林檎花
【続・桃】
by 遙か
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甘く はんなりと香る
白い 花のように
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データ上は、苦戦の筈。
無駄に使えない軍の人間の中で、本当に使えるはほんの一握り。
少数精鋭――羨望という、嫉妬ややっかみの格好の標的。
この部隊が、僕が副官として所属する捲簾大将直属の抜刀隊です。
主なる仕事は、適地への切り込み一番隊。
前だけを見て、後ろを見ないで。
疾風怒濤の如く、容赦無く敵を薙ぎ倒していくんです。
その一番先頭を切って、走って行くのが。
僕の一応の、上司の捲簾です。
猪突猛進の見本と言っても、過言ではありません。
進撃の合図をしながら、喜々として。
大将自ら、敵に突っ込んでいくのですから。
『馬鹿』としか言い様がありません。
大きな傷こそありませんが、小さな生傷は絶えた事がありません。
切り傷から、擦過傷、絆創膏を貼ったら一体どうなるんでしょうね。
あの人は……ぷっ。
想像して笑っちゃいました。
やだなあ。映像として焼き付いちゃったじゃないですか。
いっそ、絵柄入り・キャラクター付きのを貼ってしまいましょうか。
案外、似合うかもしれませんよね………ぶっ。
この副官の任についてから、半年。
軍にも隊にも、僕はだいぶ慣れてきました。
仕事も思っていたよりも、楽しいですし。
いえ、面白いと言った方が、正解かもしれません。
捲簾のせいで。
絶対に、こんな人とは折り合えないと。
表面的な人付き合いの巧い僕が、降参しそうになった相手なんですよね。
傍若無人で、飄々としてて。
掴み所が無く、大雑把にしか見えないのに。
気遣いが細やかで、部下達の信頼も親愛も深くて…。
判ります。今は、とてもそれが良く。
あの人――捲簾の傍で、見続けてきましたから、僕は…。
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「おーいっ、八戒。
今日の会議、俺、欠席な。」
「駄目です。」
「えーっ、行きたくねえぞ。」
「行って下さい。」
「お前が行けば、コトは済むだろうが。」
「済みますけど、貴方が行かないでどうするんですか?」
「どうせ、俺はお飾りじゃねえか。」
「それが判っているなら、大人しく座っていて下さいね。」
「面倒臭え。」
「面倒臭くても、出席して貰います。いいですね?」
「………、へぇーい。」
本当にジッとしているのが苦手なんですから。
でも、会議には出席して貰います。
真のお飾りの方々への威圧の為にも。
まだ、ぶつぶつと諦め悪くしている捲簾へと。
僕は、近寄りました。
「はい。後で何かご褒美に奢って差し上げますから。
会議の2時間やる3時間位は頑張って下さいね。」
服装の乱れは、精神の弛みと信じている傲潤を刺激しない為に。
僕は捲簾の軍服のボタンを2/3だけ、きっちりと留めました。
糠に釘の感は、否めませんが。
まあ、しないよいりはマシかなって。
「げーーーっ。」
「下品な声を出さないで下さい。」
「窮屈なんだよっ。」
「忍耐力の鍛錬だと、思って下さい。」
「…本当に、奢れよ?」
「はいはい。」
「仕方ねぇ。副官の顔を立ててやるか。」
「はい、お願いしますね、捲簾大将殿。」
ボタンを苦しくならない程度に、掛け終えて。
ポンと、捲簾の胸を軽く叩きました。
口調はひねていても。
楽しげに笑う捲簾にドキリとしてしまったのを隠して…。
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端から見たら、部下に小言を言われるダメ上司だろうな。
けど、そんなコトは気になんねえ。
大体、ワザとやってんだから。
惚れてる相手にかまわれたいのは、可愛い男心だろ?
勿論、こっちからかまいたいのも有り、なんだな。
八戒は外見だけで判断しない方がいいの、良い見本で。
笑みを絶やさない表情の下では、謀略をとっとと計画している。
そんな気の抜けない所も、俺は気に入っているし。
知れば知る程、俺は八戒に惚れてゆくのを自覚している。
「はい、会議が終わるまで絶対に、服の前を肌けないで下さいね。
我慢、して下さいね。」
「副官の仰せの通りにv」
ボタンを掛け終わって、俺を見上げてきた八戒の。
おでこにかかっている前髪を指先で、そっと払う。
翡翠の色をした目が、きょとんと俺を見てた…。
「この資料を持って下さい。」
「げーっ、何だよっ、この量はっ!」
「げー、じゃありません。
いいから、文句を言っていないで持って下さい。」
「へーい。」
いつもの遣り取りを交わしながら。
俺達は会議に出席する為に、部屋の外へと出た。
動くのは、もう少し先、だな―――
2004.5.10 UP
☆ コメント ★
のぞみさまに、捧げますvv
西方軍副官の八戒さんの第3弾です
今回は、意識編(笑)
どっちがどっちを?
なんて野暮な事を聞いてはいけません
…どっちにしろ、相思相愛なんですから
ここのふたりはvv
ねぇ、のぞみさん(笑)
では、慎んで贈らせて下さいませvv
モドル
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