『考現学』は、今 和次郎(こん・わじろう)師と吉田謙吉(よしだ・けんきち)氏が
関東大震災後の焼け跡の中の東京を歩き、バラックや道行く人々をスケッチしたのがすべての始まりです。
柳田民俗学門下生だった今先生は、過去にベクトルが向いていた柳田民俗学よりも
現代に目を向けていました。そして震災を機に柳田民俗学と袂を分かち、
都市風俗の観察の学問を新しくはじめたのです。
『考現学』の研究対象は非常に幅広く、繁華街を歩く人々の服装、履き物の種類、 職業・年齢の統計から、人が道をどのように歩いているか、どこにむかっているかなどの調査、 ブリキ屋の作品・門柱・雨樋・障子の引き手と風抜き穴、などなどの形をスケッチしたもの、 はては欠けた茶碗のカケ具合、犬の破いた障子なども興味のおもむくまま無差別に観察、スケッチしました。
ここから『生活学』や『風俗学』、そして『路上観察学』が次々と生まれていったのです。
1970年代、美学校で考現学教室を主催していた赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)師ら中心となって発展した 街中の建築物などに付着した無用の長物を観測する『超芸術トマソン』、 藤森 照信(ふじもり・てるのぶ)氏ら西洋館・看板建築探索の『東京建築探偵団』、 南 伸坊(みなみ・しんぼう)氏の街角に張られている張り紙を研究した『ハリガミ考現学』、 一木 努(いちき・つとむ)氏の『建物のカケラ』集め、 林 丈二(はやし・じょうじ)氏の『マンホールの蓋』の調査、 女子高生の制服を観察しスケッチをした、森 伸之(もり・のぶゆき)氏の『女子高生制服ウォッチング』、 博物学者、幻想文学、神秘学研究家の荒俣 宏(あらまた・ひろし)氏などが集まって、 1986年1月27日『路上観察学会』が発足、新しい学問として『路上観察学』が誕生したのです。
しかし『学会』や『学』の名前がついていても、実はその存在自体が既存の「学問」のパロディーなのであって、
そこが『路上観察学』の醍醐味であり、面白さなのです。
『路上』を『観察』する『学』問、
いかにも科学的に物事を研究する学問ではないでしょうか?
人から見たら、何でこんな事を観察・研究するの?という非実用性、非商用性なものを、
学問的に科学的に調査・発表していこうというのが、『路上観察学』の趣旨です。
今日のすべての科学は、まず『観察する』ということからはじまりました。
マスコミの手垢にまみれた『考現学』や、今日の科学の原点でもあり、役割を終えて次第に発展解消していく
『博物学』の誕生したときのように
今一度この現代に、路上を観察したときの面白さ、楽しさを探し求めて…。
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