Back Numbers : 映画ログ No.95



2018年に見た全映画です。


【アーリーマン ダグと仲間のキックオフ!】(5/10)

原題:【Early Man】
監督・声の出演:ニック・パーク
脚本:マーク・バートン、ジェームズ・ヒギンソン
(アニメーション)
声の出演:エディ・レッドメイン、ティモシー・スポール、他
製作国:イギリス/フランス
ひとこと感想:久々のニック・パーク監督作ということで期待したのだが……うーむすまん。アードマン・アニメーションズの人間キャラの造形にはやっぱりあまり馴染めなかった……。

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【アイスと雨音】(3/10)

監督・脚本:松居大悟
出演:森田想、田中怜子、田中偉登、青木柚、紅甘、戸塚丈太郎、門井一将、若杉実森
製作国:日本
ひとこと感想:テーマソングのように通奏しているMOROHAさんのラップだけがやたら素晴らしかったので、大オマケでこの点数。大変申し訳ないが、これは演技が下手すぎる。感極まったら大声でわめき散らすしかできないなんてまるっきり素人だし、普通のやりとりの部分も学芸会みたいで、プロの作品として人目に晒すレベルじゃない。とは言っても、発展途上の身の上の子供達の演技は、指導や見せ方である程度までは引っ張って行けるはず。これは完全に、このレベルでOKを出している周りの大人達の責任だ。

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【愛と法】(9/10)

監督:戸田ひかる
(ドキュメンタリー)
出演:南和行、吉田昌史、他
製作国:日本/イギリス/フランス
ひとこと感想:大阪を拠点に活動する男性同士の弁護士カップルを描いたドキュメンタリー。作中では、ろくでなし子さんの裁判や、君が代不起立裁判、無戸籍者の戸籍獲得のための裁判などに携わっているが、日々脅かされつつある日本社会の多様性(ダイバーシティ)を法律の面から守るべく奔走し、戦い続ける二人の姿に涙が出そうになった。現実の政治・経済のもろもろの酷さがふとしんどくなっていた今日この頃、心が洗われて、元気をもらえた。

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【あみこ】(7/10)

監督・脚本:山中瑶子
出演:春原愛良、大下ヒロト、他
製作国:日本
ひとこと感想:自分を特別な存在だと思う自意識との格闘は、きっと誰もが通る道。行動に結びつけることなく理想に耽溺して現実を放置してしまうところも、その結果勝手な思い込みが暴走してしまい、現実との落差に愕然とするところも、我が身にも覚えがあったりする(ここまで極端ではないにせよ)。でも監督はこんな主人公を突き放すのではなく、そこはかとないユーモアに包(くる)んでそっと優しく寄り添う。主人公のあみこは、いわゆる可愛いというのとは違うけど、愛おしくて抱きしめてしまいたくなり、あなたはなんも悪くない、次頑張れ!と声を掛けたくなったりする。こんな主人公を描いてみせた山中瑶子監督、本作の製作当時まだ10代だったとは!初めて脚本を書き、混乱の中で手探りで撮ったとは思えない完成度。 これは紛れもない才能の持ち主かもしれない。

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【家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。】(5/10)

監督:李闘士男
脚本:坪田文
原作:K.Kajunsky、ichida
出演:榮倉奈々、安田顕、大谷亮平、野々すみ花、浅野和之、品川徹、螢雪次朗、他
製作国:日本
ひとこと感想:毎日様々なネタで死んだふりをして夫を出迎えていたという妻の実話(!?)の映画化。妻の榮倉奈々さんはひたすら可愛いが、夫のヤスケンさんが妻の意図が分からないとイライラするのがさっぱり分からない。こんな毎日手間暇掛けて旦那を迎えるなんて、愛が無きゃ続かないに決まってるじゃん!それが分からなんて余程頭が悪いのか?このように完全に尺を引き伸ばすためだけに加えられた余計な要素を、ヤスケンさんが苦労して演じているのが気の毒。また、対比のために登場させたのであろう不妊→すれ違い→離婚カップルの描写も食い足りないような。カップルでふんわりほんわか見るにはいいくらいの塩梅なのかもしれないけれど、ガツンと来る説得力が全体的に足りなかった気がする。

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【生きてるだけで、愛。】(6/10)

監督・脚本:関根光才
原作:本谷有希子
出演:趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美、松重豊、石橋静河、織田梨沙、仲里依紗、他
製作国:日本
ひとこと感想:躁鬱病で仕事もままならない女性と、仕事に行き詰まりを感じるゴシップ記者の男性の愛の形を描いた本谷有希子さんの小説の映画化。躁はないけど鬱は経験あるので、何もしていなくても疲れると感じたり、周囲に過剰に反応して息をするように傷ついたり、いくらでも眠気が襲ってきたりする感覚とかは分かる気がする。これではどう転んでも生きていくのが大変……。一方の男性は、何もままならない職場で納得のいかない仕事をさせられることを総て受け入れているかに見えて、結局、鬱屈を溜め込み爆発する。こんな二人の、二人にしか分からない絆を描き出しているのはいいと思う。傷だらけのメンタルの女性を体当たりで熱演する趣里さんの思い切りの良さもよかったけれど、今回は終始受けに回っている菅田将暉さんも、こんな演技もできるのかとまた感心させられた。

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【伊藤くん A to E】(4/10)

監督:廣木隆一
脚本:青塚美穂
原作:柚木麻子
出演:岡田将生、木村文乃、田中圭、志田未来、佐々木希、夏帆、池田エライザ、中村倫也、他
製作国:日本
ひとこと感想:落ち目の女性脚本家が、自分の講演会に参加した女性達の恋愛相談をネタにしようとしたら、登場する男がみんな同一人物。それは、無様に生きるのが嫌だとか言って周りを振り回す無神経な28歳フリーターで、自分のシナリオ教室に通う男だった。……しかし、脚本家とシナリオ教室に通う生徒達っていう設定自体にそもそもあまり興味が湧かない上、木村文乃さんが「自信を失いかけていてヒステリックになっている高慢ちきな女性脚本家」という役柄に全然合っていない。木村さんは演技力はある人だと思うんだけど、得手不得手はあるだろうから、今後は出演作の吟味も必要なんじゃないのかな、と思った。

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【愛しのアイリーン】(6/10)

監督・脚本:吉田恵輔
原作:新井英樹
出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花、伊勢谷友介、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、田中要次、他
製作国:日本
ひとこと感想:フィリピンで結婚相手を買ってきた農村の男とその花嫁を主人公にした新井英樹さんの漫画を、吉田恵輔監督が映画化。主人公に対しどの女も股を広げて寄ってくるというあまりにご都合主義の展開にはこの際目をつぶるけど。主人公が血反吐を吐くような思いをこじらせている可哀想な男なのだとしても、愛しているはずの肝心の相手に思いやりを示せず、絶対やってはいけないようなことばかりしてしまう(例えば妻に金を投げつけてセックスさせろと脅迫するとか)、こんな態度を愛とは呼べない。それは息子に非現実的な理想を押し付ける母親も同じで、相手を慮れずエゴを押し付けるだけの態度を決して愛とは呼べない。安田顕さんや木野花さんが、内臓を引きずり出すように感情を晒け出す演技で、こうした状況を丸ごと描き出そうとしているのは本当に凄まじい。けれど、相手とのコミュニケーションを求めない独りよがりのマスターベーションの応酬は、カタルシスが全くなく、あまりにも救われない。そしてナッツ・シトイさんの演じるヒロインの女性ばかりにその皺寄せが行き、彼女の逞しさですべて何とかしてもらおうという流れがしんどすぎて、どっと疲れた。見るんじゃなかったと心から思った。
新井英樹さんは、こんな独りよがりな男性の苦悶をナルシスティックに描いているからこそ人気があるのだろうし、それはそれで需要があるのだからよいのだろう。でも、昔『宮本から君へ』が大嫌いだった自分が、歳月が経ったからとうっかり近寄ってしまったのがそももそも間違いで、今でもやはり全く受け付けることができない自分を発見するだけだった。心が狭くて結構。今後の人生では近寄らないように気をつけたいと思う。

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【犬ヶ島】(9/10)

原題:【Isle of dogs】
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
共同脚本:ジェイソン・シュワルツマン、ローマン・コッポラ
(アニメーション)
声の出演:コーユー・ランキン、リーブ・シュレイバー、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、F・マーリー・エイブラハム、ティルダ・スウィントン、野村訓市、高山明、伊藤晃、ヨーコ・オノ、グレタ・ガーウィグ、村上虹郎、フランシス・マクドーマンド、野田洋次郎、渡辺謙、夏木マリ、ハーヴェイ・カイテル、フィッシャー・スティーブンス、コートニー・B・ヴァンス、他
製作国:アメリカ/ドイツ
ひとこと感想:ウェス・アンダーソンの監督ストップ・アニメーション作品。テーマはズバリ「イヌはともだち」。日本をモチーフにした凝り凝りの意匠の細かさがとにかく隅々まで楽しい上に、監督独特の台詞の間合いが何とも言えず味わい深い。何から何まで素敵なので、どこかで放送されたら1コマ1コマじっくり見返したいような気がする。この映画に多大な貢献をしたというウェス・アンダーソン監督の友人・野村訓市さんには、これからも日本とアメリカの映画界の架け橋になってもらえないものだろうか。

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【いぬやしき】(8/10)

監督:佐藤信介
脚本:橋本裕志
原作:奥浩哉
出演:木梨憲武、佐藤健、本郷奏多、三吉彩花、斉藤由貴、伊勢谷友介、二階堂ふみ、濱田マリ、福崎那由他、他
製作国:日本
ひとこと感想:日本のCGアクションもここまで来たか。新宿周辺の土地勘がある人は更に楽しめるだろう。サラリーマンと高校生が偶然得たスーパーパワーの使い方で道を分かつという展開もドラマチックだが、善だ悪だと単純に割り切れるような流れにならないところが面白い。会社にも家庭にも居場所がなくて一見情けない主人公の犬屋敷さんが、それでも家族を守ることをモーティベーションに懸命に頑張るのがいじらしい。この役に木梨憲武さんをキャスティングした人は天才じゃなかろうかと思った。

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【祈りの幕が下りる時】(7/10)

監督:福澤克雄
脚本:李正美
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、松嶋菜々子、溝端淳平、田中麗奈、山崎努、伊藤蘭、小日向文世、及川光博、キムラ緑子、烏丸せつこ、春風亭昇太、音尾琢真、飯豊まりえ、桜田ひより、中島ひろ子、他
製作国:日本
ひとこと感想:『新参者』シリーズ最終作だけど、本作だけ見ても多分大丈夫。主人公が犯人を追っていたら自身の過去との深い関わりに行きついた、という話で、その過程で現代の親子関係が様々な切り口で描かれる。複雑だなと思いながら見ていたが、後から思い返すと、ある人物とある人物の深い愛情の物語、というシンプルな構造に帰結し、この二人のあまりに迫真の演技に涙せざるを得なかった。マンネリ化しているのでは?という不安もいい意味で裏切られ、シリーズ最終作に相応しい良い出来だったと思う。

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【インクレディブル・ファミリー】(6/10)

原題:【Incredibles 2】
監督・脚本・声の出演:ブラッド・バード
(アニメーション)
声の出演:クレイグ・T・ネルソン、ホリー・ハンター、サミュエル・L・ジャクソン、サラ・ヴォーウェル、ハック・ミルナー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:チームで脚本を書くのが普通のハリウッドで、ブラッド・バード監督一人のみが脚本家としてクレジットされている本作は珍しい。しかし、親が自分の活躍のために娘だけに子守を押し付けている感があるのも(息子はお調子者なので姉に全部押し付けておいしいところだけ持っていく)、末息子の能力がたくさんあるという割にどれもいまいち活用されていないのも、黒幕の言う復讐というのも、どの設定も今一つ煮詰め切れていない感じで、少しずつもやもやが残る。面白くなくはなかったんだけど、第1作目の完璧さと較べると突き抜けた面白さまでには至っていない印象で、2作目を作らんがために無理矢理話をこしらえた感が拭えないかもしれない。

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【ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス】(5/10)

原題:【Westwood: Punk, Icon, Activist】
監督:ローナ・タッカー
(ドキュメンタリー)
出演:ヴィヴィアン・ウエストウッド、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:1970年代のパンクの時代から現在までロンドンのファッション界に君臨し続けるヴィヴィアン・ウエストウッドのドキュメンタリー。ファッション音痴の私でも知ってるくらいのヴィヴィアンの来歴や人となりは、確かにとても興味深かったが、残念ながらドキュメンタリーの出来としては、芯が無くとっちらかっている感じで何が言いたいのかよく分からず、イマイチという印象が残った。

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【ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男】(8/10)

原題:【Darkest Hour】
監督:ジョー・ライト
脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、ベン・メンデルソーン、ロナルド・ピックアップ、スティーヴン・ディレイン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:愛妻家なのにもの凄い変人で嫌われ者で、イギリスをナチスの手から守った英雄であるにも関わらず、大戦後にはすぐに首相から降ろされたというチャーチル。ナチスの蛮行がまだ明るみになっていなかった時代に、ナチスと徹底抗戦するという道を選択したのは最終的には正しかったけれど、当時は政治的に危ない橋でもあった……。チャーチルを主人公にした映画って案外少ないように思うが、強烈なキャラの割に実像が掴みにくく、演じるのが難しいということもあるのではなかろうか。これに真正面から挑んだゲイリー・オールドマン先生はやはり超名優だと思い知らされ、その役作りにメイクアップアーティストという立場から貢献した辻一弘氏を手前勝手ながら誇りに思った。

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【ウスケボーイズ】(5/10)

監督:柿崎ゆうじ
脚本:中村雅
原作:河合香織
出演:渡辺大、出合正幸、内野謙太、竹島由夏、寿大聡、橋爪功、升毅、和泉元彌、安達祐実、他
製作国:日本
ひとこと感想:メルシャンでワイン部長などを務め「現代日本ワインの父」と称された麻井宇介(浅井昭吾)さんという醸造家の方がいらっしゃったそうで、本作は彼に影響を受けてワイン造りに邁進したメンバー達を描いている。(女性メンバーもいるのに“ボーイズ”とはこれいかに。)しかし、のっけからいきなり上から目線でウンチクを傾けるリッチな大学生の皆さんが、割とあっさりと素晴らしいワイン造りに成功していき、彼等の苦労の描写もどうも表層的に留まっている気がして、あまり心が動かされなかったかもしれない。でも、橋爪功さんを久々に上品な役(宇介さん役)で見られたのはよかった。山田洋次監督の【家族はつらいよ】の傍迷惑なお爺さんの役は嵌まり過ぎてて辛いのよ……。

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【嘘八百】(6/10)

監督:武正晴
脚本:足立紳、今井雅子
出演:中井貴一、佐々木蔵之介、友近、森川葵、前野朋哉、堀内敬子、坂田利夫、木下ほうか、塚地武雅、桂雀々、寺田農、芦屋小雁、近藤正臣、宇野祥平、他
製作国:日本
ひとこと感想:クサクサくすぶって生きてる古物商と情熱を失った陶芸家が手を組み、因縁ある悪徳大物鑑定士らに勝負を挑む……。中井貴一さんと佐々木蔵之介さんのおじさん同士のバディぶりが存外可愛らしい。けど、いくらいい詐欺師が悪い詐欺師を騙すみたいな話でも、詐欺は詐欺。基本、自分は嘘は苦手だということを再認識して終わったような気もする。登場人物も結構ごちゃごちゃ込み入っていて、特に、子供同士が恋仲になるというのはエッ !? という感じだった。

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【嘘を愛する女】(7/10)

監督・脚本:中江和仁
共同脚本:近藤希美
出演:長澤まさみ、高橋一生、吉田鋼太郎、DAIGO、川栄李奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:同棲していた男性が病気で倒れた時、男性の語っていた身元が全部嘘だったと分かる。さて男の過去に何があったのか。「~な女」的なタイトルだけは古くさいから本当に止めて欲しいと思ったが、その点を除けば想像以上にしっかりと描かれたラブストーリーで感心した。仕事はできるけれど他人に全然謝ることができない意地っ張りな女性を演じる長澤まさみさんと、謎が多いけれど懐が深い完全癒やし系の高橋一生さんのコンボが無双で、この二人だったからこそ、この恋愛映画の冬の時代にこれだけしっかりしたラブストーリーを作ることができたのかもしれない。しかし長澤まさみさんは、長かった低迷期から完全に復調したみたいで本当によかったね。ここだけの話、東宝シンデレラ女優は、スカウトした後の育て方を絶対間違えているんじゃないかと思うのだが。今時女の子に清く正しく美しくと強いるような路線は、宝塚ではともかく、映画やドラマの世界では時代遅れに過ぎると思うんだよね。

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【馬を放つ】(6/10)

原題:【Centaur】
監督・脚本・出演:アクタン・アリム・クバト
出演:ヌラリー・トゥルサンコジョフ、ザレマ・アサナリヴァ、他
製作国:キルギス/フランス/ドイツ/オランダ/日本
ひとこと感想:日本でも【あの娘と自転車に乗って】【明りを灯す人】など数作が公開されているキルギスのアクタン・アリム・クバト監督作。元々騎馬民族だったというキルギスの人々は馬に対して特別な思い入れがあるのだそうで、本作からはそんな思い入れがたっぷりと伝わってくる。実のところ、男が厩舎の扉を開け放ち馬を逃がしてしまうというストーリー自体にそれほど強く心を動かされた訳ではなく、それよりは、定住化が進む中でも昔の遊牧民の文化の名残もある現在のキルギスの郊外の人々の暮らしぶりの方が興味深かったかもしれない。

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【海を駆ける】(6/10)

監督・脚本:深田晃司
出演:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由、他
製作国:日本/フランス/インドネシア
ひとこと感想:深田晃司監督がインドネシアのアチェ州で制作した作品。映画を見た時には、不思議な海の精?というディーン・フジオカさんの役どころがよく分からなかったのだが、アチェ州は2004年のスマトラ島沖地震の津波の被害が最も酷かった場所だったのだそうで、そうした海とインドネシアとの関わりを念頭に置いてもう一度見てみると、もっと深いモチーフを感じ取ることができるのかもしれない。でも公開当時の私には、インドネシアと日本の若い男女4人の瑞々しい関わりの方がより興味深く感じられた。太賀さんと阿部純子さんもいいけれど、インドネシアのお2人も誠実で真面目で可愛くて素敵だった。

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【榎田貿易堂】(7/10)

監督・脚本:飯塚健
出演:渋川清彦、森岡龍、伊藤沙莉、滝藤賢一、余貴美子、片岡礼子、根岸季衣、他
製作国:日本
ひとこと感想:群馬県渋川市出身の飯塚健監督と渋川清彦さんがタッグを組んだ作品。渋川さん・森岡龍さん・伊藤沙莉さん・滝藤賢一さん・余貴美子さんらが集う古物商・榎田貿易堂、どうしてこんなちゃらんぽらんで経営が成り立ってるんだろう?けれど、このゆるやかなオフビート感が心地よい。それぞれに味のある人物達の、軽すぎず重すぎない理想的なバランス。アンサンブルキャストって全員が実力者じゃないと成立しないんだな~とつくづく思う。これ、テレ東の深夜ドラマ枠とかでシリーズ化してくれませんかね?なかなか面白いと思うんだけど。

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【おかえり、ブルゴーニュへ】(7/10)

原題:【Ce qui nous lie (Back to Burgundy)】
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
共同脚本:サンティアゴ・アミゴレーナ
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シビル、ジャン=マルク・ルロ、マリア・バルベルデ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:お久しぶりのセドリック・クラピッシュ監督が描く、ブルゴーニュ地方のワイナリーを引き継いだ兄・弟・妹の三きょうだいの物語。フランス映画界には「ワイナリーもの」が結構な本数作られているに違いないといよいよ確信したけれど、こうした作品を見ると、経済的に余裕の無い地方の地場産業が方向性を模索しているのは日本もヨーロッパも変わらないのだなぁということに思いを馳せずにはいられない。そんな中、性格も考え方もバラバラで別々の道を行く三きょうだいが、相続税や婚家との方向性の違い、長男が跡を継ぐべきかどうか、などの様々な問題に三者三様に悩みながらも、力を合わせようとそれぞれに心を砕く姿が印象的だった。個人的には、かつていろいろこじれて出て行った長男も、妻を呼び寄せて一緒に暮らせばいいのに、と思ったけれど、安易にそうはならないのがリアルなのかもしれない。しかしクラピッシュ監督は昔も今もやっぱり上手いよねー。

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【億男】(3/10)

監督・脚本:大友啓史
共同脚本:渡部辰城
原作:川村元気
出演:佐藤健、高橋一生、黒木華、藤原竜也、沢尻エリカ、北村一輝、池田エライザ、他
製作国:日本
ひとこと感想:冒頭のバブリーなパーティーシーンのあまりのステレオタイプな陳腐さにまず見る気が失せ、濡れ手に粟のお金を得た借金まみれの主人公が、その足で借金を返さず他人に悠長に使い道を相談しようとする意味不明な行動を取る辺りで頭が真っ白に。その後も、金さえあれば妻の心が戻ってくると当人に聞きもせずに勝手に信じ込んでいる主人公に、見続ける気力が萎えまくる。佐藤健さんや高橋一生さん、黒木華さんを始めとする役者さん達の結構な無駄遣い。冗長なシーンが続くけど、元々の筋書き自体がペラペラなので掘り下げようがなく、1つ1つのシーンをだらだら引き伸ばすしかなかったのではあるまいか。大友啓史監督って、確たるビジョンがあると言うよりは、周りに言われると割と流されてしまるままに作ってしまうタイプなんですかねー。川村元気プロデューサー原作作品という要素ともども、今後は要注意なのかもしれない。

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【女と男の観覧車】(7/10)

原題:【Wonder Wheel】
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ケイト・ウィンスレット、ジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:どの人も少しずつ抱えている人間的な欠陥が折り重なって悲劇を生む。見応えはあったけれど何の救いもない。自分を特別だと思い込みたくて若い男との浮気にのめり込むヒロインの醜さの描写が容赦ないのに較べて、その浮気相手の男の頭の軽さには随分寛容すぎるんじゃないのかな?こういうあまりに辛辣で露悪的な話を創る時のウディ・アレン監督って、実生活があまり上手くいっていない傾向が過去にはあったのだけれど……大丈夫?

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【女は二度決断する】(9/10)

原題:【Aus dem Nichts】
監督・脚本:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー、デニス・モシットー、ヨハネス・クリシュ、ヌーマン・アチャル、ウルリッヒ・トゥクール、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:今、世界で好きな映画監督を10人挙げろと言われたら、必ず挙げたいドイツのファティ・アキン監督作。主人公の夫はトルコ系の元クスリの売人で、主人公ともその縁で結ばれたのだが、結婚後はクリーンに暮らしていたにも関わらず、子供もろともネオナチのヘイトクライムの標的になってしまう。夫と子供を失った主人公は、あまりの辛さから何度かクスリに手を出してしまうが、そのことが裁判に決定的に不利になってしまう。2/3は法廷劇で裁判の行方が焦点なのだが、その後の主人公の決意と結末に何とも言えない気持ちになる。でも自分も同じ立場なら似たようなことをやったかも……。ドイツでも一部で移民を排斥する動きが強くなってきていると伝え聞く昨今、トルコ移民二世の監督には言いたいことがいっぱいあるだろう。そんな監督の新作をこれからもたくさん見たいと思う。

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【音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!】(4/10)

監督・脚本:三木聡
出演:阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、岩松了、他
製作国:日本
ひとこと感想:声帯ドーピングのやり過ぎで喉が裂けかけているロック歌手とか全然意味が分からない。その歌手が出会う、声が小さすぎるストリートミュージシャンってもっと訳が分からない。その奇矯な設定にそもそも全然興味が持てなかった上に、歌われる曲がどれもこれも普通すぎてさっぱり面白くない。阿部サダヲさんの異様に上手い演技だけが浮いていて、完全なる阿部サダヲの無駄遣い。三木聡監督作に少し訳の分からないテイストがあるのは今に始まったことじゃないが、今回の「だから何なの」感はちょっとやっちまった感が否めなかった。ただ、千葉雄大さんに関しては、ちょっとエロっぽいシーンや社長コスチュームなど、今までに無い側面をいろいろ見せてもらえて楽しかったけど。

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【顔たち、ところどころ】(8/10)

原題:【Visages Villages】
監督・出演:アニエス・ヴァルダ、JR
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:アニエス・ヴァルダ監督が若手アーティストとフランスの村々を巡り、地元の人々をモチーフに、顔や全身像の大きな写真を使ったインスタレーションを創る様子を描く。年の離れた二人の友情がとても自然なのは、立場にこだわらずに相手を受容できる能力がお互いにあるからなのだろう。人々を見つめる二人の視線が慈愛に満ちているのが素敵。そしてどの人も(そういうシーンを選んで編集していることを割り引いても)とても優しく美しい表情をしているのだが、こうしたアートイベントに共鳴して協力しようと集まってくる人達は、そもそもそのアーティストにどこか似た人達なのかもしれない。それにひきかえゴダールは本当にスカした野郎だな。アニエスは映画の中で今一度あなたと語り合いたかったのだろうに、もう永遠に叶わなくなってしまったじゃないの。

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【ガザの美容室】(6/10)

原題:【Degrade】
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール
出演:ヒアム・アッバス、ヴィクトリア・バリツカ、マイサ・アブドゥ・エルハディ、マナル・アワド、ミルナ・サカラ、ダイナ・シバー、他
製作国:パレスチナ/フランス/カタール
ひとこと感想:パレスチナ自治区のガザにある美容室は、日常的に戦闘が繰り返され苦難ばかりが待っている外の世界から女性達がほんの一時だけ逃れることができるアジール。パレスチナ系を中心とする女優の皆さん一人一人の力強さが本当に素晴らしい。彼女たちの姿は、銃を振り回して自分が強くなったと勘違いする男達よりよほど強く逞しいと思った。

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【華氏119】(6/10)

原題:【Fahrenheit 11/9】
監督:マイケル・ムーア
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:マイケル・ムーア監督が描くトランプ政権下の中間選挙前のアメリカ。銃規制、教師の待遇、鉛のパイプラインによる水汚染など、様々な問題が提示され、それに取り組む人々の姿が描写されるけれど、目の前に浮かんだことを脈絡なく書き殴ったという印象も。結局のところ、政治を変えたければ選挙に行こうというメッセージを伝えるのがこの映画の主な目的だったのかな、と思う。

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【神と人の間】(5/10)

監督・脚本:内田英治
原作:谷崎潤一郎
出演:渋川清彦、戸次重幸、内田慈、他
製作国:日本
ひとこと感想:『TANIZAKI TRIBUTE』という谷崎潤一郎原作特集の一本。 しかし、好きな女を他の人と結婚させるとか、女もそれで他の人と結婚しちゃうとか、第三者からは理解しづらい無理くさい関係がうだうだと続くのは正直しんどく、渋川清彦さんと戸次重幸さんの吸引力を以てしても限界が。それが谷崎潤一郎っぽいのだと言われればそうですかと言うしかないのだが、なんかもうちょっとこう、現代の感覚に寄せることはできないものなのだろうか。

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【カメラを止めるな!】(8/10)

監督・脚本:上田慎一郎
原案:『GHOST IN THE BOX!!』(脚本:荒木駿)
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、秋山ゆずき、長屋和彰、大沢真一郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:ゾンビ映画かと思いきや、あっと驚きの二重構造。仕掛けの面白さもさることながら、映画への愛が溢れ出す語り口が存外胸に迫る。これを意図して創り上げるクレバーさがあり、これは1回こっきりの手だと理解する冷静さがあるのなら、上田慎一郎監督は、今後フォーマットや予算規模が変わっても見るべき作品を作り続けていくことが出来るに違いない。

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【彼の見つめる先に】(6/10)

原題:【Hoje Eu Quero Voltar Sozinho】
監督・脚本:ダニエル・ヒベイロ
出演:ジュレルメ・ロボ、ファビオ・アウディ、テス・アモリン、他
製作国:ブラジル
ひとこと感想:目の見えない男の子が、転校生の男の子との初恋を実らせる、可愛い少女マンガみたいなブラジル映画。しかし、主人公の男の子の絶対的理解者だった幼馴染みの女の子が、どんどん置き去りにされてしまい自分の居場所に悩んでいたのは、ちと可哀想な気がしたのだが。

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【ガンジスに還る】(7/10)

原題:【Mukti Bhawan (Hotel Salvation)】
監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、他
製作国:インド
ひとこと感想:死期を悟りガンジス川のほとりの街に行きたいと言い出した父親に付き添うことにした息子とその家族を描いた物語。インドの死生観や家族観のみならず、現在のインドの中流家庭の暮らしぶりなども映し出されていたのが興味深かった。

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【菊とギロチン】(9/10)

監督・脚本:瀬々敬久
共同脚本:相澤虎之助
出演:木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛一郎、嘉門洋子、山田真歩、渋川清彦、山中崇、井浦新、嶋田久作、川瀬陽太、大西信満、宇野祥平、菅田俊、篠原篤、鈴木卓爾、大森立嗣、他
ナレーション:永瀬正敏
製作国:日本
ひとこと感想:瀬々敬久監督の新たな境地。日本の権力構造がろくなもんじゃないことは今も昔も変わっちゃいないから、アナーキスト達の根っこにはやむにやまれぬ純粋な衝動のようなものがあったのもしれない。が、彼等は実効性の無い机上の空論の理想ばかりを夢想し、たまに極端な破壊行動に走るだけ。そんな彼等の目に、周囲の圧力に屈すること無く自らの力で自由を掴み取ろうと足掻く女力士達の姿は眩しかったことだろう。時代に精いっぱい抗った者達の熱い塊みたいなエネルギーが胸に残った。

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【北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ】(8/10)

原題:【Liberation Day】
監督:モルテン・トロービク、ウギス・オルテ
(ドキュメンタリー)
出演:ライバッハの皆さん、他
製作国:ラトビア/ノルウェー/スロベニア
ひとこと感想:スロベニアの実験音楽バンド、ライバッハの北朝鮮でのコンサートの一部始終を追ったドキュメンタリー。(ライバッハって何となくドイツ辺りのバンドだと思ってたのだが、スロベニアのバンドだったのね。)彼等は強硬な政治的な主張を持っている印象があったのだが、案外柔軟で、その国のセンサーシップ(検閲)に対応して何としてもコンサートを遂行するために、ツアーに映像制作のチームまで同行させている。それでも何度も繰り返し徹底的に直しを入れられて腐る面々……ほぼ原型を留めないようなコンサートでもやる意義はあったのか。いや、それでもやってみないと分からないことはたくさんあるし、全くのゼロで終わるよりは、とにかく北朝鮮でコンサートをしたという実績を残せてよかったのではないかと思う。
彼等との仕事上の折衝は本当にままならない様子だが、日本も真っ青の完全合議制は、何かあった時に責任を取らされることを極端に忌避するメンタリティに由来するものと思われる。(そりゃそうだ、下手すると一発で人生や人命が危機に陥るんだもの。)思えば欧米の人々は、北朝鮮をあまりにも普通の国と同じに考えている傾向があるような気がするが、単に見ているだけじゃなく、実際に北朝鮮の人々に働きかけることで、初めて見えたことも沢山あったのではなかろうか。北朝鮮関係のドキュメンタリーはこれまでにいくつか見て来たが、こうした切り口でこうしたレベルに踏み込んで創られたものは初めて観た気がする。これは【金日成のパレード】以来の白眉かもしれない。

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【北の桜守】(6/10)

監督:滝田洋二郎
舞台演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
脚本:那須真知子
出演:吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、阿部寛、佐藤浩市、岸部一徳、中村雅俊、高島礼子、笑福亭鶴瓶、永島敏行、安田顕、野間口徹、毎熊克哉、他
製作国:日本
ひとこと感想:第二次世界大戦末期に樺太から子供を連れて引き揚げてきた女性の苦悩を描く。吉永小百合さんの映画は常に、美しく清らかな映画女優・吉永小百合というアイコンをいかに魅力的に見せて盛り立てるかという目的のためだけに全勢力を注力して作られていて、悪くはないけどどこかきれいごと、みたいな作品が多いような気がする。そこに一定の需要と供給のサイクルが存在しているのであれば、それはそれでいいのかもしれないが。

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【君が君で君だ】(4/10)

監督・脚本:松居大悟
出演:池松壮亮、キム・コッピ、満島真之介、大倉孝二、高杉真宙、向井理、YOU、中村映里子、山田真歩、光石研、他
製作国:日本
ひとこと感想:私はこれは……駄目だなぁ。作者が主人公達にどれだけ心情的に肩入れして正当化しようと、やってることが完全にストーキングに覗きって。片想いをしているだけならまだしも、見るという行為は明確に相手への干渉や攻撃でしかなく、相手にとって迷惑でしかないそうした自己満足的行為は、断じて愛とは呼べないと思う。そして、主演の池松壮亮さん自身が、相手としっかりコミュニケーションを取ることができる賢明なバランサーに映ってしまい、こんな極端な思考に陥るタイプにはどうしても見えないんだよねぇ……。

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【きみの鳥はうたえる】(7/10)

監督・脚本:三宅唱
原作:佐藤泰志
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、渡辺真起子、萩原聖人、他
製作国:日本
ひとこと感想:佐藤泰志さんの原作を【Playback】の三宅唱監督が映画化。まるで不誠実であることが反逆か自己主張でもあるかのようにふてくされている若くて傍若無人で複雑な主人公を演じる柄本佑さんがあまりに上手い。恋人としてこんなウザい男のどこがいいのかさっぱり分かんなかったけど、そのウザさも丸ごと含めてこういうキャラクターを描きたかったんだろうね、きっと。

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【君の名前で僕を呼んで】(7/10)

原題:【Call Me By Your Name】
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジェームズ・アイヴォリー
原作:アンドレ・アシマン
出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、他
製作国:イタリア/フランス/ブラジル/アメリカ
ひとこと感想:美少年と美青年のひと夏の避暑地の恋。あの時の愛は純粋だった、みたいなことですか?年取ると、美しい思い出というものは得がたく大切なものだということも分かってきたけど、それでもやはりハピエン厨の私には、こういう展開はちと辛い。しかし、美少年の親は、“失恋は失恋で大事にしような!”的なことを言い、むしろ息子をけしかけかねないくらいの寛容な雰囲気を醸していたのに結構驚いた。

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【ギャングース】(9/10)

監督・脚本:入江悠
共同脚本:和田清人
原作:鈴木大介、肥谷圭介
出演:高杉真宙、加藤諒、渡辺大知、伊東蒼、金子ノブアキ、MIYAVI、勝矢、篠田麻里子、山本舞香、芦那すみれ、林遣都、般若、菅原健、斉藤祥太、斉藤慶太、他
製作国:日本
ひとこと感想:悪い奴等だけを相手にする少年院出身の三人組の窃盗団を主人公にした鈴木大介さん原作の漫画を、入江悠監督が映画化。鈴木さんの本は、オレオレ詐欺や貧困女性に関するノンフィクション系のルポを何冊か読んだことがあるけれど、入江悠監督とはベストマッチなんじゃなかろうか。素晴らしいキャストを取りそろえ、今の日本社会の暗部を取り込んだピカレスクをエンターテイメントとして見事に成立させているのが凄いと思った。

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【教誨師】(7/10)

監督・脚本:佐向大
出演:大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研、他
製作国:日本
ひとこと感想:刑務所は更正する可能性のある人間を更正させるための施設だから、死刑囚は刑務所には行かず拘置所内で死刑になる。そんな死刑囚に教誨(徳育や精神的救済を目的とした面接活動)を行うのが教誨師で、牧師や僧侶などいろいろな職業の人がボランティアで務めるものらしい。大杉漣さんの遺作となった本作は、大杉さんの演じる教誨師の牧師が主人公。拘置所の室内で教誨師と死刑囚が話をするシーンが90%以上なので派手さはないけれど、静かでずっしりと心に迫って来る、いかにも漣さんらしい作品だった。漣さんにはもっともっと生きてもっといろんな映画に出て欲しかった。でも最後に自分でプロデュースした作品に出演し、自分らしい役柄で主演を務めることができたのはよかったのかもしれない。

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【きらきら眼鏡】(7/10)

監督:犬童一利
脚本:守口悠介
原作:森沢明夫
出演:金井浩人、池脇千鶴、安藤政信、古畑星夏、杉野遥亮、片山萌美、他
製作国:日本
ひとこと感想:恋人を亡くすという傷を抱えた男性が、「見たものすべてを輝かせる眼鏡」を持つという女性との出会いにより変わっていく姿を描いた、千葉のご当地映画。この女性は人の心の機微をとてもよく分かっている優しい人なのに、主人公が亡くした恋人のことでやけにしつこく絡んでくるなぁ……と思ったら、彼女自身も病気の恋人を亡くす寸前だったと判明する。結構強引な筋書きなのに、見ている間はそれほど違和感を感じずに成立していたのは、この結構な難役を演じる池脇千鶴さんの力量に他なるまい。また、彼女と同様に繊細な心の動きを見せる主人公の金井浩人さんや、スポット的に出演する安藤政信さんも素晴らしく、総じて心に残るいい映画だったなぁと思う。北習志野駅や船橋埠頭(南極観測船しらせ)などが出てくるのも、周辺地域に住む住民としてはやはり特殊な感慨があるもので、こういうのがあるからご当地映画って廃れないのかもしれない、とふと思ってしまった。

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【空海 KU-KAI 美しき王妃の謎】(6/10)

原題:【妖猫伝 (Legend of the Demon Cat)】
監督:チェン・カイコ―(陳凱歌)
脚本:ワン・フイリン
原作:夢枕獏
出演:染谷将太、ホアン・シュアン、阿部寛、チャン・ロンロン、松坂慶子、火野正平、チャン・ルーイー、チン・ハオ、キティ・チャン、他
製作国:中国/日本
ひとこと感想:夢枕獏さん原作の歴史サスペンスで、中国語題の【妖猫伝】の通りほぼ架空の化け猫の話。いい時とそうでもない時があるチェン・カイコ―監督作品だが、本作では日中で総力を上げてCGの豪華さに取り組んでいる印象。悪くはないけれど、ここまで実在の人物の名前を借りているだけの純正エンターテイメントだったとは。まぁ中国の皆さんには空海って言ったって誰だか分かんないよね。史実に沿った話という路線を勝手に期待していたのは申し訳なかった。

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【クソ野郎と美しき世界】(7/10)

『ピアニストを撃つな!』
監督・脚本:園子温
出演:稲垣吾郎、浅野忠信、満島真之介、馬場ふみか、他
『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』
監督・脚本:山内ケンジ
出演:香取慎吾、中島セナ、他
『光へ、航る』
監督・脚本:太田光
出演:草彅剛、尾野真千子、他
『新しい詩(うた)』
監督・脚本:児玉裕一
出演:稲垣吾郎、香取慎吾、草彅剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:おもちゃ箱みたいで楽しい!三人の個性を際立たせるためにも制作期間短縮のためにもオムニバスにしたのは多分正解。公開時期を短くして固定ファンに円盤を買ってもらおうという戦略もおそらく正しいだろう。(急ごしらえということに一部で批判が出ていたみたいだが、スピード感が大事なこともある。)
個人的には草彅剛さん主演・太田光監督の『光へ、航る』が特に好きで、この1本のためだけにでも見に行ってよかったと思った。香取慎吾さんのパートも不思議な味わいがあってよかったが、園子温監督による稲垣吾郎さんのパートには少しやっつけ感を感じてしまったかな。あと最後のパートはもう少し短くてもよかったかも。それでも三者三様の魅力が充分感じられる企画で、飯島三智マネージャーの手腕は本当に天才的なんじゃなかろうかと思った。こんな人材を簡単に放逐してしまう会社に未来があるとは思えないよ。

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【来る】(9/10)

監督・脚本:中島哲也
共同脚本:岩井秀人
原作:澤村伊智
出演:岡田准一、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、黒木華、青木崇高、柴田理恵、太賀、他
製作国:日本
ひとこと感想:悲しいほどに中身空っぽの夫と、 不満と情念でドロドロの妻の若夫婦が、人間のおぞましい部分をつけ狙う「あれ」に取り憑かれる。彼等を手助けしようとするルポライターは、霊媒師の血を引くキャバクラ嬢と同棲しているが、その姉の国家権力をも動かす最強の霊媒師が事態収拾に乗り出してくる……。オカルトホラーと言うより、人間って恐い!という心理的な気持ち悪さがじわじわ迫ってくる中島哲也監督の最新作。これまでのイメージを覆すいずれ劣らぬ超難役に挑む妻夫木聡さん、黒木華さん、岡田准一さん、小松菜奈さん、松たか子さん、そして一見ナイスガイだが中身がとんでもない青木崇高さん、実力派タレント霊媒師の柴田理恵さん、といった俳優陣が素晴らしすぎる。個人的には、何事にも心を動かされないように生きているのに危なっかしい妹のことは切り捨てられない霊媒師・琴子さんのキャラクターがどストライクだった!
こんな最強の布陣に関わらず本作があまりヒットしなかったのは、タイトルがシンプルすぎてググラビリティ(googleability)が低かったせいもある、との指摘をよく見かけた。だから最近のタイトルってよく分からない副題がだらだら付けていたりするのか!でもやっぱダサいから副題は嫌いなんだよなぁ……。

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【クレイジー・リッチ!】(6/10)

原題:【Crazy Rich Asians】
監督:ジョン・M・チュウ
脚本:ピーター・チアレッリ、アデル・リム
原作:ケヴィン・クワン
出演:コンスタンス・ウー、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アジア人キャスト(というか実際はほぼ中国人が中心)だけで大ヒットを叩き出したことが画期的だったという、中国資本による世界中の中国人のためのハリウッド映画。それで充分市場が成立するということが証明されたので、今後はこのような映画がどんどん作られるようになるのだろうと思われる。
本作の内容は……まぁどうでもいいかもしれないが。「アジアのどこかの国の大金持ち」に夢を持ってる人達ってまだ一定数いるのかなぁと思った(実際はシンガポールにも中流家庭はあるはずなんだけど)。一応、基本的な部分は一途なラブストーリーだから受け入れられやすかったのだろうけど、過剰に過剰を重ねることでしか自分の成功を実感できないような成金趣味には正直げっそりしてしまった。

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【グレイテスト・ショーマン】(5/10)

原題:【The Greatest Showman】
監督:マイケル・グレイシー
脚本:ジェニー・ビックス、ビル・コンドン
出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ、キアラ・セトル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:P・T・バーナムという実在のサーカス興行師の一代記。ミュージカルシーンは見応えがあり、特にキラーチューンの『This is Me』は印象に残る。しかし、お話は史実とはかなり食い違っているところもある上に、かなりありきたりで食い足りないという印象で、私のようなひねくれたオバサンはちょっと疲れてしまった。でもまぁ、久々にヒュー・ジャックマンさんをがっつり見たかったという欲求は満たされたので、よしとするか。

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【ゲッベルスと私】(5/10)

原題:【A German Life】
監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、オーラフ・S・ミュラー、ローラント・シュロットホーファー
(ドキュメンタリー)
製作国:オーストリア
ひとこと感想:ゲッベルスの秘書だった女性の独白。何も知らなかった自分に罪は無い、責任は無いと一貫して主張する彼女は、実際ほぼ一般人に近い立場だったのかもしれないが、ゲッベルスの罪を10として、彼女にだってその時代の在り様に加担した責任が0.1とか0.001とかないはずはない。この機能不全の崩壊する世界の中で、システムを変えるための努力をしてない自分の無責任さも、彼女と大して変わらないのだろうと思うが。

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【犬猿】(8/10)

監督・脚本:吉田恵輔
出演:窪田正孝、新井浩文、江上敬子(ニッチェ)、筧美和子、他
製作国:日本
ひとこと感想:兄と弟、姉と妹の二組が織り成すきょうだい間の軋轢あるある。人の話を聞かず何でも暴力で解決する傾向がある兄、真面目だけど言いたいことを言わない傾向がある弟。一方、器量よしだけど仕事の要領は悪い妹と、頭がよくて家業を立派に切り盛りしているけど、容姿が悪く妹へのコンプレックスの塊で、影で悪口ばかり言っている姉。この二組のきょうだいの小さな頃からの軋轢が増幅し内圧が高まって爆発する。私は自分がそうだから、どうしても背が低く小太りで性格がキツい姉に目が行ってしまったが、しかし私はここまで自分のコンプレックスをこじらせてないし、そのせいで他者を攻撃したことなんてないわよー !! と少々凹んだ。

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【検察側の罪人】(7/10)

監督・脚本:原田眞人
原作:雫井脩介
出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、松重豊、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、山崎努、音尾琢真、大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、他
製作国:日本
ひとこと感想:裁判制度の在り方や正義とは何かについて問う原田眞人監督の新作。木村拓哉さんを始め綺羅星のごとくのキャストを擁し、何もかもが良く出来ていて傑作になる可能性が大だったのに、二宮和也さんの演技の平坦さがすべてを台無しにしている。彼は少年のナイーブさを演じることでは群を抜いていたが、そこからほとんど成長しておらず、実年齢で求められる役柄と合わなくなってきている気がする。私個人は今後、彼が出演しているという要素を、作品を見たいと思う動機づけにすることはないだろうと思う。

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【ここは退屈迎えに来て】(6/10)

監督:廣木隆一
脚本:櫻井智也
原作:山内マリコ
出演:橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、村上淳、柳ゆり菜、岸井ゆきの、他
製作国:日本
ひとこと感想:ある地方都市に生きる20代の女性達のかつての憧れや現実を描いた廣木隆一監督作品。様々な心の綾が繊細に描かれた良作なのだと思う……地元に対する思いとは大昔に縁を切った自分の心には刺さらなかっただけで。“ここは退屈”なら誰かに頼らず自分で何とかせぇよと思うどうしても思ってしまうし。

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【心と体と】(7/10)

原題:【Testről és lélekről (On Body and Soul)】
監督・脚本:イルディコー・エニェディ
出演:アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、エルヴィン・ナジ、他
製作国:ハンガリー
ひとこと感想:人付き合いが苦手な女性と、その上司である優しい男性。鹿になって愛し合うという同じ夢を見た不器用な男女が、紆余曲折を経て現実世界で結ばれるまでを静かなタッチで描いた、不思議な味わいのハンガリー映画。孤独を抱える心の内をなかなか表に出せない主人公達に親しみを覚える。日本はもっとこういう国と仲良くした方がいいのではないかと思う。

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【子どもが教えてくれたこと】(7/10)

原題:【Et Les Mistrals Gagnants】
監督:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:重篤な病気を抱える子供達を描いたフランスのドキュメンタリー。肺動脈性高血圧症、神経芽腫、腎不全、表皮水疱症……自分の病気を分かっていてその状況を冷静に受け入れて、それでも今の自分の持てる命を精一杯生きようとしている子供達……どの子も尊すぎるよ。監督さんもかつて自分の娘を病気で亡くされたのだと聞いてあまりに切なかった。

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【孤狼の血】(9/10)

監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:柚月裕子
出演:役所広司、松坂桃李、滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、さいねい龍二、真木よう子、阿部純子、中村獅童、石橋蓮司、竹野内豊、嶋田久作、ピエール瀧、音尾琢真、勝矢、江口洋介、伊吹吾郎、中村倫也、駿河太郎、MEGUMI、他
製作国:日本
ひとこと感想:役所広司さん演じる主人公はヤクザ……ではなく、ほぼヤクザと変わりないような刑事。一般人をヤクザから守る、という一線のみは死守しているからかろうじて警察側ではあるけれど、他は全く手段を選ばないので、犯罪スレスレ、じゃなくてもう完全に犯罪者。とっくにヤバい深みにはまっているけれど、もうこのまま倒れるまで突っ走るしかない……。こんな泥臭くも孤独な狼に、大卒エリートの松坂桃李さんが感化され、その血を受け継ぐことになるからこのタイトルなのだと最後に分かる。役所さんの演じる行き過ぎた刑事は、ただでさえ常人の理解が及ばない難役で、一歩間違えたら嘘くさくも安っぽくもなってしまって白けてしまうところを、どうしようもなく人間くさくてカッコイイとすら思わせる存在に見せてしまう役所さんはさすが。しかし、製作が決定したという続編には役所さんは出ないでしょ?大丈夫なのかな……。

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【こんな夜更けにバナナかよ】(8/10)

監督:前田哲
脚本:橋本裕志
原作:渡辺一史
出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、原田美枝子、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、佐藤浩市、他
製作国:日本
ひとこと感想:24時間介助が必要な筋ジストロフィーの男性とボランティアの人々を描いたノンフィクション作品を前田哲監督が映画化。この原作の時代には、重い障害を持つ人が家族の世話にならずボランティアの助けを借りて一人で生活することなど考えにくく、主人公の行動は障害者支援の在り方や障害者の自立の問題などに一石を投じたのだろうと思う。そんなテーマがしっかり描かれているのは好感が持てる。主演の大泉洋さんやヒロインの高畑充希さん、萩原聖人さん・渡辺真起子さん・宇野祥平さんのベテランボランティアチーム、すっかりきれいになった韓英恵さん(【誰も知らない】がお懐かしい)などキャストの演技にも見所が多いが、私はひたすら「三浦春馬さんていい役者さんになったな~」とそこぱかりに注目してしまっていた。主役を差し置いてごめんね洋さん。

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【ザ・スクエア 思いやりの聖域】(6/10)

原題:【The Square】
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー、他
製作国:スウェーデン/ドイツ/フランス/デンマーク
ひとこと感想:主人公は現代美術のキュレーター。思いやりをテーマにした展示をするが、その真逆の残酷な映像を使ったプロモーションで炎上。携帯と財布を無くし、とあるアパートの住民達に盗難の疑いをかけ、脅迫めいたビラを配るが……。主人公は普通程度にずるかったり疑り深かったりするだけなのだが、ちょっとした人格の欠点のせいで、事態が次々に悪化する。そんな意地の悪いプロットが現代の不条理を焙り出しているのはそれなりに面白いけど、それは先進国社会(または白人社会)の内側の狭~い範囲での悩みの話でしかなく、カンヌのパルム・ドール受賞作品にしては少し物足りないような気がした。

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【殺人者の記憶法】(6/10)

原題:【살인자의 기억법 (Memoir of a Murderer)】
監督:ウォン・シニョン
脚本:ファン・ジョユン
原作:キム・ヨンハ
出演:ソル・ギョング、キム・ナムギル、キム・ソリョン、オ・ダルス、他
製作国:韓国
ひとこと感想:社会正義のため、という建前で殺人を繰り返してきた男が、認知症を患うが、他の連続殺人犯が自分の娘を狙うようになったため、消えゆく記憶に抗いながら男と戦う。しかもその娘は実は……ってここまで話を無理矢理こねくり回さなきゃいけないかな?そもそも認知症の描き方も正しくないような気がするし。名優ソル・ギョングさんの迫力に気押されてしまったけど、最後まで見る気力を保つのはなかなか大変だったかもしれない。

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【サニー 32】(7/10)

監督:白石和彌
脚本:髙橋泉
出演:北原里英(NGT48)、ピエール瀧、リリー・フランキー、門脇麦、駿河太郎、音尾琢真、他
製作国:日本
ひとこと感想:ピエール瀧さんとリリー・フランキーさんが女の子を拉致監禁する映画なんて心底嫌だなーと思っていたら、その子が教祖様になるという全然予想外の展開になり呆気にとられた。北原里英さんの演技力は発展途上の印象、でもそのガッツがあれば、今後絶対成長できると思う。
脚本の高橋泉さんは、廣末哲万さんと「群青いろ」という映像ユニットを組んでいる方で、白石和彌監督とは【凶悪】に引き続き2回目のタッグだとのこと。世の中をちょっと斜めから見てねじれた方向に描くのが面白い。似たような話を書く人ばかりだとつまらないので、今後も他にはない独特なドラマを提供して下さると嬉しいなぁと思う。

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【SUNNY 強い気持ち・強い愛】(7/10)

監督・脚本:大根仁
原作:【サニー 永遠の仲間たち】(監督・脚本:カン・ヒョンチョル)
出演:篠原涼子、板谷由夏、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、広瀬すず、山本舞香、野田美桜、田辺桃子、富田望生、池田エライザ、三浦春馬、リリー・フランキー、新井浩文、矢本悠馬、他
製作国:日本
ひとこと感想:韓国映画【サニー 永遠の仲間たち】のリメイク版。オリジナル版で印象的だったボニーMの『SUNNY』すら使っていない潔い換骨奪胎で、代わりに小沢健二さんの『強い気持ち・強い愛』をテーマソングにしているからこのタイトルになった模様。広瀬すずさんが田舎出身だという演出などちょっとやりすぎかなぁと思う部分もあったけど、篠原涼子さん、板谷由夏さん、小池栄子さん、ともさかりえさんによる大人パートの安定感が盤石で、全体的に非常にバランスがよく、大根仁監督はやはりこういうアレンジのセンスが抜群なのだなと唸らされた。オリジナルを見てたから大体のあらすじは分かっていた筈なのに、それでも思わずほろりと来てしまった。

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【サバービコン 仮面を被った街】(6/10)

原題:【Suburbicon】
監督・脚本:ジョージ・クルーニー
共同脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、 グラント・ヘスロヴ
出演:マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、ノア・ジュープ、オスカー・アイザック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:なんだか妙ちくりんな映画……。ジョージ・クルーニー監督は元々、1950年のアメリカのサバービア(郊外)の白人コミュニティで起こった黒人排斥事件を描きたかったらしく、そこに昨今の移民排斥の風潮への批判などを盛り込みたかったのかもしれないが、何故そこに、昔コーエン兄弟が書いたという全然関係ないスリラーコメディのプロットをくっつけてしまったのだろう。全然噛み合っていなくてバラバラな感じ。この奇妙な味はある意味忘れがたいかもしれないが。

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【ザ・ビッグハウス】(8/10)

原題:【The Big House】
監督:想田和弘、マーク・ノーネス、テリー・サリス、ミシガン大学の学生の皆さん
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/日本
ひとこと感想:ミシガン大学に一年間客員教授として招かれた想田和弘監督が、同大の先生や学生の皆さんと一緒に17人で撮ったアメフトの大学対抗戦の様子。10万人以上を収容するスタジアムで行われる試合はどこを取っても桁違いで、関わる運営スタッフだけでも尋常な数じゃないが、それぞれの場所での仕事が細胞のように機能して、まるで巨大な生命体であるかのようなイベントの全体を動かしていく様が圧巻。アメリカという国のエネルギーの根源を見せつけられている気がした。

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【サファリ】(7/10)

原題:【Safari】
監督:ウルリッヒ・ザイドル
(ドキュメンタリー)
製作国:オーストリア
ひとこと感想:レジャーとしての狩猟をトロフィー・ハンティングと言うらしい。そういえば以前テレビで、ハンティングのためだけに大量のライオンが養殖されているという映像を見たことがある……。解体されるキリンの何てエグくてグロテスクなこと。生態系にとって必要だとか何だとか、とても容認しがたいような根拠のない言い訳をいろいろと重ねながら、おのれの征服欲のためだけにこのような所業を臆面も無く続ける一群の金持ちが未だに存在するのだという事実に、ただただ吐き気が止まらない。こんな風に、自分に都合のいい価値観だけしか見ようとしない狭量な文化はさっさと滅んでしまえ!

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【サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌】(6/10)

監督:山本兵衛
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/フランス/イギリス/日本/デンマーク/スウェーデン
ひとこと感想:オリンパス事件てこういう話だったのかと、頭の悪い私にもやっと少しだけ分かったような。閉鎖的で護送船団方式の日本の経済界は、欧米の人々から見れば気持ち悪いものなのかもしれないが、もうとっくにまとめて沈み行く泥船と化しているのかもしれないなぁ……。

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【さよならの朝に約束の花をかざろう】(7/10)

監督・脚本:岡田麿里
(アニメーション)
声の出演:石見舞菜香、入野自由、茅野愛衣、梶裕貴、沢城みゆき、細谷佳正、佐藤利奈、日笠陽子、久野美咲、杉田智和、平田広明、他
製作国:日本
ひとこと感想:『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『LUPIN the Third 峰不二子という女』などの数多くの作品で脚本やシリーズ構成などを手掛けてきた岡田麿里さんの監督デビュー作。里を追われ散り散りになった長命の一族の少女が、母親を亡くした赤ちゃんを拾い、葛藤しながらもその子を育てあげてその一生を見守るという話で、題名の意味は最後の最後に明らかになる。すべてのモチーフが処理し切れていない感もあるけれど、こんな世界観を一から構築しているのは凄い。また、今までのアニメでは、ある人の一生を見つめ俯瞰するこのような時間感覚は味わったことがない気がするし、母親はどうやって母親になるのかというテーマにここまで真正面から切り込んだものも見たことがないような気がする。ヒロインのアニメ声に最初はちょっとウッとなったけど(途中から少し落ち着いてきたけど)、他にはない強いオリジナリティに、日本のアニメの未来はやっぱり明るいのではないかという気がした。

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【斬、】(7/10)

監督・脚本・出演:塚本晋也
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、他
製作国:日本
ひとこと感想:塚本晋也監督が初めて手掛ける時代劇……と言っても、結局のところ武器が日本刀になった【鉄男】なのではなかろうか、刀を振り回す必要があったから時代設定を幕末辺りにしたというだけで。塚本監督は、どんな映画を創ってみても、【Tokyo Fist】や【BULLET BALLET/バレット・バレエ】みたいに人間の中に立ち現れる暴力的衝動というテーマに再度立ち帰る。そういうところが面白いけれど。

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【30年後の同窓会】(7/10)

原題:【Last Flag Flying】
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
原作・共同脚本:ダリル・ポニックサン
出演:スティーブ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン、J・クイントン・ジョンソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:リチャード・リンクレイター監督の新作。イラク戦争で戦死した息子の遺体を引き取るために旅する元ベトナム帰還兵と、昔の海軍での仲間たち。軍出身ということにプライドもあるけれど、軍に対してはそれぞれトラウマも複雑な感情もある3人それぞれの姿に、アメリカという国のまた違った側面が映り込む。そんな切り口の佳作なのに、“同窓会”なんて生ぬるく間違った邦題のせいで、うっかり見逃すところだったじゃないのー !!

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【シェイプ・オブ・ウォーター】(9/10)

原題:【The Shape of Water】
監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
共同脚本:ヴァネッサ・テイラー
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:王子様はお姫様にキスされても化物のままでしたが、二人は幸せでしたとさ。王子様が元の姿に戻ったりせず元の姿のままで愛し合う異種間恋愛。オタクの鑑(かがみ)ギレルモ・デル・トロ監督作品でこんなにロマンチックなものが今まであっただろうか。一昔前ならキワモノ的な扱いを受けたかもしれない本作が、メインストリームのど真ん中で認められたのは、時代の風向きの何かの変化を象徴しているようで感慨深い。

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【ジェイン・ジェイコブス ニューヨーク都市計画革命】(9/10)

原題:【Citizen Jane: Battle for the City】
監督:マット・ティルナー
(ドキュメンタリー)
出演:ジェイン・ジェイコブス、ロバート・モーゼス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ジェイン・ジェイコブズは、ロバート・モーゼスという著名なディベロッパーによるロウアー・マンハッタンを分断する高速道路の建設計画を阻止した人物。ベトナム戦争に対する反戦運動や公民権運動、環境問題に対する環境保護運動が盛んになっていた時代、大企業のディベロッパーによるトップダウンの大規模な開発構想に対し、ボトムアップの声を上げ始めた人々がいた。利益を出すことが至上命題のディベロッパーは今も昔も机上の空論に陥りがちで、人間の生理的な感覚を無視しがちなところがあるけれど、それに対し、人間同士が適切なコミュニケーションを持ち続けるために、今までの街並みとコミュニティの距離感を維持したいと考えた人々がいた。その代表がジェイン・ジェイコブズだったのだ。世界でもうちの近所でも、今でも同じ問題が繰り返し起こり続けている。政治活動も経済活動も、人間を幸せにするために行われなくてはならないのであって、そうならないのであればその方法自体が誤っているのだ。

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【詩季織々】(7/10)

中国語題:【肆式青春】
製作国:日本/中国
『陽だまりの朝食』
監督・原案:イシャオシン(易小星)
声の出演:坂泰斗、伊瀬茉莉也、他
『小さなファッションショー』
監督:竹内良貴
脚本:永川成基
声の出演:寿美菜子、白石晴香、安元洋貴、他
『上海恋』
声の出演:大塚剛央、長谷川育美、他
監督・原案:リ・ハオリン(李豪凌)
ひとこと感想:中国のアニメ制作会社「絵梦」(絵夢/えもん/エモン)と、新海誠監督作品の制作会社コミックス・ウェーブ・フィルムによる日中合同アニメ作品。リ・ハオリン総監督は、急速な経済発展の中で失われつつある中国の風景をアニメの中に残しておきたかったのだという。確かに、かつての中国映画で見たことがあるような懐かしさのある情景が多く描写されていたように思う。
『陽だまりの朝食』の、故郷で食べていた汁ビーフンが過去の記憶に繋がっているというのは、まるで『失われた時を求めて』みたい。でも話の中核になる汁ビーフンの作画クオリティはもう少し上げて欲しかったかな。
『小さなファッションショー』は日本人監督による作品。大都会の上海でモデルとして生きる女性とその妹、というストーリーは、中国独自のモチーフというよりは、世界のどの大都市を舞台にしても可能な普遍的なものかもしれない。個人的にはマネージャー役の安元洋貴さんのオネエぶりに釘付けだった。
『上海恋』に出てくる古い街並みは、正に今までの見てきたいくつかの中国映画を思い起こさせる。【鉄西区】というドキュメンタリーにこうした古い街並みが破壊される場面があり、以前テレビで見た中国のドキュメンタリーでもマンションに半強制的に移住させられる人々の様子が描かれていたが、今の中国の経済発展のスピードは、それが本当の発展なのか、と考える暇(いとま)も与えないくらい凄まじいものなのだろう。そうした変化の矛盾が本格的に噴出してくるのはもう少し後の時代のことなのかもしれない。

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【銃】(7/10)

監督・脚本:武正晴
共同脚本:宍戸英紀
原作:中村文則
出演:村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキー、日南響子、新垣里沙、岡山天音、後藤淳平(ジャルジャル)、村上淳、他
製作国:日本
ひとこと感想:偶然手に入れた銃に徐々に支配されていく男子大学生を描いた中村文則さんの小説を、【百円の恋】の武正晴監督が映画化。銃を手にすると自分が強くなったように錯覚するのも、持ってるだけじゃ飽き足らなくなり理由をつけて撃ってみたくなるのも様々な映画で描かれてきたモチーフで、万国共通の現象なんだろうなぁと思う。主人公の心のゆらぎが話のほぼすべてなので、人選を間違えると退屈極まりない作品になる可能性もある中、村上虹郎さんのナイーブさはベストに近い選択だったのではないだろうか。

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【15時17分、パリ行き】(6/10)

原題:【The 15:17 to Paris】
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ドロシー・ブリスカル
出演:スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:2015年発生した銃乱射事件と、事件に立ち向かった3人の若者を描く。実在の事件を本人達が演じるという掟破り。そして中盤に観光のシーンが延々続くところが物議を醸す。クリント・イーストウッド監督としては、日常の生活の中にいる一般人がテロに立ち向かうところに感銘を受けたということらしいのだが、主役の3人中2人まで軍人さんって、全然一般人ではないじゃないですか……。

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【シューマンズ バー ブック】(7/10)

原題:【Schumanns Bargespräche (Bay Talks by Schumann)】
監督:マリーケ・シュレーダー
(ドキュメンタリー)
出演:チャールズ・シューマン、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:伝説のバーテンダー、チャールズ・シューマンが世界中のバーを旅するドキュメンタリー。シェーカーを振るという業だけでカバン1つで世界を飛び回るなんてシビれるな~。こういう歳の取り方は本当に素敵。日本のシーンも多く、日本がかなりのバー大国だったというのが意外だった。

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【鈴木家の嘘】(8/10)

監督・脚本:野尻克己
出演:岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋、宇野祥平、他
製作国:日本
ひとこと感想:意識不明から目覚めた母に、引き籠もりの息子が自殺したことを言えなかったことから、残された家族の嘘が始まった……。助監督経験が長い野尻克己監督の劇場長編デビュー作。監督自身の経験を基にしたというオリジナル脚本の、悲しいだけではない何とも言えないおかしさが味わい深い。でも基本的に嘘の上塗りって好きではなく、そういう部分は見ていて少ししんどかったかも。

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【スターリンの葬送狂騒曲】(5/10)

原題:【The Death of Stalin】
監督・脚本:アーマンド・イアヌッチ
共同脚本:デヴィッド・シュナイダー、イアン・マーチン、ピーター・フェローズ
原作:ファビアン・ニュリ、ティエリ・ロバン
出演:スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、ジェフリー・タンバー、マイケル・ペイリン、ジェイソン・アイザックス、オルガ・キュリレンコ、他
製作国:フランス/イギリス/ベルギー/カナダ
ひとこと感想:スターリンが死んだ後の権力闘争が描かれる。この題材にあまり興味が持てなかった、というのはこちらの不勉強だと思うが、“ブラックコメディ”という触れ込みなのに全然笑いどころがなく、心寒くなるばかりだったのは正直辛かった……。

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【スティルライフオブメモリーズ】(6/10)

監督:矢崎仁司
脚本:朝西真砂、伊藤彰彦
原作:四方田犬彦
出演:安藤政信、永夏⼦、松田リマ、他
製作国:日本
ひとこと感想:女性の性器をアップで撮影した作品集が有名な写真家アンリ・マッケローニとその愛人の話に着想を得た物語。あるカメラマンの作品を見て気に入った女性が、いきなり自分の女性器を撮ってくれと依頼する。この女性は相当いろいろこじらせているみたいだけど、この話に乗っかるカメラマンもカメラマンで、彼等の気持ちは全然理解できませーん!安藤政信さん大好きだし、静物写真をそのまま取り込んだような端正な画面は素敵だったんだけどね。

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【素敵なダイナマイトスキャンダル】(6/10)

監督・脚本:冨永昌敬
原作:末井昭
出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子、他
製作国:日本
ひとこと感想:かつてはエロ雑誌、その後はパチンコ雑誌で一時代を築いた雑誌編集者の手記が原作。母親が若い男と浮気してダイナマイトで心中するという強烈な体験ゆえ仕方ないかもしれないが、母親への執着が過度すぎる上、ほったらかしにしていた妻には愛想を尽かされ、愛人は精神を病んでしまうというのは、女から見たらゲーが出そう。作中のエロ雑誌の作り方も女性の性の在り方の決めつけや搾取に見えてしまうから、女性にとっては大概ろくな男じゃなかったんじゃなかろうか。男性から見たらロマンがあるのかもしれないが、女性には、この時代にこういう男性が存在したらしいという記録以上の意味で本作を見ることは難しい気がする。

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【スリー・ビルボード】(8/10)

原題:【Three Billboards Outside Ebbing, Missouri】
監督・脚本:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ピーター・ディンクレイジ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョン・ホークス、キャスリン・ニュートン、ルーカス・ヘッジズ、アビー・コーニッシュ、アマンダ・ウォーレン、クラーク・ピーターズ、ジェリコ・イヴァネク、サンディ・マーティン、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:娘を斬殺された母親が、町外れに警察を告発する3枚の看板を立てたことから波紋が広がる。彼女に同情的な者もいたが、人々から尊敬されている警察を攻撃する彼女を憎む者もおり、また彼女自身が行き過ぎた行動をすることもあることから、事態は複雑な様相を呈していく……。どの人も、たくさんの欠陥を抱えながら、それぞれの信条を掲げて、やらなければならないことを果たそうともがきながら生きていて、その中で自らの無理解と非寛容さに気づくこともある。そうしたことが、何層もの物語を重ね合わせながら描かれていた。思いもよらなかった人物がもう一人の主役だったと最後に気づいて唖然としたが、こんなに複雑な構造と筋書きを持つアメリカ映画を見られるとは思わなかった。ひと頃と違って今の日本では、そうした映画上の新たな実験を見る機会が年々少なくなってきているみたいで残念だ。

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【聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア】(7/10)

原題:【The Killing of a Sacred Deer】
監督・脚本:ヨルゴス・ランティモス
共同脚本:エフティミス・フィリップ
出演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ、アリシア・シルヴァーストーン、ビル・キャンプ、他
製作国:イギリス/アイルランド
ひとこと感想:主人公の医師らしき男が少年とたまに会っている風情。どうやら酒を飲んだ状態で執刀した手術で殺してしまった患者の息子らしい。男は常に自分のことしか考えておらず、少年の件も金にあかせて適当に解決しようとしているが、少年は親を殺された恨みを忘れておらず、まるで一家に呪いを掛けるように予言する。誰か一人を犠牲にして殺さなければ、全員が、食欲が落ちて手足が麻痺し、目から血が出て死に至ると。
何でその予言の通りになっていくのか、具体的な合理的な説明がないから混乱するが、これはメタファーなのだと割り切って捉えた方がいいのかもしれない。日本人の感覚だと、悪さをした奴が責任取って自殺して禊にするかもしれないが、そういう感覚は全くない様子で、男も妻も娘も自分以外の誰かが死ぬことを願ったため、自我のない幼い子供だけが「聖なる鹿」として犠牲になる。
ヨルゴス・ランティモス監督はギリシャ出身で、本作のモチーフになっているのはギリシャ悲劇らしい。その辺りは教養がなくてよく分からなかったが、自分の利益になることしか考えてない人間の醜悪さを描こうとしているのだろうということは分かった。こういう今までにありそうでなかったドラマツルギーを、個性として映画の世界に持ち込んでくるのは面白いなぁと思った。

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【セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!】(6/10)

原題:【Sergio&Sergei】
監督・脚本:エルネスト・ダラナス・セラーノ
出演:トマス・カオ、ヘクター・ノア、ロン・パールマン、他BR> 製作国:スペイン/キューバ
ひとこと感想:1991年、崩壊寸前のソ連の宇宙飛行士が宇宙に取り残され、アメリカのスペースシャトルが救出した、という実話を基に創作した物語。監督は、マルクス主義哲学というアナクロになりつつあった学問が専門のキューバの大学教授が、無線を通じて宇宙飛行士と親しくなり、それがきっかけで自分の人生もリセットするという筋書きを通して、その時代のキューバに対するノスタルジーを描きたかったのだそうだ。本作同様、今まで見てきたキューバ映画はすごくしっかりしてて質が高いものばかりだったのだが、映画の質が高いところは文化度も高いという持論があるため、キューバも内面的な文化度が高い国なんだろうなと改めて感じた。キューバも外国に市場を開放してこれから激しい変化の波に晒されることになるのだろうが、本当にいい文化は少しでも残されていって欲しいと願わずにはいられなかった。

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【空飛ぶタイヤ】(9/10)

監督:本木克英
脚本:林民夫
原作:池井戸潤
出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、笹野高史、岸部一徳、寺脇康文、小池栄子、佐々木蔵之介、柄本明、阿部顕嵐、ムロツヨシ、中村蒼、浅利陽介、谷村美月、六角精児、大倉孝二、和田聰宏、木下ほうか、近藤公園、杉村蝉之介、津田寛治、升毅、渡辺大、津嘉山正種、他
製作国:日本
ひとこと感想:「空飛ぶ~」というタイトルから飛行機の話かと勘違いしててすいません。大型トレーラーのタイヤが外れて空飛んで人が死に、責任を問われた運送会社の社長が奔走するっちゅう話なんですね。しかし様々な立場の人々が錯綜するこれだけ複雑な物語をよく2時間にまとめたものだと、林民夫先生の脚本力と本木克英監督の演出力に感動する。豪華なキャスト陣を、登場時間の少ない役にも贅沢に配しているのも効果的で、それぞれの役柄の重要性が掛け算された重厚さを生み出していたが、その中で、中心に据えられている長瀬智也さんの存在感は画竜点睛だった。ウェルメイドなアンサンブルキャストの醍醐味を堪能できる、日本の商業映画界の底力が感じられるような作品だ。

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【ゾンからのメッセージ】(6/10)

監督:鈴木卓爾
脚本:古澤健
出演:高橋隆大、長尾理世、唐鎌将仁、石丸将吾、飯野舞耶、律子、古川博巳、山内健司、他
製作国:日本
ひとこと感想:「ゾン」という不思議な空間に暮らす人々の思いなどを描く鈴木卓爾監督作品。整然とはしていないが、いかにも鈴木監督らしい独特の時間感覚と不思議な手触りがあり、「ゾン」て一体何だったんだろう……とぼんやり考えている自分に今でも気づくことがある。見るという行為自体が作品の一部、とよく言い習わされているけれど、それを地で行く映画なのだろう。最近はこういうタイプの映画に出会う機会も少ないから、今まで知らなかった映画の自由さや可能性をこの映画を通して初めて知った、という若い皆さんも多いのではないだろうか。

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【体操しようよ】(7/10)

監督:菊地健雄
脚本:和田清人、春藤忠温
出演:草刈正雄、木村文乃、きたろう、渡辺大知、和久井映見、徳井優、諏訪太朗、川瀬陽太、山田真歩、片桐はいり、余貴美子、小松政夫、平泉成、他
製作国:日本
ひとこと感想:定年退職後の男性がラジオ体操の会への参加を通じて人生をリセットする物語を、【ディアーディアー】の菊地健雄監督が描く。仕事一辺倒状態から少しずつ人間力を上げていく草刈正雄さんが何ともキュート。周りもよく見りゃ実力派の俳優さんばかりで固められていて、厚みがあり安定感がある。館山辺りの地理関係はほぼフィクションだけど、野島埼灯台がいっぱい映っているのは千葉県民として嬉しかった。

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【旅猫リポート】(6/10)

監督:三木康一郎
脚本:平松恵美子
原作・脚本:有川浩
出演:福士蒼汰、竹内結子、広瀬アリス、大野拓朗、山本涼介、前野朋哉、橋本じゅん、木村多江、戸田菜穂、他
声の出演:高畑充希
製作国:日本
ひとこと感想:主人公は、子供の頃に両親が事故死して叔母に引き取られ、その時両親が実の親じゃなかったと知らされ、その後、若い身空で病死する。こんな不幸の釣瓶打ちのような設定に少々げんなり。それでも平松恵美子さんの脚本に抑制が効いているのか、いかにもなお涙頂戴にはならず、エンディングも前向きに開かれているので少し救われた。
看護師さんの戸田菜穂さんが、猫を病室に連れて行っていいか聞かれて「聞かれたら駄目だとしか言えなくなる(=黙認するから黙って連れて来い)」と言うシーンが何故か心に残っている。そういう場面が一つあるかどうかで、心に留められる映画になるかどうかが全然変わるのかもしれない、と思った。

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【ダンガル きっと、つよくなる】(6/10)

原題:【Dangal】
監督・脚本:ニテーシュ・ティワーリー
出演:アーミル・カーン、ファーティマ―・サナー・シャイク、サニャー・マルホートラ、サークシー・タンワル、アパルシャクティ・クラーナー、他
製作国:インド
ひとこと感想:息子をレスリングの金メダリストにしたかった父親が、息子が産まれなかったため、娘にその夢を託したという実話を基にしたインド映画。女の子が持つ可能性などまるで念頭に無かった父親が、娘達の姿に徐々に感化され、心からバックアップするようになるのが麗しい。しかし、公開当時は伊調馨選手に対するパワハラ問題が表面化していた頃で、レスリング映画の公開には最悪のタイミングだったかもしれない……。

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【ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間】(6/10)

『カニーニとカニーノ』
監督・脚本:米林宏昌
声の出演:木村文乃、鈴木梨央、他
『サムライエッグ』
監督・脚本:百瀬義行
声の出演:尾野真千子、篠原湊大、他
『透明人間』
監督・脚本:山下明彦
声の出演:オダギリジョー、田中泯、他
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:ジブリから独立したスタジオポノックの短編オムニバス。予想通りの質の高さに、とにかく作品を発表し続けることは大切だと思った。今後の作品も楽しみにしています!
米林宏昌監督の『カニーニとカニーノ』は……う~ん、生き物の擬人化は苦手なんだよね。でも温かく優しい作風は好ましく、監督のこれからの方向性の片鱗のようなものが少し見えたような気がした。
『サムライエッグ』は、アレルギーと戦う男の子とその親の話。子供のアレルギーの問題を作品として見たのは初めてで、これからの時代に必要とされる物語なのではないかと思った。
『透明人間』になると軽くなるのは何でだろう?でも発想は面白い。才気が感じられる1本だった。
このラインアップに、本当は高畑勲監督の平家物語の短編が入っていたかもしれないという話を聞いて涙した。高畑監督の平家物語、見たかったな~。

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【散り椿】(7/10)

監督:木村大作
脚本:小泉堯史
原作:葉室麟
出演:岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺大、石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二、他
製作国:日本
ひとこと感想:藩の不正に対峙する剣士の姿を描いた木村大作監督の時代劇。木村大作先生は絵(画面)から入る方なのか、やはり絵面の方が重視されている印象。話の方は、人間関係や行動の動機などが整理不足だったり説明不足だったり、また冗長だったり。敵役の極悪老中がどうしてここまでのさばっているのか理解できないとか、こんなに人が死にすぎでこの藩は今後やっていけるのかとかいった疑問も多く、どうもカタルシス感が弱い。まぁそうした諸々も含めて木村大作先生らしいかなとも思えるのだが。あと、岡田准一さんは今回殺陣の振り付けまでやっていらっしゃるそうなのだが、この高すぎるスペックを存分に活かせる企画を誰か彼のために用意してあげて欲しい。

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【妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII】(7/10)

監督・脚本:山田洋次
共同脚本:平松恵美子
出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン、他
製作国:日本
ひとこと感想:【家族はつらいよ】シリーズも第3弾。今時完全な専業主婦という設定もギリだと思うけど、その状態で旦那が家計を管理しているとか何じゃソラ。ましてや、奥さんが泥棒と鉢合わせたのに、怪我したり殺されたりせず無事だったことを喜びもせず文句を言い始める旦那って一体何?そんな奴とは離婚しちまえー!そして、奥さんがちょっと不在になったら誰も家事ができないなんて、そんなアンバランスな役割分担の家なんて崩壊しちまえばいいんだよ!言っとくけど子供は全然可哀想じゃないぞ?家事くらい履修しろ。自分のことくらい自分で何とかできないような自立していない奴なんて、21世紀には流行らないんだよ。
ということで「主婦不在・家庭崩壊」などという宣伝文句に大いに違和感を抱いた。共同脚本の平松恵美子さんの手腕もあって、何とか落としどころを作ってまとめられているとは思うのだが、本質的な問題は何一つ解決してないような気がする。まぁ、御年80オーバーの山田洋次監督に今更、家族像がどうこうと言ってみても詮ないのかもしれないけれど。

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【ディヴァイン・ディーバ】(7/10)

原題:【Divinas Divas】
監督:レアンドラ・レアル
(ドキュメンタリー)
出演:ブリヂッチ・ディ・ブジオス、マルケザ、ジャネ・ディ・カストロ、カミレK、フジカ・ディ・ハリディ、ホジェリア、ディヴィーナ・ヴァレリア、エロイナ・ドス・レオパルド、他
製作国:ブラジル
ひとこと感想:ブラジルのレジェンド級の女装家の皆さんがそれぞれの半生を語るドキュメンタリー。女装家と一口に言ってもその経歴も人生観も様々だけど、懸命に生きてきた人たちの言葉には一つ一つに味わいと重みがあり、それぞれの人の年輪の厚みがずっしりくる。全然関係ないかもしれないが、日本で何人かの女装家の皆さんが芸能活動をなさってその存在をアピールしているのは凄くいいことなんじゃないかなぁ、と思ったりした。

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【止められるか、俺たちを】(8/10)

監督:白石和彌
脚本:井上淳一
出演:門脇麦、井浦新、山本浩司、タモト清嵐、毎熊克哉、岡部尚、伊島空、大西信満、藤原季節、高岡蒼佑、寺島しのぶ、奥田瑛二、高良健吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:若松孝二監督率いる若松プロダクションが最も過激だったであろう1970年前後の姿を、吉積めぐみさんという実在した女性助監督を通して描く。大卒で大手映画会社に就職する以外ほぼ映画監督になる道が無かった当時、中卒でヤクザの下働きの前歴さえ持つ若松孝二監督の存在は明らかに異質で、唯一無二の特異な血として日本映画史に楔を打ち込んだ。そんな若松監督を実際に知る白石和彌監督や井浦新さんが、監督を育んだ熱気に満ちた時代を形にしようと試みたことには大きな意味があったと思う。
実際の吉積めぐみさんについては何も知らないのだが、この役自体はまるで門脇麦さんのために書かれたような役だと思った。井浦新さんは、若松監督と全く違う風貌なのに、まるで監督がのりうつったみたいに見えて驚いた。しかし、大島渚監督(この映画ではチョイ役だけど)はちょっとイメージと違っていて残念だったかな。ファンとして知る限り、大島監督はいつも心に灼熱の炎を抱えているような人だった。

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【泣き虫しょったんの奇跡】(7/10)

監督・脚本:豊田利晃
原作:瀬川晶司
出演:松田龍平、國村隼、美保純、大西信満、松たか子、野田洋次郎(RADWIMPS)、イッセー尾形、渡辺哲、奥野瑛太、遠藤雄弥、上白石萌音、妻夫木聡、早乙女太一、新井浩文、永山絢斗、染谷将太、駒木根隆介、渋川清彦、石橋静河、板尾創路、小林薫、三浦誠己、藤原竜也、他
製作国:日本
ひとこと感想:プロ棋士になるのに奨励会以外のルートができていたのを知らなかった。そのきっかけを作った棋士の自伝を、自身も奨励会出身の豊田利晃監督が映画化。見た時は地味な印象を受けたが、後になって、主人公を支える周りの人々の気持ちが次々と思い出されてじわじわ来た。

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【ナチュラルウーマン】(7/10)

原題:【Una Mujer Fantástica】
監督・脚本:セバスティアン・レリオ
共同脚本:ゴンサロ・マサ
出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ、他
製作国:チリ/ドイツ/スペイン/アメリカ
ひとこと感想:恋人に死なれたトランスジェンダーの女性が、恋人の妻や息子らから家から追い出されるわ、葬儀への参列を拒否されるわといろいろと理不尽な目に遭わされ、警察からも偏見に満ち満ちた態度の取り調べを受け、いろいろ奪い取られ気持ちの上でもズタズタにされながらも、恋人と二人で飼っていた犬と一緒に何とか前向きに生きようとし始める、といった内容のチリ映画。見る気が失せる酷い邦題だと思ってたけど、劇中でアレサ・フランクリンの『ナチュラルウーマン』を使っていたのでしょうがないか。監督は、トランスジェンダーの女性の映画を作ろうとして相談していた相手に、そのまま主役を演じることを依頼したのだそうだが、何と言っても彼女の存在感が圧倒的に素晴らしく説得力があった。そして、彼女が被った病院の立ち会いや住家の問題などの様々な不利益を考えるに、同姓婚の法制化ってやはり必要なんだと心から思った。

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【名前のない女たち うそつき女】(5/10)

監督:サトウトシキ
脚本:加瀬仁美
原作:中村淳彦
出演:吹越満、城アンティア、円田はるか、笠松将、小南光司、他
製作国:日本
ひとこと感想:AV女優を馬鹿にしているのにAV女優に執着し続けるルポライター。AV女優の実態とか、そういう需要があると思っている男性プロデューサーが多いからこういう映画が成立するんだろうな。でもこの映画の実際の強度は、本当は違う方面の記事を書きたいと思っているルポライターを演じる吹越満さん自身のリアリティにあるんじゃないかと思う。

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【苦い銭】(7/10)

原題:【苦銭 (Bitter Money)】
監督:ワン・ビン(王兵)
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス/香港
ひとこと感想:地方から出てきた出稼ぎの若者などが、どこもかしこもブラックで過酷な労働環境で働く姿を描く。中国の一般労働者の人達は、どういう生活環境でどのように働きどういう実感を持って暮らしているのか。ワン・ビン(王兵)監督の映画はいつも、ニュースを見ているだけでは分かりにくい、中国で地道に生きる普通の人々の姿を垣間見せてくれる。

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【2重螺旋の恋人】(5/10)

原題:【L'Amant double】
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ジョイス・キャロル・オーツ
出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:双子の医者というとどうしてもデヴィッド・クローネンバーグ監督の【戦慄の絆】を思い出していたが、ピノコちゃん的な話から【エイリアン】的な話になって狐につままれた気分に。どなたかが指摘していた通り、ピノコちゃん並みの腫瘍があったとしたら検査に引っ掛からないのはあまりにも不自然。雰囲気先行に終始している感じで、なんとも言えない消化不良感だけが残ってしまった。フランソワ・オゾン監督作品も事前に見るかどうかの吟味が必要になってきたのかもしれない。

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【日日是好日(にちにちこれこうじつ)】(9/10)

監督・脚本:大森立嗣
原作:森下典子
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴田真由、鶴⾒⾠吾、他
製作国:日本
ひとこと感想:人生の傍らに茶道を続ける女性の姿を通して茶道なるものを描くことを試みる、大森立嗣監督作品。タイトルには、一期一会の日々をあるがままに受け止めることが茶道の真髄だという思いが込められているように気がする。
昔、親戚の人に袱紗の畳み方を1回教わった時にもうメゲて、自分には茶道は絶対無理って思ってしまった。体が自然に動くまで何回もやって所作を覚え込み、そうやって身についた形の中に後から魂が宿る、といった考え方はかなり日本独特な考え方のような気もするんだけど、そこに至るまで続けるのはなかなか難しい。どんな環境でどんな人からどんなふうに教わるかというのもきっと凄く大事で、この映画のような心映えの美しい師匠に教わったら、もしかしたら自分にも茶道の素晴らしさが分かったのかもしれない。実際、こんな人に出会えるかどうかが、実は茶道の極意なのではなかろうか。そんな茶道の師匠役の樹木希林さんの佇まいが本当に美しく、この人ありきでなければこの映画自体が成立していなかったのではないかと思った。樹木さんからお茶を教わる主人公の黒木華さんもハマリ役だけど、彼女も彼女でどんな役でもハマリ役にしてしまうよなぁ。

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【ニッポン国VS泉南石綿村】(9/10)

監督:原一男
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:キャリーバッグに酸素ボンベを積んで歩かなければならないような石綿肺(塵肺)という病気の大変さ、在日コリアンや地方出身者などの貧しい人々がこの仕事に従事していたという産業構造などの背景から始まり、原告団一人一人の人となりが豊かに描き出されるから、被告にはあくまでも限定的な責任しか認めない上、被害者を線引きするという、弱者に寄り添うことができない日本の行政や司法の不合理さや非情さが余計に浮かび上がってくる。いつも苛烈な題材を手掛ける原一男監督、本作は他からの依頼をきっかけに撮り始めたとのことだが、むしろ他のどの作品よりも理不尽な状況に対する怒りをはっきりと描いているように見える。日本国民はもっと怒って要求するべきことは要求していいのだ。怒りを表現しなければ、支配する側に立つ人々は、庶民を馬鹿にし舐めた態度を取りながら搾取を続けるだけだ。

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【ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ】(7/10)

原題:【In Jackson Heights】
監督:フレデリック・ワイズマン
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/フランス
ひとこと感想:ジャクソンハイツは、マンハッタンの周辺地区の1つであるクィーンズの1区画で、人種的にもジェンダー的にも様々なバックグラウンドを持つ人々が住む民族の坩堝。その多面的をまるごと捉えようと描いたフレデリック・ワイズマン監督印のドキュメンタリー。人々が積極的に参加することでそれぞれのコミュニティが形成されており、そのコミュニティの集合体が地域を形成しているという視点が印象的だった。

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【ニワトリ★スター】(6/10)

監督・原作:かなた狼
共同脚本:いながききよたか
出演:井浦新、成田凌、紗羅マリー、津田寛治、奥田瑛二、山田スミ子、名倉央、鳥肌実、他
製作国:日本
ひとこと感想:大麻のプッシャーの真似事のようなことをして中途半端に暮らす男性2人の行く末を描く。原作も手掛けるかなた狼監督の初監督作とのことで、正直、やりたいことを詰め込み過ぎてとっ散らかってしまった印象がある。けれど、この熱量を美しい形になるように刈り込んでしまったら、この迫力も吸引力も死んでしまっていたかもしれない。だからこれはこれでよかったのかもしれない。

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【人魚の眠る家】(8/10)

監督:堤幸彦
脚本:篠﨑絵里子
原作:東野圭吾
出演:篠原涼子、西島秀俊、稲垣来泉、斎藤汰鷹、荒川梨杏、荒木飛羽、坂口健太郎、川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、松坂慶子、田中泯、駿河太郎、大倉孝二、他
製作国:日本
ひとこと感想:脳死した女の子が最新技術で生きながらえるも、女の子がまだ生きているという信念に執着する母親が次第に常軌を逸していき、周囲の人々が翻弄される、という東野圭吾さんの原作小説を堤幸彦監督が映画化。自分の願望を子供に押し付ける親の話なんて嫌だなぁ……と見るのを凄く迷っていたのだが、狂気まで孕むほどの母親の愛がどうしても胸に迫ってしまう。篠原涼子さんうまいよねー。子役も旦那も周りの人もみんなうまいよねー。細かな筋立ての構成もうまいよねー。泣くよねー。とあっという間に魅き込まれた。人が死ぬということには、残された人間がそれをどのように受容するかという過程も含まれているのだ、と改めて思い至った。移植ドナーを待つある子供の親の「ドナーが現れてくれるのを待つようなことだけはやめようと決めた」(自分の子供のために誰かが死ぬのを願いたくないと思った)、という台詞が最も心に残った。

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【人間機械】(7/10)

原題:【Machines】
監督:ラーフル・ジャイン
(ドキュメンタリー)
製作国:インド/ドイツ/フィンランド
ひとこと感想:インドのファブリック工場を舞台に、劣悪な環境下でひたすら働かされる人々をひたすら映したドキュメンタリー。監督によると、あれでもあの地域の工場の中から一番マシな工場が選ばれているとのことで、他はどんな状況なのかと考えただけで寒気がする。インドや中国の華々しい経済的躍進のニュースの影にはこのような人々が少なからず存在しているのでは、とか、このような労働の搾取のおかげで安価に保たれている中国製品とかインド製品とかの上に成り立っている現在の資本主義社会って……とか考えていると暗澹たる気持ちになり、人類全体の幸せは遙か遠いのではないかと改めて思わされた。

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【猫は抱くもの】(5/10)

監督:犬童一心
脚本:高田亮
原作:大山淳子
出演:沢尻エリカ、吉沢亮、峯田和伸、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、岩松了、藤村忠寿、他
製作国:日本
ひとこと感想:芸能界からフェードアウトした元アイドルというヒロインに、一時仕事も激減していたであろう沢尻エリカさんの姿がどうも重なり、これはまるでもって沢尻エリカさん用の企画なのかなという思いが強くなる。人が猫の役を演じるというのはまぁいいとしても、沢尻さんの演技の独特のクセが目立つし、売れない芸術家など自分の才能の行き場に逡巡する人達というモチーフが消化しきれていないような気がするし、アニメのインサートはどうかと思うしで、全体的にいろいろうまくいっていない印象を受けた。周囲のもろもろは変化しても猫は常にそばにいる、というメッセージだけはよかったかもしれないが。

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【寝ても覚めても】(7/10)

監督・脚本:濱口竜介
共同脚本:田中幸子
原作:柴崎友香
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子、他
製作国:日本
ひとこと感想:【ハッピーアワー】の濱口竜介監督の最新作。元カレと顔がそっくりな人に出会う、とかいった設定は安易だと思うので今後はやめて欲しいが、ヒロインがずっと燻り続けていた想いのために衝動的に理不尽極まりない選択をしてしまうシーンは圧巻だった。彼女の行動はどう転んだって許されるものではないのだが、間違ってるとわかりきっている選択をしてしまうような、文字通り魔が差す瞬間って、人生にはきっとある。物語をその瞬間に向けて集約させていく力が素晴らしく、その後もゆるやかに着地させていくのも心地よいと思った。

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【のみとり侍】(7/10)

監督・脚本:鶴橋康夫
原作:小松重男
出演:阿部寛、寺島しのぶ、豊川悦司、前田敦子、大竹しのぶ、斎藤工、松重豊、風間杜夫、桂文枝、他
製作国:日本
ひとこと感想:為政者が田沼意次から松平定信に移り変わる時代。殿様の不興を買い、女性に性的奉仕をする“のみ取り”になるよう命ぜられた侍は、自分の生き方を貫き、好きな女性との愛を成就出来るのか?ストーリーを厳密に追うよりは、理不尽な状況に戸惑う阿部寛さんと恐妻家の伊達男の豊川悦司さんを軸に、雰囲気をふんわり楽しむのがいいかも。テレビドラマ監督として名を馳せた鶴橋康夫監督、前作の【後妻業の女】の時も思ったけれど、映画ではシリアス路線より重喜劇的な題材が嵌まるのかもしれない。

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【ハード・コア】(5/10)

監督:山下敦弘
脚本:向井康介
原作:狩撫麻礼、いましろたかし
出演:山田孝之、佐藤健、荒川良々、康すおん、石橋けい、首くくり栲象、松たか子、他
製作国:日本
ひとこと感想:世の中に馴染めない男性達が、結局、運(タイミング)にも見放される。性欲を持て余した男性達によるとことん男の子目線の話といった感じで、女性受けする要素が全然なし。(この映画のあまりにサノバビッチな佐藤健くんは、健くんファンの母(後期高齢者)には教えてあげられないかもしれない。)この映画を作りたかった山下敦弘監督や山田孝之さんの衝動を理解してあげることはできるかもしれないが、面白かったかどうかと聞かれると口ごもらざるを得ないかもしれない。

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【はじめてのおもてなし】(7/10)

原題:【Willkommen Bei Den Hartmanns (Welcome To Germany)】
監督・脚本:サイモン・バーホーベン
出演:センタ・バーガー、ハイナー・ラウターバッハ、エリック・カボンゴ、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、パリーナ・ロジンスキ、エリヤス・エンバレク、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:家族の在り方を新たな視点から描くドイツ映画。離婚して子供と暮らす息子はいつも仕事で忙しく、大学に在学し続ける娘はいつまでも方向性が定まらず、夫は独善的で横柄。家庭内で独りぼっちで生きがいを失っていた妻は、難民センターでボランティア仕事などを探すうち、ナイジェリア難民の青年を引き取ることになる。この青年が物静かで思慮深くて働き者という素晴らしい人物で、彼と関わるうちに家族はそれぞれ人間性を取り戻し、彼への偏見によるトラブルなどに巻き込まれながらも、その絆を再構築していく。欧州での難民に対する逆風のニュースが絶えない昨今、難しい問題はあっても皆で解決していこうとしている人達もいるから、このような映画も作られるのだろう。そう思うと、少しだけほっとする。

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【バッド・ジーニアス 危険な天才たち】(6/10)

原題:【ฉลาดเกมส์โกง (Chalard Games Goeng)】
監督・脚本:ナタウット・プーンピリヤ
共同脚本:タニーダ・ハンタウィーワッタナー、ワスドーン・ピヤロンナ
出演:ティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、他
製作国:タイ
ひとこと感想:天才的な頭脳を持ちながら報酬と引き替えに組織的なカンニングに手を貸す女子高生を主人公にしたタイ映画。問題をすごいスピードで解いて全問正解して、更にそれを全部覚えておいてその情報を流すとか、どれだけ天才的な頭脳なの!しかし、貧乏に生まれついた学生たちが、親が稼いだ札束で横っ面をひっぱたくしか能の無いような連中の言いなりになってしまうという構図にはどうも乗れない。カンニングを持ちかけた金持ちの方は大した罰も受けずのうのうと生き残り、カンニングをさせられた貧乏人の方は唯一持っていた頭脳という財産すら封じられ、ダークサイドに落ちてしまって救われない。それだけの頭脳、もっと他の使い方があっただろうに。そこまで含めて拝金主義的な世相を揶揄しているのかもしれないが、理不尽すぎて全然スッキリしなかった。

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【ハッピーエンド】(7/10)

原題:【Happy End】
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニャン、ファンティーヌ・アルドゥアン、マチュー・カソヴィッツ、トビー・ジョーンズ、フランツ・ロゴフスキ、ローラ・ファーリンデン、他
製作国:フランス/ドイツ/オーストリア
ひとこと感想:ある金持ち一家の暮らしの断片が浮かんでは消え、そのうち段々と繋がってくる。家長の爺さんは高齢で引退しており、長女が家業を継ぎ、次男は医師に。それぞれ恋人や家族がいるが、互いには関心が薄く、たくさんの欺瞞を抱えながら暮らしている。次男と先妻との間の娘は、最近にこの家に引き取られてきてこの家に馴染めずにいたが、そんな冷え切った世界の底で思わぬソウルメイトと巡り合う……。これがハッピーエンド?と思う向きもあるかもしれないが、彼女も少しは人生の不条理に立ち向かう気力を持てたんじゃなかろうか。そう思うと、ミヒャエル・ハネケ監督作の割には絶望感が少なく、少しだけ前向きでハッピーな感じがしたんだよね。

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【バトル・オブ・ザ・セクシーズ】(7/10)

原題:【Battle of the Sexes】
監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス
脚本:サイモン・ボーファイ
出演:エマ・ストーン、スティーヴ・カレル、アンドレア・ライズボロー、サラ・シルヴァーマン、ビル・プルマン、アラン・カミング、エリザベス・シュー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:女子テニス界の高名な元祖レジェンド、ビリー・ジーン・キングが主人公。タイトルは、セクスィー部長、とかではなくて性別間の戦いという意味で、男子選手とのあまりに理不尽な格差に抗議していたら男子選手と試合することになってしまった、という史実に基づく。結局、その男子選手も道化役をやらされただけで、裏で糸を引いていた黒幕の連中がいるんだよね。女は不利益な立場を我慢させられるのは当然、という決めつけによる差別やハラスメントは、昔からあって、今もなお存在し続けているが、彼女がそれに立ち向かったように、私達も一人一人がそれに立ち向かい続けていくしかないのだ。

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【パンク侍、斬られて候】(9/10)

監督:石井岳龍
脚本:宮藤官九郎
原作:町田康
出演:綾野剛、北川景子、染谷将太、東出昌大、浅野忠信、永瀬正敏、村上淳、若葉竜也、近藤公園、渋川清彦、國村隼、豊川悦司、他
製作国:日本
ひとこと感想:荒唐無稽な町田康さんの原作をクドカンが独特のリズムで脚本化し、石井岳龍監督が勢いのまま形にする。破茶滅茶な役柄に嬉々として全力で取り組むイカれた名優の皆様が麗しく、その中で座長を張るゴーアヤノが放出するエネルギーが凄まじい。もー何もかも好き!ありがとう石井監督!ありがとうキャストとスタッフの皆さん!

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【判決、ふたつの希望】(8/10)

原題:【L'insult】
監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ
共同脚本:ジョエル・トゥーマ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャ、リタ・ハーエク、クリスティーン・シュウェイリー、カミール・サラーメ、ディヤマン・アブー・アッブード、他
製作国:レバノン/フランス
ひとこと感想:小さな諍いから始まった裁判が、国を巻き込む大論争に発展し、内戦の歴史を含むレバノンの現代史を否応なく照射する。今のレバノンにかなりのパレスチナ難民がいることも、それが問題になっていることも知らなかったが、レバノンについてもっと知りたいと思わされたことこそ、本作のジアド・ドゥエイリ監督が意図していたことなのではあるまいか。監督は、ハリウッドでタランティーノ監督の助手などをした後、母国のレバノンに戻って映画を撮っているのだそうだが、ハリウッド流のメリハリのあるサスペンスを持ち込みながら自国の政治状況を題材にして昇華させるという結構な離れ業を見事にやってのけている。世界の才能を吸引して搾取してきたハリウッドから世界の一部への環流が起こっているのだとすると、興味深い現象だなと思った。

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【ピアソラ 永遠のリベルタンゴ】(9/10)

原題:【Astor Piazzolla Inedito (Piazzolla, The Years of the Shark)】
監督:ダニエル・ローゼンフェルド
(ドキュメンタリー)
出演:アストル・ピアソラ、ダニエル・ピアソラ、他
製作国:フランス/アルゼンチン
ひとこと感想:勢い余って別稿の記事を書いてしまったのでそちらをご参照下さい。ピアソラは至高です!永遠です!

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【BPM ビート・パー・ミニット】(6/10)

原題:【120 battements par minute】
監督・脚本:ロバン・カンピヨ
共同脚本:フィリップ・マンジョ
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、アルノー・ヴァロワ、アデル・エネル、アントワン・ライナルツ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:1990年代初頭のパリ。政府も製薬会社もHIV感染/エイズにほとんど対策を起こさない中、業を煮やした「ACT UP Paris」という活動団体のメンバーは、より過激な告知活動を起こすようになる。思えばこの時代は欧米でのエイズ禍が最も猛威を振るった時代で、正にこの映画で描かれたように、HIV感染/エイズは同性愛者の病気という誤解や偏見も強く、亡くなった人も多く、血液製剤の輸血から感染した血友病患者と性交渉で感染したゲイコミュニティの人々の間に温度差がある場合もあったりした。【ダラス・バイヤーズ・クラブ】などの他の作品でも描かれているように、当時の当事者の人々の頑張りにより、新薬の開発も進み、HIV感染はある程度コントロール可能になったけど、エイズにまで進行した場合の致死率は未だに非常に高く、この病気との闘いは全然終わっていない。感染予防の啓蒙活動も新薬やワクチンの開発のための社会的努力もまだまだ必要。そんな意識を新たにした。
なんて書くとまるでHIV感染/エイズの啓蒙映画みたいだけど、当時実際に「ACT UP Paris」のメンバーだったというロバン・カンピヨ監督は、自分自身の若い頃の思い出の集大成として本作を作りたいという思いの方が大きかったのだろうと思う。タイトルの「BPM」は心拍数の単位、ではなく、1分間のビート数を表す言葉で、象徴的に登場するディスコのダンスミュージックを表す言葉として使われている模様。ブロンスキー・ビートの「スモールタウン・ボーイ」の旋律が懐かしい。ちなみにこの「ACT UP Paris」という団体は今でも活動しているとのことだ。

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【ビガイルド 欲望のめざめ】(6/10)

原題:【The Beguiled】
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
原作:トーマス・カリナン
出演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、キルスティン・ダンスト、エル・ファニング、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ソフィア・コッポラ監督は女性の内面の葛藤を描くのが抜群に上手いので、女性だけの牙城の中に男性が投下された時の人間関係の話なんて、そりゃあもう鬼のように嵌まる。しかし、こういうろくでもない男が本性を現していくのって、見ていて本当にしんどい。後半は「オマエの辞書には自業自得という言葉はないのか!」と終始イガイガしていた。

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【Vision】(9/10)

監督・脚本:河瀬直美
出演:ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、夏木マリ、岩田剛典、美波、森山未來、田中泯、白川和子、ジジ・ぶぅ、他
製作国:日本/フランス
ひとこと感想:むせ返るような美しい自然の中に人間の身体性が忽然と存在しているという現象を、空間ごと描出してみせる。主演のジュリエット・ビノシュさんや永瀬正敏さんのみならず、夏木マリさんや森山未來さんらの圧倒的な存在感に打ちのめされる。河瀬直美監督の離れ業。今のこの時代に、いわゆる“コンテンツビジネス”とは全く違うベクトルの映画がまだ存在しうることを証明してみせたなんて驚異的。今後、映画ってどうなっていくんだろうとどうしても考えざるを得ない今日この頃だけど、たとえ市場は縮小しても映画なるものは多分無くならないんじゃないかと、この映画を見て確信に近いものを抱くことができた。

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【羊と鋼の森】(5/10)

監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
原作:宮下奈都
出演:山﨑賢人、三浦友和、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、光石研、堀内敬子、仲里依紗、城田優、森永悠希、佐野勇斗、吉行和子、他
製作国:日本
ひとこと感想:調律の世界という原作の視点は新機軸だし、共演陣の力量は十分。よくなりそうなシーンもたくさんある。だから、主演の俳優さんの力量如何では何倍もの化学反応を起こしマジックを生み出せる余地はあったのではないか。でも、大変申し訳ないけれど、肝心の主演の俳優さんの求心力が足りず、凡庸で通り一遍の物足りない仕上がりになってしまった気がする。上白石萌音・萌歌姉妹の共演はよかったので、そこは一見の価値があるかもしれない。

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【羊の木】(6/10)

監督:吉田大八
脚本:香川まさひと
原作:山上たつひこ、いがらしみきお
出演:錦戸亮、木村文乃、松田龍平、北村一輝、市川実日子、優香、田中泯、水澤紳吾、中村有志、安藤玉恵、深水三章、北見敏之、山口美也子、松尾諭、細田善彦、鈴木晋介、他
製作国:日本
ひとこと感想:吉田大八監督の新作。しかし、町おこしのために仮釈放された殺人犯を受け入れる、というあり得ない設定に今一つ気持ちがついていかなかったかもしれない。殺人ってなんかもっとこう、ドス黒くて後ろ暗くて救いがない感じで、明快を旨とするビッグバジェットの映画で描くには限界があるんじゃないかと思うんだよね。それ以前に、錦戸亮さんが演じる公務員というのも、個人的にどうも鬼門なのかも。以前の映画でも嵌まっていなかったのを思い出してしまった。

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【ビブリア古書堂の事件手帖】(4/10)

監督:三島有紀子
脚本:渡部亮平、松井香奈
原作:三上延
出演:黒木華、野村周平、成田凌、夏帆、東出昌大、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作は有名なライトノベルとのことだが、おそらく、実写化としては失敗しているんじゃなかろうか。徒歩で歩いてこそ魅力的な鎌倉の路地裏の風景がベースにあるのはとてもいいと思うのだが、不穏で胡乱なミステリーの要素が溶け込むことなく解離してしまっているので、もう少しどちらかに寄せて一体化を図るようにした方がよかったのでは。あと、ヒロインがあまり魅力的に映らないので、もう少し時間を割いてヒロインの良さが発揮されるシーンを増やしてもよかったのでは。何だか全体的にバランスが悪いのだが、このキラキラしたキャスティングを見る限り、この題材が三島有紀子監督向きじゃなかったというよりは、とにかく売れる企画でありさえすればいいというプロデューサー側の安易な姿勢が原因だったのではないか、と思われた。

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【ビューティフル・デイ】(7/10)

原題:【You Were Never Really Here】
監督・脚本:リン・ラムジー
原作:ジョナサン・エイムズ
出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:(思い切りネタバレ御免。)本作を見ると様々な人が様々な映画を思い出すようだが、私はこの映画は【タクシー・ドライバー】から更に救いをなくした感じだと思った。でも、少女は自分で自らの禍根を断ったので、主人公は無力感に苛まれて再び死ぬことを夢想する。いやいや、あなたの存在がなければ少女の心は救われなかったかもしれないのだから、そんなに悲観しなくても……。しかし、あの場の「It's a beautiful day.」と言う科白には「人生は美しい」と言うのと同じくらいの大切な意味が込められているのだから、「いい天気だ」とかいう脳天気な訳をつけてる場合じゃないでしょう。
それにしてもホアキン・フェニックス先生って、どうしてこんなに粗野で小太りなおじさん的なキャラクターばかり好んでやりたがるのだろう。自分の容姿の美しさにトラウマでもあるんじゃないのかな。

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【ファントム・スレッド】(7/10)

原題:【Phantom Thread】
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:デザイナーの男は天才ゆえの自閉的なこだわりが強く、ルーティーンを壊されると激高して仕事に支障を来してしまうタイプ。男の姉はパートナーとして男のことを完璧に理解し、影となり日向となりて支えていた。が、人生の終盤に差し掛かった男は凡庸な女を選ぶ。この女、それまでのこだわりをすべて捨ててまで選ぶほどのいい女か?そうは見えなかったところがよく分からなかったんだよなー。このタイトルは、目に見えない蜘蛛の糸のようなものを指しているのかな?と思ったが、見えない糸に絡め取られる男を見ていても虚しくやるせない気持ちにしかなれず、これを愛と言われても……と残念にしか思えなかった。それでも、ダニエル・デイ・ルイス様演じる初老男のエレガントさが筆舌に尽くしがたかったので、まぁいいか。

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【葡萄畑に帰ろう】(6/10)

原題:【სავარძელი (The Chair)】
監督・脚本:エルダル・シェンゲラヤ
共同脚本:ギオルギ・ツフベディアニ
出演:ニカ・タヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェタゼ、ナタリア・ジュゲリ、ズカ・ダルジャニア、他
製作国:ジョージア(グルジア)
ひとこと感想:ジョージア(グルジア)で現役最長老(当時85歳)のエルダル・シェンゲラヤ監督による政治風刺を盛り込んだ寓話的物語。主人公は国内避難民(1990年代初頭のアブハジア紛争、2008年の南オセチアをめぐるロシアとの戦争などで生まれた国内避難民)を追い出す省庁の大臣らしく、大臣の座を満喫しつつ首相の言うなりに仕事を進めていたが、首相が選挙に負け失職、不正な手段で取得した家も失う。故郷に帰って絶縁していた娘と仲直りして葡萄畑で働くようになり、満ち足りたように見えていたのだが、実はそうでもなかった。結構えげつないこともいろいろ描かれていて、ラストに出てくる「いつだってこうでした、今もそうです。これからも同じでしょう。」という諦念とも達観ともつかない台詞をどう処理すればいいのか分からなくなるが、何だかほのぼのとした味わいも残るのが何とも不思議だ。

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【ブラックパンサー】(7/10)

原題:【Black Panther】
監督・脚本:ライアン・クーグラー
共同脚本:ジョー・ロバート・コール
原作:スタン・リー、ジャック・カービー
出演:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカー、アンディ・サーキス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:一見貧乏国、実は謎の鉱石を活用した超文明国という設定のアフリカの架空の国を舞台にしたヒーローもの。メインキャストが全員黒人で、音楽や意匠などを始めとした様々な要素にもアフリカ的なモチーフが盛大に取り入れられているが、これはスパイク・リー監督が折に触れ言い続けてきたブラック・ファーストな映画製作の一つの到達点なのではあるまいか。みんな男女の区別なくビシバシ戦っているのもカッコよかった!(特にダナイ・グリラさんの演じる親衛隊長!)しかし、【アベンジャーズ】シリーズの中の1本という位置づけのため、シリーズの他の作品を見に行く予定のない私には、話が完結しない消化不全感が残ってしまうのがちょっと残念だったけど。

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【blank13】(7/10)

監督:齊藤工
脚本:西条みつとし
原作:はしもとこうじ
出演:高橋一生、斎藤工、松岡茉優、リリー・フランキー、神野三鈴、佐藤二朗、大西利空、北藤遼、村上淳、神戸浩、川瀬陽太、織本順吉、伊藤沙莉、くっきー(野性爆弾)、大水洋介(ラバーガール)、岡田将孝(Chim↑Pom)、永野、他
製作国:日本
ひとこと感想:斎藤工さんが「齊藤工」名義で監督した作品。話の内容自体は、ギャンブル好きで母親に苦労のかけ通しだった父親の葬式を出す兄弟という、自主製作映画でよくあるような感じではあるのだが、演者がみんな一流なこともあり、表現の隅々にまできめ細かなニュアンスが行き届いているのがとても好ましかった。(後半は佐藤二朗さんの独壇場になっているきらいはあるけれど……。)斎藤さんは、映画の仕事に関わる機会を増やすためならどんなことでも引き受けようとする覚悟が感じられて、本当に偉いなぁといつも思う。機会があったらこういう映画をまた創って欲しいなぁと思った。

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【返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す】(6/10)

監督:柳川強
脚本:西岡琢也
原案:宮川徹志
出演:井浦新、戸田菜穂、尾美としのり、中島歩、佐野史郎、大杉漣、石橋蓮司、他
製作国:日本
ひとこと感想:沖縄の日本返還時にアメリカとの交渉を担当した外交官・千葉一夫氏を主人公としたNHKのドラマの再編集版。主人公は志を遂げられず、問題は山積したままですっきりした結末にはならないので、実話のドラマ化にありがちな冗長さとカタルシスの弱さは否めない。けれど、外交には信念に基づく行動が必要だということが丹念に描かれていることに、とても感銘を受けた。

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【ペンギン・ハイウェイ】(6/10)

監督:石田祐康
脚本:上田誠
原作:森見登美彦
(アニメーション)
声の出演:北香那、蒼井優、釘宮理恵、潘めぐみ、福井美樹、西島秀俊、竹中直人、他
製作国:日本
ひとこと感想:森見登美彦さんの原作によるアニメーション。ペンギンとは宇宙のひずみを修正するために生まれ出た何か……のようなものなのだろうか?よく分からないが、ペンギンが可愛いかったのでまぁいいか。優秀で自分は将来偉くなると信じている主人公の小生意気な小学生男子が、とにかく研究熱心でひたむきなので、段々可愛く見えてくるところがよかった。その一方、自分は森見登美彦さんが女性に寄せる憧憬のようなものがそもそも苦手なのだ、ということもよく分かったような気がする。

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【ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書】(7/10)

原題:【The Post】
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1970年代、ワシントン・ポスト紙が、他紙がスクープしたベトナム戦争についての機密文書を、様々な妨害に遭いながら全文掲載するまでの話。この件をきっかけにウォーターゲート事件が明るみに出る。政治の暴走を監視するのがマスコミの役目だという明快な主張。スピルバーグ監督も、アメリカの政治の現状に対して危機感があるから、このような映画を創ろうと思ったのだろうか。

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【ぼくの名前はズッキーニ】(8/10)

原題:【Ma vie de Courgette】
監督:クロード・バラス
脚本:セリーヌ・シアマ
原作:ジル・パリス
(アニメーション)
声の出演(日本語版):峯田和伸、麻生久美子、リリー・フランキー、浪川大輔、他
製作国:スイス/フランス
ひとこと感想:養護施設を舞台にしたスイス発のクレイアニメ。ちょっとクセのある造形だけど、少し経つと見慣れてきて、健気に頑張る子供達が可愛く見えてくる。子供達が様々な複雑な背景を抱えているのは日本の養護施設でも同じかもしれないけれど、日本だとそれをアニメーションにしようという発想はなかなか出てこないかもしれない。社会問題となっているようなシビアな話題も包み隠さずバンバン出てくるけれど、根底に子供達の健やかな成長を祈る愛とユーモアがあるから、見ていて悲しい気持ちにならないのがいいなと思った。

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【星くず兄弟の新たな伝説】(8/10)

監督・脚本:手塚眞
共同脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
原案:近田春夫
出演:三浦涼介、武田航平、荒川ちか、高木完、久保田慎吾、谷村奈南、田野アサミ、浅野忠信、井上順、夏木マリ、ISSAY、藤谷慶太朗、ラサール石井、板野友美、野宮真貴、内田裕也、庵野秀明、山本政志、犬童一心、吉村元希、石井岳龍、林海象、黒沢清、野宮真紀、ラッキィ池田、サンプラザ中野、高田文夫、伊武雅刀、毒蝮三太夫、浦沢直樹、加藤賢崇、他
製作国:日本
ひとこと感想:前作の【星くず兄弟の伝説】の内容を全く覚えていなかったが、本作も内容を全く思い出せない……前作以上にごった煮でアナーキーでハチャメチャだったのは間違いないのだが。しかし、ここまで今の時代に阿(おもね)ることなく、映画や80年代サブカルへの愛だけを全編に詰め込んで映画を創ってしまうのは凄いかもしれない。手塚眞監督って根がノーブルで純粋で真面目ないい人なんだろうなぁ~と思った。そして自分がこの映画に心を動かされてしまうのは、いくら蚊帳の外にいたつもりでも自分はやはりあの時代の中にいて、どこかヘンテコでハッピーなあの時代の文化に有形無形の影響を受けていたからなのだろうな、としみじみ感じた。

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【ポップ・アイ】(5/10)

原題:【Pop Aye】
監督・脚本:カーステン・タン
出演:タネート・ワラークンヌクロ、ペンパック・シリクン、他
製作国:シンガポール/タイ
ひとこと感想:タイ発のちょっと不思議なロードムービー。変わったタイトルだなと思ったら、主人公と一緒に旅するゾウの名前がポパイ(Popaye)だというところに由来しているらしい。仕事にも家庭生活にも行き詰まっている中年男性が、昔飼っていたゾウを見かけ、そのゾウを故郷に送り届けようとするが、故郷の変貌ぶりに愕然とし……といった話だが、実はそのゾウも自分の昔のゾウではなかったりとあまりすっきりしたお話にはならない。これはストーリーがどうこういうよりは、漠然として定まらない身の置き所を持て余している主人公の在り様を見るべき映画なのだろう。土が剥き出しで埃っぽく電信柱が延々続いているタイの田舎道を、男性と象が延々と歩いて行くイメージが何ともシュールで印象的だった。

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【ボヘミアン・ラプソディ】(7/10)

原題:【Bohemian Rhapsody】
監督:ブライアン・シンガー、デクスター・フレッチャー
脚本・原案:アンソニー・マクカーテン
原案:ピーター・モーガン
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョゼフ・マッゼロ、トム・ホランダー、エイダン・ギレン、アレン・リーチ、マイク・マイヤーズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:クィーンの結成からバンドエイド参加に至るまでの軌跡を、フロントマンのフレディ・マーキュリーを中心に描く。 個人的には、フレディの孤独を描く上で、放埒な生活を送った時代をもっとしっかり描写する必要があったのではないかと考えるのだが(アメリカのレーティングの関係で難しかっただろうけど)、生前のフレディ・マーキュリーもライブ・エイドも知らないような今の若い皆さんに「クィーン」の入門編として見てもらうにはバランスの取れたいい映画で、クィーンの音楽の魅力を改めて世に知らしめた功績は大変大きいのではないかと思う。

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【ポルトの恋人たち 時の記憶】(5/10)

監督・脚本:舩橋淳
共同脚本:村越繁
出演:柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・ドゥランエス、中野裕太、他
製作国:日本/ポルトガル/アメリカ
ひとこと感想:柄本佑さんは『アナザースカイ』でも安藤サクラさんとの新婚旅行でもポルトガルに行ったくらいポルトガルが好きらしいので、これは!と思ったのだが……。18世紀にポルトガルに連れて来られた日本人奴隷ってそもそも何じゃソラといった感じだし、憎いけど愛してしまった的な話は無いわーとしか思えないし、時代を跨いだりする意味もあまりよく分からないし……。低予算なんだろうということには目をつぶりたいけれど、柄本さんやポルトガルの魅力を引き出す算段はもっと他にもあったんじゃなかろうか。

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【マルクス・エンゲルス】(6/10)

原題:【Le jeune Karl Marx (The Young Karl Marx)】
監督・脚本:ラウル・ペック
共同脚本:パスカル・ボニゼール
出演:アウグスト・ディール、シュテファン・コナルスケ、ヴィッキー・クリープス、ハンナ・スティール、オリヴィエ・グルメ、他
製作国:フランス/ドイツ/ベルギー
ひとこと感想:格差が広がり続ける社会の中でマルクスやエンゲルスが再注目を集める今日この頃。そんな関心もあって見に行ったのだが、本作は、彼等の思想をロジカルに紐解いたりするのではなく、彼等の若かりし頃を青春物語として描いたものだった。でも彼等の生きた時代の雰囲気を知ることができて、これはこれで興味深かった。

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【マンハント】(6/10)

原題:【追捕 (Manhunt)】
監督:ジョン・ウー
脚本:ニップ・ワンフン、ゴードン・チャン、ジェームズ・ユエン、江良至、ク・ゾイラム、マリア・ウォン、ソフィア・イェ
原案:【君よ憤怒の河を渉れ】(原作:西村寿行、監督・脚本:佐藤純彌、共同脚本:田坂啓)
出演:チャン・ハンユー、福山雅治、ハ・ジウォン、國村隼、池内博之、チー・ウェイ、桜庭ななみ、アンジェルス・ウー、竹中直人、田中圭、倉田保昭、斎藤工、他
製作国:中国
ひとこと感想:殺人の濡れ衣を着せられて逃走した製薬会社の顧問弁護士と、彼を追う大阪府警の刑事(福山雅治先生)。その事件の裏には恐るべき事実が隠されていた……。完全にパラレルワールドなファンタジーとしての日本を「リアリティがない」と評している感想をいくつか見かけたけれど、ケレン味こそが醍醐味のジョン・ウー先生の映画に君達は何を求めているのだ?アクション先行で細けぇことはいいんだよ的な展開や、途中まで人物配置が分かりにくく話の全貌が見えにくい感じもご愛嬌で、むしろ何だか懐かしい。終盤が近づくにつれ加速度的に面白くなってくるので、それまでは人物関係の把握に注力しつつ頑張って見てみて欲しい。どちらにせよ、私は楽しかったので批判に聞く耳は持たない。

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【万引き家族】(10/10)

監督・脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、城桧吏、佐々木みゆ、松岡茉優、樹木希林、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、高良健吾、池脇千鶴、柄本明、池松壮亮、他
製作国:日本
ひとこと感想:是枝裕和監督が描く、生きていくために万引きを繰り返していた継ぎはぎの家族の物語。この家族の在り方については人によって様々な解釈ができるのかもしれないが、少なくとも、あの勝手に連れてきてしまった女の子に対する家族一人一人の愛情は本物だっただろうし、あの子がこれから再び地獄に連れ戻されるのだとしても、少なくともこれからは誰かに愛された記憶だけは持つことができるのではないかと思った。あの家族は、形を保ち続けることがあまりに難しい不完全な家族だったのだとしても、例え一瞬だけでも愛と呼べるものがあったのだと思う。それは、人間が人間の形をして生き続けていくためには、どんな形であれ必要なもの。私にとってはこの映画はそういう映画だった。

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【巫女っちゃけん。】(7/10)

監督:グ・スーヨン
脚本:具光然
出演:広瀬アリス、リリー・フランキー、山口太幹、MEGUMI、飯島直子、他
製作国:日本
ひとこと感想:少しやさぐれた神社の宮司の娘が自分の進路に悩む話。下手をすればありがちな話になりかねない、が、広瀬アリスさんが逡巡する姿を見ているだけで飽きなかったし、他のキャストも魅力的で楽しめた。グ・スーヨン監督のごった煮的な作風が結構好きなんだけど、広瀬さんを悩める巫女さんにしちゃうなんて、目のつけどころがいいんじゃない?広瀬すずさんは掛け値なしの天才だと思うけど、アリスさんも存在感があって味があるいい女優さんになれそうな予感がするんだよね。

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【港町】(6/10)

監督:想田和弘
(ドキュメンタリー)
製作国:日本/アメリカ
ひとこと感想:岡山県旧牛窓町での【牡蠣工場】の撮影中にいつの間にか素材が集まっていたという本作。登場する人物は圧倒的にご高齢者が多く、立派に見える街並みも空き家が多いという。黄昏に向かう世界。ソクーロフ監督の映画か何かにこんなのなかったかな。

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【未来のミライ】(7/10)

監督・脚本:細田守
(アニメーション)
声の出演:上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子、役所広司、福山雅治、他
製作国:日本
ひとこと感想:細田守監督の新作。一緒に見に行ったうちの母(後期高齢者)がひたすら可愛い可愛いと連発していた。おそらく細田監督が自分の家族や子供をモデルに作ったのではないかと思われるが、若い男性アニメファンにはもしかしたらこうしたネタはそんなにウケないかもしれない。それでもこんなふうに自分の身辺から題材を得る時期というのもあってもいいんじゃないだろうか。個人的には、若夫婦がお互いの役割分担を試行錯誤している様子が好ましく、細田監督ご自身のご家庭もこんなふうだと素敵だな、と思った。

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【ムタフカズ】(5/10)

原題:【MUTAFUKAZ】
監督・脚本・原作:ギョーム・“RUN”・ルナール
監督:西見祥示郎
(アニメーション)
声の出演:草彅剛、柄本時生、満島真之介、他
製作国:フランス/日本
ひとこと感想:友人と共にスラム街に住む主人公が、あるとんでもない事柄に巻き込まれ、自分のルーツを知るけれど、結局友人との生活を選ぶという物語。フランスとの合作で、純日本産のアニメではなかなか見られないちょっとデフォルメの入った独特のデザインがかっこいいけれど、その世界観に今一つ入り込み切れなかった気がする。

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【村田朋泰特集 夢の記憶装置】(8/10)

監督・脚本:村田朋泰
(アニメーション)
製作国:日本
ひとこと感想:Mr.Childrenの『HERO』のMVや、NHKのプチプチ・アニメ『森のレシオ』などで知られる人形アニメ作家・村田朋泰監督の作品集。人形アニメは1コマ1コマに愛を込めなければ成立しない気の遠くなりそうな世界。特に村田朋泰監督の作品は、背景の細部に至る作り込みが凄い反面、人形達の造形と動きは敢えてなめらか過ぎず、いかにも手作りの温かみがある。魂を吹き込まれた人形達が雄弁に語り出す異世界に没入するのは何とも言えない贅沢だ。

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【モリのいる場所】(8/10)

監督・脚本:沖田修一
出演:山崎努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史、他
製作国:日本
ひとこと感想:画家の熊谷守一の最晩年の姿と、その周辺の人々を描いた沖田修一監督作品。昭和の終盤の空気感が懐かしい。山崎努さんと樹木希林さんが夫婦役という貴重な配役なのだが、彼等の仙人ぶりが、某ジブリ映画を思い出してしまうような雑草だらけのロマンティックな庭の佇まいとあまりにマッチしていて素晴らしい。

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【焼肉ドラゴン】(7/10)

原作・監督・脚本:鄭義信
出演:真木よう子、井上真央、桜庭ななみ、大泉洋、大谷亮平、キム・サンホ、イ・ジョンウン、イム・ヒチョル、ハン・ドンギュ、大江晋平、根岸季衣、宇野祥平、他
製作国:日本
ひとこと感想:劇作家・舞台演出家の鄭義信さんによる自らの舞台作品の映画化で、日本の高度成長期を生きる在日コリアン一家を丹念に描写する。この物語は監督の記憶にある原風景を再構築したものなのだろうか。家族は立ち退きを強要されてバラバラになるが、店を失った両親はまた苦労しそうだし、帰還事業で北朝鮮に向かった人々の悲惨な行く末も案じられる、という厳しい終わり方。それでも、前を向き明日に向かって歩いて行こうとする力強い人々の姿に好感が持てた。一家の父母を演じる韓国人キャストのキム・サンホさんとイ・ジョンウンさんが特に素晴らしかった。

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【友罪】(6/10)

監督・脚本:瀬々敬久
原作:薬丸岳
出演:生田斗真、瑛太、夏帆、富田靖子、山本美月、佐藤浩市、奥野瑛太、飯田芳、小市慢太郎、矢島健一、青木崇高、忍成修吾、西田尚美、村上淳、片岡礼子、石田法嗣、北浦愛、坂井真紀、古舘寛治、宇野祥平、大西信満、渡辺真起子、光石研、他
製作国:日本
ひとこと感想:友人が昔の殺人事件の犯人だったと知った主人公は、いじめられていた友人を見捨てたという自分の昔の罪にも向き合うことになる。それぞれの登場人物や1つ1つのエピソードにはインパクトがあって感情をゆさぶられるけれど、全体として訴えかけてくるものとなると少し弱かったような気がして、どうにもピントが合わない惜しい印象が残ってしまった。

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【宵闇真珠】(6/10)

原題:【白色女孩 (The White Girl)】
監督・脚本:クリストファー・ドイル、ジェニー・シュン
出演:アンジェラ・ユン、オダギリジョー、他
製作国:香港/マレーシア/日本
ひとこと感想:ウォン・カーウァイ監督の撮影監督として著名なクリストファー・ドイルが共同監督を努める香港合作映画。ままならない環境で暮らすビスクドールみたいに美しい少女が、異邦人の男ことオダギリジョーと淡い恋をして自立する、みたいな話。正直、ストーリーは大して重要じゃなく、曇天みたいな微細なグレーの画面の芸術的な美しさを堪能するための雰囲気映画、といった趣きが強い気がした。だが、「この漁村はもうない」という最後のセリフには、事実上瓦解させられつつある在りし日の香港に対する惜別の念のようなものもふと感じられてしまった。

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【ライオンは今夜死ぬ】(8/10)

原題:【Le lion est mort ce soir】
監督・脚本:諏訪敦彦
出演:ジャン=ピエール・レオ、ポーリーヌ・エチエンヌ、イザベル・ヴェンガルテン、他
製作国:フランス/日本
ひとこと感想:南仏コート・ダジュールの昔愛した女性の屋敷を訪れた老俳優が、地元の子供達と出会い一緒に映画を作ることになる……。ヌーヴェルヴァーグの申し子ジャン=ピエール・レオ先生にご出演戴き、諏訪敦彦監督もシネフィル冥利につきるのではないだろうか。諏訪監督のシネフィル然としたところがずっと苦手だったけど、この映画に満ち溢れる映画愛は美しいと思った。子供達の使い方も上手くて、思った以上に瑞々しい情感に溢れ、諏訪監督作品で最も好きな1本になった。

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【ラジオ・コバニ】(6/10)

原題:【Radio Kobani】
監督:ラベー・ドスキー
(ドキュメンタリー)
製作国:オランダ
ひとこと感想:ISに支配されたシリアのクルド人の街コバニに大学生らがラジオ局を立ち上げてから、解放された街に復興の兆しが見え始めるまでを追ったドキュメンタリー。絶望的な状況の中で、お互いに連帯を感じられる縁(よすが)があることがどれだけ大切かを改めて感じた。しかし、やっとISから街を取り返したというのに、今度はまたクルド人と他の勢力との争いが勃興しているらしい。嗚呼……。

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【ラッカは静かに虐殺されている】(7/10)

原題:【City of Ghosts】
監督:マシュー・ハイネマン
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:タイトルは、シリアのラッカの壊滅的な状況を映像情報として発信し続ける市民ジャーナリスト集団の名前RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently)から。誰もがあっさりと銃殺されかねないISの支配下にあって、彼等は携帯電話1つでISに立ち向かい、その惨状を世界に伝えようとした。彼等の命をかけた悲愴な覚悟によって、世界はIS支配の実像について知ることができたのだ。しかし、クルド人勢力により奪還されたラッカでは、他の都市と同じようにクルド人とアラブ人の争いが起こっているのだという。シリアに完全な平和が戻るのはいつの日になるのだろうか。

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【ラブレス】(9/10)

原題:【Нелюбовь (Nelyubov) (Loveless)】
監督・脚本:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:ルヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン、他
製作国:ロシア/フランス/ドイツ/ベルギー
ひとこと感想:離婚寸前の夫婦が子供を押し付け合っているのを当の子供が聞いてしまい、子供は謎の失踪を遂げる。男の方はそもそも他人を愛することができない芯が冷たい人間のようだし、女の方は不倫相手に自分がいかに不幸だったかを延々と訴え、子供ができたから仕方なく愛のない結婚をしたとまで言いだす(そもそもなんでそこまで愛せない人とやっちゃってるんだよ!)……こ、こんなに自分のことしか考えていない人達が幸せになれる訳がないじゃん!再婚したって同じ徹を踏むに決まってる。警察もほとんど頼りにならず、ただ第三者の市民ボランティアの人達だけがあの手この手で熱心に子供を探し、歪んだ世界を修正しようとする。何て救いがないのだろう。失踪した子供の魂が少しでも安らかであるようにただただ祈らずにいられなかった。
ほぼほぼ悲劇にしかならないアンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品だが、気がつけば圧倒的に的確な人間描写の大ファンと化していた。自分は割とハピエン厨なのだが、これだけぐうの音も出ない描写だとかえってカタルシスを感じてしまうのは何故だろう。

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【リバーズ・エッジ】(4/10)

監督:行定勲
脚本:瀬戸山美咲
原作:岡崎京子
出演:二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、他
製作国:日本
ひとこと感想:思えば80~90年代は、華やかな時代に見える一方、澱(おり)みたいな暗い何かがある種の若い人々のメンタルの底辺にべっとり貼り付いて、日の目を見ることなく燻っていたような時代だったとも思う。それは、戦後に渦巻いていたルサンチマンを消化しきれずまだどこかに引き摺っているような感覚で、今の時代の暗さとはどこかで断絶した全く質感の異なる暗さだ。そして、岡崎京子氏は、そんな時代特有のほの暗さを鮮やかに形にしてみせた希有な作家だったと思う。だから今の時代に、無理矢理80年代に寄せてストーリーをなぞってみても、あのかつて衝撃を受けた作品世界の再現は不可能なんじゃないかと思う。
ということで、私は本作の映像化に意味を感じることができなかったし、実際に映画を見てみてもその確信は深まるだけだった。ただ、先入観のない若い人が見たら全く違った意見になるのかもしれず、それは二階堂ふみさんが本作への出演を引き受けた理由とも通底しているのかもしれない。でも、それならいっそもっと冒険して、もっと二階堂さんと年の近い若い人に監督を任せたりしてみるべきではなかっただろうか。

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【リメンバー・ミー】(7/10)

原題:【Coco】
監督・原案:リー・アンクリッチ
共同監督・原案・脚本:エイドリアン・モリーナ
原案・脚本:マシュー・オルドリッチ
原案:ジェイソン・カッツ
(アニメーション)
声の出演:アンソニー・ゴンザレス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ベンジャミン・ブラット、アラナ・ユーバック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:メキシコの「死者の日」って日本のお盆を極彩色にしたみたいな感じ?ど派手な色彩感覚はともかく、あの世にご先祖達の世界があって年に一回この世に帰ってくるとかいった死生観は、本当に日本人と似ている。過剰なまでの家族の物語になっているところに抵抗を感じない訳ではないが、少年が自分のルーツを発見し、自分にとって大切な人達を見出す物語と読み替えればいいのかもしれない。ところで、今やハリウッドにも、ギレルモ・デル・トロ監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、アルフォンソ・キュアロン監督などを始めとするメキシコ人のクリエイターが山のように存在しているが、メキシコとの国境にフェンスを作るとか言っていた某大統領に対するピクサー社の返答がこれなのかと思うと、少し愉快な気分になった。

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【レディ・プレイヤー1】(9/10)

原題:【Ready Player One】
監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作・脚本:アーネスト・クライン
共同脚本:ザック・ペン
出演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、マーク・ライランス、リナ・ウェイス、森崎ウィン、フィリップ・ツァオ、ベン・メンデルソーン、T・J・ミラー、サイモン・ペッグ、ハナ・ジョン=カーメン、スーザン・リンチ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:オタク少年が大切なバーチャルリアリティ空間を敵から守りオタクの鑑になれるかどうか……といった筋書きの恋あり友情ありの物語。アラフィフのオタク心に突き刺さる1970年代~80年代のネタが満載!で、これだけ膨大な権利関係をクリアしたということだけでも驚き。(若い人が見てもあまり分からないものも多いかもしれないが。)そして、バーチャルリアリティものにオタク文化のエッセンスを真正面からブッ込むという新機軸の離れ業を、70歳オーバーの映画界のレジェンド、スピルバーグ監督が軽々とやってのけたのが凄い。これはいろいろな意味で画期的。でも、そんなこと意識していなくても、とにかく血湧き肉躍る楽しい映画だということだけで充分だ!

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【若おかみは小学生!】(7/10)

監督:高坂希太郎
脚本:吉田玲子
原作:令丈ヒロ子、亜沙美
声の出演:小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、一龍斎春水、ホラン千秋、設楽統、山寺宏一、薬丸裕英、鈴木杏樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:事故で両親を亡くし温泉旅館を営む祖母に引き取られた女の子が奮闘する児童文学を、高坂希太郎監督がアニメ化。労働基準法や児童福祉法は?というのは置いといて(家業の手伝いだから本人の同意があればいいらしい)、厳しくも優しい祖母や従業員さんや、ライバルの大旅館の娘(小学生なのに天才的な手腕で経営の陣頭指揮を執ってるって何とも漫画チック)、主人公の友人になる女性占い師などの様々なお客さんなど、まずはキャラクター造形が面白い。(ここに幽霊たちまで入ってくるので結構お腹いっぱい。)更に、この登場人物達のそれぞれのエピソードをうまく組み合わせ、90分あまりのストーリーの中に無理なく溶け込ませて、最後には主人公自身の心の再生にまで至るのが素晴らしい。その背景として、温泉街の伝統を守りつつ活性化させていこうという取り組みが様々な場面で描写されているのにも感心。子供達に向けられた作品であっても、大人が見ても充分楽しくて納得できる、見れば見るほどよく出来ていると唸らされるクオリティ。うっかりスキップする寸前だったんだけど、見逃さないで本当によかった~。

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【私はあなたのニグロではない】(5/10)

原題:【I Am Not Your Negro】
監督:ラウル・ペック
出演:ジェームズ・ボールドウィン、マーティン・ルーサー・キング・Jr.、マルコムX、メドガー・エバース、シドニー・ポワチエ、他
声の出演:サミュエル・L・ジャクソン
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ/フランス/ベルギー/スイス
ひとこと感想:同性愛者だった黒人著作家、ジェームズ・ボールドウィンについてはあまり知らなかったので勉強になった。でも他の部分は、自分にとってそれほど目新しい事柄は挙げられていなかったかも。しかし、21世紀になって20年も経とうとしている今になってもこのような映画が創られるのは、アメリカ社会における黒人の置かれた状況に、あまり何も変わっていない部分もあるからなのかもしれない、と思った。
ちなみに、マーティン・ルーサー・キング・Jrについては【グローリー 明日への行進】、マルコムXについてはスパイク・リー監督の【マルコムX】、俳優のシドニー・ポワチエについては【夜の大捜査線】、その他、ブラックパンサー党についてはマリオ・ヴァン・ピーブルズ監督の【パンサー】等を見てみることをお勧めする。余裕があれば、一連のブラックスプロイテーションフィルムやスパイク・リー監督の初期作品群などをチェックしてみるのもいいと思う。

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【ワンダーストラック】(6/10)

原題:【Wonderstruck】
監督:トッド・ヘインズ
原作・脚本:ブライアン・セルズニック
出演:オークス・フェグリー、ジェデン・マイケル、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ミリセント・シモンズ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1970年代のアメリカでミネソタからニューヨークに父親を探しに来た男の子の物語。この「人生の驚きに打たれる」的なタイトルが何とも素敵で、男の子が自分の人生のルーツと奇跡的に巡り合うという筋書きにぴったり。少し手堅すぎる印象もあるけれど、【エデンより彼方に】や【キャロル】など、女性の心情の機微を描くことに手腕を発揮したトット・ヘインズ監督作の新機軸としてはいいんじゃないだろうか。

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【ワンダーランド北朝鮮】(5/10)

原題:【Meine Bruder und Schwestern im Norden】
監督:チョ・ソンヒョン
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/北朝鮮
ひとこと感想:韓国人女性がドイツのパスポートで北朝鮮に入国し、政府から紹介される場所をただ朴訥と撮影している、といった趣きのドキュメンタリー。政府推奨のきれいに飾り立てられた面ばかりを表側からだけ見せられている印象で、今までの北朝鮮のドキュメンタリーと比べると少し食い足りない感じ。けれど、この国には国民が実在して暮らしているんだ、という当たり前のことに思い至らせてくれる場面や、都会と地方の落差が図らずも映し出されたりしていた場面などはよかったと思う。

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