12.02.11
過去何年も、この公開討論会、というか実質は講演会あるいは独演会を注目していたが、
昨年はもう出がらしと断じた。
だからもう気にすることもコメントすることもないのだが、ISO中毒の私は開催のシーズンになると、どうも気になり予稿集をプリントアウトして読んでいる。なぜなら、討論会を聴講するにはなんと1万円もとられるのである。
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1万円は大金である。2012年現在、1万円あればどのようなものが観劇できるのだろうか?
相撲なら升席、歌舞伎なら12000円、宝塚なら11000円、終わってしまったけどシルクドソレイユだって最高の席で18000円、レギュラーなら1万円しなかった。それに比べて、飯塚師匠の高座が1万円とは高いと思う。私の金銭感覚はそういうものだ。
しかし、中島みゆきは高い、好きだけど私のサイフではムリです。
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もう何年も前になるが、某機関のえらいさんからお流れ入場券をいただいて、公開討論会を聴講したことがある。しかし会場に行ったところで質問や発言ができるわけではなく、有明までの電車賃が無駄という気がした。別の認証機関のえらいさんからは「JABの大会には、義理で参加するんだけど、30分で出てくるよ、つまらないから」と伺ったことがある。
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私の場合、えらいさんというのは、社長とか取締役のことを意味する。
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さて、今年の公開討論会のテーマは、なんと「ISO認証のブランド価値を高める」である。
「ISO認証のブランド価値を高める」いい響きだ。市場においてトップではないが、中堅と目されていて、これからマーケットシェアを伸ばすだけでなくブランドを確立しようとしている企業であれば「当社のブランド価値を高める」というトップ方針があってもおかしくなく、社員はそれを共有して張り切るかもしれない。だが、負け犬とかランクが低い企業であれば「ブランド価値を高める」なんて方針を出しても、社員はしらけるだけだろう。
さて、ISO9001は一般社会で、産業界で確固たる地位を占め、ブランド向上を図るといえるようなお立場なのであろうか?
現実に目を向ければ、JAB登録件数はゴムひもの切れた靴下のように、どんどんと下がる一方だ。JAB認定の登録件数は減っても、ノンジャブを含めれば登録件数は増えているとか、統合認証が進んだために件数が減ったとか、言い訳することはない。その現実を認識し、問題を究め、対策すればよいのではないだろうか。
おっと、この討論会がその一端かもしれない。
それにしてはお題が「ブランド価値をあげる」とは、現実とかけ離れているように思える。「ブランド価値をあげる」というより、「ISO登録件数をあげる」とか、「ISOの信頼性をあげる」とか、あるいは「審査員の志気をあげる」と言ったほうが良いのではないのだろうか?
まあ、「実現できるかどうかに関わりなく、高い目標を持ちなさい」と語るISO審査員が多いから、その元締めであるJABも、高い目標を掲げることに意味があるのだろう。
過去を振り返ってみよう。
今回が第18回というくらいだから、過去17回の開催があったわけだ。どのようなテーマで開催されたのだろうかと、21世紀になってからのテーマを表にしてみた。表は年度であり、開催されたのは翌年の春である。
JAB/ISO9001公開討論会 |
開催年度 | テーマ |
2003年 | 内部監査-ISO9001:2000の有効活用
・企業による事例発表 |
2004年 | 自律的QMS構築のための内部監査プログラム
・内部監査計画
・内部監査員の力量
・監査結果のフォロー |
2005年 | 経営ツールとしてのISO9001活用
・組織として動くことのできる体制の確立
・環境変化への対応
・アウトソースしたプロセスの管理とは? |
2006年 | ISOを楽しむ
・基盤構築
・技術能力向上
・トップを動かす |
2007年 | ISO9001認証を考える
・信頼されるISO 9001認証制度
・サプライチェーンにおけるISO 9001認証の活用
・組織にとってのISO 9001認証の価値 |
2008年 | 審査を変える〜QMS認証の価値向上〜
・QMSの有効性をみる〜ISO 9001逐条審査からの脱却〜
・社会・組織の期待に応える審査〜現行制度の枠内でどこまで可能か〜
・組織からみた価値ある審査〜審査の活用と期待〜 |
2009年 | ISO9001認証の社会的意義と責任
・求められるQMS能力〜QMS運営能力を有していると判断するための審査〜
・認証付与の判断基準〜認証機関によるISO 9001適合の判定〜
・組織によるISO 9001適合の実証〜組織自らによる能力の実証とそのメリット〜 |
2010年 | QMS能力実証型審査〜真の有効性審査を求めて
・QMS能力実証型審査の基本的考え方と計画
・QMS 能力実証型審査の方法と実施
・組織の視点でのQMS 能力実証型審査の価値の追究 |
2011年 | ISO9001認証のブランド価値を高める
・消費者の視点から 〜お客様の期待を裏切らない製品の提供〜
・社会の視点から 〜安全・安心で豊かな社会の実現〜
・産業の視点から 〜産業競争力強化への貢献〜 |
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2006年までは未来に向かった明るいテーマを語ってきたが、2007年で突然足元の問題に関する信頼性がでてきた。
ちなみに、再生紙の古紙配合比偽装事件は2008年明けの事件であった。まさに2007年度大会のときである。経産省の信頼性のガイドラインがでたのがその年の夏で、その時点ではまだ発行されていなかった。しかし想像だが、JABには経産省からそうとうなプッシュがあって、イベントで浮ついたテーマを語る状況ではなかったのだろう。
それ以降のテーマを見るどうだろう。2007年では認証の価値を考え、2008年は価値向上を図ろう、2009年は認証制度の社会的信頼が低下していると社会的責任を論じ、2010年では審査で節穴審査があると言っていた。認証制度の信頼が低下しているという前提で企業が悪い、審査が悪い、審査員の力量がないと語っていた。内容はとりとめがなく正否も定かではないが、ともかく前提条件は2007年から変わらなかったわけだ。
ところがこのたびの2011年度(2012年開催)では、その前提を認めていない。
基調講演の扉の次のページに「ISO認証の普及に陰りが見られる?」「信頼感・信用が低下している?」「有用性・有効性に失望感が漂う?」とあるが、いずれにも疑問符?が付いている。これは「そうだろうか?」という疑問の提示なのだろう。あるいは反語かもしれない。
そして3ページ以降は、そのような陰りには目もくれず、いやなかったのように、ひたすらISO9001をロレックスかヴィトンと同様にブランドとするためにがんばろうと一気呵成に突っ走る。
飯塚先生
あの、虚偽の説明はどこにいってしまったのでしょうね
そして、節穴審査はどこにいったのでしょうか?
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麦藁帽子はなくても、人間プライドなくしては生きていけません。
エッツ、記憶をなくしてしまったんですか?
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真面目に過去からの講演を聞いていた人は、その不連続というか脈絡のなさに途方にくれる。
もし今回のテーマを素直に受け取る人がいれば・・いないとは思うが・・その人は記憶力がゼロなのだろう。
しかし、これは飯塚先生個人のお考えではないことは間違いない。JABとしての総意だろうと思う。ということは、JABは問題を究明し解決することを放棄して、あるいは諦めて、とりあえずISO認証を宣伝することに徹することにしたと見た。
問題の本質的解決を考えても手に負えないなら、とりあえずは本質的問題を放置して、日銭を稼いでしのがねばならないという状況なのかもしれない。
あるいは、まったく問題は存在しなかったということかもしれない。しかし、それならそうと、今回の討論会で「過去認証の信頼性に不信感をもたれていたこともあったが、調査した結果そのようなことはないことが判明した」くらい言ってくれないと困る。それに第一、基調講演の2ページ目の「ISO認証の普及に陰りが見られる?」以下の3行につながる下の句がまったくないのだ。
いやいや、それとももうその段階も過ぎてしまって、誰もISO9001認証などを評価しない状況になってしまったのかもしれない。だから、ISO関係者が何を語ろうと、世の中の人は関係ありません、昨年のことと矛盾していても突っ込まないでください、楽しいセレモニーをしましょうやということかもしれない。
そういえば、昨年までは有明の東京ビッグサイトで開催していたが、今年はISO14001と同じく、有楽町のマリオンである。理由は当然、参加者が減ってきているからだろう。
過去の討論会の入場者数(注1) |
開催年 | 回 | 入場者数 |
2007年 | 13回 | 750名 |
2008年 | 14回 | 800名 |
2009年 | 15回 | 700名 |
2010年 | 16回 | 600名 |
2011年 | 17回 | 500名 |
2012年 | 18回 | 400名 |
2013年 | 第1回(注2) | 約400名 |
2014年 | 第2回 | 非公表 |
2015年 | 第3回 | もちろん非公表 |
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注1: | 参加者数はJABウェブサイトから引用 |
注2: | 2013年(2012年度)から品質と環境を合わせて「JABマネジメントシステムシンポジウム」と改称。 |
これでは1000名の会場では空席が目立つし、費用もかかる。過去の参加者数からの想像だが、今年は400名になるのだろうか?
注 その後の
広報で400名と発表されている。(2012.9月追加)
もう世間ではISOはとうの昔に流行は終わり、年末の紅白とか、なつかしの歌番特集でしか聴けないのかもしれない。
結論として、討論会で何を主張しようと、議論しようと、己の過去の発言を無視して、現実離れしたことを論じても、世の中の人は相手にしないだろうと思う。そのような小児的対応を改めて、現実をしっかりと把握し、問題の対策をしなければ現実はますます悪化するだろう。そして登録件数はますます減り、認証機関も認定機関もいらなくなるだろう。
そしてアガサおばさんの「そして誰もいなくなった」という予言は成就する。
もしこの駄文に反論するならば、まずJABも基調講演者も、己の立場をしっかりと固め、発言の責任を認識した上でお願いする。つまり、過去の討論会の前提、結果、を無視することなく、それを継承し、それに積み上げて、今年のテーマにつなげなければならない。
私個人としては、企業の虚偽の説明が何件あったのか、節穴審査員が何名いたのかをぜひご説明願いたい。あるいは、なかったという声明でも良い。
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