ハイペリオン・ハイペリオンの没落・エンディミオン・エンディミオンの覚醒  

<たぶんネタばれメモ>

「王様の耳はロバの耳」
穴から声がもれてしまいませんように。

2000.12.19更新


ハイペリオンのシリーズ

 どうもこれだけ大部な、冒険活劇風(と予測される)SFには、いまいち手が出ずにいた。私とは関係ないSFよね、と思って、『エンディミオンの覚醒』が出たときも知らん顔をしていたのだった。しかし、すんごくおもしろい!という評判が目に付くのと、この度の文庫化とで、ようやく読む気になった、と言うわけである。そしていざ手に取ってみれば、当初予想したような、あやしげなB級活劇…べつに舞台が宇宙でも未来でもなくたってぜんぜん関係ないじゃん、というものではまーーったくなかったのだ。カンタベリ物語よろしく始まった巡礼たちの語る話、その第一話である「司祭の話」に、すっかり心を奪われてしまったのである。底流をなす詩人ジョン・キーツの詩、キリスト教の問題、と、筋を追うだけでも充分面白いのにこれらのテーマがもたらす重層構造や奥行き(目眩ましかも?)、自由自在な華麗な筆はこびの素晴らしさ。時間と空間を縦横に行き来し、そしてそれらをも超越する精神世界にシフトする快感。本の世界に遊ぶ醍醐味をこれだけ味わわせてくれる本は、なかなかないのではあるまいか。

(しばしスペース)

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001207(木)

なだれこむように没落読了。

 『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』とも、設定はもちろんSFなのだが、SF読みの人だけでなく多くの本読みの方にぜひおすすめしたい。物語の面白さ、筆の運びの見事さはいうまでもなく、それに加えて内包する大小のテーマはSFという枠で規定されるにはあまりにも大きいので。もしSFというレッテルによって読者が限定されているのであれば非常に惜しい。

 話として仕方ないのだろうが、「コア」の本体がどこかの惑星上に確として存在すると登場人物たちが考えている(に考えさせている)のは不満だった、というより、他のテクノロジーから類推してやや不自然に感じた。はじめから、「コア」は宇宙空間に網の目のようにして存在しているのだろうと当然のように想定して読んでいたので…だからここの謎解きは、過程は面白いが意外性には欠けた。

 また、途中、サイリーナスが速贄の樹に貫きとめられる前に書いた詩に、二大勢力対立プラスアルファ…本当の敵の存在…の図式が示唆されているので、あっというどんでんがえし、とは感じなかった。

001208(金)

 さっそく読み始めた『エンディミオン』は、ごく初めから、おきにいりサイリーナス@よぼよぼ、「あの」かわゆい宇宙船(領事がこれでハイペリオンから旅立った、キーツの人格を載せていた自家用宇宙船)や、なぜか別れて行くシーンで心残りだったアンドロイド、A・ベティック(ベナレスから降りた巡礼たちと別れ、川を下っていった)が出てくるので、もうご機嫌。このアンドロイドは、もちろん外見は青いのを除けば人間なのだが、なぜか懐かしい。と思ったら、それは『ミレニアム』の未来の時代に出てくる、愛を知ったかもしれないあのロボットの姿とだぶるからだと気付いた。

 なにやらマンガちっくな話らしい。

 紀元30世紀になっても、鴨のローストやうまいビーフ、ワインやコーヒーは人類にとって普遍的な価値を持つらしい(*^_^*)。
 と言うところを突っ込むより、この点が気になるのであれば、20世紀(21世紀)の我々にとってのワインやコーヒーに相当するその時代の嗜好品、メニューと読み換えればよいわけで、いわば翻案というところですね。

 ああ、ぶじにアイネイアー救出。
 ランプリエール艦長、登場。この人の遠い祖先は、ジャージ諸島出身なのだろうか。
ロールの名前の意味は?

 

★ 否応なしに超光速飛行でぐしゃぐしゃになっては聖十字架によって復活する(おえ)デ・ソヤ神父につきそうスイス護衛兵。

スイス護衛兵:Swiss guards ローマ教皇庁護衛隊の一員、きっすいのスイス人でなければなれない。(リーダーズ英和による)

というのは、どうしてなのでせう。

★ ホーキング絨毯とホーキング航法の名称の違い。

 前者は鷹(hawk)からきているので小文字で始まり、後者はその原理に貢献したホーキング博士にちなんでいるので大文字で始まる、と説明される。

001209(土)

 うっそー、なんていい加減な逃げ方、というかデ・ソヤ神父、はったり(多分)のため隔壁一枚でアイネイアーを取り逃がす。またもぐちゃぐちゃに…。聖十字架こんな使われ方をしていいのか>ほとんどマンガだ。なんだかスカイラークシリーズのノリを思い出してしまう。楽しいっ。『ハイペリオン』のあの格調はどこへ?

 『没落』561頁、web崩壊後「フジでは、達観と諦観ののち、軌道造船所において、ただちにホーキング駆動を装備した量子船の量産がはじまった。」あー、これが書かれたのは1990年。それにしても日本人て28世紀になってもこれかい。

001210(日)

 テティス河の旅はマーレ・インフィニトゥス(無限の海)へ。菫色の果てしない海原から、いつ「あまたの灯の口のリヴァイアサン」が顔を出すか…井上直久のイバラードの1シーン、『ウミヘビ釣り』のシーンを思い出す。アイネイアーによって「崩壊」時の復習。データスフィア…メガスフィア…コア…繋ぐ虚無…うーん、なんかようわからん。


001211(月)

 テティス河下りがそろそろだれてきた頃、いきなり、デ・ソヤ神父は復活したみずからを予想外の場所・パクスに見いだす。彼の知らぬ内に「ラファエル」がパクスにもどっていたのであった。この辺の「破」の意外さはシモンズなかなかのもの。

 ソル・ドラコニ・セプテムでのグラウコス神父、チチャタクは大好きなキャラクター。
 A(アンドロイド)、いや、M(マン)・ベティックに兄弟がいた、というところに、山之口洋『0番目の男』を思い出してしまう。雪魑魅(ゆきすだま)はまるきりスターウォーズのワンパだあ。
 素数のひとたちチチャタクのバンドは、なんとか死なせないで欲しかった。それにしても、どこかの皇帝は、縦穴を落っこちて行くとき盛大な悲鳴を上げたのではなかったか?

 デ・ソヤ神父、ゴッズ・グローヴで、ネメスを攻撃しアイネイアーたちを助ける。やはりネメス=モニータ(あるいはムネーモシュネー)と呼ばれる女(たぶん)だったか。ごめんねどうしてもペプシマンを思い出すのよ>ネメス。
 デ・ソヤ神父かっこ良すぎ。それにしてもぐちゃぐちゃ度はますますすごいぞ(おえ)。
アイネイアーを守り続けるシュライクは結局キーツ人格か?このシュライクの、現れたきり立ち尽くして動かない彫像のような姿、筏に乗ってじっと動かず皆に背中を向けている姿がいじらしい(はあと)。いっぽう、シュライクの戦いぶりはまるっきりアニメだ。

001212(火)

 『エンディミオンの覚醒』に入る。全くの続編である。

 うーにくたらしさいっぱいのネメス、前作でデ・ソヤにより閉じ込められてしまった溶岩の中から、うりふたつの3人の仲間たちに救出される。大天使型恒星船「ラファエル」がプランク空間を通り抜けるショックにもかかわらず彼らが生きているのはなぜか、というくだりで、「三人が生きているのは、じつは不思議でもなんでもなかった。三人とも、人間ではないからである。」と、あっさりと明かされるのには、声を立てて笑ってしまった。
 それにしてもこのシリーズは、視覚化されたらすごいだろうなあと思う。というか読んでいるだけで充分視覚的イメージを喚起させるシモンズの筆力がすごいといったらよいか。決して作品の個々の部分は独創的というわけではないのだが。

 いまや教皇ユリウスとなったホイトの死後、代わりに復活したはずだったデュレ神父はこうして再び死んでいったのだったか。凄惨。ユリウスの死を受けて、辺境で神父の職に自らの平安を見いだしていたデ・ソヤが、再びパクスの軍人として呼び戻される。「泣きたい気持ち」の神父、シモンズひどいぞ。

 

001214(木)

 デスビームで攻撃し合うラファエルとガブリエル。おお、デ・ソヤ神父はどうなった!願・復活!<私的ジレンマ。

 迷宮の奥深くに隠され、また貨物船に積まれた、おびただしい人間の屍体は、一体何なのだ。産院小惑星の惨状は、これは女性の作家だったら書かなかった(書けなかった)だろう。おげー。
 アルベドの正体が明らかになる。

 第2部にいたって、アイネイアーの口から、コアとそれにまつわる細部の謎が語られる。エンディミオン君と一緒に読者はとつぜん5年も時をジャンプしてしまったので、アイネイアーのことはまだ16歳の初々しい少女としてしか思い浮かべられない。

 おしゃべり宇宙船との再会、嬉しい。

 

001215(金)

 無事に逃げおおせたのち大いにパクスに被害を与えるが、またも天山でパクスに撃墜されるデ・ソヤ神父。
 辛うじて神父を含む仲間たちは、天山から逃れてアウスターのもとでしばし一種の幕間。アイネイアーが問答の形で様々な謎に答える。ちょっと都合いいかな、というかよくわかんないぞ。

 今日は「メサイヤ」を聴きに行ったのだが、歌詞である聖書の言葉を見聞きするにつけ、含蓄深く感じられたのは、ハイペリオン・エンディミオン効果に違いない。

 

001216(土)

 ついに読了。続きを書けー!
 ネメスはモニータぢゃなかったらしい。例のペプシマンスーツの外見が似ていたから…?
 バイオスフィア、雲の惑星、天山、マーレ・インフィニトゥス、テティス河、などなど、壮大で一つ一つに魅力たっぷりだ。ヴァチカンの地下に忍び込むところはどこで見た光景だろう。

 宇宙船に別れを告げるシーンでついに涙が。そのあとは、しばしばうるうる状態になる。A・ベティックはいいぞ!やっぱり『ミレニアム』だ。

 シュライクは早贄の木のイメージからはずいぶん変わってきたものだ。不条理な、時空を越えた存在だったものが、ずいぶんわかりやすい行動を取るようになったものだ。その理由はキーツにあり。

 終わって欲しくないと言う思いで読み続けたこのシリーズともお別れ。すっかりはまりこんでしまったので、現実の世界がこの作品の世界ではない、と言う事実が信じられないほどだ。…。

 シリーズまとめて、今年読んだ本のベストに決定!

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Nimh