チェリー・U
by 遙か
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「アイシテル」
声にせず 形にせず
何度も何度も 繰り返す
あなたに届いて欲しいと 願いながら
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目、覚めて。
起きて、台所に行くと。
『おはようございます、悟浄。』と声を掛けられる。
出掛ける時は、『行ってらっしゃい、悟浄。』
帰ってくると、『お帰りなさい、悟浄。』
モノクルの奥の碧の目で、俺をちゃんと見ながら。
八戒は俺へと話しかけてくる。
最初の頃は、俺が慣れていない、照れ臭いコトもあって。
口籠もったりもしてたが。
今は、『はよ。行ってくる。ただいま。』
と、自然に返せるよーになった。
それだけ、2人で暮らしてる時間が長くなったってコトで。
喜んではいたんだが、俺達の関係ってイイ同居人か?と、思ったら。
嫌だって、即座に思っちまって、自分に吃驚した。
薄倖美人――これが一番、八戒に似合う言葉だった。
表面上しか笑ってなくて、欠けてる部分を隠そうともしないで。
心が叫んでいようと、血を流してても、おかまないナシ。
どこを見ていんのか、わかんなくて。
掴まえてやりてえと、半分意地になって。
俺は八戒を掴まえた。
けど、それは羽を怪我した鳥を手当して。
空に帰すまで面倒をみるって、感じ…だったんだ。
それが…よ。いつの間にか…さ。
手放したくなくなっちまってて。
ずっと居ろよって、口にしてて。
『ありがとうございます。』って。
八戒が嬉しそうに言ってくれた時に。
俺は、ハッと気が付いたんだなあ。
俺ってば、八戒に惚れてんじゃんって、さ。
すっげえ、こっ恥ずかしかった。
綺麗なお姉ちゃん達、口説くセリフをベラベラ喋る俺がだぜ?
言葉に詰まっちまったんだよ。
…ナンて言って、いーか判らなくなっちまってさ。
ウッて、感じでよ。
そしたら、ズルズルとなあんの進展もナイ。
同居人のトコから、一歩も動けなくなった。
こんな臆病な、俺。
喉がカラカラ。クラクラと、目眩さえしちまう。
こんなに欲しいと思う気持ちが、俺の中にあったコトに。
戸惑った…戸惑ったけどよ。
諦めたくはねえと、それだけは思った。
八戒に告れば、いーのは判ってる。
けど、その方法が判んねえ。
一体、どーいう風にしたらいーのか、悩んじまった。
今まで、したコトねーもんな。
必要なかったしさ…。
…で、思い付いたのが酒の力を借りて。
勢いをつけりゃ、イーんじゃないかってコトだった。
んで、即実行――
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八戒と話してるうちに、俺はNOの可能性に初めて気付いた。
YESのコトしかで、とにかく告ればってコトばっかだったんだ。
進んでゆく会話に、内心冷や汗を垂らしながらしていた。
けど、けどな、結果は――夢かと、思った。
こんな都合の良いコトは、夢だと。
見つめ返してくる八戒の目元が、微かに染まっているのを見て。
初めて、現実と知った。
手を伸ばして、八戒の腕を掴んだ。
本当のコトだと。
もっともっと、確かめたかった。
テーブルを挟んで、無理な体勢で引き寄せて。
――kiss…したんだ、よな。
その後、それぞれの部屋で眠る為に引っ込んだんだが。
俺は結局、眠れずにベッドの上に転がっていた。
煙草を吸う気も、起こんねーくらいに脱力してた。
ナンかさ、眠っちまったら、さっきまでのコトが。
夢になっちまうんじゃねえかって、思ったらさ。
柄にもなく恐くてよ、眠れなくなったトコもあんだよな。
ん? ドアの開く音――八戒が起きたんだな。
時計、見っと…6:30。
八戒って、こんな時間に毎朝、起きてんだな。
台所の方から、色んな音が聞こえてくる。
八戒が、いつも通りの朝飯の仕度をしてんだな…。
ベッドから、起き上がる。
足を台所へと、進める。
声を――掛ける。
「おはよう、八戒。」
「おはようございます…悟浄。」
今日は…イイ天気に…なりそう、だ。
2004.2.12 UP
☆ コメント ★
まゆ。さまに捧げますv
押し付けもの第2弾とも言います(笑)
前回が八戒編v
今回が悟浄編v
初々しさに赤面との感想を頂きました(笑)
そうかな?
どうかな?
えへvv
では、慎んで贈らせて頂きますvv
モドル