祈 り



by 遙か



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TVの街頭インタビューの一コマで。
レポーターの質問が、耳に聞こえてきた。

『あなたの大事な人は、誰ですか?』

その言葉が頭の中に、入り込んでしまって。
いつまでも、いつまでも…忘れる事が出来ない。

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朝、起きて。
朝食を作って、ジープと一緒に食べます。
それから、掃除と洗濯を平行してこなして。
それが終わると、お昼ご飯を作ります。
その時、ジープに悟浄を起こして来て貰って。
一緒に、食事を摂ります。
そして、悟浄を見送って、ジープを遊びに外へ出して。
僕は、片付けをしてから、一休みをします。

これが、いつもの流れなのですが。
今日は、悟浄の観ていたTVを消そうとして。
つい、手を止めて、その内容を聞き留めてしまいました。

―――――大事な人

その部分が、僕を捉えました。
画面が、別の話題に切り替わった事に気付いて。
僕は、スイッチを消してから。
お茶を淹れに、キッチンへと向かいました。
お湯が沸く間、カップを用意する間、紅茶を淹れる間。
ずっと、僕は考えていました。

―――――僕の大事な人は、誰なのかを

ずっとずっと、考えていました。


カップを片手に、読みかけの本を取り。
午後の陽射しの入る、居間のソファで続きを読み始めました。
栞をテーブルへと置き、一口お茶を飲み、肩の力を抜いて。
本の字面を目で、追い始めました。

そうして、10分間…僕は、音を上げてパタンと本を閉じました。
考えない様にと、すればする程。
克明になってしまう…降参…ですね。
以前だったら、迷わず『花喃』だったのに。
今は…即答出来ない自分を持て余しています。

彼女と一緒に失ってしまったものは、全て還らない。
生きている事。死んでいる事。
それは、時間の境目を挟んで、遠くになっていくという事……。

彼女の時間は、止まり。
僕…僕と悟浄の時間は、動いている…んですよね。

本をぱらぱらと捲って、思考を中断させました。
自分で、自分の指の動きを追って…。

     僕は
     悟浄が
     一番
     大事、です

水面に広がってゆく、波紋の様に。
僕の中を伝わってゆく、想い。

女癖が悪くて、寝汚くて。
生活習慣が、いい加減で。
煙草もお酒も、度を超して。
馬鹿で――大馬鹿で、仕方の無い――僕の大事な、人。

思わず、口元が緩んで笑ってしまいました。
今、傍に居なくても想うという事が。
悟浄を思い出させてくれます。

子供の様に笑う顔。
手を合わせて、真剣に『ゴメン』を繰り返す顔。
本気な分、怒りを隠さずに怒ってくる顔。
僕の痛みまで引き受けてしまう、辛そうな顔。

全部――愛しています。


花喃の事は、罪悪感と贖罪を僕の消滅まで。
僕が抱えていると、思います。
烏滸がましいと、判っていても。
僕は…それしか、出来ません。

     …ごめん…花喃。
     …ごめん…ね。


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家へ帰る。
八戒が居る家へ帰るのは、足が進む。
変わり映えのしない毎日が、可笑しなコトに楽しいんだよな。
まあ、全く変わり映えがしないってコトはねえんだけどよ。

ホント、2人で居ると色んなコトが起きる。
口煩く小言を言われるコトにも、慣れちまった。
無防備な表情を不意にかるトコとか。
俺にだけ向けてくれる柔らかい笑顔をするトコとかには。
全然、慣れねえけどさ。

俺、アイツに惚れてっから。
アイツが、一番大事ってのが判ってっから。

これで、いーんだよ。

どんどん、家の灯りが見えてくる。
一分でも早く、ドアを開けて。
いつものセリフを言おう。
そんで、八戒からのいつものセリフを言って貰う為に。
俺は走り出した。

『八戒、ただいまっ。』
『お帰りなさい、悟浄。』



2004.2.6 UP   



☆ コメント ★


東かやさまに、捧げますvv

相互リンクの遅巻きのお礼なのです
頂いたリクエストの内容は

『あなたの一番大事な人は誰ですか』

私はこれで、悟浄には八戒で、八戒には悟浄
と、即座に思いました(笑)

そして、書き上がったのがこの話ですv


ではでは、慎んで贈らせて頂きます〜♪



モドル