目次
1.はじめに
- (1)地域での流行状況
(2)施設内の状況
- (1)基本的考え方
(2)入所者の健康状態の把握
(3)施設入所者へのワクチン接種及び一般的な予防の実施
(4)面会者等への対応
(5)施設従業者のワクチン接種と健康管理
(6)その他
- (1)適切な医療の提供
(2)個室での医療の提供
(3)医療機関への患者転送システムの確保
・インフルエンザ総論、ウイルス
・臨床一般・診断治療
・ワクチン
・インフルエンザの流行
本インフルエンザ施設内感染予防の手引きは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法という。)」に基づいて作成された「インフルエンザに関する特定感染症予防指針」においてその策定が定められているものであり、高齢者等の入所施設でのインフルエンザ感染防止に関する対策をまとめたものである。
2.インフルエンザの基本
(1)インフルエンザの流行
・インフルエンザは、例年、11月上旬頃から散発的に発生し、1月に入って爆発的な患者数の増加を示して1月下旬から2月にピークを迎えた後、急速に患者数の減少を経て、4月上旬頃までに終息する。
・ インフルエンザの流行に関する情報としては、a)全国5000のインフルエンザ定点医療機関にて1週間に診断したインフルエンザ患者数を把握する「感染症発生動向調査」とb)全国の幼稚園・小学校・中学校などを対象としてインフルエンザ様疾患により学級・学年・学校閉鎖が実施された場合に、その施設数とその時点での患者数を毎週報告してもらう「インフルエンザ様疾患発生動向調査」がある。
(2)インフルエンザウイルスの特性
・インフルエンザウイルスは、膜の表面が2種類の突起で覆われており、 この2種類の突起は、H、Nと略されている。また、核蛋白複合体の抗原 性の違いから、インフルエンザウイルスはA型、B型、C型に分類される。 インフルエンザの予防は、この突起に対する防御のための抗体を持っているかどうかが鍵を握る。
・現在、ヒトの世界で流行しているのは、A/H1N1(ソ連)型ウイル ス、A/H3N2(香港)型ウイルス、B型ウイルスの3種類であるが、 これらのウイルスの違いで症状等に大きな違いはないといわれている。
(3)インフルエンザの症状
・典型的なものでは、高度の発熱、頭痛、腰痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が現れ、これらの症状と同時に、あるいはやや遅れて、鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状が現れる。
・熱は急激に上昇して、第1〜3病日目には、体温が38〜39度あるいはそれ以上に達する。通常であれば、1週間程度で寛解する。
(4)インフルエンザの診断
・インフルエンザに特有の臨床所見はなく、ウイルス学的診断のためには、咽頭拭い液あるいはうがい液を検体としてウイルス分離を行う。また、最近では、インフルエンザウイルスについては各種の迅速診断用キットによるウイルス抗原の検出が普及しており、PCR法も行われる。
・血清学的検査としては患者から急性期(または初診時)及び回復期(2週間後)に採取したペア血清について、赤血球凝集抑制反応(HI)や補体結合反応(CF)が行われている。
・臨床症状からの鑑別診断としては、呼吸器症状を伴う急性熱性疾患が鑑別診断の対象となる。細菌性肺炎、肺結核、胸膜炎、咽頭ジフテリア、また、感染性胃腸炎がインフルエンザと臨床診断された報告もある。
(5)インフルエンザの治療
・治療は、抗インフルエンザ薬が中心であり適宜対症療法も行われる。抗インフルエンザ薬としてはA型インフルエンザに対して有効なアマンタジン(内服)およびA、B両型に有効なノイラミナダーゼ阻害薬のザナミビル(吸入)、およびリン酸オセルタミビル(内服)がある。いずれも発病48時間以内に投与を開始する。それぞれ副作用の可能性もあり、またアマンタジンでは特にウイルスの耐性獲得の可能性が警告されている。
3.施設内感染防止の基本的考え方
・インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、ウイルスが施設内に持ち込まれないようにすることが施設内感染防止の基本となる。
・施設内に感染が発生した場合には、感染の拡大を可能な限り阻止し被害を最小限に抑えることが施設内感染防止対策の目的となる。
・そのためには、まず第一に、各施設ごとに常設の施設内感染対策委員会を設置し、施設内感染を想定した十分な検討を行い、
について、事前に、それぞれの施設において、各々の施設入所者の特性、施設の特性に応じた対策、及び手引きを策定しておくことが重要である。
・事前対策については、感染が発生する前に着実に実施しておくことが重要であり、行動計画についても発生を想定した一定の訓練を行っておくことが望ましい。
・発生時には、関係機関との連携が重要であり、日頃から保健所、協力医療機関、都道府県担当部局等と連携体制を構築することが重要である。
4.施設内感染対策委員会
(1)施設内感染対策委員会の設置
・施設内感染対策委員会は、施設内感染対策を立案し、各部署での実施を指導・監督し、実施状況の評価を行う。
・インフルエンザ以外の感染症を取り扱う施設内感染対策委員会が同時にインフルエンザを取り扱うことでも良いが、その場合には、インフルエンザの感染対策の責任者を決めるとともに、施設内にインフルエンザに詳しい医師がいない場合は、外部からの助言等を得ることが重要である。
(2)施設内感染リスクの評価
・施設内感染対策委員会の第一の仕事は、当該施設におけるインフルエンザ感染のリスク評価である。過去において、どの程度のインフルエンザの患者数、死亡者数が発生したか、また現時点において、65歳以上の高齢者、心疾患や呼吸器疾患等の疾患を有する者がどの程度入所しているかについて、事前に評価しておくことが重要である。
・過去の施設内感染リスクの評価としては、前年1年間(3年間)に当該施設で診断されたインフルエンザ患者(インフルエンザ様疾患の患者を含む。)の把握を行う。次に、これらの患者の中の代表例について、発病から診断、治療の過程を調査しておくことは、施設内感染対策の上で極めて大切である。
(3)施設内感染対策指針の作成・運用
・本手引きを参考にして、各施設の具体的状況に即した「施設内感染対策 指針」を各施設が策定しておくことは極めて重要であり、施設内感染対策委 員会の重要な役割である。施設内感染対策委員会においては、その指針の運 用の指導・監督も忘れてはならない課題である。また入院等が必要となった 場合を想定した関連医療機関の確保と連携が重要である。
5.発生の予防―事前に行うべき対策
(1)インフルエンザの発生に関する情報の収集
(注)これらのホームページでは、インフルエンザ流行以外の情報も各種掲載しているので、是非とも参考にされたい。
各都道府県、地域におけるインフルエンザ流行状況については、各都道府県等の衛生担当部局又はもよりの保健所に相談してください。
なお、非流行期での臨床診断は、他疾患との慎重な鑑別が必要である。
(2)施設への持ち込みの防止
6.まん延の防止―発生時の対応
(1)発生の確認と施設内の患者発生動向の把握
・流行シーズンの初期においては、施設内でインフルエンザ様の症状を呈する患者が発生した場合には、インフルエンザ以外の疾患も念頭に十分な鑑別 診断を行うことが重要である。
・流行シーズン前であっても、施設内での最初の患者が発生した場合には、インフルエンザであるか否かを確認することが望ましい。
・ことに、初発患者の診断には、インフルエンザウイルス抗原の迅速診断用キットを用いて行うことが有効である。
・医師によりインフルエンザと診断された場合には、"感染症法に基づく報告の基準(表6参照)"に基づいて、施設内での患者発生動向を把握体制を強化することが重要である。
(2)患者対策
(3)感染拡大経路の遮断
・長期入院型施設においては、施設のサービスとして食堂に集まっての食事、共同のレクリエーションルームでのリハビリやレクリエーション、共同浴場での入浴サービス等が提供されているが、施設内で集団感染が発生した場合には、施設内において多くの人が集まる場所での活動の一時停止等を検討することが重要である。
(4)積極的疫学調査の実施について
・平成11年4月から施行されている感染症法において、インフルエンザは4類感染症に位置づけられており、施設内で通常と異なる傾向のインフルエンザの集団感染が発生した場合等には、都道府県は、必要に応じて、施設等の協力を得ながら積極的疫学調査(感染症新第15条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査をいう。)を実施することとされており、各施設においても必要な協力が重要である。
・施設自らも、感染拡大の実態把握、感染拡大の原因の分析、感染拡大を予防するための指針等の作成に必要な資料の収集、感染拡大の経路、感染拡大の原因の調査などを行い、施設内感染の再発防止に役立てることが望ましい。
(5)連絡及び支援の要請
・施設内でインフルエンザの集団発生が生じた場合には、まず施設のみで対応できると判断された場合にあっても、最寄りの保健所等に連絡を行うことが望ましい。また、施設のみで対応できないと判断された場合には、速やかに支援を求めることが重要である。
・都道府県等の要請があった場合においては、厚生労働省も対応を支援する。
本手引きは、標準的なものであり、各施設においては、本手引きを参考にしながら、入所者、施設の設備・構造、関連施設の有無等、施設の特性に応じ各々の施設における手引きを作成しておくことが重要である。
・病原体:インフルエンザウイルス
・感染経路:空気感染あるいは飛沫核感染
・流行期:例年12月〜3月下旬、1月末〜2月上旬にピーク
・地域での流行状況について情報を確認することが重要
・潜伏期間:通常1日〜3日
・感染期間:発病後3日程度までが最も感染力が強いとされる
・症状:
急激な発熱で発症
頭痛、腹痛、全身倦怠感などの全身症状
咽頭痛、咳などの呼吸器症状
・検査のポイント
迅速診断キット
ウイルス分離
ペア血清による抗体の測定
PCR
・診断のポイント
地域におけるインフルエンザの流行
典型的なインフルエンザ症状(上記の「症状」参照)
ウイルスの証明あるいは抗体の上昇
・治療のポイント
早期に抗ウイルス薬の内服
安静、適切な対処療法、水分補給
(2)実際に発生した際の対策(行動計画)
施設内感染リスクの評価
施設内感染対策指針の作成、運用
職員教育
構造設備と環境面の対策の立案、実施
感染が発生した場合の指揮
地域におけるインフルエンザ流行状況の把握
施設内外のインフルエンザ発生情報の収集分析及び警戒警報の発令
施設内感染対策の総合評価
・前年1年間(3年間)に診断されたインフルエンザ患者数
(インフルエンザ様疾患の患者を含む)
・代表的な症例について発病から診断、治療の過程を調査、分析
・65歳以上の高齢者、基礎疾患を有する者等の高危険群の把握
地域におけるインフルエンザ流行の把握方法
インフルエンザを疑う場合の症状等
インフルエンザと診断された者又は疑いのある者への施設内での対応方法
インフルエンザ患者又は疑い患者の症状が重症化した場合及び重症化が予想される場合の医療機関への入院の手続き
関連医療機関の確保と連携
・インフルエンザ総合対策ホームページ
http://influenza-mhlw.sfc.wide.ad.jp/
・国立感染症研究所感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
・厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp
特に早期に把握するためには、インフルエンザのシーズンに入った場合に、38度を超える発熱患者が発生した場合には報告を求めるなどの施設内の発生動向調査体制を決めておくことが重要である。 感染症法に基づく発生動向調査では、全国に医療機関の協力を得て内科2000、小児科3000の合計5000の定点が設けられており、インフルエンザの報告の基準としては、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の4つの基準をすべて満たすものである。
・38℃を超える発熱
・上気道炎症状
・全身倦怠感等の全身症状
上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学診断によって当該疾患と診断されたもの。
・入所者の健康状態の把握
・施設入所者へのワクチン接種及び一般的な予防の実態
・施設に出入りする人の把握と対応
・施設従業員のワクチン接種と健康管理
・入所施設の衛生の確保、手洗い、加湿器等の整備
(これまで、移動させた居室でさらに感染が拡大するという事例に関する報告もあり、十分慎重に配慮することが望ましい。)
(3)医療機関への患者転送システムの確保