さて。
神原早樹、当年取って16才。それなりに16年分の人生経験は積んできたつもりであった。
が、この日彼女が遭遇した出来事は、その経験でどうなるようなものではなかった。
まず巨大なスーツケースもった女の子に捕まった。そして今度はその女の子が黒服の男たちに捕まった。と思ったらその男たちは人間ではなく機械。そしてそいつらを倒したのがこれまたロボット(らしい)と、これは正真正銘メイドロボットのマルチ(それも本人曰く試作型だそうだ)とまあ、常識の耐久試験を食らったような話である。
で、当の早樹はと言うと。
そのマルチと、女の子──確か藤田由香里と名乗った──を探して歩いていた。
『由香里お嬢さまはわたしが責任持って安全な場所にお連れします』
と大見得切ったマルチではあったが、去り際に見たみょーにおぼつかない足元。なるほど、マルチの一声で飛び出してきた『あるるかん』なるロボット(?)、あれさえあれば多少の荒事は大丈夫な気がする。が、そんな二人を放っておくことに、早樹はもどかしい引っかかりをくすぶらせていた。
由香里とマルチと別れた公園にたどり着く。さすがに二人の影はない。と思ったのだが。
「あ、あのっ、この辺に安全に眠れてお金のかからない所ってありませんか?」
聞き覚えのある声に早樹は不安が的中したのを感じていた。
『何だと?CR(コンバットロイド)3体使って失敗した?』
携帯からの声に雪田青峰[ゆきた せいほう]は微かに眉をひそめた。
『たかが10才の子供に何をしていた!』
「いやあ、邪魔が入りやしてね」
お気楽な調子でマイクに話しかける。
『邪魔?』
「一人はお節介焼きの素人の女の子でね、こりゃ別に問題ないんですが……もう一人がどうも私らと同じで、CR使いらしくて……それも、どうやらメイドロボらしい」
『まさか……あれが本当に開封されたのか』
「しょうがないでしょ。こうなりゃ今更後にも引けねぇ」
青峰は空いた方の手で軽く額をなでた。そこには薄い金属の帯のようなものがちょうど細いバンダナのように張り付いていた。
「『ラスプーチン』、出しやすぜ。構いませんね?」
「……お姉ちゃん」
先に気が付いたのは由香里の方だった。慌ててマルチもきょときょとと視線をさまよわせて、早樹の姿を認めた。
「あ、これは先ほどの」
ぺこり、と頭を下げるマルチに、
「一応、あるわよ。安全に眠れてお金のかからない場所」
早樹はそう言ってウインクして見せた。
「そうなんですかっ?!あ、あの、どちらでしょうか?」
興奮した体のマルチにかすかに苦笑して、
「おばあちゃんの道場で良かったら。二人くらいなんとかなると思うし」
「あ、ありがとうございますっ」
マルチはまた深々と頭を下げた。
「あの、お嬢さまはそれでよろしいですか?」
マルチが由香里に向き直って確認する。由香里はこくん、と小さく頷いた。
「じゃとりあえず着いてきて。15分くらい歩くけど」
「それでは、お願いします」
由香里の手とスーツケースを引きながら、若干よたつきつつマルチが着いてくるのを確かめつつ、早樹は歩き出した。
木戸を開いて中を見ると、道場の奥から掛け声やどしん、ばたんと言う音が響いてくる。日曜日の夜の部の稽古の最中らしい。
「ま、とりあえず入って入って」
「は、はいぃぃ」
とりあえず由香里を先に中に入れ、えっこらせとスーツケースをマルチは引き込んだ。
早樹は一応木戸を閉める前に首だけ出して辺りを確かめた。……怪しい人影はない。野良犬が一匹うろついているくらいだ。
「まだ稽古中みたいだけど、そろそろ終わると思う。そしたらばっちゃんに話してみるから。そーね、応接間で待っててもらおっか」
早樹がこの道場にいたのはかなり小さい頃で、小学校に入った頃、祖母の「外を見ておいで」の言葉で他の道場に通いだしてからはたまにしか来ていない。が間取りが変わっているわけでもなく、勝手知ったる何とかですたすたと二人を案内した。
「ま、座って落ち着いて。とりあえずちゃんと話も聞きたいし」
「あ、ありがとうございます」
マルチはそう言って由香里にソファを勧めた。由香里は早樹にぺこりと頭を下げて所在なげながらソファに落ち着いた。当のマルチは立ったままだ。
「まるち、座らないの?」
由香里が言うと、
「わたしロボットですから、座るなんて変です」
ぷるぷる首を振るマルチ。
「いーからいーから。今は二人ともここのお客さん。座った座った」
早樹はマルチを由香里の隣のソファに押し込んだ。
「……」
マルチは早樹をぼーっと眺めて、
「あの、あなたって……」
「なに?」
「お嬢さまのことと言い、ここに連れてきて下さったことと言い……」
両手の平を胸の辺りで合わせて、
「とっても親切な方なんですねっ♪」
ずり。
真っ正面からそんなことを言われて、さすがに早樹は足を滑らせた。
「あはははは。じ、じゃあ、一応あらためて事情を聞きたいんだけど」
「あ……えと」
マルチは由香里と早樹を交互にきょときょと見回した。
「そ、それでは……とりあえずわたしが把握している範囲でお話しします」
マルチは何となくもぞもぞと体を動かした。居住まいを正した、と言うところだろうか。すう、と息を吸って、マルチはゆっくりと話し始めた。
「お嬢さまが狙われているのは、実は……」
ぐぐっと身を乗り出すマルチ。つられて早樹と由香里も身を乗り出す。
「実は?」
「お嬢さまは魔女なんですっ!!」
どしゃ、と早樹は前へつんのめった。由香里は目をぱちくりさせただけだが。
「な、なに、それ?!」
「あ、信じてらっしゃいませんね?お嬢さまは由緒正しい来栖川[くるすがわ]の血を引く──」
その単語に、早樹はさすがに跳ね起きた。
「くるすがわぁ?」
こんなところで日本経済界の大御所、来栖川財閥の名前が出てくるとは、早樹は予想もしていなかった。まあ、強いて言えばマルチは来栖川系列企業の製品なのだが。
「はい。お嬢さまのおばあさま、芹香[せりか]様はもともと来栖川家のかたでして」
「そ、そなの?由香里ちゃん」
由香里は一時、間をおいて、
こくん。
と頷いた。
「えっと、それでですね、来栖川というのは源をたどれば京都の古いおんみょーの家柄なんだそうです」
「おんみょー?」
おうむ返しに繰り返す早樹。
「わたしもよく分からないんですが、日本の魔法使いさんみたいなものなんだそうです。で、由香里お嬢さまは強い魔力を持っておいでで、そのせいで来栖川の本家に狙われてるんです」
その時、由香里がとがめるような視線をマルチに向けた。身を乗り出したままのマルチの耳元に顔を寄せてぼそぼそと何事かささやく。
「……」
するとマルチの顔色が変わった。
「は、はわわわわっ」
慌てて起き直り、
「す、すみませんっ。こんなにお話ししたらあなたまで巻き込んでしまうとも気づかずに話しすぎてしまいましたっ」
由香里はギブアップポーズで首をふるふる振っている。処置なし、らしい。だめだこりゃ、かも知れない。
「まー聞きたいって言ったのはこっちだし……」
なんとなくあさっての方を見ながら早樹はつぶやいた。
「聞いちゃったついでだけど、なんでそれで由香里ちゃんが来栖川の本家に狙われなくちゃならないの?」
「は、はいぃ……」
ちら、とマルチが由香里を見やる。由香里はふう、などとため息を落とした。
「じ、実は来栖川の本家には、芹香様が作られた護符があるんです。その護符をコントロールできるのが、今となってはお嬢さまだけなんです。もし、その護符が制御を失うと、来栖川全体がとんでもないことになるらしくて……」
「……その話はいちおうおばあちゃんから聞かされてた。で、お父さんが死んで家族がいなくなっちゃったときに、来栖川の人が来たの。一緒に来いって。でも、ついてったらいきなり変なとこに閉じこめられて……その時は気が付いたらいつの間にか別のとこにいて逃げられたんだけど」
「うぅっ。わたしがその前にお嬢さまをちゃんと見つけていれば……」
涙ぐむマルチの頭に由香里の手が乗って、
なでなで。
「でもまるち助けてくれたよ」
「ありがとうございますぅぅ」
ほのぼの。
「……いやそのほのぼのはちょっとおいといて」
早樹は左手で「おいといて」と空をかき分けた。
「それで。この話に、マルチはどうからんでくるの?」
「はい……お嬢さまのおじいさま、浩之さんには、以前動作試験中大変よくしていただきまして……浩之さんからお嬢さまを守って欲しいとのご依頼を受けまして、それならばと」
マルチは微かにうつむいてぽそぽそと語った。なんとなく、早樹は釈然としないものを感じはしたが、ひとまず話を続けた。
「それであの……『あるるかん』だっけ?あれって一体」
「えっと、あるるかんはこの任務のために浩之さんから頂いたんです。コンバットロイド、と言いまして、基本的にはわたしたちメイドロボと似てるんですけど、自分自身で高度な判断をすることはできません。誰かが操縦しないといけなくって、あるるかんの場合それがわたしなんです。その代わりと言ってはなんですが、わたしたちよりも運動性能とかがすごいんです。一応社外秘だそうなんですけど、警察庁のメイドロボメーカー数社に対する打診をもとに試作されたものだそうです」
「そんなのを護衛に付けたってことは……由香里ちゃんのおじいさんは、由香里ちゃんを狙う相手もロボットを使って来るって予想してた、ってことかな」
早樹はふと考え込んだ。
「それにしても、いくら財閥が傾くかなんか知らないけど、こんな女の子をいきなり閉じこめるなんてやり方は、やっぱ好きになれないわね……」
「それに……あまり言いたくはないのですが……」
マルチは言葉通り言いにくそうにもじもじと指をもてあそびながら、
「お嬢さまを狙っているのは、『来栖川』というより、もっと個人のレベルらしいんです」
「個人のって?」
「今、来栖川グループは元会長の綾香[あやか]様のお子さま方が中心となった評議会が動かしているそうなんですが……お嬢さまを狙っているのは、その評議会の個々のメンバーの方々らしいんですよ」
「……ちょっと、それって、くっだらないグループ内の勢力争いに由香里ちゃんが使われてるってこと?!呆れた!!」
早樹はしんじらんない、と天井を仰いだ。
「でも……由香里、そんなすごい力なんか、ないのに」
由香里がぽつりとつぶやく。
「おばあちゃんはほんとの魔法使いだったよ。わたしも見たことあるもん。ちっちゃい頃飼ってた猫のアレクサンドラ、こーれーじゅつで呼び出したりとか。わたしそんなのできないし」
由香里はうつむいて、
「おじいちゃんもおばあちゃんも、父さんも母さんもみんないなくなっちゃって……お金持ちかなんかしんないけど、わたし、だれかと一緒にいられるんだったらそんなのどうでもいい。だからついてったのに……そんな力あるんだったらこーれーじゅつ使って、もっぺん……みんなとお話ししたいよぉ……」
ぐす。
見ると涙ぐむ由香里に、マルチももらい泣きしていた。
「ううっ。お嬢さまぁ……不憫ですぅ……」
(うっ……こういう雰囲気って……苦手だなあ……)
早樹はぱん、と手を打ち合わせた。はっと、由香里とマルチが顔を上げる。
「OK。大体の事情はそんなとこね。そういえば由香里ちゃんに親戚のこと聞いたらちょっと間があったけど……あれ、そういうことだったんだ」
こく。
「しかし来栖川が相手かぁ。まぁアメリカ映画の田舎じゃあるまいし、いくらここが来栖川の城下町だからって警察が言いなりなんてことはないだろうけど……マルチ、あの黒服の三人……って言うのかな、あれってやっぱりそのコンバットなんとかだったの?」
「詳しくは調べてみないと何とも……でも、状況からしておそらくは」
「じゃ、やっぱりマルチみたいなメイドロボが操ってたのかな」
「いえ。ふつうCR、つまりコンバットロイドは人間の方が、専用のインタフェースバンダナを装着して、思考を無線発信することでコントロールするんです。わたしとあるるかんの場合、この両耳の、いも……一般型HM-12では補助センサーになっているところに発信器を組み込んで頂いてるんですけど。来栖川で保管していたCR試作機のうち、何体かが操縦技術を持った方ごと行方不明になった、と言うことはお聞きしてますので……」
「じゃあ操ってるのは人間なんだ」
「はい。おそらくそうだと思います」
「で、そのCR?ロボットの方は、基本的にああいうメン・イン・ブラックっぽい奴なの?」
「いえ、様々な状況を想定したことと、操縦者の方々との相性の問題で、いろいろなタイプが作られたと聞いてます。そぉですね、たとえば、偵察用の動物型タイプっていうのもあるんですよ」
「動物型ねぇ」
と、
「おや、早樹、きとったのかい」
廊下から声がした。早樹がはじかれたようにそちらへ向き直ると、空手着に身を包んだ小柄な年輩の女性がそちらを見ていた。
「師匠、ご無沙汰しております」
一礼して、
「ええと、こちらがここの道場主の堀川葵[ほりかわ あおい]師匠。師匠、こちらは藤田由香里さんと、マルチさん。事情があって困って居られたところ、縁あって私が通りかかり、ひとまずこちらで休んで頂いています」
互いを自己紹介する。慌てて由香里とマルチも立ち上がって、葵と紹介された件の女性にお辞儀をした。
「……相変わらず堅苦しい子だねえ。道場の外では『ばあちゃん』でいいって言ってるのに。ほれ、由香里ちゃんだっけ、それからそっちのマルチも、楽にしてお座んなさい。ほら、早樹、あんたがそうやってしゃっちょこばってたらこっちの二人が気詰まりだろうが」
葵はひょいひょいと手振りで三人を座らせた。そして、自分も早樹の横に収まる。
「それにしてもまだ現役で動いてるマルチがいるとはねえ。私も少し前までマルチに世話になってたんだけど、もう交換部品がなくなっちゃったって言われて……ずいぶん大事にしてもらってるんだね」
葵はマルチににこり、と笑いかけた。
「はいっ。お嬢さまにはとっても大事にしていただいてますっ」
マルチはこれも満面の笑顔で応える。うんうん、と頷く葵。
「あれま、お前笑えるんだねぇ。私の娘時分に学校に来てた試作型みたいだよ」
その言葉に──突然、マルチの表情が凍り付いた。
「え……あの……まさか……」
「どしたの?」
不安そうに尋ねる由香里にはかまわず、マルチはがばと葵に顔を寄せて言った。
「も、もしかして、松原葵[まつばら あおい]さんですかっ?」
今度は葵が目を丸くした。
「え?お前、何で私の結婚前の……まさか、お前、あのマルチかい?」
「あっ、あのっ、体育の授業で、バレーボールが当たりそうになったのを助けていただいたマルチですっ!覚えていて下さったんですか?」
「そうそう、そんなことがあったよねぇ……なんてことだい、やっぱりロボットなんだねえ、あのころとちっとも変わらないじゃないか……一体どうしてたんだい……」
葵はずいぶんと遠い目つきをしながらマルチの頭をぽふぽふと叩いた。
「あ、あの、ばっちゃん……?」
「まるち?」
「私が通ってた高校に、この子が実地試験で来てたんだよ。私の隣のクラスに、一週間生徒として通学してたんだ。体育の時くらいしか、顔合わせることなかったけどね」
葵とマルチは共に目を細めて、昔を思い出している様子だった。
「……ばっちゃんが高校生……一体いつの話よ」
「まるちって実はおばあちゃんだったんだ」
一方取り残された体の二人はそれぞれに呆然とつぶやいた。
「さてそれはともかく、マルチと由香里ちゃんが、どういういきさつでここにいるのかは、聞かせてもらっていいのかね?」
葵は早樹に向き直って尋ねてきた。
「……うん。ちょっとややこしいらしいんだけど……」
早樹はマルチと由香里に目線で了解の確認を取って、把握できた限りで(魔術だのCRだの言われても、把握しきっている自信はなかった)葵に事の次第を説明した。
「……ふうむ。今度は綾香さんのお姉さんと、あの藤田さんのお孫さんとはねぇ。まったく同じ町内とはいえ狭いもんだよ」
「あれ?綾香さん、って……なにその知り合いみたいな言い方」
早樹がそう言うと、
「なにいってんだい。来栖川綾香さんならそれこそ娘時分からの知り合いだよ。そうだね、格闘技での私の終生の目標ってとこかね。まあ、向こうの仕事が忙しくなって、現役引退してからはさすがにあんまりやりとりがないけどねぇ」
きょとんとした顔で葵が答えてきた。一瞬早樹はぽかんと口を開けたまま言葉が出せなくなった。
「……あ、そーいえば、おばあちゃんて浩之じっちゃんのことも知ってるの?」
今度は由香里が不思議そうに尋ねる。
「そうそうそんな名前だったっけね。私は先輩としか呼んでなかったから……由香里ちゃんのおじいちゃんにはね、やっぱり高校の頃にいろいろお世話になったんだよ。格闘技の同好会作りたくてばたばたしてた時に力になってもらってね」
「ふうん」
「藤田って名字聞いただけじゃ分かんなかったねぇ。どっちかって言うと面差しは来栖川の方に似てるから……でもま、輪郭は藤田さん似かね」
葵は今度は由香里の頭にぽふ、と手を置いた。由香里の目がぱちくりと開閉する。
「……今年も確か綾香さんからは年賀状が来てたはずだよ。私のことを覚えててくれるんなら、話ぐらいは出来るだろうよ」
葵は再び早樹の方へ体を向けて、
「行くとこがないんなら少しの間なら泊めてあげられるよ。どうせそれを頼みに来たんだろ?」
早樹はかなわないな、と肩をすくめた。
「さすが師匠。それにしても、二人ともばっちゃんに縁があったなんてね……」
「縁あって、って言ったのはお前じゃないか」
葵は笑って早樹の額にこん、と裏拳を当てた。
一同が応接室から出ると、廊下を挟んだ中庭に、一匹の犬が座っていた。
「あれ。さっき門の前にいた犬じゃ……」
早樹がおとがいに手をあてて首をひねる。
「木戸はちゃんと閉めたはずだったけど」
と、マルチがひょいと庭に降りるや、その犬に近寄って身をかがめた。
「犬さん、犬さん、こんばんわっ」
「わんっ」
「お月さま見てたんですか?」
「わんっ」
残された由香里・早樹・葵の三人は呆然とするばかりである。
「犬とお話ししてる……」
「ばっちゃん、マルチって動物とコミュニケーションとれるの?」
「……むかし野良犬に話しかけてたのは見たけど……雰囲気じゃないかねぇ」
とか言っているうちにも、マルチと犬の会話は続く。
「今夜のお月さま、きれいですねー」
「わんっ」
「扉は重かったですか?」
「わんっ」
「……まだ、ほかにも仲間の方がいらっしゃるんですか?」
「くうーん」
「そうですかー。……でも、わたしはお嬢さまをお守りしたいですから」
「わんっ!!」
「ごめんなさい。それでは、私も呼ばせていただきます」
マルチは犬を悲しげに見つめながら立ち上がると、叫んだ。
「あるるかぁぁん!!」
その叫びと同時に、応接間からはコンバットロイド「あるるかん」が。
そして表門を文字通りぶち破って、もう一つ、異形の機械が姿を現した。
ステージ2 幕