Back Numbers : 映画ログ No.94



2017年に見た全映画です。


【アウトレイジ 最終章】(5/10)

監督・脚本・出演:北野武
出演:西田敏行、大杉漣、塩見三省、岸部一徳、ピエール瀧、原田泰造、白竜、金田時男、津田寛治、大森南朋、名高達男、光石研、池内博之、中村育二、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:う~ん、さすがにマンネリ、だなぁ~。ある程度以上の興収が最初から見込める【アウトレイジ】の続編を、北野武監督が手掛けたい他の企画とのバーターで、という話があったんじゃないかと想像するが。

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【悪魔祓い、聖なる儀式】(7/10)

原題:【Liberami】
監督:フェデリカ・ディ・ジャコモ
(ドキュメンタリー)
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:今現在もイタリアで実際に行われているという悪魔祓いの様子を描いたドキュメンタリー。イタリアを中心にしたカトリック教会圏では今でも悪魔祓いの需要が相当あるらしいという衝撃。本編を見ると、昔【エクソシスト】で見たのと同じように、豹変して唸り声を上げる信者に、神父さんが本当にえいっ、えいっと何やら術のようなものを施している。大学にも悪魔祓いの養成講座があって、全世界から神父さんが勉強しに来ているらしい。マジか。これは要するに日本の狐憑きと同じようなある種の社会的ガス抜き装置のようなものなのだろうか。21世紀になっても、この世の中に、合理的な世界観の中に統合されることを拒む不合理な何かはどこかで脈々と息づいているのである。

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【あしたはどっちだ、寺山修司】(5/10)

監督:相原英雄
出演:寺山修司、他
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:常日頃から寺山修司嫌いを公言しているが、ただ嫌うのではなく、どういうところが嫌いなのか自分なりにもう少し知っておこうと思って本作を見てみた。寺山修司と特異な性格の母親との葛藤などを知ることができたのは収穫で、寺山修司は寺山修司で自分の中の葛藤と戦っていたのであって、ただマザコンと切って捨てるのはいささか理解が浅いのかもしれないと思い直すことができたのはよかった。けど、やはり寺山修司の大言壮語的でナルシストで自己陶酔的な部分は好きにはなれないけどな。

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【甘き人生】(6/10)

原題:【Fai bei sogni】
監督・脚本:マルコ・ベロッキオ
共同脚本:ヴァリア・サンテッラ、エドアルド・アルビナーチ
原作:マッシモ・グラメッリーニ
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、ベレニス・ベジョ、エマニュエル・ドゥヴォス、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:幼い頃に母親を自殺で亡くし心を閉ざしてしまいがちになった男性が、愛する人を見つけて新たな人生を踏み出すまでという自伝に基づく物語。夢のように甘くて優しすぎる母親(人知れない苦悩を抱えていたようで、主人公の幼少時に自殺してしまった)の記憶が切ないが、マザコンをこじらせたイタリア男は手のつけようがないという印象も強くした。

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【雨の日は会えない、晴れた日は君を想う】(6/10)

原題:【Demolition】
監督:ジャン=マルク・バレ
脚本:ブライアン・サイプ
出演:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:愛が醒めていた妻を事故でいきなり失った男の逡巡に寄り添う。愛はあった、ただその愛をうまく扱えなかっただけだ。ストーリー的には、そういうこともあるかもねと思うだけで、抑揚がないというか、地味と言えば地味。でもそこに映画としての地力を与えているのは、紛れもないジェイク・ギレンホールさんの力なのではないかと思う。

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【米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー】(2/10)

監督:佐古忠彦
(ドキュメンタリー)
出演:瀬長亀次郎、他
声の出演:大杉漣
製作国:日本
ひとこと感想:かつてTBSの「筑紫哲也NEWS23」でキャスターを務めていた佐古忠彦さんによる初監督作品。瀬長亀次郎さんというのは、アメリカ占領下の沖縄で米軍に表立って抵抗し続けた政治家で、本作はおそらく、その瀬長さんの存在を世に知らしめたいという純粋な動機でまとめられたもの。ただ、内容的に重要なことを伝えているのは重々分かるんだけど、二昔前のナレーション偏重のテレビドキュメンタリーの出来の悪いものみたいで、映画としては問題がありすぎる。見る側を引きつけるだけの最低限の話法がなければ伝わるものも伝わらない。せっかく映画を作るなら、ドキュメンタリー映画の秀作をいくつか見てみてからにして欲しかった、と真剣に思った。

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【ありがとう、トニ・エルドマン】(7/10)

原題:【Toni Erdmann】
監督・脚本:マーレン・アデ
出演:ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー、他
製作国:ドイツ/オーストリア
ひとこと感想:ほぼ変人の父親に振り回される娘。父親は仕事が忙しすぎる娘を心配して笑わせようとしたりしてるんだけど、どれも今一つ噛み合わない。こういう家族がいると実際扱いに困るだろうけど(笑)、娘の方も、そもそも家族に心身の健康とかを心配させるような生活を送っている以上、一人前と名乗るには何かが少し足りないのではなかろうか。ということを彼女自身も気がついて、自分を心配してくれる人の存在を、100%って訳じゃなくても受け入れるようになってめでたし。そんなちょっと変わった家族の物語が、独特のユーモアで描かれているところに、割とくせになりそうな味はある。

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【ANTIPORNO】(6/10)

監督・脚本:園子温
出演:冨手麻妙、筒井真理子、不二子、他
製作国:日本
ひとこと感想:ストーリーが展開する前にイメージ映像の羅列だけで終わってしまった印象。それに、大変申し訳ないけれど、ヒロインが下手すぎてそのイメージの喚起ですら十分できてない感じ。二階堂ふみさんクラスの女優さんをオファーできるだけの予算がないのなら、本作は引き受けない方がよかったのではあるまいか?でも、昨今“平凡な中年女性のエロス”市場を一手に引き受けている筒井真理子先生がいろいろ凄かったので、彼女のことだけでも見る価値はあるかもしれない。

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【美しい星】(6/10)

監督・脚本:吉田大八
共同脚本:甲斐聖太郎
原作:三島由紀夫
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中嶋朋子、佐々木蔵之介、他
製作国:日本
ひとこと感想:三島由紀夫が60年代に書いたSFが原作。この火星人さんやら金星人さんやら達は地球の心配をしてくれているのよね……?あまりにもぶっ飛び過ぎてて一見では訳が分からず、1960年代に描かれた原作では核戦争の恐怖だった部分が、本作では環境破壊やエネルギー問題に置き換えられているらしい、と聞いたが、やっぱりワケワカランかった!分からないものを分かったふりをするのはこの際やめておこう。でもこういう異物感は、かえってまるごと忘れ難い印象になってずっと心に残ったりすることがままあるんだよね。

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【海は燃えている イタリア最南端の小さな島】(6/10)

原題:【Fire at Sea】
監督:ジャンフランコ・ロージ
(ドキュメンタリー)
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:最もアフリカに近いイタリアのランペドゥーサ島。この島に流れ着くアフリカや中東からの難民達の厳しい現実と、彼等と直接交わることのない島の人々の静かな生活、そして両者と接点がある島のただ一人の医師などを、【ローマ環状線、めぐりゆく人生達】のジャンフランコ・ロージ監督が描く。しかし、例えばNHKなどでも同様のドキュメンタリーが少なからず放送されたりしている中で、本編の作風はあまりに淡々としていて、印象に残りにくいかもしれない。思うところのあった皆様には、個人的に(ドキュメンタリーではないけれど)【海と大陸】や【13歳の夏に僕は生まれた】などをお勧めしてみます。

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【海辺の生と死】(9/10)

監督・脚本:越川道夫
原作:島尾ミホ、島尾敏雄
出演:満島ひかり、永山絢斗、川瀬陽太、井之脇海、津嘉山正種、他
製作国:日本
ひとこと感想:小栗康平監督の【死の棘】の島尾敏雄・島尾ミホ夫妻の出会いの物語。戦争という究極的に不条理な状況の力もあったのかもしれないが、まるで少女のようだった沖縄の島の小学校の先生は、兵隊として死にゆく運命にある一人の男性と愛し合うようになり、急速に一人の女性へと変貌を遂げていく。その過程を真正面から描写しているのが圧巻の一言で、映画を見ている間、8割方はその役を演じる満島ひかりさんに見惚れていた。満島さん、どんだけ力がある女優さんなんだよ……。その圧倒的な女優力に打ちのめされつつ、どう転んでも1ミリも救いがなさそうなので今まで避けてきた【死の棘】をやっぱり見なきゃ駄目か~と頭を抱えた。

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【海辺のリア】(8/10)

監督・脚本:小林政広
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛
製作国:日本
ひとこと感想:おそらく認知症である元有名俳優とその家族の物語に『リア王』が重なり合う。黒木華さん、原田美枝子さん、小林薫さん、阿部寛さんという名優しかいない出演者の中でも、コートを羽織ったパジャマ姿で海辺を彷徨う仲代達矢大先生はやはり圧巻オブ圧巻。今後の映画も全出演作見ますんで、どうぞいつまでもお元気でいてください。

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【永遠のジャンゴ】(6/10)

原題:【Django】
監督・脚本:エチエンヌ・コマール
原作:アレクシ・サラトコ
出演:レダ・カテブ、セシル・ドゥ・フランス、他
製作国:フランス
ひとこと感想:マヌーシュ・スウィングの雄ジャンゴ・ラインハルトの伝記映画というよりは、ジャンゴの人生の一部分を借り受けてナチスのロマ(ジプシー)の人々への迫害を描こうとした映画じゃないかと思った。ナチスによるユダヤ人の迫害は幾多の映画になっているけれど、ユダヤ人の次に大量の人数が虐殺されたというロマの人々への迫害は今まであまり映画で描かれてこなかったから、それを描くのは意義のあることだったに違いない。でもよう。それは私が今回このタイトルを聞いて求めたものじゃなかったんだよな……。

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【映画 潜行一千里】(9/10)

監督:向山正洋
(ドキュメンタリー)
出演:「空族」の皆さん、他
製作国:日本
ひとこと感想:【サウダーヂ】の制作チーム空族(くぞく)の最新作【バンコクナイツ】のメイキング。ロケハンなどで舞台となっているタイやラオスを巡る空族の皆さんの口から流れ出る知識や造詣があまりに深く、その向き合い方があまりに真摯で驚かされた。この映画を長年構想していたと仰るのも納得だし、彼等が想像以上の確信犯で映画を創っていることを知ることができたのもよかった。

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【AMY SAID エイミーセッド】(6/10)

監督・脚本:村本大志
共同脚本:狗飼恭子
出演:三浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍進、石橋けい、大西信満、村上虹郎、大橋トリオ、渡辺真起子、村上淳、柿木アミナ、他
製作国:日本
ひとこと感想:多くの個性派俳優を擁するマネージメント会社ディケイドが設立25周年を記念して製作した映画。昔の映研の仲間が、アイドル的存在だった女性の命日に集まる、といった話なのだが、正直個人的には、ところどころでウンチクを挟むようなあまりにもあからさまなシネフィルのノリが気恥ずかしいし、こういういかにもなタイプのファムファタル(というにはあまりに幼稚くさい)にはゲーが出そうになり、こんな女に運命狂わされたとか言っているような人達とはあまり関わり合いになりたくない、といった感想しか抱けなかった……。けれど、この際そうした話はあまり重要ではないかもしれない。会社一丸となり、これだけの面子が力を結集させて一つの作品を作ろうとしている、その美しい姿を確かめることができればそれで充分なんじゃないかと思った。

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【エタニティ 永遠の花たちへ】(6/10)

原題:【Eternite】
監督・脚本:トラン・アン・ユン
原作:アリス・フェルネ
出演:オドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ベレニス・ベジョ、ジェレミー・レニエ、ピエール・ドゥラドンシャン、他
製作国:フランス/ベルギー
ひとこと感想:ベトナム出身でフランス在住のトラン・アン・ユン監督が描く、上流階級の美しく愛情深い女性達と、その誠実な夫達の、3世代に渡る物語。夢のように美しく、そして少し退屈。けれど、こんなふうな絵本から抜け出してきたみたいな理想的な世界を構築してみたかったと言うのなら、これはこれでいいのだと思う。

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【エル ELLE】(8/10)

原題:【Elle】
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
脚本:デヴィッド・バーク
原作:フィリップ・ディジャン
出演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジョナ・ブロケ、他
製作国:フランス/ドイツ/ベルギー
ひとこと感想:【ベティ・ブルー/愛と激情の日々】と同じフィリップ・ディジャン原作。主人公は、幼い頃に父親が大量殺人事件を起こし、警察からもマスコミからも酷い目に遭って何一つ信用しなくなった女性で、強姦という目に遭ってすら通報もせずに自分一人で解決しようとする。仕事でセクハラを受けても、馬鹿息子がひどい女と結婚しても同じで、親友の旦那だろうと不倫なんて平気(結局親友は離婚してしまうが、主人公の友人ではあり続けた)。元旦那にガールフレンドができるとさすがに面白くなかったようで、別れさせようと地味な嫌がらせをするけれど……。決してお綺麗ではなく、善人でも極悪人でもなく、あるがままに我が道を行き、自分を蹂躙しようとするものたちを噛み砕いて食い破る因業まみれの“彼女”。こういう女性をわざわざ描こうとするなんて、ポール・ヴァーホーヴェン監督はどこまで悪食……いやいや、真性のディープな女好きなんだろう。

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【エルネスト】(8/10)

監督・脚本:阪本順治
原作:マリー・前村・ウルタード、エクトル・ソラーレス・前村
出演:オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、ロベルト・エスピノサ、他
製作国:日本/キューバ
ひとこと感想:フレディ前村という、チェ・ゲバラの配下でボリビア解放闘争を戦ったボリビア出身の日系2世がいたそうだ。彼は、医者を目指してキューバに留学している間に革命思想の影響を受け、後にゲバラのファーストネームのエルネストをもらって共にボリビアに赴いたそうだが、本作には、そんなフレディ前村氏の目から見たチェ・ゲバラの姿が描かれている。志半ばで死に、文字通り革命に命を捧げたことから、図らずも自ら理想を求めて戦った時代の美しさのアイコンとなったゲバラ。映画の公式HPに「もし我々を空想家のようだと言うなら/救いがたい理想主義者だと言うなら/できもしない事を考えていると言うなら/我々は何千回でも答えよう。その通りだと」というゲバラの言葉が掲載されているが、阪本順治監督ご自身が、今、何かの理由で、理想を求めて何が悪いんだと声を大にして言いたいのではなかろうか。
ところで、この映画を見て驚いたことが二つ。チェ・ゲバラって来日して広島の原爆資料館とか行ったことがあるんですか!マジかよ!(しかも「(日本は)アメリカにこんな目に遭わされて何故怒らないんだ」的な発言をなさったらしい。)そしてオダギリジョーさんのスペイン語の素晴らしいこと。(しかもしっかりボリビアの方言になっているらしい。)【Foujita】の時のフランス語にもびっくりしたけど、もしかして意味が分かっていなくて発音を真似しているだけだとしても十分凄いわ。

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【エルミタージュ美術館 美を守る宮殿】(7/10)

原題:【Hermitage Revealed】
監督:マージー・キンモンス
(ドキュメンタリー)
製作国:イギリス
ひとこと感想:YOIの影響でロシアの文物への興味のアンテナが鋭敏になっている今日この頃。本作はエルミタージュ美術館をいろいろな角度からがっつり描いており、満足できる内容だった。エルミタージュ美術館の建物自体の美しさに驚かされたし、エルミタージュ美術館がサンクトペテルブルクやロシアの歴史と分かちがたく結びついた生きた美術館だということもよく分かってよかった。

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【エンドレス・ポエトリー】(6/10)

原題:【Poesia Sin Fin】
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:アダン・ホドロフスキー、ブロンティス・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、他
製作国:フランス/チリ/日本
ひとこと感想:アレハンドロ・ホドロフスキー監督が自らの半生を描いた【リアリティのダンス】の続編。ただ、ホドロフスキー監督のガチファン以外の人にどちらか1本を勧めるなら前作かな。

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【おクジラさま ふたつの正義の物語】(9/10)

監督:佐々木芽生
(ドキュメンタリー)
製作国:日本/アメリカ
ひとこと感想:私が「くじらの博物館」の見学のために和歌山県の太地町を訪れたのは、【ザ・コーヴ】によって世界中から反捕鯨活動家が押し寄せるようになるより遥かに大昔で、その頃の太地町は静かでのどかな海辺の町という印象だった。(そう言えば私は【ザ・コーヴ】はコワすぎてまだ見ていない……。)私は、鯨に限らず牛だって豚だって日頃から大切に戴いているし、環境に配慮しながらであれば昔から受け継いできたライフスタイルを守っていく権利があると思っているので、海外の人達の一方的な物言いは本当にどうかと思っている。ただ、日本側も意見があるなら、分かってもらえないと内側に向かってイジけてないで、もっと外側に発信していかなければならない時代になっているのだということは理解する必要がある。そうした中でこの映画は、様々な立場の人々に取材し、撮影当時に現地で何が起こっていたのかをなるべく公平で多彩な角度から描き出そうと努力しているところに、一定の価値があるのではないかと思った。
ちなみに、現在日本には、北海道の網走と函館、宮城県石巻市鮎川、千葉県南房総市和田、和歌山県太地町の5箇所に沿岸小型捕鯨の鯨体処理場があり、イルカ漁が許可されているのは北海道・青森・岩手・宮城・千葉・静岡・和歌山・沖縄で、イルカ追い込み漁を実際に行っているのは和歌山県太地町のみとのことである。(イルカも小さい鯨類にあたるそうだが、鯨の大型・小型の分類は結構適当なのだそうだ。)私は、和歌山県と同じく捕鯨を続けている千葉の県民の一人として、鯨を食べる機会をもっと増やそうと思った。ただし、本編の一部で取り上げられている生物濃縮による鯨の水銀汚染の問題は看過できないかもしれない。現状では問題ないらしいが、子供に食べさせるのはちょっと考えてしまうという意見はもっともだ。

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【奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール】(3/10)

監督・脚本:大根仁
原作:渋谷直角
出演:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、リリー・フランキー、松尾スズキ、天海祐希、他
製作国:日本
ひとこと感想:「思っていたより男性の観客層を取り込むことができなかった」という製作サイドの反省の弁がどこかに載っていたのだが、作る前に分からんかったんかーい !! 私のような奥田民生に馴染みのある世代のおばさんですら、何で今頃奥田民生なの?って思ったし、映画を見てもその疑問点は全く払拭されなかったんだけど。しかも女の方も、二昔前くらいのあまりにもお脳の軽いステレオタイプなプレイガールだったので唖然。あまりにもひどいキャストの無駄遣い。この映画を作ろうと言い出した人は深く反省した方がいい。

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【幼な子われらに生まれ】(9/10)

監督:三島有紀子
脚本:荒井晴彦
原作:重松清
出演:浅野忠信、田中麗奈、寺島しのぶ、宮藤官九郎、水澤紳吾、池田成志、南沙良、鎌田らい樹、新井美羽、他
製作国:日本
ひとこと感想:浅野忠信さんの演じる主人公は、離婚した前妻(寺島しのぶ)との間に一子がいるが、子連れの女性(田中麗奈)と再婚しており、もうすぐ二人の子供が生まれる予定である。ところが、何かの原因でスネてしまった女性の連れ子が、DVのために女性と別れた実の父親(宮藤官九郎)に会いたいと言い出した……。主人公は、前妻の気持ちには寄り添えずに失敗してしまったが、今は一つ一つの出来事に誠実に悩み、(時には相当血迷ったりもするが、)何とか答えを見出しながら、新しい命を授かった家庭を営んでいこうとしている。そんなこれまでにない役柄に挑戦した浅野忠信さんが素晴らしい。(そして、その現妻を演じる田中麗奈さんの新境地も見逃せない。)これだけ離婚や再婚が当たり前になっているのに、離婚や再婚のその後をじっくり描いた家族ドラマはまだまだ少ないのだと本作を見て気づかされたのだが、本作は、そんな時代の一つの雛型になれるのではないかと思う。がんばれお父さん!そして三島有紀子監督も、これからもますますご活躍下さい!

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【お嬢さん】(8/10)

原題:【아가씨】
監督・脚本:パク・チャヌク
共同脚本:チョン・ソギョン
原作:サラ・ウォーターズ
出演:キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:予備知識がなかったから、スレた人間ばかりが出てくる心寒い化かし合いの話かと思っていたら、お嬢さんと詐欺師一味の女のとんだロマンティック純愛ストーリーだった。イギリスのレズビアン・ミステリーが原作だそうだが、日本占領下の韓国の話になっているのは、有象無象の胡乱な時代というイメージがあるからだろうか。ぱっと見、ストーリーに少々混乱してしまうところもあったんだけど、二人のラブストーリーなんだと思えば存外シンプルな気がしてきた。お嬢さんの背景がちょっと分かりにくかったのだが、お屋敷で性の愛玩物にされるために監禁に近い状態で育てられたということでいいのかな。今の日本にこんなハードな役が演じられそうな若い美人の女優さんはほとんどいないだろうから、お嬢さんが時々ヘンな日本語を話していてもオッケーイ。古い軛(くびき)から軽やかに旅立っていく二人の未来に幸あれ。

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【オン・ザ・ミルキー・ロード】(7/10)

原題:【On The Milky Road】
監督・脚本・出演:エミール・クストリッツァ
出演:モニカ・ベルッチ、プレドラグ・“ミキ”・マノイロヴィッチ、スロボダ・ミチャロヴィッチ、他
製作国:セルビア/イギリス/アメリカ
ひとこと感想:エミール・クストリッツァ監督の久々の新作だが、血塗れのアヒルや、残虐に殺戮された動物たちや、ミキ・マノイロヴィッチ先生の存在などの幾つかの見たことがあるようなモチーフに、本作が約20年前の【アンダーグラウンド】の姉妹編なのだと思い至る。ユーゴスラビアという、ある種の理想を掲げて作られた国が瓦解してしまったという事実は、クストリッツァ監督の中に深く刺さって抜けないトゲなのだろう。(それを大セルビア主義だと批判した人達がいたことも含めて。)そして、戦い続けることしかできず、欲望を満たすために破壊し続けることしかできない人間は、20年前から全然進歩していないのだという、全編を覆う強烈な皮肉に暗い気持ちになった。でも、だからこそ、愛しい女を地雷で失った男が、地雷原が爆発しないように粛々と石を運び続けて埋めようとしているラストシーンには、不覚にもちょっと涙してしまった。
しかし、モニカ・ベルッチ様に出演してもらうからって、ちゃっかり相手役におさまっているクストリッツァ監督、相変わらずお元気そうで何よりです!

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【怪物はささやく】(4/10)

原題:【A Monster Calls】
監督:J・A・バヨナ
原作・脚本:パトリック・ネス
出演:ルイス・マクドゥーガル、フェリシティ・ジョーンズ、シガニー・ウィーバー、ドビー・ケベル、他
声の出演:リーアム・ニーソン
製作国:アメリカ/スペイン
ひとこと感想:死にゆく病気の母親などのいろいろな現実を受け入れられない少年のもとに、怪物がやって来て“真実の物語”を語り始め、少年にも自身の物語を語るよう促す……。実は少年は心の底で、こんな苦しい状況は早く終わって欲しい、と願っていたというオチ。しかし、心の中の怪物的なものは、具象化されると大体矮小化されてしまうもので、この造形はやはり残念な感じの域を出なかった。個人的には、シガニー・ウィーバー先生がおばあさん役というのがショックだったのだが、そりゃそうだよねぇ、初代【エイリアン】も約40年前の映画なんだもんねぇ……。

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【家族はつらいよ2】(7/10)

監督・脚本:山田洋次
共同脚本:平松恵美子
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン、笑福亭鶴瓶、劇団ひとり、有薗芳記、他
製作国:日本
ひとこと感想:前作同様、我儘勝手で被害者意識いっぱいの爺さん(橋爪功さんが上手すぎる)にウキーッとなる。妻の留守中に飲み屋の女将とランチに行く途中(いい気なもんだ)、昔の同級生が道路工事の交通整理のバイトをしているところに出くわし、そのことを考えているうちにダンプカーに衝突。事故は示談になったものの、事故ったことが家族にバレて、免許を返上させようという問題に。その間に、爺さんは例の同級生を探し出し、プチ同窓会が催されたが、実は例の同級生は、実家の事業に失敗し、今は独りで暮らしているのだった。経済的に立ち行かなくなったとしても、独り暮らしだとしても、それをどう捉えるかは個人の感じ方で、それで人生失敗したと他人が断定するのは失礼じゃない?と思っていたら、爺さんは爺さんなりにそのことを悟っていたようで安心した。免許返上問題は結局は解決を見ないけれど、現実的にもいろいろあってなかなか難しい問題だからなぁ。そしてこの展開は、間近でいきなり誰かが急死した時のマニュアルにもなるかもしれない。最終的に、いろんな人生が透けて見える展開になっているのは見事で、山田洋次監督の構想に現代的なバランス感覚を与えて肉付けをしていると思われる共同脚本の平松恵美子さんの力も大きいのではないかと予想する。ただ、今の現実の世の中に、あんなに物事がよく分かっていて、かつ出しゃばらず旦那を立てるような“いい嫁”達なんてそうそういないんじゃないの?前作に引き続き、あればかりは少々ファンタジーが過ぎるんじゃないかと思った。

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【勝手にふるえてろ】(7/10)

監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、前野朋哉、古館寛治、片桐はいり、他
製作国:日本
ひとこと感想:ヒロインは“二股”って言い張るけど、片方は完全なる片想いというか妄想の産物だったりする。この思い込みが激しすぎてちょっとズレていて、一歩間違えればコワいことになりかねないヒロインが、一生懸命でひたむきで可愛い女としてこんなに魅力的に映るのは、一にも二にも松岡茉優さんの実力の賜物だろう。想像以上に素敵な映画になっていてびっくりしてした。

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【彼女がその名を知らない鳥たち】(9/10)

監督:白石和彌
脚本:浅野妙子
原作:沼田まほかる
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、他
製作国:日本
ひとこと感想:白石和彌監督の新作で、冒頭に出てくる悪質なクレーマーのゲス女が蒼井優さん演じる主人公。彼女は、松坂桃李さんや竹野内豊さんの演じるクズ男達に、それはもうエゲツない目に遭わされる。彼女もまるで誉められた人間ではないけれど、彼女は本当は、自分には若さと美しさしか売り物になるものはないと分かっていて、それに見合うちょっとカッコいい男からのちょっとした愛が欲しいだけなのに、男達はそんな彼女の思いにつけ込んで利用する。愚かな女がその愚かさゆえになぶられる話って見ていて本っ当ツラいのよ……。一方、阿部サダヲさんの演じる男性は。そんな彼女を徹頭徹尾愛しおり、彼女にお金をあげるわ、ご飯も作ってくれるわ、あんなことやこんなことにまで滅私奉公的に付き合う始末。見てくれが悪いから彼を恋人候補から外している彼女も、自分を本当に愛してくれるのは彼だけだと内心では分かっているのだけれど……。彼女が男達の嘘に直面せざるを得なくなってしまった時、阿部サダヲさんの捧げる全身全霊の愛に、地獄で光明を拝みたい気持ちになった。
この映画を見る限り、かつての蒼井優さんは、お嬢さん女優的なポジションにとてつもない窮屈さを感じていたのではあるまいか。ここ何作かで本領を発揮し始めてきた感のある彼女の、本作を超えるほどの当たり役を見てみたい気がする。また、映画ファンの皆さんは、クズ松坂やクズ竹野内、スパダリ阿部もお見逃しになりませんように。

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【彼女の人生は間違いじゃない】(7/10)

監督・原作:廣木隆一
脚本:加藤正人
出演:瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子、戸田昌宏、安藤玉恵、波岡一喜、麿赤児、他
製作国:日本
ひとこと感想:福島の仮設住宅に住み、市役所に務めながら、週末だけ上京してデリヘル嬢として働く女性の話を、廣木隆一監督が描く。ほぼ全てタイトルが物語る通り。彼女は、手段はどうあれ、誰も知らないところで自分をリセットしたかったのかな。妻を失い農業ができなくなり、パチンコに溺れて娘に苦労を掛ける彼女の父親の姿は痛々しかったけれど、子供のことを背負ってくれない親を子供が背負わなくてもいいんじゃないかとは思った。

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【カフェ・ソサエティ】(6/10)

原題:【Cafe Society】
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ブレイク・ライブリー、スティーヴ・カレル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ハリウッドで成功したかった少年が、名士が集まるカフェの経営者に。一方、破れたはずの初恋の相手との焼けぼっくいに火が付く。1930年代の華やかなりしハリウッドの雰囲気に、ほろ苦い恋のテイストをミックスした展開は悪くない。しかしなー。不倫モノを作る時のウディ・アレン監督って、大抵本当に不倫していたっていう過去の歴史がちょっと気に掛かるんだけど……。

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【南瓜とマヨネーズ】(7/10)

監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ
出演:臼田あさ美、太賀、オダギリジョー、浅香航大、若葉竜也、大友律、光石研、清水くるみ、岡田サリオ、他
製作国:日本
ひとこと感想:ミュージシャン志望で他には何もしない恋人のためキャバクラで働き、後にはどこかのおっさんと愛人契約まで結んでしまう女性が主人公。音楽にこだわりがあるあまり身動きが取れなくなっていて昔の仲間すらディスる恋人も蛸だけど、しばらくヨリを戻さない?と本気で付き合う気は毛頭ないのに落ち込んでいる彼女に堂々と近づいてくる元カレも大概、芋。(この一見自由奔放で魅力的な元カレを演じるオダギリジョーさんが何とも絶品なのだが。)こんな我儘身勝手な男達の間で、自分の進むべき方向が分からずに苦しむ女性を演じた臼田あさ美さんが見事で、(原作読んでないので想像だけど)魚喃キリコさん作品独特のゆらぎがリアルな人間の内面として絶妙に血肉化されているんじゃないかと思う。この繊細な仕事を見事にやってのけている冨永昌敬の手腕の確かさを改めて感じた。

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【彼らが本気で編むときは、】(10/10)

監督・脚本:荻上直子
出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、りりィ、品川徹、田中美佐子、柏原収史、江口のりこ、他
製作国:日本
ひとこと感想:リンコさんとマキオくんのカップル最強!生田斗真さんが演じるトランスジェンダーのリンコさんは本当に女性にしか見えなくなってくるし、桐谷健太さんが演じる優しくて包容力のあるマキオくんは、桐谷さんが演じる様々な人物の中で最も好きなタイプの役柄だ。彼等のもとに訳ありの姪っ子がやってくるストーリーなのだが、リンコさんに理解のあるお母さんや、姪っ子の同級生親子(小池栄子さんはこういう役をやらせたら本当に上手い)など、人物配置が完璧。そして、リンコさんが悔しい目に遭った時になくしたちんこを一心不乱に編んでいるというエピソードも秀逸。(煩悩の数の108個編み上げたら浜辺で焼いて供養して女性の戸籍を取得するつもりだそうだ。)二人からの愛を得て、小学生女子の姪っ子は、問題行動の多い母親に寄り添って面倒をみてあげることを決意するのだが、そこに至る流れに説得力がある。荻上直子監督、こんなに私の好きなものばかりがたくさん詰まった映画を創って下さってどうもありがとう!
リンコさんのお母さんと確執があるリンコさんの祖母を演じたりりィさんの演技も光っていた。この後にご出演なさった【追憶】が遺作になるそうだ。りりィさんの本業は歌手だと認識しているけれど、他の人には真似のできない存在感で日本映画の数多くの作品を彩って下さった。本当にありがとうございました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


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【きっと、いい日が待っている】(7/10)

原題:【Der kommer en dag】
監督:イェスパ・W・ネルスン
脚本:セーアン・スヴァイストロプ
出演:アルバト・ルズベク・リンハート、ハーラル・カイサー・ヘアマン、ラース・ミケルセン、ソフィー・グローベル、他
製作国:デンマーク
ひとこと感想:1960年代のコペンハーゲンの養護施設で実際にあったという少年達への日常的な虐待を描く。目を覆うようなエピソードの波状攻撃に、きっといい日が……待ってるのかこれ?と、この邦題が俄には信じがたくなる。実際、この施設出身の当時の少年達は今でも後遺症に苦しんでいる人が少なくないというじゃない。当時は、子供は言うことを聞かない生き物だから厳しくしつけなければいけないという考え方もあったのかもしれないが、度を超えた暴力的な制裁による支配が子供のためになる訳ないし、少年達を欲望の対象にする輩までいたなんて問題外。職員も、口答えをすればクビという環境で、判断力を鈍化させ、誤った考えにも従うようになっていったなんて、この体質は今の日本のブラック企業そのもの。こうしたことは、世界中で場所や時代を問わず発生し得る事案なんだなと思うと、暗澹たる気持ちになった。

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【希望のかなた】(7/10)

原題:【Toivon tuolla puolen】
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイヴラ、ヤンネ・ヒューティアイネン、ヌップ・コイブ、カイヤ・パカリネン、ニロズ・ハジ、サイモン・フセイン・アルバズーン、カティ・オウティネン、マリヤ・ヤルヴェンヘルミ、他
製作国:フィンランド
ひとこと感想:フィンランドのカウリスマキ監督の周囲にも難民問題が押し寄せてきている様子。カウリスマキ監督は、前作の【ル・アーヴルの靴みがき】を“港町三部作”として構想していたらしいけど、本作を撮って“難民三部作”に変更したらしい。監督独特の、一見ドライな空気感の中に、人間の優しさや暖かさがユーモアに包まれて滲み出る作風は相変わらず。そして、エトランゼ(異邦人)に対して同胞として優しい目線を向ける監督が昔から持っていた傾向が、難民問題を描いた本作にも出ていたように思う。しかし……ある難民の青年の厳しい状況が、厚意の手を差し伸べてくれる人々のおかげで好転したかに見えたのに……えーっ !! そんな終わり方 !? これは難民問題はまだ何も解決していないということのメタファーなんだろうか。

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【愚行録】(4/10)

監督:石川慶
脚本:向井康介
原作:貫井徳郎
出演:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満、他
製作国:日本
ひとこと感想:大学内の学生同士のヒエラルキーの上下とか心底どうでもいいし、理想的な夫婦に見えた彼等の裏の顔がとか、あの価値観の中での“幸せ”が何かとか言われても、全然何の感慨も湧かないんですけど。満島ひかりさんは、演技は上手いんだけど、あのような価値観の中で右往左往するタイプには全く見えないし、その満島さんに相対する妻夫木聡さんも、演技プランに最後まで迷ったとインタビューで仰っていた通り、役柄に対する迷いがそのまま画面に出てるみたい。また、満島さんや妻夫木さんの存在感に対して、周りの人達の印象が弱すぎるんだよね。二人とも、本作ばかりは作品のチョイスをちょっと間違えてしまったのではないだろうか。

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【KUBO クボ 二本の弦の秘密】(8/10)

原題:【Kubo and the Two Strings】
監督:トラヴィス・ナイト
脚本:マーク・ハイムズ、クリス・バトラー
声の出演:アート・パーキンソン、シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、ジョージ・タケイ、ルーニー・マーラ、レイフ・ファインズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:トラヴィス・ナイト監督は、8歳の時に仕事で日本に出張する父に連れられて来日して以来、日本文化に傾倒するようになったのだそう。本作は、ストップモーションアニメの出来のよさもさることながら、日本文化のモチーフを断片的な要素を手前勝手につまみ食いするのではなく、びっくりするくらいきちんと昇華しながらオリジナリティを出しているということに驚かされた。世界が分断される方向に傾きつつある一方で、こんなふうな文化的越境が易々と実現する時代がもう来ているんだな、と思うと感慨深かった。

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【獣道】(6/10)

監督・脚本:内田英治
出演:伊藤沙莉、須賀健太、アントニー(マテンロウ)、吉村界人、でんでん、矢部太郎(カラテカ)、韓英恵、広田レオナ 、マシュー・チョジック、松本花奈、冨手麻妙、近藤芳正、他
製作国:日本/イギリス
ひとこと感想:【下衆の愛】の内田英治監督作。男女のダブル主演という苦肉の策にも見える手法とっちらかった印象を与えるし(実際の主演は伊藤沙莉さんだと思うけど、須賀健太さんのネームバリューゆえ、須賀さんを主役にしろというスポンサーからのプレッシャーがあったんじゃないだろうか)、ストーリーは荒削りで整理し切れていない感は否めないが、泥沼の中で居場所を求めて修羅の道を突き進む青春をポジティブに描き切るこの勢いは買いたいと思った。

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【恋妻家宮本】(6/10)

監督・脚本:遊川和彦
原作:重松清
出演:阿部寛、天海祐希、菅野美穂、相武紗季、工藤阿須加、早見あかり、奥貫薫、佐藤二朗、富司純子、他
製作国:日本
ひとこと感想:自分は実は妻にベタ惚れだったと再確認する夫の物語。この旦那、ありがちかよ、とか、ここまでしないと分からないのかよ、とか思うところもあるけれど、阿部寛さんが演じると一途で可愛く見えてしまうのでちとズルい。天海祐希さんがごく普通の主婦の役ってどうなのかな、と思ったが、案外違和感なく嵌まっていてよかった。遊川和彦先生はもしかして、原作などの縛りがあった方が、突飛な方向に走りすぎなくていいのではあるまいか。

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【ゴースト・イン・ザ・シェル】(5/10)

原題:【Ghost in the Shell】
監督:ルパート・サンダース
脚本:ジェイミー・モス、ウィリアム・ウィーラー、アーレン・クルーガー
原作:士郎正宗
出演:スカーレット・ヨハンソン、マイケル・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハン、北野たけし、ジュリエット・ビノシュ、桃井かおり、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:草薙素子が主役じゃない『ゴースト・イン・ザ・シェル』ってなんじゃソラ。しかし、原作ファンのアメリカ人の脚本家達は、素子は日本人じゃなければならないとは思ったんだそうで、スカヨハを主役にしなければならないという制約の中で、素子であって素子でないというトリッキーな筋書きを作り上げた模様。ハリウッドによる外国作品の解釈としては最大限の敬意が払われているのだろうけど、結局、それならそもそもこの作品を作る必要あったのかなーという、根本的な疑問は払拭できないままだった。

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【哭声 コクソン】(5/10)

原題:【곡성(哭聲)】
監督・脚本:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ、キム・ファニ、他
製作国:韓国
ひとこと感想:ネタバレ御免。私はこの映画の言わんとしていることがあんまりよく分からなかった。結局、妙な力に翻弄され、小さな娘を守ろうと頑張ったが叶わなかった父親の物語、ということになるんだろうけれど、この妙な力の正体というのが、國村隼さんの演じる悪魔だっていうのが何だかな。結局日本人が悪者ですか、はいはい、というシラケ感もあるけれど、悪の権化を悪魔とかに帰結させて造形してしまうと大体陳腐になっちゃうんだよね。韓国の田舎って未だにこんななのかなぁというような農村の様子が(20~30年前に見た映画とあんまり変わらないじゃん)、何かに取り憑かれてしまった主人公の娘の恐ろしい変貌や(子役のキム・ファニさんがこれで韓国の大きな賞をもらったというのは納得)、濃いキャラの祈祷師による凄まじいお祓いなどのおどろおどろしさを増幅させていて、独特の有無を言わせない迫力を醸し出している。けれど結局、最後に残ったのは、何だよこれはー!という感慨だけだった。

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【午後8時の訪問者】(8/10)

原題:【La Fille Inconnue】
監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・レニエ、他
製作国:ベルギー/フランス
ひとこと感想:小さな診療所で働く若い女医が、診療時間外にやって来た少女を追い返したことで死なせてしまい、法律的には問題なくても罪悪感を持ってしまい、事件の真相を突き止めようと街を彷徨う。あまりに非人間化された社会の中、一方で、人間性を取り戻そうとする小さな試みがそこかしこで地味に始まりつつあるのではないかと思うことがたまにある。良心という一見陳腐に思える概念がその鍵になるのかもしれない。

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【KOKORO】(6/10)

原題:【KOKORO】
監督・脚本:ヴァンニャ・ダルカンタラ
原作:オリヴィエ・アダム
出演:イザベル・カレ、國村隼、安藤政信、門脇麦、長尾奈奈、葉山奨之、古館寛治、他
製作国:ベルギー/フランス/カナダ
ひとこと感想:弟を事故で亡くした女性が、かつて弟を自殺から救ったという男性に会いに日本の海辺の村を訪れるという話。ヴァンニャ・ダルカンタラ監督はベルギー出身で、たまたま東尋坊で自殺防止活動をしている茂幸雄氏の話を聞いた後に、氏をモデルとしたフランス語の小説があることを知り、舞台を島根県隠岐島を舞台に置き換えてベルギー・フランス・カナダ・日本の4ヵ国の混成チームで本作を撮り上げたのだそうだ。舞台が世界のどこであれ、描かれている心情は気持ちのやり取りは、世界のどこでも同じ普遍的なもののように思える。こんなふうないい形で日本を舞台にした映画がもっと増えてくれると嬉しい。

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【50年後のボクたちは】(7/10)

原題:【Tschick】
監督・脚本:ファティ・アキン
共同脚本:ラース・フーブリヒ、ハーク・ボーム
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバーダル、メルセデス・ミュラー、ウーヴェ・ボーム、アニャ・シュナイダー、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:ファティ・アキン監督の新作で、原作はドイツの大ベストセラーだとのこと。クラスではみ出し者のやせっぽちの主人公は、気になる女の子に無視されるとか、父親が堂々と浮気をしているとか、母親がアル中だとかいった様々な悩みを抱えていたが、ちょっと風変わりな転校生(ロシアンマフィアの子供かと噂されたが、ルーマニアのロマの子供らしい)に、おじいさんの住む「ワラキア」を目指すから一緒に行かないかと誘われ、盗んだ車で走り出す。主人公が、自分のいる狭くてどうということもない世界をそこまでシリアスに捉える必要もないということを悟る展開はよかった。けれど、これを現実に置き換えると、人の車を盗むことも無免許運転もとんでもない!つまらない大人でごめんよー!でも車を盗まれた立場になってみてくれよ……生活に支障が出まくりだよ……。それに、日本の交通事情では未成年の無免許運転は危険極まりないので、本当に絶対にやめて下さいね……。

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【婚約者の友人】(6/10)

原題:【Frantz】
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原案:モーリス・ロスタン、エルンスト・ルビッチ
出演:ピエール・ニネ、パウラ・ベーア、他
製作国:ドイツ/フランス
ひとこと感想:エルンスト・ルビッチ監督の【私の殺した男】の原作になった戯曲を翻案したオリジナルの物語。戦死した婚約者の友人と言って現れた男が実は…といった話で、ヒロインの気持ちが生き生きとしている時だけモノクロの画面が色味を帯びる。しかし、ストーリーに全然興味が持てずヒロインの気持ちに寄り添うことができなかった。もともと技巧派の印象があるフランソワ・オゾン監督だけど、本作はあまりにも技巧が勝ちすぎている気がしたのだが。

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【サーミの血】(7/10)

原題:【Sameblod】
監督・脚本:アマンダ・シェーネル
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、ハンナ・アルストロム、オッレ・サッリ、他
製作国:スウェーデン/ノルウェー/デンマーク
ひとこと感想:1930年代のスウェーデン北方のサーミ人の少女の物語。サーミ人は、かつてはラップ人という蔑称で呼ばれており、あからさまに能力が劣っていると見なされ、「保護」という名の差別を受けていた。少女は学業優秀だったにも関わらず学校の先生に「あなたたちの脳は文明に適応できない」とまで言われて上の学校に行く道を閉ざされたが、サーミ人に用意されていた見世物的な立場を甘受することができず、親とも対立して外の世界に出ようとする。その手段として、男の子に取り入って手助けしてもらおうとしたが、男の子の家族に拒否され、その後何とか女学校にもぐり込んだが……。傷つきながらも手探りで自分の道を探そうとする逞しくも痛々しい少女は、自分の出自を否定して生きていくしか道がなかった。スウェーデンのような国にすら黒歴史ってあるんだな。日本も日本の黒歴史を直視する勇気を持たねばなるまい。

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【斉木楠雄のΨ難】(5/10)

監督・脚本:福田雄一
原作:麻生周一
出演:山崎賢人、橋本環奈、新井浩文、吉沢亮、笠原秀幸、賀来賢人、ムロツヨシ、佐藤二朗、内田有紀、田辺誠一、他
製作国:日本
ひとこと感想:ギャグマンガの世界を3D化するのは超難しいと思うんだよね~。リアルに寄りすぎず2Dにおもねりすぎない独特の空間を構築しなければならず、その匙加減が難しい。原作ファンの人が何と言うかは分からないが、今回、福田雄一監督はそれをなかなか的確にやっているのではないかと思う。やっぱりこういうものは上手い方なんだな。主人公の山崎賢人さんは、コメディなのに終始表情に乏しい主役という難役なのに、ちゃんと成立させていて感心したし、妙なキャラクターになることも変顔も厭わない橋本環奈さんには、コメディエンヌとしての才能と根性を見た。ただ、それぞれのキャラがバラバラに描かれていて、キャラの見本市に終始している印象になってしまったのがちょっと残念。それぞれのキャラが絡んでもっと大仕掛けなケミストリーを起こせるような展開になればもっと面白かったのでは。

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【最低。】(6/10)

監督・脚本:瀬々敬久
共同脚本:小川智子
原作:紗倉まな
出演:森口彩乃、山田愛奈、佐々木心音、忍成修吾、江口のりこ、高岡早紀、根岸季衣、森岡龍、渡辺真起子、他
製作国:日本
ひとこと感想:夫との結婚生活に虚しさを覚えAVに出演する中年女(とその姉)、田舎を飛び出して胸を張ってAVに出演している若い女(とその母)、母がかつてAVに出演していたという噂や自分の進路に悩む女子高生(とその母と祖母)、のAVにまつわる3組のオムニバス的物語だと理解できるまでしばらく掛かってしまった。鈍い頭で申し訳ない、が、それぞれの現状に苦しむ女性達の繊細な心情が丁寧に描かれていて悪くないと思った。主人公の女性達の周囲の人物を演じる助演俳優の皆さんが何気に豪華なのは、監督が瀬々敬久さんなことと無縁ではないだろう。【8年越しの花嫁 奇跡の実話】のようなビッグバジェット映画と同時期に本作みたいなスモールバジェット映画もさっくり手掛ける、そんな懐の深い瀬々監督が大好きです。

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【ざ・鬼太鼓座】(7/10)

監督:加藤泰
脚本:仲倉重郎
(ドキュメンタリー)
出演:林英哲、他
製作国:日本
ひとこと感想:時代劇の巨匠・加藤泰監督の遺作で、今も佐渡島で活動を続ける鬼太鼓座を描いた1981年作のドキュメンタリー。監督は「生まれて始めて思う通りのことをやれた映画」と語ったそうだが、たぎる情熱を太鼓にぶつける若者達を通じて、人間に宿る原初的なエネルギーのようなものを描きたかったのかなぁと思う。

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【サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ】(8/10)

原題:【Sacromonte, los sabios de la tribu】
監督:チュス・グティエレス
(ドキュメンタリー)
出演:クーロ・アルバイシン、ラ・モナ、ライムンド・エレディア、ラ・ポロナ、マノレーテ、ペペ・アビチュエラ、マリキージャ、ラ・クキ、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:世界的なフラメンコ・アーティストを数々生み出してきたというサクロモンテの地を描くドキュメンタリー。この地の人々は一様に貧しく、ロマと非ロマの混血も当たり前で、かえって差別などなかったという。人々の生活の中から立ち上がってくる生々しいフラメンコがたくさん詰め込まれているのがとても好みで、個人的にはカルロス・サウラ監督の【フラメンコ】に次ぐフラメンコ・ドキュメンタリーの名作だと思った。

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【ザ・ダンサー】(7/10)

原題:【La Danseuse】
監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト
共同脚本:トマ・ビドガン
出演:ソーコ、ギャスパー・ウリエル、メラニー・ティエリー、リリー=ローズ・デップ、他
製作国:フランス/ベルギー
ひとこと感想:モダンダンスの祖ロイ・フラーのサーペンタイン・ダンスというものを初めて知った。白い衣装をはためかせ色とりどりの照明が当てられるダンスが超絶美しい。けれどこのダンスは、重い布をぐるぐる回すので体に負担が大きく、照明も目に悪く、彼女の体はボロボロになっていたらしい。アイディアや確固たる信念や持ち前の行動力で成功を掴み取る輝かしい前半から一転、恋人と葛藤し、弟子だったイサドラ・ダンカン(ジョニー・デップの娘さん美人ね)に追い抜かれ、心身共に疲弊しながら、なおもアーティストとしてのプライドを高く掲げ続けるヒロイン。ミュージシャンであるソーコさんの強い意志が感じられる顔つきがこの役にぴったりで、これはいろいろな意味で見る価値がある映画だと思う。

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【サバイバルファミリー】(8/10)

監督・脚本:矢口史靖
出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、時任三郎、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳、宅麻伸、渡辺えり、柄本明、大地康雄、他
製作国:日本
ひとこと感想:おそらく、先の震災時に停電で右往左往したひ弱な都会の人間(私も含め)がモデルだけど、電気がなくなったらどうなるかというのは非常に重要な思考実験だろうと思う。ルーティーンの仕事を期日通りにこなすことしか能がないのに、全能的なセルフイメージを強く持ちすぎで威張りすぎなお父さんも、小日向文世さんが演じるからこそ嫌みにならず得も言われぬペーソスとおかしみが感じられ(でも彼なりに家族を愛していて、いざとなれば子供達のために土下座でも何でもできる覚悟があるのがいいところ)、そんなちょっと情けないお父さんを「お父さんはそういう人だから」と温かく見守っているお母さんの深津絵里さんも麗しい。大停電の理由は謎のままだし、細かく検証すればいろいろ矛盾とかもあるかもしれないけど(私は薬をどう入手したのかがまず疑問だった)、都会生活の恩恵にどっぷり浸かっていた一家が徐々に野性味を取り戻して逞しく生き延びることが出来るようになり、ついでに家族の絆も再生させていく物語には引きつけられた。

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【裁き】(5/10)

原題:【Court】
監督・脚本:チャイタニヤ・タームハネー
出演:ヴィーラー・サーティダル、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギータンジャリ・クルカルニー、プラディープ・ジョーシー、他
製作国:インド
ひとこと感想:地元の小ステージで歌う老齢の歌手が、自殺を煽る歌を歌ったという容疑で捕まって裁判に掛けられる話。普通のインド映画を見ていたのでは分かりにくいインドの一般的な生活感覚がちょっと見えてくる……といいんだけど、私の力ではあまり読み解ききれなかったかもしれなくて残念……。

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【残像】(9/10)

原題:【Powidoki(英題:Afterimage)】
監督・脚本:アンジェイ・ワイダ
共同脚本:アンジェイ・ムラルチク
出演:ボグスワフ・リンダ、ゾフィア・ヴィフワチ、クシシュトフ・ピェチンスキ、ブロニスワヴァ・ザマホフスカ、他
製作国:ポーランド
ひとこと感想:紛れもなく映画界の世界最後の巨匠の一人であったアンジェイ・ワイダ監督の遺作で、ポーランドの実在の画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキを描いた物語。ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキは、ポーランドのアヴァンギャルド芸術運動を牽引した抽象画家で、ウッチという都市に国立芸術大学や近代美術館を創設し、大学で教鞭を取るほどの人物だったにも関わらず、第二次世界大戦後にポーランド政府が推し進めようとしていた社会主義リアリズムに抵抗したため、徹底的に弾圧され、最後は極貧の中で死んでいったという人物。教授職は追われ、美術館の展示は撤去され、組合的なものから除名されて食糧配給チケットももらえず絵の具も売ってもらえない……という酷い弾圧の描写は、全体主義国家と化した社会主義国家で当局に逆うということは生きる権利をほぼ奪われるのに等しかったという、かつての現実を生々しく活写する。それでも自らの信念を貫こうとしたストゥシェミンスキの姿は、芸術に身を捧げることはどういうことなのかという、その厳しさと崇高さを切々と訴える。20世紀のポーランドの苦難に満ちた歴史と格闘しながら生きてきたアンジェイ・ワイダ監督の遺作に相応しい堂々とした傑作。涙なしでは見られないというのはこういう映画のことを言うのだ。

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【三度目の殺人】(8/10)

監督・脚本:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功、松岡依都美、他
製作国:日本
ひとこと感想:証言を翻した被告の男が言おうとしたことは真実だったのか、出任せだったのか、それをどう捉えるかで解釈ががらりと変わる。もしかして、検察側と弁護側がよってたかって被告の自白に持ち込もうとした冤罪だったのか。それとも、やはり被告の男が犯人だったのか……。これは裁判をテーマにした現代版の『藪の中』。コレエダ版の【羅生門】だと宣伝すれば、海外の映画祭でももっとアピールできたのではあるまいか。ただ、打ちのめされた人生を送ってきて自分の運命を諦めちゃっているような被告の男のメンタリティは、どのみち海外の人にはウケにくいかな?不条理な不利益を受けているのなら何故戦わない?とアメリカ人あたりが言いそうではある。

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【散歩する侵略者】(9/10)

監督・脚本:黒沢清
共同脚本:田中幸子
原作:前川知大
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己、他
製作国:日本
ひとこと感想:地球侵略のため、通りすがりの地球人から“概念”を奪って学習する宇宙人。もし人間からある概念がなくなったらどうなるのかという思考実験も斬新だが、そんな宇宙人一味の男性一人と地球人女性とのラブストーリーになっているのも新鮮。そして、人間から愛という概念が奪われると恐いことになるんじゃないか……というこちらの心配を他所に、宇宙人に捨て身で愛を教える女性の姿に泣けてくる。個人的に本作が黒沢清監督の最高傑作だと思うのは、今までの作品の中で最もストレートに愛を描いているから。そして、事務所にお人形さんみたいな役ばかりやらされていた時代がようやく終わりを告げ、女優として完全に第二期に突入した長澤まさみさんの姿を、この際是非とも目撃しておくべきだと思った。

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【J:ビヨンド・フラメンコ】(5/10)

原題:【Jota de Saura】
監督:カルロス・サウラ
(ドキュメンタリー)
出演:サラ・バラス、カニサレス、カルロス・ヌニェス、ミゲル・アンヘル・ベルナ、バレリアーノ・パニョス、カルメン・パリス、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:カルロス・サウラ監督が、生まれ故郷であるスペインのアラゴン地方が発祥でフラメンコのルーツのひとつだという「ホタ」という民俗舞踊を紹介する。監督には、故郷の音楽とフラメンコとの関係を洗い出してみるという作業にも価値があったのだろう。しかし、私個人は、確かにフラメンコは好きだけど、さすがにそこまで極めなくってもいいかなーと思った。

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【地獄愛】(8/10)

原題:【Alleluia】
監督・脚本:ファブリス・ドゥ・ベルツ
出演:ロラ・ドゥエニャス、ローラン・リュカ、他
製作国:ベルギー/フランス
ひとこと感想:【変態村】のファブリス・ドゥ・ベルツ監督作で、伝説のカルト映画【ハネムーン・キラーズ】でも描かれた1940年代のアメリカの“ロンリーハーツ・キラー”(3年間で20人以上殺したカップル)がモチーフとのこと。結婚詐欺をするならメンヘラの彼女を妹設定にするとか無理がありすぎると思うのだが、案の定、嫉妬に狂った彼女が詐欺の相手の女を殺しまくるとか、無茶苦茶なことが起こる。(結婚詐欺も良かないが、殺人は罪の重さが比較にならないじゃないですか……。)で、ふつーに考えて、何でこんな女を彼女にせにゃならん?と思っているとこれがまた、彼氏が引っかけた女の一人にうっかりハマってしまうというカオスが巻き起こり、悠々自適の結婚詐欺ライフが地獄の道行きに……。メンヘラ彼女の執着を愛だと言われても困るが、彼氏の方も大概で、これはどっちもどっちの泥沼愛。あぁ何というものを見せられてしまったのだ。見終わった後の疲労感が半端なかった。

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【静かなる情熱 エミリ・ディキンスン】(5/10)

原題:【A Quite Passion】
監督・脚本:テレンス・デイヴィス
出演:シンシア・ニクソン、ジェニファー・イーリー、キース・キャラダイン、ジョディ・メイ、キャサリン・ベイリー、エマ・ベル、ダンカン・ダフ、他
製作国:イギリス/ベルギー
ひとこと感想:19世紀アメリカの高名な詩人エミリ・ディキンスンの生涯。しかし、そもそも不勉強でエミリ・ディキンスンをよく知らなかったのが大失敗。畢竟、その人の人生と言われても興味が湧きにくく、あまり思い入れをもってストーリーを追いかけることができなかったような気がする。

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【島々清しゃ(しまじまかいしゃ)】(5/10)

監督:新藤風
脚本:磯田健一郎
出演:伊東蒼、安藤サクラ、金城実、山田真歩、渋川清彦、他
製作国:日本
ひとこと感想:音感があまりにも良すぎる故に周囲と軋轢が生じていた島暮らしの少女が、都会から来たヴァイオリニストの女性との出会いなどにより自分を解放し、周囲とも打ち解けられるようになる……これは難しいよ、この少女役には芦田愛菜クラスの演技力が必要だよ。大好きな安藤サクラさんも、残念ながらヴァイオリニストには見えなかったかもしれない。筋書きはまぁいいとしても、そのイメージの描写が追い付いていない感じで残念だった。

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【しゃぼん玉】(6/10)

監督・脚本:東伸児
原作:乃南アサ
出演:林遣都、市原悦子、綿引勝彦、藤井美菜、相島一之、他
製作国:日本
ひとこと感想:都会で罪を犯してしまった青年が田舎で再生される……という一歩間違えるととんでもなく陳腐になりそうなプロットだけど、市原悦子さんや綿引勝彦さんの演技の安定感が半端なく、安心して見ていられた。また、青年が村に足を踏み入れてから村の人々と交流を持つようになるまでの時間的推移や、都会と地方の空間的距離感の描写が丁寧なのが、悪くないなと思った。それに私、林遣都くんが出てるとどうも見ちゃうという癖があるんだよね。年端もいかない少年の頃のデビュー作から知っていて、その後順調に成長している役者さんって、そんなにいないのだ。
もしかしたら市原悦子さんをスクリーンで拝見する機会は今後もうそんなにないかも……という思惑もこの映画を見に行った理由。必ずしもドラマという形じゃなくてもいいから、これからもご活躍を見聞できる機会があると嬉しいです。

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【ショコラ 君がいて、僕がいる】(6/10)

原題:【Chocolat】
監督:ロシュディ・ゼム
脚本:シリル・ジェリー
原作:ジェラール・ノワリエル
出演:オマール・シー、ジェームス・ティエレ、クロチルド・エム、オリヴィエ・グルメ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:リュミエール兄弟の映画にも出演した伝説の芸人コンビで、フランス初の黒人芸人でありながら時代の波に消えていった天才芸人ショコラと、彼を支え続けた相方の白人芸人フティットの半生を描いたドラマ。ショコラを演じるのは【最強のふたり】のオマール・シーさんだが、フティットを演じるジェームス・ティエレさんはチャールズ・チャップリンの実孫なんだそうな。(言われてみれば、確かに後期のチャップリンを彷彿とさせる容貌かもしれない。)実話を基にした話にありがちな締まらなさは否めないけど、黒人への差別や偏見に翻弄され抗いきれずに身を持ち崩すショコラも、ショコラとの関係がうまくいかなくなり苦悩するフティットも、丁寧によく描かれていると思う。道が分かれてしまっても、灯火のように残っていた彼らの絆に涙した。

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【新感染 ファイナル・エクスプレス】(7/10)

原題:【부산행(Train to Busan)】
監督:ヨン・サンホ
脚本:パク・ジュスク
出演:コン・ユ、キム・スアン、チョン・ユミ、マ・ドンソク、チェ・ウシク、アン・ソヒ、キム・ウィソン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:列車という走る密室が丸ごとゾンビとの戦いの場というのが新機軸。親子愛や夫婦愛、同胞愛から兄弟愛まで様々な形の愛が描かれているところや、そうした愛する人への思いや極端な自己保身といったキャラクターの人間性がゾンビとの戦いの局面を変えていくところが、ゾンビものが苦手な私にも楽しめた。ただ、生き残った人数が予想したよりかなり少なかったのが、ちょっと残念だったけど。

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【人生タクシー】(6/10)

原題:【Taxi】
監督・脚本・出演:ジャファル・パナヒ
製作国:イラン
ひとこと感想:イラン政府から映画製作を禁止されているジャファル・パナヒ監督。今回は“車載カメラがたまたま撮った映像”としてタクシー運転手を主人公にした本編を制作。映画への飽くなき執念が凄すぎる。国際的に著名な映画監督を数多く輩出しているイランは、非常に文化的な国だという印象があるのだが、いつかはパナヒ監督が自由に制作できるような環境が戻ってきて欲しいと切に思った。

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【スティールパンの惑星】(7/10)

原題:【PAN! Our Music Odyssey】
監督:ジェローム・ギオ、ティエリー・テストン
(ドキュメンタリー)
製作国:トリニダード・トバゴ
ひとこと感想:トリニダード・トバゴは宇宙一好きな楽器スティールパン(スティールドラム)の故郷。年1回開かれるコンテスト「パノラマ」の様子に、スティールパンの歴史を描いた再現ドラマなどを織り交ぜて描く。「パノラマ」は、どこかのチームに所属できればトリニダード・トバゴ人じゃなくても出られるようで、様々な国の人が参加しており、日本人の出演者も何人かいる模様。この音色に魅かれて世界中から人々が集まる。音楽立国って素敵やん。

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【すばらしき映画音楽たち】(7/10)

原題:【Score: A Film Music Documentary】
監督:マット・シュレーダー
(ドキュメンタリー)
出演:ハンス・ジマー、ダニー・エルフマン、ジョン・ウィリアムズ、ランディ・ニューマン、レイチェル・ポートマン、クインシー・ジョーンズ、トーマス・ニューマン、ハワード・ショア、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ハリウッドの錚々たる映画音楽の作曲家の皆さんにインタビュー。この際、一度系統立てて勉強してみようかと思ったが、あまりにたくさんの作曲家が登場するので覚えられなかった……。インタビューへの様々な回答の中、「大抵の映画監督は感情を音楽に翻訳できない」「ルールがないというのがルール」「利用できるものは何でも利用する」といった言葉が心に残った。それにしても、やっぱりジョン・ウィリアムズはすっごいな!彼の業績は、綺羅星のごとくの作曲家達の中でもちょっと別格だった。

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【スプリット】(6/10)

原題:【Split】
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニャ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:何がどうスプリットなのかと思ったら人格がスプリットする話だった。そして毎度のことながら、監禁、ダメ、ゼッタイ。しかしシャマラン監督は、史上稀に見る意味不明映画【アンブレイカブル】の構想を諦めていなかったのね……今回一番びっくりしたのはそこだったんだけど。

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【セールスマン】(8/10)

原題:【اصغر فرهادی(The Salesman)】
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリドゥスティ、他
製作国:イラン/フランス
ひとこと感想:今現在、世界で最も創造的な映画監督の一人として注目を集めるイラン出身のアスガー・ファルハディ監督の新作。引っ越してきて間もない自宅で強姦された妻の苦悩と、憤怒に駆られ妻の心情を置き去りにして犯人捜しに汲々とする夫。奥さんの気持ちより自分の怒りとかの方が大事かよタコ!こんな時ほんとに男はクソの役にも立たないな!他にもはらわたが煮えくり返るポイントが30箇所くらいあり、犯人の罪悪感とか語られた日には火に油。こいつの所業は万死に値するし、誰が許そうが私は同情なんて一切しないからな。全然すっきりしない結末は、社会の複雑な様相の写し絵そのものなのか。映画にカタルシスを求める私のような人間には向かない映画なのかもしれない。

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【世界は今日から君のもの】(3/10)

監督・脚本:尾崎将也
出演:門脇麦、三浦貴大、比留川游、安井順平、駒木根隆介、マキタスポーツ、YOU、他
製作国:日本
ひとこと感想:引き籠もり気味の子がたまたま才能を見出され、社会との繋がり方を変えていくという大筋は悪くないかもしれない。しかし、引っ込み思案と責任の放棄は別問題で、一旦仕事を請け負っておきながら出来ないからって逃げ出すような主人公には全然肩入れ出来ないのだが。それ以前に、一緒に仕事をしたことのない相手(しかも素人)=仕事に対する向き合い方が未知の相手に、大事な仕事を丸投げするなんて、社会常識的に考えてあり得ないでしょう。そういう部分を疎かにして、仕事が大きなモチーフになっている話を描けると思うか。尾崎将也さんほどのベテラン脚本家(本作では監督も兼任)が一体どうしちゃったのだ。

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【関ヶ原】(5/10)

監督・脚本:原田眞人
原作:司馬遼太郎
出演:岡田准一、役所広司、有村架純、平岳大、東出昌大、北村有起哉、伊藤歩、中嶋しゅう、音尾琢真、松角洋平、和田正人、キムラ緑子、滝藤賢一、大場泰正、中越典子、壇蜜、西岡徳馬、松山ケンイチ、他
製作国:日本
ひとこと感想:何のかんの言って精力的な原田眞人監督の新作。しかし、監督の作品って、しばしば言いたいことがありすぎて情報量が多すぎで、早口で聞き取りづらく、頭にも入りにくいことが多い気がするのだが。実際、『真田丸』で予習してなかったら、皆まで理解するのは難しかったかもしれないような気がする。で、トータルの感想は……同じ関ヶ原の戦いの話なら『真田丸』の方が面白かったかな……。

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【禅と骨 Zen and Bones】(6/10)

監督:中村高寛
(ドキュメンタリー)
出演:ヘンリ・ミトワ、他
出演(ドラマパート):ウエンツ瑛士、余貴美子、利重剛、チャド・マレーン、ロバート・ハリス、緒川たまき、永瀬正敏、佐野史郎、他
声の出演:仲村トオル
製作国:日本
ひとこと感想:【ヨコハマメリー】の中村高寛監督作で、京都の天龍寺にいらっしゃったヘンリ・ミトワという風変わりな禅僧の軌跡を追ったもの。1918年(大正時代)にアメリカ人の父と日本人の母との間に横浜で生まれ、1940年に渡米、第二次世界大戦中はアメリカの強制収容所で過ごし、戦後、仏教に帰依して、1961年に日本に戻り、2012年に死亡。監督はミトワ氏に出会ってその強烈なキャラクターに魅かれて映画化を決意したというが、この人のパーソナリティは、一見、いびつと言っていいくらいバランスを欠いていて、変人の域に達しているほどに見える。特に、映画の後半で童謡の“赤い靴”のストーリーの映画化に度を超えた執着を見せるのは、ホントに禅僧のすることか?と一瞬思ってしまったほど。これには、今よりずっと異物を排斥する圧力が強かったに違いない戦前の日本にハーフとして生まれ、アイデンティティを求めて渡ったに違いないアメリカで強制収容所に入れられてしまったりした経験が影響していたのかもしれないが。監督が映画を撮り始めた頃には映画の完成形は全く見えていなかったようで、ミトワ氏は映画の完成前に死去。結局、なんだか破茶滅茶な映画になってしまっている感はあるけれど、数奇な運命を辿った一人の日系アメリカ人とその周囲の人々の物語、と思えば、とても興味深いもののように思える。

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【草原の河】(5/10)

原題:【河(River)】
監督・脚本:ソンタルジャ
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテン、他
製作国:中国
ひとこと感想:本編のソンタルジャ監督はチベット出身。中国に留学して映画を学んだのだそうで、チベット人監督による映画は本邦初公開なのだとのこと。チベットの大草原の遊牧民一家の中で、描かれているのは父親と息子の葛藤の話。どこの世界に行っても人間の営みは似通っているんだなぁと思った。

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【ゾウを撫でる】(6/10)

監督:佐々部清
脚本:青島武
出演:小市慢太郎、高橋一生、伊嵜充則、金井勇太、大塚千弘、羽田美智子、寿大聡、二階堂智、中尾明慶、菅原大吉、三宅ひとみ、大杉漣、月影瞳、金児憲史、山田裕貴、他
製作国:日本
ひとこと感想:映画を作る様々な人々を丁寧に描いた群像劇で、様々な人達が映画に注ぐ思いが丁寧に描かれている。ちょっと地味かな?もう少し強めのキャラやエピソードを核にして起承転結感を出した方が遡及しやすかったのでは?とも思ったが、佐々部清監督は敢えてそういう方向性を外したところで映画を構築してみたかったのかもしれない。

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【たかが世界の終わり】(6/10)

原題:【Juste la fin du monde (It's only the end of the world)】
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
原作:ジャン・リュック・ラガルス
出演:ギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、ナタリー・バイ、他
製作国:カナダ/フランス
ひとこと感想:♪家は港じゃない、深くえぐられた疵痕~。分かる分かる~。家族内に軋轢があったりするなんてよくある話よねー、10年絶縁してるくらい大したことないよー(うちもそうだったし)、という私なら1分くらいで終わってしまう話を100分に引き伸ばすのがグザヴィエ・ドラン・クオリティ。有名作家になった次男が余命わずかになったため家族に会いに帰郷するが、誰も彼も自分のことで手一杯で人のことを受け入れる余裕はなく、なけなしの好意の押しつけ合いに終始し、微妙に噛み合わない違和感が延々と続く。(長男(ヴァンサン・カッセル)はイヤミだけど自分に正直なだけましなのかもしれない?)こういうのが好きな人は好きなんだろうけど、私にはちょっとクドくてウザい。それでもこれまでの同監督作の中では、本作が一番共感できる部分があったかもしれない。

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【立ち去った女】(7/10)

原題:【Ang Babaeng Humayo (The Woman Who Left)】
監督・脚本:ラヴ・ディアス
出演:チャロ・サントス・コンシオ、ジョン・ロイド・クルズ、他
製作国:フィリピン
ひとこと感想:海外では評価が高いというフィリピンのラヴ・ディアス監督の日本初公開作。ゴミだらけのスラムが、モノクロの画面の上で神々しいまでの不思議な美しさと静謐さを帯びるのはどうしたことか。そして、この1つ1つのシーンを長回しにすることによって生まれる独得の生々しさに、監督を「フィリピンのタル・ベーラ」と呼んでみたくなる。3時間48分という上映時間でも監督の作品では最短レベルだとのことだが(5~6時間が普通で9時間超えの作品もあるんだそう)、そもそも観客を厳選する種類の映画である上にこの長尺だと、今後も興行に乗る可能性は限りなく低いかもしれない。

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【タレンタイム 優しい歌】(8/10)

原題:【Talentime】
監督・脚本:ヤスミン・アフマド
出演:パメラ・チョン ・ マヘシュ・ジュガル・キショール、他
製作国:マレーシア
ひとこと感想:マレーシアの巨匠ヤスミン・アフマド監督の作品を、遺作にしてようやく見ることが出来た。学校主催の音楽コンテストにまつわる人間模様という筋立てで、何人かいる主人公のうちの1人である女の子のユニークな家族の描写がとてもよかった。ゆるやかな時間の中にも、死と暴力と不寛容の時代の影は容赦なく映り込むけれど、そんな時代であればこそ、思いやりとユーモアを持って生きることが大切だと監督は説く。こんな映画は、本当につよくてやさしい人じゃなきゃ創れない。多民族国家マレーシアの、お互いに多様性を許容する価値観が今こそ求められているのかもしれない。監督のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。

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【ダンケルク】(7/10)

原題:【Dankirk】
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェイムズ・ダーシー、バリー・コーガン、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィ、マーク・ライアンス、トム・ハーディ、他
製作国:イギリス/アメリカ/フランス
ひとこと感想:林修先生の解説CMが大変分かりやすかったので、まだYouTubeなどに残っているようならお勧めする。しかし、確かに撤退戦を描くというのは戦争ものとしては新機軸だったとは思うけど、そもそもどうしてネタ切れになった映画監督は戦争ものに手を出したがるのか。クリストファー・ノーラン監督、あなたもですか…と脱力せざるを得なかった。

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【ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣】(9/10)

原題:【Dancer】
監督:スティーヴン・カンター
(ドキュメンタリー)
出演:セルゲイ・ポルーニン、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:ウクライナ出身の天才バレエ・ダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー。【ブラック・スワン】をちょっと思い出したけれど、現代に生きている人間であれば、傷ついたり悩んだりするのはむしろ当然で、アイデンティティ・クライシスの1つや2つ経験がない方がおかしい。それが奇矯に見えてしまうのなら、それは“天上の世界”を指向し続けるバレエ界のある意味での“歪み”に由来するのではあるまいか。彼の体中に黒々と彫られた入れ墨の一つ一つが、むしろ人間らしい苦悩の表れに見える。彼が、体がよく動く若いうちに、自分の才能を遺憾なく発揮できる場に巡り会えるように願ってやまない。

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【探偵はBARにいる3】(7/10)

監督:吉田照幸
脚本:古沢良太
原作:東直己
出演:大泉洋、松田龍平、北川景子、前田敦子、鈴木砂羽、リリー・フランキー、田口トモロヲ、志尊淳、マギー、安藤玉恵、正名僕蔵、篠井英介、松重豊、他
製作国:日本
ひとこと感想:オープニング曲の「大道芸人」と、エンディング曲の「大寒町」はどちらも、はちみつぱい(愛するムーンライダースの前身のバンド)の曲で嵌まりすぎ。私はますますこなれてきた3作目の本作が今のところ一番好きかもしれない。今後もまだまだ続ける余地がありそうだけど、今のこの時代に映画というフォーマットのシリーズ作品を育んでいるというのは奇跡的。大泉洋さん・松田龍平さんの両氏やスタッフの皆さんが1作1作を丁寧に作り上げてきたことの賜物だと思う。

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【チア☆ダン】(8/10)

監督:河合勇人
脚本:林民夫
出演:広瀬すず、中条あやみ、天海祐希、山崎紘菜、富田望生、柳ゆり菜、健太郎、真剣佑、陽月華、木下隆行(TKO)、きたろう、緋田康人、安藤玉恵、他
製作国:日本
ひとこと感想:そもそも、アクロバット前提のチアリーディングとアクロバット禁止のチアダンスが違うってことからして知らんかった。内容的には【スウィングガールズ】のn番煎じのような気もするが、わざわざ実話を探してきてこれだけ丁寧に作っていたら文句は言えねぇ。本編のモデルになった実際のチームの関係者に全面協力を仰いで鍛えまくったというダンスシーンの見事さもさることながら、アメリカ国内ナンバーワンのチアダンスチームにまで出演してもらっていたりするところでも、その本気度がよく分かる。メンバー一人一人の背景の中に片親家庭や貧困格差の現状なども滲ませつつ、その友情や努力を描きながら、頂点を目指すには単なる仲良しクラブではいられないというシビアさも活写しており(この厳しい顧問役に天海祐希さんがぴったり)、さすがは林民夫先生!の脚本力に唸ることしきり。そして極めつけは広瀬すずさんと中条あやみさんという、今の日本の個人的イチオシ若手女優ツートップのツーショット!拝んどけ拝んどけ !! 天才肌の広瀬すずさんはこのまま順調に成長して日本映画界の屋台骨を支える女優さんになってもらいたいし、ノーブルな美しさが筆舌に尽くしがたい中条あやみさんは、彼女にしか醸し出せない圧倒的な美しさを纏う女優さんになって欲しいと切に願う。若手俳優のショーケースのような映画ばかりが並ぶ中、思わぬ拾いもののこの映画。何十年か経ったらお宝映像になってくれているといいんだけど。

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【地の塩 山室軍平】(3/10)

監督・脚本:東條政利
共同脚本:我妻正義
出演:森岡龍、我妻三輪子、辰巳琢郎、伊嵜充則、水澤紳吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:山室軍平はキリスト教に帰依した戦前の福祉家で、故郷の岡山の中部で伝道活動をしたり石井十次の孤児院を手伝ったりした後に日本で救世軍を組織し、社会福祉事業や廃娼運動に携わったという人物。本作はその人生を描いた伝記映画で、森岡龍さんを主役に据えてあるのに興味を引かれて見に行った。しかし、あまりに教科書的に事実を羅列してあるだけで、映画的な面白さを演出する工夫はほぼなされていないように見える。本作がもしかして教育映画的な方向性を目指しているのだとしても、もうちょっとやりようがあるのではないかと思った。

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【ちょっと今から仕事やめてくる】(5/10)

監督・脚本:成島出
共同脚本:多和田久美
原作:北川恵海
出演:工藤阿須加、福士蒼汰、吉田鋼太郎、黒木華、森口瑤子、池田成志、小池栄子、他
製作国:日本
ひとこと感想:ブラック企業は辞める以外にどうしようもない(ことが多い)し、自分を救ってくれた友人が実は3年前に死んでいたというミステリー部分の顛末も大体予想した通りだったので、そりゃそうだなという以上の感慨を持てなくて、少し弱い印象になってしまったかもしれない。ただ、工藤阿須加さんの生真面目な印象が、サラリーマン役に合っていたのはよかった。

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【沈黙 サイレンス】(10/10)

原題:【Silence】
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス
原作:遠藤周作
アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライヴァー、窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也、笈田ヨシ、浅野忠信、小松菜奈、加瀬亮、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:マーティン・スコセッシ監督は時々宗教的な側面が強い作品をお作りになるが、本作は、1988年の【最後の誘惑】の試写会で司教から遠藤周作さんの原作をプレゼントされて以来、断続的に15年も脚本を書き直してやっと実現にこぎつけた企画なのだそう。まず、徹底したリサーチとこだわりで再現した当時の日本の意匠が、驚くほど違和感を感じさせない。そして、3人の宣教師を演じた役者さん、また、窪塚洋介さん、イッセー尾形さん、塚本晋也さんの3人を始めとする日本人キャストの素晴らしさが、それぞれ筆舌に尽くしがたいほど見事。こうした最高のセッティングの中で、表面的にはどうあれ、無心に帰依を求め信じる心の最も深い部分は誰にも縛ることも奪うこともできない、というテーマが鮮やか浮かび上がってくる。私自身は無神論者でも、人間が祈りを求める心は少しは理解できるつもりなのだが、スコセッシ監督が何を描きたかったのかがこれだけダイレクトに迫ってきたことはかつてなかったような気がした。私は本作こそがスコセッシ監督の最高傑作なのではないかと思う。

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【追憶】(6/10)

監督:降旗康男
脚本:青島武、瀧本智行
出演:岡田准一、小栗旬、柄本佑、長澤まさみ、木村文乃、安藤サクラ、吉岡秀隆、西田尚美、りりィ、渋川清彦、北見敏之、安田顕、矢島健一、三浦貴大、高橋努、他
製作国:日本
ひとこと感想:刑事、被害者、容疑者として再会した三人は過去の秘密を共有していた。岡田准一さん、小栗旬さん、柄本佑さんetc.……と好きな俳優さんばかりで悪くないんだけど、今一つピンと来なかったのは何故だろう?俳優さんの間であまり化学反応が起こらず、小さな核があちこちにあってバラバラな感じで、コレっていう1つの流れに集約しなかったからだろうか。長澤まさみさんや木村文乃さんも印象薄いし、役柄にも合ってない感じで、随分無駄遣いしているように思えた。

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【月子】(6/10)

監督・脚本:越川道夫
出演:三浦透子、井之脇海、他
製作国:日本
ひとこと感想:【海辺の生と死】の越川道夫監督作で、行き場をなくした青年と、虐待を受けているらしい知的障害の少女が旅する物語。演技上でも演出上でも知的障害をきちんと描けていたのかなぁと思うと多少疑問が残らないじゃないけれど、“お芝居”の世界では通常省略されてしまいがちな、現実の人と人の間に流れる“間”を丁寧に掬い取っているところに、独得のリアルな質感が感じられたのが心に残った。

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【月と雷】(7/10)

監督:安藤尋
脚本:本調有香
原作:角田光代
出演:初音映莉子、高良健吾、草刈民代、村上淳、他
製作国:日本
ひとこと感想:角田光代さんの小説が原作。その時々に世話してくれる様々な男性のもとを渡り歩く根無し草のような人生を送ってきた女性と、そうした状況を生まれた時から普通のこととして受け入れている息子、そして父親がその親子を招き入れたせいで崩壊した家庭の娘。父親が死に、独り暮らす娘の前に、息子が再び現れる。娘が二人に囚われていたように、息子もまた娘に囚われていた。誰とも長続きしないと言う息子は、母親と似たような人生を歩くのだろうか……う~ん、私ゃ割とハピエン厨なんだよ!とちょっと悲しかった。こんな特殊な役柄をしれっと演じられる高良健吾さんもいいけれど、根無し草の母親を演じた草刈民代さんの圧倒的な存在感は、私が勝手に持っているバレリーナのお上品なイメージを遥かに凌駕する。この人は根っからの表現者なんだ。女優としての草刈民代さんはもっともっと評価されてもいいのではないかと思った。そしてこの二人を相手に健闘している初音映莉子さんにも拍手を送りたい。

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【時時巡りエブリデイ】(3/10)

監督・脚本:塩出太志
出演:鳥居みゆき、他
製作国:日本
ひとこと感想:【死神ターニャ】の塩出太志監督による、同じ時間が何度も繰り返されるタイムループもの。しかし、主人公の言う“好き”が随分恣意的なものに見えて、お話のためのお話でしかない感じ。見ていても全然想像力が湧かなくて、最後まで感情が乗らないままに終わってしまった。

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【ドリーム】(10/10)

原題:【Hidden Figures】
監督・脚本:セオドア・メルフィ
原作:マーゴット・リー・シェタリー
出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、ケビン・コスナー、キルスティン・ダンスト、マハーシャラ・アリ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1960年代初頭のアメリカのマーキュリー計画の成功には計算手やエンジニアとしての優秀な黒人女性達の貢献が欠かせなかった、という実話に基づくストーリー。アポロ計画と混同した最初の邦題が批判を浴びてこの邦題になったのだが、これは作品に対する愛が微塵も感じられなくてあまりにも酷ずきる。ドリームで検索したら2700万件ヒットしたぞオイ。これならド直訳でヒドゥン・フィギュアズやら隠された人々やらにした方がまだマシだ!
でも配給会社の手抜きとは全く何の関係もなく、これは本当に素晴らしい映画だった。性別、人種、国籍、生まれ育った環境、先例や規則、etc.……ぶっちゃけ、この世には様々な種類のグラスシーリング(見えない天井)があるけれど、最終的にはそれぞれの現場で隣人を変心させるほど頑張って結果を出して認めさせるしかない、という世界を変える極意を見た気がした。この極意をもってすれば世界平和だって実現できちゃうんじゃないの?という夢すら一瞬見てしまいそうになった。

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【なりゆきな魂、】(5/10)

監督・脚本:瀬々敬久
原作:つげ忠男
出演:佐野史郎、柄本明、足立正生、山田真歩、栁俊太郎、中田絢千、三浦誠己、町田マリー、川瀬陽太、他
製作国:日本
ひとこと感想:釣りをする老人達、バス事故の遺族会のメンバー、野菜販売所で働く女性、などが、日常と地続きの不条理な出来事にするりと巻き込まれる様がオムニバス的に描かれる。見てる時は夢の中の出来事を見ているように1つ1つのエピソードを追っているけれど、全体的にはこれといった芯がなく、印象に残りにくかった気がする。

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【22年目の告白 私が殺人犯です】(7/10)

監督・脚本:入江悠
共同脚本:平田研也
原作:【殺人の告白】(監督・脚本:チョン・ビョンギル)
出演:藤原竜也、伊藤英明、仲村トオル、夏帆、岩松了、岩城滉一、野村周平、石橋杏奈、平田満、竜星涼、早乙女太一、他
製作国:日本
ひとこと感想:連続殺人事件の時効後に犯人だと名乗り出てマスコミを巻き込む男の狙いとは……。消去法でいくと犯人はアイツしかいなかったのに、まんまと引っ掛かってしまい、どんでん返しの連続に、やられた!と思った。原作となった韓国映画のプロットをよく翻案して、日本の俳優さん全員でよく盛り立てているんじゃないだろうか。残酷描写があるので注意した方がいいけれど、入江悠監督作品では【SR サイタマノラッパー】シリーズの次くらいに面白かったかもしれない。

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【二十六夜待ち】(7/10)

監督・脚本:越川道夫
原作:佐伯一麦
出演:井浦新、黒川芽以、天衣織女、鈴木晋介、山田真歩、鈴木慶一、諏訪太朗、他
製作国:日本
ひとこと感想:越川道夫監督作品は今年なんと3本目。本作は、記憶を無くした男と、家族を亡くした女が、互いを求めて寄り添い、少しずつ関係を深めていく大人のラブストーリー。がっつり18禁。でもその意味がある。黒川芽以さんは20代から30代のリアルな女性を演じられるいい女優さんだと思った。そういう女優さんはいそうでいないと思うので、これから需要が増えるといいですね。

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【人魚姫】(5/10)

原題:【美人魚】
監督・脚本:チャウ・シンチー
出演:ダン・チャオ、リン・ユン、キティ・チャン、ショウ・ルオ
製作国:中国/香港
ひとこと感想:ある海辺の土地の再開発を進めようとする人間達と、阻止しようとする人魚達の攻防の中で、分っかりやすい嫌みキャラの成金の青年が、ちょっと珍妙な人魚の女性との真実の愛に目覚める、というチャウ・シンチー監督の王道パターン。ヒロインの幼馴染みのタコ型マーマンとか、ちょっと変わった造形の人魚達がインパクト大。チャウ・シンチー監督はどうして最初ヒロインを一旦小汚い感じにしたがるのかやっぱりよく分からないし、終始しつこいほどのドタバタ劇で、二番煎じ感も否めなかったけど、トータルではめでたしめでたしのハッピーエンドで、楽しく見終わることができたような気がする。

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【仁光の受難】(2/10)

監督・脚本:庭月野議啓
出演:辻岡正人、他
製作国:日本
ひとこと感想:私はこれは無理。モテまくる僧侶がいたっていうアイディア一発以外に何の工夫もない。話もそれ以上全く広がらないし、シリアスにしたいのかギャグにしたいのか、何がしたいのか狙いがよく分からない。中途半端に時代劇にしているのも何だかな。それに本人悩んでるっていうけどあんまりそんなふうに見えないし、僧侶として生きづらいならさっさと還俗でもなんでもすればいいじゃん。そもそもそのモテまくる僧侶というのが全然モテるキャラに見えないところが一番の敗因なのでは。中途半端な映画を作るくらいなら作らない方がマシなんて、そんなこと言わせないでくれよぅ……。

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【猫が教えてくれたこと】(5/10)

原題:【Kedi】
監督:チェイダ・トルン
(ドキュメンタリー)
製作国:トルコ/アメリカ
ひとこと感想:日本には写真家の岩合光昭さんによる『世界ネコ歩き』っちゅう超優良猫番組があってだな。(『…ネコ歩き』も映画を作るらしいと聞いてびっくりしているが。)『…ネコ歩き』はあくまでネコが主役だけど、トルコのイスタンブールで撮られた本作は、人と猫との暮らしがテーマという感じ。悪くはないけれど、そこまでの猫フリークじゃない私は、『…ネコ歩き』で自分の中の猫成分は十分足りているかなーと思った。

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【ネルーダ 大いなる愛の逃亡者】(7/10)

原題:【Neruda】
監督:パブロ・ラライン
脚本:ギレルモ・カルデロン
出演:ルイス・ニェッコ、ガエル・ガルシア・ベルナル、メルセデス・モラーン、他
製作国:チリ/アルゼンチン/フランス/スペイン
ひとこと感想:チリ関連の作品を見ていると国民的詩人ネルーダの話が高確率で出てくるから、どんな人なのだろうかという興味は常々あったのだ。本作に登場する警官は、ネルーダを捕らえる命令を受け、共産主義者で享楽的で女好きなネルーダの逃亡を追跡する。ネルーダの後半生の大まかな概略が分かったような分からなかったような?主役だと思って見ていた警官が、「自分のために名もなき警官が死んでいく」というネルーダが詠んだ詩の中の一つの概念と化していく展開が、独創的で面白いと思った。

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【ハートストーン】(8/10)

原題:【Hjartasteinn (Heartstone)】
監督・脚本:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン
出演:バルドル・エイナルソン、ブラーイル・ヒンリクソン、ニーナ・ドッグ・フィリップスドッティル、他
製作国:アイスランド/デンマーク
ひとこと感想:アイスランドの大自然に囲まれた小さな漁村を舞台に、幼馴染みの少年に思いを寄せられる思春期の少年の繊細な感情を描く。息が詰まるほどに生々しい少年達の心情の描写が素晴らしい。しかし、少年のお姉さん達とガールフレンド達が全員金髪のロングヘアでごっちゃになるという個人的大失態を犯してしまい、一部ストーリーが行方不明になってしまってごめんなさい……。

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【パーフェクト・レボリューション】(7/10)

監督・脚本:松本准平
原案:熊篠慶彦
出演:リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、余貴美子、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作の熊篠慶彦さんは障害者の性の自立を目指すNPO法人の理事長で、彼を演じる主演のリリー・フランキーさんの友人なのだそう。(ちなみに恋人のモデルになった女性とは既に別れているらしい。)主人公の恋人の精神障害が演技から画面から伝わってきにくかったのがちょっと残念だけど、障害者に勝手に清廉潔白なイメージをつけるなという主張はもっともで、ポジティブに生きることは人の生死に関わるほど重要なことなのだと訴えているところがいいと思った。小池栄子さん演じる、主人公を長年ケアしているヘルパーの女性のアンバランスさが目を引いたので、テーマとは沿わないかもしれないが、こちらももう少し掘り下げてみても面白かったんじゃないかと思う。

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【バーフバリ 王の凱旋】(6/10)

原題:【Baahubali 2: The Conclusion】
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
出演:プラバース、アヌシュカ・シェッティ、ラーナー・ダッグバーティ、他
製作国:インド
ひとこと感想:前作の【バーフバリ 伝説誕生】は完全に見逃していた……。できればどこかでレンタル等して予習して行った方がベターだと思う。祖父の代の因果が孫に祟るという三代の物語で、おそらくもともと前作と本作で二部構想だったのだろう。本作では前作以上に様々な人間関係が複雑に絡み合い、大迫力のスペクタクルが展開する。これは大画面で見た方が楽しいとは思うけど、様々な因縁や謀略が交錯し、前作では賢明だった国母シヴァガミ様が性格破綻者になるわ、父バーフバリ(現バーフバリの父でシヴァガミ様の甥)が連れてきた嫁が結構言いたいことを言ういい性格で色んな火種になるわと、見ているだけで結構エネルギーも消費する。正直個人的には、怨嗟とか復讐とかいったテーマがあまり得意ではないので、娯楽映画として力いっぱい楽しむのは難しかったかもしれない。が、【ムトゥ 踊るマハラジャ】から20年余、インド娯楽映画のヒット作が定期的に出てくるサイクルができ上がりつつあるのは喜ばしい限りだなぁと思った。関係者の皆様には、これからもこの鉱脈を末長く地道に掘り進め続けて戴けると嬉しいです。

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【はじまりへの旅】(7/10)

原題:【Captain Fantastic】
監督・脚本:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリス・バッソ、ニコラス・ハミルトン、シュリー・クルックス、チャーリー・ショットウェル、フランク・ランジェラ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ちょっと変わったパパと森の奥で暮らす6人の個性的な子供達。この一家、物語の途中までは世間とほぼ没交渉のようだったが、本当にこんな人達も存在しているのかも?と思わせるところも、またアメリカの懐の深さ。そして、こんな役があまりにもピッタリなヴィゴ・モーテンセン様は相変わらずの存在感だった。

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【パターソン】(8/10)

原題:【Paterson】
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏、バリー・シャバカ・ヘンリー、クリフ・スミス、チャステン・ハーモン、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ニュージャージー州のパターソンという町に生きる詩人の日常。普段はバスの運転手をしている詩人は、美しい妻と共に目覚める毎日の中、見聞きすることがすべて詩になる。ささやかな日常とささやかな愛で形づくられた個人的領域、から無限に広がる世界。詩人は、パターソンの町を訪れた日本人の詩人と出会って、自分の詩を記録し始める。淡々と描かれた地味なやり取りの行間に独特の何とも言えない味わいが醸し出されるのが、いかにもジム・ジャームッシュ監督らしい。ここしばらくのジャームッシュ監督作では最も初期作品のテイストに近い感じがして、当時の作品群に当てられた世代としてはどストライクだった!

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【8年越しの花嫁 奇跡の実話】(7/10)

監督:瀬々敬久
脚本:岡田惠和
原作:中原尚志・麻衣
出演:佐藤健、土屋太鳳、薬師丸ひろ子、杉本哲太、北村一輝、浜野謙太、中村ゆり、堀部圭亮、古舘寛治、他
製作国:日本
ひとこと感想:瀬々敬久監督が、佐藤健さんは一瞬で全体を掴む勘のようなインテリジェンスを若手俳優の中でおそらく一番持っていると、もの凄く褒めていた。土屋太鳳さんは、決して器用じゃないけど、ひたむきさと熱さがあり、この熱量は何にも代えがたい。彼等を始め、薬師丸ひろ子さん、杉本哲太さん、北村一輝さんといった超実力派の助演の俳優さん達も含め、すべての役者さん達の良さがもの凄くよく引き出されている映画だった。ぜ、瀬々敬久監督が岡田惠和さん脚本の映画を撮るの……?という心配が全くの杞憂に終わってよかった。

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【パッション・フラメンコ】(9/10)

原題:【Sara Baras Todas las voces】
監督:ラファ・モレス、ぺぺ・アンドレウ
(ドキュメンタリー)
出演:サラ・バラス、ティム・リース、他
製作国:スペイン
ひとこと感想:パコ・デ・ルシア、アントニオ・ガデス、カルメン・アマジャ、カマロン・デ・ラ・イスラ、エンリケ・モレンテ、モライート・チーコ、というフラメンコ界の6人の巨匠に捧げた『ボセス フラメンコ組曲』の初演まで。この舞台を創ったのが、現代最高峰のフラメンコダンサーとも異端児とも言われているというサラ・バラス。なんて凄い才能、そして圧倒的な踊り!きっとこれがコンテンポラリーなフラメンコの最先端なんだ。そして、自身もフラメンコ・ダンサーでありつつ彼女を支える夫、また子供の存在。まるで理想を絵に描いたみたい!女性でありながら男性と互してキャリアを切り開くのはやはり並大抵のことではなかったようだが、様々な逡巡を経ながらも未来を見据えてフラメンコの地平線を切り開こうとする姿がまたカッコイイ!!!もうすげぇファンになりました!カルロス・サウラ監督の【フラメンコ】が紛うことなきマスターピースだとして、それを観た時以来の衝撃を受けました!

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【花戦さ】(5/10)

監督:篠原哲雄
脚本:森下佳子
原作:鬼塚忠
出演:野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市、高橋克実、山内圭哉、和田正人、森川葵、吉田栄作、竹下景子、他
製作国:日本
ひとこと感想:千利休を自害に追い込んだ豊臣秀吉に生け花で対抗したという池坊専好(池坊の初代の家元)。この出演陣の面子を見ると見に行かざるを得なかったけれど、森下佳子さんに脚本を依頼して、これだけの面子を出しても、なんかワクワクしない。野村萬斎さんや市川猿之助さんの演技には型ができてしまっている印象があり、お話もどうも型に嵌まった印象になってしまうんですよね。う~ん……。

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【花筐 HANAGATAMI】(8/10)

監督・脚本:大林宣彦
原作:檀一雄
出演:窪塚俊介、矢作穂香、常盤貴子、満島真之介、長塚圭史、山崎紘菜、柄本時生、門脇麦、村田雄浩、武田鉄矢、南原清隆、根岸季衣、池畑慎之介、細山田隆人、白石加代子、片岡鶴太郎、高嶋政宏、他
製作国:日本
ひとこと感想:戦前の唐津を舞台にした大林宣彦監督の新作。総てが破壊されてしまう戦争の中で、恋への憧れを胸の内でこじらせながら死んでいく若者たちを大林宣彦流の解釈で描いているのだが……そういえばそもそも大林宣彦監督って変態カルト監督だったのだ!(←褒めてる)ということを思い出した。ヘテロ属性の女の子たち同士が戯れにキスをしているくらいなら軽いのだが、全裸の男二人が馬に相乗りして夜の浜辺を疾走するシーンを見た時はどうしようかと思った。これまでその自由さで日本映画を自由にしてきた大林監督。どうぞいつまでもそんな監督でいて下さい。

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【ハローグッバイ】(6/10)

監督:菊地健雄
脚本:加藤綾子
出演:萩原みのり、久保田紗友、もたいまさこ、渡辺シュンスケ、渡辺真起子、木野花、他
製作国:日本
ひとこと感想:【ディアーディアー】の菊地健雄監督作。学校で同じクラスにいても交わることのなかった二人の女の子がひょんなことから行動を共にするという、一歩間違えれば退屈になりかねないドラマを、無理のない丁寧な話の運び方で余すところなく見せ切る確かな演出力が素晴らしい。この二人の女子高生を演じた萩原みのりさんと久保田紗友さんがよかった。しかし、もたいまさこさんがおばあさん役ってのがいささかショックで……時代は流れていくのねぇ。

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【バンコクナイツ】(9/10)

監督・脚本・出演:富田克也
共同脚本:相澤虎之助
出演:スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット、チュティパー・ポンピアン、タンヤラット・コンプー、伊藤仁、長瀬伸輔、アピチャ・サランチョン、川瀬陽太、菅野太郎、村田進二、マリサ・タンタウィー、アンチュリ・ナムサンガ、ベニー・ライト、パンジャリー・ポンコン、ドコイー・トナヴット、田我流、也
製作国:日本/フランス/タイ/ラオス
ひとこと感想:【サウダーヂ】を製作した「空族」による“娼婦・楽園・植民地”をテーマにした新作。タイの歓楽街を舞台にした映画と聞いても全然ピンとこなかったけど、表から蓋をされて下に流れ込むしかないどろどろの欲望を抱えたアウトローのクラスタが辿り着く世界に、欧米からの人々に混ざって日本人もたくさん生息しており、これは紛れもなく日本のアナザーサイドを内包した物語なのだと思い知らされる。その世界で体を張って生きるタイ人女性の一人と、ある日本人男性のドライでウェットなラブストーリーを追いかけて、舞台が女性の故郷であるラオスとの国境地帯まで飛ぶ中で、先に掲げたテーマが3Dの絵巻になって展開される。あまりに映画的としか言いようのないこのダイナミックさと豊穣さに驚愕した。天才はあさっての方向からやってくるのだ。

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【光】(8/10)

監督・脚本:河瀨直美
出演:永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、藤竜也、他
製作国:日本/フランス
ひとこと感想:視力を失いつつあるカメラマンと、彼を愛するようになる女性の物語。ディスクライバー(音声ガイドの原稿を書く仕事)という職業を初めて知った。言葉だけで情景を伝え切るってどれだけ難しいことだろう。見える世界と見えない世界の境目にこれだけ迫った映画は見たことがなかったかもしれない。そして河瀨直美監督の描くラブストーリーでは一番心情が理解できて、一番好きだった。河瀨監督と永瀬正敏さんの相性がいいみたいで嬉しいので、これから先もまた共作があるといいなと思う。

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【光】(6/10)

監督・脚本:大森立嗣
原作:三浦しをん
出演:井浦新、瑛太、長谷川京子、橋本マナミ、南果歩、平田満、他
製作国:日本
ひとこと感想:どんなお話がだったか思い出そうとしてもあまり思い出せなくて、ネットであらすじを探して読んでみるとこんな感じだった。
女A:芸能人。いろんな男に肉体を差し出して生き抜いているが、そんな男達を全員憎んでいる。
男B:今の妻子より昔の彼女である女Aに執着してて、いいように利用されている。
男C:虐待されて育ち、昔優しくされた男Bに執着してて、その妻を寝取る。
寝取るって何で?それで、この3人がいた故郷が天災で壊滅したとか、男Bの幼い娘が変質者に乱暴されたとか、女Aの謎の女マネージャーとかいった設定はどこまで要るの?どこか既視感があるバラバラのエピソードが寄せ集められているだけで、全体を貫く核となる物語が見極めにくく、印象が希薄なままなのだ。そもそも、男Bの井浦新さんも、男Cの瑛太さんも、そこまで因業を背負ってしまうタイプに見えないのだが……それは詰まるところミスキャストなのではあるまいか。それでも、実際に映画を見ている間はそれなりに受け入れながら見ていたような気もするから、要素要素の力はそれなりにあったのだろうとは思うのだが。う~ん……。

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【ひかりのたび】(5/10)

監督・脚本:澤田サンダー
出演:志田彩良、高川裕也、山田真歩、浜田晃、瑛蓮、杉山ひこひこ、萩原利久、鳴神綾香、他
製作国:日本
ひとこと感想:ある田舎で地上げ屋みたいなことをやって土地を荒らす不動産屋と、それでも一番長く暮らしたその場所を故郷にしたいと願う娘の物語。でもその心情は私にはあまり伝わってこなかったかな。私にとっては、故郷としての田舎の土地というのは全速力で逃げ出す場所でしかないからなー。

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【ビジランテ】(8/10)

監督・脚本:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、岡村いずみ、般若、菅田俊、他
製作国:日本
ひとこと感想:地方都市の政治家だった暴力的で怪物的な父親から生まれてきた三兄弟の欲望と因業にまみれた物語。かつて独りで家を出て行った最も父親の血を引いていそうな長男(とその恋人)、政治家の地盤を継いだちょっと気弱でサエない次男(とそのやり手の嫁)、奇跡的に優しい性格に生まれついたバランサーの三男(と彼の店で働くデリヘル嬢達)が、土地の利権問題に巻き込まれる。私は、DV野郎の長男の恋人が戻ってきたのは子供ができていたからじゃないかと勝手に踏んだんだけど、そうすると遺産相続の話も振り出しに戻るよね。長男の撒いた火種が火を噴き、次男がキレ、三男が目覚める時、一体何が起こるのか……って、あれ?これはもしかして続編が可能なのではあるまいか?

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【ヒトラーに屈しなかった国王】(6/10)

原題:【Kongens nei (The King's Choice)】
監督・脚本:エリック・ポッペ
共同脚本:ハラール・ローセンローヴ=エーグ、ヤン・トリグヴェ・レイネランド
出演:イェスパー・クリステンセン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、ツヴァ・ノヴォトニー、カール・マルコヴィクス、カタリーナ・シュットラー、ユリアーネ・ケーラー、他
製作国:ノルウェー
ひとこと感想:ノルウェー国王のホーコン7世は、ナチスに徹底的に抵抗したことで、今でも人々の尊敬を集めているのだそうだ。中央ヨーロッパの歴史の流れとは少し外れた北欧の歴史はよく知らないことが多いので、もう少し勉強してみた方がいいかもしれないという、常々持っている思いを新たにした。

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【火花】(8/10)

監督・脚本:板尾創路
共同脚本:豊田利晃
原作:又吉直樹
出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士(2丁拳銃)、三浦誠己、加藤諒、他
製作国:日本
ひとこと感想:ご存知、又吉直樹さんの芥川賞受賞作を原作にした、一瞬の火花を追い求めてあがき続ける芸人達の物語。板尾創路監督と共同脚本の豊田利晃監督は【ナイン・ソウルズ】の盟友じゃありませんか!林遣都×波岡一喜コンビのドラマ版がよかっただけに、2時間前後でどうまとめるんだろう、と思っていたが、菅田将暉×桐谷健太コンビはやはり素晴らしく、他のキャストも、脚本の出来も演出も、考えうる限りのベストの出来。そしてビートたけし先生の『浅草キッド』を主題歌にするなんて全くもってずるい。これだけ盤石な仕上がりなら文句のつけようもない。やはり芸人の内面を最もよく掘り下げられるのは芸人自身なのかもしれない、と思った。

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【ひるね姫 知らないワタシの物語】(6/10)

監督・脚本:神山健治
(アニメーション)
声の出演:高畑充希、満島真之介、江口洋介、釘宮理恵、古田新太、高橋英樹、高木渉、前野朋哉、清水理沙、他
製作国:日本
ひとこと感想:元岡山県人としては、他県人の話す岡山弁がどうしても不自然に聞こえてしまうのは致し方ないとして。いつも眠たいヒロインの夢の世界と現実世界のリンクが分かりにくいというか、ちょっとご都合主義的ではないかと感じられたのが気になった。しかしこれ、女子高生をヒロインにしたのは、その方がウケそうとかいったプラクティカルな問題で、本当はヒロインの両親の物語の方を描きたかったんじゃね?だってそっちの方が圧倒的に魅力的なんだもの。

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【ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ】(7/10)

原題:【The Founder】
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・シーゲル
出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、リンダ・カーデリーニ、パトリック・ウィルソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ハンバーガーをファストフードとして一定の品質で素早く便利に提供するという画期的なシステムを考え出したマクドナルドの創業者兄弟と、彼等から口八丁手八丁で名前と事業を奪い取り世界中にフランチャイズ展開させた人物は別だったのだそうな。更にその人物は、不動産を所有して店舗用にレンタルすることで大儲けしていたという……。目的達成のためなら嘘もつき、建前とは矛盾することも平気でやらかす。アメリカ人が過剰に正義にこだわるのは、商売のために相当アコギなことをやっていることと表裏なんじゃないのか。お金という価値観の前では人間性など簡単に切り捨てることができる一部のアメリカ人の商売の才能、その酷薄さやエグさを改めて思い起こさせられた。

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【プールサイドマン】(7/10)

監督・脚本・出演:渡辺紘文
出演:今村樂、平山ミサオ、黒崎宇則、他
製作国:日本
ひとこと感想:栃木県大田原市で活動を続ける渡辺紘文・雄司兄弟の大田原愚豚舎の第3回作品。主人公はプールの監視員として働く寡黙な男。閑散として殺風景な北関東の田舎の一見退屈な日常の中、ラジオのニュースを通じて世界中から注ぎ込まれる毒々しい悪意に狂気の内圧が高まり、家族も友人も恋人もいない男の淡々とした日常が静かに狂っていく。他で見たことのないソリッドなモノクロの画面の質感に結構ハマってしまい、俄然この人達のファンになってしまった。

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【ふたりの旅路】(4/10)

原題:【Magic Kimono】
監督・脚本:マーリス・マルティンソーンス
出演:桃井かおり、イッセー尾形、他
製作国:ラトビア/日本
ひとこと感想:二昔前くらいによく見かけた、海外の人と日本の人との独得の雰囲気の交流ドラマ、といった趣き。子供は既に亡く、阪神・淡路大震災で夫とレストランを開く夢を無くした女性が(着物を含む家財道具一式や自宅は残っていてよかったね)、引き籠もり状態を脱してラトビアの着物ショーに参加することを決意し(何でや)、その後、ラトビアのテレビ番組に出演して料理をしたりインタビューで自分語りを始めたりするうち(何でや)、街角で震災時に行方不明になった夫らしき人を見かける……。桃井かおりさんやイッセー尾形さんのアドリブ任せだった部分も多いというし、物語より雰囲気を大切にしているのではないかと思われる、不思議な味わいの物語だった。

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【ブルーム・オブ・イエスタディ】(5/10)

原題:【Die Blumen von Gestern (The Bloom of Yesterday)】
監督・脚本:クリス・クラウス
出演:ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ハンナ・ヘルツシュプルング、他
製作国:ドイツ/オーストリア
ひとこと感想:ナチスの子孫の人達に焦点を当てたドキュメンタリーを見たことがあって、そのシリアスな実話が頭にあったものだから、本作はどうしてもそういう話をネタにしただけのお話のためのお話にしか見えなくて、気持ちが入っていかなかった。そういう予備知識がなければある特殊な男女のお話として普通に楽しめたかもしれないのだが。すみません。

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【ブレンダンとケルズの秘密】(8/10)

原題:【The Secret of Kells】
監督・原案:トム・ムーア
監督:ノラ・トゥーミー
脚本:ファブリス・ジョルコウスキー
(アニメーション)
声の出演:エヴァン・マクガイア、ブレンダン・グリーソン、他
製作国:フランス/ベルギー/アイルランド
ひとこと感想:【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】のトム・ムーア監督の長編デビュー作(ノラ・トゥーミー監督と共同監督)で、ケルト美術の最高峰と言われる『ケルズの書』について想像を巡らせる。『ケルズの書』は8世紀に作られた聖書の手写本で、その装飾の美しさで知られているそうだが、そうした装飾の文化を侵略や略奪から守り抜いたという物語を描いており、とにかく画が綺麗。音楽もKiLA (キーラ)が担当していて、どこを切ってもアイリッシュのエッセンスが満載で素敵。

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【ベイビー・ドライバー】(8/10)

原題:【Baby Driver】
監督・脚本:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:のっけからいきなり銀行強盗のシーン。そして童顔で無表情の凄腕ドライバーが、超絶テクニックで逃げる!逃げる!逃げる!カーチェイスが苦手な私でも思わず見入ってしまうような圧倒的なドライビングテクニック。う~ん、こりゃ引き込まれる!そして、ボーイ・ミーツ・ガールもあれば、キャラの濃い悪党達のピカレスクもあり、内容盛り沢山。正直、後半はちょっと人死に過ぎって思ったけど、それを補って余りある映画的興奮が詰まってる。エドガー・ライト監督ってやっぱり映画の面白さのツボを分かってる!と嬉しくなった。

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【望郷】(6/10)

監督:菊地健雄
脚本:杉原憲明
原作:湊かなえ
出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒形直人、他
製作国:日本
ひとこと感想:湊かなえさん原作の連作集から抜粋した『夢の国』と『光の航路』の2本のオムニバス。島の故郷を懐かしむというより、昔憎んでしまった親が当時何を考えていたのかが分かるというシワい話だった。菊地健雄監督は、他の人がやったら平凡で退屈になりかねない筋書きからでも、手堅くドラマを構築できる手腕がある方だとお見受けする。本作に関して言えばBGMがちょっと大袈裟すぎるのだけが気になったけど、いつかNHKのドラマのような質実剛健でいい意味で噛み応えのあるドラマを、【ディアーディアー】みたいにちょっとエッジの効いた脚本で手掛けて戴ける機会があるといいなぁと思う。

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【僕とカミンスキーの旅】(6/10)

原題:【Ich und Kaminski】
監督・脚本:ヴォルフガング・ベッカー
原作:ダニエル・ケールマン
出演:ダニエル・ブリュール、イェスパー・クリステンセン、アミラ・カサール、ドニ・ラヴァン、ジェラルディン・チャップリン、他
製作国:ベルギー/ドイツ
ひとこと感想:隠遁している伝説の画家と、その画家の伝記を書こうと押しかけた美術評論家のロードムービー。マティスの弟子でピカソの友人、ポップアートで名を馳せたって、そんなバカな!のスゴい設定(笑)。思わぬ方に転がっていくストーリーもさることながら、エッセンスとしての美術の扱い方が楽しかった。

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【星空】(6/10)

原題:【星空 (Starry Starry Night)】
監督・脚本:トム・リン
原作:ジミー・リャオ
出演:シュウ・チャオ、リン・フイミン、レネ・リウ、ハーレム・ユー、ケネス・ツァン、ジャネル・ツァイ、シー・チンハン、グイ・ルンメイ、他
製作国:台湾/中国
ひとこと感想:台湾の有名な絵本が原作だという2011年作品。互いに好意を寄せている純朴そうな美少年と美少女が、両親の離婚問題などで傷ついて、おじいちゃんの家のゴッホの絵のような星空を見たいと山奥に旅立つ……くぅ~っいいなー!時間が掛かりすぎたとはいえ、日本でもちゃんと公開されてよかった。

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【ボブという名の猫 幸せのハイタッチ】(5/10)

原題:【A Street Cat Named Bob】
監督:ロジャー・スポティスウッド
脚本:ティム・ジョン、マリア・ネイション
原作:ジェームズ・ボーエン
出演:ルーク・トレッダウェイ、ジョアンヌ・フロガット、ルタ・ゲドミンタス、アンソニー・ヘッド、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:親と上手くいかなかった寂しさから薬に溺れた青年が、ボブという茶トラの猫を偶然得て立ち直り、書いた本がベストセラーになる、という物語。かなりベタな気がするけれど、実話ベースならしょうがない。それより、そのボブくん本人(本猫)が自身の役で出演しているというのがびっくりだったんだけど!

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【ホワイトリリー】(2/10)

監督:中田秀夫
脚本:加藤淳也、三宅隆太
出演:飛鳥凛、山口香緖里、他
製作国:日本
ひとこと感想:これはヒドい。女性陶芸家とその弟子のレズビアンは別にいいのだけれど、この女性陶芸家が大昔の出来の悪い少女漫画かと見紛うような笑えるほどの性格破綻者。弟子の女も居候の男も何故ここまでこんな女の言いなりなのか、さっぱり分からないし説得力なさすぎ。同じ脚本でももっと女性達のキャラや心情を丁寧に描けば救いようはあったかもしれないのに、いろいろ感覚が古すぎるのでは?それともこれはギャグ映画なのか?最早呆れるのを通り越して笑うしかなかった。

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【ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~】(3/10)

原題:【A Fond (Full Speed)】
監督・脚本:ニコラ・ブナム
共同脚本:フレデリック・ジョルダン、ファブリス・ロジェ=ラカン
出演:ジョセ・ガルシア、アンドレ・デュソリエ、カロリーヌ・ヴィニョ、ジョゼフィーヌ・キャリーズ、スティラノ・ルカイエ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:高速道路走行中の一家を乗せた車がコンピュータ制御のブレーキシステムの故障で止められなくなり……。フランスのコメディって、時として、おバカキャラ(本作の場合は特に車中のじいさん、現実を受け入れようとしない車のセールスマンや女警察署長も大概)がありえないほどバカで全然笑えないことがある……。本作は私にはハードル高かったようである。

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【マンチェスター・バイ・ザ・シー】(9/10)

原題:【Manchester by the Sea】
監督・脚本:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:主人公は兄の死をきっかけに故郷に帰り、決して消せない自分の過去と向き合う。それは、自分のちょっとした過失で火事が起き、子供を死なせてしまったこと。起きてしまったことは完全に拭い去ることは出来ず、いつまでも癒えない傷がどうしようもなく残るのだとしても、生きていれば前に向かって進んでいくしかないし、変えていけるものもあるかもしれない。人生の機微を丁寧に描いた傑作。やればできるアメリカ映画。

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【ミックス。】(4/10)

監督:石川淳一
脚本:古沢良太
出演:新垣結衣、瑛太、広末涼子、佐野勇斗、田中美佐子、遠藤憲一、瀬戸康史、永野芽郁、真木よう子、小日向文世、森崎博之、蒼井優、平澤宏々路、鈴木福、谷花音、吉田鋼太郎、中村アン、生瀬勝久、山口紗弥加、久間田琳加、斎藤司(トレンディエンジェル)、他
製作国:日本
ひとこと感想:『リーガルハイ』『デート~恋とはどんなものかしら~』などの石川淳一監督と古沢良太脚本のコンビ作だけど、私はこれは戴けなかった……。そもそも、新垣結衣さんが演じたヒロインのキャラを愛せない。厳しすぎた母親への反発、というところまでは理解するとしても、彼女自身の卓球愛が見えてくるのが遅すぎない?それに、今時ここまで男に一方的に影響されすぎなキャラってどうなの?他にも、瑛太くんと元奥さんとの距離感の描き方がいい加減すぎとか、元カレの現パートナーとの間柄が適当すぎとか、細部の組み立て方がいろいろと雑すぎるのも気に掛かる。このコンビは【エイプリルフールズ】という映画も手掛けているけれど、映画だとどうしてこうなってしまうのか、残念だ。

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【密使と番人】(5/10)

監督・脚本:三宅唱
共同脚本:松井宏
出演:森岡龍、渋川清彦、石橋静河、嶋田久作、他
製作国:日本
ひとこと感想:【Playback】の三宅唱監督による時代劇。江戸時代末期の日本で、開国を望む蘭学者の一派が、幕府管理下にある日本地図の写しをオランダ人に渡すために密使を送るが、幕府の人相書が手配され、山の番人達が山狩りを始めた、という話だというが、そんな遠大なテーマを背負っていたとは。演出力の手堅さは感じたけれど、予算的な問題なのかキャストも場面も限られているため、劇を見ていただけではそこまで想像力が働きにくかったような……いや、私の頭が悪いだけ?

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【三つの光】(3/10)

監督・脚本:吉田光希
出演:池田良、鈴木士、小宮一葉、真木恵未、石橋菜津美、後藤剛範、他
製作国:日本
ひとこと感想:満たされていない人達が集まってきて音楽が生まれる、ってことらしいのだが、自分達が特別なことをやってるっていう“意識の高さ”はどこからやってくるのか。この主人公の三人は全員が自分の世界の中で閉じている感じで、彼等がつま弾く音楽、のようなものが、私には魅力的には思えなかった。

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【未来よ こんにちは】(7/10)

原題:【L'avenir】
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
共同脚本:サラ・ル・ピカール、ソラル・フォルト
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ、他
製作国:フランス/ドイツ
ひとこと感想:浮気した夫に離縁され、認知症の母に先立たれ、仕事も絶不調で、ちょっといいなと思った年下の男にはそういう意味では相手にされず、孤独まっしぐらの中高年のヒロイン。でもこんな状況も、慣れればそこまで絶望的って訳でもない、と己の実感を込めて言ってみる。まったくもって他人事じゃないこの寄る辺なさだけど、私らはこんな孤独をお友達にして生きていくしかないんだよねぇ。

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【未来を花束にして】(7/10)

原題:【Suffragette】
監督:サラ・ガヴロン
脚本:アビ・モーガン
出演:キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、ブレンダン・グリーソン、アンヌ=マリー・ダフ、メリル・ストリープ、ベン・ウィショー、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:イギリスで女性参政権が成立したのは1918年のことで、世界的に見て比較的早かったとは言え、それまでのイギリスでは女性参政権運動が過激化していたそうだ。本作はそんな時代の物語。女に政治を考える能力はな~い !! という有形無形の偏見と様々な攻撃にどっと疲れる。何故か【マルコムX】を思い出し、権利獲得の歴史とは戦いの歴史である、としみじみ反芻した。

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【ムーンライト】(7/10)

原題:【Moonlight】
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
原作:タレル・アルバン・マクレイニー
出演:アシュトン・サンダース、ジャハール・ジェローム、トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、ナオミ・ハリス、マハーシャラ・アリ、ジャネール・モネイ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ゲイの少年を助けてくれた人は、ヤク中の母親にクスリを売っていた。親友の子を好きだったけど、どうしていいのか分からなかった。ロールモデルがいない世界でアイデンティティを求めて彷徨う。これまで描かれ難かったアメリカ社会の様々な様相を映し取る本作がアカデミー賞の作品賞になったところに、アメリカの内面的な変質を感じた。けれど個人的には、心情的にそこまで揺さぶられなくてちょっと物足りなかったかもしれない。

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【武曲 MUKOKU】(9/10)

監督:熊切和嘉
脚本:高田亮
原作:藤沢周
出演:綾野剛、村上虹郎、小林薫、柄本明、風吹ジュン、前田敦子、神野三鈴、片岡礼子、康すおん、他
製作国:日本
ひとこと感想:剣道をテーマにした作品を見たのは『六三四の剣』以来かもしれない。綾野剛さん演じる主人公は、父親から人と差し違えてでも全うするような激しい剣の道を叩き込まれたが、その剣で父親を殺してしまったことで葛藤し続け、剣から逃げ続ける。父親と差し違えたのは事故だったんだし、大体父親自身がその道を示してたんだから恨んじゃいないと思うのだが、ゴーアヤノは血反吐を吐くように苦しみ続ける。一方、村上虹郎さん演じる高校生は、剣の道に導かれ、魅きつけられるようにゴーアヤノと対峙するようになる。やがて常人には理解しがたい命のやり取りをするほどの境地に分け入っていく二人の化学反応がもの凄い。個人的にはこれが熊切和嘉監督のこれまでの最高傑作なんじゃないかと思う。
血みどろの葛藤から立ち上がるゴーアヤノの姿も見応えがあるけれど、村上虹郎さんのティーンエージャーの時にしか持ち得ない輝きを捉えているのも素晴らしい。ただ、ゴーアヤノが言っている通り、虹郎さんはまだ感覚で演じている段階なのかも知れない。彼のようなタイプを大成させるのはもしかすると至難の業かも。陰ながら応援しているので、御本人も事務所の皆さんも、どうぞ頑張って下さいね……。

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【娘よ】(8/10)

原題:【Dukhtar】
監督・脚本:アフィア・ナサニエル
出演:サミア・ムムターズ、モヒブ・ミルザー、サーレハ・アーレフ、他
製作国:パキスタン/アメリカ/ノルウェー
ひとこと感想:パキスタンのイスラム部族の村で、幼い娘が近隣の村のロリコン爺さんと無理矢理結婚させられそうになったことに耐えかねた母親が、娘を連れて逃亡する話。もう駄目かと思った時に通りすがりのトラック運転手に助けられるが、普通あのタイミングでそうそう都合よくトラックは通り掛からないと思うし、そのトラックの運ちゃんがクソ野郎だったらもうアウトだったじゃん!……しかし実際あのような状況下で名誉バカの男共の追走をかわして逃げるということは至難の業で、あのくらい運がよくなければとても逃げ切れるものじゃないんだろうな……。こんなくだらない名誉のために一体何人が死んでいるのかと思うと暗い気持ちにならざるを得ず、こんな連鎖を断ち切りたいという監督の強い意思と祈りをひしひしと感じた。

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【メアリと魔女の花】(7/10)

監督・脚本:米林宏昌
共同脚本:坂口理子
原作:メアリー・スチュアート
(アニメーション)
声の出演:杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、遠藤憲一、渡辺えり、大竹しのぶ、他
製作国:日本
ひとこと感想:最も正統なジブリの後継者の一人と自他共に認める米林宏昌監督だけど、時代も、そもそも創る人も違うのだから、高畑・宮崎両監督が背負ってきた情念をそのまま背負うことはできないし、高畑・宮崎ジブリの再現はあらゆる意味で不可能なので、スポンサーや世間が何と言おうとも、そういうことはあまり考えすぎない方がいいと思う。本作も秀作として嫌いじゃないけれど、今後はもっともっと、米林監督ご自身が心から好きだなぁ、描きたいなぁと思える何かを追求していって欲しいなぁと心から思った。

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【メッセージ】(6/10)

原題:【Arrival】
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ハイセラー
原作:テッド・チャン
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ネタバレ御免。誠に手前勝手な印象では、【未知との遭遇】に『ツイン・ピークス』の時空の歪み感とモノリス(何故ばかうけ型なのか)を足した感じ?主人公の女性言語学者と得体の知れない異星人がコミュニケーションできるようになるまでがドキドキするのだが、彼等は時空を超越していて過去も未来もないらしい。(次元が異なっているのだろう。よく分からんが。)彼等の力を得て未来を見通せるようになった人類は何とか救われるのだが、今まで主人公の記憶として流れていた離婚や子供が若死にしてしまうシーンは、実は今まさに恋人になりかけている相手との未来だったということが判明する。悲劇しか待ち受けていないと分かってしまった未来に突入する勇気は、私にはとても持てませーん。何とも不思議な味わいの映画だった。

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【メットガラ ドレスをまとった美術館】(7/10)

原題:【The First Monday in May】
監督:アンドリュー・ロッシ
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ニューヨークのメトロポリタン美術館の「メットガラ」というファッション界の大御所が集うパーティーの様子を描く。このパーティは、【プラダを着た悪魔】で有名になったVOGUE誌の編集長アナ・ウィンターが主宰しているもので、集められた資金はメトロポリタン美術館の服飾部門の活動費に充てられるのだそう。美術館に服飾部門を置き、服飾の歴史を美術史に組み込むこと自体の是非についても議論があるという中でこのパーティーを開くことには、服飾文化の重要性を内外にアピールする上で一定の意味があるのだろう。しかし、年一回ハリウッドセレブ的な人々を招いてここまでド派手などんちゃん騒ぎを繰り広げることが本当に必要かどうかは。歴史が乏しいアメリカでは、権威という実態のない権力を演出するために、どれだけの資金を投入してどれだけの大仕掛けで人々の耳目を集められるかで競い合っている印象があり、その中心に“セレブ”という曖昧な社会的概念が据えられているように思う。そんな不確かな権威なるものを誇示する場と化しているこのメットガラには、良くも悪くもアメリカ文化の縮図が詰まっているように見えた。
本作の中で、西欧のファッションデザイナーが中国をどのようにモチーフに取り入れていったか、ということをテーマにした展覧会がお披露目されているのだが、中国の人はこれ見てどう思うのだろう。良く言えば自由な発想の発露だけど、悪く言えば文化の搾取と蹂躙の歴史を追っている感じ。少なくとも私は、こんな調子で日本をモチーフにされたらかなり嫌だけど。欧米における文化の受容のこういう側面は戴けないと思うが、それをわざわざこんなふうに映しちゃうなんて悪趣味だな~。

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【牝猫たち】(7/10)

監督・脚本:白石和彌
出演:井端珠里、真上さつき、美知枝、音尾琢真、郭智博、村田秀亮(とろサーモン)、吉澤健、白川和子、久保田和靖(とろサーモン)、他
製作国:日本
ひとこと感想:奇妙な客と奇妙な関係に陥るどこか覚めた目をした女性、子供を置き去りにして客との関係に溺れるシングルマザーの女性、老人の客との関係がこじれるプチセレブな若奥様の女性、というデリヘルで働く三者三様の女性達。こういう話では、得てして上から目線の決めつけで女性を一般化しようとすることが多くてムッとしてしまうのだが、本作ではあくまでも、この女性達の話をそれ自体として観測し、ふわふわと実態のない今の社会のある側面を彼女達に投影して映し取ろうとしているように見えて興味深かった。個人的には、今回の日活ロマンポルノのリブート企画の中で、本作が一番面白かった。そしてとろサーモンの村田さんに久保田さん、M-1優勝おめでとうございます!

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【モアナと伝説の海】(7/10)

原題:【Moana】
監督・脚本:ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー
共同脚本:タイカ・ワイティティ 、ジャレド・ブッシュ、他
(アニメーション)
声の出演:アウリイ・クラヴァーリョ、ドウェイン・ジョンソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ディズニーがポリネシア文化を食い物にしているという批判を目にしたけれど、そもそもハリウッド映画自体が世界中の文化を食い散らかして出来ているというのに、何を今更。主人公のモアナが女の子の族長という発想自体が、アメリカのポリティカル・コレクトネスに配慮した捏造だと思うけど、彼女が少しずつ知恵や技術という力を得て困難を克服していく展開は単純にわくわくするので、本作を見てポリネシア文化を理解したような気にさえならなければいいんじゃないかと思う。

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【山村浩二 右目と左目でみる夢】(7/10)

監督:山村浩二
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:米国アカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネート歴がある山村浩二監督による『怪物学抄』『Fig(無花果)』『鶴下絵和歌巻』『古事記 日向篇』『干支1/3』『five fire fish』『鐘声色彩幻想』『水の夢』『サティの「パラード」』の短編9編による最新短編集。日本の古典に題材を取った作品や、カナダのノーマン・マクラレンの実験アニメの古典をアレンジした作品や、コクトー・サティ・ピカソが関わったディアギレフのバレエ・リュスの伝説的バレエ作品「パラード」を題材にした作品など、古今東西の様々な意匠が縦横無尽に飛び回る。このモチーフの多様さは、山村さんが日本や海外の様々な団体から依頼を受けるようになったことも影響しているらしいが、山村ワールドの多彩な側面を味わうのにはいいパッケージなのではないかと思う。

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【ユリゴコロ】(6/10)

監督・脚本:熊澤尚人
原作:沼田まほかる
出演:吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江、他
製作国:日本
ひとこと感想:ある殺人狂の女の遍歴と、そのきっかけになった事件に関わっていた男、更にその子供の物語。【蛇とピアス】が出世作の吉高由里子さんは、かなりヘビーな役柄でも割と厭わない根性が素晴らしい。しかし、彼女と松山ケンイチさんの因業まみれのラブストーリーに較べて、松坂桃李さんを中心にしたパートの描写が安っぽく嘘っぽくて、あまり魅力的に映らなかったのが残念だった。○○さんと△△さんも、悪いけどとても同一人物には見えないぞ。

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【夜明け告げるルーのうた】(8/10)

監督・脚本:湯浅政明
共同脚本:吉田玲子
(アニメーション)
声の出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:何度も書いているかもしれないが、湯浅政明監督は控えめに言って天才!可愛いルーちゃんも、寂れた漁港の街の描写も、田舎に馴染めず鬱屈していた少年の物語も、音楽のように弾け飛ぶアニメーションも、何もかもが素晴らしい!個人的には、都会に憧れる女の子が、その都会から戻ってきた女性と話をするシーンも心に残った。

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【夜明けの祈り】(8/10)

原題:【Les Innocentes】
監督・脚本:アンヌ・フォンテーヌ
共同脚本:サブリナ・B・カリーヌ、アリス・ヴィヤル、パスカル・ボニゼール
原作:フィリップ・メニヤル
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、ヴァンサン・マケーニュ、他
製作国:フランス/ポーランド
ひとこと感想:第二次大戦後のポーランドのある修道院で、侵攻したソ連兵の蛮行により妊娠させられてしまった7人の修道女のため、自ら危険を冒しながらも彼女たちを助けたフランス人女性医師の実話を元にした物語。扇情的で下卑た描写には堕さず、絶望的な状況に対する真摯な苦悩や祈りや救済が、むしろ静謐で高潔な印象を与えていたところに感銘を受けた。しかし、この世紀になってすら、戦争状態が発生する度に世界のあちこちからそういう話が聞こえてくることに対するこの怒り。そういうことをする馬鹿は全員縊り殺してやりたいと思うこの衝動をどうにかしてくれ。

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【ヨーヨー・マと旅するシルクロード】(9/10)

原題:【The Music of Strangers】
監督:モーガン・ネヴィル
(ドキュメンタリー)
出演:ヨーヨー・マ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:チェリストのヨーヨー・マさんは、16年前から「シルクロード・アンサンブル」という様々な国の様々な演奏家からなる流動的な音楽集団を主宰していて、断続的に演奏活動を行っているのだそうだ。ここはピーター・バラカンさんのコメント以上に上手いことが言えないので引用させて戴きたい。「音楽の力で世界を変えられるか。最近疑問に思えていたが、この映画を見たらまた希望が湧いてきました。異国人同士による意義深い共演に目指すべき将来の兆しがあります。」ヨーヨー・マさんが音楽で世界を一つにしようと戦っているように、私は美しいものや楽しいものや可愛いものや光り輝くものを見出すことで、放っておけばエントロピーに向かっていく世界に抵抗したいと思う。昔アルバムをジャケ買いした、当時は多分まだティーンエイジャーだったガイタ(スペイン・ガリシア地方のバグパイプ)吹きのクリスティーナ・パト姐さんが、超カッコイイおばさんになっていて痺れた。

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【汚れたミルク あるセールスマンの告発】(6/10)

原題:【Tigers】
監督・脚本:ダニス・タノヴィッチ
共同脚本:アンディ・パターソン
出演:イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、カーリド・アブダッラー、アディル・フセイン、他
製作国:インド/フランス/イギリス
ひとこと感想:パキスタンで、大グローバル企業(映画の冒頭でネスレと明示されているらしい)が粉ミルクを大々的に販売したため、不衛生な水で溶かしたミルクを飲んだ乳幼児が死亡する事件が続発。粉ミルクのトップセールスマンの男がその事実に心を痛め、企業の説明責任を問おうとするが、様々な社会的圧力を掛けられる。男は国際人権団体の支援を得てドイツのテレビ局から取材を受けるが、男が企業に和解金を要求していたという情報が出て放送は中止になる……。企業の不正を告発しようとした個人が受ける妨害、という英雄物語に留まらない複雑な位相を見せる本編。真実って一体何。この複雑さは、現代社会の複雑さをそのまま投影しているのかもしれない。それでもダニス・タノヴィッチ監督らがこの話の映画化を手掛けたのは、男が和解金を要求したかどうかに関わらず、粉ミルクの誤使用による子供達の死亡が今でも大々的に起きているからなのだそうだ。とにかく子供達が死ぬ事態だけは何とか食い止められないか。粉ミルクを溶かす水を沸騰させるというごく当然の常識と思われる手段が何故広まらないのか、本当に謎なんだけど……。

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【夜空はいつでも最高密度の青色だ】(6/10)

監督・脚本:石井裕也
原作:最果タヒ
出演:石橋静河、池松壮亮、松田龍平、市川実日子、田中哲司、佐藤玲、三浦貴大、ポール・マグサリン、他
製作国:日本
ひとこと感想:看護師をしながらガールズバーで働く女の子(この役の石橋静河さんは石橋凌さんと原田美枝子さんの次女なのだそうだ)と、工事現場で日雇い仕事をする男の子(安定の池松壮亮先生)の、それぞれに見ている世界が少しずつ近づいていく物語。原作の最果タヒさんの詩を、石井裕也監督が脚本化したのだそうだ。昼間のシーンも多かったはずなのに、夜の底みたいな青っぽいイメージが残っているのは何故だろう。記憶を掘り起こしてみると、近づきそうでなかなか近づかないもどかしい二人の物語の中に、かなり厳しい日雇いの労働環境(保障はないし倒れたらそれまで)や看護師の労働現場なども断片的に描かれており、東京の底が想像以上に丁寧に描かれていたように思えた。けれど、今までの石井監督作品の圧倒的な完成度を考えると、とりとめのなさが印象に残ってしまい、少し物足りないと感じてしまった。

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【夜は短し歩けよ乙女】(8/10)

監督:湯浅政明
脚本:上田誠
原作:森見登美彦
(アニメーション)
声の出演:星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、山路和弘、麦人、他
製作国:日本
ひとこと感想:この圧倒的なイマジネーション!湯浅政明監督は控えめに言って天才!正直、特殊なジャンルのコミックスみたいな原作は5ページで挫折したが、このような形で映像化してもらえると咀嚼することができてありがたかった。

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【歓びのトスカーナ】(8/10)

原題:【La Pazza Gioia】
監督・脚本:パオロ・ヴィルズィ
共同脚本:フランチェスカ・アルキブージ
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ミカエラ・ラマッツォッティ、他
製作国:イタリア/フランス
ひとこと感想:トスカーナにある精神的な問題を抱える女性達のための診療施設に、やせっぽちでタトゥーだらけの暗い目をした女性がやってくる。施設で女王然として振る舞っている女性は彼女に興味を覚え、二人して施設を抜け出す。行き当たりばったりで野放図に逃避行をしているかのように見える二人は、それぞれに暗い記憶を抱えていた。
女王然とした女性には大言壮語癖があり、孤独から男にあっさり嵌まって騙されて全財産を失った後、周囲をヒステリックに攻撃しつつ、中身は全然伴わなくても大物らしく振る舞うことでなけなしのプライドを保ってきた。一方、やせっぽちの女性は、男に騙されて私生児を産み、男に会いにいったところで警察に通報され、衝動的に子供と心中を図り、子供を取り上げられていた。この、外から見ると無茶苦茶でも、中身はズタズタに壊れてしまっている本当は誰よりも繊細な二人が、互いのことを深く理解するようになり手を差し伸べ合う姿に泣けてくる。女同士の友情は成立するか?どうして成立しないと思うのだ馬鹿野郎。この二人を演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキ様とミカエラ・ラマッツォッティさんの存在感が圧倒的で、ちょっと忘れがたい映画になっていた。

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【ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~】(4/10)

監督:滝田洋二郎
脚本:林民夫
原作:田中経一
出演:二宮和也、西島秀俊、綾野剛、宮﨑あおい、竹野内豊、笈田ヨシ、西畑大吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:1930年代の満州でとある天才料理人が考案したフルコースを再現するため、ある料理人に声が掛かる。その料理人は、天才的な舌を持っているけれど、性格に難があるせいで自分の店をみすみす潰してしまうような輩だった……。あぁ、この時点でもう全然ついていけてない。二宮和也さん、もしかして、眉根さえ寄せていればシリアスな演技になるって思ってないだろうな?【硫黄島からの手紙】の頃は確かに天才肌かもしれないと思っていたけれど、あれをピークにどんどん下手になっていっているような気がするのだが。

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【ラ・ラ・ランド】(5/10)

原題:【La La Land】
監督・脚本:デミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:歌も踊りも最高だけどさ。ミュージカル作ろうって言って、これがさくっと出来ちゃうアメリカってホント凄いけどさ。ハピエン厨の私には、こういう終わらせ方にする意味が本当によく分からん。その終わらせ方に意味があるのならハッピーエンドじゃなくたっていいけれど、今回は、こんなふうにすればカッコよさげ、以外の作り手の動機が感じ取れない。いくら架空の物語だからって、人様の人生をそんなに軽々しく弄んでんじゃねーよ!と見終わって気分が悪かった。

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【リングサイド・ストーリー】(8/10)

監督:武正晴
脚本:横幕智裕、李鳳宇
出演:佐藤江梨子、瑛太、武藤敬司、武尊、黒潮“イケメン”二郎、余貴美子、高橋和也、近藤芳正、有薗芳記、田中要次、菅原大吉、小宮孝泰、前野朋哉、角替和枝、峯村リエ、他
製作国:日本
ひとこと感想:【百円の恋】の武正晴監督作。30半ばで売れない俳優の男は、気が乗らない仕事は疎かにするわ(だから現状全く仕事をしてないわ)、彼女の財布からお金を盗るわ、そのくせ嫉妬深いわで、傍目には完全に悪質なヒモ。その彼女は、たまたま就職したプロレス団体が意外なほどに水が合って、仕事一筋に。夢を持つことについての考察を重ねつつ、最後まで観ると結局がっつりラブ・ストーリーだった。俳優の夢と格闘する瑛太さんもよかったけれど、そんな彼氏と格闘しつつ自分の夢も見つけ出す佐藤江梨子さんが完全に本編の主人公。彼女の魅力と実力に改めて気づかされた。

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【ルージュの手紙】(8/10)

原題:【Sage femme (The Midwife)】
監督・脚本:マルタン・プロヴォ
出演:カトリーヌ・フロ、カトリーヌ・ドヌーヴ、オリヴィエ・グルメ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:子育てもほぼ終わり、一流の助産師として働く女性のもとに、かつて自分の母親から父親を奪って自殺に追い込んだ義母が脳天気に再会を求めてきた……。手前勝手だけどこんなふうにしか生きられないこの義母の面倒を見た女性は、何のかんの言って彼女のことが好きだったのだろう。そんな主人公の女性の心情が非常に丁寧に描かれているのが秀逸で、この女性を演じたカトリーヌ・フロさんも、義母を演じたカトリーヌ・ドヌーヴさんも、役柄にぴったり。もしかして男性の皆さんには平凡だと映る作品なのかもしれないが、中高年女性の皆様には全力でお勧めしたい。

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【ローガン・ラッキー】(8/10)

原題:【Logan Lucky】
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
脚本:レベッカ・ブラウン
出演:チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ライリー・キーオ、ダニエル・クレイグ、キャサリン・ウォーターストン、ヒラリー・スワンク、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アンラッキーなローガン家の3きょうだいが、人生一発大逆転を狙ってカーレースの売上金の強奪を計画。これは貧者の【オーシャンズ11】か?違うか。ソダーバーグ監督は絶対にまた映画制作に復帰するとは思ってたけど、どちらかと言うと都会の人間の逡巡を描いてきた感がある監督が、今まで描いてこなかったような中西部を舞台にした映画を撮るとはちょっと意外だった。これが今のアメリカの分断された状況に対するソダーバーグ監督の回答なのか。絶対違うな(笑)。

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【ローマ法王になる日まで】(6/10)

原題:【Chiamatemi Francesco - Il Papa della gente(Call Me Francis)】
監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ
共同脚本:マルティン・サリナス
出演:ロドリコ・デ・ラ・セルナ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:現ローマ法王フランシスコ1世の半生のドラマ化。アルゼンチンの軍事政権下(政府に逆らう人々を飛行機から落として行方不明にしちゃうって実際何かのドキュメンタリーで見た……)における昔の法王の活動の数々は、今一つ成果が上がらず実を結ばないので、カタルシス感が弱くて無力感も大きかったけれど、これは実話ベースだから仕方ない。でも、そうした展開を踏まえればこそ、法王がドイツの「結び目を解く聖母」の絵の前で信者の見知らぬ女性に“苦しみを神に差し出すこと”を教わり、神の恩寵を見た展開には得心がいった。

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【ろんぐ・ぐっどばい~探偵 古井栗之助~】(7/10)

監督:いまおかしんじ
脚本:川崎龍太、中野太
出演:森岡龍、蜷川みほ、手塚真生、水澤紳吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:いまおかしんじ監督の新作の探偵もの。映画界の男性達はこの手の痩せ我慢系ハードボイルドが好きだよな~。私はそうでもないけれど、本作はタイトルに違わず【ロング・グッドバイ】へのまっとうなオマージュが強く感じられてよかった。妹。元恋人の女医。調査対象の嫌われ者の蓮っ葉女。いろんな女達のいろんな愛を受ける主人公が何だかカッコいい。森岡龍さんはもっともっと全国的に名前が売れて欲しいものだ。しかし、エイズとHIV感染は違うので(HIVに感染してもウイルスが増えてエイズが発症しなければ死にません)、いくらフィクションとは言えそのへんはちゃんと分けて描写した方がいいと思います。

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【わたしたち】(6/10)

原題:【우리들(The World of Us)】
監督・脚本:ユン・ガウン
出演:チェ・スイン、ソル・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:小さな秘密を暴露したり密告しあったりして学級内ヒエラルキーの頂点に取り入ろうとする子供達の友情あるある。サエない子を些細な方法で攻撃して結束力を高める(度を超すといじめになる)ための標的になったとしても、微妙な見栄があって大人に対しては必ずしも本当のことを言えないのも凄くリアル。子供の世界の逃げ場のなさを正確に描く描写力が凄かった。

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【わたしは、ダニエル・ブレイク】(9/10)

原題:【I, Daniel Blake】
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、他
製作国:イギリス/フランス/ベルギー
ひとこと感想:病気で働けない状態なのに求職活動をさせられた挙げ句死んでいったダニエル・ブレイクさん。便利さを提供して人間を楽にするはずの効率化・システム化が、結局、あれもできないこれもできないという不便さで、人間を蹂躙し追い詰める。でも、当のダニエルさんは、システムには乗っからない手作りの価値を周りに分け与えることができる人だった……。デジタル化についていけない高齢者が不利益を被るとか、貧しいシングルマザーが売春をせざるを得ない状況に追い込まれるとか、イギリスの民間で起こっている出来事は日本でもあまり大差なく、やはり制度の狭間でないがしろにされている人々がいそうな気がする。人間を大切にできないシステムなんて意味がない。最後の巨匠ケン・ローチ先生、どうかまだまだお元気で、現代社会の欠陥や矛盾を目に見える形にして指し示して戴きたい……。

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【笑う故郷】(6/10)

原題:【El ciudadano ilustre】
監督:マリアノ・コーン、ガストン・ドゥプラット
脚本:アンドレス・ドゥプラット
出演:オスカル・マルティネス、ダディ・ブリエバ、アンドレア・フリヘリオ、他
製作国:アルゼンチン/スペイン
ひとこと感想:ノーベル賞の受賞スピーチで賞をディスるほどの毒舌作家(なら貰わなきゃいいのに)が、故郷の田舎町に帰郷して起こる悲喜こもごも。“故郷に対する微妙な気持ち”が拭えないならそもそも帰らなきゃいいと思うのだが、わざわざ帰ってみたというのは、懐かしさの他にやぶさかでもない気持ちがあったんじゃないのか?名誉市民の話とかだって、絶対嫌なら死ぬ気で断るだろ。と思っていたら、旅行の顛末が作家の新作小説に。結局、作家が体張ってネタ探しに行ったのに付き合わされただけだったのか……。

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【我は神なり】(7/10)

原題:【사이비(The Fake)】
監督・脚本:ヨン・サンホ
(アニメーション)
声の出演:ヤン・イクチュン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:【新感染 ファイナル・エクスプレス】のヨン・サンホ監督が宗教詐欺を描いたアニメーション。舞台はダム建設で水没する予定になっている村。牧師は、信仰を広めたいという気持ちと過去に起こした事件から、インチキ教団を率いる詐欺師の言うことに逆らえない。この教団がインチキだと見抜いたのは、村に久々に帰ってきたトラブルメーカーだったが、この男、娘が大学進学のために貯めていた学費を勝手に使い込み、娘が反発すると暴力を振るうような輩なので、誰にも信用されない。(この男の妻が脅えて泣いて許しを乞うことしかできない女なのがかなりイラッとする。)結局、真実は露見するのだけれど、訪れるのは誰一人幸せにならない超ベリーバッドエンド。不気味な暗い画面とも相俟って、ざらざらとした気持ち悪い印象だけがへばりつくように残る。これ、実写でも十分可能な内容だと思うのだが、何故アニメにしたのだろう……こんなアニメもあるのだなという発見にはなったけど。日本のアニメには、形はどうあれ夢や希望を描くという不文律があるのだと知ることになった。

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【ワンダーウーマン】(5/10)

原題:【Wonder Woman】
監督:パティ・ジェンキンス
脚本:アラン・ハインバーグ、ザック・スナイダー、ジェイソン・フックス
原作:ウィリアム・モールトン・マーストン
出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、ロビン・ライト、ダニー・ヒューストン、デヴィッド・シューリス、コニー・ニールセン、エレナ・アナヤ、ユエン・ブレムナー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:結局、殴り合って強かった方が勝ちという旧態依然としたマッチョ的世界観の主役を女性にすげ替えただけなんじゃないだろうか……。強いってそういうことじゃなくない?物理的に他を圧した者がその後の世界を好き勝手にしていいという形のヘゲモニーは世界的に限界がきてるんじゃないの?主人公が、世の中には正義と悪しかないから悪を倒せば総てが解決する、という考え方がどうやら間違っていたと気づいて、ようやく少しだけ面白くなってきたのは、最後の30分くらいになってからのことだった。

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