The Young EARTH

Monday, April 30, 2001


   2001年3月28日というのは、日本の音楽産業にとって大変な日だったようだ。ビッグアーティスト二人のCDアルバムが、同日にリリースされたためだ。

   一人は宇多田ヒカル。日本人離れした感性で、一昨年のデビューアルバムが、初回出荷枚数、累計販売枚数ともに、日本記録を大幅に塗り替えた。待ちに待たれた「HICKY」のセカンドアルバム「Distance」である。もう一人は浜崎あゆみ。感性を大切にした自作詩にこだわり、若い女性のカリスマ的存在にまで登りつめた「AYU」の、初のベストアルバム「A BEST」が、同じくこの日に発売された。

   この日は、レコード店も、レコード会社も、大騒ぎだったようだ。単独でも巨大な売り上げを期待できるアーティストであるから、限られた売り場で、一体どちらにより力を入れたらいいのか悩んだ事だろう。著名な業界誌であるオリコンによれば、結果的には、第1週は未発表の新曲が主の宇多田の勝ち、第2週はビッグヒットを集大成した 浜崎の勝ち、第3週はまた逆転、第4週はまたまた…となっているようだ。第5週こそ タンポポ・プッチ・ミニ・ゆうこ (モーニング娘。の部分集合) に1位を譲ったものの、戦いは当分続くらしい。


   私は、と言うと、翌3月29日にレコード店へ出かけ、店頭に山積みの HICKY AYU も無視して、迷いもせずに奥のコーナーへと足を運び、一枚のアルバムを手にした。それは EARTH のファーストアルバム「Bright Tomorrow」である。才能豊かな二大アーティストの作品を無視したのは私の天邪鬼もあるが、宇多田の細かく震えるような声はあまり好みではないし、浜崎は大半を @music でダウンロード済だ。一方、EARTH の音楽性には以前から注目しており、アルバムが発売されたら絶対に買おうと思っていた。それが偶々同日発売だった、というだけである。


   EARTH という女性3人組のグループを、未だ知らない人も多いことだろう。実は私もよく知らない。YUKA (東郷 祐佳)MAYA (朝長 真弥)SAYAKA (瀬戸山 清香) の3人で構成されたユニットであり、AVEXが主催した九州・沖縄限定オーディションの出身であると、オフィシャルWebサイトに紹介されているが、プロフィールには年齢も誕生日も公開されていない。写真やビデオの様子から判断して、MAYA がやや年長かな、と思うが、多分 3人とも 10代後半だろう。普通ならアイドルグループとして売り出すような娘達だが、そうなっていないのは、音楽性に期待しているからだろう。

   さて、このグループの音楽性だが、Webサイトでは、「WORLD WIDE な GROOVE 感を持つ」と紹介されている。GROOVE って何だ? と辞書を見ても、「溝」としか出ていない。"Groovy" なら古い俗語で「かっこいい」だが、現代語で「ノリがいい」といった意味なのだそうだ。また、「3人とも4オクターブの声域」というふれ込みであるが、4オクターブと言えば、古くは Julie Andrews 、最近では Mariah Carey など、限られた歌手だけである。実際どの歌もせいぜい2オクターブ前後なので、真偽のほどは不明だが、2オクターブも出ない歌手が多い中では、たしかに音域は広いようだ。


   3人の中で、YUKA の歌い方はやや異色だ。まだ技術的に未完成だが、日本語の歌詞なのに開口母音と閉口母音を微妙に使い分ける。さらにテンポや音程を微妙に揺らす。民謡の「こぶし」と似ているが、これが GROOVE 感か。MAYA はややハスキーな声だ。速いパッセージをストレートに歌いこなし、GROOVE感は少し弱いが、現時点で最も安定感がある。SAYAKA は少し声が幼く、まだ力を出し切れていない感があるが、じっくり磨けば大成するかも知れない。


   ここで EARTH の作品群を見てみよう。何でもSonic Groove レーベル (発売元はAVEX) の第1号アーティストなのだそうだ。

CD番号 タイトル 発売日 備考
AVCD16001 time after time 2000.02.23 グリコ「ポイカジ」CMソング
グリコ「ムースポッキー」CMソング
AVCD16003 time after time
〜HIP HOP SOUL Version〜
2000.06.07 NTV系「M-mania」5月度オープニング
AVCD16004 Your Song 2000.11.08 TBS系アニメ「ゾイド」エンディング
AVCD16005 Is This Love 2001.02.07 CX系ドラマ「女子アナ。」 オープニング
AVCD16006 Bright Tomorrow 2001.03.28 ファーストアルバム (全12曲)

   デビュー曲の time after time は、ソロとコーラスという形態で、YUKA の特徴的な声を前面に出した作品になっている。この曲のリミックスは計7バージョンあるが、1st. シングル と 2nd. シングル が同曲というのは、かなり異例だろう。

   Your Song から3曲は、いずれも MAYA を中心に、交互にソロをとる形式になった。先に3人の声質の違いについて述べたが、SAYAKAMAYA は基本的に似ているし、YUKA も高音は SAYAKA と似ている。誰が歌っているかを聴き分けるのも面白い。

   アルバム Bright Tomorrow で、勝手に星取り表を作ってみた。◎は基調となるソロで、曲の印象を決める。○は交替ソロで、時間的にも短い。全体での時間比率は、YUKA : MAYA : SAYAKA = 3 : 6 : 1 程度だろうと思う。

No. Title Y M S No. Title Y M S
1 History of us 7 Is This Love
2 Boys Like That 8 For No Reason
3 I'm Happy We Met 9 Your Song
4 羽根 10 My bright tomorrow
5 Wedding Road 11 time after time
6 wonderful world 12 Is This Love
-stay real to groove remix-

   昔なら、グループで歌えば、コーラス〜ハーモニー〜が当然あった。しかし最近は、交互にソロをとり、一緒に歌ってもユニゾン、が主流のようだ。SPEED も、MAX も、モーニング娘。もそうだ。時代がハーモニーよりメロディ、メロディよりリズム優先になっているから仕方ないのかも知れないが、野球の先発・中継・救援のようなこのシステム、私はあまり好きではない。せっかく3人もいるのに、なぜハーモニーを作らないのだろう。私は EARTH こそ、21世紀の The Tree Degrees になれると思っているので、今後はぜひハーモニーの勉強をしてもらいたい。

   さて、Bright Tomorrow の売れ行きは、オリコンで第1週12位、第2週18位、第3週21位、第4週30位、第5週47位、…。テレビで時々スポットを流しているようだが、デビュー1年目のアーティストとしては健闘している方で、むしろ宇多田や浜崎の売り上げが異常なのだ。3年〜5年経った時点で、EARTH はどのような地位にいるだろうか、楽しみにしておこう。


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