音響メモ.20001021

さあ、君も今日から音響さん!だってほかにやれそうな人いないんだもん!なんて後ろ向きに指名されてしまったあなたもこれを読めば明日からは歌舞伎町の女王です。それはちょっと嫌ですね。なにはともあれ音響さんになったあなた、どうせ音なんて好みですから自分が責任持ってる時は自分の責任のとれる範囲で好き放題すればいいと思います。はそう思ってました。で、どんなことを考えたり気にしていたのか書いてあります。豆知識のほうもどうぞ。いろいろやってみれば自分のやりやすい方向が見えてくるはずです。試行錯誤・アンド・ゴー!!! ちなみにどれもうろ覚えなので間違いなど気がついたらこちらへ。

音響チーフさんのお仕事

音響プラン・機材セッティング・キューシート制作・その他、音響操作以外のすべて。

聞き込み

演出(ディレク)に、音響はどんなにして欲しいか聞き込みをかけます。どんどん変化していくと思うので無駄なようですが、芝居を立ち上げた稽古前から、地道にヒアリングしていくのがおすすめです。ひとつの芝居をちょっと違ったサイドからおっかけてくみたいな感じでおもろいです。ここでは、どんなホールでやりたいかとか、オーケストラならどこを使いたい(オケは録音(CD)で雇っちゃえばどこでも使えますね。贅沢!)とか、物理的な制約を超えてやるとしたら理想はどんなか、ということを聞き出すのが音造りの上では役に立ちます。ディレクの言う、静か、うるさい、というのもイメージの持ち方次第で随分内容が変わってくるのでいかに具体的なプランの足掛かりになることを聞けるかというのがポイントです。選曲に関しては、どんなのがいいかというのをあらかじめディレクの持ってるレコードで音を聴かせてもらってこれも具体的なイメージに近付くのがよいでしょう。そっから先、そのまま使っちゃうかどうかはまた相談です。音をたくさん付けたからって偉いわけじゃないし、音を探したからって偉いわけでもありません。ある場面に、最も適した、ディレクの意志のこもった空気を醸し出す音を付けてあげるか、というのが勝負です。それが静寂で表現されるべきだと思うのであれば、ちゃんとそれも考慮に入れましょう。音を出さないと言うのもかなり反則ですけど。

装置に、セットはどんなにしたいのか聞き込みをかけます。次の「プラン」と話が前後しますが、音響プランをたてる上で無視できないのがセットです。装置の方とは事前に話をしてどこらへんにスピーカを仕込めるか取材しないといけません。また、音響の面からセットで気を付けなければならない点もあります。階段状のセットを組む場合、けこみという、階段部分の前面をふさぐものは必須です。これがないと音がセットに吸われてしまって舞台上の声が聴こえなくなっちゃいます。あとは足音のこととか。セットのプランが固まるのは結構早い時期のはずなので、それを見てプランをたてるのがふつうかもしれませんが、セットで気になる点は即座に問い合わせましょう。もし、今回はこれでなくてはならない!という音響プランがある時はセットの方に都合してもらってどうにかプランが実現できるようにするべきでしょう。事前にそういうプランがない時でも、セットがどうなってるかってのが音響に関係ないわけないのでちゃんと見ておきましょう。

プラン

プランには、機材をどういうふうに配置するのかと言うプランと、機材をどういう風に接続するのかと言うプランがあります。前者の方はスピーカーの配置のことを言っていますね(わかりにく)。どちらも適当な記号を用いて適当に図面に起こす必要があります。そうすることでプランの無理な点を発見でると思います。エネルギーの届き具合なんかも見えるようになるし。音は確かにあとから調整できるけどプランを超える調整はできないと思います。がんばっていいプランを描いて下さい。機材のプランのほうは図に書けなければもうそれは物理的に無理なわけですから使える機材をリストアップしてさっさと描いて下さい。

プランの話のおまけ。ホールは壁をうまく使わなければなりません。ということを音響建築の本を読んで学びました。広いですから壁を反射させてなんぼです。そうじゃなきゃ外と一緒。Audiの壁もバカにせずに反射させてあげましょう。

プランははじめから特殊なものを組むよりも、ふつうに鳴らしてちゃんと鳴る、スタンダードなものを組んで、あとから調整で特徴を付けた方がよいかと思います。ふつうに鳴らないものが変なふうに鳴ったらそれは単に変な、うるさい音響になってしまうのではないでしょうか。スタンダードプラスアルファがよいと思います。最低でもスタンダードは確保したい。

選曲

1. 劇中音楽

演出が持ってくることもあるかも知れないしはじめから探さないといけないこともあるだろうけど、芝居を見て自分が聞きたくなった音楽をかければいいと思います。通しとか見ながら考えます。これはひとつの、しかも重要な演出なので、ちゃんと曲がそれでいいのか、音はどれくらいの大きさで聴こえて来て欲しいかと言うことを演出の人と確認して下さい。


2. 客入れ客出し

このどちらの選曲も非常に重要な仕事です。客入れはお客さんの本編に向かうにあたっての準備体操をさせてあげる重要な要素ですし、客出しはどのように余韻を楽しんで頂くかと言う空気の演出です。どちらもへんなものがあるよりは、ないほうがましだと思いますが、そこをうまくあったほうがいいというふうに、なにか意図を持って演出するのがプロでしょう。適当に選んではなりません。と思う。ただ、あまりにも意図的でベタベタなものは客が強いイメージを抱き過ぎて邪魔なので、あまり有名でない曲をさりげなく使うのがよいとされています。そこにこだわりすぎることもないと思うけど。演出の方と相談してちゃんと決めましょう。これは演出なんですから。

ちなみに客入れ客出しのひらめき方は、僕の場合、まず台本を読んでみた時に耳を済ませて聴こえて来た曲で仮決め、そして通しを見てみた時に頭の中でそれらの曲を流してみて検討、そのときに実際鳴らしてみるかそのあとの通しで実際に聞いてみて仮決定もしくは没、という流れをとっていました。客入れは望んだ部分で客入れ終了になるようにするにはひたすら時間計算をします。客入れが押すことを考えると、開演時間、五分押し、10分押し、と3回のポイントを大事にして曲を並べるのがいいでしょう。

客入れ客出しの音量はこれも演出なのでちゃんと決めましょう。ただ、本番にならないと客のうるささがわからなかったりするのでオペはブースでどれくらい聞こえれば客にどれくらい聞こえるのかということを身体にたたきこんでおきましょう。これは客入れ客出しのためだけにやることでもないんだけど。

仕込み

(仕込みの時間はどこでも全部で4-6時間くらいだと思います。ひとりでやったとすると、設置とケーブル仮止めで2時間、軽く調整2時間、ケーブルケア全部で2時間。ふたりでやるといろいろ縮まって4時間くらい。たぶん。)

0. ケーブルは左右同じ長さで

ケーブルって電気的には抵抗とコンデンサーに置き換えることもできちゃいます、ということはフィルターになって音を変化させてしまうってことだね。口調は優しくてもなにがなにやらさっぱりですが、アンプからスピーカまでのケーブルの長さは左右同じにしましょう。スピーカの片方がアンプから1メートルで、もう片方が30メートルだったら30メートルの方に合わせるってこと。ケーブルの損失はフィルターで調整できるものではありません。


1. ケーブルケア

でもお客さまに見えるところと言うのは大事です。ケーブルケアは、黒ガムテ(ープだけど別に黒とは限らないしガムテとも限らない、養生テープでもいい)を均等な間隔で、テープをケチらず、かといって長過ぎぬように均一な長さで切り、しっかりとケーブルを固定してあげましょう。きたないのはいやよん。ケーブルの出発地点でたくさん、急カーブのあたりでちょっとずつ、「あそび」とよばれる、ケーブルの余裕をつくってあげるのも大事なことです。かるく一巻きくらいしてガムテでちょこっと留めておきましょう。万が一ケーブルに何か(たいてい足)を引っ掛けた時にも安心です。機材周りの遊びはちょっとした作業や移動のとき便利です。さあきれいにケアれ!


2. スピーカ吊り

危険じゃなければいいです。照明委員会のテクノロジーを応用するのが近道かと思います。カゴについては音響委員会ファイル参照。

3. アンプを横に倒して使ってはいけない

当然のことなんですけどいちおう。ちなみにアンプの設計では熱の流れなんてことまで考えられてるんですよ。とにかく熱がたくさん出るくせに精密機械なので、ちょっとは気を浸かってあげましょう。ちなみに僕はふつうのアンプを横二列縦三段に組んで使ったときに、再大音量を出してしばらくしてから熱暴走でアンプがとんだ経験があります。気を付けたいものですね。

4. 音が出なかったらまず電源を切ること

(ここからコラム)ある時、僕はセッティングを終了してからスピーカーチェックをしていました。そして、あるスピーカから音が出ていなくて、やばいなあ、ほんとはいけないんだけど、えい!と音量を上げてしまいました。その後一瞬、甘い香りとともにアンプから煙が立ち上りました。さすがにあわてて電源を切りました。基本は大切です。異常があったらまず電源を切ること。その時の原因は、スピーカまでの配線が完了しておらず、スピーカケーブルの末端がショートしていたと言う、なんとも情けないものでした。結局本番までそのアンプで乗り切ったものの、大丈夫なわけないです。

録音編集

1. 音効さん

音響効果。効果音のCDを借りて来て、単純な場合はそのまま使うし、好みの音にしてしまいたいときはコンピュータとか使って音をいじります。とにかくうまくノイズを減らしながら音を編集するのがポイントだと思います。音を出すのはでかいところだけど、でかい音で出す時にはノイズが目立つものです。ただしノイズが目立たない場合も多々あるのでそこらへんは実際にどう言う出力を組む予定かと言うのと相談。あとは運と相談。効果音がある時は、現場でどう響くのかわからないことを考慮に入れ、事前に数パターン用意するのは当然のことです。あとは小屋入りしてから徹夜があっても平気なようにしとくくらいしか手の打ちようがありません。小屋入りしてから徹夜って言うのは普通の心構えだったなあなんだか。

2. 録音

録音はMDとかCD-Rとかとにかくデジタルだと思います。ポイントはとにかくダイナミックレンジを稼ぐためにレンジギリギリで録音すること。しかし絶対にマックスを超えてはいけません。デジタルだからレンジを超えたら本当に天井にぶつかってクリッピングされて矩形波が出来上がります。とにかく絶対にオーバーレンジさせないこと。分かりやすく言うと赤いの光ったら失格即録り直し。


3. 打ち込み

打ち込みの音の調整のポイントは全体の音の密度を一定にすることではないかと思います。録音の時点で楽器が出入りする度に音量が変わってしまうようだとオペはそれをカバーするための仕事が増えてしまって困ります。非常に困ります。ふつうに録音されているCDやカラオケなどがどういう音で録音されているのかと言うことを自分なりによく聴いて分析して参考にするといいと思います。

調整

1. 音の引き算

出力や物理的な条件、もしくは要求などによって音量が限られ音が物足りない時にフィルタをいじることになると思います。そこで低音が足りなければ低音を、高音が足りなければ高音をプラスにしていくのが当然でしょう。それで済む場合がほとんどです。これが足し算の考え方です。しかし、そうした場合、音のマスキング効果などで音の要素がお互いに争い合う耳障りな音になってしまう場合があります。そして音全体に渡って調整しなければならなくなります。

そのような場合は、思い切ってフィルタを逆に、マイナスの方向へ回してみましょう。低音が物足りないと感じられたとしても音量的には充分な時などがあります。そこで、低音が足りないのではなく、何かが低音を邪魔しているから物足りない、と考えます。だから、そのような時は低音を邪魔している中低音を少し削ってあげるとくっきりとした音になると思います。増やす方向に持っていくと様々なポイントを調整しなければなりませんが、耳障りな部分の音をピンポイントで削る、という考え方を身につけると、個人的な経験では、問題解決のスピードがかなり改善されたと思います。また、フィルターは全体を調整するのではなく部分を選択して調整するのだと、どこかに書いてありました。この方法は調整のポイントを削減することにつながるので、結果的に音源の音をそのまま出せるようになります。そして、どの音源にも同様な耳障りな音を削るというところに重点を置けば、音源の調整と言うよりは音場の調整という作業に近付くことができるのではないでしょうか。

さまざまな音源を鳴らす音響さんにとって、ある一つの曲や音に特化して音を調整して、何か別な音を作ろうとするのは無駄な労力です。結局別な音源がかけられなくなってしまいます。出力に関しては、汎用性のある、場にあった音の場を作り上げることが音響さんの仕事なのではないでしょうか。スピーカやアンプなどは基本的にフラットな音が出るようになっているはずなのでそれを信じましょう。単にあるひとつの音源を鳴らすのではなく、場に対して求められる音響を目指したほうがいいと思います。

オペ

おつかれさまです。オペの仕事は客入れ前から客出し後までいるべき場所にいて客入れから客出しまで音を出すことです。指先ひとつでお客さんの聴覚にお邪魔するいちばんエキサイティングかつ迷惑な仕事です。がんばってください。

お客さんのところでどれくらいの音がするときに自分のいる場所でどれくらいの音量なのかと言うことを把握しましょう。ミキサのどれくらいがどの音量かというのでもいいけど、チーフが機材をちょっといじるとそんなの変わっちゃうから耳と身体で覚えるのが一番です。基本は音を流しっぱなしにして客席とブースを言ったり来たりすること。チーフに音を聞かせて「ちょうどいい」というところで自分も聞いてみること。これを午前中とかうるさい時とか練習中とかにしつこく行います。密閉された空間でも気持ちの問題と生活音(そんな言葉あるのかしらないけど車とか人のざわめきとか活動してる音)の関係で昼間はうるさかったり逆に夜うるさかったりします。だからいろんな時間にやっておけばどれくらいの空気にどれくらいの音を出せばいいのかが学べるって訳です。客が入ったときの状況と言うのは本番でありながらチーフでさえも想像しかできていないものなのでそこで望まれる音量を出すためにはとてつもない準備が必要になるはずです。音量だけでもそれはもう大変なことなんですよ。

そうそう。初めて聴いた人が気持ちいいように。というのがミキシングのポイントだそうですよ。

ばらし

(ばらしの時間はいろいろなひとに手伝ってもらったりしてしまうと2-3時間でほんとに全部終わります。ケーブル巻き直しても。)

セットばらしの様子をうかがいながらばらしましょう。機材を撤収してケーブル撤収してぐるぐる巻いたりするだけです。ばらしのタイムスケジュールを組む時にはケーブルをひっぱがす時間をちゃんと確保しましょう。だいたいセットの合間がちゃんと開いてればそこでできます。あとは機材を運び出す経路が安全かどうかとか。ふつうのことです。

七つ道具

ねじりっこ

これはあのお菓子の袋の口を縛ってあるような細い針金を骨にして平たくビニールコーティングしてあるやつです。ケーブルをまとめるにはこれがおすすめ。箱からぐるぐるとひっぱって使うことができます。

黒ガムテープ

黒いガムテープ通称黒ガムテは必需品です。粘着力がすごいので弱いところには貼らないこと。粘着材がしみ込みそうなところに長期間貼らないこと。あと、剥がした黒ガムテは仕方なくパンツにはってしまったりしますがジーパンだと繊維が減ります。注意。

マグライト

ちっちゃい懐中電灯ならなんでも。マグライトの単4電池1本のやつは口でくわえる用のアダプタがついてて素敵です。両手使えるから作業の時にはほんと便利なんですよ。暗いところでこれをくわえてると気持ち悪がられるのが欠点。

はさみ/カッターナイフ/ワイヤストリッパ/ニッパ

ケーブルを切るのに使います。人によって使いやすい方を選びましょう。ケーブルくらい一髪で皮膜だけばっちり切れるようにしておくこと。にしておいたほうがいいです。僕は苦手です。ケーブル剥く時はこころをゆったりとして落ち着いた気持ちで切りましょう。

バインド線

通称バンセン。スピーカをぶら下げるのに使います。あと無期を保つときにどこかから引っ張るために。東急ハンズで売ってます。耐重量1t。

ハンダごて

非常の際にはこれが出て来ます。むつかしいことではないので練習して下さい。ケーブルをどこかにくっつけるときには40Wくらいのハンダごてで1.2mmくらいのハンダを使うのがいいような気がしました。

ケーブル

自分で持ってるとやはり便利です。ケーブルは消耗品だからこそ自分で信頼できるものを持っておくべき。トラブルがあって機材チェックするような際にはケーブルが信頼出来ないと始まりません。

ねじまわし

実はあまり使いません。でも、そこらへんで借りられるのは長いものがほとんどで実際の作業には不便でたまらないので、ホームセンターに行って6本セットで短いドライバーにグリップをくっつけるタイプのものを買いましょう。安くて使いやすいです。T字に組めば力も入るし。あとY字形のやつもつかいやすいです。お金があれば短くてグリップが丸いタイプがいちばん疲れないと思います。

変換プラグ

これは特に消耗するものではないけど散逸しやすいものなので自分で持っていた方が便利です。自分のも散逸してしまうのが欠点。

たいした道具使いませんね。がっくり。


考察:芝居と音

そもそも日常においてBGMなんてものは存在せず、悲しくなったからといって悲し気な音をたてる人間も存在しないわけで、リアルを追求しがちな芝居と言うものの中で音楽を鳴らそうとするのは非常にちぐはぐなことであると思われます。でも鳴らすんだよ。


(ふーん、こんなこと考えてたのか。おつかれさま)



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