Back Numbers : 映画ログ No.93



2016年に見た全映画です。


【アイアムアヒーロー】(6/10)

監督:佐藤信介
脚本:野木亜紀子
原作:花沢健吾
出演:大泉洋、有村架純、長澤まさみ、吉沢悠、岡田義徳、徳井優、片瀬那奈、片桐仁、マキタスポーツ、塚地武雅、他
製作国:日本
ひとこと感想:個人的にゾンビものはあまり得意ではないというか、世界がゾンビだらけになったら真っ先に噛まれて楽になりたいんで、逃げおおせなきゃいけないと思ってる人々にあんまり感情移入できないんですよね……。ということで、気弱な主人公が究極の状況の中で覚醒するストーリーにはそれなりに見応えはあったんだけど、どこか自分とは関係ない他人事として見てしまう感覚がいかんともしがたいというか。また結局、銃でしか身を守れないという展開に帰結するのはアメリカで銃持ってる人と同じ理屈なのではあるまいか、と思ってしまったら尚更。

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【秋の理由】(5/10)

監督・脚本:福間健二
共同脚本:高田亮
出演:伊藤洋三郎、佐野和宏、寺島しのぶ、趣里、他
製作国:日本
ひとこと感想:書けない作家と編集者の物語。しかし、書けないということ自体で穴掘ってもドツボに嵌まるだけじゃん!そっちの方向に行っても何も解決しないわよっ!と終始イライラしていた。既に年金もらってる歳なら他に仕事をしろとまでは言わないが、家事くらいして、自分の身の回りのことくらい自分で面倒見てみたらどうだろう。体や手を動かすとちょっとくらい気持ちが変わるよ?てか、そもそも奥さんもこんな旦那の面倒を見すぎでは。文句言うくらいならほっとけばいいじゃん!と思った。

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【明日の世界 ドン・ハーツフェルト作品集】(5/10)

監督:ドン・ハーツフェルト
(アニメーション)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカの短編アニメーション作家ドン・ハーツフェルトの作品集で、『きっと全て大丈夫(Everything Will Be Ok)』『あなたは私の誇り(I Am So Proud of You)』『なんて素敵な日(It's Such a Beautiful Day)』の3本をまとめた特別編集版の『きっと全て大丈夫』と、『明日の世界(World of Tomorrow)』の2本立て。シンプルな線書きのキャラクターとは裏腹に、早口の哲学的なナレーションがマシンガンみたいに響き渡り、ちょっと油断してると置いて行かれてしまい……オバサンの弱った頭にはすべてをフォローするのはちょっと難しく、あまりのスピード感にちょっと疲れたかな。ていうか、そんなに言いたいことがあるって元気よねー。若いって素晴らしい。

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【アズミ・ハルコは行方不明】(5/10)

監督:松居大悟
脚本:瀬戸山美咲
原作:山内マリコ
出演:蒼井優、高畑充希、太賀、葉山奨之、加瀬亮、石崎ひゅーい、国広富之、山田真歩、柳憂怜、菊池亜希子、落合モトキ、芹那、花影香音、他
製作国:日本
ひとこと感想:安曇春子さんが行方不明になることの記号性?それを自分達の功名心のため中途半端なアートにする集団?うーむ私、このコンセプトをそもそもよく咀嚼できていなかったような気がする。男性ばかりを襲う女子高生のギャング団というのも、筋書きにどう絡んでいるのか結局よく理解できなかった。ところで、アラサーと二十歳と女子高生でもう“三世代”としてカウントするんだってさ、わーい。その細かい区分がおばさんにはもうよく分からない。でも人生楽しくなるのは三十からだぜ。先は長いけどみんな頑張ってね。

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【あなたを待っています】(5/10)

監督・脚本:いまおかしんじ
原案:いましろたかし
出演:大橋裕之、山本ロザ、他
製作国:日本
ひとこと感想:東京から地方への脱出を計り質素なバイト生活を続ける主人公が、「あなたを待っています」と書かれたプラカードを下げた女性を見つける、といった話。キャラ設定もストーリー展開も、なにもかもが、良くも悪くもインディペンデント(自主製作)全開のゆるさ。でもこのゆるさがクセになってしまうのがいまおかしんじマジック。たまに補給したくなるんだよね~。

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【あめつちの日々】(5/10)

監督:川瀬美香
(ドキュメンタリー)
出演:松田米司(沖縄・読谷村北窯)、他
製作国:日本
ひとこと感想:読谷山焼(よみたんざんやき)を産出する沖縄・読谷村の北窯を舞台にしたドキュメンタリー。ていうか、沖縄産の陶器(沖縄では焼物(やむちん)というらしい)があるってこと自体を知らなくってすいません……。北窯は1990年に4人で立ち上げた工房なのだそうで、厚手でぽってりとして大胆な絵柄の大らかな作風が特徴。沖縄で流れるゆったりとした時間の如く、映画のペースもゆったりと進むが、その中に、土と向き合い続ける地道な取り組みが見えてくる。文化を礎にした自立って言っても簡単じゃないと思うが、彼等はこの工房を立派に存続させてるから素晴らしい。欲を言えば、使ってこその焼き物だと思うので、使う側の視点も少し入っていると更によかったかもしれない。

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【雨にゆれる女】(6/10)

監督・脚本:半野喜弘
出演:青木崇高、大野いと、岡山天音、他
製作国:日本
ひとこと感想:過去の悔恨に現在が侵食されていくような感じのお話。下手すると煮ても焼いても食えない自己陶酔型ハードボイルドになりかねないところを、青木崇高さんがいいバランスで成立させていたのでほっとした。NHKのドラマ『ちかえもん』の時も思ったけど、青木崇高さんの凄さは、結構ファンタジックだったり荒唐無稽だったりするキャラでも成立させてしまうことができるというポテンシャルなのではなかろうか。

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【あやつり糸の世界】(7/10)

原題:【Welt am Draht】
監督・脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
共同脚本:フリッツ・ミュラー=シェルツ
原作:ダニエル・F・ガロイ
出演:クラウス・レーヴィチュ、他
製作国:西ドイツ
ひとこと感想:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督がテレビ用に発表してその後日の目を見なかったという唯一のSF作品の、世界初の劇場公開版。まずファスビンダー監督がSFを創っていたということが驚きだが、『バイオニック・ジェミー』的な効果音と独得な画面の色調に奇妙なノスタルジーに囚われる。バーチャルリアリティをテーマにしたお話は……既にあらすじをよく覚えていないが、派手な仕掛けやCGがなくてもイマジネーションに訴えかけることが出来ればSFって成立するんだな、と改めて思った。そして、かの時代の映画の一部には、映画は芸術であるという矜恃がはっきり存在していたんだなーということも思い出した。本作は、今という時代に見てこそ、色々な意味で興味深い作品なんじゃないだろうか。

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【或る終焉】(7/10)

原題:【Chronic】
監督・脚本:マイケル・フランコ
出演:ティム・ロス、サラ・サザーランド、ロビン・バートレット、マイケル・クリストファー、他
製作国:メキシコ/フランス
ひとこと感想:終末期介護に携わる男性の物語。公式HPでは、監督ご自身のお祖母様が亡くなる前にある看護師さんから終末期介護を受ける様子を見て、この映画の着想を得たのだそうだ。曰く、あることをあるがままに受け入れ、亡くなる人の気持ちにただ寄り添うことが大切。そして介護者自身も、死と喪失に日々向き合うことになるから、重い現実に引き摺られすぎることなく自分のペースを保つことが何よりも大切だとのこと。年齢的に親の介護の問題が頭をよぎるようになったり、最近たまたま終末期介護の本を読んだりしたので、私はいろいろ思うところがあったが、とにかく見た目が淡々としてるから若い人にはさっぱり面白くないかもしれないな。(でもラストの唐突さには結構びっくりした……人間万事塞翁が馬。)

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【ある戦争】(8/10)

原題:【Krigen (A War)】
監督・脚本:トビアス・リンホルム
出演:ピルー・アスベック、ツヴァ・ノヴォトニー、ソーレン・マリン、シャーロット・ムンク、他
製作国:デンマーク
ひとこと感想:アフガニスタンの多国籍軍による平和維持活動に参加した軍人が主人公。敵の攻撃に巻き込まれ、部下を守るために空爆要請を出したせいで子供を含む11人の民間人が死亡し(これもまた絶妙な数字)、民間人の殺害容疑により本国の裁判で罪に問われるけれど、妻からは子供達のために刑務所に入らないでとプレッシャーを掛けられ、女法務官からは嫌みったらしいドヤ顔で机上の空論を振りかざして追い詰められる。あの時自分はどうするべきだったのか?けれど他に部下達を助ける方法はなかったのに。そもそも何故自分達がアフガニスタンにいるんだ?そこに意味はあるのか?そもそも意義の分かりにくい戦争で、自分が殺害者になってしまった主人公の苦悩の中に、裁判での戦いや心の戦いなどのいろいろな姿の“戦い”が映し出される。デンマーク映画のポテンシャルはやっぱり半端ない。

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【怒り】(9/10)

監督・脚本:李相日
原作:吉田修一
出演:渡辺謙、宮﨑あおい、松山ケンイチ、妻夫木聡、綾野剛、森山未來、広瀬すず、佐久本宝、池脇千鶴、原日出子、高畑充希、ピエール瀧、三浦貴大、他
製作国:日本
ひとこと感想:“怒り”とは人を信じ切れなかったことへの慟哭、もしくは人を信じられなくなったことへの慟哭であるように思えた。そして一番誰も信じられず、一番弱かった人が犯人だった。日本映画界の最良の部分を結集して創られた紛れもない傑作。やればできる日本映画。

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【いしぶみ】(8/10)

監督:是枝裕和
(ドキュメンタリー)
出演:綾瀬はるか、池上彰、他
製作国:日本
ひとこと感想:昭和44年(1969年)に往年の大女優・杉村春子さんを語り部として制作され広島テレビで放送された『碑』 (いしぶみ)を、是枝裕和監督がリメイクした作品。学徒動員で広島の爆心地にいてその後全員死亡したという男子中学生達の遺族の手記を、広島出身の綾瀬はるかさんが朗読し、池上彰さんが遺族や関係者へのインタビューを行っている。こんな朴訥とした情報の羅列の中に、死んでいった男子中学生達の苦しみや、やっと戻ってきた彼等を死ぬまで看病したり行方不明になった彼等を訪ね歩いたりした遺族の痛み、病欠などでたまたまその場におらず生き残ってしまった同級生達の悲しみなどが鮮明に浮かび上がってくる。先の戦争を直接体験した世代がこれから確実にいなくなっていく中、私達やそれ以降の世代がどう受け継いで伝え続けていくのか。本作はそうした試行錯誤の1つになるのだと思う。

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【五日物語 3つの王国と3人の女】(6/10)

原題:【Il Racconto Dei Racconti (Tale of Tales)】
監督・脚本:マッテオ・ガローネ
共同脚本:エドゥアルド・アルビナティ、ウーゴ・キーティ、マッシモ・ガウディオソ
原作:ジャンバディスタ・バジーレ
出演:サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリー、シャーリー・ヘンダーソン、ヘイリー・カーマイケル、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:17世紀にイタリアで書かれた民話集『ペンタメローネ 五日物語』から3つの異なる物語を選り抜き、1編の物語として再構成したファンタジーを、【ゴモラ】のマッテオ・ガローネ監督が映画化。人間の果て無き欲望とその対価、がテーマかな?もしかしてヨーロッパの人の多くは教養としてこの話を知っているのかもしれないが、全然知らない私なんぞはどうもストーリーを見失いがちで、ちょっと取っつきにくいところが正直あった。けれど、グロテスクでダークなイメージは、テリー・ギリアム監督作品なんかを彷彿とさせるものがあった。

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【愛しき人生のつくりかた】(6/10)

原題:【Les Souvenirs】
監督・脚本・出演:ジャン=ポール・ルーヴ
原作・共同脚本:ダヴィド・フェンキノス
出演:アニー・コルディ、シャンタル・ロビー、ミシェル・ブラン、マチュー・スピノジ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:思うところがあって失踪してしまったおばあちゃんを巡り、右往左往するばかりで頼りにならないおばあちゃんの息子を差し置いて、優しい孫息子がおばあちゃんを探し出し、ついでに恋もゲットする話。派手さのない当たり障りのないストーリーだけど、ふんわりと優しくて何も嫌な気持ちにならないし、おばあちゃんを心配する孫息子がとてもいい子で癒やされる。曇天が多い印象の冬のフランスの、パリの街並みやブルゴーニュの景色も麗しい。

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【イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優】(7/10)

原題:【Ingrid Bergman - In Her Own Words】
監督:スティーグ・ビョークマン
(ドキュメンタリー)
出演:イザベラ・ロッセリーニ、イングリッド・ロッセリーニ、ロベルト・ロッセリーニ、ピア・リンドストローム、他
ナレーション:アリシア・ヴィキャンデル
製作国:スウェーデン
ひとこと感想:昔の女優さんとか全然詳しくなくて、どうも私の中でイングリッド・バーグマンとエリザベス・テイラーが混ざってしまっていた。エリザベス・テイラーはもともとイギリス人で8回結婚した人。イングリッド・バーグマンはもともとスウェーデン人で3回結婚して、アカデミー賞を3回もらった人ね。よし覚えた。
イングリッド・バーグマンの代表作は【別離】【カサブランカ】【誰がために鐘は鳴る】【ガス燈】【白い恐怖】【汚名】【ストロンボリ/神の土地】【恋多き女】【追想】【オリエント急行殺人事件】【秋のソナタ】など。若い頃本国で結婚して長女をもうけたけど、その後ハリウッドでの成功と共に別離。写真家のロバート・キャパとの恋愛関係を経て、ロベルト・ロッセリーニ監督と不倫関係になって長男が生まれ、前夫と離婚して監督と再婚した後にイザベラ・ロッセリーニと双子の妹が生まれた。その後、ハリウッドに復帰して監督と離婚した後に、スウェーデン人の演劇プロデューサーと再婚して離婚。1982年に67歳で亡くなるまで、多くの名だたる映画に出演し、多くの名だたる監督さんや俳優さんと仕事をした。恋多き人とという印象だったけど、それぞれの時期にそれぞれの相手と真剣な関係を築こうとしていただけだったのがよく分かった。彼女にとっての最優先事項は常に女優として演技することだったけど、一緒にいると明るく楽しい気持ちになれる人だった、という4人の子供達の証言から、子供達がそれぞれ母親をとても愛していることが伝わってきたのが印象的だった(別の資料によると、父親に引き取られた長女にはわだかまりがあった時期もあったようだが)。イングリッド・バーグマンは誰にも憚ることのない豊かな人生を生ききったのだと思えた。これは映画ファンなら見ておいた方がいい一本に違いない。

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【歌声にのった少年】(6/10)

原題:【Ya Tayr El Tayer (The Idol)】
監督・脚本:ハニ・アブ・アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、カイス・アッタラー、ヒバ・アッタラー、他
製作国:パレスチナ
ひとこと感想:『アラブ・アイドル』という『アメリカン・アイドル』のアラブ版のような番組に出て大スターになったパレスチナ出身のムハンマド・アッサーフさんの実話に基づく話で、原題の【Ya Tayr El Tayer】はアッサーフさんがスカイプでコンテストに出演した時に歌った曲名なのだそうだ。おそらくガザでロケを行った初めての国際映画だとのことで(ただ、【オマールの壁】が100%パレスチナの資本立ったのに対し、本作は25%がパレスチナ資本で、跡はほとんど他のアラブ世界から資金を得たとのこと)、現地でスカウトしたという子供たちのキャストが特に素晴らしく、ここだけで映画を作ってもよかったんじゃないかと思ったくらい。でもパレスチナの希望の星である実在のアッサーフさんにつなげる必要があるわよね。パレスチナの人々も未来に希望を持ちたいと願っているのだということが強く伝わってきた。

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【海すずめ】(3/10)

監督・脚本:大森研一
出演:武田梨奈、小林豊、佐生雪、内藤剛士,岡田奈々、目黒祐樹、吉行和子、他
製作国:日本
ひとこと感想:愛媛県宇和島市を舞台にした、市立図書館の本を自転車で街や島々に配達するという課に勤めるヒロイン達の物語。けれど、まずはこのヒロインが、遅刻はするわ文句ばっかり言ってるわ今いちやる気が感じられないわで、あまり魅力的に映らないのが戴けない。中盤以降は彼女の思いも分かってくるけれど、エンジンの掛かり方が遅いような。更に、重要なお祭りの出し物のために必須の資料が見つかっておらず、あと何日かで探さなければいけないとか、設定が酷い泥縄。更に、ヒロイン達の課が採算が取れなくていきなり廃止とか、これもまた泥縄。あり得ないでしょ。新しい課を新設するならその前に損益をシミュレートしてみるでしょう普通。瀬戸内の島々などの絵面はいいけれど、ネタをもっと練り込まないと白けてしまう。例によって武田梨奈さんが出てるから見に来てしまったというパターンだったんだけど、梨奈ちゃんのマネージングサイドもそろそろ出演作を吟味してくれないと駄目なんじゃないかな……。

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【海よりもまだ深く】(8/10)

監督・脚本:是枝裕和
出演:阿部寛、真木よう子、吉澤太陽、樹木希林、小林聡美、池松壮亮、リリー・フランキー、橋爪功、他
製作国:日本
ひとこと感想:作家崩れのギャンブル依存症の男。興信所のバイトで日銭を稼ぐ暮らしで、実家の母親に何かと依存しており、次回作を書きたいという野心だけはあるけれど永遠に書けそうにない。かつて結婚していたものの、自分のことばかりで家庭を顧みないタイプだったらしく、今は養育費もちゃんと払えていない。しかし、おそらく一番悪いところは、駄目駄目なのにどこかでワンチャンあれば昔に戻れると思っている認識の甘さそのもの。元妻にしてみれば、疲れるから憎むことすらしたくないし「これ以上嫌いにさせないで」と思いながら息子のためにギリギリつきあってくれているのに、男はその事実を真正面から受け入れることすら出来ない。あまりのふがいなさに、「こんなはずじゃなかった」とか言ってないで現実見ろよ、と言いたくもなったのだが……。ただ、理想通りの人生を歩いている人などほんの一握りで、ほとんどの人にとっては、理想と現実の折り合いを付ける道を模索しながらじたばたともがき苦しむ過程自体が人生そのものなのかもしれず、本当は誰もこの男のことを蔑んだりなど出来ないのもしれない。しかし、阿部寛さんってどうしてこういう情けない男を演らせると抜群に上手いのか、結構謎なんだけど。

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【映画 聲の形】(7/10)

監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
原作:大今良時
(アニメーション)
声の出演:入野自由、松岡茉優、早見沙織、悠木碧、小野賢章、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作を読んでいないのであまり何も分かっていないかもしれなくて恐縮なのだが、いじめる側・いじめられる側のメンタリティをここまで繊細に描いた作品は、メディアを問わず、かつてあまり見たことがなかったような気がする。見ているのがしんどいような微妙な人間関係が延々と続くのだが、こんな感覚こそが今の若い人にとってはリアルなのかもしれない。(自分のやったことを正視できず“私は何も悪いことをしていない”と言い張る女の子がすっげぇ気持ち悪かった。)ストーリーも、起・承・転・結的な核になる話がどーんとあってそれに肉付けしていく、という旧来の黄金律ではなく、むしろ枝葉となる1つ1つのストーリーを繋ぎ合わせて6転も7転もさせながら全体の形を編み上げていくもので、こうした創り方の方が昨今のアニメのドラマツルギーの在り方として主流なのかと思い至って、結構目からウロコだった。(【君の名は。】なども同じような手法で創られているように思う。)山田尚子監督の旧作(『けいおん!』など)も全く見ていなくて再度恐縮なのだが、こういう世界をこういう手法で描ける新しい才能が出てきているんだなー、と感心した。ジブリという巨大な船が瓦解する方向に向かいつつある今日この頃、日本のアニメ界はジブリがなくても何とかやっていけるのではないか、という予兆をあちこちで感じられるようになってきたのは、いいことなのだと思う。(そして、元ジブリの西村義明プロデューサーは、自分が言ってしまったことの意味を今一度噛み締めて戴きたい。山本沙代監督などの例を出すまでもなく、今、日本のアニメ業界でも女性監督は着実に増えているのだそうだ。)

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【エヴェレスト 神々の山嶺】(4/10)

監督:平山秀幸
脚本:加藤正人
原作:夢枕獏
出演:岡田准一、阿部寛、尾野真千子、佐々木蔵之介、風間俊介、ピエール瀧、甲本雅裕、テインレィ・ロンドゥップ、他
製作国:日本
ひとこと感想:平山秀幸監督の映画は今まで大概好きだったのだが、正直言って、本作だけはちょっと受け入れがたいと感じてしまった。人は何故山に登るのか、という命題は、クライマー以外の大多数の人間にとってそこまで興味が湧く題材ではないんじゃないかと思うのだが、トレッキングを趣味で嗜む人々すら寄せ付けないくらいのあまりにも哲学的で重々しいレベルで真正面から追求されても……。監督の真摯さがことごとく裏目に出てしまった上に、演者の皆様の真面目さもマイナスの相乗効果にしかなっていない。これだけのキャストとスタッフがこれだけ頑張っても功を奏するとは限らないなんて、つくづく映画って難しい……と思った。

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【エヴォリューション】(8/10)

原題:【Evolution】
監督・脚本:ルシール・アザリロヴィック
共同脚本:アランテ・カヴァイテ、ジェフ・コックス
出演:マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:フランスのルシール・アザリロヴィックという俊英女性監督の作品。しかし、女性達が美少年達を監禁し、怪しい手術を施して××させる島なんて、男女逆だったら発禁レベルの話では……。眉なし女、マズそうな食事、謎の薬、消えていく仲間達などなどの悪夢的イメージが息苦しく、壮絶なまでに美しい海中の景色がまたおどろおどろしい。好き嫌いははっきり分かれそうだけど、この独創性は近年他に類を見ないのではないか。初期のクローネンバーグやリンチになぞらえる人がいるのも納得だ。

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【エミアビのはじまりとはじまり】(4/10)

監督・脚本:渡辺謙作
出演:森岡龍、前野朋哉、新井浩文、黒木華、山地まり、他
製作国:日本
ひとこと感想:相方が亡くなったお笑い芸人が新しい一歩を踏み出すという展開は悪くないと思った。けれど、死んだ人が幽霊になって登場する類いの話がそもそもあまり好きじゃなく、ストーリー的にそこをうまく処理できているとも思えなかった。空を飛んだりする話もリアルにもフェイクにも振りきれず中途半端。しかし最大の問題はお笑いのシーンで、ギャグもいまいちだしテンポも悪くて全然面白くないのが結構致命的。既に【漫才ギャング】という作品がこの世に出ている以上、面白くなくても面白いものというお約束で見るという芸当はもうできなくなってしまっており、人気芸人のお笑いがこのレベルという描写はちょっと厳しいでしょう。森岡龍さん、前野朋哉さん、新井浩文さんと、結構好きな俳優さん達が多く出演していただけに、ちょっと残念だった。

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【オーバー・フェンス】(9/10)

監督:山下敦弘
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香、他
製作国:日本
ひとこと感想:熊切和嘉監督の【海炭市叙景】、呉美保監督の【そこのみにて光輝く】に続く佐藤泰志原作“函館3部作”の最終章。方や失業保険をもらうために職業訓練校に通いながら人生やり直しの機会を模索する男。方や見るからに情緒不安定な場末のホステスの女。オダギリジョーさんと蒼井優さんが真正面からがっぷり四つに組んでがっつりラブ・ストーリーを演じれば、そりゃ見応えがあるに決まっているよね。松田翔太さんや北村有起哉さんといった脇を固める俳優陣も間違いない。紆余曲折を経て辿り着いたスカっとしたエンディングに、間違いない名作の香りがした。

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【お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました】(8/10)

監督・出演:遠藤ミチロウ
出演:The Stalin Z、The Stalin 246、竹原ピストル、大友良英、AZUMI、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:昔、ザ・スターリンというパンクバンドがあってだな……。還暦を過ぎた遠藤ミチロウさんは、しばらく見ない間に、過激で訳の分からないおじさん(←自分に理解する能力がなかっただけ)から 、過激でカッコイイおじさんになっていた。故郷に対する複雑な思いを静かに吐露するミチロウさんの佇まいは神々しいくらいだった。

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【オケ老人!】(7/10)

監督・脚本:細川徹
原作:荒木源
出演:杏、笹野高史、左とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎、茅島成美、喜多道枝、森下能幸、黒島結菜、萩原利久、坂口健太郎、光石研、フィリップ・エマール、飛永翼(ラバーガール)、他
製作国:日本
ひとこと感想:間違ってご高齢者ばかりの激ヘタ楽団に入ってしまった主人公を杏さんが演じるコメディ。おじいちゃん、おばあちゃん達が途中でいきなり楽器が上手になってしまったところはちょっと気になったけれど、それぞれの登場人物が音楽の素晴らしさを改めて見出し、敵役みたいだった人達も巻き込みつつ、いくつかの問題もきれいに回収されていくウェルメイドな展開は心地よかった。あとはこのタイトルがね~。原作のままだから仕方ないかもしれないが、ちょっと見に行くのを躊躇してしまったよ。

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【オデッセイ】(7/10)

原題:【The Martian】
監督:リドリー・スコット
脚本:ドリュー・ゴダード
原作:アンディ・ウィアー
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ペーニャ、ケイト・マーラ、セバスチャン・スタン、アクセル・ヘニー、キウェテル・イジョフォー、ジェフ・ダニエルズ、ショーン・ビーン、クリステン・ウィグ、マッケンジー・デイヴィス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:どういう状況になっても冷静に職務を遂行できるメンタルの人じゃないとそもそも宇宙飛行士には選ばれないのだそう。作の主人公も、火星に独りで置いてけぼりになっても生き残るための努力を淡々と続け、帰還を果たそうと頑張る。そんな彼を何とか救出しようと、様々な人々がそれぞれの立場で力を尽くす。(しかしここに登場する技術者達はインド系や中国系ばっかりだ……。)手に汗握り拍手を送りたくなる王道的展開が白けることなく楽しめる、これぞ正しいハリウッド映画。しかし一方、宇宙開発には犠牲はつきものだ、などと言い放つエラい人もいたりして。こうした共感力の欠如が世界を分断に導くんじゃないんですかねぇ。

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【お父さんと伊藤さん】(8/10)

監督:タナダユキ
脚本:黒沢久子
原作:中澤日菜子
出演:上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也、長谷川朝晴、安藤聖、渡辺えり、他
製作国:日本
ひとこと感想:初老で経歴不詳のアルバイターの彼氏・伊藤さんと暮らす中年手前の書店アルバイターの女性。彼女の元に、居場所がなくなったお父さんが送り込まれて来て、不思議な同居生活が始まる。お父さんは、厳しくて人一倍口うるさくて文句ばかり言っているけど、一人では何もできない人だからほっとくわけにもいかない。そんな時、この伊藤さんは、必要なことは全部してくれて、必要な助言をくれる。けれど決して出しゃばらずやり過ぎることもない。50過ぎでお金も定職もないなんて怪しすぎるけど、頼りになることこの上ない!一家に一人伊藤さんが欲しいよ~!タナダユキ監督はほんとの男らしさって何なのかよく分かってらっしゃる、と思った。

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【溺れるナイフ】(6/10)

監督・脚本:山戸結希
共同脚本:井土紀州
原作:ジョージ朝倉
出演:小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅、上白石萌音、志磨遼平、市川実和子、斉藤陽一郎、ミッキー・カーチス、他
製作国:日本
ひとこと感想:十代特有の十全感と、世界への対峙の仕方の模索と、そのほころび。きっとあとしばらくしたらすべて取るに足らないことになるんだろうけれど。ストーリーにはいろいろ疑問点や欠点もあると思うけど、菅田将暉さんや小松菜奈さんの、今この時にしかない瑞々しさをこれだけ美しく写し取ることができているのだから、本作はそれでいいような気がする。

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【オマールの壁】(5/10)

原題:【Omar】
監督・脚本:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ、リーム・リューバニ、ワリード・ズエイター、他
製作国:パレスチナ
ひとこと感想:【D.I.】といった合作映画は見たことあるけど、100%のパレスチナ映画が創られたのは初めてのことらしい。しかし、若者の行動を描いた話だからなのか、個人的にはお話があまり内面まで降りてこなかったような気がする。ともあれ、パレスチナ映画が分断や絶望ではないテーマを語れるようになるのはいつのことなのだろう、と思いを馳せずにはいられなかった。

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【女が眠る時】(5/10)

監督:ウェイン・ワン
脚本:マイケル・K・レイ、シンホ・リー、砂田麻美
原作:ハビエル・マリアス
出演:ビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリ、リリー・フランキー、他
製作国:日本
ひとこと感想:スランプの作家が、初老の男と若い女の怪しいカップルを見かけて興味を持つが、そのうちその興味が暴走してしまう……。 古めかしいタイトルだなぁと思ったら、内容も古めかしい感じだった。今はもう21世紀で、観客の半分は女なんだから、観念としての女を描こうとすること自体の古くささにそろそろ気づいた方がいいんじゃないかと思ったのだが。

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【海賊とよばれた男】(5/10)

監督・脚本:山崎貴
原作:百田尚樹
出演:岡田准一、吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平、野間口徹、ピエール瀧、堤真一、小林薫、綾瀬はるか、黒木華、光石研、近藤正臣、國村隼、他
製作国:日本
ひとこと感想:日本はエネルギーを確保するために独自のルートを持たなければいけない、という信念があったという出光の創業者をモデルにした話なんだそう。しかし、日本のエネルギー政策の推移というのは確かに大事な問題かもしれなくても、さほど興味がない人にはそこまで面白い話題ではないんじゃないかなぁ。ていうか、いくら時代が違うと言ったって、忙しさにかまけて奥さんを大切にせず、出てってもほっといたというのを美談にしてるのはどうなの。そもそも私、この原作者が大っ嫌いなんだけど、山崎貴監督はいつまでこの人の原作で撮るおつもりなんですかね……。

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【鏡は嘘をつかない】(7/10)

原題:【Laut bercermin (The Mirror Never Lies)】
監督・脚本:カミラ・アンディニ
共同脚本:ディルマワン・ハッタ
出演:ギタ・ノヴァリスタ、エコ、アティクァ・ハシホラン、レザ・ラハディアン、他
製作国:インドネシア
ひとこと感想:東南アジアの漂海民バジャウ族(Bajau、バジョ族とも)の少女の物語。漂海民とは、陸地に居住地を持たず海上を転々として生活している人々のことで、従来国籍を持っていなかったのだが、近年では定住化政策が進められているらしい。少女は漁で遭難した父親を待ち続けており、母親を含む大人達が父親のことを諦めつつあるのが寂しいらしいけど、いくら寂しくても人のものを盗ったりしたら駄目じゃん!彼女のことを一途に思ってくれる幼馴染みの小さなナイトの存在があって少しだけほっとしたが(この二人の関係はとても可愛いらしい)、グローバル化による均質化の波が押し寄せる中で、先祖から続いてきた伝統的な暮らしをこれからも続けると彼女に宣言させるのは、ファンタジーとしては美しくても危うすぎる結末なんじゃないだろうか。ともあれ、これだけ海の描写が美しい映画なのだから、もっと夏の真っ盛りなどに公開するとかすればいいのに、と思った。

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【牡蠣工場】(8/10)

監督:想田和弘
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:想田和弘監督作品は、今まで微妙に見たいと思える素材がなく、今回初めて拝見させて戴いた。岡山の牡蠣工場という働き手が集まらない厳しい労働現場で働く人々や、その現場に中国から季節労働者として出稼ぎで来ている人々などを映しているのだが、海外からの働き手として彼等を必要としながら、一人一人のパーソナリティやバックグラウンドと交わることはほとんどなく、あくまでも一時的にやって来ては去って行き次々に入れ替わる異物としてだけ受け入れているという奇妙なリアルさが印象に残った。こうしたことは、日本の地方の労働現場のあちこちで起こっていることなのかもしれない。一見重要とは思えないような何気ない会話も含めたディテールを総て映し取ることで、その場の雰囲気を総て再現しようとする手法が面白く、ある場所を定点観測してじっくりと見詰めることの中に、逆にグローバル化とは何かを考えさせるよすがが存在していることが興味深かった。

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【過激派オペラ】(7/10)

監督・脚本:江本純子
共同脚本:吉川菜美
出演:早織、中村有沙、桜井ユキ、森田涼花、佐久間麻由、後藤ユウミ、石橋穂乃香、今中菜津美、趣里、増田有華、宮下今日子、遠藤留奈、梨木智香、安藤玉恵、高田聖子、大駱駝艦、他
製作国:日本
ひとこと感想:「毛皮族」主宰の江本純子監督が描く、とある劇団の勃興と衰退。演劇をほぼ全く見ないので、「毛皮族」ってこんな感じの劇団だったのかな?などと想像してみた。大昔の全共闘っぽいヘルメットの扮装とか出てきて、いつの時代の人だろう?と思ったら自分よりずっと若かったので驚いたけど、何か得体の知れない不可解なパワーが充満しており、何か知らないがもの凄いものを見せつけられたような気がした。そういうことでレズのシーンも相当がっつりあるけれど、演出家と女優がデキてしまうとか、痴情のもつれから人間関係が崩壊し劇団が瓦解する、っていうのは今も昔もあんまり変わらないよくある劇団あるあるなんじゃないのかな?しかし、この特異なエネルギーにあてられて、見終わってからどっと疲れたのは否めない。

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【風に濡れた女】(6/10)

監督・脚本:塩田明彦
出演:永岡佑、間宮夕貴、他
製作国:日本
ひとこと感想:主演のお二人によると、これは獣が交わる話なんだそうで……成程。ごめんなさい、私、今ちょっと他のアニメ作品のことで頭がいっぱいで、男性の描くエロスなんて単純すぎてつまんないと思ってしまったかも。でも主演の永岡佑さんはカッコよかったかな。永岡さんにはこれからもっと活躍の場を広げて戴きたいです。

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【家族はつらいよ】(7/10)

監督・脚本:山田洋次
共同脚本:平松恵美子
出演:橋爪功、吉行和子、妻夫木聡、蒼井優、夏川結衣、西村雅彦、中嶋朋子、林家正蔵、風吹ジュン、小林稔侍、他
製作国:日本
ひとこと感想:【東京家族】と全く同じキャスティングなので続編なのかと思ったら、リタイア後の夫が妻からいきなり離婚を切り出され……という全然違う話だった。しかし、このふんぞり返っていばりちらす被害者意識いっぱいの爺さんが全く笑えない。自分が苦労してきたということしか頭になく、周囲の人々の気遣いにはまるで鈍感。感性が硬直していて視野が狭い。本当は長年連れ添った妻を愛しているし感謝もしてるのに、「言わなくても分かるはず」と勝手に決めつけて、妻の真意を聞いてみようともせずにあっさり離婚に応じようとするなんて、完全にコミュ障じゃん。こんな爺さんが世間にたくさん存在しているのであろうということは、最早喜劇じゃなくて悲劇だとしか思えない。(橋爪功さんが上手すぎるので橋爪さんが本当にこんな人であるかのように見えてしまう……。)でも、終盤近くになって、このひたすら鬱陶しく問題ありすぎの爺さんの未熟さや稚拙さが、ほんのり可愛いくいじらしく見えてくるのが、さすがの山田洋次マジック。この絶妙なリアリティとバランス感覚には、共同脚本の平松恵美子さんの観察眼も大きな力になっているのではないだろうか。そして山田監督は、自分と年代の近い男性諸氏に対して、自分一人で早合点して無駄なやせ我慢をしたりしないで、周りに聞いたり助けを求めたりする素直さを持たなけりゃイカンよと、警鐘を鳴らしているのではないかという気がした。

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【葛城事件】(10/10)

監督・脚本:赤堀雅秋
出演:三浦友和、若葉竜也、南果歩、新井浩文、田中麗奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:かつて自分が建てたマイホームに自分の家庭の理想像を重ね合わせ、自分の矮小なプライドを満たすため、現実を見ることなく家族にその理想像を押し付けて圧迫し続けた父親。「やるべきことはやってきた」「俺が一体何をした」と嘯き、何が原因なのか分かっていないし分かろうともしない。その理解しがたい頑迷さと虚勢。独りよがりな視野の狭さと自己中心性。私はかつて、こういうおっさんが、世の中のすべての不幸の元凶だと思っていた。
でも、どれだけ父親から圧迫を受けたと言っても、他の家族の側にも咎(とが)はある。母親は、そもそも自分をごまかして好きでもない相手と結婚生活を続け、諦めて総てを受け入れる振りを続け、その分息子に精神的に依存していて甘やかし過ぎ、夫や息子の咎が増幅するのを見て見ぬふりをしてしまった。長男は、歪んだ環境の中でバランスを取るためにいい子になりすぎて、結局自分を追い込みすぎて破壊してしまった。そして次男は、言い訳ばかりで全部人のせいにして地道な努力ができず現実逃避を続け、結局通り魔事件を起こして死刑判決を受けることになった。この一家の前に狂言回し的に登場する女性も、死刑制度に反対するために次男と結婚すると申し出るなんて、いくら信条のためとはいえちょっと常軌を逸している。この家族の中には、日本の社会の中の様々な病理が、これでもかというくらい煮詰められているかのようだった。
どこまでもエグく、グロテスクで救いがないのに目が離せない。赤堀雅秋監督の名を今すぐ日本の現役トップ10監督の1人として記憶すべきだろう。これこそが日本のメンタリティを最も辛辣に抉り取った映画だと海外にも売り込むべきだ。

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【神様たちの街】(5/10)

監督:田中幸夫
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:【徘徊 ママリン87歳の夏】の田中幸夫監督作で、神戸で10年前から行われているシニアのアマチュアファッションショーの様子を映す。震災の記憶や自分の年齢と向き合いながらも、この日を楽しみにワードローブの奥からとっておきの服を引っ張り出すおじいちゃん・おばあちゃん達。おそらく、こういうテーマで撮りたかったというよりは、こういう会の記録を作って欲しいという要請がどこからかあって作られたような印象があるが、各自の様々な思いを明るく吐露するポジティブなおじいちゃん達やおばあちゃん達はそれだけで魅力的で、見ていて飽きなかった。

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【カルテル・ランド】(8/10)

原題:【Cartel Land】
監督:マシュー・ハイネマン
(ドキュメンタリー)
製作国:メキシコ/アメリカ
ひとこと感想:麻薬戦争で混沌状態が続くメキシコ。政府は無力で、麻薬カルテルを相手に立ち上がった自警団。でもこの自警団も何だか胡散臭く、どう見ても麻薬カルテルの奴の方が頭がよくて上手っぽそう……。カルテルは政府だけでなく自警団にも資金を提供し、自警団の一部は暴走。自警団のNo.1のカリスマ医師は独立路線を主張していたが、女好きがたたって家庭崩壊……後に武器の不法所持という因縁をつけられ現在収監中。そして頭の緩そうなNo.2が出張った結果、内部浄化できないまま政府に吸収され、自警など名ばかりの組織に成り下がる。どうして銃を持つと人間はもれなくアホ化するのだろう……という疑問はさておき、どうなるメキシコ。様々な物が瓦解した世界中の救いのない場所の中で、ここは未来が見えない場所のワースト何番目だろう。こんな世界の中、そこいらのフィクションはドキュメンタリーに太刀打ちできる訳がない。

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【カレーライスを一から作る】(8/10)

監督:前田亜紀
(ドキュメンタリー)
出演:関野吉晴、他
製作国:日本
ひとこと感想:グレートジャーニー・関野吉晴氏の、文字通り「カレーライスを一から作る」大学の授業をドキュメンタリー化したもの。この授業では、米、野菜、スパイス、調味料、肝心の肉、そして食器までを自分達の手で作り、最後には皆でカレーライスを作って食べる。米や野菜を育てたり、鳥を飼ったり、塩を作るため浜辺で海水を煮たり。(私の世代以上に)生命を育む現場に立ち会う経験に乏しいと思われる若い学生達が、様々な経験を積んでいく様自体も面白いが、その中で、生命を育むのは大変だということ、私達は日々その生命を戴いているのだということ、そして今の社会ではそうした過程がマス・プロダクション化して通常の生活の中からは見えにくいものになっているのだということを学んでいくのが素晴らしかった。ただ、鳥をシメたりするシーンががっつりあるので、そういうのが苦手な人はご注意を。あと、スパイスがウコン(ターメリック)と唐辛子と生姜とコリアンダーだけって足りなくない?あとせめてニンニクとクミンは欲しいところだが。

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【眼球の夢】(6/10)

監督:佐藤寿保
脚本:夢野史郎
出演:万里紗、桜木梨奈、中野剛、PANTA、小林竜樹、他
製作国:日本/アメリカ
ひとこと感想:かつてピンク四天王として名を馳せた佐藤寿保監督の新作で、まさかの日米合作映画。アメリカ側のプロデューサーは、ハーバード大学感覚人類学研究所に所属し【リヴァイアサン】の監督を務めた人類学者の二人。って一体どこからそんなコネクションが降って湧いたの……謎が深い。内容は、いかにも60年代~70年代っぽい由緒正しいアングラ映画といった風情で、思った以上に“眼球”三昧。ヒロインが眼球を求めて発情しているだけのようにも見えるが、その意味は正直あんまりよく分からない……でもドンマイ!それがアングラというものだから。この映画にはそういう諸々をぶっちぎって押し切るだけの強度があるから、きっとそれでいいに違いない。

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【奇蹟がくれた数式】(2/10)

原題:【The Man Who Knew Infinity】
監督・脚本:マシュー・ブラウン
原作:ロバート・カニーゲル
出演:デブ・パテル、ジェレミー・アイアンズ、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:アインシュタインと並ぶほどの天才と称されたインドの数学者ラマヌジャンと、彼を見出したイギリス人数学者G・H・ハーディの実話を映画化した伝記ドラマ。この素材を見出した人はやったぁ!と思ったんじゃないかと想像するけれど、事実をただ忠実になぞっただけに見える脚本はペラペラで深みゼロで、人生の機微が1ミリも感じられない。終わりを待つのが苦行でしかない映画を見ているなんて随分久しぶりかもしれない、と思った。

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【奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ】(8/10)

原題:【Les heritiers】
監督・脚本:マリー・カスティーユ・マンシオン・シャール
共同脚本・出演:アハメッド・ドゥラメ
出演:アリアンヌ・アスカリッド、他
製作国:フランス
ひとこと感想:落ちこぼれクラスの生徒達が、ナチスに関する研究発表を通し、学ぶということの過程自体を学んでいく、という実話を基にして創り上げた物語。ティーンエイジャーの子供達は、フランスの学校らしく様々な民族の出身者で、図体は大きくても中身はまだまだ発展途上。そんな彼等が課題に対して徐々に真剣になっていく様は、ノンフィクションかと見紛うくらいのリアリティと臨場感がある。そしてこの先生が、次の年の生徒達にも同じことを教えていくことを示唆するラストシーンに、教育という行為の重みを感じて目頭が熱くなった。

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【君の名は。】(8/10)

監督・脚本:新海誠
(アニメーション)
声の出演:神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子、他
製作国:日本
ひとこと感想:ちょっと特異な仕掛けで強い印象を残すボーイ・ミーツ・ガール。【転校生】などの例を出すまでもなく、男女の入れ替わりなんて使い尽くされたテーマだと思っていたけど、そこに彗星や口噛み酒という印象的なモチーフを上手く組み入れ、更に2ひねりくらいアイディアを練ってあって、初見の時には正直唸った。(実は2人の間には×××があったという仕掛けにはやられた!と思った。)また、ただアイディアだけで勝負するのではなく、監督ならではの美しい風景描写の中に、魅力的な登場人物達が活き活きと活写されており、監督の良いところが相乗効果で何倍にも増幅されているように感じられた。ただ個人的には、“事件”が解決した後の展開が少し冗長ではないかと感じられたかな。あと、2人が互いの名前を忘れてしまう仕組みがよく分からず、おばさんは今一つついていけなかった。もしかして、このタイトルを付けたいがためだけの無理な展開なのではないかとすら感じられて、少し勿体ないような気がしたのだけれど。
しかし、個人作家として出発した新海誠監督がこれだけのヒットメーカーになるなんて、いろいろな意味で感慨深かった。監督の歩みは、これからの日本における創造活動の在り方を考える上で参考にすべき点がいくつもあるのではないかと思われる。

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【キャロル】(9/10)

原題:【Carol】
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
原作:パトリシア・ハイスミス
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:パトリシア・ハイスミス原作で、1950年代のアメリカで愛を貫こうとした女性カップルの話。ケイト・ブランシェット様の美しさと優美さとかっこよさが筆舌に尽くしがたい!ルーニー・マーラさんも、純真でひたむきな女に見事に化けていて初めていいなと思い、どんなタイプの人でも演じられるのであろうこの人の懐の深さが認識できた気がした。これまで見たトッド・ヘインズ監督の作品で一番美しく愛を描いている映画だと感じられ、女性の同性愛映画に新たな名作が加わったように思われた。

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【教授のおかしな妄想殺人】(5/10)

原題:【Irrational Man】
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:殺人をすることで無気力から立ち直る大学教授、という狂気じみた設定があまりに淡々と進んでいくのがシュールすぎ、どう反応していいのやらよく分からない状態に陥ってしまった。ブラック・コメディというけれど……これ、コメディなの?原題に“Irrational”が入っているけれど正に不条理。ウディ・アレン監督がどうしてこれを撮ろうと思ったのか、正直よく分からなかった……。

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【疑惑のチャンピオン】(6/10)

原題:【The Program】
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ジョン・ホッジ
原案:デヴィッド・ウォルシュ
出演:ベン・フォスター、クリス・オダウド、ギョーム・カネ、ジェシー・プレモンス、ダスティン・ホフマン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:脳にまで転移していた癌から生還してツール・ド・フランス7連覇という偉業を成し遂げるも、後にチームぐるみの悪質なドーピングが発覚して自転車競技界から永久追放になったランス・アームストロングの実話の映画化。欧州のスポーツ界におけるドーピングの実態とかに少し興味があったのだが、ドーピングの技術は思った以上に研究され体系として完成されているようで、担当医師など最早人体実験を楽しんでいるノリだったので、薬物汚染は想像以上に広く潜在しているのだと思われた。だからこそ厳しく禁止しようとする人々がいる一方、それでも手段を選ばず称号が欲しい人々もいるから、永遠のいたちごっこが続く。この闇は想像以上に深いのだと改めて知ることとができた。
しかし本編は、アームストロングを始めとする選手の心情も周囲の人々の心境もそれほど掘り下げないので、誰の心情にもいまひとつ寄り添うことが出来なかった。また、監督自身がこれまで自転車競技のことをほとんど知らなかったと言う通り、自転車のシーンにもそれほど魅力がなかったので、結局、映画として見た場合にどこに軸足を置けばいいのかよく分からず、いまいち中途半端な印象が残ったような気もした。

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【金メダル男】(7/10)

監督・原作・脚本・主演:内村光良
出演:知念侑李(Hey!Say!JUMP)、木村多江、平泉成、宮崎美子、大西利空、大泉洋、音尾琢真、清野菜名、竹中直人、田中直樹(ココリコ)、長澤まさみ、加藤諒、土屋太鳳、笑福亭鶴瓶、柄本時生、ムロツヨシ、森川葵、ユースケ・サンタマリア、マキタスポーツ、手塚とおる、高嶋政宏、温水洋一、他
製作国:日本
ひとこと感想:内村光良さんの監督・主演作で、一等賞になることに取り付かれた男が、挫折に挫折を重ね、様々な経験を積んでようやく自分の道らしきものを見つける話。芸術作品というより純然たる娯楽作という趣きが強く、見ている人を楽しませたいというおもてなしの心に溢れており、内村さんは決してクロサワやミゾグチやオヅみたいな非情で冷徹な芸術家にはなりきれなくても、これはこれで内村さんにしかできなかった到達点なのだと思わせてくれた。けれど、こんなペーソスに溢れたトラジコメディは、若い人よりも中高年が見てこそ心に沁みるんじゃないかな。内村さんを下手なバラエティ番組に出演させて番宣をするよりも、こうした層をもっと大事にしたマーケティングが必要だったんじゃないかと思われたのが、戦略的にちょっと残念に映った。

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【グッドモーニングショー】(5/10)

監督・脚本:君塚良一
出演:中井貴一、長澤まさみ、志田未来、時任三郎、池内博之、林遣都、梶原善、木南晴夏、大東駿介、濱田岳、吉田羊、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:さすが長年テレビ畑を歩いてきた君塚良一監督の作品だけあって、朝の情報バラエティの製作現場が覗けるような作りになっているのは面白い。けれど、主人公の性格も言動も、犯人の動機も、ストーリーの展開も、どれもが何だか煮え切らなかったから、映画全体の印象も煮え切らなかったし、そもそも平気で浮気をしている主人公の素行には疑問しか残らないから、この生温い終わり方は気持ち悪いったらない。世間には不倫に対していろいろな考え方があるんだろうけれど、配偶者に対して不誠実なのだけは間違いないからな。暴走女の長澤まさみさんと、いろいろ驚きながらも機転をきかせて番組を進行する志田未来さんの女子アナコンビだけはファンキーで面白かった。

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【グッバイ、サマー】(9/10)

原題:【Microbe et Gasoil】
監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、ディアーヌ・ベニエ、オドレイ・トトゥ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:ミシェル・ゴンドリー監督の体験に基づいた作品で、手作りの“車”を作って旅をする2人の少年の、ヘンテコだけど純粋なひと夏の友情を描く。この“車”というのが完全に移動式の家になっていて、【モバイルハウスのつくりかた】というドキュメンタリー映画を思い切り思い出してしまったけれど、その映画に出てくる建築家の坂口恭平さんがパンフに寄稿しているらしいので、皆考えることは一緒だと笑った。2人が一緒にいられた時間は短かったけれど、この友情は心の中では永遠で、2人はお互いにお互いを認め合ったという経験を心の糧にしてきっと生きていける。本作がほぼ映画初出演だというこの2人のナイーブさが本当に素晴らしい。少年同士の友情を描いた映画の大定番の【スタンド・バイ・ミー】(私のライフタイム・フェイバリットの1本です)に迫るくらい勢いがあり、新たなスタンダードになれるほどの強度があるんじゃないだろうかと思った。

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【クリーピー 偽りの隣人】(8/10)

監督・脚本:黒沢清
脚本:池田千尋
原作:前川裕
出演:西島秀俊、竹内結子、香川照之、川口春奈、東出昌大、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:この話、北九州事件とか尼崎事件とかをモチーフにしてたのね。天才的な人たらしが、心の隙間を利用して他人を洗脳し、当事者として巻き込んでおぞましい犯罪に関与させ、利用できなくなったら殺してしまうということを繰り返す、という事件。正に現代のホラーだけど、これをモチーフにして小説を書くとか、それを脚本に起こして映画を撮るとか、そんな悪趣味なことをわざわざするなんて……。
最初に竹内結子さん演じる妻が洗脳されてしまうのだが、どうしてそんな怪しそうな家に自ら飛び込んでしまう訳?と最初から疑問符が。ただ、本編はあくまでも夫が主人公だから、妻の動機を敢えて詳細に描こうとしていないのかもしれず、後付けで、犯人は妻が常々抱えていた満たされない思いを見抜いてつけこんだらしいということも分かってくるのだが。そして、西島秀俊さん演じる犯罪心理学者の夫の側も、自分はしっかりしていると言い張っているけれど、そもそもちょっと病んでるっぽく暴走しがちで、犯罪に真摯に向かい合うというよりは自分の興味を優先させているふしがあり、結局自らが専門とする学問を役立たせることもできず、どツボに嵌まるまで家族を守れなかったという。そして、やっと警察の捜査官がやってきたかと思ったら、彼等はどうしていつでも2人1組で行動するという基本をガン無視して、自ら危険な状況に陥ってしまうのか。……このように、ストーリーにいろいろツッコミを入れざるを得なかったのは、それだけ恐かったからなんだけど。ラストシーン、魂を振り絞るように泣き叫ぶ妻の悲痛な声に、全ての説得力が集約されていた。犯人役の香川照之さんの不気味な存在感がもの凄い。これは筆舌に尽くしがたい難役だと思うのだが、一体どれだけ研究して演じたのだろうか。

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【クリムゾンピーク】(6/10)

原題:【Crimson Peak】
監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
共同脚本:マシュー・ロビンズ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ギレルモ・デル・トロ印のゴシック・ホラー。しっかり作り込まれた重厚な画面は格調高く、趣きがあって見応えがある。驚くようなネタや仕掛けはないし(姉と弟の近親相姦ネタってまぁありがちだよね)、ホラーとしては恐さもマイルドだけど、ちょっと楽しむには悪くないかもしれない。

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【グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状】(6/10)

原題:【Das Grosse Museum】
監督:ヨハネス・ホルツハウゼン
(ドキュメンタリー)
製作国:オーストリア
ひとこと感想:かつて訪れたウィーン美術史美術館は王宮宝物館(宝飾関係)が特に楽しかった。そのウィーン美術史美術館の大規模改装を機に製作されたドキュメンタリー。ヨーロッパの大美術館のドキュメンタリーは取り立てて珍しくないほどたくさんあるけど、他の美術館と同様、本作でも、美術に身を捧げた多くの人々が真摯に働いているのが心に残った。

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【下衆の愛】(7/10)

監督・脚本:内田英治
出演:渋川清彦、岡野真也、忍成修吾、細田善彦、でんでん、内田慈、山崎祥江、木下ほうか、古舘寛治、津田寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:主人公は、過去に撮ったインディーズ映画が評価されたけれど現在は何も撮っておらずほとんどニートの下衆な中年映画監督。女にだらしなく、やることなすことほぼ理不尽でいい加減。でも映画への情熱だけは失ってはいないらしい。彼がある女優の卵と出会って珍しくやる気になり、新作を撮ろうと奔走するが、様々な壁が立ち塞がる……。こんな監督を熱演する渋川清彦さんとか、気骨もあるし理想も語るがまるで山師のような全共闘世代のプロデューサーを演じるでんでんさんとか、久々にがっつり変態役の津田寛治さんなど、俳優陣がとても魅力的。しかし、日本ではインディーズから出た人はそんなに簡単に魂売らないんじゃないかという気がしたというか、市場が狭いので売りようがないんじゃないかと思ったりしたのだが。あと、日本の映画界ってこんなに肉食系(というかヤリ○○)の人ばかりじゃないんじゃないかと思ったが、内田英治監督がブラジルのリオ生まれと聞いて少し納得したような?

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【幸福のアリバイ】(4/10)

監督・原案:陣内孝則
脚本:喜安浩平
出演:中井貴一、柳葉敏郎、大地康雄、山崎樹範、木南晴夏、浅利陽介、木村多江、渡辺大、佐藤二朗、清野菜名、他
製作国:日本
ひとこと感想:うーん、オムニバス形式の映画だって知ってたら見に行かなかったかな。陣内孝則さんのこれまでの監督作品は嫌いじゃなかったんだけど、本作は、どうもセリフが自然じゃなく、全体的に作り物っぽくて、設定のための設定、お話のためのお話という感じが拭えない。俳優さんの顔触れの豪華さからするとちょっと残念だったかな……。

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【こころに剣士を】(7/10)

原題:【Miekkailija (The Fencer)】
監督:クラウス・ハロ
脚本:アナ・ヘイナマー
出演:マルト・アヴァンディ、ウルスラ・ラタセップ、他
製作国:フィンランド/エストニア/ドイツ
ひとこと感想:監督はフィンランド人、舞台はエストニアの合作映画。かつてソ連領だったエストニアのスターリン政権下時代に、秘密警察に追われながら子供達にフェンシングを教えた実在の指導者を描く。最初は身柄を隠すために嫌々子供達に接していた主人公が、教えることの喜びに目覚めるところが感動的だった。このフェンシングクラブは今でも続いているというのが凄いなぁ。

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【後妻業の女】(9/10)

監督・脚本:鶴橋康夫
原作:黒川博行
出演:大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、永瀬正敏、風間俊介、松尾諭、笑福亭鶴瓶、津川雅彦、水川あさみ、樋井明日香、ミムラ、余貴美子、六平直政、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本明、笑福亭鶴光、梶原善、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作は後妻業をもっとシリアスに描いたものらしいけど、鶴橋康夫監督は、これを大竹しのぶさんをヒロインにしたコメディ仕立てにした。寂しいお年寄りに近づいては後妻に収まり財産を吸い取る女の役に、大竹さんはまさにハマリ役で絶品。この女を裏で操る限りなく胡散臭い結婚紹介所所長(どうやら元ヤクザ)役の豊川悦司さんの存在感も凄いし、遺産を巡ってヒロインと対立する尾野真千子さん・長谷川京子さん姉妹とか、この件の調査を請け負いながら怪しく暗躍する永瀬正敏さんとか、所長の愛人の水川あさみさんとか、ヒロインの息子の風間俊介さんとか、みんな箇条書きにしたいくらいそれぞれ味がある。果てしなく暴走する大人の欲望は、ギラギラしててあまりにもグロテスクで、もはや笑うしかないレベル。若い人こそ、これほどまでにこってりした人間ドラマにトラウマを思い切り植え付けられて、理不尽ばかりが跋扈するがさがさした大人の世界への免疫でも作っとけばいいんじゃないかと思うよ~。テレビ界では長年名匠として知られていた鶴橋康夫監督だけど、映画監督としては本作でやっと本格的に本領を発揮できたんじゃないかなと思う。
(しかし、具体的に手を下すような犯罪行為は論外だけど、寂しいお年寄りに慰めを与えてお金をもらうという過程にはある種の需要と供給関係が成り立っているんじゃないだろうか。薄情な子供じゃなく可愛い後妻に金を絞り取られても本望だというのが故人の遺志なら、そのこと自体は誰に咎め立てされるようなことでもない、と思う。)

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【孤独のススメ】(6/10)

原題:【Matterhorn】
監督・脚本:ディーデリク・エビンゲ
出演:トン・カス、ルネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセン、他
製作国:オランダ
ひとこと感想:平凡な独身中年男の日常生活という地味な始まり方から、さる奇妙な男性との同居という意外な展開に加速度的に発展する、ちょっと独特なタッチのオランダ映画。ちなみに、実際は全然孤独をススメておらず、孤独が好きだと自分にも他人にも言い聞かせながら本当はそうじゃなかったってオチ。しみじみ味があり、一見地味でも中身はリベラルで過激なオランダのイメージを彷彿とさせるような一本だった。

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【この世界の片隅に】(10/10)

監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代
声の出演:のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作が大ヒットして本当に心から嬉しい。既にご存じの方も多いかと思うけれど、本作は、戦争が時代背景ではあっても、あくまでも主人公のすずさんの日常の生活を淡々と描くことに主眼を置いた作品である。実際は大変エグいことも次々起こっていて、後からよくよく考えるとじんわり刺さってくるけれど、例えば【火垂るの墓】みたいな脳天をかち割られるような激しい衝撃を受けることは少なく、観終わった後はほっこりと暖かく、拍子抜けするほどの穏やかな印象が残る。これは、登場人物の人達が、その奥ゆかしく柔らかくも強靱な意志により、辛い時代の中でもあくまでも普通の暮らしを貫こうとしていた姿が描かれているからではないかと思われた。(ただ、【火垂るの墓】みたいな作品があればこそ本作のような作品も成立しうるのかもしれず、無論どちらが優れているとかいった話ではない。)
また本作は、知らない家にお嫁に来た少女が、様々な経験を経て酸いも甘いも知った一人の女性に成長する中で、自分の居場所って何だろうと考え続け、“この世界の片隅に”居場所を見つける物語でもあるように思われた。そんなすずさんの成長を声で演じている能年玲奈さん(本名)は本当に素晴らしい。やはり彼女の才能は、同年代の数々の女優さんの中でも頭ひとつ抜けているのではないかと思われた。

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【最愛の子】(9/10)

原題:【親愛的(Dearest)】
監督:ピーター・チャン
脚本:チャン・ジー
出演:ホアン・ボー、ハオ・レイ、チャン・イー、ヴィッキー・チャオ、トン・ダーウェイ、他
製作国:中国/香港
ひとこと感想:ピーター・チャン監督といえば1990年代の【君さえいれば/金枝玉葉】【月夜の願い】【ラヴソング】などが懐かしいが、今も変わらずご健在のようで何よりだ。本作は、昔とは打って変わった作風の1本で、息子を攫われた父親がその行方を必死で捜すという物語。子供を攫われた主人公とその元妻だけでなく、その子供をもらい受けて我が子として育てていた女、同じような行方不明の子供達を探している親の会を主催する男性やその会の人々と、誰もが血の涙を流さんばかりに痛々しい。中国では、都会で攫われた子供が、跡取りの働き手がいない農村の一家に売り飛ばされるという誘拐事件が多発して、マジで社会問題化しているらしい(社会保障制度がなくて老後は子供に頼るしかないという事情もこの状況に拍車を掛けているらしい)のだが、これを単に社会派のドラマにするのではなく、血肉の通った人間同士のぶつかり合いのドラマとして描いているところが本作の素晴らしいところ。国や社会情勢は違っても、子供を愛し、狂おしいばかりに子供を探し求める親の気持ちに変わりはない。子供がいる人が見たら更に心を揺さぶられるんじゃないだろうか。

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【サウルの息子】(9/10)

原題:【Saul Fia】
監督・脚本:ネメシュ・ラースロー
共同脚本:クララ・ロワイエ
出演:ルーリグ・ゲーザ、他
製作国:ハンガリー
ひとこと感想:ナチスによるホロコーストで、当のユダヤ人から選抜されて死体処理の仕事をさせられ数ヵ月後に殺されるゾンダーコマンドという人々がいたという話は不勉強で知らなかったのだが、本作のネメシュ・ラースロー監督(【ニーチェの馬】のタル・ベーラ監督の元助監督なのだそうだ)は、このゾンダーコマンドたちが事実を記録してあちこちに埋めた手記を集めた本を読み、本作を企画したのだそうだ。(ナチスはユダヤ人を絶滅させた後、総ての証拠を隠滅してホロコーストの事実を歴史から消し去るつもりだったらしく、それを察知したゾンダーコマンド達があちこちに記録を埋めたのだそうだ。)ナチスのガス室の話は今までに見聞きしたことはあっても、ガス室に送り込まれる直前の状況や死刑場の状況を実写でここまで踏み込んで描いたものは見たことがなく、映像的には大分ぼやかしてはいても、悲鳴の聞こえ方が何ともリアルで、こんなにも恐ろしいものかと震撼とした。本作の主人公のゾンダーコマンドがユダヤ式の埋葬をしてやろうとした殺された少年は、本当の息子という訳ではなく、すべてのユダヤ人の子孫や未来の象徴らしいのだが、こんなささやかな思いすらナチスはどこまでも踏みにじろうとしていた。人間て何て恐ろしいことをするのだと改めてつきつけられてそれはもう真っ暗な気持ちにならざるを得なかったが、総ての人間性が徹底的に剥奪された極限状態でも、最後の尊厳を守り抜こうとするのもまた人間なのだと思うと、不思議な感銘を受けた。

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【聖の青春】(8/10)

監督:森義隆
脚本:向井康介
原作:大崎善生
出演:松山ケンイチ、東出昌大、リリー・フランキー、竹下景子、染谷将太、安田顕、北見敏之、柄本時生、筒井道隆、他
製作国:日本
ひとこと感想:持病のため29歳で早逝した村山聖棋士を描いたノンフィクションを映画化。一日でも長く将棋を指し続けたいなら、無頼を気取ってないでもっと節制した方が…と思わないじゃなかったが、どのみち長くは生きられないことを本人が一番よく分かっていればこそ、自分を燃やし尽くしてしまいたかったのかもしれない、と思い直した。村山棋士を演じた松山ケンイチさんは言うに及ばず、リリー・フランキーさんもヤスケンさんも、柄本時生くんも染谷将太くんも、羽生善治名人役の東出昌大さんも、それぞれタイプの異なった棋士さんたちにちゃんと見えるのが素晴らしい。(将棋雑誌の編集長役の筒井道隆さんもよかった。)役者さん達の熱演に対して少しおまけしておきたい。

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【真田十勇士】(5/10)

監督:堤幸彦
脚本:マキノノゾミ
出演:中村勘九郎、松坂桃李、大島優子、永山絢斗、加藤和樹、高橋光臣、石垣佑磨、加藤雅也、駿河太郎、松平健、大竹しのぶ、伊武雅刀、佐藤二朗、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作は舞台と連動した作品なんだそう。普通に見たらそれなりの娯楽作として受け止めることが出来たのかもしれないけれど、今年は大河ドラマの『真田丸』があったからなぁ……。昨今の大河ドラマの中でも、三谷幸喜さんの全作品の中でも、最高傑作の1つかもしれない『真田丸』と較べたら、申し訳ないけど見劣りするのは仕方がないじゃんか。本作は『真田丸』があったからこそ実現した企画なのかもしれないけど、正直やめといた方がよかったんじゃないかと思わざるをえない。

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【ザ・ビートルズ Eight Days A Week The Touring Years】(8/10)

原題:【The Beatles: Eight Days a Week - The Touring Years】
監督:ロン・ハワード
(ドキュメンタリー)
出演:ザ・ビートルズ、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:ツアーバンドとしてのビートルズに焦点を当て、デビュー前後から、ツアーを行わなくなった1967年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』辺りまでの活動を中心に紐解く。ビートルズには捨て曲がない。超有名な名曲と、知名度が少し下がる名曲があるだけだ。ビートルズというバンドの天才ぶりを改めて見せつけられて改めて驚愕したが、膨大すぎる資料映像からこの1本を削り出したロン・ハワード監督のオタクぶりも凄いと思った。最後は「ルーフトップ・コンサート」(1969年1月30日にビートルズがイギリス・ロンドンにある当時のアップル社の屋上で映画撮影のために行った最後のゲリラライヴ)で幕切れという構成にまた涙した。

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【彷徨える河】(5/10)

原題:【El abrazo de la serpiente】
監督・脚本:シーロ・ゲーラ
共同脚本:ジャック・トゥールモンド
出演:ヤン・ベイヴート、ブリオン・デイビス、他
製作国:コロンビア/ベネズエラ/アルゼンチン
ひとこと感想:コロンビアの俊英シーロ・ゲーラ監督が、実在した白人探検家の手記を元に描いた先住民族の記憶。でも、何とも不思議な話だ、という印象以外、詳しい筋書きなど全然覚えておらず、えずくようにぞわぞわするモノクロの異世界に連れて行かれた記憶しか残っていない……。

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【山河ノスタルジア】(6/10)

原題:【山河故人】
監督・脚本:ジャ・ジャンクー(賈樟柯)
出演:チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャン、他
製作国:中国/日本/フランス
ひとこと感想:1999年から15年後の2014年までの過去から、11年後の2025年の架空の未来という時間軸の中で、ダオラー(ダラー=$)と名付けられた息子が、拝金主義にじわじわ侵食され変質していく中国コミュニティの片隅で、故郷の姿や別れた母親の存在を見出すまでを描く。経済発展の波に揉まれて内面的に変質していく中国社会を活写し続けてきたジャ・ジャンクー監督。監督の映画を見始めて20年近くも経って、監督の描きたいものがようやく分かってきたような気がする。(遅い!)

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【幸せなひとりぼっち】(7/10)

原題:【En Man Som Heter Ove (A Man Called Ove)】
監督・脚本:ハンネス・ホルム
原作:フレドリック・バックマン
出演:ロルフ・ラスゴード、アイダ・エングヴォル、バハー・パール、他
製作国:スウェーデン
ひとこと感想:変わり者で人付き合いが下手で、一人で生きることに疲れた偏屈じいさんが、近所に越してきた陽気な移民系の一家との交流をきっかけに、人生の唯一の光であった愛する亡き妻との記憶を今一度思い起こすという物語。スウェーデン映画には人間観察が緻密な秀作が多いと改めて感じられる一編だった。

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【SHARING】(6/10)

監督・脚本:篠崎誠
共同脚本:酒井善三
出演:山田キヌヲ、樋井明日香、他
製作国:日本
ひとこと感想:3.11の記憶は共有できるのか。鑑賞中は引き込まれて見てたけど、説明しようとするとどうも難しい。主演の女性2人の理知的な美しさが作品に合っていたと思う。

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【シェル・コレクター】(5/10)

監督・脚本:坪田義史
共同脚本:澤井香織
原作:アンソニー・ドーア
出演:リリー・フランキー、寺島しのぶ、池松壮亮、橋本愛、他
製作国:日本/アメリカ
ひとこと感想:孤島に住む盲目の貝類学者の元に様々な人がやってきて起こる寓話的な物語。貝という何だかエロティックなモチーフに、よれよれのリリー・フランキーさんの怪しい風貌が加味されると、何だか独得な雰囲気が醸し出されるが、ストーリーが意図するところはあまりよく分からなかったかもしれない。加えて、こうした架空の設定の物語をただひたすら他人事として眺めているのは、いささか退屈に感じられたかもしれない。

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【シチズンフォー スノーデンの暴露】(9/10)

原題:【Citizenfour】
(ドキュメンタリー)
監督・出演:ローラ・ポイトラス
出演:エドワード・スノーデン、グレン・グリーンウォルド、他
製作国:アメリカ/ドイツ
ひとこと感想:アメリカ政府が国民を監視してると元CIA職員が暴露したスノーデン事件のドキュメンタリー。これ、よくあるドキュメンタリーのように事件を後追いで検証しているのではなく、秘密の暴露に協力してくれとエドワード・スノーデン本人から頼まれたジャーナリストとドキュメンタリー映画監督が、その暴露に協力しつつ、その過程を記録したという記録映画なのである。事件後、スノーデン氏はロシア暮らしを余儀なくされており、監督のローラ・ポイトラス氏は、以前にグアンタナモ収容所を題材にした映画を撮ってそもそも当局から目を付けられていたこともあって、現在はベルリン在住だという。(もう一人のジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏はもともとリオ・デ・ジャネイロ在住だったらしいが。)母国に帰国できなくなることすら覚悟の上で母国の不正を問い正そうとするような人々が現れるところが、アメリカという国の真の強さなのではないかと思う。

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【疾風ロンド】(3/10)

監督・脚本:吉田照幸
共同脚本:ハセベバクシンオー
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、大倉忠義、大島優子、ムロツヨシ、堀内敬子、戸次重幸、濱田龍臣、志尊淳、野間口徹、麻生祐未、生瀬勝久、望月歩、前田旺志郎、久保田紗友、鼓太郎、堀部圭亮、中村靖日、田中要次、菅原大吉、でんでん、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:何万人も殺せるような炭疽菌が流出、なんて事態になったら、普通の感性を持ってる科学者なら、自分達だけでなんとかしようとせずに真っ先に警察とかに駆け込むとかするんじゃないすかね。人命掛かってんだからさー、いくら自分の保身しか考えてないと言ったって、ヒドすぎるんじゃないですかね。これまでの阿部寛さんの出演作ってどれもある程度のクオリティがあって、ここまでハズしたと感じたものは今まで無かったんですけどね……。

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【ジムノペディに乱れる】(6/10)

監督・脚本:行定勲
共同脚本:堀泉杏
出演:板尾創路、芦那すみれ、岡村いずみ、他
製作国:日本
ひとこと感想:板尾創路さんがモテモテすぎて笑える!会う女会う女、みんな股広げて寄ってくるとか、さすがはロマンポルノ、男の夢が満載だ!でも、板尾さんからうらぶれた男の色気をここまで引き出してみせた行定勲監督は、やっぱりちょっと凄いかもしれないと思った。しかしね~、やっぱりジムノペディをこんなふうに使って欲しくはなかったわー。

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【ジャニス リトル・ガール・ブルー】(7/10)

原題:【Janis: Little Girl Blue】
監督:エイミー・バーグ
(ドキュメンタリー)
出演:ジャニス・ジョプリン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:主に1960年代に活躍したアメリカの不世出のボーカリスト、ジャニス・ジョプリンのドキュメンタリー。彼女のドキュメンタリーは、ハワード・オーク&シートン・フィンドレイ監督による【JANIS】(1974年)が1990年に日本で公開されたのを見た記憶があるが、かの作品の方が、彼女の抱えていた絶望的なほどの孤独感や切迫感が際立っていたような気がする。ただ、本作ではジャニスの実のきょうだい達なども登場し、ジャニス自身の手紙の文面、インタビュー映像などを多用して、彼女自身の肉声を通して彼女の姿が再構築されている部分は優れているように思った。どちらにしろ、ジャニス・ジョプリンはワン&オンリーな傑出した天才ボーカリストであったのだと再認識した。若い人こそ本作や【JANIS】を見て彼女のことを知って欲しいと思う。

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【十字架】(8/10)

監督・脚本:五十嵐匠
原作:重松清
出演:小出恵介、木村文乃、永瀬正敏、富田靖子、葉山奨之、小柴亮太、榎木孝明、他
製作国:日本
ひとこと感想:いじめ、ダメ。ゼッタイ。は当然だし、自殺は周りの人間に与えるダメージが大きすぎるのでどんな理由があろうとやっぱり避けてしかるべきだと思ったが、本作はそれだけのレベルに留まらず、いじめを受けた当人の死により傷を負った周りの人々がその傷とどのように向き合って克服していくのか、という部分まで丹念に追っているところが特筆すべきで素晴らしいと思った。今までの五十嵐匠監督の映画の中で個人的に一番心に響くテーマで、一番好きかもしれない。永瀬正敏さんは確実に、出演するだけで映画のランクを1つ押し上げる数少ない俳優さんの1人になったのだなぁとしみじみ実感。また、最近は妻役・母親役としてのご活躍が著しい富田靖子さんも、改めていいなと思った(もし機会があれば、博多華丸さん主演の福岡ローカルドラマ『めんたいぴりり』を是非見て欲しい)。壮絶ないじめを受けるシーンを体を張って演じた小柴亮太さん、よく頑張った!そして、大人時代はともかく中学時代まで演じさせられた小出恵介さんと木村文乃さんはちょっと気の毒だった……(その必然性は分かるけれども)。

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【14の夜】(7/10)

監督・脚本:足立紳
出演:犬飼直紀、青木柚、中島来星、河口瑛将、浅川梨奈、光石研、濱田マリ、門脇麦、和田正人、他
製作国:日本
ひとこと感想:【百円の恋】の脚本家の足立紳さんの監督デビュー作で、ある平凡な14歳男子が半径数km内のご近所で右往左往する一夜を描く。煩悩と怒りと訳の分からない衝動で鬱屈する男子中学生って、こればかりは女性作家には逆立ちしても描けない世界で、ある情景をこれだけ詳細に描写することができる監督さんであれば、これから何だって描くことができそうだなと思った。主演の犬飼直紀くんを始めとする若手キャストのナイーブさが素晴らしかった。

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【ジュリエッタ】(7/10)

原題:【Julieta】
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:アリス・マンロー
出演:エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ、インマ・クエスタ、ダリオ・グランディネッティ、ロッシ・デ・パルマ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:他に女がいた夫との間に不可抗力的にいざこざが起こってしまった女性。その後、子供に対してちょっと過干渉気味になってしまったところはあったかもしれないけど、それを当の子供本人から丸々全部悪い方に取られてしまうとなると……。不幸な誤解や偶然が重なった結果、子供と行き違って失踪までされてしまうなんて、親世代から見たら完全にホラー映画。でも長い苦悩の日々が最後にちょっとだけ報われてほっとした。アルモドバル監督作にしては少しおとなしい印象もあったけれど、あからさまな悪意で不幸を巻き起こすロッシ・デ・パルマ先生(アルモドバル作品ではお馴染み)のインパクトが、映画にアクセントを添えていた。

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【将軍様、あなたのために映画を撮ります】(6/10)

原題:【The Lovers and the Despot】
監督:ロス・アダム、 ロバート・カンナン
(ドキュメンタリー)
出演:申相玉(シン・サンオク)、崔銀姫(チェ・ウニ)、金正日、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:北朝鮮の金正恩の先代の金正日は映画好きで有名で、その命令により、韓国の申相玉(シン・サンオク)監督とその元妻で女優の崔銀姫(チェ・ウニ)さんが1978年から8年間拉致されていた、というのは有名な実話。(ちなみに私は、申相玉監督が作った北朝鮮版ゴジラ【プルガサリ】が日本で劇場公開されていた時に見に行ったことがある。)本作ではその全貌を詳しく解説している。今まで二人が離婚した理由がよく分からず、今回、監督が他の女と浮気して子供まで作っていたと聞いて納得したのだが、まぁそれが一番重要な話という訳ではない。こういう映画はもっと欧米の人にせっせと見てもらって、北朝鮮がどういう国かということの一端を知ってもらいたいと思う。

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【少女】(5/10)

監督・脚本:三島有紀子
共同脚本:松井香奈
原作:湊かなえ
出演:本田翼、山本美月、佐藤玲、真剣佑、児嶋一哉(アンジャッシュ)、稲垣吾郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:小説家志望の少女と、かつての試合での失敗がトラウマになっている元剣道部の少女が、死の概念に取り憑かれる物語。しかし、ひとつひとつのシーンには強さがあるのに、それぞれがバラバラで繋がらず、トータルとしてはバランスが取れていない感じ。特に、主人公の2人の少女達の心の振れ幅が、表面上はそれなりに平穏に平凡に暮らしている日常生活に落とし込めておらず、うまく表現できていなかったように思えた。アンジャッシュの児嶋さんや稲垣吾郎さんなどがせっかく脇で印象的ないい演技をしてくれているのに勿体ない。主人公達のそもそもの演技力の問題もあるだろうけれど、もっと演出や編集で調整するような余地も多少はあったのではなかろうか。しかしそもそも、今時PCや携帯を使わずに文章を書くとかあるかなぁ?百歩譲って原稿用紙に手書きするとしても、そんな大切なものをコピーも取らずに不用意に持ち歩くとかあり得る?私にはあんまり理解できないんだけれど。

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【ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年】(7/10)

監督:阪本順治
出演:辰吉丈一郎、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:同じ阪本順治監督の【BOXER JOE】から約20年。阪本監督が辰吉丈一郎さんを追いかけ続けていたことにまずびっくりした。未だに現役を続けている辰吉さんは、辞める理由が分からない、引退しなきゃならない根拠が見当たらない と言うけれど、確かに辞めるかどうかは人に言われることではなく、自分にしか決められないことで、自分でその理由を見つけられないのなら続けるより仕方ないのかもしれない。子供に夢を託したら可哀想という発言もしていたけれど、確かに子供の人生は子供のもので、自分の人生の代わりにはなりようがない。誰のものでもない自分の人生なんだから、自分が大切に思う人以外の誰が後ろ指を指そうが関係ないし、ゴールは自分で見つけるしかない。自分の夢がまだ潰(つい)えないのなら、気が済むまでとことんやってみるしかないのではないだろうか。私程度の人間が言うのは非常におこがましいが、自問自答を繰り返して結局やめられない辰吉さんの姿に、勝手にえも言われぬシンパシーを感じてしまった。最近、現役を長く続けるアスリートが増えているのも、似たような理由からなのではないだろうか。

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【シリア・モナムール】(9/10)

原題:【Eau Argentee, Syrie Autoportrait (Silvered Water, Syria Self-Portrait)】
監督:オサーマ・モハンメド、ウィアーム・シマブ・ベデルカーン
(ドキュメンタリー)
製作国:シリア/フランス
ひとこと感想:パリに亡命した映像作家の男性と、シリアで暮らし続け故郷の悲惨な状況を映像作家に送り続ける女性。崩れ落ち行く世界の中で、映画だけが二人を“人間であること”につなぎ止める。この世の全ての矛盾を目の当たりにしているみたいな映像の洪水に、見ていて本当に芯から疲れを感じた。映画としての完成度はともかく、同時代の当事者の撮った映像をこの場で構成して作品として世に問うということの圧倒的な重みを感じた。公式ホームページの紹介記事ほど上手くは書けないが、こちらにも感想を書いたのでよかったら読んでみて下さい。

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【蜃気楼の舟】(4/10)

監督・脚本:竹馬靖具
出演:小水たいが、田中泯、小野絢子、足立智充、竹厚綾、他
製作国:日本
ひとこと感想:田中泯様が出ていたので見に行ってしまった。行き場のない老人達を集めて劣悪な環境に押し込み生活保護費をピンハネする「囲い屋」の若者が、ある日、集めてきた老人達の中に父親を発見する。でも父親は“ここじゃない”的なことをつぶやき続けるだけ。タイトルは、どこに漂流して行くか分からない、というモチーフのようだけど、全編、自分の内面に向かってぶつぶつ言い続けるだけのモノローグ系雰囲気押しの展開は、見続けるのはいささかしんどかった。社会派な側面がある映画なのかと勝手に期待した私が悪いのだけれども。

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【シン・ゴジラ】(10/10)

総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
准監督・特技統括:尾上克郎
出演:長谷川博己、石原さとみ、竹野内豊、大杉漣、柄本明、高良健吾、市川実日子、國村隼、ピエール瀧、余貴美子、平泉成、矢島健一、浜田晃、手塚とおる、古田新太、モロ師岡、渡辺哲、諏訪太朗、光石研、藤木孝、嶋田久作、津田寛治、高橋一生、神尾佑、野間口徹、松尾諭、塚本晋也、原一男、犬童一心、緒方明、斎藤工、前田敦子、森廉、鶴見辰吾、片桐はいり、松尾スズキ、川瀬陽太、中村育二、小出恵介、三浦貴大、KREVA、橋本じゅん、他
出演(モーションキャプチャー): 野村萬斎
製作国:日本
ひとこと感想:最初、一瞬、官僚や自衛隊や一部の政治家ばかりをかっこよく描きすぎでは?と思ったけれど、現在の日本に実際にゴジラのような災厄が現れたとしたら自衛隊以外に対処できる機関はなく、その自衛隊を制御できるのは政治家や政府だけなのだから、こういうストーリー展開になるのはある意味当然の帰結なのだろう。
主役の矢口蘭堂みたいな人物は、人間性はどうでも、やることをちゃんとやってくれる人がいればいいな、という理想像なのだと思う。実際、官僚などには、鼻持ちならない人間性と崇高な使命感が奇妙に同居している人が少なくないという印象がある。(自分が知っている範囲内のごく少ないサンプル数で、しかも全員がそんなではありません。どうもすいません。)
会議のシーンが多いのは、多くの方のご指摘の通り、日本で実際に物事を動かそうとしたら、一見無意味にも見える無数の会議が欠かせないということの正しい描写なのだと思われ、ある意味正しい日本文化批評なのだと思う。でも、そのような過程を経て、それぞれの人がそれぞれの持ち場で努力して、実際にありそうな手順を踏み、実際に何とか実施できそうな幾多の仕事を積み重ねることでゴジラを倒すからこそ、仕事をすることで日本社会に関わった経験がある人間にとって胸熱なのだと思う。
本作は、初代ゴジラに匹敵すると言っていい邦画最高峰のディザスター・ムービーであり、いろいろな見方を許容してくれる映画だと思うが、このような理由で“究極のお仕事映画”でもあるのではないかと思った。
328人全員のキャストを併記しているのが嬉しかった。そして329人目がゴジラ役の野村萬斎さん。いいね!そういうの大好きだよ!

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【神聖なる一族 24人の娘たち】(6/10)

原題:【Небесные жёны луговых мари (Nebesnye Zheny Lugovykh Mari) (Celestial Wives of the Meadow Mari)】
監督:アレクセイ・フェドルチェンコ
脚本:デニス・オソーキン
出演:ユーリア・アウグ、ヤーナ・エシポヴィッチ、他
製作国:ロシア
ひとこと感想:ロシア国内西部のボルガ川流域に、マリ・エル共和国という500年にわたって独自の言語と文化を守り続けてきた自治共和国があるんだそうで、本作はその地域の説話をモチーフに24人の女性を描いた牧歌的な物語。彼らの自然崇拝に近い思考形態は、キリスト教文化圏のヨーロッパでは珍しいものなのかもしれないが、日本人には割と近しいと感じられるかもしれない。みんな普通に夫とかパートナーとかいる中で普通に日常生活を送っているのだが、衣食住は昔ながらのライフスタイルに近い感じで、二昔くらい前までのローカルなテイストのヨーロッパ映画が思い出され、なんか懐かしい気持ちになった。グローバル化という名の均質化に飲み込まれつつある世界の中で、この暖かさを持ち続けてくれると嬉しいな、などと勝手なことを思ってしまった。

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【人生の約束】(5/10)

監督:石橋冠
脚本:吉本昌弘
出演:竹野内豊、江口洋介、西田敏行、髙橋ひかる、松坂桃李、優香、小池栄子、美保純、市川実日子、立川志の輔、室井滋、柄本明、ビートたけし、他
製作国:日本
ひとこと感想:『冬物語』『池中玄太80キロ』『外科医 有森冴子』といった名作ドラマを手掛けてきた演出家・石橋冠氏の映画監督デビュー作。しかし、都会の金儲けの鬼が田舎の人情に触れて自分の過去と向き合うとか、あまりにもありがちなのでは……。他にも、その場で主張しとくべきことを言わない感覚とか、自己憐憫の駄文を連ねる感覚とか、理解できないことばかり。そもそも、寂れた田舎と言いながら全然そんな感じがしないところとか、お祭りの主役を簡単に譲ってしまうところとか、私のような田舎者の感覚からすれば無いわーという感じ。この方、東京の出身なんじゃないかと思ったら当たってた。昔、アメリカ時代のルイ・マル監督が作った漁村の映画を思い出した。(多分【アラモベイ】という作品だ。)ルイ・マル監督は敬愛する映画監督の一人なのだが、残念ながらこの映画には潮の臭いがしなかった。

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【人生は小説よりも奇なり】(6/10)

原題:【Love Is Strange】
監督・脚本:アイラ・サックス
共同脚本:マウリツィオ・ザカリアス
出演:ジョン・リスゴー、アルフレッド・モリーナ、マリサ・トメイ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:長年同棲していた同性愛カップルがついに結婚したけれど、職場をクビになったり、家賃も払えなくなって別々に居候の身になったりする中、改めて自分達の人生を噛み締める、という話。しかし、終盤は割と予期せぬ方向へ。それでも、彼等の育んできた愛なるものは、形を変えてもどこかに受け継がれていく。ということでいいだろうか。

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【SCOOP!】(7/10)

監督・脚本:大根仁
原作:【盗写 1/250秒】(監督・脚本:原田眞人)
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー、他
製作国:日本
ひとこと感想:芸能スキャンダルから社会事件まで様々なネタを追いかける写真週刊誌カメラマンや記者たちの姿を、1985年に製作された原田眞人監督・脚本の映画「盗写 1/250秒」を原作に描いた本作。(そんな作品あったっけ?と思ったが、テレビ用の映画でソフト化もされていないみたいだ。)大根仁監督って現代社会のゲスい部分を題材にするのが本当に上手い。芸能マスコミが社会に必要な職業かどうかは常々疑問に思っているところだけど、この映画で描いている通り、彼等が狙っているスキャンダルより、彼等自身の生態の方がよほど興味深いかもしれない。お話自体は、少しクサさを感じさせるところもあって、そりゃないよーと思った展開も若干あったけれど(特に終盤)、主演の福山雅治さんを始めとして、二階堂ふみさん、吉田羊さん、滝藤賢一さんなどあきれるほど上手い人ばかりの演技の共演に目が離せなかった。中でも元ボクサーのジャンキーという役のリリー・フランキーさんの凄まじい存在感は出色で、これだけ出る映画出る映画名演ばかりなら、もう本職が俳優だと名乗ればいいんじゃなかろうか。福山雅治さんも、今回少しダーティな役柄だったけど、固定化されたイメージを破ろうとそれぞれの出演作で毎回踏み込んだチャレンジを続ける、その姿勢が偉いと思った。

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【スティーブ・ジョブズ】(6/10)

原題:【Steve Jobs】
監督:ダニー・ボイル
脚本:アーロン・ソーキン
原案:ウォルター・アイザックソン
出演:マイケル・ファスベンダー、ケイト・ウィンスレット、セス・ローゲン、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・スタールバーグ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アップル社の歴史上重要だった3回の新作発表会の直前の様子、という脚本は斬新だけど、バイオグラフィを懇切丁寧に描いたタイプの映画とは違うので、少なくとも、スティーブ・ウォズニアックはジョブズと一緒にアップル社を立ち上げた元盟友で、ジョン・スカリーはジョブズがアップル社に引き抜いた元ペプシの幹部でジョブズをアップル社から追放した張本人だ、ということくらいは知っていないとちんぷんかんぷんなのではなかろうか。(欧米ではその辺りも常識の範疇なのかもしれないが。)しかし、スティーブ・ジョブズは度を超えた完璧主義者で変人だとはさんざん聞いていたけれど、元カノとの間の娘との関係だけを見てみると、子供を作るだけ作っておいて認知もせず教育費も払おうとしないなんて、聞きしに勝るクソ野郎だ。後に結婚した人との家庭は普通に穏やかなものだったと聞くけれど。

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【スポットライト 世紀のスクープ】(9/10)

原題:【Spotlight】
監督 脚本:トム・マッカーシー
共同脚本:ジョシュ・シンガー
出演:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:カトリック教会内に少年少女達への性的虐待の問題が恒常的に存在していると聞き及ぶことはそれまでにもあったけれど、キリスト教圏において社会の屋台骨を揺るがしかねないこうしたとんでもないスキャンダルが実際に大々的に報道されて明るみに出たという何年前かのニュースは、ちょっと衝撃的だった。社会の隅々に凄まじい圧力が張り巡らされている中で取材を進めるのに、絶望的なまでの困難や葛藤が立ちはだかったのは想像に難くないが、子供の頃に被害に遭って苦しみ続けている人々を思い、様々なプレッシャーと戦いに戦って、これをスクープした新聞社の人々の気骨が凄い。その過程が早速映画化されるという素早さもさすがアメリカならでは。この映画には、アメリカの最も醜い部分と戦った、アメリカの最も誇るべき部分が描かれていると思った。

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【聖杯たちの騎士】(5/10)

原題:【Knight of Cups】
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマン、イザベル・ルーカス、テリーサ・パーマー、フリーダ・ピント、イモージェン・プーツ、ブライアン・デネヒー、アントニオ・バンデラス、ウェス・ベントリー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:薄っぺらい享楽的生活を送るハリウッドセレブの脚本家と6人の美しい女性達。……しかしこの頃既に某アニメに頭をやられていて、LoveとLifeを20年間ほったらかしにしてきた某リビングレジェンドの女性遍歴もちょっとこんなだったかも、ということにしか興味が湧かなくて、どうもすいません……(いやいや、リビングレジェンドの方がもっと本業一筋だったと思うけど)。

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【世界から猫が消えたなら】(4/10)

監督:永井聡
脚本:岡田惠和
原作:川村元気
出演:佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、奥田瑛二、原田美枝子、他
製作国:日本
ひとこと感想:脳腫瘍で死にかけている?主人公の元に悪魔?がやって来て、寿命を1日ずつ延ばすのと引き替えに主人公の大切なものを1つずつ消していく?という設定自体にどうして???という疑問ばかりが山のように湧いてきて、端から全然ついて行けなかった。そもそも、いきなり脳腫瘍で死ぬとか設定がベタすぎない?また、悪魔か何か知らないが、何十億人という人間がいる中からある特定の個人のところにやってきてその記憶を細かくポチポチいじるほどヒマだなんて物理的にありえなくない?更に、どうせ死にゆく運命なら、他の大切なものを犠牲にしてまで往生際悪く1日2日寿命を延ばしたってしょうがなくない?……物語の入口からこういう反応だったということは、そもそも自分はこの映画の観客としてふさわしくなかったということなのだろう。大体、最近すっかりババアになってしまって、体がSF的な設定を受け付けないんだよね。しかし、どうしてもSFを作りたいなら、思いつきでささっと取って出しするんじゃなくて、もっと死ぬほど考えに考えて観客を華麗に騙してくれないとさ~。

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【セトウツミ】(8/10)

監督・脚本:大森立嗣
共同脚本:宮崎大
原作:此元和津也
出演:池松壮亮、菅田将暉、他
製作国:日本
ひとこと感想:舞台はほぼ大阪のとある下町の川沿いの一画というワン・シチュエーションのみで(時々インサート映像が入るけど)、菅田将暉さんと池松壮亮さんの二人が延々と駄話を繰り広げるだけの会話劇。それが滅茶苦茶面白いってどういうこと?どうやらバディものに長けているらしい大森立嗣監督が手掛け、若手の俳優さんの中でも屈指の実力派のお二人が演じたからこそ可能だったという面はあるにせよ、たったこれだけのセッティングで映画って成立し得るんだよ!凄い凄い!この事実を日本映画界はもっと真剣に受け止めた方がいい。そして、この二人に窪田正孝さんを混ぜて是非何か作って欲しいと真剣に願わざるを得なかった(染谷将太さんや二階堂ふみさんなどを入れても可)。

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【千年医師物語 ペルシアの彼方へ】(5/10)

原題:【The Physician】
監督:フィリップ・シュテルツェル
脚本:ヤン・ベルガー
原作:ノア・ゴードン
出演:トム・ペイン、ベン・キングズレー、ステラン・スカルスガルド、オリヴィエ・マルティネス、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:原作は、11世紀に医学を志してイギリスからペルシアへ渡った青年の冒険を描いたベストセラーらしい。中世のヨーロッパはキリスト教の支配のため科学は全然進歩しなくて(神が行う奇跡以外は全て悪魔の技とみなされがちだったから)、当時はイスラム世界が科学の最先端を担っていたというのは昔教科書でも習ったっけ。おぉこのネタがあったか!という盛り上がりは感じたんだけど、いかにも西洋世界から見た解釈という雰囲気で、早々に興味が萎んでしまった……。こういうネタを、西洋世界の視点にもイスラム世界の視点にも偏りすぎない、純粋に中立的な視点で描けるようになるのは何時のことなんだろうね。

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【園子温という生きもの】(8/10)

監督:大島新
(ドキュメンタリー)
出演:園子温、神楽坂恵(園いづみ)、染谷将太、二階堂ふみ、田野邉尚人、安岡卓治、エリイ(Chim↑Pom)、他
製作国:日本
ひとこと感想:大島渚監督の息子さんのドキュメンタリー作家、大島新監督による園子温監督についてのドキュメンタリー。私はかつて、自意識と強烈な表現欲求と承認欲求のカタマリみたいだった園子温監督が本当に好きじゃなかったのだが、田舎に生まれて、親との関係を含めいろいろなことと折り合いがつけられなかったという監督が、表現活動の中に救いを見出していた過程を丁寧に追っているのを見ていると、監督のことを嫌いだったのは同族嫌悪みたいなものだったのかもしれないということがよく分かってきた。監督の奥さんである神楽坂恵さんによると、監督は表現に関する能力以外の能力をすべて置き去りにして表現活動に特化して生きているのだそうだが、今の世の中でそういった生き方を続け、原初的なエネルギーを変わらずに持ち続けるというのはなかなか難しく、監督の存在は類い希なるレアケースなのかも知れない。(そういう人が身の回りにいたら自分は嫌かもしれないが。)こんな監督を全面的に受け入れて支えている神楽坂さんはスゲー。監督、いい奥さんと結婚できてよかったね。神楽坂さん以上の理解者はこの世にいないかもしれないので、大事にしてあげてくださいね。ということで、表現なるものについて思うところがある人は、園子温監督のことを好きでも嫌いでもこの映画を見てみて、表現する魂の歪さについて考えてみるのもいいかもしれない。

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【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】(7/10)

原題:【Song of the Sea】
監督:トム・ムーア
脚本:ウィル・コリンズ
(アニメーション)
製作国:アイルランド/ルクセンブルク/ベルギー/フランス/デンマーク
ひとこと感想:意匠だけ見ればすっげぇポニョ。そして湯婆婆にネコバス。これはジブリの影響を受けてないとは言い難いレベルだろう。でもそれは表面上の表現についてのことで、この映画の核はあくまで石と妖精が棲む純然たるケルト的神話世界だったりする。
海中ではアザラシとして生活し、地上では毛皮を脱いで人間として生活する妖精セルキー。アイルランドには様々なセルキー伝説があるとのことだが、毛皮を隠されて結婚するなど、日本の天の羽衣伝説にも少し似ている。しばらく見ていると独特の絵柄にも慣れてその美しさを堪能できるようになるし、音楽を担当しているのが有名なアイリッシュバンドのKiLA(キーラ)で、その相乗効果で更にアイリッシュ的エッセンスにどっぷり浸れる。どこを切ってもアイリッシュ。うぉーーー !!! 今すぐアイルランドに行きたくなったぜーーー!

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【ソング・オブ・ラホール】(5/10)

原題:【Song of Lahore】
監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
(ドキュメンタリー)
出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブルの皆さん、ウィントン・マルサリス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:パキスタンのラホールという文化都市で、イスラム化の波やタリバンの台頭による映画産業の衰退と共に仕事をなくした音楽家達が、伝統音楽の継承・再生のために“サッチャル・ジャズ・アンサンブル”という古典楽器を使ったジャズ・バンドを結成。「テイク・ファイヴ」をカバーしたPVがネットで評判になり、イギリスのBBCで取り上げられたことをきっかけに、ニューヨークに渡り世界的ミュージシャンとの共演を果たす。本作はその過程を描いたドキュメンタリーだ。アメリカで製作されているせいか(監督の1人はパキスタン出身の女性だが欧米在住のようだ)、映画は分かりやすいサクセスストーリーとしてまとめられようとされているように思われるが、残念ながら彼等を取り巻く困難な状況はそんなに簡単に解消されるようなものではないだろう。それでも、彼等の音楽を聴いていると、私達は同じものを美しいと思える感性を共有しているのだと信じることが出来る。だから、私達を取り巻く壁もいつかは取り払うことが出来るはずだ、と信じたいと思う。

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【太陽】(3/10)

監督・脚本:入江悠
原作・共同脚本:前川知大(劇団イキウメ)
出演:神木隆之介、門脇麦、古舘寛治、古川雄輝、村上淳、中村優子、森口瑤子、鶴見辰吾、水田航生、他
製作国:日本
ひとこと感想:そもそも舞台の映画化って難しいんだよね。舞台でなら勢いと生の迫力で押し切れるようなちょっとした矛盾を孕んだ場面でも、映像では整合性や説明が求められてしまうし、セットも場面転換も受け取り方が変わってしまうから、全部再構成が必要。それに加えて、SF的な設定というのはよっぽどきちんと作ってくれないと、手の内が透けて見えちゃうというか、その世界観に入り込めないのよ~。しかるに本作は、旧人類と太陽に弱い新人類の間の差別という設定にしろ、様々な登場人物の行動にしろ、いちいち説明が足りなさすぎて何だかな。それらに加えて、主人公がただ喚いてるだけで自分からはほぼ何も行動できていないから、白けてしまう。キャストがいいだけに勿体ないし、何でもかんでも映画化すりゃいいってもんじゃないのよと、今一度強く訴えたいと思った。

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【太陽の蓋】(6/10)

監督:佐藤太
脚本:長谷川隆
出演:北村有起哉、袴田吉彦、大西信満、中村ゆり、郭智博、神尾佑、青山草太、菅原大吉、三田村邦彦、他
製作国:日本
ひとこと感想:福島の原発事故が起こった当時、確か東電は、メルトダウンはないって言い続けてたよね?でも今はあらゆる証拠からメルトダウンが起こっていたことが確定しているんだけど。それ以来、東電は政府に対しても国民に対しても情報を隠蔽し続けているとしか思えないし、東電と結びついたどこかの勢力が、当時の政府が悪いと世論を仕向けるような工作を山ほどやっていて、御しやすい今の政府を担いでいるだけなんじゃないかと疑われてならないのだが。福島の原発の話は、いろいろな人がいろいろな思惑からいろいろなことを言っていて、私のように頭が悪く情報収集力に乏しい人間には、何が本当のことなのかさっぱり分からないし、真実に近づくことが出来ない隔靴掻痒的なストレスが常につきまとっている。そんな中、本作は、今分かっていることの中から、当時の政府の人・東電の現場の社員を含む福島の人・都会の人などの様々な人々が考えていたことを立体的に描き出そうと努力した労作なのだと思う。
ただ分かるのは、マスコミはあまり頼りにならないということと、人類は原発を安全に御して子孫にも負担を残さないような能力を持っていないということだけだ。その技術を確立するためにあまりにリスキーな実験を続けるうちに国土が滅びてしまう可能性の方がずっと高く、失敗したからってその土地を放棄して他所で生活すればいいと言えるような土地の広さがない日本で、原子力発電を続けるのはナンセンスだ。それでも原発を続けたいと思っている人々は、その火の粉が自分や自分に関わる人々に降りかかる可能性を想像する能力をどうして持つことができないのか。私には全然理解できない。

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【太陽のめざめ】(6/10)

原題:【La tete haute (Standing tall)】
監督・脚本:エマニュエル・ベルコ
共同脚本:マルシア・ロマーノ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、他
製作国:フランス
ひとこと感想:不良少年の更正をサポートし続ける人々を描いたフランス映画。ナイフみたいに尖ってるけどナイーブが過ぎる主人公の少年に対し、残念だけど親は選べねぇんだよ!寂しさを言い訳にしてないで早く大人になんなよ!とちょっとイラっとしたが、きっとそう思いながらも温かく見守り続ける彼の周りの大人達の優しさが美しい。そんな大人達の一人の判事役としてご出演のカトリーヌ・ドヌーヴ様、いくつになっても変わらない容姿も、一貫してブレない演技への姿勢も麗しい。

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【台湾新電影(ニューシネマ)時代】(8/10)

原題:【光陰的故事 - 台湾新電影 Flowers of Taipei: Taiwan New Cinema】
監督:シエ・チンリン(謝慶鈴)
出演:ホウ・シャオシェン(侯孝賢)、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)、ジャ・ジャンク―(賈樟柯)、黒沢清、是枝裕和、浅野忠信、佐藤忠男、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ワン・ビン(王兵)、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)、アイ・ウェイウェイ(艾未未)、他
(ドキュメンタリー)
製作国:台湾
ひとこと感想:タイトルの通り、台湾のニューシネマの流れを追ったドキュメンタリー。ホウ・シャオシェン監督やエドワード・ヤン監督らが築き上げた映画史の一時代をほぼ同時代に経験できたのはラッキーだったなぁ。そして本人の言う通り、ツァイ・ミンリャン監督は、よく言えばアート寄り、悪く言えば観客の存在を意に介していないかのような映画を創るという意味で、この中でもやっぱりちょっと異質で浮いている存在なのだと確信した。

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【ダゲレオタイプの女】(4/10)

原題:【La femme de la plaque argentique】
監督・脚本:黒沢清
出演:ハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリック、他
製作国:フランス/ベルギー/日本
ひとこと感想:黒沢清監督が初めてフランスで撮った映画ということでちょっと期待していたのだが、今一つピンと来なかったような。ていうか、他のテーマもあっただろうに、どうして幽霊の話を選んじゃったのか。幽霊が恐いのは、文化的な文脈が結構重要なんじゃないかという気がするのだが、日本人である黒沢監督にはフランスの幽霊は描けないし、その必要もないんじゃないのか。日本人の私達にとって【回路】が描いた幽霊は最もリアルで最恐だったけど、この映画の幽霊は凡百にしか見えないような気がする。

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【だれかの木琴】(3/10)

監督・脚本:東陽一
原作:井上荒野
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信、他
製作国:日本
ひとこと感想:あまり予備知識なく見に行ってしまい、ストーカーの話と知って、しまったー !! 失敗したー !! と思った。何なの?あの公式サイトの惹句?「心の奥底に抱える孤独を解き放つ」?「魂の美しき共鳴」?「女と男の間に揺れ動くエロス感覚を、サスペンスフルに、また大胆に描いた」?考えてみれば冒頭辺り、美しい暇そうな奥様が真っ昼間からオサレなカフェーで優雅に赤ワインなどお飲みになっているシーンからして、どーうも違和感を感じたのよ。この映画の製作サイドは、美しい女性のやることなら可愛いから何でも許されるとでも思ってるんじゃないか?いえいえ、許されませんから!ストーキングは自分の欲望のために相手の意志を無視する悪質な行為ですから !! 男女逆って思ってみ?一発アウトだって分かるでしょ?それでも百歩譲って、ストーキングをテーマにしても描きようによっては人間の深淵を描くことができるのかもしれないとしても、この映画にはどうもそういうエッジはない。申し訳ないけども今の時代に、ここまで考えなしなのは無理ですから!

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【誰のせいでもない】(5/10)

原題:【Every Thing Will Be Fine】
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ビョルン・オラフ・ヨハンセン
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール、レイチェル・マクアダムス、マリ・ジョゼ・クローズ、他
製作国:ドイツ/カナダ/フランス/スウェーデン/ノルウェー
ひとこと感想:不可抗力の事故で見ず知らずの子供を死なせてしまい、自責の念から立ち直るのに何年も掛かった作家を主人公にした話。ヴェンダース監督は何でこんなふうなお話を作ろうと思ったのかなー。理由はどうあれ、煮詰まる作家の話というのは、個人的に世界一どうでもいいテーマの1つで、ちょっとお腹いっぱいかもしれなくて、申し訳ないけれどあまり画面を直視したい気持ちになれなかった。

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【断食芸人】(6/10)

監督・脚本:足立正生
原作:フランツ・カフカ
出演:山本浩司、他
製作国:日本
ひとこと感想:何者でもない者の周りに人々が集まり、お祭り騒ぎが展開して、ブームが過ぎ去れば忘れ去られる。“長期海外出張中”だった足立正生監督が、現代の社会の病根をポップとかポピュラリティとかポピュリズムという切り口で解釈すると、こういうふうになるらしい。監督には今の日本の姿はいろいろと奇異に映ることもあるのだろうが、そうしたことを表現するための出典にカフカを取るという辺りに、昔のインテリの教養の地力は凄いなーと感心した。少なくとも個人的には、今までの足立正生監督作品の中で一番分かりやすかったし、これはこれで面白いと感じられた。ただ、昔のアングラ全盛時代の表現者の悪い癖で、なんでもかんでも不用意に強姦シーンを入れたがるのは本当に何とか是正して戴けないかと思うのだが。

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【団地】(6/10)

監督・脚本:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工、冨浦智嗣、竹内都子、濱田マリ、原田麻由、滝裕可里、宅間孝行、小笠原弘晃、三浦誠己、麿赤児、他
製作国:日本
ひとこと感想:団地映画というと【みなさん、さようなら】【ピカ☆ンチ】【中学生円山】【ふがいない僕は空を見た】etc.、ホラーでは【仄暗い水の底から】や【クロユリ団地】、ロマンポルノの団地妻もの、海外でも【アタック・ザ・ブロック】など、考えてみるとかなりの数の映画が存在し、今年の【海よりもまだ深く】も団地が舞台だったりする。確かに団地ってちょっと特殊な空間で、人間の想像力に訴えかける特異な何かがあるのかもしれない。けれど、現在進行形で団地住まいをしている身分としては、そこにノスタルジーやファンタジーを感じたりなどはしないから、その辺りがそもそも阪本順治監督と見方が著しく異なっていたのかもしれない。序盤の印象から、本作は団地内の小さなコミュニティを舞台に人間の機微を描くような話なのかと思っていたら、いきなり理解不能なSF的展開になってしまい、明後日の方向にぶっ飛んでいってしまって唖然。う~んアヴァンギャルド(古)。阪本監督、攻めすぎじゃね?阪本監督が何故このようなお話を書いたのか、その意味も面白さも、結局のところ私にはよく分からなかった……。

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【チェブラーシカ 動物園へ行く】(5/10)

監督・脚本:中村誠
原作・脚本:エドゥアルド・ウスペンスキー
脚本:ミハイル・アルダーシン
(アニメーション)
声の出演:折笠富美子、土田大、他
製作国:日本
ひとこと感想:『チェブラーシカ』の完全新作が日本製というのは何ともシュールだなー。とは言え、わざわざ原作者に脚本を書いてもらい、しかもロシア語版もちゃんと製作してるのは偉い。でも、現在の日本人にウケる表現に若干シフトしているところがあって、ちょっと明るすぎて憂いがない感じに多少違和感を覚える。やっぱりチェブのエッセンスって哀愁だと思うのだが。とはいえ、長年アニメのシリーズを続けていると表現が変わっていったりするのはよく見られる現象だから、例え今本国でチェブが創られたとしても、昔と同じようなものにはならない可能性が大きいのではないかとは思うのだが……。

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【ちえりとチェリー】(5/10)

監督・脚本:中村誠
共同脚本:島田満
(アニメーション)
声の出演:高森奈津美、星野源、尾野真千子、栗田貫一、田中敦子、伊達みきお(サンドウィッチマン)、富澤たけし(サンドウィッチマン)、他
製作国:日本
ひとこと感想:【チェブラーシカ 動物園へ行く】の中村誠監督による併映作品。ヒロインがいくら成長途中のキャラなのだとは言え共感できる要素が少なすぎ、“溜め”と“しな(科)”のあるアニメ声の発声もどうしても好きになれず、もっといろいろ検討した方がいいのではないかと思った。うさぎ (?) のぬいぐるみの化身のチェリーくんの造形は好きだし、日本の風景の中での表現を創造しようとした志は買いたいと思うのだけれども。

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【父を探して】(7/10)

原題:【O Menino e o Mundo】
監督・脚本:アレ・アブレウ
(アニメーション)
製作国:ブラジル
ひとこと感想:ブラジルの新鋭監督によるアニメーションで、いなくなった父親を探す男の子の目線で描かれる。色彩感覚が特に素晴らしいんだけど、鮮やかで美しかった懐かしい世界が少しずつくすんでゆく様に、経済発展により激変し何かが失われつつあるブラジルの現状が重ね合わされている、ような気がする。父親の笛の音=懐かしい世界を思い出すエンディングは、感動的というよりは、救いやよすががなくてもの悲しく感じられたけれど。

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【超高速!参勤交代 リターンズ】(3/10)

監督:本木克英
脚本:土橋章宏
出演:佐々木蔵之介、深田恭子、上地雄輔、伊原剛志、西村雅彦、寺脇康文、六角精児、知念侑李、柄本時生、近藤公園、橋本じゅん、富田靖子、古田新太、市川猿之助、石橋蓮司、陣内孝則、渡辺裕之、中尾明慶、宍戸開、他
製作国:日本
ひとこと感想:前作の【超高速!参勤交代】は画期的に面白い作品だったけれど、本作は、前作とは違うものをというオーダーばかりが先行して無理矢理こしらえた感がありすぎ、時代考証の無視が甚だしすぎて全然楽しめない。時代劇なんて“忠臣蔵”程度の知識しかないけれど、それでも、他国に戦(いくさ)をしかけるとか、他の老中を暗殺とか、それこそ神のような超絶対権力者の将軍を暗殺しようと思いつくとか、どれもこれもありえない設定だと刷り込まれている。一介の町奉行でしかない大岡忠相(大岡越前)が大名同士を巡る陰謀の密偵をやってるなんてのもヒドいし、いくら弱小藩だからって、武士と農民に全く分け隔てがなく城下町の1つも無いのにも違和感しかないし、他にもいろいろ挙げていったらきりがない。そして、この展開を無理に参勤交代に結びつけるとか無茶苦茶すぎ。“続編に名作なし”を証明する出来になってしまったみたいで非常に残念。このテーマはもうこれでおとなしく打ち止めにして、前作で城戸賞を受賞した脚本の土橋章宏さんには、他のテーマで面白い脚本を書いてもらった方がいいと思う。

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【チリの闘い】(9/10)

原題:【La Batalla de Chile】
監督:パトリシオ・グスマン
(ドキュメンタリー)
製作国:チリ/フランス/キューバ
ひとこと感想:1973年の軍事クーデターの直後に完成したドキュメンタリー。これを当時リアルタイムで見ていた人達の衝撃はそれは凄かっただろうと想像に難くない。ピノチェトの独裁も四半世紀以上前のことだから、今見るとさすがに同時代的な興奮はないけれど、クーデターのほぼ同時代に集められた夥しい数のインタビューの数々は、今でも十分に生々しい。軍事独裁が始まって以来長い間掛かったけれど、結局チリの人々は、自分達の手で自分達の国を取り戻した。そんなチリという国の偉大さを改めて見せられる思いがした。本作が世界の政治史を語る上での貴重な証言であり続けることも、かの時代の物語がこれからも永遠に検証され続けなければならないことも、今後何ら変わることはないだろう。

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【追憶の森】(7/10)

原題:【The Sea of Trees】
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:クリス・スパーリング
出演:マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:おじさん2人が主人公というのは若者好きなガス・ヴァン・サント監督には珍しいと思ったが、本作ではとにかく富士の樹海を描いてみたかったのだなということで納得した。まるでそれ自体が生命を持っているかのような樹海。謙さんは現実の人間というより、マシュー(・マコノヒー)さんの亡くした妻の記憶を昇華に導こうとする樹海の森の精か何かのように見えた。本当に理解できているのかどうかあまり自信はないが、まぁ全般的に寓話的物語ってことでいいんじゃなかろうか。力強さは感じられたので、機会があればまたこのチームでまた何か創ってくれないかな、と思った。

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【ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS】(5/10)

監督・脚本:熊切和嘉
共同脚本:守屋文雄
原作:すぎむらしんいち、リチャード・ウー(長崎尚志)
出演:松田翔太、浜野謙太、柳沢慎吾、康芳夫、須賀健太、NOZOMU、OMSB、木原勝利、宇野祥平、政岡泰志、安藤サクラ、真木蔵人、他
製作国:日本
ひとこと感想:のっけから主人公がベロベロに酔っ払ってとても頼りになりそうにない状態になり、彼の詰めの甘さにより人がみすみすあっさりと殺されてしまう。これでは主人公にいい印象は持てないよね……。後で彼がいくら頑張っても、この印象が挽回されることはなかった。
しかしこれ、先行するテレビドラマ版があったんですね!そっちを見ていないと、いきなり本作の設定に入るのは難しかったみたい。そして、解決した~よかった~的なカタルシスも無いからますます置いてけぼりをくらって不完全燃焼。これは完全に私が見方を間違えてしまったのだろう。どうもすみませんでした。ただ、敵方の不法入国者の男の子2人の無軌道な青春ものと思って見てみたら(須賀健太くん大きくなったね~)、袋小路に嵌まってどこにも行けないデッドエンドの切なさがあり、ラストシーンの描き方にも独得な詩情を感じることができたように思う。

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【ディーパンの闘い】(7/10)

原題:【Dheepan】
監督・脚本:ジャック・オディアール
共同脚本:ノエ・ドブレ、トマ・ビデガン
出演:アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ、ヴァンサン・ロティエ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:戦火を逃れるために赤の他人の女性と少女で偽装家族となり戦争難民としてフランスにやって来た元兵士のディーパンさん。しかし、フランスだって暴力に充ち満ちた世界の一部であることに変わりはなく、彼は再び争いに巻き込まれてしまう。一方、疑似家族の中では、小さな衝突を繰り返しつつも段々と情も湧いていく。そんなディーパンさんの“心の戦い”。私の頭の中では、何故かしら坂本龍一氏の『フロントライン』がリフレインしていた。

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【ティエリー・トグルドーの憂鬱】(7/10)

原題:【La loi du marche】
監督・脚本:ステファヌ・ブリゼ
共同脚本:オリヴィエ・ゴルス
出演:ヴァンサン・ランドン、カリーヌ・デ・ミルベック、マチュー・シャレール、他
製作国:フランス
ひとこと感想:失業後に厳しすぎる現実ばかりに直面する中年男の物語。いくら貧しくても、職業倫理やモラルを冒すことを社会へのささやかな反抗として容認してしまうのは、日本人の感覚からするとなんか違うかも、とは思ったが。地道に仕事して地道に生きるという地道な望みも叶えられず、生きるためには内なる尊厳が踏みにじられることも是としなければならない世の中なんて、やっぱり何か抜本的に間違ってない?低賃金でこつこつと実業に携わる人間が報われず、そういう人間を愚かだという人の方が嬉々として跋扈しているのは何故なのか。世の中が全員株屋や資本家ばかりになったら成立しないんじゃないですかね。

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【ディストラクション・ベイビーズ】(7/10)

監督・脚本:真利子哲也
共同脚本:喜安浩平
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、でんでん、池松壮亮、三浦誠己、他
製作国:日本
ひとこと感想:狂犬(柳楽優弥)にクズ(菅田将暉)とゲス(小松菜奈)が感染する。ボーン・トゥ・ビー・バイオレントの狂犬に、ちょっと強い後ろ盾ができたら気が大きくなって吠えまくり(どれだけ抑圧されていたんだか)女だって殴ってしまうクズに、巻き込まれて連れて行かれるという極限状態ではあるものの、しなくていい殺人を犯してしまい、死んでしまった人に全部なすりつけようとするゲス。もう少し穏便なものがいくらでもできただろうに劇場版長編デビューの第1作にこれを持ってくるって、真利子哲也監督はどれだけ強心臓なのか。そして、これだけハードな演技をやってのける主演の3人の凄い胆力。ここだけ見れば日本映画の未来は明るいような気がする。ただ、何がマリコ監督をここまで執拗な暴力の描写に駆り立てるのか、マリコ監督にとっての暴力って何なのか、私にはやはり分からなかった。

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【手紙は憶えている】(5/10)

原題:【Remember】
監督:アトム・エゴヤン
脚本:ベンジャミン・オーガスト
出演:クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ブルーノ・ガンツ、他
製作国:カナダ/ドイツ
ひとこと感想:アトム・エゴヤン監督の新作。ナチスへの復讐をしようとしている主人公の認知症のおじいさんが、実はアイツに手紙で操られているんだろうなー、というのは想像ついたんだけど、後からよく考えてみると、この方法には予測できない要素が多過ぎて、あまりにもリスキーなんじゃないだろうか。それに、最近の認知症の知見からすると、いくら認知症でもそこまできれいさっぱり昔のことを忘れていまう訳ではないんじゃないのかな。

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【鉄の子】(5/10)

監督・脚本:福山功起
共同脚本:守山カオリ
出演:佐藤大志、舞優、田畑智子、裵ジョンミョン、スギちゃん、他
製作国:日本
ひとこと感想:新しく家族になった人々が紆余曲折を経て絆を深める的な話かと思いきや、え、そっちに行く !? と意外な展開。子供達にはなんのかんのと絆ができてくるのだが、肝心な親達が……で、そのままエンディング?う~ん斬新。少しの間だけ家族だったこの人々を描くのに、“鉄の子” というコンセプトの扱いが少し中途半端だったのでは。また、こんなに仕事嫌いで女好きでやることがいい加減なタイプの男性を相手に選ばなそうという意味で、田畑智子さんは少しミスキャストだったかも。でもスギちゃんが案外よかったのが収穫で、この人は脇役俳優として頑張れば案外妙味が発揮できてやっていけそうな気がする。

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【TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ】(7/10)

監督・脚本:宮藤官九郎
出演:神木隆之介、長瀬智也、森川葵、桐谷健太、清野菜名、尾野真千子、古田新太、宮沢りえ、坂井真紀、古舘寛治、荒川良々、瑛蓮、皆川猿時、シシド・カフカ、清、みうらじゅん、Char、野村義男、ゴンゾー、マーティ・フリードマン、Rolly、木村充揮、快速東京、木村充揮、関本大介、ジャスティス岩倉、烏丸せつこ、田口トモロヲ、片桐仁、中村獅童、他
製作国:日本
ひとこと感想:クドカンこと宮藤官九郎氏の4本目の監督作。日本の地獄絵って世界的に見てもかなりユニークな文化なんじゃないかと思うけど、これを現代版にアレンジしてまるごと再現してみようとか、どうして考えつくんだろ。で、地獄で農業高校に入って、部活で好成績を収めるとえんま校長にアピールできるから軽音楽部に入ってロックバトルをやるとか……なにそれー!この訳が分からない荒唐無稽さが、クドカンらしいといえばそれらしい。しかし、生き返って好きだった女のコに会いたい!とかいった可愛い話かと勝手に想像していたら、7回生まれ変わってどうこうという結構遠大な話だったのでちょっとびっくり。地獄での1週間が現世で10年になるとかで、女のコもどんどん年を取る訳で、ちょっと切なくなってしまう。そんな中、1つだけ確認できたことがある。“Heaven is a place that nothing ever happens (by Talking Heads)." 何にもない天国より騒がしい地獄の方が楽しそうである。

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【とうもろこしの島】(7/10)

原題:【Simindis kundzuli】
監督・脚本:ギオルギ・オバシュビリ
共同脚本:ヌグザル・シャタイゼ
出演:イリアス・サルマン、マリアム・ブトゥリシュビリ、他
製作国:ジョージア/チェコ/フランス/ドイツ/カザフスタン/ハンガリー
ひとこと感想:ジョージア(グルジア)からの独立を主張するアブハジア自治共和国が舞台の2作品を併映したうちの1本。どちらの作品も、どんな状況下でも人間としての尊厳を保ち続けようとする人々が描かれている。本作は、ジョージアからの独立を目指すアブハジアの国境の川が舞台で、小さな中洲でとうもろこしを撒いて育てるという細々とした生活をずっと続けている老人とその孫娘が、逃げ込んできた兵士を匿ったり、嵐の前になすすべもなかったり、といった出来事に出会う。中洲での暮らしも、銃を持った兵士達が辺りをうろうろしている日常も、日本にいて想像できるあらゆる情景とはおよそかけ離れている。だからこそ、想像力の境界線を押し広めるために、こうした映画を見る意味があるのかなと思う。

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【ドクムシ】(2/10)

監督:朝倉加葉子
脚本:黒木久勝
原作:合田蛍冬、八頭道尾
出演:武田梨奈、村井良大、秋山真太郎、水上京香、宇治清高、野口真緒、駒木根隆介、他
製作国:日本
ひとこと感想:ごめん、これは、普段は見に行かないことにしている謎の殺人ゲーム系の映画を、武田梨奈さんが出てるからってホイホイ見に行った私が悪かった。最初からべらべら状況を解説する奴が出てくるという工夫もへったくれもない導入に最初から萎え、差し迫った状況になってきても切迫感が出てこない素人な演技を繰り広げる皆さんにも、盛り上げ方がうまくない演出にも嘆息し、大体メシもろくに食ってない登場人物がみんなガツガツ元気なことにも呆れ、コリャナイワーと映画館の席に沈み込む虚しさ。これはあれだ、芸能プロダクションが若手のプロモーションがてら自家発電するために、極力低予算でなにかパッケージっぽいものを作ろうとした、志もへったくれもない類いの何かだ。最初からやろうとしていることの目的が違うんだもの。映画を期待して見に行った私がそもそも間違っていた。

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【殿、利息でござる!】(8/10)

監督・脚本:中村義洋
共同脚本:鈴木謙一
原作:磯田道史
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平、寺脇康文、きたろう、千葉雄大、西村雅彦、山崎努、草笛光子、羽生結弦、他
製作国:日本
ひとこと感想:ひどい税金に苦しむ宿場町の商人達が、お金を貯めて大名に貸し利息を取って税金に充てることにした、という江戸時代の実話を基にした話なんだそう。ピケティもびっくりの投資の話じゃなく、子孫に何を残せるのか、という純粋で切なる思いが沁みる。聞けば、歴史学者である磯田道史さんがこの話のことを聞き及んで原作を書き、巡り巡って同じ理念で共鳴した中村義洋監督が監督をすることになったのだという。過不足のない演出で、豪華だけど的確な配役が活きていて、お話のメッセージが適切に伝わってくるのがいいと思う。

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【トランボ ハリウッドに最も嫌われた男】(7/10)

原題:【Trumbo】
監督:ジェイ・ローチ
脚本:ジョン・マクナマラ
原作:ブルース・アレクサンダー・クック
出演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、エル・ファニング、ヘレン・ミレン、ジョン・グッドマン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1950年代のハリウッドに吹き荒れた赤狩りの嵐を生き抜いた高名な脚本家ダルトン・トランボの伝記。簡単に略歴を記すと、第二次世界大戦直後の「赤狩り」の最中にHUAC(下院非米活動委員会)での証言を拒んで投獄され、出所後も仕事を干されてしまったが、偽名を使って脚本の執筆を続け、B級映画の脚本で食いつなぐ傍ら【ローマの休日】や【黒い牡牛】などでアカデミー脚本賞を取ってしまい、ついにはカーク・ダグラスやオットー・プレミンジャー監督からの要請で【スパルタカス】や【栄光への脱出】を執筆して実名でハリウッドに復帰、その後も活躍を続け、【ジョニーは戦場へ行った】では監督も務めたという。天才には超量産タイプの人も超寡作タイプの人もいるけれど、この人は圧倒的に前者で、その手数の多さ故に生き残ることが出来たのかもしれない。自分にとっては見て凄く感動するというタイプの映画ではなかったけれど、映画好きの人は、この辺りの映画史の確認として見ておいた方がいいんじゃないかと思う。

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【永い言い訳】(9/10)

監督・脚本:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里、他
製作国:日本
ひとこと感想:主人公は、自分の傷だけに延々と囚われ続けて、新たな毒を周りに撒き散らし続ける困ったちゃん。不倫の最中に妻が事故死してしまうが、ひょんなことから、妻と一緒に事故死した妻の親友の夫や子供達と交流することになる。繊細すぎていろいろこじらせ過ぎている主人公に対し、妻の親友の夫は、鈍感な一面はあっても眩しいくらい真っ直ぐな男性。この二人と子供達の交流は思わぬ方向に転がっていく……。この主人公の男に対して感じるのはとにかくもの凄い近親憎悪で、昔だったら本当に正視に耐えがたかったかもしれない。私が人生の中で見たくないと切り捨てて封印してきたものを、欠陥としてあげつらうこともなく丁寧に掘り起こして見詰め、“人間なんてこんなものっすよ”と嘯いて描いてみせることができる西川美和監督は、少なくとも私よりは相当寛容な人間なのだろうと確信するに至った。

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【何者】(8/10)

監督・脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ
出演:佐藤健、有村架純、菅田将暉、二階堂ふみ、岡田将生、山田孝之、他
製作国:日本
ひとこと感想:大学生の就職活動を描いた朝井リョウさんの小説を原作にした作品。就職活動って、ある特定の時期にある特殊な世界の狭い価値観の中だけで行われる奇っ怪な習慣的制度で、企業が求める画一的な規格に自分を合わせるふりをしなきゃならないところは、どうやら今も昔も変わっていないらしい。けれど、SNSというアルターエゴと付き合わなければいけない分、今の子達の方が精神的に大変な部分も多いかもしれない。SNSの世界の中で自分はこう見える、こう見せたい、ということを予め予測したり計算したりするのを前提にしなければならないなんて、今時の自我ってなんて厄介なんだろう。でも朝井リョウさんのような若い作家さんがそういう部分を作品にし始めたのは興味深いと思う。

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【ニーゼと光のアトリエ】(8/10)

原題:【Nise da Silveira: Senhora das Imagens】
監督・脚本:ホベルト・ベリネール
出演: グロリア・ピレス、シモーネ・マゼール、ジュリオ・アドリアォン、他
製作国:ブラジル
ひとこと感想:ブラジルの実在の女性精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラをモデルにした物語。芸術療法も動物療法も今でこそ当たり前だけど、精神疾患の患者の扱いが今より全くひどかった1940年代に行うのはさぞや苦難の連続だっただろうし、ましてや女性の地位が今より全然低かった時代に独自の道を押し通すのは至難の業だっただろう。数々の妨害にもめげず患者さん達のために努力し続けた彼女は偉かった。こんなふうに、世界中には知らない偉人がまだまだたくさんいるんだろうなぁと思った。

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【二重生活】(4/10)

監督・脚本:岸善幸
原作:小池真理子
出演:門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリー・フランキー、他
製作国:日本
ひとこと感想:「理由のない尾行、やってみますか?」??哲学の修士論文のために赤の他人を尾行して生活を覗くとかいったコンセプトがそもそも全く意味不明。そういう興味本位のゲスい出歯亀を正当化できる論法がどこの世の中にあるというのだ。おまけに、観察対象と接触禁止なんて言いながら、そんなルールは早速グダグダになるいい加減さ。原作でどういうふうになっているのか分からないが、説明不足にもほどがあり、最後まで見ても全く理解することができなかった。しかし、私、門脇麦さんは結構好きなんだけど、彼女が出ている作品でいいと思えた作品がほとんどないというのは一体どういうことなんだろう。どんな作品にでも出るという姿勢も大切かもしれないが、もう少し出演作品を選んだ方がいいのではと思ってしまうのだが……。

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【日本で一番悪い奴ら】(9/10)

監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:稲葉圭昭
出演:綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧、青木崇高、木下隆行(TKO)、音尾琢真、矢吹春奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:警察内部では、個人の業績を分かりやすく評価するために拳銃の押収は何点とか点数が定められているらしいのだが、本作の主人公の男は、この点数を取ること自体が目的になってしまい、そのために手段を選ばなくなる。ヤクザや裏稼業の人間にスパイを作って情報提供させるだけでも既に相当イカれているが、押収するための拳銃を調達するためにヤクザやロシアから拳銃を買うなんてことまで始め、その資金稼ぎのために裏金作りに奔走し、ついにはシャブの取引まで手を染める……滅茶苦茶。更に、その報酬が金だとか女だとかいうのも、分かりやすすぎるというか底が浅すぎるというか……。こんな目的と手段を完全に履き違えた昭和の体育会系のおっさんの行動原理を延々見せつけられても、馬鹿なんじゃないの?という感想しか浮かんでこないのだが、これが実際の警察の不祥事を元にしたノンフィクションを下敷きにした物語だというから、思考が停止して頭が真っ白になってしまう。
しかし、かつて北海道警になんでこんな人が存在できたのかというと、組織の方も概ね大差ない論理で動いていて、影ではこういう人材を必要としていたから。このゲームに嵌まっている最中、やってる本人は夢中で面白かったんだろうな。こんなふうにしか生きられず、結局組織に利用されただけのこの男の悲哀のようなもの、昔ならどう転んでも受け入れがたかったけれど、自分も昔よりは多少は寛容になっているのかもしれない。こんな馬鹿な男の物語を、北海道警察の腐敗もろともコメディにしてみせた白石和彌監督の発想と手腕に脱帽せざるを得ないが、起こっていることがあまりにも異常すぎて正視するのが耐えがたいし、実録ものにしてしまうとどこからか妨害が入ってしまうかもしれないので(?)、そもそもコメディにしてしまわなければ映画として成立させること自体が不可能だったのかもしれない。

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【ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります】(6/10)

原題:【5 Flights Up】
監督:リチャード・ロンクレイン
脚本:チャーリー・ピータース
原作:ジル・シメント
出演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:古今東西、不動産の売買って大変!うちも5階建てでエレベーターがなくって、4階以上はなかなか売れないらしいんだよね!そして、家の売り買いをする時には人生の来し方行く末を考えてしまうのもあるある~。終の棲家とはよく言ったもので、帰るべき場所としての家をどう考えてどう設定するかって、人生において重要な命題なんだろう。オチはいまいちだったけど、そこに至るまでにいろいろなことを見つめ直してみるという過程がきっと大切だったんだと思う。モーガン・フリーマンとダイアン・キートンのカップルというのも斬新だった。

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【人魚に会える日。】(5/10)

監督・脚本:仲村颯悟
出演:儀間果南、平良優大、Cocco、他
製作国:日本
ひとこと感想:13歳で撮った初長編【やぎの冒険】が話題になった仲村颯悟監督が5年ぶりに撮った最新作で、基地問題に関して思うところを盛り込んだような内容。演者のキャラの濃さがそのまま活かされているように見受けられ、その切り取り方や組み立て方に非凡なセンスを感じたが、生贄なるモチーフを沖縄自体のメタファーとして使っているらしい終盤のストーリー展開は現実感に乏しく、観念的に組み立て過ぎている印象が否めなかった。そこには若さゆえの荒さを少し感じたけれど、監督の年齢でこれだけのものを作っているのなら、ここから先がどんなにふうになるか楽しみに思えた。何より、監督の沖縄の現状への思いは痛いくらいに伝わってきて、強く伝えたいことがあることが一番大切なんじゃないかという当たり前のことを思い起こさせてくれた。

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【人間の値打ち】(7/10)

原題:【Il Capitale Umano】
監督・脚本:パオロ・ヴィルズィ
原作:スティーブン・アミドン
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ファブリッツィオ・ベンティボリオ、マティルデ・ジョリ、ファブリツィオ・ジフーニ、ヴァレリア・ゴリノ、ルイジ・ロ・カーショ、ジョヴァンニ・アンザルド、グリエルモ・ピネッリ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:ある轢き逃げ事件を巡っていろいろな人々の思惑と本性が交錯する。わー、これぞお手本のような人間ドラマていう感じ。イタリア映画ってこんなふうに人間の裏側をシビアにえぐり取るのが本当に得意だ。ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ様を久々に拝見できたのも嬉しかった。

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【猫なんかよんでもこない。】(6/10)

監督・脚本:山本透
共同脚本:林民夫
原作:杉作
出演:風間俊介、つるの剛士、松岡茉優、市川実和子、他
製作国:日本
ひとこと感想:ストーリーはありがちだけど決して悪くなく、とにかく猫が圧倒的に可愛い!そして風間俊介さんって上手な俳優さんだということがしみじみ分かる。お兄さん役のつるの剛士さんもよかった。必ずしも主役じゃなくてもいい味が出せそうなので、もっと俳優としてのつるのさんも見てみたいかもしれないと思った。

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【の・ようなもの のようなもの】(7/10)

監督:杉山泰一
脚本:堀口正樹
原案:森田芳光
出演:松山ケンイチ、北川景子、伊藤克信、尾藤イサオ、でんでん、鈴木京香、ピエール瀧、佐々木蔵之介、塚地武雅、仲村トオル、笹野高史、三田佳子、鈴木亮平、内海佳子、野村宏伸、他
製作国:日本
ひとこと感想:故・森田芳光監督の1981年の出世作【の・ようなもの】の35年ぶりの続編。でも、こういう企画物的な作品にありがちな取って付けたストーリーではなく、駆け出しの落語家の一生懸命さが、もう廃業してしまった元落語家の諦念とも達観ともつかない生き方とリンクする展開が、一編の物語としてちゃんと成立していて、なかなか見応えがあった。キャストも、主演の松山ケンイチさん、ヒロインの北川景子さんを始め、これまで森田作品に登場してきた数多くの俳優さんや、正に森田作品でブレイクした俳優さんが大挙して登場しており、正に森田芳光オールスターズ!中でも、前作の主役で、本作でも最重要キャストである伊藤克信さんの存在感は白眉だった。森田芳光監督への愛が隅々にまで溢れており、森田ファンとは言い難い私でも少し泣けてしまった。

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【バースデーカード】(8/10)

監督・脚本:吉田康弘
出演:橋本愛、宮﨑あおい、ユースケ・サンタマリア、須賀健太、中村蒼、洞口依子、木村多江、谷原章介、他
製作国:日本
ひとこと感想:早くに亡くなった母親が残してくれていた20歳までのバースデーカード。橋本愛さん演じる主人公は、慈愛に満ちたお母さん(宮崎あおい)のことを思い出しながら、子供達を静かに見守り何でもしてくれるお父さん(ユースケ・サンタマリア)、よく出来た弟(須賀健太)という理想的な家族に囲まれながら、1年1年成長を重ねる。ベタと言えばベタな王道なお話のはずなのに、お涙頂戴にもならず、必要なことはすべて語りつつも饒舌すぎない、過不足のない語り口が心地よい。控え目にみて凄くいい映画。吉田康弘監督という名前を覚えておきたいと思った。
(ただ、アタック25のくだりはちょっとしつこかったかな~。製作委員会にABCが入ってたので仕方ないのか……。)

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【ハート・オブ・ドッグ 犬が教えてくれた人生の練習】(6/10)

原題:【Heart of a Dog】
監督・脚本:ローリー・アンダーソン
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ドキュメンタリーというよりは、独特の語り口のシネマエッセイというか映像詩というか、そういったふうなもの。ローリー・アンダーソンさんってそもそもミニマル・アートだがコンセプチュアル・アートだかのアーティストで、80年代には数々のパフォーマンスを行っていたことを伝え聞いていたのだが、その後ルー・リードさんと結婚してたって全然知らんかった。(1992年に出会ってからパートナーシップを続け、2008年に正式に結婚したそうだ。)亡き飼い犬をとっかかりにしているけれど、ほぼ過去の記憶を辿り心境を語る自分の昔語りなので、語られていること総てに興味が湧くという訳にはいかないかもしれないが、共鳴する記憶をぽつりぽつりと呼び起こしてくれる。例えば私は個人的には、親だからって自動的に愛せる訳じゃない、という下りを頭の中で反芻していた。

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【俳優 亀岡拓次】(7/10)

監督・脚本:横浜聡子
原作:戌井昭人
出演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、浅香航大、杉田かおる、新井浩文、染谷将太、三田佳子、山崎努、工藤夕貴、他
製作国:日本
ひとこと感想:現場では誰もが知ってる名脇役俳優、そして生粋の酔っ払いの亀岡拓次。酔っ払っている時間と時間の間に浮かんでいるような不思議な感覚で、こんな映画は横浜聡子監督にしか撮れないのではないかと思った。そして、安田顕さんがあきれるほどに上手い(知ってたけど)。芸能界は何が幸いするか分からないから、そしてどこにどんな幸福が転がっているかもわからないから、亀岡拓次さんには今後も負けずに頑張ってもらいたいなぁと心から思った。そして飲み過ぎはほどほどに。体壊したら何にもならないよー。

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【白鯨との闘い】(2/10)

原題:【In the Heart of the Sea】
監督:ロン・ハワード
原案・脚本:チャールズ・レーヴィット
原案:リック・ジャッファ 、アマンダ・シルヴァー
原作:ナサニエル・フィルブリック
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィー、ベン・ウィショー、ブレンダン・グリーソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:メルヴィルの『白鯨』の裏にはこんなストーリーがあった、的な話。日本人的には、自然の雄大さも、くじらの美しさや神々しさも全く描く気がないっていうのが腹立たしいんだよね。単にでかい異形の生き物と戦うだけの話に、チャチでありがちな人間模様を適当に織り交ぜただけの話の何が楽しいの?人肉食のエピソード辺りをセンセーショナルに扱いたかったのかもしれないけど、ネタとしては平凡でありふれてる。駄目だこりゃ、サボってないでちゃんとおおもとの『白鯨』を読まなくちゃ。ちゃんと古典にあたってないからこんなものに引っ掛かってしまうんだわ、とちょっとだけ反省した。でも、ロン・ハワード監督の映画がそんなにつまらなくなるなんて普通思わないじゃないですか。

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【函館珈琲】(5/10)

監督:西尾孔志
脚本:いとう菜のは
出演:黄川田将也、片岡礼子、Azumi、中島トニー、夏樹陽子、あがた森魚、他
製作国:日本
ひとこと感想:脚本を審査する「函館港イルミナシオン映画祭」の第17回グランプリ作の映画化。才能ある若者たちに貸し出すアパートでの青春もの、というとよくある設定のようにも思えたが、トンボ玉作家、テディベア作家、風景写真家という各キャラクターの生業のチョイスがなかなかうまく、それぞれの俳優さんの魅力にリンクしているのが悪くないと思った。特に、片岡礼子さんの姿を久々にお見掛けすることができたのがとても嬉しかった。

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【パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト】(8/10)

原題:【Paco de Lucia: la busqueda】
監督:クーロ・サンチェス
(ドキュメンタリー)
出演:パコ・デ・ルシア、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:先年亡くなったパコ・デ・ルシアのドキュメンタリー。圧倒的なリズムの中に宿る熱情的な魂。このかっこよさが分からない人とは友達になれなくていいです。

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【裸足の季節】(7/10)

原題:【Mustang】
監督・脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
共同脚本:アリス・ウィノクール
出演:ギュネシ・シェンソイ、イライダ・アクドアン、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、ドア・ドゥウシル、他
製作国: フランス/トルコ/ドイツ
ひとこと感想:トルコ出身でフランス在住の女性監督による作品。5人姉妹が保護者である叔父夫婦の理不尽さにより家に閉じ込められる序盤の下りは、正にトルコ版【ヴァージン・スーサイズ】みたいな印象。最初は脱走や抵抗を試みていた姉妹達も、保護者から押し付けられた相手と結婚させられるなどして、次第に自由を放棄することを受け入れざるを得ない状況に陥っていく。こうしたエピソードは、監督自身が見聞きしたり実際に経験したりした事柄なんだそうだけれど、考えてみれば、私が子供の頃の日本にも、ここまでじゃないけど、女はこうしろああしろ、これするなあれするなという社会的制約のようなものが網目のように張り巡らされていたような。制約を課す側からすれば保護しているつもりらしいけれど、制約を受ける側からしてみれば、伝統を笠に着た押しつけや精神的虐待以外の何物でもない。そんな中、自ら行動を起こして突破口を開く末っ娘の存在だけがこの映画の中の明るい光だった。監督は、この末娘の存在に自らの憧れを詰め込んだそうなのだが、こんな状況を客観的に炙り出した映画を実際に作ってみせた監督の存在そのもののように、こんな状況を何とかしようとしている一連の人々が存在しているという事実も、今のトルコのという国の一側面なのだと思った。

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【バット・オンリー・ラヴ】(6/10)

監督・脚本・出演:佐野和宏
出演:円城ひとみ、酒井あずさ、蜷川みほ、芹澤りな、飯島洋一、他
製作国:日本
ひとこと感想:咽頭癌で発声できなくなったという佐野和宏監督が主演も務めた18年ぶりの新作で、タイトルはニール・ヤングの『Only Love Can Break Your Heart』から来ているらしい。しかし、良く言えば妻への愛にもがき苦しむ男のラブ・ストーリーなのかもしれないが、女性から見たら、男ばかりに都合がよくて理不尽って映るんじゃない?子供ができなくて姑にいじめられて、一人悩んで人工授精を受けることを決めただけで、浮気していた訳でもあるまいに、どーして“罰”なんて受けなきゃならんのよ?男にしてみりゃ子供が実子じゃなかったのはショックかもしれないけど、テメーに奥さんの悩みを受け入れる器や度量がなかったことが見抜かれていただけでしょ?有り体に言ってざけんなボケ、所詮は男目線のピンク映画よね、と思ったが、役者としての佐野和宏さんの佇まいの素晴らしさでかなり有耶無耶にされているような気がするのでズルいと思った。

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【ハドソン川の奇跡】(5/10)

原題:【Sully】
監督:クリント・イーストウッド
脚本:トッド・コマーニキ
原作:チェスリー・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:飛行機を墜落から救っておきながら事故調査委員会で判断ミスを追求された機長たちの実話、なんだけど、事故調の奴らコンピュータ信じすぎじゃね?と思いながら見てたら、何のひねりもないそのまんまのオチだったので、いろんな意味でがっくり来た。要するに、コンピュータでのシミュレーションの際に見落としてたデータがあったというだけの話。う~ん、そこを疑うのは初歩の初歩なんじゃないかと私なんぞは思うのだが、それって2時間の映画にするほどの内容か?……それより、気温がマイナス何十度にもなるという極寒のニューヨークで、初動が早くて救助が30分以内に完了したおかげで被害が少なかったということの方がよほど“奇跡”的で、どこからともなく終結して救助を手助けした「Best of New York」(“ニューヨークの良心”と字幕がついてた)な人々の麗しさをもっとフィーチャーした方がよほど見応えがあったんじゃないかと思ったのだが。

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【母よ、】(8/10)

原題:【Mia Madre】
監督・脚本・出演:ナンニ・モレッティ
共同脚本:フランチェスコ・ピッコロ、ヴァリア・サンテッラ
出演:マルゲリータ・ブイ、ジュリア・ラッツァリアーニ、ジョン・タトゥーロ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:母親が死にゆくというどうしようもない状況と向き合いながら仕事を続ける女性映画監督。この監督の姿には、近年母親を亡くされたというナンニ・モレッティ監督自身の姿が投影されているのだろう。もの凄く派手な展開とかがあるわけではないけれど、いかにもありそうな日常的なエピソードが一つ一つ共感を持って描き出されているのに好感が持て、これまでのモレッティ監督の作品の中で一番素直に共感できた気がする。忙しい日常生活の中でも親の死という避けて通れない問題に対峙しなければならない中高年の皆様にしみじみ見て戴きたいあるある映画だった。

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【バンクシー・ダズ・ニューヨーク】(9/10)

原題:【Banksy Does New York】
監督:クリス・モーカーベル
(ドキュメンタリー)
出演:ニューヨーク市の皆様
製作国:アメリカ
ひとこと感想:謎のストリートアーティストにしてアート界のリーサル・ウェポンのバンクシーがニューヨークに1ヵ月滞在して作品を発表した時のドキュメンタリー。この試みは、作品を1ヵ月間毎日制作してインスタグラムで発表するもので、観客は大まかな位置情報などを元に宝探しみたいに周囲を探索し、運がよければ作品を見ることができる。作品も、強烈な政治的アジテーションを含む大作から、ちょっとした微笑ましい小品まで大小様々で、フォーマットも壁画から文字からインスタレーションまで多岐に渡る。バンクシーは基本的にグラフィティ(落書き=犯罪行為)を旨としているので当局にも目を付けられているし、作品をその場から引き剥がして売ろうとするよからぬ輩も続出(そういう人達は、その場に捨て置かれていくものだから著作権は放棄されているという解釈をするらしい)。そして、その状況を面白がる人々から、批判的なスタンスを取る人々から、純粋に作品を楽しむ人々まで、ニューヨーク市民の反応も様々で、そうした市民の反応自体もまた作品の一部なのだということが圧倒的に面白い。それはバンクシーの知名度があって初めて可能なことだけれど、そのメディアの扱いの上手さや、インパクト、話題性、メッセージの強烈さは、アートに少しでも興味のある人ならば、好むと好まざるとに関わらず、批判するにせよ賞賛するにせよ、目撃しておかざるを得ないだろう。因みに私は、このインスタレーションの本も買ってしまったのが、様々な形でバンクシーに遭遇したニューヨーク市民の実際の反応をダイレクトに見ることができるという点において、このインスタレーションの記録としては映画の方が優れているのではないかと思った。
ところで私は、本作を見て、バンクシーはおそらく合議制のチームなのではないかと思い至るようになった。アーティスト以外の協力者がいるのであろうことを差し引いても、作品のテーマもあまりに多岐にわたるし、フォーマットもあまりに様々だから、複数のアーティストが創っているように感じられたのだ。今のところ、イギリスのブリストル出身ということ以外は分かっていないらしいのだが、流布しているイメージのような白人男性以外にも、白人以外の人種の人や女性なども加わっているのではないだろうか。

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【ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気】(8/10)

原題:【Freeheld】
監督:ピーター・ソレット
脚本:ロン・ナイスワーナー
出演:ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーブ・カレル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:同性のパートナーに遺族年金を残そうとして法律を改正させるべく戦った女性カップルの実話の映画化。自動車整備士の若い素朴なねえちゃんといった感じのエレン・ペイジと、長年誇りを持って警察官をしてきたジュリアン・ムーアの二人が、心から愛し合っているカップルにしか見えないところがまず凄い。ジュリアン・ムーアの方に病気が見つかり、二人で暮らした家を残すため警察官の遺族年金をエレン・ペイジに託そうとするのだが、当時の法律ではそれができなかったことから、ジュリアン・ムーアの職場である警察内部を始めとする様々な場所で対立や同調の流れが巻き起こる。その様子を余さず描いているところが素晴らしい。矛盾した制度が存在するとして、それを変えようと足元から戦いを始めようとするメンタリティがあるところが、アメリカという国の最良の部分の一つなのではないかと思う。そして、性的マイノリティの権利獲得という側面だけではなく、死という別れを前にした二人が愛を完遂するラヴ・ストーリーでもあるところに、涙せざるを得なかった。

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【火 Hee】(6/10)

監督・脚本・出演:桃井かおり
共同脚本:高橋美幸
原作:中村文則
出演:佐生有語、他
製作国:日本
ひとこと感想:初老の娼婦(おそらく放火魔)の一人語り。これ、独白だけでは映像になりにくいし、かといって語られるエピソードをただ映像化するだけでは陳腐になるだけなので、小説から映像表現に起こすのは凄く難しかったのではないかと思う。結局、独白の部分を、監督でもあり主演でもある桃井かおりさんが引き受けて肉体化させることで成立させていたのだが、久々に桃井かおり的演技を最初から最後までがっつりたっぷり堪能できて嬉しかったし、その桃井かおり的演技を最大限活かすための演出でもあるのだなと感じた。よくも悪くも昔のアート系映画っぽく、独特だけど、やっぱ圧巻で唯一無二。今の若い人はあんまりこういうの見たことないだろうと思うので、たまにはこんな映像表現も見てみて、奇妙な違和感を感じてみるのもいいと思う。

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【ヒーローマニア-生活-】(3/10)

監督:豊島圭介
脚本:継田淳
原作:福満しげゆき
出演:東出昌大、窪田正孝、小松菜奈、片岡鶴太郎、船越英一郎、山崎静代(南海キャンディーズ)、他
製作国:日本
ひとこと感想:そもそもこれ、殺人犯が濶歩して何人も殺しているような街の雰囲気じゃないでしょう。フツーに考えれば警察が大々的に介入し、主人公達だって職質受けまくりで当然なんじゃないのかな。本作が原作をどの程度反映しているのか分からないけれど、現実感とつくりごと感のバランスが非常に悪いように感じる。こういう話であれば、もっとリアルな設定の方向に振るか、思い切り戯画化するかした方がいいのでは。どのみち、予算がないならないで、もっといろいろな要素を考え抜いて練り込まないと、漫然と作っていたって心に残るような作品ができる訳がないんじゃないかと思うんだけど。

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【光りの墓】(6/10)

原題:【Rak ti Khon Kaen】
監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー、バンロップ・ロームノーイ、ジャリンパッタラー・ルアンラム、他
製作国:タイ/イギリス/フランス/ドイツ/マレーシア
ひとこと感想:タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の最新作。夢とうつつを行ったり来たりするような独得の作風は相変わらずで(本作では“眠り病” なる架空の病が出てくるので尚更)、意味が分かったのかと問われるとあまり自信はないけれど、本作には今までになかったような不思議な明るさと爽やかさと力強さが感じられ、今まで見た監督の作品の中では一番好きだったような気がする。

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【ひそひそ星】(9/10)

監督・脚本:園子温
出演:神楽坂恵、他
製作国:日本
ひとこと感想:半世紀くらい前のアパートみたいなボロい内装の宇宙船で、星から星へ宅配業を続けるアンドロイド。残り2割くらいしかいない人類は絶滅寸前で、テレポーテーションにより平坦化した世界の中、距離と時間に対する憧れだけが人類に残されたプライドなのだという。ひそやかに仕事を続けるアンドロイドの目に人類の没落はどう映るのか。ロボット(人工知能)だけが生き残って人類の終末を見守るのは少し【さようなら】みたいでもあり、奇妙に美しいモノクロの画面で人類の黄昏を滲ませる寂寥感は少し【ニーチェの馬】 みたいでもある。人工知能の話題が頻出し始めた今の時代、これは決してあり得ない未来の話ではないかもしれない。
今までの園子温監督の作風とは打って変わったひそやかなタッチに監督の新境地を感じた、これは紛れもない傑作!昨今の監督はオリジナル志向に傾いており、マンガなどの原作ものはもうあまりやりたくないらしいということだが、やっぱりそんな気がしたんだよね。

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【ヒッチコック/トリュフォー】(6/10)

原題:【Hitchcock/Truffaut】
監督:ケント・ジョーンズ
(ドキュメンタリー)
出演:アルフレッド・ヒッチコック、フランソワ・トリュフォー、他
製作国:フランス/アメリカ
ひとこと感想:ヒッチコックとトリュフォーの『映画術』、大~昔に読んだのだが、このインタビューの音源が残っているとは知らなかった。この本を読んで、自分は映画を作る方にはからっきし興味がないのだと悟ったことを、映画を見て思い出したんだけど、そういうノスタルジー以上のものを受け取れる素養がないのならわざわざ見に行く必要はなかったかな、といろいろ反省した。

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【火の山のマリア】(6/10)

原題:【Ixcanul】
監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ
出演:マリア・メルセデス・コロイ、マリア・テロン、他
製作国:グアテマラ/フランス
ひとこと感想:グアテマラの映画はおそらく本邦初公開。どいつもこいつも、ろくな男が出てきやしねぇ。彼等に運命をいいように左右されてしまうグアテマラ女性の現状は暗い、という批判が込められているらしいのだが、せめてもの予防策として、男はちゃんと選ばなくちゃならないのではあるまいか。しかし、本作の宣伝には、第三世界=土着性やらアミニズムやら女性の神秘的な力やらに還元させようとする意図が見え隠れしていて、その切り口が古くさいと感じられた。

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【秘密 THE TOP SECRET】(2/10)

監督・脚本:大友啓史
共同脚本:高橋泉、LEE SORK JUN、KIM SUN MEE
原作:清水玲子
出演:生田斗真、岡田将生、吉川晃司、松坂桃李、栗山千明、織田梨沙、リリー・フランキー、椎名桔平、大森南朋、大倉孝二、木南晴夏、平山祐介、他
製作国:日本
ひとこと感想:この映画には山のように文句があるので言わせて欲しい。
そもそも、主役の一人である薪警視正の透明感や純粋性はマンガならではの表現ではないかと思われるのだが、これを再現できるような人材は、少なくともトウが立った人間ばかりである芸能界には存在していないといきなり思い知らされ(芸能界なんてそうじゃなきゃ生き抜いていけないような世界だからしょうがないのだが)、この時点で、この作品を実写化しようという発想自体がそもそも大間違いなのだと確信せざるを得なかった。露口絹子役のキャスティングもひどい。小松菜奈さんあたりに断られたのだろうか?この役を引き受けた度胸だけは買うけれど、原作とかけ離れた容姿はともかく、このような発展途上の演技力ではお話にならない。他もミスキャストの嵐だけど、せめて松坂桃李さんが青木捜査官をやればよかったんじゃないかと思ったりした。
それならばせめて原作のエピソードを粛々と映像化すればいいものを、何故、原作では無関係のエピソードを無理矢理つなぎ合わせ、ドヤ顔でこねくり回した挙げ句に焼け野原にしてしまうのか。原作をきちんと読み込んでいないことが丸わかりのラストシーンもひどかったけど(あれだと犬の見た世界だと分からないし、飼い主への純粋な愛ゆえに世界が美しく見えるって視点がすっぽり抜け落ちている)、不要なキャラの追加も意味不明。私は大森南朋さんは大好きだけど、彼はハードボイルドをやらせるとどうしようもなくクサくなることがあるという悪癖があることを、事前に指摘したスタッフは誰もいなかったのか。
おそらく、そもそもジャニーズありきでなければこの企画自体が成立していなかったのかもしれず、いろいろと難しい面があったのだろうけど、結果的に、『龍馬伝』【るろうに剣心】の大友啓史監督ほどの監督さんであってもハマらなければどうしようもないということを証明したような映画が出来上がってしまい、かえすがえすも残念でならない。特に、少しでも原作を読んだことのある人は、失望しかしないと思うので、絶対に見るのをやめておいた方がいいと思う。

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【ヒメアノ~ル】(7/10)

監督・脚本:吉田恵輔
原作:古谷実
出演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ、駒木根隆介、山田真歩、大竹まこと、他
製作国:日本
ひとこと感想:タイトルは捕食されるトカゲを意味する造語なんだそう。リアルにサイコパスの人がいたらこんな感じなんだろうなぁという森田剛さんが恐ろしすぎながらも、後に残るのはもの哀しい印象。森田さん、本当にびっくりするほどいい役者さんになったな~。対比としての濱田岳さんもつくづく上手い。しかし何より、コメディリリーフとしてのムロツヨシさんの可笑しさに救われましたわ。

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【ふきげんな過去】(5/10)

監督・脚本:前田司郎
出演:二階堂ふみ、小泉今日子、山田望叶、高良健吾、板尾創路、他
製作国:日本
ひとこと感想:世間ではやたら評価が高かった作品なんだけど、私の感想はどうも今一つ。私くらいの世代のおっさんは小泉今日子さんを好きすぎてカリスマとして絶対視しすぎだよな……私も嫌いじゃないけどそこまでじゃないので、どうもいつもその辺りの温度差が。そして本作に関して言えば、二階堂ふみさんとの親子関係にケミストリーが感じられず、今まで見た彼女の出演作では彼女の魅力や能力を最も活かしきれていないように思われたのが不満だった。大体、18年ぶりに帰ってきた叔母が実は母親で、彼女が爆弾作りを生業にしているとか、そういう奇矯な設定を聞くと心がシャットダウンしてしまう今日この頃で。敢えて言えば、彼女達が食堂を営む下町の大家族という世界観とのギャップとか、山田望叶さんが演じる二階堂ふみさんの妹分のアンビバレントさを持つ年頃の役柄とか、板尾創路さんの演じるお父さんとかいったディテールは少しずつ面白かったんだけど。

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【不屈の男 アンブロークン】(6/10)

原題:【Unbroken】
監督:アンジェリーナ・ジョリー
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン
原作:ローラ・ヒレンブランド
出演:ジャック・オコンネル、MIYAVI、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:この映画は反日映画じゃないかって結構騒ぎになってたけど、このくらいの表現、【戦場のメリークリスマス】でビートたけしさん達が演じていた日本軍に比べて全然大したことないよ。ていうかむしろ、捕虜収容所の所長を演じたMIYABIさんを見てると坂本龍一さんが演じたヨノイ大尉が思い出されて仕方がないことの方が気になったんだけど。太平洋の島々の日本軍捕虜収容所を描いた映画ってそれほど数がある訳じゃないから、当然資料として見てるでしょ。少なくとも影響受けてんじゃない?……まぁオマージュ的なものだと解釈しとくけど。
ということで本編は、元オリンピック選手が戦争に行って散々苦労して、その後、自分が生き残ったことに意味と目的を見出した、という話に過ぎないのではないかと思った。むしろアンジェリーナ・ジョリー監督は、年老いた主人公が長野オリンピックで来日して聖火ランナーとして走った実際の映像までラストにインサートしており、憎しみではなく寛容の精神を持つことの重要性や日米友好を強く意識していたのではないだろうか。とんだ濡れ衣で気の毒だったと思うんだけど。

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【淵に立つ】(7/10)

監督・脚本:深田晃司
出演:古舘寛治、筒井真理子、浅野忠信、太賀、篠川桃音、真広佳奈、他
製作国:日本/フランス
ひとこと感想:無関心で事なかれ主義の夫とその妻、その幼い娘の三人の家族の元に、夫と過去に関わりがあったらしいある男がやって来る。昔何かやらかしたらしい夫は、これまでそのことに目をつぶって生きてきたけれど、男の出現により気持ちを揺さぶられる。また、妻は男に秋波を送られてよろめいてしまうが、その結果、巻き添えを食らった娘に取り返しの付かない障害が残ってしまう、これまで取り繕いつつ続けられていた家族関係はあっけなく崩壊。その後、男が去って何年も経ったぼろぼろの一家の元に、あろうことかあの男の息子がやってきた……。
人間、間違ってしまうことはあるかもしれないが、その間違いに対して不誠実であるというのが戴けないこの夫婦。結局自分の苦しみのことしか考えていない夫も夫だが、妻の不潔恐怖症も自分に向き合えていない証拠に他なるまい。そんでどうしても死にたいと言うのなら一人で死ねっての。子供の人生は子供のものであなたのものではないんだから、巻き込んでんじゃねー !!!!! 親のエゴで子供が苦しみまくり、親の因果が子に報いすぎって、私はそういう展開が本当に許せない。それだけ一生懸命見入ってしまったのは深田晃司監督の術中にまんまと嵌まってしまったということなんだろうけど、見終わった時には本当にもう心の底から疲れてしまった……。

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【フランコフォニア ルーヴルの記憶】(8/10)

原題:【Francofonia】
監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、ベンヤミン・ウッツェラート、他
製作国:フランス/ドイツ/オランダ
ひとこと感想:ルーヴル美術館の所蔵品をナチスから守ったジャック・ジョジャール館長を中心に描いたルーブルの歴史。美術館は数あれどやはりルーヴルは別格。美術品って民族の魂の記憶装置で、ヨーロッパなるものの根幹を形づくっているものの一つかもしれなくて、だから為政者が代わっても守り続けてこられたのかもしれない。ドイツの将校メッテルニヒが、本国からの命令よりも、美術品そのものの方を重要視していたのが興味深かった。ソクーロフ御大と初めて興味のベクトルが合ったみたいで、個人的には監督の作品の中で本作が一番面白く感じられた。

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【ブルゴーニュで会いましょう】(7/10)

原題:【Premiers Crus (First Growth)】
監督・脚本:ジェロール・ル・メール
出演:ジャリル・レスペール、ジェラール・ランヴァン、アリス・ダグリオーニ、ローラ・スメット、他
製作国:フランス
ひとこと感想:ブルゴーニュの家族経営のワイナリーって、それだけで心ときめく舞台設定!倒産の危機のため、実家を出てワイン評論家になっていた息子が戻ってワイン作りに挑戦し、その間に、隣家の幼馴染みの女性となんかもだもだしたりするが、お話は少々都合よく進み過ぎで、結局、万事都合よくあっさり解決しすぎな気はする。けれど、ブルゴーニュのワイン造りの雰囲気が味わえるので、まぁいいんじゃなかろうか。幼馴染みの女性の母親である隣家の名醸造家のマダムがかっこよかったので、アメリカのワイナリーの息子である女性のフィアンセとの相容れなさとかをもう少し掘り下げたりしたら面白かったんじゃないかと思うのだが。

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【ヘイトフル・エイト】(5/10)

原題:【The Hateful Eight】
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンス、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン
製作国:アメリカ
ひとこと感想:8人の登場人物が殺し合いをする西部劇。【レザボア・ドッグス】と似ているという意見を聞くけれど、私は全然違うような気がする。かの映画からは洒落っ気と茶目っ気が失われ、ここにあるのは剥き出しの増悪だけ。ここ何作かのタランティーノ映画に個人的に心が躍らなくなった理由に少し思い当たった気がした。

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【ヘイル、シーザー!】(6/10)

原題:【Hail, Caesar!】
監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、アルデン・エーレンライク、レイフ・ファインズ、ジョナ・ヒル、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、チャニング・テイタム、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1950年代のハリウッドは黄金時代にしてスタジオが有効に機能していた最後の時代。コーエン兄弟はこの時代を舞台にしたコメディを作りたかったのだそうで、ジョージ・クルーニー演じる大根役者の大スターはチャールトン・ヘストン、スカーレット・ヨハンソン演じる水着の女王はエスター・ウィリアムズ、チャニング・テイタム演じるミュージカル俳優はジーン・ケリーで、ジョシュ・ブローリン演じる主人公のフィクサーにもモデルがいるらしい。しかし、インタビューなどを読んでみると、コーエン兄弟はあくまでも思いついたアイディアを適宜投入してごった煮的なコメディを作っただけという認識らしく、共産主義者達が登場したのもたまたま時代的な背景が合致しただけということらしい。ぬるいコメディとして見ればそれなりに面白い部分もある、と言えるのかもしれないが、赤狩りの描き方とかこんなんでいいの?アメリカの映画人ってコーエン兄弟ほどの人達でもその程度の認識だったりするんだなー、とはちょっと思ってしまった。

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【ボーダーライン】(5/10)

原題:【Sicario】
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:テイラー・シェリダン
出演:エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:最近よく話題に上るメキシコ麻薬戦争を背景にした話で、メキシコとアメリカの国境地帯で麻薬カルテルの壊滅のために組まれたチームの作戦に巻き込まれた女性FBI捜査官が主人公。でもこの捜査官、起きていることにいちいちショックを受けすぎだわ、メンタルやられましたーってあっさり色仕掛けに引っ掛かって自ら混乱を招くわで、ナイーブすぎる上に脇が甘すぎ。メキシコの無法地帯ぶりの情報の一つも事前に持っていないなんてそれでもプロなの?と呆れてしまうし、チームの作戦が合法じゃないことにこだわりすぎるのも、アメリカ軍なんてそもそも世界中で非合法な軍事行動ばかりしてるじゃないかと全世界からツッコミを入れられそうなレベル。それがアメリカ自体を表すメタファーなのかもしれないけれど、そんなべそべそ泣くばかりのヘタレを女性に設定するのは何のセクハラなの?実際の主人公はベニチオ・デル・トロ演じる謎のメキシコ人コンサルタント(元メキシコの検事で妻子が殺されたという設定)みたいだけど、全体的にグダグダした展開でどうもすっきりしない。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督ほどの才人でもハリウッドに行くといろいろ難しいのかなー、とでも思わざるを得なかった。

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【ぼくのおじさん】(8/10)

監督:山下敦弘
脚本:春山ユキオ(須藤泰司)
原作:北杜夫
出演:松田龍平、大西利空、真木よう子、戸次重幸、寺島しのぶ、宮藤官九郎、キムラ緑子、銀粉蝶、戸田恵梨香、他
製作国:日本
ひとこと感想:ぼんくらで屁理屈ばっかりで生産性ゼロの、自称哲学者のおじさん。ムキになって子供と張り合ったりするようなところがある、よく言えば純粋、悪く言えば歳の割にナイーブすぎるところがあるような人だけど、基本的にいい人だから周りの人も憎めないんだろうな~。このトボけた味の松田龍平おじさんとしっかりものの甥っ子の大西利空くんの組み合わせがナイスで、まったりほんわか楽しくなってしまう、なごめる1本だった。

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【マイケル・ムーアの世界侵略のススメ】(6/10)

原題:【Where to Invade Next】
監督・出演:マイケル・ムーア
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:社会保障、教育、食事、刑罰の在り方、バカンス の在り方など。ヨーロッパ各国を巡って見習うべき社会制度を教わるのはいいとして、そこにアメリカの旗を立てて回るというコンセプトがよく分からん。しかし、日本ってアメリカの悪いところばかりをマネしてるんじゃなかろうかとつくづく思った。

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【マジカル・ガール】(7/10)

原題:【Magical Girl】
監督・脚本:カルロス・ベルムト
出演:ルシア・ポジャン、ルイス・ベルメホ、バルバラ・レニー、ホセ・サクリスタン、イスラエル・エレハルデ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:日本の魔法少女アニメが好きな白血病の娘のために1点物の高価なドレスを手に入れることを決意し、メンヘラ気味の女性を騙したがために報いを受ける男の物語。スパニッシュ・サスペンスに特徴的な陰鬱さも印象に残るが、やはり日本人的には、架空のアニメの主題歌として使われているアイドル時代の長山洋子さんのデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」(1984年)が耳に残るだろう。昔のアイドルの曲のポテンシャルって凄いな。そしてエンディングテーマは美輪明宏さんの【黒蜥蜴】のテーマのアレンジバージョンという、日本のオタクでもなかなかやらないディープなセレクション。このセンスは一体どこから来ているのだろう。本作ではスペイン×日本のコラボだったけど、今後世界のグローバル化がますます進むにつれ、こんなマッチングが世界のあちこちでもっと起こるようになるのかもしれない。

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【マネーモンスター】(9/10)

原題:【Money Monster】
監督:ジョディ・フォスター
脚本:アラン・ディ・フィオーレ、ジム・カウフ 、ジェイミー・リンデン
出演:ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:株で大損こいた人がテレビで売れっ子の経済コメンテーターを逆恨みして生番組をジャックする、てな話。よく分かってないのに株に全財産注ぎ込むなよ~とも言いたくなるが、実際、アメリカではこれに近い状態に陥るような人も少なくないのかもしれない。アメリカ社会には金持ちが貧乏人の金をますます掠め取るような仕組みが出来上がっており、そんな仕組みがグローバル化の名の下に着々と世界中に輸出されつつあるのは周知の事実。犯人は全く愚かだとはいえ、言ってることには一理あるのかもしれない。行き過ぎた新自由主義に翻弄される社会の歪みを約100分のリアルタイム・サスペンスに凝縮させてみせた、監督としてのジョディ・フォスターさんの力量は想像以上に凄いと思った。そして、ちょっとお調子者が入ったオジサンがよく似合うジョージ・クルーニー。この役だって絶妙なお茶目さがあるから奇跡的なバランスで成立しているのであって、凡百の人がやったら全く笑えないことだろう。番組ディレクター役のジュリア・ロバーツさんも、久々にお見掛けした気がするが、堂に入った演技がやはり素晴らしかった。

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【みかんの丘】(6/10)

原題:【Mandariinid】
監督・脚本:ザザ・ウルシャゼ
出演: レンビット・ウルフサック、エルモ・ヌガネン、他
製作国:エストニア/ジョージア
ひとこと感想:ジョージア(グルジア)からの独立を主張するアブハジア自治共和国が舞台の2作品を併映したうちの1本。どちらの作品も、どんな状況下でも人間としての尊厳を保ち続けようとする人々が描かれている。本作は、アブハジア自治共和国でみかん栽培をするエストニア人の集落が舞台で、ジョージア兵と、アブハジアを支援するチェチェン兵という敵同士を自宅で介抱することになる、というストーリー。このみかんは日本の温州みかんに似た品種で、ソ連邦時代に日本人の学者達がこの地方に植えたものが広がったのだそうだ。見たことのない場所のように見えて、案外近いところにある世界。地続きの世界にもいつの日かあまねく平和が行き渡りますようにと祈るしか出来ない無力さよ。

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【ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウン】(8/10)

原題:【Mr. Dynamite: The Rise of James Brown】
監督:アレックス・ギブニー
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:黒人ミュージシャンが二束三文で買い叩かれていた時代に白人と堂々と交渉し、バックバンドのミュージシャンも超一流に引き上げ、公民権運動にも大きな役割を果たす。ジェームス・ブラウンという人は、パフォーマーとしてのみならず、プロデューサーとしてもマネージャーとしてもビジネスマンとしても超一流の、本当に希有な天才的な才能の持ち主だったのだということがよく分かった。だからこそJBは、たまに迷走することがあったとしても、いつも時代を切り開くことができるような圧倒的なパワーに満ち溢れていたのだろう。本作を見たらそんなJBに惚れてしまうこと請け合い。数々のヒット曲や貴重な演奏シーンも満載なので見ても絶対損しません!

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【蜜のあわれ】(8/10)

監督:石井岳龍
脚本:港岳彦
原作:室生犀星
出演:二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、高良健吾、永瀬正敏、韓英恵、渋川清彦、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作は室生犀星の1959年の小説ということで、確かに昭和30年代っぽいレトロさが。言葉遣いなどもクラシックだけど、こういうちょっとワガママで理不尽な可愛い女の子に「おじさま」と呼ばれ甘えられたりスネられたり振り回されたりしたい、という価値観自体がいかにも古めかしい。こんな昭和なおっさんの妄想の産物も、金魚というコンセプトのもと、尾びれのようにひらひらの赤い服を着た二階堂ふみさんが、浮世離れしたヒロインを絶妙な加減で美しくもエロティックに演じればこそ、単なるロリコンに堕さずギリ格調高い文学ファンタジーに昇華できているのかもしれない。そういえば石井岳龍監督は、爆音系の映画を多く創る一方、耽美な世界を箱庭やテラリウムのように閉じ込めて完結させたような映画も結構創ってこられたことを思い出した。そして二階堂ふみさんに『痴人の愛』をやってもらいたいなー、という欲求もふつふつと芽生えてきた。

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【緑はよみがえる】(5/10)

原題:【Torneranno i Prati】
監督・脚本:エルマンノ・オルミ
出演:クラウディオ・サンタマリア、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:巨匠エルマンノ・オルミ監督のそのまたお父さんが、1世紀くらい前に第一次世界大戦に従軍した時の記憶の記録。しかし、作中では緑はよみがえらなかった……というか、人類愛で蘇らせなさいということなのね。

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【皆さま、ごきげんよう】(4/10)

原題:【Chant D'Hiver (Winter Song)】
監督・脚本・出演:オタール・イオセリアーニ
出演:リュファス、アミラン・アミラナシュヴィリ、ピエール・エテックス、マチュー・アマルリック、トニー・ガトリフ、他
製作国:フランス/ジョージア
ひとこと感想:自分はイオセリアーニ作品のいい観客ではないんだろうなぁと以前から思っていたけれど、本作で完全に駄目だということが分かってしまった。恐らく監督にはいろいろと言いたいことが溢れているんだろうけれど、その言葉をうまく汲み取ることができないポンコツ鑑賞者でほんとすいません。

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【ミュージアム】(6/10)

監督・脚本:大友啓史
共同脚本:高橋泉、藤井清美
原作:巴亮介
出演:小栗旬、尾野真千子、野村周平、丸山智己、伊武雅刀、田畑智子、市川実日子、大森南朋、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:小栗旬さんが、仕事熱心すぎて妻に愛想を尽かされ家庭が崩壊している旦那の役というのは新しいと思った(父親役も初めて見た気がする)。が、どうしてあのタイミングで犯人を捕まえない?どうして援軍を頼まない? どうして大して強くもないのに肝心なところで迂闊な行動ばかり取るの?等々、ストーリーには突っ込みどころが色々。そもそも、猟奇殺人もの自体に食傷気味だし。どの作品も、ショックを与えることばかりに血道を上げて、殺人の動機を後付けするのに四苦八苦している印象があるのだが、中途半端に人殺しばかり描いても宇宙の真理は分からないんじゃないのかね。もっと違った映画を作ろうよ。

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【無伴奏】(7/10)

監督:矢崎仁司
脚本:武田知愛、朝西真砂
原作:小池真理子
出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、藤田朋子、光石研、他
製作国:日本
ひとこと感想:小池真理子の学生運動の時代を背景にした半自叙伝的小説の映画化。つきあっていると思っていた男性が実は××で××が××したために××してしまったというちょっと予想外の展開で、絡みのシーンもいっぱいあり、ショッキングなくらいインパクトの強いシーンもあるが、成海璃子さん、池松壮亮さん、斎藤工さんは、こうしたちょっとリスキーなくらいに過激な役柄を真正面から真摯に演じており、それぞれに役者としての強い覚悟が感じられて好感が持てた。特に成海璃子さんは、傷つきながらも何かを得て大人になり前を向いて歩いて行こうとする女性の姿が、小さな頃に勝手につけられてしまい窮屈だっただろう清く正しいイメージを払拭しようと苦闘する姿に重なるみたいに感じられ、日本の映画やドラマの作り手の皆さんはどうかこの覚悟を大切に活かして欲しいと願わずにいられなかった。そして、どう転んでも重々しくならざるを得ないこのドラマを繊細に紡いだ矢崎仁司監督はやはり力のある監督さんだなぁと認識を新たにし、監督の近作では本作が一番好きだと思った。

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【めぐりあう日】(5/10)

原題:【Je vous souhaite d'etre follement aimee (Looking for her)】
監督・脚本:ウニー・ルコント
共同脚本:アニエス・ドゥ・サシー
出演:セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、エリエス・アギス、他
製作国:フランス
ひとこと感想:監督さん自身が子供の頃に韓国の養護施設からフランスに養子に出されたという出自の人ということなのだが、自分のルーツがはっきりしないということの寄る辺なさは自分にはどうしたって理解できないのかもしれない。でも、そこに観る者の想像力を引き摺り込むくらいの能動的な表現力はもっとあってもいいんじゃなかろうか。しかし、匿名出産による里親制度がしっかりしているのは凄いなぁ。こういう制度が徹底していない限り、赤ちゃんポストみたいな試みを否定できないんじゃないかと思うんだけど。

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【もしも建物が話せたら】(4/10)

原題:【Cathedrals of Culture】
監督:ヴィム・ヴェンダース、ミハエル・グラウガー、マイケル・マドセン、ロバート・レッドフォード、マルグレート・オリン、カリム・アイノズ
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/デンマーク/ノルウェー/オーストリア/フランス/アメリカ/日本
ひとこと感想:ベルリン・フィル、ロシア図書館、ハルデン刑務所、ソーク研究所、オスロのオペラハウス、ポンピドゥーセンターといった建物が話せるとしたら何を語るか、というコンセプトのドキュメンタリー。でも建物は話せないからそれは人間の勝手な思い入れじゃん、と身も蓋もないことを思ってしまったら、もう興味を取り戻せなかった。そして油断してたらすっごく長くて参った……。

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【モヒカン故郷に帰る】(8/10)

監督・脚本:沖田修一
出演:松田龍平、柄本明、前田敦子、もたいまさこ、千葉雄大、他
製作国:日本
ひとこと感想:YAZAWA好きで地元中学の吹奏楽部顧問のお父さん(柄本明さん)、お父さんのよき理解者のお母さん(もたいまさこさん)、優しい弟(千葉雄大さん)のほんわかとした家族が素敵で、お嫁さんとして気に入られようと観張るカノジョさん(前田敦子)も可愛い。とつとつと描かれる彼等の日常生活のゆったりとした空気感が心地よく、一つ一つのシーンにクスっと笑えるユーモアがあり、その中から大いなる隣人愛(今回の場合は家族愛)がじんわりと滲みだしてくるのに何とも言えない味わいがある。そうこうしているうちに、さざ波のように静かに、でも確実に流れていく人生の時間感覚までさりげなく描き出しているのは素晴らしいの一言。今後、山田洋次監督のスピリッツを現在の感覚にアップデートしてその遺伝子を受け継いでいくのは、もしかして沖田修一監督なんじゃないだろうか。そしてモヒカン君には一生今のまま変わらない心優しいモヒカン君でいて欲しい。今の時代、覚悟さえあればそういうのも可能だと思うの。

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【森山中教習所】(5/10)

監督:豊島圭介
脚本:和田清人
原作:真造圭伍
出演:野村周平、賀来賢人、岸井ゆきの、麻生久美子、音尾琢真、光石研、ダンカン、根岸季衣、他
製作国:日本
ひとこと感想:のっけのシーンで、つきあってもいない女の子を何の躊躇もなく利用する主人公を“脳天気”で片付けてしまう展開を見て、何だかこの世界には入り込めないぞ、と思った。そして、山奥の自動車教習所で再会した高校時代の同級生がヤクザの組員になってたというのも、マンガチックに過ぎる感じがした。おそらく、原作ではこういった展開がマンガ的表現として馴染んでいるんだろうけど、それをそのまま実写化しただけでは、共感を得られる物語として成立させることができるとは限らない。この映画にはそうした“映画的表現”への翻訳という必要不可欠な作業が足りていないような気がする。お仕事として漫然とこなすのではなく、魂を削り取って死ぬ気で注ぎ込んで欲しい。最近そういう熱量を持った映画を目にする機会が少なすぎる気がしてならない。

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【ヤング・アダルト・ニューヨーク】(6/10)

原題:【While We're Young】
監督・脚本:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・サイフリッド、チャールズ・グローディン、アダム・ホロヴィッツ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:主人公はニューヨーク在住のドキュメンタリー映画監督。現状はパッとせず、誰も興味がなさそうな小難しい新作を延々こねくり回している。自分を尊敬しているという若者に会ってすっかり舞い上がってしまうが、実はそいつは、主人公の妻が有名な映画監督の娘であるということを知っていて計算づくで近づいてきていた若手の映画監督で、主人公はそのやり口に激高してしまう。しかしその怒りは、自分の煮え切らない現状への苛立ちのすり替えでもあった。
こんなふうに七転八倒するいい歳した主人公の姿は、あまりにもナイーブであまりにも滑稽。でもこんな主人公を見ているのが辛いのは、近親憎悪なのだということはよく分かっている。自らを振り返ってみると、“ちゃんとやっていけている人間として蔑まれることなく扱われたい” という欲求(というか見栄)と現実とのギャップに翻弄される時代というのが確かに存在していたように思う。ベン・スティラー様はこういう役を自らのアイデンティティに逡巡する役を演じさせると、どこか憎めない愛おしい存在感を醸し出して抜群に上手い。結局、ベン・スティラー様やっぱりいいよねー、というのが結論であった。

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【湯を沸かすほどの熱い愛】(8/10)

監督・脚本:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、伊東蒼、オダギリジョー、松坂桃李、篠原ゆき子、駿河太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:【チチを撮りに】の中野量太監督の新作。見ていてそりゃないよ~と思ったのは、病気で手が痺れてるのに運転しようとするところ(子供乗せてて事故ったらどうする)、男の元妻がやってくるところ(女手が要るのかもしれないが)、夜中に病院の外で叫ぶところ(迷惑)、自分が死ぬことなかなか教えないところ(さっさと教えてやれ)、嫌がる子供を無理に学校に行かそうとするところ(この映画では最終的に自分で行くことを選んだけど、一般的には不登校には逆効果だ)、亡骸を某所で燃やしてしまうところ(……)、などなど。でも、こうしたことはどれも重箱の隅をほじくっているだけにすぎない。病気で寿命が尽きるまでに自らを燃やし尽くし、残された者に生きるエネルギーを託していくお母さんの造形がとにかく素晴らしく、宮沢りえさんにあまりにぴったりだった。今のこの時代に、今までにない切り口の家族の物語を創造できる才能は貴重。日本映画界は今後も中野量太監督を全力でバックアップしていくべきだろう。

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【ラスト・タンゴ】(5/10)

原題:【Our Last Tango】
監督:ヘルマン・クラル
(ドキュメンタリー)
出演:マリア・ニエベス、フアン・カルロス・コペス、パブロ・ベロン、アレハンドラ・グティ、フアン・マリシア、アジェレン・アルバレス・ミニョ、他
製作国:アルゼンチン/ドイツ
ひとこと感想:マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスはアルゼンチン・タンゴの世界的な普及に貢献してきた有名なペアなのだそうだが、元カップルである彼等の50年近くに渡る愛憎の歴史を延々と聞かされても、どういった反応をすればいいのやらよく分からない。様々なダンサー達によるダンスのシーンはどれも素晴らしく、こういうパッションのぶつけ合いこそがタンゴの魂なのだと改めて思ったけれど、全編で興味を維持するのは結構難しかったかもしれない。

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【リップヴァンウィンクルの花嫁】(10/10)

監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木華、綾野剛、Cocco、毬谷友子、金田明夫、原日出子、地曳豪、りりィ、他
製作国:日本
ひとこと感想:備忘録としてあらすじを書いてみる。黒木華ちゃんは気弱な性格のため教職をクビになり、ネットで探した男性と結婚することに。でも、両親が離婚していて帰る家もない華ちゃんは、結婚式に呼ぶ親族が少なすぎ、たまたまツイッターで知り合ったゴーアヤノに親族代行の派遣を依頼。その後、別れさせ屋に引っ掛かって離縁させられてしまうが、実は別れさせ屋の正体は、味方面していたゴーアヤノだった。しかし華ちゃんは、そんなゴーアヤノに引っ張られるままに、お屋敷に住むだけで大金が得られるという胡散臭いバイトをうっかり始めてしまう。すると、かつてゴーアヤノ依頼の親族代行のバイトで知り合っていたCoccoさんと再開し、親交を深めることに。しかし、実はそもそも……。
リップヴァンウィンクル(アメリカの浦島太郎的な存在らしい)とはCoccoさんのハンドルネームで、華ちゃんがその“花嫁”という意味だった。Coccoさんの存在も、華ちゃんとCoccoさんとの関係も最初から最後まで仮初めのものだし、ゴーアヤノは最初から最後まで胡散臭い。それでも確かなことは、ゴーアヤノは何かきっかけがあってCoccoさんに深く心を寄せていて、友人が欲しいという彼女の無茶振りに応えて華ちゃんを敢えて選んだのであろうことと、華ちゃんはCoccoさんと過ごした時間によって、初めて何物にも揺らがない本当の自分を得ることが出来たのだろうということ。映画でそんなことを描くことが出来るだなんて、岩井俊二監督、あなたは凄い。【リリイ・シュシュのすべて】と本作を撮ったので、あなたはもう巨匠ってことでいいと思う。他の誰がどう言うかは知らんが、私はそう認定することに決めたのだ。

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【リリーのすべて】(9/10)

原題:【The Danish Girl】
監督:トム・フーパー
脚本:ルシンダ・コクソン
原作:デヴィッド・エバーショフ
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ、セバスチャン・コッホ、他
製作国:イギリス/ドイツ/アメリカ
ひとこと感想:世界で初めて性別適合手術を受けた20世紀初頭のデンマーク人、リリー・エルベさんの実話の映画化。リリー役のエディ・レッドメインさん、上手すぎ!序盤ではちょっとソフトな印象だけど紛れもなく男性だったのに、ちょっとしたことから少しずつ女性性が目覚めていき、どんどん後戻りできなくなる、その少しずつの変化を克明に演じ分けているところが凄すぎる。リリーさんは最後は手術の予後が悪くて死んでしまうのだけれど、「やっと身も心も女性になれた」と弱々しくも心から晴れやかに微笑む笑顔に魂を根こそぎ持って行かれてしまった。リリーさんの妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルさんがまた素晴らしい。画家同士の夫婦で、夫とは当時珍しいような平等でリベラルな関係を築いていたのだが、男性として愛していた夫がどんどん消えていってしまうことに混乱しながらも、最後は友情とも愛情ともつかないような姉妹のような信頼関係で元夫を支える姿に心を打たれた。性同一性障害に苦しむ方々にはとってはまだまだ解決すべき問題が山のようにある世の中なのだろうけど、それでも、この映画で描かれたリリー・エルベさんを初めとする数限りない人達の勇気と涙の累積によって少しずつ世界は切り開かれ、この映画で描かれた時代と較べれば少しずつでも進歩してきているのではないだろうか。

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【ルーム】(9/10)

原題:【Room】
監督:レニー・エイブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、他
製作国:カナダ/アイルランド
ひとこと感想:小さな部屋で暮らす母親と幼い息子から物語が始まる。やがて彼等が監禁されており、息子はここ以外の世界を知らないことが分かってくる。この女性は誰かに誘拐されてこの部屋に連れて来られ、そこで息子が産まれたのだった……。監禁、ダメ。ゼッタイ。って前にも書いたんだが、こんな胸くそ悪い話が世界中であるなんてうんげり……。しかも、彼等が救出されてめでたし、とはならず、その後どうなったかまでを詳細に描いているのが辛すぎる。
女性の件で溝が出来てしまったのであろう女性の両親は離婚済みで、両親の元に帰ることを思い描いていたであろう女性にはもう帰る家がない。しかも、女性の父親は犯人を思い出させる女性の息子をどうしても受け入れられない。誘拐当時ティーンエージャーだった女性も、周囲の世界にうまく対応できず、しばらくするとPTSDも出てきて苦しめられる(最初とまどっていた息子の方が早く順応する)。監禁から生還できたのはよかったけれど、その傷はそんなに簡単にぬぐい去ることなどできる訳がないのであって、この傷の深さを実に丁寧に描き出しているのが秀逸。あの主人公の母子や、世界中でそうなふうな目に遭っている人達が、こんな部屋の軛から永遠にさよならできるよう願うしかなかった。
過度にドラマチックにならないやけに淡々としたタッチで、皆まで説明せず常識や想像力で補わせるような語り口。よく見たら本作はアメリカ映画じゃなくてカナダ映画だった。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の【プリズナーズ】といい(【プリズナーズ】の製作国はアメリカだが)、アトム・エゴヤン監督の【白い沈黙】といい、昨今のカナダ人監督の作品にはやけに監禁ものが多いような気がするのは何の因果なんだろうか。

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【ルドルフとイッパイアッテナ】(6/10)

監督:湯山邦彦、榊原幹典
脚本:加藤陽一
原作:斉藤洋、杉浦範茂
(アニメーション)
声の出演:井上真央、鈴木亮平、水樹奈々、八嶋智人、古田新太、大塚明夫、毒蝮三太夫、他
製作国:日本
ひとこと感想:知らない町に連れて来られた小さな黒猫のルドルフと、行く先々で違う名前を持つ町のボス的な虎猫のイッパイアッテナ。原作は有名な絵本だとのこと。絵柄もお話も、可愛いけど甘すぎないバランスのよさがいい。日本のごく普通の風景の中の四季の移り変わりの描写にこだわってところもよかった。

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【レヴェナント:蘇えりし者】(7/10)

原題:【The Revenant】
監督・脚本:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
共同脚本:マーク・L・スミス
原作:マイケル・パンク
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:息子を殺された男が復讐するという、言ってしまえばただそれだけの話。その中にネイティブアメリカンに対する蹂躙の歴史が垣間見えるとはいえ、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品にしてはいささか地味な印象を受ける。でもこの男を、ディカプリオさんが怒濤の迫力と圧倒的な緊密さで演じきっているのが凄い。これならアカデミー賞獲得も誰にも文句を言われない。やっと悲願がかなってよかったね!と心から思った。

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【レジェンド 狂気の美学】(6/10)

原題:【Legend】
監督・脚本:ブライアン・ヘルゲランド
原作:ジョン・ピアソン
出演:トム・ハーディ、エミリー・ブラウニング、他
製作国:イギリス/フランス
ひとこと感想:【L.A.コンフィデンシャル】【ミスティック・リバー】の脚本家、ブライアン・ヘルゲランドによる脚本・監督作で、イギリスでは切り裂きジャックと並び称せられるほど大変有名らしいクレイ兄弟という、片や切れ者、片や暴れ者という双子のギャングの物語。全く違う性格の二人を一人で演じたトム・ハーディさんの演技は、途中、一人二役だということを完全に忘れてしまうほどに凄い。長男の妻を演じたエミリー・ブラウニングも素晴らしい。ストーリーの感想は、へー、そんな人達がいたんだ、といった感じになってしまうけど、音楽の使い方とかがお洒落で、60年代のスウィンギング・ロンドンの雰囲気をまた別の角度から味わうことの出来る良作だと思う。

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【レッドタートル ある島の物語】(6/10)

原題:【La Tortue Rouge (The Red Turtle)】
監督・脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
共同脚本:パスカル・フェラン
(アニメーション)
製作国:フランス/日本
ひとこと感想:超名作の短編アニメ【岸辺のふたり】のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の長編デビュー作に、ジブリが製作会社の一つとしてジブリが関わった、ということらしい。お話は、無人島に流れ着いた青年とウミガメとの不思議な異類婚姻譚。画面は一見硬い印象もあるけれど、クラシックなお伽噺みたいな端正な美しさがあって嫌いじゃない。脚本に名前のあるパスカル・フェランは、以前に実写の監督作を何本か見たことがあって、ちょっと懐かしかった。

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【64‐ロクヨン‐】(8/10)

監督・脚本:瀬々敬久
共同脚本:久松真一
原作:横山秀夫
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、金井勇太、永瀬正敏、夏川結衣、芳根京子、三浦友和、赤井英和、筒井道隆、吉岡秀隆、窪田正孝、鶴田真由、菅田俊、奥田瑛二、柄本佑、小澤征悦、三浦誠己、椎名桔平、滝藤賢一、菅原大吉、仲村トオル、瑛太、坂口健太郎、嶋田久作、烏丸せつこ、緒形直人、他
製作国:日本
ひとこと感想:公式サイトなのに主要キャストすらろくに紹介されていないことがままあって頭にくることも少なくない今日この頃、公式サイトに出演俳優さんが全員書いてあるのが偉い!と思った。どんなにチョイ役でも意味のない役柄なんてないはずだし、キャストもスタッフも様々な人々の力が集結しないと映画なんてできない。そのことを疎かにしていない姿勢が嬉しい。そして、これだけの人数の群像劇を、一人も埋もれさせることなくしっかり見せきる瀬々敬久監督はやっぱり凄いと思った。
しかし、ピエール瀧さん主演のドラマ版の時も思ったけど、佐藤浩市さんも、警察という保守的な組織で組織の論理に揉まれる中間管理職を演じるには一匹狼的な匂いが強すぎるというか、ちょっと格好よすぎるんじゃないだろうか。主人公が、警察という組織の中であそこまでないがしろにされながら警察を辞めようとしない理由が、私にはよく分からないのだ。もっと中間管理職の泥臭さを前面に出しつつ、主人公が自分が警察官であることを愛している理由を印象づける流れがもう少しあってもよかったんじゃないだろうか。
あと、上映時間が4時間くらいあって料金が倍でもいいから前後編とか本っ当にやめてほしいんだけど……。瀬々監督の大ファンだから今回は泣く泣く行ったけど、同じ作品のために2回も映画館に行くのはしんどくて時間がもったいないんだよ。

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【湾生回家】(5/10)

原題:【湾生回家(Wansei Back Home)】
監督:ホァン・ミンチェン(黄銘正)
(ドキュメンタリー)
製作国:台湾
ひとこと感想:日本の植民地だった戦前の台湾に生まれ育ち、終戦時に日本に引き揚げてきた「湾生」の人達を追ったドキュメンタリー。普通に日本人として暮らしながら、今でも台湾に強い郷愁の念を抱き、折に触れ台湾を訪れる人々がこんなに多くいるなんて知らなかった。日本と台湾の独特な結びつきの礎はこのようなところにもあるのかもしれないと思った。

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