2000/1/15
全国大学選手権決勝
慶応大学 VS 関東学院大学


慶 応VS関東学院
2712前半77
0TRY2
0GOAL1
4PG0
0DG0
15後半0
2TRY0
1GOAL0
1PG0
0DG0



感 想

これが魂のラグビーか。
今日の慶応のタックルには見事なまでの気迫が感じられた。

ここまでの4試合すべてを逆転で勝ち、どちらかというとスロースターターだった慶応が今日はキックオフ早々から凄まじい集中力を発揮してエンジン全開。
早い出足と全員の厳しいタックルで、慶応のペースで試合は進んだ。押されがちな関東学院の反則で得たペナルティキックを、慶応のキッカー栗原は、2分、17分、25分、31分と確実に決め、点差を12点にまで広げる。
慶応は、随所でCTB瓜生がポイント作りやゲインを切るような良い動きを見せていた。
ラインアウトが安定しているおかげで、時折関東学院にキックで自陣深く攻めこまれても、マイボールを確実にキープできるだけに、それほど痛手には繋がらない。
SO和田のキックも良く伸びていた。これは関東学院SO淵上にも言え、互いに厳しいプレッシャーに負けずに正確なタッチキックが多かったことは試合を引き締めた要因とも言える。
それでもさすがに関東学院も前年の王者。
12―0で折り返すかと思われた前半39分、慶応陣でのマイボールラインアウトから、SH増田がゲインして一端ポイントを作った後、右に展開し、CTB吉岡が強い当たりと柔らかいステップでディフェンスを交わし、ゴールポスト右にトライを奪う。キックも決まり7点を返して、ようやく息を吹き返す。
このトライの伏線は、その直前の慶応ゴール前の攻防にあった。
関東学院は慶応WTB浦田のノックオンで慶応22mライン内で攻撃権を得ると、マイボールラインアウトから、モールやサイド攻撃でゴール直前に迫り、あわやトライというところまで攻めこみながら、最後の繋ぎに失敗しターンオーバーされ、和田のキックで大きく押し戻された。慶応にすれば、凌ぎきった安堵感が、直後の一瞬の油断を生んだように思える。
恐らく、ハーフタイムには上田監督からものすごい檄が飛んだのではないだろうか。
そして後半開始2分、SO和田がギャップを上手く突いて大きくゲインすると、瓜生、野澤とつないで、ラック。素早く右オープンに展開し、WTB浦田が右隅にトライ。これで一気に慶応はリズムに乗った。
10分には、ややイージーなペナルティキックを栗原が外したものの、その後も慶応フィフティーンの動きが良い。逆に関東学院の選手、特にフォワードは疲れが見え始め、ラックの集散が遅れがちになる。歩く選手が目立つようになり始めた。
後半22分、攻めつづける慶応は右オープンにワイドに展開し、瓜生、浦田、田中で関東学院ゴール前まで迫ると、ラックから今度は大きく左に振って、SO和田がインゴール左タッチライン際に絶妙のキック。関東学院WTB四宮と慶応FB加藤の競り合い。どちらがとっても不思議ではなかったが、ボールは加藤の手にすっぽりとおさまってそのままダウンボール。
このトライでほぼ勝負の趨勢は決まった。運も慶応に味方したと言うことか。
34分にも、中央35mのPGを栗原が決めて、20点差になり、その後は互いの攻防が続くが、トライまでには至らず、関東学院には無情な、慶応にとっては歓喜のノーサイドの笛が吹かれた。
最初に書いたように、慶応の勝利は魂のタックルにあった。
全員が休まず、体を張ってデイフェンスに向かい、関東学院の攻撃を徹底して寸断した。
対抗戦から見て来た者としては、今年の慶応は攻撃力こそ素晴らしいもののディフェンスはそれほどでもない、と感じていたが、ここ一番の大勝負でディフェンスを見直し、「魂のタックル」を蘇らせた上田監督、そして選手達の素晴らしさには脱帽する。
印象的だったのは関東学院四宮に対する慶応栗原の好タックルで、故障が多く「ガラスのエース」とも言われる彼が対面の四宮に猛烈なスピードで突き刺さったシーンが目に焼きついた。
注目された次期ジャパンのスター候補である慶応栗原、関東学院四宮の対決は、今日のところは栗原に軍配が上がった。二人ともまだ三年生。これからより大きく飛躍して欲しい。

慶応の上田監督は選手交代制度を最も上手く活用した。このHPで何度も書いたが、戦略的な選手交代という制度が導入されてかなり経つのに、何故か国内ではその制度を上手に使いこなしているチームは少ない。
ワールドカップを見ても分かるように、22人をフルに使って80分を戦うのが現在のラグビーだ。その有効性を積極的に活用した上田監督、林コーチ、慶応大学が学生の頂点を極めたことは非常に喜ばしいことで、古い慣習から脱却できず、なかなか交代制度を活用できない各チームの監督や指導者の目を覚ますようになってくれればと思う。「慶応大学は選手層が厚いからできるのだ」という声も聞こえてきそうだが、それだけではないだろう。要は指導者の取り組み方の問題だと思う。

敗れた関東学院。
秋のケンブリッジ戦勝利を見た限りでは、三連覇間違い無しとも思われたチームだったが、思ったほどシーズンに入ってから上昇線を描くことが出来なかった。期待の大きかったNO8山口智の春先の負傷などもあったせいか、フォワードが昨年ほどの強さを取り戻せなかった。個人的に最も気になったのは、ケンブリッジ戦で大活躍した萩谷があまり目立たなくなったのは何故なのだろう、ということなのだが。
とはいってもかなりのプレッシャーの中、しっかりと決勝まで勝ちあがり、最後まで素晴らしいプレーを見せてくれたのだから選手達にはご苦労さまと言いたい。
まだ日本選手権も残っている。
こんな事を書くと他の社会人チームに失礼かもしれないが、神戸製鋼、トヨタ自動車以外のチームなら、今年はそこそこやれそうな気がする。
優勝した慶応は今日のような試合ができれば日本選手権でも充分期待できる。
モチベーション次第だが、14年前、慶応大学の監督として自ら勤務するトヨタ自動車を破り、トヨタ日本一の夢を打ち砕き、「そこそこにしとけよ」と上司から戒められたと言う噂のある上田監督(それがトヨタ自動車退社の原因だったか?(~_~;))だけに、社会人相手にも臆することなく気迫で向かって行くことだろう。その気迫が選手全員に伝われば、好勝負になる。
準優勝の関東学院、或いは準決勝で敗退した同志社や大東文化もかなりの力があり、同志社の強力フォワードや大東文化のトンガパワーが社会人相手に何処まで通用するのか?など見所も多く、今年の日本選手権は一回戦から結構楽しめる試合になるのではないか。

それにしても期待された通りのナイスゲームが演じられたのに、観客が少なかった。 協会発表では4万人と準決勝よりはまだましだったが、本来なら満員になって然るべき好カードのはず。それだけがやや残念だった。

最後に。
帰宅してビデオで見たNHKの放送だが、Sアナのゲーム中の選手名の呼び間違いが気になった。
蔵なのに久富、四宮なのに淵上、突進していったCTB萩谷が「フォワードで突っ込む!」と言われては、がっかりする。
まあ、故Yアナには負けますけどね・・・。


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