NTTの策略

Friday, May 04, 2001


   5月1日から電話のマイライン・マイラインプラスが始まった。テレビや新聞広告で各社がさんざん宣伝しているから、名前を知らない人はいないと思う。マイラインは「電話会社選択サービス」、マイラインプラスは「電話会社固定サービス」の愛称との事である。しかし、日本全国の電話に例外なく適用されることなのに、その内容は実にわかりにくい。サービスに申し込むと一体何が変わるのか。


   凡そ15年前、旧電電公社が民営化(特殊会社)のNTTとなり、第二電電(0077)、日本テレコム(0088)、日本高速通信(0070)の新電電3社が市外通話に参入した。

   新電電3社は、他社より安い料金を標榜してシェアの拡大に努めたが、1社が値下げすると他社がすぐ追随、NTTも対抗して値下げという状態。しかも新電電に接続するためには登録が必要で、後で説明するが、当初は交換機の工事費用もかかった。さらに登録しても「0077」「0088」「0070」というアクセス番号を回さなければならない面倒さで、なかなか売り上げが伸びなかった。

   次に新電電3社が取った施策は、自社へのアクセス番号を自動的に送信するアダプタである。さらに販売が自由化された電話機にこの機能を組み込み、第二電電は「α-LCR」、日本テレコムは 「スーパーLCR(後にACRと改称)」の名称で販売した。「一番安い会社を選択する」という仕組みではあるが、料金が同じ場合は自社が優先される。結局料金は各社横並び、組み込まれた電話機の台数でシェアが固定されたようなものだ。ここで、電話機メーカー抱え込みに出遅れた日本高速通信が脱落し、日本テレコムに吸収合併されてしまった。


   当初2000円程度必要だった、新電電へアクセスするための「工事費」とは何か。交換機を工事すると言っても、プログラムの登録を変更する程度で、ほとんど費用はかからなかったと思う。後に無料になったのは、新電電各社が負担したためと思う。工事費はそのままNTTの収入になっているはずだ。

   そして今回はマイラインだ。表向きは「マイライン事業者連合協議会」、すなわち12の電話会社が行っているように見えるが、どこの会社の説明書を見ても、片隅に以下のような文章があるはずだ。

マイラインプラス、マイラインはNTT東日本、NTT西日本が提供するサービスです。

   交換機も、交換機からユーザーの電話機までの回線も、全てNTTの所有物である。それでもマイラインサービスが開始されたのは、完全民営化にむけて寡占を排除するという、政治の圧力のように思う。


   さて、マイラインだが、ここにもNTT (NTT東日本・NTT西日本・NTTコミュニケーションズに分割) 優位の策略がある。一時、KDDIのコマーシャルで「投票しないと、ある会社に投票した事になるらしいよ」と言っていたが、マイライン事業者協議会の説明では、以下のように記されている。

マイラインに登録のお申し込みをいただかなかった場合、「市内通話」「同一県内の市外通話」はNTT東日本、「県外への通話」はNTTコミュニケーションズのご利用となります。

   つまり、マイラインの意味がわからない人、わかっても手続が面倒な人は、そのままNTTを使い続けるわけだ。今まで通りと言えばそれまでだが、新電電各社のハンディキャップは非常に大きい。


   それでもマイラインに新電電各社を登録する人はいるだろう。ここでNTTは奥の手を講じている。ただし合法的な策略だ。

   最近、市外局番が4桁から3桁に変わった地域が多いと思う。たとえば東京郊外の「0423(府中市など)」と、 「0425(立川市など)」が統合されて「043」に変わっている。5月1日に「さいたま市」として発足した旧浦和・大宮・与野各市とその周辺地域も、「048X」から「048」に変わったのは最近である。

   市内通話の地域が拡大すると、隣の市への電話が、自動的に市外通話から市内通話に変わる。市内通話はNTTの占有である。今回マイライン発足で、新電電各社も市内通話に参入したが、交換機はNTTの所有物だから、接続するためにはNTTに「接続料」を支払うことになる。たとえマイラインで他社を指定しても、NTTは収入を確保できるわけだ。もちろん市外通話でも接続料は入る。市内通話は新電電にとって、うま味があまりない。

   さらに、同一市外局番で40万回線を超える場合は、電話の基本料金が上限の2850円になる。40万回線未満より200円アップのはずである。最近3桁に統合された地域は、統合前は40万回線未満が多いのではないかと勘ぐってしまうが、実際どうなのだろうか。


   さらに、新電電5社が「NTTグループは不当な勧誘をしている」と総務省に意見書を提出している現実がある。私も NTTコミュニケーションズからの申込書を郵便で何度も受け取ったが、市内・県内市外の申込み欄にはあらかじめ「NTT」が大きく記載され、その他の会社を選ぶ欄がなかった。KDDI と日本テレコムから来たものは、むろん自社を最優先して記載してはいるものの、その他の会社を選ぶ欄がちゃんと作ってあった。

   5月1日朝、電話が鳴ったので取ってみると、NTT東日本からのものであった。

『マイラインは登録されましたか』
『はい、既に。』
『どちらの会社に登録されましたか。』
『どこの会社か言わなくてはいけないのですか?』
『いえ、そういうわけではありませんが‥‥‥』

   以前にも一度、NTTから電話で勧誘を受けたことがあるが、NTTの営業は各電話局にある。当然、こうした勧誘電話はすべて市内通話であるから、もし電話料金がかかるとしても、資金は NTT内部で回るだけだ。他の電話会社なら、電話で勧誘活動をすればするほど、NTTを儲けさせる事になる。


   さらに、テレホーダイやタイムプラスといった既存のNTTサービスを受けるためには、マイラインプラスに申し込むと、電話機やターミナルアダプタの設定を変更しなくてはならない。変更しないとサービスが受けられないのに、基本料だけを丸々取られてしまう。早目に申し込んで5月1日からマイラインが開始された人はまだわかりやすいが、申込みが遅れた場合はいつ開始するかわかりにくいから、何日分か損をする人も出て来るだろう。それが面倒ならマイラインはNTTに申し込むか、放置して自動的にNTTに申し込んだ事にするか、である。

   結局、新電電各社は、お釈迦様(NTT)の手の中で飛びまわる孫悟空のような状態から、何ら変わっていない。『比べるまでもなく』はNTTコミュニケーションズの宣伝文句だが、これで本当に将来にわたって公正な競争が出来るのであろうか。


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