私たちは三条界わいの明治建築『第一勧業銀行京都支店』の全面保存を訴えます。

 

第一勧業銀行京都支店は「三条界わい景観整備地区」にあるため、建替計画案は京都市長の承認を得なければなりませんが、京都市は平成10年7月9日付でその計画案を承認しました。承認された建替計画は現在の建物をすべて解体撤去し、新しい建物を現状に模した姿で建設するというものです。ここには三つの大きな間題があることを指摘することができます。

 

(1)この建物はわが国の近代建築史上とりわけ重要な価値を有する建物です。

設計者辰野金吾は工部大学校(現・東京大学)第一期生として卒業したのち、工部大学校教授、東京帝国大学工科大学長を歴任し、日本の建築の近代化に非常に大きな功績を残した建築家で、日本近代建築学の始祖といわれています。当建物は辰野金吾の現存作品の中で日本銀行本店(明治29年)、同太阪支店(明治36年)に次いで三番目に古いものです。当建物を印象づける赤レンガを露出し、自い石材を帯石・隅石として配し、屋根を高屋根や小塔で飾った外観はフリ・クラシックの手法といわれますが、明治建築のもっとも代表的なデザインとして「辰野式」と呼ばれています。また、大正8年の増築は清水組田辺淳吉の設計によりますが不自然さを全く感じさせない巧みなものとなっています。

 

(2)「複製」建物の出現は地域景観の魅力を破壊することになります。

京都市が承認した建替計画は当建物を取り壊し、鉄筋コンクリート造三階建、壁面はレンガ調タイル張というもので、あらたにそっくりの建物を新築しようとするものです。京都市市街地景観条例は「良好な都市環境の形成及び保全に資するとともに、当該景観を将来の世代に継承することを目的」として制定されたもので、「三条界わい景観整備地区」では特に歴史的文化的に価値のある数々の建築物の存在が根底にあります。当建物の解体撤去は建築物のみならず、当建物にかかる近代京都の歴史と文化をすべて失うことであり、「複製」(=まがいもの)建物は「三条界わい景観整備地区」の風格や厚みを損なうことになります。

 

(3)歴史的文化的に価値ある建物の保存活用に向けて開かれた議論を望みます。

京都市は「複製」建物の出現を承認しましたが、これは歴史的文化的に価値ある建造物の在り方を「そっくりの建物」で切り抜けようとしたものです。このような価値ある建物が「建物の老朽化・機能低下」という局面からとのように再生を図るのかという課題は、当建物に限らず価値ある近代建築物の保存活用における非常に重要な課題であり、全国でも様々な試みがなされています。当建物が歴史的景観として社会的に多くの人々に大きな影響を及ぼしていることをふまえ、単に所有者(企業)と行政の間においてその在りようを決定するのではなく、今こそ学識経験者をはじめ市民をもまきこんだ開かれた議論が必要とされています。

 

私たちは、第一勧業銀行が歴史と文化の薫り高いこのかけがえのない建築を全面保存し、有効な活用策を講ずるために一層の努力をはらわれることを期待するとともに、京都市が関係者の叡智を集め、後世に送り届けるにふさわしい「三条界わい景観整備地区」に向け、適切な対応をされるよう強く期待いたします。