「品質」といっても人によって捕らえている「品質」のイメージが違っては困りますね!?
JIS規格では「品物またはサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」と定義しています。
ISO規格では「"もの"の明示されたまたは暗黙のニーズを満たす能力に関する特性の全体」と若干表現は違いますがほぼ同じと見てよいでしょう。
いずれにしても物だけでなくサービスや業務も含めて、よさ、悪さを表す言葉であることが分かります。
品質そのものの定義とはちょっと違いますが田口玄一先生(田口メソッドの考案者)は「品質とは、品物が出荷後に社会に与える損失で評価される。」といっています。この表現のほうが品質のイメージがつかめるかと思います。
まだしっくりこないかと思いますのでいくつか事例を考えてみましょう。
スポーツカーと乗用車は加速もコーナリング性能も違いますがスポーツカーのほうが品質が良いのでしょうか?
スポーツカーと乗用車は"品種"が違い品質の比較にはなりません。品質の違いは同じ品種で同じ機能のものを維持費、故障率、快適さなどを比較した時の優劣となります。同じ品種の車と比較した時、他と比べて故障が多ければこれは品質問題です。
飛行機でビジネスクラスとエコノミークラスでのサービスの違いは品質の差ですか?
飛行機に乗るとき、客は提供してもらうサービスと料金を考慮して予約します。
当然、シートの広さ、機内食、預けることのできる荷物の重量を考えているはずです。乗り込むときも降りる時もエコノミーより先にできます。これが期待されるサービスです。ビジネスとエコノミーはグレードが違うので、品質が違うのではありません。もちろん違う航空会社の同じクラス間では品質の比較ができます。
品質には使用品質、設計品質、製造品質という区分けもあります。
使用品質を要求品質、設計品質をねらいの品質、製造品質をできばえの品質ともいいます。
製造に当り我々メーカーは使用品質を(市場調査あるいはお客様からの仕様書で)把握し、設計活動で設計品質を確立し、これを達成するように製造品質を作りこみます。
お客様の要求品質を達成すれば品質問題は発生しないでしょうか?
「明記してあるものだけ」を確保すれば品質問題はおこらないでしょうか?
実際はそうではありません。
使用品質は明確に記載されている他に、記述されていない「暗黙のニーズ」や「期待するサービス」と「法規制などによる義務としての品質」があります。
暗黙のニーズあるいは期待するサービスは時代と共に、あるいは周囲環境により変わります。
品質は既に説明しました。では保証とは何でしょう?
国語辞典を調べますと、「保証」とはうけあうこと、責任を持つこと、他人の責務を負うことなど
すると「品質保証」とは「品質の責任を持つこと」なんでしょうか?
品質保証とは英語の訳語ですから英語を調べてみましょう・・・
品質保証は英語で「Quality assurance」といいます。Qualityは品質なのは分かりました。assuranceとは何か英和辞典を引いてみましょう。おっ、違いが見えてきましたね、
assurance:請け負うこと、確信、自信、ずうずうしいこと
ちなみに電気製品の「保証書」には英語では[assurance]でなく、 [warranty]あるいは[guarantee]と書いてあります。
参考に調べてみましょう。
warranty:正当な理由を示すもの、根拠を示すもの、保障の約束、保証書
guarantee:引受人、保証人、担保、準備金、保証書
[assurance]と「保証」はまったく同じ意味ではなかったのです。
[assurance]を「保証」と訳すより「信頼」か「確信」あるいは「安心」くらいの意味に訳すべきでした。 「品質保証」とは「品質が悪ければお金をお支払いします」ということじゃなく「品質が良いと自信を持って言えるようにすること」でした。
すると品質保証とは単に確信をもって「品質は大丈夫ですよ」というため、あるいはお客様が「安心する」ためだけなんでしょうか?なにかあまり価値がないようにも思えますね?
お客様は不具合があったとき[補償]されることが確実であれば購入するでしょうか?
現実にはお客様にとって不具合があったとき[補償]されることはあたり前であって、購入時に品質がよいと[確信]できるものを選ぶでしょう。お客様の品質コストは維持費の他に機会損失などありますからコストミニマムにするためには品質が良い方が好ましく、良いと立証されているものを購入するのは明らかです。
というわけで現在では品質保証は必須条件です。
お客様の信頼を得るために、いやそれ以前に会社自らが製品品質に確信を持たなくてはなりません。不良が多い製品を営業の方は売ろうとしてくれないでしょう?
それが品質保証です。お客様に安心感を与えることを[外部品質保証]、会社自身に安心感を与えることを[内部品質保証]とも言います。このふたつは対象とする品質の範囲が異なります。外部品質保証とは顧客に提供する品質についてのみ保証すればよいですが、内部品質保証とは業務全体の品質を保証する必要があります。具体例としては設計を考えると外部品質保証にはお客様にお渡しする製品の設計過程と結果が対象ですが、内部品質保証には設計業務全体、例えば特許取得、標準化、原価低減などが入るでしょう。
*2000年改定以前のISO9001は外部品質保証の規格です。
「品質保証」は簡単には達成できません。
「品質保証」とはキチンとした会社の仕組みを作り、その仕組み(規則)を守った仕事をすることです。
品質保証は品質を要求を達成するために実施すべきことを調査し、それを会社の規則に展開し、教育し、実施させ、その記録を残すことによって立証されます。
そうすることにより、しっかりした物が作られるはずです。
通常品質管理というとQuality Controlの意味に使われています。
もう一つQuaity Managementと言う言葉があります。日本語ではやはり品質管理と訳されています。
本などではQuality Controlを狭義の品質管理、Quaity Managementを広義の品質管理と書いてあるものもあります。
ISO9000では誤解を防ぐためにQuaity Managementを品質マネジメントと訳しています。
英語でcontrolというと機械などを操作することで、managementとは統帥という意味でだいぶレベルが異なります。
正しくはJISあるいはISOで定義を調べてもらうこととして、簡単に言えば
Quality Controlとは不良を下げる活動をいい、
Quaity Managementとは経営として品質に対して行う活動を言います。
いってみればQuality Controlは戦術、Quaity Managementは戦略でしょうか?
例えば種々データを採って改善策を行うのがQuality Controlで統計的手法を使うのをSQCなんて言います。誰でも「品質を良くしよう!」考えていると思います。
小集団活動などもこの範疇で、昔はTQCなんて言いました。
Quaity ManagementとはQuality Controlより包括的で、通常「狭義の品質管理・Quality Control」、「品質保証・Quality assurance」、「品質改善・Quality improvement」から構成されます。
全社的な品質改善活動をTQMなんて称している団体もあります。
ちなみにISO9000はと言いますと94年版は品質保証・Quality assuranceの規格、2000年版は品質マネジメント・Quaity Managementの規格と称してますが、2000年版でもまだ内容的には品質保証レベルの規格でありQuaity Managementまで成長していません。
そのためにはQuality ControlだけではなくQuaity Managementの品質管理を勉強する必要があります。
品質を継続的に向上させるためには、統計的手法や田口メソッドを学んだり、全員参加の活動とか、顧客情報の収集分析だけじゃ実現できないのです。
もちろん戦略だけで戦術がなければ戦いに負けてしまうのと同じく、Quaity ManagementだけでQuality Controlの知識技術がなければ改善は進みません。
戦術しかなく、戦略であるQuaity Managementが確立していなければ正しい道でなく誤った方向に進む可能性もあります。
品質システムをどのようにすべきか、例えば技能教育、技術教育、必要とする設備・計測器、生産技術、組織と機能などなどを考慮し実現する活動がQuaity Managementです。
「検査では品質は良くならない、製造工程で作り込め」とよく言われます。これは論理的に正しいのでしょうか?
まず品質の定義として田口先生のものを採用します。
それから検査の定義として「検査とは良いもの悪いものを選り分ける行為である。(JISZ8101)」を採用します。
検査にかかる費用と出荷後の費用を天秤にかけトータルコストを最小とする検査を行い出荷すれば、社会(製造者を含めた)に与える損失を減らすことになり田口先生の定義から品質を向上させていることになります。
ゆえに「検査で品質は良くならない」は偽であり、「検査は品質を上げる」は真であることが分かります。
だからこそ世の中の会社は経験的に検査の効果を認識し検査をしているのです。
よく言われる「品質は工程で作り込め」とは、社会に与える損失を削減するためには検査による選別精度向上あるいは検査費用の削減では限界があることを意味しています。
見方を変えれば製造技術が低くばらつきがある時はできたものの善し悪しを選別するしか手がないが、製造技術が向上すれば不良品を減らすことができるようになり、検査だけをするより製造技術・技能に改善を図る方がトータルコストを下げることができるということです。
「検査では品質は良くならない、製造工程で作り込め」はスローガンで、「検査で品質を上げることには限界があり、更に品質を上げる(=損失を減らす)ためには製造工程に手を打つ必要がある」ということです。
検査をすると品質は上がりますか?を考えましたが「品質は設計段階で作り込め」についてはどうでしょうか?
製造工程で作業者の訓練や機械精度を上げてもクリテカルなもの、あるいは確率的に不良が発生してしまうものはある。製造工程での品質向上活動には限界がある。その限界を越えて改善するには設計で活動しないとどうにもならない。これをキャッチフレーズ的に言えば「品質は設計段階で作り込め」となる。
関係者の関心を引き付けるためにそのようなキャッチフレーズを使うことも方便であり否定はできないが、決して品質は設計だけで作り込むものではない。このスローガンも一過性だといえる。
皮相的に考えればそのうち「品質は営業活動で決まる」とか「品質はマーケッテングで作り込め」、さらに最終的には「品質は経営者が作り込め」などど言い出されかねない。
いずれも誤りだと言い切れないが正しくはない。
では真に品質をあげるにはどうすればよいか?
当たり前であるが「品質は品質システムで作り込む」のである。
真に品質を上げる(つまり社会的損失を下げる)ためには総合的な対策が必要である。
正しい基準にしたがった適切な精度の検査、訓練された作業者による作業標準にもとづく製造工程、設計段階での設計検証・DRそして妥当性の確認、そして営業段階の契約の確認などなどである。
これらを包括的かつ継続的に向上していくためには、品質に関わる業務に従事するすべての従事員に対して業務遂行能力を付与すること、業務を遂行するための資源を与えること、そしてなにより品質意識を持たせることである。これらにより有効な品質システムをつくり、PDCAを回していくこと。これが真の品質の作り込みである。
監査には種類が沢山あります。会計監査、品質監査、環境監査、工程監査、製品監査などなど
官公庁によっては監査のことを立ち入り調査とか点検などと呼んでいるところもあります。
さらに実施者により「第1者監査(内部監査)」「第2者監査(顧客監査)」「第三者監査(第三者登録審査)」に分けられます。
ここでは内部監査についてお話ししましょう。
監査というと「あら探し」と見られているかもしれません。
監査はあら探しや個人や部門のミスを見つけたり責めたりすることではありません。監査とは経営者(社長)に代わって業務遂行状況を調べ会社の仕組みが適正か、弱い部分があるかを所長に報告することです。
例えば何かの記録に検認漏れがあった時に単純に「検認漏れは不適合!」と決め付ける監査員がいれば未熟と言うことでお許しください。
理想の監査員は検認漏れが「単なるミス」なのか、「会社の仕組みに欠陥があって発生した」のかを調べなくてはなりません。
単なるミスと分かればその処置はしてもらわなくてはなりませんが、不適合と指摘する必要はありません。
会社の仕組みが不十分で検認漏れが発生するのであればその仕組みの改善をお願いするのが監査員の努めです。
監査を受ける側も単なるミスであれば監査員に対して「これは単なるポカミスです。是正処置は必要ありません。」と言明してください。
もっとも単なるミスでも複数発生しているならば、それはもはや単なるミスではありません。「教育訓練が不十分」か「帳票のルールに欠陥がある」のか「組織及び権限が不適切なのか」というシステムの欠陥となるでしょう!!
「処置」とは発見された不具合を正すこと、
「是正処置」とは再発を防止することで規則改定や再教育などを行います。
トレーサビリティとは「トレース」+「アビリティ」のことで「追跡可能」あるいは「つながりがとれている」という意味です。
いろいろな用途に使われますが意味は同じです。
最も多く使われるのは「出荷された製品と使われた部品の履歴や製造条件が後で分かること」あるいは「計測器と国家標準とのつながり」です。
この他に「製品と検査記録」や「監査した不具合とその証拠」など相互の関連がたどれるかの意味にも使われます。
製品と部品のトレーサビリティには上流方向と下流方向の二つがあります。
上流方向のトレーサビリティとは製品、あるいは加工中の製品に使われている部品材料の履歴がたどれること
下流方向のトレーサビリティとは製品がどこに何時出荷されたかが分かる事です。
これはもちろん絶対必要なわけではありません。ISO規格ではお客さんが要求した時対応せよと決めています。
実際には供給者(我々メーカー)は自分のリスクを軽減するために費用とリスクを秤にかけて自ら必要とする範囲を決めてトレーサビリティを確保しているのが普通です。
計測器と国家標準のトレーサビリティについて
測定にあたっては国家標準にトレーサブルな計測器を使わなくてはなりません。
国家標準と聞いてもピンとこないかもしれませんが、長さ(m)も質量(kg)も電圧(V)も温度(K)もすべて国家標準がありそれは世界標準にたどり着くのです。
色、臭い、あるいはFDDなどの基準は世界標準がないものが多く、業界標準などが根拠に用いられます。
拡大解釈するといけません、トレーサビリティが要求されるのはお客様に渡す製品の試験検査に用いるもののみです。かつ製品品質を保証する検査工程のみで良いのです。だから工程内で調整し、ライン検査をするなら検査で使う計測器のみ校正すればよいですし、開発段階で使用している計測器は校正不要です。しかし、設計の計測器を生産でも使う可能性があれば校正は必要です。またたとえばEMIの測定を開発段階だけで行い、ライン検査を行わないとすれば、開発品の評価で製品品質の保証をしていると考えられますから校正が必要です。その他、秤や天秤などは計量法で商取引に使うものは計測器メーカーの校正ではなく市町村の検定が必要です。検定に合格すると市の検定マークが貼られます。
計測器のトレーサビリティについて知りたい方は経済産業省計量研究所を訪ねてください。
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