蓼食う虫も好きずき

もうだめです。我慢できません。どうか許してください。私には
こうするしかなかったんです。これだけは私の胸の内に留めて
おきたかった。ただあなたのために、いいえ、あなたに恋した
私のために、ずっと耐えていたんです。でももう限界を超えて
しまいました。もうどうなってもかまいません。終わりです。

あなたは、私の気持ちなんか知らないでしょう。
私はただのいち生徒、あなたはクラスの担任で数学教師。
ＨＲの時も、苦手な数学の授業の時でさえ、あなたの一挙一動を
見逃すまいと必死なのよ。あなたの事なんでも知りたいんだもん

教科書のページをめくる時に指をなめるクセとか、手についた
チョークの粉を背広の右のポケットになでつけたり、額から流れる
汗をハンカチでふく時に髪の毛までふいて七三分けに整えてる。
恋してると何でも良くみえちゃうんです。きっと誰も気づいて
ないようなホクロとか見つけたりしたら、もうめちゃくちゃ幸せ気分に
浸っちゃって、（あなたと私のヒ・ミ・ツ）な〜んて、うっふっふ。

安心して、私とっても口は堅いの
あなたに決して迷惑かけないように、あなたの３メートルうしろから
そっと見守っています。今日も明日もずーっとね。そして、来年の
卒業式がすんだら告白します。
私がどれだけあなたの事を思っていたか、聞いたらきっとあなたは
びっくりするでしょうね。感激して涙なんか流しちゃったりするかも。
ああ楽しみだわ。

おい、今日の同窓会、ぜんぜん来てねえじゃん。幹事誰だよ。
卒業してから集まるの初めてだろ。ええっ、先生も来ないって。
なんだよ、それ。みんな冷てえなあ。ちっとも盛り上がらねえや。
せっかくオレすっげえおもしろい話しようと思って来たのによう。
え？何なのか、聞きたいって？うーん。どうしようかな。

なあ、ところで委員長来てる？来てないの。じゃあ、しゃべってもいいか。
あのな。オレ、見ちゃったんだ。卒業式の日のスクープ場面！。
みんな帰った後にさ、保健室のうらにある、クスノキの所でな
委員長が男と二人でいたんだよ。あの真面目でド近眼メガネして
いっつも数式説いてた女が、なんと頭のハゲた男と一緒に
いたんだぜ。オレ目を疑ったね。

でもなんか様子が変なんだ。
男が頭かかえてオウオウ泣いててさ、委員長は何か振り回しながら
苦しそうに笑ってたんだ。異様な雰囲気でさあ。オレ怖くなって
慌てて帰っちまった。本当だって。ウソじゃねえよ。本人がいたら
確かめられるんだけどな。

あっ、そう言えば先生どうしたんだよ。結婚するって言ってなかったか。
みんなでお祝いする手筈なのに連絡ないから心配してたんだ。
なんだお前たちも知らないのか。委員長に電話して聞けって？
やだよオレ。そうだ婚約者に聞いてみたらいいじゃんか。
確か同じ学校の先生だろ。えっ、保健？あの保健室の先生か
知らなかったなあ。まっ　いいや。