血液行政の在り方に関する懇談会報告書

血液行政の在り方に関する懇談会
平成9年12月12日


    目次

I  はじめに

II 血液製剤の特性を踏まえて
 1 国内自給の推進
 2 安全性確保
 3 適正使用
 4 有効利用
 5 透明性の確保

III 血液事業の実施体制
 1 国
  (1)国内自給の推進
  (2)安全性確保
  (3)適正使用
  (4)有効利用
  (5)透明性の確保
  (6)指導監督
 2 地方公共団体
 3 血液事業者
  (1)献血
  (2)輸血用血液製剤の製造
  (3)血漿分画製剤の製造
  (4)血液製剤の供給
 4 医療機関

IV 国内自給推進の具体策
 1 現状と課題
 2 将来推計
 3 具体的推進方策
  (1)計画の策定
  (2)献血量の確保
  (3)献血血液の有効利用
  (4)医療現場における適正使用の推進

V 安全性確保の具体策
 1 ウインドウ・ピリオドの危険性の軽減
 2 新たな技術等の開発とその利用
 3 情報の把握、評価、提供及び対応
 4 遡及調査の実施、記録の保管管理
 5 検査目的の献血の防止及びHIV検査結果の通知
 6 自己血輸血の推進

VI 法制度の整備


  1. はじめに

    •  我が国の血液事業は、昭和39年の閣議決定(「献血の推進について」)において献血推進の方針が決められて以来、国、地方公共団体、日本赤十字社の三者が一体となった本格的な献血による血液事業の展開が図られてきた。

    •  その結果、輸血用血液製剤はそのすべてが、また血漿分画製剤のうち血液凝固因子製剤については一部の特殊な製剤を除いて自給できるようになったが、アルブミン製剤や免疫グロブリン製剤の自給率はまだ低く、かなりの部分を輸入に依存している現状にある。国を始め血液事業に携わる者は、今後、高齢化の進展により血液製剤の使用を必要とする者が増加する一方、献血が可能な年齢層の人口が減少することを考慮すればこれまでの対応のままでは国内自給の達成は極めて困難であるという事実を深く認識し国内自給の推進のために血液事業の新たな展開を図っていくべきである。

    •  今般の非加熱血液製剤の投与によるHIV感染問題の発生は、血液製剤の安全確保対策等を含め血液事業の実施体制に関し広範な問題を提起している。国を始め血液事業に携わる者はこの問題を真摯に受けとめ、その反省の上に立って、このような甚大な被害が再び発生することのないよう確固たる事業責任体制を確立していくべきである。

    •  本懇談会は、これらの問題を念頭に置きながら、国、地方公共団体、日本赤十字社を始めとする事業者、及び医療機関の役割と責務、国内自給の推進策、安全性の確保策等について鋭意検討を行ってきた。

    •  検討に際しては、懇談会における意見の聴取や日本赤十字社、製薬企業及び地方公共団体に対して実施したアンケート調査、外国の血液行政に関する調査のほか、議事や資料を公開し、インターネットを通じて頂いた各般の御意見も参考とした。 本懇談会は、以下の提言が法制度の整備を含め今後の血液行政に反映され、国民の期待にこたえる血液事業の新たな展開に向けて、国を挙げて取り組まれることを強く望むものである。

  2. 血液製剤の特性を踏まえて

     血液製剤は、人体の組織の一部である血液を原料としていること、またそれが故にウイルス感染症等を伝達する可能性を有すること、さらに原料である血液に国民の善意からなる献血が用いられていること等の特性を有し、一般の医薬品とはその性格を異にするものである。したがって、こうした特性を踏まえ、血液事業の展開がなされるべきである。

    1. 国内自給の推進
      •  血液製剤は人体の組織の一部である血液を原料とすることから、倫理的な見地から、できる限り国民の血液を用いた血液製剤を製造し、使用する体制を築いていくべきである。また原料とする血液については、売血ではなく国民の隣人愛から発する自発的意志に基づく善意の無償献血によるべきである。
      •  しかしながら、我が国においては、輸血用血液製剤については国内の献血血液により賄われてはいるものの、血漿分画製剤について輸入製剤及び輸入原料にかなりの部分を依存している現状にある。血液製剤を確保するに当たり我が国が必要な自助努力を十分行わないまま他国に依存することは、国際的な公平性の観点からも問題であり、献血血液による血液製剤の国内自給を推進する必要がある。
      •  なお、我が国の方が他国より感染率の高い疾患のあること、国外においても安全性の確保に積極的に取り組まれていること等から、国内献血に由来する製剤が輸入製剤より安全であると断定的に考えることはできないものの、国内献血に由来する製剤の場合は、未知のウイルス等による感染症が発生した際に感染源の特定や回収等の迅速な対応が取りやすいという利点もある。
      •  したがって、我が国においては、緊急時の輸入や国内で製造が困難な製剤の輸入等やむを得ない場合を除き、原則として血液製剤を海外からの輸入に依存しなくても済むよう国内自給を推進すべきである。
      •  国内自給を推進するに当たっては、国が中期的な血液製剤の需給見通しを示すとともに、それに基づいて関係者が計画的に取り組む等、実効ある対応が必要である。

    2. 安全性確保
      •  血液製剤は、人体由来の血液を原料とするため、現在の最高水準の科学技術をもってしても、ウイルス等の感染や、免疫反応等による副作用の危険性を絶えずはらんでいる。
      •  したがって、採血から血液製剤の製造に際して、日本赤十字社、民間製造業者等は、献血時の問診による献血者のスクリーニング、肝炎ウイルス、HIV等の各種ウイルスの検査、製造工程におけるウイルス等の不活化・除去等、可能な限りの安全対策を講ずる等、安全性の確保に関し不断の努力を行う必要がある。
      •  医師は、輸血用血液製剤等を投与する際には、血液製剤が絶えず危険性をはらんでいるということを十分認識した上で、患者に対し安全性、必要性等に関する十分な説明をし、同意を得て投与する必要がある。
      •  ウイルス等の感染や、免疫反応等による副作用の危険性を排除し得ないことから国、日本赤十字社、民間製造業者等は、危険に応じて緊急的な措置が的確に講じられるよう、情報の把握、評価、提供を行う体制を整備する等危機管理体制の充実が必要である。
      •  また、血液製剤の安全性向上を図るため、日本赤十字社、民間製造業者等は常に最新の技術を競って取り入れていく必要がある。
      •  なお、仮にある特定の血液製剤の安全性に問題が生じた場合には、患者の治療に支障を来さないようにするため、国、製造業者、医療機関等が協力して他の製剤への切り換えとその安定供給を確保していかなければならないが、そのためにも、様々な製造業者が製造する血液製剤や遺伝子組換え製剤が利用可能であること、患者の選択肢が多様であることが必要である。
      •  現在の状況では、人由来の血液製剤を使用せざるを得ないが、今後、安全性を十分確認しつつ遺伝子組換え製剤や人工血液の開発等が積極的に行われる必要があり、国もこれを積極的に支援することにより、将来的にはできるだけ人の血液に依存しないような医療を目指すべきである。

    3. 適正使用
      •  血液製剤は、医療上欠くことのできないものであるが、ウイルス感染等の危険性を絶えずはらんでいることに加え、献血者の善意に支えられた有限で貴重な資源であるという特性を有する。
      •  したがって、医療現場で血液製剤を使用するに当たっては、医療上は有効であっても安易に第一選択の治療法として用いるべきではなく、他に代替的な手段がなく真に必要な場合に、必要量に限って使用されるべきである。

    4. 有効利用
      •  血液製剤の原料となる献血血液は有限かつ貴重なものであることから、有効に利用する必要がある。
      •  献血血液を有効に利用し、治療上の必要に応じて過不足なく安定的な供給を確保するためには、日本赤十字社及び民間製造業者等は、採血から製造及び供給に至るすべての段階において、事業の最大限の効率化、合理化を図っていくことが必要である。
      •  また、今後献血血液を確保するため献血の受け入れ体制を整備するとともに更なる安全確保対策を講じていくことに伴い、採血、製造にはさらに経費が掛かることが予想され、血液製剤の価格の上昇につながる可能性がある。したがって、そうした観点からも一層の事業の効率化、合理化が必要である。

    5. 透明性の確保
      •  血液製剤は国民の共有財産ともいうべき善意の献血血液を原料とし、また、国内自給を推進する必要があることから、その公共性にかんがみ、広く学識経験者、献血者代表、消費者代表等が参画する審議の場を設け、日本赤十字社や民間製造業者等の事業の実施・運営状況の報告を求めるとともに、血液事業に係る重要事項について調査審議することとし、情報公開を行うことにより血液事業の透明化を図るべきである。

  3. 血液事業の実施体制


    1.  国は、血液事業の推進を図る見地から、以下の措置を講じていくとともに、進展状況を的確に把握し、必要な施策を適宜適切に展開していくことにより、国としての責務を果たしていくべきである。

      (1)国内自給の推進
      •  国は、国内自給の達成に向けた将来の展望と目標を明らかにするとともに、中期的な血液製剤の需給の見通し、献血を始めとする血液事業の方向に関する基本的な指針を策定すべきである。

      (2)安全性確保
      •  国は、血液製剤の特性を踏まえ、関係事業者に対する監視指導体制を強化するとともに、薬事法に基づく一般の医薬品の規制にとどまらず、遡及調査等の義務を関係者に課する等必要な規制措置を講ずるべきである。
      •  国は、日本赤十字社及び民間製造業者等が血液製剤の安全性を確保するために講じている技術を定期的に評価する体制を整備する等、日本赤十字社及び民間製造業者等が絶えず安全性確保のための技術革新に努めるよう指導すべきである。
      •  国は、有効で安全な人工血液の開発とその実用化に向け今後取り組むことが望まれる。

      (3)適正使用
      •  国は、医療機関における適正使用の促進を図るため、使用基準の必要な見直しを行うとともに、その定着、推進及び評価を行うべきである。

      (4)有効利用
      •  国は、善意の献血に由来する国民の共有財産ともいうべき原料血漿を有効に活用していくという見地から、原料血漿について日本赤十字社及び民間製造業者に適正な配分がなされるよう管理すべきである。

      (5)透明性の確保
      •  国は、広く学識経験者、献血者代表、消費者代表等が参画する審議の場を設け、血液事業に係る重要事項について調査審議することとし、情報公開を行うことにより血液事業の透明化を図るべきである。

      (6)指導監督
      •  国は、これまでの薬事法等に基づく指導監督権限の行使にとどまらず、国内自給の推進及び適正な事業運営を確保する観点から、採血、血液製剤の製造、供給、使用の全過程を通じて、関係主体に対する指導監督を的確に行う責務を担うべきである。
      •  血液事業については、その公共性を理由に国営化し、事業の立案から運営まで国が一貫して担うことにより、事業責任を果たすのが適当であるとの考え方もある。しかし、国営化には、事業の効率化を図り、消費者にできるだけ良質で安全な製品を安価に提供していこうとする誘因が働きにくく、また、技術開発の停滞を招くおそれがある。
      •  血液事業は有限かつ貴重な献血血液を介して成り立っており、事業の最大限の効率化、合理化が求められることに加え、より安全な製剤の開発等常に技術革新を必要とすることから、日本赤十字社や民間製造業者等が現実に取り組んできている事業活動を国営に切り替えようとすることは、不適当である。
      •  むしろ、事業主体の役割と責務を明確にした上で、組織運営の自主性を高めるとともに、血液事業の特殊性を踏まえ、事業主体の活動に対する必要な規制や事業の評価、情報公開の推進等の措置を講ずることにより国民が信頼できる事業体制を確立していくべきである。

    2. 地方公共団体
      •  地方公共団体は、献血推進協議会を活用しつつ、国及び日本赤十字社と連携を図りながら、地域の実情に応じた献血の推進計画を策定すべきである。
      •  地方公共団体は、過去の献血実績をみると、地域間でかなりの差が生じている実態を踏まえ、その計画を円滑に実施するために地域住民の理解と協力を得るよう努めるとともに、献血が円滑に行われるように献血場所を提供する等その環境の整備を行うべきである。
      •  地方公共団体は、血液製剤の使用量が各地域によって大きく異なること等を踏まえ、地域における適切な医療を確保する立場から、使用基準の普及等当該地域での医療機関における適正使用を推進すべきである。

    3. 血液事業者

      (1)献血
      •  献血に係る事業は、これまで日本赤十字社が採血及び供血あつせん業取締法による採血業の許可を得て実施してきた。
      •  献血の推進については、国、地方公共団体、日本赤十字社等が協力して取り組むこととし、献血に係る事業は、日本赤十字社のこれまでの取組に対する国民の信頼や、献血が日本赤十字社の掲げる人道・博愛の理念につながるという性格にかんがみれば、日本赤十字社が責任をもって実施することが適切である。
      •  日本赤十字社は献血に係る事業を実施するに当たっては、国内自給を達成するために、国、地方公共団体等と連携を図りながら、輸血用血液製剤のみならず、血漿分画製剤に用いるために必要な量についても確保するよう努めるべきである。
      •  日本赤十字社は、国内自給達成を目指して、地方公共団体等の協力を得ながら、きめ細かく献血できる体制を整備・充実し、採血量を確保していく必要がある。

      (2)輸血用血液製剤の製造
      •  輸血用血液製剤はこれまで日本赤十字社が各血液センターにおいて事実上独占的に製造してきている。
      •  輸血用血液製剤の製造は献血の際の採血段階から既に始まっていること、輸血用血液製剤は有効期間が短く、献血による採血と輸血用血液製剤の製造は一体的に行うことが効率的であることから、輸血用血液製剤の製造は日本赤十字社が責任をもって行うことが適切である。
      •  日本赤十字社は、輸血用血液製剤の安全性、有効性の向上を不断に図っていくため、事実上の独占によって技術開発の停滞が生じないよう、常に新たな技術の導入、技術革新に努めるべきである。また、効率化の観点から、血液センター相互の連携を強化するとともに、必要に応じ技術力のある者に協力を求める等多様な方策も検討すべきである。
      •  日本赤十字社は、本社、各都道府県支部、本社又は各都道府県支部に属する各血液センターといった組織により血液事業を実施してきたが、事業を実施する上で高い技術水準を確保するとともに、安全性を確保するための迅速かつ責任ある対応を一層図るため、各センター間の連携を一層強化するとともに、センター間の格差を是正し、より柔軟な事業の展開と事業の透明化を図れるよう積極的に組織体制を見直していくことが望まれる。あわせて、日本赤十字社が行う血液事業につきその法的な位置付けを明確にすることが求められる。

      (3)血漿分画製剤の製造
      •  現在、献血由来の原料血漿を用いた血漿分画製剤の製造は、日本赤十字社の血漿分画センター及び各民間製造業者において行われている。
      •  血漿分画製剤については、ウイルス等の不活化・除去の技術開発力の維持向上、効率的な体制の構築、有効かつ安全な製剤の確保の観点から、日本赤十字社及び民間製造業者が、それぞれの責任において競ってその研究開発力を最大限に発揮し、有効かつ安全な製剤を効率的に製造することが適切である。
      •  日本赤十字社及び民間製造業者は、社会的使命と責任をもって献血由来の原料血漿を用いて血漿分画製剤を製造し、安定的に供給すべきである。

      〔輸入の取り扱い〕
      •  現在、アルブミン製剤や免疫グロブリン製剤については、かなりの部分を輸入に依存している。
      •  今後、国内自給を推進する観点から国内献血由来の血液製剤の増加を図るに当たっては、患者の治療に支障を来すことがないよう十分配慮しつつ、国際的な規定にのっとって、その増加に応じて輸入量を減らしていく方策を講ずる等輸入について必要な措置を採ることも検討すべきである。
      •  輸入原料血漿を用いる民間製造業者や海外で製造された製剤を輸入する民間輸入業者は、国内自給を推進するという基本方針の下で、国内自給達成までの間、我が国において必要となる製剤の安全かつ安定的な供給に協力することが期待される。

      (4)血液製剤の供給
      •  輸血用血液製剤は、有効期間が短く、医療における緊急性が高いものであることから、引き続き、日本赤十字社が直接又は地域医療の実情に応じ輸血用血液製剤の特性に適した搬送能力を有する者を介して医療機関に対して供給すべきである。
      •  血漿分画製剤については、搬送に当たって特別な取り扱いを必ずしも必要とはしないことから、医療機関の需要に柔軟に対応するためには、引き続き卸売販売業者を通じて供給することが適切である。
      •  日本赤十字社及び民間製造業者等は、医薬情報担当者(MR)を通じて、血液製剤の有効性、安全性、適正な使用等に関する情報を医療機関に的確に提供する等により血液製剤の安全性の確保、適正使用の推進に努めるべきである。
      •  いきすぎた販売競争を抑えるために、血液製剤の供給を一元的に行うべきという意見もあるが、薬価差についてはこれを解消する方向で新しい制度が検討されていることや医療機関における血液製剤の適正使用を推進すること等により、販売競争による不要な需要の創出の問題については対応できると考えられる。他方、供給の一元化は、医療現場の需要に必ずしも柔軟に対応できるものとはいえないこと、新たな流通体制を構築するには新たな費用を生み出すおそれがあること、供給の独占に伴い価格が高値で固定されるおそれがあること等から、適切であるとは考えられない。

    4. 医療機関
      •  医療機関は、ウイルス等の感染や、免疫反応等による副作用の危険性を絶えずはらんでいるという血液製剤の特性を十分理解した上で、他に代替的な手段がなく真に必要な場合に、必要量に限って用いることとし、適正使用に努めるべきである。
      •  医療機関は、安全性の確保と適正使用を進めるため、血液製剤の保管管理、適正使用等を推進する院内体制を確立すべきである。

  4. 国内自給推進の具体策

    1. 現状と課題
      •  輸血用血液製剤、一部の特殊な製剤を除く血液凝固因子製剤については、国内自給が達成されているが、アルブミン製剤及び免疫グロブリン製剤については、自給率は上昇傾向にはあるものの、平成8年現在それぞれ25%、48%であり、米国を始めとした海外からの原料血漿又は製品の輸入に相当量を依存しているのが現状である。
      •  献血者数については、平成8年には年間延べ約600万人であり、その献血量は年間約190万Lである。我が国においては、血液の安全性の確保及び有効利用の観点から、400ml献血及び成分献血を推進しているが、現状では、400ml献血の伸びの鈍化、成分献血の近年の伸び悩み、青年層の献血者の割合の減少といった課題がある。(参考1、2略)
      •  今後さらに、高齢化の進展により血液製剤の使用を必要とする者が増加する一方献血が可能な年齢層の人口が減少することを考慮すると強力な献血推進策が必要である。
      •  他方、我が国のアルブミン製剤の一人当たりの使用量は諸外国よりも多く、また国内においても地域間で格差が大きいといった問題点があり、今後強力に適正使用の推進を図る必要がある。

    2. 将来推計
      •  輸血用血液製剤の使用量については、高齢化に伴い徐々に増加することが予測され、これを賄うためには献血量の増加が必要である(参考3略)。
      •  アルブミン製剤については、使用の適正化を図り、現在のドイツや米国並みの使用量に抑えていくこととすれば使用量が今後5年間に3割減少すると予想される。また今後安全な遺伝子組換え製剤の開発・利用が進み、これに応じて21世紀の初頭に75万L相当量が供給されると仮定すると、高齢化を考慮しても、国内で原料血漿として、10年後の2008年時点において150万Lを確保すれば、ほぼ国内自給が達成される(参考4略)
      •  免疫グロブリン製剤については、重症感染症等に対して効果があることが判明しているため将来需要が増大する可能性があり、また、これに代替する遺伝子組換え製剤の開発は現時点では困難であるものの、アルブミン製剤に比べて自給率が高く、これを適正に使用していくならば、21世紀の初頭に国内自給を達成することは可能と考えられる。
      •  血液製剤の使用適正化、遺伝子組換え製剤等の代替製剤の開発を前提として、アルブミン製剤及び免疫グロブリン製剤の国内自給を達成するために必要な原料血漿を確保するとともに、今後における輸血用血液製剤の増加分も自給で賄うためには、年間延べ約1千万人分の献血血液が必要である。現在の年間献血者数が延べ約600万人で あることを考慮すると、1千万人の献血者を確保することは容易なことではない。しかし、国内自給を達成するためには、今後10年間に年間延べ1千万人の献血者数を目標として国、地方公共団体、日本赤十字社がそれぞれの役割を明確にして可能な限りの推進策を講ずるべきである。なお、この目標は、現段階の粗い推計に基づくものであることから血液製剤の需給動向を踏まえつつ定期的に見直しを図るべきである。

    3. 具体的推進方策

      (1)計画の策定
      •  国は、計画的に血液製剤の国内自給を進めていくために、血液製剤の種類ごとの需給分析を行い、製剤ごとの国内自給の見通し等を示した基本指針を策定すべきである。
      •  地方公共団体は、国及び日本赤十字社と連携を図りながら、地域の実情に応じた献血の推進計画を策定すべきである。
      •  日本赤十字社は、国及び地方公共団体が策定した計画に即して献血量を確保すべきである。

      (2)献血量の確保
      •  献血量を確保するためには、何よりもまず、患者の治療に血液製剤が必要でありこれは健康人からの善意の献血によって支えられなければならないことにつき国民の理解を求めていくことが重要である。そうした観点から関係省庁、地方公共団体、日本赤十字社が一致協力して、献血思想の普及や積極的な献血推進運動の展開がなされる必要がある。
      •  今後、献血可能人口が減少することを考慮すれば、若年層の献血を一層推進すべきである。また、学校教育の中でも献血の重要性に対する理解を深め、献血思想の普及を図るとともに、テレビ、新聞等のメディアやインターネットを活用し広く国民が情報を得る機会を設けることも重要である。
      •  献血量を効率的に確保するとともに、安全性をより高めるためには、400ml献血成分献血を原則とすべきである。また血漿分画製剤の国内自給を推進するためには、多くの血漿を必要とするため、成分献血の一層の普及を図る必要がある。
      •  献血の受け入れ体制を整備する観点からは、身近な地域で成分献血等を行うことができるように献血ルームの増設等を推進していくことが必要である。
      •  定期的に安全な血液を一定量確保できるとともに、献血者の利便性の観点からも献血者登録制度の一層の推進が必要である。
      •  献血にはそれ相当の時間を要し、特に、血漿採取のための成分献血には約1時間を要すること等から、献血をボランティア活動に対する休暇措置の対象とする等、企業官公庁等が進んで献血しやすい環境づくりに取り組む必要があり、このための啓発普及を継続的に行うべきである。
      •  献血者の個人情報の厳格な保護を図るとともに、採血時の安全性の確保、採血時における万が一の事故への対応等献血者が安心して献血できる環境を一層整備する必要がある。

      (3)献血血液の有効利用
      •  日本赤十字社及び民間製造業者は、献血血液を無駄なく有効に活用するため、収率の向上や原料血漿の更なる有効活用等に努めるとともに、国は科学的知見を踏まえて血液製剤の有効期間の延長についても検討を進めるべきである。

      (4)医療現場における適正使用の推進
      •  国は関係学会と連携しつつ、アルブミン製剤や新鮮凍結血漿について使用基準の必要な見直しや再評価等の具体策を講ずるべきである。また、免疫グロブリン製剤に関しても、血液製剤が有限な資源であるという観点を踏まえ、重症感染症等に対する適正な使用の在り方が検討されるべきである。
      •  血液製剤の適正使用に関する医師の卒前・卒後の教育を強化することが必要である。
      •  日本赤十字社及び民間製造業者等は、血液製剤の適正な使用に関する情報を的確に医療機関に提供するため、MRの教育・訓練を強化する等、MR活動の充実を図る必要がある。
      •  医療機関において、使用基準に基づいた適正使用の指導等を行うための輸血療法委員会を設置するとともに、血液製剤の保管管理や輸血管理を行う輸血部門等の整備を図ることは適正使用のみならず安全性確保の面からも有効な方策である。また、第三者による医療機関の機能評価に際して、これらの院内体制の整備を評価対象項目に取り入れることも併せて検討すべきである。

  5. 安全性確保の具体策

    1. ウインドウ・ピリオドの危険性の軽減
      •  献血血液によるHIV等の感染を防止するために現在抗体検査等を実施しているが、例えばHIVの場合は抗体の出現には6〜8週間を要するため、この期間は感染を確認できない。検査によって感染を確認できないこの期間をウインドウ・ピリオドという。ウインドウ・ピリオドの危険をできる限り排除するためには、献血時における問診の充実を図るとともに、ウインドウ・ピリオドをできる限り短くするための新たな検査技術の開発、輸血用血液製剤のウイルス等の不活化・除去技術の開発等を進めるべきである。

    2. 新たな技術等の開発とその利用
      •  日本赤十字社及び民間製造業者等は、ウイルス等の不活化・除去技術の向上、より高感度かつ高精度の検査方法の開発、より安全性の高い遺伝子組換え製剤や人工血液等を含む製剤の開発等に努め、常に最高の技術水準で安全性の確保に努めるべきである。
      •  ウイルス等の不活化・除去技術は、原料血漿の検査技術とともに血漿分画製剤の安全性確保の根幹をなすものであることから、製造業者等は複数の不活化・除去技術の組み合わせを行い、その評価試験を実施することによりその効果を確認する一方、国はこの結果を評価する体制を整備することにより安全性の向上に努めるべきである。

    3. 情報の把握、評価、提供及び対応
      •  血液製剤による感染症や免疫反応の危険性に関する情報は、感染症等の伝播を防止する上で非常に重要である。このため、国、日本赤十字社、民間製造業者等は国内外を問わず速やかに安全性に関する情報を把握し、また、得られた情報について適切に評価する体制を整える必要がある。こうした情報は、当初は不確実なものであると考えられるが、そのような段階であっても危険性の評価を行い、適切な手段を講じるとともに多様な手段を用いて迅速に情報を国民や医療機関等に対して提供、公開していくべきである。
      •  なお、不確実性を伴う情報に基づいて安全対策の決定を行った際には、その決定の前提となった安全性情報や、決定に当たって考慮した要因、制限条件等も併せて情報提供を行い、その後明らかになった事実についても情報提供していく必要がある。

    4. 遡及調査の実施、記録の保管管理
      •  献血者がHIV等に感染しているにもかかわらず、献血した時期がウインドウ・ピリオドである場合は、HIV等に汚染されている可能性のある血液製剤が存在することになる。また、患者がHIV等に感染し、その原因が輸血された血液製剤である可能性がある場合には、その献血血液から作られた別の血液製剤も同様に感染の可能性を有していることになる。これらの感染に関係している可能性のある血液製剤を探し出すとともに、その受血者又は供血者についてHIV等の感染の有無を確認していくことを遡及調査という。
      •  遡及調査については既に実施されてきているが、円滑に実施されるよう、国は一定の手順をあらかじめ定め、これを医療機関等の関係者に対してさらに周知する必要がある。
      •  遡及調査を円滑に実施するためには、血液製剤に係る各種の記録が保管されていることが必要である。日本赤十字社は、献血者に関する記録を全国統一的に管理する体制を構築するとともに、その記録の保管管理の期間を延長していくべきである。また、日本赤十字社及び民間製造業者等は、血液製剤の製造販売に関する記録の保管管理の期間を延長していくべきである。医療機関においては、血液製剤を投与された患者の氏名等に関する記録や患者に投与された血液製剤の製造番号等に関する記録の保管管理体制を整備していくべきである。
      •  献血された血液の一部を保管することは、製剤の投与に伴い感染症等が発生した場合の原因の解明等に有用であると考えられることから、日本赤十字社は保管管理の期間を延長していくべきである。

    5. 検査目的の献血の防止及びHIV検査結果の通知
      •  HIV等の検査結果を得ることを目的とした献血は、ウインドウ・ピリオドの存在等の理由から、献血により救うことができる人をウイルス感染等の危険にさらす可能性があるため、国、地方公共団体、日本赤十字社等の関係者は検査目的で献血をすることがないよう献血者に対する啓発に努めるべきである。
      •  また、献血者に対する啓発と併せて、献血者登録制度の推進、献血時における問診の充実を図るとともに、保健所におけるHIV検査の勧奨、保健所の検査環境の整備等を進めることにより検査目的による献血が行われないようにするべきである。
      •  献血者に対するHIVの検査結果の通知については、これまで検査そのものを目的とした献血を可能な限り防ぐため、通知しないこととしてきたが、今後上述したように検査目的の献血の防止に努める一方、陽性者の早期治療、二次感染防止等の重要性にかんがみ、個人情報の保護に十分留意しながら、陽性者には原則として検査結果を通知することとし、具体的な検査や通知の方法について検討する必要がある。
      •  なお、通知に際しては、献血者自身が通知を希望していることをあらかじめ確認することが必要である。

    6. 自己血輸血の推進
      •  自己血輸血とは、手術が予定されている患者から手術前に血液を採取しておいたり、又は手術中に出血した血液を回収するなどして、自己の血液を輸血に用いる方法であり、輸血によるウイルス感染や、免疫反応等による副作用を防止できる利点がある。 したがって、緊急を要しない、あらかじめ輸血の予定が立てられる待機的な手術等の場合には、自己血輸血を一層推進すべきである。

  6. 法制度の整備

    •  我が国の血液事業に関する行政上の対応は、昭和39年の閣議決定の考え方を基調とし、採血業の許可、献血者の保護等については採血及び供血あつせん業取締法に基づき、また、血液製剤の安全性の確保等については、薬事法により行われてきている。

    •  しかし、採血及び供血あつせん業取締法は、血液製剤の供給を図る上で国や採血業者の役割が不明確であること、また今日では有償採血業者や供血あっせん業者が存在していないこと等、これをそのまま維持することは不適当である。また、血液製剤の安全確保を図るため、薬事法に基づく一般の医薬品の規制にとどまらず、遡及調査等の義務を関係者に課する等必要な規制を行うべきである。さらに、血液事業における国、地方公共団体、日本赤十字社、民間製造業者、医療機関等の役割と責務を法的にも明確にする必要もある。

    •  今後は、21世紀に向けた血液事業の一段の飛躍を期すため、これまでの血液事業の反省を踏まえ、本報告書において提言されている内容について関係者が責任を持ってそれを実施するとともに、時代の要請にこたえる新たな法制度の整備が必要である。


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Dec.12, 1997