チェリー
by 遙か
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「アイシテル」
この たった5つの文字の構成が
意味を持つ時の―――不思議
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朝、目はすぐに覚めるのですけど。
僕は頭の方が、なかなか覚めなくて。
10分は確実に、ボーっとしています。
ただ、ベッドからは降りて、着替えて、顔を洗っての。
毎朝の習慣は、身体が覚えているので動くのですけどね。
カーテンを開けて、窓を開けて。
外の空気を家の中へと、取り込んでっと。
ああ、今日も良い天気ですねえ…。
先ずは、洗濯機を回してっと。
さ、朝食を作りましょうか。
今日は…パンの日、でしたね。
では、コーヒーを淹れて……。
あ。豆がもうこれしか…今日、買ってこないと。
少し遠いけど、あのお店に行って来ましょう。
悟浄が、あそこの豆で挽いたコーヒー好きなんですよね。
あれ? 悟浄?
悟浄の事で…何かあったような……???
あっ!
そ、そういえば、僕。
…昨日…悟浄と…両想いに…なったんでした。
やっと、頭が動き出したので…思い出しました。
あ、あ、あ。
…1回、思い出したらどんどんと記憶が蘇ってきます。
何か、堰を切ったみたいに止まりません。
耳が――熱くなって、きています。
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いつもの――いつも通りの夜、でした。
日付が変わってから、悟浄が帰って来るのも。
時々、買ってくるお土産で夜中に酒盛りを始めてしまうのも。
「美味しいですね、このチーズ。」
「だろ? 酒場の女の子達が旅行のミヤゲってくれたんだわ。」
「そうなんですか。
じゃあ、何かお返しのお礼をしないと。」
「いいって、いいって。
そんな気を遣うような相手じゃねえし。」
「でも、悟浄にってくれたのをお裾分けで、僕も貰っちゃってる訳ですし。」
「別にいいのにさあ。」
「そういう訳には。」
「――気になる?」
「え? 何がですか?」
「俺が女の子から貰ってきたモンを食べてるってコトがさ。」
「…いいえ。」
「本当に?」
「何故、そんな事を聞くんですか?」
「俺は気になるから。」
「食べない方が良かったって事ですか?」
「違う。」
「違うって…?」
「俺は、お前が気にしてくれねえか、って事を言いてぇんだよ。」
「…僕が、ですか?」
「そう。」
「どうしてですか?」
「言っていいか?」
「はい。」
「聞いたら、後悔すっかもしれねぇぞ?」
「後悔って…。」
「きっと、する。絶対に、する。
――それでも、聞く気あっか?」
「ええ。聞きたいです。」
「お前って、本当に怖いモン知らず。」
「あなた程じゃ、ありませんけど。」
「じゃあ、教えてやるよ。」
「はい、教えて下さい。」
「俺が、お前を好きだってコトだよ。」
「悟浄、それって…。」
「友情のとか言うなよ? 俺の言ってる意味、判んだろ?」
「…はい。」
「で。後悔した?」
「いいえ。」
「俺に遠慮しなくていいぞ?」
「していませんよ。する必要無いですから。」
「それって、俺の都合良く聞こえるんですけど?」
「構いませんよ。都合良く聞いて貰っても。」
「八戒。」
「はい。」
「俺のコト、好き?」
「ええ。好きです、悟浄。」
「友情以上?」
「友情以上に。」
ここまで一気に話した所で。
2人で、黙り込み…目をお互いから離せなくなりました。
悟浄の手が伸びてきて、僕の腕を掴んで。
力強く、引っ張られました。
腰が椅子から浮いて、テーブルを挟んで。
キスをしました。
ただ、唇を重ねるだけの。
幼い、稚拙なキスを。何度も。
目を閉じて、悟浄とキスをしている事に。
胸の中を嬉しさで、一杯にして。
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うっ/////
全部。昨日の記憶が細部まで蘇ってしまいました。
柄にもなく照れている自分が、可笑しいです。
お酒は呑んでいましたけど、酔っ払う事はありませんし。
………と、言う事は。
素面で………した事ですよね。
あ、頭の中が沸騰しそうです。
頬に手をあてると、火照っています。
きっと、今、鏡を見たら真っ赤になっているかと……。
あっ、悟浄。
悟浄に一体、どんな顔を僕はすればいいんですか?
いえ、その前に僕は悟浄と顔を合わせられるのでしょうか?
そ、そうです。
悟浄が起きて来る前に、買い物に行ってしまえばいいんです。
だったら、善は急げですよね。
キッチンから、大急ぎで出ようとしたところで。
僕は、ぽすんと大きな何かとぶつかって。
「八戒。……はよ。」
「お、お、おはようございますっ。ご、ご、悟浄っ。」
瞬間湯沸かし器の様に、真っ赤になって。
ぶつかったままの格好で。
固まって、見つめ合ってしまった、僕達。
あー、もう。
いい歳して一体。
どうしたら、いいんでしょうかっ。
2003.11.29 UP
☆ コメント ★
まゆ。さまに捧げますv
サイトにリンクさせて頂いたお礼に(笑)
リクエストを下さいとお願いしたところ
何でもOKと言って下さったので
まゆ。さまの描かれるイラストの悟浄と八戒から
イメージして話を書きましたv
コンセプトは【色付いてゆく甘さ】ですvv
どうかなあ…(笑)
では、慎んで贈らせて頂きますvv
モドル