1998 May.中期 (Arcana 18)

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過去のお言葉


May 11th (Mon.)

某切り裂き系Rさん、地元のカレー屋情報ありがとうございました。 是非、行ってみます。
怪しいカレー屋と言えば、京大の北白川バス亭近くの門の隣りにある 「スジャータ」は相当怪しいと思いますが、 あんな感じでしょうか?

午前中はちょっと計算をして、午後から京大数理研へ。 院生のK君とT師匠とゼミ。 僕がほんのちょっとだけ今日計算したところを話し、 その後はK君が最近考えていることを話した。

ゼミ終了後、三条の Cafe Riddle で一服して帰る。

確率論の基本的な定理に「逆正弦法則」(Arcsine law)がある。 おおざっぱに言うと、コイン投げのような公平な賭を続けると、 浮いている(累計で勝っている)か、沈んでいる(累計で負けている)か、 のどちらかに大きく偏る確率がどんどん高くなるという定理である。
人生にあてはめると、幸福であり続ける人と、 不幸であり続ける人の両極に別れ、そこそこの人は少ない。 この話を聞いた時に「まさか」と笑う人と、 「ああ、その通りであるな、、」 と溜息をつく人の二通りに別れると言うことであろうか。


May 12th (Tues.)

めずらしく午前中から登校。 今年から数学科の講師で赴任したA君に山科駅で偶然に会い、 一緒に出勤。A君とは大学院での同級生だった。

午前中からBKCで秘密委員会(というと怪しいが)。
午後から暗号ゼミ。 今日は宿題として簡単な暗号を C で実装してきてもらったのだが、 みんな一応は書けるようで安心した。 僕は最大でも 1000 行くらいのプラグラミングしかしたことがないので、 そういう意味ではプログラマでは全然ない。 しかし、ソフト関係の会社にいたり、 大学に就職してから演習をみたりしている内に、 ある程度はわかるようになっているのだろうか、 学生の書いたコードを見ると、 やっぱり変テコなところがたくさん目につく。 僕はプログラムが書けなくても困らないが、 この学生達は困るだろうから、 良いソースを見たり、 身近な真のプログラマにタコ呼ばわりされながら、 自力で勉強していって欲しい。

自力で、とは言ったが、結局は簡単なことであっても、 最初一人ではなかなかわからないもので、 やはり何事にも先達はありまほしけれ。 C で関数にどうやって複数の値を返させるのか、 可変長の多次元配列はどうやって作るのか、、、 などなど、いずれは当たり前に思えることなのだが。

白井君が今日から京都に来ているので、 山科亭にお泊めする。


May 13th (Wed.)

昨夜遅くまで長電話をしていたので、目が覚めたのは11時くらい。 白井君も丁度、起きてきて、珈琲を飲みながら、 僕はチェロの練習をし、 白井君は京大の金曜セミナーでの講演の準備など。
白井君は午後から京大にT師匠とゼミに行った。 僕は昼ごはんを食べてから、BKCへ。 ちょっとたまっていた雑事をして、自分の計算などをする。

ところで、ピアノの鍵盤を見ると、 黒鍵は二つ、なし、三つ、なし、が交代に並んでいて、 白鍵の間に黒鍵がない所があるが、あれは何故なのだろうか。 1 オクターブは12音に分割するのは良いとして、 その内の半音はどういうルールで選ばれているのだろうか。 二箇所の半音がないのはどういうわけなのですか。


May 14th (Thurs.)

白井君は京大で健康診断とかで、朝早く出ていった。 僕が起きたのは十一時くらいで、それからチェロの練習を少しして、 昼御飯。午後は数学の勉強をしてから、三条へ。 三条のバス亭で京大方面に行くバスを待っていると、 後ろでワッフルを焼く美味しそうな匂いがしてくるので、 T師匠と白井君に差し入れに買って行くことにする。
三時半くらいに京大数理研に着。 白井君とT師匠は共著の論文の執筆相談で、僕は傍で自分の計算などをしていた。 夕方から三人で散歩がてら、銀閣寺の方の料理屋まで行く。

白井君と山科に帰り、二人でしばらくチェロの調律をする。 二人がかりでなんとか相対的には調律できたようだが、 絶対音で合っているかどうかはわからない。
その後、白井君は明日の講演の準備、僕はプログラミングなど。

二人で調律している時に話題になったのだが、 最近出版された「絶対音感」という本が面白いとか。 僕などは管のソと弦のソと音叉のソを並べられても、 同じ音程であることに自信が持てないと思うが、 絶対音感のある人は鳥の鳴き声どころか、 ガラスが割れた音など日常の中の音まで、音程がわかると言う。 ちょっと思ったのだが、絶対音感のある人というのは、 幼児期の脳が出来ていく時期に、 音程に対する記憶割り当て場所が出来た人なのではないだろうか。 例えば、今チューナーである周波数の音を聞いて、 その音を記憶するということが僕には出来るとは思えない。 五感に対する記憶というのは意外に曖昧なもので、 味や、香りや、音や、色や、感蝕などを記憶する能力には、 かなりの個人差があるのではないだろうか。 記憶したものと一致している時は分かりやすいかもしれないが、 音や色のように周波数という絶対的パラメータがある場合に、 そのパラメータで差が理解できて表現できるのは、 かなり特殊な能力だと思う。

絶対音感という能力は一体なんなのだろう。 絶対音を聞ける人はどんな世界に暮らしているのだろう。


May 15th (Fri.)

午前十時起床。白井君は既に起きて、講演の準備をしていた。 目覚しにチェロの練習をし、白井君と数学の話などをして、 昼御飯を作る。 鯵の味醂干しを焼いたもの、卯の花、卵焼き、味噌汁。

白井君は講演のため食後すぐに京大に向かった。 僕はしばらくしてから、BKCへ。 午後はネットワーク関係のミーティング、 その後、暗号ゼミのため英文の文字頻度の統計を取ったり。

コナン・ドイルの「踊る人形」や、 ポーの「黄金虫」を読んだ方なら知っていると思うが、 一般の英語の文章では、e が最も多く使われ、その次が t、 その後は、a, h, o などが続く。 実際統計を取ってみると、e は文章の約 12 % を占め、 t は 10 % 弱くらいを占める。 つまり英語の文章の 5 分の 1 以上は、 e と t だけで書かれているのである! e, t に加え、a, h, o まで含めると、たった五文字で文章の四割を 占めることになる。 かなり驚くべき数字だと思うのだが、いかが?


May 16th (Sat.)

午前十時半起床。しばらくして白井君も起きてきて、 チェロの練習のあと昼食をつくり、一緒に食べる。

午後から、白井君と三条に出て、本を買って、Cafe Riddle で一服して帰る。 白井君は夕方、東京に帰った。

夜から京都は強い風と雨で大荒れ。 夕飯は鯵と納豆と卯の花。 昼間買った「絶対音感」(最相葉月)を読む。 これは面白い。 絶対音感とは一体何なのか、 を巡って様々なエピソードやインタビューから構成されたノンフィクション。

嵐に紛れてチェロの練習をする。へたくそなスケール。


May 17th (Sun.)

T部長の十の質問に答える。スペースの関係で少し質問を簡略化した部分もある。 オリジナルの質問は 日々、記ス事 の五月十五日の日記を参照。

1.「個人がHPを作成してWebに公開するということはどういうことですか?」
それは何かを「公開する」とはどういうことか、という質問が本質で、 Web や HP とは関係ない。 無理にこの質問に答えれば、「「公開する、とはどういうことか」という質問を よりはっきりと拡大すること、がその意味である」、であろうか。

2.「日記とは何でしょうか。Web日記と違うものですか?」
日記とは(ほぼ)毎日、その日に(ほぼ)依存して出来事や思ったことなどを 文章などに書き留めておくもので、Web 日記とはそれがWeb上にあるものである。 それ以上の意味はない。公開性、匿名性に関する問題は別の次元の問題である。

3.「上で違うと答えた人に質問。ではWeb日記とは何ですか?」
既に答えた。

4.「明日から情報源がインターネットしかない部屋に一人だけで閉じこもって (ただし生活に必要なものは全て部屋にそろっているとして)、 一年間生活できますか?理由をつけて答えてください。」
生活に必要なものが全てそろっている、という文章の示す意味に依存するので、 正確には答えられない。 他人に物理的に会ってはいけない、インターネット以外から情報を得てはいけない、 という条件以外は何をしても良い、という意味なら、私には可能。 だが快適とは思えない。可能であることに理由はない。 私の身体状態、精神状態からして、可能だと判断できるだけで、意味はない。

5.「インターネットを使って行なえる最大の悪事は何か?」
宣伝。

6.「インターネットに理想を抱いていますか?その理想は何ですか?」
イエス。コストが無限に小さくなること。

7.「突然、性別が変わったらどうしますか?インターネットという言葉を 一回は使って答えてください」
セックスする。インターネットとは全く関係ない。(ちゃんと一回使った)

8.「インターネットからコミュニケーションを引くと何が残りますか?」
質問がカテゴリー錯誤しているので答えられない。 その引き算は定義できない。

9. 「何故インターネットを続けるのですか?これが愚問なら、なぜ愚問ですか?」
インターネットを続ける、という言葉使いが間違っていることと、 回答が自明であることを除けば、 特に愚問ではない。 何故インターネットを使うかというと、 近くの山に清水を汲みに行ってもいいが、 私は水道を使うことが多いのと同じ理由である。

10.「あなたが今一番質問したい相手は誰ですか?その質問は何ですか?」
そのような相手も質問もないが、もし信仰がある人なら、 その信仰対象に、あなたは何か、と聞くだろう。


May 18th (Mon.)

昨夜から久しぶりに気分が悪くなるほど頭を使ったので、 体調の悪い目覚め。天気もおかしな感じで、気持悪い。 午後からRIMSへ。T師匠と院生のK君とゼミ。 今日は僕が考えていることを話した、 というか計算の途中で分からなくなったことを質問したのだが、 非常にトリビアルなことであるにも拘らず、 僕も師匠もエアポケットに入ってしまったのか、 二時間くらい沈黙の計算が、 「どうしてこんな簡単なことが出来ないんだろう、、」 という呟きとともに続く。結局大体のことは分かったが、 後は宿題になった。

ドレミファソラシド、という音階が何故そうなっているのか分からなくて、 色々調べていたのだが、結局、楽典の教科書にも 「こう決まっているからこうなのだ」式の説明しかない。 本当に皆分かっているのか? 少なくとも僕のような初心者が、こんな教科書を読んで納得できると思えない。 以下に、僕がいくつかの教科書、説明を読み、 そして調律機とチェロを使った実験によって、 多分こうではないか、と考えたことを書いてみる。 ちょっと長くなるので興味のない方は読み飛ばして下さい。

まず、440Hzの音をA(ラ)の音であると約束する。 440Hzとは、一秒間に440回の振動があることを指す。 これは人間が勝手に決めた単なる約束である。実際、 最近のオーケストラはもう少し高い音(442, 443Hz)などにしているし、 逆に昔はもっと低かったそうだ。兎に角これが基準になる。

この倍の周波数の880Hzの音を1オクターブ高いA音と決める。 これら二つの音の間を12に分ける。12 という数字が選ばれているのは、 多分約数が多いことに関係すると思う。 だが、ひとまずこの12を忘れて、440Hzのラとその倍音880Hzのラの間の どこが、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ なのか、を考える。 この分け方が問題で、音階で重要なのはドとレ、レとミ、 と言った他の音との周波数の比であるから、 その比に注目して分けなくてはいけない。 周波数の比が重要なのは、ある周波数の一つの音もその整数倍や、簡単な整数比の 周波数を含んでいるからである。 以下では一番基本になるC音から始まるハ長調の音階で説明する。 つまりC音の 1倍と2倍の間に六つの音, D, E, F, G, A, B を作ろう。すると、1倍と2倍の間にある、簡単な分数、 5/4, 4/3, 3/2, 5/3 がまず候補にあがるだろう。 ちょっと、1 と 5/4 の間と、5/3 と 2 の間が空いているので、 9/8 と 15/8 を入れる。 この分数は、 和音など三つの音の比の関係を4:5:6など単純なものにするよう選んである。 この1, 9/8, 5/4, 4/3,,,,2 が、ドレミファソラシドである。 この音階の分け方を純正律と言う。

一方、純正律に対し、現代では平均律を使うのが普通である。 平均律では隣りの音との周波数の比を全て一定に決める。 つまり、ある音と次の音の周波数比は全て1:P である。 A から次の A までを12に分け、それらが全て隣りと 1:P の比にあるから、 ある音の周波数のP倍のP倍のP倍の、、、P倍(12回かける)が丁度2倍の 周波数になる必要がある。 故に、P は2の十二乗根、約1.05946である。 これより、ドからその1オクターブ上のドまでを、 1, P, P*P, P*P*P,,,2(=Pの12乗)と分ける。 この計算を実際にやってみると、この内の六つが上で挙げた 分数の値に非常に、非常に近い。これをレミファソラシとする。 残ったものが半音である。 数学者向けに言うと、上で挙げた簡単な整数比の対数をとってみると、 12等分したスケールの内六つにほぼピタリと乗っており、 そこがピアノの白鍵、あまった所が黒鍵である。

まだ完全に分かったとは言えないが、 多分こういうことだと思う。 音楽に詳しい方がいたら、これで正しいか、 どこか変なのか、教えてください。

May 19th (Tues.)

昨日の音階と音程の問題について、 ○のうらさんからメイルで「だいたい合っている」という確認と、 「半音」など幾つか言葉使いの間違いを指摘していただいた。 由緒正しい柏○会に属していた方の意見なので間違いなかろう。 また楽典よりも音楽史方面の文献を調べた方がよかろうとのサジェスチョンや、 色々と面白い情報ももらった。 また、T部長からも現代音楽方面の情報をいただき多謝。

「喧嘩売ってるのか」と言う意見にもめげず、 今日も一気に訪問者を減らしそうな内容である。

数日前に英語の文章では、e,t, a, h, o の五文字で 40 % を占める、 という話を書いた所、アルファベットは26文字しかないから、 もともと五文字で 20 % ほどを占めており、 そんなに驚くほどの数字ではないのではないか、との意見をいただいた。 どれくらい驚いたらいいのかという目安も難しいが、 一つの方法は、各アルファベットが公平な確率でランダムに出現する時、 (猿がでたらめにタイプライターを叩いた時)、 e,t,a,h,o が 40% 以上現れるのはどれくらいの確率か? を計算してみることだろう。

以下、少々(少々?)専門的になるが御勘弁いただきたい。
今、26文字が全く公平にランダムに並んで文章が出来ているとすれば、 各文字は 1/26 の出現率で登場するから、五文字で 5/26 = 0.1923 の確率を占める。 例えば、100文字の中で約19文字くらいを占めるだろう、 と予想できる。これに対し 40%、すなわち40文字以上を占めることが、 どれくらい珍しいか? 以下計算を簡単にするためにアルファベットを25文字とし、 ランダムに並んだ100文字の文章の中に特定の五つの文字が、 どれくらい現れるかを考察しよう。

指定した五文字が現れる確率は 1/5 、それ以外の文字が現れる確率は 4/5 である。 これは表 1/5 、裏 4/5 の不公平なコインでコイン投げをするのと、 本質的に同じ問題である。 この時、100文字の中に n 文字、指定文字が現れる確率は、 100 文字の中でどの n 個に現れるかの組み合わせの数に掛けることの、 1/5 の n 乗、かける、4/5 の(100-n)乗である。 すなわち、100!/{(100-n)!n!} * (1/5)^n * (4/5)^(100-n) 。 (ここに、! は階乗の記号で、N! = 1*2*3*,,,*N を表す)。 この確率を以下、P(n) と書く。

したがって、指定文字が40文字以上を占める確率は、 P(40) + P(41) + P(42) +,,,+P(100) である。 根性があればこれを手で計算してもいいし、コンピュータに計算させてもいいが、 普通はこれを積分で近似する。 上で書いた確率は二項分布と呼ばれる分布に従うが、 試行回数(今の場合は100)が十分大きければ、 ガウス分布でよく近似されることが知られている。 すなわち、成功の確率が p (今は1/5)であるような、 n 回(今は100回)の独立試行において、成功の回数を S(n) とすると、 この S(n) を平均と分散で標準化したもの NS(n) は、 ガウス分布(正規分布)にほぼ従い、NS(n) が x より大きいような確率は、 1/sqrt(2*pi) * exp(-t*t/2) を x から無限大まで積分したもので良く近似される。 この計算の結果は、僕を信用してもらうとすると、 100文字の中に指定した五文字が40個以上現れる確率は、 百万分の一のオーダーである。

試行回数が十分大きい時、二項分布はほとんどガウス分布で近似され、 ガウス分布は平均の周りに強く集中し、 平均から離れると急激に減衰することが本質である。 実際、平均を中心にして上下、標準偏差の三倍以内に約99.8%の確率が集中する。 上の設定では、求める確率は標準偏差のおよそ五倍から先の部分で、 この確率は非常に小さい。


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