機動戦士ガンダム 第08MS小隊

題名・内容
 
OVA全題名・内容一覧

第1話〜第11話、映画
第08MS小隊の題名及び内容概略一覧です。


第1話 二人だけの戦争 U.C.0079。アジア戦線、最前線の連邦軍基地。後任者が何時来るともわからない小隊長を待つ、08小隊のカレン・ジョシュアは自機を整備しながらも、ちっともまじめに働かないエレドア・マシスをなじっていた。
その08小隊の小隊長となるシロー・アマダはサイド2から地球へ向かうシャトルの中で、地球を見ながらはしゃいでいた。一緒に乗っていたミケル・ニノリッチは、そのシローの様子にあきれていた。そこに突如外が光るのに気づくミケル。それは戦闘時の爆発による光であった。外ではジムと改良型のザクが戦闘を繰り広げていたが、ジムは被弾しており救難信号を出していた。シローは戦闘支援をシャトルのパイロットに提案したが、このシャトルでは戦闘支援はできないと拒否される。だが、シャトルに積んであるボールを使って支援に出ることの許可をもらい、戦闘支援のために発進する。
残骸を盾にしてゆっくりと進むシローのボール。その先にはサンダースが操っている被弾したジムがいた。「くそー、弾さえあれば。俺の悪運もこれまでか。」物陰でジムの様子を伺うMS-06Rに、背後からこっそり近づくボール。「動くなよ。」だが、シローのボールは発見されてしまう。ボールに銃弾を浴びせかけるザク。だが、シローはワイヤーを使ってザクをグルグルと締め上げていく。それに気づくサンダース。サンダースに退避するように通信を送るシロー。「動けるなら退避しろ。月側8時の方向に輸送艇が待機している。」そちらの方向を確認するサンダース。「そんなものでは無理だ。俺に構うな。」「強がりを言うな。速く行け。」ザクを縛り上げ、ボールをザクに密着させたシローは、ザクのメインカメラ目がけてランチャーを何発も撃ち込む。だが、ボールも既に稼働不能。「くそー」とコクピットハッチを開け脱出しようとするシロー。そこにザクのパイロットも脱出しようとしていたのに気づく。シロー脱出と同時にザクとボールは爆発。2人とも同じ方向に流される。残骸にとりついたシロー。「確かに女だった。」そこには銃を構えたアイナ・サハリンがいた。
サンダースは輸送船にたどりついていた。シローを助けにいくため緊急で修理を急がせるサンダース。ミケルの無駄口に激怒し、宇宙に突き飛ばすサンダース。
シローが流れついたのは連邦軍の戦艦の残骸だった。生きているエリアを発見し、その中へと入り込むシロー。そこで、同じように入り込んでいたアイナと鉢合わせになる。銃撃戦になる2人。「こんなことをしていたらエアーが無くなる。一か八かだ。」シローはアイナ目がけて突進する。アイナは銃の弾を切らせ、シローに投降を宣言する。アイナを立たせようとするシロー。怪我しているアイナを治療するため、生きているエアロックに連れ込む。従わないアイナのヘルメットを強引にこじあけ、腕の治療をする。「なぜ助けるのです。」「俺だって知らないよ。」「諦めてはいけない。生き伸びることだけを考えるんだ。」その言葉に観念したかのようなアイナ。見つめ合い続ける2人。
エア消費量を抑えつつも、2人は連絡をつける手段を探していた。「では、ここに10分後。」2人は手分けして生き延びる手段を探すことにした。だが、シローの時計は壊れている。アイナは自分の時計を手渡した。「私のプライベート用です。」「凝っている時計だね。」「乱暴に扱わないでください。」「わかっているよ。」「では、急ぎましょう。」シローはミサイルを使って爆破させ、自分達の位置を知らせることを思いつく。
「花火を打ち上げる?」「そうだ。爆発を見つければこの場所を特定できるだろう。」「よくこんなことを思い付く。」2人でミサイルを外に運び出す。「遅延装置は3秒後にセットしました。」「できるじゃないか。」「花火師になれるかしら。」その言葉に思わず笑うシロー。ミサイルはマゼランに当たり、爆発を起こす。「本当に花火みたい。」
宇宙空間を漂う2人。「震えて、いるね。」「これでも誰も来てくれなかったら、ここで死ぬのね。」「助けは来るさ。絶対に来る。」2人の眼下に広がる地球。「俺、あそこに降りるんだ。」「何のために。」「それは戦争なんだろうけど。俺、あそこに行けば何かわかるような気がしてさ。自分が何者で、何ができる奴なのか。だから絶対に死ねないんだ。」「あなた、私が聞いていた連邦軍のイメージとはずいぶん違う。うらやましい。」「うらやましい?」そこにジオンの捜索隊が現れる。「行きましょう。」「捕虜にはなりたくない。」「でもここに居ても。見殺しにはできないわ。」「こっちの助けもくるさ。」「でも。」「早く行けよ。」「私、アイナ・サハリン」「アイナ?俺、シロー・ハマダ」「さよならシロー」ザクに回収されたアイナを見て、シローは時計を返すことを忘れていたのを思い出した。「アイナ、時計を。アイナ。」突然ザクが攻撃態勢をとるのに気づくシロー。それはサンダースのジムが近づいていたからであった。「彼らには攻撃力は残されておりません。帰投してください。」アイナの言葉に帰投するザク。
シローは、シャトルに戻りただ眠っていた。ミケルはあの状況下で生還したことにえらく驚き、ガールフレンドBBへの手紙を書き直そうとしていた。そこに現れるサンダース。あわてて敬礼するミケル。「実は、先ほど辞令が届きまして、自分も軍曹殿と同じ隊になります。よろしくお願いします。」サンダースは自分がやっかい払いされたことに気づき、悔しさがこみ上げていた。さらに言葉を続けるミケル。「で、第08小隊の隊長は、あの人です。」シローを指さすミケル。この人なら俺のツキを変えてくれるかもしれない。サンダースはシローに敬礼する。
そんなとき、ギレン・ザビのガルマの葬式での演説が始まる。息上がる連邦軍兵士。ミケルも言う。「そうともジオンなんか地球から追い出してやる。」そんなときに目を覚ますシロー。自分が握っていたアイナの時計を見つめるシロー。
第2話 密林のガンダム 第08小隊はエレドアの運転するバギーで、基地に移動中であった。カレンに話しかけるシロー。「えっと、君。なんて名だっけ曹長。」「はあ、カレン・ジョシュア曹長であります。」「君、ここ長いのか?」「かれこれ3ヶ月になりまが何か?」面倒くさそうに答えるカレン。「いや、別に他意はない。まあ、よろしく頼む。」その眼前に移動する陸戦型ガンダムの姿が目に入る。「俺もあれもらえるんだ。すげえ。」思わず感嘆の声をあげるミケル。
コジマ部隊長の前に着任挨拶をするシロー。部隊の連中はシローの着任前の活躍と、その時に拾ってきた死神サンダースの噂をしていた。コジマ部隊長の話が終わり、カレンの指示の元に部隊が動き始める第08小隊。任務は第06小隊の支援である。シローは自分の乗るモビルスーツを前にして、気合いを入れていた。てっきりモビルスーツをもらえると思っていたミケルはエレドアの支援と聞き、がっかりしている様子。
そんな頃、コジマ部隊長が話していた、ジオンの前線基地。ギニアス・サハリンの元に妹のアイナが到着していた。
第08小隊出撃を前にシローは訓辞を言っていた。「絶対に死ぬな。」と述べるシロー。解散し、「よく言うよ」と軽蔑しながら自分のガンダムに乗り込むカレン。エレドアもお手並み拝見といいながら、出撃準備を進めていた。シローがトップを取るとの言葉がいささか心外なカレン。一応は従って出撃するが、いちいちシローにつっかかるカレン。無線封鎖をし、防衛ラインを突破した早々、戦闘の光を見つけるミケル。エレドアの照合によりザクと判明。それを聞き、「今から突いてみる」と単身ガンダムを先行させるシロー。「陽動する気?そんな腕があるのか?」とサポートに出るカレン。シロー目がけて砲撃を開始するザク。シローは宇宙と勝手が違う動きとまどっていた。「重い。」よろけるガンダム。「着任早々死ぬきか?」カレンがシローのガンダムを押し倒し、ザクに対し発砲する。「ライトを消して。」「ジョシュア曹長。なんのつもりだ。」「無茶です。あなたの腕では無理だと言っているんです。」「何?君は俺を侮辱する気か。」「どうとらえようと結構です。」のぞき込むザク。「あいつは俺が必ずしとめる。見てろ。」ガンダムを立ち上がらせるシロー。「敵と渡り合うのは無理だと。上等だ。」
その動きはエレドアの方でもキャッチしていた。「甘ちゃんがザクを追ってる。あのカレンがケツについたぞ。」そこにシローから入った連絡を読み上げるミケルの声。「敵を追い込みつつ、防衛拠点外に追い払うとの事です。」インカムをとりつつミケルに指示するエレドア。「なんてこった、偉いことですよ、これは。軍曹に連絡だ。」
サンダース軍曹はバズーカ装備を確認して、動向をうかがっていた。そこにザクに追っていく、シローのガンダムが見える。「隊長!近すぎる」サンダースの方に接近する別のザク。サンダースは装備をビームサーベルに変更し、ザク目がけてビームサーベルを突き刺す。コクピットを突き、沈黙するザク。「ジムとは桁違いだ。こいつがガンダムか。」それを見て、シローは先ほどのザクを探し始める。「あいつはどこだ。」「隊長、深追いは危険です。」シローのガンダム目がけてバズーカを発射するザク。だが、ザクの右腕をライフルで破壊。「やったぞ。」と言った瞬間、ザクのクラッカーによりモニタをやられてしまう。「どこへ行った?」ザクを取り逃がすシロー。
戦闘はひとまず落ち着いたが、シローが行方不明になっていた。シローはザクに気をとられているあまり、迷子になっていたのだ。更にナビゲーションシステムも故障。水も底をつきてしまった。ガンダムから出て、周囲の状況を確認しに出るシロー。愚痴をこぼしながら、水を求めて歩き回るシロー。ようやく水場に出たシロー。一息をつき、気持ちよさそうなシロー。そこに突然水浴びをしていたキキの裸体が現れる。驚くシロー。だが、何も気づかず泳ぎ続けるキキの姿をぼんやり眺め続けていた。
ギニアスはアイナに実験機をなぜ失ったのかを問う。「成り行きですわ。」と答えるアイナ。話を切り返し、アプサラスの事を聞くアイナ。「まもなくプロトタイプが完成する」と答えるギニアス。「とうとう実現するのですね。お兄様の夢が。」「もはや夢ではない。あれを戦線に投入し、戦局を一変させてやる。」「ここに来る途中、ギレン・ザビ閣下の演説を聞きました。私、お兄様のお力になる。」そこに鳴る時計の音。「いけない、お兄様、そろそろお薬の時間じゃなくて。」慌てて立ち上がるアイナ。「ああ。」
それに呼応するかのようにアイナの時計が鳴り、慌てるシロー。当然気持ち良く泳いでいたキキもそれに気づく。「いや、俺別に。」キキは対岸に向かい、シロー目がけ銃を発砲する。「連邦のパイロット?」にやけるキキ。そこから逃げ出したシローは、鳥が不自然に飛び立つのを発見、そこにザクがいることを確認した。「夕べのあいつだ。」
一方、シローの帰りを待っていたサンダース、カレン。「軍曹。交代要員が来た。ここまで待てば良いだろう。」カレンは苛立ちを抑えながらもサンダースに聞く。「いいえ、隊長の指示なしでは動けません。」頑として動こうとしないサンダース。「融通の利かない奴だな。」「隊長には個人的な借りもあります。」「小隊つぶしの死に神サンダースか。」「何?」「あんたの戦歴、見せてもらったよ。ジムで6機も撃墜したんだって。ツキさえあれば今頃、士官にだってなれたんだろうが、今は私が上官だ。従ってもらう。」「しかし。」「隊長が生き残れと言ったんだ。帰投する。」ガンダムを機動させるカレン。
シローは潜んでザクの接近を待っていた。「落ち着け、落ち着けよシロー。下手には下手なりの戦い方がある。早く俺の視界に入ってこい。」接近するザク。「見てろよ。俺にだってできるってことを。」正面に来たザクを茂みより速射するシロー。なおもヒートロッドを振り上げて向かってくるザク。シローはとどめとばかりにザクにライフルを浴びせる。ようやく動かなくなるザク。「できたじゃないか。」ようやく帰投するシローのザク。基地の第08小隊の面々は、既に隊長は戻ってこないものと思いこんでいた。そこに隊長の帰投。「この運の強さに賭けてみるか」サンダース。「モビルスーツの性能に感謝するよ」カレン。シローはうたた寝をしながらの帰還であった。
第3話 信頼への限界時間
(タイムリミット)
密林の中でザクを撃破していくシローのガンダム。確実にその腕は上がっていた。「訓練の成果が出てきたようだな。」シローの戦果を見て褒めるカレン。突然現れ、カレンのガンダムに迫るザクも撃破するシロー。だが、第08小隊は敵に捕捉されてしまったようだ。着弾が確実に隊そのものに迫って来た。「散開して撤退だ。作戦を立て直す。」
ジオンの作ったトーチカを見ながら作戦を検討するシローとカレン。地図を見ていたシローは滝があることに気が付く。シローはこの滝より奇襲をかけることを思いつき、3時間後に攻撃を開始することを約束する。そしてカレンに部隊の指揮を任せるのである。「念のために申しておきますが、攻撃に持ち耐えられるのはせいぜい1時間。」カレンの言葉である。「わかっている。曹長以下4名は、15:00にハイウェイ高架下に前進、待機。時と待って総攻撃をかけろ。以上だ。」「ゲリラなんかにとっつかまんなよ。」というエレドアの言葉を後に残して、シローは斜面を下っていった。
シローのガンダムをこっそり見ていたのはキキである。「あいつだ。」何か嬉しそうなキキ。「いるわけないよな?」そう言いながら、装備を点検していたシローは、メインモニターに大写しになったキキを見て驚く。コクピットを開けた瞬間、ゲリラに取り囲まれ、ガンダムから引き出される。はしゃぐゲリラ達。それを抑えるキキ。「お前、私が欲しかったんだろ。」そういうキキに、シローは「お前はまだ子供だろ?」と言い返す。その言葉に平手を食らわせるキキ。「あんた、じゃあ何であのとき、なぜ私を見てた。」「なんでって、綺麗だったからさ。」意外な返事にとまどうキキ。「君たちに付き合っている暇は無いんだ。返してくれ。」そう言った瞬間、シローは殴られ気絶する。
シローは捕虜として村に連行される。連れてこられたのはキキの父親、そしてゲリラのボスのところである。時間がない。今は作戦行動中だ。と言い張るシロー。トーチカを潰すのはあんた達ゲリラにとっても有利なことだろうと説得を続けるシロー。だが解放してもらえないシロー。「初めて持った部下なんだ。まだ多くを知らない仲間達を死なせたくないんだ。行かせてくれ。」その言葉にキキは「こいつを使ったら、あの村を解放できるんじゃない?あの村には私たちの仲間がいる。この際、ジオンの奴らにいいようにされるより。。。」その言葉を待っていたかのようにシローは村の解放を約束する。そして薬品の補充も。キキの父親は、軍人の言葉は信用できないと言いながらも、「ここは一つ休戦といきますか」とシローを解放した。キキはシローに帰り道を教えるため、一緒にガンダムに乗り込む。喧嘩をしながらもあと30分しかないという焦りで、ガンダムを進ませるシロー。「近道はないのか」という言葉に、「川に沿って進むしか」とアドバイスするキキ。そのアドバイスを取り入れ、川の中を進めるシローのガンダム。
第08小隊は既に作戦を開始していた。攻撃を開始して30分。だが、シローは未だ現れない。現れないシローに業を煮やすカレン達。そこにノリスの乗る戦闘ヘリまで現れた。「もうこれ以上は無理だ。ハイウェイ高架下まで下がる。」カレンがそう言った瞬間、山の上で火の手が上がる。「ふん、待たせてくれるじゃないか。」
川の中からの攻撃で、弾薬庫を撃破させたと喜ぶシロー。「あんた本当に少尉か?」とシローを笑うキキであったが、ここまで来た手前最後まで付き合うことを約束する。ゲリラ達の手も借り、現れたザクを始末していくシロー。ノリスはゲリラ達が現れ、村が奪取されるのも時間の問題と感じ、撤退を命令する。そして自分は時間稼ぎのため、ザクに乗って出撃する。
村にたどり着いたカレンはゲリラが混じっているのに疑問を感じる。そこにシローから入電。「村を解放する。民間人には特に注意しろ。」「了解。」シローの眼前に現れるノリスのザク。川の中で乱闘となるシローのガンダムとノリスのザク。なんとかノリスのザクに一撃を食らわしたが、キキの「逃げちゃうよ。」の言葉に従えるほど無事ではない状態であった。
村は解放された。ゲリラは戦利品を根こそぎかっぱらって行った。村人に感謝もされず、ゲリラからも邪険に扱われ泣きが入るミケル。「隊長。」そこにカレンが報告しに現れる。「捕虜護送車両の手配できました。」「ご苦労。」「しかし、この有様。」「こいつら何とかしてくださいよ。」再び泣きを入れるミケル。「約束したことだ。彼らの気の済みようにしてやれ。構わないだろう。ジョシュア曹長。」「ああ、いえ、カレンで構いません。」「今日は遅れて構わなかったカレン。」カレンの元から離れたシローに、茶々を入れに来るキキ。「シロー、彼女?時計の持ち主。」「違う。絶対違う。」それを微笑むながら眺めるカレン。「あの男がゲリラを動かしたのか。」
第4話 頭上の悪魔 秘密裏に進むアプサラスのテスト。高々度での飛行試験を試すアイナ。「これが、お兄様の夢。」
サンダース軍曹は、整備中にからかいに来た部隊の連中と喧嘩をおっぱじめてしまう。一緒に整備していたミケルはあわててシローを呼びに行く。サンダースを3人でなぶっていたことが卑怯だと、自ら戦いの輪に入っていくシロー。そこにコジマが現れ、喧嘩はおさまる。その様子を見ていたカレンはあきれ顔である。
アプサラスの試験飛行がうまく行ったとのことで、ギニアス達はパーティを開いていた。ドレスアップしたアイナも登場。パーティーは盛り上がるかに見えたが、ユーニ・ゲラーネの登場でパーティーは台無し。ゲラーネが苦手なアイナはパーティーを中座し、外に出る。
サンダースは突如シローに転属を申し出る。驚くみんな。理由は「みんなを死なせる訳にはいかない」ということ。それを聞いて怒るカレン。サンダースを殴り、「それじゃ、自分で死に神と認めたようなものだろう」と言い放つカレン。痛さを我慢しながらもサンダースは3度目の出撃で、自分がいた部隊は自分を除きことごとく全滅しているというジンクスを気にしていたことを吐露する。だが、行動中の転属は許さないと言い放つシロー。サンダース軍曹が抜けた後、シローはひとりぼやく。「まったく生き延びるなら信じ合わなきゃ。」「はあ」と聞き返すミケル。「信頼だよ。」寝転がるシロー。
続くアプサラスのテスト。アプサラスの状態がおかしい。テストを継続させるため、ギニアスは防衛ラインのかき回しを命令する。この影響がシロー達の第8小隊にも出る。おかしな戦線に毒を吐くシロー。「来い、サンダース軍曹。」だが、サンダース軍曹の気は重いようだ。アプサラスは高度がとれなくなっていた。高度が維持できず、下がり続けるアプサラス。そのアプサラスを察知させないようにするために防衛ラインの攪乱を急がせるギニアス。
シロー達は敵が誘っているかのような戦いをしていることに気づく。カレンもその敵の戦い方が気になって仕方がない。そこにエレドアがミノフスキー粒子の影響を受けながらも、かすかに聞こえる敵の無線を傍受した。何かがこちらに向かっているようである。シローは決断した。「よし、俺たちはここでそいつを待ち受ける。各員、体位を低くしろ。」茂みに隠れ攻撃態勢のまま待つ第8小隊。着々と近づく何か。それはかなりでかい物だと報告するエレドア。「来たぞ。」エレドアの知らせ。「やり過ごせ」命令するシロー。ドップが頭上に現れる。突然の発砲。「誰だ?」怒るシロー。だが、既に時遅し。それはミケルであった。「聞いてるか軍曹。私は死なないよ。見てるんだな。」カレンはガンダムのバーニアを吹かし、機体をジャンプさせた。ドップを見事撃墜させるカレン。「見たか、ぐんそ・、ん?」現れる巨大なアプサラス。アプサラスに押しつぶされるカレンの機体。地上へと吹っ飛ばされる。シロー達の頭上に現れるアプサラス。「で・でけえ。」「なんだこれは?」アプサラスがゆっくりと通過していく。
カレンの機体にドップが攻撃をしかけてきた。盾になるサンダース。サンダースは何とかそのドップに軽傷を負わせる。そのドップはノリスが乗っている機体であった。ドップに近づくアプサラス。「申し訳ありません、アイナ様。」「帰投できそうですか?」声をかけるアイナ。「自分は大丈夫です。アイナ様こそ離脱してください。」「いえ、私が援護します。その間にあなたは離脱を。」アプサラスでの攻撃を開始するアイナ。ふっとぶ第8小隊の各機体。「死なせはせん。誰ひとりとてしなせはせんぞ。」アプサラスに向けバズーカをぶっぱなすサンダース。「どうだ?」だが、アプサラスにはそんな攻撃は効かない。「ぬうぉー」ビームサーベルを抜き、アプサラス目がけて特攻をかけるサンダース。「なんて無謀な」アプサラスを斬りつけるサンダース。「俺は、俺は死に神じゃない。」だが、アプサラスの磁場ではねとばされるサンダースのガンダム。「負けるものか。負けるものか?俺は、俺は負けんぞ」横たわるガンダムに接近するアプサラス。そこにシローとカレンのガンダムの掃射。「撃て、打ち続けろ。銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ。」姿勢維持が難しくなったアプサラス。そこにノリスの無線。「アイナ様、これ以上の接近は危険です。速やかに離脱を。」アイナはその言葉を聞き入れ、アプサラスを離脱させる。
「よくやったぞサンダース。」嬉しそうに声をかけるシロー。「ははは、私は生きて居るぞ、軍曹。」高笑いをするカレン。「ああ、生きている。」つぶやく軍曹。横にひっくり返った装甲車からはい出てくるミケルとエレドア。「助かった。」「まぁ、何とかな。」「もちろんだとも。ジンクスなんて吹き飛ばせるんだ。信じ合うことができればな。」
第5話 破られた待機命令 補給調達のためにエレドアとミケルは前線基地に立ち寄った。ニッカード大尉がうまそうに食べる食事を欲しがるエレドア。そこでエレドアを待っていたのは、エレドアが作った曲のメジャーデビューの知らせであった。エレドアはすっかり浮かれて、ミケルを誘い、近くの村へと出かけて行った。ところが入った酒場は荒れ放題。「どうなってるんだ。」とエレドアが言った瞬間、後ろから銃が突きつけられる。その村はジオンが制圧していたのである。アプサラス修理のために。
エレドアとミケルがいなくなったことを知ったシローは、サンダースを残し、カレンと2人で探索に出発する。
熱がある子供を隣村の医者のところに連れていくのを許さない歩哨や、捕らわれたエレドア達が拷問されているのを知り、気が気ではないアイナ。不愉快さを感じ、アプサラスに戻っていく。アイナが借宿にしようとしたホテルでは、エレドア達の拷問が続いていた。エレドアの答えがはっきりしないという理由で、地下倉庫に監禁されてしまった。明日には銃殺になるのではおびえる2人。そんな時、ある老婦人が差し入れを持って現れた。「さあ、希望を捨てない限り、生きる望みは永遠にありますからね。」とパンを差し出すマリア。そう言って、地下倉庫より出て行ってしまう。
シローはエレドア達が監禁された村にたどり着いていた。シローはそこでザクを発見。その村がジオンの制圧下に置かれていることを知る。カレンに連絡をするシロー。別の場所で様子を伺っていたカレンは誰かが接近して来ていることを感じる。近寄ってくるバイクを、ナイフ片手に襲うカレン。ヘルメットを奪い取った瞬間、「お前?」と思わず声をあげるカレン。その襲った相手とはカレンも見覚えのある相手、キキであった。
エレドアは何とか脱出をしようともがいていたが、それも無駄に終わる。エレドアはせっかくメジャーデビューへの切符を手にしながら、銃殺になろうとしている運命を呪っていた。その落ち込みように励ます言葉もないミケル。あまりに勝手なことを言うエレドアに対し、「こうなったのはそもそもエレドアさんのせいでしょ?」と逆ギレをするミケル。ついに喧嘩を始める。ついには殴り合いの喧嘩になる。その騒々しさに、見張りの兵が思わず止めに入る。ところが、興奮しているエレドアのパンチが顔面に入り、見張りの兵士は気絶。我に返った2人は、倉庫の扉が開いているのに気付き、すぐにそこから逃げ出す。
森を進み逃げる2人。だが、そこには修理を終え、まさに飛び立とうとしていたアプサラスがあった。発進時の強風に体を支え、こらえる2人。「あれは、ジオンの新型。」エレドアの見つめる先には離陸したアプサラスがあった。そのアプサラスの機影は、シローも捕らえていた。「見て、シロー。」キキの言葉に離陸したアプサラスを確認するシロー。「こんなところに隠れていたのか。敵兵力が不明につき攪乱戦法で行く。」カレンにそう告げ、ライフルを撃ちまくるシロー。エレドアとミケルは流れ弾に当たらないように、早くここから立ち去りたくてしょうがない。そこにザクタンクを見つけるミケル。だが、エレドアはモビルスーツのコクピットが苦手で、絶対にザクタンクに乗り込もうとはしない。何とかミケルに押し込まれたものの、決してハッチを閉めようとはしないエレドア。そこをジオンの兵に見つかり機銃掃射を浴びるザクタンク。ハッチを閉めないコクピット内を銃弾がはね回り、エレドアは左足と左肩を負傷してしまう。それでもミケルに操縦を代わったらハッチを閉めることを恐れ、絶対に代わろうとしない。「エレドアさん、代わってください。これ以上は無理ですよ。死んじゃいますよ。」「うるせー。俺は帰るんだ。生きて帰ってやる。そして、メジャーデビューだ。」どうにかジオンの装甲車を叩きつぶしたものの、そこで力尽き、気絶するエレドア。「エレドアさん、しっかりしてください。エレドアさーん。」
「痛てー。足が痛てーよ、腕が痛てーよ、体中痛てーよー。俺はミュージシャンなんだぞ。腕を切るな。」暴れるエレドアをミケルとサンダースの2人がかりで押さえ込む。カレンはナイフを火で焼き、消毒の真っ最中。「黙れ。何が偵察行動だ。勝手なことばかりして。ミケル。しっかり抑える。」ナイフにびびるエレドア。「待てよ。麻酔ぐらいしろっていうんだ。」「黙れ。」エレドアの顔面を殴るカレン。気絶するエレドア。カレンの緊急手術が始まった。
シローは本部にエレドアの送還の指示を仰ぎ、そしてニッカード大尉と話を始める。「奴も命拾いしたな。」「カレンが元医学生だったなんて。」「旦那も腕のいい軍医じゃったが、信じまった。」そんな話をしているところにマリアが近寄ってくる。「あの大尉さん。消毒薬が足りませんの。」「は、はい。すぐに持って来ますです。」「いいえ、とりあえずこれを使いましょう。」マリアに手を握られ、赤くなる大尉。「マリアさん、何から何まですみません。」「いいえ、日頃お世話になっているのは私の方ですの。こんな時お役に立てて嬉しいですわ。」「さあ、早くそれをカレンのところへ。さあ。」「すてきな方ですね。」「最上級のご婦人じゃよ。」照れて帽子で顔を隠す大尉。
シローはミケルに張り手をくらわす。「これだけは言っておく。8小隊はチームで動いているんだ。各自の勝手な行動で隊が全滅することだってある。」「申し訳ありませんでした。」「しかし、無事で良かったな。今日はもう休め。」優しい言葉をかけ、立ち去るシロー。目から涙の止まらないミケル。エレドアに付きっきりのカレンのテントを訪ねるシロー。「どうだ?」「隊長。後は熱が下がるのを待つ。」「今日はご苦労だった。後は頼む。」テントを後にするシロー。エレドアはうなされている。「俺の腕、俺の指。俺、メジャーデビューしたんだぜ。」「こいつ、そんなに音楽をやりたいのか。」思わずつぶやくカレン。そこでエレドアが目を覚ます。「死にたくねえよ。」「もう、大丈夫だ。お前は死なないよ。」カレンの前で手をかざすエレドア。「俺の腕。」「ほら付いてるだろ?2本ともあるよ。」その腕がいきなりカレンの乳房をつかむ。「何をする。」赤くなるカレン。「女神だぜ。」そう言って再び気を失うエレドア。翌日、エレドアは後方の野戦病院にニッカード大尉のジープで送られて行った。カレンのことを冷徹女と罵り、絶対に礼を言わないと言い張っていたエレドアであったが、遠ざかるにつれ、痛い体を起こしながら、ずっとカレンを見つめていたのであった。
第6話 熱砂戦線 シロー達第8小隊はジオン射爆場と推定される地点を発見。調査のために近くに向かっていた。その途中でシローの機体は左足がおかしくなる。先にカレンとサンダースを行かせ、ミケルと2人で修理に取りかかっていた。ミケルの判断ではフィルターが既に不良になっているとのこと。交換部品を要求するミケル。だが、シローはカレン達の調査結果を確認し、色々と思案を巡らせていた。その射爆場に案内したキキは、そこが射爆場に間違いないということを聞き、鼻高々。シローはキキに案内してくれた礼を言い、帰らせようとする。だが、帰ろうとしないキキ。シローは修理に戻ったが、服を歯車に巻き込まれてしまう。そんなことが起きていることすら気づかず、BBから来た手紙を読みふけっているミケル。キキがいてくれたお陰で、なんとかシローは助かった。どうもBBからの手紙は良くない内容の様子。「まずいよ。BB。」先ほどまで読んでいた手紙を見つめながら、つぶやくミケル。
シローとミケルは先行したカレンに合流し、本格的に調査を始める第8小隊。みんなが「ミケル、ミケル」と指示を出すことに対し、ぼやきながらも任務をこなしていくミケル。だがミケルはBBの事を考え、今ひとつ集中力に欠けていた。シミュレーターを使い、仮想アプサラスの攻撃パターンを練る第8小隊。シミュレーターを操作していたミケルであったが、BBの写真が落ちたのに気を取られ、操作を誤ってしまう。カレンからの雷が落ちるミケル。集中できない自分に苛立つミケル。
砂漠で待機中のシローに差し入れを持ってくるキキ。そのじゃれ合いを聞き、「何をやってんだか。」と怒るカレン。キキは結局居座り、ミケルとともに装甲車に乗り込んでいた。ミケルはキキにあることを相談しようと話しかけた。「なあ、キキ。お前隊長のこと・・」そのとき、キキはBBからの手紙をこっそり読んでいた。その手紙を読みながらミケルをからかうキキ。最初は歯が浮くせりふが並び、からかいがいがあると喜ぶキキであったが、だんだん深刻な内容になり、別れをほのめかす内容となった時、ミケルにかける言葉を失ってしまうキキ。
「俺、必ず生きて帰るよ。気持ち、離れてなんかいないんだ。どう言ったら、どう手紙に書いたら、わかってくれるのかな。」寝ころび、星空を眺めながらキキに話しかけるミケル。「その娘の気持ちも分かるけど・・」「本当か?」「あんたの気持ち、そのままぶつけるしかないよ。私はそれしか知らない。」「そうなんだよな。でも、ぶつけるには遠すぎるんだよな。」「近くたって、遠いこともあるよ。」つぶやくキキ。
滞在5日目。ミケルは苛立ちの頂点に達していた。「俺、俺、もう我慢できません。こんなところにじっとしているなんて、手紙を書いたって、出せやしないんだ。BBが待っているっていうのに。畜生、畜生。」装甲車を叩き叫ぶミケル。「公私ともに色々問題を抱えてるんだよ。」シローに耳打ちして、ミケルに話しかけるキキ。「手紙ならあたしが届けてやるからさ。行ってきてあげるって。本隊に届ければいいんだろ?私の仲間には暇な連中もいるしさ。」その言葉を聞き、心から喜んでいる素振りのミケルであったが、逆に不機嫌そうに口を挟むシロー。「おい、ちょっと待って。もう、そのピクニック気分はやめてくれ。」ミケルはそのシローの言葉を聞き反感を覚えた顔をする。「俺たちは気分で動くんじゃない。命令で動くんだ。」「私たちは、私たちの都合で動いているんだ。あんたに指図される覚えはないよ。」「協力は感謝するが、出過ぎた真似は止めてくれ。」「出過ぎた真似だって。手紙を出しちゃいけないなんて命令が下りてるの。いつまで握ってんのよ。」腕をつかんでいるシローの手を振り払おうとするキキ。その光景を見てにやつくカレン。「こいつ、何ヒスってるんだ?」「ヒスを起こしてるのは、シローの方じゃない?馬鹿。」キキはバイクにまたがり、その場から立ち去って行った。「隊長、どうしてもっと優しくしてあげられないんですか?女の気持ち、全然わかっていないじゃないですか。恋したこと、無いんですか?女の時計なんか、大事そうに持ってて。片思いしかしたことない人なんですか。」「お前に言われたくはない。分かったような気になっているのは、お前の方だろ?」「分かろうとしない奴より、ましです。分かったところで気持ちを訴えるのはもっと難しいんです。あなたは、最低です。」つかみかかったところをサンダースに投げ飛ばされる。「もう十分だろ。」シローは任務に戻り、サンダースはミケルにモビルスーツに乗るように命じる。今の頭に血が上ったミケルに、監視任務などできるはずがないと判断してのことである。
その夜、キキはこっそり戻ってきていた。貴重な水を渡すサンダース。シローはアイナの時計をいじっていた。時計が開き写真が出てくる。アイナと一緒に移っているギニアスを恋人と勘違いするシロー。「ミケルの言うとおりかもな。」そこに流れてくるエレドアの曲。「隊長、今流れているのはエレノアの曲です。」曲に聴き惚れる第8小隊の面々。「どうかしてたな。」冷静になるシロー。
翌日、ついに待ちこがれたアプサラスが来た。シローにわびを入れ、覚悟を決めるミケル。「俺は死なない。BB、俺を信じて待ってろって言うんだ。気持ちは、ぶつけるしかない。」シミュレーション通りの攻撃を行い、一度はアプサラスを追い込む第8小隊。だが、アプサラスはそんな攻撃で落ちるような機体ではなかった。援護に来たドップに気を取られているうちに、アプサラスに真正面に入られてしまうミケル。アプサラスの拡散ビームが発射されようとした、正にその時、シローのガンダムがアプサラス向かってジャンプした。「ミケルー。」アプサラスに体当たりし、ビームがミケルの機体をかすめていく。シローのガンダムはアプサラスに取り付いていた。ガンダムを振り落とそうと壁に押しつけるアプサラス。だが、簡単に振り落とされるようなシローではない。腕をもぎ取られながらも、至近距離からのバルカン掃射で、アプサラスに深手を負わせる。
「離れなさい。死にたいのですか。」その聞き覚えのある言葉にハッとなるシロー。「その声は、まさか。」その言葉を聞き、同じくハッとするアイナ。アプサラスは取り付いたシローのガンダムを振り落とせず間も無く、そのまま上昇していった。現れた護衛のドップは1機をキキが、もう1機をミケルが撃ち落としたが、シローのガンダムを見失ってしまったことでみんなに動揺が走る。「そんな、嘘だよ。シロー。」砂漠にキキの声が木霊していた。
第7話 再会 オデッサ陥落。逃げ出すザンジバルを見てぼやく兵士。その兵士を慰めるユーニ・ゲラーネ。ゲラーネは残存兵をまとめて戦線を後にする。その戦線を襲う核爆発。爆発の中に連邦のGMが巻き沿いになっていく。「各個、準備が出来次第出発。連邦軍にはオデッサごと地球をくれてやる。未来のない玉っころにしがみついてればいいさ。」核爆発の衝撃波に揺らされながら、離脱するゲラーネ。
シローは高々度に飛びさろうとするアプサラスにしがみついたまま、さっきの声の主がアイナであることを確かめたいという衝動にかられていた。無線のスイッチを入れるシロー。「アイナ、アイナ・サハリン、聞こえるか?」その瞬間、ヒューズが飛び、全ての電機系統がいかれるガンダム。「アイナなんだろ?答えてくれ。」叫んでみるもその声は聞こえるはずがない。コクピットを開け、アプサラスに向かって「アイナー」と叫ぶシロー。シローはコクピットを出て、アプサラスに乗り移った。命綱をつけ、アプサラスのコクピットにゆっくりと近づいていくシロー。その頃、アイナはコクピットの消火活動を行っていた。消化が終わり、近づく連邦軍の兵士の気配を感じ、銃を用意するアイナ。
突如光るモノアイ。そのモノアイに驚きながらも、叫び続けるシロー。「アイナー。アイナ・サハリンなんだろ?覚えていないか?俺だ、シロー・アマダ。覚えているなら、返事をしてくれ。」強風にあおられ、姿勢を崩すシロー。その時、銃を持ったアイナがコクピットから出てきた。「本当に、本当に?シロー・アマダ」落ちそうになりながらもしがみついているシロー。「覚えていてくれたか。無事でよかった。また会えるなんて思わなかった。」「私も。」(この人、私の身を案じて。)シローに向かって微笑みかけるアイナ。
アイナは、アプサラスよりヒューズを取り出し、シローに渡す。その部品で生き返るガンダム。「ジオンと連邦が助け合えるなんて、あなたといると不思議です。シロー・アマダ少尉。」「それが普通だろ?」「でも?では、行きます。」「やってくれ。」アプサラスのメインエンジンを吹かすアイナ。山脈越えをするための行為である。だが、破壊の度合いがひどく、機体の安定が保てないアプサラス。山脈に向かって落下していく。「シロー聞こえますか?このままでは2人とも助かりません。せめて・・」「嫌だ。死ぬのも、生きるのも、2人一緒だ。」力強いシローの言葉。「あなたって人は。」安堵感を覚えるアイナ。「常に、希望はある。頼む。」ガンダムのバーニアを臨界にするシロー。アプサラスを軟着陸させるシロー。だが、アプサラスは止まらず、崖に向かって突き進んでいく。「まだまだ。」ガンダムでそれを止めようとするシロー。すでにオーバーヒート。ガンダムも限界である。迫る崖。「もういい、あなただけでも。」叫ぶアイナ。諦めないシロー。「アイナー。好きだー。」その言葉にびっくりするアイナ。ぎりぎりでアプサラスは停止する。「助かった。」「シロー、私。」そうアイナが言った瞬間、ガンダムの足下が崩れ落ちる。谷底に落下していくガンダム。「シロー。」シローは脱出装置を使って、無事脱出する。
ギニアスは消息不明となったアプサラスを探していた。救難信号をキャッチしたとの報告あり。救難信号が消えるも、おおよその位置をつかめたとのことで、ギニアスは指揮所を後にする。救難信号が連邦のものであろうと、全てをノリスに任せて。
雪が吹き荒れる中、シローは匍匐前進でアプサラスに向かっていた。「アイナ無事か?アイナー。」アイナはノリス達捜索隊の呼びかけを無視していた。「お兄様ごめんなさい。今度は私の番なの。」アプサラスに爆弾を仕掛けるアイナ。シローはサバイバルキットより風よけ用のシートを出したがすぐにとばされてしまう。「くそー、風邪を防がなきゃ。」その時、目の前に小さな川のように水が流れているのに気づく。それはオーバーヒートしたガンダムから放たれる熱により、雪が溶けたためにできた流れであった。ノリス達捜索隊は、強風のため、引き上げてしまった。一方、シローはその水に託したが、既に凍っていた。「だめか。」仰向けに寝ころぶシロー。「疲れた。」目をつぶるシロー。
悪夢にうなされ、「違う」と言い、飛び起きたシロー。そこにいたアイナを投げ飛ばす。驚くアイナではあったが、何をされても構わないという態度であった。無言のアイナ。「シロー、シロー。」我に返るシロー。「あなたの手は凍傷にかかっているの。無理はしないように。お湯でも湧かして、ゆっくり温められれば良いのですが。」「すまない。」
シローは星空を見上げながら、「俺は、ジオンが憎い」とアイナに話し始める。「宇宙で出会った日から君が忘れられないんだ。たとえ君がジオンで、たとえ恋人がいたとしても。」「恋人?」シローに近寄るアイナ。「恋人などいません。そしてあなたが連邦の人でも、私の答えは。」シローにそっと口づけするアイナ。赤くなるシロー。そして2人は抱き合う。シローの胸元でアラームを鳴らすアイナの時計。
そのころ、ノリスはギニアスにアイナの再捜索に出発することを報告していた。アプサラスの設計図を見ながら何も言わないギニアス。その態度にむっとしながらも再捜索のために退出するノリス。
「兄さん?」シローは嬉しそうに答えた。アイナと写っていた写真の男性がてっきり恋人だと思っていたからである。「そうだったのか。」「兄は違うの。」アイナの異様な雰囲気を感じ、アイナの肩を抱くシロー。「兄は違うのです。」悲しそうな目をシローに向けるアイナ。「手伝って欲しいことがあるんだ。」話題を変えるシロー。シローは凍傷で細かい操作ができない自分に代わって、ガンダムを動かして欲しいと頼む。「これは連邦の新鋭機でしょ。いいんですか?」「機密のことは忘れてくれればそれでいい。この指じゃ細かい操作はできそうもないし。なあ。」「ジオンの私をそこまで信用するなんて。」「するさ。せめて今だけは、戦争もジオンも連邦も、兄さんのことも忘れよう。」「はい。」力強く答えるアイナ。「忘れましょう。」はにかむように続けるアイナ。
ビームサーベルの出力を調整し、雪の中にビームサーベルをつけることでお湯を沸かすシロー。「ビーム兵器でお湯を沸かすなんて。相変わらずおかしなことを考える人。」驚くアイナ。凍傷になった手をつけ、ちくちくすると言うシロー。血行が戻ってきた証拠だから我慢しろというアイナ。足がしびれそうなシローはアイナに提案する。「なあ?風呂入んないか?」「ええ?」
温泉に入る2人。アイナが服を脱いでいる間、両手で目を隠すシロー。「もういいわ。」アイナがお湯につかってそう言うと、手を離すシロー。「ああ、ドキドキした。」「私も。」微笑むアイナ。「アイナは綺麗だ。お人形みたいだ。」アイナに向かって言うシロー。アイナはその言葉で兄のことを思い出していた。(アイナ、私の手に、私の足になってくれ。)「アイナ、アイナ?」シローの言葉で我に返るアイナ。「シロー、私、ギニアス兄さんの人形じゃない。」立ち上がってシローの前で叫ぶアイナ。
先ほどまで温泉のようだった湯だまりも凍り、その上で寄り添いながら立つシローとアイナ。「私たち、2人。この世に残った最後の男と女ならいいのに。」山肌が太陽の光で明るくなってくる。「また、きっと会えるな。」2人の方向に向かってくるドップ。すでに片羽を失っている。そのまま2人の頭上を通り過ぎ、墜落する。そしてドッグファイトをしているドップとセイバーフィッシュが現れる。「なぜだ。戦う必要なんかない。」「これが、俺たちのやっている戦争。」シローをかすめていく機銃。「やめろー。」アイナがシローを押し倒し、岩陰に隠れさせる。「死ぬ気ですか?」「教えてくれアイナ。これが戦争なら、俺たちにはどうしようもないのか?」そのとき、ガンペリーで運ばれてきたジムが、アプサラスを回収しようと降下する。アイナは起爆スイッチを押した。爆発するアプサラス。その爆風はジムやガンペリーをも巻き込んでいく。その光景に驚くシロー。アイナの後ろにゆっくり下りてくるドップ。岩陰でアイナを見守るシロー。こぶしを強く握り、今にも飛び出しそうな自分を抑えながら。アイナを乗せたドップが離陸していく。「連邦のパイロットは?」「消しました。」嘘をつくアイナ。飛び去るドップを立ったまま見送るシロー。
第8話 軍務と理想 シロー・アマダの諮問会議が始まる。容疑はスパイ行為である。
アイナもギニアスに嫌疑をかけられていた。「では、何もやましいことはないんだな。」「ああしなければアプサラスは連邦の手に落ちていたでしょう。」「それにしても、今日はずいぶん女らしい出で立ちだな。」「は、はい。ありがとうございます。」「まるで恋する乙女のようだ。」「そんなこと。」厳しい顔で1枚の写真を差し出すギニアス。そこにはドップの機銃掃射を受けそうなシローをかばっている、アイナの姿が映っていた。絶句するアイナ。「私たちは、生き残るために、あの人と協力しあっただけで。」「それにしてはやけに親密そうじゃないか。」シローとのことを思い出し、そして頬に1すじの涙が流れる。「たとえ、敵味方に別れて戦ってはいても、いい人間はいます。分かり合えるんです。自分にはそれが、この愚劣な戦争での、ただ1つの希望だと思えます。」
これと全く同じ台詞を諮問会議で語るシロー。MPが笑いをこらえ、諮問委員会の面々は笑いだし、そしてコジマ隊長は頭をかかえる。1人のメンバーがシローに問いただす。「少尉、一つだけ聞かせてもらいたい。今の君に敵を討つことはできるのかね。」「自分は。。自分は、自分にもまだ分かりません。」シローに下った判決は処分が決まるまで自室で謹慎であった。雨の降る中、整備中のガンダムを見つめ、そして自室に戻っていくシロー。
キキの村の近くに現れた旧ザク1機、ザク2機。村から食料を略奪するのが目的の様子。キキはその現れたザクの監視を続けていた。「奴らの目的が会話通りなら問題ない。けど、もし私たちがレジスタンスだと知ったら。」上流をさかのぼり、村に近づいていくザク。
ギニアスの元にはゲラーネから連絡が入っていた。ギニアスの基地をオデッサ再編の拠点にするという連絡であった。反発するギニアス。ゲラーネはギニアスの基地にあるケルゲレンを動力として利用し、来るべき宇宙の決戦のために少しでも兵力を宇宙に戻すことを考えていた。当然ながらアプサラスの開発も中止ということになる。悔しそうなギニアス。突然、ゲラーネが写っているモニターに向かって銃を撃つギニアス。「戦争屋崩れが、この私に義を語るか。原爆、ミノフスキー粒子、モビルスーツ。何時の世も科学者こそが戦争の局面を変えてきたのだ。」モニターに向かい銃を撃ち続けるギニアス。「お兄様。」心配そうに声をかけるアイナ。「まだ居たのか。一人にしてくれ。」なおも打ち続けるギニアス。「でも。」「頼みだ、一人にしておいてくれ。」アイナに向け銃の引き金をひくギニアス。驚き、首をすくめるアイナ。だが、銃は弾切れ。「頼むよ。」優しそうな顔のギニアス。
ついにキキの村に隊長機のザクが到着した。真っ先に出るキキ。「畑にはいれさせないよ。」その様子を遠くから見ているキキの父親。「先に口を開いた方が負けか。我が娘ながら、モビルスーツ相手に強気にやりよる。跡継ぎとしては頼もしい限りだ。そういえば、あの連邦の士官につきまとっていたようだが?」隣でバズーカの準備をしている部下に尋ねる。「まあ、いろいろとね。青春してますわ。」それを聞き、ちょっと驚いた様子の父親。「ほお、そうか。あいつがな。色づきおって。」別方向からも2機のザクが近寄る。ついにザクがちょっかいを出し始める。わざと子供に向かってヒートロッドを落とす。なんとか村人に助けられ、その子供は無事。キキ達に緊張が走る。隊長がコクピットを開け、ホールドアップしながら出てくる。「すまない。トラブルを起こすつもりは無かった。我々はただ、食料を分けてもらいたかっただけなのだ。」「そんな物騒な物で責めてこないで。初めから素直にそう言えばいいんだ。」強気で答えるキキ。「追われる身でね。気が抜けないんだ。」にこやかに答える隊長。「ろくなものはないよ。」そっぽを向きながら答えるキキ。
酒場でたむろするミケルとカレン、サンダース。そこに別の部隊の者が入ってくる。嫌そうな顔をするミケル。「隊長がジオンのスパイなんて、8小隊も大変だねぇ。」「隊長はそんな人じゃありません。」それだけやっと返すミケル。「まっ、そのお陰で任務もなく、昼間っからバーでくすぶっていられるんだ。文句はねえか。」怒りに震え、ピアノを弾いていたサンダースが鍵盤を叩き、立ち上がる。「おっとっと、勘弁してくれぇ。くたびれてんだ。」兵士はホールドアップ。バーテンもそういう騒ぎを起こすのなら外に出ろという合図を送っている。「その代わりによ、面白いこと教えるぜ。お前達につきまとっていたゲリラがいたな。ジオンに襲われてたぜ。」「チチュンが?で、戦闘は。キキは無事なんですか?」ミケルが矢継ぎ早に疑問を投げかける。「詳しいことは知らねえよ。」「アンダーグラウンド・ソナーであそこにいるってわかっただけさ。」「そんな?なんで状況を確かめないんです。」「報告はしてあるさ。必要であれば、出撃命令が出るだろう?」「お前達以外の小隊がな。はっはっはっ。」後ろから羽交い締めにするサンダース、そしてカレン。「貴重な情報をありがとうよ。お礼に一杯おごらせてもらうぜ。」頭からビールを浴びせるサンダース。
自室謹慎中のシローの元に、3人が報告しに来る。コジマ隊長は出撃命令を出すつもりはないということを。「謹慎中のあんたに知らせるのは酷かとも思ったんだけどさ。」カレンがシローに話しかける。「知らないでいるよりはましか。わかっているのか?これは軍法会議ものだぞ。」「ぐ・軍法会議?でも、死刑ってことはないですよね。」びびるミケル。「仲間は見捨てられない。」サンダースがつぶやくようにしゃべる。「うまいサンドウィッチを差し入れてもらった借りは返さないとね。」言葉をかぶせるように続けるカレン。「それでもキキを助けに行きたいです。」ミケルも動揺を見せながらも答える。「よし、小隊長として命令する。8小隊、出撃。」「了解。」そこにニッカード大尉が口を挟む。「迂闊な。お前達3人が隊長命令で動けば、全ての責はこの甘ちゃんにいく。そこでこれの出番となる。」大隊長のサイン入りの、白紙の命令書をちらつかせるニッカード。「安くしておいてやるぞ。」その言葉に構わず、「いくぞ」と退出しようとするシロー。「若いの。正面突破だけが人生じゃないぞ。時には搦め手で世間様を見方につけることも必要なんだ。」「すまない。じいさん。今はまだその気になれないんだ。」シローは出て行く。カレンはニッカードの手から命令書を奪っていく。「甘ちゃんらしいやねー。つけにしておいてくれ。」「お金は必ず払います。」ミケルが後に続く。「恩に着る。」最後にサンダースが声をかけていく。「世話のやけるこった。いい兵隊には、なれんなあ。」そのニッカードの言葉を後にして、シロー達が出かけていく。
カレンとサンダースのモビルスーツは、村からかなり離れたところで待機の命令が出た。未だシローが何を考えているのかわからない2人。シローはミケルとともに装甲車で村に向かっていた。シローはカレンとサンダースに合図と同時に、敵モビルスーツを狙撃して欲しいと告げる。それも10Km近く離れた現在の待機場所からだ。「せめてもう2Km、接近させてください。」お願いするカレン。だがそれを許さないシロー。村人が人質にとられているのも同然の状態で、これ以上近づくと何が起きるかわからないとの判断である。だが、サンダース達は、少しでも狙いがずれ、核融合炉に当たってしまったら、取り返しのつかないことになるとシローを説得する。だが、シローはザク1機をやるので、残りの2機を片づけてくれと頼む。
村では、1機のザクがキキにちょっかいを出そうとした。キキの父親達に緊張が走る。「やめな。」隊長機がザクにマシンガンを向ける。しぶしぶキキを話すザク。放り出されたキキを見て、攻撃をしかけようとするレジスタンス。「報復のために村を戦場にしてはいかん。チャンスを待て。」だが、我慢できない者がいた。「死ね。」そのザクに向けバズーカをぶっぱなす。ザクのコクピットに弾が入り、炎上、爆発するザク。その状況はミケル達もとらえていた。「始まった。」カレン達は最大望遠でも、ぼんやりとしか捕らえられないザクの機影に苛立ちを覚えていた。
「馬鹿が。早まりおって。こうなったら、生きて返すな。」ザクにむかって方々からバズーカの弾が放たれる。攻撃を逃れるためにジャンプしようとするザク。バーニアに火がともる。そこにキキの父親のうちからバズーカを持って出てくるレジスタンス。「逃がすか。」放たれるバズーカ。だが一足遅かった。最大出力で吹き出すバーニアの炎は、レジスタンス、その家、そしてキキの親父を巻き込んでいく。爆発するキキの親父の家。ザクのバーニアも爆発した。
放り出され、気絶していたキキに声をかけるシロー。「大丈夫か?」「シロー、あんた生きてたの。はっ、私。」「ここは危ない。動けそうか?」シローの頭目がけて大きな木っ端が落ちてくる。頭にぶつかり、苦痛に耐えるシロー。「あんた、私を守って。」「俺には、これしか答えてあげられないから。」「平気だよ。」外に出たキキ。うちが燃えているのに気づく。「父さん。父さん。」涙を流しながら、燃えている家に近づくキキ。
ザクはレジスタンスの攻撃で、村から脱出できないでいた。「女、子供は村を脱出。戦えるものは、奴らを川へ追い込んでくれ。」レジスタンスにそう告げるシロー。「川?まさか奴らを逃がす気じゃ?」「このままでは村は全滅する。」「へっ、それで敵が討てるのなら、かまいやしねえ。」「彼らだって、生きるために必死なだけだ。」「貴様ら連邦の甘ちゃんに何がわかる。」「奴らを皆殺しにするまでおさまらねえ。」シローはキキに聞く。「キキも同じ考えなのか?」「私、父さんの敵が討ちたい。」意気が揚がるみんな。「青臭い理想論か。それでも俺はザクのパイロットを助けたいと思っている。」「シロー。」カレンとサンダースにビームライフルスタンバイの合図をするシロー。つばを飲み込む2人。ザクは村から移動を始めた。シローは仕掛けたトーチカでじっとザクが来るのを待っていた。ザクが頭上に来たとき、股下の関節部目がけ、グレネードランチャーを発射する。足が崩れる隊長機。そしてそれを合図にしたかのように、カレンがもう1機のザクにビームライフルを発射。だが、おしくもはずれる。「ビームなのか?」そのザクはすぐに発射先の方に銃を構える。サンダースとカレンのところに弾が飛んでくる。そんななかで冷静に狙いをつけるサンダース。見事ザクを戦闘不能に陥れる。「これ以上の戦闘は無意味だ。投降しろ。命は助ける。」シローは隊長機にそのように説得をする。「ゲリラ風情が。」シローに向け、ザクマシンガンが放たれる。それを交わし、グレネードランチャーを再度発射するシロー。マシンガンが破壊され、武器がなくなるザク。「投降しろ。」沈黙をみせたかに見えたところに押し寄せるレジスタンス。「やめろ。やめるんだ。」恐怖におののくザクのパイロット。対人兵器を発射。「対人兵器。ひきかえせ。」レジスタンスにそう言い、対人兵器を銃で落とそうとするシロー。だが、1つ落としきれず、対人兵器が稼働してしまう。巻き沿いを食うレジスタンス。「もう、いい。」悲しそうなシロー。「とどめ。」「やめてくれー。」ついにパイロットに向かって、ランチャーを発射したシロー。
「何も出来なかった。村人を救うことも。自分の言葉を証明することさえ。」悲しみにくれるキキを見ながら、悔しそうに言うシロー。「そんなこと、ねえよ。あんたが来なけりゃ、全滅してたっておかしくなかったんだ。」「キキ。」「こっちに来るな、今優しくされたら。。」子供達と共に泣くキキ。
第9話 最前線 衛星軌道上の連邦軍防衛戦を突破し、ジオン軍のモビルアーマーがジャブローに降下した。そのモビルアーマーは降下後にジャブローを攻撃。ジャブローの各施設は高熱により溶解、ジャブローそのものが消滅する。これが、連邦軍がシミュレーションにより想定したアプサラスによる攻撃である。早急にアプサラスを葬る必要があると考えた連邦軍は、アプサラス開発基地の発見作戦を開始。コジマ隊長は、第8小隊の処置があれで良かったのかと大佐に問い正す。大佐は言う。「あの少尉か。敵パイロットと知り合いならば、その隙に乗じることができるかもしれん。」「そんな理由で?」「大丈夫、保険はかけてあるよ。二重にね。」その保険の1つがサンダースであった。隊長への後ろめたさを感じ、作戦会議中も上の空のサンダース。そこをシローに一喝される。
シロー達第8小隊には敵基地に関する情報収集任務が出ていた。ミデアで作戦地点に移動中。作戦前の最後のブリーフィングを行っていた。「なお、今回の作戦の目的は敵基地の特定にある。情報を持ち帰るのが目的だ。戦闘は極力回避する。」「ってことは彼女が出てきても戦わなくてもいいんだ。」シローの最後の言葉に反応するミケル。「彼女?」怪我が治り部隊に復帰したエレドアが疑問を投げかける。ただ微笑んでいるだけのシロー。
「隊長に?本当?なんだよもう。こちとら野戦病院で、こぉんな白衣の天使の相手ばっかさせられてたのに。ずるいぞ、この皮かぶり。」エレドアのそんな言葉にもただ、優しそうな顔をするだけのシロー。「余裕こいてやがる。なあカレン俺たちも。」「エレドア」「え?なんだい。」「うるせえ。」カレンにも相手にされないエレドア。パラシュート降下を控え、マニュアルでの手順チェックに余念がないカレン。そんなカレンにちょっかいを出し続けるエレドアであったが、カレンはそんなエレドアを相手にする余裕すら無い様子。
サンダースはそんな2人の様子など目に入らない。ついに意を決したかのようにシローに話しかける。「隊長、実は自分は、」そこに作戦地点まであと5分との連絡が入る。「よし、出撃準備。」ブリーフィング終了。みんなは持ち場に戻っていく。「サンダース、話はなんだ。」サンダースに尋ねるシロー。「いえ。」胸の支えがとれないような顔をしつつも立ち去っていくサンダース。その様子に「そうか。」としか答えようのないシローであった。ブリーフィングルームから出た来たシローにミデアのパイロットが声をかける。「よぉ、スパイのアンちゃん。達者でな。」その言葉に怒るサンダース。「隊長はスパイじゃない。そんな器用な人間じゃないんだ。」「無駄口たたいてるんじゃねえ。終点だぜ、棺桶に入んな。」ミデアのパイロットの顔がそんなつもりで話かけたのではないことを物語っていた。シローもそれを察知する。「サンダース。行こう。」
ミデアのハッチは開く。降下を開始する第8小隊。だが、その真下にガウ攻撃空母がいた。「くっ、なんてこった。隊長。ガウと不機遭遇戦に入ってしまいました。」カレンの機体は、ガウの直上にあった。シローはその連絡を聞き、早く自分の機体を射出しろと、ミデアのパイロットに要求する。だがミデアもエレドアの装甲車とカレンのガンダムを射出した直後で姿勢を維持できていない。もう少し待てとの連絡。
カレンはガウからの集中砲火を受けていた。「カレン、止まるな。動け。」カレンの様子を見て、思わずエレドアは声をかける。「あんた、今行く。」カレンは死の覚悟をしたかのようにつぶやく。その瞬間、ガウからの攻撃が止まる。ガウはシローのEz8への攻撃に気を取られていたのである。シローはガウのコクピットに取り付き、ビームライフルを向けた。「今すぐ発砲を止めろ。さもなければ撃ち落とす。」別の砲座から狙われているのに気づくシロー。「このまま一緒に落ちるか?」なお脅迫を続けるシロー。そのときガウの第2エンジンが火を吹く。ガウの司令官は観念した。「各銃座、撃ち方止め。」そこにカレンからの連絡。「射程外に出ました。」その言葉を聞き、ゆっくりコクピットからEz8を離脱させていくシロー。落とそうと思えば落とせたはずのシローが、なぜ自分達を見逃したのかが納得できない司令官。
無事、カレンは湖のほとりに着地する。安堵のため息を漏らすカレン。「カレン、無事か?愛を語るにはばっちりのロケーションじゃないの。」その言葉に「人がせっかく、」と文句を言おうとした瞬間、鳴り響くアラーム。突然目の前の水中から現れるアッガイ。メインカメラを一撃。ふっとぶ頭部。そしてコクピットを強打される。よろけて倒れるカレンのガンダム。それを見てエレドアは単身、カレンのガンダムに駆け寄る。「カレンが死んでたまるか。ミケル、ホバーで誘導をかけろ。」「一人じゃ機銃も撃てませんよ。」「俺のカレンが死んでもいいのか。」「頼む、急げ。」カレンのガンダムに近づくアッガイ。そこにミケルを操る装甲車が、湖の真ん中へと飛び出した。アッガイはそちらへの攻撃を開始する。
その間にエレドアはガンダムのコクピットをどんどんと叩く。「カレン、怪我はないか?返事をしろ。」その声に、目を覚めすカレン。「エレドア」その言葉に頷くカレン。安心した様子のエレドア。「操縦はできるか?ミケルがやばい。」「でも、モニターもスコープも。」「時間がない指示通りにやれ。俺が照準になる。ビームライフルを。」カレンはビームライフルを動かす。エレドアの指示に合わせてビームライフルを調整するカレン。その様子に気づくアッガイ。「目があった、早く撃て。」撃たれるビームライフル。だが、無情にもビームはアッガイをかすめていく。「右へ6度修正。来る。撃てー、撃てー。」静かになる無線。「エレドア?エレドアー!」ビームは見事アッガイのコクピットを貫通していた。倒れるアッガイ。コクピットをこじ開け「エレドアー!」と叫びながら、出てくるカレン。エレドアは腕の上で座り込んでいた。「エレドア、怪我は無いか?エレドア。」ようやく返事をするエレドア。「少しちびっちまったけどな。曹長は?」「お陰でな。助かった。」「お前に死なれちゃ、俺の人生プランがくるっちまう。」さわやかそうな顔して、とんでもないことを言い出すエレドアであった。「えっ?」思わずその言葉を聞き返してしまうカレン。ミケルはまだ、湖の上で陽動をかけていた。。。
 
先ほどシロー達が助けたガウはゲラーネと合流していた。無事物資の補給を受けられたゲラーネ。さすがに煙を吐きながら到着したガウを連邦は見逃すはずはなかろうと、急いで移動の準備を開始するように指示するゲラーネ。そこに先ほどのガウの司令官、ボーンが、ゲラーネに部隊の撤退が完了するまでマゼラアタックで戦おうという考えである。「本体が撤退する時間稼ぎです。連邦の顔つきには借りもありますし。」「生きて返ると約束するなら。」その覚悟を感じ取り、条件を出すゲラーネ。「必ず。」その言葉にルネン、バリスといった兵士も共に戦おうと志願する。「支援も補給も保証はできんのだぞ。」「兵達をよろしくお願いします。」「承知しております。」「宇宙へ上げてやってくれ。」その言葉に感慨を覚えるゲラーネ。「お前達。。よぉし、マゼラアタック隊、出撃。」そのゲラーネの言葉を待っていたかのように「はっ」と敬礼で返す兵士達。
 
シローとサンダースはカレン達に合流していた。ミケルはエレドアが自分を囮にしたことに根を持っている様子。エレドアが謝る言葉に耳を傾けることなく、カレンのガンダムのサブモニターを、ライフルの照準と直結させる作業を行っていた。「みんな聞け、作戦を変更する。」作戦内容を伝えるシロー。「カレンとホバーは目的地へ直行。俺とサンダースは任務を続行する。」「戦闘になったら、心許ないね。」「そのときは構わん。全力で逃げろ。」「それって、作戦なのか?」「了解。最新鋭モビルスーツの全能力を使い、逃げまくります。」やぶれかぶれの様子のカレン。
 
ギニアスの鉱山には、負傷兵が続々と運び込まれていた。人でが足りず、アイナは薬品の運送を手伝っていた。薬品のコンテナを一つ落としてしまうカレン。そこからこぼれ落ちた薬を見てびっくりするアイナ。「こんな薬を。」「はい。」ただそれだけしか答えない医師。「仮にも医者がすることですか?」「アプサラスの完成のためにはやむを得ません。」「兄の命令ですね。」「いえ、私の一存です。医者として良心が痛みます。しかし、我々はコロニー独立に賛同し、この戦争に参加した職業軍人であります。アプサラスによって敵本部を叩く。それこそが、今軍人として成すべきことであると信じています。」その言葉を聞き、決意するアイナ。(止めさせなければ。中止命令を無視してまで。)
ギニアスは先日のゲラーネの指示を無視して、アプサラスの開発を続行していた。リックドムのジェネレータを流用し、アプサラスを生き返らせようとしているギニアス。その作業中にノリスは、ゲラーネから支援要請が来ていることをギニアスに話す。「ユーリ閣下が支援を求めていますが。」「支援?基地の場所を知られる危険を冒してか?」「しかし、同胞を見殺しには出来ません。」「奴も、自分の面倒ぐらい見られる。」「ですが、オデッサからの苦難の道をやって来た、兵達の気持ちを考えると、」「くだらんな。アプサラス完成に勝る責務などない。」
その言葉はゲラーネの元に届いていた。「くそ、ギニアスめ。友軍を見捨てやがった。なんとしてもこいつらを宇宙に上げてやる。頼むぞ、マゼラアタック隊。」
そのマゼラアタック隊の進む方向にシローとサンダースのガンダムが移動していた。「隊長。」話しかけるサンダース。「敵か?」反応するシロー。「そんなようなものです。隊長の監視を命じられました。」サンダースはついに自分の任務をシローに告げる。その言葉に思わず力を失うシロー。「っは、軍規違反ばっかりだったからな。気にするなサンダース。」サンダースも張りつめていた緊張感を無くし、安堵の表情に変わる。「コジマ大隊長の考えそうなこった。」「それが、ライヤー大佐からの命令なのですが。」その言葉に顔色が変わるシロー。「あの人が。審問会の疑いは晴れていない。連邦は俺を信用していない。」複雑な表情になるシロー。
 
広場に出た2機。そこにサンダースからの無線。「2機の先に戦場跡。金属反応多数。」「罠を張るには格好だな。森の中まで退こう。」そこで地雷が爆発。よろけるEz8。それを合図にマゼラアタック隊の攻撃が始まる。「サンダース、退け。」「退きます。」ジャンプするサンダースのガンダム。だが、直撃を受け、墜落するかのように森に落ちる。残ったシローのEz8。「手をゆるめるな。各個にヒートガンを打ち込め。」ボーンの合図で、マゼラトップの砲身からEz8に向け、砲弾が浴びせられる。盾を地面に突き立て、身をかがめるEz8。「ロックオンされた。退け。」ボーンの合図と共に、煙幕が発射される。この煙幕により、光学センサーが役に立たなくなるEz8。
「煙幕の晴れたときが勝負だ。心理戦をしかけさせてもらう。連邦のモビルスーツ。」「その声は、あのときの艦長。」「ボーン・アブストと言う。お前に聞きたい。なぜあのとき撃墜しなかった。兵達に代わって礼は言っておこう。だが、納得できない。我らジオン、連邦に情けをかけられるゆわれなど無い。」「俺はただ、無用な死人を。」「そのビームで俺を殺すか?」「はっ」思い出すキキでの村の事件。心に隙が出来るシロー。「やはりな。」
 
アイナはギニアスに直訴していた。「兵達が疲弊しています。ただちに開発を中止してください。」壁に体を預けたまま聞くギニアス。「ふん、で、どうなる。お前がこの戦争を終わらせてくれると。」「そんなこと、しかし、開発中止命令は既に下っているはず。薬を使ってまでの開発強行など無意味です。」「感動的だが、我々は戦争をしているのだ。アプサラスは必ず完成させる。命令は必ず撤回させてみせる。」そう言ってアイナの元を立ち去っていくギニアス。
ゲラーネは兵達を鉱山に誘導していた。「司令も中へ。」「馬鹿を言うな。奴らが帰るまで俺が入れるか。」
 
シローはマゼラアタックと対峙していた。そこにサンダースからの無線。「隊長。」「無事か?」「左足をやられました。援護できません。」「出血は?ひどいのか?」「いえ、モビルスーツのです。」その言葉で何かを思い出したシロー。(大事なことを忘れていた。)
「お前に撃てるか?」挑発するボーン。「おう。」シローはEz8を特攻させた。撃ちながら走ってくるEz8。マゼラアタック隊は後退しながら攻撃。そしてボーンは一人マゼラアタックを止める。「よーし、決着をつけさせてもらおう。」シローはビームサーベルを抜いていた。「戦争のためじゃない。それでも仲間のためなら戦える。」「今さらそれかよ。うさんくせぇ。」司令官のマゼラアタックが火を吹く。だが、シローは攻撃の手をゆるめることをしなかった。マゼラアタックを斬りつける。その瞬間、飛び上がるマゼラトップ。更にEz8目がけて発砲。Ez8はよろけながらもマゼラトップをバルカンで攻撃。マゼラトップがよろけながら森の中に墜落した。モニターには、走りながらシローに向かって敬礼をし、逃げていくボーンの姿が映っていた。それを見て高笑いするシロー。
 
鉱山の入り口でマゼラアタック隊を待っていたゲラーネ。到着するマゼラアタック隊。「ただいま帰りました。負けちまいましたがね。」敬礼をしながら言うボーン。「よくもどった、本当に。」敬礼で返すゲラーネ。鉱山に入ろうとした瞬間、その目の前で装甲シャッターが閉じていく。「なんだ?」「どうしたんだ?」「ユーリ・ゲラーネ少将。」ギニアスの声が聞こえる。「開けろ。ギニアス。」「事情は全て秘書官から聞きました。」ギニアスの横には自白剤でぐったりしているゲラーネの秘書官がいた。「シンシアに何をした。」「中止命令はまだギレン閣下には届いていない。貴殿が戦死なされれば、命令は永遠に本国に届かない。」「退け、鉱道を出ろ。」「少将は名誉の戦死を遂げられた。」爆風とともに崩れ落ちる鉱道。「ギニアース。」爆風に飲み込まれるゲラーネ。
「なんだ?」シローが振り向いた山の中腹で、その爆風による煙が上がった。
第10話 震える山(前編) アプサラスの基地を特定し、物量頼りの連邦軍の攻撃が始まった。そんな中で連邦軍を翻弄するノリスのグフ。「艦砲射撃来るぞ。」
「来た。エレドアさん位置座標来ました。」基地攻撃前線よりかなり離れたところで、第8小隊はガンタンク護衛の任についていた。装甲車から首を出し、基地のある山を眺めているエレドア。「すげえぞ、ミケル。見てみろ。」「ガンタンク部隊に転送します。」怒ったようにミケルはデータ転送の操作を行う。「あきれた物量だね。山の形を変えちまった。」「始まりますよ。」「おう。」その言葉にコクピットに戻るエレドア。「手順はいつもの通り。10発撃ったら移動します。」「わかってる。やってくれ。」砲撃を開始するガンタンク。
そのガンタンクの砲撃が着弾したころ、ノリス達は基地格納庫に戻るエレベータで降下していた。「直撃か。いい腕だ。」「これだけの戦力で守りきれるんでしょうか?」「案ずるな。アプサラスがもうすぐ完成する。それにな、ケルゲレンの脱出準備も進んでいる。アイナ様が進言してくださったんだ。」「やったー。サイド3に帰れるんだ。」そう言いつつもノリスは心の中で考えていた。(基地を放棄。軍人としては無能の証明だな。)
コジマ大隊7小隊が、鉱道へのシャッターを撃破。突入を開始した。映像で見守るコジマ大隊長とライヤー大佐。入り込むジム。そこに爆発物を発見したとの報告が入る。「4度目の突入だ。今度こそ頼むぜ。」「処理が済むまでジムを退避させましょう。我々は既に9機を失っています。」コジマはライヤーに耳打ちをする。「大破は6機です。」報告を訂正する兵士。その言葉に苛つきを見せるコジマ。「数などどうでも言い。」「中佐、君に期待しておったのだがな。」静かにコジマに語りかけるライヤー。「進入路が見つからないのなら、山ごと削ってはどうかね。」「はあ、しかし。核でも使わん限り簡単には。。。」そこに爆発の映像。またも突入作戦失敗である。「モビルスーツが核で動いている限り、戦場では付き物の事故ではないのか?」コジマの肩を叩くライヤー。「ま、まさか、誘爆をわざと。」コジマは言葉の真意を確かめるのが怖かった。そこでコジマの肩を強く握るライヤー。「星1号作戦が近い。あいつを宇宙上げてレビルに笑われるのはなんとしてでも避けたい。わかるね。」
 
ガンタンクを狙おうと迫るザク。それを待ち伏せし、横から破壊するシローのEz8。「出てくるから。」顔を破壊され、倒れるザク。シローをすり抜けてガンタンクに近寄るドム。「1機逃した。カレン。スカート付き、速いぞ。」「任しときな。」ジムの顔で応急処置をしたカレンのガンダムがドムを狙う。目くらましに一瞬隙を作ってしまうカレン。ドムがジャンプし、ガンタンクに狙いをつける。「上か?」カレンのビームライフルがドムのバズーカを叩き切る。だが、その攻撃のために、カレンのガンダムは仰向けに倒れ込む。そこにドムがヒートサーベルで突き刺そうとしていた。「どう撃っても融合炉に当たっちまう。」そこに別の攻撃で倒れるドム。それはガンタンクからの攻撃だった。「大丈夫か、ジム頭。」「ありがとうよ。けどよ、ジム頭は止めてくれよ。ジム頭は。」
 
ケルゲレンの出港準備を見ながらコーヒーを飲むノリス。「鉱山都市、制圧部隊からの定時連絡がありません。」報告を聞くノリス。「ケルゲレンの脱出ルート確保に失敗したか。私が出よう。弾薬の補給を。」やれやれという感じでそう答えるノリス。「それが、これが最後の補給となります。」そこまで状況が逼迫していることを覚悟したかのように言うノリス。「アイナ様の望みを叶えてさしあげたいものだが。」
ノリス達が降りてきたところでは、アイナがケルゲレン出発の為の指揮をしていた。「手の空いた者はケルゲレンへ乗り込んでください。負傷兵は重力ブロックへ。席のない者はノーマルスーツを着て貨物室へ。」そこにドムが近づいてきた。「モビルスーツ、負傷兵を運ぶのを手伝ってください。」「基地守備隊の我々に?ギニアス様の命令なのか?」「兄は関係ありません。私からお願いします。」ドムに頭を下げるアイナ。「お前の負けだ。手伝ってやれ。」ノリスが割り込んでくる。「ノリス。無事でしたか。」
発進準備が整うまでの時間、格納庫の隅で話し合うアイナとノリス。「ついにギニアス様を説き伏せましたな。」「兵達を兄の猛獣と心中させるわけにはいきません。」「強くなられた。恋のせいですかな?」その言葉に驚いてノリスを見つめるアイナ。「心外ですな。自分とて木の股から産まれた訳じゃない。職業軍人の道を選ぶまではね。」「親代わりのノリスのこと、何も知らない。」「自分が?アイナ様の親?光栄です。決心が付きました。出るぞ。」「そんな、今出撃したら、もう合流はできない。」「構いません。人の生は、何を成したかで決まる。ギニアス様は夢を成し遂げられた。立派です。アイナ様の望みがケルゲレンの脱出なら、それを助けるのが軍人としたの私の役目。見事脱出ルートを確保してご覧にいれる。」アイナの元を立ち去っていくノリス。何も言えないアイナ。ただ「生きて。」としか言えない。ノリスのグフが動き始める。目を伏せたまま動こうとしないアイナを置いて、出撃していくノリス。ノリスのグフがエレベータに乗る頃、怖い顔をしてキッとその方向を見るアイナ。「止めることなんかできない。もし、もしもノリスに何かあったら、私が殺したんだ。」ノリスの乗ったグフを乗せたエレベータの扉が閉まる。「そのときは一人では行かせない。」
上昇するエレベータ。グフのコクピットでノリスはつぶやく。「アイナ様がお父上に似てくるとはなぁ。」
 
艦砲射撃の準備をガンタンクにとらせ、待機に入る第8小隊。「了解。」シローの待機命令に答えるミケル。「エレドアさん何食べます。」「静かにしろ!」エレドアが何かを掴んだようだ。ミケルを怒鳴りとばすエレドア。「聞いたことがある音だ。隊長さんよ、飯は後回しだ。何かが来る。」「どこなんだ。」焦るシロー。「ちくしょう、音が舞ってやがる。エレベーター?地下からだ。サンダース、左前方。」エレドアがそう叫んだ瞬間、上がる土煙。ノリスのグフがジャンプして現れる。あっけにとられるサンダース。「速い。」ビルの屋上に陣取るグフ。「指揮車1、人型3、タンクもどき3。一つは真下か。」
「たった1機で、ふん。なめられたもんだ。」カレンが言う。「近すぎて死角だ。離れてむかえ。」そう答えるサンダース。カレンが発砲。だが大きく狙いがはずれる。「人型にもビーム兵器。足の遅いケルゲレンには脅威になる。」給水塔にヒートロッドを固定し、ビルの吹き抜けを降下していくグフ。その降下先にはガンタンク。「もらった。」ガンタンクに狙いをつけるノリス。グフがビルの中で、狙いをつけられず悔しがるカレン。「任せろ。落下なら予測できる。そこだ。」ノリスの予測位置にバズーカを撃ち込むサンダース。だが、それをよけ、ガンタンクを破壊するノリス。「一つ。」爆発するガンタンク。「私とサンダースが手玉にとられた。」「あっという間に1機。こいつは、エースだ。」
 
「脱出ルートまで作ってもらって悪いな。」ノリスはビルの中を、静かにグフを移動させていた。シローは先ほどの爆風で視界が確保できない。「エレドア。」「はいよ。」「お前が指揮を執れ。」「なに、なに、なに?」「こちらからでは奴の動きがわからん。お前の耳が頼りだ。」「よっしゃー。まかしとけ。8小隊、俺様の指揮に入れ。」「おちょうしもん。」浮かれてやる気が出ているエレドアに一言言ってやりたいミケルだった。
「サンダース、残念だが、頭を切り換えろ。死ぬぞ。」「奴の方が一枚上手だ。」「ほう、らしくなってきたじゃねえか。」カレンはそのシローの言葉に感心していた。ノリスのグフが動き始める。方々に弾を撃ち、土埃の中を移動し始めた。「ちっ、煙幕のつもりかい。」エレドアが指示する。「そっちに向かってる。」「そんなことはわかってる。」土埃で視界が遮られているなか、神経を集中させるカレン。「ちっ、何処から来る。」ヒートロッドがモニターに映り、左側面からノリスのグフが現れる。カレンのガンダムにタックルを食らわせるグフ。「こなくそ。」グフにバルカンを発射するカレン。だがグフの姿は消えていた。「いない。」ガンタンクの方に目をやるカレン。「しまった。」ノリスのグフは、ガンタンクの上に登り、頭からサーベルを突き刺そうとしている瞬間であった。「コクピットをやる気か。」カレンがそう言った瞬間、サーベルを突き刺すノリス。オイルがまるで血しぶきのようにノリスのグフにかかる。「曹長、任せて。」サンダースが護衛に入る。ノリスのグフにバズーカを発射。グフはすぐに姿をくらます。
「捕まえた。高架649の23。301撃て。」エレドアの合図で、最後のガンタンクが、グフ目がけて攻撃を開始する。「あと一つ。」そう言いながらノリスは最後のシローが守るガンタンクに迫っていた。
 
「アプサラス最終点検ルーチン。。。オールグリーン。アプサラス、完成です。」グラスを持ち、どよめく技術者達。「長い長い道のりであった。感謝する。」労をねぎらうかのような言葉をかけるギニアス。「乾杯。」手に取ったグラスの酒で乾杯する技術者達。「よく味わってくれたまえ。」なぜかグラスの酒に口を付けようとしないギニアス。
 
ノリスは一直線に高架橋の上を移動していた。ガンタンクの着弾を微妙にかわしながら。「さあ、来い。」そう言いながらガンダムを構えさせるシロー。落ちた高架橋をシローの方に倒すノリス。シローはただ、驚くのみ。倒れた高架橋から悠然と現れるノリスのグフ。「怯えろ!すくめ!モビルスーツの性能を活かせんのなら、死んでいけ。」「守ったら負ける。責めろ。あーっ。」グフ目がけて連射するシロー。だが、突っ込んでくるグフにはじきとばされるガンダム。スラスターを吹かしすぎ、ジャンプしてビルに当たってしまうガンダム。「ふん、楽しませてくれる。」「倍返しだ。」銃を乱射させてガンダムを降下させるシロー。だが、グフには当たる気配もない。「見た目は派手だが、タンクはがら空きだぞ。」持っていたバルカンポッドを捨てるノリス。その目線の先には後退していくガンタンクがあった。「間に合え」ガンダムを急がせるシロー。「これで終わりだ。」左手の4連ポッドをガンタンクに向けるノリス。打ち始めた瞬間、シローのガンダムが盾となって割り込んでくる。「ふ、はっはっは。」高笑いするノリス。「アイナ様、合流できそうもありません。自分は死に場所を見つけました。」シローのガンダムを見ながら、つぶやくノリス。発煙信号を上げるノリス。
 
その信号の内容は、格納庫でノリスの無事を願っているアイナに届けられた。「ノリス大佐から発煙信号です。」「色は?ノリスはなんと?」「赤です。合流できず。ケルゲレン出航せよ。」
ギニアスは科学者達に声をかけ、部屋を退出しようとしていた。「諸君、別れはつらいものだが、時が来た。ゆっくり休んでくれたまえ。」そこには苦しんで倒れた何人もの科学者の姿があった。乾杯した酒に毒が仕込まれていたのだ。手榴弾を置いて、部屋を出るギニアス。ギニアスが出るや否や、部屋は爆発する。「アプサラスは、私一人のものだ。」
 
ノリスとシローの戦いは続いていた。「ケルゲレン出航まで20分を切った。そろそろ仕掛けさせてもらう。」ガンダムに対してサーベルで斬りつけるノリス。連射するシローだったが、アラームが鳴る。「弾切れ。」グフの機会をうかがいながら弾を交換しようとチャンバーに手を伸ばすガンダム。だが、その隙を逃すわけがなかった。シローがかわそうとしたその方向にヒートロッドを伸ばす。ショートする左手。「左手がやられただけだ。」途端に動きが悪くなるEz8。かろうじてノリスのサーベルをかわしていく。「はん、反射神経だけはいいようだな。だが、これはよけられるか。」サーベルを捨てるグフ。そちらに目をとられた隙に視界からノリスのグフが消える。グフはジャンプしていた。ヒートロッドがEz8の胸に接触する。「威勢の良さが命取りだ。」ショートするEz8。稼働不能となり倒れ込む。「くそぉ、メイン回路はどこだ。」暗くなったコクピットであがくシロー。攻撃をしてこないグフ。「なぜ?なぜ来ない。」そこにバルカンの発射音。「うわっ」覚悟し、顔を背けるシロー。だが、その攻撃は自分にではなかった。「ひと思いにやれー」やや錯乱気味のシロー。
ノリスはシローのEz8を盾にとっていた。それと対峙するサンダースとカレンのガンダム。「恩に着るぜ。」「うるせぇ、早く行きな。」ガンダンクがその場から立ち去っていく。「どうすんだ、隊長代理。」「コンテナまで武器を取りに行ってりゃ。。。」代わる代わるエレドアに意見を求める2人。「うるせー、その間にやられちまってら。とにかくタンクを死守だ。死守。」ノリスはEz8を高々と掲げた。「遊びが過ぎたようだな。どうする。パイロットはまだ生きて居るぞ。」近寄るグフ。
Ez8の中でメイン回路の交換を急ぐシロー。手が震え、思うように作業が出来ない。「言うこと聞け。仲間が、301が。何が生きて帰れだ。何が仲間のためなら戦えるだ。俺は怖いんだ。俺は、生きたい。」シローは渾身の力で回路を押し込める。その瞬間、Ez8が息を吹き返す。
「へ、お目覚めか。」グフを払いのけ、距離を置くEz8。ノリスはヒートロッドをEz8目がけ伸ばす。かわすEz8。だが、ノリスが狙っていたのはその後ろにある、自分のサーベルだった。シローは既にショートして使い物にならなくなった左腕を引きちぎった。「俺は、生きる。」左腕を振り回すシロー。ノリスは身構える。「生きて、アイナと添い遂げる。」その言葉に一瞬動きが止まるノリス。「貴様が?」腕を受け損ね、グフの左頬に当たる。「不覚。」身を隠すグフ。「隊長が、切れた。はは。」ミケルが笑う。「悩むのを止めた馬鹿は、本当強いものだ。」言葉を続けるカレン。「復活だな。」サンダースも喜ぶ。「ほのぼの、ほのぼのしている場合じゃねえぞ。アイナちゃんのお出ましだ。」エレドアの声に顔をこわばらせるミケル。
護衛の飛行型グフとともに姿を現すアプサラス。「撃ちます。」静かに同じコクピットにいるギニアスに言うアイナ。「よし、始めろ。」一気に形勢が逆転した様子。次々攻撃を受ける連邦のモビルスーツ。
川を挟み、シローのEz8とノリスのグフは、剣を持って対峙していた。「アイナ様の想い人と出会う。ふん、面白い人生であった。」動くノリス。「うわー。」シローもEz8を向かわせる。「勝ったぞ。」グフのコクピットを叩ききる。だが、ノリスが放ったバルカンははるか川向こうのガンタンクに照準が合っていた。「しまった。」時既に遅し。切られたグフの上半身は、飛びながらもガンタンクに向け、バルカンを連射し続けていた。ガンタンクが爆発する。「負けた。」呆然とするシロー。
シローはコクピットから出て、グフに敬礼を送る。そして視線はアプサラスに。悠然と飛ぶアプサラス。「みんな聞け。俺は軍を抜ける。」
第11話 震える山(後編) 「完成した、我が子アプサラス!」アプサラスの前で、喜びに浸るギニアス。そして口から血を流し、デッキに座り込む。そんな兄をさげすむようなノーマルスーツ姿のアイナ。「研究員はどうしたのです?」「どこかで酔いつぶれているのだ。」そんな兄の言葉は嘘だと直感しているアイナ。「行きましょう。ノーマルスーツを着てください。」座り込んでいる兄をまたいで、ただ、アプサラスのコクピットに向かおうとするアイナ。
鉱山基地よりついにアプサラスが発進した。その姿をモニタで確認するコジマ大隊長とライヤー大佐。「おお。こいつが。」その瞬間にアプサラスより出る光線。破壊されていく連邦軍の車輌、モビルスーツ。
遠くからホバー内で、アプサラスの様子を見ているエレドアとミケル。「手加減なしか。」「してますよ。あのビームの威力は。逃げましょう。」エレドアの言葉に、恐怖のおののくミケルが答える。
ノリスのグフを倒したばかりのシロー。コクピットから出て、アプサラスの攻撃を見つめる。「出撃したのか。アイナ。」悠然と飛ぶアプサラス。「終わりじゃないよな。」何かを考え込む様子のシロー。そして決意して出た言葉。「みんな聞け。俺は軍を抜ける。」
「何?」「隊長!」エレドアとサンダースの反応。カレンはその言葉に黙ったまま。ミケルはつぶやく「敵前逃亡って。。。銃殺ですよね。」「逃げるつもりはない。アイナを止める。」その言葉にカレンはライヤー大佐からの密命を受けた時の事を思い出していた。「処刑もやもえん。」カレンのトリガーを持つ手が震える。遠くにシローの指示が聞こえる。「カレン。指揮をとって本隊と合流しろ。これが最後の命令となる。」シローに対してロックオンをするカレン。
「ロックオン?」サンダースが警報に気づく。「カレン機から?」「君も小隊長のスパイ容疑を晴らしたいだろ?」サンダースもまた、かつてライヤー大佐から密命を受けたときのことを思い出していた。「曹長もなのか?」
「思い直してくれませんか。」小声でつぶやくカレン。(小隊ごと銃殺にも出来る。)ライヤーの言葉が再び脳裏をかすめる。「みんなを巻き込んでしまって、本当に済まない。」Ez8を反転させ、稼働させるシロー。
「くっ!あんたがそれでよくたって。」目を見開いたカレン。「いけない、曹長!」サンダースの叫びもむなしく、ついにシローへの発砲をする。頭を抱えるエレドアとミケル。カレンの撃ったバルカンはEz8の隣のビルを破壊していた。「男って奴はどいつもこいつも。私を置いて、いっちまいやがる。シロー・アマダ。あんたは私が今まで会った最低の軍人だよ。」去っていくシローのEz8。「あ?なんだよ一体。」カレンの言葉の意味がさっぱりわからないエレドア。「さっぱり。」ミケルもお手上げのポーズを取りながらそれに答える。
 
アプサラスはついに攻撃態勢に入った。ライヤーのいるビックトレーは騒然する。そこにアプサラスからの連絡が入った。「連邦軍に告ぐ。こちらはモビルアーマーのパイロット、アイナ・サハリン。一時休戦を申し入れます。」「馬鹿な本陣を討てば終わりじゃないか。」アイナの無線に口を挟むギニアス。「それでも制空権は連邦にあります。戦闘機を残す危険は冒せません。ケルゲレンのために。」その言葉を聞き、説得を諦めた様子のギニアス。「好きにするがいい。」無線での説得を続けるアイナ。「先ほどの攻撃は威嚇です。」確かに地面に一筋の線が走っているだけで、被害を受けた車輌はほとんど無い様子であった。「その境界線を超えぬ限り、攻撃はしません。」ライヤーの元にも被害がないという報告が届く。
「やっぱりアイナだ。これがアイナの戦い方なんだ。」Ez8を走らせるシローはつぶやく。
「これから基地の傷病兵が脱出します。お願いです。その間だけ、攻撃を止めてください。」その無線を聞きながらカレンはつぶやく。「何だよ、彼女の方が筋金入りの甘チャンだよ。軍をなめるんじゃないよ。」その言葉通りだった。ライヤー大佐は言う。「休戦は認められない。」その言葉に笑い始めるギニアス。「そうではないか。銃を向けておいて休戦などと。我が軍は恫喝になど屈しない。」「私の言葉が信じられないなら。」ケルゲレンのコクピットを開けるアイナ。「貴様。」「見ていてください。これが私の戦争です。」外に出て我が身をさらすアイナ。その姿を見てライヤーは言う「それも良かろう。」その言葉に感謝の意を表すアイナ。「ありがとう。」
「ジムスナイパー、スタンバイ。」振り返りコジマに命令を告げるライヤー。「しかし今、」言葉を思わず返すコジマ。「私は何も約束した覚えはない。」「はい。」ライヤーの言葉にただ従うしかないコジマ。
ついにケルゲレンが鉱山基地より発進する。アイナから遙か遠くを上空に向けて飛び上がっていく、ザンジバル。アプサラスを護衛していた飛行型グフも「合流します、GoodLuck」という言葉を残して、ケルゲレンのカタパルトに入っていった。そのザンジバルを笑顔で見送るアイナ。突然、ビームの反射板が稼働を始めたのに気づくアイナ。ギニアスが勝手に操作をしていたのだ。「いけない。」アイナが止めようとした瞬間、ケルゲレンよりビームが拡散発射される。破壊されていくジム。
「先手を打たれた。奴のコクピットを狙えないのか?」やられたという顔をしながら、ジムスナイパーの準備状況を確認するライヤー。「病院船を撃墜せよ。」モニタにはアイナの姿を大写しになっていた。その言葉にコジマがつぶやく。「どっちもどっちだ。」ジムスナイパーの長距離ビームライフルにより、ケルゲレンのブースターが焼き切られていく。そしてついにブースター爆発。ケルゲレンは炎に包まれながら、墜落していった。その様子をただ呆然と見つめるだけのアイナ。「ふふふふ。これがお前の信じていた連邦のやり口だ。」ギニアスの言葉に振り返り、そしてギニアスをにらみつけるアイナ。「しかし、それは。」「目を覚ませ、そして見ろ。」降下してくる傷ついたグフ飛行型。それもジムスナイパーによって破壊されていく。「これが、お前の理想の生け贄なのか?」
ギニアス、そして連邦への怒りを込め、ビックトレーのライヤーをロックオンするアイナ。「お前達が。」その時、サイドモニタがシローのEz8接近を捕らえる。「シロー?」トリガーを引き、発射されるビーム。近くにいた第8小隊は、着弾したショックウェーブに巻き込まれていた。ただただ祈るだけのミケルとエレドア。ホバーを守るため、必死で盾をかざすカレンとサンダース。ショックウェーブがおさまり、「本隊は?」と確認を急ぐカレン。
「アイナ、これは何かの冗談か?」アイナに問うギニアス。「これが、私の答えです。」アイナが狙いをつけたのは、本隊の後ろにある山である。山が一つ消滅していた。「はずれた?」ビックトレーの中で腰を抜かしているコジマ。「やってくれおる。」ライヤーがつぶやく。「スナイパーは未だ位置にはつかぬか?」アプサラス狙撃のため、配置を急ぐジムスナイパー。
「お前だとて、敵の冷酷さはわかったはずだ。」アイナに詰問するかの勢いのギニアスの言葉。「はい。でも、復讐したからと言って、兵達が生き返る訳では。」答えるアイナ。「どうやらお前とは言葉が通じぬようだな。」「あなたとはずっと前から。でも。。」そう言いながらアイナはシローのEz8の方を見ていた。「馬鹿な。愛など粘膜が作り出す連想にすぎん。母様もそうやって我らを捨てたのだ。」「かわいそうに。だからこんな鉄の子宮が必要だったのね。」「わかったようなことを言うな。これは戦争なんだ。」「いいえ、これは死闘です。」アプサラスのコクピットハッチを爆破するアイナ。アイナに向け銃を突きつけるギニアス。「貴様!」怒り心頭の顔のギニアス。「投降しましょう。そして楽になりましょう。」ギニアスに微笑みかけるアイナ。その瞬間、アイナの胸に弾痕。驚いた表情のアイナ。そしてアイナの体がアプサラスからゆっくり落ちていく。その落ちる先に、シローのEz8が滑り込んできた。アイナの体を掴む、Ez8のマニピュレーター。
Ez8が落ちたと同時に、シローはすぐにアイナの元に駆け寄る。「アイナ。アイナ。目を覚ましてくれ。死ぬな、アイナー!」ギニアスはその様子を見ていた。「貴様なのか?お前のせいで妹が死ななければならなかった。」アプサラスでEz8を攻撃する姿勢をとるギニアス。「嘘だろ?そんな、アイナ。」ただ目をつぶったままのアイナの顔をなでるが、反応しないアイナ。「アイナへの手向けだ。一緒に送ってやる。」アプサラスのメガ粒子砲のチャージが始まる。「兄が妹を殺す。」アプサラスの方を睨み付けるシロー。「俺は、お前を殺したい。」アイナを抱きかかえながら、アプサラスに向かって言うシロー。「面白い、一度みたいと思っていた。ゴーストとやらをな。」なおもチャージが進むメガ粒子砲。「さようなら、アイナ。嫌いではなかった。」トリガーに手をかけるギニアス。「うう、、生きて。」アイナがそうつぶやく。その言葉にハッとアイナの方を見るシロー。
メガ粒子砲が発射される瞬間、ジムスナイパーの長距離ビームライフルがアプサラスを捕らえていた。コクピット付近を焼き切られ、爆発の炎を上げるアプサラス。一方、発射されたメガ粒子砲の反動で吹き飛んでいたシローとアイナ。シローをメガ粒子砲からかばうような格好になったが、その高熱で背中のノーマルスーツが焼け、苦しみの声を上げていた。「だ、だれだー。」
アプサラスの足を破壊したジムスナイパー。アプサラスは体勢を崩し、倒れ込む。「よし。」思わず声を上げるライヤー。その頃カレン達は本隊に合流していた。「やったのか?」その無線を聞きサンダースが疑問の声を上げる。「へん、本隊は無事かい。悪運の強いこって。」カレンはコジマに報告する。「8小隊。帰還しました。」その無線に答えるコジマ。「カレンか。81が敵パイロットを捕獲した。応援に向え。」そこにライヤーが口を挟む。「いや、理由はともあれ敵前逃亡は見逃せん。処刑命令は出ているはずだ。」「処刑?」「第一、少尉が女パイロットを渡すと思うかね?モビルアーマー回収を急げ。」怒りの表情のコジマ。そしてモニタに映るカレン。「処刑など聞いていません。ここは臨地です。この戦いで多くの部下を失いました。ロク、サギ、マヨ。」「だからさ、もう一人くらい。」「いいえ、だからこそです。カレン隊を集結させろ。我々は別行動をとる。」あっけにとられていたかのようなカレンであったが、そのコジマの命令に「はっ」と力強く答える。コジマは指揮所を後にしながらつぶやく。「さっき、確か病院船を撃墜せよとおっしゃいましたが。戦争とは言え、ルールはある。私はそう思っております。」出て行こうとするコジマ。「ジャブローのオフィスは快適だよ。」「私はエアコンというのが苦手でしてな。」ビックトレーの緊急ハッチから、カレンのガンダムの手に乗って、出て行くコジマ。「新しい命令は敵モビルアーマーの阻止。シロー・アマダの逮捕。」
「シロー、シロー。」アイナの言葉に気絶していたシローが気がついた。「アイナ、良かった。本当に。」泣きながら抱き合う2人。「また、一緒になりたい。」「生きていた。アイナが生きていた。」時計のアラームが鳴り、そして小さくなりやがて消えていく。アイナをギニアスの弾から守ったのは、あの時計であった。「兄がくれたこの時計が、また2人をつないでくれた。」立ち上がる2人。倒れたEz8とその向こうにアプサラスを見つめる。「設計者である兄がこのままで終わるはずがありません。アプサラスは必ず復活します。」「行こう。俺たちの手で決着をつけよう。兄さんとの対決を逃げちゃ駄目だ。」Ez8に向かい歩くシロー。「はい。」シローについて行くアイナ。そこには、時計が捨てられていた。
 
第8小隊はシローの元に向けて出発した。「格好良かったですよ。大隊長。」ミケルはナビゲータシートに座っているコジマに話しかけた。「うるさい。黙っとれ。スナイパーに先を越されてみろ。少尉の命はない。せめて、軍法会議は受けさせてやりたいものだ。急げ。」「はい。」
Ez8が起動した。シローは負傷しているので、2人がかりでの操縦となる。「右の操縦桿を頼む。」アイナに言うシロー。「はい。」答えるアイナ。よろよろと立ちながら、ビームサーベルを構える。伸びるサーベル。「ビームジェネレータさえやれば。」「わかった。正面へ回る。」Ez8が動き出したことを聞いたライヤーはジムスナイパーに攻撃命令を出す。ジムスナイパーの動きに気づいたギニアス。「今しばらく時間があれば。」
アプサラス正面から斬り込もうとするEz8。その瞬間、ジムスナイパーによる狙撃。Ez8の左側面が焼き切られる。コクピット付近までえぐられ、コクピットハッチが吹き飛ぶ。シローとアイナが乗っていることが確認できる。それを見たギニアス。
「アイナ生きていたのか?すぐ楽にしてやる。」ギニアスはアプサラスの回復プログラムを走らせながら、そうつぶやいた。飛びだつアプサラス。反応するジムスナイパーだったが、アプサラスのビームにより破壊される。「ジャブロー殲滅の夢を壊してくれた礼だ。」
Ez8の方を見るギニアス。自分のアプサラスを狙う2人の姿がはっきりと分かる。「次はお前達だ。」「フル出力で、私達ごと本隊を吹き飛ばすつもりね。」「アイナ、兄さんを殺す。これだけ痛めつけられると、もう手段を選べない。」進むメガ粒子砲のチャージ。「さようなら兄さん。」
ビックトレーからの連続主砲発射。「主砲の発射をなんとしても阻止。」ライヤーが叫ぶ。それをかわすアプサラス。「私の夢、受けとれぃ」メガ粒子砲臨界点到達。その時、正面にEz8。笑うギニアス。そのコクピット目がけて、Ez8の拳が突き刺さる。後ろに姿勢を崩すアプサラス。その瞬間にメガ粒子砲発射。シローの元へ向かう第8小隊の頭上を走るビーム。「総員退避、総員退避。」ビックトレーに響く放送。「間に合うものか。」ライヤーがそう言った瞬間、ビックトレーのブリッジが爆発する。
 
姿勢を維持できないアプサラスは、Ez8もろとも鉱山基地の出撃口に落ちていった。それをホバーから出て見ていたミケルとエレドア。「あ、ああ。」ミケルがそう言った瞬間、爆発の煙が上がる。「心中。。」エレドアのつぶやくような言葉。「嘘だー。ねえ軍曹。隊長が死ぬわけない。」ミケル絶叫。「そうだな。」外に出ていたサンダースはそうとだけ答える。カレンはただ呆然としてその光景を見ていた。後ろから肩をたたくエレドア。「ほら、行こうぜ。」「エレドア。」「何があったか知らねえが、甘チャンは許してるって。」「そうだろうか。」「当たりめえじゃねえか。仲間だろ。甘チャーン、出てこい。」カレンの腕をとり、シローを探し始めるエレドア。「隊長ー。」サンダースも叫びながら、爆発の起こった方向にかけ始めていた。「出てきてくださいよー。」ミケルも後に続く。何か考え込んでいたようなカレンも「隊長ー。」と叫びながら、シローを探し始めていた。みんなで爆発の起きた出撃口に近寄っていく。

「この出来事の後、すぐに戦争は終わりました。」
 
基地内には野営した形跡のあるテント、洗濯物。そしてそのテントの近くには、鉄骨で組んだ十字架の墓。 
 
「追伸。結局隊長は見つかりませんでした。でも、僕は生きていると信じています。BB様へ。」
 
「重いね。」「うん、背負っていこう、2人で。」左足を失い、松葉杖をつく男性、そしてそれを支える女性が外に出て行く。
映画 ラスト・リゾート 24.DEC.UC0079。フラナガン機関の子供達を運搬していたムサイは、地球衛星軌道上で連邦軍の攻撃を受け、任務続行不能の状態となっていた。子供達は、コムサイに乗せられ、地球へ脱出。ムサイは連邦の攻撃を受け沈んでいった。
 
それからしばらくの時が過ぎた地球。ジャングルの中の川を行くボート。そこにはミケルの姿があった。1年戦争は終わり、第8小隊は解体。戦後処理のためにみんなは方々に散り、そして1人除隊したミケルはみんなの思いを受け、行方不明となっている隊長、シローの行方を捜していた。
BBへの写真を見てため息をつくミケル。その写真を後ろから取り上げ、破ってしまったキキ。「ったく、いつまでも未練がましい。」川を流れていく、破られた写真の破片。「BBー」悲しむミケル。「びーびー、泣くんじゃないよ。」
悲しみからか仰向けになり、ぼぉーっと周りの景色を眺めるミケル。「美しいものか。きらいだな。」そのとき、ボートの
行く手を遮るものに気づく。「あれ?ハッチだ。宇宙船の。」そして眼前に放置されたコムサイの姿が確認できるようになった。「あっ、ジオンの宇宙艇。」
コムサイがあるところに着岸し、ボートを下りるキキとミケル。コムサイの中を調べるキキ。そこには誰かが生活していると見られる洗濯物などがあった。あるMOに目がとまるキキ。そのラベルを読んでみる。「ドクター、フラナガン?」一方のミケルは誰かいるのではと入り口付近で入るのをためらっている。「なあ、こんなとこ早く出ようよ。なんだか薄気味悪いよ。」そのとき背後で物音。怯えてコムサイに入り、中から様子を伺うミケル。「だ・誰かいる。」「ああ、わかっている。」外の様子を堂々と伺うキキ。「みてみな。」ハッチの出入り口の方に目をやるミケル。「足跡。」「それに、」キキが帽子にいっぱい入った札のようなものを見せる。「認識票。やばいよキキ。やっぱり早く出よ。」そのとき突如飛来し、着水する白鳥。それに目を留めるキキ。「白鳥?なんでこんなところに。」少し考えを巡らせながら「今夜はここに泊まるよ。」とミケルに言う。「ええ?」と不満の声をあげるミケル。
 
「起きろ、起きろ!」その声に目が覚めるミケル。それは小さな女の子だった。ミケルは自分の両手が縛られているのに気づく。近くにいたキキ。「諦めな。」ミケルとキキは小さないかだに乗せられていた。「なんだよ。お前ら。」その声で振り返る他の小さな男の子達。「ジオン。こっちも。」子供達はジオンとわかるものを身につけていた。「隊長のところへ連行する。」ジオンのヘルメットをかぶった男の子が言う。「隊長?」「誰だよ、それ?」
いかだは戦争の傷跡深い、水没した村にたどり着いた。「着いてこい。」ヘルメットをかぶった男の子が、ミケルとキキを先導する。山道を歩く2人。「どこにいくんだよ。」とミケルが言ったとき、丘の上に出て屋敷が見える。その屋敷へと連行されていく2人。入り口にはぬいぐるみを抱いた双子の少女が、門兵のように立っていた。それを苦笑いしながら見て、屋敷へ入っていくミケル。突如、軍用ナイフが目の前に現れる。ジオンの軍服を着た少年。丸刈りでゴーグルをかけている。「所属と階級は?」驚き、固まっている2人。「所属と階級を言え。」繰り返す男の子。「私はただの民間人だよ。」キキがそう言うと、ナイフはミケルの方に向けられた。「お前は軍人だな。」恐れるミケル。「私はキキ・ロジータ。こいつは。」「そう地球連邦極東方面軍、機械化混成大隊、第08モビルスーツ小隊、ミケル・ミューリッチ伍長だ。いや、元伍長。」その言葉に入り口の少女達が中の様子を伺っている。「キキとミケル。」
「嘘をつくな。」苛ついたようにナイフを縛り付けた杖をつく少年。「嘘じゃないわよ。ジオンの残党狩りだったら2人で来るはずないでしょ。勘違いしないで。」キキのその言葉にゴーグルを外す少年。
キキとミケルへの尋問はとりあえず終わった。みんなは怪我を負って、包帯がぐるぐる巻きにされている子供の看病に余念がない様子。その様子を見ている2人は縛られたまま。キキとミケルは2人で投降を進める。だがそれを聞き入れようとしない少年。「駄目だ。それは出来ない。戦争はまた始まる。そうなればまた僕らは利用される。ここで暮らす方がよっぽど平和だ。」「無理矢理徴兵されて、よっぽどひどい目に合わされたんだな。」ミケルの言葉にキキが続ける。「でも、今はそんなことより、目の前の現実を心配しなよ。小さい子やけが人をかかえて食い物だってろくにないみた・」ナイフが投げつけられる。2人の間に突き刺さるナイフ。怒った少年。「立て。お前らには離れで寝泊まりしてもらう。」落ち込むミケル。「キキ、しゃべりすぎだよ。」
離れに移された2人。前でたき火をする子供に「なあ、手ほどいてくれよ。」と言うミケル。だが無反応。「だったら酒くれよ。お前ら、飲まないだろ。」言い過ぎだというかのようにこづくキキ。「まだ、そんなこと言ってる。」突然立つ男の子。「おとなしくしてろよ。」喜びの表情に変わるミケル。「やった、持ってきてくれるのかな。キキと違って話が通じるよ。」「さあ、あんたうるさいから毒でも盛られたりしてね。」「そうか。あいつらなんかやったな。」「ん?なにを」「例えばさ、エレノアさんみたいにわざと弾に当たって病院送りとか、隊長みたいに敵前逃亡とかなんか、しちまったんだよ。」「何いってんだ」「それで連邦にもジオンにも行けなかったんだよ。きっと。そうだ、あの宇宙艇、あいつらが落としたんだよ。」「えっ?なんのためにさ。」「そりゃ、もちろん戦争から逃げるためさ。たぶん。パイロット達はあいつらに。隊長もここで捕まって。。」「馬鹿いってんじゃないよ。シローは生きているに決まってるさ。」「そう、そうだよな。」自分が馬鹿な事を言っていると気づいたミケル。キキは立ち上がり、たき火にくべてある火のついた薪を持ってくる。「ほら、こっち手だしな。縄切ってやるよ。」「それでかよ。冗談だろ?」後ずさりするミケル。「ほーら、早く早く。」意地悪そうに火をちらつかせるキキ。火を突きつけられたミケルは後ずさりするしかない。
縄を切り脱出した2人は、岩陰から何かをしている子供達の様子を伺う。子供達は穴を掘っているようだ。さきほど看病していた包帯に巻かれた子供を土葬するつもりらしい。ただ埋めるだけというその様子に我慢できないキキ。ミケルの静止も聞かず、岩から出て声をかける。「待ちなよ。それじゃあその子がかわいそうだ。」その声に反応しながらも、また土をかけ始める隊長。「待ちなって言ってんだよ。」ついに隊長が手を止める。
遺体の周りに花を敷き詰めてやるキキ。そしてミケルと2人で祈りを捧げる。「これが葬式?」少年がつぶやく。「ああ、ただ埋めちまえばいいってものじゃないんだ。ねえ、この子とはどういう関係だったの?」キキは疑問に思って聞いてみる。「彼女は親友。」「兄弟。」「仲間。」口々にそのような台詞が返ってくる。「だったら悲しそうな顔すれば。おかしいよ。友達なんでしょ。どうして平気なのさ。」力強く問うキキ。「悲しいさ。だけど。」「俺たち、心は一つ。」「意識は一つ。」「いつでも。」「いつまでも。」「私たちの中で永遠に生き続ける。」「そうだよねアイナ。」
その名前に反応する2人。「アイナって」「まさかこの人が。」キキはポケットからシローが映っている写真を取りだし、みんなに見せる。「あんた達、この写真の男を知らない?シロー・アマダって言うんだ。何でも、何でもいいから、知ってることがあったら教えて。お願い。」「それはお前の仲間の名前か?」少年が問いかける。「そうさ、大事な仲間さ。」「知ってるんだな。今、隊長はどこにいるんだ。」「死んだ。」「ええ。」「その男は死んだ。ここが彼の墓だ。」「嘘だ。いい加減な事いいやがって。お前、俺たちの隊長をどうしたんだ。」ミケルは少年の胸ぐらを掴み、詰問する。「お前達の隊長は死んだんだ。」「くっ、このぉ」拳を振り上げ、殴ろうとするミケル。「ミケル!」キキの声に振り返るミケル。ミケルはシャベルで後頭部を殴られ気絶する。
目を覚ますミケル。少女が一人見守っていた。驚くミケル。「なんだよ。お前、俺に何するつもりだ。」少女は黙って出て行く。ミケルは窓から外の様子を伺う。そこにはままごとに付き合うキキの姿があった。ままごとで食事の出し方を教えるキキ。その様子を伺っている軍服の少年。キキはその少年が気になっていた。夕暮れ時に一人川を見つめる少年。「あの死んだアイナって子さ。」そのキキの言葉に驚き、振り返る少年。「あの子、いったい誰?」「どういう意味だ。」「アイナはあんな子供じゃない。あの子はアイナじゃない。本当の名前を教えて。」「そんなものない。あの子はアイナだ。アイナだ。」「本当のこと、正直に話してよ。あんた、なにか隠してるでしょ。」「うるさい。お前らの探している男は、墓の中なんだ。」「なら教えて。シローはなんで死んだの。」「それは。」「あんたが殺したの?」「違う。」「じゃあ。」「うるさい。お前らの探している男は、本当に死んだんだ。だから出て行け。」その言葉に声もなく立ち去るキキ。
その夜、墓暴きのためにスコップを持ち出すキキとミケル。雨の中墓を掘り返し始める2人。「やっぱりやめようよ。」「駄目だよ。墓の中確かめなけりゃ、先に進めないだろ。」「そりゃ、な。でも本当に隊長埋まってたら。あ、」ミケルのその声でその方向を見るキキ。そこには2人の作業を見つめる少女が1人。そしてその背中から現れる子供達。「そこには誰もいないよ。」「誰も。。いない。。」
フラナガン機関での出来事を夢に見て、飛び起きる軍服の少年。そして周りを見渡すと、みな起きてどこかに出かけていることに気づく。
子供達はフラナガン機関の施設にいたことをキキとミケルに話し始める。フラナガン機関にいた彼らは生活の仕方など知らない。そこに生活の仕方を教えたのがシローとアイナであった。シローとアイナは墓を作り、自分達の服を埋めた。自分達が生まれ変わるのだと願をかけるために。事の成り行きに納得するキキ。その後に子供達に名前をくれたのだと言う。そして次々と懐かしい名前が飛び出てくる。「隊長らしいや。」そう言いながら空を仰ぐミケル。「キキ、名前返す。」キキに抱かれていたもう1人のキキが、そう言う。「キキは、キキの名前。」子供達は口々に自分の名前を返すと言い始めた。当惑するキキとミケル。
「駄目だ。」大きな声。軍服の少年だ。「駄目だ、駄目だ、駄目だ。そんなの許さない。僕らの名前なんだ。返さない。」ナイフを構える少年。「シロー・アマダは僕の名前なんだ。返すもんか。」ナイフのついた杖を振りかざし走ってくるもう1人のシロー。「あいつ。」キキが立ち上がる。「怒らないで。」もう1人のキキが言う。「わかってる。」
キキとシローの取っ組み合いが始まる。キキの方が一枚上手。武器を失い、素手でキキと取っ組み合うシロー。「シローは僕の名前だ。僕の名前なんだ。僕がもらったんだ。」キキに石を投げつけるシロー。「僕はシローだ。名前があるんだ。シローって呼べ。僕がもらったんだ。だからお前なんかに返さない。シローは僕だけの名前なんだ。」「名前をとる?そんなことしないよ。できるわけないよ。そうだろう?」両手を広げ、敵意がないことを示すキキ。その態度に石を投げるのを止めるシロー。「みんなの名前を守ろうって、一人で頑張ってたんだね。」シローを抱き寄せるキキ。「みんなの大切なものだものな。誰にも渡せっこないよな。でも、もういいんだよ。誰もそんなことしないから。」キキの腕の中で泣き始めるシロー。「あんたは立派な隊長だ。あんたは、シロー・アマダだ。」シローの鳴き声が夜空に木霊する。
空から落ちてくる雪。感激の声をあげるみんな。「雪?これが雪?ミケル、ほら。」感激のキキ。ミケルは寒そうな仕草をする。「じょうだんじゃねえよ。こんな寒いのになんで平気なんだよ。」ゲルググを起動させ、ビームサーベルを池の中につっこませる。お湯に変わる池。かつてシローがやったときと同じように。「これも隊長が教えたのかな。」そう言いながらミケルは裾をめくって池の中に足を突っ込み、その暖かさを感じていた。「まったく、あいつらしいよね。」ミケルの言葉に同感するキキ。
「で、2人はどこへ。」シローに聞くミケル。「北。」シローは指さす。「北?」「北に何が。」「あるんだ、新しい世界、新しい人生が。」「へえ、まるで隊長の台詞みたいだな。」
 
翌日。雪は止み。気持ちの良い晴れた朝。キキは人影を探したがミケルと自分以外誰もいなかった。「あいつら、どこにもいないよ。」キキがミケルに尋ねる。「消えちゃったっていうのか。俺たちが寝ている間に。」狐にでも化かされたかのような顔をするミケル。「でもどうやって。」空を優雅に飛ぶ白鳥。それを見つめるキキ。
ボートで再び旅を始める2人。「俺、思うんだ。あれって、幻だったのかなって。」「幻?」「そうさ、幻さ。そうじゃなかったら幽霊とかさ。」「私はどっちでもないと思うな。きっとあいつらも探しに行ったんだよ。」「探すって何を?」「決まってるだろ。新しい世界。新しい人生さ。」「そうだ。そうだよな。」
 
林の中を歩く2人。林の中で暮らす動物たち。雄大な自然。林が開け、1軒の小屋に辿り着く2人。小屋の前のテーブルに人影を見つける。シローとアイナ。シローはミケルとキキを見つけたようだ。立って、微笑むシロー。アイナもつられて立つ。妊娠し、膨らんだおなかを気遣うように支えるアイナ。「ああ。」ミケルが感激の声を上げる。「隊長。」シローのところに駆け寄っていくミケル。キキも涙を浮かべ、泣きそうな顔をしながら、2人のところにゆっくりと近寄っていく。


2003.10.19 Update

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