物語 | リアル年 | 世の中の主な出来事 | ||
1話〜2話 | 1990年 | 38歳 | 1歳と4歳 | バブル真っ盛り |
3話〜9話 | 1991年 | 39歳 | 2歳と5歳 | 欧州輸出している企業でISO9001認証が始まる、バブル崩壊 |
10話〜29話 | 1992年 | 40歳 | 3歳と6歳 | EU統合、リオ宣言 |
30話〜31話 | 1993年 | 41歳 | 4歳と7歳 | ISO9001認証が流行になる |
32話〜34話 | 1994年 | 42歳 | 5歳と8歳 | 松本サリン事件 |
1995年 | 43歳 | 阪神淡路大震災、オウムテロ事件 | ||
35話 | 1996年 | 44歳 | 7歳と10歳 | ISO14001規格制定(仮認証始まる) |
36話〜41話 | 1997年 | 45歳 | 8歳と11歳 | ISO14001認証本格的に始まる、京都議定書 |
42話 | 1998年 | 46歳 | 9歳と12歳 | アジア通貨危機 |
1999年 | 47歳 | ユーロが使われ始める |
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「ISO規格や法規制についてはこちらでも説明しましたし、みなさんも勉強していたと思います。今まで聞いていたことと研修で習ったことでは違いもあったでしょう。感想はいかがですか?」
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「うーん、わしは今回の研修内容に非常に違和感を持った。ナガスネは完璧に規格解釈がおかしいんじゃないかね」
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「六角さんはそう感じましたか。私はおかしくは感じなかったですね。我が意を得たりというところですかな」
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「だってさ、言っていることで変なところがいろいろあったじゃないか」
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「そうですかね?」
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「例えば・・・環境目的が3年後の目標だって、ありゃなんだ? 英語も読めなければ日本語も読めないらしい」
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早苗はムッとした顔をする。
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「確かに規格では環境目的とは3年後の目標とは書いてありませんが、環境目標が短期目標で環境目的が長期目標という意味は間違っていないと思いますよ」
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「そういう理解もおかしいぞ。環境目的とは何かをどれくらい達成したいということだから日本語の意味では目標そのものだよ。英語のオブジェクティブって元々目標という意味だ。それを目的なんて言葉に訳したのが大間違いだな。日本語で目的というとオブジェクティブではなくパーパスの意味に取るだろう。 そして環境目標って原語ではターゲットだ。ターゲットとは、目標と言えば目標だろうが、ちょっと違う。例えば1年後に達成すべき目標があったとして、実際に改善を進めるためにはそれを途中の目標に展開するだろう、つまりひと月後はここまで、二月後はここまで、半年後にはここまでと、それをターゲットというんだ。あのナガスネ認証の審査員も講師もそんな基本的なことをわかっちゃいない」 |
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「六角さん、講師が『環境目的は3年後の目標』と教えているんだから、理屈をこねないでそう理解したらいいじゃないですか」
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「そんなバカな、ナガスネの考えは根本的に間違いなんだ。ああいう考えで教えたり審査したら、日本のISOはダメになってしまう」
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早苗と六角は口角泡を飛ばして議論を始めた。 |
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ナガスネは規格を ![]() 分ってないんだよ ![]()
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★ナガスネが良いって ★言ってんだから ★あれでいいんです
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「まあまあ、おふたりとも冷静になりましょう」
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「佐田君もナガスネがおかしいってことを知っているだろう。それについてはどう考えているのだね?」
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「正直言いまして私は六角さんと同じ考えです。しかしナガスネの考えが間違いだと言える場合と言えない場合があります」
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「ほう、言えない場合とは?」
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「六角さんと早苗さんはISO審査員として出向する計画です。日本にはISO認証機関は何十もありますが、みなさんはどこの認証機関にでも自由に行けるわけではありません。基本的にナガスネに出向してもらうわけです」
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「つまりナガスネに出向するなら、ナガスネが間違っていると言っちゃいかんということか? 親分が白を黒と言えば、子分も黒と言えということか」
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「まあそういうこともありますね。ああもちろん、出向先はナガスネしかないというわけではありません。 六角さんよりも1年先輩にあたる片岡さんという方は、ツクヨミ品質保証機構に出向しました。やはり六角さんと同じくナガスネの考えはおかしいと考えていまして、自分はそんな誤った考えで審査をしたくないということでした」 |
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「やはりそう考える人はいるか・・・どうだろう、わしも長いものには巻かれろというのは好かんな、ナガスネ以外というわけにはいかないかね?」
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「元々は当社がナガスネの株主であったので、そこに出向させるという発想でした。認証機関の株主になっていなくても出向できないわけではないです。また先ほどのツクヨミは財団法人ですが、そこにも出向が不可能ではありません。みなさんの力量次第ということでしょうね。もちろん相手があることですから希望がかなうとは限りません」
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「ともかく出向先がナガスネしかないというわけではないのだね?」
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「そうです。まあまだ半年以上あるわけで、その辺は人事に希望を伝えておいた方がいいでしょう。但し、他力本願ではものごとは成就しません。片岡さんは自ら出向先を探しました」
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「ちょっと待ってくれ、本題が決着していないぞ。今回の講習会で教えていた『環境目的は3年後の目標』というのは間違っているというのか? 本社はグループ企業にナガスネで認証しろと指示しているだろう。だから当社の工場はどこでもそういう理解でシステム構築していると思っているが」 |
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「早苗さんのお気持ちはわかります。 ちょっと実態をお話しますと、当社グループの企業に対してナガスネで認証しろとは指示していません。そして私は各工場、各関連会社がどの認証機関で認証しているかを把握していますが、ナガスネで認証しているところは4割くらいですかね。6割はそれ以外の認証機関です。 そして環境目的が3年後の目標といっている認証機関はナガスネだけです」 |
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「本当か? それじゃ六角さんの言うようにナガスネが間違っているのか? それとも解釈の仕方でどうとでもとれるのか?」
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「ISO規格とはISO14001の文章がすべてです。他の文書や規則を知る必要はありません。あなたがISO14001を読んでどう理解するかということがすべてです。正確に言えば日本語のJIS規格は翻訳ですから、翻訳がおかしいと思えるところは英語を読む必要がありますが、ともかくISO規格だけを理解すれば間に合います」
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「わしもそう思うよ。ISO規格をいくら読んでも1年とか3年という言葉はない」
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「じゃあナガスネが3年というのは何を根拠にしているんだ?」
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「根拠なんてないと思いますよ。ナガスネの勝手な思い込みか、あるいは自分たちが考えたあるべき姿なのでしょう。しかしそれは一般的な考えではありません。それが証拠に、世の中ではナガスネ方式とかナガスネ流と揶揄されています。要するに世の中一般からはあの会社の考えはおかしいとバカにされてるということです」
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「待ってくれよ、そうすると他にも間違いがあるのか?」
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「あります。環境側面を点数で決めるとか、環境目的用と環境目標用の二つのマネジメントプログラムが必要とか・・」
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佐々木の言葉を聞いて、早苗は絶句して、六角は勇気づけられたようだ。
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「そうかそうか、わしもおかしいなあと思っていたんだ。目的が3年というのは規格に3年と書いてないからおかしいと思った。しかし環境側面を点数でするというのは客観的であるためには正しいのかと思っていた」
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「現実問題として、ナガスネの審査では点数で評価していないと、まず不合格になりますね。それは間違いありません」
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「じゃあナガスネに審査を依頼した会社は、点数方式で環境側面を決めるしかないというわけか?」
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「それが審査でもめずに、速やかな認証が得られるということは間違いないです。 しかし実際には当社のいくつかの工場や会社ではナガスネに審査を依頼して点数方式でないところもありました」 |
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「そこは不合格になったわけか?」
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「審査では不適合を出されました。しかしそういった会社はそれなりに考えていますから、審査員を論破して認証を受けました」
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「ほう、じゃあ今はナガスネもまっとうになったわけか」
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「いや、そうはなっていません。個々の審査でナガスネの解釈を否定され不適合を撤回させられても、ナガスネは間違えた規格解釈を変えていません。今でもナガスネの解釈がおかしいと言わない会社に対しては、高圧的にナガスネ流を押し付けています」
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「うーん、おれもかなり強引なビジネスをしてきたけれど、そこまで悪どいことはしなかったぞ。だってある会社でナガスネ流は間違いだと言われたのだろう。それじゃ他の会社に行ってナガスネ流が正しいというのは良心に反することじゃないか」
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「そう考えるのが自然でしょうけど、ある会社で論破されても、次の会社に行けば懲りずにナガスネ流を押し付けているのは現実ですね」
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「うーん、規格解釈が間違っているだけでなく、悪意があってそういうことをしているわけか」
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「悪意ではなく、限りない善意かもしれませんね。善意とは法律では無知をいいますから。 いずれにしてもナガスネのおかしな解釈は、単なる間違いではなく、明確な意思というか故意ですね。彼らの審査は、規格適合を確認することではなく、無知蒙昧な企業を彼らが考えている理想に向かって指導することなのでしょう。彼らなりの高邁な思想かもしれません。まあ、はっきり言って余計なお世話に過ぎませんがね」 |
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「六角さん、非常に微妙なことをご理解いただきたいのですが、当社グループがナガスネの審査がアホらしいと他の認証機関を利用すると、みなさんのナガスネ出向の可能性はなくなるわけです。といってナガスネをわざわざ選びたいという会社はほとんどありません。 じゃあ他の認証機関に出向すればいいじゃないと思うかもしれませんが、当社グループの企業の依頼している認証機関が分散しているからその可能性は高くない。世の中すべからくギブアンドテイクですからね。我々もどこに頼めとは言っていないし、そういう指示をすればナガスネから出向受け入れを断られるのは明白です」 |
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「なるほど、それが先ほど佐田君が言ったことか。おれも長年日本でビジネスをしてきたからその関係は良く分るよ。 しかし・・・それじゃあ、ナガスネに出向する身とすればどうすればいいんだね?」 |
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「問題はいろいろあります。本来ならばナガスネの審査を受けた会社すべてがナガスネ流を跳ね返すということもしなければなりません。もっともナガスネ独特の考えは広く知れ渡っていますから、当社グループでナガスネ流が嫌なところはナガスネ以外に審査を依頼しているようです。しがらみがなければ誤った規格解釈をしているナガスネを選ぶ理由がありません。ナガスネに依頼するところは、何らかの事情で、嫌々ながらか喜んでかはともかく、ナガスネ流に従うことに決めたということでしょう。 しかし根本問題は、日本の認証機関や認定機関が、間違えた考えをしている認証機関を諌めることも必要でしょうね」 |
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「その前に、ナガスネが審査でいちゃもんを付けられたら反省して、次の審査から考えというか規格解釈を変えるべきだろうね」
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「そうではありますが・・・・まあ、向こうの取締役と話したことがありますが、幹部が自分たちの間違いを認識していないのですから、それは期待薄でしょうね。 話が発散してしまいます。六角さんのご質問の答えを考えてみましょう。 一番簡単な方法は、ナガスネの考えが誤っていても、それに従って審査を行うことでしょうね。 あるいはナガスネの内部で、正しい規格解釈を主張して改革をするというのもあるかもしれませんが、ナガスネのトップもそういう考えでいますので、一審査員しかも新参者では自分がいじめにあうか、はじき出されるのがオチです。 そうではなく、当面はナガスネの方針に従っていても、何年か後にはまっとうな方向にしようと、じっと我慢して臥薪嘗胆するのもあるかもしれません。 もちろん六角さんがおっしゃたように他の認証機関を目指すのもありでしょう」 |
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「そう聞くと気が重くなるね。ところで一度このメンバーでナガスネの解釈の問題点について話し合いをする場を設けてくれんかね。ナガスネに行っても他の認証機関に行っても、ナガスネの考えを知ること、その違いを理解していることは重要だ。佐田君たちはそういう情報を持っているのだろう」
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「わしもそう思っていた」
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「わかりました。ナガスネ流についてまとめまして、それについて議論する場を設けましょう」
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佐田は始業1時間前には出社する。佐田が夜の間に入っているメールをチェックしていると、佐々木が部屋に入ってきた。昨日、佐々木は六角と竹山を従えて、横浜にある製造業の関連会社に監査に行っていた。佐々木が佐田に話しかけてきた。
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「佐田さん、ちょっといいかな?」
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二人はコーヒーをもって打ち合わせ場に行く。
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「昨日ね、向こうで六角さんと竹山君が議論というか口論を始めてしまってね。困ったよ」
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「発端はなんでしょうか?」
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「振動規制法の届が漏れていたことなんだ。六角さんが特定施設の台数が増加しているのに届をしていないと問題提起したら、脇から竹山君が2倍になっていないからいいと言ったんだよ」
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「振動規制法と騒音規制法の勘違いですか・・・」
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「まあ、そうなんだけどね・・・その後、六角さんがいくら説明しても竹山君が納得しなかったのと、そのときの竹山君の言葉使いがタメ口だったものでね、六角さんが怒りだしてしまった」
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「言いかえると、六角さんもいよいよ本気を出してきたということですかね」
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「オイオイ、佐田さんよ、あの場にいたボクとしては気が気じゃなかったよ。とはいえそう思えば喜ばしいことかな、いやそう言われると気が軽くなったよ、アハハハハ」
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「その場はどうしたのでしょうか?」
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「向こうの工場の人が参考書を引っ張り出して六角さんが正しいことが分ったが竹山君が納得せず、結局市の環境課に電話で問い合わせた。もちろん六角さんの指摘が正しく、一件落着したわけだが」
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「六角さんと竹山君の方はどう収めたのでしょうか?」
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「議論は収まったが、わだかまりは消えてないだろうな。今日ふたりに話をするつもりなんだ」
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「私も陪席してよろしいですか?」
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「そう願おうと思っていたところだ。佐田さんから話してもらった方が良いだろうか、いや私から話すのが筋だろうなあ。始業時からということでお願いできますか。時間が経つと忘れてしまうから」
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始業時になり朝礼の後に4人は会議室に集まる。 | |||||
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「昨日の監査で六角さんと竹山君が法規制について議論になったが、あれは芳しくない。芳しくないと言っても私の趣旨が伝わらないかもしれないので、はっきり言えば二度としないようにということだ」
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「言われる通りだ。監査の場で我々が議論するなどマズイ、恥をさらして申し訳ない。しかし竹山君もガンコだなあ」
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「六角さんだって、あんなふうに頭ごなしに言わなくても良いでしょう」
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「君が本を読んで調べれば良かろう」
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「待った待った、冷静になってください。 六角さんにお願いしたいのですが、監査を受ける会社もお客様、一緒に監査をする人もお客様と思ってください。一緒に審査するISO審査員も現地で初めて会うということもあるそうですから、そういったことに気を付けてください」 | ||||
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「わかった、わしも熱くなりすぎたと反省している」
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「ありがとうございます。 竹山君は主張するときは良く調べて発言すること、法律はちゃんと本を読むこと。そして間違えたと気がついたらすぐにそれを認めること、いいね。 それと君は言葉使いをもう少し考えなくてはいけないよ。六角さんも私も竹山君より30歳も年上だ。大学の仲間とか同期入社の人と話をしているわけじゃない。目上の人には丁寧語を使うこと」 | ||||
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「ハイ、わかりました」
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「ところで六角さんは騒音規制法や振動規制法も勉強されているのですか?」
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「うん、ここに来たときに水質1種を受験しろといわれて、たいそう驚いたというか戸惑ったよ。しかし勉強していると最近はいろいろなことに興味が出てきて、電車の中では騒音規制法や振動規制法を読んでいるんだ。これが結構おもしろい」
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「そちらの試験も受ける予定ですか?」
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「いや、既に申し込み期限は過ぎている。内容を知っていたら二つくらい受験したんだがね」
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「竹山君、君は水質1種の勉強はどれくらい進んでいるんだね?」
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「え、水質1種ってなんでしたっけ? あっ公害防止管理者試験のことですよね。ええ、通信教育をしてますよ」
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「レポートは何回提出したんかね?」
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「うーん、まあ、あまり真面目にはやっていません。これからがんばります」
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「竹山君はもう少しいろいろな法規制を勉強してほしい。今まで監査事務局というのは計画を立てて監査員を割り振り、報告書のフォローだけだったようだ。今は監査の現場指揮官だから以前とは大違いだ、私も長いことはないから、いずれ竹山君が私に代わってやらなくちゃならない」
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「実を言って、私はあまり法規制に興味がないんですよ。環境監査って法律を知って、それとの齟齬がないかを調べるだけでしょう。面白くないですね。 どうせならLCAとか環境会計とかを担当したいですね。管理課ではなく企画課に行きたいなって思っているのです」 | ||||
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「面白いか面白くないかは君の自由だが、君の仕事は環境監査の事務局のわけだ。その仕事の力量を付ける義務はあると思う。少なくても昨日のような醜態はいかんな」
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「わかりました」
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二人が会議室を出た後、佐田と佐々木は残った。 | |||||
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「佐田さんに出てもらうまでなかったですね」
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「いや、お話を聞いてためになりました。六角さんはけっこう本気になってきましたね。他方、竹山君はあまり今の仕事が好きではないようです。話を聞いていると彼を内部監査からはずして、他の部署に移した方がいいのかなという気がしてきましたが、どうでしょうか」
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「うーん、現状では竹山君は工数外、戦力外だけど、あと2年で私は定年になるわけで、後任をどうするかだな」
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「2年は長いですよ」
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今日は岐阜工場のISO審査だ。六角は審査というものを見たことがないので、佐田は立ち合いに行かせた。たまたま今週は監査がないので、六角だけでなく早苗も一緒だ。● ● 岐阜工場ではまだ大山部長も川中課長も在職しており、佐田から二人によろしくと頼んでおいた。 オープニングである。六角と早苗は一般席の後ろに座っている。前方には80脚ほどのパイプ椅子が並び、オープニングが始まるときには60ほどが埋まった。六角はそれを見て呆れた。彼も営業部長としてビジネスの第一線にいたから、このような場にそれほどの人が出席することが、いかに無駄かということを体で感じた。 | |||||
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「なんでこれほどの人数が出るんだ? 時間の無駄、金の無駄だ」
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「私は審査を何度も受けているが、これくらいは普通だよ」
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「普通かどうかはともかく、どんな話をするのだろう? 役に立つことならいいが」
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オープニングが始まった。 審査員はナガスネの 柴田取締役と 宮下審査員である。
一部の認証機関では社長とか取締役が審査員資格を持っていないところもあるが、ほとんどは審査員資格を持ち実際に審査をしている。幹部が第一線を知るということが重要と考えているのか、社長のやる気を一般審査員に知らしめることが大事なのか、どうなのだろうか? とはいえ社長とか取締役が立派な審査ができるということもなく、ある認証機関では社長がミスしないようにいつもベテラン審査員がセットになっていた。ご苦労である ![]() 柴田リーダーが今回は何度目の維持審査であるとか、審査の進め方とか、適用範囲の確認、スケジュールの確認などをする。もちろんナガスネが異議申し立てについて説明するわけがない。 柴田審査員の話が終わると、岐阜工場長の挨拶がある。「しっかりと環境管理をしているつもりだが、至らないところもあるだろう。良く見てほしい」そんなことを言ってほんの一、二分で終わる。その後経営者インタビューの予定だ。ここで退席する人がチラホラいる。そのために室内がしばしザワザワした。 | |||||
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「オイ、早苗さん、オープニングというのはこんなものなのか?」
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「そうですよ、ためになったでしょう」
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「いや、ためになるような話は聞こえなかったな。仮に60人が30分ここにいたとして、数十万円のロスが発生したわけだ。本社はこういった悪弊を止めるように通知を出すべきだな」
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「六角さん、今のお話を聞いてすぐに環境保護とか会社の仕事に役立つわけではないが、ISO審査とはなにかとか、どんなことをするのかということは分かったでしょう」
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「そういうのを知ると会社に貢献するのかね?」
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早苗は六角に何を言っても無駄だと思い、話すのを止めた。ちょうどそのとき経営者インタビューが始まった。 審査員が差し障りないことを聞き、工場長が当たり前のことを答える。工場長のかたわらには、今朝、六角が挨拶した大山部長と川中課長が座っていて、工場長のご下問があるとなにやら応えていた。 聞いているのもバカバカしい堅苦しいお世辞と建前論の応酬が30分ほどあって経営層インタビューは終わった。 聴講者のほとんどというか全部がゾロゾロと部屋を出ていく。工場長と座っている席に名札が置いてあった部長クラスと思われる数人も出て行き、残ったのは大山部長と川中課長そして環境部門の合わせて10人程度だ。 | |||||
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「今出て行ったのが65名か、ここに1時間座っていて何を得たのだろうねえ〜」
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早苗は六角の言葉を聞くと、自分が責められているような気がして黙っていた。 一旦10分ほどの休憩が入る。 六角は立ち上がりトイレに行く。隣に環境担当者と思われる若いのが並んだので声をかけた。 | |||||
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「本社から見学に来たものです。ISO審査は初めてですが、オープニングにこれほどの人が出席するのはいつものことなのですか?」
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「そうですね。正直言って人を集めるのが大変なんです。部課長には全員出てほしいというのですが、本業を優先するところが多く、半分も出ません。それで事務系の職場を歩いて、それぞれから一人でも二人でも出してもらうようにお願いしています」
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「大変なんだね。ところで話を聞いても、ためになるとも思えなかったが・・」
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「それを言っちゃおしまいですよ。ISO審査そのものが、お芝居みたいなものですから。 今回も不適合がゼロなんてことはないでしょうね。明日の夕方には一つ二つ軽微な不適合が出されるのは間違いないです。もっとも、こちらが遺憾の意を表明してすぐに是正する態度を見せるとその指摘事項を観察事項にしてくれるのがストーリーですよ」 | ||||
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「ほう、台本まであるんだ」
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その若者はあたりを見回して、
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「あまり大きな声では言えませんが、審査員がお見えになったときウチの課長、ご存知ですよね、
呆れたことに川中課長はそうすることで、自分が優れた課長だと思っているのです」 | ||||
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「そんなこと川中課長がふだん社内に号令をかければ済むことじゃないのかね?」
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「指摘を出さないと審査員も困るでしょうし、どうせ指摘を出されるなら自分の部署ではなく課長にとって目の上のたんこぶになっているところをやり玉にあげたいのと違いますか?」
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「なるほど、貴重なお話を聞かせていただいて勉強になったよ、ありがとう」
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会議室に戻ると早苗と川中が仲良く話をしている。そう言えば早苗も元工場の環境課長だったというから二人は以前から知り合いだったのだろうと六角は考えた。そして前と同じく一番後ろに座った。 川中から朝もらったスケジュール表を見ると、書面審査のはじまりは環境側面の審査とある。
六角もそうだと思い、環境管理責任者である大山部長と川中課長の二つ三つ後ろの席に座った。大山部長とも朝来たときに名刺交換していた。 ほどなく審査が再開された。 | |||||
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「環境側面の特定方法、著しい環境側面の決定方法は変更しましたか?」
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「見直しはしましたが変更はしておりません」
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「それはなぜですか?」
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「前回の方法で現有設備や使用化学物質などを評価しなおしましたが、結果は適正であるので、評価方法を見直す必要はないと考えました」
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「なるほど、それは結構ですね」
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六角がブツブツ小声で言う。
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「どうも理解できないね。評価して結果が適正だから評価方法が良いというのは理屈が合わないのじゃないかね、評価方法が適正かどうかが評価結果によって判断されるとは主客転倒、支離滅裂だ。評価結果が前回と変われば環境側面を直すという筋がほんとじゃないのかね」
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川中 ![]() | |||||
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「そうしますと、著しい環境側面となったものも変わりないということでしょうか?」
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「ハイ、昨年の審査時から変わったものとしては、コンプレッサーの更新、重油使用量が3%ほど減少、電力量が4%ほど増加したくらいでして、環境影響は大きく変わっていません」
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宮下は資料をながめている。
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「それでは目的目標にいきます。 ええと、今年度の環境目的にはトルエンの削減がとりあげられています。環境側面表をみますとトルエンは著しい環境側面になっていませんが、どうして目的に取り上げたのでしょうか?」 | ||||
川中は狂ったように大きなパイプファイルをめくった。 やがて | |||||
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「ええと、トルエンは毒性から点数が低く当工場の使用量からは著しい環境側面になりませんでした。しかし当社グループの、いや当社が加盟している業界団体として削減物質に取り上げておりますので、当工場も削減テーマとしてとりあげたということです。それに間もなくPRTR法も施行されますから」
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「でも環境目的は著しい環境側面から選ぶのですよね」
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2000年頃はこんな指摘がザクザクありました。今でもありますか? ![]() どうしてそういう理屈になるのか私はわかりません。きっと審査員の持っているJIS規格票には「環境目的は著しい環境側面から選ぶこと」と書いてあるのでしょう。 こんなアホな審査に大枚を払っていたと思うと、怒りがわきあがってくる。こんなISO審査は絶対に経営に寄与しない。 川中はISOの対訳本を見ている。 | |||||
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「ええと宮下審査員さん、ISO規格では『著しい環境側面に配慮しなければならない』とあり、著しい環境側面から選ぶとは書いてありません」
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「困りますねえ〜、規格をしっかり読んでください。ともかく、これは目的の設定がISO規格に適合していません」
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六角がブツブツ言う。
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「トルエンを削減しようとしまいと、そりゃ企業の勝手だろう」
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「ちょっと、ちょっと、六角さん、ここは人様のところだから・・・」
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大山部長と川中課長が何か話し合って、川中がうなずいた。
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「ええと、トルエンが著しい環境側面でないということが問題だと理解しました。著しい環境側面を決定する方法を見直します」
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「それが良いでしょう。目的にすべきことが著しい環境側面でなかったので、決定方法を見直すということですね。明日、それについて説明いただければ問題なしとしましょう」
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「ほう、これは不適合があっても組織側が這いつくばって謝れば許してやるということか・・」
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「六角さん、やめてください」
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審査は続いている。 | |||||
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「環境マネジメントプログラムで、計画未達は不適合としていますね」
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「ハイ、ISO的には改善の目標未達は不適合ではないと思いますが、当工場ではアクションを取らねばならないのですから不適合としています」
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「それはよろしいのですが、御社の手順書を拝見しますと、是正処置は目標未達のときではなく、目標を3%下回ったら対策するとありますね?」
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「当工場では3%以上目標と差のあったときに是正を開始することにしています」
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「目標があってそれが未達のとき是正するというならわかるが、目標より3%下回ったら是正を発動するという考えはちょっとおかしくないですか?」
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「ええとですね、元々当工場のルールでは、是正処置の発動を目標未達のときと決めていたのです。ところが昨年のISO審査で須々木審査員がお見えになられて、我々のルールではほんのわずか未達でも是正をすることになり、運用上問題だと指摘されました。そして是正を発動するのを目標値から何パーセントか離れたところにしろという指示がありまして、このようにしたのです」
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柴田審査員と宮下審査員は顔を見合わせてなにやら話している。
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「わかりました。それで結構です」
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「何が結構なんだか・・・彼らには確固とした監査基準がないようだな。前任者がOKしたことなら問題視しないのか?」
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六角と早苗が岐阜工場のISO審査見学から戻ってくると、佐田と佐々木はまた4人で意見交換会を開いた。
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「どうですか、ISO審査の感想は。早苗さんは何度も審査の経験がおありですが、六角さんは初めてで面白かったと思います」
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「面白いと言えば面白いというか、ともかく まったく、あんなバカバカしいことに100万円も払うとは、驚いたというよりも呆れたよ。正確には118万とか言っていたなあ〜 100万稼ぐのがどれほど大変か分っているんだろうか? 売上じゃなくて利益だぞ。営業がどれほど労力を使い恥を忍び頑張らなくてはならないかと思うと、涙が出るよ」 | ||||
佐田はその言葉を聞いて、六角を単なる空気が読めないバカ殿ではなく真面目な人なのだと見直した。ここに来た当初は価値観とか習慣が違い過ぎて、なかなか調子が出なかっただけなのだろう。
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「六角さんの語ることは、どうも私の印象とは正反対だね。昨日と一昨日と見学しまして、私は岐阜工場もしっかり対応しているし、審査員もまっとうだと感じたよ」
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「早苗さん、あれがまっとうというなら、あんたという人は会社員としての自覚も価値観もないんじゃないかね、 著しい環境側面の評価方法とか目的の決定方法なんて、ISO規格とは無縁のデタラメ審査としか思えんよ。あんな審査なら即刻異議申し立てをするべきだ」 | ||||
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「六角さん、あの審査のどこがおかしいのか私にはわかりませんなあ〜。普通の審査ってあんなものですよ」
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「佐田君よ、わしが呆れたのはいろいろあるが、一番たまげたのはこんな問題だった。 ええと、岐阜工場では環境マネジメントプログラムの未達の際に是正を開始するのが目標を3%下回ったときと決めていたのだよ。今回の審査員は、それはおかしい。目標を下回ったときに是正を開始しなくちゃ目標じゃないだろうという。まあ、それが筋かどうか議論は置いておく。 そのとき川中課長が『それは昨年の審査で目標未達のときに是正開始するのはおかしい、若干下回ったときに是正を開始しろと言われて直したのだ』という。まあ、それが正論かどうかもおいておく。 問題は、その反論を聞いた審査員、柴宮とか柴埼とか言ったなあ、そいつらが『じゃあ、OKです』というんだ。あれは一体どういう意味だ?」 | ||||
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「六角さん、柴宮でも柴埼でもなく、柴田ですよ」
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「柴田だろうが芝桜だろうが芝エビだろうが、どうでもいい。あんないい加減な審査に100万も払っているんだ。営業部隊がそんなことを聞いたらやる気をなくすぞ」
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佐田はますます六角の気持ちが分った。この人は悪い人じゃない。そして真面目な人なのだ。だがISOのバーチャルなお芝居の世界では生きていけないだろうとも思う。
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「佐田君、おれは六角さんと違う。六角さんは営業だけしかわからないから、こんな印象を持ったのだろう」
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「いや、まっとうな価値観の人なら六角さんと同じ思いでしょうね」
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「ええっ、じゃあわしの感覚がおかしいというのか?」
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「ハイ、まじめな人なら六角さんと同じ思いでしょう。ただ今のISO、特にどうしようもなくエキセントリックでバカバカしいナガスネの審査を受けている人は、それが当たり前だと思っているだけです。 六角さん、私は六角さんの思いが良く分ります」 | ||||
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「佐田君よ、分ってくれるか」
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六角は両手で佐田の手を強く握った。まさに涙を流さんばかりだ
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「ただ六角さん、我々はこの不条理なISOの世界でなんとか糊口をしのいでいかなくちゃならないんですよ。それが我々の人生です」
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「そうか、俺の人生は不幸なんだ」
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「まったくナガスネは不幸をまき散らす悪の秘密結社みたいなものですね」
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それから数日後のこと、佐田は塩川課長に教育の進捗状況を説明している。
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「まず六角さんはどうだ?」
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「六角さんはISO審査員になるのを目標に頑張っています。私はあの人の性格がだんだんわかってきました。とても直情的でまじめな人なんですよ。ナガスネのような認証機関に行けばつぶれてしまうのではないかと心配します」
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「ふーん、どういうことだ?」
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佐田は今まで六角が理不尽なことを許さず、またあまり融通が利かないことを説明した。
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「なるほどな、神経が太いように見えたのは、ある意味六角さんが自分の弱さを隠す演技かもしれんな。彼はまっとうな認証機関なら審査員が勤まっても、ナガスネ流を強制されれば精神的に参ってしまうか・・・ 他の認証機関で受け入れてもらえるかどうか人事に当たってもらおう。 彼は勉強の方は大丈夫か?」 | ||||
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「予想と違い真面目に勉強しています。言われてもいない法規制についても一生懸命読んでいるようです」
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「やはり部長までなった人だからそれなりに頑張っているのだろう。 ところで早苗さんはどうかな?」 | ||||
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「早苗さんも少しは社会人としての自覚を持ってきたようです」
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「60近くなって今更社会人の自覚でもしょうがねえなあ、勉強の方はどうなんだ?」
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「ナガスネ流に洗脳されていますね。ここに来る前からナガスネ流に感化されていましたが、審査員研修を受けてますます完璧になりました」
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「じゃあナガスネ出向は問題ないな」
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「言葉使いもまあなんとか身に付いたようですし、環境関連資格も一応持ってますし、骨の髄までナガスネ方式ですからねえ、ナガスネとしてはウェルカムじゃないですか。 でも私個人としてはあの方は審査員になるべきじゃないと思いますね」 | ||||
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「どうしてだ?」
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「会社の仕組み、世の中の常識、ISO規格は何を目指しているのか、そんな基本的なことを理解していないし、論理的でないからです。ナガスネ流の考えで審査をするということはできるでしょうけど、彼の審査は審査を受けた会社のためにならないでしょうし、遵法にもリスク管理にも貢献しないでしょうね」
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「それは何が根本原因なんだ?」
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「早苗さんが考えないからです。常に問題意識をもって考えるという習慣を身に付けていないからです。だから権威者の話を聞いて信じてしまう。自分の経験とか論理を基に考えることができないのです」
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「まあ、どこでもISO担当者には、そういう頭のねじがゆるんでいるようなのが多いようだ」
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「頭のねじがゆるんでいるのではなく、凝り固まっているのではないでしょうか」
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「そうかもしれん。ともかく我々は精神分析医やカウンセラーじゃない。早苗さんがそれなりにやっていけるなら早いところナガスネ出向させよう。彼の場合は大気の試験を受けなくても一応いくつか資格は持っているから、今でも条件は満たすだろう。二月後に辞令発令したいのだが、いいかな?」
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「問題ないと思います。しかし予定より4ヶ月早いですね。なにか急ぐ理由があるのでしょうか?」
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「大有りだ。第三陣の教育を始めるように人事から督促が来ている」
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「それはまた・・」
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「ISO14001認証も今は上り調子だけれど、いつまでもというわけではない。出向者を出せるうちに一人でも多く出したいというのは人事の理屈だ」
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「わかりました。六角さんの出向先には配慮をお願いします」
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「お前が六角さんをそれほど気にしているとは知らなかったよ」
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「あの人はいい人ですよ。そして弱い人だと思います」
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「彼も今後二月三月の間になんとかしないとならないな」
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「ところで竹山君のことですが・・」
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「彼はどうなんだ、少しはやる気が出てきたか?」
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「環境監査を担当する気はないようです。LCAとか環境会計とかをしたい、ついては環境企画課へ異動したいとのことです」
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「ふーん、それでお前はどう考えているんだ?」
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「はっきり言ってやる気のない人を教える気にはなりません。企画課で引き取ってもらえるなら異動させた方がみんなのためかと思います」
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「考えておくわ。ただ言っておくが若い連中は見た目派手な仕事をしたいということだ。それに奴は前から広報をやりたいとか展示会を担当したいと言っていた。語ることそのままは信用できない。そのうちあたらしい横文字の仕事が現れると、それを担当したくなるんじゃないか」
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「ともかく彼をまじめに働かせるのは難しいですね。やる気がないんですから」
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「奴にやる気を出させるのがお前の仕事だ。以前部長にも言われただろう。今のお前は自分が直接手を下した成果ではなく、人をうまく使うかどうかで評価されるんだぞ。お前も経験を積んで少しづつでも無駄なく効率をあげて失敗しないようになるんだ。 ともかく出向候補者二人は予定より早く異動させる。まだ本人たちには言うな。 それから今までの経験を基に第三陣の教育計画を見直しておけ」 |