やまいもの雑記

今昔文字鏡


以前読んだ『漢字とコンピュータ』(石川忠久・松岡榮志著、大修館書店刊)の中に漢字8万字以上を収録したというCD−ROM「今昔文字鏡」が紹介してあった(実際には漢字検索ソフトをCD−ROMに収めたもので、インストール後はCD−ROMは不要)。
その前にも漠然と意識はしていたが、パソコン通信を始めてから先輩ネットワーカーのYOKOさん・aMIさんたちの影響もあって漢字に興味を持ち始めた私としては、これを見逃す手はないと思い、パソコンショップに注文して手に入れることにした(そこらのショップでは見たためしがない)。以下はパッケージから引用。

今昔文字鏡
制作 (株)エーアイ・ネット
発行 (株)紀伊國屋書店
本体価 18000円(税別)
必要環境 MicrosoftWindows95/NT4.0(Pentium75MHz以上、メモリ16MB以上を推奨)。インストールにはCD−ROMドライブ、インストール先のハードディスクには30MB以上の空き容量が必要。

特長
◆日本・中国・韓国・ベトナムなど漢字文化圏の漢字約8万字を網羅。
◆日本語読み・画数・部首・英語・ピンイン・JISコード・大修館書店の大漢和辞典番号などから検索可能。
◆文字の構成部分を本来の偏・旁などの解字に加え、各部首を部品として考える拆字にも分解し、読みも画数もわからない漢字も検索できる。
◆「貼り付け」機能でWordなどパソコン上の文書に転送可能(JISコードにある字はJISコードを、JISコードに入っていない字はBMPデータをクリップボードに転送)。

てなことでさっそくインストール。ヘルプを開いて「検索具体例」を一通りやってみればある程度の検索が可能になるという。試しに「虫」という部首で検索してみると……あるわあるわ、見たこともないような漢字がぞろぞろぞろぞろ、その数817文字。JISに入っている漢字は黄色で、入っていない漢字は白で表示されているのだが、黄色がざっと数えて44文字あって全体の20分の1弱。「今昔文字鏡」の漢字が約8万字でJIS漢字約6千文字(うち一部は記号や空白)だから、比率はそう外れてもいない。JIS漢字でさえまともに読み書きできない我が身を振り返り、ふうっとため息をついたりする。

で、中に「虫」偏に「調」という字があるのを見つけた。→虫調 無論白い漢字。「情報」ボタンを押して漢字情報を表示してみると、なんと音読みも訓読みも命名用の読みも空欄、早い話が日本語としての読みを持たない字だったのだ。而してその実体は……ともったいぶるほどのこともない、「属性」欄にちゃんと「字喃」と書いてある。つまりベトナムでできた漢字。日本でできた「辻」や「峠」などいわゆる国字と同じように本場中国にも存在しない字だ。
ちなみにこの文字情報ダイアログには他に大漢和辞典番号(虫調は63860番( 0巻 0頁)、要するに収録されていない)や総画数、部首内画数、学習学年のほか、中国(大陸)、中国(台湾)、日本、韓国での書体が表示される。中国(大陸)の簡体字は見ていてなかなか味わいがあったりする。ふと全共闘のタテカンを思い出したりして。さすがに「广(まだれ)」に「KO」は収録されてないが(笑)。

こういうまともな検索の他に、コード表から漢字を拾うこともできる。このコード表がまた「教育漢字小学校1年」から「人名用漢字許容字体表」、「JIS漢字補遺」、「六十四卦」に「源氏香」まで含んでいるのだから笑いが止まらない。ゆうぎり(源氏香)(源氏香)で「ゆうぎり」ですぜ、お立ち会い。

ちなみにこれはCD−ROM版「大辞林」(三省堂)に収録されている源氏香の図版その1。
源氏香1
他にもヘルプの中に「文字鏡研究会報」というものが収録されている。このソフトを作った文字鏡研究会の面々が漢字とコンピュータにおけるこのソフトの位置づけをいろいろな角度から語っている文集だ。ふつうなら「今昔文字鏡発行に寄せて」とか小冊子の一つもつけるところだが、漢字とコンピュータの新たな関係の第一歩という意気込みを感じさせてくれる。
内容を一部紹介すると、
(略)嘗ての、漢字地獄といわれ、なんとか字数を制限しようとする意見の強かった時代とは環境がまるきり変ってしまったのです。いみじくも金田一春彦氏は一昨年の暮に、これほどワープロがはやるなら、「当用漢字の制限はしなくてもよかったし、字体でも仮名遣いでも昔のままでもよかったのだ」(This is 読売 1995.12)と公に告白していることもあって、時の流れが漢字に向いてきたことをひしひしと感じます。

 紙が大切になるこれからの時代を考え、また『今昔文字鏡』の住みこんでいるコンピュータに関する啓蒙の意味もふくめ、「会報VOL. 1」はこのようにCD_ROMのヘルプ画面を使うことにしました。ワープロにさわったこともないという先生方には想像もされなかったような世界への登場です。
(文字鏡研究会「はじめに」より)
しかし、このソフトは開発に約10年かかっているということだが、8万文字を10年というと単純計算でも休みなく1日20文字以上のフォントを作らなくてはならない。途中システムの変更などもあったろうし、ほんとに頭の下がる話である。

さてと、まだまだ当分楽しめそうだ。
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