ジャパンは何故敗れたか?


日本代表成績
日本 43 サモア
日本 1564 ウェールズ
日本 1233 アルゼンチン

日本代表データ
各大会比較第4回第3回第2回第1回
総得点36557748
総失点14025287122
総トライ28137
総失トライ16351321
1試合平均スコア12-4718-8426-2916-41

ジャパンが三連敗に終わりました。
しかも、奪った得点は36点でスペイン、イタリアに続いてワースト3位。トライ数は僅かに2個でこちらはスペインに次いでワースト2位。失点はイタリア、ナミビア、トンガに次いでワースト4位。といってもトンガは最終戦を14人で戦っての大敗であり、実質3位といってもいいかもしれません。
過去の大会の成績と比べてもかなりひどい数字であり、あまり使いたくない言葉ですが、はっきり”惨敗”といえます。外国人選手を6人と大量補強し、パシフィックリム選手権で初優勝したことで、「史上最強のジャパン」と呼ばれた今回のジャパンが、何故こうも無惨に砕け散ったのでしょう?

確かに三戦とも前半はかなり健闘しています。
サモア戦が6-18と12点差。大敗したウェールズ戦でも15-26と11点差。アルゼンチン戦も9-17と8点差。ところが、後半になると、悉くディフェンスが破綻して大量失点。
ラグビーが本格的にプロ化して初めてのワールドカップ。予選の観戦記でも書いたように、プロとアマチュアでは、フィジカル面やトレーニング環境などの面でかなり大きな違いがあるのでしょう。でも、それだけでは語れない部分が多く存在するのも事実です。

ジャパンは何故敗れたか?
今回のジャパンの戦いには多くの疑問点が存在します。


「プレー以前の問題として」
●危機管理の概念は存在しなかったのか?(FB松田の退場時の対策への疑問)
●監督、或いは首脳陣は、試合中冷静だったのか?(選手交代のタイミングに関する疑問)
●選手達はプレッシャーを感じていたのか?(パシフィックリムに対してあまりのパフォーマンスの低さ)
●メンタルトレーニングは未だに導入されていないのか?(プレッシャーのかかった場面でのミスが目立つ)
●監督と選手の信頼関係は確立されていたのか?(FB平尾の起用をめぐって)
●グラウンド対策は万全だったのか?(今回も足を滑らす選手が目立っていたこと)
●スタミナ対策、フィットネス対策は十分だったのか?(後半ばてる選手が目立ったこと)

「プレーの中で」
●チャンスとなるとノックオンするのは何故なのか?
●どうして日本のフォワードはステップを切れないのか?或いは切らないのか?
●キック力がないのは何故なのか?
●ハイパントのボールを上手く取れないのは何故なのか?
●ターンオーバーされた時、簡単にギャップが生まれるのは何故なのか?
●わずか2つのトライに終わったのは何故か?2年半では伝統工芸は完成できなかったのか?
●ディフェンスは本当に向上したのか?

「協会の問題として」
●「早明戦に6万人入っているのだからジャパンはどうでも良い」発言をする協会役員が本当に存在するのか?
●強化費がかさむことに対して協会が渋っているというのは本当なのか?
何故渋っているのか?
●どうしてアジア予選通過後ワールドカップまでの1年間、海外遠征出来なかったのか?費用が捻出できなかったのか?企業側からの反対があったのか?或いはその必要性を感じなかったのか。

等々の問題を少しずつ考えていきたいと思います。
プロとアマチュアの問題が厳然と存在するとしても、これらの疑問を総括、検証しないことには先に進めないはずですから。

---------------------------------------------------(99.10.19)
今回の結果にはわたしもかなり落胆しました。
期待が大きかっただけに、サモア戦、或いはウェールズ戦の試合後は体中の力が抜けていくようでした。
ただ、最後のアルゼンチン戦は、かなり冷静になっており、「どうせ、負けるだろうな・・・」と冷めた気持ちで見ていました。そして、テレビ観戦中にふと感じたアルゼンチンの"ゆったりと構えた不思議な戦い振り"に違和感を覚えました。
サンケイスポーツによれば、やはりワイリー監督は「勝て!ただし47点以上取るな」という指示を出していたとのこと(2位になるよりもベスト3位の方がプレーオフ以降の対戦相手が断然楽になるからだそうです。まあ私が監督でも同じ指示を出しますけどね)。

結局、日本は完全になめられていたのだということを知って、またまたがっかりしました。そう考えると、アルゼンチンがリードを維持したまま、ケサダと広瀬のペナルティキック合戦が続いて時間が刻々と過ぎていくというのは、アルゼンチンにとっては願ってもない試合展開だったのかもしれません。ワイリー監督はほくそ笑んでいたことでしょう。アルゼンチンが本来の力を出せば、もっと大量点を取られ悲惨な結果が待っていたのかもしれません。またまた落ち込んできました。
(ところで、アルゼンチン戦のノーサイド寸前の場面で、バショップがかなり怒ってましたね。松田に対して。不甲斐ない日本人選手達に対してついに切れたという風に見えましたが、どうなのでしょう・・・)

それはともかく、とりあえず一つ一つ検証していきましょう。

●危機管理の概念は存在しなかったのか?
これは、初戦のサモア戦でのアクシデント、FB松田選手の退場時の問題です。
サモアのコンタクトの激しさは戦前から予想されたことでした。「果たしてジャパンの選手はあの強烈な当たりに耐えられるのか?」というのが、話題にもなっていました。

9月8日に東京新聞主催で行われた「ラグビーシンポジウム」においても、慶応の上田監督や、スカイパーフェクTVで解説をしている小林深緑郎氏などから、再三疑問視され、「怪我人が出なければいいけどねえ」という発言さえありました。
つまり「サモア戦で1人か2人は怪我人が出るかもしれない・・・」というのが大方の読みだったのです。
それが、たまたま松田選手だった。
全く予期していなかった出来事ではないのです。十分予想されうる出来事だったのです。そして怪我人が出たときのためにリザーブの選手が存在するはずです。FB松田選手が退場になった時、首脳陣の取った選択は、ツイドラキ選手を投入して、大畑選手をFBに下げた。このこと自体は何の問題もありません。「そうか、そういう方法もあったか」と言う程度のものです(ツイドラキ選手が代わりに入ったとき、増保選手をFBに下げると思った方も多いと思います。わたしもそう思いました)。

問題なのは大畑選手がほとんどFBの練習をしていなかったということです。
「練習でもFBをやってないし、ついついWTBの位置に体が動いてしまった・・・」
これが、新聞に載った大畑選手の発言です。開いた口が塞がりません。この試合、結局、大畑選手のポジショニングの拙さからトライを奪われ、その後ジャパンはどんどん劣勢になっていったわけですが、これでは大畑選手を責められないでしょう。
首脳陣に危機管理の意識はないのか?何故代わりのFBを用意していなかったのか?私の素朴な疑問です。この後の報道で平尾監督はFB平尾選手の力量を評価していなかったことが露わになりますが、それなら最初から大畑選手にFBの練習をさせておけば良かっただけのこと。

首脳陣が日本に帰国すれば、このワールドカップを総括する上で様々な質問が浴びせられると思いますが、サモア戦において「なぜFBの負傷交代という場面を想定しなかったのか?」というのが、ラグビージャーナリズムに真っ先に聞いてもらいたい質問です。

(うーん。一つの項目にこんなに文字数をかけていると一体いつになったら終わるのか見当がつきません・・・)

---------------------------------------------------(99.10.23)
●監督、或いは首脳陣は、試合中本当に冷静だったのか?
 (選手交代のタイミングに関する疑問)
入れ替え制度が導入されてから、いったい何年経つのでしょうか?
なのに未だに日本がこの制度を上手に活用しているとは到底思えません。確かに、監督が選手を途中で交代させるのは非常に勇気がいることなのでしょう(どこかの監督が書いていました)。しかしながら、体力的に劣るジャパンだからこそ、この制度を積極的に活用すべきなのです。

野球の世界でも同じような経緯がありました。
昔は投手というものは先発して完投するのが理想。どちらかといえばリリーフ投手というのは格下に見られていたものです。
ところが、バッティング技術の向上によって、それに対抗するために、"各々の投手の特性を最大限に生かし役割分担させる"という合理的な考え方を大リーグが生み出したことで、投手の分業制が急速に進みます。1974年、大リーグはセーブ投手というあらたな価値観を作り出します。

アメリカに習って、日本も同年セーブ数という記録方式を導入しますが、実質そのスタイルの有効性に気づき始めたのはかなり経ってから。先発投手は最後まで1人で投げ抜いてこそ一人前という日本的な精神論はそんな考え方をなかなか認めようとはしませんでした。それが、一種の美学としてとらえられていたからです。ようやく野村監督が南海時代に江夏投手に「おい、革命を起こさんかい」と焚き付けたことで、本格的に抑えの投手という地位が確立されることになります。(厳密に言うと中日の鈴木孝政投手の方が活躍としては早いのですが、インパクトという面で江夏投手の存在は大きかったと思います)

しかしそんな時代も遙か昔のこと。
今日では、先発投手は6回程度まで投げきれば、その後の中継ぎや抑えの投手がきちんと自分の役割を果たし、勝利へと結びつける。そういう時代になりました。横浜の佐々木投手などにいたっては、"最後の1イニングを確実に抑えるストッパー"というスタイルを見事に確立しました。

ラグビーの話に戻れば、体力的に劣るなら、7人まで交代できるなら、積極的にその制度を活用するのは当然の話。極端に言えば、"80分は持たない、でも40分だけなら素晴らしいスピードでボールハンターになれる"というような選手がいれば、「おまえは前半で交代させる。その代わり、とにかく40分間ボールを追いかけまくれ」というような使い方があっても良いはずです。

他国の優秀な監督は、すでにみな気づいています。当然のように入れ替え制度に積極的で、スクラムが押され気味と見るや、ハーフタイムに第一列をそっくり入れ替えたり、選手に疲れの出てくる時間帯、残り20分になると、スピードとパワーを持つロムーを効果的に投入したり、実に上手くこの制度を活用しています。今回のワールドカップでも、強豪チームの選手交代は非常に素早かった。それに比べると、ジャパンのやり方は手ぬるい気がします。

残り僅か数分で、しかもその時点で大差がついた段階で、新しい選手を投入して何が変わるというのでしょう?弱いチームだからこそ、地力に劣るチームだからこそ、先手先手と打っていかなければとても勝利などおぼつかない。これこそが戦略、戦術です。

アルゼンチン戦にしても、当初の目論見通りに後半に"第一列をすべて交代"という荒技を繰り出したのはいいですが、逆にそのスクラムが押される始末。バックス陣にも肩で息をする選手が目立ち始めました。なのに、どうして増保はノーサイドまでベンチのままなのか?疲れの見え始めたゴードンや大久保に代えて、なぜ桜庭をもっと早く投入しないのか?或いは、アルゼンチンの選手にも当然疲れが出ているのだから、勝負と見て村田のスピードに賭ける手はなかったのか?

意図的というよりも、あまりにも自らの思い通りにならない試合展開のために、首脳陣もパニックに陥り、冷静ではなくなっていたのではないか?という気さえするのです(試合自体に集中してしまい、ついつい選手交代のことなど忘れてしまったような・・・)。そうでも考えないとなかなか納得できないのです。

残り20分が勝負。日本が幾度か外国チームから勝利をもぎ取りそうになりながらも、結局は逆転、或いは引き離され、終わってみれば大差負けを演じていたのは、いつも残り20分を切ってからの最後の勝負に負けたせい。何度も言い尽くされてきたことです。ラグビーにおける最も苦しい時間帯。だからこそ、その時間帯に新しい選手を投入する価値があるのです。
残り20分の活用。そして15人ではなく22人の総力を結集して戦う。それこそが日本が世界と互角に戦っていくための一つの戦略なのだと思います 。

---------------------------------------------------(99.11.24)
月日が経つに連れ、次第にテンションが下がり、書く意欲が薄れたら、あっという間に一ヶ月。何を今更という気もしますが、まあ、何とか書ける物だけ、最後まで頑張って見ましょう・・・。

●パフォーマンスの低さとメンタルトレーニング
確かに初戦のサモア戦は状況的に多くの不利な面がありました。だからこそ日本のファンは次のウェールズ戦、或いは最後のアルゼンチン戦にまだまだ期待を捨てなかったはずです。なのに…。
「選手達はよくやった。それで良いじゃないか」という声もあります。
確かに選手達がひたむきに頑張ったことは否定しません。それでも、パシフィックリム選手権に比べると内容的にはかなりの開きがあるように思えます。選手自身も多少はそのことを感じているのではないでしょうか?
「俺達はやるだけやった。充分満足だ」
試合後本当にそう思えたのはごく一握りの選手だけで、多くは「こんなはずじゃない。もっとやれたはずだ」と後悔の念があるのではないでしょうか?

プレッシャーは大きかったはずです。
パシフィックリム選手権優勝チーム。それゆえに生まれた必要以上の期待。それが逆に選手自身をもスポイルしてしまった。さすがのマコーミック主将でさえもそのプレッシャーの影響を受けたようです。あれだけミスをする彼を見たのは初めて、私はそう感じました。もちろん対戦チームの凄まじい外的なプレッシャーもあったでしょうが、それ以上に内的な、精神的なプレッシャーが重くのしかかった、と見る方が自然です。

ここで次の命題メンタルトレーニング(くれぐれも言っておきますがマインドコントロールではありませんよ、念のため(^_^;)。まあ似てるっていえば似てるんですが・・・)です。
未だにそれほど力を入れているようには見うけられません。
日本の体育指導者というのは、伝統や慣習という旧きものの維持には懸命に努力しますが、新しくて合理的な、或いは科学的なものの導入には甚だ消極的な考えの方が多いように見受けられます(ウサギ飛びなど今は誰もやらないでしょうが、昔はあれこそが足腰を鍛える良い運動だと盲目的に信じられていた時期がありました。まさに世界の定説でした(ギャッ。(~_~;))。まさか「巨人の星」だけの影響ではないはずですが、運動部で先輩からのシゴキといえばまずうさぎ跳びでした。

その後、科学的(医学的?)に腰に悪いという声が挙がり、次第に廃れていきますが、それまでにはかなりの時間を要しました。※先月号のラグビーマガジンで流経大のニールソン君の記事の中に「仙台育英でうさぎ跳びをやっていた」というコメントがありましたが、仙台育英は今でもうさぎ跳びやってるんですか? ほんと?)。

ここぞ、という場面でまさかのノックオンをする。
以前の弱いジャパンでは毎度見られた光景です。「ようし、チャンス、行けー」「ああーー」国立競技場や秩父宮で、このパターンのため息を数え切れないほど多くつかせてもらいました。しかし今年のパシフィックリムではこの光景が非常に減っていたように思います。"ジャパンは強くなった"というのは、"こういう光景をあまり見かけなくなった"という観戦側からの実感でもあったのです。
にもかかわらず、今回のワールドカップでは見事に復活・・・。

ゴルフに「イップス」という言葉があります。
パターをする時にプレッシャーで手が動かなくなる病気です。構えても全く手が動かないのです。
このパットが入れば優勝。或いは何100万円に値するパット。静まり返ったグリーン上で多くの観衆に見つめられての緊張の一瞬。幾多の試練を経てきた実力のあるプロゴルファーでも突然この病気にかかります。

無理に動かすと、必要以上に力の入った大きな動きになります。手先や指先の微妙なタッチが要求されるパットでこのような状態になれば、あの小さなカップに到底入るものではありません。プロゴルファーにとってはまさに死活問題。
この病気にかかった選手の多くは"長尺"という箒ほどもある長いパターに代えることになります。小さな筋肉に比べ、大きな筋肉はプレッシャーの影響を受けにくいので、二の腕や肩の大きな筋肉を使う動きになる長尺パターは、プレッシャーを克服しやすいのです。

ラグビーでもパスやキャッチングには手先、指先の微妙な筋肉が使われます。
微妙なメンタル面での違いが、指先に僅かな狂いを生じさせ、パスミスやハンドリングミスを引き起こすこともあるはずです。メンタルトレーニング自体はようやく最近導入され始めたようですが、選手達はどれだけ真剣に考えているのでしょうか? まだまだ疑問です。

---------------------------------------------------(99.12.16)
実は11月中に大まかなところはほとんど書いていたのですが、とてもHPとしてアップできるようなまとまったものではなく、諸事情で忙しかったこともあり、結局こんなに時間がかかってしまいました。
その間に平尾監督の続投も正式に決まってしまったので、ここではその是非については語りません。ただ、優秀な外国人コーチをスタッフに呼んで欲しいというのが唯一の願望です。

●監督と選手の信頼関係は確立されていたのか?
 (FB平尾の起用をめぐって)
平尾ジャパンという言葉は頑とした一枚岩を連想させます。しかし本当にそうだったのでしょうか?
ワールドカップ後の各紙の報道で、協会とジャパンスタッフの間に、ある種の垣根が存在するような記事を見かけました。同様に選手達と監督の間はどうだったのでしょうか?
今回FB松田選手の故障という事態で次のウェールズ戦の選手起用をどうするか?ということではかなり揉めたという報道がありました。当初、FBを大畑で行くという平尾監督の考えは、マコーミック主将などの反対にあい、結局平尾選手の起用を決めたとのことです。
監督や首脳陣への不満などはなかったのか?選手たちもなかなか本音をはきにくいと思いますが、徹底したマスコミの取材に期待しましょう。(ダメっぽいですが・・・)

●グラウンド対策は万全だったのか?
 (今回も足を滑らす選手が目立っていたこと)
前回か前々回だったか、今大会同様、多くのジャパン選手が足を滑らせる光景を見かけました。日本の芝と海外の芝の違いは、もはや常識です。長く伸ばすと枯れ易く、短かく刈らざるを得ない軽い高麗系の日本の芝に対して、海外の芝は長くてまとわりつくような粘っこいベント系。度々競馬の話題を出して恐縮ですが、日本の馬がヨーロッパでなかなか通用しないのはその芝の違いにも起因しています。軽い芝に慣れた日本の馬が重い海外の芝に順応するには通常かなりの時間を必要とします。選手だって同様ではないでしょうか?

私の記憶では、Jリーグが始まった年、鹿島スタジアムの芝の長さが他競技場の芝とかなり異なっていたため、対戦したチームが、試合途中に一斉にスパイクを履き替えたというエピソードがありました。芝対策だって立派な戦略の1つなのです。
実際、今回のウェールズでの初練習の時、あまりの芝の違いにスパイクの長いシューズに履き替えようとしたがそれを持っていたのは唯一FBの松田選手だけだった、という記事もありました。"準備万端、細工は隆々"という状態で、ようやく海外の強豪チームと同じ土俵に立てるはずなのに、どうしてこういう事態が起こるのでしょうか?全く不思議な気がします。

●どうして日本のフォワードはステップを切れないのか?
 或いは切らないのか?

ワールドカップを見ていて気付くのは、外国のフォワード選手が結構器用なステップを切る事です。代表的なのはフィジーの選手たち。彼らの場合は七人制の影響が強いため、フォワードとバックスにさほど区別がない、という発想のせいかもしれませんが、例えばアイルランドのHOキース・ウッド選手。そしてフランスの大型ロックのベナジ選手でさえも、時によっては華麗なステップを見せます。彼らと比較すると、日本のフォワードの選手はほとんどステップを切りません。或いは切れません。兎に角、正面からぶつかって行く、それがフォワードの醍醐味だと誇示するように。

もちろん、フォワードが逃げてばかりでは試合になりませんが、それも時と場合。状況によってはステップで相手を交わすべき場面が絶対に存在します。ラグビー経験の差なのか、或いは指導法に問題があるのか。考え方1つで、もう少し何とかなりそうな気はするのですが。
(先日、慶応大学の野澤選手が、日本のフォワードとしては珍しいほどの華麗なステップを見せてくれました。僅かながら前途に光明を見出した思いです)

●キック力がないのは何故なのか?
外国の選手のキック力。これも目に付きました。22m陣内からのタッチキックはほとんどがハーフウェイライン付近まで届き、選手によっては相手の22m陣まで蹴り返すシーンを何度も見ました。国内ではせいぜい、自陣10m付近まで蹴り返せればナイスキックという掛け声が飛びます。ワールドカップの影響か国内の試合でも頻繁にドロップゴールを狙うシーンが見られますが、確率の低さはお話になりません。世界記録を打ち立てた南アフリカのデビアー選手ぐらいとまでは言いませんが、やはり選手のキック力を育てるために、素直にサッカー界のお世話になった方が良いと思いますが、いかがでしょう?

だいぶ前のラグビーマガジンで、現国会議員釜本邦茂氏がキック講座を連載したことがあります(確か第一回ワールドカップでジャパンのキックが決まらずに惨敗した事で持ちあがった企画だと思います)。その講座内では、現役を引退してから相当の年数が経っているにもかかわらず、自陣10mラインからの釜本氏のキックがやすやすとゴールバーの上を通過する驚きの様子が書かれています。それほどサッカー選手とラグビー選手のキックには差があります。もちろん、あちらは蹴ることのプロですから、当たり前といえば当たり前なのです。この際、変なプライドや垣根はキレイさっぱり捨て去り、素直にお伺いを立てましょう。

●ハイパントのボールを上手く取れないのは何故なのか?
これは昔から不思議です。海外のテストマッチでは、ハイパントが上がるとどんなに競り合ってもどちらかがきちんとキャッチするものですが、国内の試合では、競り合いで正確にキャッチしたシーンをほとんど見ることがありません。単純に背丈の違いだけではないはずです。日本と戦ったウェールズのFBハワース選手などは、日本人とそれほど変わらない身長なのに、結構ハイボールに強いところを見せていましたから。良く理由がわかりません。これまた単にラグビー経験の差なのでしょうか?

●わずか2つのトライに終わったのは何故か?
 二年半では伝統工芸は完成できなかったのか?

平尾監督は就任当時"伝統工芸の完成"を高らかに謳いあげていたはずです。しかし、今回のワールドカップで挙げたトライは三試合で僅かに二つ。今までのどの大会よりも少ないトライ数です。散々槍玉に挙げられた前回の小薮ジャパンでさえ、八つのトライを奪っています。
結局二年半では伝統工芸は完成できなかったということなのでしょうが、第五回までには完成してくれることを信じたいと思います。まさか「やはり四年間では短くて出来なかった」等と言うセリフを吐くことはないでしょう。

●「早明戦に6万人入っているのだからジャパンはどうでもいい」発言をする協会役員とはいったい誰なのか?
この話を聞いたときは一瞬耳を疑いました。でも大西一平氏が手記で雑誌に書いていることなので、どうも本当のようです。
※(2016年3月20日追記:ご本人に確認しました。やはり本当だったらしいです) 全く情けなくなります。そんなことを言っているからラグビー人気は衰退するのです。

現にその早明戦人気さえも陰りが見えてきたではありませんか。
ジャパンのテストマッチでは秩父宮さえ満員にならないのに、伝統があるといっても、たかが(失礼!)大学チームの対抗試合が国立競技場を一杯にする。まったくいびつな構造です。しかもその満員の観客の実態を良く見てみれば、本当にラグビーが見たくて来たのではない人たちばかり。大学サークルのイベント、或いは合コンの舞台。いわゆる"お祭り"として見に来ている観客が多くを占めます。

私事ですが、数年前から早明戦を見に行かなくなりました。あちらこちらで酒を回し飲みし、試合展開と全く関係なくお互いの罵詈雑言で盛り上がる。本当にラグビーの試合を楽しみに来たファンにはとても耐えられない観戦風景です。(でも、さすがにただでチケットをもらった時は行きますが・・・ m(__)m)もちろん、「そんなの観客の勝手じゃないか!」というのは重々承知しています。私だって学生の時のことを考えれば、偉そうな事を言えた義理ではありません。

問題なのは、この状況を許容し、物事の本質を見ることなく、「客が入っているんだから良いじゃないか!」とのたまう役員が存在する事です。日本ラグビーの将来を考えると暗澹たる気持ちになります。一体誰なのでしょうか?こんな発言をした役員の名前を心底知りたいと思います。

●強化費がかさむことに対して協会が渋っているというのは本当なのか?
何故渋っているのか?

結局、不透明な部分が多すぎるのです。
情報が開示されていない。密室的な決め事が多すぎる。
ファンが協会に対して不満を持つのは、こういう部分なのだと思います。
先だって北海道協会の使いこみ事件が露わになりましたが、ラグビー協会の金の流れは一体どうなっているのか?情報が開示されない以上、第三者は常に不信の目で物事を見がちになります。
強化費はどういう風に使われているのか?平尾監督は報酬をいくらもらっているのか?逆に、もし無報酬ならば、監督続投を要請することなど酷ではないのか?

ラグビーファンが知りたい事はやまほどあります。もちろんすべてを公にしろとは言いませんが、オープンにすべき事柄もまだまだあると思うのです。(例えば、なぜ未だに関東の大学は、対抗戦、リーグ戦と分かれたままなのか?統合に反対するのはどこの大学なのか?或いはどの役員なのか?7年条項は何故廃止されたのか?どのチームが認めなかったのか?ジャパンとして戦ったスコッドが他の外国人選手と同じように外国人枠でしばられるのは理不尽ではないのか?等々)

そんな中で、何年も前から疑問視されていた大学選手権の組み合わせが、ようやく今年からきちんとした形で発表されるようになりました。大きな前進です。こんな形でひとつひとつ確実にファンの不満を解消してくれれば言うことないのですが・・・。

●アジア予選通過後ワールドカップまで1年あったのに、どうして海外遠征をしなかったのか?
費用が捻出できなかったのか?
企業側からの反対があったのか?
或いはその必要性を感じなかったのか?
これも大きな疑問でした。常識的に考えれば、その三つの理由すべてが存在したのでしょう。
協会が悪いのか、監督が悪いのか。或いは、ジャパンが強くなってこそラグビー人気も復活し、社会人ラグビーも脚光を浴びてPR効果も増すはずなのに、近視眼的に自分たちのチームばかり優先させ、大局的に日本ラグビーの将来を考えようとしない企業が悪いのか。

しかしながら、その結果がこれです。経験の違いに起因するとしたなら、海外でテストマッチを組んでいれば、もう少し結果は違ったものになっていたでしょう。
とにかくどんどん海外遠征してください。ホーム&アウェーという言葉があるように、地元で戦うのと敵地で戦うのには精神的に大きな違いがあります。厳しいアウェーの状況で勝利を治めてこそ、価値が生まれます。

次のワールドカップまではもう3年半。予選を考えれば3年ないでしょう。
ニュージーランドのよもやの準決勝敗退で、太平洋地区、或いはアジア地区の予選形態がどうなるのかも混沌としています。本大会出場のための予選リーグで、ニュージーランドと同じグループに入ることさえ想定されるのですから、悠長なことを言っている暇などありません。一刻も早く様々な問題を解決し、明るい未来に向かって羽ばたいて欲しいものです。


●最後に
いろいろ書きましたが、私の思いはただ1つ。
2003年にオーストラリアで開催される第5回ワールドカップ。ジャパンが素晴らしい戦いで強豪国を破ることを信じ、その観客席で歓喜の涙を流したい。ただそれだけなのです。

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