映画ログ ~ 昨年、こんな映画を見た



東京近辺で昨年公開された新作映画のうち、実際に映画館で見た映画の記録です。
(10点満点評価です。)

(昔の点数との対応表)
10点……五つ星
9点 ……四星半
8点 ……四つ星
7点 ……四つ星
6点 ……四つ星
5点 ……三星半
4点 ……三つ星
3点 ……二星半
2点 ……二つ星
1点 ……一つ星

(5点以上でまずまず、ってところです。)



2019年に見た全映画です。

【アートのお値段】(6/10)

原題:【The Price of Everything】
監督:ナサニエル・カーン
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:現在のアート市場の実像を売り手・買い手・アーティスト本人・批評家・学芸員など様々な立場の人々を通して描き出そうとしたドキュメンタリー。現在のアートは単なる投資の対象と化しており、芸術とは本来どのようなものだったのかということからはやはり遠く遠く隔たっているんじゃないだろうか、という思いがますます強くなった。


【RBG 最強の85才】(8/10)

原題:【RBG】
監督:ベッツィ・ウェスト、 ジュリー・コーエン
(ドキュメンタリー)
出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:アメリカで現在最高齢の最高裁判所判事、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の歩みを描いたドキュメンタリー。アメリカで2番目の女性最高裁判事となり、女性が置かれてきた理不尽な立場を法律の面から是正するため一歩一歩戦ってきたRBG。彼女自身は中道であることを心掛けてきたようだが、世の右傾化と共に今ではリベラルの旗頭に。高齢ではあるが、現状では彼女が引退すると最高裁判所判事の構成員が保守派に傾いてしまうため、事実上リベラルの砦と化している。アメリカも今は大統領がアレでいろいろ大変だろうけど、RBGのような素晴らしいロールモデルが存在するところはうらやましい。翻って日本では、歴代の最高裁判所判事182人中、女性はたった6人だけで、現職は15人中1人だけ……さすがはジェンダーギャップ指数世界121位の後進国だ。


【愛がなんだ】(8/10)

監督・脚本:今泉力哉
共同脚本:澤井香織
原作:角田光代
出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ、筒井真理子、片岡礼子、中島歩、他
製作国:日本
ひとこと感想:インディーズ作品で実力を磨いてきた今泉力哉監督が、角田光代氏の原作を映画化。自分を都合よく利用するだけのクソ男の関心を繋ぎ止めたいがため、そいつの理不尽な要求を呑み続ける(完全に単なるセフレ扱いじゃん……)ことを自らよしとしてしまうヒロインのメンタリティなんて、正直、自分には全く理解できないし理解したくもないけれど、そんな誰かへのどうしようもない執着を余す所なく描き切ってしまっているところが凄い。訳が分からないものを丸ごと描いてみせることができる、それが映画なのだと強く思った。こんな難役を演じきってみせた岸井ゆきのさんには、どれだけ賛辞を送っても送り足りない気がする。


【i 新聞記者ドキュメント】(6/10)

監督:森達也
(ドキュメンタリー)
出演:望月衣塑子、他
製作国:日本
ひとこと感想:東京新聞の望月衣塑子記者の取材や原稿執筆などに追われる日常を、森達也監督が切り取ったドキュメンタリー。とても早口で頭いい人なのだろうと思わせる望月記者。新聞記者の仕事を間近で見る機会はそれほどないので、そういう貴重な映像を見せてもらえたのはよかった。しかし、記者としてごくまともに活動しているにすぎない彼女が、何故一人、表に出て目立たざるを得なくなるのか?今の日本の萎縮したマスコミの在り方はどれだけ歪んでいるのか、と思わざるを得なかった。ラストシーンの森監督の我田引水的なナレーションは好きじゃない。近年、監督のそういう自己顕示的な語りがどうも胡散臭く感じられるようになってしまったのだ。


【愛と銃弾】(6/10)

原題:【Ammore e malavita (Love and Bullets)】
監督・脚本:マネッティ・ブラザーズ(マルコ&アントニオ・マネッティ)
共同脚本:ミケランジェロ・ラ・ネーヴェ
出演:ジャンパオロ・モレッリ、セレーナ・ロッシ、クラウディア・ジェリーニ、カルロ・ブッチロッソ、ライツ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:ナポリを舞台にしたノワール・アクション?ラブ・ストーリー?いやいやミュージカル !? ごった煮の摩訶不思議な感覚のイタリア映画。終わってみて残った怒濤のようなB級テイストもこの映画の愛すべき個性、なんだろうなきっと。


【アイネクライネナハトムジーク】(7/10)

監督:今泉力哉
脚本:鈴木謙一
原作:伊坂幸太郎
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、八木優希、貫地谷しほり、原田泰造、成田瑛基、こだまたいち、MEGUMI、柳憂怜、濱田マリ、伊達みきお・富澤たけし(サンドウィッチマン)、他
製作国:日本
ひとこと感想:伊坂幸太郎さんと斉藤和義さんのコラボから生まれた短編集を【愛がなんだ】の今泉力哉監督が映画化。偶然生まれた繋がりが連鎖してそれぞれの人の人生が変化していくような物語だから、【愛がなんだ】みたいな一点突破的な熱量はあまり感じられなかったが、バランスの取れた話法に監督の確かな実力が見て取れたように思った。


【愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1】(7/10)

監督・脚本:越川道夫
出演:瀬戸かほ、深水元基、宇野祥平、山田キヌヲ、縄田かのん、他
製作国:日本
ひとこと感想:【海辺の生と死】【二十六夜待ち】の越川道夫監督が描く3人の男女の愛憎劇。人生に絶望している若い女は、妻を失い誰かに側にいて欲しかった中年男に請われるまま結婚するが、ある他の男と出会ってしまう。若い女は自分のこともまるで他人事みたいに語るほど自分をどうでもいいと思っているが、だからと言って中年男、彼女をぞんざいに扱っていい訳ないだろ。いつも亡き妻を思い出していると言いながら独占欲はやたら強く、彼女の意志を無視して譲るとか譲らないとか言ったりするのはどういうこと?その時点で勝ち目はないに決まってるじゃん。……てな感じで、普通だったらあまり好きなタイプの話ではないと思うのだが、繊細な心の動きをつぶさに追う越川監督の描写には、何故かそれほど抵抗を感じない。越川監督の表現は自分の水に合っているのだと思う。


【アイリッシュマン】(10/10)

原題:【The Irishman】
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:チャールズ・ブラント
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:マーティン・スコセッシ監督がNetflixで製作したギャング映画。スコセッシ監督のギャング映画ってよく考えると【グッドフェローズ】や【ギャング・オブ・ニューヨーク】くらいでそれほど多い訳ではないように思うのだが(【ディパーテッド】はクソみたいな焼き直し映画なので論外)、監督のイタリア系という出自ゆえか監督のギャング映画には強い印象があり、その中でも本作は特に集大成的な作品であるように感じられる。その道でしか生きられなかったことを悔いる老いたマフィアの姿なんて、監督も演者もこの歳になるまでキャリアを重ねなければ決して撮れなかった境地に違いない。脚本のスティーヴン・ザイリアンの重厚な筆致が冴え渡り、3時間半があっという間。ネット配信映画ではあるけれど、この映画のスケール感こそ、機会があれば是非とも一度劇場で体感してみて戴きたいと思う。
ところで、労働組合幹部のジミー・ホッファという名前に、1993年公開の【ホッファ】という映画を思い出した。ジャック・ニコルソン御大の脂の乗りきった演技が堪能できると思うので、興味のある方はチェックしてみてね。(しかし当時は賛否が別れ、ゴールデングローブ賞とゴールデンラズベリー賞に同時にノミネートされるという珍事が起きたらしいけど。)


【赤い雪 RED SNOW】(7/10)

監督・脚本:甲斐さやか
出演:永瀬正敏、菜葉菜、井浦新、夏川結衣、佐藤浩市、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作が長編デビューになる甲斐さやか監督作。自分のせいで弟が行方不明になったという心の傷を抱えた青年が、その犯人と疑われていた女の一人娘を見つけ出す。だがその娘も過酷な環境を生きてきた女だった。とぐろを巻くような激烈で救いようがない心情を覆い隠すように、静かに降り続ける雪の鈍色の景色が奇妙に美しい。どえらいものを創る人が出てきたなぁと驚嘆したが、ずっと外側から観察しているだけでどこまでも他人事でしかない感覚に、何か心を動かされなかったのも確か。感情移入というと陳腐な言葉になってしまうが、その映画の中にどこにも心の置き所がないと、その映画の世界を自分のものとして捉えることもできないのではないか。それは欠点ではないのかもしれないが、その分訴求力が落ちることは確かだ。


【惡の華】(7/10)

監督:井口昇
脚本:岡田麿里
原作:押見修造
出演:伊藤健太郎、玉城ティナ、飯豊まりえ、秋田汐梨、鶴見辰吾、黒沢あすか、坂井真紀、松本若菜、高橋和也、他
製作国:日本
ひとこと感想:押見修造氏のコミックスを、著名なアニメーション脚本家・岡田麿里氏が脚本化し、井口昇監督が実写化。クラスの嫌われ者の女子に弱みを握られた少年が、彼女の言いなりに変態クソムシプレイを続けるうちに、逆に彼女に執着するようになり、地獄の青春の蓋が開(あ)く。かつて心酔したボードレールも澁澤龍彦もバタイユも、自分を補償しなかった。二人はついにとある事件を起こす。思春期の仄暗い破滅衝動や挫折感をここまで真正面から描き切ろうとした映画が今まであっただろうか。紆余曲折を経た少年が成長し、とある女性と彼女を訪ねる、あの総てを浄化するような海岸のシーンは、青春映画史上に残る名シーンになるのでは。岡田麿里さんは、振幅の大きな感情を理詰めでとことん描き切ることに長けているのだなぁと改めて感心した。井口昇監督はその複雑な脚本を独特の粘りでもって余すところなく映像化していて、これまでの監督の作品では最も心を動かされた。


【あなたの名前を呼べたなら】(7/10)

原題:【Sir】
監督・脚本:ロヘナ・ゲラ
出演:ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、他
製作国:インド/フランス
ひとこと感想:田舎からムンバイに出てきたハウスメイドの女性と、その雇い主である富裕層の男性が親しくなっていく過程を描いたインド映画。この世には越えるのが難しい経済的な階層が(残念ながら)厳然と存在しているけれど、ハウスメイドは、その分断された世界の垣根を照射する存在として、いくつかの映画に取り上げられている(例えばアルフォンソ・キュアロン監督の【ROMA/ローマ】や、フランコ政権下のスペインの女性がフランスにメイドとして出稼ぎに行っていた時代を背景にした【屋根裏部屋のマリアたち】、シンガポールの中流家庭に働きに来たフィリピン人メイドを描いた【イロイロ ぬくもりの記憶】など)。そして階層間に繊細に張られているバリアが崩れ、異なる階層にいる相手を人格として発見する時にドラマが生まれる。ラストシーンがとてもいい。これはいい恋愛映画に飢えている皆さんに是非お薦めしたいと思う。


【あなたはまだ帰ってこない】(6/10)

原題:【La douleur】
監督・脚本:エマニュエル・フィンケル
原作:マルグリット・デュラス
出演:メラニー・ティエリー、バンジャマン・ビオレ、ブノワ・マジメル、他
製作国:フランス/ベルギー/スイス
ひとこと感想:ナチス占領下のパリで夫が強制収容所から帰るのを待ち続けた体験を綴った、マルグリット・デュラスの『苦悩』の映画化。しかし彼女の気持ちはどこを彷徨っているのか。マルグリット・デュラスについて改めて検索してみると、【ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)】【愛人/ラマン】【かくも長き不在】【雨のしのび逢い】などの原作や脚本のみならず、【インディア・ソング】【ヴェネツィア時代の彼女の名前】などの監督作も軽く10本以上あり(えーっ!こんなに?)、思った以上に映画との関わりが深い。しかし、作品ごとに切り口も印象も違っていて、見れば見るほどに、彼女がどういう人なのか、そしてフランス人の言うところ愛って一体何なのか、どんどん分からなくなってくるのだが……。


【アニエスによるヴァルダ】(10/10)

原題:【Varda par Agnès】
監督・出演:アニエス・ヴァルダ
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:アニエス・ヴァルダ監督の生涯に渡る作品群を監督自ら解説。長年アニエスの映画を観続けるうち、私はいつの間にかアニエスのことをこんなにも好きになっていた。ラストシーン、監督がこの世に残される私達にはっきりとさよならを告げているのを見て、私は声を上げて泣いてしまった。歳を取るということは、前を歩いてくれていた人達を一人ずつ失っていくということなのだ。


【あの日のオルガン】(8/10)

監督・脚本:平松恵美子
原作:久保つぎこ
出演:戸田恵梨香、大原櫻子、佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵、萩原利久、山中崇、田畑智子、陽月華、松金よね子、林家正蔵、夏川結衣、田中直樹、橋爪功、他
製作国:日本
ひとこと感想:戦時中の子供達は学童疎開をしていたらしいけれど、学童になる以前の未就学児は親や周りの大人が連れ歩くことが多かったらしく、それでたくさんの未就学児が都会で亡くなってしまったらしい。そんな時代に、親を説得して未就学児を田舎に疎開させ、周囲の無理解にもめげず苦労をしながら面倒をみて子供達の命を救った若い保母さん達がいたらしい。本作はそんな保母さん達の実話を映画化したもの。しかも彼女達は幼児教育をきちんと勉強したプロフェッショナルで(幼児教育の伝統は戦前から存在していたんだね)、制約が多く厳しい状況の中でも出来る限りその理念を実践したいと奮闘していた。その志の高さにとても感銘を受けた。平松恵美子監督は近年の山田洋次監督作品には欠かせない右腕的存在。登場人物一人一人の心の動きを丁寧かつ自然に描こうとする作風が好きだなぁと思う。


【アリータ:バトル・エンジェル】(6/10)

原題:【Alita: Battle Angel】
監督:ロバート・ロドリゲス
脚本:ジェームズ・キャメロン、レータ・カログリディス
原作:木城ゆきと
出演:ローサ・サラザール、クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリ、キーアン・ジョンソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:木城ゆきと氏のコミックス『銃夢』の映画化という企画をロバート・ロドリゲス監督が実現したもの。もともとはジェームズ・キャメロン御大の企画だったらしいのだが、御大の書いた脚本が長すぎたので、原作のファンだったロドリゲス監督が試しに短く書き直してみたら出来がよく、【アバター】の続編で忙しくなった御大の代わりに監督をやらないかと持ちかけられたらしい。CGと実写の融合が見事で、登場人物が段々強くなっていったり身近な人達に助けられたりトラウマを克服していったりする王道なストーリーは普通に面白かった。けれど平凡と言えば平凡で、この話のどの辺りがキャメロン御大の琴線に触れたのか、御大ご自身に聞いてみたいところではある。


【ある女優の不在】(7/10)

原題:【Se rokh (3 Faces)】
監督・脚本・出演:ジャファル・パナヒ
出演:ベーナズ・ジャファリ、マルズィエ・レザエイ、シャールザード、他
製作国:イラン
ひとこと感想:イランのジャファル・パナヒ監督が、国内の地方の村でロケーション撮影を行った新作。とある田舎の少女から自殺の瞬間を撮った動画が送られてきたことに動揺したスター女優は、その送り主を探そうと監督と共に少女の村を訪ねるが……。少女がとんでもない行動を取ったのは、それだけ切羽詰まった状況に置かれていたからだと段々分かってくるのだが、その過程の中に、女性が徹底的に抑圧される保守的なイラン伝統社会の苛烈さが滲み出す。しかし、ここまでじゃないかもしれないが、日本社会の女性をめぐる状況だって相当ひどいもので、この映画に描かれているようなことは全然他人事じゃない。これから先の人生、世界のミソジニーとは徹底的に抗戦していきたいと思う。


【ある船頭の話】(8/10)

監督・脚本:オダギリジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎、伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功、他
製作国:日本
ひとこと感想:オダギリジョーさんが自ら脚本を執筆した長編初監督作品。やがて時代に取り残される運命にある船頭の男を柄本明さんが演じる。(これだけたくさんの映画やドラマに出ている柄本明さんだけど、主演作は珍しいかも。)男は川を渡る人を小さな舟で渡して生計を立てており、様々な人々の生活や人生を運んでいる。川にはそのうち橋が架かるという話があり、それが完成するとおそらく男の生活は立ち行かなくなる。内心では忸怩たる思いを抱えながら渡しを続ける男の下に、ある少女が流れ着く……。まずは自然の描写が圧倒的に美しく、その自然と共生するように生きる男のもとに人々が行き交う姿だけでも大変心を動かされ、それだけでもこの映画を見る価値は十分にあると思った。その男が文明の波に晒され時代の狭間に消え去ろうとしているという設定も哀感を感じさせ、便利になることだけが果たして人間の幸せなのか、人間が生きることの中にあるもっと豊かな何かを切り捨てているだけなんじゃないのか、などというオーソドックスな問い掛けも頭をよぎったりした。ただ、男の心の内面や、訳ありの少女の存在の意味など、幾つかの部分が唐突に映ったり理屈っぽくなっていたりして、うまく処理しきれていない印象も受けた。もしこうした要素を残すなら脚本や撮り方にもっと工夫が必要だし、そうでなければ思い切りよく刈り込んでしまうのもありなんじゃないだろうか。それでもなおこの映画には、そうした欠点を凌駕する美しさと魅力がたくさん詰まっていて、心から感動した。オダジョーさんやったね!とても素晴らしい長編監督デビュー作だったよ。


【アレッポ 最後の男たち】(7/10)

原題:【آخر الرجال في حلب (Last Men in Aleppo)】
監督:フェラス・ファヤード
(ドキュメンタリー)
製作国:デンマーク/シリア
ひとこと感想:政府軍の空爆を受けて壊滅したシリアのアレッポで、市民の救助のため最後まで奮闘していた民間救助隊の姿を描いたドキュメンタリー。家族や仲間が1人死に2人死に、最初は高かった士気も押さえつけられていく。内側から見た爆撃の有り様は本当に恐ろしい。自国民に銃を向け何十万人もの人を殺し、何千万人もの人を難民にしたアサド大統領は完全に狂っている。人なくして国だけが存在することなど、どうしたって出来はしないというのに。


【108 海馬五郎の復讐と冒険】(7/10)

監督・脚本・出演:松尾スズキ
出演:中山美穂、大東駿介、土居志央梨、栗原類、LiLiCo、福本清三、乾直樹、宍戸美和公、堀田真由、杉村蝉乃介、オクイシュージ、岩井秀人、酒井若菜、坂井真紀、秋山菜津子、梶裕貴、他
製作国:日本
ひとこと感想:大人計画主宰の松尾スズキ氏による脚本・監督・主演作で、愛する妻の浮気を疑い離婚を決意した男が、財産分与したくなくて買春で使い切ってやろうとするという壮大にアホな話……。プライドばかり高くて現実に向き合えず、自分の肉欲の言い訳に妄想に逃げ込むこの男、何ともちっぽけで浅ましくてみみっちい。もしかして、こんなにセコくていじましい役柄を演じてくれる役者を探すのが大変そうだから自分で演じたのか?それともこの役柄には松尾氏自身が仮託されているのだろうか?……しかし、こんなヒドイ奴はいっそ笑えると、喜劇として露悪的に描き切っているのが、松尾氏の表現者としての冷徹さであり凄まじさなのかもしれない。あるいは、この男がこんななのはもう仕方のないことなんですという、哀感を込めた開き直りや憐憫なのかもしれないが。
このようなタイプの作品がよくぞシネコンで掛かったなと思うのだが、それはひとえに中山美穂さんが出演しているからではないかと思う。中山さん、よくぞこの役を引き受けて頑張ったなとは思うけど、いいのかな……。松尾氏が名のある演出家だということで方向性を見失ったりしているのでなければよいのだが(失礼)。


【命みじかし、恋せよ乙女】(6/10)

原題:【Kirschblüten & Dämonen (Cherry Blossoms and Demons)】
監督・脚本:ドーリス・デリエ
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、樹木希林、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:ドイツの監督が描く、一部日本を舞台している幽霊譚。おそらくそれほど規模の大きな映画ではないと思うが、こういう事情でもない限り、このクラスの映画を見る機会がめっきり減ってしまった。しかし幽霊と妖怪は「怪奇もの」の中でもちょっとベクトルが違うのよ……惜しい!でも監督さんは、樹木希林さんとどうしても仕事をしたくてこんな話を書いたんじゃないかなぁ。樹木さんの最後の出演作の最後のシーン、樹木さんがまるでこの世に別れを告げているみたいに見えて泣きそうになった。樹木さんさようなら……今まで長い間本当にありがとう。


【イメージの本】(6/10)

原題:【Le livre d'image】
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
(ドキュメンタリー)
製作国:スイス/フランス
ひとこと感想:ジャン=リュック・ゴダール監督が、現代の暴力・戦争・不和などをテーマに描いた映像詩。どぎついまでの極彩色が印象的。この世を悲観している自分を天才だと信じるご老体が、心にうつりゆくよしなしごとを徒然なるままに描き出そうとするエッセイみたいなものに思えたが、浮かんだイメージを可視化して他人に提示するというのはやはり選ばれた才能の持ち主にしかできないことだよな、と今更すぎることを改めて思った。しかしゴダールさん、どうしてアニエス・ヴァルダ監督の映画に出なかったの……?貴方がぼやぼやしてる間に、その機会は永遠に失われてしまったよ?


【ウィーアーリトルゾンビーズ】(7/10)

監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏、他
製作国:日本
ひとこと感想:両親を亡くした4人の子供達が、バンドを結成して人気を得る中で、それぞれの厳しい境遇と心理的な折り合いをつけていく。残酷な世界をドライでポップに描くタッチには、CMディレクター出身の中島哲也監督に通じる表現の強さを感じたが、監督が現役の電通社員で、本作をマーケティング段階から手掛け、コラボプロモから入る超電通手法で作っていると豪語していると聞いていろいろ思案中。監督の真価を見極めるには、これから何作か拝見してからにさせて戴きたい。


【ヴィクトリア女王 最期の秘密】(6/10)

原題:【Victoria and Abdul】
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:リー・ホール
原作:シュラバニ・バス
出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:イギリスのヴィクトリア女王が最晩年にインド人青年の侍従と友情を育んだという、最近明らかになった実話を元にしたスティーヴン・フリアーズ監督作。ヴィクトリア女王役は安定のデイム・ジュディ・デンチ様。夫のアルバート公や親しい侍従の死後、責務や儀礼に縛られ孤独に生きてきた女王がインド人青年に心を開いていく様子がコメディ・タッチで綴られている。けれど、この女王の行動は周囲からは白眼視され、次期国王のエドワード7世は青年をインドに帰しこの事実を隠蔽。2010年に青年の日記が発見されるまで闇に葬られていたという差別丸出しな顛末は、割と笑えないのではなかろうか。


【エセルとアーネスト ふたりの物語】(8/10)

原題:【Ethel & Ernest】
監督:ロジャー・メインウッド
(アニメーション)
原作:レイモンド・ブリッグズ
声の出演:ブレンダ・ブレッシン、ジム・ブロードベント、他
製作国:イギリス/ルクセンブルグ
ひとこと感想:【ゆきだるま】【風が吹くとき】の絵本作家レイモンド・ブリッグズが描いた彼の両親の物語の絵本をアニメーション化したもの。第二次世界大戦を跨いだ時代だとちょうど祖母の世代くらいだと思うが、当時のロンドンのごく普通の庶民の慎ましやかな暮らしが、絵本がそのまま動いているような美しい色彩で描かれている。その頃は、決して裕福じゃなくても地道に働けば家を持てて子供が育てられるという時代で、未来は明るく夢や希望があった。家具や家財が少しずつ増えていく家の中で、家族の歴史が地道に育まれていき、レイモンド自身が子供から大人になっていくところに、国の違いを超えた普遍的な人間の営みがあった。ギリギリで見に行くことを決めたこの映画、うっかり見逃さなくて本当によかったと思う。


【柄本家のゴドー】(6/10)

監督:山崎裕
(ドキュメンタリー)
出演:柄本佑、柄本時生、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:演劇ユニットを組んで舞台公演を行っている柄本佑・柄本時生兄弟が、2017年に父親の柄本明氏を演出に迎えて行った『ゴドーを待ちながら』の公演の稽古風景。1度だけ舞台でゴドーを見たことがあるが、どれだけ解説を読んでも正直よく分からず、これからも多分よく分からないんじゃないかと思うのだが、この作品を選んで上演しようと考えるのだから、さすが長年劇団を牽引してきた筋金入りの舞台俳優夫婦の間に生まれたサラブレッドだ。柄本兄弟は映像の仕事の方が主という印象があるけれど、ご両親のルーツである演劇の舞台は二人の根幹に大きく存在しているのだろう。二人を演出するお父さんの心底嬉しそうで生き生きと楽しそうな顔ったら。お母さんの角替和枝さんは亡くなられてしまったけれど、この三人はこれからも呼吸をするようにごく自然に舞台に関わっていくのだろうと思った。


【おいしい家族】(4/10)

監督・脚本:ふくだももこ
出演:松本穂香、板尾創路、浜野謙太、笠松将、モトーラ世理奈、三河悠冴、栁俊太郎、イシャーニ、他
製作国:日本
ひとこと感想:まずは、映画の内容がほとんど伝わってこないあまりにも凡庸なタイトルを考え直した方がいいと思う。久々に故郷の島に帰るとお父さんがお母さんになっていた、妻を亡くしたお父さんが寂しがって妻の服を着ていた、というというプロットはまぁよしとして、どうしてそれが他の男性と再婚することに飛躍するのか?しかも主人公が、男性同士がカップルになることにそこまで過剰反応するというのは、今時古くさすぎやしないか?どうしてもそういう無理めのストーリーを建てたいのであれば、その展開に説得力を持たせるだけの細部の肉付けがもっと必要ではあるまいか。これでは映画に説得力を持たせるのは少し難しいんじゃないかと思った。


【海獣の子供】(9/10)

監督:渡辺歩
原作:五十嵐大介
(アニメーション)
声の出演:芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、田中泯、富司純子、稲垣吾郎、蒼井優、渡辺徹、他
製作国:日本
ひとこと感想:五十嵐大介さんの著名なコミックを原作とする、STUDIO 4℃制作のアニメーション作品。「分かったか」どうかと言われると心許ないが、細けぇこたぁいいんだよ!この映画だけは是非映画館で体験するべき。アニメならではの圧倒的な表現の美しさを目撃し、米津玄師先生の神々しいテーマソングに身を委ね、ただどうしようもなく打ちのめされるべきだ。


【帰れない二人】(6/10)

原題:【江湖儿女(Jiang hu er nv (Ash is Purest White))】
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、リャオ・ファン、シュー・ジェン、ディアオ・イーナン、フォン・シャオガン、チャン・イーバイ、他
製作国:中国/フランス
ひとこと感想:ジャ・ジャンクー監督が描く、あるヤクザな男とその元情婦の積年の腐れ縁。何でこれで添い遂げられないの?自分のことを見てくれない人を思い続ける度量などない自分にはこの女性の気持ちが分からなくて、大地を吹く風が運ぶ砂埃みたいにざらざらとした感触だけが胸に残った。


【火口のふたり】(8/10)

監督・脚本:荒井晴彦
原作:白石一文
出演:柄本佑、瀧内公美、他
製作国:日本
ひとこと感想:直木賞作家・白石一文氏の原作小説を、脚本家の荒井晴彦御大が自ら監督も担当して映画化。ずっと好きでかつて恋人になってしまったこともある親戚というのはきっとものすごく特別な繋がりではないかと思うのだが、結婚前に焼けぼっくいに火が付いてしまう宿命的な二人の肉体関係の描写が凄まじく、余計な枝葉が少ない分エロティシズムの純度も高い。しかし時々、男性のカッコつけた説明的な台詞が入るのが少しリズムを壊してしまっていて美しくなく、冗談めかした終わり方にしてしまったラストシーンにもいささか興醒め。せっかくここまで表現を突き詰めたのだから、リアルに終わらせた方が文学的に薫り高い作品になっていたんじゃないだろうか。個人的にはそういう表現の方が見たかった気がする。


【風をつかまえた少年】(6/10)

原題:【The Boy Who Harnessed the Wind】
監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー
原作:ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン ミーラー
出演:マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガ、他
製作国:イギリス/マラウイ
ひとこと感想:アフリカのマラウイという国の少年の実話に基づく物語。少年は干ばつのため学校に行けなくなるが、学校の図書館の本にあった風力発電の風車を自作し、電動ポンプで地下水を汲み上げて地域一帯を干ばつから救った。ハリウッド的なバイアスやドラマ的な誇張は控えめに、地域の様々な問題にも言及しつつ、手堅くまとめられた良作だと思う。お子様に見せるのも悪くないかもしれない。キウェテル・イジョフォー監督は【それでも夜は明ける】で米国アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたイギリス出身の俳優さん。昔も今も才能のある人を育み続けているイギリス演劇界は奥深い。


【家族のレシピ】(7/10)

原題:【Ramen Teh】
監督:エリック・クー
脚本:ウォン・キム・ホー
出演:斎藤工、ジネット・アウ、伊原剛志、マーク・リー、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子、他
製作国:シンガポール/日本/フランス
ひとこと感想:日本とシンガポールの外交関係樹立50周年を記念する作品だとのことだが、松田聖子さんも出てるというのに(何故!?)こんなに地味に公開してていいのかな……。斎藤工さん演じる主人公は、シンガポール人の母のルーツを探すうち、日本人と結婚した母とそれを許せない祖母の間に確執があることを知り、シンガポールのソウルフードのバクテーという肉料理と日本のラーメンを結びつけることを思いつく。その展開はいささか拙速に感じたけれど、かつて日本軍がシンガポールで蛮行を行ったという過去の禍根も顧みながら、これからの両国の未来に目を向けるという方向性はいいんじゃないかと思った。出てくるごはんがことごとくあまりにも美味しそうだったので評価も少しオマケ。【クレイジー・リッチ!】はあまりにも極端なお伽噺だったから、この映画みたいに普通の人の目線から見たシンガポールをもっと見てみたいと思った。


【かぞくわり】(5/10)

監督・脚本:塩崎祥平
出演:陽月華、小日向文世、竹下景子、佃井皆美、木下彩音、石井由多加、他
製作国:日本
ひとこと感想:画家になることに挫折した中年女性が、子連れで出戻ってきた妹と上手くいかず実家を出て再び絵を描くことに目覚めたところ、家族と奈良の街に危機が降りかかる……何のこっちゃ。前作【茜色の約束】が関西で2万人を動員したという塩崎祥平監督、どんな映画を作る人なのかと思ったら、いろいろなタッチがごちゃごちゃに入り混じり整合性が取れていない、あまりにも混沌とした作風で驚いた。折口信夫の『死者の書』という幻想小説(非業の死を遂げた大津皇子の亡霊と出会った中将姫が曼荼羅を織り上げたという伝説を描いた話)をベースにしているのだそうだが、そう言われてもますます訳が分からない。これは監督が、頭に浮かんだ面白そうなイメージを、その時々の勢いでぶっ込んでいるだけなのではないだろうか……。しかし、理路整然としたノーマルな映画を求める人には向かないかもしれないが、こういう意味不明なエネルギーに満ち溢れている感じが嫌いじゃない人には、もしかしたら響くものがあるのかもしれない。


【家族を想うとき】(9/10)

原題:【Sorry We Missed You】
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター、他
製作国:イギリス/フランス/ベルギー
ひとこと感想:ケン・ローチ監督が描く、苛酷な労働条件下で消耗する個人事業主の悲哀。主人公はフランチャイズの配送事業を始めるが、発注元から何のかんのとリスクの高い不利な条件を押し付けられる。妻の介護福祉士の仕事もそのあおりを受け、疲れた怒りっぽくなった二人は口論が増え、子供達までおかしくなり始める。働けど働けど楽にならざり。私も個人事業主の端くれなのでほんっっと他人事じゃなくて、心中涙せざるを得なかった。普通に働いて食べていけない人達がたくさん存在する一方、その利益の汁を啜って肥え太り続けている人達がほんの一部に存在する、そんな社会はサステナビリティを著しく欠いていると思わないかね?こんなことがイギリスも日本も含め世界中で起きているなんて、もう絶対におかしいよ。


【カツベン!】(7/10)

監督:周防正行
脚本:片島章三
出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、山本耕史、池松壮亮、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊、徳井優、田口浩正、正名僕蔵、成河、森田甘路、酒井美紀、他
製作国:日本
ひとこと感想:周防正行監督が活動弁士の時代を背景に描くコメディ。弁士に憧れる主人公を演じる成田凌さんの、弁士としてのあまりの達者ぶりは感動もの。しかし、お話がごちゃごちゃしていて物語としての芯が細いように感じられたのと、綺羅星の如くのキャストの一人一人が充分印象づけられていないように感じられたのが残念に思えた。


【金子文子と朴烈(パクヨル)】(7/10)

原題:【박열 (Anarchist from the Colony)】
監督:イ・ジュンイク
脚本:ファン・ソング
出演:イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・インウ、山野内扶、キム・ジュンハン、金守珍(キム・スジン)、他
製作国:韓国
ひとこと感想:関東大震災後、不穏分子に仕立て上げられ大逆罪に問われた朝鮮人男性と日本人女性の物語。不逞鮮人が放火・暴動を起こしているというデマを政府が流布したことにより、武装自警団による朝鮮人虐殺が公然と行われ、国際的に非難が高まったため、この事態を招いた内務大臣がスケープゴートとして「不逞社」という政治結社をテロを画策した不穏分子に仕立て上げ裁判にかけた。この流れの描写はやや観念的なきらいはあるけれど、もともと無政府主義者だった二人が、理不尽な状況に真正面から向き合い、一対一の平等な関係の同士として二人にしか分からない結びつきを育むという過程は過激にロマンチック。これは政治的な話というより、あくまでも二人の鮮烈なラブストーリーだと映った。
金子文子さんは横浜生まれだが、小さな頃から朝鮮在住の親戚に引き取られ女中として過酷な労働をさせられ、3.1独立運動を目の当たりにして政治運動に共感を寄せるようになり、日本に帰国した後に朴烈らと知り合い行動を共にするようになったのだそうだ。当時の日本女性にしてはその言動が激烈すぎるようにも感じたが、苦労した幼少期を考えると、それもありえるのかもしれない。彼女を演じるチェ・ヒソさんは、小学生の頃日本に在住しており、阪神淡路大震災も経験しているとのこと。金子文子さんの手記や日本語の裁判記録も読んでこの役に臨んだそうで、この役はぴったりだったのではないかと思う。


【記憶にございません!】(4/10)

監督・脚本:三谷幸喜
出演:中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、小池栄子、斉藤由貴、木村佳乃、吉田羊、山口崇、田中圭、梶原善、寺島進、藤本隆宏、迫田孝也、ROLLY、後藤淳平(ジャルジャル)、宮澤エマ、濱田龍臣、有働由美子、飯尾和樹(ずん)、近藤芳正、川平慈英、他
製作国:日本
ひとこと感想:三谷幸喜氏の脚本・監督作。しかし、今の現実の政治状況を考えると、ダメ首相が記憶喪失になったくらいで真っ当な善人になり、政治がうまくいくなんて筋書きはあまりにお花畑が過ぎて、話が進めば進むほどしらけるばかりだった。三谷さん、いくら何でもお人好し過ぎる(またはファンタジーが過ぎる)んじゃないの?三谷さんのネームバリューである程度の観客動員は見込めたのだろうけれど、見た人達はみんな本当に面白いと思ったのだろうか。


【“樹木希林”を生きる】(6/10)

監督:木寺一孝
(ドキュメンタリー)
出演:樹木希林、他
製作国:日本
ひとこと感想:生前の樹木希林さんに密着したNHKのドキュメンタリーの再編集版。最晩年の樹木さんの貴重なお姿を拝見できたのはありがたかったが、後半は、樹木さんのドキュメンタリーの域を超えてディレクター氏自身が樹木さんに人生相談をするモードに突入し、ディレクター氏の自分語りになってしまったのは何だかな。申し訳ないけれど、私はディレクター氏がうだうだと語るパーソナルな問題には全く興味が無い。仮に取材の過程で樹木さんとそういうやり取りがあったのだとしても、その部分をわざわざ編集で残して第三者の目に晒す必要がある?その自意識過剰は一体何なのか。百歩譲ってそういうことをしたいのであれば、別のフォーマットに切り分けて自費でやるべきではないだろうか。


【きばいやんせ!私】(4/10)

監督:武正晴
脚本:足立紳
出演:夏帆、太賀、愛華みれ、伊吹吾郎、岡山天音、榎木孝明、鶴見辰吾、宇野祥平、徳井優、他
製作国:日本
ひとこと感想:【百円の恋】の足立紳脚本・武正晴監督コンビ作で、不倫で左遷されたやる気ゼロの女子アナが、昔住んでいた町の祭りを再生させる物語。しかし、高齢化で死にかけている祭りの復活と、彼女自身が自分を見つめて復活する過程とをリンクさせたいという意図は分かるのだが、男性が終始尊大な態度で飲んだくれ、女性はひたすら料理とお酌だけをさせられる田舎のお祭りの個人的なトラウマが思い出されて何だかな。神輿の担ぎ手がいないなら女性を募ってみればいいじゃない。あの人達に妻や娘や母や孫娘はおらんのか?なのに彼等は、大して根拠があるとも思えない不合理な伝統に固執し、完全に思考停止。男性だけがうだうだ関わって、女性は外部から来た特別枠の人しか参加することができないお祭りなど滅んでしまっても、申し訳ないけれど全く胸が痛まない。最後、ヒロインだけが一瞬事故みたいにお神輿を担ぐシーンがあるのが余計にムカつく。祭りの継承者不足の問題は日本全国で起こっているらしいけど、こういうのがその実態ならそれも仕方なくないか?


【希望の灯り】(7/10)

原題:【In den Gängen (In the Aisles)】
監督:トーマス・ステューバー
原作・脚本:クレメンス・マイヤー
出演:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:旧東ドイツのライプツィヒ近郊の巨大スーパーの倉庫で粛々と働く人々を描いた映画。昔悪い仲間とつるんでいたらしい主人公は、中年の先輩男性社員に仕事を教わり、同僚の年上の既婚女性に心を寄せながら仕事を続ける。しかし女性はDVに苦しんでいるらしく、先輩社員は仕事も人生も順調だった旧時代への郷愁を抱えていた。深い悲しみや絶望を内包しながらも、ささやかな世界はまるで夢の中のように温かく美しく映る。その様子はまるで寓話のように感じられた。


【きみと、波にのれたら】(6/10)

監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
(アニメーション)
声の出演:片寄涼太 (GENERATIONS)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:恋人を亡くしたサーファーの女性を描いた湯浅政明監督の新作アニメ。主人公達のバカップルなラブラブぶりをどんな気持ちで見ればいいのか一瞬よく分からなかったけれど、これは、最もかけがえのないものをなくした人が、その経験を消化して自分の足で歩けるようになるまでの話なのだ、と思うと納得できた。見終わった後、案外爽やかな印象が残ったのはそんな部分なのだろう。千葉県の各地がロケハンされているのはチバケンミンとして嬉しいけれど、距離感が滅茶苦茶でちょっと笑えた。


【キューブリックに愛された男】(7/10)

原題:【S is for Stanley】
監督:アレックス・インファセッリ
(ドキュメンタリー)
出演:エミリオ・ダレッサンドロ、スタンリー・キューブリック、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:スタンリー・キューブリック監督の下で働いていた人物を描いた2本のドキュメンタリーを特集上映として公開。本作はキューブリックに愛されていた雑用係兼運転手のエミリオ・ダレッサンドロ氏を描いたもの。映画のことは全然分からない人物だが、キューブリックがリクエストする身の回りの細々とした雑用を長年こなし続けた。もう1本の【キューブリックに魅せられた男】のレオン・ヴィターリさんと違い家族のことが最優先で、息子が大事故に遭った時も、名医を紹介するというキューブリックの申し出をやんわり断り、家族だけで対処した。キューブリックに仕えながらも常にキューブリックとは異なる世界に生きていたのだろう。でも逆にキューブリックは、そういう人物を側に置くことで精神や生活のバランスを保っていたのかもしれない。後年、彼は一時職を辞して故郷に戻り(また呼び戻されることになるのだが)、やっとキューブリックの映画を見たそうだが、キューブリック本人にしてみれば凡作だったハリウッド大作【スパルタカス】が一番好きと言ってキューブリックをズッこけさせたというオチは凄いなぁと思った。


【キューブリックに魅せられた男】(8/10)

原題:【Filmworker】
監督:トニー・ジエラ
(ドキュメンタリー)
出演:レオン・ヴィターリ、スタンリー・キューブリック、ライアン・オニール、マシュー・モディーン、ステラン・スカルスガルド、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:スタンリー・キューブリック監督の下で働いていた人物を描いた2本のドキュメンタリーを特集上映として公開。本作は【バリー・リンドン】に俳優として出演していたレオン・ヴィターリ氏について描いたもの。彼は【バリー・リンドン】に出演後、キューブリックに心酔するあまり、映画のことを1から勉強し直してキューブリックの撮影現場で働き始め、やがて現場のことを表も裏も知り尽くしたキューブリックの右腕以上の存在になる。そんな存在になれるなんて、彼はきっとものすごく勉強熱心で優秀だったんだろうし、キューブリックの方も、彼が要求に必ず応えてくれると信頼していたからこそ、自身に課していたような最も厳しい水準の仕事を求めたのだろう。激烈すぎる監督の要求に応え続けるため、家族のことさえ後回しにして監督に滅私奉公をしたが(家族がそれをある程度受け入れてくれたのはラッキーすぎる)、彼をそこまで心酔させてしまったキューブリックという人物はどれほど並外れた天才だったのだろう。彼はそのまま俳優を続けていればきっと歴史に名を刻む俳優にだってなれただろうに、後悔している様子は微塵も感じられない。でも、この映画が今後のキューブリック研究にラインアップされることで、彼の名前もまた映画史に刻まれることになるのではないか。【キューブリックに愛された男】も面白かったけど、どちらか1本を見るのであれば私はこちらの映画の方をお薦めしたい。


【今日も嫌がらせ弁当】(7/10)

監督・脚本:塚本連平
原作:Kaori(ttkk)
出演:篠原涼子、芳根京子、松井玲奈、佐藤寛太、岡田義徳、村上知子(森三中)、佐藤隆太、他
製作国:日本
ひとこと感想:原案は、反抗期の娘のために3年間作り続けられたキャラ弁を記録したブログ本。個人的にはキャラ弁的なものはあまり好きではないのだが、この本を楽しんで見ることができたのは、これらのお弁当が親の自己満足の産物ではなく、母親から子供への愛と意地が詰まっていたように見えたからだと思う。お話はドラマチックな要素で修飾されたフィクションなんだろうけれど、篠原涼子さんが出ていると、彼女が創り出す異空間にいつの間にか引き摺り込まれ、知らないうちに何か納得させられてしまっているから不思議。彼女の演技はどうしてあんなに人を魅き込むのか。娘役の芳根京子さんのあまりの可愛さにもびっくりしてしまった。


【グリーンブック】(7/10)

原題:【Green Book】
監督・脚本:ピーター・ファレリー
共同脚本:ニック・バレロンガ、ブライアン・カーリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ファレリー兄弟のお兄さんのピーター・ファレリー監督作。舞台は1960年代で、アメリカ南部を演奏旅行しようとした有名黒人ミュージシャンが、イタリア系の荒っぽい白人の用心棒兼ドライバーを雇うという話。ちなみにGreen Bookとは、黒人が泊まることを許可されている宿が書かれたガイドブックのことらしいが、教養があり洗練されているお金持ちであっても黒人ということで泊まれない宿があったりする当時のアメリカ南部の人種差別を象徴しているらしい。【ドライビング Miss デイジー】の逆転版という風評通り、二人の間には人種や立場の違いを越えた友情も育まれたりして、心温まる話になっているのだが、この映画の元になっている現実のエピソードはこんな麗しい話でもなかったらしい。スパイク・リー監督が本作をホワイトウォッシュだと言って怒っていたというが、アメリカの人種差別問題はまだまだ一筋縄ではいかないのだなぁと思った。


【グレタ GRETA】(7/10)

原題:【Greta】
監督・脚本:ニール・ジョーダン
原案・共同脚本:レイ・ライト
出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、スティーヴン・レイ、コルム・フィオール、他
製作国:アイルランド/アメリカ
ひとこと感想:お久しぶりのニール・ジョーダン監督作品。ハンドバッグを電車内に忘れたふりをして親切に届けてくれた女の子を毒牙に掛けるという、イザベル・ユペールさん演じる寂しさで狂ってしまった主人公が恐ろしくも哀しい。女の子の中にある罪悪感などをいろいろ利用して、懇願したり脅したりしながら監禁し、亡くなった娘の代わりにピアノを厳しく教え、反抗を始めると箱に閉じ込める……。寂しければ何やってもいい訳じゃないが、寂しいというのは因果なことだな……とうっかり思わされたりするのは、イザベル先生が演じればこそ。先生はこういう異常者の役をやらせると抜群に嵌まるけれど、あまりにハマりすぎてキャリアにマイナスになったりしないのか?などと実に余計な心配をしてしまった。しかしたまには異常者以外の役を演じるイザベル先生もがっつり見てみたいんだけどな。


【決算!忠臣蔵】(6/10)

監督・脚本:中村義洋
原作:山本博文
出演:堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕(関ジャニ∞)、妻夫木聡、荒川良々、石原さとみ、竹内結子、西川きよし、阿部サダヲ、大地康雄、西村まさ彦、木村祐一、寺脇康文、桂文珍、村上ショージ、板尾創路、滝藤賢一、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:忠臣蔵の討ち入りには一体どれくらいお金が掛かったのかを解説する学術文庫を、中村義洋監督がコメディに書き起こして映画化。その切り口は今までなかったかもしれないが、お金の価値を分かっておらず湯水のように無駄遣いする武士の面々にイガイガし、その上女好きでもある大石内蔵助に途中まで全然親しみが湧かなくて困った。もしかして史実には近いのかもしれないけど、一見チャラくて安っぽい赤穂浪士の面々など自分は特段見たくはなかったなぁ。また、豪華なキャストをたくさん使った結果、一人一人の味が薄まってしまったのも残念だったかもしれない。


【幸福なラザロ】(5/10)

原題:【Lazzaro Felice】
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルヴァケル、ニコレッタ・ブラスキ、ルカ・チコヴァーニ、セルジ・ロペス、他
製作国:イタリア/スイス/フランス/ドイツ
ひとこと感想:主人公の住む村は小作制度の廃止を告げられず、みんな地主に騙されて働かされ続けていたという設定なのだが、これが1980年代に起きた実際の事件を基にしているというので驚く。ヨーロッパの田舎ってどんだけ隔絶社会なの。(そういえば昔読んだ本に、20世紀に入っても魔女狩り事件があったとか書いてあったっけ。)しかしあまりにも信じがたい設定をリアルに感じることができず、話が全然頭に入ってこなかった。最後まで騙されたという発想すら持たない主人公は、人のことを疑っていないので不幸になりようがないのだと言われても、はいそうですかとは思えない。もしかして何か宗教的に解釈するべきなのかもしれないけれど、無知に宿る善性なんて私には信じられない。人のことを小狡く利用しようとする奴との間に健全な関係なんて成立しない。純粋じゃなくてすいませんー。私には無理でした。


【荒野にて】(6/10)

原題:【Lean on Pete】
監督・脚本:アンドリュー・ヘイ
原作:ウィリー・ヴローティン
出演:チャーリー・プラマー、トラヴィス・フィメル、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ザーン、アリソン・エリオット、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:父子二人暮らしの家庭の息子が父親を亡くし、施設に入れられそうになったため、殺処分が決まっていた馬と共に荒野を彷徨う。何も無理して荒野を行かなくても、消息不明の叔母さんを探してもらう方法は何かあったんじゃないかと思うんだけど、思い込んだらそういうふうにしか行動できない無謀さや頑なさや見識の足り無さが若いってことなのかなぁ。無事に帰ってくることが出来さえすれば、それも大切な体験になるかもしれないけれど。


【五億円のじんせい】(8/10)

監督:文晟豪(ムン・ソンホ)
脚本:蛭田直美
出演:望月歩、山田杏奈、西田尚美、平田満、森岡龍、松尾諭、芦那すみれ、吉岡睦雄、兵頭功海、小林ひかり、水澤紳吾、諏訪太朗、江本純子、坂口涼太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:GYAOとアミューズによる才能発掘プロジェクトの第1回グランプリ作品の映画化。五億円の募金で心臓手術を受けて生きのびたことを負担に感じている少年が、五億円を返してから自殺するべく様々なバイトに手を染める。少々強引ながらアップテンポなストーリーに、ユーモアと人間観察が行き届いていて抜群に面白い。受けた恩なんて絶対に返せないので、あきらめてその分を人に何かしてあげるしかないんだぞー、という帰結にも納得。文晟豪(ムン・ソンホ)監督と脚本の蛭田直美さんの次回作に大いに期待したい。


【ゴールデン・リバー】(6/10)

原題:【The Sisters Brothers】
監督・脚本:ジャック・オーディアール
共同脚本:トマ・ビデガン
原作:パトリック・デウィット
出演:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド、他
製作国:アメリカ/フランス/ルーマニア/スペイン
ひとこと感想:【リード・マイ・リップス】【君と歩く世界】【ディーパンの闘い】で知られるフランスのジャック・オーディアール監督が、名だたるハリウッド俳優の皆さんと組んで撮った作品。キャストに釣られて見に行ったのだが、始まって5分で自分は西部劇が好きじゃなかったことに気づく。後悔してももう遅い。何をやっても今一つ達成できない殺し屋の兄弟が持つ不全感には、人生なるものの在り方そのものが投影されているのかもしれない。が、後はひたすら、馬や鉄砲を見ると自動的に入ってしまう眠気スイッチとの闘いだった……。


【ゴッズ・オウン・カントリー】(8/10)

原題:【God's Own Country】
監督・脚本:フランシス・リー
出演:ジョシュ・オコナー、アレック・セカレアヌ、ジェマ・ジョーンズ、イアン・ハート、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:イギリスの寒々しい田舎で高圧的な病気の父と祖母と暮らしながら独り牧場を営む男性。生き甲斐もやり甲斐もなく、酒や行きずりの男とのその場限りのセックスで気持ちを紛らわせていたが、ある時、短期労働者として雇った男性と心を通わせるようになり、共に歩く将来を夢見るようになる……。絶望的な状況の中で愛と希望が見出される展開に救いがあって好き。なのにどうしてうっかり××しちゃうかなー。自分の人生を変えてくれるきっかけが向こうから訪れてくれるなんて、そうそうないラッキーなことなんだから、大事にした方がいいとおばさんは思うよ。


【この世界の(さらにいくつもの)片隅に】(9/10)

監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代
(アニメーション)
声の出演:のん、細谷佳正、岩井七世、他
製作国:日本
ひとこと感想:【この世界の片隅に】の完全増補版。前作の鑑賞直後に原作を読んで勝手に脳内補完していたらしく、むしろ最初からこんな作品だったみたいに思えてならない。


【この道】(7/10)

監督:佐々部清
脚本:坂口理子
出演:大森南朋、AKIRA(EXILE)、貫地谷しほり、松本若菜、小島藤子、柳沢慎吾、羽田美智子、松重豊、津田寛治、升毅、安田祥子・由紀さおり、他
製作国:日本
ひとこと感想:北原白秋が山田耕筰と出会って名曲の数々を世に遺すまで。北原白秋という人は、歌のイメージとは裏腹の無茶苦茶な人だったんだなぁ。後で調べてみたら実際はもっと色々な話があったようで、あれでもかなりマイルドに脚色している模様。良く言えば純粋、悪く言えば後先のことを考える能力が未熟すぎる……。でも、ただ品行方正な人よりも、自らの人格のほころびに苦悩しているような人の方が、人間の真実をより照らし出す作品を創ることができるのかもしれない。北原白秋と与謝野晶子・鉄幹夫妻との関わりなども興味深かったし、安田祥子・由紀さおり姉妹に劇中で「からたちの花」を、山田耕筰役のAKIRAさんと同じEXILEのATSUSHIさんにエンディングで「この道」を歌ってもらったりと(どちらも当然滅茶苦茶上手い)サービス精神もたっぷりで、なかなか見応えがある映画だったのではないかと思う。ところで、劇中でわざわざ注釈してくれていたけど、「赤とんぼ」の作詞は三木露風でしたね。勘違いしてましたすいません。


【こはく】(7/10)

監督・原案:横尾初喜
脚本:守口悠介
出演:井浦新、大橋彰(アキラ100%)、遠藤久美子、木内みどり、鶴見辰吾、鶴田真由、石倉三郎、嶋田久作、他
製作国:日本
ひとこと感想:幼い頃に父親と別れたトラウマを引き摺りながら生きる中年の兄弟の物語。経済的に自立できない兄も、妻が妊娠したことを内心喜べない弟も、抱える傷は同じ。あることをきっかけに、家族の中に残る禍根や、自分の中に知らずに蓄積されていた傷に二人がようやく向き合い始め、人生の時計の針を進めるのが印象的だった。弟役の井浦新さんは言うに及ばす、兄役の大橋彰(アキラ100%)さんも抜群にいい。このしみじみしたテンポ感、なんとも言えず好きだなぁ。
ところで、弟の妻役で遠藤久美子さんが出演しているのだが、何と監督の奥さんでいらっしゃった。昔、遠藤さんがMCをしていたNHKの番組を毎週見てたなぁ。久しぶりにお見掛けして懐かしかったです。


【最高の人生の見つけ方】(6/10)

監督・脚本:犬童一心
共同脚本:浅野妙子、小岩井宏悦
原案:ジャスティン・ザッカム
出演:吉永小百合、天海祐希、ムロツヨシ、満島ひかり、鈴木梨央、駒木根隆介、ももいろクローバーZ、賀来賢人、前川清、他
製作国:日本
ひとこと感想:ジャック・ニコルソン&モーガン・フリーマン主演のハリウッドのヒット作を吉永小百合さん&天海祐希さん主演で和製リメイク。全く違う人生を歩んできた女性同士の話に翻案していて手堅い面白さだったが、偶然手に入れた他人のノートを勝手に読んでいるところなど、雑に感じる点も幾つかあった。吉永小百合先生、子育ても介護も全部妻に押しつけるだけの夫や、家事をしてもらっていることを感謝もしないような息子なんてほっとけー!と思うのだが、彼等の面倒を見る役を娘に押しつけようとするなんてもっとサイテーでは?結局、大して変化したようにも見えなかった夫と元サヤに収まるのも何だかなーという感じ。本人がそれでいいのなら別に文句を言う筋合いじゃないんだけれど。


【最初の晩餐】(8/10)

監督・脚本:常盤司郎
出演:染谷将太、戸田恵梨香、斉藤由貴、永瀬正敏、窪塚洋介、森七菜、楽駆、牧純矢、外川燎、池田成志、菅原大吉、カトウシンスケ、玄理、山本浩司、他
製作国:日本
ひとこと感想:CMやMVなども手掛ける常盤司郎監督のオリジナル脚本による一本。連れ子同士の再婚でできた家族が、うまく行きかけていたのに途中で破綻してしまったが、大人になった子供達が父親の葬式で再会した時、その事情が明らかになる。子供達が小さいからって何も教えないってほんっと良くないよ、と途中までは思っていたのだが、この事情は確かに子供には伝えるのは少し難しいだろう。(それでも少しでも伝える努力をすべきだったと思うけど。)この話の流れが大変見事で、一つ一つのエピソードも有機的に組み込まれていて上手い。人間は綺麗ごとだけでは済まない、という部分を背負う両親役の永瀬正敏さんと斉藤由貴さんは説得力がありすぎ、大人の都合に振り回され心に傷を負ってしまった子供はどうリカバーするか、という部分を背負う窪塚洋介さん、戸田恵梨香さん、染谷将太さんのきょうだいも素晴らしかった。特に当時の朝ドラで不完全燃焼だった「染谷将太さんの演技をどっぷり見たい欲」をがっつり満たして戴けたのは嬉しい。常盤司郎監督の今後の作品にも大いに期待したい。


【サタンタンゴ】(9/10)

原題:【Satantango】
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
出演:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング、他
製作国:ハンガリー/ドイツ/スイス
ひとこと感想:先日引退を表明したタル・ベーラ監督が1994年に製作した7時間18分の映像叙事詩。ストーリーを語るだけならおそらく、2時間前後という現在の劇映画のフォーマット(それもかつて人間の生理に合わせて発明されたものなんだろう)でも充分語れるんだろうけど、そうした中で切り落とされてしまう人間の生(せい)の存在感とか息遣いとか手触りとか空気感とかを掬い取ろうとすると、こういう形になったのだろう。閉じられた時空に出現する黄昏の世界を追体験することは、確かに忘れがたい強烈な映像体験になる。


【ザ・ファブル】(6/10)

監督:江口カン
脚本:渡辺雄介
原作:南勝久
出演:岡田准一、山本美月、佐藤浩市、木村文乃、安田顕、柳楽優弥、向井理、福士蒼汰、木村了、井之脇海、佐藤二朗、光石研、モロ師岡、六角精児、他
製作国:日本
ひとこと感想:青年コミックを原作にした岡田准一さん主演のアクション映画。主人公の突拍子もない天然ボケや大袈裟すぎるギャグっぽさは、原作漫画の二次元の世界で見れば面白いかもしれないけれど、三次元に落とし込むとどうも違和感が。親代わりとも言えるボスからしばらく一般人として暮らせと命令されたため、人を殺したりできないという縛りがある主人公が、拉致られた恋人候補の女性を救出する終盤のアクションシーンは見応えがあったけれど、そうなると前半のギャグっぽさがますます安っぽく感じられる。岡田准一の完全なる無駄遣い。ジャニーズ事務所は、岡田さんの高すぎる身体能力を活かすもっといい企画を、もっともっと真剣に探して欲しいと思う。


【サムライマラソン】(2/10)

監督:バーナード・ローズ
脚本:土橋章宏
出演:佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高、竹中直人、豊川悦司、長谷川博己、木幡竜、小関裕太、筒井真理子、門脇麦、阿部純子、中川大志、他
製作国:日本
ひとこと感想:江戸時代の武家は城下町に住んでて農村には住んでないんじゃない?これ、時代考証が酷すぎるでしょ?時代劇の時代考証も100%正しくはないだろうけど、かつての日本を知っていた人達が肌感覚で作り上げてきた歴史があるんだから、その積み重ねを全く無視した外国の監督やスタッフが好き放題にするのに任せてしまうのは違うんじゃない?まったく、【ラストサムライ】みたいなのを許容してるからうっかりこういうのができちゃうんだよ。これは綺羅星の如くのキャストの無駄遣い。長時間これを見続けさせられるのは拷問以外の何者でもなく、ただひたすら辛いだけだった。


【さよならくちびる】(6/10)

監督・脚本:塩田明彦
出演:小松菜奈、門脇麦、成田凌、他
製作国:日本
ひとこと感想:ある女性アコースティックデュオの成功と終焉 (と更なる何か)の軌跡を描いた塩田明彦監督作品。小松菜奈さんと門脇麦さんの二人には強烈な存在感があるけれど、男性マネージャーを挟んだ半径5m以内の狭い人間関係にわちゃわちゃする姿に全く興味が持てず、全く心に響かない。悩むのもいい経験になるさ、お若い人同士で好きにやってください、というモードに入ってしまうのは、完全に自分が老化しているだけなのであろう。本当にどうもすいません。


【12か月の未来図】(7/10)

原題:【Les Grands Esprits (The Teacher)】
監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
出演:ドゥニ・ポダリデス、アブドゥライエ・ディアロ、他
製作国:フランス
ひとこと感想:ひょんなことから郊外の教育困難校に赴任することになった、元エリート校のベテラン高校教諭。様々なバックグラウンドを持ち、その環境のため学習意欲も学力も低い子供達には、生徒を高圧的に律するそれまでの方法論が全く通用せず、先生の苦闘の日々が始まった。最近、教育(かワイン)がテーマのフランス映画を多く見ている気がするのは、日本人バイヤーの好みもあるだろうが、フランス社会がそういうテーマに関心が高く、そうした映画が実際多く作られているからかもしれない。様々な問題があっても皆で真剣に考えて何とか改善しようと努力する姿勢があるのは素晴らしいなぁ。翻って日本はどうなのか。未来を担う子供達の教育を大切にしない社会は、文化的に最も貧しいんじゃないかと思う。


【主戦場】(10/10)

原題:【The Main Battleground of the Comfort Women Issue】
監督:ミキ・デザキ
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:第二次世界大戦中の日本軍の従軍慰安婦問題を巡る様々な人々の言説を検証したドキュメンタリー。論点がよく整理されており、もし自分が同じテーマを与えられたとして、どれだけ条件が揃っていても決してこれほどの映画は作れなかっただろうと、ミキ・デザキ監督の手腕にとても感心した。特に、従軍慰安婦の存在を否定する人々にインタビューを敢行していたのには感心した。気持ち悪すぎて直視できなかった彼等の姿を映し出し、その言い分も聞いた上で、きちんと反証して見せてくれたことに感謝する。
1点付け加えるなら時間軸の話。昔、大学でレポートを書くために読んだいくつかの資料によると、初期には確かにプロのセックスワーカーが高給で集められ、その待遇も良かったが、戦火の拡大によって数が全然足りなくなったため、占領地の素人の女性が詐欺などのかなり強引な手段で掻き集められるようになり、劣悪な環境下で意に反する仕事を強制的にさせられたということだ。
日本会議の何が問題か。彼等は、天皇を中心にしたヒエラルキーの下でしか人間が存在することを認めない、つまり人権を制限つきでしか認めておらず、平等を根本的に否定している。だから女性や他の民族などを平気で下に見たりする。そんな信条など絶対に認められないし、そんなことを言う人達とはその先何があっても戦っていかなければならない、という決心を新たにした。


【女王陛下のお気に入り】(7/10)

原題:【The Favourite】
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、他
製作国:アイルランド・イギリス・アメリカ
ひとこと感想:【聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア】のギリシャ出身の俊英ヨルゴス・ランティモス監督が描くイギリスの宮廷絵巻。この女王陛下とは名誉革命のウィリアム3世の後に即位したアン女王。17回妊娠したが死産や流産で5人のみ出産、その5人も皆夭折してしまったため、彼女の死でステュアート朝は断絶してしまったのだそう。(ちなみにその後ドイツから迎えたジョージ1世が国民から嫌われてしまい「国王は君臨すれども統治せず」という責任内閣制の発達を促してしまったのだそうだ。)この辺りの歴史は全然勉強してこなかったので、ホイッグ党とかトーリー党とか全然分からない。その辺りが分かるともっと面白かったのかもしれないが、宮廷の権謀術策の渦巻くこってりした人間関係の描写で充分お腹一杯。歴史って(特にヨーロッパ王室の歴史って)割と個人的でネチネチした狭い人間関係の中で動くんだよな、という認識を新たにした。


【ジョーカー】(6/10)

原題:【Joker】
監督・脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:これは見ても全然分からないんじゃないか、という予感がしていたのだが、予想した通り、ホアキン・フェニックスさんの存在感の強さ以外、全然何も分からなかった。もともと精神疾患を抱えている上に口ベタな主人公は、そもそもコメディアンにもピエロにもあまり向いているとは思えず、彼が何故そんな職業を選んだのかもよく分からない。彼は行く先々で屈辱的な扱いを受けるが、しかし、いくら他者から虐げられていたとしても、何故それを他者への暴力衝動に転換していいという理屈になるのか、いくら考えても全然分からない。しかしこのジョーカーも、ジャック・ニコルソンが創造した初代の実写版ジョーカーのアレンジバージョンであるはずで、その昔のジョーカーは自分もファンタジーとして受容していたと思うのだが、自分の中で何かの境界線がよく分からなくなってしまったのだろうか。その辺りは個人的にもう少しいろいろ考察してみてもいいのかもしれない。


【真実】(8/10)

フランス語題:【La vérité】
監督・脚本:是枝裕和
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル、他
製作国:フランス/日本
ひとこと感想:是枝裕和監督がカトリーヌ・ドヌーヴさんやジュリエット・ビノシュさんらを迎えフランス資本で撮った一作。きままな性格の国民的大女優とその娘の葛藤と(部分的な)和解のドラマはそこまで深く掘り下げられているとは思えないが、二人の名女優の演技が何よりの説得力を持ち、映画としてはある程度成功しているのではないかと思う。今後、日本経済の更なる悪化に伴い、国内の映画製作の状況はますます厳しくなるかもしれないので、力のある人は外国に行って撮るという選択肢も視野に入れていくべき。そんな中、本作の在り方は一つの試金石になるのではないかと思う。


【新宿タイガー】(7/10)

監督:佐藤慶紀
(ドキュメンタリー)
出演:新宿タイガーさん、八嶋智人、渋川清彦、他
ナレーション:寺島しのぶ
製作国:日本
ひとこと感想:新宿を歩いていると稀に遭遇する、虎のお面を被ったど派手な色合いのおじさんがタイガーさん。(この虎はジャングルにいる虎であってタイガーマスクではないらしい。)職業は新聞配達員。毎日新聞を配り、映画館を渡り歩き、ゴールデン街を飲み歩く。映画館では場内が暗くなってから入ってきて、一番前の席に座ってマスクを取り、映画が終わるとエンドロール中にマスクを付けて他の人より先に外に出て行く(映画館で数回お見掛けしたことがある)。たまに電車に乗りきれいな女優さんが出ているお芝居を見に行く。1972年からあの姿なのだそうで、最初は新聞配達員らしくないと咎める声もあったらしいけど、今では完全に新宿の風景の一部と化している。(素顔が秘密ということもないようで、割とあちこちでバンバン顔出ししている。)雑多な文化を受容してきた新宿の象徴みたいな存在だと言われているが、確かに彼の存在は、銀座でも渋谷でもなく、新宿という街だからこそ許容されてきたのかもしれない。この記録は、他人とは違う生き方を選んだ一人の人のドキュメンタリーとしても、新宿という街の歴史や文化の一側面を描いたドキュメンタリーとしても興味深い。タイガーさん、どうぞこれからも末長く元気に新宿の街を闊歩して下さい。


【人生、ただいま修行中】(7/10)

原題:【De chaque instant (Each and Every Moment)】
監督:ニコラ・フィリベール
(ドキュメンタリー)
製作国:フランス
ひとこと感想:【音のない世界で】【ぼくの好きな先生】のニコラ・フィリベール監督がフランスの看護学校で撮影したドキュメンタリー。映画終盤の授業に関するカウンセリングの部分が特に印象的で、指導者にも相当な人間的成熟や豊富な知識や経験や高度な職業哲学が求められるのだなぁと思った。こうした人々があらゆる産業のあらゆる側面に豊富に存在している社会の豊かさ。翻って、日本ではこうした部分の指導はどうなっているのだろう。日本もお金があるうちにこういう国になって欲しかったのだが、そのチャンスはもう逃しつつあるのではないだろうか。


【新聞記者】(8/10)

監督・脚本:藤井道人
共同脚本:詩森ろば、高石明彦
原案:望月衣塑子、河村光庸
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、田中哲司、西田尚美、北村有起哉、他
製作国:日本
ひとこと感想:東京新聞の望月衣塑子記者の手記を原案に、新大学設立にまつわる陰謀を取材する記者と、ある事実に翻弄される若手官僚を描く。今のこの時によくこの映画が撮れたと思うが(そして松坂桃李さんを始めとする役者の皆さんはよくぞ出演してくれたと思うが)、現政権の独裁体制が進めば、そのうちこんな映画を撮ることも、SNSでつぶやくこともできなくなるんじゃないのかな……。「この国の民主主義は形だけでいい」とか言ってる政治家やら官僚やらは本当にいそうだけど、安定した政権を維持することがこの国の平和と安定に繋がるなんて時代はもうとっくに終わってる。心ある官僚には目を覚まして欲しいが、国民の側も、国民生活を根本的に破壊しつつある政治家を漫然と黙認している余裕はもう全く無いということを認識すべきじゃないのかな。


【スペシャルアクターズ】(7/10)

監督・脚本:上田慎一郎
出演:大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛、上田耀介、清瀬やえこ、仁後亜由美、宮島三郎、淡梨、三月達也、櫻井麻七、川口貴弘、南久松真奈、山下一世、津上理奈、小川未祐、広瀬圭祐、原野拓巳、他
製作国:日本
ひとこと感想:【カメラを止めるな!】の上田慎一郎監督の新作。特殊な仕事を請け負う俳優事務所に成り行きで勤めることになった男性の困った癖とは。ほぼ無名な俳優さんしか出ていないのに最後まで飽きさせず見せきる監督の脚本や演出の手腕はやはり確かなものだと納得。けれど、観客に対するサービスの気持ちが強すぎるからなのかもしれないが、いろいろ整理しきれないままに詰め込みすぎでは?次回作はそこまでどんでん返しにこだわりすぎなくてもいいんじゃないのかなと思った。


【世界の涯ての鼓動】(8/10)

原題:【Submergence】
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:エリン・ディグナム
原作:J・M・レッドガード
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグ、レダ・カテブ、アキームシェイディ・モハメド、他
製作国:ドイツ/フランス/スペイン/アメリカ
ひとこと感想:この邦題は絶対同じヴィム・ヴェンダース監督の【夢の涯てまでも】に掛けていると思うのだが、かの映画の登場人物が実際に世界のあちこちを駆け巡っていたように、本作の登場人物は知性と想像力の翼を広げて世界の様々な位相に到達しようとしているように見えた。本来異なる世界に生きている二人が、お互いの会話の中で関係性を深め、同じ世界に生きていることを発見し合って親密になっていく。そして、お互いの存在を認識したからこそ、一人では感じることのなかった孤独を感じるようになったり、絶望的な状況の中でも希望を持つことが出来るようになったりする。その過程は、最近見たラブストーリーの中で最もドキドキしてスリリングだった。【夢の涯てまでも】は、大傑作と言うよりは破綻も破調もある愛すべき映画という印象だったけど、本作もそんな匂いを感じた。個人的には【ベルリン・天使の詩】以降のヴィム・ヴェンダース作品で一番好きかもしれない。
【夢の涯てまでも】はディレクターズ・カット版だと5時間近くあるそうなのだが(長さは諸説あって正確には分からない)、今こそそのディレクターズ・カット版を見てみたいなぁ。お金を払えば入手可能かもしれないけれど、何せ貧乏なので、どこかで配信してくれないかしら。


【セメントの記憶】(6/10)

原題:【Taste of Cement】
監督:ジアード・クルスーム
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ/レバノン/シリア/アラブ首長国連邦/カタール
ひとこと感想:原題は「セメントの味」。それは爆撃されたシリアの市民が瓦礫に埋もれた時に口いっぱいに広がったトラウマの味。シリア難民の青年はレバノンに亡命しベイルートの超高層ビルの建設現場で働く。非人道的な劣悪な環境下での労働の日々に、過去の記憶が入り混じる時、時々禍々しいほど美しい風景が出現する。本作の監督は元シリア政府軍兵士で、自国民に銃を向けるのを拒否してレバノンに亡命し、本作に着手したのだそうだ。彼等の「セメントの味」の苦さの記憶が少しでも薄れる日は、いつかやって来るのだろうか。


【洗骨】(8/10)

監督・脚本:照屋年之(ゴリ(ガレッジセール))
出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎(ハイキングウォーキング)、筒井真理子、他
製作国:日本
ひとこと感想:風葬にして白骨化した遺体を洗って納骨する「洗骨」という沖縄の離島の珍しい風習をモチーフにした物語。監督はガレッジセールのゴリさんこと照屋年之監督。母親の死の4年後、酒浸りの父親に対し、東京の大会社で働く息子は上から目線で応対するが、自身も離婚問題を抱えていた。その時都会から戻ってきた娘はお腹が大きくなっていた……。奥田瑛二さん、筒井道隆さん、水崎綾女さんを始めとする素晴らしい俳優陣が、軽すぎないけど重すぎない人生の機微を絶妙に演じる(大島蓉子さん最高です!)。洗骨のシーンをけっこう正面からがっつり描いていて驚いたけど、南の島の強い日差しの中で故人と再度向き合う時間には、しめやかながら妙に明るい祝祭感がある。出産シーンはちょっとトゥーマッチだったけど、照屋監督には物語を語る才能があるように思う。クスリと笑える合いの手のようなシーンのバランスにも、監督のお笑い芸人としての感覚がいい意味で活きているように感じられた。
ゴリさんは、祖父が照屋林助さん、叔父が照屋林賢さんという、知ってる人にとっては超メジャーな芸能一家のご出身。照屋林賢さんはかの『りんけんバンド』のリーダーで、その父の照屋林助さんは三線(さんしん)を使った漫談で第二次世界大戦後の沖縄のエンターテイメント界を牽引した人物。1990年前後の沖縄ブームの頃に【ウンタマギルー】や【パイナップル・ツアーズ】などの映画で軽妙な弾き語りを披露していた姿が思い出される。「銭雨(じんあみ)ど~い、銭雨どい、銭の雨降る暮らさりる、はい!」と今でもたまに口ずさんでしまうことがあったりする。芸能の力って凄いです。


【葬式の名人】(4/10)

監督:樋口尚文
脚本:大野裕之
原案:川端康成
出演:前田敦子、高良健吾、白洲迅、阿比留照太、有馬稲子、尾上寛之、中西美帆、奥野瑛太、佐藤都輝子、樋井明日香、他
製作国:日本
ひとこと感想:映画評論家の樋口尚史氏の監督作。川端康成の小説をベースにしているらしいのだが、学のない自分には、数人で棺桶を担いで街を練り歩くとか、葬儀屋と喧嘩して学校でお通夜をするとか、死体と川の字で寝るとかいった現実離れした光景が奇矯にしか映らない。死んだ人は何故家を出たのかとか、死んだ人とヒロインの関係を誰も知らないのは不自然ではないかとか、よく分からない点も多々。そうした部分に付いていける人なら別次元の面白さを見出すことができるのかもしれないが、私にはその能力は無かった。あるいは、これはリアルな死の話ではなく、死を何かのメタファーにして作られた話なのかもしれないが、自分にとっての死や葬式というのは全くこういうものではないから、どのみち付いていけなかった。


【空の青さを知る人よ】(6/10)

監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
(アニメーション)
声の出演:吉沢亮、吉岡里帆、若山詩音、松平健、他
製作国:日本
ひとこと感想:『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の岡田麿里氏の脚本によるオリジナルのアニメーション。市役所勤めの姉と二人暮らしの女子高生のもとに、姉の高校時代の元カレがタイムスリップしてきたところ、街を出てミュージシャンとなった現在の姿の元カレもやって来て不思議な四角関係が始まる。奇妙な設定を聞いて大丈夫かな~と危惧していたが、それぞれの登場人物の心情が丁寧に描写されているので、割とすんなりストーリーを受け入れることができた。エンディングも前向きで爽やかで後味もよく、総じていい映画だったなと思う。けれど、タイムリープものが感覚的に受け入れ難いという自分の年寄り病が発動したのは、残念ながらどうにもできなかった。


【空の瞳とカタツムリ】(4/10)

監督:斎藤久志
脚本:荒井美早
出演:縄田かのん、中神円、三浦貴大、藤原隆介、内田春菊、柄本明、利重剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:この映画に登場する男女の皆さんは、どうしてそこまでセックスすることしか考えていないのか。そんなに辛いならとりあえずやらないという選択肢はないのか。別にやらなくても死なないし、女同士でも全然いいじゃん。今の子達ってきっと、「男女」で「性行為」をするということがそこまで強迫的な前提にはなってないと思うんだけどな。大変申し訳ないけれど、その辺りがいかにも一時代前の男性の感覚といった感じで、今ではちょっと古めかしいんじゃないかと思った。


【存在のない子供たち】(6/10)

原題:【Capharnaum】
監督・脚本:ナディーン・ラバキー
出演:ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ、 カウサル・アル・ハッダード、ファーディー・カーメル・ユーセフ、シドラ・イザーム、アラーア・シュシュニーヤ、他
製作国:レバノン/フランス
ひとこと感想:過酷な環境に暮らす子供達を描いたレバノン映画。主人公の少年は貧民街に生まれ、両親が出生届を出さなかったため身分証明書が無く、法的に存在していない。少年の面倒を見てくれた女性は不法滞在で捕まり、その赤ちゃんはある男に取り上げられてしまうが、その最中、11歳で強制結婚させられた妹が妊娠のトラブルで死んでしまう。少年は妹の夫を刺して刑務所に入れられるが、取り調べの過程で両親を「僕を産んだ罪」で訴える。ナディーン・ラバキー監督は、リサーチ中に実際に目にした事柄を盛り込んでこの物語を作ったのだそうで、主演の少年を始めとする演者のほとんどは、演じた役柄に似た境遇にいた素人なのだという。この物語には、レバノンだけでなく世界中の辛い境遇にある子供達がいつか救われますように、という監督の願いが痛いほど感じられた。


【Diner ダイナー】(6/10)

監督・脚本:蜷川実花
共同脚本:後藤ひろひと、杉山嘉一
原作:平山夢明
出演:藤原竜也、玉城ティナ、窪田正孝、本郷奏多、武田真治、斎藤工、佐藤江梨子、金子ノブアキ、小栗旬、土屋アンナ、真矢ミキ、奥田瑛二、他
製作国:日本
ひとこと感想:いかにも蜷川実花監督っぽい極彩色のど派手な世界。豪華キャストが個性的なキャラを生き生きと演じていらっしゃるのはいいんだけど、殺し屋だけが集まるダイナーとかいったおよそ現実的じゃない設定に、もう本当に興味が湧かない。いよいよ自分の感性はばぁさん化しているのだなぁとしみじみしてしまった。


【台風家族】(8/10)

監督・脚本:市井昌秀
出演:草彅剛、新井浩文、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子、甲田まひる、若葉竜也、長内映里香、相島一之、斉藤暁、榊原るみ、藤竜也、他
製作国:日本
ひとこと感想:【箱入り息子の恋】の市井昌秀監督が描く、父親の葬式に集まったあるきょうだいの肖像。売れない俳優くずれで守銭奴の長男、その大人しい妻、すっかり兄を見限っているエリートサラリーマンの次男、離婚歴があり一癖ある長女、そして姿を現さない末っ子の三男。様々な訪問者が出入りする中、意外な真実が次々に明らかになっていく。でもそれは、物語の推進力ではあっても骨子ではなく、いろいろあっても家族の繋がりってそんなに簡単に切り捨てたり出来ないよなぁ、といった辺りがテーマなんじゃないかと思う。だからって、許せるとか許せないとかはそれまでの経緯にもよるし、親を無理に許したりしなくていいし、きょうだいが無理に仲良くしたりしなくても全然いいんだけど。
長男役の草彅剛さんを筆頭に、その妻役の尾野真千子さん、長女役のMEGUMIさんなど、意外な配役がぴたりと嵌まっているのが一番の見どころだと思うけど、その中で、エリートサラリーマンの次男を演じる新井浩文さんはつくづくいい役者だと、どうしても、どうしても思わずにはいられなかった。


【多十郎殉愛記】(5/10)

監督・脚本:中島貞夫
共同脚本・監督補佐:谷慶子
監督補佐:熊切和嘉
出演:高良健吾、多部未華子、木村了、永瀬正敏、寺島進、他
製作国:日本
ひとこと感想:高良健吾さん演じる浪人の美しさは半端なく、途中までは期待値が高かった。けれど、なまじっか主人公が長州藩からの脱藩浪人だとかいう背景が入ってきた上に、結局個人的で理不尽な逆恨みのレベルから大して膨らむこともなく話が終息してしまい、全体的に中途半端な印象に。もしかしたら監督さんは、時代の流れに背を向けて犬死にする哀しさみたいなのを描きたかったのかもしれないが、多部未華子さん演じる小料理屋の出戻り女将とのラブストーリーの方に徹頭徹尾話を振り切ってしまった方がよかったのではないかと思う。


【漂うがごとく】(6/10)

原題:【Chơi Vơi (Adrift)】
監督:ブイ・タク・チュエン
脚本:ファン・ダン・ジー
出演:ドー・ハイ・イエン、ジョニー・グエン、リン・ダン・ファン、グエン・ズイ・コア、他
製作国:ベトナム
ひとこと感想:ベトナム映画の特集上映の1本で、満たされない思いを抱えて彷徨う女性を描く。自分を襲った男になびくとかありえないんで、そういうところは何だかなぁと思うけど、湿度の高さを思わせる画面に映り込む、現在のベトナム都市部での暮らしの断片には心魅かれる。ベトナムでもこんな映画が作られているんだなぁと、勃興しつつあるベトナム映画界のポテンシャルを感じた1本だった。


【たちあがる女】(8/10)

原題:【Kona fer í stríð (Woman at War)】
監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、他
製作国:アイスランド/フランス/ウクライナ
ひとこと感想:【馬々と人間たち】のベネディクト・エルリングソン監督の最新作。ごく普通に市民生活を送り、ウクライナから養女を迎えようとしている独身女性が、地元の中国資本のアルミニウム工場に電気を送る鉄塔や送電線に単独で破壊行為を繰り返す。確かにアイスランドの広大な大地に無骨な鉄塔や送電線は似つかわしくなく、気持ちは分からないじゃないけれど、だからって環境テロに走っていいものか。でも、そんな彼女の人となりを、北欧映画らしい言葉少ないタッチで訥々と追いかけているところに、名状しがたい味わい深さがあった。あのラストは、今後人間は環境破壊された世界の中を歩いて行かなければならない、ということを示唆しているのだろうか。彼女の気持ちが盛り上がってくると、どこからともなくアコーディオン・スーザホン・ドラムのスリーピースバンドが現れて、その場でしれっとBGMを奏でているのが面白かった。


【旅のおわり世界のはじまり】(8/10)

監督・脚本:黒沢清
出演:前田敦子、加瀬亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ、他
製作国:日本/ウズベキスタン/カタール
ひとこと感想:ウズベキスタンを舞台にした黒沢清監督の新作。ある中堅女性タレントが、番組レポーターの仕事で少数のスタッフと異境の地を訪れる。海外に行くのも慣れている様子の彼女は黙々と仕事に取り組むが、内面ではキャリア上の目標を見失いつつある状況に悩んでいた。そんな彼女が、見知らぬ国でさまよって、やがて自分を取り戻す。びっくりするほど黒沢監督っぽくない開放的な雰囲気を感じるのは、ウズベキスタンの雄大な景色のせいか(笑)。それにしても、前田敦子さん一人を中心に据えて映画を成立させることができるという、その独特の求心力に改めて驚かされた。


【魂のゆくえ】(7/10)

原題:【First Reformed】
監督・脚本:ポール・シュレイダー
出演:イーサン・ホーク、アマンダ・セイフライド、フィリップ・エッティンガー、セドリック・カイルズ、ヴィクトリア・ヒル、他
製作国:アメリカ/イギリス/オーストラリア
ひとこと感想:【タクシードライバー】の脚本家などとしても名高いポール・シュレイダー監督が描くある牧師の苦悩。自分の教会が環境汚染を起こしている企業から献金を受けていることを知った牧師は、もはや集金マシンでしかなくなった宗教システムと、目の前の人間を現実的に救うことの狭間で自らの無力さに打ちひしがれ、更に、自分の頑迷さで息子を死なせてしまった過去をオーバーラップさせて苦悩する。ラストシーンが一見唐突に映ったが、あれこそが彼に訪れた救済であり、神の恩寵なのではないかと思った。


【誰もがそれを知っている】(7/10)

原題:【Todos lo saben (Everybody Knows)】
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン、他
製作国:スペイン/フランス/イタリア
ひとこと感想:久しぶりにスペインに帰郷した女性の娘が誘拐され、その行方を探すうち、女性と幼なじみの男性との関係についての長年の公然の秘密が明らかになっていく。イラン出身のアスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデム夫妻を迎えて撮った新作。単なるサスペンスの域を超えた細やかな人間模様の描写に監督の真骨頂が感じられるけど、今までのファルハディ監督作と較べると、そこまで生々しい共感を覚えることができなかったような気もする。


【タロウのバカ】(6/10)

監督・脚本:大森立嗣
出演:YOSHI、菅田将暉、仲野太賀、奥野瑛太、豊田エリー、植田紗々、國村隼、他
製作国:日本
ひとこと感想:大森立嗣監督が描く、ネグレクトされ続けてきた少年達の世界。主人公は、戸籍がなく、学校に通ったこともなく、名前がない奴という意味でタロウと呼ばれる少年。似たような境遇の仲間達と拳銃を手に入れたことで暴走が始まり、彼等が抱える空虚さが剥き出しになっていく。社会のシステムに入れず、かと言って反社会的組織のようなものに加わるほどの度量も強さもない、言わばヘタレな少年達は、誰からもまともに愛されたことがないため、愛して欲しいという代わりに、自分達より更に弱いものを相手に叫んだり怒鳴りつけて脅したり、暴力を振るったりすることしかできない。その姿には心を抉られるけれど、あまりにも救いもカタルシスもないのがちょっと辛かった。しかし、拳銃を偶然拾うという展開はエピソードとしてかなりありふれているので、そろそろ禁じ手にした方がいいんじゃないかと思う。


【ダンスウィズミー】(8/10)

監督・脚本:矢口史靖
出演:三吉彩花、やしろ優、chay、ムロツヨシ、宝田明、三浦貴大、他
製作国:日本
ひとこと感想:矢口史靖監督がミュージカル映画に初挑戦!いつの間にかすっかり働く女性の役が似合う年齢になっていた三吉彩花さん&驚愕するほどの歌や踊りの才能を見せるやしろ優さんによるロードムービー仕立てで、全く噛み合わない二人が友情を育むという筋書きが面白い。宝田明さん演じる催眠術師の完璧な胡散臭さもいいスパイスで、ムロツヨシさんやchayさんらの配役も的確。監督と同年代なせいか、ポップでダンサブルな楽曲の数々がどれもこれも懐かしすぎる。矢口監督の脱力系コメディは、脱力しすぎてえ~っとなる場合もあるけれど、本作はバランスがよく取れた心おきなく楽しめる良作だと思う。


【チワワちゃん】(4/10)

監督・脚本:二宮健
原作:岡崎京子
出演:吉田志織、門脇麦、成田凌、村上虹郎、寛一郎、玉城ティナ、栗山千明、浅野忠信、他
製作国:日本
ひとこと感想:数人の男女のグループが不思議ちゃん系の女の子の死をきっかけに自分達の青春を振り返る、といったストーリー。ケータイとかインスタとかが出てくるってことは今の時代なの?それにしては、中身はいかにも上っ面をなぞっただけのごく薄っぺらい80年代風で、時代感覚が行方不明。80年代から90年代にかけての岡崎京子さんの作品群は濃厚な死の匂いや絶望感を抱えており、浮かれた時代と逆行するように見えて実は、幸せになりたいという埋められない飢餓感をあぶく銭で埋めていたあの時代の皮膚感覚と通底していたのではないかと思うのだが。それは過剰な飽和の上での虚無や欠落を経た今の時代のメンタリティとはおそらく根本的に何かが違っている。彼女の作品の映画化は、設定だけを拝借してみても翻訳不可能というか全く意味がないので、生半可な気持ちで手を出しちゃいかんだろといつも思うのだが、どうして性懲りもなくやってしまうかな……。


【月夜釜合戦】(7/10)

監督・脚本:佐藤零郎
出演:川瀬陽太、太田直里、門戸紡、渋川清彦、西山真来、赤田周平、他
製作国:日本
ひとこと感想:再開発が進められ無毒化されようとしている大阪の釜ヶ崎。この映画に描かれる釜ヶ崎の人々を巻き込んだ大騒動には、その場所に息づき、これからもそこで生きつづけようとする人々に対する佐藤零郎監督の愛が込められている。ここを追い出された人達はどこへ行けと言うのだろう。ちなみに釜ヶ崎は大阪市西成区北東部の一部の地域のことで(西成区の他地域には一般的な住宅街もあるとのこと)、メディアが同地区をあいりん地区と呼んでいるのだそうだ。


【ディリリとパリの時間旅行】(9/10)

原題:【Dilili a Paris】
監督・脚本:ミッシェル・オスロ
(アニメーション)
製作国:フランス/ドイツ/ベルギー
ひとこと感想:ミッシェル・オスロ監督が描き出すベル・エポックのパリ。フランスとニューカレドニアの混血の少女ディリリは、高い教育を受けた勇敢でエレガントで好奇心旺盛なレディで、パリを隅々まで知る配達人の少年と共にある事件の解決に乗り出す。彼女達に手を貸すベル・エポックの著名人達は、実際はこの映画が目指す理想に叶う人達ばかりじゃないので(例えば、ピカソの女性に対する扱いは大概ひどいものだった)、ちょっとベル・エポックを美化しすぎでは?というきらいはある。けれど、芸術や知性の力で暴力や差別やミソジニーに立ち向かう、という監督のメッセージには、シンプルに心を動かされた。それらは日本に限った話じゃなく、世界全体で解決していかなければならない共通の問題なのだ。


【天気の子】(8/10)

監督・脚本:新海誠
(アニメーション)
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬、他
製作国:日本
ひとこと感想:新海誠監督が描く、晴れ女の少女と家出少年のボーイ・ミーツ・ガール。これまでの新海監督の作品で【言の葉の庭】の雨の表現が最も好きだったので、東京という都市の中にある数々の風景をバックに、大好きな天気の表現がたっぷり描かれていることにまず感激。で、晴れ女や晴れ男はもしかしてあるんじゃないの?という個人的な感覚から、本作には親しみを持てたんですよね~。(歳取ってきて、人類にはおそらくタイム・リープの能力はないという体感が勝るようになり、その手のSFには共感しにくくなってきてるけど、祈れば晴れるというのは何かありそうな気がするのだ。)家出した主人公を手助けするルポライターやその助手、ヒロインの弟、晴れ女の仕事で出会うおばあさんなどの人物設定にも今までの映画以上に魅力を感じる。そして主人公が「天気なんて狂ったままでいい!」と言い放ち、社会全体に降りかかる不都合を放置しても好きな女の子を助けることを選んだのは、これからの時代のコモンセンスとして圧倒的に正しいと思った。個人的には、今までの新海誠監督作品で一番好きかもしれないと感じた。


【典座 TENZO】(4/10)

監督・脚本:富田克也
共同脚本:相澤虎之助
出演:河口智賢、近藤真弘、倉島隆行、青山俊董、他
製作国:日本
ひとこと感想:【サウダーヂ】の富田克也監督が曹洞宗から依頼を受けて作った作品。実際の曹洞宗の僧侶が出演し、ある地方都市に生きるお坊さん達の姿を演じる。地域コミュニティにおける日常の中での信仰、といったテーマで実際に僧侶達に取材して聞き出した事実に近い内容が盛り込まれているらしく、ドキュメンタリーとフィクションが入り混じったような不思議でシュールな時間が流れる。しかし如何せん、お坊さん達は俳優じゃないので演技は上手ではなく、そこが決定的に致命的。もちろん真剣に取り組んで下さっているのは分かるのだけれど、一体何を見せられているんだろうという気持ちになるのは、残念ながら如何ともしがたかった。


【トゥレップ 『海獣の子供』を探して】(5/10)

監督:山岡信貴
出演:森崎ウィン、五十嵐大介(【海獣の子供】原作者)、長沼毅(生物学者)、田島木綿子(獣医学博士)、二木あい(水中表現家)、中沢新一(人類学者)、名越康文(精神科医)、佐治晴夫(理論物理学者)
製作国:日本
ひとこと感想:原作者や学者を始めとする様々な専門家へのインタビュー、およびドラマにより、アニメ【海獣の子供】の世界を考察してみようという一本。単にインタビュー映像を並べただけでは面白くない、と発想したまではよかったかもしれないが、わざわざミステリー仕立てにしようとドラマパートを付け足す必要があったかなぁ。インタビューされる人達は十分興味深い面々なのだから、中途半端なことをせず、もっとシンプルな映画にした方がよかったんじゃないかと思う。


【ドッグマン】(7/10)

原題:【Dogman】
監督・脚本:マッテオ・ガローネ
共同脚本:ウーゴ・キーティ、マルリツィオ・ブラウッチ、マッシモ・ガウディオソ
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:【ゴモラ】のマッテオ・ガローネ監督の新作で、暴力的な幼なじみに逆らえず仕事や信頼など様々なものを失うトリマーの男の物語。しかしどうして、口約束など守ってくれる筈がない幼なじみの口車に乗って強盗の片棒を担ぎ、近所の人々の信頼を失ってしまうのか?服役しようが復讐しようが何をしようが最早周囲に受け入れられるはずがないだろう。分かりきっている展開に易々と巻き込まれてしまういじましい主人公にイガイガする。暴力と無縁であるはずの存在が暴力にどのように絡め取られるか、といったテーマらしいのだが、主人公をこんな卑小な男に描いたのもわざとなの?父親として娘のことだけはまっとうに愛しているらしいのは唯一の救いなのだが。


【隣の影】(8/10)

原題:【Undir trénu (Under the tree)】
監督・脚本:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン、エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル、シグルズール・シーグルヨンソン、ソウルステイン・バックマン、セルマ・ビヨルンズドッテル、ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル、他
製作国:アイスランド/デンマーク/ポーランド/ドイツ
ひとこと感想:些細なきっかけで始まったご近所トラブルが、誤解と不寛容の応酬で際限なく悪化していく。恐い恐い、半端なホラーよりよっぽど恐い!ここに描かれているのは、現代によくある、狭量さを原因にした関係性の破綻なのではなかろうか。こんなに冷徹な観察眼を持って底意地の悪い話を描けるなんて凄い。アイスランドの俊英、ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン監督には今後も注目していきたい。


【トム・オブ・フィンランド】(6/10)

原題:【Tom of Finland】
監督・脚本:ドメ・カルコスキ
共同脚本:アレクシ・バルディ
出演:ペッカ・ストラング、ジェシカ・グラボウスキー、ラウリ・ティルカネン、他
製作国:フィンランド/スウェーデン/デンマーク/ドイツ/アメリカ
ひとこと感想:トム・オブ・フィンランドは第二次世界大戦後に活躍したフィンランドの画家。ハードゲイの人々自身が理想像とするマッチョなハードゲイの姿を描いたことで、ゲイとはナヨナヨした存在だというそれまでの既成概念を打ち破ってゲイアートの先駆者になり、その後の世界中のゲイカルチャーに多大な影響を与えたそうだ。氏のことを知らなかったのでいろいろ勉強になった。同性愛者としてのアイデンティティを表明することは今だって大変だけど、当時は今の比じゃないくらい本当に大変だったのだろうと思いを巡らせた。


【翔んで埼玉】(7/10)

監督:武内英樹
脚本:徳永友一
原作:魔夜峰央
出演:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、成田凌、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、益若つばさ、武田久美子、麿赤兒、竹中直人、京本政樹、他
製作国:日本
ひとこと感想:魔夜峰央先生の伝説的コミックスのまさかの実写化。映画を見た後、これは海外の人に説明するのは難しいんじゃないかな?などと思ったが、自虐的な地元愛というものは全世界的に散在しているらしく、案外どこでもウケているらしいというのが意外だった。埼玉の次に我が千葉がフィーチャーされているのは喜ばしかったが、サザエだけじゃなく伊勢エビとかアワビとかの海の幸ももっとアピールして欲しかったぞ。
しかし、映画は面白かったのに、某ネオナチクリニックの宣伝タイアップの件ですっかりケチがついてしまった……。映画業界には慢性的にお金がないのだろうが、お金さえ貰えるのであれば何でもOKという態度は、これからの時代には通用しないだろう。映画業界はもっと真剣に価値観をアップグレードさせることを考えなければ、今後は本当に生き残っていけなくなるんじゃないかと思う。


【ドント・ウォーリー】(6/10)

原題:【Don't Worry, He Won't Get Far on Foot】
監督・脚本:ガス・ヴァン・サント
原作:ジョン・キャラハン
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:半身不随の風刺漫画家ジョン・キャラハンの物語で、元は故ロビン・ウィリアムズ氏からガス・ヴァン・サント監督への持ち込み企画だったとのこと。あのような状況では人生投げやりになるのも無理ないが、アルコールに溺れているだけでは悲しみが永遠に再生産され続けるだけ。自分の人生の主導権を自分が取るって大事なことだと肝に銘じたい。


【長いお別れ】(8/10)

監督・脚本:中野量太
共同脚本:大野敏哉
原作:中島京子
出演:蒼井優、竹内結子、山崎努、松原智恵子、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人、他
製作国:日本
ひとこと感想:【湯を沸かすほどの熱い愛】の中野量太監督の最新作。外国に暮らしながら夫や息子との関係に悩む姉と、自分の道がなかなか見つけられず途方に暮れる妹の、それぞれ人生に苦戦している姉妹が、かつて厳格だった父親の認知症を知らされる。山崎努さん、竹内結子さん、蒼井優さんの演技の説得力が半端なく、認知症の夫をゆるやかに受け止め自然体で寄り添う母親役の松原智恵子さんの可愛らしさも素敵。姉妹と父と母の関係性がリアリティをもって緻密に描かれているのが見事で、観察力さえあれば今の時代でも家族映画は充分創れるのだという可能性を感じさせてくれるのが素晴らしい。しかしこれ、男女が逆で母親が先に病気になったらどうする気だったのだろうと、その点だけは気になった。


【凪待ち】(8/10)

監督:白石和彌
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー、他
製作国:日本
ひとこと感想:白石和彌監督の最新作。どこか人間的な魅力があるらしく人に好かれるものの、自らの中の嵐に翻弄され、手をつけてはいけないお金まで使い込んでしまうギャンブル中毒者に、のめり込んだら夢中になってしまいそうな危うさをどこかに秘めた香取慎吾さんがピタリと嵌まる。香取さんはいつの間にこんな人を演じられるようになっていたのか。今までも決して嫌いじゃなかったけれど、【黄泉がえり】で草彅剛さん、【十三人の刺客】で稲垣吾郎さんが刺さったように、この映画で初めて香取慎吾さんに感電したような気がする。そして、救いのないエンディングが少なくない白石監督の作品の中でも、主人公の再生を示唆して終わる本作には特別な輝きがあるように思えた。


【泣くな赤鬼】(8/10)

監督・脚本:兼重淳
共同脚本:上平満
原作:重松清
出演:堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、麻生祐未、キムラ緑子、竜星涼、他
製作国:日本
ひとこと感想:(ネタバレ御免)重松清さんの短編を原作にした、高校野球部の監督と、若くして不治の病に冒された元教え子の物語。堤真一さんが演じるのは、相手を自分の型に嵌めることしか考えていない体育会系のおっさん。過度な精神論を振りかざし個性を無視して生徒のなけなしの才能を潰す人類の敵。こんなタイプの人間の心情など1ミリも理解したくないが、案の定こいつが、柳楽優弥さん演じる少しばかり根性が足りなかった教え子と残念な化学反応を起こしてしまう。お前のエゴや偏狭さが原因でこんなことになっちまったじゃねーかよ!前途ある若者の可能性を潰してんじゃねーよ!……しかし、二人が年月を経て再開した時、教え子には命の期限が迫っており、かつて欠点だらけだった二人が、あなたが先生でよかった、生徒でよかったと互いに分かり合うことができたりしたら……泣くだろそんなもん!二人ともあまりにも上手すぎてずるいよ!人間は間違いを犯してしまうけれど、間違いを認めることができれば誰だっていつだって成長することができる。そんなことを教えられたような気がした。


【ナディアの誓い】(7/10)

原題:【On Her Shoulders】
監督:アレクサンドリア・ボンバッハ
(ドキュメンタリー)
出演:ナディア・ムラド、アマル・クルーニー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんの活動を描いたドキュメンタリー。彼女はISから受けた死ぬより辛いかもしれない過酷な体験を人前で何百回も話し続けた。生きているかもしれない家族や同じような立場の人々に救いの手が届くことを祈りながら……。そうして自ら証言者になることで実際にたくさんのことを動かしたのは本当に凄い。その使命感の強さと勇気に涙が出そうになる。これは、ドキュメンタリーとしての出来栄え自体はともかく、今見ておくべき要素がたくさんある映画だと思う。
それにしても、国際弁護士のアマル・クルーニー氏の、そこいらのモデルなんて裸足で逃げ出しそうなゴージャスさったら!彼女はきっと、マスコミの注目を浴びることを計算した上で、それを敢えて利用することもあらかじめ織り込み済みで、ド派手なプレゼンスを演出しているんでしょうね。さすがジョージ・クルーニー氏の奥さん、凄い人だなぁ……。


【ナポリの隣人】(7/10)

原題:【La Tenerezza】
監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
共同脚本:サンドロ・ペトラリア、ステファーノ・ルッリ
原作:ロレンツォ・マローネ
出演:レナート・カルペンティエーリ、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、エリオ・ジェルマーノ、グレタ・スカッキ、ミカエラ・ラマッツォッティ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:偏屈なじいさんが、隣家に越してきた一家の女性と心を通わせるも、予期せぬ悲劇が。その時、じいさんとの関係が冷え切っていたじいさんの娘はどうするか。じいさんは、過去のしがらみやわだかまりなどがない他人とは心安い関係を築けたけれど、子供にしてみればよほどろくでもない人物だった様子。自分の人生をすっかり人のせいにしてしまっている息子はもう父親と和解できそうにないが、自分の足で自分の人生を生きている娘は自分自身の問題として何とか少しでも父親と向き合おうとする。私自身も親とはいろいろあったので、娘と親との関係を描く映画には未だに心を刺激されてしまうみたい。一体いつまでついて廻るのか。チッ面倒くせぇなぁ。


【二階堂家物語】(4/10)

監督・脚本:アイダ・パナハンデ
共同脚本:アーサラン・アミリ
出演:加藤雅也、石橋静河、町田啓太、田中要次、白川和子、他
製作国:日本
ひとこと感想:河瀨直美監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務める、世界の若手監督に奈良を舞台にした映画を製作してもらうプロジェクトNARAtiveの1本。しかし、婆さんが加藤雅也さん演じる息子にいきなり「妻が男の子を産めなかったら2号を受け入れろ」などと言った時点で、気持ちが完全にシャットダウン。男じゃなきゃ家を継げないとか何時代……。しかもその息子も、自分は世界で一番不幸な人間なのだという自己憐憫に耽溺しながら、自分の娘の世代に不幸を再生産しようとしている、控え目に言ってクソ男。私的には、世の中を嫌なものにしているのは年寄り世代の不寛容だって結論にしかならない。そしていろいろ説明不足なまま結論も出ずに終わってしまって何とも消化不良。整合性もカタルシスもない展開は見ていてひたすら辛かった。


【ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス】(7/10)

原題:【Ex Libris The New York Public Library】
監督:フレデリック・ワイズマン
(ドキュメンタリー)
製作国:アメリカ
ひとこと感想:フレデリック・ワイズマン監督が、ニューヨーク公共図書館の様々な側面を余すところなく描く。ニューヨーク公共図書館は講演会やイベント、コンサートなども開催されるような一大文化センターで、プロ意識の高いスタッフの皆さんに支えられており、市民はその恩恵を様々な形で享受している。まるで図書館自体が、様々な知の受け皿として存在しようとする、確固たる意志を持った生き物のよう。ニューヨークが世界有数の文化都市であり続ける秘密がこの図書館にあるのかもしれない、と思った。


【人間失格 太宰治と3人の女たち】(8/10)

監督:蜷川実花
脚本:早船歌江子
出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也、他
製作国:日本
ひとこと感想:蜷川実花監督が描く太宰治の物語。小栗旬さんに女たらしの役なんてできるのか、なんて懸念は馬鹿馬鹿しいほどに杞憂だった。主人公も女達も、芸術に奉仕するためなら家庭の1つや2つ壊しても構わないと言いそうなタイプに見えるが、女達は三者三様のやり方で太宰の才能を愛しており、ある者は男を自分のために利用し、ある者は家庭に戻ろうとする男を拒否し、ある者は男に徹底的に寄り添い破滅へと誘(いざな)う。彼女達を演じる沢尻エリカさん、宮沢りえさん、二階堂ふみさんは、それぞれに強烈な説得力があった。蜷川実花監督作品でどれがいいかと問われることがあったら、今後は本作を推していきたい。


【ねことじいちゃん】(6/10)

監督:岩合光昭
脚本:坪田文
原作:ねこまき
出演:立川志の輔、柴咲コウ、小林薫、田中裕子、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之、他
製作国:日本
ひとこと感想:NHK『世界ネコ歩き』で有名な動物写真家、岩合光昭氏が映画を監督するというのでてっきりドキュメンタリーかと思ったら、何とまさかのフィクションで、ネコ漫画の実写映画化だった。主演の立川志の輔さんの佇まいが抜群に素晴らしく、傍から見ると侘しく映るかもしれない猫との二人暮らしを慈しんでいる様子が味わい深く愛おしい。そして猫のたまがめっさ可愛い。さすが岩合さん。しかし、今日び離島で診療所やらカフェやらを運営して採算的にやっていけるのか、離島の割に人が多すぎなのではあるまいか、という点が気になった。これは30~40年前の日本の田舎の姿なんじゃないかなぁ。国がいろいろと舵取りを間違えてしまったから、日本の地方のコミュニティはもうどこもすっかり疲弊してしまっているのに。


【NO SMOKING】(8/10)

監督:佐渡岳利
出演:細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一、小山田圭吾、ヴァン・ダイク・パークス、マック・デマルコ、宮沢りえ、水原希子、他
(ドキュメンタリー)
出演・ナレーション:星野源
製作国:日本
ひとこと感想:細野晴臣氏のデビュー50周年を記念したドキュメンタリー 。はっぴいえんど、YMO、ソロ活動、サントラ、歌謡曲、テレビ出演、etc.……と様々なステージで活動してきた細野晴臣氏は、その存在自体が日本の偉大なる文化遺産だ。関わってきた仕事が膨大すぎて、それらを追うだけで結構いっぱいいっぱいな印象もあるけれど、お茶目で洒落っ気があって新しもの好きで、常に面白いことにしか興味の無い細野さんのキャラクターの魅力は端々から伝わってくると思う。大好きな「ろっかばいまいべいびい」を歌う細野さんがカッコよすぎて泣いた。とりあえず音楽関係者は全員この映画を見といた方がいいんじゃないかと思う。


【バースデー・ワンダーランド】(6/10)

監督:原恵一
脚本:丸尾みほ
原作:柏葉幸子
(アニメーション)
声の出演:松岡茉優、杏、麻生久美子、市村正親、東山奈央、藤原啓治、矢島晶子、他
製作国:日本
ひとこと感想:原恵一監督による児童文学のアニメ化作品で、少女(とその変わり者の叔母さん)が異世界の国を旅する物語。しかし、消極的なヒロインの成長物語より、ヒロインと同行した叔母さんにばかり興味が行ってしまった。あのお気楽さは、海千山千の人生経験に裏打ちされてそう。ヒロインを助けて一緒に冒険するのが知恵も経験も豊富でメンタルがタフな妙齢の女性、というドラマツルギーは新機軸でいいと思う。


【バーニング】(8/10)

原題:【버닝(Burning)】
監督・脚本:イ・チャンドン
共同脚本:オ・ジョンミ
原作:村上春樹
出演:ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ、他
製作国:韓国
ひとこと感想:主人公は孤独な青年。再会した幼なじみに恋心を抱くが、彼女はある金持ちの青年とも親しくしている様子。ある日の夕暮れ、主人公は家を訪ねて来た二人と奇妙な時間を過ごすが、金持ちの青年はふと、自分には古いビニールハウスを定期的に燃やす趣味があると打ち明ける。程なく幼なじみがいなくなり、主人公は「ビニールハウス」の意味に気づく……。村上春樹氏の原作を【ペパーミント・キャンディー】【オアシス】のイ・チャンドン監督が映画化。筋立ては確かに村上春樹的なのに、見事に韓国映画に換骨奪胎され、イ・チャンドン監督の映画になっている。夕暮れのシーンで、幼なじみが上半身の服を脱ぎ捨てて踊るシーンの官能的なこと!私が一番よく韓国映画を見ていた頃の韓国映画の雰囲気は正にこんな感じだったなぁ、と懐かしくなった。


【バイス】(8/10)

原題:【Vice】
監督・脚本:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:政治家としての評価があまり高くはなかったブッシュ・ジュニアの影で副大統領として暗躍したディック・チェイニーを描いた物語。大統領になりたかっただけのブッシュ・ジュニアより早く情報を入手し、ジュニアの決定を誘導して自分が思う方向に国を導いたチェイニーは、イラク空爆やISの形成やシリア内戦に関与する一方、巨大な石油利権を手にしたとも言われている。一体誰のための政治なの?映画の最後辺りで「自分はなすべきことをしたので謝らない」と言っていたが、そもそも「なすべきこと」の定義を間違えているんじゃないのか。今のアメリカの、自分の利害のためなら従来タブーとされていた強引な手法を取ることも憚らないという歪んだ政治体制は、既にこの時代に種が撒かれていたのだ。そして、まるでそうした手法の劣化版のような今の日本の更に酷い政治状況を思い出し、更に気持ちが暗くなった。日本でも頭の悪い軽い神輿を担ぐ構図があって、その裏で悪賢い奴らが暗躍し、うまい汁をたっぷり吸って醜く肥え太っているに違いない。
あのでっぷりしたチェイニーを演じていたのがクリスチャン・ベールさんだったと後で気づいて驚く。この人のフィジカルなアプローチは相変わらず凄いなぁ。他に、サム・ロックウェルさんのブュッシュ・ジュニアも、タイラー・ペリーさんのコリン・パウエルも、スティーヴ・カレルさんのラムズフェルドもよく似ていて驚いた。政治家として強権を振るう裏で、同性愛者の次女の存在が党利党略と矛盾していたことなどもちゃんと描かれていたのは面白かったが、チェイニーから心臓を移植された人がナレーターの正体だった、というアイディアはあまり活かされておらず、そこだけ少し残念だった。


【ハイ・ライフ】(6/10)

原題:【High Life】
監督・脚本:クレール・ドゥニ
共同脚本:ジャン=ポール・ファルジョー
出演:ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、ミア・ゴス、アンドレ・ベンジャミン、他
製作国:ドイツ/フランス/イギリス/ポーランド/アメリカ
ひとこと感想:【ネネットとボニ】【ガーゴイル】の大ベテラン、73歳(エーッ !!)のクレール・ドゥニ監督、何故今になって宇宙船の船内を舞台にしたSFを手掛けたのだろう。死刑囚や終身刑囚だけが乗せられた実験用の宇宙船ってなんやねん……とのっけから設定についていけなかったのだが、剥き出しになった欲望が渦巻く感情の牢獄と化した空間って、いかにもドゥニ監督が好きそうなモチーフ。特にジュリエット・ビノシュ先生がやりたい放題。単にこういうモチーフを描くために密閉された空間というセッティングが必要だから宇宙船の話にしたんじゃないのかな。自分の頭が悪くて結局最後まであまりよく分からないストーリーだったのだが、ハイ・ライフというくらいだから、古い世代の欲望を浄化して高次の生命体に進化するということだったのか。鑑賞後には何だかまとまりのない感覚が残ったが、あるいはこんな妙な感覚こそが、映画的と言える何かなのかもしれないと思った。


【ハウス・ジャック・ビルト】(7/10)

原題:【The House That Jack Built】
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、シオバン・ファロン、ソフィー・グローベール、ライリー・キーオ、ジェレミー・デイビス、他
製作国:デンマーク/フランス/ドイツ/スウェーデン
ひとこと感想:ラース・フォン・トリアー監督が描く連続殺人犯の物語。マット・ディロン様は全キャリアの中でもトップクラスかもしれないような名演を見せ、インパクトは随一だけど、何せジャックが作った家ってアレだから、例によって人にお薦めするのは難しい。多くの人が不快に感じるようなストーリーを敢えて作りたがるのは、既に監督の習い性というか、一種の病(やまい)のようなものだから、もうどうしようもなさそう。ともあれ監督は、芸術の神様と、グレン・グールド先生とデヴィッド・ボウイ先生には謝っておいた方がいいんじゃないだろうか。


【運び屋】(8/10)

原題:【The Mule】
監督・出演:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
原案:サム・ドルニック
出演:ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:クリント・イーストウッド監督の最新作。あれ?御大、俳優引退するとか言ってなかったっけ?まぁ引退を撤回してくれる分には大歓迎ですけども。……主人公は百合の栽培を生業とする偏屈な男。家庭よりも外の世界に大切なことがあると考えるタイプで、娘の結婚式すらブッチしてしまった結果、家族から見放されてしまう。成り行きで大量のドラックを車で運ぶ仕事に手を染め、経験に裏打ちされた知恵と度胸で危ない場面も乗り切り、ボスにも気に入られるが、そのボスが殺されてしまって仕事が今までのようにうまくいかなくなる。折りも折り、元妻が病気で死の淵にいると発覚……。一言ネタバレすると結果オーライで、頑なだった男が徐々に自分の人生と折り合いを付けていくようになるストーリー展開が見事。しかも、死ぬまで○○だったとしても百合植え放題って、もしかして割と幸せなのでは……。しかし、主人公がヤバい泥沼に足を踏み入れつつあると分かっていて次々仕事を請け負うようになってしまう辺りがマズい感じで、お金って使おうと思えばいくらでも必要になるんだよなー、という人生あるあるにしみじみしてしまった。


【バジュランギおじさんと、小さな迷子】(9/10)

原題:【Bajrangi Bhaijaan】
監督・脚本:カビール・カーン
共同脚本:パルベーズ・シーク、V・ビジャエーンドラ・プラサード、他
出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキー、シャーラト・サクセーナ、他
製作国:インド
ひとこと感想:口がきけなくなったパキスタンの山村の少女がインドのイスラム寺院に願掛けに行き、親とはぐれて迷子になるも、インド人青年に助けられて何とか帰郷を果たす、という物語。とにかく少女がめっさ可愛い!そして青年はバカがつくほど馬鹿正直……でもだからこそ彼は、対立しているインドとパキスタンの国境をパスポートもビザもなしに越えるなんて自殺行為を引き受けたのであって、その愚直な無私の優しさに心打たれた。ところで、本作が大ヒットするくらいだから、インドの多くの市井の人々は、政府間の思惑とは裏腹に、歴史的経緯に囚われずパキスタンの人々と仲良くやっていきたいと願ってるんじゃないすかね。


【パパは奮闘中!】(8/10)

原題:【Nos Batailles】
監督・脚本:ギョーム・セネズ
共同脚本:ラファエル・デプレシャン
出演:ロマン・デュリス、ルーシー・ドゥベイ、ロール・カラミー、レティシア・ドッシュ、他
製作国:ベルギー/フランス
ひとこと感想:ママがいきなり失踪し、最初は母や妹などの周囲の女性に家事を押し付けてばかりいたパパ(ロマン・デュリス)も、やがてワンオペ育児の苦難に直面せざるを得なくなる、といった筋書き。この家庭は、共働きにも関わらず家事や育児は妻が負担していたようで、妻は夫に内緒で精神科に行ったりもしていた様子。妻はある日職場で倒れた後、糸が切れたようにぷつんと失踪してしまう。夫が家庭を放っておいたのは職場に労働問題があったから、などという伏線もあったのだが、俺だって頑張ってるの一点張りでいつまでも子供達の世話を人任せにするのをやめないし、今まで妻が整えてくれていた家の中がどんどん乱雑になっていってもほったらかし。挙げ句の果てに、子供の面倒を見ろと妹の売れない女優稼業までディスったり、妻から子供達宛てに来た葉書を破ったりし始めた時には、スクリーンから引きずり出してドロップキックやヤシの実割りを食らわせてやりたくなった。こんなに物分かりがよくて健気な子供達が可愛くないのかよ!この夫の無責任感、日本のツイッターなどでもよく見かけるなーとものすごいデジャブ。よく欧米では家事分担の意識が進んでいるように言われるけれど、実はこういう男性の「分かってなさ」は世の東西を問わずまだまだ発展途上なんじゃないだろうか(だからこそ問題になるんじゃないだろうか)としみじみした。でもその後、夫が徐々に現実を受け入れて改心し、自ら家庭に向き合って家事や子供達の世話を始めるところに、やっぱり日本よりは進んでいるなーと救いを感じたけれど。このラストにはちょっとびっくりしたが、妻の気持ちを何よりも優先させることにした、ということなのだろう。映画の原題は【私達の戦い】。パパ一人が頑張ったとか頑張らなかったとかいう話じゃなく、家族に起きた問題に家族みんなで立ち向かった話と捉えているのだろう。


【パラダイス・ネクスト】(5/10)

原題:【Paradise Next】
監督・脚本:半野喜弘
出演:妻夫木聡、豊川悦司、ニッキー・シエ、カイザー・チュアン、マイケル・ホァン、大鷹明良、他
製作国:日本/台湾
ひとこと感想:アウトローでどん詰まりな豊川悦司さんと妻夫木聡さんが台湾で逃避行する話。半野喜弘監督の前作からしてストーリーの面白さよりは雰囲気重視な予感はしていたが、その通りだったかな。それでもトヨエツと妻夫木くんの演技は見ていて飽きない魅力があるけれど。バイクで夜の台湾の街を走るシーンが何かを思い起こさせたが、ホウ・シャオシェン監督の【憂鬱な楽園】辺りだろうか。


【半世界】(7/10)

監督・脚本:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴、杉田雷麟、石橋蓮司、竹内都子、小野武彦、信太昌之、他
製作国:日本
ひとこと感想:阪本順治監督が描くアラフォー男性達の逡巡の世界。最初、稲垣吾郎さんが無骨な炭焼き職人というイメージに若干齟齬があり(それこそ渋川清彦さんが演じた方が似合うんじゃないかと思った)、長谷川博己さんもシュッとしすぎていて元自衛隊員には見えなかった。でもそんなキャスティングの妙が段々面白くなってきて、その新鮮さに不思議な魅力を感じた。しかし、中年の話だからこういう結末もあり得るんだとしても、そうなっちゃうかーとちょっと凹んだけど。ところで、主演の男性三人組だけでなく、吾郎さんの奥さん役の池脇千鶴さんも大変素晴らしかったのでお見逃しなく。


【ピータールー マンチェスターの悲劇】(6/10)

原題:【Peterloo】
監督・脚本:マイク・リー
出演:ロリー・キニア、マクシーン・ピーク、デヴィッド・ムーアスト、ピアース・クイグリー、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:マイク・リー監督の新作。19世紀初頭のナポレオン戦争後、経済の悪化で疲弊した英国で、労働者階級が選挙権を求めて行っていた平和的な抗議活動に軍隊が直接刃を向けた……。こうして書いているとどうしても香港のことが頭をよぎる。パンピーは俺らアッパークラスの言うことを大人しく聞いてりゃいいんだという態度を、政治家や既得権益層が最早隠そうともしないどこぞの落日の国でも、水面下では同じようなことが起こってるんじゃないだろうかと思う。
しかし、そもそもマイク・リー監督の映画とはあまり相性がよくない上、この日の体調は映画に絶望的に合わなかった……本当にどうも申し訳ありませんでした。


【ヒキタさん!ご懐妊ですよ】(8/10)

監督・脚本:細川徹
原作:ヒキタクニオ
出演:松重豊、北川景子、山中崇、濱田岳、伊東四朗、他
製作国:日本
ひとこと感想:マルチクリエイターのヒキタクニオさんが自らの妊活経験を描いたエッセイの実写映画化。かなり年取ってから若い奥さんと結婚したヒキタさんは、子供が欲しい奥さんの熱意から妊活を始めるが、なかなか子供ができないのは実は自分の精子の老化のせいだったと知りショックを受ける。実際、不妊の原因が自分にあるとは思ってもみない男性は多いらしいが、ヒキタさんはすぐ改心し、自身の摂生や体作りのレベルから熱心に取り組み始める。その後の妊活の具体的な過程も、漠然としか知らなかったことが多かったので勉強になったが、妊活の苦難や世間の様々な偏見や誤解を描くだけでなく、夫婦が今一度愛や絆を育むラブストーリーとして、しかも男性側の経験として妊活を描いているところが麗しい。とにかくヒキタさんが奥さんを一途に愛する姿が素敵なので、松重豊さんファンの女性は全員見た方がいい。妊娠・出産・子育てはとっくに社会ぐるみで考えるべき事象になっており。女性に押し付けて知らんぷりしていればいい時代はもう終わる。妊活に関するエッセイなどが世の中に一般的に流通するようになってきて誰の目にも触れやすくなってきた昨今、そろそろ妊活を描く映画やドラマももっと出てきていい頃合いなのではないかと思う。


【ヒックとドラゴン 聖地への冒険】(7/10)

原題:【How to Train Your Dragon: The Hidden World】
監督・脚本:ディーン・デュボア
原作:クレシッダ・コーウェル
(アニメーション)
声の出演:ジェイ・バルチェル、アメリカ・フェレーラ、ジェラルド・バトラー、ケイト・ブランシェット、F・マーレイ・エイブラハム、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:大好きな【ヒックとドラゴン】シリーズの第3作。本作が最終作になるのだろうか。シリーズものはあまり好きじゃないけど本作は例外。でも何で2を劇場公開しなかったんだ、という恨みがましい気持ちがどうしても。ドラゴンを操って空を駆ける本作の爽快な面白さを伝えられず日本での人気を喚起できないのは、どう考えても宣伝・配給会社の怠慢なんじゃなかろうか。


【引っ越し大名!】(8/10)

監督:犬童一心
脚本:土橋章宏
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、濱田岳、小澤征悦、松重豊、及川光博、山内圭哉、西村まさ彦、正名僕蔵、富田靖子、ピエール瀧、飯尾和樹(ずん)、和田聰宏、岡山天音、向井理、他
製作国:日本
ひとこと感想:【超高速!参勤交代】の土橋章宏さんの脚本を、【のぼうの城】なども手掛けたことがある犬童一心監督が映画化。江戸時代の初期には大名の勢力を削ぐなどの目的で国替がしょっちゅう行われていたらしいが、松平直矩(なおのり)という大名が5回も国替をさせられた(父親の代からだと通算7回)のは史実のようで、「引っ越し大名」というあだ名も本当につけられていたらしい。「引っ越し奉行」的な役職があったかどうかは不明だそうだが、史実を元に膨らませた脚本は見事。星野源さんに高橋一生さん、高畑充希さんに濱田岳さん、松重豊さんや小澤征悦さんなどを始めとする贅沢なキャストもいちいち嵌まっているし、演出も盤石。安心して楽しめるエンターテイメントに仕上がっていて素晴らしい。
作中に出てくる「引っ越し唄」、変な歌だなぁと思ったけど、見ているうちに段々味が出てきた。あの歌詞や振り付けは【のぼうの城】の主人公だった野村萬斎さんが手掛けたものらしいです。


【一粒の麦 荻野吟子の生涯】(6/10)

監督・脚本:山田火砂子
共同脚本:重森孝子、来咲一洋
出演:若村麻由美、山本耕史、賀来千香子、佐野史郎、綿引勝彦、平泉成、山口馬木也、柄本明、小倉一郎、渡辺哲、他
製作国:日本
ひとこと感想:日本女性で初めて医師免許を取得した荻野吟子の生涯を描いた作品。もっと突っ込んで描いて欲しいところも多々あったけど、そもそも荻野さんのことをほとんど知らなかったので、入門編としてはいいのではないかと思った。この話は朝ドラにしたら面白いんじゃないですかね?脚本家は森下佳子さんか藤本有紀さんか野木亜紀子さんか中園ミホさん辺りでどうだろう。


【ひとよ】(8/10)

監督:白石和彌
脚本:髙橋泉
原作:桑原裕子
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子、佐々木蔵之介、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、他
製作国:日本
ひとこと感想:白石和彌監督が描く、一風変わった家族のドラマ。かつてDVの父親を殺した母親が、刑期を終えて放浪した後に三兄妹の元に戻ってきた。兄妹達は、それぞれ手酷い嫌がらせを受けて傷ついたりしたトラウマを抱えており、人生がうまくいっていないと感じている。母親はそのことを分かりすぎるくらい分かっているけれど、自分がブレてしまったら皆の人生を余計混乱させてしまうと腹を括っており、決して謝ったりなどしない。母親を演じる田中裕子さんも、三兄妹を演じる鈴木亮平さん、佐藤健さん、松岡茉優さんも本当に素晴らしい。そして、彼等の実家であるタクシー会社を支え続けている音尾琢真さんや韓英恵さん、浅利陽介さんといった面々の緩やかな繋がりがまるで大きな家族みたいに感じられ、兄妹達は決して不幸一辺倒という訳ではなかったんじゃないかとも思われた。何かが大きく変わったという感じのラストではなかったかもしれないけれど、兄妹達はそれぞれ、今までよりは少し晴れやかな気持ちで前向きに生きられるんじゃないだろうか。佐々木蔵之介親子の件が途中で終わってしまっている感じで、そこだけは未だに少し気掛かりだったりするのだが。


【ヒューマン・フロー 大地漂流】(6/10)

原題:【Human Flow】
監督:アイ・ウェイウェイ
(ドキュメンタリー)
製作国:ドイツ
ひとこと感想:中国出身のアーティスト、アイ・ウェイウェイ氏が世界中の難民キャンプを訪れて撮影したドキュメンタリー。アイ・ウェイウェイ氏は2008年の北京オリンピックのメイン会場「鳥の巣」の建設に携わったほどの著名なアーティストだったが、中国政府の方針に対する批判を強めて後に拘束されたりするようになったため、2015年にベルリンに移住し、現在は大学の客員教授として教鞭を取っているという。自分の国を追われるように離れたアイ・ウェイウェイ氏がこの映画を撮ったのは、同じように自分の土地にいられなくなった難民の人々に対して強く思うところがあったからなのかもしれない。
本作に登場する1つ1つの難民キャンプの名前は耳にしたことがあっても、これだけの数の難民キャンプを実際に巡ったことがある人は少ないのではないか。本作の製作時点で世界中の難民の人口は約6500万人で、世界のほとんどの国の人口よりも多い数(執筆当時の国別人口21~23位のフランス・イギリス・イタリアより多い)。誰しも貧しく危険な場所から豊かで安全な場所に移りたいと思うのは当然で、その人の流れは止められるはずもない。難民問題には人類の病理が凝縮されており、全世界が等しく平和で豊かにならなければ解決のしようが無いということを、この映画は改めて突き付けているように思う。


【氷上の王、ジョン・カリー】(9/10)

原題:【The Ice King】
監督:ジェイムス・エルスキン
(ドキュメンタリー)
出演:ジョン・カリー、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:フィギュアスケートを芸術の域に高めたとされるインスブルック・オリンピックの金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー。ジョン・カリーはスウィンギング・ロンドンの時代のイギリス人で、ソ連選手全盛のパワースケートの時代に、バレエの美しさや優雅さをフィギュアスケートに取り入れて独自の道を極め、その後のフィギュアスケートに大きな影響を与えた。ジャンプの難易度などは今とは比較にならないものの、スケーティングの美しさや演目の面白さはきっと今でも充分通用するレベル。けれど彼自身は長くうつ状態に苦しみ、最後はエイズにより40代で亡くなってしまう。誰よりも美しい世界を志向しながら、氷上では孤独から逃れることができなかった彼の姿に涙せざるを得なかった。彼亡き後のフィギュアスケート界は愛ある世界であって欲しいと願う。


【ヒンディー・ミディアム】(6/10)

原題:【Hindi Medium】
監督・脚本:サケート・チョードリー
共同脚本:ジーナト・ラカーニー
出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル、他
製作国:インド
ひとこと感想:インドのお受験がテーマで、我が子を「ヒンディー・ミディアム」(ヒンディー語で授業を行う公立学校)ではなく「イングリッシュ・ミディアム」(英語で授業を行う私立名門校)に入学させようと悪戦苦闘するミドルクラスの夫婦の物語。面白おかしく描いてはいるけれど、インドにもお受験予備校があるとか、富裕層じゃなきゃいい学校には入りにくいとか、いい学校に入ったところで差別があるとかいった話も本当にあることなのだろう。学歴によって全く違う未来が開ける可能性が高いインドの受験戦争は大変苛烈だと伝え聞くが、その一側面を垣間見せてもらった。最後はこの夫婦が納得できる形になってよかったな。
しかし、この映画のポスターのメインビジュアルはひどかった。これじゃあどれがタイトルだか分からないじゃないの。奇をてらうのもいいけれど、まずは最低限の情報を間違いなく伝えなければならないのは、デザインの基本中の基本なのではあるまいか。


【普通は走り出す】(7/10)

監督・脚本・出演:渡辺紘文
出演:萩原みのり、古賀哉子、加藤才紀子、ほのか、黒崎宇則、永井ちひろ、久次璃子、平山ミサオ、松本まりか、他
製作国:日本
ひとこと感想:大田原愚豚舎の渡辺紘文監督による、トリプルファイヤーというバンドの曲をモチーフにしたコラボ作品で、監督自ら主演を務める。旧作の【プールサイドマン】を見た時に、監督自身が一番キャラ立ちしてて面白いのでは?と内心思ったのは間違いじゃなかった。作品創りに悩む作家自身を主人公にするという手は何度も使えないけれど、ストーリーが分かりやすい本作は、監督の作品の魅力も伝わりやすいのではないだろうか。しかし、たまに見かける「渡辺版【8 1/2】」という紹介文はいかがなものか。フェリーニには栃木県大田原市の真実なんて何も分からないでしょ?


【冬時間のパリ】(5/10)

原題:【Doubles Vies (Non-fiction)】
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ギョーム・カネ、ジュリエット・ビノシュ、ヴァンサン・マケーニュ、ノラ・ハムザウィ、クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー、他
製作国:フランス
ひとこと感想:フランスの出版業界が舞台で、やれ誰と誰が不倫した、やれ誰と誰が仲違いしたとか概ねそんな話。フランスにも電子書籍化の波が押し寄せて出版業界が苦慮しているということは分かったが、その辺りをあまりうだうだ語られても正直そこまで興味が持てない。で、不倫が死罪に値するとまでは思わないけれど、大した良心の呵責も無くカジュアルに不倫してる人ばかりなのはさすがにキモい。フランス人って一体何がしたくて結婚するのだ?いや、さすがにフランス人が皆こんなじゃないだろうとは思うけど……。しかし、どうしてこんな箸にも棒にも掛からないような凡庸な邦題を付けようとするのかな?原題の「Doubles Vies」は「二重生活」という意味だそうだが、完全に意味不明。


【ブラック・クランズマン】(8/10)

原題:【BlacKkKlansman】
監督・脚本:スパイク・リー
共同脚本:デヴィッド・ラビノウィッツ、ケヴィン・ウィルモット、チャーリー・ワクテル
原作:ロン・ストールワース
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ライアン・エッゴールド、ヤスペル・ペーコネン、アシュリー・アトキンソン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:黒人刑事によるノンフィクションをスパイク・リー監督が映画化。ブラックパンサー党も解党し公民権運動も鎮静化しつつあった1970年代半ば。コロラドスプリングスの警察署で初の黒人刑事として採用された主人公(スパイク・リー監督の代表作【マルコムX】の主演だったデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントン!)は、署内の白人刑事達から冷遇されつつも、新聞広告に掲載されていたKKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話で応募し、ユダヤ人の白人の同僚(只今絶好調のアダム・ドライバー!)を潜入させて内部捜査を開始する……。黒人だけでなくユダヤ教やユダヤ人も差別しているKKKにユダヤ人刑事を送るなんてとてつもなくデンジャーで無謀で、実際ヒヤヒヤする場面が続く。けれど、危険なはずの敵方のKKK幹部ですらどこか間抜けでユーモラスに描くなんて、昔、白人を異物として敵視していた頃のバリバリに尖っていたスパイク・リー監督では考えられなかったこと。映画監督としてキャリアを重ねる長い年月の間に、黒人を差別する白人など単に間違った思い込みを信奉しているだけのバカに過ぎない、と達観するくらいの余裕ができたんだろうか。とは言っても監督は、この作品が脚色賞を得た際のアカデミー賞で【グリーンブック】が作品賞を得たことを批判しまくっていたので、まだまだ全然丸くなってなどいなかったんだけど。


【ブルーアワーにぶっ飛ばす】(7/10)

監督・脚本:箱田優子
出演:夏帆、シム・ウンギョン、渡辺大知、黒田大輔、嶋田久作、ユースケ・サンタマリア、でんでん、南果歩、他
製作国:日本
ひとこと感想:CMディレクターの箱田優子氏が自ら脚本を書き、夏帆さんを主演に迎えて撮った初監督作品。過剰なほどに仕事に邁進し自己破壊的な生活を送る女性が、自分の田舎に対して抱えているトラウマ。自分もそうだったから、生まれ育った場所を呪う気持ちも、いつでも寄り添ってくれて欲しい言葉をくれる「友達」が生き残るためにどうしても必要だったことも、痛いほどよく分かる。ろくでもないものはどう取り繕ってもろくでもないのだから、大嫌いと言ってしまっていい。今後彼女には、自分の気持ちを偽らず、自暴自棄にならず、大切にするべきものは大切にして、健康に気をつけて元気に過ごしてもらいたい。寂しくも希望がある青いラストシーンが美しかった。


【ブレッドウィナー】(7/10)

原題:【The Breadwinner】
監督:ノラ・トゥーミー
脚本:アニータ・ドロン
原作:デボラ・エリス
(アニメーション)
声の出演:サーラ・チャウディリー、ソーマ・チハヤー、ラーラ・シディーク、シャイスタ・ラティーフ、カワ・アダ、アリ・ バットショー、ヌリーン・グラムガウス、他
製作国:アイルランド/カナダ/ルクセンブルク
ひとこと感想:【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】【ブレンダンとケルズの秘密】などで注目されるアイルランドのアニメスタジオ、カートゥーン・サルーンが、カナダの児童文学を原作に製作したアニメーション。父親が不当逮捕され困窮するアフガニスタンのある一家の少女が、外出するために男装して食糧を入手し、父親を牢獄から救おうとする。アニメーションはこんな題材を扱うことも可能なのだと、アニメーションの更なる可能性を感じさせてくれる。欧米人の描いたこのストーリーがどこまで現実と合致しているのかは分からないが、このアニメが作られたことがアフガニスタンの女性達の立場の向上に少しでもよい影響を与えるように願ってやまない。


【プロメア】(9/10)

監督:今石洋之
脚本:中島かずき
(アニメーション)
声の出演:松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人、佐倉綾音、小山力也、楠大典、小清水亜美、古田新太、吉野裕行、稲田徹、新谷真弓、檜山修之、小西克幸、柚木涼香、ケンドーコバヤシ、他
製作国:日本
ひとこと感想:『天元突破グレンラガン』『キルラキル』などの今石洋之監督によるオリジナル劇場版アニメ作品。脚本を書いた劇団☆新感線の中島かずき氏とはそれらの作品でも組んでいたとのこと。魅力的なキャラに、胸躍る濃い味付けのストーリー、それらを彩るポップで変幻自在な動線と色使いが素晴らしい!見どころのかたまりで満足感たっぷり。ハマる人が続出するのも当前だ。


【閉鎖病棟 それぞれの朝】(8/10)

監督・脚本:平山秀幸
原作:帚木蓬生
出演:笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈、小林聡美、渋川清彦、木野花、坂東龍汰、平岩紙、綾田俊樹、森下能幸、水澤紳吾、駒木根隆介、片岡礼子、山中崇、根岸季衣、ベンガル、高橋和也、他
製作国:日本
ひとこと感想:平山秀幸監督が描くある精神科の閉鎖病棟の物語。登場人物は、死刑が失敗して収容された死刑囚、幻聴が聞こえるようになったサラリーマン、義父から性的虐待を受けていた少女など。原作者の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏は精神科医で、本作も実際の精神科病棟でロケしたとのことなので、これまでの精神病院を舞台にした作品よりかなり現実の精神科の在り方に即した描写がなされていると期待する。
死刑囚は妻の浮気現場に遭遇して人を殺してしまったのだが、それまでは地道に働いて暮らしてきた真面目で平凡な人だった。鶴瓶さんは、特殊なメンタリティの持ち主を演じるよりも、こういうごく普通の人の延長線上にある役柄を演じる方が抜群に輝くなぁと改めて思う。(鶴瓶さんをキャスティングする人はその辺りをよく考えた方がいいんじゃないかと思うことがたまにある。)
他の患者も、物語の中心人物の一人である元サラリーマンのゴーアヤノは勿論のこと、悪態ばかりついている平岩紙さんとか嘘ばかりついている木野花さんなど一人一人印象的に描かれており、いろいろ考えさせられた。
しかし、それまで酷い目にあってきた少女が更に酷い目に遭う展開はどうなのよ……。確かに現実でも女性は性暴力の波状攻撃の波に晒されているけれど、現場に遭遇した人も助けてくれないし、事件を知った人々も(彼女を思う気持ちからなのかもしれないが)黙っているばかりでしかるべき人に伝えることもしないなんて。この筋書きを作った人は女性を救いたい訳ではなく、単に話を転がすためのインパクトのあるエピソードとしてこんな話を作ったんじゃないの?と疑ってしまう。
……ということで物語の大筋は全然納得できる展開ではなかったけれど、小松菜奈さん演じる少女が独り自分の足で立ち上がっていた描写も含めて、全体として再生に向かう物語であったところは感銘を受けた。不満もあったけれど、平山秀幸監督はやはり名監督なのだと改めて実感した。


【ベトナムを懐う(おもう)】(6/10)

原題:【Dạ Cổ Hoài Lang (Hello Vietnam)】
監督・脚本:グエン・クワン・ズン
共同脚本:タイン・ホアン、タイ・ハー
出演:ホアイ・リン、チー・タイ、ゴック・ヒエップ、ディン・ヒウ、ジョニー・バン・トラン、他
製作国:ベトナム
ひとこと感想:ベトナム映画の特集上映の1本で、故国を離れニューヨークで暮らす3世代のベトナム人の思いが描かれる。ボートピープルだった息子に招かれて渡米した祖父は、ある日施設を抜け出して息子のアパートに転がり込むが、孫娘に自分の価値観を押し付けるような言動をして衝突してしまう。息子は親のためかなり無理して働いており、そのことで妻とも離婚していたため、孫娘はもともと祖父に批判的だったのだが、息子はベトナム脱出時の経験が過酷すぎたせいか孫娘にベトナムのことをほとんど教えておらず、孫娘はベトナムの伝統にも祖父の思いにもあまりにも理解がない。後半、この価値観が違いすぎる祖父と孫娘が和解するところは少し恣意的すぎて、ラストの展開も唐突すぎたかも。しかし、実際このように様々な思いを抱えながら他国で暮らしているベトナムの方々がたくさんいらっしゃるんだろうなぁ、ということに思いを馳せることができたのはよかったと思う。


【ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー】(7/10)

原題:【Whitney】
監督:ケヴィン・マクドナルド
(ドキュメンタリー)
出演:ホイットニー・ヒューストン、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:2012年に亡くなったホイットニー・ヒューストンのドキュメンタリー。大ファンという訳ではなかったけれど世代的にはドンピシャで。全盛期の彼女の美貌と才能は本当に輝くばかりだったのだなぁと改めて思い出し、それだけに、麻薬に蝕まれた彼女の声がガッサガサになっていくのが本当に辛かった。人間は金と名誉を手に入れても幸せになれない。幼少時に親戚のおばさんから性的虐待を受け、他の親族からも食い物にされた彼女は、夫となったボビー・ブラウンと麻薬を介した共依存関係に陥ってしまったが、もしボビーでなく、献身的に尽くしてくれていたあの女性の手を取っていたら、何かが違っていたのだろうか。でも彼女がどこで道を間違えてしまったのかと今更言っても詮ない。今はただ彼女の魂が安らかであるように祈りたい。


【ボーダー 二つの世界】(8/10)

原題:【Gräns (Border)】
監督・脚本:アリ・アッバシ
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、他
製作国:スウェーデン/デンマーク
ひとこと感想:【ぼくのエリ 200歳の少女】(未見です)の原作者が原作と共同脚本を手掛けた北欧映画。主人公はちょっとイカつい風貌のお姉さんで、人間の感情を嗅ぎ分けられるという特殊能力を活かして税関にお勤め。携帯のメモリーカードに入っていた児童ポルノを摘発したことから、人身売買のシンジケートの捜査にスカウトされるが、とある異性との出会いにより……。予備知識なしで見に行ったので、全く想像していなかった衝撃的な展開に呆気にとられた!特に、主人公が○○するシーンなんて……北欧の人は時々どえらいことを考えるよな~。邦題に「二つの世界」というちょっとしたネタバレが入ってるから言っちゃうけど、主人公の二人はかの世界ではきっと絶世の美男美女なんでしょうなぁ。二つの世界の狭間で主人公はどんな道を選ぶのか。とにかくなんか凄いものを見てしまったなぁと思う。


【僕たちは希望という名の列車に乗った】(7/10)

原題:【Das schweigende Klassenzimmer (The Silent Revolution)】
監督・脚本:ラース・クラウメ
原作:ディートリッヒ・ガルスカ
出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、レナ・クレンク、ヨナス・ダスラ―、イザイア・ミカルスキ、ロナルト・ツェアフェルト、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:1956年のハンガリー動乱の際、授業中に犠牲者に黙祷を捧げたため当局から弾圧を受けることになった東ベルリンの高校生達の実話の映画化。ちなみに、ベルリンの壁が建設されたのはこの5年後のこと。東欧諸国での共産主義の圧政も遠い昔になりつつある今日この頃、そうした時代の瑕疵を記憶に留める努力も意義あることに違いない。


【ぼくの好きな先生】(7/10)

監督:前田哲
(ドキュメンタリー)
出演:瀬島匠、他
製作国:日本
ひとこと感想:前田哲監督が、以前教鞭を取っていた山形県の東北芸術工科大学で同僚だったアーティスト、瀬島匠氏に取材したドキュメンタリー。この瀬島さんがとにかく愉快でユニークな人で、1人のアーティストの密着ドキュメンタリーとしてシンプルに面白い。けれど、彼が長年描いているRUNNERというモチーフの正体が語られる時、彼の創り出すアート作品がより立体的なものに見え始める。そして、世にある総てのアート作品も、同じようにアーティストの個人的な経験や強い思いに裏打ちされていることが思い出され、この世にアートがあることの意味が立ち上がってくるように見えた。そういえば、RCサクセションの『ぼくの好きな先生』も、忌野清志郎さんが高校時代に教わった美術の先生のことを歌った歌だったんだよなぁ。


【ホットギミック ガールミーツボーイ】(3/10)

監督・脚本:山戸結希
原作:相原実貴
出演:堀未央奈(乃木坂46)、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗、桜田ひより、上村海成、吉川愛、志磨遼平、黒沢あすか、高橋和也、反町隆史、吉岡里帆、他
製作国:日本
ひとこと感想:原作は15年前くらいの少女マンガらしいのだが、すいません、これはもう全くついて行けなかった……。近視眼的で自己中でみんな同じようにしか見えない男の子達にも、そんな男の子達に何故かモテまくるちょっと主体性が無い考えなしのヒロインにも、さっぱり魅力を感じない。(いくら○○でも、ボーイフレンドの口車に乗って自分のポルノ画像を送ったりとかしない方がいいですよ……。)これはストーリーにあまり共感していないせいもあるだろうが、キャラクターを生身の人間として肉づけする皆さんの能力がまだ低いせいもあるのではないかと思う。ありていに言って、今後俳優を名乗っていきたいのなら、もっと上手になるべきだと思います。


【麻雀放浪記2020】(3/10)

監督・脚本:白石和彌
共同脚本:佐藤佐吉、渡部亮平
原作:阿佐田哲也
出演:斎藤工、もも(チャラン・ポ・ランタン)、竹中直人、ベッキー、的場浩司、小松政夫、岡崎体育、ピエール瀧、音尾琢真、村杉蝉之介、伊武雅刀、矢島健一、吉澤健、堀内正美、他
製作国:日本
ひとこと感想:2020年の東京オリンピックが中止。この世界にタイムスリップしてきた主人公が麻雀五輪世界大会に参加する…… !? B級テイストのVシネみたい、と言うより、昔のVシネの方がもっと予算があったのではと思わせるあまりな安っぽさ。それならそれでそのテイストを楽しめればいいんだろうけど、そういう遊びがしたいなら別に【麻雀放浪記】じゃなくていいのでは?【麻雀放浪記】が触りようのない名作なのでこのような形にせざるを得なかったと言うけれど、それなら最初から作らないという選択肢もあったのではなかろうか。


【マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!】(6/10)

原題:【My Generation】
監督:デイヴィッド・バッティ
(ドキュメンタリー)
出演:マイケル・ケイン、デイヴィッド・ベイリー、ロジャー・ダルトリー(ザ・フー)、ポール・マッカートニー(ザ・ビートルズ)、ミック・ジャガー(ザ・ローリング・ストーンズ)、マリアンヌ・フェイスフル、ツィギー、他
製作国:イギリス
ひとこと感想:スウィンギング・ロンドンの渦中にいたマイケル・ケイン氏がプロデューサーとしてかの時代を案内する。ケイン氏はロンドンの労働者階級の出身で、時代の追い風に乗ってショウ・ビズの世界で成功。イギリスの歴史の中では特に、労働者階級の若者達が中心となって文化を創造するというのは画期的な出来事だったのかもしれず、そうして創造された文化は今でも世界のポップカルチャーのベースになっているという指摘は成程と思った。ちょっとごちゃごちゃした印象もあるけれど、かの時代の高揚感と、ドラッグの蔓延による時代の終焉までがボリュームたっぷりに描き出されていて迫力があった。


【まく子】(5/10)

監督・脚本:鶴岡慧子
原作:西加奈子
出演:山﨑光、新音、草彅剛、須藤理彩、つみきみほ、内川蓮生、村上純(しずる)、根岸季衣、小倉久寛、他
製作国:日本
ひとこと感想:西加奈子さん原作の不思議なボーイ・ミーツ・ガールの物語。この年代の子供達だけが持つ輝きはいくら見てても飽きないけれど、温泉街や宇宙人(!)というセッティングとか、初恋や大人の世界への反発や成長といった魅力的なモチーフがただ並べられているだけで、うまく化学反応を起こしておらず勿体ないなぁと感じた。反面、女にだらしないけれど主人公の少年のことは気に掛けているお父さんを演じた草彅剛さんは良かった。「新しい地図」の皆様のポテンシャルはやはり素晴らしい。映画関係者の皆さんは今こそ仕事を依頼しない手は無いんじゃないでしょうか。


【町田くんの世界】(7/10)

監督・脚本:石井裕也
共同脚本:片岡翔
原作:安藤ゆき
出演:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子、他
製作国:日本
ひとこと感想:少女マンガを原作にした石井裕也監督の最新作。どんな人でも分け隔てなく愛せるが故に、ある人を特別に好きになる感情を処理しきれない町田くん。結果、一番大切にするべき人を悲しませているその鈍感さにちょーっとイガイガしちゃったな。でも、ほぼ演技経験がなかったという主演二人の体当たりの演技がそのまま、青春のなりふり構わない一途さに変換されていて、その熱量が何だか心に残ってる。その二人を周りの豪華なキャストが安定した演技でがっちり支えているのも好ましい。個人的には、前田敦子さんが演じた、辛辣ながら言ってることは正しいクラスメイトが面白かった。


【マリッジ・ストーリー】(8/10)

原題:【Marriage Story】
監督・脚本:ノア・バームバック
出演:アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン、アラン・アルダ、ローラ・ダーン、レイ・リオッタ、他
製作国:イギリス/アメリカ
ひとこと感想:ノア・バームバック監督が手掛けたNetflix映画で、アダム・ドライバーさんとスカーレット・ヨハンソンさんの夫婦が離婚する過程をつぶさに描く。何故ディボース・ストーリー(離婚物語)ではなくマリッジ・ストーリー(結婚物語)なのか。弁護士が大幅に介入し、時には当人同士の気持ちからも大きく乖離してしまうことすらあるアメリカ式の離婚。これをうんざりするほど詳細に描写することで、逆にこの夫婦の結婚がどんなものだったのかを照射している。その結果、結婚とはどういう現象なのかをしみじみ考えさせられた。


【MANRIKI】(6/10)

監督:清水康彦
原作・脚本・出演:永野
出演:斎藤工、金子ノブアキ、SWAY、小池樹里杏、神野三鈴、他
製作国:日本
ひとこと感想:斎藤工さんがプロデュースと主演を務め、友人の永野さんの脚本を映画化。女の顔を万力で●●する整顔師(?)が放浪のあげく××になるストーリーなどあって無きが如し。一応人間の美醜に対するこだわりを問うている……らしいんだけど、どうしても人を根っからおちょくっているようにしか見えない。永野さんって相当変わった感性をしているな……この人、これでお笑い芸人として一瞬でも売れたのは奇跡なんじゃなかろうか。(←褒めてる。)この永野さんと仲がいいという斎藤工さんもやはり相当変わってる。(←褒めてる。)こういうシュールで訳の分からないヘンテコな映画、今ではほぼ絶滅危惧種に違いなく、何だか妙なノスタルジーを感じてしまった。


【岬の兄妹】(8/10)

監督・脚本:片山慎三
出演:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、他
製作国:日本
ひとこと感想:ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の助監督経験を持つ片山慎三監督の長編デビュー作。兄が自閉症の妹に売春をさせる話と聞いて見たくなさ度MAXだったが、売春に手を染めざるを得なくなる状況やその心情が丁寧に描かれていて重厚な説得力があった。妹さんがセックスワークを嫌がっておらず悲愴さがないのが救いだが、それを救いと感じていいものか……とにかく彼女に避妊具の使い方だけは真っ先に教えてあげて欲しいと真剣に思った。


【蜜蜂と遠雷】(8/10)

監督・脚本:石川慶
原作:恩田陸
出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、臼田あさ美、ブルゾンちえみ、福島リラ、眞島秀和、片桐はいり、光石研、平田満、アンジェイ・ヒラ、斉藤由貴、鹿賀丈史、他
製作国:日本
ひとこと感想:あるコンクールに出場する若手ピアニスト達を描いた恩田陸さんの小説の映画化。かつて天才少女と呼ばれるも長らく表舞台から姿を消していた主人公は、再起をかけて出場した音楽コンクールで、幼い頃に共に学び今はジュリアード音楽院に在籍する奏者、サラリーマンをしながらプロの演奏家を目指す奏者、そして今は亡きピアノの神様の推薦状を持つ天才少年といったライバル達と対峙する。四者四様の天才がお互いに共鳴し、影響を与え合いながら競う姿を、音楽の上でもきちんと「演じ分け」させながら重厚に描いているのが麗しい。予選の課題曲として演奏された宮澤賢治の「春と修羅」を織り込んだオリジナル曲もよかった。(しかしよくオリジナルを創ってもらう予算があったなぁ!)石川慶監督はポーランドの国立映画大学で演出を学んだとのこと。監督の前作は正直好きではなかったのだが、本作ではその正統派の資質がプラスに働いているように思われた。監督の今後の作品に期待したい。


【山(モンテ)】(6/10)

原題:【Monte】
監督・脚本:アミール・ナデリ
出演:アンドレ・サルトッティ、クラウディア・ポテンツァ、ザッカーリア・ザンゲッリーニ、セバスティアン・エイサス、アンナ・ボナイウート、他
製作国:イタリア/アメリカ/フランス
ひとこと感想:イラン出身のアミール・ナデリ監督作品。一家は虐げられた環境を変えるため山を穿ち続ける。信念を以て働きかけ続けると困難な状況でもいつか打ち崩せるという寓話。ラストシーンの鮮やかな色彩が総てを物語っている。


【夕陽のあと】(8/10)

監督:越川道夫
脚本:嶋田うれ葉
出演:貫地谷しほり、山田真歩、松原豊和、永井大、川口覚、木内みどり、他
製作国:日本
ひとこと感想:鹿児島長島町を舞台にしたご当地映画で、里子を育てる女性と実母が親権をめぐって対立し、最後に和解に至る物語。子供に深い愛情を注ぐ里親の山田真歩さんと、事情があって手放してしまった子供を諦められない実母の貫地谷しほりさんのぶつかり合いは、どっしりと見応えがあり、二人ともつくづくいい女優さんだなぁと改めて思った。その場の状況をそのまま映し取ることを得意とする越川道夫監督の作風は少し特異ではないかと思うのだが、本作は越川作品にしてはストーリーが分かりやすく、人にもお薦めし易いのではないだろうか。ただ、ラストのシーンは少し冗長に感じられ、もう少しあっさりしていてもよかったんじゃないかと思う。


【夜明け】(6/10)

監督・脚本:広瀬奈々子
出演:柳楽優弥、小林薫、YOUNG DAIS、鈴木常吉、堀内敬子、他
製作国:日本
ひとこと感想:是枝裕和監督と西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」の新人・広瀬奈々子監督のオリジナル脚本作。過去に取り返しのつかない過ちを犯した青年と、息子を亡くした初老の男性の、悔恨という心情を共有する特異な結びつき。彼等を演じる柳楽優弥さんと小林薫さんの存在感は圧巻だった。しかし、初老の男性が結婚することになった女性にも胸の内を見せず、青年だけに執着を見せる中、青年は最悪のタイミングでやらかして男性のもとを去る。えっ、ここで終わりなの……?もしかして青年は男性のために敢えてこうしたのかな?などと後から考えてみたものの、その辺りの彼の心情が自分にはあまり伝わってこなくて、どうにもモヤモヤイガイガしてしまった。


【よこがお】(7/10)

監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、吹越満、須藤蓮、小川未祐、他
製作国:日本/フランス
ひとこと感想:甥が関わった犯罪に端を発した不幸な連鎖により、それまで築いてきた生活を失う女性の話。彼女に恋した女がちょっとおバカだったばかりに彼女が総てを奪われてしまう展開が残酷で容赦ないのだが、物語が先に存在していたのではなく、まず筒井真理子さんありきで物語が書かれたということで、彼女をどんな不幸な目に遭わせられるか、それで彼女がどうするのかの耐久レースみたい。この流れに対して彼女が取った方法……これって復讐なのかなぁ?ひたすら池松壮亮くんが気の毒だっただけではなかろうか。彼女が最後は運命を受け入れて、社会の片隅で粛々と生きていくようになるところに、人間が持ちうる生身のしぶとさみたいなものが浮かび上がっていたような気がする。しかし、深田晃司監督が描こうとするのは玉虫色の不条理で、そこに社会性や普遍性が見出されるとしても、それは後からついてくるオマケみたいなものに過ぎないのかもしれない。


【読まれなかった小説】(6/10)

原題:【Ahlat Agaci (The Wild Pear Tree)】
監督・脚本:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
共同脚本:アキン・アクス、エブル・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグチュル、他
製作国:トルコ/フランス/ドイツ/ブルガリア/マケドニア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/スウェーデン/カタール
ひとこと感想:【雪の轍】でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作。主人公の父親は教師なのにギャンブル好きで生活費すらショートさせてしまうような人物で、若くて過剰な自信に溢れている主人公はだらしない親に辛辣な態度を取るが、現実の厳しさを知って親を見る目も変わる。父親のギャンブル癖は確かにあまり褒められたものではないのだが、まだ何一つ自分の力で成し遂げていない青二才の息子の態度はあまりに生意気で、一応大学にまで行かせてもらっておいて何言ってんだコイツ、といった感じ。案の定、小説家志望だった息子が本を出版しても全然売れないのだが、そりゃ頭でっかちな若者が書いたものが読みたいなどと言う人が身内以外にいる訳がない。こんな話、形は違えど世界中のどこにでも転がっていそうで、ある種の懐かしさも覚えた。けれど、この内容に果たして3時間必要だったかなーといったところはちょっと疑問に思った。


【楽園】(7/10)

監督・脚本:瀬々敬久
原作:吉田修一
出演:綾野剛、杉咲花、佐藤浩市、柄本明、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、根岸季衣、石橋静河、他
製作国:日本
ひとこと感想:【悪人】の吉田修一氏の原作を瀬々敬久監督が映画化。田舎の閉鎖的で排他的なコミュニティの中で主人公達が追い詰められていく物語は、トラウマのど真ん中にぶっ刺さってあまりに欝。そしてその後の更に真っ暗い展開……。綾野剛さん、杉咲花さん、佐藤浩市さん、柄本明さんといった面々を始めとする俳優さんの迫真の演技力が醸し出す描写は本当に素晴らしかったのだけれど、この展開はあまりに気持ちの置き所がなく、あまりに辛すぎた。


【嵐電】(7/10)

監督・脚本:鈴木卓爾
出演:井浦新、大西礼芳、金井浩人、石田健太、窪瀬環、安部聡子、水上竜士、福本純里、他
製作国:日本
ひとこと感想:鈴木卓爾監督が京都を舞台にして描いた3組の男女の物語。日常の地続きにさりげなく異世界が出現するような不思議な感覚がいかにも鈴木監督らしく、【ゾンからのメッセージ】などにも通底するようでもあり、生活空間としての京都の独特の妖しさがより魅力的に感じられた。


【老人ファーム】(5/10)

監督:三野龍一
脚本:三野和比古
出演:半田周平、麻生瑛子、村上隆文、合田基樹、山田明奈、堤満美、亀岡園子、白畑真逸、他
製作国:日本
ひとこと感想:老人ホームで働く青年を描いたドラマ。今まであまり描かれることがなかった老人ホームの内幕という世界をテーマにしようという、監督・脚本の三野龍一・和比古兄弟の試みは評価したい。しかし、結構場当たり的なインパクトに重きが置かれ、主人公の心情などがきちんと描き切れていないのではないかという気がした。特に終盤のクライマックスのシーンなどは少し冗長に感じられてしまった。


【ROMA/ローマ】(9/10)

原題:【Roma】
監督・脚本:アルフォンソ・キュアロン
出演:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、フェルナンド・グレディアガ、ホルヘ・アントニオ・ゲレーロ、ナンシー・ガルシア、ヴェロニカ・ガルシア、他
製作国:メキシコ/アメリカ
ひとこと感想:タイトルはメキシコシティのローマ地区のこと。ミシュテカ族のある女性と、彼女がメイドとして働くある白人一家の物語は、アルフォンソ・キュアロン監督自身の幼少期の体験を基に創作されたもの。背景には、1960年代の経済成長後、1970年頃に政情が不安定になったメキシコの姿が映り込んでおり、1971年の「血の木曜日事件」という学生運動弾圧事件の現場も出てくるが、総ての事象はこの家の人々に起こった出来事の延長線上に描かれており、幼少時代のキュアロン監督の目線に貫かれている。しかし、メイドの女性の恋人が、彼女が妊娠したら行方をくらまし、挙げ句の果てに反政府組織に入って嬉しそうに武器を振り回していたというアホの典型である一方、一家の主だった子供達の父親は、愛人を作って家に帰って来なくなるクソ野郎。男達ってほんっとに頭カラッポで馬鹿で無責任。それに比べ、女性達の逞しさと互いに対するいたわりと共闘の方がよほど美しく、何百倍も世の中のためになっていると思った。


【LORO 欲望のイタリア】(5/10)

原題:【Loro】
監督・脚本:パオロ・ソレンティーノ
共同脚本:ウンベルト・コンタレッロ
出演:トニ・セルヴィッロ、エレナ・ソフィア・リッチ、リッカルド・スカマルチョ、カシア・スムトゥニアク、ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ、他
製作国:イタリア
ひとこと感想:イタリアのベルルスコーニ元首相を描いた話。もっと史実に沿ったドラマかと思ったら、史実に想を得たイメージ的な物語といった感じで、若い女をいっぱい集めて酒池肉林の騒ぎを繰り返す前半を見ただけですっかり疲れてしまい、後半はもうあまり頭に入らなかった……。何でこんな奴が国家元首になれたのか。日本も大概だけど、イタリアも割とろくでもない国なんじゃないすかね。


【ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん】(9/10)

原題:【Tout en Haut du Monde (Long Way North)】
監督:レミ・シャイエ
脚本:クレール・パオレッティ、パトリシア・バレイクス
(アニメーション)
製作国:フランス/デンマーク
ひとこと感想:19世紀のサンクトペテルブルグ。ロシア貴族のお姫様が、北極航路の探検から戻らない祖父の名誉のために独り北へ旅立つ。予想を上回る展開のスケールのでかさに手に汗を握り、少女の力強さと健気さに肩入れしたくなる。見ていてすごく元気が出た!これを実写でやったら、おそらく創作の部分が過剰になりすぎて鼻白んでしまう。アニメーションのフィクション性とアート性が見事に結実している秀作だと思う。


【ワイルドツアー】(8/10)

監督・脚本:三宅唱
出演:伊藤帆乃花、安光隆太郎、栗林大輔、他
製作国:日本
ひとこと感想:【きみの鳥はうたえる】の三宅唱監督が山口情報芸術センター(YCAM)と協動して制作した作品。地元の中高生達とのワークショップから生み出されたキャラクター達の瑞々しさと奇をてらわない美しさ。皆で紡いだその素朴な物語に、映画が生まれ出るスリリングな瞬間を見た気がした。山口市って随分面白い取り組みをしているんだなぁと感心した。


【私のちいさなお葬式】(6/10)

原題:【Карп отмороженный】
監督:ウラジーミル・コット
脚本:ドミトリー・ランチヒン
出演:マリーナ・ネヨーロワ、他
製作国:ロシア
ひとこと感想:余命を宣告され自分のお葬式の準備を始める女性と、その息子を描いたロシア映画。一見やさしく可愛い物語にも見えるけど、遠く離れた都会に暮らす息子とのやり取りにシビアさが滲む。息子に迷惑を掛けたくないと過剰に自己完結してしまうのは、逆に母親としての矜恃や意地なのか。そして、母親の話と思っていたけれど、実は母親の姿を見て自分の生き方をいろいろ考えてしまう息子の話だったのではないかと、最後に思い至った。


【わたしは光をにぎっている】(6/10)

監督・脚本:中川龍太郎
共同脚本:末木はるみ、 佐近圭太郎
出演:松本穂香、渡辺大知、徳永えり、吉村界人、忍成修吾、光石研、樫山文枝、他
製作国:日本
ひとこと感想:詩人でもある中川龍太郎監督が描く、上京した少女の成長物語。祖母の入院を機に東京へ出てきたが都会に馴染めなかった主人公は、「目の前のできることからひとつずつ」という祖母の言葉を思い出し、居候先の銭湯を手伝うようになるが……。主人公の心情の変遷を、時に印象的な心象風景をインサートしながら丁寧に追っていくのには好感が持てた。が、予告編を見て感じた以上のインパクトは正直得られなかったので、もう少し何か手応えのようなものが欲しかったかもしれない。


【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド】(7/10)

原題:【Once Upon a Time in Hollywood】
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、ジュリア・バターズ、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、マイク・モー、ルーク・ペリー、ダミアン・ルイス、アル・パチーノ、カート・ラッセル、ゾーイ・ベル、マイケル・マドセン、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:ディカプとプラピは、落ち目の西部劇俳優と、彼専属のスタントマン。俳優は何とかキャリアを立て直そうと足掻くが、飲酒癖の悪影響もあってうまくいかない。スタントマンはカッとなると我を忘れて暴力的になる癖があり、若干仕事に不自由している。イタリアへの出稼ぎから帰ってきた俳優がスタントマンに解雇を告げた夜、押し入ってきた賊を叩きのめした彼等は、隣りの屋敷に住む新進気鋭の映画監督とその若くて美しい女優の妻 ― ロマン・ポランスキーとシャロン・テート ― に邂逅する。……シャロン・テートを惨殺した連中がもし何かのはずみで隣りの家に押し入っていたら、という What if なのだが(シャロン・テート殺人事件は映画史上では大変有名な史実なので、知らない人はググってから映画を見た方がベター)、起こるべきではなかった悲劇的な暴力を、フィクション(あるいは「映画の嘘」)の力で否定し乗り越えようとするとは、なんて斬新なことを考えるんだろう。作風的にも、昔好きだった【キル・ビル】までのタランティーノ監督がちょっと戻ってきたみたいに感じられて嬉しかった。




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