宮崎美子、京野ことみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:在日コリアン2世である【ディア・ピョンヤン】のヤン・ヨンヒ監督の劇場用長編作。在日コリアン一家に、北朝鮮に渡った長男が病気の治療のため戻ってくるけれど……。監督の言いたいことが痛いほど詰まっているのはよく分かったのだけれど、一方で、自分は傍観者であるという関わり方しかできないのだということも強く感じてしまった。

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【哀しき獣】三星半

監督・脚本:ナ・ホンジン
出演:ハ・ジョンウ、他
製作国:韓国
ひとこと感想:【チェイサー】のナ・ホンジン監督の新作。中国には北朝鮮との国境沿いに朝鮮族の自治州があるのだそうで、そこで暮らしていた韓国系中国人の男が借金を負って殺人を依頼され、韓国に渡るという筋書き。キャラクター造形が野太くてアクションが凄いゴリゴリのノワールなんだけど、最近、ただでさえ低いアクション感性がごっそり落ちていて、このテの話にはなかなかついていけないんですわ……。

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【彼女について知ることのすべて】四つ星

監督・脚本:井土紀州
原作:佐藤正午
出演:笹峯愛、三浦誠己、朴昭煕、他
製作国:日本
ひとこと感想:ファム・ファタールって発想自体が古くないすか?嫌い嫌いも好きのうちとか今時ねーよ。とは思うのだが、笹峯愛さんと三浦誠巳さんの熱演は見応え充分で、この映画的な濃厚さは嫌いじゃない。まぁ何せ自分は井土紀州監督のファンなので、ちょっと評が甘めでもお許し下さい。

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【カラスの親指】三星半

監督・脚本:伊藤匡史
原作:道尾秀介
出演:阿部寛、村上ショージ、能年玲奈、石原さとみ、小柳友、鶴見辰吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:終盤の逆転は見事で、そこになって初めてこの阿部寛さんと村上ショージさんという配役の妙味も感じたけれど、そこへ至るまでがあまりにも長過ぎる。キャラクターの配置やエピソードの取捨なども再考の余地があっただろうし、中盤のグダグダとかはもう少しテンポ良くできたのではないだろうか。この内容で2時間40分は必要ないです。

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【カルロス】四つ星

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
共同脚本:ダン・フランク、ダニエル・ルコント(原案)
出演:エドガー・ラミレス、他
製作国:フランス/ドイツ
ひとこと感想:70年代に名を馳せたイリッチ・ ラミレス・サンチェス、通称カルロスというテロリストを、オリヴィエ・アサイヤス監督が3部作で映画化。日本でも若松孝二監督や高橋伴明監督などが連合赤軍を描いているが、かの時代の空気の中に何があったのか、対象も方法も違えど考察をしてみたくなるものなのだろうか。

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【汽車はふたたび故郷へ】四つ星

監督・脚本:オタール・イオセリアーニ
出演:ダト・タリエラシュヴィリ、他
製作国:グルジア/フランス
ひとこと感想:いい作品だとは思うので、イオセリアーニ監督の作風がお好きであればどうぞ~。私個人は、監督のまったりした作風が最近少し苦手になってきておりまして……。

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【北のカナリアたち】四つ星

監督:阪本順治
脚本:那須真知子
原作:湊かなえ
出演:吉永小百合、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、松田龍平、柴田恭兵、仲村トオル、里見浩太朗、石橋蓮司、他
製作国:日本
ひとこと感想:人間は一人では生きていけない。ドラマの構成としては見事だし、満島ひかりさん、勝地涼さん、宮﨑あおいさん、小池栄子さん、松田龍平さん、森山未來さんというアンサンブル・キャストは本当に素晴らしくて文句の付けようがない。けれど、リアル40代である自分の目から見ると、吉永小百合さんがさすがにどうしても生身の40代女性には見えないのだ。吉永さんのことが嫌いではないのだが、さすがにそろそろ演じる役柄の傾向を考える必要があるのではないかと強く思った。

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【キツツキと雨】四星半

監督・脚本:沖田修一
共同脚本:守屋文雄
出演:役所広司、小栗旬、高良健吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:山奥に低予算映画を撮りに来た映画スタッフ。気弱な新人映画監督と木こりのおじさんが交流する中で映画作りは不思議に盛り上がり、監督もおじさんも人生のちょっとしたコツを掴む。【南極料理人】の時も思ったけど、独特の間合いから得も言われぬおかしさを創り出す沖田修一監督の手腕は名人級ではないだろうか。若い身空なのにスバラシイ。小栗旬さんも思わぬ形で【シュアリー・サムデイ】での監督経験が活きたのではないだろうか。言っとくけど、あれはアンチがこきおろしてたほど酷い映画ではないよぅ。特にブレイク前の綾野剛さんを始めとするキャスティングとか特筆しとくべきだし。

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【きっとここが帰る場所】三つ星

監督・脚本:パオロ・ソレンティーノ
共同脚本:ウンベルト・コンタレッロ
出演:ショーン・ペン、フランシス・マクドーマンド、他
製作国:イタリア/フランス/アイルランド
ひとこと感想:『This must be the place』なんてトーキング・ヘッズみたいだなーと思ったら、本当にそこから取った題名で、デヴィッド・バーン様はご出演までなさってた。うら寂しい豪邸で細々と暮らす元ロックスターという役柄を演じるショーン・ペンさんは、見掛けがザ・キュアーの人みたいだなーと思っただけで、ストーリー的には何か全然ノれないままに終わってしまった。すいませんです……。

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【希望の国】四つ星

監督・脚本:園子温
出演:夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵、他
製作国:日本
ひとこと感想:総論賛成、各論反対。例えば、いついかなる時どんな理由があろうとも心中という行為は個人的には決して許せないし、防護服を身に纏う嫁はいくらなんでもやり過ぎだと思えてしまう。けれど、もしかして、自分が実際に福島にいる立場であれば、彼らの行動も全く違った見え方がするのかもしれない。私はこの人達の持っている切迫感を全く共有できていないのではないかと感じた。
園子温監督が今の時期に原発事故についての映画を創ろうとすることを、拙速だと非難していた脚本家がいた。もっと時間を掛けて練り上げて完成した作品を世に問うべきではないかと。しかし、その時間を世間は悠長に待ってくれるのだろうか。多少拙速ではあっても、今この場で問い掛けるということにも意味はあるのではないだろうか。今現在、原発について語ることはどう転んでも難しい中で、それを敢えて行う園子温監督の勇気は評価してしかるべきではないかと思う。

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【逆転裁判】三星半

監督:三池崇史
脚本:飯田武、大口幸子
原作:カプコン
出演:成宮寛貴、斎藤工、桐谷美玲、他
製作国:日本
ひとこと感想:ゲームをプレイしたことがある人なら楽しめるのかもしれないが、さすがに“だからどうした”感が否めなかったかなぁ。しかし、この特殊な作品世界を作り込んであるのは凄いと思ったし、この主人公を違和感なくきっちり演じ切っている成宮寛貴さんはやっぱり滅茶苦茶上手いなぁと思った。

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【ギリギリの女たち】二つ星

監督・脚本:小林政広
出演:渡辺真起子、中村優子、藤真美穂
製作国:日本
ひとこと感想:過去にいろいろ因縁のあった3姉妹という設定だけど、お互いいろいろ大変でも強く生きてるのはいいとして、どうして自分の正当化のためにここまで相手をヒステリックに攻撃する必要があるのかな?げんなり。私の知っている大概の女性はもっとお互いの生き方に寛容だわ。更に、ここにどうして東日本大震災を絡める必要があるのかな?しっかりした感情描写がいつも素晴らしい小林政広監督だけど、本作に関しては何か違っているんじゃないかと思った。

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【桐島、部活やめるってよ】四つ星

監督・脚本:吉田大八
共同脚本:喜安浩平
原作:朝井リョウ
出演:神木隆之介、大後寿々花、橋本愛、東出昌大、他
製作国:日本
ひとこと感想:神木くんが桐島くんなのかと思ってたら違ってた。学校内の微妙な人間関係のバランスの話とかって、もう昔のことすぎて覚えてないし、キャラクターの微細な描き分けもあまり分からなくて(特に女の子)、こんな細かい出来事も本人達には重大事だったんだっけなぁと遠い目をして眺めることしかできなかった。本編を撮っている吉田大八監督はおそらく私と同じくらいの歳の方だと思うんだけど、こんなナイーブな感情をちゃんと描き分けることができ、若い人達にちゃんと支持されているって凄いなぁと思った。
世間に出たらこんな狭い世界の人間関係なんてどうでもよくなるゎよう、と言いたいところだったんだけど、もしかして一般的には、大人になっても行く先々でこんな人間関係が形を変えて再生産されているものなのだろうか。自分はガサツでそういうのが苦手でなるべく関わらずに済むように生きてきたから、ますますよく分からないですわ。

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【キリマンジャロの雪】四つ星

監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
共同脚本:ジャン=ルイ・ミレシ
出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、他
製作国:フランス
ひとこと感想:【マルセイユの恋】【幼なじみ】のロベール・ゲディギャン監督作で、本作もマルセイユに暮らす庶民のお話。(ちなみにこのタイトルは、ヘミングウェイの作品とは関係なく、フランスで昔ヒットした歌のタイトルなのだそう。)同監督の映画には普通ありえんだろーというようなあまりにいい人達が出てくるのだが、監督は、こういう庶民の“良心”を敢えて意識的に描いているのではないだろうか。弱い者が虐げられる世界では、逆に、自分の信念を裏切らないこと以外に頼れるものなどないからだ。

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【麒麟の翼 ~劇場版・新参者~】四つ星

監督:土井裕泰
脚本:櫻井武晴
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、新垣結衣、中井貴一、溝端淳平、松坂桃李、三浦貴大、田中麗奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:日本橋の界隈はしばらく仕事で通っていたことがあるのだが、あそこに麒麟の像があったんですねー、知らんかった(←注意力散漫)。『新参者』シリーズは総じてよく出来ていて、本作も期待に違わない出来でよろしかったのだが、ただ、テレビドラマとの差異はあまり感じられず、これが映画である必然性はあまりないような気がしたのだが。

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【苦役列車】四つ星

監督:山下敦弘
脚本:いまおかしんじ
原作:西村賢太
出演:森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ、他
製作国:日本
ひとこと感想:何せ夢も希望も金もなく下品で怠惰で根性も汚い孤独な主人公(すいません……)の青春の話なのだから、ちゃんと創れば創るほどおよそ愉快な映画にはなりようもなく、それで興収低いとか言ったって当然じゃないのと思う。けれど、あの森山未來さんがあの西村賢太さんのイメージとだんだんダブって見えてくるのが凄いので、それだけでもこの映画を観る価値はあるんじゃないだろうか。原作にはない役の前田敦子さんも良かったですよ-。彼女はちゃんと努力すれば女優として充分やっていけるんじゃないかと私は思う。

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【グスコーブドリの伝記】四つ星

監督・脚本:杉井ギサブロー
原作:宮沢賢治
声の出演:小栗旬、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:今や行き過ぎた“自己犠牲”は美徳とばかりは呼べない時代だと思うのだが、そんな中でこの作品をチョイスして映画化することの真意はどこにあったのだろうか。1本の作品としてはよく出来ていると思うのだけれど、残念ながら、その制作側の真意は今ひとつ伝わってこなかったように思う。小松亮太さんの音楽はとてもよかった。日本は小松亮太さんという至宝を今の10倍くらい大切にしてしかるべきなんじゃないだろうか。

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【グッモーエビアン!】三つ星

監督:山本透
共同脚本:鈴木謙一
原作:吉川トリコ
出演:大泉洋、麻生久美子、三吉彩花、能年玲奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:元パンクロッカーの母親を麻生久美子さん、家族未満の風来坊のオジさんを大泉洋さんが演じているという基本設定は魅力的でいい。でもこの中3の娘が何にそんなにイライラしているのかあまりよく分からず、そのせいで、ちょっとした問題がいろいろ生じる辺りの展開は、もたついていると感じてしまった。

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【クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち】四つ星

監督:フレデリック・ワイズマン
(ドキュメンタリー)
出演:クレイジーホースの皆さん
製作国:フランス/アメリカ
ひとこと感想:パリには「ムーラン・ルージュ」「リド」「クレイジーホース」という3大ナイトショーがあるのだそうで、その中でも最もエロティックで“世界一高級なストリップ”と称されるのが「クレイジーホース」なのだそうだ。独特の照明を駆使した洗練された舞台で、選び抜かれ鍛え抜かれたダンサーさん達が舞い踊る別世界。本物を見に行く機会はまずないであろう私のような者にはありがたい映像体験でございました。

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【くろねこルーシー】四つ星

監督:亀井亨
脚本:永森裕二
出演:塚地武雅(ドランクドラゴン)、安めぐみ、大政絢、濱田マリ、佐戸井けん太、生瀬勝久、山本耕史、京野ことみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:山本耕史さん主演の同名のテレビシリーズがあったのを知らなかったので非常に悔しいのだが、本作はそのお父さんが売れっ子占い師になるまでの話らしい。自分がやるべきことが分からなくて探し求め、それと出会うというのは結構深いテーマなんじゃないだろうか。主役の塚地武雅さんは役柄にぴったりの好演だが、その妻役の安めぐみさんがこれまたとても素晴らしい。これから若妻役とかをがしがしオファーしてもらうといいんじゃないだろうか。濱田マリさんの胡乱な占い師も素敵。猫も可愛くて文句なし。

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【汚れた心】四つ星

監督:ヴィセンテ・アモリン
脚本:ダヴィド・フランサ・メンデス
原作:フェルナンド・モライス
出演:伊原剛志、常盤貴子、奥田瑛二、菅田俊、余貴美子、他
製作国:ブラジル
ひとこと感想:ブラジル人監督によるブラジル映画。第二次大戦後のブラジル日系人社会では日本が敗戦したという事実が隠蔽されており、そのことで軋轢が生じていたということだが、主演の伊原剛志さんを始めとする奥田瑛二さん、余貴美子さんなどのレベルの高いキャストでその時代の空気感が綿密に構築されている。ただし、後半は内面描写に流れてしまっており、善し悪しだったかもしれない。

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【劇場版SPEC~天~】四つ星

監督:堤幸彦
脚本:西荻弓絵
出演:戸田恵梨香、加瀬亮、伊藤淳史、浅野ゆう子、栗山千明、神木隆之介、他
製作国:日本
ひとこと感想:テレビシリーズを見ていなければ全くお話にならないので、別に映画にする必要ないじゃんとは思う。でも、本作のテレビシリーズにはここ十数年のテレビドラマで最もハマってしまい、単なる大ファンと化してしまったため、制作陣の方々にはもう好きなようにやって戴ければいいと思います。
ただ正直、今回の映画版の出来映え自体は、個人的には△くらいかなぁ。どう転んでも暗い内容なのでバランスを取りたかったのかもしれないけれど、瀬文さんのあまりにもお笑いに寄せすぎた言動も、青池さん(栗山千明さん)の付け焼き刃的な帰国子女キャラもどうもハマっていない感じだし、ニノマエくんのキャラ設定にも不満が残る。また、かつて流行った『ツイン・ピークス』の経験からも思うけど、このテの話って謎が明らかになってもそれが面白いとは限らないんだよねー。……まぁ本作は、完結編の『結』の前フリという位置づけになると思うので、そちらの方に期待したいと思います。

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【月光ノ仮面】三つ星

監督・脚本・出演:板尾創路
共同脚本:増本庄一郎
出演:浅野忠信、石原さとみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:『粗忽長屋』という落語が元ネタということで、調べてみたら、人から死んだと言われたあわて者が自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなるというシュールな話らしい。で、本編も自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなる話なのかなと漠然と解釈したんだけど、それだとあのラストの辺りの展開は……何なのだろう。自分が頭が悪くてよく分からないだけなんだろうか。困ったなぁ。

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【恋に至る病】四つ星

監督・脚本:木村承子
出演:我妻三輪子、斉藤陽一郎、佐津川愛美、染谷将太、他
製作国:日本
ひとこと感想:木村承子監督による第21回PFFスカラシップ作品。ある人を無理矢理好きだと思い込み、その人と無理矢理関係を持って、相手と性器が交換されることを夢想する女子高生。彼女はどうやら“一番大切なもの”を誰かと交換し合って体内に持つことで“独りであること”=人間が本質的に抱える孤独、のようなものから逃れられるかと思っている様子。これが何の冗談なのか本当にそうなってしまった時、彼女は“独りであること”からは逃れられないということを知ってしまうのだけれど、それはそれほど絶望的なことでもないということも同時に理解するのだ。う~ん、これは結構深い話なんでないかい。主人公の我妻三輪子さんもよかったが、その友達の佐津川愛美さんとその男友達の染谷将太さんが抜群に上手いと再認識。特に染谷さんは、普段はクセのある役が多くてこういう普通の男の子の役を案外見たことがないことに気づき、とても新鮮に映った。

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【恋のロンドン狂騒曲】四つ星

監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ナオミ・ワッツ、ジョシュ・ブローリン、アンソニー・ホプキンス、ジェマ・ジョーンズ、アントニオ・バンデラス、他
製作国:アメリカ/スペイン
ひとこと感想:コメディタッチに油断してたらむっちゃシニカルだったウディ・アレン監督の新作。まぁ、無責任に恋愛してたらそれなりの結果になるってことかな……。

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【コーマン帝国】四星半

監督:アレックス・ステイプルトン
出演:ロジャー・コーマン、ジュリー・コーマン、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミ、ピーター・フォンダ、ポール・W・S・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、アラン・アーカッシュ、ピーター・ボグダノヴィッチ、デイヴィッド・キャラダイン、ジョー・ダンテ、パム・グリア、ゲイル・アン・ハード、ジョン・セイルズ、ウィリアム・シャトナー、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカ・インディーズ映画界の教祖ロジャー・コーマン様。機会があれば『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』という名著を是非とも読んでみて戴きたい。その絶大な影響力は、本作のインタビューの内容の豪華さを見ただけで分かるのではないかと思う。

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【孤島の王】四つ星

監督:マリウス・ホルスト
脚本:デニス・マグヌソン、デラーシュ・ソービー・クリステンセン(原案)、メッテマリット・ボールスター(原案)
出演:ステラン・スカルスガルド、クリストッフェル・ヨーネル、他
製作国:ノルウェー/フランス/スウェーデン/ポーランド
ひとこと感想:ノルウェーには1900年頃から1970年まで非行少年の矯正施設として監獄島が実在していたのだそうで、本作は1915年に実際に起こった少年達の反乱を描いたもの。この映画が描く通り、当時の少年達の待遇はひどいものだったのだろうが、そんな黒歴史への反省はきっと今に活かされているのだと思いたい。日本人の目から見ると少年達の容姿が似たり寄ったりかもしれないので、少年達の描き分けに注意しながら見ることをオススメする。

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【KOTOKO】四星半

監督・脚本・出演:塚本晋也
原案・出演:Cocco
製作国:日本
ひとこと感想:Coccoさんの原案による塚本晋也監督の新境地。子供を愛するあまり狂気に陥るヒロインの心の揺れをつぶさに描く表現は、ドキュメンタリーかと見紛うほど迫真に迫っていて凄い(この表現のベースにやっぱりそこはかとなく【鉄男】の強度を感じるのだが)。けれど、いくら子供を愛していると言ったって、守りきれないから殺すとか、そのエゴイズムは理解したくないし出来ないよ。愛と呼びさえすればすべてが許容される訳じゃない。ここまで描き切っているのは凄いけど、それ故に問題作でもあると思う。

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【この空の花 長岡花火物語】五つ星

監督・脚本:大林宣彦
共同脚本:長谷川孝治
出演:松雪泰子、髙嶋政宏、猪股南、他
製作国:日本
ひとこと感想:
第二次世界大戦時、アメリカは、広島・長崎に原爆を落とす前に、原爆と同じ形や重さの“模擬原爆”というものを30都市くらいに落として実験してみたそうなのだが、本作の舞台の新潟県長岡市にもそのような模擬原爆が落とされたのだという。毎年行われる長岡の花火大会には、この長岡への空襲と模擬原爆によって亡くなられた方々への鎮魂と祈りの意味が込められているのだそうだ。
お恥ずかしながら長岡の模擬原爆のことは知らなかったのだが、大林宣彦監督は、この長岡の花火に中越地震の山古志村や東日本大震災の記憶なども重ね合わせ、溢れる感情にまかせて怒濤のように語り倒す。本来、これらの戦争や災害の体験は時間も場所も本質もばらばらな出来事のはずなのだが、監督の眼から見れば“日本人が経験してきた苦難”という意味で通底しているようで、監督一流の大林節としていつもより何割か増しで色濃く盛り込まれ、あまりの圧力にねじ曲がってすっごいヘンなレベルに達している。見ているこちらはただなし崩し的に圧倒されてしまうのだが、でもきっとそれでいいのだ。映画とは本来、もっと自由で奇妙なものであっていいはずなのだと、監督の映画を観るたびに思い知らされる。
監督はあと何本の映画を私達に提示して下さるのだろう。お元気で長生きして好きなように映画を創って戴ければと思う。

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【これは映画ではない】四つ星

監督・出演:ジャファール・パナヒ
(ドキュメンタリー)
製作国:イラン
ひとこと感想:イラン国内で自宅軟禁されているジャファール・パナヒ監督は、イランの裁判所から映画の製作を禁じられているため、家族や知り合いが“たまたま”置いてったカメラで“たまたま”部屋の中が撮れてしまった映像や、携帯電話の操作中に“たまたま”撮れてしまった映像を、「これは映画ではない」と言って提示する。そのことが逆に、映画とは何かということを雄弁に物語る。そもそも、映画であるかどうかということ自体あまり重要ではなく、伝えたいものがあるかどうかが肝心なのだ。とは言え、そんな理屈をこねくり回さなくても、パナヒ監督が撮りたいと思うものを心置きなく撮れる日が早く来た方がもっといいに違いない。

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【最強のふたり】四つ星

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、他
製作国:フランス
ひとこと感想:億万長者とスラム出身の黒人青年という出会うはずのない立場の二人が出会って異文化交流。二人とも、自分の決まり切った世界に内心少し辟易しているところが共通していたからか妙にウマが合い、お互いの世界が少しずつ変わっていく……。実話ベースの話なのだそうだが、そもそも日本人とフランス人で、生活に対する感覚や身体に障害がある人に対する態度など基本的な認識が違っているところがあるような気がして、どこがどうとうまく言えないんだが奥歯にものがはさまったような感じがあった。まぁ基本的に面白かったから別にいいんだけど。

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【最終目的地】四星半

監督:ジェームズ・アイヴォリー
脚本:ルース・プラワー・ジャブヴァーラ
原作:ピーター・キャメロン
出演:オマー・メトワリー、アンソニー・ホプキンス、シャルロット・ゲンズブール、ローラ・リニー、真田広之、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:自殺した有名作家の妻、愛人、兄とその恋人。4人が微妙な距離を取りながらもお互いを尊重して暮らすお屋敷に青年伝記作家が訪ねてきたことから、それぞれが人生の“最終目的地”を模索し始める。彼らのゆるやかで不思議な大人の繋がりをじっくり描いているのが何とも味わい深い。作家の兄(アンソニー・ホプキンス)の恋人が真田広之さんなんだけど(昔、鹿児島からかどかわしてきた少年が中年になったという設定)、めっちゃいい役なので必見レベル。というか、ジェームズ・アイヴォリー御大の作品で真田さんクラスの俳優が出てるのに、公開時期が2009年から今にずれてしまうという辺りに、今の日本の洋画興業のレベル低下を如実に感じた。(まぁ公開されただけマシなんだろうけど……。)

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【最初の人間】四つ星

監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
原作:アルベール・カミュ
出演:ジャック・ガンプラン、他
製作国:フランス/イタリア/アルジェリア
ひとこと感想:昔、『異邦人』を読んでも『ペスト』を読んでも何か分かったような分からんような、と思った記憶がふと甦ってきた。カミュの故郷って仏領アルジェリアだったんだー、ってことすらも知らない程度の知識しか無かったので勉強になりました……。

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【SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者】四星半

監督・脚本:入江悠
出演:奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:今回、【SR サイタマノラッパー】【SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー★傷だらけのライム】も併せて初めて見た。今までのシリーズ見逃してて本っ当にすいませんでした。本作は、どん詰まりの状況になった主人公が追い詰められて逃亡するというストーリー。主人公を追いかける終盤の長回しに、強烈な映画の息づかいが感じられて目が離せなくなった。

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【サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ】四星半

監督:クリス・ケニーリー
出演:キアヌ・リーブス、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーラン、スティーブン・ソダーバーグ、デヴィッド・フィンチャー、ラース・フォン・トリアー、ウォシャウスキー姉弟、ダニー・ボイル、ロバート・ロドリゲス、リチャード・リンクレーター、ジョエル・シューマカー、バリー・レヴィンソン、ヴィットリオ・ストラーロ、他
(ドキュメンタリー)
製作国:
ひとこと感想:今年の最後の1本にと選んで観た映画。プロデューサーでもあるキアヌ・リーブスさん(久々にお見かけしました!)が、様々な映画人を相手に、フィルム映画とデジタル映画についての意見をインタビューしているドキュメンタリーで、インタビューの対象者には、ジョージ・ルーカス監督やジェームズ・キャメロン監督みたいなデジタル・エヴァンジェリストからクリストファー・ノーラン監督みたいなフィルム原理主義者、またヴィットリオ・ストラーロさんのような大御所の撮影監督を含むスタッフの人々や機材メーカーの人々まで、様々な人々が含まれている。
今、映画の世界では、ものすごいスピードでデジタル化が進行していたりする。フィルムで映画を撮るのはそれだけでべらぼうにお金がかかるため、世の中の流れがデジタルに傾き、そのうちフィルムには骨董的な価値しかなくなってくるのだろうという大筋は仕方のないことなのだろう。今のところはまだフィルムの画質の方が美しいとされているけれど、ビデオの画質もそこそこ良くなってきているし、CGや3Dの撮影、または編集などの昨今の技術は、圧倒的にデジタルとの相性の方がいいと思われる。また、一旦設備さえ整えば、現物の複製や運搬が必要なフィルムに比べてデジタルは配給のコストも圧倒的に安くなるし(設備投資の出来ない映画館は潰れても仕方ないというのは随分と乱暴な物言いではあるけれど、どのみち映画館はいろいろな理由で生成と淘汰を繰り返してきたので、そうした歴史の新たな1ページとされてしまうのかもしれない)、インターネットなどの他のメディアへの転換も簡単だ。
しかし、フィルムとデジタルはそもそも別の特徴を持った別のメディアなので、それぞれの特徴を生かした素材や撮り方は自ずと異なる。その違いは一見微妙なものなのかもしれないが、今後、デジタルでしかできない新しい表現が生まれてくる代わりに、これまでフィルム撮影で継承されてきた表現のある部分は葬り去られることになるかもしれない。また、誰でも手にすることの出来る敷居の低さは、間口が広がる可能性がある反面、粗製濫造が蔓延する懸念もある。
まぁ大林宣彦監督などがおっしゃるように、新しい時代には新しい表現や新しい態度を身につけていけばいいのだろうから、そこは何とかなるのかもしれない。それより問題なのは、フィルムでしか残っていない映画を上映することが今後不可能になりかねなかったり、デジタルの技術が日進月歩であるが故に規格がコロコロ変わり、少し前の映画でも見ることが出来ないなんてことになりかねないことだ。これまで100年間続いてきたはずの映像文化は継続性を担保できるのだろうか。大いに危惧される。
デジタル化の波は総じて止めることができないとしても、もうフィルムは製造しませんとか、もう新作はフィルムでは配給しませんとか、そんなにいっぺんに何もかも変えることはないんじゃないかな。急速なデジタル化の煽りでうっかり置き去りにしてしまってはいけないものが多過ぎるんじゃなかろうかと思う。

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【サニー 永遠の仲間たち】四つ星

監督・脚本:カン・ヒョンチョル
出演:シム・ウンギョン、ユ・ホジョン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:韓国のかつての軍政時代を時代背景にするも、暗く落とし込むことなくポップに処理。多くが少女時代の回想シーンとはいえ、中年女性の友情物語自体がすごく珍しいし、色々な女性の人生の形に目を配っているのがいいところで、多少類型的で死にオチでデウス・エクス・マキナ的大団円だという点を補って余りあるのではないかと思う。

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【砂漠でサーモン・フィッシング】四つ星

監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:サイモン・ボーファイ
原作:ポール・トーディ
出演:ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマス、アマール・ワケド、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:イエメンの大富豪に依頼された砂漠に鮭を泳がせるというプロジェクトの顛末というストーリーなのだが、最初は乗り気じゃなかった主人公の博士(ユアン・マクレガー)が、人々のために砂漠に水を確保したいのだという大富豪の熱意に突き動かされて、段々本気になっていくところがよかった。ハリウッド映画かと思ってたらイギリス映画で、ラッセ・ハルストレム監督との組み合わせというのがお初な感じ。監督らしいウェル・メイドを堪能できたと思う。

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【さらば復讐の狼たちよ】四つ星

監督・脚本・出演:チアン・ウェン
共同脚本:チュー・スーチン、シュー・ピン、ウェイ・シャオ、リ・ブコン
原作:マー・シートゥー
出演:チョウ・ユンファ、グォ・ヨウ、カリーナ・ラウ、他
製作国:中国
ひとこと感想:監督としても評価が高いチアン・ウェンが、チョウ・ユンファやグォ・ヨウなどの名優を迎えて撮った映画だっていうのに、宣伝があまりにも不十分であやうく見逃すところだった!戦前の中国の地方都市でギャング団の兄弟が西部劇よろしく暴れ回るピカレスクで、血なまぐさくて結構無茶めの部分も多いけど、ワイルドで楽しくユーモアにも溢れた娯楽大作だった。

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【ザ・レイド】三星半

監督・脚本:ギャレス・エヴァンス
出演:イコ・ウワイス、ジョー・タスリム、他
製作国:インドネシア
ひとこと感想:麻薬王の牙城に警察のSWATチームが乗り込む。インドネシアにこんな本格的アクション映画が出来ているなんてびっくりで、インドネシア経済が上り調子だという話を改めて思い出したりした。ただいかんせん、自分はもともとアクション感度が低くて、この映画の魅力を十二分に楽しむ能力がないんですわ……毎度どうもすいません。
何と!この映画は続編の製作が決定し、松田龍平さん・遠藤憲一さん・北村一輝さんがヤクザ役で出るそうですね!ちょっと期待したいと思います。

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【311】

監督・出演:森達也
出演:綿井健陽、松林要樹、安岡卓治、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:森達也がイッちまった件というブログに的確に指摘されている通り、この映画は、『取材・撮影の対象(被災者)がどこまでも不在』なまま『“後ろめたさ”に悩みながら被災地を撮るボクたちジャーナリスト』が、自分達の姿に『酔っている』映画でしかなかった(『』内は上記ブログより)。
森達也監督の手法は今までも批判を受けることはあったと思うが、それでも今までの監督は、取材対象と独特の関係を切り結び、その対象に関する新たな視点を世に問い掛け、そのことが一定の評価を受けていたはずだ。でも、この映画にはそれが感じられない。監督達は、準備不足なまま物見遊山感覚で現場に入った挙げ句、進行している事態の予想外の大きさに呆然とするばかりで、中途半端に対象と関わることしかできなかったようにしか見えない。当時貴重だったはずのガソリンを無駄遣いして、救助・救援活動の邪魔になりながら。
それでも何が起こっているのか自分の目で確かめたいと思うのがドキュメンタリー作家の性(さが)なのだと言われても、正直、今の私達はそんないびつな自己満足に付き合っていられるほど暇ではない。百歩譲って、そんな自己満足の産物でも世に晒す権利はあるんだとしても、それは今の状況がもう少し何とかなってから(例えば5年後とか10年後とかに)、もっと内容を吟味して十分に編集を重ねたものを、大いなる自己反省を込めながらひっそりと出せばよかったんじゃないのかな。今、この時期にこの形でこの映画を世に出す監督達は、申し訳ないけれど、耄碌(もうろく)してしまったとしか思えなかった。

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【しあわせのパン】三星半

監督・脚本:三島有紀子
出演:原田知世、大泉洋、他
製作国:日本
ひとこと感想:原田知世さんも大泉洋さんも大好きだし、焼きたてのパンをちぎる音はおいしそうだったけれど、こんな鄙びた地域でお客さんもそれほどいるようには見えないパン屋さんが果たして生計を立てていけるのだろうか?親がよっぽど金持ちなのか?それとも東京でよっぽどあくどい商売をやっていたんじゃないだろうか?こういうのはある種のお伽噺なんだから、と言ったって、あんまり現実離れしていたら夢を見る段階にも至らないじゃない。ン十年来のフェイバリットである矢野顕子さんの名曲『ひとつだけ』も勝手に使わないで欲しかった。

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【幸せへのキセキ】三星半

監督・脚本:キャメロン・クロウ
共同脚本:アライン・ブロシュ・マッケンナ
原作:ベンジャミン・ミー
出演:マット・デイモン、ケリー・フォスター、トーマス・ヘイデン・チャーチ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:家を買ったら動物園がついていたという実話ベースの物語。動物園の経営を立て直すうちに、妻を亡くしてガタガタだった自分の人生も立て直す、という話の展開に甘さはあれど、まぁ何の破綻もなく普通に楽しめるし、お家が動物園ってロマンがあっていいじゃない?

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【J・エドガー】三星半

監督:クリント・イーストウッド
脚本:ダスティン・ランス・ブラック
出演:レオナルド・ディカプリオ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:鑑賞の前提となっているのであろう初代FBI長官ジョン・エドガー・フーバーに関する基本的な知識が自分になさすぎた……。正直、アメリカ以外の国の人々にとっては、アメリカの国内犯罪の捜査機関であるFBIへの興味は限定的なものにならざるを得ないのではないだろうか。いくらイーストウッド×ディカプリオだと言ったって。

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【死刑弁護人】四つ星

監督:齊藤潤一
出演:安田好弘、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:「オウム真理教事件」の麻原彰晃(松本智津夫)被告、「和歌山毒カレー事件」の林眞須美被告、「光市母子殺害事件」の大月(福田)孝行被告などの裁判を担当している安田好弘弁護士のドキュメンタリー。安田弁護士の主張の全てに納得できる訳ではないけれど、真実の究明を疎かにしたまま通り一遍の裁判を行うだけでは事件の再発防止には繋がらないという主張はもっともだと思われるし、何よりも、どれだけ凶悪な犯罪を行った犯人にも自説を主張する権利を与えなくては近代の裁判制度そのものが成立しないから、その犯人を弁護する弁護人は絶対的に必要なのだ。時には理不尽極まりない妨害行為に遭いながらも信念を持って職務を果たし続けていらっしゃる姿には、心から感服した。

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【思秋期】四つ星

監督・脚本:パディ・コンシダイン
出演:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:ろくでもない現実に打ちのめされた中年男と中年女。脛に傷持つ大人同士が寄り添うことの痛みをしみじみ描いた佳作。

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【シャーロック・ホームズ シャドウゲーム】四つ星

監督:ガイ・リッチー
脚本:ミシェル・マローニー、キーラン・マローニー
出演:ロバート・ダウニー・Jr、ジュード・ロウ、ジャレッド・ハリス、ノオミ・ラパス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ガイ・リッチー監督が絶好調なのが何よりも嬉しい!プロットが結構がっちりしてるのでしっかりとストーリーを追う必要があり、割と集中力が必要かもしれないので、頑張って見て下さいね~。

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【11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち】三星半

監督・脚本:若松孝二
共同脚本:掛川正幸
出演:井浦新、満島真之介、他
製作国:日本
ひとこと感想:若松孝二監督的には三島由紀夫氏の自決事件に心の中で決着をつけたかったのだろうし、その熱意はとても伝わってきた。けれど個人的には、今までの人生でずっと理解不能だった三島由紀夫氏を理解できるようにはやっぱりなれなかった。今回再度ネットを検索してみたら、三島由紀夫は右翼的な思想に美学的に傾倒し、自分の人生を美的に完成したかったのだという意見が書いてあった。そういう視点でもう一回見てみたら理解がより深まるのだろうか。でも何かもういいや……。

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【情熱のピアニズム】四星半

監督:マイケル・ラドフォード
出演:ミシェル・ペトルチアーニ、他
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス/ドイツ/イタリア
ひとこと感想:先天性の骨形成不全症という障害にも関わらず破天荒な人生を生き切ったフランスの天才ジャズ・ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニのドキュメンタリー。ペトルチアーニは障害のため身長は1メートルほどで(なぜか手だけは普通の大きさに成長)、長くは生きられないことを最初から知っていた。楽しんでいると口では言いながらも常に死が見えていることに最初から絶望していて、それを振り払うように無茶な所業を繰り返しながら、誰よりも生きることを謳歌しようとしていた。きっとリアルな破滅型ってこういう人のことをいうのだろうと思った。合掌。

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【少年と自転車】四星半

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ、他
製作国:ベルギー/フランス/イタリア
ひとこと感想:子供が重荷だとかいうひどいセリフを子供本人に平気で言ってしまう全く愛のない父親なのに、子供は一途に慕っていたりする。でも、自分を見捨てたり利用したりするだけの人と、本当に助けてくれる人とを見分けられなければ、自分をもっと不幸にしてしまうよ?と思ったらさすがにそこは分かったか。誰しも生きていくのに必要な絆は自分で選び取るしかない。そんな絆が存在してるだけ、ダルデンヌ兄弟の映画は随分優しいのかもしれないが。

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【菖蒲】三星半

監督・脚本:アンジェイ・ワイダ
原作:ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチ
出演:クリスティナ・ヤンダ、他
製作国:ポーランド
ひとこと感想:『菖蒲』という小説の映画化と、その撮影風景と、撮影監督である旦那さんを亡くしたベテラン主演女優のガチのモノローグが交錯。小説のテーマでもある生と死に対峙したアンジェイ・ワイダ監督にはこのようにせざるを得ない心の動きがあったのかもしれないが、作品としては中途半端な印象になってしまったような気がする。

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【贖罪】四つ星

監督・脚本:黒沢清
原作:湊かなえ
出演:小泉今日子、蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴、森山未來、水橋研二、加瀬亮、長谷川朝晴、伊藤歩、田中哲司、新井浩文、嶋田久作、香川照之、他
製作国:日本
ひとこと感想:WOWOWが製作した湊かなえ原作・黒沢清監督の連続ドラマだけど、映画館で限定上映をやっていたので特別に。少女の頃に遭遇した友達の殺人事件で様々な形で人生が翻弄されていく4人と、娘を殺された少女の母親を描いたもので、プロットだけ聞くとドロドロなのでもっとげんなりするかと思ったけど、思ったよりサラリと見ることができたのは、エピソードを的確に描写する監督の手腕のおかげだろうか。ただ、この人達の行動が“贖罪”なのかどうかは自分にはあまりよく分からなかったけれど。

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【ジョルダーニ家の人々】四つ星

監督:ジャンルカ・マリア・タヴァレッリ
脚本:サンドロ・ペトラリア、ステファノ・ルッリ
出演:クラエディ・アンタマリア、パオラ・コルテッレージ、ロレンツォ・パルドゥッチ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:数年前の話題作【輝ける青春】を始め【遙かなる帰郷】【13歳の夏に僕は生まれた】【我らの生活】などを手掛けてきたサンドロ・ペトラリアとステファノ・ルッリの脚本家コンビの作品で、ローマに暮らすある一家の離散と再生を描く大河ドラマ。何せ6時間39分もあるのでちょっと覚悟がいるけれど、見始めてしまうとそれほど長さを感じない。この一家の変遷を通して、どの社会にでもあるような普遍的な悩みや苦しみや喜びを追体験してみるのもいいかもしれない。

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【人生、いろどり】三星半

監督:御法川修
脚本:西口典子
出演:吉行和子、富司純子、中尾ミエ、平岡祐太、藤竜也、他
製作国:日本
ひとこと感想:年商2億円以上となった徳島県上勝町の「つまもの」ビジネスを描いた映画。悪くはないかもしれないんだけど、エラソーな旦那との折り合いに悩む女性とか、自分の過去に遺恨を残す女性とか、取ってつけたような女性達のドラマは別にいらないかもしれないな……。純粋なドキュメンタリーの方が面白そうかもしれないと思ってしまった。

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【人生の特等席】三星半

監督:ロバート・ロレンツ
脚本:ランディ・ブラウン
出演:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:クリント・イーストウッドが監督もしているのかと思ったら、主演だけだったのでちょっと拍子抜け。私はこういう人の言うことを聞かないジジィが世の中で一番嫌いなんだけど、【グラン・トリノ】あたりではそんな頑固じじいを許せてしまう佇まいがあったのが、本作ではそうはいかなかったみたい。やはりイーストウッド御本人の監督作と比べると、説明不足だったり余計な枝葉があったりして、どこかスムーズじゃなく味わいが足りないのを感じた。

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【スーパー・チューズデー 正義を売った日】四つ星

監督・脚本・出演:ジョージ・クルーニー
共同脚本:グラント・ヘスロフ
原作:ボー・ウィリモン
出演:ライアン・ゴズリング、フィリップ・シーモア・ホフマン、ポール・ジアマッティ、エヴァン・レイチェル・ウッド、マリサ・トメイ、ジェフリー・ライト、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:タイトルの通り、アメリカ大統領選の裏側を活写した映画で、実際に大統領選のスタッフを務めた経験のある作家が書いた戯曲を元にしているらしく、ジョージ・クルーニーが監督をしているくらいなのである程度リアルな側面があるに違いない。民主主義にはほど遠い駆け引きや足の引っ張り合いはひたすら醜く、おまいらあなた方の高邁な政治的理想はどこに行ったのだ?と言いたくもなる。てゆーか、大統領選ともなればマスコミやパパラッチがそこら中にうろうろしてたって当然だろうに、基本的に全員ワキが甘過ぎじゃないんだろうか?

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【スケッチ・オブ・ミャーク】三星半

監督:大西功一
原案:久保田麻琴
出演:宮古島の歌い手の皆さん
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:ミャークは宮古島の古い呼び方で、ここに受け継がれてきた古謡と神歌を映したドキュメンタリー。歌を神に捧げるおばあちゃんたちが召される時に、人間の記憶の中から神様が失われてしまうのかもしれない。

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【セイジ 陸の魚】三星半

監督・脚本:伊勢谷友介
共同脚本:龜石太夏匡、石田基紀
原作:辻内智貴
出演:西島秀俊、森山未來、裕木奈江、新井浩文、津川雅彦、他
製作国:日本
ひとこと感想:西島秀俊さん演じるセイジさんは、いろいろなことが分かりすぎてしまっているが故に“何も行動しないし、何もジャッジメントしない”人間なのだそうだが、そんなふうにスカしてるのがカッコよく見えるのだとしたら、やっぱり若いんだなーとか思ってしまった。人生、もう一周くらい回ると、もっとなりふり構わなくなるんじゃないんだろうか。大きなお世話だと思うけど。

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【世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶】四つ星

監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/フランス
ひとこと感想:1994年に南フランスで発見された人類最古の絵画と言われるショーヴェ洞窟の壁画(私らの年代が昔習ったアルタミラやラスコーより倍以上古い!)を、特別に許可を受けたドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督がごく少数のクルーと共に撮影したもの。ショーヴェ洞窟は、壁画の保全のためごく少数の研究者以外の立ち入りは禁止されていて、私ら一般ピープルが現物を目にする機会はまず無いので、その疑似体験ができるというのは価値が高いと思われる。特に、壁画の動物達が洞窟の壁の凹凸に沿って描かれている様子を立体的に見ることが出来るのはかなり感動的。おお~ぅ。やっとマトモな3D映像の使い道に出会えた気がするぞ。
と一瞬思ったのだが……やっぱり頭痛はやってきてしまった。やっぱり3D映画なんてろくなもんじゃない。こんな人間の生理を無視したシステムが映画の未来な訳があるか。もしこんな未来が無理矢理押し付けられるというのなら、そこに私の席は無くても構わない、と思った。

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【戦火の馬】三星半

監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス
原作:マイケル・モーパーゴ、ニック・スタフォード(舞台版)
出演:ジェレミー・アーヴァイン、エミリー・ワトソン、ピーター・マラン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:自分の馬はこんなにも素晴らしい、という話。日本人の我々が見るとああそうですかで終わってしまうけど、日本人に桜を愛でるDNAが刷り込まれているように、アメリカ人に馬を愛でるDNAが刷り込まれているのは仕方のないことなのだ。参考作としてロバート・レッドフォードの監督・主演作【モンタナの風に抱かれて】や【リング】のアメリカ版などはいかがでしょう(あまり面白くないけど)。最近も、ダスティン・ホフマン主演のドラマが、撮影中に馬が死んでしまったために打ち切りになってしまったんだそうで……。

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【センチメンタルヤスコ】三つ星

監督・脚本:堀江慶
出演:岡本あずさ、他
製作国:日本
ひとこと感想:ある女性を殺した犯人を捜査するうちに孤独な彼女の実像が浮かび上がる、というていなんだけど、その場にいる全員の前で人のプライバシーをべらべらしゃべり倒すような捜査なんて今時ありえないでしょう。その辺りの雑なところからしてもう付いていけなくなったんだけど、その関係者とやらも人数多すぎで、結局どの人も中途半端。結局雰囲気に流された映画になってしまっていたかなぁという気がする。

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【その夜の侍】四星半

監督・脚本:赤堀雅秋
出演:堺正人、山田孝之、綾野剛、新井浩文、谷村美月、田口トモロヲ、高橋努、安藤サクラ、他
製作国:日本
ひとこと感想:妻を轢き逃げされた男が復讐を果たそうとする話。だが、物語は意外な方向に転がって決着する。そう、こんなクズ男は××に値しないから、×××××なければ。この主人公の選択はできれば皆さんご自身で確かめて戴きたい。中盤で主人公の周囲のある人物が漏らす「平凡というのは全力で築き上げるもの」という台詞が秀逸。久々にすごく映画らしい映画を観たことに大感動した。

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【ソハの地下水道】四つ星

監督:アグニェシュカ・ホランド
脚本:デヴィッド・F・シャムーン
原作:ロバート・マーシャル
出演:ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ、他
製作国:ポーランド/ドイツ
ひとこと感想:アグニェシュカ(アニエスカ)・ホランド監督が祖国のポーランドに戻って撮った話。ポーランド×地下水道というとアンジェイ・ワイダ監督の歴史的名作があるけれど、本作にもそれ相応のインパクトがあるかも。第二次世界大戦中に多数のユダヤ人を地下水道に匿ったごく平凡な市井の男を描いた物語で、最初は小遣い稼ぎくらいのつもりだったのに、そのうち彼らのことを本気で心配するようになり始め、危険な橋まで渡るようになる。彼は自分でも知らない間に何かの境地に辿り着いたのだ。最後に出てくる「人は神を利用してまでお互いを罰したがる」という字幕が痛切だったけど、きっと彼自身はそのようなことは意に介さずに生きることができたのではないだろうか。

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【ダーク・シャドウ】二つ星

監督:ティム・バートン
脚本:セス・グレアム=スミス、ジョン・オーガスト(原案)
原作:ダン・カーティス
出演:ジョニー・デップ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:昔の人気テレビシリーズのリメイクと言うことなのだが、吸血鬼の話という設定にもストーリーにも最後まで全然馴染めずじまい。好みの問題だと思うけど、個人的には、最近のティム・バートン監督作との決定的な距離感を感じてしまった。

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【ダークナイト ライジング】三星半

監督・脚本:クリストファー・ノーラン
共同脚本:ジョナサン・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:【メメント】を観て以来ずっとノーラン監督の大ファンだったのだが、今回、ゴッサム・シティのゴタゴタがあまりにも人ごとのように映り、あまりにもお話に入っていけなくてびっくりしてしまった。本作に限らず、ハリウッド大作が物語として想定しようとする“悪”なるものの姿に最近全くついていけなくなりつつあることを強く認識せずにはいられなかったが、これが自分の年のせいなのか、自分が住む世界と地続きの現実として震災や原発事故を経験したせいなのかはよく分からない。

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【第九軍団のワシ】四つ星

監督:ケヴィン・マクドナルド
脚本:ジェレミー・ブロック
原作:ローズマリー・サトクリフ
出演:チャニング・テイタム、ジェイミー・ベル、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:ローマ帝国時代のイギリス(ブリテン島)は、南はローマ帝国の支配下で、境界の向こうは野蛮人とされるブリタニア人の支配する異世界だったらしい(うろ覚え)。北の地で消息を絶った父の謎を追うローマ人青年が主人公のサスペンスの中で、誇りと戦うことの虚しさが交錯する。宮崎駿監督が原作のファンらしくて本作にコメントまで寄せているのだが、確かにこりゃおもろいわ。

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【桃さんのしあわせ】四つ星

監督:アン・ホイ
脚本:スーザン・チャン
出演:アンディ・ラウ、ディニー・イップ、他
製作国:中国/香港
ひとこと感想:60年間勤め続けていた使用人の桃(たお)さんの最期を看取るという話。ずっとお世話をしたりお世話になったりしていると、もう別の種類の家族のような存在になるのだろう。形はどうあれ、誰かと関わり合って生きるということがしあわせなのかもしれないな、と思った。

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【誰も知らない基地のこと】三星半

監督:エンリコ・パレンティ、トーマス・ファツィ
(ドキュメンタリー)
製作国:イタリア
ひとこと感想:世界中には約40ヵ国に700箇所以上の米軍基地があって未だに増え続けているのだそうだ。本作では2人のイタリア人監督が、イタリアのビチェンツァやインド洋のディエゴ・ガルシア島や沖縄の普天間などを取材しているのだが、お恥ずかしながら、世界各地で沖縄そっくりの基地反対運動が繰り広げられているということを今まであまり知らなかった。そもそもアメリカはなんでここまで大量の基地を必要とするのか。この問題を解決するには、危険厨のアメリカを世界規模で思想的に包囲して論破するより他にないんじゃないだろうか。

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【タンタンと私】四つ星

監督:アンダース・オステルガルド
出演:エルジェ、他
製作国:ベルギー/デンマーク/フランス/スイス/スウェーデン
ひとこと感想:『タンタン』の原作者エルジェさんのドキュメンタリー。ご本人の貴重なインタビューなども含め、エルジェさんの歩みが立体的に描かれていて、本作を観れば『タンタン』がより味わい深くなること受け合い。はっきり言って、去年のスピルバーグ監督の【タンタンの冒険…】よりずっと面白かったかもしれない……。

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【終の信託】四星半

監督・脚本:周防正行
原作:朔立木
出演:草刈民代、役所広司、浅野忠信、大沢たかお、他
製作国:日本
ひとこと感想:安楽死は全面的に解禁にして法律の方を整備すべきだと私なんぞは思うのだが、法律も医療現場のコンセンサスも人命の絶対的尊重という地点からあまり動いていないらしい。本作は、そんな環境を横軸に、一人の女性医師が一人の男性患者と出会って最後に安楽死を依頼されるというドラマを縦軸に描かれている。あくまでも主軸はこの女性に関する個別のドラマであって、この中に安楽死に関する議論を一般化させることは難しいかもしれないが、役所広司さん演じる死にゆく男性があまりに真に迫っており、彼に“信託”を委ねられ苦境に陥る草刈民代さん演じる女性医師の気持ちに心を揺さぶられてしまった。まぁご存知の通り、周防正行監督は中途半端なことはなさらないから、本作もきっちりクオリティ高いです。

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【綱引いちゃった!】三星半

監督:水田伸生
脚本:羽原大介
出演:井上真央、玉山鉄二、松坂慶子、浅茅陽子、西田尚美、ソニン、渡辺直美、犬山イヌコ、中鉢明子、笹野高史、風間杜夫、他
製作国:日本
ひとこと感想:大分に実際にある女子綱引きチームをモデルにした話。それぞれに悩みを抱えるメンバーが団結し合って勝利を目指す、という王道の展開なのはいいんだけど、その過程が大切とばかりに、ラストはなんかあっけない。やっぱりそこはスポーツものなので、試合で思い切り盛り上がるカタルシスは必要だったんじゃないだろうか。

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【テルマエ・ロマエ】四つ星

監督:武内英樹
脚本:武藤将吾
原作:ヤマザキマリ
出演:阿部寛、上戸彩、北村一輝、市村正親、宍戸開、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:古代ローマ帝国の風呂の設計技師が現代日本にタイムワープしてきて日本の風呂に感銘を受ける……。こんな荒唐無稽なストーリーはマンガじゃなきゃ成立しないと思っていたが、これを実写にして、あろうことか日本人キャストでやってしまうなんて無謀な挑戦が、阿部寛さんという逸材の存在によって可能になってしまった!!やるからには徹底的に開き直って大風呂敷を広げて吉。北村一輝さんを始めとする日本で有数の濃い顔の俳優さんを集めたのも、細かな職人技の数々もうまくハマッた。映画としては大珍品だけど、誰が見てもシンプルに楽しめる娯楽作になっていたからいいんじゃない?

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【天地明察】四星半

監督・脚本:滝田洋二郎
共同脚本:加藤正人
原作:冲方丁
出演:岡田准一、宮﨑あおい、佐藤隆太、市川猿之助、横山裕、笹野高史、岸部一徳、松本幸四郎、中井貴一、白井晃、市川染五郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:江戸時代の始めに貞享暦という暦を作った安井算哲(渋川春海)の物語。渋川春海ってむかぁし日本史の参考書に載ってた気がするけど、もともとは将軍のために囲碁を打つ家柄の出だったとか(そんな役職があったこと自体驚きだが)、いろいろな巡り合わせで暦の編纂に携わることになったけど、当時の暦学は朝廷の専売特許だったので軋轢があったとか、いろいろと知らない背景があることが分かって勉強になった。特に、江戸時代の算術・天文術・暦術などの文化が垣間見えるのが興味深く(算術の問題を絵馬に書いて神社に奉納する習慣とか知らなかった)、当時の人々が案外自分の才能を生かして闊達に生きているように描かれているのが面白かった。

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【東京プレイボーイクラブ】四つ星

監督・脚本:奥田庸介
出演:大森南朋、光石研、臼田あさ美、他
製作国:日本
ひとこと感想:新鋭・奥田庸介監督の劇場用長編デビュー作。大森南朋さん、光石研さん、臼田あさ美さんというキャスティングが絶妙で、大森のやさぐれた色気がいいエッセンス。監督の実力はとても感じるけれど、裏社会やヤクザ絡みの素材はどうしてもありきたりな感じがしてしまうので、できれば次回は違った素材で勝負して戴けたらなと思う。

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【トガニ 幼き瞳の告発】四つ星

監督・脚本:ファン・ドンヒョク
原作:コン・ジヨン
出演:コン・ユ、他
製作国:韓国
ひとこと感想:韓国のある障害者学校で起こった実際の性的暴行・虐待事件を映画化したもの。残念ながら、日本でも障害のある人たちに対する暴行事件がニュースになることがあったりして、全く人ごとの話ではない。こういう卑劣な犯罪は決して許せないし、許してはならない。

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【ドライブ】四つ星

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
脚本:ホセイン・アミニ
出演:ライアン・ゴズリング
製作国:アメリカ
ひとこと感想:裏稼業も請け負う天才ドライバーが事件に巻き込まれる話。70年代の映画に似せたような寡黙なテイストが悪くない。主役のライアン・ゴズリングくんは、【ラースと、その彼女】【きみに読む物語】などに出演しており、ジョージ・クルーニー監督の【スーパー・チューズデー 正義を売った日】でも主役を務めていて目下絶賛売り出し中。よし、覚えたぞ。

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【ドラゴン・タトゥーの女】二つ星

監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:スティーグ・ラーソン
出演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:本国スウェーデンのオリジナル版がよく出来ていたので、偉そうにハリウッド・リメイクなんて称して模造品を作る必要がどこにあるんだよと思っていたら、これが想像した以上にオリジナル版の影響を引きずりまくり、あまりにも独自性を打ち出せていなくてびっくりしてしまった。確かに原作では北欧の陰鬱な側面が欠くことのできない要素だとは思うけど、これを尊重しすぎたら、オリジナル版とあまり変わらない意匠になってしまうのは当然じゃね?その上、ダニエル・クレイグはどこまでいっても英国紳士にしか見えないし、リスベット役の女優はオリジナル版のノオミ・ラパスの出来の悪いコピーでしかない。(ハリウッドにはリスベットを演じきれる女優がいなかったのだ。)デヴィッド・フィンチャー監督×スティーヴン・ザイリアン脚本なんて黄金の布陣に騙されて、もしかして何かしらの化学反応があるのでは?と淡い期待を抱いてしまったのが間違いだった。見に行って失敗だったと真剣に後悔した。

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【ニーチェの馬】五つ星

監督・脚本:タル・ベーラ
共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
共同脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ、他
製作国:ハンガリー/フランス/スイス/ドイツ
ひとこと感想:ニーチェを狂気にいざなった馬、とか前フリがあるけれど、途中からそんなことはすっかり忘れ、完全に未来の黙示録と捉えながら観ていた。文明のたそがれってこんななのかな。こ、恐い。あまりにも恐い。文明を成立させているものを次々と剥ぎ取られた時に何が訪れるのか、ひるがえって、自分の今の生活を成立させているものって一体何なのか……。人間の生活なんて砂上の楼閣の上に築かれた一瞬の夢なのだと思うと、昨今の世界情勢とか日本の未来とか自分の老後のこととかが走馬燈のように頭の中を流れてゆき、心の中でさめざめと涙を流さずにはおれませんでした(泣)。
これで引退とか仰らずに、タル・ベーラ監督にはまだまだ名作を創って戴けないものかと思います。

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【虹色ほたる 永遠の夏休み】四つ星

監督:宇田鋼之介
脚本:国井桂
原作:川口雅幸
声の出演:武井証、他
製作国:日本
ひとこと感想:アニメ版『ワンピース』のシリーズディレクターである宇田鋼之介監督作品で、なんとあの老舗中の老舗の東映アニメーションのオリジナル作。ダムに沈んだ村にタイムスリップしてしまった少年の成長物語で、独特の色使いの手書きタッチの絵が、昔の日本のノスタルジックな情景の味わいをより深める。これは評価を受けてしかるべき良作だと思うんだけど。

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【NINIFUNI】四つ星

監督・脚本:真利子哲也
共同脚本:竹馬靖具
出演:宮﨑将、ももいろクローバー、他
製作国:日本
ひとこと感想:俊英・真利子哲也監督の42分の中編。この荒んだ風景が宮崎将さん(宮崎あおいさんのお兄さんだ!)演じる主人公の心象風景みたいなんだけど、なんか(自分の地元の)千葉くさい景色だなーと思ったらやっぱりそうだったみたい。宮崎さんは、この映画以外でも、出番の大小に関わらず非常に印象的な役柄を演じていらしたりするので、そろそろ当たり役があるといいなと思う。

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【任侠ヘルパー】四つ星

監督:西谷弘
脚本:池上純哉
出演:草彅剛、安田成美、夏帆、風間俊介、香川照之、りりィ、堺正章、杉本哲太、宇崎竜童、草村礼子、黒木メイサ、他
製作国:日本
ひとこと感想:テレビシリーズは部分的にしか見ていないけど、あの温和そうな草彅さんがちゃんと極道に見えるので、草彅さんの役者としてのポテンシャルはやはり大したものだなぁと思っていた。本作は、この役の持ち味を生かしつつ、老人介護問題をエンターテイメントの俎上に載せようと試みているのが凄いと思う。まぁ、スペシャルドラマでも別によかったんじゃないの?とかいうのは置いといてだな。

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【眠れぬ夜の仕事図鑑】三つ星

監督:ニコラウス・ゲイハルター
(ドキュメンタリー)
製作国:オーストリア
ひとこと感想:仕事したり酒飲んだり死んだりセックスしたり……深夜に活動する色々な人々を淡々と映し出したドキュメンタリー。でもあまりにも淡々とした描写が続くのでそれこそ眠くなってしまうかもしれないが……。

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【のぼうの城】四つ星

監督:犬童一心、樋口真嗣
原作・脚本:和田竜
出演:野村萬斎、榮倉奈々、佐藤浩市、山口智充、成宮寛貴、上地雄輔、山田孝之、平岳大、市村正親、前田吟、中尾明慶、尾野真千子、夏八木勲、平泉成、西村雅彦、他
製作国:日本
ひとこと感想:豊臣秀吉の小田原攻めの際に唯一落城しなかったと伝えられる忍城(おしじょう)。この忍城の伝説に、本当はかしこいバカ殿や、忠義に篤い部下達や、勇ましい姫君などの魅力的な人物を配置してエンターテイメントとして膨らませた物語。分かりやすい明快な楽しさでいいと思うけど、あの姫君の行く末だけがちょっとねー。その辺は史実だからしょうがないけれど。精緻な人間ドラマが得意な犬童一心監督とSFXやスペクタクルが得意な樋口真嗣監督のダブル監督というのは効を奏していたと思うけど、日本人は譲り合いの精神を持てる人も多いので、責任分担さえはっきりしていればこのような形式も案外うまくいく場合が多いのではないだろうか。

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【ハーバーテイル】四つ星

監督・脚本:伊藤有壱
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:NHKの短編クレイアニメ『ニャッキ!』で知られる伊藤有壱監督の新作。主人公の赤レンガくんが住む港町「Y」の輝きそのままにキラキラした素敵な作品だった!公開時には夏休みの子供さん向けのアニメのワークショップなどもやっていたのだが、このようなスバラシイ企画がもっと一般に幅広く告知されるルートはないものかなぁと思った。

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【ぱいかじ南海作戦】三星半

監督・脚本:細川徹
原作:椎名誠
出演:阿部サダヲ、永山絢斗、貫地谷しほり、佐々木希、ピエール瀧、浅野和之、斉木しげる、他
製作国:日本
ひとこと感想:都会で行き詰まった主人公が南の島にやってきて起こる出来事の数々。阿部サダヲさん演じる主人公の前半のいじましさがあまり好きじゃなくて、なかなかストーリーに乗れなかったけど、後半はやたら盛り上がるのでトントンかな。

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【莫逆家族 バクギャクファミーリア】三つ星

監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:田中宏
出演:徳井義実(チュートリアル)、林遣都、阿部サダヲ、玉山鉄二、中村達也、新井浩文、井浦新、大森南朋、北村一輝、村上淳、倍賞美津子、他
製作国:日本
ひとこと感想:熊切和嘉監督作品で大好きな役者さん達が大挙して出ているので期待していたのだが、ケンカに終始するというタイプの話がそもそもあまり得意ではない上に、話のキッカケを作るためだけに安易に女の子を強姦するという話にもっていく展開にあきれてしまった。自己満足のためだけの戦いを延々と繰り広げておいて安易に“守る”とか言ってんじゃねーよ。大体、酷い目に遭った女の子本人のメンタルなんて一体どうやって守るっちゅうんだよ。このテの能のないプロットはいい加減この世から駆逐されないものだろうかと真剣に思う。

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【果てなき路】三星半

監督:モンテ・ヘルマン
脚本:スティーヴン・ゲイドス
出演:シャニン・ソサモン、タイ・ルニャン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:【断絶】(1971年)のリバイバル上映と同時に公開されたモンテ・ヘルマン監督の新作。画面には70年代の映画みたいなクラシカルな趣きがあり、映画を創ること自体への憧憬みたいなものを感じたけど、この古めかしい雰囲気がちょっとかったるかったかな……すいません。

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【はやぶさ 遥かなる帰還】四つ星

監督:瀧本智行
脚本:西岡琢也
原作:山根一眞
出演:渡辺謙、江口洋介、夏川結衣、吉岡秀隆、小澤征悦、石橋蓮司、藤竜也、山崎努、中村ゆり、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作は東映版の『はやぶさ』もの。渡辺謙御大を始めとする豪華キャストを迎えた本作は良くも悪くも重厚長大。瀧本智行監督との相性もあるかもしれないが、個人的には去年の東宝版の【はやぶさ HAYABUSA】の方が、科学するときめきみたいなものが感じられて好きだったかもしれない。

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【バレエに生きる ~パリ・オペラ座のふたり~】三星半

監督:マレーネ・イヨネスコ
出演:ピエール・ラコット、ギレーヌ・テスマー、他
製作国:フランス
ひとこと感想:振付師のピエール・ラコットと元エトワールのギレーヌ・テスマーの夫妻を中心に描くオペラ座の記録。私でも名前を聞いたことがあるような綺羅星の如くのバレエのスターの人達の映像もてんこもりで出てきて、バレエ好きの人ならきっと楽しめるんだろうと思うんだけど……。

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【ピアノマニア】三星半

監督:リリアン・フランク、ロベルト・シビス
出演:シュテファン・クニュップファー、他
(ドキュメンタリー)
製作国:オーストリア/ドイツ
ひとこと感想:老舗ピアノメーカーであるスタンウェイ社の主任調律師を追ったドキュメンタリー。担当する有名コンサートホールで顔なじみの有名ピアニストに呼びつけられてミリ単位(というかミクロ単位)の微細な調律を繰り広げる姿に、常人では計り知れないレベルの「音との戦い」を見せつけられた。

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【ピープルVSジョージ・ルーカス】四星半

監督:アレクサンドレ・オー・フィリップ
出演:【スター・ウォーズ】の熱狂的ファンの皆さん
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:【スター・ウォーズ】を巡る熱狂的なファン達の壮大な愛と憎しみのサーガ。そういえば家にある【スター・ウォーズ】のビデオは特別編(オリジナルの三部作にデジタル修正を加えたバージョン)だったなぁと思い出した。私も新三部作(エピソード1~3)は要らなかったかなぁくらいは思うけど、オリジナル版はリアルタイムでは見ていないし、そこまでの思い入れはないのだが、本作に登場する熱狂的ファンの皆様は、オリジナルの三部作を愛するあまり特別編すら許せない“原理主義者”が多いみたい。思うに、どの人も最初にこの作品に出会ってしまった時の強烈な原体験を追い求めているふしがあるようで、世界中に存在する膨大なスター・ウォーズファンすべてのファンタジーを満たすことはそりゃぁ不可能だろうから、生涯そんな幻と戦い続けなければならなかったジョージ・ルーカス様はさぞや難儀なことだったろうと思う。同時に、これだけ多くの人々の人生を狂わせたこの作品がいかに巨大な存在であったかということにも、改めて思い至ったりした。

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【ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち】三星半

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ピナ・バウシュ、ヴッパタール舞踊団
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/フランス/イギリス
ひとこと感想:ヴィム・ヴェンダース監督が生前のピナ・バウシュと進めていたヴッパタール舞踊団のドキュメンタリー化の企画を、ピナ・バウシュの死後に完成させた3D映画。お恥ずかしながら、かの高名なピナ・バウシュの舞台をほとんどまともに見たことがなかったので、彼女の死後間もないこの時期にその舞台の一端を見せてもらうことができたというのは大変ありがたいことだと思った。けれど、3Dというのがやっぱり戴けない。アップやバストショットはまだしも、ロングショットになると、小さな画面の中でアリエッティやコロボックルみたいな小さな小人達がぴょこぴょこ踊っているみたいで、凄く妙。そのアンバランスさが気になって最後まで集中できず、残念ながら、どうにも鑑賞といったレベルの話にまで至らなかった。

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【ピナ・バウシュ 夢の教室】四つ星

監督:アン・リンセル
出演:ピナ・バウシュ、他
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ
ひとこと感想:ピナ・バウシュがティーンエージャー達とともに代表作『コンタクトホーフ』の舞台を創り上げるワークショップの様子を映したドキュメンタリー。ピナ・バウシュが次世代の子供達に託したい思いが、創作の現場の様子とともに伝わってくるようで、今までほとんど未見であったピナ・バウシュの舞台の素晴らしさの一端を見せてもらえたような気がした。正直、上記の【…踊り続けるいのち】よりもこちらの映画の方が魅力的なんじゃないかな。合掌。

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【ヒミズ】四星半

監督・脚本:園子温
原作:古谷実
出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、でんでん、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作とは正反対のラストらしい。原作の作品世界の中ではおそらく暗いラストが成立していたのだろうけれど(未読ですいません)、東日本大震災後すぐに創られたこの映画版では、この終わり方しかありえなかったんじゃないのかな。(震災の実景や設定を一部取り入れていることには是非があるそうなのだけれど、今から何十年か経ってこの映画を観ることがあったら、その性急さも必然的なものだったと映るのではないかと私は思う。)園監督はインタビューで「希望に負けた」と表現なさったとのことだが、そうでなければ、映画を創るという行為にも、映画を観るという行為にも、そもそも意味なんてなくなってしまうところだったのではないかと思う。大人達が流し込むありとあらゆる種類の毒を消化して、未来に向けて走り抜けていく二人の姿を見て滂沱した。立派な大人になって下さい。

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【ヒューゴの不思議な発明】三星半

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジョン・ローガン
出演:エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ベン・キングズレー、サシャ・バロン・コーエン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:本作はファンタジーでありながらアカデミー賞の多部門にノミネートされていたようだが(アカデミー賞では一般的に純粋なファンタジー作品に対する評価は低くなりがち、【LOTR】みたいな例外はあるけど)、映画というメディアにイマジネーションを持ち込んだと言っても過言ではないジョルジュ・メリエスに対するオマージュになっているところが、アカデミー会員のおじいちゃん達にも受け入れられた大きな理由なのだろう。まぁ悪くはない。が、いかんせん長い。本筋にあまり関係ない3D用の見せ場がだらだら続くのが、映画全体をぶよぶよの肥満体にしてしまっているのだ。私はまたしても、3Dの向こう側に映画の未来がある訳じゃないと思ったのだった。

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【ファウスト】四つ星

監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ
共同脚本:マリーナ・コレノワ、ユーリー・アラボフ
原作:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
出演:ヨハネス・ツァイラー、他
製作国:ロシア
ひとこと感想:何せファウストだから、他の作品よりはまだ話の起伏もあって分かりやすいような気はする。しかしこのあまりの格調の高さにはやっぱり馴染めず、やっぱり眠いんだよね……。ソクーロフ監督の映画を観る度に、自分には文芸映画の読解力はからきし無いのだなーと思い知らされる。本当にどうもすみません……。

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【ファミリー・ツリー】四つ星

監督・脚本:アレクサンダー・ペイン
脚本:ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ
原作:カウイ・ハート・ヘミングス
出演:ジョージ・クルーニー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:死にかけの妻を前に人生で大切なことに目覚める男。妻のことはどうにもならなくても、七転八倒する中で娘達との絆だけは何とか取り戻す。ジョージ・クルーニーとしては新機軸と聞いてそうかなぁ?と思ったのだが、そういえば、家族のことでこんなふうにウジウジ悩む役は今までなかったのかもしれないなと思い返した。それまで放置してきた自分の人生の問題点に勇気を出して向き合おうとするパパ・ジョージの姿は、やっぱりかっこよかったです。

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【ふがいない僕は空を見た】四つ星

監督:タナダユキ
脚本:向井康介
原作:窪美澄
出演:永山絢斗、田畑智子、原田美枝子、窪田正孝、三浦貴大、梶原阿貴、銀粉蝶、他
製作国:日本
ひとこと感想:アニメのコスプレをすることでギリギリの精神状態を保ってる主婦と、彼女と不倫をする男子高校生。田畑智子さんがペッタンコでガリガリの体を晒して演じるセックスのシーンが痛々しくて、彼女の心の痛みがヒリヒリと伝わってくるようだ。彼女をどうしてあげることもできない主人公(永山絢斗さん)の無力感もまたよく伝わってくる。総じて感情表現が丁寧でよく練り込まれていて嫌いじゃないけど、逆にいろいろなところに視点が散りすぎてしまっているような気もしてしまい、もう少し強い芯のような部分があってもいいのかなと若干思った。

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【ブラック・ブレッド】四つ星

監督・脚本:アグスティー・ビジャロンガ
原作:エミリ・テシドール
出演:フランセス・クルメ、他
製作国:スペイン/フランス
ひとこと感想:スペイン内戦後のカタルーニャの少年。厳しい時代だったのだろうけれど、誰もが脛に傷を持ち過ぎで、尊敬してた父ちゃんや愛する母ちゃんもあんなことやこんなことに……。そんな中で少年はどのように生きる決意をするのか。ちょっと枝葉が多すぎて視点が定まらないきらいはあるけれど、見応えはたっぷりな映画だった。

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【フラメンコ・フラメンコ】四星半

監督:カルロス・サウラ
出演:サラ・バラス、パコ・デ・ルシア、エバ・ジェルバブエナ、ホセ・メルセー、他
(ドキュメンタリー)
製作国:スペイン
ひとこと感想:思えば、1995年公開の【フラメンコ】を観てフラメンコに魅了されましたっけ。本作と同じカルロス・サウラ監督&ヴィットリオ・ストラーロ撮影監督による【フラメンコ】には、スペイン芸術の魂が凝縮されているフラメンコの歌と踊りと演奏が余すところなく映し取られていたけれど、それは約15年後の本作においても同様。フラメンコなんて分からんという人も、社会勉強としてとりあえず観ておこう。

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【friends after 3.11】四つ星

監督・出演:岩井俊二
出演:松田美由紀、小出裕章、後藤政志、飯田哲也、小林武史、山本太郎、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:岩井俊二監督が、福島第一原発事故後に原発について発言している様々な人々に対して行ったインタビューをまとめた映画。全員の意見に賛成できた訳ではないけれど、長年活動を続けてこられた方々や研究者の方々などの知見は傾聴に値する部分が多いのではないかと思う。

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【別離】四星半

監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:レイラ・ハタミ、他
製作国:イラン
ひとこと感想:娘の将来のため国外移住したい妻と、アルツハイマーの父のため国に留まりたい夫。父の介護のために雇った女性が原因で更なる混乱が起こる……。イランならではのローカルな事情も反映されているけれど、大筋はどこの国でも起こり得るようなすれ違いや行き違い。多くの映画人が亡命せざるを得なかったり活動制限を受けてしまったりしている現在のイランの体制下にあっても、人間の本質を見つめ、普遍的な人間の機微を描き出すことが出来ているファルハディ監督は凄い。多数の優れた映画人を輩出してきたイランの映画界の底力を見た。この映画が示す通り、イランは従来優れた文化国家であるはずなのだ。

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【ヘルタースケルター】四つ星

監督:蜷川実花
脚本:金子ありさ
原作:岡崎京子
出演:沢尻エリカ、寺島しのぶ、桃井かおり、大森南朋、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏、原田美枝子、他
製作国:日本
ひとこと感想:虚飾にまみれた芸能界での栄光と破滅を描いた岡崎京子さんの名作コミックを、蜷川実花監督が映画化。沢尻エリカさんは体を張ってヒロインが乗り移るほどに熱演していると思う。けれど、私の見るところ、彼女は本当はそれほど器用な人じゃなく、周りから見て危ういほどにのめり込んでしまうタイプではないかと思うので、大丈夫だろうかとちょっと危惧してしまう。映画全体はザッツ芸能界のイメージのカラーカタログみたい。イメージぴったりのカラフルな画面は素晴らしいけれど、寺島しのぶさんのカマトトぶりや大森南朋さんのクサい台詞、うるさすぎる音楽などアラが感じられる部分もあって、良い点と悪い点が半々という感じ。けれど総じて言えば、ここまでよく創ることが出来たなと思う。

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【ヘルプ 心がつなぐストーリー】四つ星

監督・脚本:テイト・テイラー
原作:キャスリン・ストケット
出演:エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサー、ブライス・ダラス・ハワード、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1960年代の公民権運動を背景にしたアメリカ南部の黒人メイド達の話。本作はあくまでも白人の金持ちのお嬢さんの正義感という目線から描かれている限界もあると思うけど、アメリカにはほんの50年前までこんな差別が当たり前に存在していたということ自体知らない人もいるだろうから、アメリカのこうした側面を知るいいきっかけにはなるんじゃないかと思う。ヴィオラ・デイヴィスさんやオクタヴィア・スペンサーさんなどが演じる黒人メイドさん達の力強さが心に残る。

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【ペンギン夫婦の作りかた】四つ星

監督・脚本:平林克理
共同脚本:アサダアツシ
出演:小池栄子、ワン・チュアンイー、他
原作:辺銀愛理
製作国:日本
ひとこと感想:食べるラー油ブームを巻き起こした石垣島ラー油(ダントツに美味いよね)の製作者の辺銀(ぺんぎん)暁峰さん・愛理さん夫妻の実話を元にした話。辺銀さんというのは結婚して帰化なさった時に自分で作った名字なので、日本に1件しかないのだそうだ。途中までサスペンス仕立てにしていることの意味は全く分からず、全く不要だと思われ、その分、小池栄子さんとワン・チュアンイーさんが演じるご夫妻の関係にもっと話を絞った方がよかったんじゃないかと思う。けど、南の島でのご夫妻の暮らしぶりをじんわり描いている部分はとても素敵で、この人達に少しだけ憧れてしまった。

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【放課後ミッドナイターズ】三星半

監督:竹清仁
脚本:小森陽一
声の出演:山寺宏一、田口浩正、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:人体模型と骨格標本のコンビって斬新~。彼らが深夜の学校を徘徊するって設定はバッチリだし、キャラクターがキッチュでグッズ展開もしやすそうだ。ただ、ストーリーはいかにも取って付けた感じで物足りない。もう少しアイディアを出して練り込んでもらった方がいいかもしれない。

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【僕達急行 A列車で行こう】四つ星

監督・脚本:森田芳光
出演:松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、ピエール瀧、松坂慶子、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作が森田芳光監督の遺作となってしまったことは心から残念だ。けれど本作を観て感じたのは、監督が面白いと感じていたのであろう物事と、自分の感覚との決定的なズレだった。思えば、監督の映画は幾らか面白いと思った作品とそうでない作品の落差がいつも激しかったし、もしかして心からハマったことは一回もなかったかもしれない。これは団塊の世代と自分の世代との落差なのか何なのか、いつか答えが出るのだろうか。とりあえず、本作は監督の長年念願の企画だったとのことで、完成したことはよかったと思う。謹んでご冥福をお祈りしたいと思います。

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【ぼくたちのムッシュ・ラザール】四つ星

監督・脚本:フィリップ・ファラルドー
出演:モハメッド・フェラッグ、ソフィー・ネリッセ、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:自殺した担任の後釜にやってきたアルジェリア系移民の変わった先生が、生徒達の気持ちを少しずつ開いていく。シビアな現実を投影しながらも、不思議に優しい手触り。カナダ映画は時々意外な秀作が出るのであなどれない。

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【星の旅人たち】四つ星

監督・脚本・出演:エミリオ・エステヴェス
出演:マーティン・シーン、デボラ・カーラ・アンガー、他
製作国:アメリカ/スペイン
ひとこと感想:エミリオ・エステヴェスさんってちょっとお懐かしい名前!本作ではチョイ役で出演しつつ主に監督を務めているのだが、主演に据えたお父さんのマーティン・シーンさんが名優だと証明したかったというのが主な制作動機なんだそう。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼というとコリーヌ・セロー監督の【サン・ジャックへの道】なんかを思い出すけど、本作は同じ巡礼の道を、良識を持ったアメリカ人が撮ったという感じ。人生を見つめながらも暗くなり過ぎないバランス感覚が絶妙で、エミリオさんていい歳の取り方をなさっているのだなぁと思った。

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【ボス その男シヴァージ】四つ星

監督:シャンカール
脚本:スワナンド・キルキレー、スジャータ
出演:ラジニカーント、他
製作国:インド
ひとこと感想:ラジニカーントの華麗なる七変化!【ロボット】を見て溜まった鬱憤が少しは晴らせたか?しかしラジニもの以外のインド映画って来ないのかな-。何だかなー。

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【ポテチ】四つ星

監督・脚本:中村義洋
原作:伊坂幸太郎
出演:濱田岳、木村文乃、大森南朋、他
製作国:日本
ひとこと感想:伊坂幸太郎さん×中村義洋監督×濱田岳さんの相性は抜群!!濱田岳さんは本当に上手いなぁ。淡々とした展開の中に意外な真実が見えてくるのがジワジワくる。68分と短いけれどエッセンスがギュッと詰まった良作。

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【ホビット 思いがけない冒険】四つ星

監督:ピーター・ジャクソン
脚本:フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ギレルモ・デル・トロ、ピーター・ジャクソン
原作:J・R・R・トールキン
出演:マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジ、イアン・マッケラン、アンディ・サーキス、ケイト・ブランシェット、ヒューゴ・ウィーヴィング、イライジャ・ウッド、クリストファー・リー、他
製作国:アメリカ/ニュージーランド
ひとこと感想:ご存知、【ロード・オブ・ザ・リング】の前日談で、これから三部作になる模様。【LOTR】の主人公フロドのお父さんのビルボがドワーフ達と旅に出るところで、【LOTR】のキャラクターも何人か出てくるから懐かしかったんだけど、全体的には少しゴチャゴチャした印象だったかも。でもこのテーマソングの『Song of the Lonely Mountain(はなれ山の歌)』をドワーフ達が重低音で歌うところは、かっこよくて好きだ。

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【ボブ・マーリー ルーツ・オブ・レジェンド】三星半

監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:ボブ・マーリー、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:7人の女性と11人の子供たち(うち2人は実子ではない?)を作ったボブ・マーリー。彼の人生についての百科事典的な知識は多少深まったし、抗争が続いていたジャマイカの二大政党の党首をステージに上げて和解させたという伝説的な瞬間が収まっているのも凄いけど、彼の“音”自体のルーツについてもう少し体感できるとよかったかなぁと思う。

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【マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙】三星半

監督:フィリダ・ロイド
脚本:アビ・モーガン
出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:私以上の年代だと実際のリアルタイムのサッチャー政権時代をいろいろ思い出してしまうのでは。しかしこの映画は、彼女が男性達に伍して政治家として成功する姿を描きたかったのか、彼女を支えた夫との関係を描きたかったのかどうもよく分からず、加えて、認知症を患っているとされる現在の姿を想像で作り出してまで描くことの意味も分からなかった。総じて、いろんなことに目配りするあまり、何をしたかったのかよく分からない映画になってしまったのではないかと思われる。

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【マイウェイ 12,000キロの真実】四つ星

監督・脚本:カン・ジェギュ
脚本:キム・ビョンイン、ナ・ヒョン
出演:チャン・ドンゴン、オダギリジョー、他
製作国:韓国
ひとこと感想:日本占領下の韓国で知り合った日本人と韓国人の少年が大きくなり、上官と兵士になったと思いきや、戦局の変化のためソ連軍やドイツ軍に拉致されて立場が逆転し、最後には分かり合うという。何せオダギリジョーさんが演じる差別野郎の嫌な奴っぷりが当初半端ないので、いくらユーラシア大陸の端から端まで放浪してお互い想像を絶する辛い体験をしたからって、分かり合えたり友情を育くんだりできるようになるものだろうかとちと疑問に思った。チャン・ドンゴンの超いい奴キャラとオダジョーの激ウマの演技力でギリギリ成立しているけれど。こんな壮大なスケールのドラマの中、支配する立場に回った途端にみんな等しく愚かになるという戦争の真実が描かれているところは、結構いいかもしれないと思った。

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【毎日がアルツハイマー】三星半

監督・出演:関口祐加
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:アルツハイマー病が進行していく母親をユーモアを交えながら撮ったドキュメンタリー。親の老化ということに関してはいろいろと思うところはあるが、それを書いてると終わらないのでまた今度。本作は“長編動画”と銘打たれているが、なんでもYouTubeに投稿していた動画を集めて再編集したものだということで、これからの映画の作り方の一方法として一石を投じているのではないかと思う。

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【MY HOUSE】四つ星

監督・脚本協力:堤幸彦
脚本:佃典彦
原作:坂口恭平
出演:いとうたかお、石田えり、他
製作国:日本
ひとこと感想:【モバイルハウスのつくりかた】というドキュメンタリーも公開されている建築家の坂口恭平氏のルポを原作にした堤幸彦監督の意欲作。路上生活者の主人公たちが、創意工夫に溢れた“家”を短時間でシステマティックに組み上げていく様子がまず圧巻で(ずっと建てていると違法になるから定期的に建てたりバラしたりするらしい)、これこそ「♪狭いながらも楽しい我が家」だったのに……。全編を通して“家”もしくは家に帰属する家族関係とは何なのだろうと、改めて考えさせられる。

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【マリリン 7日間の恋】四つ星

監督:サイモン・カーティス
脚本:エイドリアン・ホッジス
原作:コリン・クラーク
出演:ミシェル・ウィリアムズ、エディ・レッドメイン、ケネス・ブラナー、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:マリリン・モンローを描く物語の中でマリリン・モンローを演じるということは、誰もが知ってる本物のイメージを彷彿とさせつつ、あくまで本物とは異なる物語中の解釈としてのモンローを演じなければならないということで、そんなもの誰が演っても至難の業に決まっている。そんな無理難題を完璧にやってのけ、よい女優でありたいというプロ意識と自信のなさの間で揺れるモンローの感受性まで表現し尽くしたミシェル・ウィリアムズさんに盛大な拍手を送りたい。

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【ミステリーズ 運命のリスボン】三星半

監督:ラウル・ルイス
脚本:カルルシュ・サブガ
原作:カミロ・カステロ・ブランコ
出演:アドリアヌ・ルーシュ、他
製作国:フランス/ポルトガル
ひとこと感想:ポルトガル版大河ドラマといった趣きだけど、主人公が思っていた人と違っていたり、登場人物の顔や役柄が微妙に頭に入ってこなかったりと、なんだか微妙な感じを引き摺るままに終わってしまった……。もっとじっくり腰を据えて見ればもう少しは楽しめたかもしれないのだが、この日は入場時にちょっと問題があって落ち着かなくって……と人のせいにしてみる(上映が始まりそうになってるのにチケット売場の対応があまりにスローモーでイライラしてしまったのだ)。

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【道 白磁の人】四つ星

監督:高橋伴明
脚本:林民夫
原作:江宮隆之
出演:吉沢悠、ペ・スビン、酒井若菜、石垣佑磨、塩谷瞬、黒川智花、他
製作国:日本
ひとこと感想:戦前の朝鮮半島には、植林事業を行いながら朝鮮半島の陶磁器と木工を研究し日本に紹介した浅川巧さんという方がいらっしゃったのだそうだ。浅川さんは兄の浅川伯教さんや柳宗悦さん(キッチン雑貨で有名な柳宗理さんのお父様)らと共に朝鮮独自の美を研究して朝鮮民族美術館を設立し、現地に溶け込んで生活して、ほとんどの日本人が憎悪されていた当時に現地の人々からも敬愛を受けていたという。まずはこのような方を知らなかった自分の不明を恥じたい。教えて下さってどうもありがとう。吉沢悠さんはいい仕事を続けていらっしゃるようで何よりです。

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【ミッドナイト・イン・パリ】四つ星

監督・脚本:ウディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、他
製作国:アメリカ/スペイン
ひとこと感想:コクトー、フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、コール・ポーター、ガートルード・スタイン、ピカソ、ダリ、ブニュエル、マン・レイ、T・S・エリオット、マティス、ロートレック、ドガ、ゴーギャン……。プチ・タイムトリップをして夜な夜な彼らに会えるなんてファンタスティックなお伽噺!でも古き良きパリへのミーハーな憧れに終わらせないのがウディ・アレン監督の上手いところ。主人公は単なるペダンティック野郎で終わることなく、自分の人生を見つめ直したのでした。めでたしめでたし。

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【メランコリア】四星半

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、他
製作国:デンマーク
ひとこと感想:導入部を見てうつ病の話かと思って見てたらどうも違ってて、メランコリアという小惑星が地球に衝突して人類が滅亡してしまう話だった。下界で何が起こっていたのかは分からないが、郊外のお屋敷に住んでいる姉妹は、(男が恐怖感であっさり自滅したのとは裏腹に、)幼い娘と3人だけで敢然と静かにその時を迎える。今まさに地球に衝突しようとするメランコリアは、禍々しくも美しかった。ぶっちゃけ、人類が滅亡しようがするまいが、誰しも1回は死ななければならないし、1回だけ死ねば充分なのだから、大して変わりはないのよね。救いがないと怒る向きもあったようだが、最近のラース・フォン・トリアー監督作では随分まともな方だと私は思った。

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【メリエスの素晴らしき映画魔術】四つ星

監督:セルジュ・ブロンベルグ、エリック・ランジュ
出演:ジャン=ピエール・ジュネ、ミシェル・ゴンドリー、ミシェル・アザナヴィシウス、コスタ・ガヴラス、他
製作国:フランス
ひとこと感想:ジョルジュ・メリエスの業績の紹介や、【月世界旅行】の幻のカラー彩色版の発掘と復刻という濃ゆい内容。映画ファンなら見ておくべき!しかしここまで頑張って修復したのなら、傷を残したバージョンだけでなく、完全にキレイにしたバージョンも作ってみればよかったのではないだろうか?それと、BGMがあまりにひどいのは何とかならなかったのだろうか……。

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【メリダとおそろしの森】四つ星

監督・脚本:ブレンダ・チャップマン、マーク・アンドリュース、スティーブ・パーセル
共同脚本:アイリーン・メッキ
声の出演:ケリー・マクドナルド、エマ・トンプソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:原題はズバリ【Brave】(勇者)で、弓を操るおてんばな王女の冒険物語。母と娘の自我の葛藤の物語って今までほぼ描かれてこなかったと思うので、これはハリウッドの歴史においてすら画期的なことだと思うんだけど、原案を出したブレンダ・チャップマン監督は男性監督に交代させられてしまったというから何だかな。完成作にはチャップマン監督の意図もある程度は反映されていたということなのでまだよかったけど、この辺も全部含めて日本のマスコミのオジサン達にはよく伝わらなかったみたい。日本でこの映画がヒットしなかったのは、こういったことを理解する能力の無かった日本のマスコミのオジサン達のせいだと私は思っている。
ハリウッドでハイランド(スコットランドの一部で昔は異世界とされていた)ものが流行しているのかどうか知らないが、剣と魔法の世界にロマンを感じるのは日本人だけじゃないみたいだよね。メリダのもしゃもしゃの赤毛の表現とか、CG離れした画の美しさもあいまって見応えのある映画になっているので、是非ご覧になってみて戴きたい。

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【モバイルハウスのつくりかた】四つ星

監督:本田孝義
出演:坂口恭平、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:建築家の坂口恭平さんが3万円以下の元手で3畳程度の可動式の家を建てる過程を、【船、山にのぼる】の本田孝義監督が撮ったドキュメンタリー。何でも、車輪さえつけておけば法律上は車両扱いになるので、宅地じゃなくてもどこでも置いていいということになるから“モバイルハウス”となるらしい。
不勉強で坂口さんという方を存じ上げなかったのだが、その特異なスタンスが一部で支持されているのだそうだ。確かに、家を建てるという行為は今の日本の資本主義のシステムの中にがっちり組み込まれていてべらぼうにお金が掛かる仕組みになってしまっているけれど、一旦現状から切り離したところでいろいろ根本的に考え直してみてもいいんじゃないかという方向性は間違っていない気がする。確かにこれは天才的な発想の転換かもしれない。
ただ、原発事故からのエクソダスについて語る終盤は個人的には少し余計かなと感じられた。これには個人個人で様々な考えがあり、誰かに指示されるようなことでも、簡単にコンセンサスを作れるようなことでもないと思うのだ。

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【ももへの手紙】四つ星

監督・脚本:沖浦啓之
声の出演:美山加恋、優香、西田敏行、山寺宏一、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:瀬戸内海の島での人々の暮らしぶりや親子の感情の行き違いなどの丁寧な描写はとても素晴らしいと思ったけれど、これらの要素と妖怪というのがいまいちしっくり絡んでいなかったような気がしないでもない。本来あまり役には立たず、毒にも薬にもならないというのが妖怪の正しい佇まいなのかもしれないけれど、クライマックスに至る前からもっと積極的に主人公に絡んできてもいいのではないだろうか。しかし、最後にダイダラボッチ風のものが出てきた時にはずっこけた。結局ジブリの影響から逃れられないってことなのかなぁ。

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【モンスターズクラブ】三星半

監督・脚本:豊田利晃
出演:瑛太、窪塚洋介、他
製作国:日本
ひとこと感想:ショーン・ペン監督の【イントゥ・ザ・ワイルド】を見た時も思ったが、世の中、隅々まで何かに支配されているからってそれが何なの。人間は生きていくためにはどうしても誰かの手になる何かの世話にならなければならないし、文明の利器を振り回しながら自分一人で生きているような気になって世捨て人を気取るのがそもそもずうずうしいんだよ。完全なる自由とか言ってる時点でガキのたわごとなんだってば。と思った。

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【屋根裏部屋のマリアたち】四つ星

監督・脚本:フィリップ・ル・ゲイ
共同脚本:ジェローム・トネール
出演:ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、他
製作国:フランス
ひとこと感想:1960年代のパリでは、フランコ政権下のスペインから出稼ぎに来ていたメイドさん達がポピュラーだったのだそうで、監督さん自身も子供時代にこのようなメイドさんのお世話を受けていたのだそう。本作はそんなメイドさん達を描いた物語。人生の酸いも甘いも噛み分けた陽気で優しくて逞しいメイドさん達は、中身カラッポのブルジョアマダム達との対比であまりにも理想化されているようにも思うんだけど、監督さんの記憶の中の彼女達は間違いなくこのような素晴らしい存在だったのでしょうね。

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【闇金ウシジマくん】四星半

監督・脚本:山口雅俊
共同脚本:福間正浩
原作:真鍋昌平
出演:山田孝之、やべきょうすけ、崎本大海、片瀬那奈、林遣都、大島優子、黒沢あすか、新井浩文、他
製作国:日本
ひとこと感想:闇金の経営者という今の時代ならではのニュータイプのアンチヒーロー。本作はたまたま深夜帯のテレビシリーズから見ているが、お金にまつわる話は人間の深い業を反映しやすく、きちんと描けばこれほど的確に世相を炙り出すことができるモチーフも他にないかもしれない。このクスリとも笑わないコワモテの百戦錬磨の主人公を演じる山田孝之さんがあまりにも素晴らしく、見事な当たり役になったなぁと思う。映画用に選ばれたイベント系サークルと出会いカフェの2つのエピソードの再構成も見事で、それぞれの主人公を今までにないイメージで演じ切った林遣都さんも大島優子さんも素晴らしかった。

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【夢売るふたり】五つ星

監督・脚本:西川美和
出演:松たか子、阿部サダヲ、鈴木砂羽、田中麗奈、安藤玉恵、江原由夏、木村多江、笑福亭鶴瓶、香川照之、伊勢谷友介、他
製作国:日本
ひとこと感想:思わぬ不幸に見舞われて、フヌケになる旦那と、本当は泣きたいはずなのに心を鬼にして前進しようとする妻。この二人がひょんなきっかけから結婚詐欺に手を染め、どんどん悪質な方向へ踏み出してしまう……。やっぱり西川美和監督は掛け値なしの天才!人間の細やかな心の機微をここまで踏み込んで鮮やかに描ける人は今の日本にはいない。人好きのする旦那を演じた阿部サダヲさんを始め、誰一人ミスキャストのいない完璧な人物配置だけど、やはり松たか子さんの演技は特に図抜けていて、女性のあらゆる情念を体現しているかのような筆舌に尽くしがたい名演は必見。こんな凄まじい夫婦の話がお子様に分かる訳がないので、青二才のにーちゃんとかが本作を見てよく分からないとか批判しなくていいです。

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【容疑者、ホアキン・フェニックス】二星半

監督・脚本:ケイシー・アフレック
脚本・出演:ホアキン・フェニックス
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ホアキン・フェニックスが、俳優をやめてラッパーに転向するなどと大嘘をついて周囲を振り回した様子を、2年間にも渡って映した映画。話を聞いた時には前衛的かもと思ったけれど、実際映画を見てみると、金持ちのヒマ潰しの所業にしか見えなかった。アホなことやってないでちゃんと俳優業に精進して下さい。

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【よみがえりのレシピ】四つ星

監督:渡辺智史
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:山形県内各地に伝わる在来作物の種を受け継ぎ、次代に伝えようとする人々の姿を追ったドキュメンタリー。日本には旧来多くの在来作物(地域で受け継がれてきた作物のこと)があったらしいが、味は良くても栽培が難しいものが多く、病気に強くて収穫量も多い画一的な改良種に取って代わられる傾向があり、既に消滅してしまったものも多くあるらしい。でも、割高でも味が良い野菜のデリバリーや通販が一部で広がっているという土壌があるならば、今後はこうした野菜の保存や伝承ができるようになる可能性もあるのではないだろうか。ただ、素人だからよく分からないのだが、こういう在来種って国の施設とか農協とかで保存したりはしていないものなのかな?こういう生物学的多様性は後世の人達のために保護しておく義務とかがあるんじゃないかと思うんだが……。

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【夜のとばりの物語】四つ星

監督・脚本:ミッシェル・オスロ
(アニメーション)
製作国:フランス
ひとこと感想:ジブリの配給でお馴染みのミッシェル・オスロ監督の最新作。幻想的な影絵巻は相変わらず超美しい。

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【ライク・サムワン・イン・ラブ】四つ星

監督・脚本:アッバス・キアロスタミ
出演:奥野匡、高梨臨、加瀬亮、でんでん、他
製作国:日本/フランス
ひとこと感想:デートクラブ嬢にうっすら恋するご高齢の男性を、ナチュラルといえばナチュラル、とりとめがないといえばとりとめのない近年のキアロスタミ監督らしいタッチで描いた映画。見ている時はあんまりよく分からなかったけれど、後になって考えると不思議な吸引力があって、妙に心に残る部分があるかもしれない。ともあれ、昨年の【CUT】のアミール・ナデリ監督もそうだけど、世界的な定評がありながら国内での製作状況が厳しくなっているイラン人の監督さんに映画を創る機会を日本で提供しようという試みは、いいことなんじゃないかと思います。

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【LOVE まさお君が行く!】三星半

監督:大谷健太郎
脚本:高橋泉
出演:香取慎吾、広末涼子、成海璃子、光石研、他
製作国:日本
ひとこと感想:『ポチたま』という番組に出ていた芸人さんと「まさお君」という犬のエピソードを、創作を加えて脚色したものらしい。ちょっとベタな部分もあるけれど、漠然とした実話に緩急をつけてストーリー化するのはなかなか難しいと思うので、ある程度成功していると言っていいのではないかと思う。香取慎吾さんが、「まさお君」の引き立て役に回りつつ売れない芸人の逡巡も演じ切っていたのは、やっぱり上手いなぁと思った。

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【RIVER】三つ星

監督・脚本:廣木隆一
共同脚本:吉川菜美
出演:蓮佛美沙子、他
製作国:日本
ひとこと感想:2008年の秋葉原通り魔事件をモチーフに映画を創ろうとしていたところに東日本大震災が起きて、この二つを無理矢理くっつけようとして失敗した感がある。老婆心ながら、蓮佛美沙子さんはあまりにも大切にされすぎていて、このままではひと頃の長澤まさみさんと似たような伸び悩みを経験するのではあるまいかと危惧してしまった。

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【ル・アーヴルの靴みがき】四つ星

監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン
製作国:フィンランド/フランス/ドイツ
ひとこと感想:ル・アーヴルはフランスの港町。カウリスマキ監督の映画でフィンランドが舞台じゃないなんてちょっとびっくりだけど、不法移民の黒人少年が出てくるという点以外はほぼいつものカウリスマキ映画。ただ、少年が主要人物なだけに、さすがにそんなシビアな展開にならなくてちょっとほっとした。

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【ルート・アイリッシュ】四星半

監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァーティ
出演:マーク・ウォーマック、他
製作国:イギリス/フランス/ベルギー/イタリア/スペイン
ひとこと感想:今日びの戦地では、正規兵が慢性的に不足しているため、訓練・警備・輸送・建設などの後方支援はアウトソーシングして民間軍事会社(PMC=Private Military Company)に請け負わせ、コントラクターと呼ばれる専門職の請負人(民間兵)に行わせているらしい、という事実をそもそも知らなかった。何でそんなことまでして戦争をやりたいんだよ。何でそんなことまでして金儲けがしたいんだよ。本作は、イラクの戦地で兵士が一般人を殺してしまった事件に巻き込まれたコントラクター達の物語。今まで観たケン・ローチ監督の映画の中でも最も救いがない世界だと思った。

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【るろうに剣心】四星半

監督・脚本:大友啓史
共同脚本:藤井清美
出演:佐藤健、武井咲、蒼井優、青木崇高、吉川晃司、香川照之、江口洋介、綾野剛、須藤元気、奥田瑛二、他
製作国:日本
ひとこと感想:NHKで『ちゅらさん』『ハゲタカ』『龍馬伝』などに携わった大友啓史監督のNHK退職後の第1作。原作やアニメのファンの皆さんがどう思うのかはよく分からないけど、これは想像以上の出来栄えだった。「殺さずの誓い」という信念へのアプローチがストーリーに貫かれているのがよかったし、アクションシーンも本格的で、佐藤健くんのあまりの身体能力の高さと動きの美しさに驚いた。原作からの明治初期という時代設定も絶妙で、これは娯楽映画として世界に通用するレベルの面白さなんじゃないだろうか。マンガ好きの人がたくさんいる国々にガンガン輸出してやろーぜぃ!

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【レンタネコ】四つ星

監督・脚本:荻上直子
出演:市川実日子、草村礼子、光石研、田中圭、小林克也、他
製作国:日本
ひとこと感想:ネコをレンタルで貸し出すヒロインを通して優しい人々をじんわりと描くオムニバス。嫌いじゃないけど、地味と言えば地味。もう少しだけ力強さが欲しいかなぁ。【めがね】がよかったのは、小林聡美さんともたいまさこさんの存在自体にハードボイルド性があって、それが作品を重みづけていたから。荻上直子監督以外の手による【めがね】のエピゴーネン映画は非常に多いけど、ただふわっと優しいだけなのは似ているようで全然違うということはもっと認識されるべきだと思う。

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【ローマ法王の休日】四つ星

監督・脚本:ナンニ・モレッティ
共同脚本:フランチェスコ・ピッコロ、フェデリカ・ポントレモーリ
出演:ミシェル・ピッコリ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:法王に選ばれたお坊さんが職務放棄!?ナンニ・モレッティ監督じゃなければ下手すりゃ発禁レベルのプロットなんじゃないだろうか。しかもこのエンディング……いいのかこれで?人々から崇拝される聖職者の皆さんも心に色々なプレッシャーを抱えているということなのだろうか?日本で言えばコミック版の『ファンシィダンス』みたいなものかな?(古い。)

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【ロボジー】三星半

監督・脚本:矢口史靖
共同脚本:矢口純子
出演:五十嵐信次郎(ミッキー・カーチス)、濱田岳、川合正悟(チャンカワイ)、川島潤哉、吉高由里子、田畑智子、他
製作国:日本
ひとこと感想:矢口史靖監督は昔から大好きな監督さんの一人なのだが、今回はちょっと戴けなかった。現実を全く無視した無理難題を現場に押し付けてくるワンマン社長とか、クビが恐いのか知らないが一種の詐欺行為を働き続けることを唯々諾々と受け入れるサラリーマンとか、そういう古~い日本型の企業体質を見せつけられても全く笑えないのだが。その上、ちょっと有利な立場に立ったからって周りの迷惑顧みず調子に乗っちゃうタイプの人(ロボットに入るおじいさん)とか、嘘をごまかすために更に嘘を重ねる的な展開とかが個人的に非常に苦手で、全編苦痛でしかなかった。そもそも、大事な仕事はバックアップを取っとくなんて、仕事をする人間には基本中の基本なので、こんな展開はありえないでしょ?昔の【ひみつの花園】みたいな確信犯的な出鱈目を気軽に楽しめということだったんだろうけど、あんまりにも現実離れした筋書きだと、楽しむ以前に萎えてしまいますわ。

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【ロボット】一つ星

監督・脚本:シャンカール
脚本:マドゥハン・カーキ、スジャサ・ランガラジャン
出演:ラジニカーント、アイシュワリヤー・ラーイ、他
製作国:インド
ひとこと感想:インド映画の久々の一般公開作だったので期待に胸を膨らませて見に行ったのだが……なーんか妙な暗転が多いし、なーんか全体的に無機質で薄味。お楽しみのミュージカル・シーンもなーんか全然物足りない。大体、インターミッション(途中休憩)が来るタイミングが早すぎる……しまった、これはやられたか!? 帰って調べてみると案の定、劇場で見せられたのはオリジナル版より40分近くも短いバージョンだった……。バカヤロー!! こんなのサギだろ!! 貴重な金と時間を返せ!! と言ってももう遅い。
あの慣れるとクセになる独特のコテコテの味を泥臭いと言い、あの無意味に派手で豪華な桃源郷の如きミュージカル・シーンを無駄と言って排除したら、インド映画の魅力なんて1/10くらいになってしまうんじゃないだろうか。何でもオリジナル版にはラジニカーント様がマチュピチュの遺跡で歌い舞い踊るシーンがあるんだとか……うぅ、み、見たい。それを切っちゃって妙なCGの場面ばかりを残すなんてバカなんじゃないの!? インド映画としては新しい表現なのかもしれなくても、そんなものをわざわざ見に行くくらいなら、ビデオ屋で【トランスフォーマー】でも借りてきて見た方がマシってもんだ。
どうやら配給側は、最初の公開の手応えがよければオリジナル版を完全版とかいって公開する心づもりだったらしいのだが、不完全版にうっかり無駄金を払わされ貴重な時間を浪費させられたこの損害をどうしてくれる。今回の配給方法については、あなたたちは根本的に何かを履き違えているよ。人との出会いと一緒で、作品との出会いなんて一期一会なんだからね。

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【わが母の記】四つ星

監督・脚本:原田眞人
原作:井上靖
出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい、他
製作国:日本
ひとこと感想:井上靖さんの手記を元にしたという本作は、昔自分を捨てたと思い込んでいた母親が年老いて認知症の症状が出てくる中で、昔の母親の行動の真意が分かってくるという筋立て。樹木希林さんや役所広司さんの演技は本当に素晴らしかったけど、あたしゃ「昭和の男」アレルギーでして、役所広司さんの演じる作家さんのエラソーなお父さん像は見ているだけで耐え難く、本筋に集中するのがなかなか難しかった。

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【私が、生きる肌】三つ星

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
共同脚本:アグスティン・アルモドバル
原作:ティエリ・ジョンケ
出演:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:娘を強姦した相手を女にして愛人にするとか、なんつー滅茶苦茶な話。アルモドバル監督らしい倒錯感に満ち溢れてはいるけれど、いくら顔と体を愛する亡き妻に似せたからってこういう相手を愛せるもんかなー?いくら何でも精神性ってものを無視し過ぎなんじゃないの?と疑問に思ってしまった。

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【わたしたちの宣戦布告】四つ星

監督・脚本・出演:ヴァレリー・ドンゼッリ
共同脚本・出演:ジェレミー・エルカイム
製作国:フランス
ひとこと感想:主演も兼任のヴァレリー・ドンゼッリ監督が、かつてのパートナーと共に息子の難病という実体験を映画化。あるカップルが出会い、恋をして、子供が出来たけれど病気が発覚し、打ちひしがれ、それでも子供のために強くなる。ドキュメンタリーみたいな不思議なタッチで、独特のリアルな息づかいに引き込まれた。

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【ONE PIECE FILM Z】三星半

監督:長峯達也
脚本:鈴木おさむ
声の出演:田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー、大塚芳忠、篠原涼子、香川照之、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:ゼットさんというのが悪役なんだが、一般ピープルを犠牲にすることをいとわずに目的を果たそうとする奴をカッコイイと持ち上げるって、それはどうなのよ?一般ピープルの一人一人それぞれにコツコツと積み上げた生活や人生があるんだから、それを破壊するような奴なんて、どんな理由があろうとも絶対に許せないんだけど。あと、脚本を書く人が、今までの『ONE PIECE』作品にない独自の振幅を入れ込もうとしてるっぽいのが、どうも微妙に相容れなくて。まぁそこまで目くじらを立てずに適当に楽しめればよかったんだろうけど……。

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