2017.09.04
お断り |
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。
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書名 | 著者 | 出版社 | ISBN | 初版 | 価格 |
反戦軍事学 | 林 信吾 | 朝日新書 | 9784022731210 | 2006.12.11 | 720円 |
これはだいぶ古い本です。誰からも顧みられないのであれば、今更論評するまでもないでしょう。しかし、一文書くことにしました。というのは私が
異世界審査員物語を書くため砲兵工廠についてネット検索したらこの本を引用しているものがあり、確認というか参考のため元ネタになったこの本を図書館から借りて読んだのです。ところがまあ内容がトンデモというアレですよ。ひとことで言えば間違いだらけですね。
ネットでこの本の書評をみると嘘っぱちで読むに値せずというものが多い。でもやっぱりねと笑って済ませるわけにはいきません。なぜなら出版後10年も経っても検索に引っ掛かるし、最近でもこれを参考にして書籍やネットに書いている人がいるという事実があります。「素晴らしい本だ。これを批判しているのは右翼だ」と書いているブログもあります。アマゾンの書評でも2017年現在も
「スバラシイ」というコメントが書き込まれているのです。そして私自身、参考にしようと読んだわけですから。
もっともカスタマーレビューは芳しくない。いや、最悪だ。
| 星5つ |  | 8 |
| 星4つ |  | 2 |
| 星3つ |  | 1 |
| 星2つ |  | 1 |
| 星1つ |  | 24 |

注:2017.09.03時点

星5つが何件かあるというのはサヨクの皆さんの組織票だろう。
ということで二時間ばかりつぶしてこの文を書きました。著者は私の労力に感謝せねばならないぞ。
まずタイトルが軍事学と書いてありますが、学どころか論でもなく、論どころか説でもなく、説どころか妄想に過ぎないという感じです。要するに論理の積み重ねとか確実な情報を基にしたものじゃありません。よく言えば随筆、悪く言えば雑学、それも一読しただけでオカシイナ、嘘だろってものが多々あります。
いや軍事学というのは単なるタイトルで、この本の趣旨は平和ボケを洗脳しようとする薬物にすぎないように思いました。
中国戦車
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もっとも何度も言いますが10年前の本ですから、その後の東アジアの軍事情勢とそれに伴う日本の安全保障の変化、東日本大震災の自衛隊の活動など著者がこの本を書いた時とは様変わりしているわけで、2017年の時点で論評するのはいささか酷かもしれません。とはいえそういうことを想定できず、言いたい放題書いているわけで、そういう状況変化を見通せなかった(見たくなかった)著者の責任であると言い切ってよろしいでしょう。私はここに書いてあることによっていかなる金銭的利益も得ていませんが、書籍の著者は利益を得ているわけで、責任は重大でしょう。ましてやそれを信じて引用する人もいるわけです。著者の責任は重大です。
ではいきます。
- 「皆が戦争に反対することが、本当の意味で国益になるのだ」(p.20)
この発想は平和ボケに典型的なものです。こういう人は「戦争は日本が起こすものだ、日本が戦争を始めなければ戦争は起きない」と信じているようです。
尖閣列島を持ち出すまでなく、竹島で漁業を営んでいた日本人を30名も虐殺した韓国という国はどうすればよかったのでしょうか?
「皆で韓国に戦争反対することが・・・」ということなのでしょうか?
敵国が日本に攻めてくるという発想はこの著者にはないようです。ぜひとも著者のお考えをお聞きしたいです。かって戦後まだ独立していなかった日本を韓国が侵略しようとした歴史を、林信吾はご存じないのでしょうか。
数日おきくらいに中国の軍用機が領海侵犯していることを、林信吾はどうお考えなのでしょうか?
たぶん何も考えていないだろうけど・・・
ところでこの人の考える国益とはなんだろう? そして国とは?
想像だが国益とは中国や韓国を利することであり、国とは特定アジアのことだろうと推察する。
- 市民のこと(p.28)
現代国家についての認識というかご理解がおかしいと思う。まずは「想像の共同体」を読むことをお勧めする。国民国家、国家の神話、そういうことを理解すべきだ。だって中華人民共和国もアメリカも韓国も北朝鮮も、みんな国家の神話を作り上げ、それを国民に洗脳し対外政策を進めている。その現実を理解し、日本がいかなる神話を持つべきかを考えなければ思想戦争に負けてしまうのだ。
おっと、この著者は日本が国家的神話を持たないことによって精神的に敗退することを期待しているように思える。
参考文献に「民間防衛」が見当たらなかった。これもぜひともご一読を勧める。

- 対テロ戦のこと(p.61)
10年前は既に非対称戦まっさかりだったはずだが、今は更に激しくなった。イギリス、フランス、その他いたるところで
そういう現実にこの本は向かい合っていない。まあ10年前だからと言い逃れるならそれまでだが、
いや逃げませんというなら、著者はどういう法体系で対テロ作戦を考えているのか、教えてもらいたい。民主党(民進党)のように批判だけで何も考えていないような気がする。
- 憲法が先か、現実が先か(p.66)
憲法がアメリカ製か、自衛隊がアメリカの圧力か、ということはもはやどうでもいいことだろうと実用本位の私は考える。今現在の世界情勢、特に東アジアの軍事環境において日本はどうあるべきか、攻め込まれない/攻撃されないように、攻め込まれたとき/攻撃されたときどうすべきかということを前提に議論すべきだ。
そういう観点では、まさしく著者の頭はお花畑である。日本が戦争を始めなければという発想なのだから。
「歴史上多くの戦争が自衛のためという大義名分によって引き起こされた」(p.67)
そのとおり、だからこそ日本は防衛力を整備しなければならないと下の句が続くのか、「自衛のため、テロ撲滅のために乗せられないように」(p.67)と続くのかはその人の立ち位置によって違うわけだ。そして後者は「日本が戦争を・・」という発想であることが明白である。どういう切り口でもお花畑だ。
- 戦犯について(p.75)
この本では戦犯を「戦時国際法に基づく戦争犯罪者」と限定して語っているようだ。ちょっと日本の内部事情には合わないように思う。
というのは戦犯とは戦争犯罪者であるということだけを述べて、太平洋戦争終戦後の極東国際軍事裁判で有罪となった者という別の使われ方を併記しなければ靖国問題は論じられない。それともそれを明確にしないことによって、靖国問題で騒がれている『戦犯』を「戦時国際法に基づく戦争犯罪者」と誤解させようとしているのだろうか?
それとも、まさか著者は靖国で騒がれている戦犯を「戦時国際法に基づく戦争犯罪者」と理解してはいないだろうね? あるいはそうかも?
- 自衛隊法の規定によって、自衛官には被選挙権がなく、政治活動も厳しく制限されている(p.78)
著者はこれを憲法違反だという。
ちょっと待ってくれ、著者が語っていることは本当なのか?
自衛隊法 第61条第2項 隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
国家公務員法 第102条第2項 職員は、公選による公職の候補者となることができない。
他の公務員と同じじゃないですか。そもそも自衛隊法に関係なく、公務員は公職選挙法で選挙に立候補できません。三公社五現業時代は郵便配達の人さえ市会議員に立候補できませんでした。それと被選挙権がないとは完璧な間違い。ただ公職の候補者となることができないのです。
自衛隊員を含め公務員は被選挙権はあります。被選挙権のない人は公職選挙法第11条で定められており、刑務所に入っている人、公民権停止された人、年齢や住所などの要件を満たさない人です。
ですから、この著者の語っていることは間違いです。いや嘘です。
- 著者は「軍事や戦史に関する本を積み上げると2階の屋根まで届くくらい読んだ」(p.80)そうだ。だが、それにしては間違いやおかしなことが多すぎる。だいぶ屋根の低い二階建てらしい。もしかしてシルバニアファミリー鴨
- 「戦争とは勝たねばならないものではなく、やってはならないものなのだ」(p.80)
まず直感的に間違いだと思う。そのわけは簡単だ。中東の激戦地、欧州のテロの現場、中国西域の人民解放軍の弾圧現場でこの言葉は通用しない。そこでは「戦争とは勝たねばならない」のだ。
著者の言葉は、戦闘と遠く離れた安全なところでウィスキーを(コーヒーかもしれないが)飲みながら語るには心地よいだろうが、真実とは遠くかけ離れている。
私に反論する前に、北京に行って尖閣にちょっかいを出すな、ソウルに行って竹島を返せと言ってきなさい。
つくづくこの方はリベラルアーツというものを学んでいないのだと思う。
いや、リベラルアーツでなくて常識と言い換えてもよい
- 戦史家としてマハンとクラウゼヴィッツを上げている(p.83)
オイオイ、ジョミニがいないぞ。マハンはジョミニの弟子筋だよね。それとクラウゼヴィッツは日本では有名だけど、実際の戦争における指揮その他においてジョミニはクラウゼヴィッツよりも実績もあったし欧州ではクラちゃんよりジョミニの影響が大きい。ジョミニをあげないのはちょっとおかしい。
そういやジョミニの「戦争概論」は参考文献になかった。
ちょっと待て!
クラウゼヴィッツの「戦争論」も、マハンの本も載ってないじゃないか? 2階建ての屋根まで届くほど読んだそうだがお三方の本を読んでいないとは・・・
まさか読んだけど参考にならなかったなんてはおっしゃらないだろう・・
ところでクラウゼヴィッツは「戦争は政治の延長」と語ったが、林信吾はそれは参考にしなかったようだ。いやいや、実はクラウゼヴィッツを読んだことがないのかも?
- 「軍艦とは海軍に所属し、かつ武装している船」(p.85)だそうだ。
ここで軍艦とは日本語で語っているから日本語での定義なのは間違いない。だが日本で権威ある定義となると艦船令(昭和19年10月1日改正・施行)しかなく、そこでは戦艦、巡洋艦、練習戦艦、練習巡洋艦、航空母艦、水上機母艦、潜水母艦、敷設艦である。潜水艦も駆逐艦も軍艦ではないのだ。
いや軍艦とは一般人がイメージする軍艦だというなら、この本の中で書いていることとつじつまが合わない。
著者はいったい何を言いたいのか?
たんにうんちくをひけらかしたかっただけで、それが滑ったということか?
- 北朝鮮の核ミサイル
- 1998年のテポドン打ち上げについて
北朝鮮当局だけは「人工衛星の打ち上げに成功した」と強弁し、わが国の防衛庁だけは「人工衛星でなく弾道ミサイルである」と未だ言い張っている(p.102)
これはもはや著者の黒歴史だろう。"20年前に北朝鮮の息の根を止めておけば"と思っている人は多いのではないか。もっとも著者が北朝鮮の工作員という可能性も否定はできないが。
- BMDとかミサイル要撃について(p.104)
これまた著者のウソがばれたのか、それとも著者が時代の先を読めなかったのか、わからないが、もはや北朝鮮のミサイル攻撃は「仮に」なんて段階はとうに過ぎ、今や「いつ」という時点に至ってしまった。日本としてはミサイル防衛を徹底するか、先制攻撃しかなさそうだ。憲法9条のおかげで日本はミサイル防衛しか手がない。ひょっとして著者は憲法9条が日本を守ると考えているのかもしれない。残念ながら著者と違って私は北朝鮮を信じることはできない。

- 『「北朝鮮がミサイルを発射」したとき「番組の途中ですが、臨時ニュースを・・」なんてサッカー試合の中継を中断したら速攻TV局に抗議の電話をしてやろうと思った』(p.106)そうだ。
これはこの本の中で最悪のブラックジョークだろう。
この著者は、北朝鮮なんて危険じゃない、ミサイルなんてウソ、大変だと騒ぐのはウヨクだという認識なのだ。そして安全だからサッカー中継を止めてはならないという理屈だ。
この本を書いたときはそうだったと言い逃れるかもしれない。だがそんな言い訳は通用しないだろう。著者のスタンスが見えているからだ。
今じゃ日本中の自治体がミサイル攻撃を受けたときの避難訓練を行うようになった。
著者にお願いする、現実に北朝鮮がミサイルを発射した臨時ニュースが放送されたら、必ず「臨時ニュースをするな、ドラマを続けろ、スポーツ番組を止めるな」と苦情を入れてほしい。それが男 林信吾の矜持だろう。そして日本国民から白い目で見られ、現実が見えないアホとしれ永遠に語りつがれるであろう。それこそ男林信吾の誇りに違いない。
ところで、2017.08.29に北朝鮮がミサイルを発射し、それが日本領土を通過する(落ちるかも?)として、Jアラートが発せられ、緊急放送やスマホに警報が出た。
稀代の奇才、堀江貴文がツイッターで、
「マジでこんなんで起こすなクソ。こんなんで一々出すシステムを入れるクソ政府」と書いた。
林信吾のようなおかしな発想をする人間は一人ではないらしい。
私には林信吾や堀江貴文のような発想は理解できない。まあ理解できない人が多いのはその後の論評をみても間違いない。正常とは多数派を言うらしいから、林信吾や堀江貴文は異常であることは間違いない。
堀江貴文が林信吾の影響を受けたとは言えないが、こういう輩がいる以上、林信吾の追従者をなくすために彼の主張を否定する必要がある。
- あちこちで手垢にまみれた憲法論議とか書いているが、ROE(Rules of Engagement)については触れていない。軍事の専門家であると自称するなら触りでも書いてほしかったね、
架空戦記でさえ現実味を醸し出すためにROEを根拠にしているよ、
この本は242ページある。一読しながら、コリャおかしいぞ!ってところにポストイットを貼っておき、あとでそれを関連文献と照らし合わせて調べた。しかし半分まできて気力(やる気)が失せた。
本音を言えば論評する価値もない。この本をありっていに言えば、単なるサヨクの宣伝本、洗脳本である。この文を書いたのは冒頭に描いたように、ひとえにだまされるなよといいたいがためである。
もっとも10年前ならこの本のレベルでもだまされる人も多かったろう。しかし、その後の世界の戦争やテロを見て、日本人は世界の現実に気づいたこと、また民主党が2009年から2012年まで政権をとり、いかにサヨクが口だけで実行力ゼロということが知れ渡ってしまった。
今やお花畑の洗脳本の役割も果たせないだろう。だが前述したようにいまだにこの本を引用した書籍やウェブコンテンツがあることを鑑みると、この本の批判をしておくことが絶対に必要だと思った。検索エンジンでこの本を讃えるウェブサイトばかりでなく、批判するウェブサイトがたくさんあれば、少しは効果があるのではないかと期待するのだ。
とはいえもう面倒くさくなったので途中で放り出す。私の目的は果たしただろう。
もしここに書いてない120〜242ページのおかしな点、間違い、偏向を調べたければ、ぜひ頑張ってほしい。

本日のまとめ
「新聞をはじめとするマスメディアで働く人達は、もっと軍事を勉強してもらいたい」(p.115)とありますが、「軍事学」と銘打った本を書く人なら、もっと軍事を勉強してもらいたい。特に法律関係はググっただけで本文がみつかるのだから最低一読しようよ、
『ちまたにあふれる「エセ軍事常識」を一刀両断』と表紙にありますが、結局ちまたにあふれる「エセ軍事常識」に更にひとつ追加しただけのようです。
困ったものです。
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