1998/5/10
日本代表 VS 米国代表

フォト

日本代表
17-16
米国代表
10-22
27
2
T
1
38
2
3
2
G
2
0
1
1
PG
3
0
1
0
DG
0
0
0

長谷川(サントリー)
FW
リパート
坂田サントリー
ビラプス
中村直人(サントリー)
レーナー
桜庭(新日鐵釜石)
グロス
ゴードン(東芝府中)
パーカー
渡邊(東芝府中)
ホッジス
スミス(豊田自動織機)
ケアー
トンプソン(NEC)
ラムコン
堀越(神戸製鋼)
HB
バシャレ
岩渕(神戸製鋼)
アレグザンダー
ツイドラキ(トヨタ自)
TB
シュレレス
元木(神戸製鋼)
シャレンバーグ
マコーミック(東芝府中)
グロブラー
増保(神戸製鋼)
アニトニ
ミルン(鐘淵化学)
FB
ブラム


試合経過
0分、アメリカはキックオフで意表を突き逆サイドを狙うがこれが大きすぎてダイレクト。 日本はマイボールのセンタースクラムから、堀越が素早く右に回りこんで(8-9?)サイドを突破。岩淵。ミルンとパスを繋いで いきなりの先制トライかと思われたが、ゴール寸前で捕まり、ノックオン。トライならず。
前半3分、アメリカのタッチを狙ったPKがノータッチでミルンがカウンター。ボールを繋いでアメリカゴール前に攻め込むと、最後はモールを押し込んでツイドラキがトライ。(7-0)
10分、日本のオーバーザトップの反則で得たペナルティをアメリカが決める。(7-3)
23分、アメリカは日本陣でのラインアウトからラックで右展開、13番がカブリ気味の日本バックスを見てカットイン、そのままゴール真下にトライ。アメリカが逆転(7-10)。
27分、アメリカはデンジャラスタックルの反則。日本は中央のPGをミルンが決めて同点(10-10)。
33分、日本がノットロールアウェイの反則。この中央のPGをアメリカが決める(10-13)。
36分、日本はレイトチャージの反則。アメリカはこのPGを決めて差を広げる(10-16)。
41分、日本は執拗な連続攻撃。最後は抜け出したマコーミックをスミスがフォロー。左中間にトライ。

後半1分、日本はキックオフのボールを上手く競り落とし、ゴードンが左サイドを突進。ラックとなって、サイドを突いた後、再び22m付近中央でラック。素早く右に展開すると、左サイドのツイドラキがライン参加して右隅に飛び込み、ノーホイッスルトライ。(22-16)。
6分、日本は攻撃を仕掛けながらも、サインプレーをインターセプトされ、逆にピンチ。 自陣22mライン付近左タッチ際で何とかマコーミックが追いつき止めるも、ぎりぎりでタッチに出ず、アメリカのフォローの選手に拾われ、右隅にトライ(22-21)。
21分、日本はオブストラクションの反則を冒す。アメリカはこの右中間25mのPGを決めて逆転(22-24)。
33分、アメリカが日本ゴール前に攻め込む。日本も再三厳しいディフェンスで凌ぐが、最後はアメリカバックスのボールをインターセプトにいった堀越の行為が、故意にボールを叩いたと判断され、アメリカの認定トライとなる(22-31)。
36分、アメリカが中央のPGを外して、日本はインゴールからカウンターアタック。スミスが突破し、増保がフォローしてハーフライン付近まで攻め込むが、サポートの集まりが遅く、アメリカがボールを奪取。やすやすとボールを繋がれ、ゴール下にトライ(22-38)。
ロスタイムに、日本も松田ー八ツ橋と渡ってトライ(27-38)。

感想
「何故だ!」 と思わず叫びたくなるような結果で、 試合後はなんとなく脱力感を覚えました。

この日は、朝にテレビで放送された『宿沢ジャパン、スコットランド撃破!』の特集番組を見たこともあり、平尾監督は「普通にやれば勝てる」と大口をたたいているし、実際、今年のアメリカの戦力は去年に比べてダウンしているようでもあるし、今回のジャパンは、ACTと互角に戦えたメンバーなのだし…ということで、秩父宮に向かう時は「まず負けることはないだろうけど、問題は勝ち方だな」などと考えていました。 開始早々のあわやトライのシーンなど見て一層その意を強くしたのですが・・・。
一歩一歩着実に登り始めていたはずの階段は、目の錯覚だったのでしょうか? この一年間、戦術や戦略の徹底、及び各自のスキルアップは本当にあったのでしょうか? 単に、15枚の手持ちの駒のうちの一部の弱い駒を、より強力な駒と置き換えただけではないの?と疑問になってきました。

ラインアウトの工夫とタッチキックの問題
相手ボールラインアウトを奪い取ることができないのはともかく、マイボールの獲得率が50%以下(正確には計測してませんが)では・・・。
明らかに練習量不足でしょう。 今、ジャパンがやるべきことは、徹底的にラインアウトの練習をするか、さもなくば、徹底してラインアウトを必要としない戦法で戦うかのどちらかです。数年前の大商大のように、キックは必ずハイパントか、相手バックスの裏に、それも絶対にタッチに出ないように蹴る!というやり方も一考かもしれません。簡単にタッチに蹴るなど言語道断。これだけラインアウトの技術に差がある以上、絶体絶命のピンチでキックで逃れるしか方法がない、という場面以外には、まずタッチキックを蹴らない、という意思統一を図るくらいでないと。 (それにしたって、試合の局面においては必ずラインアウトは存在するのだから、マイボールを確実にキープする程度の練習は必要でしょうが…)

交代選手の有効な活用
今回の試合は恐らくかなりのラグビーファンが勝利を期待して秩父宮に足を運んだことと思います。それには、「ACT戦で大活躍した強力な外国人選手がジャパンの核として働いてくれることを期待して」という理由もあったでしょう。
確かにスミス、ミルン、トンプソン、ツイドラキ、マコーミック、ゴードン、かつてないこの大量補強が 今のジャパンの戦力アップに大幅に貢献しているのは事実です。 ただ彼らの中にはかなり年令の高い選手もいます。 ゴードンは32歳、トンプソンなどは何と35歳。彼にハードな国際試合でフルタイムの仕事を要求するのは酷というもの。「彼をどこまで使うのか?」「代わりに誰を入れるのか?」「その場合どういう戦術を取るのか?」をはっきりさせなくてはいけません。

ルールの改正によって、戦略的交替が認められるようになってからだいぶ経ちました。他外国に比べ基礎体力に劣るジャパンなどは、この新ルールを積極的に活用すべきなのに、果たしてこのことに対する研究はちゃんとされてきたのでしょうか?大いに疑問です。 サッカーなどに比べると、ラグビーはまだまだ戦術的には未開発で研究の余地が無限にあるはずです。どうも昨年度のブリッジング導入の問題などを見ても、日本の協会や指導者はそういった研究をないがしろにしているように思えてならないのですが…。

岩淵をどう使うのか?堀越、チラベルト、カンポス、そしてイギータ。
例えば堀越選手。
彼が早稲田でデビューした時は衝撃的でした。
相手チームがタッチ際にパントなどを上げるとその落下地点にいるのは常に彼。
何処から現れたのか、必ずといっていいほど、まるで魔術師のように落下地点に来ては「マーク!」と大声で叫ぶ彼の運動量とゲームを読む目の素晴らしさにはだれもが驚きました。 ところが、そのプレーに対して、当時テレビで解説をしていた日比野氏はまるで違う見解を述べたのです。
「これは素晴らしいプレーに見えますが諸刃の剣なんですよ。逆襲してマイボールになった時、そこにスクラムハーフがいない、というデメリットも生じるんです」。

確かに正論なのでしょうが、そのプレーを徐々に矯正された彼は、素晴らしいパスを放る技術とスペースを見る眼こそ相変わらず秀でていましたが、いつのまにか特徴のない普通のスクラムハーフに近づいていきました(もちろん今でも優れたスクラムハーフであることに異論はありませんが)。ただ個人的には「あのまま彼が伸びていたらどんな選手になっていたのか?」という部分も見たかったような気がするのです。

サッカーに目を転じれば、今回キリンカップで来日したパラグアイのゴールキーパー、チラベルト選手。
彼はキーパーなのにフリーキックを蹴るという凄いプレーヤーです。 もちろん彼のキックがあまりに正確で素晴らしいが故に、彼がキッカーとなるのでしょうが、果たしてこれが日本ならどうなっていたでしょう? 恐らくは「キーパーがフリーキックを蹴る」というそのリスクの余りの大きさ(もし決まらなければ猛ダッシュで自陣に戻らなければないのですから)故に、そんなプレーをさせる指導者やチームの監督などまず存在しないのではないでしょうか?

同様に、メキシコの偉大なゴールキーパー、カンポス選手。
世界的には2mにも届こうかという大型ゴールキーパー全盛のこの時代に、彼の身長は170cmそこそこ(だったカナ?)。それでも抜群の俊敏さと驚異的なジャンプ力で、天下のメキシコの正ゴールキーパーの座に君臨しているのです。ラグビーでいえば、セブンズのスーパースター、フィジーのセレビ選手に近い雰囲気といえばわかるでしょうか。
それでも、日本だったら代表のゴールキーパーにまでなれたかどうか。どこぞの強化委員あたりに『体が小さすぎる』などといわれて、いとも簡単に切り捨てられる可能性の方が大きいような気がします。

そしてコロンビアのイギータ選手。
世界を代表する優秀なゴールキーパーである彼は、キーパーでありながらドリブルが得意で、積極的にペナルテイエリアの外まで上がり、11人目のフィールドプレーヤー、或いは第二のリベロともいうべき働きをする、というそれまでのサッカーの常識を覆すような選手でした。

ところが世界中の注目を集めたイタリアワールドカップ。
この大舞台で彼は一世一代のミスを冒してしまうのです。予選リーグで優勝候補西ドイツと歴史に残る名勝負を演じて引き分け、決勝トーナメントに進出したコロンビアはカメルーンと対戦し、0-0のまま延長戦に突入。延長後半1点を奪われたイギータは、ペナルティエリアから大きく外へ出てバックスのパスを受けた時、それまで一度としてなかったトラップミスを冒し、カメルーンのロジェ・ミラにボールを奪われ、やすやすとゴールを決められました。結果、コロンビアは2-0で敗れ去ることになります。

それでも彼のプレーを咎める選手やサポーターはあまりいなかったのではないでしょうか?あのようなプレーが彼のスタイルであり、華麗なパス回しでゲームを組み立てるコロンビアは、彼を11人目のフィールドプレーヤーとして活用することがで、チームとしてのベストパフォーマンスを成し遂げてきたのですから。
翻って日本ならどうなっていたか?
まず代表レベルでは絶対に存在しない選手でしょう。可能性とリスクを天秤にかけた時、人と違ったことをして糾弾されるよりは、何もせずに嵐を過ぎ去るのを待つ、という『事勿れ主義』が幅を利かせる国民性です。もし仮にこのようなプレーで負けたとあれば、寄って集ってスポーツマスコミの袋叩きにあうことは想像に難くありません。

(話は飛びますが、サッカーの岡田ジャパンは大丈夫でしょうか?それこそ予選で三連敗でもしたら、それまで持ち上げるだけ持ち上げていたマスコミが、一斉に手のひらを返してバッシングを始める姿が目に浮かぶのですが…。
ラグビーの第一回ワールドカップを思い出します。壮行試合で関東選抜に圧勝《当たり前なのです。80分出ずっぱりの関東選抜に対して、ジャパンの方は顔見せの為に多くの選手の交替が認められていたのですから》したことで『予選突破間違いなし』のような論調で能天気に持ち上げながら、その時のジャパンの弱点を何ら問題視しようとしなかったマスコミは、ジャパンが三連敗で予選敗退に終わると、一斉に首脳陣批判を始めました)。

話が大きくそれましたが、岩淵選手です。
結局世界はこれらの超個性的な選手達を生み出してきた、或いは育て上げてきたのに対して、日本ではどうなのだろうか?ということなのです。
個性を殺す土壌。出る杭は打たれる。護送船団方式、はたまた『皆で渡れば恐くない』といったような没個性的集団横並び主義の精神が、この国のスポーツやその他諸々の発展を阻害しているような気がしてならないのです。
確かに岩淵選手のプレーにはまだまだ危うさが付きまといます。(「どうしてそんなとこでFBにパスなんかするんだー!!」などと私も叫んでしまいましたが…)。

それでも、そのトリッキーな動き、一瞬の閃き、スペース感覚、前を見る眼、ラストパスの正確性など、素材として見れば彼は類希なる一級品。無限の可能性を感じさせてくれる選手です。去年のカナダ戦。秩父宮で初めて彼のジャパンでのプレーを見た観客の多くは「何かやってくれそうな面白い選手」という期待を持ったのではないでしょうか?そしてそこに魅かれたからこそ、平尾監督も彼を中心としたチーム作りを目指したのではなかったのでしょうか?
弱点には目をつぶり、その長所を最大限活用できるような方向へと導いて欲しいものです。見限るには惜しい人材です。

ただ、写真のところでも書きましたが、その構えのせいなのか、七人制に慣れすぎたせいなのか、どうも仕掛ける時のテンポが遅く、相手に読まれやすいような気がします。 そのあたりの修正は彼自身の努力と指導陣からのコーチングに期待するしかないのですが、この試合で多用された、「決め事でやるサインプレー」ではあまり彼を活かすことができないのではないでしょうか?
彼の一瞬の判断力や閃きを最大限活かすためにも、彼のプレーに即座に反応できる選手が、ミルン選手の他に最低でももう一人以上バックスか第三列あたりに欲しい気がするのですが…。
『七分の二』では通用しても『十五分の二』では厳しいのです。

次のアウェーの香港戦では、岩淵選手が外されて広瀬選手が起用されるようですが、「今のジャパンのチームは岩淵を核としたチーム」と平尾監督自身も公言していたはずです。
この突然のSOの交替は路線修正なのか、或いは他の理由によるものか、監督からきっちりとその理由の説明がされるのを待ちたいと思います。
(その2へ続く・・・)


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