Back Numbers : 映画ログ No.91



2014年に見た全映画です !!


【あいときぼうのまち】三星半

監督:菅乃廣
脚本:井上淳一
出演:夏樹陽子、勝野洋、千葉美紅、黒田耕平、大池容子、伊藤大翔、他
製作国:日本
ひとこと感想:戦後から高度成長期を経た現在までの福島と原発の相克の歴史を4世代の物語として活写。時代も場所も演じる人もばらばらな話が前後する構成は少し分かりにくいかもしれないと感じたけれど、こうしたテーマを手掛ける意欲は支持したい。それにしても、人が何十年も住めない土地を作り出し、10万人を超えるディアスポラを生み出してまで原発を再開させたいと願う人々は、更に国土を破壊するリスクを背負い続けてまで一体何をしたいのだろうか。住める土地を失ってしまったら、もうそれは国がどうとかいう以前の問題なんじゃないのかな。

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【アイム・ソー・エキサイテッド!】二星半

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ハビエル・カマラ、セシリア・ロス、ロラ・ドゥエニャス、ラウール・アレバロ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:飛行機内で三人組のオネエのCAやバイセクシャルの機長やクセ者揃いの観客達が乱痴気パーティを繰り広げる……。アルモドバル監督の最初期の【セクシリア】などを思い起こさせるような内容だったのだが、パッと見ではそこまで思いつかずに置いてけぼりをくらってしまった。原点回帰に走るというのは、監督もいよいよネタ切れで手詰まり感があるのかもしれないか、こういう映画を楽しんで作ってリフレッシュして、また新たなステージに突入するのだとすれば、それもいいんじゃないだろうか。

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【悪童日記】四つ星

監督・脚本:ヤーノシュ・サース
共同脚本:アンドラーシュ・セーケル
原作:アゴタ・クリストフ
出演:アンドラー・ジェーマント、ラースロー・ジェーマント、ピロシュカ・モルナール、他
製作国:ドイツ/ハンガリー
ひとこと感想:アゴタ・クリストフの『悪童日記』は、これまでポーランドのアグニエシュカ・ホランド監督(『ソハの地下道』)やデンマークのトマス・ヴィンターベア監督(『偽りなき者』」)といった有名どころが映画化権を獲得しながら、色々あって実現に至らなかったのだそうだ。この度、原作のアゴタ・クリストフの出身国であるハンガリーで作られることになって本当によかった。実際に出来上がった映画を見てみたら、正に原作を読んだ時に頭に思い描いた通りの風景だったので、おそらく誰もこれ以上うまく三次元化することなんてできないんじゃないかと感銘を受けた。けれど、言いしれ得ぬ違和感を感じてしまったのは何故だろう?実は本を読んだ時には主人公をかなり内面から主観的に追い掛けていたのに、映画では主人公を外側から見ていたからだったのではないか、という気がした。

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【アクト・オブ・キリング】四つ星

監督:ジョシュア・オッペンハイマー/クリスティーヌ・シン
(ドキュメンタリー)
製作国:デンマーク/ノルウェー/イギリス
ひとこと感想:インドネシアでは、かつて国軍と共産党が権力闘争をしていたそうなのだが、1965年に起こった9.30事件というクーデター未遂事件をきっかけに、共産党に寛容であったスカルノからスハルトへ政権が移るのと前後して、100万人とも200万人とも言われる共産党関係者の大虐殺が起こり、共産党が完全に崩壊したのだそうだ。(日本を含む西側諸国は、冷戦下の反共の流れの中で、この大虐殺事件を批判もせず完全に黙殺したらしい。)この時に共産党関係者を実際に虐殺したのは、国軍から密かに武器を渡されたごく普通の反共の民間人で、つまり、その辺のおっさん達が疑わしい人を手当たり次第に殺しまくり、時にはどさくさに紛れて女も強姦しまくって、そのまま地元の名士と化して現在に至る、という大変恐ろしい状況がごく普通にあちこちに存在しているのだそうだ。しかし、この歴史を清算しようにも、この元おっさんの虐殺犯達(現在は大体じいさんになっている)を直接告発するのは現実的には大変難しいので、うまいことおだてて当時の様子を再現フィルムのように演じさせてみた、というのが本作のあらまし。……こんな斬新すぎるドキュメンタリーの手法、聞いたこともない。しかし、こんな大規模な虐殺事件があったということが知られていないこと自体が驚きで、この件を世に知らしめるため様々なリスクを負いながらこの映画を作った人々は凄い。その思いに報いるため、まずはこの映画の存在を世に広めることが重要なのだろうと思った。

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【アデル、ブルーは熱い色】四星半

監督:アブデラティフ・ケシシュ
共同脚本:ガリア・ラクロワ
原作:ジュリー・マロ
出演:アデル・エグザルホプロス、レア・セドゥ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:恋愛の始まりから終わりまでをただひたすらに濃密に描写した作品。主人公がたまたま女性同士だったというだけなのだが、同性愛を描いた映画は時として、異性愛を描いた映画よりも混じり気のない純粋な剥き出しの関係性を描き出すことがある。好むと好まざるとに関わらず、この関係性をここまで徹底的に描き切っているのが凄い。
女性同士の恋愛は、男性同士の恋愛より更に描かれる機会が少ないと常々言われているのだが、今思い返してみても、【リアンナ】【月の瞳】【バタフライキス】くらいしか出てこない(レズビアンをモチーフに使っている映画はいろいろあるけれど、その関係性を真正面からきちんと描いている作品は少ないと思う)。本作はそうした1本に加えることが出来る作品なのではないかと思う。

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【あと1センチの恋】四つ星

監督:クリスティアン・ディッター
脚本:ジュリエット・トウィディ
原作:セシリア・アハーン
出演:リリー・コリンズ、サム・クラフリン、ジェイミー・ウィンストン、他
製作国:ドイツ/イギリス
ひとこと感想:お互い想い合っているのに、ちょっとしたタイミングのズレですれ違い続ける幼なじみの二人がもどかしくも愛おしい。しかし、可愛いラブストーリーなのかと思いきや、結構容赦なくシビアな展開も待ち受けていたりする。多分、これ以上すったもんだを繰り返すとわざとらしくなるので、このバランスが絶妙なんだと思う。それにしても、映画館が若い女の子でこんなに溢れかえってるのを久々に見た!いや、ただ単に筆者が最近そういう映画を極力見に行かないようにしているだけなのかもしれないけど。
ところで、このヒロインの彼女、フィル・コリンズの娘なんだそうな。(今40代以上の人には分かるよね。)そう、言われてみればこれはアメリカ映画じゃなくてイギリス映画なんだよね。

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【あなたを抱きしめる日まで】四つ星

監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ
出演:ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、他
製作国:イギリス/アメリカ/フランス
ひとこと感想:アイルランドのカトリック教会が、未婚の母から子供を取り上げてアメリカに勝手に養子に出し、母と子の双方に「行方が分からない」と嘘を言っていた、という実話を基にした話。過去には例えば、アイルランドのカトリックの修道院が未婚の母を集めて監禁し強制労働をさせていたという【マグダレンの祈り】、イギリス政府が施設の子供達を労働力としてオーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどに送り込んでいたという【オレンジと太陽】といった映画があり、世界中のどこにも黒歴史ってあるもんだと改めて思った。基本的にあまり救いがない話だけど、俗っぽいけど善良で、自分の過去と向き合う覚悟で驚くべき粘り強さを見せる女性の人間としての豊かさとユーモア、そんな女性に少しずつ感化されていくお堅いジャーナリストの姿には、少しだけカタルシスがあった。

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【アナと雪の女王】四つ星

監督:クリス・バック
監督・脚本:ジェニファー・リー
共同脚本: シェーン・モリス
声の出演:イディナ・メンゼル、クリスティン・ベル、他
(アニメーション)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:当初はアンデルセンの『雪の女王』にインスパイアされた話だと聞いていたのだが、もうそんなルーツの話なんてどこかへ行ってしまうくらい、本作自体が大ヒットして大メジャー作品になってしまった。見る前は、姉で雪の女王であるエルザが悪者なのかと何となく思っていたら違っていて、妹のアナとの姉妹関係を描いた話になっていたのだが、聞いたところによると、『Let It Go』を作ったらあまりに素晴らしい出来栄えだったので、路線変更したんだそうだ。某バラエティ番組でこの映画を「長女あるある」「長女号泣映画」と呼んでいたのだが、確かに、ここまで“姉妹であること”や“長女であること”自体をテーマにした作品って珍しいんじゃないかな。男性芸能人の一部に「ストーリーが平凡」とかドヤ顔で言っていた人達が何人かいたのだが、彼等は、長女であることとか姉妹関係とかに悩んだことのある女性の気持ちを慮ったことなど人生のうちでただの一度もない、想像力の乏しい人間であるということを白状しているに過ぎないのだということに、いつか気が付くことはあるのだろうか。

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【アメリカン・ハッスル】四星半

監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル
共同脚本:エリック・ウォーレン・シンガー
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ジェレミー・レナー、ロバート・デ・ニーロ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:“ハッスル”は詐欺の意味で、本作は、1970年代のニュージャージー州アトランティックシティのカジノ建設中に実際に起きた“アブスキャム事件”という贈収賄事件を元にした話なんだそう。ハゲでデブだがチャーミングな天才的詐欺師の主人公とその有能かつセクシーなパートナー、詐欺師を脅して協力させおとり操作を仕掛けようとするFBI、寂れたアトランティックシティに必死にカジノを誘致しようとする人格者だが清濁併せ持つ面もある市長、そして歩く爆弾みたいな詐欺師の妻と、全員が脛に傷持つ人物だけれど魅力的で、どうなってしまうのか最後の最後まで目が離せない。ワン・ポイント出演のデ・ニーロもいい味出してて、退屈しないことは間違いない。

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【ある過去の行方】四つ星

監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、他
製作国:フランス/イタリア/イラン
ひとこと感想:【彼女が消えた浜辺】【別離】で国際的な評価を受けるイラン出身のアスガー・ファルハディ監督の新作。今回はパリの下町が舞台で、それぞれの人物が目の前の現実に対して抱くほんの少しばかりの抵抗感が絡み合い、人間関係がもつれていく。この複雑で繊細な人間描写は相変わらず見事。イラン映画を観るとイランて文化度高いな~といつも思うのだが、ファルハディ監督の作品では特にそう感じてしまう。

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【イーダ】三星半

監督・脚本:パヴェウ・パブリコフスキ
出演:アガタ・クレシャ、他
製作国:ポーランド/デンマーク
ひとこと感想:天涯孤独のはずだった修道院育ちの女性が、修道女になる誓いを立てる前に叔母に会ってこいと言われ、自分のルーツを知るための旅に出ることになる……。そこに第二次大戦中のポーランドの歴史などがオーバーラップされているということなのだが、う~ん、なんだろうこれ。私はこの主人公の女性に何ら気持ちを重ねることができなかったので、修道女になるのもならないのも、行きずりの男とできちゃうのも、勝手にすれば?と思うことしかできなかったんだけど。

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【家路】四つ星

監督:久保田直
脚本:青木研次
出演:松山ケンイチ、内野聖陽、田中裕子、安藤サクラ、他
製作国:日本
ひとこと感想:震災後、自宅の農地が警戒区域内になった一家で、跡取りだったのに農地を奪われて苦悩する兄と、家出先から舞い戻り一人勝手に農地を耕し始めた弟の物語。本作の久保田直監督は今まで数多くのドキュメンタリー番組を手掛けてこられた方のようだが、本作で初めてフィクション映画に挑戦したのだそうだ。震災後、様々な人により様々なドキュメンタリーが作られて公開されてきたけれど、それぞれの人が自分にとって一番身近な興味に三々五々取り組んで小出しにすることに留まるだけでなく(勿論、それはそれで価値があるとは思うんだけど)、様々な状況を織り込んで抽象化しある程度俯瞰するために“物語”に昇華することも必要性があることなのだなと思った。

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【怒れ!憤れ! ステファン・エセルの遺言】四つ星

監督・脚本:トニー・ガトリフ
原案:ステファン・エセル『怒れ!憤れ!』
出演:ベティ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:第二次世界大戦中のレジスタンスの闘士であり、その後も社会的弱者のために戦い続けたステファン・エセル氏(2013年死去)が93歳時の2010年に出版した32ページのパンフレット「Indignez-vous!(怒れ!憤れ!)」は、銀行・金融の不正や経済格差を告発し、欧米での抵抗・抗議運動や“アラブの春”などにも影響を与えたのだという。本作はロマの出自を持つトニー・ガトリフ監督が、このパンフレットの内容を独自の視点から映像化したもの。しかし日本人は、世界にこんなムーブメントが存在するという情報自体からも隔絶され、捻じ曲げられた天下泰平のイメージの中にどっぷり飼い慣らされているという次第。おーコワ。

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【偉大なる、しゅららぼん】三つ星

監督:水落豊
脚本:ふじきみつ彦
原作:万城目学
出演:濱田岳、岡田将生、深田恭子、渡辺大、貫地谷しほり、笹野高史、村上弘明、佐野史郎、髙田延彦、田口浩正、大野いと、柏木ひなた、他
製作国:日本
ひとこと感想:どうしてこれだけのネタと役者が揃っててこの程度の出来なのか。無難にまとめてあるだけで弾けないのが勿体無い。万城目学さんの原作作品って、特殊なギミックを消化してお話をまとめるのにいっぱいいっぱいで、それ以上の広がりに乏しいような気がするんだよね。ストーリーやキャラクターを描くまでに至らないというか、そんな感じ。

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【愛しのゴースト】二つ星

監督・脚本:バンジョン・ピサンタナクーン
出演:マリオ・マウラー、ダビカ・ホーン、他
製作国:タイ
ひとこと感想:タイでは誰もが知っているという有名な怪談「メー・ナーク・プラカノーン(プラカノーンのメー・ナーク)」は、夫が戦場に行っている間に出産を迎えて死んだ新妻のナークさんが、夫が愛しいあまりに死にきれず、ピー(精霊や悪霊と訳されている)となって村人に祟るという話。本作はこれをコメディにアレンジした作品で、タイでは大ヒットを記録したらしい。しかし、おそらく現地の人々には登場人物たちがおマヌケなところが面白いんだろうけど、私にはひたすら間延びして見えてしょうがない。残念ながら「笑い」って、そのテンポとかツボとかが文化によって全然違うから、あらゆる文化的事象の中でも民族や国境の壁を越えるのが一番難しいと思うんだよね。

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【いなべ】四つ星

監督・脚本:深田晃司
出演:松田洋昌(ハイキングウォーキング)、倉田あみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:吉本興業は沖縄国際映画祭の企画で「ご当地映画」をたくさん作っているのだそうで(吉本がなぜそんなに映画に力を入れているのかは謎。芸人が多すぎるから少しでもパイを広げる可能性を探っているのかな?)、本作はその流れで作られた短編の1本とのこと。“いなべ”って何?と思ったら三重県いなべ市のことなんだそうだけど、本作はいなべ市を舞台にしているというだけで、内容的には特にいなべ市である必然性はなく、全国どこでも差し替え可能だったりするかもしれない。それでも映画が良ければ、大して特徴が無いように見える街の風景でも妙に印象に残ったりすることもあるから、こういうのも「ご当地映画」の方向性として新しいかもしれない。
本作はハイキングウォーキングの松田洋昌さんが主演で、ずっと地元で働いて暮らしている中年男性の元に長い間音信不通だった姉が赤ちゃんを連れて帰郷する、といった話。この松田さんのナチュラルな演技は、塚本高史さんをいい意味でリアルにしたような感じで、びっくりするくらいいい存在感を醸し出していた。この1作で終わらせるのは非常に勿体ない!本作が誰か心あるキャスティングディレクターの目に留まりますようにと願ってやみません。

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【祖谷物語 おくのひと】四星半

監督・脚本:蔦哲一朗
共同脚本:河村匡哉、上田真之
出演:武田梨奈、田中泯、大西信満、他
製作国:日本
ひとこと感想:「祖谷のかずら橋」で有名な徳島の奥深い山間部(四国で冬に吹雪が起こるような場所があるなんて知らなかった……)。ヒロインは大好きなお爺とゆっくりと時を刻んで生活しているが、その環境にも徐々に変化が訪れる。楽園なんてどこにもないのかもしれないけれど、様々なものが失われていく中でも、残っていくものもあるのかもしれない。こんな映画の創り方がまだ可能だったという驚き。そして、ヒロイン役の武田梨奈さんとお爺役の田中泯さんにますます惚れ込んでしまった。都会編はちょっと蛇足かなと個人的には思ったけれど、それを差し引いても本当に素晴らしい映画だった。
才能は飛び道具、どこから飛んでくるか分からない。本作の蔦哲一朗監督は、徳島の池田高等学校野球部の蔦文也監督(1970年代から80年代に活躍して全国的に有名だった)の孫らしい。と言われても全然ピンとこなかったのだが、映画を観たら、その情報はどうでもいいんじゃね?とますます思ってしまった。まぁ、監督は次回作として蔦文也監督のドキュメンタリーを撮るらしいから、覚えておいてもいいかもしれないが。

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【イロイロ ぬくもりの記憶】四つ星

監督・脚本:アンソニー・チェン
出演:アンジェリ・バヤニ、コー・ジャールー、ヤオ・ヤンヤン、他
製作国:シンガポール
ひとこと感想:シンガポール映画なんて今までほとんど見たことなかったかも。共働きで忙しい両親の我儘息子がフィリピン人メイドになついてしまうというストーリーで、監督自身の経験も一部に反映されているお話なのだそうだ。シンガポールでは中流家庭でもメイドを雇ったりするのはごく普通のことらしく、そんなシンガポールの一般的な人々の暮らしぶりが垣間見えるのが面白かった。ちなみに、イロイロというのはメイドさんの出身地の地名なのだそうです。

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【インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌】四つ星

監督・脚本:コーエン兄弟
出演:オスカー・アイザック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:映画はあまり予備知識を持たずに見た方がいいと思う方だけど、本作に限って言えば、主人公のモデルはボブ・ディランが憧れたデイヴ・ヴァン・ロンクという伝説のシンガーだということを知っておいた方がいいかもしれない。ラストシーンで主人公の後に歌っている人がボブ・ディランという趣向なんだそうで……全然気づかなかったわ。駄目じゃん。
実力はあるんだけど全くツキがなく、時流の波にも乗れず運命に拒否され続け、あちこち流れ歩いては借金をしまくり、食い扶持のために音楽を捨てようとしたけれどそのことにすら拒否され、自分の信念を曲げることもできず、まるで呪いに掛けられているかのようにまた音楽に舞い戻る。天が与えた宿命には逆らえない……のだろうか。ならば私もじたばたしたってしょうがないのかな、と自分の来し方行く末を振り返ってみたりした。

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【イン・ザ・ヒーロー】四つ星

監督:武正晴
脚本:水野敬也、李鳳宇
出演:唐沢寿明、福士蒼汰、黒谷友香、寺島進、草野イニ、日向丈、和久井映見、杉咲花、小出恵介、加藤雅也、イ・ジュニク、松方弘樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:特撮ものや戦隊ヒーローものでスーツや着ぐるみに入ってアクションを行うスーツアクターを主人公にした映画。主演の唐沢寿明さんはスーツアクターをなさっていたことがあり、共演の福士蒼汰さんも仮面ライダーの経験者なのだそうで、縁の下の立場にあっても頑張る俳優たちの意地が描かれているこの設定は感慨深かったのではなかろうか。何気に豪華キャストだし、家族や先輩・後輩の関係なども丁寧に描かれていて見応えがあるのではないかと思う。この主人公と同様、どんな作品でも全力投球する唐沢寿明さんはほんっと一流のプロフェッショナル。福士さんは同じ事務所なのだそうだが、偉大な先輩の背中を見て大きく成長してほしい、と思った。

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【インターステラー】五つ星

監督・脚本:クリストファー・ノーラン
共同脚本:ジョナサン・ノーラン
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ケイン、ケイシー・アフレック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:(滅び行く環境+科学の可能性と限界 - 個人の思惑)×家族愛+α。何がそこまで面白かったのか?SF映画としてのクオリティの高さとそれぞれの登場人物の個人の物語が見事に融合しているところかな。知り合いの全員に勧めて回りたい今年のNo.1。

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【ヴィオレッタ】三星半

監督・脚本:エヴァ・イオネスコ
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、イザベル・ユペール、他
製作国:フランス
ひとこと感想:子供時代に母親によって写真のヌードモデルにされたエヴァ・イオネスコさんが、自らの体験を映画化。この写真は日本でも発売されていたそうで、ネットで見たのだけれど、この映画の子の方が完全に可愛いかもしれない……って、そんな話じゃなくて。親の愛情を得たいと思う子供の心情をダシにして、自分のためにコレをしてくれないと愛してあげないと脅迫する母親って、本当に自分のことしか考えておらず最低だ。実話の映画化ということで少し漫然としている印象もあり、映画としてはもう少しポイントを絞り込む工夫が欲しいところだけれど、この映画に描かれた母親を反面教師にして、エゴイズムを愛情と呼んで憚らない一部の親の害悪について考えてみるのは悪くないと思う。

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【ヴェラの祈り】四つ星

監督・脚本:アンドレイ・ズビャギンツェフ
共同脚本:アルチョム・メルクミヤン、オレグ・ネギン
原作:ウィリアム・サロヤン
出演:マリア・ボネヴィー、コンスタンチン・ラヴロネンコ、アレクサンドル・バルエフ、 ドミトリー・ウリヤノフ、他

【エレナの惑い】四つ星

監督・脚本:アンドレイ・ズビャギンツェフ
共同脚本:オレグ・ネギン
出演:ナジェジダ・マルキナ、アンドレイ・スミルノフ、アレクセイ・ロズィン/エレナ・リャドワ他
製作国:ロシア

ひとこと感想:10年ほど前に第1作の【父、帰る】が公開されたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品。監督の第2作にあたる【ヴェラの祈り】は、夫との間に埋められない溝を感じた妻が出奔してしまう話。いくら孤独感だからって子供まで見捨てて行ってしまうメンタリティはよく分からないけど、それくらい深い心の闇だっていうことなのかな……。第3作目にあたる【エレナの惑い】はオリジナル作なのだそうだが、資産家と再婚した女性がぐうたら息子の生活費を工面するためにある行動に出るという話。一見夫に絶対服従の女性が取る行動が、現在のロシアの社会のある側面を映し出しているのだそうだ。どちらも今日び珍しいくらいの文学的な香り高い秀作。ロシアの一般的な映画事情はよく知らないけど、ロシアの映画界の一部には、他ではもう絶滅しかけているクラシックな映画の文学性が細々と生き残っているような気がする。

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【太秦ライムライト】四つ星

監督:落合賢
脚本:大野裕之
出演:福本清三、山本千尋、本田博太郎、萬田久子、松方弘樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:昔ながらの時代劇の撮影所を、【ラストサムライ】にも出演したという斬られ役俳優の大御所・福本清三さんを主演に描く。時代劇映画が山のように公開されていた時代や、時代劇ドラマが週に何本も放送されていた時代に較べると時代劇は激減しており、撮影所も活力が無くなって、大部屋のプロのエキストラ「仕出し」さんの仕事も減ってきているという現状。東映のように大量に時代劇を作ってきた会社であそこまで歴史に敬意を払わない馬鹿プロデューサーがいるとも思えないので、そこら辺は一種のカリカチュアなのだとしても、似たようなうら寂しい話は現実にいろいろあるのかもしれない。それでも時代劇を愛してその火を絶やすまいと腐心している人々の熱意がこの映画を作らせたのだろうと痛いほど感じられた。背筋がピンと伸びた福本さんの立ち姿のまーカッコイイこと!時代劇が全くなくなってしまうのは寂しいし、長年培われてきた時代劇のノウハウが消えていってしまうのは勿体なさ過ぎだし、最近一周回ってNHKの時代劇とかなんか好きになってきたので、昔ほどの隆盛は望めないにしても、形を変えても残り続けていって欲しいと切に思った。

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【WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常】四星半

監督・脚本:矢口史靖
原作:三浦しをん
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、マキタスポーツ、光石研、有福正志、柄本明、近藤芳正、他
製作国:日本
ひとこと感想:矢口史靖監督の作品はなぜ面白いのだろう?魅力的なキャラ設定とそれを演じる実力派の俳優陣、綿密な取材に裏打ちされた濃厚な情報、時々すっとぼけた味わいもある練り込まれたストーリー、などなど。でも何よりも、矢口監督の人一倍強い映画への愛なのかな、と思った。本作はヘナチョコ男子が山奥で木こりの修行をして逞しく成長する話。隅から隅まで文句の付けようもなく何もかもが面白い。それ以上のことを何を書いても書ききれない気がする。

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【馬々と人間たち】四つ星

監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
出演:イングヴァル・エッゲルト・シグルズソン、シャーロッテ・ボーヴィング、他
製作国:アイスランド
ひとこと感想:本作はフリドリック・トール・フリドリクソン監督がプロデューサーを務めるアイスランド映画で、アイスランド演劇界で著明なベネディクト・エルリングソン氏の長編映画デビュー作なのだそう。この独特のテンポや静謐な空気感はアイスランド文化独特なものなのかな?人間を差し置いて馬たちが恋愛を成就するシーン、逃げ出した馬たちを捕まえに行った女性が凱旋するシーン、突然降り出した雪の中で人間と馬が遭難するシーンなど、雄大な自然の中で展開される人間たちと馬たちの悲喜こもごもの営みは素朴でワイルドで、その力強さに圧倒されてしまう。人と馬が自然に溶け合い同じ地平の上にただあるがままに存在する、まさに人馬一体の深い馬文化を感じたが、同じ馬好きを自認していても、人は人、馬は馬の一線を崩すことなく人から馬に一方的な友情を押し付けるアメリカの馬文化とはえらい違いだと思った。

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【ウルフ・オブ・ウォールストリート】四つ星

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:テレンス・ウィンター
原作:ジョーダン・ベルフォート
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、マシュー・マコノヒー、カイル・チャンドラー、ジャン・デュジャルダン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:実在の株式ブローカーの話らしいのだが、まるでもって最近読んだオレオレ詐欺の話にそっくりだった !! 口八丁の才能だけの男が、電話で強引にクズ株売りつけて大儲けしてたんだから、まぁ似たようなものだろう。で、儲けたカネでドラッグとセックス漬けの日々……って、“楽しい”ってこういうことにしか帰結しないの?お金がいくらあってもこういうことに使うしか能がないの?この人達はどうしてここまで出鱈目で中身カラッポでも平気で生きられるのだろう、と嫌悪感しか催さない。まぁ、あまりにも別世界すぎて、呆れるのを通り越してある種関心してしまった面もあったけど……。最近のスコセッシ監督作にしては珍しく畳みかけるようなスクリューボール的な展開は退屈はしないが、こんなヤツが軽~い刑であっさり出所して、また一般ピーポーを騙しているエンディングでは、見終わった後に爽快感はまるでない。まぁ、世の中のお金のしくみは何かが間違っているに違いないという確信を人々に抱かせるのには、この映画はそれなりに有効なのではないだろうか。

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【エイトレンジャー2】三つ星

監督:堤幸彦
脚本:高橋悠也
出演:渋谷すばる、横山裕、村上信五、丸山隆平、安田章大、錦戸亮、大倉忠義(関ジャニ∞)、前田敦子、ベッキー、赤井英和、竹中直人、東山紀之、肥後克広、ダイアモンド☆ユカイ、他
製作国:日本
ひとこと感想:関ジャニ∞は好きなんだけど、ステージで披露しているという「エイトレンジャー」のネタの雰囲気を知りたいのであれば前作で充分だったのでは。敢えて2作目を作りたいのであれば、脚本等もっともっと練る必要があったんじゃないかと思う。悪ノリを安易に繰り返している印象で、ただひたすら疲れてしまった。

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【エレニの帰郷】五つ星

監督・脚本:テオ・アンゲロプロス
脚本協力:トニーノ・グエッラ、ペトロス・マルカリス
出演:ウィレム・デフォー、イレーヌ・ジャコブ、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、他
製作国:ギリシャ/ドイツ/カナダ/ロシア
ひとこと感想:この映画を観ながら、自分が映画に求めるすべてがここにあるのだなぁ、と思った。20世紀の様々な事象を縦断する一大叙事詩ともいうべき内容なので、歴史的な予備知識もある程度は必要だし(私も全部分かっている自信は全く無い)、同一シークエンスの中で演者がいきなり違う時空にトランスしたりもするので、一見して分かりにくい部分もあるのかもしれない。でも、分からないのであれば分からないなりに、そこに“分からない何かが存在している”こと自体を見つめることも、時には必要なのではないか。そうして自分が未だ知らない何かについて思いを馳せることが、自分の認識の限界を少しずつ広げていくことに繋がるのではないか。
アンゲロプロス、ケン・ローチ、大島渚、カサヴェデス、タルコフスキー……時には背のびもしながら観た数々の映画が、今まで見たことの無かった地平をどれだけ幻視させてくれて、カスカスな自分の人生にどれだけ豊かなビジョンを与えてくれたことだろう。でも、あの頃好きだった多くの監督さんが既に鬼籍に入り(ケン・ローチ監督はまだご存命だが、今後の新作の数は多くはないだろう)、アンゲロプロス監督ほどの巨匠の遺作が製作から6年、監督の逝去から2年も経って、大手会社の社長の一存でお情け的にしか公開されないという現状の貧しさを思うにつけ、映画を観るのはこれでもう最後にしてしまってもいいのかもしれない……という思いがふと頭をよぎった。
いや、やめないけどね。この映画から30分後には梨奈ちゃんカッコイイ-♪って言いながら【ヌイグルマーZ】見てたしね。

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【円卓 こっこ、ひと夏のイマジン】四つ星

監督:行定勲
脚本:伊藤ちひろ
原作:西加奈子
出演:芦田愛菜、伊藤秀優、八嶋智人、羽野晶紀、平幹二朗、いしだあゆみ、青山美郷、丸山隆平、草野瑞季、野澤柊、内田彩花、古谷聖太、中村ゆり、他
製作国:日本
ひとこと感想:大人だと常識的に考えて口ごもってしまうようなことでも、一旦疑問に思えば決して自分を曲げることができずに周りの大人達にぶつけるこっこちゃんが面白い。「うるさいボケ」を連発するようなガラッパチの少女を演じる芦田愛菜ちゃんが新鮮で、彼女が少しずつ成長する姿が微笑ましいんだけど、きっとこんな役もやってみたかったんだろうね。昔から行定勲監督の女性観がどうも性に合わないんだけど、主人公が小学3年生の女の子だとその辺りがあまり気にならなくなり、監督の手腕を割と純粋に楽しめていいかもしれないと思った。

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【黄金のメロディ マッスル・ショールズ】四つ星

監督:グレッグ・フレディ・キャマリア
(ドキュメンタリー)
出演:リック・ホール、アーサー・アレキサンダー、ウィルソン・ピケット、アレサ・フランクリン、パーシー・スレッジ、エタ・ジェイムス、クラレンス・カーター、キャンディ・ステイトン、デュアン・オールマン、グレッグ・オールマン、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ジミー・クリフ、ボノ、スティーヴ・ウィンウッド、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ネイティブ・アメリカンに「歌う川」と呼ばれたテネシー川のほとりのマッスル・ショールズという小さな町に、 ソウル・ミュージックのパワー・スポットがあったそうな。同地出身のリック・ホール氏が立ち上げた「フェイム・スタジオ」と、このスタジオ専属の“スワンパーズ”(沼の人々)というリズムセクション隊が独立して立ち上げた「マッスル・ショールズ・スタジオ」。どちらも伝説的な音楽スタジオとして、パーシー・スレッジの「男が女を愛する時」、ウィルソン・ピケット「ダンス天国」、はたまたザ・ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」を始めとする音楽史に多大な影響を与えるような数々の名曲を世に送り出したのだそうだ。ここには黒人・白人の区別なくただ音楽があった。アメリカの音楽の歴史の奥深さを感じさせてくれる1本だった。

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【大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院】五つ星

監督:フィリップ・グレーニング
(ドキュメンタリー)
出演:グランド・シャルトルーズ修道院の皆さん
製作国:フランス/スイス/ドイツ
ひとこと感想:グランド・シャルトルーズ修道院はフランス側のアルプスの中腹にあり、カトリック教会の中で最も戒律が厳しいとされるカルトジオ修道会の総本山なのだそう。修道士の皆さんは、畑仕事や放牧や炊事・洗濯・掃除などの生活のための労働以外は祈りや読書のみで過ごす生活を送っていて、祈祷文を読むのとグレゴリオ聖歌を歌う以外は基本的に声を出すことが禁止されおり、決まった曜日の決まった時間帯以外はお互いに会話をしてもいけないそうだ。粛々と営まれる沈黙に支配された生活は、人によっては見てても全く退屈するだけかもしれないけれど、ここには誰にも揺るがすことのできない祈りがある。この場と地続きのこの世のどこかにこんな世界が存在しているなんてまるで信じられない。見る脳内デトックス。あと2~3回見たら脳の知らない回路が開かれるんじゃないだろうか。
ご参考までに、アルジェリアに実在した修道院を描いた【神々と男たち】はどうでしょう。あれもフランスのカトリック系の修道院の話だったと思う。

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【オオカミは嘘をつく】三星半

監督・脚本:ハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド
出演:リオール・アシュケナズィ、ツァヒ・グラッド、ロテム・ケイナン、他
製作国:イスラエル
ひとこと感想:タランティーノ監督が絶賛したというイスラエル映画。イスラエルのような暴力が支配する社会を表現しているとのことなのだが、オチもまぁありがちだし、女の子が惨殺された事件の話ということで心の中でどこか【藁の盾】と較べてしまってどうしても少し物足りなく思えてしまい、正直、そこまで絶賛するほどかなぁ、という印象が残ってしまった。

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【オー!ファーザー】二星半

監督・脚本:藤井道人
原作:伊坂幸太郎
出演:岡田将生、忽那汐里、佐野史郎、河原雅彦、宮川大輔、村上淳、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:頼りがいのあるおとーさんが4人もいるなんてうらやましい話!しかし何なのこの脚本 !? キャラがこれだけ魅力的なのにそれを活かすこともなく、必要なエピソードをただ順番に並べただけ。伏線の張り方も雑すぎで何の工夫も練り込みもなし。これはちょっと酷すぎじゃない?最近はこんなレベルでも商業映画の制作を任せてもらえるものなのかな?

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【オールド・ボーイ】三星半

監督:スパイク・リー
脚本:マーク・プロトセヴィッチ
原作:土屋ガロン/嶺岸信明
出演:ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン、シャールト・コプリー、サミュエル・L・ジャクソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:黒人の映画監督がまだほとんどいなかった時代、【ドゥ・ザ・ライト・シング】や【マルコムX】を創ってハリウッドにケンカを売りまくり尖りまくっていたあのスパイク・リー監督が、原作つき映画のリメイクものを手掛けるようになるとは、時代も移り変わってしまうものだね~。しかもそれがもともと日本発の作品だとは、何だか感慨深いものがある。韓国のパク・チャヌク監督版を過去に見ていたから、筋立ては大体分かっていてあまり新鮮味はないけれど、スマートでスッキリとまとまっていて、監督の安定した手腕は感じ取れる。ラストは改変されているので(韓国版のままだとアメリカのレイティングに引っ掛かったりするのだろう)、韓国版より見やすいと感じる人もいるだろうけれど、ただ私はどうしても、あのぬるりとした強烈なテイストの韓国版を志向していまうのだ。

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【小野寺の弟・小野寺の姉】四つ星

監督・脚本・原作:西田征史
出演:向井理、片桐はいり、山本美月、及川光博、ムロツヨシ、麻生久美子、大森南朋、他
製作国:日本
ひとこと感想:中年の独身姉弟が、両親が亡くなった後の実家で一緒に暮らしているらしき設定。姉弟でこんなに仲がいいとかまるで現実的じゃないと思うが、お話は違和感なくナチュラルに進行する。うちも独身中年姉妹で暮らしている世帯なのでちょっと親近感。実は、私は片桐はいりさんが少~し苦手なのだが、向井理さんとのバランスが案外よく、面白く見ることができた。このようなちょっと加減の難しい役にも挑戦する向井さんの役者としての貪欲さは支持したいと思った。

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【思い出のマーニー】四つ星

監督・脚本:米林宏昌
共同脚本:丹羽圭子、安藤雅司
原作:ジョーン・ロビンソン
(アニメーション)
声の出演:高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、森山良子、吉行和子、黒木瞳、他
製作国:日本
ひとこと感想:他者や周囲の世界とうまく距離が取れなくてささくれる時期って誰にでもあるだろう。だから私は、杏奈とマーニーのことをきっといつまでも覚えているだろう。このおっとりした雰囲気のオジサンである米林宏昌監督のどこにギザギザなハートを抱えたアンビバレントな少女が住んでいるのだろう……?監督がジブリを離れることになってしまったのは残念だけれど(事情はよくわからないのだけれど)、これからどこでどんな映画を作るにしても、繊細で美しい物語を紡ぎ続けていってもらいたいなぁと思った。

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【革命の子どもたち】四つ星

監督:シェーン・オサリヴァン
(ドキュメンタリー)
出演:重信メイ、重信房子、ベティーナ・ロール、ウルリケ・マインホフ、足立正生、塩見孝也、大谷恭子、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:ドイツ赤軍のリーダーの一人のウルリケ・マインホフと、日本赤軍のリーダーの重信房子を、両氏の娘であるベティーナ・ロール氏と重信メイ氏の証言などから描き出したドキュメンタリー。この二人は似たような立場にいても全く対称的な人物だったのだなぁ。ていうか私、あさま山荘事件などを起こした連合赤軍と日本赤軍が別物だということすらそもそもよく分かっていなかったのだが……。

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【和ちゃんとオレ】三つ星

監督:曺絹袖
出演:野田明宏、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:福祉関係のフリーライター野田明宏氏が母親を介護する様子を記録したドキュメンタリー。本編では息子が親の介護をしているのだが、現在はこのようなパターンも増えているのだそうだ。認知症がひどい患者は効率が悪いので施設に受け入れてもらえず、結果、仕事に支障を来すような形の介護を自宅で行うしかなくなるなんて……。よく言われているように、滅私奉公のような長時間労働を担う者と、家事・育児・介護などの非賃金労働を担う者を完全に分離するようなワーキングモデルはもう機能しなくなっているのだから、抜本的な見直しを行ってバランスを取ることが可及的速やかに必要だと思われるのだが。

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【家族の灯り】三星半

監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:マイケル・ロンズデール、クラウディア・カルディナーレ、ジャンヌ・モロー、他
製作国:ポルトガル/フランス
ひとこと感想:文字通り映画界の生ける伝説であるマノエル・ド・オリヴェイラ監督の104歳(!!)の時の作品で、老夫婦の息子が失踪していたのには実はこんな理由がありました……てな話。しかし、監督の作品は相変わらず格調高すぎて、相変わらず私の体質には合わないみたいで、眠気に誘われてしまうのも相変わらずだった……。

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【神様のカルテ2】三つ星

監督:深川栄洋
脚本:後藤法子
原作:夏川草介
出演:櫻井翔、宮崎あおい、藤原竜也、柄本明、市毛良枝、要潤、池脇千鶴、吉瀬美智子、原田泰造、濱田岳、吹石一恵、西岡徳馬、朝倉あき、他
製作国:日本
ひとこと感想:何でこれを見に行っちゃったんだろう?と激しく後悔し、最近、宮崎あおい成分が足りないからだ!ということに気がついた。誰か殺せば話が盛り上がる……とまでは言わないけど話の作り方が随分安易だし、事務方と現場との対立図式とかも随分類型的なんじゃない?ワーキング・マザーである女性医師の苛烈を極める就業環境の問題に言及した点はよかったけれど、そこもツッコミ不足だしなぁ……。

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【紙の月】四つ星

監督:吉田大八
脚本:早船歌江子
原作:角田光代
出演:宮沢りえ、池松壮亮、小林聡美、田辺誠一、大島優子、石橋蓮司、中原ひとみ、近藤芳正、他
製作国:日本
ひとこと感想:ヒロインの夫には、ヒロインの心の奥底を思いやれないところがちょっとだけあったかもしれないけど、このくらいの“思いやりのなさ”はごく普通というか、少なくともヒロインがここまで逸脱してしまうほどの非道いことは何もやってないごく普通の優しい夫だったと思うんだけど。でもヒロインも、ここまでの事態になってしまうとは最初は全く想像しておらず、最初はちょっとした反側だったのが、少しずつ掛け金が外れていき、気がついたら戻れないところまで来てしまったというか。この堕ちるか否か紙一重の微妙な一線の描き方が抜群に上手く、宮沢りえさん、池松壮亮さん、小林聡美さんなどを始めとする役者陣の迫真の演技が物語のきわどさに拍車を掛ける。ヒロインは自由を手に入れたのだろうか?本人がそう思うのならそうなんだろうけど、人間はどこまで行っても所詮、何かからの囚われの身であることからは逃れられない運命にあるんじゃないだろうか。頭から終わりまで正視するのが辛すぎだったけど、吉田大八監督がこの世界を描き切っていたのは素晴らしいと思う。

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【渇き。】四つ星

監督・脚本:中島哲也
脚本:門間宣裕、唯野未歩子
原作:深町秋生
出演:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、清水尋也、オダギリジョー、中谷美紀、青木崇高、國村隼、黒沢あすか、他
製作国:日本
ひとこと感想:これだって大概ひどい文学的ファンタジーだと思う。だってあのヒロイン、いくら若いとはいえ、あれだけクスリも夜遊びもセックスも売春もやりまくりだと、普通であれば体を壊してお肌ボロボロの目の下クマクマになり、とてもじゃないけどあんな美貌は保っていられないんじゃないだろうか。
この映画を観て私の頭に真っ先に思い浮かんだのは、かのマルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』だった。この本には拷問や殺人などの悪行の数々がこれでもか、これでもかと綴られているけれど、私がこの本を読み始めた時の第一印象は「現実の人間にはこんなことする体力は無いでしょ……」というものだった。あの小説のどこがどうリベラル思想でどのような文学的価値があるのか理解できるほどの学は残念ながらないけれど、あの小説は、現実的な何かの描写というよりは、人間の想像力をどこまで及ぼすことができるのかという一種の壮大な思考実験のようなものなのではないかと思った。無論、『悪徳の栄え』と【渇き。】では時代も描かれている内容も全く違うけれど、強烈な悪行の数々を延々と描くことで人間の営みを逆方向から照射することが一種の毒抜きの効果をもたらすかもしれないあたりに、共通している部分もあるのではないだろうか。
しかし、“母親の愛”という通奏低音がまだエクスキューズとなっていた同じ中島哲也監督の【告白】とは異なり、【渇き。】の通奏低音である“父親の愛”はあまりに自分勝手で我儘で、しかも暴力的だ。このような暴力的な形でしか誰かと関わることができない愚かな男の悲哀あるいは悲劇(あるいは喜劇なのかも)は大変よく描かれていると思うけれど、他人を強姦するような輩はいかなる理由があろうとも全員死ねばいいと思っている私は、この男に同情することは全くできなかった。
少しだけ近親相姦的な匂いがするところは【私の男】辺りと少しだけ共通しているのだろうか。でもこの父親はその領域にだけは踏み込むことなく、代わりに娘の首を握り潰そうとする。それは、娘に対する欲望が存在する可能性を否定しようとする父親としての抵抗だったのか、最早そのような境界をも易々と踏み越えようとするほど人間の感情に無関心なバケモノと化してしまった娘をせめて無に還してやろうとする愛情だったのか、今まで父親らしい父親でいられなかったことへの後悔や逡巡か、家族に対する愛情を求めても得られなかった自分自身に対する憐れみか……多分そうした様々な感情が複雑に入り混じっている訳の分からない思いが、タイトルの【渇き。】に通じているのだろう。この表情を演じ切る役所広司さんは本当に圧巻だし、この父親とこのような形でしか関わることができなかった娘を演じ切った小松奈々さんも本当に凄かった。だから本作も何らかの評価はせざるを得ないだろうとは思うけども、その評価は複雑なものとならざるを得ないのはやむを得ないのではあるまいか。
かように本作が非常に観客を選ぶ作品であることは致し方のないところで、これを“エンターテイメント”と言い切るのは“エンターテイメント”の意味をよほど拡大解釈しないと無理だと思うだが、そこを強弁した広告展開をして何とか【告白】のような観客動員を期待した製作側の思惑は上手くいかなかったというか、さすがに少し乱暴だったみたいだよね。

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【消えた画 クメール・ルージュの真実】四つ星

監督:リティ・パニュ
(ドキュメンタリー)
製作国:カンボジア/フランス
ひとこと感想:リティ・パニュ監督は少年時代にポル・ポト革命の大虐殺を生き延びるという体験を経た方なのだそうで、本作で、自分の記憶に残る数々の虐殺のシーンを、殺された人々が埋まっているという田んぼの土から一体一体手作りして彩色した4頭身くらいの泥人形を使って再現した。ポル・ポト時代の大虐殺というと【キリング・フィールド】程度の知識しかないのだが、断片的にしか残っていない当時の限られた白黒写真などよりは、実際の虐殺の現場を体験した人間の手による生々しい記憶の視覚化の方が妙なリアリティがあるように思われた。

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【寄生獣】四つ星

監督・脚本・VFX:山崎貴
共同脚本:古沢良太
原作:岩明均
出演:染谷将太、阿部サダヲ、橋本愛、深津絵里、東出昌大、余貴美子、北村一輝、浅野忠信、國村隼、豊原功補、他
製作国:日本
ひとこと感想:言わずと知れた岩明均先生の稀代の傑作漫画の映画化。この原作の持つ細かいニュアンスはハリウッドの人には掬い切れなかったんじゃないかと思うので、とりあえず、本編がハリウッドじゃなくて日本で映画化されたことにほっとしている。自分の中では、新一くんのイメージは染谷将太くんじゃないし、里美ちゃんのイメージも橋本愛さんじゃない。ミギーももっとニュートラルな、例えば『ナイトライダー』のナイト2000みたいな声のイメージで、阿部サダヲさんとはほど遠い。ストーリーも、原作そのままじゃなくて、原作のエッセンスだけ活かしていろいろアレンジしているみたい。でも、これはこれで出来上がっているので、そんなに悪くないんじゃないかとも思った。とりあえず後編にも期待してみたいと思う。

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【KILLERS キラーズ】二星半

監督:モー・ブラザーズ(ティモ・ジャヤント、キモ・スタンボエル)
脚本:ティモ・ジャヤント、牛山拓二
出演:北村一輝、オカ・アンタラ、高梨臨、他
製作国:日本/インドネシア
ひとこと感想:日本とインドネシアとの合作映画。サイコパスな日本の殺人鬼(北村一輝さん)も、ネットを介してこれに感化されるインドネシアの男も、キャラクター設定に無理があるんじゃないだろうか。この不気味っぽさは三池崇史監督の一部の映画の雰囲気が思い出されてしまうんだけど、三池映画の強烈さと比較してしまうと、そりゃどうしたって見劣りしてしまうわよね……。

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【銀の匙 Silver Spoon】四つ星

監督・脚本:吉田恵輔
共同脚本:高田亮
原作:荒川弘
出演:中島健人、広瀬アリス、市川知宏、黒木華、上島竜兵、吹石一恵、中村獅童、西田尚美、哀川翔、竹内力、石橋蓮司、吹越満、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作を見る人は、私も含め、荒川弘さんの原作漫画を読んでいる人も多いんじゃないだろうか。様々な制約があり、原作と同じという訳にはいかないのかもしれないけど(特にキャラクター。主人公の八軒くん役の中島健人さんは健闘してたと思うけど、他は軒並み原作よりは見劣りするし、魅力的なキャラが何人も削られていたのも残念かも)、ばんえい競馬や農業学校の設備を実景として捉えているのは実写ならではのアドバンテージだし、原作のめぼしいエピソードを盛り込みつつ、終盤はオリジナルな展開も用意して上手くまとめてあり、そこそこ満足できる出来栄えになっているのではないかと思った。

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【喰女 クイメ】二つ星

監督:三池崇史
原作・脚本:山岸きくみ
出演:市川海老蔵、柴咲コウ、中西美帆、マイコ、伊藤英明、根岸季衣、勝野洋、古谷一行、他
製作国:日本
ひとこと感想:はっきり言ってこれは失敗作なのではなかろうか。四谷怪談と現代の話の干渉というコンセプトがありきたりだし、それもそんなにうまくいっているようにも思えないし、男の浮気に翻弄されて精神を病む女性っていう図式にも全く新鮮さがないし。大体、自分のセコさやみみっちさを思い知らされるのが嫌で女を逆恨みする男なんてげんなりで、こんな男には全く感情移入できないので、死のうが呪われようが全然心が痛まず、話が恐くもなんともならないのだが。どんな素材でも何とか料理してきた三池崇史監督ですら、これはどうしようもなかったんじゃないだろうか。
そもそも、私は市川海老蔵さんをどうしても好きになれないのだとよく分かった。海老蔵さんの芸風は現代にリンクすることができないのではないかと私は思う。それでも彼の芸を愛でることができる人は幸いだし、それはそれでいいんだと思うけれど、私の預かり知らぬところでそっとやっていて欲しい。私も今後の人生の中でもう二度と海老蔵さんの出演作に接触したりしないように一生懸命努力するから。

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【グォさんの仮装大賞】四つ星

監督・脚本:チャン・ヤン
出演:シュイ・ホァンシャン、他
製作国:中国
ひとこと感想:養老院のお年寄り達が『仮装大賞』への出場を目指すという中国映画のしみじみとした佳作。日本の『仮装大賞』にそっくりじゃん!と思ったら、なんと日本の『仮装大賞』の中国予選という設定だったのでびっくりした。昨年、スペインの【しわ】というアニメーション映画があったけど、行き場を無くしたお年寄り達が苦しむっていう話を最近よく見掛けるような。こうしたことは世の東西を問わず全世界的に社会問題化しているのだなぁと、改めて考えさせられた。

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【海月姫】四つ星

監督・脚本:川村泰祐
共同脚本:大野敏哉
原作:東村アキコ
出演:能年玲奈、菅田将暉、長谷川博己、池脇千鶴、太田莉菜、篠原ともえ、馬場園梓(アジアン)、片瀬那奈、速水もこみち、平泉成、他
製作国:日本
ひとこと感想:これはたまたま原作を読んだことがあったのだが、クラゲオタクの主人公の能年玲奈さん、主人公の住む古アパートに巣くうオタク女子の池脇千鶴さん、太田莉菜さん、篠原ともえさん、馬場園梓さんといった面々、アパートに出入りする麗しき女装男子の菅田将暉さん、その兄で超カタブツの長谷川博己さんといった、個人的に応援したい人ばかりで構成されているキャスティングで、あのいかにも漫画チックな原作がそのまま三次元化されているのが素晴らしい。何でもかんでも原作に寄せればいいというものではないかもしれないが、ここまでちゃんと三次元化するのならそれはそれで芸だと考えてもいいかもしれない。能年さんは、満を持しての主演作なだけあって、この役柄にはぴったりなんじゃないのかな。いろいろ言われてて何だか気の毒なくらいだけど、私は能年さんが好きなので頑張ってもらいたいなぁと思う。

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【グランド・ブダペスト・ホテル】三星半

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン、他
製作国:ドイツ/イギリス
ひとこと感想:ウェス・アンダーソン監督の最新作。第二次世界大戦前の東欧どこかの国(ブダペストと言うくらいだからハプスブルグ帝国崩壊後のハンガリー?)のとある山岳ホテルを舞台に、古き良き時代と心中した男と、過ぎ去ってしまった華やかなりし時代の記憶が、監督独特のコメディ・タッチで描かれる。けれど、設定があまりにも凝りまくり過ぎで、綺羅星のごときのキャストもハイパーインフレを起こすほど多すぎで、感情移入できるようなとっかかりを見出すことができなくなってしまった。巷での本作の評価の高さからすると、自分にこのような贅沢な設定を吸収しきれるほどの感性がなかったというだけなのかもしれないけれど。

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【黒四角】二星半

監督・脚本:奥原浩志
出演:中泉英雄、丹紅、陳璽旭、鈴木美妃、他
製作国:日本/中国
ひとこと感想:PFFのスカラシップ作品だった【タイムレス メロディ】の奥原浩志監督作が、文化庁の海外研修制度で中国に渡って撮ったという作品。私には、突然謎の男が現れ、それが60年前の戦争の話に転換され、といった意図が掴みきれず、かつて旧作を拝見させて戴いた時の苦手意識を思い出すのに留まって残念だった。

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【毛皮のヴィーナス】四つ星

監督・脚本:ロマン・ポランスキー
原作:デヴィッド・アイヴス(マゾッホ作『毛皮を着たヴィーナス』に基づく)
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ
製作国:フランス/ポーランド
ひとこと感想:“マゾヒズム”の語源となったマゾッホの小説『毛皮を着たヴィーナス』をモチーフにした戯曲を、ロマン・ポランスキー監督が映画化した作品。オーディションされる側であるはずの女優の方が最初っからずうずうしく、最初から優位に立っていて、オーディションをする側であるはずの舞台監督の方が女優にどんどん支配されていってしまうのが、滑稽ながら物哀しい。良くも悪くも、元が戯曲であることを彷彿とさせるけど、一分の隙もなく完璧に出来上がっていて、御大の余裕の手遊びって感じだった。

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【コーヒーをめぐる冒険】三星半

監督・脚本:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:トム・シリング、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:男子大学生のちょっとした一日を描いたドイツ映画。悪くはないけど、ありがちと言えばありがちっぽいかもしれない。

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【ゴーン・ガール】四星半

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作・脚本:ギリアン・フリン
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、キャリー・クーン、キム・ディケンズ、タイラー・ペリー、ニール・パトリック・ハリス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:この奥さんは完全に病気だ。自分は比類なく素晴らしい存在であると思い込んでいて、その認識を守るためには他の何を犠牲にしても、どんな嘘をついても許されると勘違いしている病気。自分が社会的に認められた何者かであらねばならないというプレッシャーが日本よりもずっと強い国ならではの病理なのかもしれないが、奥さんのこんな本性が分かってしまったらそりゃ逃げたくなるわよね。いくら旦那さん自身も決して誉められた人間ではないとしても、これは同情してしまわざるを得ない……と思っていたら、サスペンスフルな筋書きが二転三転して「え゛ーっ !! ここで終わっちゃうのーっ !?」てな箇所で、ある意味最悪のバッドエンドに。私が旦那なら逃げるけどね。自分のなけなしの社会的評価とか中途半端な責任感とか、総てを投げ打ってでも絶対に逃げるけどね。それでも受け入れることを選択してしまったのなら、その泥沼の精神的牢獄の中で生きていくしかないじゃないの。彼等の魂に幸あれ、とせめて願うより他なかった。
本作も毛色の変わった作品で、また新たなデヴィッド・フィンチャー監督の代表作となった。監督はハリウッドで最もチャレンジングな監督の一人なのは間違いない。次回作も楽しみに待ちたいと思う。

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【GODZILLA ゴジラ】三星半

監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:マックス・ボレンスタイン、デヴィッド・キャラハム
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、渡辺謙、エリザベス・オルセン、デヴィッド・ストラザーン、ブライアン・クランストン、サリー・ホーキンス、ジュリエット・ビノシュ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:どこをどう頑張ってもデカいトカゲにしか見えない妙な生物をゴジラだと言い張っていた1998年版よりは遥かにマシな本作。なかなか凄い迫力だし、ゴジラをチラ見せしながらストーリーを引っ張るのも悪くない。けれど、根幹となるはずの家族の話も中途半端で、謙さん演じる博士も何やってんだかよく分からず、見ているうちにいろいろ疑問点が湧いてきてしまい、結局は何だかなーという印象に帰着してしまわざるを得なかった。

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【こっぱみじん】四つ星

監督:田尻裕司
脚本:西田直子
出演:我妻三輪子、中村無何有、小林竜樹、今村美乃、他
製作国:日本
ひとこと感想:ピンク映画監督の雄・田尻裕司監督のお噂はかねがね耳にしていたのだけれど、お恥ずかしながら今まで作品を拝見したことがなかった。本作はピンク映画ではない一般映画で、好きだった男の子が自分のお兄ちゃんを好きだった、という何とも切ないお話。それぞれの人物の心情がきめ細やかにナチュラルに描かれていて、イヤな話にならずに爽やかな印象を残すのが秀逸。この監督の映画を今まで見逃していたなんて駄目じゃん!と深く反省した。

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【ザ・イースト】四つ星

監督・脚本:ザル・バトマングリ
出演・共同脚本:ブリット・マーリング
出演:アレキサンダー・スカルスガルド、エレン・ペイジ、 パトリシア・クラークソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:大企業を顧客とする民間情報機関に就職した元FBIの女性が、グローバル企業を相手に破壊活動を行う環境テロリスト“ザ・イースト”に潜入するも、利潤追求のために健康被害や環境汚染を無視しようとする大企業の実態を知るにつれ、テロリスト側に段々シンパシーを感じるようになり始め……。う~ん、斬新なプロットだ。エレン・ペイジさんやパトリシア・クラークソンさんなんて有名どころも出ているので、それなりに本格的な映画だと思うんだけど、全く見る気の起こらないようなブロックバスター群の裏でこんな作品も作られているんだから、アメリカ映画界って奥深い。こういう映画は日本にいるとほとんど見る機会がないのが残念なんだけど。
主演女優のブリット・マーリングさんはザル・バトマングリ監督と共同で脚本も担当していらっしゃる、文字通りの才色兼備。これからもその才能を発揮していって戴きたいと思う。共演者の一人はアレキサンダー・スカルスガルドさんというのだけれど、最近スカルスガルドさんてよく見かけるような気が……と思って調べてみたら、【シンプル・シモン】のビル・スカルスガルドさん、【コン・ティキ】のグスタフ・スカルスガルドさんともども、みんなステラン・スカルスガルドさん(今年で64歳)の息子さんでした!全員が前の奥様の息子さんだそうで(全部で6人きょうだい)、2009年に再婚した今の奥さんとの間にも2人息子さんがいるらしい……。鋭意増殖中。なんか凄いぞスカルスガルド一族。

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【最後の命】三つ星

監督・脚本:松本准平
共同脚本:高橋知由
原作:中村文則
出演:柳楽優弥、矢野聖人、比留川游、他
製作国:日本
ひとこと感想:小さい時に強姦シーンに遭遇して性格歪んだだと?事件を目撃したからってどうして自分も犯罪者になるの?というところからして意味不明。男性はこういうことを被害者感情をスルーした観念でしか理解しようとしないから、こういう頭でっかちなストーリーを平気で作ったりするのだろうか。柳楽優弥くんのアップがたくさん見られたのだけはよかったんだけど。

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【西遊記 はじまりのはじまり】四つ星

監督・脚本:チャウ・シンチー、デレク・クォック
共同脚本:ローラ・フオ、ワン・ユン、ファン・チーチャン、ルー・ゼンユー、リー・シェン・チン、アイヴィー・コン
出演:ウェン・ジャン、スー・チー、ホアン・ボー、リー・ションチン、チェン・ビンジァン、ショウ・ルオ、チャン・チャオリー、シー・イェンレン、クリッシー・チョウ、他
製作国:中国
ひとこと感想:【少林サッカー】でお馴染みのチャウ・シンチー監督の最新作。イケメンでダメダメな玄奘三蔵が怪魚に翻弄される導入部から、魅惑の女妖怪ハンター、まるっきりおっさんにしか見えない孫悟空に、見たこともないようなキャラクターたち……。新機軸の連続で、ど定番の『西遊記』のイメージをいい意味で豪快に裏切ってくれるのが面白い。女妖怪ハンター役のスー・チーさんが復活するのであれば続編も期待したいけど、馬として復活させて一行のお供になってもらうのはどうでしょうか?

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【サクラサク】三星半

監督:田中光敏
脚本:小松江里子
原作:さだまさし
出演:緒形直人、南果歩、藤竜也、矢野聖人、美山加恋、津田寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:認知症が出始めた父親の記憶を辿り、ついでに家族再生……ってそんなにうまく行くかなぁ?親子の絆はともかく、あれだけ乖離していた夫婦の溝なんてそんなに簡単に埋まらないのでは?前半の南果歩さんの苦悩が迫真に迫りすぎていて恐いぐらいだったので、いろいろと都合良く運んでしまう後半の展開には少々違和感を感じた。それでも緒形直人さんの誠実な演技や藤竜也さんの存在感は嫌いじゃなく、そこそこ悪くない印象ではあったけれど。
本作はさだまさしさん原作。ミュージシャンのさださんがどうして小説を書こうとするのか昔は不思議だったんだけど、よく考えると、さださんの曲は一編一編が短編小説のようなストーリーになっているものが多くて、元々物語を語る素質と志向を持っていらっしゃる人なんだろうなと思うようになった。さださんは、中学生の頃一瞬好きで、その後永らく離れていたけど、最近、一周回ってまた良さが分かるようになってきたような気がする。もう還暦だなんてびっくりだけど、これからもますますご活躍戴きたいと思う。

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【柘榴坂の仇討】四つ星

監督:若松節朗
脚本:高松宏伸、飯田健三郎、長谷川康夫
原作:浅田次郎
出演:中井貴一、阿部寛、広末涼子、髙嶋政宏、藤竜也、真飛聖、他
製作国:日本
ひとこと感想:桜田門外の変で暗殺された井伊直弼の仇討ちを命ぜられ、時代が明治に変わってもその命を果たそうとしたある彦根藩士を描く。時代や人の心が移り変わる中、他の人間から見ればどれだけ無意味に見える行動なのだとしても、本人には曲げられない大切な思いとか信念とかがあるのだろう。中井貴一さんがそんな不器用な主人公を誠実に演じているのには好感が持てる。この終わり方はえええ!そう来るの?という感じだけど、まぁやるだけやって気が済んだということでいいのかもしれない。

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【サケボム】三星半

監督:サキノジュンヤ
脚本:ジェフ・ミズシマ
出演:濱田岳、ユージン・キム、渡辺裕之、他
製作国:アメリカ/日本
ひとこと感想:サケボムというのはビールジョッキに日本酒をお猪口ごと投入する飲み方なんだそうだが、そもそも日本酒の杜氏(それもリアリティがない設定だけど…)がそんな不味そうな飲み方をよしとするとは思えないんだけど。この杜氏役の濱田岳さんが、昔ちょっとだけ付き合った彼女を探すために(普通は駄目そうだと分かりそうなもんだけど)アメリカの親戚を訪ねるのだが……。日本で作るならこうは作らないだろうという微妙に感覚のズレた表現があちこちにあって、大学時代の海外文化交流の雰囲気のような、知ってるものでも何か別のものを見ているような独特の空気感を思い出した。濱田さんが中心にいることで独特のユーモア感と説得力が醸し出されているので何とか盛り返している感じ。でも、最初からこういうものとして見るのであれば、それはそれで面白いような気がする。

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【刺さった男】四つ星

監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
脚本:ランディ・フェルドマン
出演:ホセ・モタ、サルマ・ハエック、フェルナンド・テヘロ、ブランカ・ポルティージョ、フアン・ルイス・ガリアルド、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:事故で鉄骨が突き刺さってしまった男を巡り、様々な人間の思惑が交錯する中、男は死にそうになりながらも広告代理店の知り合いを呼び、テレビの独占インタビューで一儲けしようと画策する……。家族にお金を残したいという思惑があったとはいえ、自分の死にざままで換金しようとするなんて何て悪趣味!資本主義の縮図と言ってもこの構図はヒドすぎる!そんな中、ただ夫が心配でマスコミを拒絶し続ける妻(久々にお見掛けしたサルマ・ハエック様)だけがまともなのが痛々しい。アレックス・デ・ラ・イグレシア監督一流のエグ味がたっぷり振りかけられたブラックコメディだけど、社会派と言ってうっかり通用してしまいそうなプロットが新鮮だった。

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【ザ・テノール 真実の物語】三星半

監督・脚本:キム・サンマン
出演:ユ・ジテ、伊勢谷友介、北野きい、チャ・イェリョン、ナターシャ・タプスコビッチ、他
製作国:日本/韓国
ひとこと感想:韓国のベー・チェチョルさんという、甲状腺癌で一時は歌声を失いながら復活を遂げた実在のテノール歌手の物語。あり得なさすぎる綱渡りを多用するクライマックスの演出などはどうかと思ったが(プロがこんなふうに仕事に穴を開けるなんてあり得ないでしょ)、実話ベースの大筋の物語は単純に凄い話だなぁと感銘を受けた。主人公を支えた日本人を伊勢谷友介さんが演じているのもいいところ。日本人だって韓国人だってどこの国の人だって、立派で素晴らしい人も一生関わりたくないような人もが山のように存在しているのは大して変わりのないことだ。

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【ザ・レイド GOKUDO】三星半

監督・脚本:ギャレス・エバンス
出演:イコ・ウワイス、アリフィン・プトラ、ティオ・パクサデウォ、遠藤憲一、松田龍平、北村一輝、他
製作国:インドネシア
ひとこと感想:戦闘シーンの凄さに度肝を抜かれたインドネシア映画の【ザ・レイド】の続編に、なんと遠藤憲一さん、松田龍平さん、北村一輝さんなんていう素晴らしい日本人キャストが参加する!とのことだったので期待していたんだけれど、日本人キャストの出番はちょっぴりだったので残念。そうなると、アクション感性がそんなに高くない自分には興味をそそる点が少なかったかもしれない。ストーリーらしきものも前作の方が好きだったしなー。

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【サンバ】三星半

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
原作:デルフィーヌ・クーラン
出演:オマール・シー、シャルロット・ゲンズブール、タハール・ラシム、他
製作国:フランス
ひとこと感想:【最強のふたり】の監督&主演コンビ作。近年日本で公開されるヨーロッパ映画には、アフリカ大陸からの密入国(地中海から舟でやって来る)や不法移民を扱っているものが少なくなくて、それだけ大きな社会問題になっているということが垣間見える。本作の主人公の片われも不法移民という設定だけれど、陽気で勤勉で前向きな主人公にも、死の危険を冒してまで異国にやって来た過去があり、折角得た職場やビザを失ったり国外退去になったりするリスクもいつだって存在する。同じ人間なのにたまたま生まれた場所が違っただけでどうしてこれだけ生存権が脅かされてしまうのか?と色々考えざるを得なくなってしまった。けれど作品トータルで見てみると、もう一人の主人公であるシャルロット・ゲンズブール様の悩みの方に話がぶれてしまい、残念ながら少し弱いかなと感じてしまった。

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【サンブンノイチ】四つ星

監督・脚本:品川ヒロシ
原作:木下半太
出演:藤原竜也、田中聖、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、中島美嘉、窪塚洋介、池畑慎之介☆、他
製作国:日本
ひとこと感想:品川祐……じゃなくて品川ヒロシ監督は、前作の【漫才ギャング】は東日本大震災直後に公開され、今回は主演の一人の田中聖さんが事務所から契約解除された直後に公開され、なーんかついていない気がする。藤原竜也さん、小杉竜一さん、田中聖さんのトリオや、凶悪なキャバクラオーナーの窪塚洋介さん、謎の金貸し婆ぁの池畑慎之介☆さんなどクセ者揃いのキャストが素晴らしく、ストーリーも最後の最後までどんでん返しの連続!で面白いと思うんだけどなぁ。私は一部の人達がこの作品を毛虫みたいに嫌っている理由が分からない。私の中では、小栗旬さんが【シュアリー・サムデイ】を撮った時の叩かれ方とな~んか被って見えるんだけど、もしかして、世が世なら自分もこのくらいのことはできたはず、なんて勘違いしているんじゃあるまいな?

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【三里塚に生きる】四つ星

監督:大津幸四郎、代島治彦
出演:成田市三里塚の皆さん
製作国:日本
ひとこと感想:かつて三里塚闘争に関わり、今も三里塚で農業を続けている人々へのインタビューを、当時の小川プロのドキュメンタリー映像なども交えて描く。かつて成田空港建設時に国が地域住民にどのような横暴を働いたのかということを若い人にも知っておいて欲しい、という制作者の方々の意気込みを感じるが、同時に、出演者の多くが60代で、現在の日本の農業を担う中核の世代の方々であるということを強く意識してしまった。かつては国の屋台骨を支える産業とされていた農業が、高度成長期以降の国の方針によって衰退していった。この映画は、一貫しない農業政策の矛盾に苦しめられ続けながら黙々と土を耕し続ける狭間の世代の人々の姿を描いている部分もあるのかもしれないと思った。

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【幸せのありか】四つ星

監督・脚本:マチェイ・ピェプシツア
出演:ダヴィド・オグロドニク、カミル・トカチ、アルカディウシュ・ヤクビク、他
製作国:ポーランド
ひとこと感想:脳性麻痺の青年が豊かな知性と感情を発見されるまでの話。主演のダヴィド・オグロドニクさんの演技が素晴らしくて、途中まで本当に脳性麻痺の人が演っているのかと思ってしまっていたくらい(そんなことある訳ないんだけど!)。障害のある人とコミュニケーションを取るために教育や伝達手段っていかに大事かということを切々と訴えていたんだけど、さすがに今の日本だと、脳性麻痺=知性がないという見方はちょっと考えにくいから、最初は少しとまどってしまった。個人的には原一男監督の【さようならCP】をちょっとだけ思い出した。かの作品と本作は全く異なるんだけど、脳性麻痺の人には計り知れないご苦労があるのだなと、当たり前かもしれないことを改めて思ったりした。

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【ジゴロ・イン・ニューヨーク】四つ星

監督・脚本・出演:ジョン・タトゥーロ
出演:ウディ・アレン、ヴァネッサ・パラディ、リーヴ・シュレイバー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ジョン・タトゥーロさんの監督・主演作。久々にお見掛けした気がするのだが、随分とシブかっこよくなっていて、何はなくとも女心だけは天才的に理解できるというナチュラル・ボーン・ジゴロの役にぴったり。そんな主人公をダシにして一儲けしようと画策する男を演じているのがかのウディ・アレン氏で、自身の監督作以外に出演するのは1999年製作の【ヴァージンハンド】(日本公開は2001年)以来なんだそう。ニューヨークのユダヤ人の話というとそれこそウディ・アレン氏が過去に何度も書いた設定だと思うけど(といっても、ジョン・タトゥーロ氏はイタリア系、共演のヴァネッサ・パラディさんはフランス人なんだけど、その辺はいいのかな?まぁいいんだろうな)、本作は小難しい理屈を取り去って小粋さだけをきれいに残したウディ・アレン映画みたいで、なんか好きだなぁと思った。

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【シネマパラダイス★ピョンヤン】三つ星

監督:ジェームス・ロン、リン・リー
(ドキュメンタリー)
製作国:シンガポール
ひとこと感想:北朝鮮ではプロパガンダの意味もあって結構せっせと映画が作られていたというのは有名な話だが(今はどうなっているのか分からないが)、本作はその映画作りをシンガポールのドキュメンタリー監督がレポートしたもの。しかし、基本的には相手に言われた通りにしか撮らせてもらえないようなので、それこそ言われるがままに相手の宣伝に手を貸しているだけで、小綺麗だけどどうにもハリボテっぽい建物の向こう側にまでは手が届かない感じ。ただ、北朝鮮では映画人はエリートであって、平壌の映画学校には映画一家の子弟が通って純粋培養され(生徒は10人もいなさそうだが)、プロパガンダ映画作りを世襲するらしいというのは少し興味深い話だった。

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【ジプシー・フラメンコ】三星半

監督:エヴァ・ヴィラ
出演:カリメ・アマジャ、メルセデス・アマジャ・ラ・ウィニー、他
(ドキュメンタリー)
製作国:スペイン
ひとこと感想:伝説のフラメンコダンサー、カルメン・アマジャの姪とその娘らに宿る、世代を超えて受け継がれるフラメンコ魂を描き出す。フラメンコの入門編というのなら他にもいろいろ優れた映画があると思うが、フラメンコが現在も脈々と生きている芸術であることを本作でもまた目撃できるのは感慨深かった。

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【ジャージー・ボーイズ】四つ星

監督:クリント・イーストウッド
原案・脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
出演:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、ビンセント・ピアッツァ、マイケル・ロメンダ、クリストファー・ウォーケン、マイク・ドイル、レネー・マリーノ、エリカ・ピッチニーニ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:『シェリー』などのヒット曲が有名なフォー・シーズンズを描いたミュージカルをクリント・イーストウッド監督が映画化。ミュージカル版の出演者の多くがそのまま出演しているのだそうで、そりゃ揃いも揃って歌が上手い訳だ。下町の悪ガキがショービズ界で成功したけれど、その後も浮き沈みが待っている、というのはショービズ界もののよくあるパターンではあるけれど、リード・ボーカルのフランキー・ヴァリさんが紆余曲折を経た末にソロとしてリリースした起死回生のヒット曲『君の瞳に恋してる』を熱唱するシーンや、分裂してしまったフォー・シーズンズの面々が長い年月を経た後に4人が再開するシーンに涙せざるを得なかった。そして、あたし、イーストウッド監督が死んだらどうやって人生続けていけばいいんだろ?と真剣に思わざるを得なかった。
ところで、本作のエグゼクティヴ・プロデューサーも務めているフランキー・ヴァリさんは、80歳の今でも現役バリバリのレジェンド的存在だとのこと。YouTubeとかで最近の映像を検索してみても本当にカッコいいです!

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【ジャッジ!】四つ星

監督:永井聡
脚本:澤本嘉光
出演:妻夫木聡、北川景子、鈴木京香、豊川悦司、リリー・フランキー、荒川良々、ジャック・クルーガー、チャド・マレーン、他
製作国:日本
ひとこと感想:監督の永井聡さんって誰なんだろう?と思ったらCMディレクターの方なんだそう。脚本の澤本嘉光さんもソフトバンクの『ホワイト家族』やトヨタ自動車の『ドラえもん』のシリーズを手掛けた方なんだそうで、どおりでCM業界の裏事情にいろいろ詳しい訳だ。でもトヨエツのチャラい無責任上司を始めとしてどの人物もキャラが立ってるし、仕掛けがいっぱいのアップテンポなストーリーも綺麗に回収されていてカタルシス感が高く、実は映画の基本にとても忠実な映画なのではなかろうかと思った。こんな強めの味付けの中、一人さらりとヘタレキャラを演じて座長を務める妻夫木聡さんがやっぱり上手いなぁとしみじみ思った。

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【自由が丘で】三つ星

監督・脚本:ホン・サンス
出演:加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ、他
製作国:韓国
ひとこと感想:ホン・サンス監督の映画は、たまに見て、性的にだらしのない男性が自分を正当化するばかりの内容にうんざりして、やっぱり好きじゃないと思い知らされる、の繰り返し。本作は加瀬亮さんが出ているのでうっかり見に行ってしまったんだけど、加瀬亮さんもやっぱりそういう役をやらされていて、もういいよ、と思った。監督の映画を評価する人々はどこを面白いと感じるのだろう。聞いたところでよく分からないような気もするが。

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【17歳】四つ星

監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:マリーヌ・ヴァクト、シャーロット・ランプリング、他
製作国:フランス
ひとこと感想:原題の【Jeune & Jolie】は“若さと美貌”という意味なのだそう。何不自由ない環境にいながら何かに満たされずに売春を繰り返すヒロインの気持ちなど、私には1ミリも理解できるはずもなく、ジャンヌ・モローとかカトリーヌ・ドヌーヴとかシャーロット・ランプリングとかが織り成すファム・ファタールの系譜に連なるのかもしれない彼女をただ唖然と眺めるしかできなかった。何やってんのよ~と気付いたらすっかり親目線だったんだけど、子供がこんなふうになっちゃったとしても何をどうすることもできないような気がする……ある意味すげーホラー映画だわコレ。

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【収容病棟】四つ星

監督:ワン・ビン(王兵)
(ドキュメンタリー)
製作国:香港/フランス/日本
ひとこと感想:【鉄西区】【三姉妹 雲南の子】などで知られるワン・ビン監督のドキュメンタリーには、中国の人々の最も素に近い最も生々しい姿が収められているように思う。今回は精神病院に取材しているのだが、精神病院といってもそれほど目を覆いたくなるような雰囲気でもなく、誰しも比較的普通に生活を営んでいるようにも見える。その反面、変わった行動をする人はみんな精神病院に入れられてしまうという状況もあるらしく、例えば政治思想や宗教などで問題があるとみなされた人々なども簡単に収容されたりするらしい。中国と言えばやたら華々しい景気のいい話ばかりを聞かされる今日この頃だけど、多くの庶民は経済的にも心理的にもボーダーラインにあって、この映画に出てくる人達やその家族のようにささやかで地道な暮らしを細々と送っているのではないのだろうか、と思ったりした。

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【祝宴!シェフ】四つ星

監督・脚本:チェン・ユーシュン(陳玉勳)
出演:キミ・シア、トニー・ヤン、リン・メイシウ、ウー・ニェンチェン、クー・イーチェン、キン・ジェウェン、他
製作国:台湾
ひとこと感想:1990年代に【熱帯魚】【ラブゴーゴー】などのラブコメディの佳作を発表しながら、その後は映画界から遠ざかっていた台湾のチェン・ユーシュン(陳玉勳)監督が、16年ぶりに長編映画を撮ったと聞いて嬉しかったのなんの!あのかつてのオフビート感や笑いの感覚や、油断した頃にふとやってくるトリッキーな詩情が、よりパワーアップして洗練された形になって帰ってきていて嬉しかった。これからもまた新作を作って欲しいなぁと思った。

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【少女は異世界で戦った】四つ星

監督・原案:金子修介
脚本:小林弘利、白土勉
出演:花井瑠美、武田梨奈、清野菜名、加弥乃、岡田浩暉、金子昇、他
製作国:日本
ひとこと感想:アイドル好きで知られているという金子修介監督のシュミが炸裂した一作。そもそも、今日び実写の美少女アクションなんて素材を選んでるだけでも十分マニアックなのに、これに無理矢理アイドル要素を絡める必要がどこにある?このアイドルの描写にも、謎の教団やら原発やらが絡んでくる筋書きにも80年代の角川アイドル映画臭がぷんぷんしていて、カルト性が高いことおびただしい。わー変態だ変態。監督は、本作は駆け出しの時代の【1999年の夏休み】よりも予算も撮影日数も少ないとお嘆きの様子なのだが、そりゃこのような作風ではビッグバジェットはつきにくそう、というか、ここのところこのような小品を中心に手掛けているのは意識的にそうしているとしか思えないのだが。あと気になったのは監督の花井瑠美さんへの偏愛ぶり。前作の【ジェリー・フィッシュ】で花井さんに惚れちゃったんだろうけど、この中ではアクションも演技力もやっぱり武田梨奈さんが図抜けているし、アクションだけでも【TOKYO TRIBE】の清野菜名さんの方がずっとキレがあるでしょ?

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【ショート・ターム】四つ星

監督・脚本:デスティン・クレットン
出演:ブリー・ラーソン、ジョン・ギャラガー・Jr.、ケイトリン・デヴァー、キース・スタンフィールド、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:様々な問題を抱える子供達を短期間預かるケア施設を描くアメリカのインディーズ映画。有名な俳優さんなどが出演している訳ではなくても、子供達の問題に真摯に向き合おうとする職員一人一人の奮闘が、押しつけがましくなく説得力がある丁寧な描写で描かれていて素晴らしい。こういう映画がきちんと創られる素地があるあたり、アメリカ映画界の地力の豊かさを思わずにいられない。

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【女子ーズ】四つ星

監督・脚本:福田雄一
出演:桐谷美玲、藤井美菜、高畑充希、有村架純、山本美月、佐藤二朗、岡田義徳、安田顕、皆川猿時、大東駿介、黄川田将也、きたろう、他
製作国:日本
ひとこと感想:正社員と正義の味方の兼業ってそりゃ無理ですってば(笑)。女子あるある×戦隊モノあるあるに、福田雄一監督特有の脱力系のタッチが加わって、独特の空気感を醸し出しているのが面白い。特に光っていたのは高畑充希さんで、この人は何でもできちゃうんだな~と将来の可能性を確信した。主演の桐谷美玲さん、真面目でやる気もあるように見えるのに何かが好きじゃない……と常々思っていたのだが、その原因が分かった。締まった喉から振り絞られているように聞こえるあの声がどうも苦手なのだ。今後女優として大成したいのであれば地道にボイトレとか続けた方がいいんじゃないかしら、と老婆心ながら思ったりした。

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【白ゆき姫殺人事件】四つ星

監督:中村義洋
脚本:林民夫
原作:湊かなえ
出演:井上真央、綾野剛、蓮佛美沙子、菜々緒、金子ノブアキ、貫地谷しほり、染谷将太、生瀬勝久、谷村美月、他
製作国:日本
ひとこと感想:“事実”なんて玉虫色で、見る角度によって全く違った様相を呈することもある。そんな昔からある情報のミスリードの物語に今風の要素を加味したストーリーのバランスが抜群に上手い。中村義洋監督のさすがの安定感。ヒロインは井上真央さんだけど、実際の主役は完全に綾野剛さんで、仕事にプライドもポリシーもなくデマの拡散に加担してしまうことになるクズ男の悲哀を絶妙に演じきっていて見事だった。

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【人生はマラソンだ!】三星半

監督:ディーデリック・コーパル
脚本:マルティン・ファン・ワールデンベルグ、ヘーラルト・ムールダイク
出演:ステーファン・デ・ワレ、マルティン・ファン・ワールデンベルグ、マルセル・ヘンセマ、フランク・ラマース、ミムン・オアイーサ、他
製作国:オランダ
ひとこと感想:ある小さな工場で働く面々が工場の存続のためマラソンをすることになる。後はまぁ大体予想に違わぬ感じなんだけど、いくら本人が望んだとしても、余命幾許もないような病気の人がマラソンをするのは、無理矢理にでも止めるべきなのではないのだろうか。さすが個人主義の国はひと味違う……ってそういう問題か?

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【神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃】二星半

監督・脚本:レンツォ・マルチネリ
共同脚本:バレリオ・マルチネリ
出演:F・マーレイ・エイブラハム、イエジー・スコリモフスキ、エンリコ・ロー・ベルソ、ピョートル・アダムチク、他
製作国:イタリア/ポーランド
ひとこと感想:オスマン帝国(昔、世界史で習ったオスマン・トルコやね)の軍人がいきなり英語で喋り始めた時点で、しまった、映画の選択を間違えた、と思った。非キリスト教のオスマン・トルコの皆さんは、どこまでも「オレはウィーンを踏みにじりたいんだぁ !! 」的な動機しか持ち合わせていない野蛮な存在としてしか描かれておらず、その一方的で単純な視点の決めつけにゲッ !! と思ってしまった。後のことはもうあんまり覚えていない。まぁそんな映画。

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【シンプル・シモン】四つ星

監督・脚本:アンドレアス・エーマン
共同脚本:ヨナタン・シェーベルイ
出演:ビル・スカルスガルド、マッティン・ヴァルストレム、他
製作国:スウェーデン
ひとこと感想:アスペルガー症候群の青年を主人公にしたスウェーデン映画。主人公のお兄ちゃんが主人公に非常に理解があって献身的なのだが、このステキなお兄ちゃんに喜んでもらおうと奮闘する主人公を、その行動がちょっと風変わりであっても、あくまでも優しく暖かい目線で描いているのがいい。また、アスペルガー症候群の人の独特な世界観を、主人公目線でキュートに描いているのも印象的。ところでこの主人公を演じているビル・スカルスガルドさんは、ステラン・スカルスガルドさんの息子さんの一人なのだが、その辺りを別項で書いてみたので見てみてね。

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【スイートプールサイド】四つ星

監督・脚本:松居大悟
原作:押見修造
出演:須賀健太、刈谷友衣子、荒井萌、落合モトキ、松田翔太、利重剛、木下隆行(TKO)、他
製作国:日本
ひとこと感想:つるつるなのが悩みの男の子が毛深いのが悩みの女の子の体毛を剃る、しかも脇の下まで……なんつーエロティックな妄想なの。こんな現実的にはおよそ起こりそうもないような話が割と自然に展開したりするのが凄い。健全な男子中学生なんで(須賀健太くん、大きくなったねー)、同級生の女の子をいきなり押し倒したりせず、彼女の真剣な悩みを割と真正面から受け止めていたりするのに妙な感銘を受けたが、そのねじ曲がったエネルギーは案の定暴走して訳の分からない方向に……こりゃなかなか独創的で面白い。原作マンガの映画化とは言え、脚本も担当している松居大悟監督にはこれからも大いに期待できそうな気がする。

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【スガラムルディの魔女】三星半

監督・脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア
共同脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア
出演:ヒューゴ・シルヴァ、マリオ・カサス、カロリーナ・バング、テレール・パベス、カルメン・マウラ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:逃亡中の強盗団が魔女の村に迷い込んでしっちゃかめっちゃかに大混乱……というアレックス・デ・ラ・イグレシア監督のスラップスティック・ホラー。う~ん、私の趣味にはあまりハマらなかったかも。でもイグレシア監督の悪食な特性はよく出てるんじゃなかろうか。

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【ストックホルムでワルツを】四つ星

監督:ペール・フライ
脚本:ペーター・ビッロ
出演:エッダ・マグナソン、スペリル・グドナソン、シェル・ベリィクビスト、他
製作国:スウェーデン
ひとこと感想:実話ベースの物語。スウェーデンにモニカ・ゼタールンドという国民的なジャズ・シンガーがいたことを初めて知ったので勉強になった!でも、パパに認められないトラウマか何か知らないが、大人げない我儘を延々と繰り返し周囲に迷惑掛けまくる彼女にはいささかうんざり。まぁ、自分をさんざん痛めつけて入院までしてやっと何かに気付き、最後にはアーティストとして一皮剥ける姿が麗しかったのでいいけれど。ただ、史実では結局あの人とも破局してしまうらしいんだけどね……。

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【スノーピアサー】四つ星

監督・脚本:ポン・ジュノ
共同脚本:ケリー・マスターソン
原作:ジャック・ロブ、バンジャマン・ルグラン、ジャン=マルク・ロシェット
出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、コ・アソン、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、エド・ハリス、他
製作国:韓国/アメリカ/フランス
ひとこと感想:私はポン・ジュノ監督の大ファン。監督は、世界中の現役の映画監督の中で最もクリエイティブな人物のうちの一人だと思うから。本作はフランスのバンドデシネが原作なのだそうで、言われてみれば、滅びた世界を走り続ける列車の中に階級社会がある、なんて設定は思い切りマンガっぽい感じ。欧米の名だたる俳優陣を前にしても臆することない韓国映画界のリーサル・ウエポンことソン・ガンホ先生にも思い切り大暴れしてもらい、特殊な設定を特殊な意匠で余すところなく映像化していて悪くない。けれど、今までのポン・ジュノ監督のオリジナル作品の味わいを考えると、やっぱりちょっと物足りないような気もするかなぁ。

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【聖者たちの食卓】四つ星

監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルト
(ドキュメンタリー)
出演:ハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)のシク教徒の皆さん
製作国:ベルギー
ひとこと感想:大昔には、インド人といえばターバンをしている人というステレオタイプなイメージがあったようなのだが、このターバンをしているインド人というのは「シク教」というインドの中では少数派の宗教の教徒なのだそうで(といっても約2300万人の信徒がいるらしいが)、裕福で教育水準の高い信徒が多くて社会的に活躍したり海外に渡ったりする人も少なくないため、彼らの姿がインド人のイメージとして広まったのだそうだ。このシク教の総本山であるパンジャーブ州の黄金寺院(ハリマンディル・サーヒブ)には、500年以上受け継がれる無料食堂(ランガル)の風習があり、毎日10万食が宗教も人種も階級も職業も関係なく提供されているのだという。
この食堂は元々は、カーストと切り離せないヒンドゥー教へのアンチテーゼとして、すべての人々は平等であるというシク教の教えを体現させるために始められたものらしい。食堂の運営はすべて組織化された信徒の人々の手仕事の無償労働によるもので、畑仕事によって作られた膨大な量の野菜が膨大な量の豆カレーとナンに調理され、粛々と給仕され、食後は驚くべき清潔さで整然と片付けられる。その規模はただただ圧巻で、毎日こんなことをやっている場所が地球上にあるなんて驚き以外の何ものでもない。もしかして、世界中でこれと同じことやってたら世界平和が実現できたりするんじゃないのかな、よく分かんないけども。

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【青天の霹靂】四つ星

監督・脚本・原作・出演:劇団ひとり
共同脚本:橋部敦子
出演:大泉洋、柴咲コウ、笹野高史、風間杜夫、他
製作国:日本
ひとこと感想:劇団ひとりさんは、ヒネクレものだけど、根は育ちがいいことが垣間見えるような瞬間が時折あって面白い。【陰日向に咲く】の映画版が必ずしも気に入らなかったからなのかどうなのか、本作では原作・脚本だけでなく監督にまで挑戦し、出演までさっくりこなしているけれど、改めて考えてみると大変な多才ぶりだと思う。タイムスリップで昔の父母に会うって、ストーリーだけ聞くとちょっとベタで古くさい感じもするけれど、実際に見てみると自然な流れだし、時々シュールな味わいもある。今時このテンポ感を敢えて出せるというのは、やっぱり独自の感性があるような気がしたので、ちょっとおまけかもしれないけれどこのお星様で。

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【世界の果ての通学路】三星半

監督:パスカル・プリッソン
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:何十kmもの距離を何時間も掛けて学校に通う世界のあちこちの子供達。教育を受けられるというのは大切なことだし、すべての人々に教育を授けるというのは人類の義務だなと改めて感じたのだけれど、何だろうこの感じ……偉いねぇ、健気だねぇ、だけじゃなくてなんかもっとこう……ひねくれものでごめんなさい。

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【そこのみにて光輝く】四星半

監督:呉美保
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、他
製作国:日本
ひとこと感想:長編デビュー作の【酒井家のしあわせ】も2作目の【オカンの嫁入り】も秀作だった呉美保監督が、本作でついに一般にも名の知れた存在になってとても嬉しい。本作は、何故か今映画界でもてはやされている佐藤泰志さんが原作で、社会の片隅でギリギリ生きている男女がどうしようもなく魅かれ合う様がど直球で描かれている。綾野剛さんの零れ落ちるような色気、池脇千鶴さんの揺るぎない女っぷり、菅田将暉さんの剥き出しの無垢さ。これからも長く続くであろう彼等の俳優歴の中でもそうそうは醸し出すことができないかもしれないくらいの震えるほどの存在感が奇跡的に凝縮されていて、忘れがたい光景を紡ぎ出している。もしかしてこれが、今まで観た恋愛映画の中でも、これから観る恋愛映画の中でも、一番素晴らしい映画かもしれない。この3人のみならず、呉美保監督の今後には否が応にも期待せざるを得ない。

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【そして泥船はゆく】四つ星

監督・脚本:渡辺紘文
出演:渋川清彦、高橋綾沙、飯田芳、平山ミサオ、他
製作国:日本
ひとこと感想:監督・脚本の渡辺紘文氏と音楽監督の渡辺雄司氏のご兄弟が故郷の栃木県大田原市で立ち上げた大田原愚豚舎というプロダクションの作品。祖母と伴に日々だらだらと暮らす男の元に異母妹だと名乗る女の子が尋ねてくるという話なんだけど、登場人物の丁々発止の会話のテンポが抜群に面白い。特に渋川清彦さんが演じる主人公の、明るく軽く、ペーソスに溢れながら悲惨にならないいい意味の脱力感が素晴らしくて、渋川さん独特の存在感のポテンシャルをよくぞここまで引き出してくれた!と感謝したくなった。和製版【ストレンジャー・ザン・パラダイス】みたい、と言ったら言い過ぎか?ただし、ラスト15分の展開はちょっとよく分からず、ここは必要なかったんじゃないかと思うけど。

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【それでも夜は明ける】四つ星

監督:スティーヴ・マックィーン
脚本:ジョン・リドリー
原作:ソロモン・ノーサップ
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:アメリカ史には無知なので知らなかったんだけど、かつて黒人の多くが奴隷だった時代にも「自由黒人」という奴隷ではない黒人も一握り存在していたんだね。本編はそのような「自由黒人」でありながら間違って奴隷として売られてしまった男性の実話に基づくもの。主人公は辛酸を嘗めた挙げ句ようやく「自由黒人」であることが証明され、元の生活に戻って行けたけれど、主人公が出会ったほとんどの黒人達はその地獄のような世界以外にどこにも戻っていく場所などなく、辛酸を嘗め続けなければならなかったし、主人公もその現実をどうすることもできなかった。実話ベースだからどうにもならないけど、この結末にはどうしても苦い余韻が残ってしまった。

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【大統領の執事の涙】三つ星

監督:リー・ダニエルズ
脚本:ダニー・ストロング
原作:ウィル・ハイグッド
出演:フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、ロビン・ウィリアムズ、ジェームズ・マースデン、リーヴ・シュレイバー、ジョン・キューザック、アラン・リックマン、ジェーン・フォンダ、デヴィッド・オイェロウォ、キューバ・グッディング・Jr.、レニー・クラヴィッツ、マライア・キャリー、テレンス・ハワード、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:【プレシャス】のリー・ダニエルズ監督作で、ホワイトハウスでアイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガンと7人の大統領に仕えた実在の黒人執事の物語。様々な歴史的大事件の数々が目まぐるしく展開し、特に黒人ということで、公民権運動にのめり込む息子との対立なども描かれていたのだが、いかんせんそれぞれの出来事の描写があまりに駆け足で、主人公の心情に寄り添いきれなかったかもしれない。

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【抱きしめたい】四つ星

監督・脚本:塩田明彦
共同脚本:斉藤ひろし
原作:HBC北海道放送製作『記憶障害の花嫁 最期のほほえみ』
出演:北川景子、錦戸亮、國村隼、角替和枝、風吹ジュン、佐藤江梨子、窪田正孝、寺門ジモン、平山あや、DAIGO、周佐則雄、上地雄輔、佐藤めぐみ、斎藤工、他
製作国:日本
ひとこと感想:2005年の【カナリア】以降は今一つ精彩を欠いていた印象もある塩田明彦監督だが、本作は復活作と呼んでいいのではないかという評判も聞く。もともと北海道放送が製作したドキュメンタリーが元になっているそうで、交通事故のため半身麻痺と記憶障害になってしまった女性がある男性と出会う話。結婚は、どんな相手とどんな条件下でするのであれどのみち大変な訳で、殊更に難病であるという点を強調しすぎることなく、ある状況を受け入れて前に進んで行こうと努力する人達の物語に昇華されているのがよかった。こんなふうにちゃんと創られたお話で見るとそれぞれの俳優さんの良さがより伝わってくる気がして、ことにヒロインの北川景子さんは、真摯に演技に向き合ういい女優さんだなぁ、としみじみ感じた。

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【滝を見にいく】四星半

監督・脚本:沖田修一
出演:根岸遙子、安澤千草、荻野百合子、桐原三枝、川田久美子、德納敬子、渡辺道子、黒田大輔
製作国:日本
ひとこと感想:おばちゃん7人が野山で遭難するだけの話がなんでこんなに面白いのか!おじさん7人ではどうにもならないけれど、おばさん7人であればどうとでもなるような気がするのが凄いよね。沖田修一監督ののほほんとしたオフビート感が最高!このおばさま方はオーディションで選ばれていて、ほとんど演技経験のない人も含めまれているそう。謎の殺人ゲームが繰り広げられたり、死んだ人が見守っていたり、戦争やタイムスリップが無闇に起こったり、青春ラブストーリーだったりしなくても映画は創れるのだということを、日本映画界は今一度真剣に考えてみた方がいいんじゃないかと思う。

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【ダニエル・シュミット 思考する猫】三星半

監督:パスカル・ホフマン、ベニー・ヤーベルク
(ドキュメンタリー)
出演:ダニエル・シュミット、ヴェルナー・シュレーター、レナート・ベルタ、蓮實重彦、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、他
製作国:スイス
ひとこと感想:映画を大量に見始めた80年代の一時期、ダニエル・シュミット、フレディ・ムーラー、アラン・タネール、ミッシェル・ロッドなんていうスイス人監督の映画群が丁度流行っていたような。お懐かしい。スイス人監督作の映画には独特の静けさがあるような感じがして、何か心惹かれるものがある。そういえばゴダールなんかも実はスイス人らしいけど、世界の映画史に与えた影響も少なくなかったのではないだろうか。ただ、「日本のミニシアター・ブームはシュミットの幻影から始まった」なんて煽りはちとオーバーだと思うけど……。
本作はそれらの監督さんのうち、2006年にお亡くなりになったダニエル・シュミット監督に関するドキュメンタリー。生まれも育ちもスイスのシュミット監督は、20歳過ぎで山を下りてドイツに行き、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督とマブダチになって一緒にフランスに攻め込んだらしい。シュミット監督と友人だったという蓮實重彦氏によると、彼の映画には、ドイツやイタリアの文化を高地から眺めているような視点があるんだそうな。それはなかなか面白い分析かもしれない。

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【谷川さん、詩をひとつ作ってください。】二つ星

監督:杉本信昭
出演:谷川俊太郎、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:このタイトルを掲げておきながら、谷川俊太郎さんが詩を作るところは結局撮ることなく、谷川さんの詩を読みたい人々や詩を読む状況的なものを延々と呈示するのみ。それってどうなの。少なくとも私は、もう少し違うものを見たかった気がするのだが。

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【ダバング 大胆不敵】二星半

監督:アビナウ・スィン・カシュヤップ
脚本:ディリープ・シュクラー
出演:サルマーン・カーン、他
製作国:インド
ひとこと感想:【タイガー 伝説のスパイ】がかっこよかったサルマーン・カーン氏の主演作。しかしこの主人公、あまりにも強引というか我儘身勝手なんじゃない?インドではこういうのが男らしいとされるのかな?これはさすがに、一般的な日本人女性の感覚には合わないような気がするんだが。

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【旅人は夢を奏でる】四つ星

監督・脚本:ミカ・カウリスマキ
共同脚本:サミケスキ・バハラ
出演:サムリ・エデルマン、ヴェサ・マッティ・ロイリ、他
製作国:フィンランド
ひとこと感想:人生停滞気味のピアニストの中年男の元に、大昔に別れた父親がひょっこり戻ってきて、そのまま旅に連れ出されてしまうという話。アキ・カウリスマキ監督の映画は日本でも割とコンスタントに公開されるけど、お兄さんのミカ・カウリスマキ監督の監督作は久しぶりにお見掛けしたような。オフビートなずっこけ珍道中を続けるうち、男が知らなかった真実が一つ、また一つと明らかになっていき、最後にはある地点に辿り着く。一見、強烈に個性的というのではなさそうに見えるのだが、独特のゆったりとしたテンポと味わいがあって、この後からじわじわ来るような感じこそがアキ監督の個性なんだなと気付かされた。

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【ダムネーション】四つ星

監督:ベン・ナイト、トラヴィス・ラメル
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ダム文化の古い伝統があるアメリカで最近広がりつつあるという、古いダムを撤去する運動について描いたドキュメンタリー。できれば鮭の遡上の話だけでなく、電力需要との兼ね合いの話などにも踏み込んでもらえると更によかったかなと思うが、行き当たりばったりにしか見えない日本のダム政策についてどうしても考えてみずにはいられなくなった。

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【ダラス・バイヤーズクラブ】四星半

監督:ジャン・マルク・バレ
脚本:クレイグ・ホーデン、メリッサ・ウォーラック
出演:マシュー・マコノヒー、ジャレット・レト、ジェニファー・ガーナー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:AIDSが不治の病と恐れられていた80年代、奔放な生活がたたってHIVに感染してしまった男が、FDA(食品医薬品局)を敵に回しながらも未承認の薬の販売組織を立ち上げたという実話に基づく話。(ちなみに、今でもAIDSを発症してしまったら打つ手がないけど、HIV感染の段階できちんと薬を飲めばウイルスの増殖を抑えてAIDSを発症させることなく生きながらえることが可能になった。)自分が助かりたい一心という極めて身勝手な欲望からではあるものの、彼の作った組織は実際に多くの人を助け、その後のアメリカの薬事行政の在り方にも影響を与えたというから面白い。主人公を演じたマシュー・マコノヒーさんが何と言っても素晴らしく、ついにマシュー・マコノヒーの時代が来ちゃったね。主人公の手助けをするゲイ役のジャレット・レトさんもよかった。マッチョな主人公から毛嫌いされながらも最後には理解し合う姿は、分かっちゃいるけどやっぱり涙せずにはいられなかった。

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【誰よりも狙われた男】四つ星

監督:アントン・コービン
脚本:アンドリュー・ボーヴェル
原作:ジョン・ル・カレ
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、グレゴリー・ドブリギン、レイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォー、ニーナ・ホス、ダニエル・ブリュール、ホマユン・エルシャディ、ロビン・ライト、他
製作国:アメリカ/イギリス/ドイツ
ひとこと感想:ジョン・ル・カレ原作のスパイもので、フィリップ・シーモア・ホフマンさんの最後の主演作になってしまった(助演作はまだ残っているけど)。スパイものは基本的にあまり好きじゃないのだが、冷戦も終結して久しいこの時代にスパイの皆様は一体いかがお過ごしなのか、という疑問の一端への回答として、今はイスラム世界が仮想敵国になっていると説明されているのは新鮮だった。テロを容認する気はないし、そういう方向に突っ走っている一群を野放しにしておくわけにはいかないのは分かるけど、スパイの皆さんの仕事を絶やさないために、情報機関がイスラムが危ないという情報を殊更に流して世論を誘導しているんじゃないか?という疑念が湧いてしまわざるを得ず、彼等が“平和”の実現のためと称して行っている活動が、そのまんま世界の歪みを増長させているのではないかと感じずにはいられなかった。ラストシーンで画面からフェードアウトしていくフィリップさんに「行かないでぇ~」と心の中で思わず叫んでしまったのだが、もしかすると、ここをラストシーンにした監督さんにも同じ思いがあったのではないだろうか。

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【小さいおうち】四つ星

監督・脚本:山田洋次
共同脚本:平松恵美子
原作:中島京子
出演:松たか子、黒木華、吉岡秀隆、片岡孝太郎、妻夫木聡、倍賞千恵子、他
製作国:日本
ひとこと感想:舞台は戦前の東京。瀟洒な赤い屋根の一軒家で営まれる山の手のモダンライフは、山田洋次監督の記憶に刻まれた原風景にインスパイアされたものなんじゃないだろうか。(あの一軒家を“小さい”と言い切ってしまうあたり、山田監督ってブルジョアのお坊ちゃまだったのかな~とか思ってしまうけど。)奥様の不倫なんてストーリーは大して重要ではなく、山田監督はただ、和洋折衷のこぢんまりとした住まいに姉や(ねえや)さんが住み込みで働いている、という自分を育んだ幼少時の懐かしい生活環境を記録しておきたかっただけなんじゃないだろうか。日中戦争を経てゆるやかに戦争の時代に移り変わっていった戦前の昭和の東京を実際に知っていた人なんてこれから減っていく一方に違いなく、この映画はそんな時代の空気感を正確に描いた最後の映画になるのかもしれない。

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【チェイス】三つ星

監督・脚本:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ
出演:アーミル・カーン、カトリーナ・カイフ、アビシェーク・バッチャン、ウダイ・チョープラー、他
製作国:インド
ひとこと感想:【きっと、うまくいく】のアーミル・カーンさん主演作。サーカス団を率いるマジシャンが金庫破り !? なんて設定は破茶滅茶だし、やたらと長いカーチェイスもがっつり睡眠をもよおしたりするんだけど、実は本作の原題は【Dhoom 3】で、当然【…1】や【…2】もあるんだそうで、3番煎じといえば納得の内容なのかもしれない。しかしこれもまた“日本人向け”に内容がカットされてるんだってさー。勘弁してよもー。

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【チスル】三星半

監督・脚本:オ・ミヨル
出演:ヤン・ジョンウォン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:不勉強で「済州島4・3事件」の存在自体を知らなかった……ごめんなさい。映画ものの語り口としてはもっと部外者にも分かりやすい工夫があってもいいかもしれないと思ったが、韓国の黒歴史であるこの事件を描いたこと自体が画期的だったのだろうということは十分理解できた。これからもっと勉強させてもらいます。本作を配給したSUMOMOは元シネカノンの李鳳宇さんが代表を務める会社なのだそうだ。(今はほとんどの事業はRESPECT(レスペ)という会社に移管されているらしい。)、その昔、シネカノンが製作・配給する映画をさんざん楽しませて戴いた。今後の展開も期待しています。
済州島4・3事件:第二次世界大戦後の南北分割占領された朝鮮半島で、1948年、北朝鮮労働党の金日成が朝鮮民主人民共和国の成立を宣言したが、南部の親米派の李承晩政権は南朝鮮労働党抜きに単独選挙を行うことを決定。これに反対した南朝鮮労働党に率いられた済州島の島民の一派が4月3日に武装蜂起した事件。軍や警察や右翼青年団体などにより短期間で撃滅され、ゲリラ戦で対抗した残りの一派も1957年までに粛正され、島民の5人に1人にあたる6~8万人が殺害されたとされる。

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【父は家元】三つ星

監督:高野裕規
出演:小堀宗実(遠州茶道宗家13世家元)、小堀優子、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:ある茶道の家元に密着したドキュメンタリー。この家元の流派はどのようなものなのだろう?と茶道のことをちょっと調べてみただけで、30も40も流派があって訳が分からずあっさり撃沈。やっぱり門外漢には敷居が高そうだったが、家元の実際の生活を間近で取材して茶道の世界の一端を見せて戴けるのは面白い試みかもしれない。ただ、ここに出てきて茶道について語っているのがちょっと名の知れた会社や組織の長ばかりというのは趣味の底が浅いんじゃないの?よく知らないが、千利休とかが言っていたようなこととは少ーし違っているような気がするんだけど。

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【超高速!参勤交代】四星半

監督:本木克英
脚本:土橋章宏
出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、西村雅彦、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児、陣内孝則、石橋蓮司、市川猿之助、他
製作国:日本
ひとこと感想:城戸賞(有名なオリジナル脚本の賞)で初めて満点が出たという原作の映画化。悪徳老中の策略に嵌まり、領地から江戸まで5日で辿り着かなければ藩はお取り潰しという無理難題を押し付けられた殿様と家来たちが、あの手この手を弄して何とか江戸に辿り着こうとする。贅沢なキャストが演じるキャラクターは魅力的だし、筋立てはすっきりしていていい感じに盛り上がる。時代考証とかはまぁご愛敬としても、サスペンスとカタルシスのバランスが完璧で、エンターテインメントとして申し分なく楽しい。エンターテインメントをやるのならここまで振り切れ!という見本のような、どこを取ってもほぼ文句の付けようがなく思い切り楽しめる作品だった。

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【チョコレートドーナツ】四つ星

監督・脚本:トラヴィス・ファイン
共同脚本:ジョージ・アーサー・ブルーム
出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:実の母親に放置されているダウン症の子供をゲイのカップルが引き取ろうとする話。本作自体はフィクションとは言え、ゲイのカップルがいると社会の規範が歪むとか放言するようなあからさまな偏見や差別が、アメリカの都市部ですらまだ根深く存在しているのだろうか。傍目には、薬物中毒でその時々の恋人に依存して子供をネグレクトしている実の母親より、子供のために文化的で教育的な環境を整えている愛情深いゲイカップルの方が百万倍マシだと思うんだけど。しかし、このテの冷血な教条主義者にお涙頂戴の手紙を送りつけたって、残念ながら奴らは、毛の先ほども痛くも痒くも感じないわよね……。

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【つぐない 新宿ゴールデン街の女】三星半

監督:いまおかしんじ
脚本:佐藤稔
脚本協力:荒井晴彦
出演:工藤翔子、速水今日子、伊藤猛、貴山侑哉、他
製作国:日本
ひとこと感想:工藤翔子さんも速水今日子さんも新宿ゴールデン街に実際にお店を持っている女優さんなのだそうで、本編はゴールデン街ありきの企画のようだ。刑務所から出所した女性が昔の男に会いにゴールデン街に立ち寄ったことをきっかけに、いろんな人がいろんな人となし崩しにセックスする……という現実離れした筋立てがいかにもピンク映画っぽいけど、荒井晴彦御大が脚本協力と聞いて成程と思う。実際のゴールデン街でのロケが多用されているので、その雰囲気をちょっと覗いてみるのにはいいかもしれないと思った。

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【罪の手ざわり】四つ星

監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チァン・ウー、ワン・バオチャン、ルオ・ランシャン、他
製作国:中国/日本
ひとこと感想:以前はジャ・ジャンクー監督の映画がさっぱり分からなかったのだが、最近やっと少しだけ、監督がずっと描こうとしてきた現代の中国の姿が分かってきたような気がする。本作は近年の実際の暴力事件を元にした4つの話のオムニバスで、中国では、逐一報道される訳じゃなくてもこういう暴力事件が増えているのだそう。人々の心は急激な近代化に追いつけず、拝金主義と自我の葛藤の狭間で押し潰されそうになっているのだろうか。それはもしかして日本も辿ってきた筋道なのかもしれないが。

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【手仕事のアニメーション】四つ星

『ゴールデンタイム』
監督・脚本:稲葉卓也

『タップ君』
監督:アンマサコ
脚本:島村達雄

『つみきのいえ』
監督:加藤久仁生
脚本:平田研也

(アニメーション)
製作国:日本

ひとこと感想:【ALWAYS 三丁目の夕日】などを手掛けた映像会社であるROBOTと白組による短編アニメの特集上映。2009年に米国アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した加藤久仁生監督の『つみきのいえ』の再映も含まれており、いかに名作であっても上映機会が限られてしまう短編映画の上映機会を増やしてもらえるのは嬉しいなぁと思う。『ゴールデンタイム』はかつてお茶の間の王様だったプライドの高い箱型テレビが、自分でネジを回して動くゼンマイ式のネコと束の間の友情を育む切ない物語で、キャラクターデザインが正にテレビの黄金時代の『ゲバゲバ90分』を思い起こさせる。『タップ君』は靴職人の家に集う靴たちを描いた味のあるコマ撮り人形アニメだけど、“白組”とか入れて検索しないと昔のNHK教育テレビの『いちにのさんすう』が出てきてしまうのでご注意を。『つみきのいえ』は、地球温暖化により水位が上がり続けるため上へ上へと積み上げられた家に独り住む老人が、落としものを探すために下へ下へと水に潜っていき、昔住んでいた地点に辿り着く度に記憶も甦ってくるという物語。こんな名作を見逃していたなんてあたしったら。今回観る機会があってよかったと思った。

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【鉄くず拾いの物語】四星半

監督・脚本:ダニス・タノビッチ
出演:ナジフ・ムジチ、セナダ・アリマノヴィッチ、他
製作国: ボスニア・ヘルツェゴビナ/フランス/スロベニア
ひとこと感想:かつて初監督作品の【ノーマンズ・ランド】が様々な賞を受賞して話題になったダニス・タノビッチ監督は、数年前から本国のボスニア・ヘルツェゴビナに戻って活動なさっているそうだ。本作は、お金のないロマの夫婦が診療拒否に遭うというボスニア・ヘルツェゴビナで実際にあった事件が元になっていて、事件を知った監督がなんとその御本人達に出演を依頼して創作したのだそう。お金がない人への診療拒否は、アメリカなどでは普通にあることらしいが、日本の医療現場でももうすぐ普通に起こるようになってしまうのではないだろうか。人間の生存権なんてその程度のものなのか。みんなビンボが悪いのか。今ろくでもない国への道をまっしぐらにひた走っている日本にとっては、これは反面教師にしなければならない映画のはずだ。

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【デビルズ・ノット】三星半

監督:アトム・エゴヤン
脚本:ポール・ハリス・ボードマン、スコット・デリクソン
原作:マラ・レヴェリット
出演:コリン・ファース、リース・ウィザースプーン、アレッサンドロ・ニヴォラ、ジェームズ・ウィリアム・ハムリック、セス・メリウェザー、クリストファー・ヒギンズ、デイン・デハーン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アトム・エゴヤン監督作。アメリカでは有名な実際の冤罪事件を扱っているらしいんだけど(しかも真犯人は未だ不明らしい)、アメリカ以外の人にはそこまで衝撃的には映らないのではあるまいか。例えば日本の作品でも熊井啓監督の【帝銀事件 死刑囚】から【日本の黒い夏-冤罪】とか、【BOX 袴田事件】とか【それでもボクはやってない】とか、海外でもダニエル・デイ・ルイス様主演の【父の祈りを】とかデンマークの【偽りなき者】など、冤罪をテーマにした作品をいろいろ見てきた中で、本作に特にそれほどのインパクトを受けたわけではなかった。そもそも日本では、誰もそこまで司法を信頼していないんじゃないの?真実を明らかにする場と言うよりは、いろいろな都合の折衝の場でしかないというか。

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【テルマエ・ロマエII】三星半

監督:武内英樹
脚本:橋本裕志
原作:ヤマザキマリ
出演:阿部寛、上戸彩、北村一輝、市村正親、宍戸開、勝矢、笹野高史、竹内力、他
製作国:日本
ひとこと感想:ドタバタが少し行き過ぎて、前作より更に目まぐるしい印象に。けれど、五右衛門風呂から湯~とぴあ、箱根ユネッサン、福島スパリゾートハワイアンズ……等々の日本の入浴文化の奥深さに改めて感心してしまい、草津を始めとする日本全国の古式ゆかしい温泉街を巡ってみたいものだとふと思ってしまったので、これはこれで完全に製作者の思うツボなのかもしれない。それにしても、北村一輝さんが二人って設定は、あまりにも濃すぎじゃないかしら……。

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【天才スピヴェット】四つ星

監督・脚本:ジャン=ピエール・ジュネ
共同脚本:ギョーム・ローラン
原作:ライフ・ラーセン
出演:カイル・キャレット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジュディ・デイヴィス、ドミニク・ピニョン、他
製作国:フランス/カナダ
ひとこと感想:ジャン=ピエール・ジュネ監督作。3Dは嫌いなんで2Dで鑑賞。手堅くまとまっているんだけど、何て言うか……ストーリーに全然感情移入できない。悪くはないんだけど、思い入れを抱くことができるような点が何もないというか。

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【TOKYO TRIBE】四つ星

監督・脚本:園子温
原作:井上三太
出演:YOUNG DAIS、鈴木亮平、清野菜名、竹内力、窪塚洋介、染谷将太、坂口栞琴、佐藤隆太、石田卓也、石井勇気、市川由衣、大東駿介、丞威、ベルナール・アッカ、松浦新、高山善廣、叶美香、中川翔子、でんでん、中野英雄、佐々木心音、他
出演ラッパー:MC漢、D.O&練マザファッカー、MEGA-G、ANARCHY、JESSE、SIMON、KOHH、YOUNG HASTLE、EGO、VIKN、Y's、十影、VITO FOCCACIO、LOOTA、LUNA、TSUGUMI、他
製作国:日本
ひとこと感想:トーキョーが様々なトライブ(族)によってシンヂュク、シヴヤ、ブクロ、ムサシノ(吉祥寺の辺りでしょう)などに分割統治されている架空の世界を舞台にした全編ラップのミュージカル。主演の一人のYOUNG DAISさんを始めとした現役ラッパーの皆さんが大挙出演なさっているのが大迫力で、他にも、朝ドラ出演中にも関わらず黒パン一丁でマッチョな悪役を演じる鈴木亮平さん、イカレポンチの窪塚洋介さん、ひとりジェントルな佐藤隆太さん、狂言回しの染谷将太さんなどの他に、叶美香さんや中川翔子さんまでいる大カオス。しかし、影の主役はどう考えても竹内力さんで、竹内さんの存在感が醸し出す念力によってねじ曲げられた異空間に、みんなそれぞれ好きにエネルギーを注ぎ込んでいる感じ。ただ、熱量では間違いなくNo.1なんだけど、いろいろ過剰すぎてついていけなくて、オバサンはちょっと疲れました……。

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【東京難民】三星半

監督:佐々部清
原作:福澤徹三
脚本:青島武
出演:中村蒼、大塚千弘、青柳翔、山本美月、金子ノブアキ、中尾明慶、小市慢太郎、井上順、他
製作国:日本
ひとこと感想:「誰にでもありうる転落譚」という触れ込みなのだが、この青年、脇が甘すぎじゃね?確かに親がいきなり失踪というのは気の毒かもしれないが、その後は、どうしてここでこの行動を取っちゃうかな~?というエピソードがいくつもあって何だかな。(例えば、まとまったお金を手にしたらそこはすかさずアパート借りて住所を確保すべきでしょ?)まぁ、若くて人生経験に乏しいので仕方がないのかもしれないが。あと、“都会の闇”を描くとするならば、ホストとか日雇い工事現場とかだけでは少し古めな類型という感じもしたのだがどうだろう。今だったら半グレとか振り込め詐欺組織とかを描かない訳にはいかないんじゃないのかな。それならやっぱり【闇金ウシジマくん】の方が……となっちゃうよねぇ。

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【トム・アット・ザ・ファーム】四つ星

監督・脚本・出演:グザヴィエ・ドラン
原作:ミシェル・マルク・ブシャール
出演:ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ、他
製作国:カナダ/フランス
ひとこと感想:カナダのグザヴィエ・ドラン監督作。死んだ同性の恋人の葬儀のため実家を訪ねた青年と、その恋人の兄との間に異様な支配・被支配の関係が出来上がる。閉鎖された空間の異様な磁場の中、感覚がどんどん麻痺して捻じ曲がる。意味が分かったか?と言われると正直怪しいけれど、全編を覆う不穏な緊張感は凄いと思った。しかし、束縛は断じて愛ではありませんから!とだけは一言言っておきたい。

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【友だちと歩こう】三つ星

監督:緒方明
脚本:青木研次
出演:上田耕一、斉藤陽一郎、高橋長英、他
製作国:日本
ひとこと感想:冒頭で、若い二人組の男性がどうでもいいような屁理屈をこねている時点でもうかなり集中力が削がれてしまい、ついていけなくなってしまった。この二人と、ちょっとご年輩のもう二人の男性の二組ががひたすら歩く姿に人生なるものを重ねている……のだろうけれど、個人的に、この世の中で男性達が垂れ流す人生のご講釈ほど興味が持てないものはないんだよね。

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【ドライブイン蒲生】四つ星

監督:たむらまさき
脚本:大石三知子
原作:伊藤たかみ
出演:染谷将太、黒川芽以、永瀬正敏、平澤宏々路、猫田直、吉岡睦雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:日本のドキュメンタリー界のレジェンドだった小川紳介監督の作品の名カメラマン、たむらまさき氏の初監督作で、地方で寂れたドライブインを営む一家の物語。ろくでなしと言われた父の代からの因果で、おそらくどう転んだって「勝ち組」にはなれそうもないけれど、それが“不幸”かと言われるとそういうことではないような気がする。少なくとも、子連れで出戻ってきた姉と弟は仲がよさそうで、また新たな一家を作りつつあり、それだけでも悪くない人生であるような。彼等の姿をゆったりじんわり描く懐かしい独立映画系のテイストは嫌いじゃなかった。

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【ナニワのシンセ界】四星半

監督:大須賀淳
出演:モジュラーシンセサイザー愛好家の皆さん
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:シンセサイザーといえばかつてのYMOを思い出すくらいで、作曲や演奏がすべてコンピュータで出来てしまうようになった現在ではすっかり過去の遺物になったと勝手に思い込んでいたのだが、かの大阪の地では、モジュラーというパーツを組み合わせて音を作り上げるモジュラーシンセサイザーなるものを愛する文化が脈々と生き残り続けていたのだそうで、この大阪の皆様のご尽力により、日本でもモジュラーシンセ界がまた盛り上がりを見せ始めているのだそうだ。どうしてモジュラーシンセが大阪で生き残ったのか、という疑問に関して、日本や世界のあちこちからいろいろなものを吸い上げて効率よく消費することで莫大なエネルギーを得る東京圏と、訳の分からない生のエネルギーをそのまま抱え込むことで効率は悪いけれども全く未知のものを産み出す可能性を内包し続ける大阪圏の文化の違いがあるとする考察が面白かった。implant4(コアなシンセサイザーショップ)とか電気蕎麦(シンセサイザーな蕎麦屋さん)とか、東京では誰も発想すらしないかもしれないようなお店の数々も素晴らしすぎだ。

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【ニシノユキヒコの恋と冒険】四つ星

監督・脚本:井口奈己
原作:川上弘美
出演:竹野内豊、尾野真千子、成海璃子、木村文乃、本田翼、麻生久美子、阿川佐和子、中村ゆりか、他
製作国:日本
ひとこと感想:竹野内豊さんにハマりすぎなニシノユキヒコ氏は、モテモテなのに、最後にはいつも振られてしまう。多分、どの女の人に対してもそれなりに本気なんだろうけど、熱量が感じられないところが女の人には物足りないというか、不安にさせてしまうんだろうなぁ。フワフワと起承転結のない感じがファンタジックなお伽噺っぽくていいんだけど、それが今一つ強い印象を与えきれなかったきらいがあるのかもしれない。

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【25 NIJYU-GO】四つ星

監督:鹿島勤
脚本:柏原寛司、大川俊道、岡芳郎、ハセベバクシンオー
出演:哀川翔、寺島進、温水洋一、高岡早紀、小沢仁志、波岡一喜、竹中直人、井上正大、大杉漣、嶋田久作、鈴木砂羽、小沢和義、石橋蓮司、袴田吉彦、笹野高史、木村祐一、ブラザートム、木下隆行、本宮泰風、金子昇、工藤俊作、菅田俊、中村昌也、他
製作国:日本
ひとこと感想:東映Vシネマ25周年記念作。だったら哀川翔先生だけでなく、竹内力先生とのダブル主演にすべきだったんじゃないだろうか。などと思いつつも、いかにもVシネテイストのピカレスクはそれなりに楽しめ、ブレーク前の三池崇史監督作なんぞをビデオ屋で借りてせっせと見ていた時代をちょっと思い出したりしたので、ご祝儀込みということで。

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【ニューヨークの巴里夫(パリジャン)】四つ星

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、セシル・ドゥ・フランス、ケリー・ライリー、他
製作国:フランス/アメリカ/ベルギー
ひとこと感想:久々のセドリック・クラピッシュ監督作。ロマン・デュリスさんを見かけるのも久しぶり。離婚して、新しくガールフレンドができてもやはり成長しない男性と、そのガールフレンドの話だけど、シリーズ最終作ということもあり充分な安定感。ただ、中年男の逡巡がテーマだから、若い人にはあんまりウケないかもしれないが。

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【ニンフォマニアック Vol.1】【ニンフォマニアック Vol.2】四つ星

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレーター、ジェイミー・ベル、ウィレム・デフォー、ミア・ゴス、他
製作国:デンマーク/ドイツ/フランス/ベルギー/イギリス
ひとこと感想:ラース・フォン・トリアー監督が女性を描くのが上手い監督だとは思わない。ていうか、監督の映画を見る度に、女性に対して何ちゅう偏った考えを持っているんだ、あなたの過去には一体何があったんだと頭を抱えたくなる。それでも、そのビジョンがあんまりにも偏りすぎているが故に、女性恐怖症のケース・スタディとして傍から見てる分にはなんて面白いんだろうと、いつも思ってしまうんだよね。
“nymphomania”は女性の色情狂のことなんだそうだが、ヒロインが、私はセックス・アディクト(セックス中毒者)じゃなくてニンフォマニアック(色情狂)である、私は自分の薄汚れた欲望が好き、と宣言するところが印象的。その割にヒロインの自己否定が結構激しくてアンビバレントなのが不可解で、女性に人一倍関心はあるんだろうけれど畏怖や恐怖の対象として描かざるを得ない、監督の女性に対するスタンスを思い起こさせる。そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃね?世の中にはヒロインが性の探求者である映画も幾つかあるけど、誰もそんなに自分を卑下してないし。大体、主人公が男性であればそんなに大した話ではないように気もするし。でも、こんなふうに非現実感が甚だしい無茶苦茶な女性像に、シャルロット・ゲンズブール様がちゃんと血肉を与えているのが凄い。彼女がいなければ本作は成立しなかっただろうし、その表現者としてのプロフェッショナルぶりには本当に頭が下がる。こんな無茶ぶりに対応してラース・フォン・トリアー監督作に連投することができるなんて、もしかして彼女は現役では世界最強のモンスター女優なのではあるまいか。

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【ヌイグルマーZ】四つ星

監督・脚本:井口昇
共同脚本:継田淳
原作:大槻ケンヂ
出演:中川翔子、武田梨奈、猫ひろし、市道真央、高木古都、平岩紙、斎藤工、他
声の出演:阿部サダヲ、山寺宏一
製作国:日本
ひとこと感想:ヌイグルミと合体して地球を守るロリータ少女!原作に大槻ケンヂさんを戴き、キャラクターデザインの鶴巻和哉さんなど強力なブレインに協力を仰ぎ、中川翔子さんというメジャーどころを主演に据えても、どこまでもB級テイストの井口昇監督がいっそ清々しい。注目すべきは、変身後のしょこたん(阿部サダヲさんの声のぬいぐるみと合体してヌイグルマーになる)のアクション担当に加え、敵方の男の子との一人二役という無茶振りにまで応えている武田梨奈さん!ただでさえ行き詰まり感が激しい日本映画界で、こんな逸材をほっとく手はないですよ!

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【猫侍】三星半

監督・脚本:山口義高
共同脚本:永森裕二、城定秀夫
出演:北村一輝、蓮佛美沙子、寺脇康文、浅利陽介、戸次重幸、津田寛治、洞口依子、温水洋一、斎藤洋介、横山めぐみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:【ねこタクシー】【くろねこルーシー】【幼獣マメシバ】の東名阪ネット6の動物ドラマシリーズの作品なのだそう。話はまぁベタなのだが、白猫に萌えるコワモテ浪人の北村一輝さんの佇まいが絶妙で、何だか許せてしまった。北村さんが主役じゃなきゃそもそも見に行かなかったかもしれないが、もしかしたら、今後の娯楽時代劇の路線として、こういうものもありなのかもしれない。

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【ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅】四つ星

監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:ボブ・ネルソン
出演:ウィル・フォーテ、ブルース・ダーン、ジューン・スキッブ、ボブ・オデンカーク、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:認知症ってアメリカにもあるんだよね……そりゃそうか。父親が、いわゆる「貴方はくじに当たりました!」的なダイレクトメールを真に受けて賞金を受け取るために旅に出ようとするからって、不承不承でもそれに付き合おうとするってなんて偉い息子なんだろう。そんな旅の途中で、不器用でどちらかというと他人にいいように使われながらも朴訥と生き続けてきた父親と、そんな父親に寄り添って生きてきた母親の歴史が垣間見えてくる。これは今まで見た“老い”を扱った映画の中でも1、2を争うくらい心に響いた作品だったかもしれない。

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【ノア 約束の舟】二つ星

監督・脚本:ダーレン・アロノフスキー
共同脚本:アリ・ハンデル
出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、アンソニー・ホプキンス、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、ローガン・ラーマン、ダグラス・ブース、レオ・マクヒュー・キャロル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:出たー !! 【ファウンテン】病 !! ダーレン・アロノフスキー監督は非常に才能のあるいい監督さんだと思うんだけど、たまに宗教的妄想が爆発してトンデモ映画を撮ってしまうのよね……。これはキリスト教に非常に深く帰依している方々にとっては感動的な内容なのかな?ここまで絶対的な神を志向する狂信的なまでの宗教心は、私には到底理解し難いのだが。

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【NO】四つ星

監督:パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
原作:アントニオ・スカルメタ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ、ルイス・ニェッコ、アントニア・セヘルス、マルシアル・タグレ、ネストル・カンティリャナ、ハイメ・バデル、他
製作国:チリ/アメリカ/メキシコ
ひとこと感想:チリのピノチェト軍事政権を崩壊させた1989年の国民投票時に、反政権派のテレビCMによるキャンペーンが効を奏したという実話に基づく話。まだ軍事政権が続いていた時代にミゲル・リティン監督のドキュメンタリー【戒厳令下チリ潜入記】を見に行ったことを思い出したが、ピノチェトもとっくに過去の人で、背景に市民運動があったとはいえ、CMが決め手になって政権を追われてしまっただなんて感無量。色々な意味で、過去常識とされてきたことが時とともに変容していくことに、もののあはれを感じざるを得なかった。
ピノチェト政権時代にまつわる映画と言えば、他に、コスタ=ガヴラス監督の【ミッシング】(ピノチェトによる軍事クーデターと政権の成立にアメリカ軍が関与していたという疑惑をアメリカ市民の視点から描いた名作)、ロマン・ポランスキー監督の【死と処女】(ピノチェト政権による市民への拷問をモチーフにした話)、ビレ・アウグスト監督の【愛と精霊の家】(ピノチェトによる軍事クーデターを時代的背景にした話)、また隣国のアルゼンチンでの軍事政権による市民への弾圧を描いた【オフィシャル・ストーリー】、未見の作品ではピアソラがサントラを担当している【サンチャゴに雨が降る】(ピノチェトの軍事クーデターそのものを描いた話)などが参考になりそうなので機会があれば是非。

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【野のなななのか】四つ星

監督・脚本:大林宣彦
脚色:内藤忠司
原作:長谷川孝治
出演:品川徹、常磐貴子、寺島咲、窪塚俊介、村田雄浩、松重豊、柴山智加、山崎紘菜、左時枝、安達祐実、内田周作、細山田隆人、大久保運、パスカルズ、他
製作国:日本
ひとこと感想:「なななのか」とは、初七日×7、つまり四十九日の法要までの期間のことなのだそうで、大往生した人物の告別式に戻ってきた人々が、「なななのか」の間にその人の歴史にまつわる様々な謎を知る、といった話みたい。芦別の歴史×旧ソ連軍の樺太侵攻×原発×生者と死者、という縦横無尽な大林節は相変わらずなんだけど、今回は特に話題があちこちに飛んで行き、まとまりに欠けたきらいがあるかもしれない。また、基本的に死後の世界は信じていないので生者と死者の交錯というモチーフは個人的にはあまり得意じゃないし、監督が女性の処女性とか純潔とかにロマンを見過ぎているのも何だかな(おじいちゃんだからしょうがないかもしれないけど……)。大林監督作品の一本として割り切って見る分にはいろいろと興味深い特徴が現れているかもしれないけど、この作品を単体として鑑賞するには決して見やすい作品ではないように思った。
本作で、芦別の原野の精霊といった趣きで原野を練り歩く「パスカルズ」という音楽隊が、映画に独特の雰囲気を与えていて少し面白かった。これは「たま」の知久さんと石川さんが参加していらっしゃるバンドみたい。興味のある方は是非チェックしてみて下さい。

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【her 世界でひとつの彼女】四星半

監督・脚本:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド、他
声の出演:スカーレット・ヨハンソン
製作国:アメリカ
ひとこと感想:人工知能つきのOSってSIRIの進化版みたいなものかな?プログラムに感情があって恋に落ちることすらできるってどれだけ高性能なんだよ……ていうか、そもそもプログラムに感情や欲望やオーガズムまでプログラミングする必要があるのかな?でも、“彼女”が歌ってるシーンがあまりにも美しく、その詩情に泣きそうになってしまった。以前、スパイク・ジョーンズ監督のロボットの短編を見たことがあるけれど、監督は感情なきものに感情を吹き込んで、そこに切なさを加味するのが抜群に上手い。“彼女”は高性能が仇になり、より進化したいという欲望に従ってすっかり別次元の存在になってしまうけれど、この展開は、普通の恋愛の成り行きとまるで変わらないものなのかもしれず、これは相手がちょっと新機軸というだけの恋愛映画なのだということを改めて思い起こした。

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【パーソナル・ソング】三星半

監督:マイケル・ロサト=ベネット
出演:ダン・コーエン、オリバー・サックス、ボビー・マクファーリン、他
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:認知症患者に、患者自身の思い入れのある曲を聴かせるというのは一定の治療効果があるようだ。その知見は素晴らしいとは思ったけど、この映画自体は、その運動をしている団体の資金集めのプロモーションビデオ的なもののようにしか見えなかったんだよねー。う~ん……。

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【バチカンで逢いましょう】三つ星

監督:トミー・ヴィガント
脚本:ジェーン・エインスコー、ガブリエラ・スペーリ
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャンカルロ・ジャンニーニ、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:かつて【バグダッド・カフェ】が好きだった人なら、マリアンネ・ゼーゲブレヒトさんを見てノスタルジアを感じる人も少なくないんじゃないのかな。久々に拝見することができて嬉しかったけれど、映画自体は、登場人物のキャラクター造形にいま一つ馴染めず、最後までゴチャッっとした印象のまま終わってしまったかもしれない。

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【はなしかわって】四つ星

監督・脚本:ハル・ハートリー
出演:D.J.メンデル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:便利屋さんみたいな男性がうまくいったりいかなかったりで右往左往するお話。ハル・ハートリー監督と言えば、今は無きシネヴィヴァン六本木(今の六本木ヒルズ界隈に1999年まであったどっぷりアートハウス系のミニシアター)のクロージング作品【ヘンリー・フール】を思い出すなぁ。あの頃と変わらない、ちょっとアウトサイダーな人達の優しいアジール。日本では久しく失われてしまったような気がするあのモラトリアム的な調和感が、ニューヨークのハルさんの周囲にはまだ存在しているのだろうか。

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【バルフィ!人生に唄えば】三星半

監督・脚本:アヌラーグ・バス
出演:ランビール・カプール、プリヤンカー・チョプラ、イリアナ・デクルーズ、他
製作国:インド
ひとこと感想:昨今、インド映画がちょっと流行っているような。配給者の方々の努力の賜物かとは思うけれど、おそらく、映画業界全体の不景気と買い付け価格高騰による作品不足も影響していて、インド映画であれば価格の割にいい作品が入手できるという事情もあるのではないかと思う。本作もインド映画で、一般的には評判も上々のようだけど、個人的には、『Mr.ビーン』と【アメリ】を足して3で割ったような印象がどうしても拭えなくて、今ひとつ感情移入ができなかった。他の男性と結婚したくせにバルフィ君にいつまでも未練たらたらなヒロインの煮え切らない態度もなんだかなー……と思っていたら、彼女はヒロインというより狂言回し的な役回りだったので、まさかの展開でビックリしたけれど。

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【春を背負って】四つ星

監督・脚本:木村大作
共同脚本:瀧本智行、宮村敏正
原作:笹本稜平
出演:松山ケンイチ、蒼井優、豊川悦司、檀ふみ、小林薫、新井浩文、安藤サクラ、吉田栄作、井川比佐志、石橋蓮司、仲村トオル、池松壮亮、市毛良枝、他
製作国:日本
ひとこと感想:撮影監督として名高い木村大作さんは、自らの監督作品は【劒岳 点の記】1作のみにするつもりだったらしいのだけれど、あまりに好評だったので気が変わったんだって。それでまた山を舞台にした作品を選ぶってちょっとイージーなのでは?とも思ったけれど、実際に山の景色が美しく力強いのでまぁ納得せざるを得ない。都会で株屋をやっていたような人がいきなり山小屋の仕事なんて出来るのかといった疑問や、亡くなった父親に世話になったという風来坊の男性(師匠筋)や気立てが良くて働き者の天涯孤独な女性(嫁候補)がひょっこり現れるなんていう都合のよすぎる人物配置、また某有名作曲家による音楽がちょっとうるさすぎるなど、気にならない点がないではないのだけれど、概ね楽しめる作品だったのではないかと思う。

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【ハロー!純一】三星半

監督・脚本:石井克人、川口花乃子、吉岡篤史
出演:加部亜門、満島ひかり、森下能幸、森岡龍、池脇千鶴、津田寛治、我修院達也、他
製作国:日本
ひとこと感想:子供達に映画を見せたい!という石井克人監督の志は支持したいし、小学生0円という興業形態は面白いと思う。(子連れで映画を見に行きやすくなるかも?)ストーリーも、ちょっと気弱な主人公を含めた子供達6人の個性も生きてるし、ちょっとハデめな教育実習生(満島ひかりさん)を始めとする周りの大人達との関わりも悪くない。ただいかんせん、子供達の演技が玉に瑕というか、滑舌があまりにも悪くて聞き取りづらいんだよね。いろいろな制約があるんだろうけれど、ここをちゃんと指導するのは大人の側の責任なんじゃないかと思うのだが。

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【バンクーバーの朝日】四つ星

監督:石井裕也
脚本:奥寺佐渡子
出演:妻夫木聡、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、池松壮亮、高畑充希、佐藤浩市、石田えり、鶴見辰吾、田口トモロヲ、徳井優、大鷹明良、岩松了、光石研、ユースケ・サンタマリア、貫地谷しほり、本上まなみ、大杉蓮、宮崎あおい、他
製作国:日本
ひとこと感想:野球だけが夢と希望だった。野球映画というより、カナダの日系移民の苦難の歴史の映画として見るべきだと思う。妻夫木聡さん、亀梨和也さん、勝地涼さん、上地雄輔さん、池松壮亮さん、高畑充希さん(事実上の紅一点)、佐藤浩市さんなどの俳優陣の演技も素晴らしかったのだが、何と言っても奥寺佐渡子さんのオリジナル脚本が白眉。奥寺氏といえば、これまでに【お引越し】【よい子と遊ぼう】【しゃべれどもしゃべれども】【パーマネント野ばら】【八日目の蝉】【草原の椅子】【軽蔑】【サマーウォーズ】【おおかみこどもの雨と雪】などなどの数々の名作を手掛けてこられたのだが、視聴者を助けると思って、そろそろNHKで朝ドラか大河を手掛けて戴けないものだろうか(NHKからオファーは行ってるんじゃないかと思うのだが)。またしても名作をものしてしまった石井裕也監督には、次回作も期待せざるを得ない。

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【ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古】三星半

監督:サイモン・ブルック
(ドキュメンタリー)
出演:ピーター・ブルック、ワークショップに参加する俳優の皆さん、他
製作国:フランス/イタリア
ひとこと感想:原題は【ピーター・ブルックの綱渡り】で、世界的な舞台演出家であるピーター・ブルック氏がプロの俳優向けに開催している、綱を渡る姿を演じるワークショップを撮影したもの。真理に到達しろと言っても、演じることにおける真理とは何だろう……俳優じゃないんで深いところはさっぱり分からないが、ただ、ジェントルで眼光鋭いブルック翁のように年を取りたいものだなぁとか、演技とはあんまり関係ないことを考えていた。

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【光の音色 THE BACK HORN Film】四つ星

監督:熊切和嘉
出演:THE BACK HORN
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:THE BACK HORNが演奏しているところを撮影した熊切和嘉監督作品。BUMP OF CHICKENの映画でも山崎貴監督がオープニングを撮ったという話を聞いたのだが、映画監督にPVを撮らせるのって流行ってるのかな?そもそもTHE BACK HORNと言っても【アカルイミライ】のテーマ曲を歌っていたことくらいしか思い出せなかったのだが、彼等はいい意味でその頃と全然変わっていない気がする。やりたいことを最初から見据えていてただシンプルに続けていく、ソリッドな強さが骨太でかっこいいと思った。

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【郊遊 ピクニック】三つ星

監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)
脚本:ドン・チェンユー、ポン・フェイ
出演:リー・カンション、リー・イーチェン、リー・イージェ、ヤン・クイメイ、ルー・イーチン、チェン・シャンチー、他
製作国:台湾/フランス
ひとこと感想:蔡明亮監督が本作を最後に映画監督をやめるらしいという話を聞いてちょっと驚いた。本作もやっぱり自分とは相性が悪くて、全然分からないなーという感想しか残らなかったんだけど、こんなふうな映画を創る監督さんが映画を見限ってしまうなんて悲しいかもしれない……。と思ったら、劇場用映画から手を引くだけで、美術館での上映などを目指したアートハウス系の芸術映画などは今後も作り続けるつもりらしい。ああよかった。個人的な好き嫌いに関わらず、監督のような人には世界のどこかで映画を創り続けていて欲しいように思うのだ。

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【蜩ノ記】四つ星

監督・脚本:小泉堯史
共同脚本:古田求
原作:葉室麟
出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高、串田和美、井川比佐志、寺島しのぶ、三船史郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:白黒はっきりした勧善懲悪じゃなく、偉い人の気持ちがどう動くかという胸先三寸で下の人の処遇が決まっていくグレーゾーンの塊のような武士の世界の機微は、日本人の自分にすらちょっと分かりにくい。例えばもしこれを外国人の皆さんに見せたりしたら1ミリも分からないんじゃないだろうか。それでもこの映画を観ていられるのは、無罪の罪に言われ死刑が確定していても矜恃を持って生きる主人公とその一家の人々が清々しく、彼等に影響を受けて変わっていく若侍に共感できるからだろう。役所広司さんに岡田准一さん、堀北真希さんや原田美枝子さんなどの細やかな演技を観ているだけでも充分満足だったし。

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【日々ロック】四つ星

監督・脚本:入江悠
共同脚本:吹原幸太
原作:榎屋克優
出演:野村周平、二階堂ふみ、前野朋哉、岡本啓佑、竹中直人、毬谷友子、落合モトキ、古館佑太郎、蛭子能収、喜多陽子、他
製作国:日本
ひとこと感想:【サイタマノラッパー】の入江悠監督作。この主人公、ロック馬鹿というよりロック以外は全くダメダメな野郎だけれども、ロックに感電したそのエネルギーだけで突っ走る勢いに、素顔は凶暴なアイドルや、同じグループのメンバーや、同じライブハウスのロック仲間なども何となく感化されていく様が愛おしく思えて、何か分からないが感動させられてしまったような気がした。どんな役をやっても相変わらず抜群に上手い二階堂ふみさんもさることながら、作品によって毎回全然違う役を演じ分けている野村周平さんが頭のネジが弾け飛んだような主役を熱演しているのが印象的で、彼には今後も注目していきたいと思った。

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【百円の恋】四つ星

監督:武正晴
脚本:足立紳
出演:安藤サクラ、新井浩文、早織、根岸季衣、他
製作国:日本
ひとこと感想:松田優作さんの出身地である山口県で開催されている周南映画祭に創設された脚本賞「松田優作賞」のグランプリ受賞作を、【EDEN】【イン・ザ・ヒーロー】の武正晴監督が映画化。恋は恋でもボクシングに恋する話だったのだが、ここまでデブデブにせずとも……というくらいだらしなく膨らませきった体をボクサーの肉体になるまで引き締めて、だらだらと無為に生きているぐうたら女がボクシングに目覚めて変わっていく様をフィジカルなレベルでも表現している安藤サクラさんの説得力がハンパなかった。彼女は日本映画界の至宝になりつつあるのではなかろうか。なし崩し的にだらだらつきあい始めた男性(新井浩文さん)との関係や、全く違う生き方をしている犬猿の仲の妹(早織さん)との関係の描写も面白かった。

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【白夜のタンゴ】四つ星

監督:ヴィヴィアン・ブルーメンシェイン
(ドキュメンタリー)
出演:ワルテル・“チーノ”・ラボルデ、ディエゴ・“ディピ”・クイッコ、パブロ・グレコ、アキ・カウリスマキ、M.A.ヌンミネン、カリ・リンドクヴィスト、レイヨ・タイパレ、他
製作国:ドイツ/フィンランド/アルゼンチン
ひとこと感想:タンゴの発祥はフィンランドだ!という珍説?に反論すべくフィンランドを旅するためにタンゴの本場のアルゼンチンからやってきた3人のミュージシャンを追ったロードムービー。でもフィンランドでもタンゴが盛んなのは確かなようで、結局、楽しい文化交流になっていたのが素敵だった。

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【不機嫌なママにメルシィ!】二星半

監督・脚本・出演:ギヨーム・ガリエンヌ
製作国:フランス/ベルギー
ひとこと感想:本作の監督・脚本を務め本人役と母親役の二役で主演もこなしているというギヨーム・ガリエンヌさんは、フランスでは人気のある俳優さんなのだそうだ。父ちゃん坊やな雰囲気が少し濱田岳さんに似ているかな……?しかし、女の子として育てられて、成長するにつれアイデンティティ・クライシスに陥ったとか言われても。ちょっと変わった自伝とか、勝手な親に振り回される話の類いは最近食傷気味だし、母親がやっぱりどうしても男にしか見えないのも何だかな。ギヨーム・ガリエンヌさん自身をよく知らない外国の人にはちょっと厳しいんじゃないかと思ったのだが。

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【複製された男】三つ星

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:ハビエル・グヨン
原作:ジョゼ・サラマーゴ
出演:ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン、サラ・ガドン、イザベラ・ロッセリーニ、他
製作国:カナダ/スペイン
ひとこと感想:先だって公開された同じドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の【プリズナーズ】がとんでもない傑作だったから、本作の公開も非常に楽しみにしていたのだが、まーこれが全然さっぱり清々しいほどに訳の分からない映画だった!後で聞いた話によると、本作に描かれているのは浮気男の心象風景で、「複製された男」というのも主人公の浮気男本人のことらしい。成程、少しは分かったような気がしたけれど、しかし、浮気男の心の内なんてますますどうでもいいというか、全然興味ないしなー。困ったなぁ。

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【福福荘の福ちゃん】四つ星

監督・脚本:藤田容介
出演:大島美幸、水川あさみ、荒川良々、芹澤興人、飯田あさと、黒川芽以、平岩紙、山田真歩、山本剛史、徳永ゆうき、北見敏之、真行寺君枝、古館寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:【グループ魂のでんきまむし】【全然大丈夫】の藤田容介監督によるオリジナル作品。女性に縁はないけれど、誰にでも親切で人生を楽しみながら粛々と生きている中年独身男性の福ちゃんが気持ちのいい奴で、見ていてつい応援したくなる。彼の主人公の愚直なまでの純粋さや清潔感を表現するために、女性である大島美幸さんが抜擢された意味があったのだろう。役柄によく合っていてよかったと思う。

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【ふしぎな岬の物語】三星半

監督:成島出
脚本:加藤正人/安倍照雄
出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史、吉幾三、井浦新、中原丈雄、石橋蓮司、米倉斉加年、小池栄子、春風亭昇太、他
製作国:日本
ひとこと感想:まぁ何というか、吉永小百合様の吉永小百合様による吉永小百合様のための映画だな。本編のモチーフになった「岬」という喫茶店は、千葉県の秘境の一つである鋸山の近くの明鐘岬に実在する有名なお店で、一回火事になって復活したというのも実話らしい。このお店の存在に感銘を受けた小百合様と、県内の茂原市在住という成島出監督の共同プロデュースで本作が出来上がったのだそうだ。しかし、良く言えば心温まる麗しいお伽噺だけど、悪く言えば現実離れした綺麗ごとの世界で、どうにも生温い。こんなペースで仕事しててやっていけるのかよ、田舎で店を経営するってそんな甘いもんじゃないだろ?ただ、明鐘岬以外にも館山ファミリーパークや和田浦漁港、大多喜町、上総中野駅、勝浦漁港、千葉市ブルーフィールドなど県内のあちこちでロケーションをやっているんだそうで、数年前から千葉県民になった筆者としては、千葉の宣伝になってくれるならまぁいいか、と最後は日和ってしまったのだけれど。

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【2つ目の窓】四星半

監督・脚本:河瀬直美
出演:村上虹郎、吉永淳、松田美由紀、杉本哲太、渡辺真起子、村上淳、常田富士男、榊英雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:正直に告白すると、河瀬直美監督の映画でちゃんと感動したのは、実は【萌の朱雀】以来だったような気がする。主人公の少年は、どうやらまだコドモだから性に対して恐れを抱いていて、父親と離婚している母親が現役のオンナであることが耐えられないし、屈託なく直球でアプローチしてくる少女を素直に受け入れることもできない。少女の母親はユタ(巫女)で、病気により人生の終わりを迎えようとしている。そんな彼等が様々な経験を経て、伸びやかに大人になる姿が美しい。河瀬監督は、本作では物語のモチーフとして抱いたイメージの映像化に成功しているんじゃなかろうか。本物の父親である村上淳さんと親子役で共演というあまり類のないデビューを飾った村上虹郎くんは、型に嵌まらない演技で大物であることを予感させ、このまま変な色に染まらずに真っ直ぐ成長してもらいたいと思った。相手役の吉永淳さんは【あぜ道のダンディ】の娘役の人らしく、同作をまた見直してみたくなった。少女の母親の松田美由紀さん、その心優しき夫の杉本哲太さん、少年の母親の渡辺真起子さんなど、脇を固める役者さんもみんな素晴らしく、これは観る価値のある映画なんじゃないかと思った。

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【ぶどうのなみだ】二星半

監督・脚本:三島有紀子
出演:大泉洋、染谷将太、安藤裕子、他
製作国:日本
ひとこと感想:同じ三島有紀子監督の【しあわせのパン】が全く体質に合わないことが分かってたのに、大泉洋さんと染谷将太さんの組み合わせってどんなかなー、とふと魔が差してしまってふらふらと映画館に行ってしまい大失敗。【しあわせのパン】が好きだった人にはいいんじゃないかと思うけど、本当にごめんなさい……。

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【フランシス・ハ】四つ星

監督・脚本:ノア・バームバック
共同脚本・出演:グレタ・ガーウィグ
出演:ミッキー・サムナー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカの俊英ノア・バームバック監督による、主演のグレタ・ガーウィグさんとの共同脚本作品。ちょっと周囲から浮き気味で熱意が空回り気味の女性が自分の道を見出すまでの話なんだけど、人生が全く思い描いた通りに運ばないとか、自分は一人前にやっているという見栄や虚勢をついつい張ってしまうとか、あまりに身に覚えがありすぎて分かりすぎてしまい、映画を観ながら一人で赤面せざるを得なかった。この妙なタイトルの意味も最後に分かって超ウケた!このツメの甘さというかソツなくこなせないところが良くも悪くも彼女のキャラなのであって、誰しもつまづいたり転んだりしても何とか生きていけるのだ、という映画の制作者側からのエールなのではないかと思った。

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【プリズナーズ】四星半

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:アーロン・グジコウスキ
出演:ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホール、テレンス・ハワード、マリア・ベロ、ビオラ・デイヴィス、ポール・ダノ、メリッサ・レオ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:カナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品は今までに2001年公開の【渦】や2011年公開の【灼熱の魂】などを拝見していたのだが、一筋縄ではいかない筋立てや登場人物の複雑な心理描写が印象的で、日本でももっと広く知られてもいい人じゃないかと常々思っていた。
この何の面白味もないカタカナタイトルはなんなのよー !! 映画を見逃しちゃうところだったじゃないのー !! と思ったのだが、原題もこのまんまだし、本当に「捕らわれた人々」の話だからしょうがないかもしれない。女の子を誘拐されてしまった父親が必死で探し回るあまり狂気としか映らない行動を取り始める一方、地元の刑事も徐々に真相に迫っていく筋立てで、妻と長男、一緒に被害に遭ったもう一方の家族、容疑者の男、etc.……と一人一人の心理を緻密に描写しつつ、全体のサスペンスもダイナミックに展開していくのが凄いの一言。父親役のヒュージャックマンさんの見たこともないような鬼気迫る演技に、彼の行動は正しかったとはとても言い難くても、自分が同じような立場になったら同じような行動を取らないとは限らないかもしれない、などと考えさせられたりもする。一方、事件を地道に追い掛けていたかに見えた刑事役のジェイク・ギレンホールさんが、一転、捜査に掛ける熱い心を爆発させるシーンがあり、これがまたとてつもなく素晴らしい。他のキャラも秀逸なキャスト揃いで、重厚な演技合戦が見応え十分。これは控えめに見積もっても稀代の大傑作 !! ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督も、自分の中で次世代の巨匠候補の1人に認定せざるを得なくなった。

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【ブルージャスミン】四つ星

監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:基本的に、結婚相手によって人生変えることしか目指してない女って設定、今時どうやねん。しかも、そんな姉妹がお互いに自分の方がましだと相手を見下している姿とか、のっけから楽しいお話にはなりそうもない臭いがプンプン。特にケイト・ブランシェットさん演じる姉の方は、カネの有り無しでしか価値を判断できないタイプで、自分のプライドを保つためだけに、カネはかかってるけど中身はカラッポな虚飾的な生活を営むこともよしとし、投資コンサルタント(金融詐欺師)の夫の犯罪からも、夫の浮気性からも、自分の咎からも目を逸らし続けようとする。現実がそこにあるはずなのに見ないことにして自分の中で無かったことにすることができるなんて、それはそれでもの凄い才能だなとある意味感心してしまうが、正直、このようなメンタリティはただの1ミリも理解できないし、自分の人生の中ではこんなタイプの人とは絶対に関わり合いになりたくない。(というか、実際に関わらないようにしてきたから、今や自分の周りにはこういう人はほとんどいないと思う。ラッキー。)拝金主義という病を病むジャスミンさんは、現代という時代のある部分を鏡のように明確に映し出しているのだろうし、その描写力はさすがウディ・アレン監督だと感心してしまう。……しかし、監督が心を病んだ話を作り始める時期って、私生活でも病んでる時期であることが少なくないんだよなー。結婚生活とか大丈夫なんすか?と心配になるじゃないですか。

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【フルートベール駅で】三星半

監督・脚本:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、オクタヴィア・スペンサー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:警官に射殺された黒人青年の実話を基に、彼の最後の1日を描く。ちょっとヤンチャをしてたけど、恋人と子供とともに今まさに人生をやり直そうとしていた矢先、友人達と普通に新年のカウントダウンに出かけたところ、ちょっとしたイザコザに巻き込まれ、思い込みの激しい警官達から一方的な取り調べを受けて……ここでなんで発砲されるのか、あまりにも理不尽。その感慨は、映画を見た直後よりも、後々アメリカから似たような事件の報道が流れてくる度に強くなった。アメリカの警察では「ストップ&フリスク」といって怪しいと思っただけで一方的に立ち止まらせて捜査をすることが慣例として認められているらしく(犯罪率の高い地域ではこの捜査法が不可欠だという意見なのだそうだが)、これに従わなかった相手に、恐らくは恐怖感から過剰な攻撃を加えてしまい死に至らしめてしまうケースが少なくないらしい。他所の国のことながら、それはやっぱり間違っているんじゃないの?と思わざるを得ないのだが。

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【プロミスト・ランド】四つ星

監督:ガス・ヴァン・サント
脚本・出演:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー
原作:デイブ・エッガース
出演:フランシス・マクドーマンド、ハル・ホルブルック、ローズマリー・デヴィット、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:お金、大事だよね。きれいごとじゃないよね。マット・デイモンさんが演じる主人公は、お金で自分の少年時代を破壊されたからこそお金信者になったのよね。だからって、お金を儲けるためには何をやってもいいのか。その辺りが、この話の骨子なんだろう。地方経済の地盤沈下っていずこでも大問題だけど、グローバリズムとローカリズムの狭間で翻弄される人々は、目の前のお金のために、豊かな自然も、昔ながらのコミュニティも売り払おうとしてしまう。けれど、破壊されればもう二度とは戻ってこないそれらのものは、本来、僅かなお金に見合うようなものじゃないはずだ。この図式、まんま日本のあちこちにも当てはまるんじゃないだろうか。
フランシス・マクドーマンドさんが演じる主人公のボスは「it's just a job」としれっとうそぶくけれど、人間の幸福に資することのない企業活動を組織のせいにして、個人の思惑が届く領域じゃないからと個人のモラルとの解離を正当化するのは、これから後の時代には段々と許されなくなってくるのではないかという気がする。いくら私らパンピーがアホだからって、お金を動かしているのも所詮人に過ぎないという事実に目をつぶらされ続ける事態にもそろそろ限界が来ているのではなかろうかと感じるからだ。食い足りないと感じる点もあるけれど、商業映画の枠組で、人間の経済活動に関わるいろんな問題を提示するこのような映画を作ってみせるのがアメリカの凄いところで、ジョン・クラシンスキーさんという方と共同で製作と脚本を担当しているマット・デイモンさんはつくづく興味深い人だと思った。

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【ベイマックス】四星半

監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ
脚本:ロバート・L・ベアード、ダニエル・ガーソン、ジョーダン・ロバーツ、他
原案:スティーヴン・T・シーグル、ダンカン・ルーロー
製作国:アメリカ
ひとこと感想:20人もの脚本家が練りに練ったという脚本はウェルメイドの極致。13歳の天才児が大人に互して活躍するというのは、子供にはそれだけでワクワクする設定なんじゃない?お兄さんを早々に殺してしまう展開だけはちょっとどうかと思ったけれど、主人公が一度失敗して成長するのも、仲間と協力して目的を成し遂げるのも、最初はよちよち歩きだったベイマックスがどんどんバージョンアップしてカッコよくなっていくもの、敵の設定もひたすら上手く、なるべく多くの人が最大公約数的に面白いと感じるであろう要素をコンピュータみたいに抽出して惜しげもなく並べてあるのに感心してしまった。ただ、エンターテインメントとしてはこれで完璧で、商売としては全く正しいとは思うのだけれど、この方法だと、ある作品が人間の心の深淵に潜むある部分をえぐり出し、今まで誰も辿り着いたことのなかった人類の彼岸を垣間見させてくれる、というようなことはなくなってしまうのではないだろうか。私は究極的にはそういうものが見たくて映画を見続けているので、もし世の中の全ての映画が【ベイマックス】みたいになってしまったら、それこそ映画を見るのをやめてしまわざるを得ないだろうなぁと思ったが。

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【ぼくたちの家族】四星半

監督・脚本:石井裕也
原作:早見和真
出演:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾、板谷由夏、他
製作国:日本
ひとこと感想:一家の要である母親が脳腫瘍で余命いくばくもないということがいきなり発覚し、その余波で家族に潜む借金やディスコミュニケーションなどの様々な問題が浮上し、元引き籠もりだけど今は家庭も持っている長男、大学生でちょっと冷めている次男、優しいけれどちょっと頼りない父親は、苦悩しながらもそれぞれ何とか道を見つけようとあがく。長男にもうすぐ子供が生まれるという設定も上手くて、余命1週間と余命数年では大違いだったりする。ストーリー展開も俳優さんの演技もどこを取っても非の打ち所のない、とても30歳そこそこの人が創ったとは思えないほどに完成された傑作。石井裕也監督はもう完全に次世代の巨匠候補の筆頭に認定していいんじゃないかと思う。

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【ぼくを探しに】三つ星

監督・脚本:シルヴァン・ショメ
出演:ギヨーム・グイ、アンヌ・ル・ニ、ベルナデッド・ラフォン、エレーヌ・ヴァンサン、ふぁにー・トゥーロン、他
製作国:フランス
ひとこと感想:【ベルヴィル・ランデブー】のシルヴァン・ショメ監督の実写映画。しかしこのテイスト、ミシェル・ゴンドリーの廉価版といった印象しか抱くことが出来ず、どうも個人的にはハマらなかった。これをやるならアニメでいいのではないだろうか?父親と母親について誤解した印象を抱いて手前勝手に傷つき修正できずに大人になった、という筋立ても、どうもあんまり好きになれないし。

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【ホットロード】三星半

監督:三木孝浩
脚本:吉田智子
原作:紡木たく
出演:能年玲奈、登坂広臣、木村佳乃、小澤征悦、鈴木亮平、太田莉菜、竹富聖花、落合モトキ、山田裕貴、野替愁平、遠藤雄弥、利重剛、松田美由紀、鷲尾真知子、野間口徹、他
製作国:日本
ひとこと感想:三木孝浩監督って【ソラニン】の監督さんだったのね。【陽だまりの彼女】や【僕等がいた】なども割と評判がいいみたいだし、青春ものを描く手法には定評があるようだ。本作は原作が伝説とされるほどに有名な作品だから、どう作っても批判を免れ得ない運命にあるのかもしれないが、原作を未読なせいもあるのか、個人的には好感を持てたというか、結構健闘しているのではないかと思った。しかし、1つ決定的に残念なのは、元々の設定よりも俳優さんの年齢が高めなこと。いくら能年さんが童顔でも14歳には絶対に見えないから、未亡人の母親が父親以外の男性と交際することに激しく傷ついてることにどこか違和感を感じるし、相手役の登坂広臣さんの無謀な行動にも無理を感じるし、鈴木亮平さん演じる暴走族のリーダーに到っては20歳ってそれはあんまりな……。それぞれの人物の演技はよくっても、10代のナイーブさが前提になければそもそも成立しないストーリーだというのはどうにもならない気がする。この映画の製作にはそれはそれはいろいろな思惑があったのだろうけれど、いろいろな面で、もう少し何か他のやり方を検討すべきではなかったのだろうか。

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【ほとりの朔子】三つ星

監督・脚本:深田晃司
出演:二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古館寛治、他
製作国:日本/アメリカ
ひとこと感想:浪人生の女の子が海辺の街で過ごす夏の終わりの2週間。監督ご自身が公式サイトに「海辺を男の子と女の子が歩いている。ただそれだけで、スクリーンが息づき満たされるような、そんな映画を作りたい。」という文を書いていらっしゃるくらいだから、これは最初から完全に“雰囲気押し”を意図していると言っていいのだろう。しかし、そんなに凄い大事件が起こる訳でもない女の子の日常がただ丁寧に描かれていても、男性の観客はともかく、女性の観客にはそれほど遡及しないのではないだろうか。少なくとも私にはあまり響かなかったのだけれど。

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【ホドロフスキーのDUNE】五つ星

監督:フランク・パヴィッチ
(ドキュメンタリー)
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、メビウス、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ダン・オバノン、ピンク・フロイド、マグマ、サルバドール・ダリ、アマンダ・リア、ミック・ジャガー、ウド・キア、オーソン・ウェルズ、デヴィッド・キャラダイン、ニコラス・ウィンディング・レフン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アレハンドロ・ホドロフスキー御大がチリ出身のロシア系ユダヤ人とは知らなかった。(作風からして何となくメキシコ辺りのご出身かと思っていた。)あの作風はリアル・マジック・リアリズムだったのか!成程。御大が、伝説的カルト作品【エル・トポ】や【ホーリー・マウンテン】の発表後、『デューン』を制作しようとして果たせなかったのは知られた話だと思うけど、本作はその詳細をつぶさに記録したドキュメンタリー。この『デューン』を流用して製作されたデヴィッド・リンチ監督の【デューン/砂の惑星】を息子に説得て見てみたら、あまりにヒドい出来で見ているうちに元気になってきた、というエピソードは笑えたけど、聞けば聞くほどこの映画が実現化しなかったのは本当に残念で、ダリとミック・ジャガーとオーソン・ウェルズが同じ画面に出てるのを是非見てみたかった!ダリと映画との関わりと言えば即座に【アンダルシアの犬】を思い出すけれど、成程、ホドロフスキー御大の作品には、最早風前の灯火である映画と芸術の親和性がまだまだ色濃く存在しているような気がする。けれど、御大がこの映画のために作った設定資料集がハリウッドに隠然と影響を与え、【エイリアン】や【スターウォーズ】などの映画史を変えるほどSF映画の誕生に大きく影響を与えていたのは素晴らしい。作品は頓挫しても、この作品の遺伝子は映画史に残り、そして、このドキュメンタリーが作られたことで、その記憶がきちんと映画史に留められることになったのだ。このフランク・パヴィッチ監督にはいくら感謝してもし足りないかもしれないので、映画ファンの1人としてここで個人的にお礼を述べておきたいと思う。どうもありがとう!
既に【エイリアン】や【スターウォーズ】が作られた後だから、例えば今更ホドロフスキー御大の『デューン』が実現したとしても、映画史的にはそんなに意味があるものにはならないかもしれない。でも単純に、このビジュアルが完成した世界を見てみたいような気はする。日本のどこかの会社がアニメで創ってくれないかな~?あと、この設定資料集、日本のどこかの会社で出版してくれないだろうか?定価5万円までなら死ぬ気で買いますから!

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【ホビット 竜に奪われた王国】四つ星
【ホビット 決戦のゆくえ】四つ星

監督・脚本:ピーター・ジャクソン
脚本:フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ギレルモ・デル・トロ
原作:J・R・R・トールキン
出演:マーティン・フリーマン、イアン・マッケラン、リチャード・アーミティッジ、他
製作国:アメリカ/イギリス/ニュージーランド
ひとこと感想:ホビット三部作が【ロード・オブ・ザ・リング】(LOTR)ほど盛り上がらなかったのは何故だろう?といろいろ考えてみた。そもそも企画として二番煎じなのだが、そんなことより何よりもまず絵面(えづら)が地味。主役のビルボ・バギンズを演じるマーティン・フリーマンさんは、いい役者さんだけど主役を張る華やかさには欠けるし、旅の仲間はビルボと高齢のガンダルフとむさ苦しいドワーフ達のみが中心で、男前のエルフやら人間やらも同行していたLOTRみたいな賑々しさには欠ける(【…決戦のゆくえ】の後半はエルフ達も少し活躍するけれど)。加えて、主人公達の行動の動機もなんか印象に残りづらく、“指輪”みたいな象徴的なアイコンもなくってインパクトが弱い。それでも本編をどうしても作りたかったのであれば、1本に凝縮するか、せいぜい前後編の2部作で充分だったのではないだろうか。

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【舞妓はレディ】四つ星

監督・脚本:周防正行
出演:上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、岸部一徳、竹中直人、髙嶋政宏、濱田岳、小日向文世、妻夫木聡、他
製作国:日本
ひとこと感想:周防正行監督の新作。なんか変な題名だな~とかずっと思っていたんだけど、【マイ・フェア・レディ】へのオマージュだと全然気がつかなかったなんて我ながら迂闊すぎる……。だからミュージカルで、大学教授が若い娘の訛りを矯正できるかどうか賭けをするとかいった何とも浮世離れした筋立てになっているんだね。周防監督のことだから、京都のお茶屋文化や舞妓文化を丹念に取材したのだろうし、筋立てもよくまとまっていているんだけど、何なのかな~、このそこはかとない違和感は。ここだけの話、女の子をちょっと上から目線で描いているような感じがひっかかっているような気がするのだが。ともあれ、【舞妓Haaaan!!!】ほど収集がつかない話でもないので、お茶屋文化を知るための入門編にはいいんじゃないかと思うけど。

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【魔王】三つ星

監督・脚本:天願大介
出演:若松武史、月船さらら、中村映里子、松浦祐也、りりィ、他
製作国:日本
ひとこと感想:天願大介監督は何か言いたいことがいろいろあるんだろうな、という雰囲気は感じるのだけれど、監督やその周囲のごく少数の人々にしか分からないようなモチーフや論法を当たり前みたいに多用されても困る。こちらがいろいろと不勉強なのかもしれないのは申し訳ないけれど、観客がついて来れないのではどうにもならないので、その作品世界のお約束を最低限説明する描写は必要なのではないだろうか。そもそも監督は“魔王”なる存在に何を仮託したいのか。私はこの世に絶対悪を想定していないので、そこからしてそもそも、ついていけてなかったのかもしれないけれど。

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【マダム・イン・ニューヨーク】四つ星

監督・脚本:ガウリ・シンデー
出演:シュリデヴィ、他
製作国:インド
ひとこと感想:外国で言葉が通じなくてうろたえた経験、あるあるー !! 英語ネイティブ以外の人なら誰しも多かれ少なかれ同様の経験があるのではなかろうか。訳あってニューヨークにやって来た本作のヒロインのインド人マダム(インドの大女優シュリデヴィ様、とても50歳には見えない可愛らしさ!)も似たような経験をするのだが、英語が喋れる旦那や子供がそんなヒロインをバカにするのがヒドイ……。英語が喋れないのがそんなに悪いかオラ。自分では家事とか何もしないくせに!こんな感謝や尊敬の足りない旦那や娘はほっといて出奔しちまえ!と思ったら、マダムはホントには出奔しないけど、精神的にちょっとだけ反発して家族に内緒で英会話学校に通い始め、ちょっとした自尊心を取り戻す。精神的な自立というテーマは、インド国内の女性の心に響くテーマなのかもしれないけど、インド以外の人間が見てもごくナチュラルに共感できるのではあるまいか。インド映画特有のフォーマットである歌のシーンやダンスシーンなどもギリギリあるけれど、いわゆるインド映画色は限りなく薄い感じで、インド映画も変わってきているという話を如実に実感することができるような映画だった。

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【マダム・マロリーと魔法のスパイス】四つ星

監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:スティーブン・ナイト
原作:リチャード・C・モレイス
出演:マニッシュ・ダヤル、シャルロット・ルボン、ヘレン・ミレン、オム・プリ、ミシェル・ブラン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ラッセ・ハルストレム監督作。原題は【The Hundred-foot Journey】で、100フィート(約300メートル)先のお隣りさんと異文化交流する話であって、マダム・マロリーは必ずしも主役じゃないんで、この邦題はどうかと思う。インドで食堂を経営する一家が新天地を求めてヨーロッパ中を放浪し、食材の美味しさが気に入ったフランスの田舎で根を下ろす、という大まかな筋立てはいいけれど、天才的な料理人だった次男が都会でフレンチのスターシェフになったり、それが原因で同じく料理人である彼女と揉めたりする流れになるとその心情がよく分からなくなり、少し中途半端な気分に。イケズな隣りの女主人のマダム・マロリーと口論を繰り返すやもめのお父さんのエピソードなどもあり、まぁ概ね飽きずに見ることは出来たけれど、もう少し何か違ったものを見たかったのかもしれない。

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【マップ・トゥ・ザ・スターズ】四つ星

監督:デビッド・クローネンバーグ
脚本:ブルース・ワーグナー
出演:ジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカ、エヴァン・バード、ジョン・キューザック、ロバート・パティンソン、オリヴィア・ウィリアムズ、他
製作国:カナダ/アメリカ/ドイツ/フランス
ひとこと感想:有名子役だけど清々しいくらいお馬鹿な息子とそのステージママ、有名セラピストの父、そして、一家の秘密のために歪みまくってしまった娘。方や、有名女優の娘でこちらもいろいろあって歪みまくっているキャリア的にはイマイチのおばさん女優。世の中に“セレブリティ”という言葉くらい胡散臭いものはないけれど、実体のない何かに振り回されて疲弊しているこの人達の生き様は悲しいくらい浅はかでグロテスク。そのシニカルな描き方があまりにも露悪的で、ちょっとお腹いっぱいになってしまった。ジュリアン・ムーア様が演じた女優のあけすけで生々しすぎる姿がこの映画のグロテスクさをいい意味で倍増させていたのが特に印象的だった。

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【まほろ駅前狂騒曲】四つ星

監督・脚本:大森立嗣
共同脚本:黒住光
原作:三浦しをん
出演:瑛太、松田龍平、本上まなみ、岩崎未来、真木よう子、永瀬正敏、横山幸汰、高良健吾、新井浩文、三浦誠己、岸部一徳、麿赤兒、松尾スズキ、奈良岡朋子、大森南朋、水澤紳吾、大西信満、古川雄輝、他
製作国:日本
ひとこと感想:多田便利軒所長の瑛太さんも居候の行天くんの松田龍平さんもハマり役で、すっかりシリーズとしての安定感が出てきた本作。今回は行天くんの人となりが少し解明されたのがよかった。今後も多田さんの恋の行方とかヤクザの星さん経由のトラブルとか、まだまだネタはいろいろあるんじゃないだろうか。ところで、今回見ながら、大森立嗣監督の映画版は70年代アングラ系、大根仁監督のドラマ版は80年代シブヤ系って雰囲気があるなぁと思った。どっちかというと、私は本当は後者の方が好きかもしれないが。

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【ママはレスリング・クイーン】三星半

監督・脚本:ジャン=マルク・ルドニツキ
共同脚本:マノン・ディリス、エレーヌ・ル・ギャル、マリー・パヴェンコ、クレモン・ミシェル、他
出演:マリルー・ベリ、ナタリー・バイ、オドレイ・フルーロ、コリンヌ・マシエロ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:女子プロレスっていうけれど、例えば日本の女子プロレスなどと比べるとレベルが違いすぎるので、これは例えば日本の大学のプロレス研みたいなアマチュアの話だよね(“アマレス”というといわゆるオリンピックなどを目指すレスリング競技を指すらしく、また違う話になってしまうらしい)。そうじゃなきゃ、スーパーのレジ打ち仕事の片手間で3ヵ月やそこらでレスラーにはなれないだろう。キャラが立った素人の中年女性達がプロレスを目指す展開はそれなりに面白かったけど、しかしあなたたちは(そしてこの映画の制作者達も)いくらなんでもレジ打ち仕事というものを馬鹿にしすぎじゃない?某量販店の元社員の身としては、もっと真剣に仕事しろ~!と言いたくなった。

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【真夜中の五分前】三星半

監督:行定勲
脚本:堀泉杏
原作:本多孝好
出演:三浦春馬、リウ・シーシー、チャン・シャオチュアン、他
製作国:日本/中国
ひとこと感想:上海を舞台にした、双子の美人姉妹絡みのサスペンス?三浦春馬くんが時計職人という設定と、あの工房の雰囲気は素敵だけど、ストーリーはありふれているような気がするし、上海の街が私のイメージするhustle&bustleな上海とはおよそかけ離れていて、いつの時代だよという感じ。これは都市を限定したりせずにもっと無国籍化した方がよかったんじゃないだろうか。しかしこれについて、行定監督が、日本では原作もの以外のオリジナル脚本は撮れないから海外に行くしかなかったと仰っていたのが気になった。行定監督くらいの有名監督でもそうならば、相当ゆゆしき問題だと思うのだが。

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【マリアの乳房】二星半

監督・脚本:瀬々敬久
出演:佐々木心音、大西信満、他
製作国:日本
ひとこと感想:インチキ超能力者と言われた過去のトラウマから人の役に立ちたいと思っていることが、どうして売春婦になることに繋がるの?触るだけで人の死期が分かってしまうからせめてその人を慰めようとする?う~ん、話が少し強引すぎて分裂しているのではあるまいか。これに絡む男性も完全に言い掛かりレベルで、このとっ散らかった話を収集するだけの演技力をヒロインに期待することも残念ながらできなかったような。私は瀬々敬久監督を大変敬愛しているのだが、ピンク映画の厳しい予算の関係からなのか、たまにこのような消化不良の作品にお目に掛かってしまうこともなきにしもあらず。それでも、メジャーどころから声の掛かる仕事をこなしつつ、ルーツであるピンク映画の監督も止めたりしない瀬々監督がやっぱり好きだけど。

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【マルタのことづけ】四つ星

監督・脚本:クラウディア・サント=リュス
出演:リサ・オーウェン、ヒメナ・アヤラ、他
製作国:メキシコ
ひとこと感想:4人の子供を残して死にゆくマルタさんに出会った天涯孤独な女性が、その家族との絆を紡いでいく物語。マルタさんは死んだ夫にHIVをうつされたらしいが、長女が既に働いていてその後の生活は何とかなりそうなこともあり、自分の死については達観している様子。監督が実際に出会った一家をモデルにしているのだそうだが、みんな一見好き勝手なことをしているごくごく普通の一家なんだけど、目に見えない絆と愛情で繋がっている様が麗しい。全くガラじゃないのだが、生き続けていくことの意味なんていう漠然としたものについつい思いを馳せてしまった。

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【マンデラ 自由への長い道】三星半

監督:ジャスティン・チャドウィック
脚本:ウィリアム・ニコルソン
出演:イドリス・エルバ、ナオミ・ハリス、他
製作国:イギリス/南アフリカ共和国
ひとこと感想:先年お亡くなりになった南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領の伝記。ごくオーソドックスに描かれているので、マンデラ大統領のことをよく知らない人には入門編にいいかもしれないし、離婚の話なども包み隠さず描かれているのは好感が持てる。けれど、総てどこかで聞いたことあるようなエピソードばかりなので、特にこれといった目新しさはないかもしれない。

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【水の声を聞く】四つ星

監督・脚本:山本政志
出演:玄里、趣里、村上淳、鎌滝秋浩、中村夏子、松崎颯、萩原利久、小田敬、他
製作国:日本
ひとこと感想:新興宗教をテーマに世界の狭間の胡散臭いものをいろいろと活写した山本政志監督の新作。在日コリアンの女の子が小遣い稼ぎ目的で友人と一緒にインチキ新興宗教を作り、そこそこ繁盛したのだが、シャレにならない信者が増えるわ、ろくでなしの父親が居座るわ、広告代理店は絡むわで収集がつかなくなり、煮詰まって訪れた済州島で島の歴史(【チスル】などに描かれていた済州島4・3事件の辺り)に触れたりして何かに開眼した気持ちになり、本当に世界を救済したいと思うようになるのだが……。いや、そんなに簡単に世界なんて救えないでしょ、と思うんだけど、それでも、山本監督独特の硬質で骨太な描写は何か引き込まれて見てしまう。ただ、でもすぐそうやって安易に強姦シーンを出すだけのは勘弁して欲しいんだけど。
実際に在日コリアンであるヒロイン役の玄里(ひょんり)さんは、日本だけでなく色々な国の映画にも出演経験があるトライリンガルの国際派。近作では【ジャッジ!】のエロい秘書役がチョイ役だったけどやたら印象的だった。今後も応援しています!

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【みつばちの大地】四つ星

監督:マークス・イムホーフ
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/オーストリア/スイス
ひとこと感想:祖父が養蜂家で娘夫婦もミツバチの研究家だというスイス人監督による、「蜂群崩壊症候群」などを扱ったドキュメンタリー。ミツバチが大量に死んだり消えたりする現象が世界各地で起きているらしい、という話は聞いていたのだが(15年くらい前からの現象で、まだ始まっていないのはオーストラリアだけらしい)、原因は農薬とか寄生虫とか電磁波とか抗生物質(養蜂の際に病気の予防に投与するらしい)とか、いろいろ言われているけれどはっきり分かっていないらしい。一方、地球上の植物の8割はミツバチが受粉しているという説があり、この世からミツバチがいなくなってしまうと、蜂蜜だけでなく果物も野菜も食べられなくなってしまうというから恐ろしすぎる。(かのアインシュタインは、地上からミツバチが絶滅したら人類も4年で滅びると言ったのだそうだ。)本編では、アメリカ、ドイツ、中国、オーストラリアなどの世界各地でミツバチの現状を取材しているのだが、アメリカではキラービーという実験種を敢えて飼う試みをしている人々がいるとか(元はブラジルの大学から逃げ出した蜂で、攻撃的で凶暴だが病気に強く良質の蜂蜜を作るらしい)、中国では文革時代の余波で今でもミツバチが存在しない地方があるとか(穀物を食べる雀を数十億単位で殺したら昆虫が異常発生し、殺虫剤を撒きまくったのだそうだ)、なんだか暗い気持ちになってしまう話ばかりが並んでしまう。人類は最早、システム化された大規模農業なしには生きていけないだろうが、もともと存在していた自然との齟齬がひどくなりすぎてしまい、そのしっぺ返しを食らっているのかもしれないとしても、話が遠大すぎて、何をどうすればいいのかさっぱり分からない。でも少なくとも、今後は蜂蜜は産地を選んで買わねば、残留農薬の可能性が低くない中国産は避け、できればオーストラリア産か高温殺菌などしていない国内産にしたいものだと強く思ったのだけは確かだ。
ちなみに、日本国内の養蜂についても少し調べたので備忘録に。中国産を国内産っぽい表示で売っていたりするケースがあるらしいのは論外だが、養蜂農家でもほとんどは西洋蜜蜂を飼っているらしく、在来種の日本蜜蜂を飼っているケースは非常に少ないらしい(日本蜜蜂の蜂蜜の生産量は全体の1%に満たないらしい)。西洋蜜蜂は日本蜜蜂より5倍以上蜜が取れるらしいので仕方ないのだろうけど、飼い慣らされた種類である西洋蜜蜂は病気やダニに弱く、予防のために薬品や抗生物質を与えなければならず、その抗生物質や残留農薬などをろ過するために高温殺菌しなければならず、高温殺菌してしまうとビタミンや酵素などの栄養成分は消えてしまうとのこと。一方、日本蜜蜂は野生種で、飼うのは少し難しいらしいけど、病気やダニに強いので薬品を与える必要はなく、高温殺菌も必要でなくなるので、健康的で風味豊かな蜂蜜になるようだ。日本蜜蜂の蜂蜜はレアものでべらぼうに高いけれど、機会があればたまには手にしてみたいものだと思った。

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【ミニスキュル 森の小さな仲間たち】三星半

監督・脚本: エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ
(アニメーション)
製作国:フランス
ひとこと感想:『ミニスキュル』は実写とCGを組み合わせて虫たちの世界を描いたフランスのアニメで、以前、NHKでも放送していた作品。正直、私は短編の方が好きで、このようにただだらだらと尺を伸ばすことにはあまり意味を感じなかったのだが、『ミニスキュル』自体はもっともっとメジャーになって欲しいので、今回のようにイオン系列の映画館だけで囲い込むのではなく、もっと幅広く公開して戴きたかったと思う。(注:都心にはイオンが無いので、都心部では公開されていなかったみたい。)
ところで、本作の監督と脚本を手掛けているエレーヌ・ジローさんとトマス・ザボさんは、先年亡くなられたバンド・デシネの巨匠メビウス氏の実の娘さんとその旦那さんなのだとのこと。知らんかった。でもそう考えると、本作のこのクオリティもすんなり腑に落ちますけども。

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【ミリオンダラー・アーム】三星半

監督:クレイグ・ギレスピー
脚本:トーマス・マッカーシー
出演:ジョン・ハム、レイク・ベル、スラージ・シャルマ、マドゥル・ミッタル、アラン・アーキン、ビル・パクストン、アーシフ・マンドヴィ、ピトバッシュ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカのスポーツエージェントが、キミもメジャーリーガーになって一攫千金してみないか?的なオーディション番組をインドで開催して男の子(片や【ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日】の主人公のスラージ・シャルマくん、片や【スラムドッグ$ミリオネア】の主人公の兄役のマドゥル・ミッタルくん)を発掘しメジャーリーグを目指すという話。実話が元になっているらしいが、無駄に馬鹿でかい豪邸に住んで酒池肉林の毎日を送り、どこまでも自分のやり方を押し付けることしか知らないような傲慢アメリカ男が、ルーキー獲得に失敗して破産しようがどうしようがこっちの心は1ミリも痛まないんで、そもそも話についていけない。この男が少しは改心してルーキー達とも人間的な関係を結び、ついでに彼女も出来るという一応サクセスストーリー的な流れになっても、正直どーでもええとしか思えない。また、いくらインドの人口が12億人で日本の10倍の人材が眠ってる可能性があって、実際に速い球を投げられる子がいたんだとしても、制球やフィールディングの技術とかって一朝一夕では培えないんじゃないの?かように疑問符がいっぱい湧いたので、同じ題材を扱うにしてももっと他に描き方があったんじゃないの?と思わざるを得なかった。でも、舞台の一部がインドロケで、音楽担当にはインド映画音楽界の大御所A.R.ラフマーンさんを引っ張り出していたりして、インド市場を視野に入れて作った映画なのだろうと思わされる面が多々あり、いろいろな意味でのパラダイム・シフトが起こっていることを実感せざるをえなかった。
しかし、最近のディズニーの映画のウェブサイトってスッカスカすぎて、必要な情報すら全然入ってないことが多すぎる。ウェブサイトなんかカネにならないという判断なのだろうか。ウェブ検索で映画の情報を見かけた人が映画自体をビンボくさいと感じたりしても全く構わないのだろうか。

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【みんなのアムステルダム国立美術館へ】三星半

監督:ウケ・ホーヘンダイク
(ドキュメンタリー)
出演:アムステルダム国立美術館の皆さん
製作国:オランダ
ひとこと感想:ヨーロッパ屈指の美術館の一つであるアムステルダム国立美術館が、改修のため閉館した後何年も揉め続けた顛末を描いたドキュメンタリー【ようこそ、アムステルダム美術館】の続編。映画としての出来は前作の方がよかったようにも思うけど、その後どうなったのか気になるじゃないですか。問題山積という構造は相変わらずで、閉館期間は10年にも及び、まるで解決しそうな雰囲気にならないけれど、スタッフの人々はそれぞれの持ち場で再開に向けで真剣にじわじわと取り組んでいる様子だったのが印象的だった。とりあえず、実際の美術館は無事に再開に辿り着けたみたいでよかったです。

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【めぐり逢わせのお弁当】三星半

監督・脚本:リテーシュ・バトラ
出演:イルファーン・カーン、ニムラト・カウル、他
製作国:インド
ひとこと感想:ミュージカルシーン一切ナシのしっとり系インド映画。ムンバイ(旧ボンベイ)では、お昼時ともなると、オフィス街で弁当配達人が各自宅から届けられたお弁当を配って歩くのが日常の光景なのだそう(自宅にいる主婦が午前中に時間を掛けてお弁当を作れるから)。この弁当配達人は非常に優秀で滅多に間違うことはないらしいんだけれど、それが間違って、ある孤独な男性の下に、夫に無視されてて寂しい奥様のお弁当が届けられたら……。この二人に文通が始まって少し仲が深まるんだけど、結局、ごく常識的な結末に。個人的にはもう一つ盛り上がりに欠ける印象だったのだが、こういうのがリアルで味わい深いと思う人が多かったから、この映画はそれなりに評価が高かったんだろうね。

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【土竜の唄 潜入捜査官REIJI】三星半

監督:三池崇史
脚本:宮藤官九郎
原作:高橋のぼる
出演:生田斗真、堤真一、山田孝之、岡村隆史、上地雄輔、吹越満、遠藤憲一、皆川猿時、岩城滉一、大杉漣、仲里依紗、他
製作国:日本
ひとこと感想:タイトルの通り、ヤクザに潜入捜査する警察官の話。三池崇史×クドカン×数々の強烈キャラでサービス精神てんこもり……なのはいいけれど、盛り込み過ぎな割にはコレ!というポイントに欠けていて、見ていていささか疲れてしまったかもしれない。

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【物語る私たち】二星半

監督・出演:サラ・ポーリー
出演:ポーリー家のみなさん、他
製作国:カナダ
ひとこと感想:若くして女優としても映画監督としても既に名の知られた存在であるサラ・ポーリーさんには実は出生の秘密があるという……。本作はこの“秘密”を追ったドキュメンタリーなのかと思っていたら少し違っていて、実はこの“秘密”は映画の製作開始前に既に解明済みであって、監督の指示によりこの“秘密”を捜索している体裁で、家族や知人に本人をドキュメンタリー風に演じてもらっている作品だった。だからか~。ドキュメンタリーにしては、真実が徐々に明らかにされていくようなスリリングさが感じられないと思った。そうなるとこれは、自分の出自がネタになるわラッキー!見て見て!こんな映画が撮れちゃう私ってスゴいでしょ?的な趣味の自意識過剰映画でしかないのではなかろうか。皆さんはこういうものが好きですか?私はノーサンキューなんだけど。

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【MONSTERZ モンスターズ】三星半

監督:中田秀夫
脚本:渡辺雄介
原案:【超能力者】(脚本・監督:キム・ミンソク)
出演:藤原竜也、山田孝之、石原さとみ、田口トモロヲ、落合モトキ、太賀、松重豊、木村多江、他
製作国:日本
ひとこと感想:藤原竜也さん演じる“操る男”は、視線を送るだけで総ての人を意のままに操ることが出来るので、犯罪もやり放題だし誰をどれだけ殺すのも自由。その“操る男”が唯一操ることができない男を演じるのが山田孝之さんで、やがて“操る男”の暴走を止めることが天命だと思うようになる。まぁ最後まで見る側の興味を引っ張る展開なのはいいけれど、これだけ歪みまくった人生を歩いてきて人の命を屁とも思っていないような奴が、“操れない男”の口車に乗ってそんなに簡単に動揺したり攻撃の手を緩めたりするのか疑問。結局“操る男”が愛に飢えてたという話のようなのだが、その辺りの心情をもう少し細やかに描けば、よくあるレベルの娯楽作から一歩進めてもう少し話を深化させることもできたのではないだろうか。

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【闇金ウシジマくん Part2】四つ星

監督・脚本:山口雅俊
共同脚本:福間正浩
原作:真鍋昌平
出演:山田孝之、やべきょうすけ、崎本大海、綾野剛、久保寺瑞紀、菅田将暉、窪田正孝、中尾明慶、門脇麦、高橋メアリージュン、マキタスポーツ、光石研、柳楽優弥、木南晴夏、本仮屋ユイカ、バカリズム、大久保佳代子、キムラ緑子、相葉裕樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:裏社会モノを作ろうとして上手くいった映画やドラマをあまり見たことがない中で、『ウシジマくん』はおそらく目下一番の成功作だろう。ドラマ版や映画版の前作に続いて本作でも勢いが衰えていなくて何よりだ。丑嶋馨というアンチヒーローを演じている山田孝之さんがハマりすぎていてブレがないから、普通だと描くのを憚られるほど結構悲惨な筋書きでも結構すんなり描けてしまうのだろう。この企画を立ち上げて製作・監督・脚本まで手掛けている山口雅俊氏は要チェックの存在なのではないだろうか。

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【闇のあとの光】四つ星

監督・脚本:カルロス・レイガダス
出演:アドルフォ・ヒメネス・カストロ、ナタリア・アセベド、他
製作国:メキシコ/フランス/ドイツ/オランダ
ひとこと感想:本作のカルロス・レイガダス監督は、元弁護士だったという変わり種らしいのだが、映画の方も風変わり……というかこれはかなり問題作かもしれないな。原題の【Post Tenebras Lux】は文字通り「闇の後の光」という意味のラテン語の決まり文句らしいのだが、人生の闇の後にも光があるはずだという辺りでいいのだろうか?冒頭の超絶美しい夕刻の荒野をさまよう少女の姿からして何のことやら訳分からなかったのだが(次のシーンの家族の一員だと分からず、いきなり方向性を見失ってしまった……)、ゆるやかなストーリーらしきものはあっても、時間も場所も自由に行き来していて分かりにくいことこの上なく、子供も突然大きくなったりまた戻ったりするし、突然乱交パーティになったりするし、突然赤い発光体の悪魔?らしきものが出てきたりするし、ラストは突然イギリスのパブリック・スクールらしき場所でのラグビーになったりして……。聖も俗も善も悪も良いことも悪いことも、人生のあらゆる側面をごった煮にしてキュビズムみたいに立体的に組み合わせて見せているということか?それがマジック・リアリズムという奴か?訳分からん。けど印象に残ってしまうんだよね。近作では【ブンミおじさんの森】の辺りの不思議な感覚に一番近いだろうか。

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【LIFE!】四つ星

監督・出演:ベン・スティラー
脚本:スティーブン・コンラッド
原作:ジェームズ・サーバー
出演:クリステン・ウィグ、ショーン・ペン、アダム・スコット、シャーリー・マクレーン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:『LIFE』誌の休刊にインスパイアされた作品で、『LIFE』誌の写真のアーカイブに携わるちょっと内向きな性格の男性が、ある写真家を追い掛けて世界中を駆け巡るうちに、今までとはちょっと違った人生を踏み出すようになるという物語。私はどちらかというとシリアス路線のベン・スティラーさんの方が好きかもしれないというちょっと邪道なファンだけど、本作はベンさんの生真面目な面がいい味出してるし、ストーリーも思った以上にしっかりしていてなかなか面白かったと思う。写真家役のショーン・ペンさんの伝説の男感が半端なくてスゴいと思った。

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【ラッシュ プライドと友情】四つ星

監督:ロン・ハワード
脚本:ピーター・モーガン
出演:ダニエル・ブリュール、クリス・ヘムズワース、オリヴィア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:ジェームス・ハントとニキ・ラウダがチャンピオンを争った1976年のF1グランプリを描いた作品。画面から独特の空気感からBGMまでまるで本当に70年代に作られた映画みたいで、ロン・ハワード監督はさぞやF1好きで76年のシリーズもリアルタイムで熱狂していたのかと思いきや、実はF1には全然詳しくなくて、たまたま脚本を書いたピーター・モーガン氏と知り合いだった流れで監督することになっただけなのだという。だからなのか、私のようにF1にそれほど詳しくない人間でも充分分かりやすい。見れば誰でも、方や天才肌、方やコンピュータと言われるほどに正確無比な全く対照的な二人の強烈なライバル関係や、周りの人々と彼等の関係などがじっくりと堪能できるんじゃないかと思う。

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【リアリティのダンス】四つ星

監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、イェレミアス・ハースコヴィッツ、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー、他
製作国:チリ/フランス
ひとこと感想:アレハンドロ・ホドロフスキー監督の22年ぶりの奇跡の新作で、監督の少年時代の話を描いているらしい。何故かお母さんだけセリフが全編歌になってるとか、何故か放尿でペストが治ってしまうとか、強烈で訳が分からないんだけど、難しい理屈は抜きにしてただひたすら感覚で見るのが吉だろう。監督の旧作も大体そんな見方をしていたような気がするし。

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【リヴァイアサン】四つ星

監督:ルーシァン・キャスティーヌ=テイラー、ベレナ・パラベル
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/フランス/イギリス
ひとこと感想:リヴァイアサンというとファイナルファンタジーを思い出す。海の怪物。懐かしいなー。本作は、ある底引網漁船を追い掛けたドキュメンタリー、というより、漁をする漁船をモチーフにした特殊な映像表現と言ったらいいのかな。魚、船、鳥、人、機械、海、空、暗闇、水、血……自然と生命と産業の営みが渾然一体となったところに立ち現れる不思議な黙示録的な美しさと禍々しさ。中沢新一氏が「世界のはらわた」という上手い表現を使っていらした。この映画を観ると、他の何にも属さない特異な映像体験を味わうことができるのではないかと思う。

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【リスボンに誘われて】三星半

監督:ビレ・アウグスト
脚本:グレッグ・ラター、ウルリッヒ・ハーマン
原作:パスカル・メルシェ
出演:ジェレミー・アイアンズ、マルティナ・ゲデック、ジャック・ヒューストン、メラニー・ロラン、レナ・オリン、シャーロット・ランプリング、他
製作国:ドイツ/スイス/ポルトガル
ひとこと感想:高齢に差し掛かりつつあるある男性が、偶然手に取った本に導かれ、昔反体制運動に関わったある医師の青年の青春時代を調査するうちに自分の人生も見つめ直すことになる……う~ん、ありがちじゃない?もう少し年取って見たらもう少し感慨深かったのかな。ジェレミー・アイアンズ様はお年を召されてますますステキなんだけどな~。

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【リトル・フォレスト 夏編・秋編】四つ星

監督・脚本:森淳一
原作:五十嵐大介
出演:橋本愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん、他
製作国:日本
ひとこと感想:農村にある実家に帰ってきた女性が、それなりの広さのある畑を一人で耕しながら、毎日毎日手の込んだオーガニックな料理を作るとか……。こんな生活、女性一人の労働力だけで維持が可能かどうか甚だ疑問。都会の人が机上の空論で考えがちな、農業に対する漠然とした憧れとロハス趣味がごっちゃになっているような気がする。でも、出てくる食べ物がどれもこれもそれも美味しそうなのに負けてしまった……。

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【リュウグウノツカイ】三星半

監督・脚本:ウエダアツシ
出演:寉岡萌希、武田梨奈、佐藤玲、樋井明日香、古舘寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:廃れゆく町に自分達の王国を作ろうと、女子高生達が相手構わずセックスを仕掛けて集団で妊娠するという筋書きは、およそ現実的じゃないような気がするけれど、これがアメリカで実際にあった事件に着想を得た物語だというからびっくりだ。キャラクターによっては分裂しているような印象もあるし、上手く描き切れていない部分も多く残っているような気がするけれど、中心人物である寉岡萌希さんと武田梨奈さんの2人が達者だったから、生まれながらに停滞していた自分達の境遇に打ちひしがれながらも手を伸ばして何かを掴み取ろうとする少女達の思いを掬い取ることができていたのではないだろうか。

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【ROOM237】二星半

監督:ロドニー・アッシャー
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:“237号室”とは、スタンリー・キューブリック監督の【シャイニング】で、ジャック・ニコルソン演じる主人公が亡霊に出会う部屋のことなのだそう。本作は5人のコメンテーターによる【シャイニング】の深読み……というか、好き勝手なこじつけ的解釈を開陳して喜んでいるだけだよな、これは。マニアの人には楽しいお遊びかもしれなくても、さほど興味がない人には苦行かゴーモンに等しいかも……。もっと何か根拠のある研究の成果のようなものを勝手に期待したのが間違いだったというだけなんですけどね、ええ。

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【るろうに剣心 京都大火編】四つ星
【るろうに剣心 伝説の最期編】四つ星

監督・脚本:大友啓史
共同脚本:藤井清美
原作:和月伸宏
出演:佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、大八木凱斗、江口洋介、伊勢谷友介、土屋太鳳、田中泯、宮沢和史、小澤征悦、藤原竜也、神木隆之介、滝藤賢一、三浦涼介、丸山智己、高橋メアリージュン、福山雅治、他
製作国:日本
ひとこと感想:面白かった、けれど、それ以上の感想が何も思い浮かばないかもしれない。原作ファンの人にはこれくらいのボリュームがあってもよかったのかもしれないし、製作者側としてはお金が倍儲かってウハウハなのかもしれないけれど、そこまでのファンではない私のような人間には、間延びした印象を抱く人もいたんじゃないだろうか。私は1本に無駄なくギュッとまとめた中身の濃い完結編が見たかったかもしれない。

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【0.5ミリ】四星半

監督・脚本:安藤桃子
出演:安藤サクラ、木内みどり、織本順吉、井上竜夫、坂田利夫、津川雅彦、草笛光子、角替和枝、浅田美代子、柄本明、土屋希望、他
製作国:日本
ひとこと感想:それなりに真面目にやっているヘルパーさんが、業務違反になってしまう頼まれごとをちょっと引き受けてしまったためにトラブルに巻き込まれ、なりゆきで、自分のヘルパーとしての技術をお年寄りに押し売りして居座るという押しかけヘルパーになってしまったという物語。いろいろな高齢者の家の姿や起こりうる問題点などを、ヘルパーさんという若い女性を軸にして、ある時は寄り添い、ある時はある種の解決に導きつつ描いているのが新鮮。「乗っ取り」かと警戒された家があったほどやってることはかなり滅茶苦茶だけど、彼女はそもそもプロとしての技術はかなり高く、人を助けるというスタンスがごく自然にあるから、見ていて嫌な気持ちになったりしないところがいい。観る前は3時間超という長さを心配したけれどあっという間だった。本作で才能の片鱗をさっくりと見せつけた安藤桃子監督と、ユニークなヘルパーさんを自然体で演じきった安藤サクラさんとの実力派姉妹コンビはこれからも期待できそうだ。

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【レイルウェイ 運命の旅路】三星半

監督:ジョナサン・テプリツキー
脚本:フランク・コットレル・ボイス、アンディ・パターソン
原作:エリック・ローマクス
出演:コリン・ファース、ニコール・キッドマン、真田広之、ジェレミー・アーヴァイン、石田淡朗、ステラン・スカルスガルド、他
製作国:オーストラリア/イギリス
ひとこと感想:第二次世界大戦時に海路を封鎖された日本軍は、物資輸送のためタイとビルマを結ぶ泰緬鉄道という鉄道を建設したが、その際、イギリス人、オーストラリア人、オランダ人などの連合軍の捕虜や、アジア人の捕虜が何万人も死亡したことから、欧米では「死の鉄道」と呼ばれているそうだ。(有名な【戦場にかける橋】はこの泰緬鉄道の話をモデルにしているらしい。)本編は、この時の強制労働や拷問・虐待の記憶に苦しむ元イギリス人捕虜が、捕虜達を苦しめた側であったことに苦悩する元日本兵(真田広之さん)と対峙しようとする話を描いた著作を元にした物語。ただ、戦場での苦悩を家族に話さないという秘密主義が旧軍人会の不文律になっている下りや(そのため一人で苦悩して自殺してしまうことがまかり通っていたりする)、元日本兵が現地に留まっていた動機、そして和解に至る過程など、全体的にもう少し掘り下げた説明が欲しかったように感じた。

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【ローマ環状線、めぐりゆく人生たち】三星半

監督:ジャンフランコ・ロージ
(ドキュメンタリー)
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:ローマ環状線というのは、日本で言うと圏央道というか、NHKの『ドキュメント72時間』でやってた国道16号線みたいなものかな?本作は、このローマ環状線の周辺で暮らす何人かの人々の人生の断片を綴ったもの。日本の郊外と同様、ローマ環状線には、都心と比べると経済的にも文化的にも若干のマイナー感があって(かくいう自分も郊外族だが)、その分、リアルな人生模様が息づいているのかもしれない。

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【六月燈の三姉妹】四つ星

監督:佐々部清
脚本:水谷龍二
出演:吹石一恵、吉田羊、徳永えり、津田寛治、市毛良枝、西田聖志郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:六月灯(ろくがつどう)という鹿児島の神社や寺院で毎年6月に行われるお祭りをモチーフにした、いわゆるご当地映画。出戻りの長女の吉田羊さん、離婚寸前の次女の吹石一恵さん、不倫中の三女の徳永えりさんの訳あり異父姉妹が六月灯を機に人生を見つめ直す姿を中心に、美しい灯籠が立ち並ぶ姿や、商店街の衰退と危機に立ち向かおうとする人々の姿をインサート。一般的なご当地映画にはいろいろ思うところはあるんだけど、本作に関して言えば、佐々部清監督の手堅さがよい形で出ていて、しっとりした佳作に仕上がっていると思う。

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【6才のボクが、大人になるまで。】四つ星

監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク、ローレライ・リンクレーター、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:断続的とは言え、12年間も同じメンバーで映画を撮り続けることができたなんて奇跡的。しかもそれが映画としてちゃんと成立しているのが凄い。描かれているのはアメリカのある子供が大学に入学するまでの成長の物語で、この映画を観れば、アメリカの子供がどういう道筋を辿り、どういうことを考えながら大人になるのかというある種の典型的な道筋を理解することができるんじゃないかと思う。しかし個人的には、母親役のパトリシア・アークエット様の体型がちょっとショッキングだったかも !! 昔は【トゥルー・ロマンス】などの個性派美人女優として名を馳せていた方なんですよー !!

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【ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!】三つ星

監督・脚本:エドガー・ライト
共同脚本・出演:サイモン・ペッグ
出演:ニック・フロスト、パディ・コンシダイン、マーティン・フリーマン、エディ・マーサン、ロザムンド・パイク、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:【ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン】チームの最新作。若かりし頃の郷愁に回帰しようとするオジサンの話かと思いきや……何でロボットや宇宙人の話になるの !? その出鱈目さは嫌いじゃなかったんだけど、行き過ぎた悪ノリをちょっと回収しきれなかったかも?せめて、かつての盟友5人組と12件のバーをはしごするという話の骨格は、もっとしっかり残しといた方がよかったんじゃないかなぁ。それに、主人公のいい面ももう少し見せてもらえないと、感情移入とかもしにくいんですけども。

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【私の男】四つ星

監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:桜庭一樹
出演:浅野忠信、二階堂ふみ、山田望叶、藤竜也、河井青葉、モロ師岡、高良健吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:なんで近親相姦が駄目なのか考えてみた。近親交配が遺伝子的によろしくないとはいうけれど、そんなことよりも何よりも、支配とか被支配とかの人間関係が濃すぎるのが精神的に健全じゃないからじゃないかと思った。私はそれを生理的にどうしても気持ち悪いと感じてしまう。本作は文学的ファンタジーとしては成立するのかもしれないけれど、世間で実際に伝え聞く近親相姦の実像は、この映画の世界より大体もっとグロテスクで醜悪で、親が子供に対して持つ圧倒的な精神的・経済的・社会的影響力を利用して子供を所有したり蹂躙したりしようとする一方的で病的な支配関係であることがほとんどであるように思われる。(世の中には、人を極度に支配したり人に支配されたりすることも“愛”だという人もいるけれど、私はそんなものは決して“愛”などではないと考える。)そのように実在する頭のおかしな親が、本作のような作品を見て喜ぶ可能性が少しでもあるのかもしれないと思うと、正直、寒気や吐き気を覚えるばかりだ。
本作では、二階堂ふみさんの演じる娘が浅野忠信さんの演じる父親を支配するという関係に逆転していて、お互いが内側に抱えた絶対的な孤独ゆえに、周囲にはいくら爛れた関係と映っても二人だけの世界に収束していくところが独特だと思った。自分の欲望に負け、だらしなく娘に引き摺られてなし崩し的に壊れていく男を演じる浅野忠信さんも新境地だなと思ったけど、男をそんなふうに堕落させてしまうファム・ファタールとしての娘を演じ切った二階堂ふみさんも凄すぎる。そしてこの関係性をきっちり表現しきった熊切和嘉監督も凄い。だから何らかの評価はせざるを得ないかなとは思うけれど、それでも気分が悪いことには変わりない。最も監督は、本作では観客の気分を心地よくハッピーにさせることなど最初から考えていないと思われるので(デビュー作からしてそのような作品をブッ込むような方だったので)、私が今抱えるこの嫌悪感こそが、この作品が誠意をもって創られたことの証なのかもしれないと思う。

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【わたしのハワイの歩きかた】二星半

監督:前田弘二
脚本:高田亮
出演:榮倉奈々、高梨臨、瀬戸康史、加瀬亮、宇野祥平、他
製作国:日本
ひとこと感想:無名時代の榮倉奈々さんを最初に見たのが映画だったこともあり、【アントキノイノチ】や【余命1ヶ月の花嫁】などの良作に主演なさっていることもあって、私は榮倉さんは映画の人だと勝手に思い込んでいる。けれど、本作を見に行ってしまったのは残念ながら完全に失敗だった。大体、日本での生活に行き詰まって海外に行って自分を取り戻す的な話が成功しているのをただの1度も見たことがないのに、一部の映画関係者は何で性懲りもなくそういう話を作ろうとするのだろう。それに、スゴい結婚相手を見つけて上流階級の仲間入り?みたいな設定が、相当仕事が出来る女性というヒロインのキャラ設定と分裂しまくっているのもおよそ正視に耐え難い。加瀬亮さんの無駄遣いも許しがたいレベル。未だにこんな映画の企画が通ってしまうこと自体に唖然とせざるを得ないんだけど。

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【嗤う分身】三星半

監督・脚本:リチャード・アイオアディ
共同脚本:アヴィ・コリン
原作:フョードル・ドストエフスキー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:ドストエフスキーの『分身』が原作だなんてなかなかクラシックだけど、アイデンティティの喪失とか人間のすげ替えとかって、一周回って非常に今日的なテーマかもしれない。でも個人的には、それ以上の興味は掘り下げられなかったかな~。主人公のジェシー・アイゼンバーグさんって【ソーシャル・ネットワーク】の人か!と後から気づき、日本の『ブルー・シャトー』などのグループサウンズの曲などを何曲か使っているのが効果として面白いと思った。

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【ワレサ 連帯の男】三星半

監督:アンジェイ・ワイダ
脚本:ヤヌシュ・グウォヴァツキ
出演:ヤヌシュ・グウォヴァツキ、他
製作国:ポーランド
ひとこと感想:かつてアンジェイ・ワイダ監督の【大理石の男】やヴィム・ヴェンダース監督の【ベルリン・天使の詩】などを観た後(【大理石の男】はビデオ鑑賞のみ)、1989年にベルリンで壁が崩壊し、ポーランドで反政府団体だった「連帯」が勝利してワレサ委員長が大統領になったのを見て、映画って時代と連動しているんだなぁ、時代を動かす力があるんだなぁと強く思ったこともあった。ワイダ監督が“鉄のカーテン”の時代に東欧の民衆の生の息吹を西欧に届けてくれたことは、東欧の民主化を後押しする大きな力になったのは間違いない。1989年がもう四半世紀も昔のことになり、ワイダ監督も88歳となってしまった今、昔感じたようなヒリヒリとした同時代感覚をワレサ委員長というテーマに感じることは既にないけれど、本作に限って言えば、映画の出来云々よりも、偉大な功績を成し遂げたアンジェイ・ワイダ監督の集大成として、その歴史的意義を重んじるということでいいんじゃないだろうかと思った。

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