Gevrey chambertin

1997.4.6
Noelle

大人のよろこび

どきどきしながらグラスを口にもっていくと,薫りはいいのになんだか物足りない,捉えどころのない味がする.Naoが形容して,「寝惚けた味」.
やっぱり保存状態かなーこちらの味覚が役不足なのかなーそれともいい葡萄酒の味を知らなかっただけかなー,なんて,互いに相手の反応をちらっと見たりして,
というのがGevrey chambertin, Louis Latour 1986のひと口目だった.
それから料理をひと口,お喋りを少々,二度目にグラスを口に運ぶと,奇妙なことに味が違う.それからお喋り,料理,もうひと口.
確かに変わっている.
どんどんワインが目覚めている.
濃くなって,深くなって,舌の上で息をしているみたいなのだ.
葡萄酒は生き物だ,っていうのはこういうことなんだ,とわかった.

瓶の底で眠っていたものが,息をつき,ちょっとのびをして,それから開花する・・・

《ところが,ある日の朝,ちょうどお日さまがのぼるころ,花は,とうとう顔を見せました.なにひとつ手おちなくけしょうをこらした花は,あくびをしながらいいました.
「ああ,まだねむいわ・・・.あら,ごめんなさい.あたくし,まだ髪をといていませんから・・・」》(サン=テグジュペリ『星の王子さま』,内藤 濯訳)

大人の愚かさを痛いほど手厳しく描いたこの本が,一方で「成長しなければわからないこと」を同じ痛切さで描いてもいる,ということに気づいたのは最近のことだった.

《・・・ぼくは,どんなことになっても,花から逃げたりしちゃいけなかったんだ.・・・だけど,ぼくは,あんまり小さかったから,あの花を愛するってことが,わからなかったんだ」》

で,話を戻すと,この葡萄酒のディープなおいしさを見つけられるなんて,大人になって本当に良かったね,と語り合ったのだった.
それから,デキャンタも買わなきゃね.

INDEX

Copyright: Nao and Noelle
Comments and Questions: web master