見たこと思ったこと
学校HPの公開をめぐる問題について
(1997年1月-1997年7月)


学校のHPをめぐる問題(1/11)
学校のHPをめぐる問題U(2/16)
学校のHPをめぐる問題V(2/18)
再び,学級HPをめぐる問題(5/19)
Nさんのコンピュータ室運営(7/2)






  学校のHPをめぐる問題について(1月11日)
  川島さんの記事(1/10) で指摘されているように,昨年暮れごろから,学校あるいは学級のHPに対する,行政のからの風当たりが強くなっています。私の学校では,まだ今のところインターネットを使える環境ではありませんが,近い将来導入されることは間違いないでしょうから,強い関心を持って見守っているところです。

 行政が学校のHPに対して”指導”を行う場合,その根拠となるのが,多くの自治体で制定されている「個人情報保護条例」というものです。

 私の住んでいる自治体の「個人情報保護条例」は,原則として,氏名・生年月日・住所・電話番号など,特定の個人が識別され得るものは,ホームページなど不特定多数の人々が目に触れる可能性がある所には掲載してはならないというものです。また,どうしても掲載したい場合は行政機関の承認を得る必要があるということです。この内容は,おそらくどの自治体でもほぼ同じだと思います。

 私は,こういう法(条例)があること自体は大賛成です。世の中,善い人ばかりではありませんから。犯罪防止あるいはプライバシー保護など人権擁護の点から,個人の情報をむやみに公表しないことはとても大切なことだと思います。

 ですが,この条例の困るところは,善意で行動している人たちにとっても,大変窮屈なものであるということです。条例を厳格に運用すれば,たとえ本人や保護者が許可したとしても個人情報を掲載できないわけですから。

 ただ,個人情報を掲載しようとする人が,善意で行っているか,そうでないかを判断する明確な基準を定めるのは難しく,結局は見た人の主観になってしまい,大きく見解が食い違うこともあるかも知れません。そういう意味では,最悪の場合を考えたとき,現在のような条例でも仕方がないのかとも思います。

 子供たちが,何の心配もなく,自分のプロフィールや考えを堂々と表現できる方法はないのでしょうか。




 学校のHPをめぐる問題についてU(2月16日)  
 昨年末からマスコミを賑わしている世田谷区の小学校教諭(以下H先生)のHP公開の問題(注1 参照),学校関係者のみならず多くの方々の関心を集めているようで,今月に入り,NHKが特集番組で放送したほか,各種の月刊誌でも大きく取り上げられています。

 教育情報誌「教育とコンピュータ」が取り上げるのは,まあ当然といえば当然ですし,インターネット情報誌「netnavi」,「INTERNET magazine」に掲載されるのも分かりますが,お遊び系パソコン情報誌「EYE-COM」にまで掲載されています。 

 たまたま私の友人(氏名及び立場等は当然秘密です)がこの問題に深く関わっているので,私自身も強い関心を持って事件の推移を見守っているのですが,その友人は一連のマスコミの報道のあり方に疑問を持っていて,マスコミの意図で真実が曲げられていると感じているようです。そしてマスコミの情報からだけでなく,自分自身の目で確かめ,判断してほしいとのことでした。 

 私自身もこの問題について,これまで,乏しい知識や情報をもとに自分なりの判断をしてきたわけなので素直に反省しています。   

 注1)HP上に児童の写真及び氏名を掲載したところ,「個人情報保護条例」に違反するとの理由で教育委員会から削除命令を受けた問題。その後写真は個人を識別できないものにし,氏名をニックネームに変更したが,未だに教育委員会との合意はされていない。  

 さて,そのマスコミ報道についてですが,どのように掲載されいるか調べてみました。

・「教育とコンピュータ」  
 10ページにわたって特集記事が掲載されています。先月,ある先生のHPの内容を無断引用掲載するという失態を演じた雑誌とは思えない頑張りぶりです。
 H先生,教育委員会,それぞれの主張の他,関連法規や法律家の意見までも掲載し,公正な判断を読者に委ねようとする姿勢がうかがえ好感が持てます。  
 最後のページの編集部の見解では,この問題はただ単に法律の解釈の問題でなく,H先生の行動が,皆横一線に並んで教育を進めていきたい教育委員会の方針にそわなかったためであると,かなりつっこんだ考察をしています。

・「netnavi」  
 約3分の2ページほどのスペースに掲載されています。  
 簡単な事件の経過と,削除命令が出た理由などを紹介しています。H先生及び教育委員会のコメントは掲載されていません。編集部の見解は,個人情報保護の重要性は指摘しながらも,今回の件に関しては,条例の適用の仕方に疑問を示しており,H先生に好意的な立場です。

・「INTERNET magazine」  
 インターネット情報誌の老舗,「INTERNET magazine」では,半ページほどのスペースで取り上げられています。WWWサーバーでも取り上げられています。
 教育委員会,H先生のそれぞれの主張を,簡単に紹介した上で,WWWサーバー上で「世論調査」を実施しています。
 編集部の見解は掲載されていません。方針としては,今回の事件についてのみの是非を問うものではなく,今後インターネットが教育現場に普及していく中で,個人情報保護をどう取り扱ったらよいかという観点から取り上げていくようです。

・「EYE-COM」  
 「EYE-COM」にまで掲載されるとは驚きました。それも1ページにわたって掲載されています。  
 この記事を掲載したライター(福冨忠和氏)は,情報収集をかなりしっかりやったようで,事件の経過についてはかなり詳細に掲載されています。PTAの動きや教育委員会の対応の混乱ぶりなど,あまり知られていない情報も載っています。また問題の本質をとらえていないインターネット関係者や一部マスコミの軽率な報道を批判したりもしています。 
 この方の見解としては,個人情報保護条例は行政や権力が住民の情報を勝手に運用する弊害を防ぐためのもので,今回のケースはもともとなじまないし,削除命令は条例の拡大解釈ではないかというものです。



 この問題まだまだ続くようです。
 児童・保護者が同意すれば,個人情報を掲載しても良いのか,良いとすればどこまで許されるのか,あるいは公開することによってどのような教育上のメリットがあるのか,さらにストーカーなどに悪用されるリスクはどれくらいあるのか,私自身判断がつかない状況です。

 私もいずれは,学級のHPを公開し,他の学校や地域と交流を進めていきたいのですが,もうしばらくこの問題の行方を見守っていきたいと思っています。




 学校のHPをめぐる問題についてV(2月18日)
 前回(2月16日)の日誌では,私個人の意見を公表するのを控えて,マスコミ報道の内容を検討することに重点を置きました。私なりに問題点を整理できたと思うので,今日は私見を述べます。

 今回の問題(注1参照)については,「世田谷のH先生のホームページは個人情報保護条例に違反しているか。」という,どちらかというと個人レベルの問題と,「学校のHPは,児童の情報保護のため,一定の制約を設けるべきか。」という一般レベルの問題に分けて考えた方がすっきりするような気がします。

注1)HP上に児童の写真及び氏名を掲載したところ,「個人情報保護条例」に違反するとの理由で教育委員会から削除命令を受けた問題。その後写真は個人を識別できないものにし,氏名をニックネームに変更したが,未だに教育委員会との合意はされていない。


 「世田谷のH先生のホームページは,個人情報保護条例に違反しているか。」 
 この問題については,H先生のホームページ内に児童の氏名が掲載されているわけですから,条例を厳格に適用すれば個人情報保護条例に違反していると見ることもできます。しかし,福冨氏が述べているように,個人情報保護条例は行政や権力が住民の情報を勝手に運用する弊害を防ぐためのもので,今回のケースはもともとなじまないし,削除命令は条例の拡大解釈ではないかという説の方が説得力があるように思います。

 「学校のHPは,児童の情報保護のため,一定の制約を設けるべきか。」 
 INTERNETmagazine(impress社)のWWWサーバーでのアンケートでは,ややNOの方が多いです。(2月18日21:30現在,YES−64名,NO−82名です。) 
 ただし,以前行われた「ホームページのわいせつ画像は取り締まるべきか?」というアンケートでは,取り締まるべきではないとの意見が圧倒的だった(YES−121,NO−457)ことから考えると,ほぼ真っ二つに意見が分かれていると判断できるのではないでしょうか。 

 私の考えは,以前1月10日の日誌に述べたときと変わりません。やはり私は,学校のHPに個人情報を掲載する際,一定の制約を設けることは必要だと思います。

 その理由は,教員が信頼できないからです。もちろん,誰一人として信頼できる人がいないという意味ではありません。信頼できない人もいるという意味です。私は,日本中すべての教員が,信頼するに値する見識やモラルを備えているとは思いません。教員個々の判断に任せると,無知あるいは配慮不足から,犯罪に利用されかねない情報をうっかり掲載してしまうことがあるでしょうし,悪意から,児童の人権を侵害するような情報を掲載してしまうようなことも起こりうると思うのです。そして,それらをあたかも児童の同意を得たものであるように取り繕うことはそれほど難しいことではないように思います。 

 たとえば,児童が自分の意志で,自己紹介のページに写真や氏名・住所・電話番号を掲載したとして,それらの情報が本人が全く意図していないことに利用される可能性はないでしょうか。 
 あるいは,学級HPの係活動のコーナーの中で,ある係が活動報告の一環として,忘れ物をしたAさんの名前を発表したり,学級日誌のコーナーの中で,一日の生活の反省として,B君とC君が掃除をさぼったということを記述したりすることは許されることなのでしょうか。 


 私は,教員個々の考えを尊重して,一切規制しないというのは心配です。




 再び,学校HP公開をめぐる問題について(5月19日)

 今,私の手元に一冊の本があります。

    「インターネット教育で授業が変わる」(労働旬報社)
       著者:石原一彦(大津市立平野小学校)
          坂本 旬(法政大学文学部専任講師)
          丹羽 敦(小牧市立篠岡小学校)
          橋本 晃(世田谷区立松丘小学校)

 この本は,著者の一人で,私の日誌の読者の方でもある丹羽敦(実名掲載OK)さんからいただいたものです。


 昨年10月,丹羽さんは子どもの活動を中心にした学級のHPを,私は教員の取り組みを中心にした個人のHPを,立場は異なるものの,ほぼ同じ時期に公開したことがきっかけで,以来メール交換をしていただいています。

 著書の内容は,その丹羽さんの学級HPの,半年間の取り組みをレポートしたものです。

 丹羽さんの学級HPは,公開後間もない12月に,早くも大きな試練に立たされました。メール交換をしていた相手先の世田谷区松丘小の学級HPに,区から削除命令が出されたからです。そのことは12月3日の朝日新聞に大きく掲載されました。例の世田谷の学級HP事件です。

 日誌の読者の方からいただいた情報をもとに,早速丹羽さんにメールで確認したところ,削除命令が出され,その件が新聞にも掲載されたが,松丘小とはこのまま交流を続けていきたいとのことでした。


 その後,松丘小の問題は予想以上に大きな広がりをみせ,ついに丹羽さんのHPにまで影響が及んでしまいました。新年早々教育委員会の「指導」により,HPの改変を余儀なくされてしまったのです。また,このころには丹羽さん自身もマスコミの取材を受け,雑誌に掲載される事態にまで至りました。

 しかし,この時点でも,丹羽さんは学級HPの存続を強く望み,松丘小との交流も続けていきました。そして,それは現在も続いています。


 今,この本を読みながら,HP公開当時からこれまでを振り返ってみると,実に波乱に富んだ半年間だったなあとつくづく思います。

 私なら,おそらく最初の新聞報道の時点で,松丘小との交流をストップさせていたのではないかと思います。実際そのようなメールを丹羽さんには出していたし,日誌の中でも私は一貫して慎重な姿勢をとり続けました。(読み返してみると事実誤認もかなりあります。特に12月4日の日誌は,自分自身で新聞を読まずに書いたので,完全に勘違いしています。)

12月4日(朝日新聞掲載の翌日の日誌)
1月11日(教育委員会からの指導を受けた直後の日誌)
2月16日,18日(HPの記事がネットナビに掲載されたころ)


 世田谷の事件は,現在一応黙認されたかたちになっているようですが,松丘小の橋本先生が行政の圧力に屈することなく学級HPを続けていられたのは,マスコミに大きくとりあげられたことよりも,丹羽さんの橋本学級に対する”変わらぬ友情”というものが大きな支えとなっていたような気がしてなりません。


  「世田谷松丘小5年1組物語」は,
   今春無事に「6年1組物語」に進級しました。

  「篠岡小5年1組ホームページ」も,
   今春無事...あれっ!?

 丹羽さん,これからも頑張ってください!
 応援しています。


(参考)
愛知県個人情報保護条例
弁護士のアシスト/インターネットロイヤー法律相談室
(松丘小の問題の詳細と法解釈について)




 Nさんのコンピュータ室運営(7月2日)

 授業後にNさん(もはやバレバレですが)が勤務するK市S小学校に出かけました。S小学校は,私の家からそれほど遠くはありませんが,お邪魔したのは今日が初めてです。

 以前の日誌(5/19)にも書きましたが,Nさんは昨年10月から学級HPを立ち上げ,インターネットの教育利用について実践を重ねてみえる方です。

 メール交流をしていた世田谷のM小学校の学級HPが,区から削除命令を受け,その問題が全国的な広がりを見せたため,Nさんの学級HP(現在は学校HPとして公開)も教育委員会から「指導」を受ける羽目になってしまい,閉鎖の危機に立たされたこともありました。

 これまでずっとメールによる情報交換ばかりだったので,ぜひ一度コンピュータ室の様子を見せていただいたり,お話を伺いたいと思っていたので,多忙な中,無理をお願いして本日訪問させていただきました。


 早速コンピュータ室に案内していただき,コンピュータ室の様子や日ごろの取り組みなどを伺いました。

 S小学校のコンピュータ室は,一台のパソコン(教師用)がインターネットに接続できるようになっているのですが,これは,Nさんがご自分で職員室からコンピュータ室まで30メートルほどの電話線を引いて,接続できるようにしたとのことです。びっくりしました。

 児童用コンピュータには,S小学校のHPや交流をしている他校のHPがインストールされており,いつでも子どもたちが閲覧できるようになっていました。また,市販のソフトウェアは少なく,HTML形式の自作資料やフリーソフトなどが数多くインストールされていました。私が勤務しているM小学校に比べて導入されている市販ソフトウェアが少ないため,色々工夫(苦労)されているご様子が窺えました。


 コンピュータの教育利用については,Nさんと私では考え方が少し異なるようです。私は,教科の授業でコンピュータを活用していく方向で進めているのに対して,Nさんはどちらかというと教科の枠を越えたかたちでのコンピュータの利用を考えているようです。

 また,子どもに教える技術についても,私は,子どもたちにはアプリーケーションソフトの操作方法しか教えていませんが,Nさんは,サーバー内のファイル管理までも,ある程度は子どもたちに行わせているそうです。

 それら考え方を象徴しているのが学級HPの運営及びメールによる交流だと言えましょう。HPやメールの作成は,休み時間など授業以外の時間を使っているとのことです。

 そしてこれらの活動を子どもたちが自由に行うことができるよう,S小学校では,休み時間にコンピュータ室を開放しているそうです。

 いいですね。こういう学校って。

 私もぜひ見習いたいと思いました。

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