Monday, November 20, 2000
この10月から、「新宿暴走救急隊」 なるテレビドラマが始まった。主演は、 吉本興業 の ロンドンブーツ1号・2号 と、元 SPEED の 上原多香子。若手タレントの人気で視聴率を稼ごう、という魂胆だろう。別に見なくてもいいのだが、解散後一番人気の 上原多香子 が、どんな演技をするのか見てやろう、という野次馬根性でスイッチを入れた。本編は予想通りの学芸会だったが、エンディングテーマ曲が、どこかで聞いた声なのが気になった。
hiro --- 歌声の主は、元 SPEED の 島袋寛子 。1984年4月2日生まれの16歳。 沖縄アクターズスクール の 3人の仲間と共に上京し、テレビ番組の準レギュラーとなって "SPEED" を結成した時はまだ11歳。小学生にしては抜群の歌唱力、と言っていいだろう。しかし冷静に考えれば、それだけがセールスポイントだったかも知れない。
SPEED に関して詳細に解析するならば、今井絵理子 と 島袋寛子 のツインヴォーカル、 新垣仁絵 の斬新なダンス感覚。そして美少女ともてはやされた 上原多香子 が、互いの魅力を補完していたように思う。それゆえ、SPEED の成功は、本人たちの実力をはるかに上回った。プロデュースの勝利と言って良いだろう。
島袋 のヴォーカルは声質も幼く不安定だが、魅力的な高音を持っている。一方、年齢の割には安定した歌唱力を持つ 今井 だが、ここぞという魅力に欠ける面がある。二人の声はハーモニーとしては合わせにくい。そこで SPEED というユニットでは、コーラスがあまりない、交互に歌うソロ、という形態を採用した。これが成功したと思う。私は「二段ロケット」と評しているが、一段目の 今井 をベースに、二段目の 島袋 が高速度発進することで、より高い到達点を得ているのだ。
いずれはグループ活動を終えて、メンバーそれぞれを独立させる、というシナリオがあったのだろう。ЯK (LUNA SEA の 河村隆一 ) がプロデュースした 上原 に続いて、 島袋 は "hiro" の名で SPEED 時代からソロ活動を始め、3枚のマキシ・シングルを発表している。
CD番号 | 発売日 | 曲名 | 備考 | |
1 | TFCC-87038 | 1999/08/18 | AS TIME GOES BYB | ドラマ「天国のKiss」主題歌 |
夏の背中 | ||||
Delicious | ||||
2 | TFCC-87050 | 2000/02/16 | Bright Daylight | 資生堂「ティセラ」CFイメージソング |
忘れられない日々 | ||||
希望の歌 | ||||
3 | TFCC-87062 | 2000/10/15 | Treasure | ドラマ「新宿暴走救急隊」挿入歌 |
Secret Promise | ||||
Early Passed Time To Winter |
並べてみれば、いずれもテレビドラマやCFとのタイアップ。「あの SPEED の…」というネームバリューも手伝って、黙っていてもそこそこ売れる仕組みになっている。
1枚目は、表立った解散の話がまだ無かった時期。SPEED のプロデューサでもある、伊秩弘将 氏の作品である。「SPEED とは別次元で、島袋 の可能性を探る」 というテーマだったのだろう。3曲それぞれ曲調を振ってあるが、初めてのソロだからかあまり冒険はせず、無難な曲ばかりだ。島袋 も安心してそつなく歌っている。「今井 のアシストが無くても歌える」 という自信がつけば、所期の目的は達成されたのだろう。
2枚目も、すべて伊秩弘将 氏の作品。伊秩 氏はとりわけ島袋に傾注し、大きく育てようとしていたように思われる。だが、一人のプロデューサに偏っては、大きく育つものも育たない、そんな限界も感じられる。録音はおそらく解散騒動の真っ只中。「解散の原因は 島袋 の異性関係」などと書き立てられた時期だ。心理的な不安定さが散見され、歌いっぷりはあまり誉められたものではない。 "Bright Daylight" は高音域の拡大が一つのテーマと思うが、ブレスが浅く、喉だけで歌ってしまっている。ヴィブラートもファルセットも不安定だ。こんな発声で、よく全国ツアーで喉を潰さなかったものだと思う。
3枚目で、作品は初めて 伊秩 氏の手を離れた。解散後の半年間、ゆっくり充電していたと聞く。ブレスは十分安定し、ファルセットから地声への戻りも自然に行えるようになった。素人っぽかったヴィブラートも影をひそめ、成長の跡が伺える。欲を言えば、音楽の表情がまだ硬い。"Treasure" の緊張感は適度だが、"Early Passed Time To Winter" など、もう少し肩の力を抜いた方が良いと思う。曲の雰囲気、詩の心をいかに表現するか‥‥‥彼女の次のテーマになりそうな気がする。
気がつけば、島袋 と Mandy Moore (1984年4月10日) は、1週間しか違わない。世界的なヒットシンガーとなったフロリダの16歳に比べると、沖縄の16歳はどこか幼い感じがする。
思うに、歌が好きで歌手になることに憧れた、ごく普通の少女の夢は、あまりに早く実現し過ぎた。肉体的にも精神的にも未熟な状態で、ビジネスとして歌を歌う --- 人生経験も少なく、わけもわからぬうちに頂点を極めたことは、島袋 にとって、必ずしも幸福ではなかったと思う。ミュージシャン、いや人間として、友達と遊び、世界を知り、人生に悩む、といった経験は宝物だ。早熟なゆえに、かえって遠まわりをしたようだ。
島袋 に今一番必要なのは、一途に流行歌手の道を突き進む事ではなく、野の花に心を寄せ、夕日を愛おしむ余裕だと思う。素直で大人しい、しかしきわめて感受性が強いだろう事は、その歌い方からも推察される。だが自分の意思で歌の心を伝えられるまでには、もう少し時間が必要だろう。3年後、5年後の島袋 --- "hiro" よりは "島袋寛子" の方が個性的で良いと思う --- の成長を、楽しみに待ちたいものだ。その時でもまだ20歳前後。十分に若い。ゆっくりと歩を進めてくれれば良い。
This page was updated on Wednesday, November 22, 2000
Copyright © 2000 Toshiyuki Kato