私は品質監査とか環境監査に関わるようになって15年以上になる。そんな私であるので、仕事の知り合いや、監査に行った先から、「どうしたらじょうずな監査ができるのか?」 という質問をかなり頻繁に受ける。
内部監査員養成セミナーを受講すれば良い監査ができるようになるのか? なんてボケを語ってはいけませんよ、
★★考えても御覧なさい、
★★環境監査がそういったものより簡単だとは・・・私には思えない。
ISO規格なんて、そのあらましを理解するには一週間あれば足りるでしょう。もっともISO規格は日本語だけ読んでも足りず、英語でも読んでおく必要がある。
いずれにしても、まあ半月もあればよろしい・・・・環境監査のアイテムの中では簡単なものである。
もっともISO規格だけでも困る。マネジメントにかかわるISO規格、ガイド66あるいはそれを展開したR100・R200・R300・RE100・・・なども読まなくてはならない。
さて、次は法律である。
環境法規制をひととおり知るのにどのくらいの時間を要するか?
それは一口にいえない。

環境法規制といってもいったい何本の法律があるのだろう。日本にある法律は1800本、その中で環境に関わる法律は150本以上といわれている。なにも環境基本法とか水質汚濁防止法などだけではない。
廃棄物に関わるものだけでも、廃棄物処理法を筆頭として、各種リサイクル法、処理委託契約には印紙税法・下請法、残飯をコンポストにすれば肥料法、廃薬品を売ろうとすると毒劇物法、古物営業法などなど環境と無縁と思える法律もあり、それらを数えるには両手両足の指では足りない。
(すべて略称である)
そしてそれぞれの法律には施行令という子供、省令という孫がついていて単純計算でその3倍になります。
一部の法律には施行令とか省令のないもの、複数の省令のあるものがあります。
実を言いまして、この私も得意分野と不得意分野があり、知らないことは監査できません。
お金を取って環境法の講習会というのも多々開催されている。しかし、一日や二日の講習でこれほどの法律を覚えることができるのでしょうか? いやできるはずがない!
教えることのできる人もいないのではないか?
それに法令・・・つまり法律、施行令、省令・・・だけでなく、行政が出している各種通知にも目を通しておかなくてはならない。環境省だけでも生きている通知が1000くらいあるのだ。
その他、経済産業省、消防庁、厚生労働省なども関わります。
ここまで聞くともううんざりする方もいらっしゃるのでは?

現場をみることを学校やセミナーで学ぶことはいっそうむずかしく、長年の経験がいる。なにも監査業務を長年していることはないが、現場の経験のある人とない人では雲泥の差がある。
★★配管のフランジ部の汚れを見てなにかを感じるか感じないか?
★★コンクリートのひび割れに気づくか見逃すか?
★★床面の塗装が使われている薬品に見合っているかいないか?
★★消火器の前に台車があるのに違和感を感じるか?
★★タンクを押さえているボルトが細すぎないか?適正なのか?
★★物の積み方がまっすぐか、ずれているか?
そんなことは監査員講習会では教えてくれない。
監督者として、口うるさく整理整頓を言っていた私にはあっているようだ
法で定める報告書や契約書、あるいは帳票類をめくるにもスキルが要る。
チェックリストがあればできる・・・とはいえない。
おかしな点を見つけられるか見つけられないか・・・は経験が生きてくる。
正直なことを言えば、過去の失敗が多い人ほどチェックが細かい。
マニフェストを完全にチェックできる人は、プロの審査員の何パーセントいるのだろうか?
1割はいないだろう。
しかし、もっと重要なことがある。良い監査をするためには監査員の能力だけではできない。
良い監査というのは個人プレイではなく、システムによって実現されるものだと私は信じている。
「ぜひ監査員教育をしてください」とか言われたとき私はこう応えている。
「監査員教育をしても良い監査はできません。良い監査をするためには監査システムの構築が必要です。監査システム構築のお手伝いならします。」

何事も良い仕事をしようとするならば、準備と支援体制が重要である。
パウエル元国務長官は湾岸戦争で男を上げたのだが、彼は戦闘に入るまでの準備・兵站にものすごい手を打った。実際の戦闘はあっという間であるが、それを行うためにはものすごい準備が必要だ。
類似の事例だが、30年前、
浅間山荘に連合赤軍が立てこもったとき、警視庁から来た佐々氏は、テロリストと対峙する前に警官のトイレ、昼飯、防寒具、泊まる宿、防弾車を東京から持ってくるなどあらゆることの準備をしたという。
それを見た人が「なんてのんびりしていることか!」と呆れたというが、攻城戦は長引きそれらの兵站が警官隊を支えたのである。
環境監査も同じである。
「よい監査チェックリストがあれば誰でも監査ができる」なんてバカなことをいっていた審査員がいたが、そんなことを語っているようではその審査員は良い監査ができるはずがない。
監査チェックリストは監査をする人が作るものであって、良いチェックリストが作れる監査員は良い監査ができてあたりまえである。
十分な訓練を受けていない、あるいは力量を持っていない監査員がいかなるチェックリストを与えられても良い監査ができるわけがない。
だいたいチェックリストを作るには監査プログラムが重要であり、監査の目的、趣旨、依頼者の思いを知らずにチェックリストだけでよい監査ができるなどと語るのは・・・
残念ながら罵倒する言い回しが浮かんでこない。
さらに留意しなければならないが、監査とは相手あってのもので流動的であり、監査員は見るもの聞くものに臨機応変に対応できなくてはならない。チェックリストに拘束されてはいけない。
そういったこともISO19011に記述してある。
まあ、ISO規格もよく理解してないISO審査員も多いのだから、自分でちゃんとしたチェックリストを作れる人はより少ないことは間違いない・・・・かもしれない
こう質問されるということは、私が良い監査をしている証左であろう。エッヘン