○しげなま論壇
  From the view ponit of SHIGENAMA


●「小股の切れ上がった...」仮説

* 2004年1月25日(日) 「小股の切れ上がった...」仮説 (しげなまの「五円日記より)

「小股の切れ上がった...」仮説

「日本語の○○」といった書物に出会う度に必ずその項目を探してみる言葉が「小股の切れ上がった」という表現。手元の辞書(広辞苑/新明解)だと「女のすらりとした粋なからだつきを言う/若い女性の姿態がすらりとしていて、いきな感じを与える様子」と。この表現は趣が深い。うなじが綺麗な帯を腰高に巻いたすらりとした粋な女性が、小さな歩幅(小股は狭義では大股で歩く意の反意語になる)で江戸の町を歩く。細い足首に真っ白な足袋。下駄のリズムも軽すぎず鈍すぎず。イメージが膨らむ。ところが、じゃあ小股ってなんだということになると百家争鳴。なかなかいい本だなと思って読んでいる時に「小股の...」項目になって流した様な説明がされていると興が失せて、それ以上読み進めたくなくなる。で、ウェブを探ってみると、出て来ました。面白い議論をしている人達が。この中身は直接下記を参照して頂くとして。(鬼平犯科帳彩色江戸名所図解の掲示板から)
http://homepage1.nifty.com/shimizumon/board/waiwai/board_omasa.html
個人的には、解剖学的な部位の特定は「野暮」だと思うし、江戸時代にレースクイーンの様な格好をする女性が居るはずもなく、着物を着た上での所作を指すと考えたい。吉原があるじゃないかというが、花魁を誉めるのに解剖学的な器官や部位を言うのは「野暮」ではないか。秘した世界を包み込んであえて表現せず、その外見や所作の美しさを誉めてこそ「粋」ではないかと。で、個人的には「足袋の親指と他指の間を指す」という説を採りたい。根拠は社交ダンスで言う所の「ボール the ball of the thumb=足の親指の付根の丸い所」と浮世絵の美人画。前者は飛躍する様だが、学生時代の舞研の経験から言うと、ラテンダンスのダンスウォークの基本はボールで体重を感じ、一本の線の上を歩くこと。膝と膝が擦れ合う様に歩く。これが美しいとされる。和洋の違いはあるが、下駄を履き着物を着た女性も、裾が乱れぬ様に歩く姿はラテンダンスウォークに近く、特に足の親指と他指の間に下駄の紐がある状態では、そこに力が入って切れ上がった様な状態になるのではないかということ。是非一度、着物に足袋と下駄という女性の歩き方を実地調査してみたい。お正月以外ではなかなかチャンスがないだろうけど。また、浮世絵の美人画を(これは印象に過ぎないのだが)見ると、着物の裾から少しだけ白い足袋と足先が見えているものが多い様に思う。そこに描かれている足袋の親指とその他の足指の間の線。これを切れ上がった様に描くこと。それが美人画の条件だと当時は了解されていたのではないかと。本日の日記の結論として、「小股の切れ上がった状態というのは足袋の足指の股がだらっとせず、切れ上がると表現される程にきりっと引き締まった様を指し、そういう着こなし、所作をする女性は粋で美しいと称される」という仮説を立てたいと思う。この仮説証明の為、今年は、美人画の足袋先を良く観察しに日本画系の美術館巡りをしてみたいと。何か発見があれば、今後も継続して日記でフォローしてみます。どなたか着物姿での歩き方にお詳しい方が折られたら是非お話を伺ってみたいものです。


鬼平犯科帳彩色江戸名所図解の掲示板から

2003年1月15日(水) 11:22

「小股の切れ上がったいい女」の小股って?

朝日カルチャーセンター〔鬼平〕クラス あいこ浩さん

「小股の切れ上がった〔江戸前〕のおまささん」の書きこみを読み、先日朝日CC〔鬼平〕オフ会での議論を思い出しました。
鬼平ファンが『鬼平犯科帳』で「小股の切れ上がったいい女」といえば先ず挙げるのが「おまさ」と「お園」、
しかし作家の池波正太郎さんは2人を言葉の上で「小股の・・・」とは書いてないですね
(どこかに書いているかもしれないけど、小生浅学のため知りません。あったら教えてください)

それなのに「小股の切れ上がった・・・」と言えば、大方の人が、この2人をイメージしてしまうのは何故でしょう?

そもそも「小股の切れ上がった」とは何だろう?まず、この2人の登場場面を『鬼平犯科帳』に見てみましょう。

☆……小肥りな少女だったおまさは、すっきりと〔年増痩せ〕していたのである。

おまさは、三十を超えていた。肌は、江戸の女の常で浅ぐろいが荒れてもいず、身なりもきっちりとしてい、
黒くてぱっちりとした双眸とおちょぼ口がむかしのおもかげをやどしていた。

(文庫巻4[血闘]p136 新装p143 )

☆……三十歳になるお園は、根津の門前町の裏で〔三坪〕という居酒屋を、三年前から、独りでいとなんでいる
……しかも男知らずの独り暮らしで……お園は、色白の大女で、左の頬の上に、少し雀斑の粒が散っている。

その躰を地味な着物に包み、盲縞の筒袖の半天を羽織り、紺の前かけに高下駄を履き、髪は無造作に自分の手で
後ろへ巻き束ねたのみで、白粉も紅もつけぬ。色気も何もあったものではない。

(文庫巻23巻[隠し子]旧版・新装ともp.p 18〜21)

そこで「小股が切れ上がった……」とは何かを、色々のところから探ってみたので、私見を交えずそのまま列挙します。

(1)足が長くすらりとして、たった姿がきりりと引き締まった女性を形容する言葉。「小股」の「こ」は単なる接頭語で、
小股という部位が特別にあるわけではない。

(2)すらりとして小粋(こいき)な女性の容姿を「小股(こまた)の切れ上がったいい女」と表現する。
例えば、菱川師宣の浮世絵「見返り美人図」のような。

(3)鳥居清長の浮世絵美人をして「小股の切れ上がった……」というのだという。

(4)相撲の技に、小股掬いというのがあるので、膝関節の上あたりかも知れないとか、襟足といって、
女性の白いうなじが色香を放つので、首筋を足に見立てているのかも知れないとか、足袋の親指と、
他の四指との間を小股というので、そのあたりを指すのではないかと。

(5)後ろから見たときに足首のところの骨が(踵のすこし上)Vの字にキュキュッなっている様のこと。

(6)「小」を接頭語とする説では「裾さばきの美しい、すらりとした体つきの小粋な女性」となります。

(7)「小股」とは股の付け根の左右を上に走る二本の鼠蹊部の線としますと、
「女陰、上付きでまぐわいの具合がとてもとてもよろしい女性」

(8)太宰治、織田作之助、坂口安吾の対談から引用[織田作之助]僕は、背の低い女には小股というものはない、
背の高い女には小股というものを股にもっていると思うのだ。

[坂口安吾]しかし小股というものは、どこにあるのだ。

[太宰治]アキレス腱だ。

[坂口安吾]どうも文士が小股を知らんというのはちょっと恥ずかしいな。われわれ三人が揃っておいて……。

ということで、大作家たちにも「小股」の正体は謎だったらしい。

(9)「小股」という器官があるのではなく、「ちょっと股が切れ上がっている」という意味だと考えるのが妥当だろう。
では「股が切れ上がる」とはいったいどういう状態を意味するのか。なんでもこの言葉、もともとは男性の形容に使われていて、
「すまた切れあがりて大男」という言葉が、西鶴の「本朝二十不孝」という本に見えるそうだ。股とは、ももそのものではなく、
ももとももとの間の空間を意味する。つまり「すまたが切れあがる」とは「足が長い」という意味。これがのちに女の形容に
使われるようなり、「小股が切れ上がる」という形容が生まれたらしい。ということで、「小股の切れ上がった女」とは、
足が長くて尻の位置が高くすらりとした女性をいうのだとか。(『すらんぐ 卑語』)つまり、「ちょっと股の切れ上がった美人」
と解釈するのが正しいようです。要するに、下半身がしまっていて、お尻の上がったスタイルのいい女性を指しているってことですね。

(10)婦人のスラリとしていて粋なからだつきをいう(三省堂広辞林)(広辞苑)

(11)すらりとして小粋な女(集英社 広辞典)

(12)和服を着た女性が、すらりと粋な様子(小学館 国語辞典)

(13)女性の足がすらりと長く、粋な姿(小学館 大辞泉)

(14)きりりとして小粋な女性の形容(三省堂 大辞林)

(15)女の股が長く、すらりとして、いきなさまの形容「十八、九の女の裸参り、身体の白きこと雪の如く、小股の切れ上がったる」
(咄・寿々波羅井)・・・(岩波 古語辞典)

(16)「芸者が歩くときには内輪に足を踏み出し、大股にならぬように歩く。芸者として、修行が積んでくると、女らしく垢抜けした
きりりとした感じに歩けるようになる。それを小股が切れ上がる、というわけだ。つまり、切れ上がるとは、卒業すると言うような意味だな」
(吉行淳之介「技巧的生活」)

(17)小股とは股の付け根の切れ目のことをいうのだそうだ。あそこのところの略図を「Y」とすると「V」の部分が深く切れていて、
しかも、斜め上方に長く切れ込んでいる女性のこと。簡単に言えば土手が高いのであります。あの丘がこんもりと盛り上がっているわけであります。
(井上ひさし「江戸紫絵巻源氏」)

(18)女陰の陰裂の長さ(折口信夫)

(19)小股の「小」は「股」を飛び越えて「切れ上がった」に係っているのです。つまり「股がちょっと切れ上がった」を表しています。
結論からいいますと、「足の長くすらりとした」「腰の位置が高い女性」という意味です。(評論家 奥秋義信)

(20)アキレス腱がくっと締まった女性がサクサクと歩いているといかにもいい女って感じです。

(21)「小股」とは足袋を履いた時の親指と他の指との間を指す。あるいは膝から下の脚の部位を指す。(快感が高まると、女性の身体が反り返ったり、
下半身全体、脚の指先まで力が入ることと関係がある?)(BODY DESIGN)

(22)膝から腿のあたりが切れ上がっていて、ちらりちらりとすそが開いてたいへん色っぽいわけです。そこへ風でも吹こうものなら、
「小股」があらわになってしまいます。(杉浦日向子 ぶらり江戸学)

(23)近世庶民文化研究会刊行の「近世庶民文化」77号〜あたりに小股論議が載っているそうです。(残念ながら小生未だ読んでいません)

【このことわざの成り立ちが決して曖昧なものである筈がなく、拠ってきたる根拠があると思うのですが、どなたかご存知の方は伝聞でも良いですからお教えください】




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