ある大学教授がISO14001は経営の規格だと話していたが、彼はその大学の管理責任者だった。まさかISOで大学の運営ができるとでも考えているのか? 呆れてしまった。 そうだというならISO14001で志願者を増やして見ろ、 |
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「せがれと考えましたことを報告し、みなさんのご意見を聞きたいと思います」
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「もったいぶらずに早ようやれや」
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「では、せがれから説明いたします」
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「私たちが饅頭屋をしている最大というか最終的な目的は、この店の商売繁盛といいますか店が長続きすることだと考えています。今回の話の始まりは、そのためにISO認証が役に立つのではないかという発想から始まりました。しかし佐田さんのお話から、ISOとはある程度枯れた技術や仕事の方法を標準化というのですか、手順を決めてその通り運用することだと理解しました。そしてISOというものは、店の発展とか継続していくという目的にはいささか見当違いというか、守備範囲が狭いということが分りました。それに店といいますか、事業を継続するというのは品質が良いなら保証されるわけでもありません。 私たちが提供しているのは饅頭ではなく、饅頭の持つ役割というか効用だということも分りました。事業継続のためには美味いとか品質が良い饅頭を提供するだけでなく、当店の饅頭が他店に比べて際立って良いものであると認めていなければなりません。もっともそれだけでなく饅頭を食するという習慣が広まり継続していかなければならないわけですが、それは私たちだけではできません。もし饅頭を食べる日本人が少なくなれば、転業するしかありません。 饅頭の嗜好までは我々の手に負えません。とりあえずブランドイメージをあげるにはどうするかということになりますが、これは簡単ではありません。ウチの饅頭のイメージアップを図るといっても具体的な方法が分りませんし、施策と効果の関連も見えません。 我々がすべきことは、現状の問題は何かという問題解決のアプローチと、理想の状態を考えてそれに至るにはどうすべきかというバックキャストのアプローチの両方から考えて、今何をすべきかを考えることが必要と思います」 | |||||
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「なるほどお前も講釈は大したもんだ。で、何を考えたんだ」
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「現状の問題としては、さまざまなものがあります。まずロスですが、古くなったもの、売れないもののロスコストが大きいです。課題としては見込み生産の精度向上とか品揃えの検討などがあります。それと販売の効率が悪い。具体的にはお店にいる人数によって売り上げが変わるわけではありません。売り子は固定費ですから、人数をどう決定すべきかは要検討事項です。もちろん売り子の必要な力量とはなにか、その能力向上をどうするかという課題があります。そういったことについては税理士の先生と相談しながら改善を図っていこうと思います。 それから長期的な売り上げの低迷ですが・・・」 | |||||
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「ウチの饅頭の競争力というのも問題あるんじゃないか。ウチには世に知られた商品はない。とするとコスト競争にならざるを得ない。あるいは他社への供給という手も考えられるが、大手ほど供給力もなくコスト競争力もなく、デリバリーも弱い」
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「お父さんのいう通りです。ともかく我々は現有のリソースでもって改善していかないと明日がありません」
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「悪かった。オイ、話を進めてくれ」
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「結局、施策とか方法というのは目的がはっきりしていて、それを実現するために選択されるものに過ぎません。ISOやその他の方法は単なる手段です」
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「その通りだ」
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「ほう、そうだったのですか」
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「今はそういう発祥時の目的ではなく、純粋に饅頭を売るビジネスになっています。そこで初心に帰って、休憩の場を提供するというコンセプト、お店の中に饅頭を食べお茶を飲む場を提供して、休憩していただいたらどうかと思います」
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「なんかどこにでもあるような発想だなあ〜、それが店の持続可能になるのかねえ〜」
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「まあ、正直言って一つのアイデアにすぎません。俗にスモールスタートといいますので、それであまりお金をかけず、もちろん店の改装などにトライしてみようと思います。本格的喫茶店にするわけではありません。失敗しても被害は大きくないと思います」
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「それがどういうことになるのかな?」
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「ウチのまんじゅうを食べたいと思っても、1個だけ買うというのも買いにくいでしょう。あるいは看板を見て1個食べたくなった通りすがりの方がいるかもしれない。それで1個でも2個でもお買い上げいただき、無料でお茶やコーヒーを提供しようと思います。それによってウチの饅頭が気に入れば将来のお客様になっていただけるかと思います それとですね、新規事業というと恥ずかしいですが、我々にとって新しいことですから手順などについて標準化、文書化を図ってその効果を見ようと思います。それをトライアルとして、結果が良ければそれを従来からの饅頭の方に展開していこうと思います。そういうことで作業の効率向上ができるかと思います」 | |||||
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「佐田さんは何か意見があるかい?」
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「私はお宅の経営に口をはさむ立場ではありません。 まあどうしてもとおっしゃるなら・・・最初の思惑とは全く違いますが、ご本人やりたいというならいいじゃないですか。三代目がおっしゃるように怪我が最小になるように考えているなら万が一のときも ただ新しいことをするなら、近隣の商店と共同してやるとか、宣伝なども今は新聞やチラシの時代ではないですからインターネットを十分に活用するといいですね」 | |||||
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「そうなんです。私はツイタ―やブログで宣伝というか、情報発信をしていくつもりです。それに大学の先輩が市内限定のインターネットラジオというのをやっていると聞きましたので、そういったメディアに協力をお願いしようと思っています」
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「元々ISO認証しようかという話を聞いて、乗り気になったのは現状ではまずいという危機感です。しかし佐田さんの話を聞くと、ISOとはそんな大層なものではないということが分りました。 でもなにもしないわけにはいきません。では現状打破というか新ビジネスはどうあるべきかということを考えましたが、結局今持っているリソース、ノウハウでやるしかないわけです。それでせがれと考えてこれにチャレンジしてみようかと思ったわけです」 | |||||
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「そうか、お前たちが考えて決めたことならしっかりやれ。万が一饅頭屋がこけてもマンション経営で食うだけは食っていけるだろう」
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「そいじゃやらせてもらいます」
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「店の改装のために来月早々に10日間くらい店を閉めてたいと思います。以前も話題になりましたが、この際に店のイメージの統一化を図り、饅頭屋らしい饅頭屋にしようと思います。 では考えている内容ですが、」 | |||||
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「いや、聞かないことにしよう。完成したときに俺を驚かしてくれよ」
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それからまもなく佐田は稲毛のマンションに引っ越した。引っ越しに際しては、大家がその理由を根掘り葉掘り聞いてきたが、佐田は持ち家に住むのが長年の計画でしたからと言ってかわした。● ● 新しい住まいは稲毛駅から歩いて10分のところだ。市川よりも遠くにはなったが稲毛には快速も停まるので東京駅まで乗り換えなしで30分少々だ。朝夕の通勤時間帯は混むがまあこれはしょうがない。娘も息子も通勤・通学に文句を言わなかった。というよりもいそうろうの立場上言えないだろう。それに生まれてからずっと賃貸暮らしだったのが、やっとマンションと言えど我が家が持てたのだから悪い気もしていないだろう。 引っ越してからまもなく、二代目 ![]() それから日曜日には、佐田は引越した近所の探訪をして歩いた。稲毛というのは面白い地形だ。JR線が走っているあたりは海抜20mくらいの高台だが、南西に1キロも行くとものすごい急傾斜になり坂を下ると14号線になる。そこは海抜2mくらいしかない。14号線は江戸時代からある街道だが、当時街道は海岸沿いにあった。今の海岸はそこから3キロも先にある。つまり海までのその3キロほど埋立られたのだ。しかも埋立が本格化したのはほんの最近1970年以降なのである。 佐田は散歩していて街道のそばに「海の家」という看板を見つけた。きっと30年以上前、この近くに海水浴場があり、ここは海の家だったのだろう。埋立が進み、海の家は営業を止めたが、看板はたまたまそのまま残ったのだろう。そのへんを歩き回ると面白いものが目に入る。 以前、日曜日はごろごろしていたが、饅頭屋に呼ばれるようになってから朝起きる習慣になった。ところが今は饅頭屋の会合がないので午前中は散歩に精を出している。 佐田が饅頭屋のことを忘れた頃、二代目から会社に電話があり改装がなったので日曜日に来てほしいという。佐田は了解した。 ●
久しぶりに饅頭屋に行くと、以前とは大きくイメージが違う。道路に面したガラス越しにカウンターがあり、そこに座ってお茶を飲み饅頭を食べている人がいる。ファーストフード店のような雰囲気である。● ● そこを脇目に見て奥に入る。みんな揃っていてすぐに話が始まった。
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「ご覧通り、道路際を全面ガラスにしまして、店で饅頭を買っていただいた方に、そこで食べてもらうことにしました。お茶やコーヒーは給茶機でセルフサービスですが無料です。玉露を出そうかという案もあったのですが、そもそもウチの饅頭はそんな高級なものではありません。喫茶店ではないのですが、いろいろと手続きがありました」
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「気になるんだがね、長居する人とか弁当を持ち込んで食べたりする人はいないんだろうか?」
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「まだ新装開店して数日しか経っていませんけど、そういう方はいらっしゃらないようです。年配の方が饅頭一個でおしゃべりをしているのを見かけますが、まあ、そんなものでしょう。一人も客がいなければまずいと思いますし、まあ呼び水みたいなもので・・・ 今後、高校生が勉強したりおしゃべりしたりするようになるとまずいかなとは思いますが、まだ見かけません」 | |||||
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「なるほど、売上には貢献しているのだろうか?」
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「まだ、わかりません。直接的に売り上げが伸びなくても店がにぎわえばいいかと思います」
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「CIをするなんておっしゃっていましたが、どんなことをされたのでしょうか?」
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「目指すところですが、あまりモダンでは商品に合わないと思って、とはいえ古い民家の内装を持ってきてもこれまた時代に合わない。ということでまあ落ち着いたのがこんなところですね。そして壁紙も包装紙も前掛け、お菓子を取るカゴなどもイメージを合わせました。 それから息子が見よう見まねで店のホームページを作りまして、そのデザインも一致させました。当たり前っていっちゃあたりまえなんでしょうけど、いろいろな柄とか色合いを一致させるといい感じになったと思いました」 | |||||
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「ホームページを作るとき、大学の先輩に相談しに行ったんです。その人はこの町でネットラジオを開設しているのですが・・・」
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「ネットラジオってなんですか?」
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「ラジオといっても電波で放送するわけではありません。ホームページは絵とか文字をインターネットに掲載しているわけですが、音つまり音楽とかお話とか討論などをインターネットに載せているものです。もちろん音声だけでなく、テキストや画像もあってイベントの案内とか地域のニュースも発信しています。 当然、運営するにはお金がかかりますから、スポンサーをとるわけです」 | |||||
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「ほう、知りませんでした。この町限定のニュースとかイベントなどを載せているわけですか?」
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「私も知らなかったんだよ。最近は分らないものが多い」
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「そうです。僕が相談に行っていろいろ教えてもらいました。そしたら饅頭屋の新装開店を取り上げてくれることになって、宣伝ではないのですが、ウチの饅頭屋の興りとか歴史のお話、そして今度の新装開店について話をさせてもらうことになりました。もっともウチも広告を出すことになったんですがね。こちらが頼めば向うから頼まれても断れません。とはいえ、折り込みチラシを出したりするよりは安いようです」
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「でもさ、一回放送したらおしまいなんでしょう。コストパフォーマンスが悪そうだなあ〜」
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「そうじゃないんですよ。ネットラジオってお話を聞くのはいつでも何度でも聞けるんです。そういう意味では安いかもしれません」
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「聞いてくれる人がいればの話だがね」
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「何人聞いてくれたのか、日々の回数も分りますし、コメントも書き込めます。そういうことをフィードバックすることも考えています」
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「そりゃ楽しみだ」
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