やまいもの雑記

雪が降る日に


1997年1月22日(水)。目が覚めると、外は銀世界だった。

あっても年にせいぜい一度か二度だが、気候の具合によってはこの地方でも車道にまで雪が積もることがある。思わず会社に「今日は雪なので休みます」((C)とさか先輩)と電話しようと思ったが、午後から来客の予定が入っている。名古屋市内でも積もっているから来られないかもしれないとも考えたが、来てしまったらしゃれにならないので、いやいや出かけることにした。

外を走る車の音があまりしないので気になっていたら、思った通りバス通りはまだシャーベットにもなっていない完全な雪で、ところどころ凍結している。それでも、日も射しているし交通量の多い県道に出れば少しは解けているだろう、そんなところをちゃらちゃらいわせながら走るのもいやだしなあ、とチェーンを付けずに出発した。

思い切り甘かった。

県道まで出ても、雪は解けるどころか降り積もり踏み固められる一方。おまけにさっきまで日の出ていた空がにわかにかき曇り、吹雪いてきてしまった。ラジオの情報によると、その時点でも気温は氷点下。雪が解けるわけがないのであった。

そうなると、途中で国道1号線と名鉄名古屋本線をまたいでいる陸橋が凍結と積雪で使えない可能性が大きい。こんな事ならチェーンを付けてくればよかったと思ったが後の祭り、すでに渋滞の中なので降りてチェーンを付けるわけにもいかない。ひたすら平坦なコースを探すしかなかった。

陸橋へ続く車線から国道1号線へ出る車線に移ったが、同じ事を考える人間は多いらしく陸橋方面の車線はすいすい流れるのに1号線への車線は大渋滞。さらに、思った通り陸橋を登る途中に無謀なノーマルタイヤの普通車が立ち往生していて、それにびびった連中がこちらの車線に割り込んでくる。数メートル進んでは5分以上停止を繰り返しているうちに始業時間を過ぎてしまった。

ようやく渋滞を抜けてみると、進まないのは1号線の名古屋方面方向だけ。そちらが通れないとなると、平坦な道は名鉄線をくぐるコース以外は大迂回コースしかない。ところが、全然渋滞していない1号線の名古屋方面と逆方向を走っていくと、渋滞の名古屋方面の車で名鉄線をくぐる道がふさがれている。渋滞は全然動く気配を見せないし、右折で立ち止まっていると凍結道路のことで追突される危険もある。泣く泣く途中に坂道のある近めの迂回路を選んだ。大迂回すれば安全だが、そっちが渋滞していない保証もない。

さすがに田圃の真ん中を走る車は少なく、順調に走れる。23号線をくぐる前に曲がっていくか、と軽くブレーキを踏んでハンドルを切った……が、車はまっすぐに進んでいく。やはり踏み固められていない新雪の上をノーマルタイヤで走るのには限界があることを思い知った。

さすがに慎重になってとろとろと走っていくと、思った通り測道の坂道に3台ばかり車が引っかかっている(あとで聞いたら、会社の同僚の車だった。後から通りかかった上司の車に拾ってもらったそうだ)。ここにいたってようやくあきらめてチェーンを付けることにした。これまでは多少の雪でもノーマルタイヤで走りきっていたから、友人とスキーに行ったとき以来で、5年ぶりだろうか。それだけ今回は雪の量が多かったわけだ。

一番安くてちゃちな梯子型とはいえチェーンを付けるとやはり快調。安定感と安心感が全然違う。さっそく強くブレーキを踏んで滑り出すあたりの感触を確認し、坂道を上った。すると、反対側から来て登り切れずに止まってしまった車が下り坂の途中にいる。ガードレールとの隙間は普通乗用車の横幅ぎりぎりだ。こっちがノーマルタイヤのままむりやり登ってたらとんでもないことになっていた。やれやれである。

坂道を下りきった後は平坦な田圃道をジグザグに進んで行くだけ、と角を曲がると前方に車がいる。近づいていくと駐車灯を点滅させていた。こんな狭い道で迷惑な、と思ったが何だか様子がおかしい。テールランプの位置がやたらに高いのだ。この先は丁字路で、まっすぐ行くと道がなくなる。ということは……。

案の定、その車は丁字路を曲がりきれずに田圃の中に前輪を突っ込んでいた。人が乗っていたら助けようかと思ったがもぬけの殻。自力で脱出したなら命に別状はあるまい。会社まではあとほんの数百メートルなので見捨てることにして会社の立体駐車場の角を曲がると、同じ会社の人たち数人とすれ違った。落ちた自動車の方を指さしている。どうやらあの車も会社の同僚だったらしい。困ったもんである。

会社には約40分遅れで到着。非常時ということで遅刻扱いにはならなかった。その日の最高気温は摂氏3度ぐらいだったらしいが、それでも日中日の当たった場所の雪はほとんど解け、その夜帰るときには日陰だったところのアイスバーンにさえ気を付ければチェーンもいらなくなっていた。

てなわけで、だらだら書いてみたものの、めったに雪の降らない地域では15センチ積もっても大騒ぎ、というだけのお話でした。

PS
うむう、これだけ書くのに3日もかかってしまったか。
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庵主:matsumu@mars.dtinet.or.jp