安全性確保の具体策
- ウインドウ・ピリオドの危険性の軽減
- 献血血液によるHIV等の感染を防止するために現在抗体検査等を実施しているが、例えばHIVの場合は抗体の出現には6〜8週間を要するため、この期間は感染を確認できない。検査によって感染を確認できないこの期間をウインドウ・ピリオドという。ウインドウ・ピリオドの危険をできる限り排除するためには、献血時における問診の充実を図るとともに、ウインドウ・ピリオドをできる限り短くするための新たな検査技術の開発、輸血用血液製剤のウイルス等の不活化・除去技術の開発等を進めるべきである。
- 新たな技術等の開発とその利用
- 日本赤十字社及び民間製造業者等は、ウイルス等の不活化・除去技術の向上、より高感度かつ高精度の検査方法の開発、より安全性の高い遺伝子組換え製剤や人工血液等を含む製剤の開発等に努め、常に最高の技術水準で安全性の確保に努めるべきである。
- ウイルス等の不活化・除去技術は、原料血漿の検査技術とともに血漿分画製剤の安全性確保の根幹をなすものであることから、製造業者等は複数の不活化・除去技術の組み合わせを行い、その評価試験を実施することによりその効果を確認する一方、国はこの結果を評価する体制を整備することにより安全性の向上に努めるべきである。
- 情報の把握、評価、提供及び対応
- 血液製剤による感染症や免疫反応の危険性に関する情報は、感染症等の伝播を防止する上で非常に重要である。このため、国、日本赤十字社、民間製造業者等は国内外を問わず速やかに安全性に関する情報を把握し、また、得られた情報について適切に評価する体制を整える必要がある。こうした情報は、当初は不確実なものであると考えられるが、そのような段階であっても危険性の評価を行い、適切な手段を講じるとともに多様な手段を用いて迅速に情報を国民や医療機関等に対して提供、公開していくべきである。
- なお、不確実性を伴う情報に基づいて安全対策の決定を行った際には、その決定の前提となった安全性情報や、決定に当たって考慮した要因、制限条件等も併せて情報提供を行い、その後明らかになった事実についても情報提供していく必要がある。
- 遡及調査の実施、記録の保管管理
- 献血者がHIV等に感染しているにもかかわらず、献血した時期がウインドウ・ピリオドである場合は、HIV等に汚染されている可能性のある血液製剤が存在することになる。また、患者がHIV等に感染し、その原因が輸血された血液製剤である可能性がある場合には、その献血血液から作られた別の血液製剤も同様に感染の可能性を有していることになる。これらの感染に関係している可能性のある血液製剤を探し出すとともに、その受血者又は供血者についてHIV等の感染の有無を確認していくことを遡及調査という。
- 遡及調査については既に実施されてきているが、円滑に実施されるよう、国は一定の手順をあらかじめ定め、これを医療機関等の関係者に対してさらに周知する必要がある。
- 遡及調査を円滑に実施するためには、血液製剤に係る各種の記録が保管されていることが必要である。日本赤十字社は、献血者に関する記録を全国統一的に管理する体制を構築するとともに、その記録の保管管理の期間を延長していくべきである。また、日本赤十字社及び民間製造業者等は、血液製剤の製造販売に関する記録の保管管理の期間を延長していくべきである。医療機関においては、血液製剤を投与された患者の氏名等に関する記録や患者に投与された血液製剤の製造番号等に関する記録の保管管理体制を整備していくべきである。
- 献血された血液の一部を保管することは、製剤の投与に伴い感染症等が発生した場合の原因の解明等に有用であると考えられることから、日本赤十字社は保管管理の期間を延長していくべきである。
- 検査目的の献血の防止及びHIV検査結果の通知
- HIV等の検査結果を得ることを目的とした献血は、ウインドウ・ピリオドの存在等の理由から、献血により救うことができる人をウイルス感染等の危険にさらす可能性があるため、国、地方公共団体、日本赤十字社等の関係者は検査目的で献血をすることがないよう献血者に対する啓発に努めるべきである。
- また、献血者に対する啓発と併せて、献血者登録制度の推進、献血時における問診の充実を図るとともに、保健所におけるHIV検査の勧奨、保健所の検査環境の整備等を進めることにより検査目的による献血が行われないようにするべきである。
- 献血者に対するHIVの検査結果の通知については、これまで検査そのものを目的とした献血を可能な限り防ぐため、通知しないこととしてきたが、今後上述したように検査目的の献血の防止に努める一方、陽性者の早期治療、二次感染防止等の重要性にかんがみ、個人情報の保護に十分留意しながら、陽性者には原則として検査結果を通知することとし、具体的な検査や通知の方法について検討する必要がある。
- なお、通知に際しては、献血者自身が通知を希望していることをあらかじめ確認することが必要である。
- 自己血輸血の推進
- 自己血輸血とは、手術が予定されている患者から手術前に血液を採取しておいたり、又は手術中に出血した血液を回収するなどして、自己の血液を輸血に用いる方法であり、輸血によるウイルス感染や、免疫反応等による副作用を防止できる利点がある。
したがって、緊急を要しない、あらかじめ輸血の予定が立てられる待機的な手術等の場合には、自己血輸血を一層推進すべきである。
法制度の整備
- 我が国の血液事業に関する行政上の対応は、昭和39年の閣議決定の考え方を基調とし、採血業の許可、献血者の保護等については採血及び供血あつせん業取締法に基づき、また、血液製剤の安全性の確保等については、薬事法により行われてきている。
- しかし、採血及び供血あつせん業取締法は、血液製剤の供給を図る上で国や採血業者の役割が不明確であること、また今日では有償採血業者や供血あっせん業者が存在していないこと等、これをそのまま維持することは不適当である。また、血液製剤の安全確保を図るため、薬事法に基づく一般の医薬品の規制にとどまらず、遡及調査等の義務を関係者に課する等必要な規制を行うべきである。さらに、血液事業における国、地方公共団体、日本赤十字社、民間製造業者、医療機関等の役割と責務を法的にも明確にする必要もある。
- 今後は、21世紀に向けた血液事業の一段の飛躍を期すため、これまでの血液事業の反省を踏まえ、本報告書において提言されている内容について関係者が責任を持ってそれを実施するとともに、時代の要請にこたえる新たな法制度の整備が必要である。