2001/1/3

早明ラグビー時代の終焉


お正月気分の覚めやらぬ1月2日の国立競技場。
ラグビー大学選手権準決勝の行われる日だ。
20年間、毎年通いつづけてきたが、昨年に続いて今年も早稲田明治の名前がない。早明関係者にとっては由々しき事態だということになるのだろうが、一般的にはどうなのか?実は喜ばしいことではないのか、という気がしてしまうのだ。
(OBとしては非常に悲しい事ではありますけどね…)。

日本代表の試合に客が集まらず、12月第一週の早明戦だけがラグビー界最高のイベントとして国立競技場を満員にする。この歪んだ構造が終焉を迎えつつあるということだから。
確かにこの数十年、日本のラグビーを、戦略、戦術面ともリードしてきたのは『揺さぶりの早稲田』『前への明治』というキャッチフレーズに代表される両校であったろう。

体格に劣る早稲田が、どんな戦術で明治を打ち破るのか?
或いは、兎に角前へ突き進む事で、外国人にも負けないパワーを身につけんとする明治が、そんな戦術をものともせず、こてんぱんに粉砕するのか?それが見所であったはずだが、実際にはここ数年は趣を異にしていた。早稲田の方が強力フォワードで密集周辺での突破。明治が積極的にバックス展開。そんな試合も数多くあった。早稲田はフォワードの大型化。明治はバックスの展開力。どちらも足りない部分を強化する事で、日本一になる、或いは早明戦に勝つ。その目的を達成するために、選び取った道だ。

毎年試行錯誤は繰り返された。
もちろん入学してくる選手達によって、チームの戦い方は自ずと変わった。前述のタテの明治とヨコの早稲田がもっとも表現されていたのは大西や永田が活躍していた時代ではなかったか。大西主将を中心とした強力フォワードでとにかく前へ走りつづけた明治と、SHに天才堀越を迎えた事で俄然展開力のスキルがアップし、藤掛、今泉を加えた1年生バックストリオが縦横無尽に駆け回り、最終的には社会人王者東芝府中をも打ち破り、日本一に輝いた早稲田。この時代が、ある意味で早明両校のピークだった。

その後、大東文化のトンガパワー、法政ランニングラグビーの復活、関東学院のニューパワーなどリーグ戦グループが着々と力を蓄え、早明の牙城を脅かす事になる。それでも明治の場合は、関西の高校生がどうしても"早明戦の雰囲気で試合をやりたい"という願望が大きかったことと、早稲田に比べれば入学しやすいこともあって、優秀な選手が続々と入学し、数年前までは、その選手層の厚さで、何とか持ちこたえていたのだが…。

そして20世紀の最後には、古豪慶応が創部100周年を錦の御旗としてかかげ、完全復活を遂げ、見事に大学日本一に。
その間、日本人屈指のウィングとして世界にその名を轟かせた"サカタ"が作ったとは誰も信じられないフォワードごり押しの大体大とか、ダボスの丘でスクラム練習に精を出した京産大。日本のラグビーに新風を吹き込んだ流経大などの名前も垣間見えたが。

ルール改正への対応。選手個々のパワーアップ。フィットネスの重要性の再認識。或いは交代制度の有効利用。なかなか破れないシールドロック、などなど。様々な要因で、もはや大学ラグビーは完全に戦国時代だ。そしてこの傾向は少なくともここ10年近くは続くのでないか?

入部してくる選手、或いは核となる選手によってそのチームのスケルトンや戦術を考え直す。先にチームありきか?先に選手ありきか?非常に難しい判断だが、去年フォワードごり押しだったチームが、翌年には一転してバックスの展開力で勝負するチームに変貌する。そんなケースが日常茶飯事になるだろう。

結局どのチームも究極の目標はトータルラグビーになる。
すなわち、走れるプロップ、球捌きの上手い第一列。ラインアウトの核になり、フォローもきちんとできるロック。第三列には一時の休む間も許されず、ハーフやスタンドオフには、戦術眼だけではなく、相手フォワードに対等に立ち向かえる堅固なディフェンス力が要求され、バックス陣にはスピードと強さはもちろん、それ以上にしっかりとしたディフェンスのスキルが求められる。一芸に秀でただけではダメ。すべてできること。

当たり前の事だが、これができる選手でなければ21世紀のラガーマンとしては生き残れない。まあ、日本のラグビー選手にとっては受難の時代だ。
今まで第一列は、スクラムだけは押されるな。ハーフ陣にはタックルはしなくても良いから兎に角密集に巻き込まれるな、とか、スピードだけは超一級品、という選手達が重宝されてきたのだから。

さて、何を言いたいかというと、早稲田、明治ともこれまでの殻にこもり、頑なに老人OBの言葉を聞いているようでは、ダメだろうということなのだ。そういう輩が数多くいるのがこの両校だから・・・・。
世界はもはや、手の届かないところまで行きつつある。

ワールドカップの準決勝。
南アフリカ対オーストラリア戦を見て、私がどれだけ感銘を受けたことか。
延々と続くオーストラリアの波状攻撃。それに対して安易な反則を決して犯すことなく厳しいディフェンスで絶え凌ぐ南アフリカ。オーストラリアの波状攻撃は20回以上も続いた。その間、約3分。国内ではまずお目にかかれない、とても長い攻撃時間。
(この時間を良く考えて見てくださいね。こんな攻撃が続けば、ボールデッドになる時間などがそのプレーごとに1分近くかかるとすれば、前半など、両チーム5回の攻撃(3分×5回×2チーム+ボールデッドタイム10回)だけで終わってしまうのだから・・・・)

お互いにほとんどミスらしいミスもなく。まさに手に汗握る素晴らしい攻防だった。それでも結局トライには至らず…。ここから先は別文『21世紀のラグビーは何処へ向かうのか』で改めて書きたいと思うが、ラグビーの醍醐味はやはりトライシーンではないのか?ペナルティ合戦だけに終始するような試合で観客にストレスはたまらないのか?
はっきり言って私はたまります。
前述の試合に感動を覚えながらも一抹の不安はそこにあった。
(うーん、このまま書くと話が違う方向に言ってしまうのでちょっと修正…。)

まあ、早稲田も明治も、世界のラグビーは何を志向しているのか、を重要視せずに(まあ、もちろん目を向けているとは思いますが、程度問題でしょうか)ただひたすら、早稲田はバックスの強化(逆に歌を忘れたカナリヤのようにスクラムの強化とかフォワードの大型化とか・・・・)。明治はフォワードの強化(明治がフォワード戦で負けては明治ではない!!とかね・・・・)だけを柱にして突き進めば、恐らく今後数年は、両者とも正月に国立の芝を踏む事は並大抵ではないだろう。組み合わせの関係があるので何とも言えないが、
両校の決勝戦というのは今後10年間は生まれない、と思う。

時代は常に新しいものが切り開く。
伝統や慣習にあぐらをかく者は消え去るのみだ。それはラグビーに限らず、様々な歴史が証明してくれている。

これをご覧になった早明関係者の方々。素人が何を戯言言ってる!!!と発奮されて私の予想を覆すような事になれば、それはそれで非常に嬉しい事です。

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