Back Numbers : No.3~よもやま話



今年のアカデミー・ショーはどこまで笑えるか !?

う : 何なのよこの題は。まぁ“ショー”ってのはまだ分かるとしても。
ぴ : だってもう、笑うしかないっしょ !? こんなもん。
う : だから~、そんなに嫌なら見なきゃいいと思うんだけど、毎年毎年。
ぴ : いやいや、そうは言っても例年なら一応それなりの面白さはあるのよ。その年のアメリカ映画界のある種の傾向を見る参考にはなるかなってところで。
う : アメリカ映画界の傾向、じゃなくて、アカデミー会員のおじいさま達の趣味、の間違いじゃないの ?
ぴ : そうともいうか。でもそれでいくら選ぶものが毎年とんちんかんだって言ってもね、そういう典型的なアメリカの保守層のじいさま達がどういった映画が好きかっていうことを傍目から眺めるためのショーだと思えばね、それなりには楽しめた訳よ、例年ならば。
う : だったら今年もそれでいいじゃんか。
ぴ : それがとにかく今年は、ノミネートを見てるだけでなんだか腹が立ってきたのよーっ !!
う : ……どこらへんが ?
ぴ : だって、このラインアップを見てよ。アメリカの映画がこんなに少ないの。特に典型的なハリウッド産の映画ってことになると、ほとんど壊滅してるんじゃないの ?
う : そりゃ要するに、ハリウッドでは大して面白い映画が作れなくなったってことでしょ ? 別にいいじゃん。その通りなんじゃないの ?
ぴ : だーかーらー、そうやって自分達で面白いものを創れなくなったからって、安易に国外から映画を持ってきて、まるで自分達が生み出したものみたいな顔をして、しゃあしゃあと賞なんかあげちゃおうっていうんでしょ !? ずうずうしいんじゃない ? そういうのって。
う : そぅお ?
ぴ : そういう映画って、創る人たちの本当に創りたい部分や言いたいことを守るために、アメリカ産の映画がのしてて自分の国の映画が苦しい中で、ハリウッドほどの資金も無いのに必死で金を掻き集めて、敢えてハリウッド流でない方法論でもって、必死こいて創ってんじゃないの。
う : “敢えて”かどうかは分かんないと思うけど……チャンスがあったらハリウッドで映画作ってみたい、って思ってる人は大勢いるんじゃない ? そういう人には、アカデミーでノミネートされるのって、すごいチャンスなんじゃないの ?
ぴ : う、それはそういう人もいるかも知れないけどさ。とにかく、私の思うには、マーケティング第一主義が行き過ぎたハリウッド流のやり方じゃ映画の本質的な面白さを鋭くえぐるような作品を生み出すのは難しくなったっていうのは、かなり前から明白になってたことなんじゃない? それなのに、自分たちのやり方が破綻していることへの反省も無く、自分たちとは全く違った方法で創ってる人たちのオイシイ成果物だけを横取りして、「評価してやる」って大上段に構える、その姿勢が何か許せないのよう !!
う : ……でもさー、アカデミーがそういうことやってるって、別に今年に始まった話じゃないでしょ ? 今までだって、アメリカの国内産の映画だけがノミネートされてた訳じゃないじゃん。
ぴ : 見たところ、今年は特にひどいんだってば。
う : それにさぁ、アメリカだって作る人と見る人が一緒だとは限らないじゃん ? 作る人だってハリウッド以外の人達も多少はいる訳だしさぁ。それに配給する人もまた別でしょ ? それ、全部一緒くたにするのって、何か違くない ?
ぴ : う、そ、それは。でもね、今のハリウッドの状況がある意味、アメリカある種の文化状況を反映している結果なんだ、っていうことには間違いないんじゃない ? 私ゃ別にいいと思うのよ、ハリウッドはハリウッドでお金儲けの都で。否定しないっすよ ? ある意味、ハリウッドが世界をまたに掛けた巨大集金マシーンと化しているおかげでひょっとして、全世界的に言って映画ってメディアがジリ貧にならずに済んでいる、って面はあるんじゃないかと思うしさぁ。
う : ほう。で ?
ぴ : 万人に受ける“娯楽性”と作品としての深みなんてものが同居できればそりゃ万々歳なんだろうけど。でもあれだけの本数を作ってりゃ、まず分かりやすい娯楽性が最優先になって、万人受けするとは限らない独自の表現だの主張だの新しい試みだのが敬遠される傾向にあるっていうのは、そりゃあ仕方がないんじゃないの。まぁ、いくら必要悪だって言われても、私は、そんな映画が面白いとは思わないけどさ。
う : う~ん。それで ?
ぴ : だからさ。一方にはそういう巨大な状況が頑としてあるわけでしょう ? アメリカの国内には。そこんところに何の言及もなく、反省もなく、ただ単に他所の映画を適当に輸入して“映画って芸術でござーい”って威張って言い放ってみせるっていうのは、なんだか欺瞞なんじゃないのか ? その傾向が、今年は何だか特にひどいような気がするんだけどねぇ。
う : うーん……でもさぁ、映画界でもこれだけ資本も人材も世界的に流動化しつつある今日この頃じゃん ? いい映画はいい映画として評価するのはいいことだと思うし、“これはどこの国のもの”ってそんなにめくじらを立てなくてもいいんじゃない ? これからはどんどん国の違いとかは分かりにくくなってくるんじゃないのかなぁ ?
ぴ : だーかーらー。それならどぉして「外国語映画賞」なんてとんちんかんな賞があるのよう !! どんどん国の違いがなくなる、っていうのが正論なら、どこの国の何語の映画だっていい映画には変わりないでしょー !! そんなにいい映画が足りないっつーんなら、もっと大きく世界に目を広げてみればいーでしょうがっっ !! つまりは、英語の映画じゃなきゃ真っ当な映画として認めないって態度が、これだけあからさまに前面に出ているから気に入らないのようっ。
う : ま、確かに、あの外国語映画賞っていうのは毎年一番よく分からない賞だけどね。いつも絶対本命っぽいのを差し置いて何でこれが !? っていうようなのが取るしね。
ぴ : 結局、どうでもいいんだよね、自分達に分からないものなんて。他言語圏の映画なんてついでに見てやろう、ってくらいのもので、自分たちの価値観を一旦棚に上げたところで相手の国の文化を学んでやろう、って謙虚な姿勢なんて全然無いんじゃん ? ちょっと外国でいい映画があったら、すーぐ自分達流に適当にアレンジして作りなおしたがるし。それで、オリジナルのものだけが持つ独特のよさを切り捨てる、なんてこと、本当にお構いなしにやっちゃうんだもん。
う : でもぉ、そうやって作りなおせるだの体力が常にあるっていうことは、それはそれですごいことなんじゃないのかなぁ ? 裏を返せば、日本なんかと違って、それだけのことが可能な人材も資金も潤沢にあるっていうことでしょう ? それに自分達流にアレンジするって、そういう傾向はどこの国にもあるような気が……例えば日本だって、文化的に言って、そんなに謙虚な国とは限らないでしょー ?
ぴ : そりゃそうだけどさ。でも映画だけに関して言うなら、もう少しは、それ自体のよさを尊重して理解しようとする傾向は一般的にあるんじゃないかと思うけど ?
う : それは単に“字幕を読まざるを得ない”って必然性から派生して来てるだけなんじゃないの ?
ぴ : うっ。そ、それは。でも、元の原因はなんであれ、余所の所の映画は余所の言葉で出来てて、その背景には私達のものとは違う文化があるらしい、っていうことがなんとなく肌で分かっているっていうのはいいことだと思うけど。
う : 日本の人はホントに、余所には違う文化があるって分かっているのかぁ !? それに、私らにアメリカ人の一般的な好みがよく理解できないし特に理解するつもりもないのと一緒で、アメリカの人だって、他の国の人の好みのことなんかよく分かんないだろうし、分かる必要もないっつーか……。その国の人にとっての面白いものっていうことで、それはそういうことでいいんじゃないの ?
ぴ : それが一番問題なのよー !! アカデミー賞が単なるアメリカ国内の賞だっていうだけなら、それはそういう笑い話ってことでおしまいになるでしょうよ。でもねー。これがアカデミー賞ブランドっていうことで、国内外に影響が出るっていう状況はある訳でしょう ?例えば日本でだって、アカデミーを取ったとなるとやっぱり興業成績なんかにも影響するしさー、他にももっと優れている映画があったとしても、アカデミーって言う名前が付くだけでやたらと偏重されてしまうとか……。
う : つまりは、アカデミー賞が何かの国際的な権威を背負っちゃっているかのごとくに見えるところにこそ、一番問題があるって訳ね ?
ぴ : そう。それをみんな勘違いしてるんじゃないかってところが。アメリカの人も、アメリカ以外の人も、って特に日本の人がそうだからそう思えるだけかも知らんが、必要以上にこの賞をありがたがってるんじゃないんか、っていうふうに見えるところが、一番腹が立つ。
う : そうか……でもまぁそれは。しょうがないんじゃないの ? それでもこの賞が存在するっていうところ自体に、ある種の需要と供給が成り立っちゃってる訳なんだからさ。ほっとけばいいじゃん。それより、そんなちゃらんぽらんな審査結果だとかって言っててもねぇ、それを真に受けて怒ってるってことは、結局レベルが一緒っつうか、それこそある種の権威を認めてるに過ぎないってことなんじゃないの ?
ぴ : ……うっさいわねぇ。
う : 要するにあーいうもんは何かの都合で選ばれてるに過ぎないものだから、それはそれでいつもの通り、端で眺めてりゃよろしんじゃないですか ? だって、自分らが自分らで好きなものって、ああいったもんとは全然別に持ってて当然のもんでしょ ?
ぴ : それが明日の映画界を変えるってか !? てなところでおあとがよろしいようで。
う : でも、来月もアカデミー賞の結果の特集をするつもりなんじゃなかったの ? 今月これをやっといて、それはないんじゃない?
ぴ : と言っても、別にノミネートされとる作品自体に罪がある訳ではなかろう。今回言ってるのは、それを取り巻くシステムの方の話なんだからさぁ。
う : とか何とか言っちゃってぇ。自分で批判しといたもんに、自らネタ元としての需要を与えといてどーすんのよっ。
ぴ : 分かったわよ。じゃあ来月は、あーたがネタ考えて頂戴よ。
う : え………。

(という訳でこの話は来月に続きます)


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