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縦書き版『メントール・ユーカリプト』
八巻美恵さんに、手づくりの詩集をみせていただきました。わたしが『季刊・本とコンピュータ』2004年春号で紹介した「糸だけ製本」を参考にして、おつくりになったものです。内容は、八巻さんが編集長をつとめる「水牛」に連載中の、片岡義男さんの『メントール・ユーカリプト』です。

表紙カバーには水牛のマーク、背にはタイトルと著者名が印字され、13篇が端正な文字組で32頁におさめられています。紙の堅さや表紙の紙の折りかた、かがり糸の種類や始末の方法をさまざま試し、さらに、色の組み合わせや型抜きなどの「遊び」も充分。最初みせていただいたとき、笑ってしまった、楽しくて、たくさんで。「糸だけ製本」が、みごとにバージョンアップです。
横書き版『メントール・ユーカリプト』
片岡さん、八巻さんと羊ゴハンを食べながら、片岡さんがそもそもこの詩をおかきになった状況をうかがいました。横書きもよさそうだねという話になって、その二日後だったでしょうか、八巻さんから、横書きバージョンの『メントール・ユーカリプト』が届きました。
それぞれタイトルを左ページにかがげ、縦書きバージョンと同じく13篇が並びます。一篇ずつの長さ、さらに一行の文字数もほぼ同じなので、見た目にも整然としています。
つくり手それぞれの技術とセンスの違いはあれど、一から十まで段取りを習うまでもなく、手製本は誰だってできます。めざす本のかたちがはっきりしていて、それに近づけるための試作を楽しめるなら、やがて手元にその「かたち」はやってくる。
わたしは製本教室に通って手製本のノウハウを習いました。より失敗を少なくするための要領を覚えましたが、そのことがつい先行してしまい、そもそもの製本への興味を失いかけていました。八巻さんの、思いつきを次々とかたちにしていくその手際よさに触れることで、なにかこう、本来の楽しさを取り戻せたような気がしてうれしかった。
ハト目綴じ製本
八巻さんの手製本は、いまにはじまったことではありません。水牛で連載中の御喜美江さんのエッセイ「たんぽぽ畑」を、カシメ綴じ製本ですでに三冊出されています。カシメ綴じなのでノド奥まで頁が開きません。しかし、文字組、そして紙の大きさと柔らかさによって、片手で持って読むにも具合のよいつくりです。八巻さんにうかがったわけではないけれど、何度も試作してはめくって読んで、ようやくこのかたちになったんじゃないかと思う。(2004.6)

「……母の友人から……「病院の待合室で読むのに、ちょうどいい大きさなのよ」と。とにかくサイズといい、文字の大きさといい、軽さといい、これほど外出時のバッグに収まりのいい本はない、というのだ。そして何よりも紙がいいと誰からも言われる。思わず触りたくなる紙、手中にあってあたたかい紙、読みやすい紙、美しい紙……。……ご存知でない方のために追加すると、表紙が二十種類以上違うから、色や柄を選ぶ楽しみまである。こんな素敵な本が他にあるだろうか。」(『たんぽぽ畑。』あとがきより)