積ん読書庫


風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険

菜摘ひかる・著
洋泉社・刊
ISBN4-89691-335-3
風俗嬢兼漫画家兼ライターであった著者が、家族からの独立(家族への訣別?)を起点としてそれまでの遍歴をつづった自伝風エッセイ。タイトルは 著者のウェブサイトのものを流用した。

主人公の「わたし」は一刻も早く家族と離れて暮らしたくて、家族を説き伏せて高校在学中に実家を出、劇画誌に掲載した漫画をきっかけに知り合った年上の女性と共同生活を始める。何でもしてくれるその女性と、その女性のしてくれることをすべて受け入れ、その女性の決めたことにすべて従う「わたし」。しかし、その女性の愛する人形にさえ嫉妬を覚えていた「わたし」の心は、処女喪失とその後の展開を機に、やがてその女性からも離れていく。「わたし」の変心を感じたのか、自分の男と「わたし」が交渉を持っていることに気づいたのか、女性は「わたし」を置き去りに部屋を出ていった。そして、性風俗を中心に据えた「わたし」の「冒険」が始まる

家族のことや子供時代のことに触れたがらない著者が、それでも時折かいま見せる「過去」によれば、彼女の自立心、独立心は、彼女の母親の生き方への反発からのようだ。そして、それが本気であるのか、単なる愛情表現なのか、いつも彼女のことを「ブス」と呼んだ父親。大きなお世話ながら深読みすれば、「父親への仕返しなのかもしれない。母親への当てつけなのかもしれない」という彼女の述懐は、ついに得ることのできなかった家族同士の、そして家族から自分への愛情、人と人とのつながりをなお求め続けているようにも見える。

「わたしを見て」「わたしの話を聞いて」「わたしに触れて」「わたしを愛して」「わたしはここにいる」そんな叫びさえ聞こえてきそうな気がしてしまう。

などと端で見てる人間が大上段に構えてみても、本人は至って無邪気にこの状況を楽しんでいるのかもしれない。

しょせんいろいろ並べてみたところで、なぜこの本がこんなに読み手を惹きつけるのかはわからない。いや、面倒な話はいい。小難しい話は置いといてすなおに菜摘ひかるの冒険譚を楽しもう。

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